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特許7299346近赤外帯域通過光フィルター及び光センシングシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】近赤外帯域通過光フィルター及び光センシングシステム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20230620BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20230620BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230620BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230620BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
B32B7/023
B32B9/00 A
B32B9/04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021564100
(86)(22)【出願日】2019-12-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 CN2019130575
(87)【国際公開番号】W WO2020244221
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】201910486854.8
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520093458
【氏名又は名称】信陽舜宇光学有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 策
(72)【発明者】
【氏名】丁 ▲維▼▲紅▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 惠▲廣▼
(72)【発明者】
【氏名】方 叶▲慶▼
(72)【発明者】
【氏名】肖 念恭
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-089184(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108873135(CN,A)
【文献】特開2018-022042(JP,A)
【文献】特開平07-198935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/26
B32B 7/023
B32B 9/00
B32B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の第1側に位置する主膜系と、前記基板の、前記第1側と対向する第2側に位置する補助膜系とを含む近赤外帯域通過光フィルターであって、
前記主膜系は、第1所定積層構造に従って設けられた第1低屈折率膜層と高屈折率膜層とを含み、
前記補助膜系は、第2所定積層構造に従って設けられた第2低屈折率膜層及び第3低屈折率膜層を含み、前記第2低屈折率膜層の屈折率は、前記第3低屈折率膜層の屈折率と等しくなく、又は、前記補助膜系は、第2所定積層構造に従って設けられた前記第2低屈折率膜層と前記高屈折率膜層とを含み、
780nm~3000nmの波長範囲において、前記近赤外帯域通過光フィルターは、少なくとも1つの通過帯域を有し、温度が-150℃から300℃に変化する時、前記の少なくとも1つの通過帯域の中心波長のドリフト量が0.15nm/℃より小さく、
前記高屈折率膜層の材料の一部の結晶構造は晶質であり、他の部分の結晶構造は非晶質であり、
前記結晶構造が晶質である部分の体積と前記高屈折率膜層の体積との間の比率は10%~20%以内である、ことを特徴とする近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項2】
温度が-30℃から85℃に変化する時、前記近赤外帯域通過光フィルターの通過帯域の中心波長のドリフト量は0.09nm/℃より小さい、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項3】
前記高屈折率膜層の屈折率は780nm~3000nmの波長範囲内の任意の波長に対応しても3より大きい、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項4】
前記高屈折率膜層の消光係数は0.01より小さい、ことを特徴とする請求項3に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項5】
850nmの波長に対応する高屈折率膜層の屈折率は3.6より大きく、消光係数は0.005より小さい、ことを特徴とする請求項4に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項6】
前記主膜系の厚さdf1が、
【数1】
を満たし、前記補助膜系の厚さdf2が、
【数2】
を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項7】
前記高屈折率膜層の材料は、水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、ホウ素添加水素化ケイ素、ホウ素添加水素化ゲルマニウム、窒素添加水素化ケイ素、窒素添加水素化ゲルマニウム、リン添加水素化ケイ素、リン添加水素化ゲルマニウムまたはSixGe1-xのうちの1つまたは複数の混合物を含み、ただし、0<x<1である、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項8】
前記第1低屈折率膜層の材料、前記第2低屈折率膜層の材料及び前記第3低屈折率膜層の材料は、それぞれSiO、Si、SiO、Ta、Nb、TiO、Al、SiCN、SiCのうちの1つまたは複数の混合物を含み、ただし、q=(4-2p)/3,0<p<1である、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項9】
