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  • 特許-吸音楔 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】吸音楔
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20230620BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
G10K11/16 140
E04B1/82 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021510634
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014146
(87)【国際公開番号】W WO2020202302
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390029023
【氏名又は名称】日本音響エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】津金 孝光
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-119301(JP,A)
【文献】特開昭63-070190(JP,A)
【文献】特開2009-026837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16
E04B 1/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
稜線を有するように山形に形成される楔部分を含む吸音楔であって、
前記楔部分の内部空間を形成するように前記楔部分の外表面に配置される保護布を備え、
前記保護布が、本体部と、前記本体部よりも硬化された硬化部とを有しており、
前記硬化部が前記楔部分の稜線に沿って配置され、
前記保護布を支持する骨格部材が前記硬化部に沿って設けられずに、前記保護布が前記硬化部によって支持されている、吸音楔。
【請求項2】
前記楔部分が、前記楔部分の頂上寄りにて独立して突出する突出区域を有し、
前記保護布を支持する骨格部材が前記楔部分の突出区域の内部空間に設けられていない、請求項1に記載の吸音楔。
【請求項3】
前記硬化部が、前記保護布の材料を熱プレスした状態にある部分となっている、請求項1又は2に記載の吸音楔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山形に形成される楔部分を有する吸音楔に関する。
【背景技術】
【0002】
無響室、半無響室等のように音響特性を管理された部屋(以下、「音響管理室」という)の壁面等には、吸音性能を有する吸音楔が設置される。吸音楔は、山形に形成された楔部分を有し、この楔部分の外表面には保護布が配置され、楔部分の内部には吸音材料が設けられている。そして、楔部分の内部には、保護布を支持し、かつ高い剛性を有する骨格部材、例えば、金属フレーム等が設けられている。(例えば、特許文献1~3を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭51-95801号公報
【文献】特開平7-102657号公報
【文献】特開平7-102658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸音楔の内部に設けられる金属フレーム等の骨格部材は、吸音楔の音響反射特性を増加させる。そのため、吸音楔においては、音響管理室内での音響特性を適切に管理するために、骨格部材に起因する音響反射特性を低減することが望まれる。また、金属フレーム等の骨格部材の重量は大きく、このような骨格部材が吸音楔の重量を増加させている。
【0005】
このような実情を鑑みると、吸音楔においては、音響反射特性を低減し、重量を低減することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、一態様に係る吸音楔は、稜線を有するように山形に形成される楔部分を含む吸音楔であって、前記楔部分の内部空間を形成するように前記楔部分の外表面に配置される保護布を備え、前記保護布が、本体部と、前記本体部よりも硬化された硬化部とを有しており、前記硬化部が前記楔部分の稜線に沿って配置され、前記保護布を支持する骨格部材が前記硬化部に沿って設けられずに、前記保護布が前記硬化部によって支持されている。
【発明の効果】
【0007】
一態様に係る吸音楔においては、音響反射特性を低減することができ、重量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る吸音楔を設置した半無響室の内部を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係る吸音楔を概略的に示す斜視図である。
図3図3は、図2のA部拡大図である。
図4図4は、図2のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る吸音楔について以下に説明する。吸音楔は、無響室、半無響室等の音響管理室の壁面、天井面、底面等に設置される。
【0010】
「吸音楔の基本的な構成」
図1図4を参照すると、本実施形態に係る吸音楔1の基本的な構成は次のようになっている。図1を参照すると、音響管理室は半無響室Rとなっており、複数の吸音楔1は、かかる半無響室Rの壁面W及び天井面(図示せず)に取付けられている。しかしながら、吸音楔は、これに限定されず、音響管理室の壁面、天井面及び床面の少なくとも1つに取り付けることができる。例えば、音響管理室が無響室である場合、複数の吸音楔は、かかる無響室の壁面、天井面及び底面に取り付けることができる。
