(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】癌の治療のためのクローディン18.2に対する抗体を含む併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7068 20060101AFI20230620BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230620BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20230620BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230620BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20230620BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230620BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230620BHJP
A61K 31/663 20060101ALI20230620BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20230620BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230620BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230620BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230620BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
A61K31/7068
A61K39/395 N
A61K31/282
A61K31/337
A61K31/4745
A61K31/513
A61K31/519
A61K31/663
A61K38/20
A61P1/18
A61P35/00
A61K39/395 D ZNA
C12N15/13
C07K16/28
(21)【出願番号】P 2022055122
(22)【出願日】2022-03-30
(62)【分割の表示】P 2020074760の分割
【原出願日】2014-02-18
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2013/000505
(32)【優先日】2013-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504346260
【氏名又は名称】ガニメド ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】515123258
【氏名又は名称】トロン- トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク-ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON- Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【住所又は居所原語表記】Freiligrathstr. 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】テューレヒ, エズレム
(72)【発明者】
【氏名】ミットナハト-クラウス, リタ
(72)【発明者】
【氏名】ウォール, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブス, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ, コルネリア
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528075(JP,A)
【文献】特表2009-517354(JP,A)
【文献】国際公開第2010/141093(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/152822(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
A61P 1/00-43/00
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLDN18.2を発現する細胞を含む、膵癌
、前記膵癌の転移、又は前記膵癌の前癌性病変を治療または予防する
ための薬剤を製造するための作用物質の使用であって、
前記治療または予防は、前記作用物質
とCLDN18.2に結合する能力を有する抗体とを併用する療法を施すものであり、
前記抗体は、CLDN18.2に結合し、CLDN18.2を発現する細胞の死滅を媒介するものであり、
前記作用物質は、ゲムシタビン、その塩、若しくはそのエステルからなる群から選択される一種を含むものである、
作用物質の使用。
【請求項2】
CLDN18.2の発現が癌細胞の細胞表面において行われる、請求項1に記載の
使用。
【請求項3】
前記併用する療法が、
細胞周期の1若しくはそれ以上の、細胞周期の停止または細胞の蓄積を誘導す
る物質を含む、請求項1または2に記載の
使用。
【請求項4】
前記併用する療法が、
フルオロウラシル、白金化合物、
トポテカン、タキサ
ン、カペシタビン、その塩
若しくはそのエステル、およびそれらの組合せから成る群より選択され
る物質を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項5】
前記併用する療法が、5-フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカン、
アルブミン結合パクリタキセル
、その塩
若しくはそのエステル、およびそれらの組合せから成る群より選択され
る物質を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項6】
前記併用する療法が、免疫原性細胞死を誘導す
る物質を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項7】
免疫原性細胞死を誘導する前
記物質がオキサリプラチンを含む、請求項6に記載の
使用。
【請求項8】
前記
併用する療法が、
ゲムシタビンとオキサリプラチンの組合せ、
ゲムシタビンとシスプラチンの組合せ、
ゲムシタビンとカルボプラチンの組合せ、または
ゲムシタビンと、オキサリプラチン
と、5-フルオロウラシル
またはその
塩若しくはそのエステルと、およびイリノテカン
との組合せ
を投与することを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項9】
前記
併用する療法が、フォリン酸、オキサリプラチン、5-フルオロウラシルまたはその
塩若しくはそのエステル、およびイリノテカンを投与することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項10】
前記併用する療法がγδT細胞を刺激する物質を投与することをさらに含み、前記物質がビスホスホネート(アミノビスホスホネート)である、請求項1から請求項9いずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記γδT細胞
がVγ9Vδ2T細胞である、請求項
10に記載の
使用。
【請求項12】
γδT細胞を刺激する前
記物質が窒素含有ビスホスホネート(アミノビスホスホネート)である、請求項
10または
11に記載の
使用。
【請求項13】
γδT細胞を刺激する前
記物質が、ゾレドロン酸、クロドロン酸、イバンドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、オルパドロン酸、アレンドロン酸、インカドロン酸およびそれらの塩から成る群より選択される、請求項
10から
12のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項14】
γδT細胞を刺激する前
記物質をインターロイキン2と組み合わせて投与する、請求項
10から
13のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項15】
CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体が、CLDN18.2の第一細胞外ループに結合する、請求項1から
14のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項16】
CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体が、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介性溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介性溶解、アポトーシスの誘導および増殖の阻害の1つまたはそれ以上による細胞死滅を媒介する、請求項1から
15のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項17】
CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体が、
(i)アクセッション番
号DSM ACC2810の下で寄託されたクローンによって産生されるおよび/または前記クローンから入手可能な抗体、
(ii)(i)
で示される前記抗体のキメラ化またはヒト化形態である抗体、
および
(iii)(i)
で示される前記抗体の抗原結合部分
、または抗原結合部位、可変領域を含有
する抗体
から成る群より選択される抗体である、請求項1から
16のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項18】
前記
療法が、CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体を1000mg/m
2までの用量で投与することを含む、請求項1から
17のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項19】
前記
療法が、CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体を300から600mg/m
2の用量で反復投与することを含む、請求項1から
18のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項20】
CLDN18.2が配列番号:1に従うアミノ酸配列を有する、請求項1から
19のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項21】
前記膵癌が、原発癌、進行癌もしくは転移癌、または膵原発癌と転移癌の組合せなどのこれらの組合せを含む、請求項1から
20のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項22】
前記転移癌が、リンパ節、卵巣、肝臓もしくは肺、またはこれらの組合せへの転移を含む、請求項
21に記載の
使用。
【請求項23】
前記膵癌が膵管の癌を含む、請求項1から
21のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項24】
前記膵癌が、腺癌もしくは癌腫、またはこれらの組合せを含む、請求項1から
23のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項25】
前記膵癌が、膵管腺癌、粘液性腺癌、神経内分泌癌もしくは腺房細胞癌、またはこれらの組合せを含む、請求項1から
24のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項26】
前記膵癌が、ゲムシタビン単独療法などのゲムシタビン治療に対して部分的または完全に抗療性である、請求項1から
25のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項27】
膵癌を予防することが、膵癌の再発を予防することを含む、請求項1から
26のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項28】
患者が膵癌のための手術を受けたことがある、請求項1から
27のいずれか一項に記載の
使用。
【請求項29】
患者が、前癌膵病変、
又は膵管における初期の悪性組織学的変化を含む前癌膵病変を有する、請求項1から
28のいずれか一項に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
膵癌は最も致死的な癌の1つである。早期に転移拡大する傾向があること、ならびにこの疾患が放射線および化学療法に対して高度に抵抗性であることから、死亡率は100%に迫る。毎年北米では27,000例およびヨーロッパでは68,000例の新たな症例が診断されることを考慮すると、膵癌患者の死亡率を低下させる新規治療戦略を開発する緊急の必要性が存在する。
【背景技術】
【0002】
密着結合分子クローディン18のスプライス変異体2(クローディン18.2(CLDN18.2)は、密着結合タンパク質のクローディンファミリーの成員である。CLDN18.2は、膜を貫通する4つのドメインと2つの小さな細胞外ループを含む27.8kDaの膜貫通タンパク質である。正常組織では、胃を除いて、RT-PCRによるCLDN18.2の検出可能な発現は存在しない。CLDN18.2特異的抗体を用いた免疫組織化学は、胃が唯一の陽性組織であることを明らかにする。CLDN18.2は、短命の分化した胃上皮細胞上で排他的に発現される高度に選択的な胃系統抗原である。CLDN18.2は悪性形質転換の過程で維持され、したがってしばしばヒト胃癌細胞の表面で提示される。さらに、この汎腫瘍抗原は、食道腺癌、膵腺癌および肺腺癌において有意のレベルで異所性に活性化される。
【0003】
CLDN18.2に対するキメラIgG1抗体、IMAB362はGanymed Pharmaceuticals AG.によって開発された。IMAB362は高い親和性および特異性でCLDN18.2の1番目の細胞外ドメイン(ECD1)を認識する。IMAB362は、クローディン18の密接に関連するスプライス変異体1(CLDN18.1)を含むいかなる他のクローディンファミリー成員にも結合しない。IMAB362は正確な腫瘍細胞特異性を示し、4つの独立した極めて強力な作用機構を束ねる。標的結合後、IMAB362は、ADCC、CDCおよび腫瘍細胞表面での標的の架橋結合によって誘導されるアポトーシスの誘導による細胞死滅ならびに増殖の直接阻害を媒介する。したがって、IMAB362は、インビトロおよびインビボでヒト胃癌細胞株を含むCLDN18.2陽性細胞を効率的に溶解する。
【0004】
IMAB362の毒性およびPK/TKプロフィールはマウスおよびカニクイザルにおいて十分に検討されており、これには用量設定試験、カニクイザルにおける28日間反復投与毒性試験およびマウスにおける3ヶ月間反復投与毒性試験が含まれる。マウス(最長処置期間は週1回投与で3ヶ月間、最高用量レベルは400mg/kg)およびカニクイザル(週1回適用で最大5週間、最大100mg/kgまで)の両方で、IMAB362 i.v.の反復投与は良好に耐容される。全身または局所毒性の徴候は誘導されない。特に、胃毒性はいずれの毒性試験においても認められていない。IMAB362は免疫の活性化およびサイトカイン放出を誘導しない。雄性または雌性生殖器官への有害作用は記録されなかった。IMAB362は、標的を欠く組織には結合しない。マウスにおける生体内分布は、胃毒性が存在しない理由が、IMAB362エピトープのアクセス可能性を大きく低下させると考えられる、健常胃上皮の管腔部位における密着結合のコンパートメント化である可能性が高いことを指示する。
【0005】
IMAB362は初期臨床試験段階である。第I相臨床試験がヒトにおいて実施された。各々3名の患者の5つの用量コホート(33mg/m2、100mg/m2、300mg/m2、600mg/m2、1000mg/m2)にIMAB362の単回静脈内投与を実施し、28日間観察した。IMAB362は非常に良好に耐容され、患者において関連する安全性所見はなかった。1名の患者では測定したすべての腫瘍マーカーが処置後4週間以内に有意に低下した。現在進行中の第IIa相臨床試験ではIMAB362が反復投与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書で本発明者らは、化学療法剤が膵癌細胞の表面でのCLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させることができ、IMAB362などの抗CLDN18.2抗体によるCLDN18.2のドラッガビリティの増強をもたらすことを明らかにするデータを提示する。特定の化学療法レジメン、特に膵癌治療のために使用される化学療法レジメンと、IMAB362などの抗CLDN18.2抗体との相乗作用が認められた。化学療法で前処置したヒト癌細胞は、抗体が誘導する標的特異的死滅に対して感受性がより高い。マウス腫瘍モデルでは、抗CLDN18.2抗体プラス化学療法による腫瘍制御は、単剤としての抗CLDN18.2抗体によるものを上回る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は一般に、癌疾患、例えば胃癌、食道癌、膵癌、肺癌、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)、卵巣癌、結腸癌、肝癌、頭頸部癌および胆嚢の癌ならびにこれらの転移、特に胃癌転移、例えばクルーケンベルク腫瘍、腹膜転移およびリンパ節転移を含む、CLDN18.2を発現する細胞に関連する疾患を有効に治療および/または予防するための併用療法を提供する。
【0008】
1つの態様では、本発明は、患者において膵癌を治療または予防する方法であって、(i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)CLDN18.2の発現、すなわちレベルを安定化するまたは増大させる作用物質、を患者に投与することを含む方法を提供する。CLDN18.2の発現は、好ましくは癌細胞の細胞表面においてである。CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体の投与の前、抗体の投与と同時にもしくは抗体の投与後、またはこれらの組合せで投与し得る。
【0009】
CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質は、細胞傷害性および/または細胞増殖抑制性薬剤であり得る。1つの実施形態では、CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質には、細胞周期の停止または細胞周期の1もしくはそれ以上の期、好ましくはG1期以外の細胞周期の1もしくはそれ以上の期、例えばS期、G2期、これらの組合せまたはS期もしくはG2期とG1期の組合せにおける細胞の蓄積を誘導する作用物質が含まれる。CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質には、ヌクレオシド類似体、白金化合物、カンプトテシン類似体およびタキサン類、そのプロドラッグ、その塩およびそれらの組合せから成る群より選択される作用物質が含まれ得る。ヌクレオシド類似体は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、そのプロドラッグおよびその塩から成る群より選択され得る。白金化合物は、オキサリプラチン、シスプラチン、そのプロドラッグおよびその塩から成る群より選択され得る。カンプトテシン類似体は、イリノテカン、トポテカン、そのプロドラッグおよびその塩から成る群より選択され得る。タキサン類は、パクリタキセル、ドセタキセル、そのプロドラッグおよびその塩から成る群より選択され得る。CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質には、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカン、パクリタキセル、そのプロドラッグ、その塩およびそれらの組合せから成る群より選択される作用物質が含まれ得る。CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質には、オキサリプラチンと5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せ、シスプラチンと5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せ、少なくとも1つのタキサンとオキサリプラチンの組合せ、少なくとも1つのタキサンとシスプラチンの組合せ、少なくとも1つのタキサンと5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せ、または少なくとも1つのカンプトテシン類似体と5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグの組合せが含まれ得る。CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質には、ゲムシタビンとオキサリプラチンの組合せ、ゲムシタビンとシスプラチンの組合せ、ゲムシタビンとカルボプラチンの組合せ、またはオキサリプラチン、5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグとイリノテカンの組合せが含まれ得る。したがって、本発明の方法は、ゲムシタビンとオキサリプラチンの組合せ、ゲムシタビンとシスプラチンの組合せ、ゲムシタビンとカルボプラチンの組合せ、またはオキサリプラチン、5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグとイリノテカンの組合せを投与することを含み得る。1つの実施形態では、本発明の方法は、フォリン酸、5-フルオロウラシルまたはそのプロドラッグ、イリノテカンおよびオキサリプラチンを投与することを含む。CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質には、免疫原性細胞死を誘導する作用物質が含まれ得る。免疫原性細胞死を誘導する作用物質にはオキサリプラチンが含まれ得る。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、患者において膵癌を治療または予防する方法であって、(i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)ゲムシタビンを患者に投与することを含む方法を提供する。1つの実施形態では、癌は、胃癌、食道癌、膵癌、肺癌、卵巣癌、結腸癌、肝癌、頭頸部癌、胆嚢の癌およびこれらの転移から成る群より選択される。癌疾患は、クルーケンベルク腫瘍、腹膜転移および/またはリンパ節転移であり得る。1つの実施形態では、癌は腺癌、特に進行した腺癌である。1つの実施形態では、癌は膵癌である。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の方法は、γδT細胞を刺激する作用物質を投与することをさらに含む。1つの実施形態では、γδT細胞はVγ9Vδ2T細胞である、1つの実施形態では、γδT細胞を刺激する作用物質は、窒素含有ビスホスホネート(アミノビスホスホネート)などのビスホスホネートである。1つの実施形態では、γδT細胞を刺激する作用物質は、ゾレドロン酸、クロドロン酸、イバンドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、オルパドロン酸、アレンドロン酸、インカドロン酸およびそれらの塩から成る群より選択される。1つの実施形態では、γδT細胞を刺激する作用物質をインターロイキン2と組み合わせて投与する。
【0012】
本発明の方法は、細胞傷害性薬剤であり得る、少なくとも1つのさらなる化学療法剤を投与することをさらに含み得る。
【0013】
CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、生細胞の表面上に存在するCLDN18.2の天然エピトープに結合し得る。1つの実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、CLDN18.2の第一細胞外ループに結合する。1つの実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介性溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介性溶解、アポトーシスの誘導および増殖の阻害の1つまたはそれ以上による細胞死滅を媒介する。1つの実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、モノクローナル、キメラもしくはヒト化抗体、または抗体のフラグメントである。1つの実施形態では、前記抗体は、CLDN18.2、特に細胞によってその細胞表面上に発現されるCLDN18.2に結合した場合、細胞死滅を媒介し、ここで細胞は、好ましくは癌細胞、例えば本明細書で述べる癌の細胞である。1つの実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、(i)アクセッション番号DSM ACC2737、DSM ACC2738、DSM ACC2739、DSM ACC2740、DSM ACC2741、DSM ACC2742、DSM ACC2743、DSM ACC2745、DSM ACC2746、DSM ACC2747、DSM ACC2748、DSM ACC2808、DSM ACC2809またはDSM ACC2810の下で寄託されたクローンによって産生されるおよび/または前記クローンから入手可能な抗体、(ii)(i)に含まれる抗体のキメラ化またはヒト化形態である抗体、(iii)(i)に含まれる抗体の特異性を有する抗体、ならびに(iv)(i)に含まれる抗体の抗原結合部分または抗原結合部位、特に可変領域を含有し、および好ましくは(i)に含まれる抗体の特異性を有する抗体、から成る群より選択される抗体である。1つの実施形態では、抗体は、治療薬、例えば毒素、放射性同位体、薬物または細胞傷害性薬剤に連結される。
【0014】
1つの実施形態では、本発明の方法は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を1000mg/m2までの用量で投与することを含む。1つの実施形態では、本発明の方法は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を300~600mg/m2の用量で反復投与することを含む。
【0015】
本発明によれば、CLDN18.2は、好ましくは配列番号:1に従うアミノ酸配列を有する。
【0016】
1つの実施形態では、本明細書で述べる癌はCLDN18.2陽性である。1つの実施形態では、本明細書で述べる癌の癌細胞はCLDN18.2陽性である。1つの実施形態では、本明細書で述べる癌の癌細胞は、CLDN18.2をその細胞表面に発現する。
【0017】
1つの実施形態では、本明細書で述べる膵癌は、原発癌、進行癌もしくは転移癌、またはこれらの組合せ、例えば膵原発癌と転移癌の組合せを含む。1つの実施形態では、本発明の方法は、原発癌と転移癌、例えば膵原発癌と膵転移癌の同時治療を目的とする。1つの実施形態では、転移癌は、リンパ節、卵巣、肝臓もしくは肺、またはこれらの組合せへの転移を含む。1つの実施形態では、膵癌は膵管の癌を含む。1つの実施形態では、膵癌は、腺癌もしくは癌腫、またはこれらの組合せを含む。1つの実施形態では、膵癌は、膵管腺癌、粘液性腺癌、神経内分泌癌もしくは腺房細胞癌、またはこれらの組合せを含む。1つの実施形態では、膵癌は、ゲムシタビン単独療法などのゲムシタビン治療に対して部分的または完全に抗療性である。1つの実施形態では、膵癌を予防することは、膵癌の再発を予防することを含む。
【0018】
1つの実施形態では、本発明に従って治療されるべき患者は、膵癌のための手術を受けたことがある。1つの実施形態では、患者は、前癌膵病変、特に膵管における初期の悪性組織学的変化を含む前癌膵病変を有する。これらの実施形態では、本発明の方法は、好ましくは悪性膵癌の発症を防止することを目指す。
【0019】
さらなる態様では、本発明は、膵癌を治療または予防するための医療製剤であって、(i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質、を含有する医療製剤を提供する。本発明の医療製剤は、γδT細胞を刺激する作用物質をさらに含有し得る。CLDN18.2に結合する能力を有する抗体およびCLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質、ならびに場合によりγδT細胞を刺激する作用物質は、混合物としてまたは互いに別々に医療製剤中に存在し得る。医療製剤は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を含有する第一容器およびCLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質を含有する第二容器、ならびに場合によりγδT細胞を刺激する作用物質を含有する容器を含むキットの形態で存在し得る。医療製剤は、膵癌の治療または予防のための製剤の使用、特に本発明の方法における製剤の使用に関する印刷された指示書をさらに含み得る。医療製剤ならびに、特にCLDN18.2に結合する能力を有する抗体、CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質およびγδT細胞を刺激する作用物質の種々の実施形態は、本発明の方法に関して上記で述べたとおりである。
【0020】
特定の態様では、本発明は、(i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)ゲムシタビンを含有する医療製剤を提供する。本発明の医療製剤は、γδT細胞を刺激する作用物質をさらに含有し得る。CLDN18.2に結合する能力を有する抗体およびゲムシタビン、ならびに場合によりγδT細胞を刺激する作用物質は、混合物としてまたは互いに別々に医療製剤中に存在し得る。医療製剤は、膵癌などの癌を治療または予防することを目的とし得る。医療製剤は、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体を含有する第一容器およびゲムシタビンを含有する第二容器、ならびに場合によりγδT細胞を刺激する作用物質を含有する容器を含むキットの形態で存在し得る。医療製剤は、膵癌などの癌の治療または予防のための製剤の使用、特に本発明の方法における製剤の使用に関する印刷された指示書をさらに含み得る。医療製剤ならびに、特にCLDN18.2に結合する能力を有する抗体、CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質およびγδT細胞を刺激する作用物質の種々の実施形態は、本発明の方法に関して上記で述べたとおりである。
【0021】
本発明はまた、本明細書で述べる方法における使用のための、本明細書で述べる作用物質、例えばCLDN18.2に結合する能力を有する抗体および/またはCLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質も提供する。例えば、本発明は、ゲムシタビンなどのCLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質および場合によりγδT細胞を刺激する作用物質と併用して投与するための、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体も提供する。
【0022】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】膵癌細胞株の形質導入のために使用したレンチウイルスベクター。ヒトCLDN18.2をEF1αプロモーターの下流にクローニングした。発現カセットを、ウイルスmRNAのパッケージングおよび逆転写を可能にする長い末端反復配列(5'および3'-LTR)の間に組み込む。RSV:ラウス肉腫ウイルスは、ウイルスmRNAのTat非依存性産生を可能にする。Amp:アンピシリン耐性遺伝子。PGKp:ブラスチシジンのプロモーター。WPRE:ウッドチャック転写後調節エレメントは、導入遺伝子発現を増強する。LTR:長い末端反復配列は、ウイルスパッケージングを可能にする。SV40Aは、転写終結およびmRNAのポリアデニル化を可能にする。pUC:細菌ベクター骨格。Bla:アンピシリンのプロモーター。
【
図2】マウス肺における膵細胞の転移分析。膵癌細胞を用いたマウスのi.v.注射後のマウス肺の解剖図。
【
図3】正常膵組織および癌性膵組織におけるCLDN18.2発現。モノクローナルマウス35-22A抗体(0.2μg/ml)を用いた正常膵臓のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織(A)および膵腺癌組織(B)の染色。ヘマトキシリン対比染色(2:00分)。倍率200×。
【
図4】正常膵組織および前癌性膵組織におけるCLDN18.2発現。様々な前癌構造の43-14A染色:(A)正常およびPanIN1;(B)PanIN2;(C)PanIN3。倍率200×。
【
図5】パイロット試験-分析した膵原発腫瘍に関するCLDN18.2シグナル強度と陽性腫瘍細胞の量との間の相関。各々の点は、モノクローナルマウス35-22A抗体(0.2μg/ml)を用いてFFPE切片を染色することによって分析した膵原発癌の場合を表す。点線は10%値を示す。
【
図6】パイロット試験-原発性および転移性膵腫瘍組織におけるCLDN18.2の発現。(A)腺癌原発腫瘍および(B)リンパ節転移の、マウスモノクローナル35-22A抗体を用いたFFPE組織切片(3μm)の染色。ヘマトキシリン(Mayers)で対比染色した。
【
図7】主試験:分析した膵原発腫瘍に関するCLDN18.2シグナル強度と陽性腫瘍細胞の量との間の相関。各々の点は、モノクローナルマウス43-14A抗体(0.2μg/ml)を用いてFFPE切片を染色することによって分析した膵管腺癌原発腫瘍(黒い円)または神経内分泌原発腫瘍(白い円)の場合を表す。
【
図8】分析した膵転移に関するCLDN18.2シグナル強度と陽性腫瘍細胞の量との間の相関。各々の点は、モノクローナルマウス43-14A抗体(0.2μg/ml)を用いてFFPE切片を染色することによって分析した膵リンパ節転移(黒い円)または肝転移(白い円)の場合を表す。点線は10%値を示す。
【
図9】原発性および転移性膵腫瘍組織におけるCLDN18.2の発現。(A、C、E)腺癌原発腫瘍および(B、D、F)リンパ節転移に関するマウスモノクローナル43-14A抗体を用いたFFPE組織切片(3μm)の染色。Mayersヘマトキシリンを用いて切片を対比染色した。
【
図10】グラフ分析-マッチする膵原発腫瘍組織とリンパ節転移組織におけるCLDN18.2の発現。
【
図11】マッチする膵原発腫瘍組織と転移組織におけるCLDN18.2の発現。マウスモノクローナル43-14A抗体を用いた、(A)原発性腺癌、(B)肝転移および(C)リンパ節転移のFFPE組織切片(3μm)の染色。Mayersヘマトキシリンを用いて切片を対比染色した。200×倍率。
【
図12A】膵癌細胞株におけるCLDN18.2 mRNAレベル。
【
図12BCD】膵癌細胞株におけるCLDN18.2 mRNAレベル。 (A)種々の膵CA細胞株、レンチウイルス形質導入(LVT)細胞株(灰色のバー)、胃癌細胞株KATO-III(陽性対照)および乳癌細胞株SKBR-3(陰性対照)のQ-PCR発現分析。CLDN18.2転写産物を、遺伝子特異的プライマーを使用して増幅した。1×10
5を上回る相対的発現レベルを示す内因性細胞株をCLDN18.2陽性(斜線のバー)と採点した。NTC:H2O対照試料。誤差バー:平均+SD。(B~D)Patu8988S(B)、Panc05.04(C)および示されているLVT細胞株(D)における継代依存性CLDN18.2発現分析。継代数を各々のバーの下に示す。
【
図13】膵癌細胞株の細胞溶解物中のCLDN18.2タンパク質レベル。タンパク質を12.5%SDS-PAGEで分離した。ウェスタンブロット分析を、CLDN18.1およびCLDN18.2のC末端を検出するCLDN18抗体(Zymed-MID)を使用し、およびβ-アクチンを検出するローディングコントロール抗体を使用して実施した。140秒(Pierce SuperSignal West Dura)および20秒(Pierce SuperSignal West Pico)の暴露時間をそれぞれ使用した。 (A)膵細胞株溶解物、陽性対照細胞溶解物(HEK293-p740)および陰性対照細胞溶解物(SKBR-3)におけるCLDN18の検出。(B)非形質導入親細胞溶解物とレンチウイルス形質導入(LVT)細胞株溶解物との間で比較したCLDN18.2発現。Patu8988SおよびSKBR-3をそれぞれ陽性対照および陰性対照として加えた。
【
図14】膵癌細胞株におけるCLDN18発現の検出および細胞局在。カバーガラス上で増殖させた膵癌細胞株の染色。抗体:35-22A(20×倍率、暴露時間を各々の画像の下に示す)。DAPIを使用して核(青色)を染色した。(A:AsPC1;B:BxPC3;C:CFPAC;D:DANG;E:HPAF-II;F:HUP-T3;G:HUP-T4;H:KCI-MOH;I:Panc1;J:Panc05.04;K:Panc02.04;L:Panc04.03;M:Patu8902;N:Patu8988S;O:Su86.86:P:Suit-2;Q:SW-1990;R:YAPC;S:胃癌対照細胞株KATO-III)。
【
図15】CLDN18.2形質導入膵癌細胞株におけるCLDN18発現の検出および細胞局在。固定および透過処理後の35-22A抗体を用いたレンチウイルス形質導入(LVT)膵癌細胞株におけるCLDN18検出。Alexa488またはAlexa555標識二次抗体を検出のために使用した。A:BxPC3-LVT;B:CAPAN1-LVT;C:DANG-LVT;D:HPAC-LVT;E:MiaPaCa2-LVT;F:Patu8902-LVT;G:Suit-2-LVT;H:YAPC-LVT。
【
図16ABCDEF】CLDN18.2陽性膵CA細胞株の細胞表面へのIMAB362の結合(薬力学)。
【
図16GHIJKL】CLDN18.2陽性膵CA細胞株の細胞表面へのIMAB362の結合(薬力学)。CLDN18.2を発現する膵癌細胞株(A、B、D、E)、レンチウイルス形質導入膵細胞株(G~L)およびKATO-III胃癌対照細胞(C、F)のIF分析。細胞を天然条件下で(D~E)ならびに細胞の固定および透過処理後の35-22Aとの比較のために(A~C)IMAB362で染色した。DAPIを使用して核を染色した。暴露時間を各々のパネル中に示す。G:BxPC3-LVT;H:CAPAN1-LVT;I:DANG-LVT;J:MiaPaCa2-LVT;K:Patu8902-LVT;L:Suit2-LVT。
【
図17】種々の細胞株の異種移植腫瘍におけるCLDN18.2発現。CAPAN1-LVT(A、B)、BxPC3-LVT(C、D)、PATU8988S-LVT(E、F)、MiaPaCa2-LVT(G、H)、YAPC-LVT(J、K)およびDANG-LVT(L、M)異種移植腫瘍におけるCLDN18.2の発現。Zymed-MID抗体を用いて組織染色を実施した。レンズ倍率:10×(A、C、E、G、J、L)および20×(B、D、F、H、K、M)。
【
図18】Suit-2およびMiaPaCa2膵癌細胞株の生着検査。細胞をヌードマウスの尾静脈に注射した。Suit-2(A~C)の適用後45(A)、52(B)、59(C)日目、またはMiaPaCa2(D~F)の注射後59(D)、66(E)、73(F)日目に動物を犠死させた。マウス組織中のヒト細胞を検出するために肺を調製し、MHCクラスI抗体(抗ヒトMHC I、クローンEPR1394Y)で染色した。
【
図19】Patu8988Sの転移生着分析。Patu8988S細胞をNu/Nuマウスにおいて1×10
6または2×10
6細胞でi.v.注射し、x軸の下に示されている種々の時点でマウスの肺(A)および肝臓(B)を単離した。各組織調製物中に存在するヒトDNAの%を計算するため、ヒトDNAとマウスDNAを混合し、7つの5倍希釈物を調製して100%(1)~0.0064%(7)ヒトDNAを生じさせることにより、標準曲線を作成した。
【
図20】マウス肺組織におけるPatu8988S転移のIHC分析。Patu8988S細胞を尾静脈に注射したマウスを種々の時点で(A~D=70日目、E~H=86日目)犠死させ、肺組織を単離して、1:1000希釈したMHC-I(EPR1394Y)抗体(A、B、E、F)または0.2μg/mlの抗クローディン18(Zymed-Mid)(C、D、G、H)で染色した。倍率:A、C、E、G=10×およびB、D、F、H=20×。
【
図21】ゲムシタビン処理した膵腫瘍細胞のIMAB362媒介性アポトーシス。48時間後にBxPC3~CLDN18上でCLDN18.2の架橋結合によって誘導されたアポトーシス。BxPC3~CLDN18を培地中または培地+100ng/mlゲムシタビン中で培養した。単核細胞のアポトーシス細胞の割合がシフトした。同様のシフトがカンプトテシンと腫瘍細胞のインキュベーションによって得られた。
【
図22ABCD】膵癌細胞へのIMAB362誘導性ADCC活性の効力。
【
図22EFGH】膵癌細胞へのIMAB362誘導性ADCC活性の効力。 (A)種々のドナーのPBMCを使用してCLDN18.2陽性膵癌細胞株に関して実施されたADCC。(B~F)CLDN18.2を異所性に発現するLVT膵細胞株および対応する親細胞に関して実施されたADCC。(G)ドットプロット。