基板から離れる方向に沿って、第1所定積層構造の形式は、(L-H)-Lまたは(H-Lであり、
前記Hは高屈折率膜層を表し、前記Lは第1低屈折率膜層を表し、sは括弧内の構造の形式の繰り返しの数を表し、sは1以上の整数である、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項10】
前記主膜系は、さらに第4低屈折率膜層を含み、前記第1低屈折率膜層の屈折率は前記第4低屈折率膜層の屈折率に等しくない、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項11】
基板から離れる方向に沿って、第1所定積層構造の形式は、(L-L-L-H)-L、(L-L-L-H)-L、H-(L-L-L-H)-L、またはH-(L-L-L-H)-Lであり、
前記Hは高屈折率膜層を表し、前記Lは第1低屈折率膜層を表し、前記Lは第4低屈折率膜層を表し、前記sは括弧内の構造の形式の繰り返しの数を表し、sは1以上の整数である、ことを特徴とする請求項10に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項12】
前記主膜系は狭帯域通過膜系であり、前記補助膜系は、広帯域通過膜系または長波通過膜系である、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項13】
780nm~3000nmの波長範囲に対応して、前記狭帯域通過膜系は少なくとも一つの通過帯域を有する、ことを特徴とする請求項12に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項14】
前記補助膜系は長波通過膜系であり、350nm~1200nmの波長範囲に対応して、前記長波通過膜系は少なくとも一つの通過帯域と一つのカットオフ帯域を有し、前記長波通過膜系の通過帯域は、前記狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーする、ことを特徴とする請求項13に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項15】
前記補助膜系は広帯域通過膜系であり、前記広帯域通過膜系の通過帯域は前記狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーし、
前記広帯域通過膜系の通過帯域の最小波長より小さい波長領域において、前記広帯域通過膜系の平均カットオフ度は、前記狭帯域通過膜系のカットオフ度よりも大きい、ことを特徴とする請求項13に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項16】
前記基板の材料の線膨張係数は、3*10-6/℃~17*10-6/℃の間である、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項17】
前記主膜系と前記補助膜系はスパッタ反応装置または蒸発装置によって生成される、ことを特徴とする請求項1に記載の近赤外帯域通過光フィルター。
【請求項18】
光センシングシステムであって、
画像センサーと請求項1~17のいずれか1項に記載の近赤外帯域通過光フィルターとを含み、前記画像センサーの受光面側に前記近赤外帯域通過光フィルターが設けられている、ことを特徴とする光センシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2019年6月5日に中国専利局に提出され、出願番号が201910486854.8であり、発明の名称が「近赤外帯域通過光フィルター及び光センシングシステム」である中国特許出願の優先権を主張し、その全文の内容が援用により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、光フィルターの分野に関し、特に近赤外帯域通過光フィルター及び光センシングシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
赤外線センシングシステムは、ターゲットが反射した赤外線を受信して画像を形成し、さらに画像を処理することによって目的の情報を得ることができ、通常は顔認識、ジェスチャー認識、スマートホームなどの領域に適用される。赤外線センシングシステムはレンズ、光フィルター、画像センサーなどの部品を含める。
【0004】
赤外線センシングシステムの性能が温度から受ける影響を、温度安定性と呼ばれる。例えば、車載用ライダ、宇宙探査機、光通信装置などの装置は、極端な温度で動作することが多くて、これらの装置が実際に使用されるときの温度が、製造・デバッグされるときの温度と大きく異なるため、これらの装置における赤外線センシングシステムには、高い温度安定性が求められる。装置の温度安定性を確保するため、先行技術では通常、レンズの構造や材料などを改良して赤外線センシングシステムの画像品質を確保したり、画像センサーの電気特性の温度ドリフトに着目して赤外線センシングシステムの画像データの品質を確保したりしている。
【0005】
しかし、温度変化による光学特性の変化が小さい光フィルター、例えば通過帯域の中心波長のドリフト量が温度変化の影響を受けにくい遮光シートなどが求められる。遮光シートの通過帯域の変化は、赤外線センシングシステムの撮像品質にも影響を与え、先行技術では通常、光の入射角が通過帯域の中心波長のドリフト量に与える影響のみに着目しているため、通過帯域の中心波長のドリフト量が温度変動の影響を受けにくい光フィルターの提供が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術における上記の欠陥を解決または部分的に解決するために、本出願は、近赤外帯域通過光フィルター及び光センシングシステムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様において、本出願の実施例は、基板と、前記基板の第1側に位置する主膜系と、前記基板の、前記第1側と対向する第2側に位置する補助膜系とを含む近赤外帯域通過光フィルターを提供し、主膜系は、第1所定積層構造に従って設けられた第1低屈折率膜層と高屈折率膜層とを含み、補助膜系は、第2所定積層構造に従って設けられた第2低屈折率膜層及び第3低屈折率膜層を含み、第2低屈折率膜層の屈折率は第3低屈折率膜層の屈折率と等しくなく、又は、補助膜系は、第2所定積層構造に従って設けられた第2低屈折率膜層と高屈折率膜層とを含み、780nm~3000nmの波長範囲において、近赤外帯域通過光フィルターは、少なくとも1つの通過帯域を有し、温度が-150℃から300℃に変化する時、の少なくとも1つの通過帯域の中心波長のドリフト量が0.15nm/℃より小さい。