【0011】
図2図4に示すように、吸音楔1は、稜線2aを有するように山形に形成される楔部分2を有する。吸音楔1は、かかる楔部分2の内部空間2bを形成するように楔部分2の外表面に配置される保護布3を有する。図3及び図4に示すように、保護布3は、本体部4と、この本体部4よりも硬化された硬化部5とを有する。硬化部5は楔部分2の稜線2aに沿って配置される。保護布3は硬化部5によって支持されている。なお、図3においては、硬化部5は破線によって示されている。
【0012】
図2図4に示すように、楔部分2は、この楔部分2の頂上寄りにて独立して突出する突出区域2cを有する。図4に示すように、かかる吸音楔1においては、楔部分2の突出区域2cの内部空間2bには、保護布3を支持する骨格部材が設けられていない。さらに、吸音楔1においては、楔部分2全体の内部空間2bに、保護布3を支持する骨格部材を設けないこともできる。図3及び図4に示すように、保護布3の硬化部5は、保護布3の材料を熱プレスした状態にある部分となっている。なお、熱プレスは、保護布3の材料を、加熱した型を用いてこの材料の厚さ方向に圧縮するように行われる。しかしながら、硬化部は、これに限定されない。例えば、硬化部は、保護布の材料に硬化材料を塗布した部分とすることもできる。かかる硬化材料は、固まった状態で、保護布の本体部を保護布の本体部よりも硬くするものであるとよい。硬化材料は、樹脂を含むものであるとよい。かかる樹脂は熱硬化性樹脂であるとよい。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)等が挙げられる。
【0013】
「吸音楔の具体的な構成」
図1図4を参照すると、本実施形態に係る吸音楔1の具体的な構成は次のようになっているとよい。図2図4に示すように、吸音楔1の楔部分2は、楔部分2の底から同頂上に向かって先細るように山形に形成されている。楔部分2は、突出区域2cに対して吸音楔2の底寄りにて隣接するベース区域2dをさらに有する。ベース区域2dが、音響管理室の壁面、天井面及び床面の少なくとも1つに取り付けられる。しかしながら、楔部分は、ベース区域を有さないように構成することもできる。この場合、楔部分の突出区域の底が、音響管理室の壁面、天井面及び床面の少なくとも1つに取り付けられる。また、複数の楔部分における突出区域の底が互いに連結されるとよい。
【0014】
楔部分2の突出区域2cは、略台形形状の横断面を有するように延びる。しかしながら、楔部分の突出区域はこれに限定されない。例えば、突出区域は、略三角形状の横断面を有するように延びてもよい。楔部分2のベース区域2dは、略直方体形状に形成される。かかるベース区域2dは、略四角形状の横断面を有するように延びる。ベース区域2dの底には開口2eを形成することができる。しかしながら、ベース区域の底は閉じることもできる。なお、楔部分2の突出及びベース区域2c,2dの延びる方向を楔部分2の長手方向と呼び、楔部分2の頂上及び底の対向方向を楔部分2の高さ方向と呼び、楔部分2の長手方向及び高さ方向に略直交する方向を楔部分2の幅方向と呼ぶ。
【0015】
楔部分2の外表面は、複数の面2fを有する。保護布3は、複数の面2fにそれぞれ対応する複数の本体部4を有する。楔部分2の外表面は、これら複数の面2fのうち隣接する面2f間に位置する複数の稜線2aを有する。保護布3は、複数の稜線2aにそれぞれ対応する複数の硬化部5を有する。保護布3の硬化部5は、保護布3の材料を熱プレスすることによって、保護布3の本体部4よりも薄くかつ本体部4よりも硬化するように塑性変形した部分となっているとよい。硬化部5は、その幅方向にて、稜線2aの湾曲区域と、この湾曲部に対して硬化部5の幅方向の両側に位置する平面状区域の一方又は両方とに跨って形成することができる。また、硬化部5は、その幅方向にて、稜線2aの湾曲区域のみに跨って形成することもできる。
【0016】
図4に示すように、吸音楔1は、楔部分2の内部空間2bに配置される吸音部材6をさらに有する。吸音部材6は、楔部分2の内部空間2bに対応するように形成される。吸音部材6は、吸音楔1に吸音性能をもたらすような材料を用いて構成される。さらに、吸音部材6の材料は、建築基準法の規定を満たすような耐熱性を有するとよい。吸音部材6の材料はグラスウールとすることができる。しかしながら、吸音部材の材料は、これに限定されない。吸音部材の材料は、ロックウール等とすることもできる。吸音部材の材料は、ポリエステル繊維、PET(Polyethylene terephthalate)繊維等の樹脂繊維から成る材料とすることもできる。吸音部材の材料は、樹脂等から成るスポンジ材料とすることもできる。
【0017】
図2及び図4に示すように、このような吸音楔1は複数の楔部分2を有する。複数の楔部分2は、楔部分2の幅方向に並んで配置される。この場合、複数の楔部分2の突出区域2cは、互いに間隔を空けて位置し、かつ互いに独立して突出するとよい。図2及び図4においては、一例として、3つの楔部分2を有する吸音楔1が示されている。しかしながら、吸音楔は、1つの楔部分を有してもよい。すなわち、吸音楔は、1つ又は複数の楔部分を有することができる。
【0018】
複数の楔部分2は互いに別体となっている。隣接する楔部分2のベース区域2dは、楔部分2の幅方向にて、締結具を用いた締結、接着、溶着等の接合手段によって互いに接合される。しかしながら、複数の楔部分が、一体になるように隣接する楔部分を含んでいてもよい。また、複数の楔部分のすべてが一体になっていてもよい。これらの場合、隣接する楔部分のベース区域が一体に形成され、隣接する楔部分の内部空間は、これらの隣接する楔部分のベース区域にて互いに連通するとよい。
【0019】