【
図23AB】膵癌細胞へのIMAB362誘導性CDC活性の効力。
【
図23CDE】膵癌細胞へのIMAB362誘導性CDC活性の効力。 (A)4つの独立した実験において補体源としての健常ヒト血清プール、IMAB362およびCLDN18.2陽性膵CDOK1-p740対照細胞に関して実施されたCDC。(B)CLDN18.2陽性(Patu8988S、DANG、Panc05.04)およびCLDN18.2陰性(CAPAN1、Suit2、BxPC3、YAPC)膵細胞株に関して実施されたCDC。(C)異所性発現LVT細胞株に関するCDC。(D)膵癌細胞株に対して半最大溶解率(EC50)を生じさせるIMAB362濃度を示すドットプロット。(E)膵癌細胞株に対してIMAB362で得られた最大死滅率。
【
図24】皮下MiaPaCa2-LVT異種移植片へのIMAB362処置の作用。MiaPaCa2-LVT異種移植腫瘍を、各処置群につき15匹の雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスの側腹部への1e7 MiaPaCa2-LVT細胞の皮下注射によって接種した。腫瘍細胞注射後3日目に、それぞれIMAB362 200μgまたは対照で処置を開始した。動物を犠死させるまで週2回、i.p.注射とi.v.注射を交互に行って処置を続けた。(A)腫瘍増殖へのIMAB362処置の作用。s.c.腫瘍の大きさを週2回測定した(平均+SEM)。(B)カプラン-マイヤー生存率プロット。腫瘍が1400mm
3の体積に達するかまたは腫瘍が潰瘍性になったときにマウスを犠死させた。
【
図25】皮下BxPC3-LVT異種移植片のIMAB362処置。BxPC3-LVT異種移植腫瘍を、各処置群につき15匹の雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスの側腹部への1e7 BxPC3-LVT細胞の皮下注射によって接種した。腫瘍細胞注射後3日目に、それぞれIMAB362 200μgまたは対照で処置を開始した。動物を犠死させるまで週2回、i.p.注射とi.v.注射を交互に行って処置を続けた。(A)腫瘍増殖へのIMAB362処置の作用。s.c.腫瘍の大きさを週2回測定した(平均+SEM、
*p<0.05)。(B)カプラン-マイヤー生存率プロット。腫瘍が1400mm
3の体積に達するかまたは腫瘍が潰瘍性になったときにマウスを犠死させた。
【
図26】Suit2-LVT膵転移の増殖へのIMAB362処置の作用。2×10
6 Suit2-LVT腫瘍細胞を、処置群当たり12匹の雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスの尾静脈に静脈内注射した。腫瘍細胞注射後3日目に、IMAB362 200μg、アイソタイプ対照200μgまたは等容量のPBSで処置を開始した。移植後42日目に動物を犠死させた。(A)マウス肺試料中に存在するヒトDNAのパーセンテージを決定するqPCR分析(試料につき2~4回の反応の平均)。(B)マウス肺表面を覆うヒト細胞のパーセンテージを平面面積測定法によって決定した。ヒト細胞を、抗ヒトMHCクラスI抗体を用いて組織切片において免疫組織化学的に染色した。
*p<0.05(クラスカル-ウォリス検定)。エラーバー:平均±SD。
【
図27AB】Patu8988S肺転移のQ-PCRおよびIHC分析。各マウスにつき2×10
6 Patu8988S細胞を注射した。65日後に動物を犠死させた。白い円:63日後に犠死させたマウス。
【
図27CD】Patu8988S肺転移のQ-PCRおよびIHC分析。各マウスにつき2×10
6 Patu8988S細胞を注射した。65日後に動物を犠死させた。白い円:63日後に犠死させたマウス。 (A)マウスを週2回IMAB362 200μgまたは生理食塩水対照で処置した。Ct値から計算した、Q-PCRで検出されたヒトDNAの量(ng)。(B)(A)で述べたQ-PCR実験の反復。ここではマウスDNA中に存在するヒトDNAのパーセンテージをCt値から計算した。(C)マウスをIMAB362およびアイソタイプ対照抗体(リツキシマブ)で処置した。マウス肺中に存在するヒトDNAのパーセンテージをCt値から計算した。IMAB362群に関して、1例の異常値を検出した(白い三角)。異常値を含めてまたは除外して、有意性を示している。(D/E)(C)と同じ実験。ここではImage Jプログラムを使用して転移の表面を決定した。ドットプロットは、異常値を含む(D)かまたは除外した(E)IMAB362阻害の有意性を示す。P値:対応のないt検定。エラーバー±SD。
【
図28】ゲムシタビンについての用量反応曲線。膵癌細胞株はゲムシタビンに対して非常に異なる感受性を示す。細胞株を種々の濃度のゲムシタビンに4日間暴露し、増殖の阻害を生存能アッセイによって分析した。
【
図29】オキサリプラチンについての用量反応曲線。膵癌細胞株はオキサリプラチンに対して非常に異なる感受性を示す。細胞株を種々の濃度のオキサリプラチンに4日間暴露し、増殖の阻害を生存能アッセイによって分析した。
【
図30】CLDN18.2発現(RNA)への化学療法剤による処置の作用。未処置、Gem(1ng/ml)もしくはGemOx(Gem 1ng/ml+Ox 10ng/ml)で前処置したDANG細胞(2日間)(A)またはGem(10ng/ml)もしくはGemOx(Gem 10ng/ml+Ox 100ng/ml)で3日間前処置したPatu8988S細胞(B)のRNA。RNAをcDNAに変換し、CLDN18.2転写産物レベルを定量的リアルタイムPCRで分析した。結果を、ハウスキーピング遺伝子HPRTの転写産物レベルと比較した相対単位として示す。
【
図31】膵癌細胞におけるCLDN18.2タンパク質レベルへの化学療法の作用。未処置(培地)、Gem(1ng/ml)またはGemOx(Gem 1ng/ml+Ox 10ng/ml)で前処置したDANG細胞(A)またはPatu8988S細胞(B)の全細胞溶解物からのタンパク質を、Zymed C末端ポリクローナル抗血清を用いて検出されたCLDN18.2発現に関して分析した。タンパク質の等しい負荷を示すためにアクチンを使用した。
【
図32】CLDN18.2細胞表面発現のFACS分析。培地で培養した(左側)およびGem処置した(右側)Patu8988SのCLDN18発現(黒いヒストグラム)をアイソタイプ対照と比較して重ね合わせて示す。Patu8988Sはゲムシタビン(10ng/ml))で3日間処置する。
【
図33】ゲムシタビン(Gem;2ng/ml)またはゲムシタビン+オキサリプラチン(GemOx;1ng/ml+10ng/ml)のいずれかで2日間処置するかまたは処置していないDANG細胞の細胞周期分析。(A)ゲムシタビン処置はS期での細胞周期停止をもたらす。各々のバーの面積を除して、G0/G1、SおよびG2期の細胞のパーセンテージを示す。(B)ウェスタンブロット分析は、Gemによる処置後のCLDN18の上方調節を示した。
【
図34】Patu8988S細胞における細胞周期(A)およびCLDN18.2発現(B、C)へのゲムシタビンの影響。Patu8988S細胞は、未処置であるかまたはゲムシタビン(10ng/ml)で2日間処置した。(A)各々のバーの面積を除して、G0/G1、SおよびG2期の細胞のパーセンテージを示す。CLDN18.2(x軸)の密度を細胞数(y軸)に対してプロットした。(B)未処置(点線)対Gem処置(実線)のCLDN18.2発現を示す。(C)G0/G1期のGem処置したPatu8988S細胞(点線)対S期の細胞(実線)のCLDN18.2発現を示す。
【
図35C】胃癌細胞への化学療法の作用。96時間のKato III細胞の培養は、G0/G1期での細胞周期停止(a)およびCLDN18.2の下方調節(c)をもたらす。細胞周期の種々の期で細胞周期停止を生じさせる細胞増殖抑制性化合物は、CLDN18.2発現を安定化する(c)。
【
図36】胃癌細胞への化学療法の作用。細胞周期の種々の期(S/G2期(イリノテカン)またはG2期(ドセタキセル))で細胞周期停止を生じさせる細胞増殖抑制性化合物。各々のバーの面積を除して、G0/G1、SおよびG2期の細胞のパーセンテージを示す。
【
図37】DANGの化学療法処置後のIMAB362媒介性ADCCに関する用量反応曲線。(A)GemまたはGemOxによる40時間のDANG膵癌細胞の前処置後の1例の代表的ドナーの用量反応曲線。(B)IMAB362媒介性ADCCについてのEC50値(平均)。P値:対応のないt検定。
【
図38D】胃癌細胞への化学療法の作用。 (a)イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで処置した細胞は、培地で培養した標的細胞と比較してより低いレベルの生細胞を示す。(b)イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで処置した細胞におけるCLDN18.2発現は、培地で培養した細胞と比較して増大している。(c/d)イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンでの細胞の処置は、ADCCを誘導するIMAB362の効力を増大させる。
【
図39】MiaPaCa2-LVT細胞のIMAB362媒介性CDCへの化学療法剤の影響。2つの独立したアッセイの用量反応曲線。MiaPaCa2-LVTを培地、Gem(10ng/ml)またはGemOx(10ng/ml Gem+100ng/ml Ox)中で70時間培養した。
【
図40】IMAB362誘導性CDCへの化学療法の作用。
【
図41】BxPC3-LVT異種移植片へのGemまたはGemOxと併用したIMAB362処置の作用。BxPC3-LVT異種移植腫瘍を、各処置群につき10匹の雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスの側腹部への8.5e6 BxPC3-LVT細胞の皮下注射によって接種した。腫瘍細胞注射後3日目に、化学療法(50mg/kgゲムシタビンi.p.、それぞれ50mg/kgゲムシタビン+5mg/kgオキサリプラチンi.p.)での処置を開始し、週1回6週間継続した。化学療法剤の注射の24時間後に、IMAB362 800μgまたは対照を尾静脈に静脈内適用した。マウスを犠死させるまでIMAB362処置を続けた。(A)皮下BxPC3-LVT異種移植腫瘍の増殖曲線。s.c.腫瘍の大きさを週2回測定した(平均+SEM)。(B)カプラン-マイヤー生存率曲線。腫瘍が1400mm
3の体積に達するかまたは腫瘍が潰瘍性になったときにマウスを犠死させた。
【
図42】IMAB362とゲムシタビンレジメンの併用による抗腫瘍効果の増強。BxPC3-LVT異種移植腫瘍を、各処置群につき10匹の雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスの側腹部への8.5e6 BxPC3-LVT細胞の皮下注射によって接種した。腫瘍細胞注射後3日目に、化学療法(100mg/kgゲムシタビンi.p.または100mg/kgゲムシタビン+5mg/kgオキサリプラチンi.p.)での処置を開始し、週1回6週間継続した。化学療法剤の注射の24時間後に、IMAB362 200μg(1/2用量)または400μg(総用量)を尾静脈に静脈内適用した。マウスを犠死させるまで、週2回、i.p.注射とi.v.注射を交互に行ってIMAB362処置を続けた。(A)皮下BxPC3-LVT異種移植腫瘍の増殖曲線。s.c.腫瘍の大きさを週2回測定した(平均+SEM)。(B)カプラン-マイヤー生存率曲線。腫瘍が1400mm
3の体積に達するかまたは腫瘍が潰瘍性になったときにマウスを犠死させた。
【
図43】MiaPaCa2-LVT異種移植片へのゲムシタビンと併用したIMAB362処置の作用。MiaPaCa2-LVT異種移植腫瘍を、各処置群につき10匹の雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスの側腹部への5e6 MiaPaCa2-LVT細胞の皮下注射によって接種した。腫瘍細胞注射の4日後に、化学療法(50mg/kgゲムシタビンi.p.)での処置を開始し、週1回6週間継続した。化学療法剤の注射の24時間後に、IMAB362 200μgまたは対照を尾静脈に静脈内適用した。マウスを犠死させるまで、週2回、i.p.注射とi.v.注射を交互に行ってIMAB362処置を続けた。(A)皮下異種移植腫瘍の増殖。腫瘍の大きさを週2回測定した(平均+SEM)。(B)カプラン-マイヤー生存率曲線。腫瘍が1400mm
3の体積に達するかまたは腫瘍が潰瘍性になったときにマウスを犠死させた。
【
図44】確立されたMiaPaCa2-LVT異種移植腫瘍へのゲムシタビンと併用したIMAB362処置の作用。MiaPaCa2-LVT異種移植腫瘍を、雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1
nuマウスの側腹部への1e7 MiaPaCa2-LVT細胞の皮下注射によって接種した。皮下腫瘍接種の9日後に、腫瘍担持マウスを各群につき8匹の動物で均一な処置群に再編成し、処置を開始した。マウスを150mg/kgゲムシタビンで週2回4週間、i.p.で処置した。ゲムシタビン注射の24時間後に、IMAB362 200μgまたは対照を尾静脈に静脈内適用した。マウスを犠死させるまで、IMAB362 200μgでの処置を週2回、i.p.注射とi.v.注射を交互に行って継続した。(A)皮下腫瘍の大きさを週2回測定した(平均+SEM;
**=p<0.01)。(B)カプラン-マイヤー生存率曲線。腫瘍が1400mm
3の体積に達するかまたは腫瘍が潰瘍性になったときにマウスを犠死させた(ログランク(マンテル-コックス)検定;
**=p<0.01)。
【
図45AB】Patu8988S異種移植モデルにおける肺転移へのゲムシタビンと併用したIMAB362の作用。
【
図45CD】Patu8988S異種移植モデルにおける肺転移へのゲムシタビンと併用したIMAB362の作用。 2×10
6Patu8988S腫瘍細胞を、各処置群につき12匹の雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1
nuマウスの尾静脈に静脈内注射した。静脈内腫瘍細胞注射の2週間後に、処置を、100mg/kgゲムシタビンi.p.の週2回4週間の投与と併用したIMAB362 200μgの週2回(i.v./i.p.)の維持処置で開始した。対照群は、週2回の100mg/kgゲムシタビンと併用したアイソタイプ対照抗体200μgで処置した。動物を移植後70日目に犠死させた。(A)IMAB362およびアイソタイプ抗体で処置したマウスの肺試料中のヒトDNAの定量的PCR分析(各試料につき3回の反応の平均)。アイソタイプ対照に対して有意の差(P=0.0035、マン-ホイットニー検定)。(B)マウス肺表面を覆う染色したヒト細胞のパーセンテージをコンピュータによる解析によって決定した。抗ヒトMHC-I抗体(クローンEPR1394Y)を用いてパラフィン包埋肺組織に関する免疫組織学的染色を実施した(平均±SEM;P=0.0003、マン-ホイットニー検定)。(CおよびD)IMAB362+ゲムシタビン処置マウス(C)またはアイソタイプ抗体+ゲムシタビン処置マウス(D)におけるPatu8988s肺転移への抗MHC-I抗体での免疫組織学的染色の例。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は本明細書で述べる特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図されず、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および学術用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0025】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を具体的な実施形態と共に列挙するが、これらは、付加的な実施形態を創製するために任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことが理解されるべきである。様々に説明される例および好ましい実施形態は、本発明を明白に記述される実施形態だけに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明白に記述される実施形態と多くの開示される要素および/または好ましい要素とを組み合わせた実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記述されるすべての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、本出願の説明によって開示されるとみなされるべきである。
【0026】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)",H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kolbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0027】
本発明の実施は、特に指示されない限り、当分野の文献(例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989参照)中で説明される化学、生化学、細胞生物学、免疫学および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0028】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に要求されない限り、「含む」という語および「含むこと」などの変形は、記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、いかなる他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の排除も意味しないと理解され、しかし一部の実施形態においては、そのような他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群が排除され得る、すなわち主題が記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含に存する。本発明の説明に関連して(特に特許請求の範囲に関連して)使用される「1つの」および「その」という用語および同様の言及は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書中の値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に属する各々別々の値を個別に言及することの簡略化した方法であることが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個別の値は本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書で述べるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図し、本発明あるいは特許請求されるものの範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、特許請求されない要素が本発明の実施に必須であることを指示すると解釈されるべきではない。
【0029】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される資料(すべての特許、特許出願、学術出版物、製造者の仕様書、指示書等を含む)の各々は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明のためにそのような開示に先行する権利を有さないことの承認と解釈されるべきではない。
【0030】
「CLDN18」という用語はクローディン18に関し、クローディン18スプライス変異体1(クローディン18.1(CLDN18.1))およびクローディン18スプライス変異体2(クローディン18.2(CLDN18.2))を含む任意の変異体を包含する。
【0031】
「CLDN18.2」という用語は、好ましくはヒトCLDN18.2に関し、特に配列表の配列番号:1に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含む、好ましくはそれから成るタンパク質に関する。
【0032】
「CLDN18.1」という用語は、好ましくはヒトCLDN18.1に関し、特に配列表の配列番号:2に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含む、好ましくはそれから成るタンパク質に関する。
【0033】