【0008】
一実施例において、温度が-30℃から85℃に変化するとき、近赤外帯域通過光フィルターの通過帯域の中心波長のドリフト量が0.09nm/℃より小さい。
【0009】
一実施例において、高屈折率膜層の屈折率は、780nm~3000nmの波長範囲内の任意の波長に対応しても3より大きい。
【0010】
一実施例において、高屈折率膜層の消光係数は0.01より小さい。
【0011】
一実施例において、850nmの波長に対応する高屈折率膜層の屈折率は3.6より大きく、消光係数は0.005より小さい。
【0012】
一実施例において、主膜系の厚さdf1は、
【数1】
を満たし、補助膜系の厚さdf2は、
【数2】
を満たす。
【0013】
一実施例において、高屈折率膜層の材料の一部の結晶構造は晶質であり、他の部分の結晶構造は非晶質であり;結晶構造が晶質である部分の体積と高屈折率膜層の体積との間の比率は10%~20%以内である。
【0014】
一実施例において、高屈折率膜層の材料は、水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、ホウ素添加水素化ケイ素、ホウ素添加水素化ゲルマニウム、窒素添加水素化ケイ素、窒素添加水素化ゲルマニウム、リン添加水素化ケイ素、リン添加水素化ゲルマニウムまたはSixGe1-xのうちの1つまたは複数の混合物を含み、ただし、0<x<1。
【0015】
一実施例において、第1低屈折率膜層の材料、第2低屈折率膜層の材料及び第3低屈折率膜層の材料は、それぞれSiO、Si、SiO、Ta、Nb、TiO、Al、SiCN、SiCのうちの1つまたは複数の混合物を含み、ただし、q=(4-2p)/3,0<p<1。
【0016】
一実施例において、基板の材料はガラスを含める。
【0017】
一実施例において、基板から離れる方向に沿って、第1所定積層構造の形式は、(L-H)-Lまたは(H-Lであり、Hは高屈折率膜層を表し、Lは第1低屈折率膜層を表し、sは括弧内の構造の形式の繰り返しの数を表し、sは1以上の整数である。
【0018】
一実施例において、主膜系はさらに第4低屈折率膜層を含み、第4低屈折率膜層の屈折率は第1低屈折率膜層の屈折率に等しくない。
【0019】
一実施例において、基板から離れる方向に沿って、第1所定積層構造の形式は、(L-L-L-H)-L、(L-L-L-H)-L、H-(L-L-L-H)-L、またはH-(L-L-L-H)-Lであり、Hは高屈折率膜層を表し、Lは第1低屈折率膜層を表し、Lは第4低屈折率膜層を表し、sは括弧内の構造の形式の繰り返しの数を表し、sは1以上の整数である。
【0020】
一実施例において、主膜系は狭帯域通過膜系であり、前補助膜系は広帯域通過膜系または長波通過膜系である。
【0021】
一実施例において、780nm~3000nmの波長範囲に対応して、狭帯域通過膜系は少なくとも一つの通過帯域を有する。
【0022】
一実施例において、補助膜系は長波通過膜系であり、350nm~1200nmの波長範囲に対応して、長波通過膜系は少なくとも一つの通過帯域と一つのカットオフ帯域を有し、長波通過膜系の通過帯域は狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーする。
【0023】
一実施例において、補助膜系は広帯域通過膜系であり、広帯域通過膜系の通過帯域は狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーし;広帯域通過膜系通過帯域の最小波長より小さい波長領域において、広帯域通過膜系の平均カットオフ度は狭帯域通過膜系のカットオフ度よりも大きい。
【0024】
一実施例において、基板の材料の線膨張係数は、3*10-6/℃~17*10-6/℃の間である。
【0025】
一実施例において、主膜系と補助膜系は、スパッタ反応装置または蒸発装置によって生成される。
【0026】
第二態様において、本出願の実施例は、画像センサーと近赤外帯域通過光フィルターとを含める光センシングシステムをさらに提供し、画像センサーの受光面側に近赤外帯域通過光フィルターが設けられている。
【0027】
本出願で提供された近赤外帯域通過光フィルターは、基板の両面にそれぞれ主膜系と補助膜系が設けてあり、補助膜系の膜層の屈折率が主膜系の高屈折率膜層の屈折率以下であることにより、補助膜系の等価屈折率が主膜系の等価屈折率を上回らないようようにし、ともに、近赤外帯域通過光フィルターの構造は、以下のように設けてある:主膜系は、第一積層構造を従って設けられた膜層を含めて基板と配合し、補助膜系は、補助膜系の通過帯域の中心波長の温度ドリフトが主膜系の通過帯域の中心波長の温度ドリフトを上回らないように、第二積層構造を従って設けられた膜層を含み、780nm~3000nmの波長範囲において温度が-150℃から300℃に変化する時、近赤外帯域通過光フィルターの通過帯域の中心波長の温度ドリフトのドリフト量が0.15nm/℃より小さいことにより、近赤外の波長の範囲において、本出願で提供される近赤外帯域通過光フィルターを透過できる光を有し、温度が変わっても透過した光の差別が小さいことが保証される。本出願で提供される近赤外帯域通過光フィルターが設けてある光センシングシステムは、温度変化のある環境で動作しても撮像品質への影響が少ない。
【0028】
本出願の他の特徴、目的、および利点は、以下の図面を参照して詳細に説明することによってより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る近赤外帯域通過光フィルターの構造概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る光センシングシステムの使用状態の概略図である。