図1においては、複数の吸音楔1が、これら複数の吸音楔1のうち一部の吸音楔1における楔部分2の長手方向と、複数の吸音楔1のうち残りの吸音楔1における楔部分2の長手方向とを互いに略直交するように配向した状態で、音響管理室の壁面、天井面及び床面の少なくとも1つに取り付けられている。しかしながら、音響管理室の壁面、天井面及び床面の少なくとも1つに取り付けた状態である複数の吸音楔の配向方向は、これに限定されない。
【0020】
「保護布の材料」
図2図4を参照すると、保護布3の材料は次のようになっているとよい。保護布3の材料は、不飽和ポリエステル樹脂を用いて構成される不織布(ポリエステル不織布)となっている。
【0021】
しかしながら、保護布の材料は、これに限定されず、次のようなものとすることができる。保護布の材料は、不織布又は織布である。保護布の材料は音響透過性を有する。保護布の材料はまた通気性を有するとよい。保護布の材料及びこの材料の厚さは、熱プレスにより硬化されるように設定される。さらに、保護布の材料及びこの材料の厚さは、熱プレスによる硬化前では可撓性を有し、かつ熱プレスによる硬化後では剛性を有するように設定されるとよい。
【0022】
さらに、保護布の材料は、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維等を含む材料とすることができる。保護布の材料は、炭素繊維を含む材料とすることもできる。さらに、保護布の材料は、熱硬化性樹脂を含む材料とすることもできる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)等が挙げられる。さらに、保護布の材料は、建築基準法の規定を満たすような耐熱性を有するとよい。また、上述したように、硬化部を保護布の材料に樹脂を塗布した部分とする場合は、保護布の材料は、熱プレスによって硬化されないものとすることもできる。
【0023】
「保護布の本体部及び硬化部の詳細」
図3及び図4を参照すると、保護布3の本体部4及び硬化部5の詳細は次のようになっているとよい。保護布3の材料は、保護布3の本体部4では、熱プレス前の可撓性を有する状態となっている。保護布3の材料は、保護布3の硬化部5では、熱プレス後の剛性を有する状態となっている。
【0024】
硬化部5は、隣接する本体部4間で延びるように細長形状に形成される。硬化部5は、硬化部5の幅方向の両側に位置する側縁5aを有する。楔部分2の稜線2aと、この稜線2aに沿って配置される硬化部5の側縁5aとの最短距離dは、硬化部5が保護布3を支持可能とするような大きさに設定される。かかる最短距離dの下限値は、硬化部5が保護布3を支持できる最小の値であるとよい。最短距離dの上限値は、吸音楔1の吸音特性に影響を与えないように設定された値であるとよい。
【0025】
「吸音楔の製造方法」
本実施形態に係る吸音楔1の製造方法の一例について説明する。最初に、保護布3を楔部分2の外表面に対応するように形作るべく裁断した保護布3の材料を展開状態で準備する。かかる保護布3の材料の周縁部は、楔部分2の稜線2aをもたらすように保護布3の材料を山形に折り曲げたときに、接着によって互いに接合される接合区域から成る複数の接合区域対を含む。
【0026】
展開状態の保護布3の材料は、楔部分2の稜線2aに沿って熱プレスされる。かかる熱プレスによって稜線2aに沿った部分が硬化されて、保護布3の硬化部5が形成される。なお、熱プレスは、次に述べるような保護布3の材料の山形折り曲げ、又は接合区域の接着の後に行われてもよい。
【0027】
上記展開状態の保護布3の材料を山形に折り曲げる。さらに、各接合対の接合区域が互いに接着によって接合されて、楔部分2の外表面に対応するように形作られた保護布3が準備される。さらに、楔部分2の内部空間2bに対応するように形成された吸音部材6を準備する。
【0028】
保護材3によって囲まれる楔部分2の内部空間2bに、吸音部材6を配置する。具体的には、吸音部材6が、保護材3によって囲まれる楔部分2の内部空間2bに、ベース区域2cの開口2eから挿入される。その結果、吸音楔1が製造される。なお、上述したように、硬化部を保護布の材料に樹脂を塗布した部分とする場合は、熱プレスの代わりに、樹脂を塗布するとよい。
【0029】
以上、本実施形態に係る吸音楔1は、稜線2aを有するように山形に形成される楔部分2を含み、さらに、吸音楔1は、楔部分2の内部空間2bを形成するように楔部分2の外表面に配置される保護布3を有し、保護布3が、本体部4と、この本体部4よりも硬化された硬化部5とを有しており、硬化部5が楔部分2の稜線2aに沿って配置され、保護布3が硬化部5によって支持されており、特に、かかる吸音楔1においては、保護布3を支持する骨格部材が楔部分2の内部空間2bに設けられていないとよい。そのため、保護布3の一部である硬化部5を用いて保護布3を支持することができるので、従来において保護布を支持するために用いられていた金属フレーム等の骨格部材を無くすことができる。そして、保護布3の一部である硬化部5は、骨格部材よりも音響反射特性を低減することができるので、吸音楔1の音響反射特性を低減することができる。また、保護布3の一部である硬化部5は、骨格部材よりも重量を低減することができるので、吸音楔1の重量を低減することができる。
【0030】
本実施形態に係る吸音楔1においては、硬化部5が、保護布3の材料を熱プレスにより硬化させた部分となっている。そのため、保護布3の材料を熱プレスにより硬化させた硬化部5は、骨格部材よりも音響反射特性低減することができる。また、保護布3の材料を熱プレスにより硬化させた硬化部は、骨格部材よりも重量を低減することができる。
【0031】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…吸音楔、2…楔部分、2a…稜線、2b…内部空間、3…保護布、4…本体部、5…硬化部
図1
図2
図3
図4