本発明による「変異体」という用語は、特に、突然変異体、スプライス変異体、立体配座変異体、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものを指す。対立遺伝子変異体は、遺伝子の正常な配列中の変化に関するが、その重要性はしばしば不明である。完全な遺伝子配列決定は、しばしば所与の遺伝子について数多くの対立遺伝子変異体を同定する。種ホモログは、所与の核酸配列またはアミノ酸配列のものとは異なる種を起源とする核酸配列またはアミノ酸配列である。「変異体」という用語は、任意の翻訳後修飾変異体および立体配座変異体を包含する。
【0034】
本発明によれば、「CLDN18.2陽性癌」という用語は、CLDN18.2を発現する癌細胞、好ましくは前記癌細胞の表面にCLDN18.2を発現する癌細胞を含む癌を意味する。
【0035】
「細胞表面」は、当分野におけるその通常の意味に従って使用され、したがってタンパク質および他の分子による結合にアクセス可能である細胞の外側を含む。例えば、1またはそれ以上の細胞外部分を有する膜貫通タンパク質は、細胞表面に発現されているとみなされる。
【0036】
CLDN18.2は、これが細胞の表面に位置し、前記細胞に添加されたCLDN18.2特異的抗体による結合にアクセス可能である場合、前記細胞の表面に発現されている。
【0037】
本発明によれば、CLDN18.2は、発現のレベルが胃細胞または胃組織における発現と比較してより低い場合、細胞において実質的に発現されていない。好ましくは、発現のレベルは、胃細胞または胃組織における発現の10%未満、好ましくは5%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%もしくは0.05%未満であるかまたはさらに一層低い。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが胃以外の非癌組織における発現のレベルを2倍しか、好ましくは1.5倍しか上回らない場合、および好ましくは前記非癌組織における発現のレベルを上回らない場合、細胞において実質的に発現されていない。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが検出限界より低い場合および/または発現のレベルが細胞に添加されたCLDN18.2特異的抗体による結合を許容しないほど低い場合、細胞において実質的に発現されていない。
【0038】
本発明によれば、CLDN18.2は、発現のレベルが胃以外の非癌組織における発現のレベルを2倍以上、好ましくは10倍、100倍、1000倍または10000倍上回る場合、細胞において発現されている。好ましくは、CLDN18.2は、発現のレベルが検出限界より高い場合および/または発現のレベルが細胞に添加されたCLDN18.2特異的抗体による結合を許容するのに十分なほど高い場合、細胞において発現されている。好ましくは、細胞において発現されるCLDN18.2は、前記細胞の表面に発現されるまたは露出される。
【0039】
本発明によれば、「疾患」という用語は、癌、特に本明細書で述べる癌の形態を含む、任意の病的状態を指す。癌または癌の特定の形態への本明細書での言及は、その癌転移も包含する。好ましい実施形態では、本出願に従って治療されるべき疾患は、CLDN18.2を発現する細胞を含む。
【0040】
「CLDN18.2を発現する細胞に関連する疾患」または同様の表現は、本発明によればCLDN18.2が疾患組織または器官の細胞において発現されることを意味する。1つの実施形態では、疾患組織または器官の細胞におけるCLDN18.2の発現は、健常組織または器官における状態と比較して増大している。増大とは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはさらにそれ以上の増大を指す。1つの実施形態では、発現は疾患組織においてのみ認められ、対応する健常組織における発現は抑制されている。例えば、CLDN18.2は膵癌組織において発現されるが、非癌性膵組織では発現は検出不能である。本発明によれば、CLDN18.2を発現する細胞に関連する疾患には癌疾患が含まれる。さらに、本発明によれば、癌疾患は、好ましくは癌細胞がCLDN18.2を発現するものである。
【0041】
本明細書で使用される場合、「癌疾患」または「癌」は、異常調節された細胞成長、増殖、分化、接着および/または移動を特徴とする疾患を包含する。「癌細胞」とは、急速で制御不能の細胞増殖によって成長し、新たな成長を開始させた刺激が停止した後も成長し続ける異常細胞を意味する。好ましくは、「癌疾患」はCLDN18.2を発現する細胞を特徴とし、癌細胞はCLDN18.2を発現する。CLDN18.2を発現する細胞は、好ましくは癌細胞、好ましくは本明細書で述べる癌の癌細胞である。
【0042】
本発明によれば、「癌腫」は、上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。
【0043】
「腺癌」は、腺組織から発生する癌である。この組織は、上皮組織として知られるより大きな組織カテゴリーの一部でもある。上皮組織には、皮膚、腺ならびに身体の腔および器官を裏打ちする様々な他の組織が含まれる。上皮は発生学的に外胚葉、内胚葉および中胚葉に由来する。腺癌として分類されるために、細胞は、分泌特性を有する限り、必ずしも腺の一部である必要はない。この形態の癌腫は、ヒトを含む一部の高等哺乳動物において発生し得る。高分化型腺癌は、それらが由来する腺組織に類似する傾向があるが、低分化型はその傾向がない場合もある。生検からの細胞を染色することにより、病理学者は腫瘍が腺癌であるかまたは何らかの他の種類の癌であるかを決定する。腺癌は、体内での腺の遍在性のために身体の多くの組織で発生し得る。各々の腺が同じ物質を分泌しているとは限らないが、細胞への外分泌機能が存在する限り、腺とみなされ、それゆえその悪性形態は腺癌と命名される。悪性腺癌は他の組織に浸潤し、転移するのに十分な時間があればしばしば転移する。
【0044】
内胚葉起源の器官である膵臓は、タンパク質および炭水化物消化ならびにグルコースホメオスタシスの極めて重要な調節因子である。膵外分泌部(器官の組織量の80%)は、消化酵素を産生して胃腸管に送達する腺房細胞および膵管細胞の分岐ネットワークから成る。膵管ネットワークに沿って機能単位に構造化されている腺房細胞は、胃および十二指腸からの合図に応答して酵素を合成し、膵管内腔に分泌する。膵管近傍の腺房単位内には房心細胞が存在する。血流中へのホルモンの分泌を介して代謝およびグルコースホメオスタシスを調節する、膵内分泌部は、ランゲルハンス島と呼ばれるクラスターへと集合する4つの特殊な内分泌細胞型から成る。
【0045】
膵癌は、膵臓を形成する組織中に生じる形質転換細胞に由来する悪性新生物である。膵癌は、米国では癌関連死亡原因の第4位であり、世界中では第8位である。初期膵癌はしばしば症状を引き起こさず、後期症状は通常非特異的で多様である。そのため、膵癌はしばしば進行するまで診断されない。膵癌は予後不良である:すべての病期を合わせると、1年および5年の相対生存率はそれぞれ25%および6%である。局所疾患に関しては、5年生存率は約20%であるが、合計で個体の80%以上に相当する、局所進行疾患および転移性疾患に関する平均生存期間はそれぞれ約10ヶ月および6ヶ月である。
【0046】
膵癌には、膵臓の外分泌成分内に生じる腺癌(腺構造を示す腫瘍)および島細胞から生じる神経内分泌癌が含まれる。
【0047】
最も一般的な形態の膵癌である膵管腺癌は、典型的には顕微鏡検査での中分化型から低分化型腺構造を特徴とする。膵管腺癌(PDAC)は一般に膵臓の頭部に発生し、リンパ管、脾臓および腹腔を含む周辺組織への浸潤ならびに肝臓および肺への転移を伴う。PDACは、主として、管様構造を有する腺パターンならびに様々な度合いの細胞異型性および分化を示す。PDACのより一般的でないサブタイプには、膠様、腺扁平上皮または肉腫様組織構造が含まれる。しばしば個々の腫瘍内に、組織構造、腫瘍悪性度および分化の程度に局所的な差異が存在する。最も小さな原発病変でさえも、一般に神経周囲およびリンパ血管浸潤を示し、早期遠隔転移の傾向を示唆する。
【0048】
2番目に多いタイプの外分泌膵癌は粘液性である。粘液性腺癌は、画像検査で嚢胞性外観を生じさせる多量のムチンを産生する。
【0049】
膵神経内分泌腫瘍は、膵臓のホルモン産生細胞(島細胞)中で形成する。腺房細胞新生物は、膵臓の腺房細胞から生じる。
【0050】
本発明によれば、「癌」という用語は、原発膵癌などの原発性腫瘍の癌転移も包含する。したがって、例えば膵癌に言及する場合、これは膵癌の転移、例えば肺、肝臓および/またはリンパ節への転移も包含する。
【0051】
「転移」とは、そのもとの部位から身体の別の部分への癌細胞の拡大を意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の分離、細胞外マトリックスの侵襲、体腔および脈管に侵入するための内皮基底膜の貫入、ならびに次に、血液によって運ばれた後、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位での新たな腫瘍の成長は血管新生に依存する。腫瘍転移はしばしば原発性腫瘍の除去後でも起こり、これは、腫瘍細胞または成分が残存し、転移能を発現し得るからである。1つの実施形態では、本発明による「転移」という用語は、原発性腫瘍および所属リンパ節系から遠く離れた転移に関連する「遠隔転移」に関する。1つの実施形態では、本発明による「転移」という用語はリンパ節転移に関する。本発明の治療法を用いて治療可能な転移の1つの特定の形態は、原発部位として膵癌から生じる転移である。好ましい実施形態では、そのような膵癌転移はリンパ節への転移、肺への転移および/または肝臓への転移である。
【0052】
クルーケンベルク腫瘍は、すべての卵巣腫瘍の1%~2%を占める卵巣のまれな転移性腫瘍である。クルーケンベルク腫瘍は卵巣の転移性印環細胞腺癌である。胃は大部分のクルーケンベルク腫瘍症例(70%)における原発部位である。結腸、虫垂および乳房(主として浸潤性小葉癌)の癌がその次に最も多い原発部位である。胆嚢、胆管、膵臓、小腸、ファーター膨大部、子宮頸および膀胱/尿膜管の癌に由来するクルーケンベルク腫瘍のまれな症例が報告されている。
【0053】
難治性癌は、最初から治療に不応性であるかまたは経時的に不応性となる、特定の治療が無効である悪性疾患である。
【0054】
「治療する」とは、被験体において腫瘍の大きさもしくは腫瘍の数を低減することを含む、疾患を予防するもしくは排除する;被験体において疾患を停止させるもしくは疾患の進行を遅らせる;被験体において新たな疾患の発症を阻止するもしくは遅らせる;現在疾患を有しているもしくは以前に疾患を有していたことがある被験体において症状および/もしくは再発の頻度もしくは重症度を低下させる;ならびに/または被験体の生存期間を延長する、すなわち増大させるために、化合物または組成物または化合物もしくは組成物の組合せを被験体に投与することを意味する。
【0055】
特に、「疾患の治療」という用語は、疾患またはその症状を治癒する、期間を短縮する、改善する、予防する、進行もしくは悪化を減速させるもしくは阻止する、または発症を予防するもしくは遅延させることを包含する。
【0056】
「患者」という用語は、本発明によれば、ヒト、非ヒト霊長動物または別の動物、特に哺乳動物、例えばウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯動物、例えばマウスおよびラットを含む、治療のための被験体、特に疾患被験体を意味する。特に好ましい実施形態では、患者はヒトである。
【0057】
「CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質」という用語は、作用物質または作用物質の組合せを細胞に提供することが、細胞に前記作用物質または作用物質の組合せが提供されない状況と比較して、前記細胞におけるCLDN18.2のRNAおよび/またはタンパク質レベルの増大、好ましくは細胞表面上のCLDN18.2タンパク質レベルの増大を生じさせる作用物質または作用物質の組合せを指す。好ましくは、細胞は癌細胞、特にCLDN18.2を発現する癌細胞であり、したがってCLDN18.2結合抗体の標的、例えば本明細書で述べる癌型の細胞、特に膵癌の細胞である。「CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質」という用語は、特に、作用物質または作用物質の組合せを細胞に提供することが、細胞に前記作用物質または作用物質の組合せが提供されない状況と比較して、前記細胞の表面により高い密度のCLDN18.2を生じさせる作用物質または作用物質の組合せを指す。「CLDN18.2の発現を安定化すること」は、特に、作用物質または作用物質の組合せがCLDN18.2の発現の低下を防ぐかまたは低下を低減する、例えば作用物質または作用物質の組合せが提供されない場合はCLDN18.2の発現が低下すると考えられ、前記作用物質または作用物質の組合せの提供がCLDN18.2発現の前記低下を防ぐかまたは前記低下を低減する状況を含む。「CLDN18.2の発現を増大させること」は、特に、作用物質または作用物質の組合せがCLDN18.2の発現を増大させる、例えば作用物質または作用物質の組合せが提供されない場合はCLDN18.2の発現が低下するか、基本的に一定なままであるかまたは増大すると考えられ、前記作用物質または作用物質の組合せの提供が、作用物質または作用物質の組合せが提供されない状況と比較してCLDN18.2発現を増大させ、そのため生じる発現が、作用物質または作用物質の組合せが提供されない場合にCLDN18.2の発現が低下するか、基本的に一定なままであるかまたは増大させるであろう状況と比較してより高い状況を含む。
【0058】
本発明によれば、「CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質」という用語は、化学療法剤または化学療法剤の組合せ、例えば細胞増殖抑制剤を含む。化学療法剤は、以下の方法:(1)細胞のDNAを損傷し、そのため細胞はもはや複製することができない、(2)細胞複製が不可能であるように新たなDNA鎖の合成を阻害する、(3)細胞が2個の細胞に分裂することができないように細胞の有糸分裂過程を停止させる、の1つで細胞に影響を及ぼし得る。
【0059】
本発明によれば、「CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質」という用語は、好ましくは、作用物質または作用物質の組合せ、例えば細胞増殖抑制性化合物または細胞増殖抑制性化合物の組合せを細胞、特に癌細胞に提供することが、細胞が細胞周期の1またはそれ以上の期で、好ましくはG1期およびG0期以外、好ましくはG1期以外の細胞周期の1またはそれ以上の期で、好ましくは細胞周期のG2期またはS期、例えば細胞周期のG1/G2期、S/G2期、G2期またはS期の1またはそれ以上で停止するまたは蓄積することを生じさせる、作用物質または作用物質の組合せに関する。「細胞が細胞周期の1またはそれ以上の期で停止するまたは蓄積すること」という用語は、細胞周期の前記1またはそれ以上の期にある細胞のパーセンテージが増大することを意味する。各々の細胞は、自らを複製するために4つの期を含む周期を通過する。G1と呼ばれる最初の期は、細胞がその染色体を複製する準備をする段階である。2番目の段階はSと呼ばれ、この期にDNA合成が起こり、DNAが複製される。次の期はG2期であり、ここでRNAおよびタンパク質が複製する。最終段階はM期であり、これが実際の細胞分裂の段階である。この最終段階では、複製したDNAおよびRNAが分離し、細胞の別々の末端へと移動して、細胞が実際に2個の同一の機能性細胞に分裂する。DNA損傷剤である化学療法剤は、通常G1および/またはG2期の細胞の蓄積を生じさせる。代謝拮抗物質などのDNA合成を妨げることによって細胞増殖をブロックする化学療法剤は、通常S期の細胞の蓄積を生じさせる。これらの薬剤の例は、ゲムシタビン、6-メルカプトプリンおよび5-フルオロウラシルである。
【0060】
本発明によれば、「CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質」という用語は、ヌクレオシド類似体、例えばゲムシタビン、5-フルオロウラシルまたはそのプロドラッグ、白金化合物、例えばオキサリプラチンおよびシスプラチン、タキサン類、例えばパクリタキセルおよびドセタキセル、ならびにカンプトテシン類似体、例えばイリノテカンおよびトポテカン、ならびに薬剤の組合せ、例えばゲムシタビン、オキサリプラチンおよび5-フルオロウラシルの1またはそれ以上を含む薬剤の組合せ、例えばゲムシタビンとオキサリプラチン、ゲムシタビンと5-フルオロウラシル、オキサリプラチンと5-フルオロウラシルを含む薬剤の組合せ、または本明細書で述べる他の薬剤の組合せを包含する。本発明によれば、CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質への言及、例えばヌクレオシド類似体、白金化合物、カンプトテシン類似体またはタキサンへの言及、例えばゲムシタビン、5-フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカンまたはパクリタキセルへの言及は、前記作用物質のエステル、塩などの任意のプロドラッグまたは前記作用物質のコンジュゲートなどの誘導体を包含するものとする。例は、前記作用物質と担体物質のコンジュゲート、例えばアルブミン結合パクリタキセルなどのタンパク質結合パクリタキセルである。好ましくは、前記作用物質の塩は医薬的に許容される。
【0061】
1つの好ましい実施形態では、「CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質」は、「免疫原性細胞死を誘導する作用物質」であるかまたはこれを含有する。
【0062】
特定の状況では、癌細胞は、腫瘍特異的免疫応答を活性化するために免疫系によって解読される時空的に規定されたシグナルの組合せの放出に結び付く致死的ストレス経路に入り得る(Zitvogel L.et al.(2010)Cell 140:798-804)。そのような状況では、癌細胞は、樹状細胞などの先天性免疫エフェクターによって感知されて、腫瘍細胞死が有効な抗癌免疫応答を誘発し得るようにCD8+T細胞およびIFN-γシグナル伝達を含むコグネイト免疫応答を引き起こすシグナルの放出を始動させる。これらのシグナルには、細胞表面における小胞体(ER)シャペロンであるカルレティキュリン(CRT)のアポトーシス前露出、ATPのアポトーシス前分泌、および核タンパク質HMGB1のアポトーシス後放出が含まれる。合わせて考慮すると、これらの工程は免疫原性細胞死(ICD)の分子決定基を構成する。アントラサイクリン、オキサリプラチンおよびγ線照射はICDを規定するすべてのシグナルを誘導することができるが、例えばシスプラチンは、ERストレスを必要とする工程である、ERから死細胞の表面へのCRT転位を誘導する能力を欠き、ERストレス誘導物質であるタプシガルギンによる補完を必要とする。
【0063】
本発明によれば、「免疫原性細胞死を誘導する作用物質」という用語は、細胞、特に癌細胞に提供された場合、細胞が、最終的に腫瘍特異的免疫応答を生じさせる致死的ストレス経路に入るのを誘導することができる作用物質または作用物質の組合せを指す。特に、細胞に提供された場合免疫原性細胞死を誘導する作用物質は、細胞が、特に細胞表面における小胞体(ER)シャペロンであるカルレティキュリン(CRT)のアポトーシス前暴露、ATPのアポトーシス前分泌、および核タンパク質HMGB1のアポトーシス後放出を含む、時空的に規定されたシグナルの組合せを放出することを誘導する。
【0064】
本発明によれば、「免疫原性細胞死を誘導する作用物質」という用語は、アントラサイクリンおよびオキサリプラチンを包含する。
【0065】
「ヌクレオシド類似体」という用語は、プリン類似体およびピリミジン類似体の両方を包含するカテゴリーである、ヌクレオシドの構造類似体を指す。
【0066】
「ゲムシタビン」という用語は、以下の式:
【化1】
のヌクレオシド類似体である化合物である。
【0067】
特に、この用語は、化合物4-アミノ-1-(2-デオキシ-2,2-ジフルオロ-β-D-エリスロ-ペントフラノシル)ピリミジン-2(1H)-オンまたは4-アミノ-1-[(2R,4R,5R)-3,3-ジフルオロ-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]-1,2-ジヒドロピリミジン-2-オンを指す。
【0068】
本発明によれば、ゲムシタビンは、好ましくは静脈内経路によって投与される。好ましくは、ゲムシタビンは、0.5~2g/m2、好ましくは0.8~1.5g/m2、より好ましくは1~1.2g/m2体表面積の用量範囲で投与される。例えば、ゲムシタビンは、8週間のうち7週間、週1回1000mg/m2の用量で投与され、次に4週間のうち3週間、週1回投与され得る。
【0069】
「ヌクレオシド類似体」という用語は、フルオロウラシルおよびそのプロドラッグなどのフルオロピリミジン誘導体を包含する。「フルオロウラシル」または「5-フルオロウラシル」(5-FUまたはf5U)(Adrucil、Carac、Efudix、EfudexおよびFluoroplexの商標名で市販されている)という用語は、以下の式:
【化2】