図3】本発明の実施形態に係る表1の帯域通過膜系の透過率曲線を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る表2の帯域通過膜系の透過率曲線を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る表3の長波通過膜系の透過率曲線を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る表4の長波通過膜系の透過率曲線を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る近赤外帯域通過光フィルターの異なる角度で入射する光に対応する透過率曲線を示す図である。
図8図7に対応する近赤外帯域通過光フィルターに係る異なる温度での透過率曲線を示す。
図9】本発明の他の実施形態に係る近赤外帯域通過光フィルターの異なる角度で入射する光に対応する透過率曲線を示す図である。
図10図9に対応する近赤外帯域通過光フィルターに係る異なる温度での透過率曲線を示す図である。
図11】本発明の他の実施形態に係る近赤外帯域通過光フィルターの異なる温度での透過率曲線を示す図である。
図12】本発明のさらに他の実施形態に係る近赤外帯域通過光フィルターの異なる角度で入射する光に対応する透過率曲線を示す図である。
図13図12に対応する近赤外帯域通過光フィルターに係る異なる温度での透過率曲線を示す図である。
図14】本発明のさらに他の実施形態に係る近赤外帯域通過光フィルターの異なる角度で入射する光に対応する透過率曲線を示す図である。
図15図14に対応する近赤外帯域通過光フィルターに係る異なる温度での透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本出願をよりよく理解するために、図面を参照して、本出願の様々な態様についてより詳細に説明する。これらの詳細な説明は、本出願の範囲をいかなる形で限定することなく、ただ本出願の例示的な実施形態の説明にすぎないことを理解すべきである。明細書の全文において、同じ図面符号は同じ元件を表す。「および/または」という表現は、関連するリストされた項目のうちの1つまたは複数の任意およびすべての組み合わせを含む。
【0031】
なお、本明細書では、第1、第2、第3などの表現は、特徴に対する制限を表すものではなく、特徴を他の特徴と区別するためにのみに用いられることを注意すべきである。したがって、本出願の教示を離反することなく、以下で説明する第1低屈折率膜層を第2低屈折率膜層とも呼ぶことができる。その逆もまた同様である。
【0032】
図面においては、説明を容易にするために、部品の厚さ、サイズ、形状を若干調整している。図面はただの一例であって、厳密に比例に従って描かれていない。例えば、第一膜系の厚みと長さは、実際の生産における比例を従っていない。本出願で使用されるように、「大体」、「およそ」という用語、および類似の用語は、程度を表す用語ではなく、近似を表す用語として使用され、一般的な当業者によって認識される測定値または計算値における固有の偏りを説明することを意図する。
【0033】
本文において,膜層の厚さは基板から離れる方向の厚さを意味する。
【0034】
「包括」、「包括する」、「有する」、「含む」および/または「含める」という用語は、本明細書で使用される際、述べられた特徴、素子、および/または部品が存在することを示すが、1つ以上の他の特徴、要素、部品、および/またはそれらの組み合わせの存在または付加されることは排除されていないことも理解すべきである。また、リストされた特徴のリストの後に「…のうちの少なくとも1つ」などの表現が現れると、リストされた特徴の全体が修飾され、リスト内の個々の要素が修飾されない。さらに、本出願の実施形態を説明する場合、「…ことができる」を使用して「本出願の一つまたは複数の実施形態」を表す。さらに、「例示的」という用語は、一例または例示することを表すことを意図する。
【0035】
特に限定されない限り、本出願で使用されるすべての用語(工学用語および科学技術用語を含む)は、本出願の属する技術分野の一般的な当業者の通常の理解と同じ意味を持つ。本出願に明示的な説明がない限り、常用辞書で定義される用語は、それらの関連技術の文脈における意味と一致して解釈されるべきであり、理想化または過剰形式化された意味で解釈されてはならないことも理解されるべきである。
【0036】
なお、本出願の実施例および実施例のうちの特徴は、矛盾しない場合、互いに組み合わせてもよい。また、明示的に定義されていない限り、または文脈と矛盾していない限り、本明細書に記載されている方法に含まれる具体的なステップは、記載された順序に限定されるものではなく、任意の順序で実行または並列で実行されてもよい。以下、図面を参照しながら、実施例に関連して本出願を詳細に説明する。
【0037】
図1は、本出願発明の一実施形態に係る近赤外帯域通過光フィルターの概略構造を示す図である。図1を参照すると、本出願実施形態で提供される近赤外帯域通過光フィルター5は、基板51と、主膜系52と、補助膜系53とを含め、主膜系52は前記基板51の第1側に位置し、補助膜系53は前記基板の第2側に位置し、第1側と第2側は互いに対向している。基板51は透明基板であり、透明基板の材質は、任意に水晶、高ホウケイ酸ガラスなどであってもよく、具体的にはD263T、AF32、EagleXG、H-ZPK5、H-ZPK7などであってもよい。例示的に、基材51は、透明シートであってもよく、図1の上方向と下方向は、透明シートの厚さの方向であり、透明シートの上側と下側は対向している。主膜系52は、基板51の上の面の外側に設けられており、補助膜系53は、基板51の下の面の外側に設けられている。
【0038】
主膜系52は、第1所定積層構造に従って設けられた第1低屈折率膜層と高屈折率膜層とを含み、同じ波長に対応する時、高屈折率膜層の屈折率nが第1低屈折率膜層の屈折率n21より大きい。任意に、基板51から離れる方向に沿って、第1所定積層構造の形式は、(L-H)-Lまたは(H-Lなどの形式であり、Hは高屈折率膜層を表し、Lは第1低屈折率膜層を表し、sは括弧内の構造の形式の繰り返しの数を表し、sは1以上の整数である。例示的に、sを5とすると、第1所定積層構造は、LHLHLHLHLHLの形式となる。
【0039】
実施の形態において、主膜系52は、第1所定積層構造に従って膜層が設けられた後、膜層集合密度Pが以下を満たす:
【数3】
【0040】
補助膜系53は、第2所定積層構造に従って設けられた第2低屈折率膜層及び第3低屈折率膜層を含むか、又は、高屈折率膜層及び第2低屈折率膜層を含む。補助膜系53が、第2所定積層構造に従って設けられた第2低屈折率膜層と第3低屈折率膜層とを含む場合、第2低屈折率膜層の屈折率は、第3低屈折率膜層の屈折率と等しくなく、第3低屈折率膜層の屈折率は、主膜系52の高屈折率膜層の屈折率よりも小さい。第2所定積層構造は、第1所定積層構造を参照してもよく、Lで第2低屈折率膜層を指し、Lで第3低屈折率膜層を指す。第2所定積層構造は:(L-L-Lまたは(L-Lであってもよし、zは1以上の整数である。
【0041】
主膜系52は、第1所定積層構造に従って設けられた高屈折率膜層と第1低屈折率膜層とを含み、補助膜系53は、第2所定積層構造に従って設けられた第2低屈折率膜層と第3低屈折率膜層とを含むので、本出願で開示される近赤外帯域通過光フィルター5は、干渉型フィルターであってもよい。また、第3低屈折率膜層の屈折率は、高屈折率膜層の屈折率よりも大きくないので、主膜系52の特性が近赤外帯域通過光フィルター5の特性に与える影響はより大きい。主膜系52の個々の膜層は、スパッタ反応法によって生成された膜層であってもよく、補助膜系53の個々の膜層は、スパッタ反応法または蒸着法によって生成された膜層であってもよくて、このような製造方法により、基板51、主膜系52、および補助膜系53が1つにまとめられる。
【0042】
780nm~3000nmの波長範囲において、本出願の実施形態で開示される近赤外帯域通過光フィルター5は、少なくとも1つの通過帯域を有し、温度が-150℃から300℃に変化する時、近赤外帯域通過光フィルター5のその通過帯域の中心波長のドリフト量が0.15nm/℃より小さい。実施形態において、温度を-150℃から300℃に変化させたときに、その通過帯域の中心波長のドリフト量は0.12nm/℃より小さい。実施形態において、その通過帯域の中心波長のドリフト量が0.09nm/℃より小さい。実施形態において、温度が-30℃から85℃に変化する時、その近赤外帯域通過光フィルターの通過帯域の中心波長のドリフト量が0.09nm/℃より小さく、実施形態において、その近赤外帯域通過光フィルターの通過帯域の中心波長のドリフト量が0.05nm/℃より小さい。
【0043】
780nm~3000nmの波長範囲は近赤外に位置しており、近赤外帯域通過光フィルター5を通過する光に少なくとも近赤外光の一部が含まれるように、この波長範囲において通過帯域が形成されている。主膜系52の構造を基板51にマッチすることにより、近赤外帯域通過光フィルター5のこの通過帯域の中心波長のドリフトが、温度が-150℃から300℃に変化する時、0.15nm/℃より小さいことを満たす。
【0044】
本出願で開示する近赤外帯域通過光フィルター5は、少なくとも約-150℃の温度環境と約300℃の温度環境で適用することができる。通過帯域の中心波長は、780nm~3000nmの波長範囲において0.15nm/℃より小さいドリフト量を有し、本出願で開示する近赤外帯域通過光フィルター5を通過する光は、温度変化の大きい動作環境においても安定の区間内の近赤外光を含む。この安定の区間内の近赤外光によって運ばれる信号は、安定している。
【0045】
例示的な実施形態では、高屈折率膜層の屈折率は、780nm~3000nmの波長範囲内の任意の波長に対応しても3より大きい。実施形態において、高屈折率膜層の屈折率は、800nm~1100nmの波長範囲内の任意の波長に対応しても3.2より大きい。実施形態において、高屈折率膜層の屈折率は、800nm~900nmの波長範囲内の任意の波長に対応しても3.5より大きい。可視光に近い波長領域では、高屈折率膜層の方が屈折率が高くて、この波長範囲の赤外光によって運ばれる信号の温度安定性を向上させることができ、また、高屈折率膜層の屈折率が3.5より大きい場合、主膜系52の構造が本出願で開示された近赤外帯域通過光フィルター5の光学的特性に与える影響をさらに高めることができ、このように、主膜系52は、より簡単な形式の第1所定積層構造を用いて、基板51と配合すれば、予想される効果を達成することができる。
【0046】
例示的な実施形態において、高屈折率膜層の消光係数は0.01より小さい。
【0047】
例示的な実施形態において、850nmの波長に対応する高屈折率膜層の屈折率は3.6より大きく、消光係数は0.005より小さい。消光係数を設定することにより、高屈折率膜層の光透過性を増加させ、高屈折率膜層の通過帯域範囲内の光の損失を低減し、近赤外帯域通過光フィルター5を通過する光の強度を向上させ、信号の明瞭度を向上させることができる。
【0048】
例示的な実施形態において、高屈折率膜層の材料の一部は晶質であり、他の部分は非晶質であり、結晶構造が晶質である部分の体積と高屈折率膜層の体積との比率は10%~20%以内である。本出願で開示された近赤外帯域通過光フィルター5は、このような結晶構造の高屈折率膜層を含む場合、その通過帯域の温度ドリフトがより小さい。実施の形態において、結晶構造が晶質の部分の体積比率は15%である。
【0049】
例示的な実施形態において、高屈折率膜層の材料は、水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、ホウ素添加水素化ケイ素、ホウ素添加水素化ゲルマニウム、窒素添加水素化ケイ素、窒素添加水素化ゲルマニウム、リン添加水素化ケイ素、リン添加水素化ゲルマニウムまたはSiGe1-xのうちの1つまたは複数の混合物を含む。例示的に、SiGe1-xはSi0.4Ge0.6である。例示的に、混合物は水素化シリコンゲルマニウムであってもよく,シリコンとゲルマニウムの比例は任意の比例であっても良く、混合物は窒素添加水素化シリコンゲルマニウムであっても良く、ホウ素添加リン添加水素化ゲルマニウムであっても良い。
【0050】
例示的な実施形態において、第1低屈折率膜層の材料、第2低屈折率膜層の材料、及び第3低屈折率膜層の材料は、それぞれSiO、Si、SiO、Ta、Nb、TiO、Al、SiCN、SiCの1つまたは複数の混合物を含む。ここで、q=(4-2p)/3,0<p<1。例示的に、SiOはSiON2/3であることができる。例示的に、混合物はTiOとAl、TaとNb、またはSiO、SiCNとSiCである。例示的に、第二低屈折率膜層の材料はSiOとTiOが2:1の比例で形成された混合物を含み、第三低屈折率膜層の材料がSiOとTiOの1:3の比例で形成された混合物を含む。