のピリミジン類似体である化合物である。
【0070】
特に、この用語は、化合物5-フルオロ-1H-ピリミジン-2,4-ジオンを指す。
【0071】
「カペシタビン」(Xeloda、Roche)という用語は、組織中で5-FUに変換されるプロドラッグである化学療法剤を指す。経口的に投与し得るカペシタビンは、以下の式:
【化3】
を有する。
【0072】
特に、この用語は、化合物ペンチル[1-(3,4-ジヒドロキシ-5-メチルテトラヒドロフラン-2-イル)-5-フルオロ-2-オキソ-1H-ピリミジン-4-イル]カルバメートを指す。
【0073】
本発明によれば、「白金化合物」という用語は、白金錯体などのその構造中に白金を含有する化合物を指し、シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンなどの化合物を包含する。
【0074】
「シスプラチン」または「シスプラチナム」という用語は、以下の式:
【化4】
の化合物シス-ジアンミンジクロロ白金(II)(CDDP)を指す。
【0075】
「カルボプラチン」という用語は、以下の式:
【化5】
の化合物シス-ジアンミン(1,1-シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)を指す。
【0076】
「オキサリプラチン」という用語は、以下の式:
【化6】
のジアミノシクロヘキサン担体配位子に錯化した白金化合物である化合物を指す。
【0077】
特に、「オキサリプラチン」という用語は、化合物[(1R,2R)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン](エタンジオアト-O,O')白金(II)を指す。注射用のオキサリプラチンも、Eloxatineの商品名で市販されている。
【0078】
タキサン類は、最初にイチイ属の植物などの天然源から誘導されたジテルペン化合物のクラスであるが、一部は人工的に合成されている。タキサンクラスの薬剤の主たる作用機構は微小管機能の破壊であり、それにより細胞分裂の過程を阻害する。タキサン類にはドセタキセル(Taxotere)およびパクリタキセル(Taxol)が含まれる。
【0079】
本発明によれば、「ドセタキセル」という用語は、以下の式:
【化7】
を有する化合物を指す。
【0080】
特に、「ドセタキセル」という用語は、化合物1,7β,10β-トリヒドロキシ-9-オキソ-5β,20-エポキシタキス-11-エン-2α,4,13α-トリチル4-アセテート2-ベンゾエート13-{(2R,3S)-3-[(tert-ブトキシカルボニル)-アミノ]-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノエート}を指す。
【0081】
本発明によれば、「パクリタキセル」という用語は、以下の式:
【化8】
を有する化合物を指す。
【0082】
特に、「パクリタキセル」という用語は、化合物(2α,4α,5β,7β,10β,13α)-4,10-ビス-(アセチルオキシ)-13-{[(2R,3S)-3-(ベンゾイルアミノ)-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロパノイル]オキシ}-1,7-ジヒドロキシ-9-オキソ-5,20-エポキシタキス-11-エン-2-イルベンゾエートを指す。
【0083】
本発明によれば、「カンプトテシン類似体」という用語は、化合物カンプトテシン(CPT;(S)-4-エチル-4-ヒドロキシ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14-(4H,12H)-ジオン)の誘導体を指す。好ましくは、「カンプトテシン類似体」という用語は、以下の構造:
【化9】
を含む化合物を指す。
【0084】
本発明によれば、好ましいカンプトテシン類似体は、DNA酵素トポイソメラーゼI(トポI)の阻害剤である。本発明による好ましいカンプトテシン類似体は、イリノテカンおよびトポテカンである。
【0085】
イリノテカンは、トポイソメラーゼIの阻害によってDNAの巻戻しを防ぐ薬剤である。化学用語では、これは、以下の式:
【化10】
を有する天然アルカロイドカンプトテシンの半合成類似体である。
【0086】
特に、「イリノテカン」という用語は、化合物(S)-4,11-ジエチル-3,4,12,14-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-3,14-ジオキソ1H-ピラノ[3',4':6,7]-インドリジノ[1,2-b]キノリン-9-イル-[1,4'-ビピペリジン]-1'-カルボキシレートを指す。
【0087】
トポテカンは、式:
【化11】
のトポイソメラーゼ阻害剤である。
【0088】
特に、「トポテカン」という用語は、化合物(S)-10-[(ジメチルアミノ)メチル]-4-エチル-4,9-ジヒドロキシ-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14(4H,12H)-ジオン一塩酸塩を指す。
【0089】
アントラサイクリンは、抗生物質でもある、癌化学療法において一般的に使用される薬剤のクラスである。構造的に、すべてのアントラサイクリンは共通の4環性7,8,9,10-テトラヒドロテトラセン-5,12-キノン構造を共有し、通常は特定部位でのグリコシル化を必要とする。
【0090】
アントラサイクリンは、好ましくは以下の作用機構の1またはそれ以上を生じさせる:1.DNA/RNA鎖の塩基対の間にインターカレートすることによってDNAおよびRNA合成を阻害し、したがって急速に増殖する癌細胞の複製を妨げる。2.トポイソメラーゼII酵素を阻害し、超コイルDNAの弛緩を妨げ、したがってDNAの転写および複製をブロックする。3.DNAおよび細胞膜を損傷する鉄媒介性遊離酸素ラジカルを生成する。
【0091】
本発明によれば、「アントラサイクリン」という用語は、好ましくはトポイソメラーゼIIのDNAの再結合を阻害することによって、好ましくはアポトーシスを誘導するための作用物質、好ましくは抗癌剤に関する。
【0092】
好ましくは、本発明によれば、「アントラサイクリン」という用語は、一般に、以下の環構造:
【化12】
を有し、その類似体および誘導体、医薬的塩、水和物、エステル、コンジュゲートならびにプロドラッグを含む化合物のクラスを指す。
【0093】
アントラサイクリンおよびアントラサイクリン類似体の例には、ダウノルビシン(ダウノマイシン)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、イダルビシン、ロドマイシン、ピラルビシン、バルルビシン、N-トリフルオロ-アセチルドキソルビシン-14-バレレート、アクラシノマイシン、モルホリノドキソルビシン(モルホリノ-DOX)、シアノモルホリノ-ドキソルビシン(シアノモルホリノ-DOX)、2-ピロリノ-ドキソルビシン(2-PDOX)、5-イミノダウノマイシン、ミトキサントロンおよびアクラシノマイシンA(アクラルビシン)が含まれるが、これらに限定されない。ミトキサントロンはアントラセンジオンクラスの化合物の成員であり、前記クラスの化合物は、アントラサイクリンの糖部分を欠くが、DNAへのインターカレーションを許容する平面多環式芳香族環構造を保持するアントラサイクリン類似体である。
【0094】
本発明によるアントラサイクリンとして特に好ましいのは、以下の式:
【化13】
[式中、
R
1は、HおよびOHから成る群より選択され、R
2は、HおよびOMeから成る群より選択され、R
3は、HおよびOHから成る群より選択され、ならびにR
4は、HおよびOHから成る群より選択される]
の化合物である。
【0095】
1つの実施形態では、R1はHであり、R2はOMeであり、R3はHであり、およびR4はOHである。別の実施形態では、R1はOHであり、R2はOMeであり、R3はHであり、およびR4はOHである。別の実施形態では、R1はOHであり、R2はOMeであり、R3はOHであり、およびR4はHである。別の実施形態では、R1はHであり、R2はHであり、R3はHであり、およびR4はOHである。
【0096】
本発明に関連してアントラサイクリンとして特に企図されるのはエピルビシンである。エピルビシンは、以下の式:
【化14】
を有するアントラサイクリン薬剤であり、米国ではEllenceの商品名で、および他のところではPharmorubicinまたはEpirubicin Ebeweの商品名で市販されている。特に、「エピルビシン」という用語は、化合物(8R,10S)-10-[(2S,4S,5R,6S)-4-アミノ-5-ヒドロキシ-6-メチル-オキサン-2-イル]オキシ-6,11-ジヒドロキシ-8-(2-ヒドロキシアセチル)-1-メトキシ-8-メチル-9,10-ジヒドロ-7H-テトラセン-5,12-ジオンを指す。エピルビシンは、副作用を引き起こすことがより少ないと考えられるので、一部の化学療法レジメンでは、最も一般的なアントラサイクリンであるドキソルビシンよりも好ましい。
【0097】
本発明によれば、CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質は、化学療法剤、特に癌治療において確立された化学療法剤であってよく、薬剤の組合せ、例えば癌治療における使用に関して確立された薬剤の組合せの一部であってよい。そのような薬剤の組合せは、化学療法において使用される薬剤の組合せであってよく、FOLFIRINOX化学療法レジメンにおいて使用される薬剤の組合せであってよい。
【0098】
FOLFIRINOX化学療法において使用される薬剤の組合せは、ロイコボリン、フルオロウラシル、イリノテカン(イリノテカン塩酸塩など)およびオキサリプラチンを含む。オキサリプラチンは、85mg/m2体表面積で投与され得;イリノテカンは180mg/m2;ロイコボリンは400mg/m2で;およびフルオロウラシルはボーラスとして400mg/m2で投与され、次いで5-フルオロウラシルが好ましくは46時間の持続注入として、好ましくは2週間ごとに2400mg/m2で投与され得る。
【0099】
「フォリン酸」または「ロイコボリン」という用語は、化学療法剤5-フルオロウラシルとの相乗作用的組合せにおいて有用な化合物を指す。したがって、本明細書で5-フルオロウラシルまたはそのプロドラッグの投与に言及する場合、1つの実施形態では前記投与はフォリン酸と併用した投与を含み得る。フォリン酸は、以下の式:
【化15】
を有する。
【0100】
特に、この用語は、化合物(2S)-2-{[4-[(2-アミノ-5-ホルミル-4-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロ-1H-プテリジン-6-イル)メチルアミノ]ベンゾイル]アミノ}ペンタン二酸を指す。
【0101】
γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面に独特のT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さなサブセットである。T細胞の大部分は、α-TCR鎖およびβ-TCR鎖と呼ばれる2本の糖タンパク鎖から成るTCRを有する。これに対し、γδT細胞では、TCRは1本のγ鎖と1本のδ鎖で構成される。この群のT細胞は、通常、αβT細胞よりもはるかにまれである。ヒトγδT細胞は、感染症および自己免疫のようなストレス監視応答において重要な役割を果たす。腫瘍における形質転換誘導性変化も、γδT細胞によって媒介されるストレス監視応答を生じさせ、抗腫瘍免疫を増強することが示唆されている。重要な点として、抗原係合後、病変部位の活性化されたγδT細胞は、サイトカイン(例えばINFγ、TNFα)および/または他のエフェクター細胞の動員を媒介するケモカインを提供し、細胞傷害(細胞死受容体および細胞溶解性顆粒経路を介して)およびADCCなどの即時エフェクター機能を示す。
【0102】
末梢血中のγδT細胞の大部分はVγ9Vδ2T細胞受容体(TCRγδ)を発現する。Vγ9Vδ2T細胞はヒトおよび霊長動物に特有であり、これらは多くの急性感染において劇的に増大し、例えば結核症、サルモネラ症、エールリヒア症、ブルセラ症、野兎病、リステリア症、トキソプラスマ症およびマラリアでは、数日以内に他のすべてのリンパ球を上回り得るので、侵入病原体による「危険」を感知する際に早期で必須の役割を果たすと推測される。
【0103】
γδT細胞は、小さな非ペプチドリン酸化抗原(ホスホ抗原)、例えば細菌において合成されるピロリン酸塩およびメバロン酸経路を介して哺乳動物細胞において産生されるイソペンテニルピロリン酸塩(IPP)に応答する。正常細胞中のIPP産生はγδT細胞の活性化には十分でないが、腫瘍細胞におけるメバロン酸経路の調節不全はIPPの蓄積およびγδT細胞の活性化をもたらす。IPPはまた、メバロン酸経路の酵素であるファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)を阻害する、アミノビスホスホネートによって治療的に増大させることもできる。数ある中でも、ゾレドロン酸(ZA、ゾレドロネート、Zometa(商標)、Novartis)はそのようなアミノビスホスホネートの代表であり、既に骨粗しょう症および転移性骨疾患の治療のために臨床的に患者に投与されている。インビトロでのPBMCの処置後、ZAは特に単球によって取り込まれる。IPPは単球中に蓄積し、γδT細胞の発現を刺激する抗原提示細胞へと分化する。この状況では、活性化γδT細胞のための増殖および生存因子としてインターロイキン2(IL-2)の添加が好ましい。最後に、特定のアルキル化アミンはインビトロでVγ9Vδ2T細胞を活性化すると記述されているが、わずかにミリモル濃度である。
【0104】
本発明によれば、「γδT細胞を刺激する作用物質」という用語は、インビトロおよび/またはインビボで、特にγδT細胞の活性化と増殖を誘導することによって、γδT細胞、特にVγ9Vδ2T細胞の発現を刺激する化合物に関する。好ましくは、この用語は、哺乳動物細胞において産生されるイソペンテニルピロリン酸塩(IPP)を、好ましくはメバロン酸経路の酵素、ファルネシルピロリン酸シンターゼ(FPPS)を阻害することによって、インビトロおよび/またはインビボで増大させる化合物に関する。
【0105】
γδT細胞を刺激する1つの特定の群の化合物は、ビスホスホネート、特に窒素含有ビスホスホネート(N-ビスホスホネート;アミノビスホスホネート)である。
【0106】
例えば、本発明における使用のための適切なビスホスホネートは、その類似体および誘導体、医薬的塩、水和物、エステル、コンジュゲートならびにプロドラッグを含む、以下の化合物の1またはそれ以上を包含し得る:
[1-ヒドロキシ-2-(1H-イミダゾール-1-イル)エタン-1,1-ジイル]ビス(ホスホン酸)、ゾレドロン酸、例えばゾレドロネート;
(ジクロロ-ホスホノ-メチル)ホスホン酸、例えばクロドロネート;
{1-ヒドロキシ-3-[メチル(ペンチル)アミノ]プロパン-1,1-ジイル}ビス(ホスホン酸)、イバンドロン酸、例えばイバンドロネート;
(3-アミノ-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジイル)ビス(ホスホン酸)、パミドロン酸、例えばパミドロネート;
(1-ヒドロキシ-1-ホスホノ-2-ピリジン-3-イル-エチル)ホスホン酸、リセドロン酸、例えばリセドロネート;
(1-ヒドロキシ-2-イミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イル-1-ホスホノエチル)ホスホン酸、ミノドロン酸;
[3-(ジメチルアミノ)-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジイル]ビス(ホスホン酸)、オルパドロン酸;
[4-アミノ-1-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシ-オキシド-ホスホリル)-ブチル]ホスホン酸、アレンドロン酸、例えばアレンドロネート;
[(シクロヘプチルアミノ)メチレン]ビス(ホスホン酸)、インカドロン酸;
(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジイル)ビス(ホスホン酸)、エチドロン酸、例えばエチドロネート;および
{[(4-クロロフェニル)チオ]メチレン}ビス(ホスホン酸)、チルドロン酸。
【0107】
本発明によれば、ゾレドロン酸(INN)またはゾレドロネート(Zometa、Zomera、AclastaおよびReclastの商品名でNovartisによって市販されている)は特に好ましいビスホスホネートである。Zometaは、多発性骨髄腫および前立腺癌などの癌を有する患者において骨折を予防するため、ならびに骨粗しょう症を治療するために使用される。また、悪性の高カルシウム血症を治療するためにも使用でき、骨転移からの疼痛を治療するのにも役立ち得る。
【0108】
1つの特に好ましい実施形態では、本発明によるγδT細胞を刺激する作用物質はIL-2と併用して投与される。そのような組合せは、γ9δ2T細胞の増殖および活性化を媒介するのに特に有効であることが示されている。
【0109】
インターロイキン2(IL-2)は、免疫系におけるサイトカインシグナル伝達分子の一種であるインターロイキンである。リンパ球を誘引するタンパク質であり、微生物感染に対する、および異物(非自己)と自己を識別するうえでの身体の天然応答の一部である。IL-2は、リンパ球によって発現されるIL-2受容体に結合することによってその作用を媒介する。
【0110】
本発明に従って使用されるIL-2は、γδT細胞の刺激を支持するまたは可能にする任意のIL-2であってよく、任意の種、好ましくはヒトに由来し得る。Il-2は、単離され得るか、組換え生産され得るかまたは合成IL-2であってよく、天然に存在するIL-2または修飾IL-2であってよい。
【0111】
「抗原」という用語は、免疫応答が向けられるおよび/または向けられるべきであるエピトープを含有するタンパク質またはペプチドなどの作用物質に関する。好ましい実施形態では、抗原は、CLDN18.2などの腫瘍関連抗原、すなわち細胞質、細胞表面および細胞核に由来し得る癌細胞の成分、特に細胞内でまたは癌細胞上の表面抗原として、好ましくは大量に、産生される抗原である。
【0112】
本発明に関連して、「腫瘍関連抗原」という用語は、好ましくは、正常条件下では限られた数の組織および/もしくは器官においてまたは特定の発生段階で特異的に発現され、1またはそれ以上の腫瘍または癌組織中で発現されるまたは異常発現されるタンパク質に関する。本発明に関連して、腫瘍関連抗原は、好ましくは癌細胞の細胞表面に関連し、好ましくは正常組織中では全く発現されないかまたはまれにしか発現されない。
【0113】
「エピトープ」という用語は、分子中の抗原決定基、すなわち免疫系によって認識される、例えば抗体によって認識される分子中の部分を指す。例えば、エピトープは、免疫系によって認識される、抗原上の別々の三次元部位である。エピトープは、通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基群から成り、通常は特定の三次元構造特性ならびに特定の電荷特性を有する。立体配座エピトープと非立体配座エピトープは、変性溶媒の存在下では前者への結合は失われるが後者への結合は失われないことによって区別される。CLDN18.2などのタンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続部分または不連続部分を含み、好ましくは5~100、好ましくは5~50、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~25アミノ酸長であり、例えばエピトープは、好ましくは8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25アミノ酸長であり得る。
【0114】
「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を指し、その抗原結合部分を含む任意の分子を包含する。「抗体」という用語は、限定されることなく、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、例えばscFv、ならびにFabおよびFab'フラグメントなどの抗原結合抗体フラグメントを含む、モノクローナル抗体および抗体のフラグメントまたは誘導体を包含し、またすべての組換え形態の抗体、例えば原核生物において発現される抗体、非グリコシル化抗体、ならびに本明細書で述べる任意の抗原結合抗体フラグメントおよび誘導体も包含する。各々の重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域を含む。各々の軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)と軽鎖定常領域を含む。VHおよびVL領域は、より保存された、フレームワーク領域(FR)と称される領域が間に組み入れられた、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分することができる。各々のVHとVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された、3つのCDRと4つのFRから成る:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第一成分(Clq)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0115】