【0051】
例示的な実施形態において、主膜系はさらに、第4低屈折率膜層を含み、前記の第1低屈折率膜層の屈折率は、第4低屈折率膜層の屈折率に等しくない。主膜系52にそれぞれ第一低屈折率膜層と第四低屈折率膜層とを設けることにより、主膜系52を設ける形式をより弾力的にすることができ、異なる特性の基板51と適切に配合することができる。任意に、第1所定積層構造の形式は、(L-H)-Lまたは(H-L)であり、低屈折率膜層Lは、順次交替的に、第1低屈折率膜層と第4低屈折率膜層であることができる。
【0052】
例示的な実施形態において、基板51から離れる方向に沿って、第1所定積層構造の形式は、(L-L-L-H)-L、(L-L-L-H)-L、H-(L-L-L-H)-L、またはH-(L-L-L-H)-Lなどであり、Hは高屈折率膜層を表し、L1は第1低屈折率膜層を表し、L4は第4低屈折率膜層を表し、Sは括弧内の構造の形式の繰り返しの数を表し、sは1以上の整数である。
【0053】
例示的な実施形態において、主膜系52は帯域通過膜系であり、例示的な実施形態において、主膜系52は狭帯域通過膜系であり、補助膜系53は広帯域通過膜系または長波通過膜系である。
【0054】
例示的な実施形態において、主膜系52および補助膜系53は、スパッタ反応装置または蒸発装置によって生成される。
【0055】
例示的な実施形態において、700nm~1200nmの波長範囲に対応して、狭帯域通過膜系は少なくとも一つの通過帯域を有する。この狭帯域通過膜系の膜層はスパッタ反応めっき層であって良い。
【0056】
具体的な実施形態では、表1に示すような主膜系52が開示されている。
【0057】
【表1】
【0058】
この主膜系52は単一チャネルの狭帯域通過膜系であり、表1の「層」は積層方向に沿っての何番目の層を指し、第1層は最も基板51に近い膜層であり、第29層は最も基板51から離れた膜層であり、表中の同じ列の膜層の材料は同じである。この主膜系52の膜層の中では、奇数層は第一低屈折率膜層であり、偶数層は高屈折率膜層であり、偶数層の材料は非晶質水素化シリコン即ちa-Si:Hである。この主膜系52の透過率曲線は、図3に示すように、700nm~1200nmの波長範囲に対応して、一つの通過帯域を含み、この主膜系52の通過帯域の中心波長は約950nmである。
【0059】
この主膜系52をめっきする方法は、スパッタ反応装置内の真空度を5×10-5Torrより小さくなるようにポンプし、基板51とシリコンターゲットを対応する位置に放置し、アルゴンガス流量を10sccm~80sccmと、スパッタリング電力を3000kwより大きくと、酸素ガス流量を10sccm~80sccmと、加工温度を80℃~300℃と設定し、低屈折率膜層をめっきする。例示的な実施形態において、アルゴンガス流量を45sccmと、酸素ガス流量を45sccmと設定する。
【0060】
また、高屈折率膜層をめっきする際に、アルゴンガス流量を10sccm~80sccmと、スパッタリング電力を3000kwより大きくと、水素ガス流量を10sccm~80sccmと設定する。例示的な実施形態において、水素ガス流量を45sccmと設定する。
【0061】
具体的な実施形態では、表2に示すような主膜系52が開示されている。
【0062】
【表2】
【0063】
この主膜系52は、2つの通過帯域を有する狭帯域通過膜系であり、層1は、基板51に最も近い膜層である。この主膜系52の透過率曲線は、図4に示すように、700nm~1200nmの波長範囲に対応して、中心波長が約960nmの通過帯域と、中心波長が約1130nmの通過帯域とを含む。
【0064】
例示的な実施形態において、補助膜系53は長波通過膜系であり、350nm~1200nmの波長範囲に対応して、長波通過膜系は少なくとも一つの通過帯域と一つのカットオフ帯域を有し、長波通過膜系の通過帯域は狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーする。
【0065】
具体的な実施形態では、表3に示すような長波通過膜系が開示されている。
【0066】
【表3】
【0067】
350nm~1200nmの波長範囲に対応して、補助膜系53の透過率曲線は図5に示すように、その長波通過膜系が1つの通過帯域と1つのカットオフ帯域を含み、その長波通過膜系の通過帯域の範囲が約900nm~1000nmである。例示的に、近赤外帯域通過光フィルターは、この長波通過膜系と表1に開示された狭帯域通過膜系を含み、この長波通過膜系の通過帯域は、その狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーする。カットオフ帯域は少なくとも350nm~850nmの波帯をカバーしており、可視光をカットオフすることができる。
【0068】
この長波通過膜系をめっきする方法:真空蒸発反応装置内の真空度を9×10-4Torrより小さくなるようにポンプし、基板51とめっき層の原材料を対応する位置に放置し;アルゴンガス流量を10sccm~20sccmと、電圧を900V~1300Vと、電流を900mA~1300mAと、酸素ガス流量を30sccm~90sccmと、動作温度を80℃~300℃と設定し、各膜層をめっきする。例示的な実施形態において、アルゴンガス流量を13sccm~16sccmと、酸素ガス流量を40sccm~70sccmと、加工温度を80℃~150℃と設定する。例示的な実施形態において、アルゴンガス流量を15sccmと、酸素ガス流量を60sccmと、加工温度を120℃と設定する。
【0069】
具体的な実施形態では、表4に示すような長波通過膜系が開示されている。
【0070】
【表4】
【0071】
350nm~1200nmの波長範囲に対応して、補助膜系53の透過率曲線は図6に示すように、1つの通過帯域と1つのカットオフ帯域を含み、この長波通過膜系の通過帯域の範囲は約900nm~1000nmである。例示的に、近赤外帯域通過光フィルターは、この長波通過膜系と表1に開示された狭帯域通過膜系とを含み、この長波通過膜系の通過帯域は、その狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーする。