本明細書で述べる抗体はヒト抗体であり得る。「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を包含することが意図されている。本明細書で述べるヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えばインビトロでランダムまたは部位特異的突然変異誘発によってまたはインビボで体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含み得る。
【0116】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種からの免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合部位を有する分子を指し、ここで分子の残りの免疫グロブリン構造は、ヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づく。抗原結合部位は、定常ドメインに融合した完全な可変ドメインを含み得るか、または可変ドメイン内の適切なフレームワーク領域に移植された相補性決定領域(CDR)だけを含み得る。抗原結合部位は、野生型であり得るかまたは1もしくはそれ以上のアミノ酸置換によって修飾されていてもよい、例えばヒト免疫グロブリンにより密接に類似するように修飾されていてもよい。ヒト化抗体の一部の形態は、すべてのCDR配列を保存する(例えばマウス抗体からの6つのCDR全部を含むヒト化マウス抗体)。他の形態は、もとの抗体に比べて変化した1またはそれ以上のCDRを有する。
【0117】
「キメラ抗体」という用語は、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列の各々の一部分が、特定の種に由来するまたは特定のクラスに属する抗体中の対応する配列に相同であり、鎖の残りのセグメントは別の抗体中の対応する配列に相同である抗体を指す。典型的には、軽鎖と重鎖の両方の可変領域が哺乳動物の1つの種に由来する抗体の可変領域を模倣し、定常部分は別の種に由来する抗体の配列に相同である。そのようなキメラ形態の1つの明らかな利点は、可変領域を、例えばヒト細胞調製物に由来する定常領域と組み合わせて、容易に入手可能な非ヒト宿主生物からのB細胞またはハイブリドーマを用いて現在公知の供給源から好都合に誘導できることである。可変領域は調製の容易さという利点を有し、その特異性は供給源に影響されないが、ヒトである定常領域は、抗体を注射した場合、非ヒト供給源からの定常領域よりもヒト被験体からの免疫応答を惹起する可能性が低い。しかし、その定義はこの特定の例に限定されない。
【0118】
抗体の「抗原結合部分」(もしくは単に「結合部分」)または抗体の「抗原結合フラグメント」(もしくは単に「結合フラグメント」)という用語または同様の用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1またはそれ以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は完全長抗体のフラグメントによって実行され得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合フラグメントの例には、(i)VL、VH、CLおよびCHドメインから成る一価フラグメントである、Fabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントである、F(ab')2フラグメント;(iii)VHおよびCHドメインから成るFdフラグメント;(iv)抗体の1本の腕のVLおよびVHドメインから成るFvフラグメント;(v)VHドメインから成る、dAbフラグメント(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、ならびに(vii)場合により合成リンカーによって連結されていてもよい2またはそれ以上の単離されたCDRの組合せ、が含まれる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされるが、それらを、VL領域とVH領域が対合して一価分子を形成する一本鎖タンパク質(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBird et al.(1988)Science 242:423-426;およびHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883参照)として作製することを可能にする合成リンカーによって、組換え法を用いてそれらを連結することができる。そのような一本鎖抗体も、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に包含されることが意図されている。さらなる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合した結合ドメインポリペプチド、(ii)ヒンジ領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、および(iii)CH2定常領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域、を含む結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域または軽鎖可変領域であり得る。結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、さらに、米国特許出願第2003/0118592号および同第2003/0133939号に開示されている。これらの抗体フラグメントは当業者に公知の従来技術を用いて得られ、フラグメントは、無傷抗体と同じ方法で有用性に関してスクリーニングされる。
【0119】
「二重特異性分子」という用語は、2つの異なる結合特異性を有する任意の作用物質、例えばタンパク質、ペプチド、またはタンパク質複合体もしくはペプチド複合体を包含することが意図されている。例えば、前記分子は、(a)細胞表面抗原および(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体、に結合し得るまたはこれらと相互作用し得る。「多重特異性分子」または「ヘテロ特異性分子」という用語は、3つ以上の異なる結合特異性を有する任意の作用物質、例えばタンパク質、ペプチド、またはタンパク質複合体もしくはペプチド複合体を包含することが意図されている。例えば、前記分子は、(a)細胞表面抗原、(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体および(c)少なくとも1つの他の成分、に結合し得るまたはこれらと相互作用し得る。したがって、本発明は、CLDN18.2および他の標的、例えばエフェクター細胞上のFc受容体に対する二重特異性、三重特異性、四重特異性および他の多重特異性分子を包含するが、これらに限定されない。「二重特異性抗体」という用語はダイアボディも包含する。ダイアボディは、VHおよびVLドメインが1本のポリペプチド鎖上で発現されるが、同じ鎖上の2つのドメイン間での対合を許容するには短すぎるリンカーを使用し、それによりそれらのドメインを別の鎖の相補的ドメインと対合させて、2つの抗原結合部位を創製する、二価の二重特異性抗体である(例えばHolliger,P.,et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljak,R.J.,et al.(1994)Structure 2:1121-1123参照)。
【0120】
抗体は、細胞毒、薬剤(例えば免疫抑制剤)または放射性同位体などの治療成分または作用物質に結合し得る。細胞毒または細胞傷害性薬剤は、細胞に有害であり、特に細胞を死滅させる任意の作用物質を包含する。例には、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、糖質コルチコイド類、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロールおよびピューロマイシンならびにそれらの類似体またはホモログが含まれる。抗体コンジュゲートを形成するための適切な治療薬には、代謝拮抗物質(例えばメトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン)、アルキル化剤(例えばメクロレタミン、チオテパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンCおよびシス-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)(シスプラチン)、アントラサイクリン(例えばダウノルビシン(以前のダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えばダクチノマイシン(以前のアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシンおよびアントラマイシン(AMC))、ならびに抗有糸分裂薬(例えばビンクリスチンおよびビンブラスチン)が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、治療薬は細胞傷害性物質または放射性毒性物質である。別の実施形態では、治療薬は免疫抑制剤である。さらに別の実施形態では、治療薬はGM-CSFである。好ましい実施形態では、治療薬は、ドキソルビシン、シスプラチン、硫酸ブレオマイシン、カルムスチン、クロラムブシル、シクロホスファミドまたはリシンAである。
【0121】
抗体はまた、放射性同位体、例えばヨウ素131、イットリウム90またはインジウム111に結合して、細胞傷害性放射性医薬品を生成することもできる。
【0122】
本発明の抗体コンジュゲートは、所与の生物学的応答を調節するために使用することができ、薬剤成分は古典的化学療法剤に限定されると解釈されるべきではない。例えば薬剤成分は、所望の生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドであり得る。そのようなタンパク質には、例えば酵素活性毒素もしくはその活性フラグメント、例えばアブリン、リシンA、シュードモナス外毒素もしくはジフテリア毒素;腫瘍壊死因子もしくはインターフェロンγなどのタンパク質;または生物学的応答調節剤、例えばリンホカイン、インターロイキン1(「IL-1」)、インターロイキン2(「IL-2」)、インターロイキン6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)もしくは他の増殖因子などが含まれ得る。
【0123】
そのような治療成分を抗体に結合するための技術は周知であり、例えばArnon et al.,"Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy",in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeld et al.(eds.),pp.243-56(Alan R.Liss,Inc.1985);Hellstrom et al.,"Antibodies For Drug Delivery",in Controlled Drug Delivery(2nd Ed.),Robinson et al.(eds.),pp.623-53(Marcel Dekker,Inc.1987);Thorpe,"Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review",in Monoclonal Antibodies '84:Biological And Clinical Applications,Pinchera et al.(eds.),pp.475-506(1985);"Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy",in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy,Baldwin et al.(eds.),pp.303-16(Academic Press 1985)、およびThorpe et al.,"The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates",Immunol.Rev.,62:119-58(1982)参照。
【0124】
本明細書で使用される場合、抗体は、その抗体が動物を免疫することによってまたは免疫グロブリン遺伝子ライブラリをスクリーニングすることによって得られる場合、特定の生殖細胞系配列に「由来」し、前記スクリーニングにおいて選択される抗体は、生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列とアミノ酸配列において少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに一層好ましくは少なくとも96%、97%、98%または99%同一である。典型的には、特定の生殖細胞系配列に由来する抗体は、生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列と10個以下のアミノ酸相違、より好ましくは5、またはさらに一層好ましくは4、3、2または1個以下のアミノ酸相違を示す。
【0125】
本明細書で使用される場合、「ヘテロ抗体」という用語は、そのうちの少なくとも2つが異なる特異性を有する、共に連結された2またはそれ以上の抗体、その誘導体または抗原結合領域を指す。これらの異なる特異性には、エフェクター細胞上のFc受容体に対する結合特異性、および標的細胞、例えば腫瘍細胞上の抗原またはエピトープに対する結合特異性が含まれる。
【0126】
本明細書で述べる抗体はモノクローナル抗体であり得る。本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は単一結合特異性および親和性を示す。1つの実施形態では、モノクローナル抗体は、不死化細胞に融合した、非ヒト動物、例えばマウスから得られるB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
【0127】
本明細書で述べる抗体は組換え抗体であり得る。「組換え抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、組換え手段によって作製される、発現される、創製されるまたは単離されるすべての抗体、例えば(a)免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックもしくはトランスクロモソーマルである動物(例えばマウス)またはそれから作製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマから単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリから単離された抗体、および(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって作製された、発現された、創製されたまたは単離された抗体、を包含する。
【0128】
本明細書で述べる抗体は、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを含むがこれらに限定されない、様々な種に由来し得る。
【0129】
本明細書で述べる抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を包含し、IgA1またはIgA2などのIgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgMおよびIgD抗体を含む。様々な実施形態において、抗体は、IgG1抗体、より特定するとIgG1、カッパまたはIgG1、ラムダアイソタイプ(すなわちIgG1、κ、λ)、IgG2a抗体(例えばIgG2a、κ、λ)、IgG2b抗体(例えばIgG2b、κ、λ)、IgG3抗体(例えばIgG3、κ、λ)またはIgG4抗体(例えばIgG4、κ、λ)である。
【0130】
「トランスフェクトーマ」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体を発現する組換え真核生物宿主細胞、例えばCHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、植物細胞、または酵母細胞を含む真菌細胞を包含する。
【0131】
本明細書で使用される場合、「異種抗体」は、そのような抗体を産生するトランスジェニック生物に関して定義される。この用語は、トランスジェニック生物から構成されず、および一般にトランスジェニック生物以外の種に由来する生物において認められるものに対応するアミノ酸配列またはコード核酸配列を有する抗体を指す。
【0132】
本明細書で使用される場合、「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖と重鎖を有する抗体を指す。例えば、マウス軽鎖と結合したヒト重鎖を有する抗体はヘテロハイブリッド抗体である。
【0133】
本発明は、本発明の目的上「抗体」という用語に包含される、本明細書で述べるすべての抗体および抗体の誘導体を包含する。「抗体誘導体」という用語は、抗体の任意の修飾形態、例えば抗体と別の作用物質もしくは抗体とのコンジュゲート、または抗体フラグメントを指す。
【0134】
本明細書で述べる抗体は、好ましくは単離されている。本明細書で使用される「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことが意図されている(例えば、CLDN18.2に特異的に結合する単離された抗体は、CLDN18.2以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。ヒトCLDN18.2のエピトープ、アイソフォームまたは変異体に特異的に結合する単離された抗体は、しかし、他の関連抗原、例えば他の種からの関連抗原(例えばCLDN18.2種ホモログ)に対する交差反応性を有し得る。さらに、単離された抗体は、実質的に他の細胞物質および/または化学物質不含であり得る。本発明の1つの実施形態では、「単離された」モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、十分に定義された組成物または混合物中で組み合わされている抗体に関する。
【0135】
本発明による「結合」という用語は、好ましくは特異的結合に関する。
【0136】
本発明によれば、抗体が標準的なアッセイにおいて所定の標的に有意の親和性を有し、および前記所定の標的に結合する場合、前記抗体は前記所定の標的に結合することができる。「親和性」または「結合親和性」は、しばしば平衡解離定数(KD)によって測定される。好ましくは、「有意の親和性」という用語は、10-5Mもしくはそれ以下、10-6Mもしくはそれ以下、10-7Mもしくはそれ以下、10-8Mもしくはそれ以下、10-9Mもしくはそれ以下、10-10Mもしくはそれ以下、10-11Mもしくはそれ以下、または10-12Mもしくはそれ以下の解離定数(KD)で所定の標的に結合することを指す。
【0137】
抗体が標準的なアッセイにおいて標的に有意の親和性を有さず、および前記標的に有意に結合しない、特に検出可能に結合しない場合、前記抗体は前記標的に(実質的に)結合することができない。好ましくは、抗体が、最大2μg/mlまで、好ましくは10μg/mlまで、より好ましくは20μg/mlまで、特に50μg/mlまたは100μg/ml以上までの濃度で存在する場合、前記抗体は前記標的に検出可能に結合していない。好ましくは、抗体が、その抗体が結合することができる所定の標的への結合に関するKDよりも少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍または106倍高いKDで前記標的に結合する場合、前記抗体は前記標的に有意の親和性を有さない。例えば、抗体が結合することができる標的への結合に関するKDが10-7Mである場合、前記抗体が有意の親和性を有さない標的への結合に関するKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2Mまたは10-1Mである。
【0138】