【0072】
例示的な実施形態において、補助膜系53は広帯域通過膜系であり、広帯域通過膜系の通過帯域は、狭帯域通過膜系の通過帯域をカバーし、広帯域通過膜系の通過帯域の最小波長より小さい波長領域において、広帯域通過膜系の平均カットオフ度は狭帯域通過膜系のカットオフ度よりも大きい。
【0073】
例示的な実施形態において、主膜系52の厚さdf1は、
【数4】
を満たし、前記の補助膜系の厚さdf2は、
【数5】
を満たす。
【0074】
例示的な実施形態では、基板51の線膨張係数αは、
【数6】
を満たし、基板51のポアソン比μは、
【数7】
を満たし、基板51の屈折率温度係数は
【数8】
であり、ただし、
【数9】
は、
【数10】
を満たし、
高屈折率膜層の屈折率nは、3<nを満たし、高屈折率膜層の屈折率温度係数は、
【数11】
であり、ただし、
【数12】
は、
【数13】
を満たし、高屈折率膜層の線膨張係数β1は、
【数14】
を満たし、高屈折率膜層のポアソン比μは、
【数15】
を満たし、
第一低屈折率膜層の線膨張係数β2は、
【数16】
を満たし、第一低屈折率膜層のポアソンμは、
【数17】
を満たし、第一低屈折率膜層の屈折率温度係数は、
【数18】
であり、ただし、
【数19】

【数20】
を満たし、
このように設定すると、主膜系52の線膨張係数βは、
【数21】
であり、ここで、0<z<1,0<z<1。zは、高屈折率膜層のウェイト係数であり、zは第一の低屈折率膜層のウェイト係数である。例示的に、zは、全ての高屈折率膜層の厚さの和と主膜系52の厚さの比率に等しく、
【数22】
である。
【0075】
δは関係式
【数23】
を満たす等価位相であり、μは関係式
【数24】
を満たす等価ポアソン比である。
【0076】
主膜系52の等価屈折率nは:
【数25】
であり、mはフィルターの干渉レベルであり、0<m。n<nなので、0<n<n。具体的に、1<m<15。
【0077】
主膜系52の膜層の凝集密度Pは、以下を満たす:0.9<P<1.6。
【0078】
本出願の実施形態で提供する近赤外帯域通過光フィルターの通過帯域の中心波長
【数26】
は、温度Tの変化に応じて変化し、
【数27】
の温度ドリフトは以下を満たす。
【数28】
【0079】
ここで、
【数29】
【数30】
は初期温度Tにおけるこの主膜系52の等価屈折率であり、dは、初期温度T0におけるこの主膜系52の物理的厚さである。nは、測定される温度Tにおけるこの主膜系52の等価屈折率であり、dは、測定される温度Tにおけるこの主膜系52の物理的厚さである。
【0080】
計算により、
【数31】

【数32】
を満たす。
【0081】
具体的な実施形態において、近赤外帯域通過光フィルター5が開示されており、近赤外帯域通過光フィルター5の基板51の材料はガラスであり、より具体的には、shottのD263Tを採用してもよく、-30℃~70℃の範囲において、基板51の線膨張係数αは7.2×10-6/℃であり、ポアソン比は0.208である。近赤外帯域通過光フィルター5の主膜系52は、表5に示されている。
【0082】
【表5】
【0083】
この主膜系52の第一層は、基板51に最も近い膜層であり、他の膜層は積層方向に従って積層されている。奇数層は第一低屈折率膜層であり、その屈折率は3以下であり、ポアソン比μは0.17であり;偶数層は高屈折率膜層であり、ポアソン比μは0.28である。この主膜系52の膜層はスパッタ反応めっき層であり、膜層集合密度Pは1.01であり、線膨張係数βは3×10-6/℃である。
【0084】
この近赤外帯域通過光フィルター5の補助膜系53は、表6に示されている。
【0085】
【表6】
【0086】
この補助膜系53の膜層は、スパッタ反応膜層であり、第2低屈折率膜層の材料は二酸化ケイ素であり、第3低屈折率膜層の材料は二酸化チタンである。
【0087】
この近赤外帯域通過光フィルター5の透過率曲線は、図7及び図8に示すようにであり、図7は、この近赤外帯域通過光フィルター5が0度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が865nmであり、30度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が858nmであることを示している。図8は、この近赤外帯域通過光フィルター5が基準温度が0℃の時の、複数の動作温度における透過率曲線を示しており、通過帯域のドリフト量は以下の通りである:
【数33】
【0088】
具体的な実施形態において、近赤外帯域通過光フィルター5の基板51の材料はガラスであり、具体的には、成都光明光電(CDGM)のH-ZPK5を採用してもよく、-30℃~70℃の範囲において、基板51の線膨張係数αは12.4×10-6/℃であり、100℃~300℃の範囲において、基板51の線膨張係数αは14.5×10-6/℃であり、ポアソン比μは0.3である。この近赤外帯域通過光フィルター5の主膜系52は、表7に示されている。
【0089】
【表7】
【0090】
この主膜系52の膜層はスパッタ反応めっき層であり、第1層は基板51に最も近い。この主膜系52の高屈折率膜層の材料はSi:Hであり、ポアソン比μは0.28であり、第一低屈折率膜層の材料はSiOであり、第四低屈折率膜層の材料はSiであり、ポアソン比μは0.17であり、この主膜系52の構造形式はH-(L-L-L-H)-Lであり、膜層集合密度P0は1.01であり,線膨張係数βは3.5×10-6/℃である。
【0091】
この近赤外帯域通過光フィルター5の補助膜系53は、表6に示す所定積層構造を採用し、この補助膜系53の膜層は蒸発めっき層である。
【0092】
高屈折率膜層の結晶構造が非晶質である場合、この近赤外帯域通過光フィルター5の透過率曲線は図9及び図10に示される。図9は、この近赤外帯域通過光フィルター5が0度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が950.5nmであり、30度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が941.9nmであることを示している。図10は、この近赤外帯域通過光フィルター5が基準温度が0℃のときの、複数の動作温度における透過率曲線を示しており、通過帯域のドリフト量は以下の通りである:
【数34】
通過帯域の短波に近い側(UV側)の透過率10%と90%の勾配はそれぞれ6nmと10nmで、ドリフトは8nmである。通過帯の長波に近い側(IR側)の透過率10%と90%の勾配は7nmと7nmで、ドリフトは9.5nmである。
【0093】
例示的に、この近赤外帯域通過光フィルター5の高屈折率膜層の一部の結晶構造は晶質であり、具体的には単結晶、多結晶または微結晶であってもよく、この部分の体積はこの高屈折率膜層の体積の15%を占めている。この近赤外帯域通過光フィルター5の透過率曲線を図11に示す。図11は、この近赤外帯域通過光フィルター5が基準温度が0℃の時の、複数の動作温度における透過率曲線を示しており、通過帯域のドリフト量は:
【数35】
であり、これで、高屈折率膜層における結晶構造の部分の体積が15%を占める時,通過帯域のドリフト量はより小さいことが分かる。
【0094】
具体的な実施形態において、近赤外帯域通過光フィルター5の基板51の材料はガラスであり、具体的には、成都光明光電(CDGM)のH-ZPK7を採用してもよく、-30℃~70℃の範囲において、基板51の線膨張係数αは13.4×10-6/℃であり、100℃~300℃の範囲において、基板51の線膨張係数αは15.9×10-6/℃であり、ポアソン比μは0.306である。この近赤外帯域通過光フィルター5の主膜系52は、表8に示されている。
【0095】
【表8】
【0096】
この主膜系52の膜層はスパッタ反応めっき層であり、第1層は基板51に最も近い。この主膜系52の高屈折率膜層の材料はGe:Hであり、ポアソン比μは0.22であり、第二の低屈折率膜層の材料はSiOであり、ポアソン比μは0.17であり、この主膜系52の膜層集合密度Pは1.08であり、線膨張係数βは2.7×10-6/℃である。
【0097】
この近赤外帯域通過光フィルター5の補助膜系53は、表9に示されている。
【0098】
【表9】
【0099】
この補助膜系53の膜層は蒸発めっき層である。
【0100】
この近赤外帯域通過光フィルター5の透過率曲線は図12及び図13に示される。図12は、この近赤外帯域通過光フィルター5が0度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が946nmであり、30度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が937nmであることを示している。図13は、この近赤外帯域通過光フィルター5が基準温度が0℃のときの、複数の動作温度における透過率曲線を示しており、通過帯域のドリフト量は以下の通りである。
【数36】
【0101】
具体的な実施形態において、近赤外帯域通過光フィルター5の基板51の材料はガラスであり、具体的には、成都光明光電(CDGM)のH-ZPK7を採用してもよく、-30℃~70℃の範囲において、基板51の線膨張係数αは13.4×10-6/℃であり、100℃~300℃の範囲において、基板51の線膨張係数αは15.9×10-6/℃であり、ポアソン比μは0.306である。この近赤外帯域通過光フィルター5の主膜系52は、表10に示されている。
【0102】
【表10】
【0103】
この主膜系52の第一層は、最も基板51に近い膜層であり、奇数層は第一低屈折率膜層であり、ポアソン比μは0.17であり、偶数層は高屈折率膜層であり、ポアソン比μは0.26である。この主膜系52の膜層はスパッタ反応めっき層であり、膜層集合密度Pは1.02であり、線膨張係数βは2×10-6/℃である。
【0104】
この近赤外帯域通過光フィルター5の補助膜系53は、表11に示されている。
【0105】
【表11】
【0106】
補助膜系53の膜層はスパッタ反応めっき層であり、奇数層は第二の低屈折率膜層であり、偶数層は高屈折率膜層である。
【0107】
この近赤外帯域通過光フィルター5の透過率曲線は、図14及び図15に示されている。図14は、この近赤外帯域通過光フィルター5が0度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が950nmであり、30度角で入射した光に対して、通過帯域の中心波長が942nmであることを示している。図15は、この近赤外帯域通過光フィルター5が、基準温度が0℃の時の複数の動作温度における透過率曲線を示しており、通過帯域のドリフト量は以下の通りである。
【数37】
【0108】
図2は、本出願発明の一実施形態による光学センシングシステムの使用状態を示す概略図であり、図1および図2を参照すると、光学センシングシステムは、近赤外帯域通過光フィルター5および画像センサー6を含む。また、近赤外狭帯域フィルター5の物体側には、第1のレンズ構成要素4が設けられており、測定対象物1から放出または反射された光は、第1のレンズ構成要素4を通過して近赤外帯域通過光フィルター5に到達し、光が近赤外線帯域通過フィルター5を通過した後に形成されるフィルタリング後の光は、画像センサー6に到達し、フィルタリング後の光が画像センサー6をトリガして画像信号が形成される。本出願で開示した赤外帯域通過フィルター5を設けている光センシングシステムは、少なくとも-150℃~300℃に適用することができ、形成される画質も安定している。
【0109】
光センシングシステムは、赤外線光源2(Infreard Radiation、IR光源)、第二レンズ構成要素3、第一レンズ構成要素4、近赤外帯域通過光フィルター5、および画像センサー6を含む赤外線識別システムであってもよく、ここで、画像センサー6は三次元センサーである。
【0110】
以上の説明は、本出願のより良い実施形態および運用される技術原理についての説明のみである。当該技術分野の当業者は、本出願に係る保護範囲は、上記の技術的特徴の特定の組み合わせから成る技術的な態様に限定されるものではなく、上記技術的な概念から逸脱することなく、上記技術的特徴またはその等同な特徴による任意の組み合わせによって形成される他の技術的な態様、例えば、上記の特徴と、本出願に開示されている(ただし、これらに限定されない)類似の機能を有する技術的特徴とを相互に置換して形成される技術的な態様を包含してもよいことを理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15