抗体が、所定の標的に結合することができるが、他の標的には結合することができない、すなわち標準的なアッセイにおいて他の標的には有意の親和性を有さず、および他の標的に有意に結合しない場合、前記抗体は前記所定の標的に特異的である。本発明によれば、抗体が、CLDN18.2に結合することができるが、他の標的には(実質的に)結合することができない場合、前記抗体はCLDN18.2に特異的である。好ましくは、そのような他の標的に対する親和性および結合が、CLDN18.2に無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ヒト血清アルブミン(HSA)、または非クローディン膜貫通タンパク質、例えばMHC分子もしくはトランスフェリン受容体、または何らかの他の特定のポリペプチドに対する親和性または結合を有意に上回らない場合、前記抗体はCLDN18.2に特異的である。好ましくは、抗体が、その抗体が特異的でない標的への結合に関するKDよりも少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍または106倍低いKDで所定の標的に結合する場合、前記抗体は前記所定の標的に特異的である。例えば、抗体が特異的である標的への結合に関するKDが10-7Mである場合、前記抗体が特異的でない標的への結合に関するKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2Mまたは10-1Mである。
【0139】
標的への抗体の結合は、任意の適切な方法:例えばBerzofsky et al.,"Antibody-Antigen Interactions"In Fundamental Immunology,Paul,W.E.,Ed.,Raven Press New York,NY(1984)、Kuby,Janis Immunology,W.H.Freeman and Company New York,NY(1992)参照、および本明細書で述べる方法を用いて実験的に決定することができる。親和性は、従来の技術を用いて、例えば平衡透析によって;製造者によって概説される一般的手順を用いて、BIAcore 2000装置を使用することによって;放射性標識標的抗原を用いた放射性免疫検定法によって;または当業者に公知の別の方法によって、容易に決定し得る。親和性データは、例えばScatchard et al.,Ann N.Y.Acad.ScL,51:660(1949)の方法によって解析し得る。特定の抗体抗原相互作用の測定される親和性は、異なる条件下で、例えば異なる塩濃度、pHの下で測定された場合、異なり得る。したがって、親和性および他の抗原結合パラメータ、例えばKD、IC50の測定は、好ましくは抗体および抗原の標準溶液および標準緩衝液を使用して行われる。
【0140】
本明細書で使用される場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えばIgMまたはIgG1)を指す。
【0141】
本明細書で使用される場合、「アイソタイプスイッチ」は、抗体のクラスまたはアイソタイプがある1つのIgクラスからその他のIgクラスの1つに変化する現象を指す。
【0142】
物体に適用される場合の本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、物体を自然界で見出すことができるという事実を指す。例えば、自然界の供給源から単離することができる生物(ウイルスを含む)中に存在し、実験室においてヒトによって意図的に改変されていないポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0143】
本明細書で使用される「再編成された」という用語は、基本的にそれぞれ完全なVHまたはVLドメインをコードする立体配座においてVセグメントがD-JまたはJセグメントに直接隣接して位置する、重鎖または軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の立体配置を指す。再編成された免疫グロブリン(抗体)遺伝子座は、生殖細胞系DNAとの比較によって同定することができ、再編成された遺伝子座は、少なくとも1つの組み換えられた7量体/9量体相同性エレメントを有する。
【0144】
Vセグメントに関して本明細書で使用される「再編成されていない」または「生殖細胞系立体配置」という用語は、Vセグメントが、DまたはJセグメントに直接隣接するように組み換えられていない立体配置を指す。
【0145】
本発明によれば、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、CLDN18.2中に存在するエピトープ、好ましくはCLDN18.2の細胞外ドメイン内、特に第一細胞外ドメイン内、好ましくはCLDN18.2のアミノ酸位置29~78内に位置するエピトープに結合することができる抗体である。特定の実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、(i)CLDN18.1上には存在しないCLDN18.2上のエピトープ、好ましくは配列番号:3、4および5、(ii)CLDN18.2-ループ1上に局在するエピトープ、好ましくは配列番号:8、(iii)CLDN18.2-ループ2上に局在するエピトープ、好ましくは配列番号:10、(iv)CLDN18.2-ループD3上に局在するエピトープ、好ましくは配列番号:11、(v)CLDN18.2-ループ1およびCLDN18.2-ループD3を包含するエピトープ、または(vi)CLDN18.2-ループD3上に局在する非グリコシル化エピトープ、好ましくは配列番号:9、に結合することができる抗体である。
【0146】
本発明によれば、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有するが、CLDN18.1に結合する能力は有さない抗体である。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体はCLDN18.2に特異的である。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは細胞表面に発現されたCLDN18.2に結合する能力を有する抗体である。特定の好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、生細胞の表面に存在するCLDN18.2の天然エピトープに結合する。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号:1、3~11、44、46および48~50から成る群より選択される1またはそれ以上のペプチドに結合する。好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、前述したタンパク質、ペプチドまたはその免疫原性フラグメントもしくは誘導体に特異的である。CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号:1、3~11、44、46および48~50から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質もしくはペプチド、または前記タンパク質もしくはペプチドを発現する核酸もしくは宿主細胞で動物を免疫する工程を含む方法によって入手し得る。好ましくは、抗体は、癌細胞、特に前述した癌型の細胞に結合し、および好ましくは、非癌性細胞には実質的に結合しない。
【0147】
好ましくは、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体の、CLDN18.2を発現する細胞への結合は、CLDN18.2を発現する細胞の死滅を誘導または媒介する。CLDN18.2を発現する細胞は、好ましくは癌細胞であり、特に腫瘍形成性胃癌、食道癌、膵癌、肺癌、卵巣癌、結腸癌、肝癌、頭頸部癌および胆嚢癌細胞から成る群より選択される。好ましくは、抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介性溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介性溶解、アポトーシスおよびCLDN18.2を発現する細胞の増殖の阻害の1またはそれ以上を誘導することによって細胞の死滅を誘導または媒介する。好ましくは、細胞のADCC媒介性溶解はエフェクター細胞の存在下で起こり、エフェクター細胞は、特定の実施形態では単球、単核細胞、NK細胞およびPMNから成る群より選択される。細胞の増殖の阻害は、ブロモデオキシウリジン(5-ブロモ-2-デオキシウリジン、BrdU)を使用したアッセイにおいて細胞の増殖を定量することによってインビトロで測定できる。BrdUは、チミジンの類似体である合成ヌクレオシドであり、複製中の細胞の新たに合成されたDNAに組み込まれることができ(細胞周期のS期の間に)、DNA複製の間にチミジンと置き換わる。例えばBrdUに特異的な抗体を使用して、組み込まれた化学物質を検出することにより、そのDNAを活発に複製していた細胞が示される。
【0148】
好ましい実施形態では、本明細書で述べる抗体は、以下の特性:
a)CLDN18.2に対する特異性;
b)約100nMまたはそれ以下、好ましくは約5~10nMまたはそれ以下、より好ましくは約1~3nMまたはそれ以下のCLDN18.2に対する結合親和性;
c)CLDN18.2陽性細胞上でCDCを誘導または媒介する能力;
d)CLDN18.2陽性細胞上でADCCを誘導または媒介する能力;
e)CLDN18.2陽性細胞の増殖を阻害する能力;
f)CLDN18.2陽性細胞のアポトーシスを誘導する能力
の1つまたはそれ以上を特徴とし得る。
【0149】
特に好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、DSMZ(Mascheroder Weg 1b,31824 Braunschweig,Germany;新住所:Inhoffenstr.7B,31824 Braunschweig,Germany)に寄託された、以下の名称およびアクセッション番号を有するハイブリドーマによって産生される:
a.182-D1106-055、アクセッション番号DSM ACC2737、2005年10月19日寄託
b.182-D1106-056、アクセッション番号DSM ACC2738、2005年10月19日寄託
c.182-D1106-057、アクセッション番号DSM ACC2739、2005年10月19日寄託
d.182-D1106-058、アクセッション番号DSM ACC2740、2005年10月19日寄託
e.182-D1106-059、アクセッション番号DSM ACC2741、2005年10月19日寄託
f.182-D1106-062、アクセッション番号DSM ACC2742、2005年10月19日寄託
g.182-D1106-067、アクセッション番号DSM ACC2743、2005年10月19日寄託
h.182-D758-035、アクセッション番号DSM ACC2745、2005年11月17日寄託
i.182-D758-036、アクセッション番号DSM ACC2746、2005年11月17日寄託
j.182-D758-040、アクセッション番号DSM ACC2747、2005年11月17日寄託
k.182-D1106-061、アクセッション番号DSM ACC2748、2005年11月17日寄託
l.182-D1106-279、アクセッション番号DSM ACC2808、2006年10月26日寄託
m.182-D1106-294、アクセッション番号DSM ACC2809、2006年10月26日寄託
n.182-D1106-362、アクセッション番号DSM ACC2810、2006年10月26日寄託。
【0150】
本発明による好ましい抗体は、上述したハイブリドーマによって産生されるおよび上述したハイブリドーマから得られるもの、すなわち182-D1106-055の場合は37G11、182-D1106-056の場合は37H8、182-D1106-057の場合は38G5、182-D1106-058の場合は38H3、182-D1106-059の場合は39F11、182-D1106-062の場合は43A11、182-D1106-067の場合は61C2、182-D758-035の場合は26B5、182-D758-036の場合は26D12、182-D758-040の場合は28D10、182-D1106-061の場合は42E12、182-D1106-279の場合は125E1、182-D1106-294の場合は163E12、および182-D1106-362の場合は175D10;ならびにそのキメラおよびヒト化形態である。
【0151】
好ましいキメラ抗体およびそれらの配列を以下の表に示す。
【0152】
好ましい実施形態では、抗体、特に本発明によるキメラ形態の抗体は、配列番号:13によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントなどのヒト重鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を有する重鎖定常領域(CH)を含む抗体を包含する。さらなる好ましい実施形態では、抗体、特に本発明によるキメラ形態の抗体は、配列番号:12によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントなどのヒト軽鎖定常領域に由来するアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域(CL)を含む抗体を包含する。特定の好ましい実施形態では、抗体、特に本発明によるキメラ形態の抗体は、配列番号:13によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントなどのヒトCHに由来するアミノ酸配列を有するCHを含み、および配列番号:12によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントなどのヒトCLに由来するアミノ酸配列を有するCLを含む抗体を包含する。
【0153】
1つの実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、マウスκ可変軽鎖、ヒトκ軽鎖定常領域アロタイプKm(3)、マウス重鎖可変領域、ヒトIgG1定常領域、アロタイプG1m(3)を含むキメラマウス/ヒトIgG1モノクローナル抗体である。
【0154】
特定の好ましい実施形態では、キメラ形態の抗体は、配列番号:14、15、16、17、18、19およびそのフラグメントから成る群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖を含み、ならびに/または配列番号:20、21、22、23、24、25、26、27、28およびそのフラグメントから成る群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体を包含する。
【0155】
特定の好ましい実施形態では、キメラ形態の抗体は、以下の可能性(i)~(ix)から選択される重鎖と軽鎖の組合せを含む抗体を包含する:
(i)重鎖は配列番号:14によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:21によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(ii)重鎖は配列番号:15によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:20によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(iii)重鎖は配列番号:16によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:22によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(iv)重鎖は配列番号:18によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:25によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(v)重鎖は配列番号:17によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:24によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(vi)重鎖は配列番号:19によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:23によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(vii)重鎖は配列番号:19によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:26によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(viii)重鎖は配列番号:19によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:27によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、ならびに
(ix)重鎖は配列番号:19によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、および軽鎖は配列番号:28によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む。
【0156】
上記で使用される「フラグメント」または「アミノ酸配列のフラグメント」は、抗体配列の一部、すなわちN末端および/またはC末端で短縮された抗体配列であり、抗体中で前記抗体配列に置き換わった場合、前記抗体のCLDN18.2への結合および好ましくは本明細書で述べる前記抗体の機能、例えばCDC媒介性溶解またはADCC媒介性溶解を保持する配列に関する。好ましくは、アミノ酸配列のフラグメントは、前記アミノ酸配列からのアミノ酸残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%を含む。配列番号:14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27および28から成る群より選択されるアミノ酸配列のフラグメントは、好ましくはN末端の17、18、19、20、21、22または23個のアミノ酸が除去されている前記配列に関する。
【0157】
好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号:29、30、31、32、33、34およびそのフラグメントから成る群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)を含む。
【0158】
好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、配列番号:35、36、37、38、39、40、41、42、43およびそのフラグメントから成る群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0159】
特定の好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の可能性(i)~(ix)から選択される重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の組合せを含む:
(i)VHは配列番号:29によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:36によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(ii)VHは配列番号:30によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:35によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(iii)VHは配列番号:31によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:37によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(iv)VHは配列番号:33によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:40によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(v)VHは配列番号:32によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:39によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(vi)VHは配列番号:34によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:38によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(vii)VHは配列番号:34によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:41によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(viii)VHは配列番号:34によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:42によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む、
(ix)VHは配列番号:34によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含み、およびVLは配列番号:43によって表されるアミノ酸配列またはそのフラグメントを含む。
【0160】
好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(vi)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットを含有するVHを含む:
(i)CDR1:配列番号:14の45~52位、CDR2:配列番号:14の70~77位、CDR3:配列番号:14の116~125位、
(ii)CDR1:配列番号:15の45~52位、CDR2:配列番号:15の70~77位、CDR3:配列番号:15の116~126位、
(iii)CDR1:配列番号:16の45~52位、CDR2:配列番号:16の70~77位、CDR3:配列番号:16の116~124位、
(iv)CDR1:配列番号:17の45~52位、CDR2:配列番号:17の70~77位、CDR3:配列番号:17の116~126位、
(v)CDR1:配列番号:18の44~51位、CDR2:配列番号:18の69~76位、CDR3:配列番号:18の115~125位、および
(vi)CDR1:配列番号:19の45~53位、CDR2:配列番号:19の71~78位、CDR3:配列番号:19の117~128位。
【0161】
好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(ix)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットを含有するVLを含む:
(i)CDR1:配列番号:20の47~58位、CDR2:配列番号:20の76~78位、CDR3:配列番号:20の115~123位、
(ii)CDR1:配列番号:21の49~53位、CDR2:配列番号:21の71~73位、CDR3:配列番号:21の110~118位、
(iii)CDR1:配列番号:22の47~52位、CDR2:配列番号:22の70~72位、CDR3:配列番号:22の109~117位、
(iv)CDR1:配列番号:23の47~58位、CDR2:配列番号:23の76~78位、CDR3:配列番号:23の115~123位、
(v)CDR1:配列番号:24の47~58位、CDR2:配列番号:24の76~78位、CDR3:配列番号:24の115~123位、
(vi)CDR1:配列番号:25の47~58位、CDR2:配列番号:25の76~78位、CDR3:配列番号:25の115~122位、
(vii)CDR1:配列番号:26の47~58位、CDR2:配列番号:26の76~78位、CDR3:配列番号:26の115~123位、
(viii)CDR1:配列番号:27の47~58位、CDR2:配列番号:27の76~78位、CDR3:配列番号:27の115~123位、および
(ix)CDR1:配列番号:28の47~52位、CDR2:配列番号:28の70~72位、CDR3:配列番号:28の109~117位。
【0162】
好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、以下の実施形態(i)~(ix)から選択される相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットをそれぞれ含有するVHとVLの組合せを含む:
(i)VH:CDR1:配列番号:14の45~52位、CDR2:配列番号:14の70~77位、CDR3:配列番号:14の116~125位、VL:CDR1:配列番号:21の49~53位、CDR2:配列番号:21の71~73位、CDR3:配列番号:21の110~118位、
(ii)VH:CDR1:配列番号:15の45~52位、CDR2:配列番号:15の70~77位、CDR3:配列番号:15の116~126位、VL:CDR1:配列番号:20の47~58位、CDR2:配列番号:20の76~78位、CDR3:配列番号:20の115~123位、
(iii)VH:CDR1:配列番号:16の45~52位、CDR2:配列番号:16の70~77位、CDR3:配列番号:16の116~124位、VL:CDR1:配列番号:22の47~52位、CDR2:配列番号:22の70~72位、CDR3:配列番号:22の109~117位、
(iv)VH:CDR1:配列番号:18の44~51位、CDR2:配列番号:18の69~76位、CDR3:配列番号:18の115~125位、VL:CDR1:配列番号:25の47~58位、CDR2:配列番号:25の76~78位、CDR3:配列番号:25の115~122位、
(v)VH:CDR1:配列番号:17の45~52位、CDR2:配列番号:17の70~77位、CDR3:配列番号:17の116~126位、VL:CDR1:配列番号:24の47~58位、CDR2:配列番号:24の76~78位、CDR3:配列番号:24の115~123位、
(vi)VH:CDR1:配列番号:19の45~53位、CDR2:配列番号:19の71~78位、CDR3:配列番号:19の117~128位、VL:CDR1:配列番号:23の47~58位、CDR2:配列番号:23の76~78位、CDR3:配列番号:23の115~123位、
(vii)VH:CDR1:配列番号:19の45~53位、CDR2:配列番号:19の71~78位、CDR3:配列番号:19の117~128位、VL:CDR1:配列番号:26の47~58位、CDR2:配列番号:26の76~78位、CDR3:配列番号:26の115~123位、
(viii)VH:CDR1:配列番号:19の45~53位、CDR2:配列番号:19の71~78位、CDR3:配列番号:19の117~128位、VL:CDR1:配列番号:27の47~58位、CDR2:配列番号:27の76~78位、CDR3:配列番号:27の115~123位、および
(ix)VH:CDR1:配列番号:19の45~53位、CDR2:配列番号:19の71~78位、CDR3:配列番号:19の117~128位、VL:CDR1:配列番号:28の47~52位、CDR2:配列番号:28の70~72位、CDR3:配列番号:28の109~117位。
【0163】
さらなる好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは、CLDN18.2に対するモノクローナル抗体、好ましくは本明細書で述べるCLDN18.2に対するモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1またはそれ以上、好ましくは少なくともCDR3可変領域を含み、ならびに好ましくは、本明細書で述べる重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域(CDR)の1またはそれ以上、好ましくは少なくともCDR3可変領域を含む。1つの実施形態では、前記相補性決定領域(CDR)の1またはそれ以上は、本明細書で述べる相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットから選択される。特に好ましい実施形態では、CLDN18.2に結合する能力を有する抗体は、好ましくは、CLDN18.2に対するモノクローナル抗体、好ましくは本明細書で述べるCLDN18.2に対するモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含み、ならびに好ましくは、本明細書で述べる重鎖可変領域(VH)および/または軽鎖可変領域(VL)の相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む。
【0164】
1つの実施形態では、本明細書で述べる1またはそれ以上のCDR、CDRのセットまたはCDRのセットの組合せを含む抗体は、それらの介在フレームワーク領域と共に前記CDRを含む。好ましくは、その部分は、1番目と4番目のフレームワーク領域のいずれかまたは両方の少なくとも約50%を含み、前記50%は、1番目のフレームワーク領域のC末端の50%および4番目のフレームワーク領域のN末端の50%である。組換えDNA技術によって行われる抗体の構築は、本発明の可変領域を免疫グロブリン重鎖、他の可変ドメイン(例えばダイアボディの作製において)またはタンパク質標識を含むさらなるタンパク質配列に連結するためのリンカーの導入を含む、クローニングまたは他の操作工程を容易にするために導入されるリンカーによってコードされる可変領域のN末端またはC末端側に残基の導入を生じさせ得る。
【0165】
1つの実施形態では、本明細書で述べる1またはそれ以上のCDR、CDRのセットまたはCDRのセットの組合せを含む抗体は、ヒト抗体フレームワーク内に前記CDRを含む。
【0166】
抗体の重鎖に関して特定の鎖または特定の領域もしくは配列を含む抗体への本明細書における言及は、好ましくは前記抗体のすべての重鎖が前記特定の鎖、領域または配列を含む状況に関する。これは抗体の軽鎖にも対応して適用される。
【0167】
「核酸」という用語は、本明細書で使用される場合、DNAおよびRNAを包含することが意図されている。核酸は一本鎖または二本鎖であってよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0168】
本発明によれば、「発現」という用語はその最も一般的な意味で使用され、RNAの産生またはRNAとタンパク質/ペプチドの産生を包含する。この用語は核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性にまたは安定に実施され得る。
【0169】
特定のアミノ酸配列、例えば配列表に示すものに関して本明細書で与えられる教示は、前記特定配列と機能的に等価である配列、例えば特定のアミノ酸配列の特性と同一または類似の特性を示すアミノ酸配列を生じさせる前記特定配列の変異体にも関するように解釈されるべきである。1つの重要な特性は、抗体のその標的への結合を保持することまたは抗体のエフェクター機能を維持することである。好ましくは、特定の配列に関して変異体である配列は、それが抗体中で前記特定配列に置き換わる場合、前記抗体のCLDN18.2への結合および好ましくは本明細書で述べる前記抗体の機能、例えばCDC媒介性溶解またはADCC媒介性溶解を保持する。
【0170】
特にCDR、超可変領域および可変領域の配列は、CLDN18.2に結合する能力を失わずに修飾され得ることが当業者に認識される。例えば、CDR領域は、本明細書で特定される抗体の領域に同一または高度に相同である。「高度に相同」により、1~5、好ましくは1~4、例えば1~3または1もしくは2個の置換がCDR内で為されていてもよいことが企図される。加えて、超可変領域および可変領域は、本明細書で特定して開示される抗体の領域と実質的な相同性を示すように修飾され得る。
【0171】
本発明の目的上、アミノ酸配列の「変異体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を包含する。タンパク質のN末端および/またはC末端に欠失を含むアミノ酸欠失変異体は、N末端および/またはC末端切断変異体とも呼ばれる。
【0172】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列内に1または2またはそれ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1またはそれ以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列内の特定の部位に挿入されているが、生じる産物の適切なスクリーニングを伴うランダムな挿入も可能である。
【0173】
アミノ酸付加変異体は、1またはそれ以上のアミノ酸、例えば1、2、3、5、10、20、30、50またはそれ以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端融合を含む。
【0174】
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1またはそれ以上のアミノ酸の除去、例えば1、2、3、5、10、20、30、50またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。欠失はタンパク質の任意の位置であり得る。
【0175】
アミノ酸置換変異体は、配列内の少なくとも1個の残基が除去され、別の残基がその位置に挿入されていることを特徴とする。相同なタンパク質もしくはペプチドの間で保存されていないアミノ酸配列内の位置に修飾が存在することおよび/またはアミノ酸が類似の特性を有する別のアミノ酸で置換されることが好ましい。好ましくは、タンパク質変異体内のアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち類似の荷電または非荷電アミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、側鎖が関連するアミノ酸のファミリーの1つの置換を包含する。天然に存在するアミノ酸は、一般に4つのファミリー:酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)アミノ酸に分けられる。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、時として芳香族アミノ酸として一緒に分類される。
【0176】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と前記所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の類似性の程度、好ましくは同一性の程度は、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%である。類似性または同一性の程度は、好ましくは、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または約100%であるアミノ酸領域に関して与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200個のアミノ酸から成る場合、類似性または同一性の程度は、好ましくは少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約180または約200個のアミノ酸、好ましくは連続するアミノ酸に関して与えられる。好ましい実施形態では、類似性または同一性の程度は参照アミノ酸配列の全長に関して与えられる。配列類似性、好ましく配列同一性を決定するためのアラインメントは、当分野で公知のツールを用いて、好ましくは最良配列アラインメントを使用して、例えばAlignを使用して、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::ニードル、マトリックス:Blosum62、キャップオープン10.0、ギャップ伸長0.5を用いて実施することができる。
【0177】
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換であるアミノ酸のパーセントを示す。2つのアミノ酸配列の間の「配列同一性」は、これらの配列間で同一であるアミノ酸のパーセントを示す。
【0178】
「同一性パーセント」という用語は、最良のアラインメント後に得られる、比較しようとする2つの配列の間で同一であるアミノ酸残基のパーセントを表すことが意図されており、このパーセントは純粋に統計的であって、2つの配列間の相違はランダムにおよびそれらの全長にわたって分布している。2つのアミノ酸配列の間の配列比較は、従来これらの配列を最適に整列した後で比較することによって実施され、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定し、比較するためにセグメントごとにまたは「比較ウィンドウ」ごとに実施される。比較のための配列の最適アラインメントは、手作業による以外に、Smith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを使用したコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)によって作成され得る。
【0179】
同一性パーセントは、比較する2つの配列の間で同一の位置の数を決定し、これら2つの配列間の同一性パーセントを得るためにこの数を比較する位置の数で除して、得られた結果に100を乗じることによって計算される。
【0180】
「トランスジェニック動物」という用語は、1またはそれ以上の導入遺伝子、好ましくは重鎖および/もしくは軽鎖導入遺伝子、または導入染色体(動物の天然ゲノムDNAに組み込まれているかもしくは組み込まれていない)を含むゲノムを有し、好ましくは導入遺伝子を発現することができる動物を指す。例えばトランスジェニックマウスは、マウスが、CLDN18.2抗原および/またはCLDN18.2を発現する細胞で免疫化された場合、ヒト抗CLDN18.2抗体を産生するように、ヒト軽鎖導入遺伝子と、ヒト重鎖導入遺伝子またはヒト重鎖導入染色体のいずれかを有し得る。ヒト重鎖導入遺伝子は、HCo7もしくはHCol2マウスなどのトランスジェニックマウス、例えばHuMAbマウスの場合のように、マウスの染色体DNAに組み込まれ得るか、またはヒト重鎖導入遺伝子は、国際公開第02/43478号に記載されているトランスクロモソーマル(例えばKM)マウスの場合のように、染色体外に維持され得る。そのようなトランスジェニックおよびトランスクロモソーマルマウスは、V-D-J組換えおよびアイソタイプスイッチを受けることによってCLDN18.2に対するヒトモノクローナル抗体の多数のアイソタイプ(例えばIgG、IgAおよび/またはIgE)を産生し得る。
【0181】
本明細書で使用される「低減する」または「阻害する」は、レベル、例えば細胞の発現のレベルまたは増殖のレベルの、好ましくは5%またはそれ以上、10%またはそれ以上、20%またはそれ以上、より好ましくは50%またはそれ以上、最も好ましくは75%またはそれ以上の全体的な低下または全体的な低下を引き起こす能力を意味する。
【0182】
「増大させる」または「増強する」などの用語は、好ましくは少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに一層好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはさらにそれ以上の増大または増強に関する。
【0183】
mAbの作用機構
以下は、本発明の抗体の治療効果の基礎となる機構についての考察を提供するが、これはいかなる意味においても本発明への限定とみなされるべきではない。
【0184】
本明細書で述べる抗体は、好ましくはADCCまたはCDCを介して、好ましくは免疫系の成分と相互作用する。本明細書で述べる抗体は、ペイロード(例えば放射性同位体、薬剤もしくは毒素)を標的して腫瘍細胞を直接死滅させるためにも使用でき、または伝統的な化学療法剤と相乗作用的に使用して、Tリンパ球への化学療法剤の細胞傷害性副作用のために損なわれた可能性がある抗腫瘍免疫応答を含み得る補完的な作用機構を介して腫瘍を攻撃することもできる。しかし、本明細書で述べる抗体はまた、単に細胞表面上のCLDN18.2に結合することによって、したがって、例えば細胞の増殖をブロックすることによっても作用を及ぼし得る。
【0185】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害
ADCCは、本明細書で述べるエフェクター細胞、特にリンパ球の細胞死滅能力を表し、これは、好ましくは標的細胞が抗体によって印づけられることを必要とする。
【0186】
ADCCは、好ましくは、抗体が腫瘍細胞上の抗原に結合し、抗体Fcドメインが免疫エフェクター細胞の表面上のFc受容体(FcR)と係合した場合に起こる。Fc受容体のいくつかのファミリーが同定されており、特定の細胞集団は、規定されたFc受容体を特徴的に発現する。ADCCは、抗原提示および腫瘍に対するT細胞応答の誘導をもたらす様々な程度の即時腫瘍破壊を直接誘導する機構とみなすことができる。好ましくは、ADCCのインビボ誘導は、腫瘍に対するT細胞応答および宿主由来の抗体応答をもたらす。
【0187】
補体依存性細胞傷害
CDCは、抗体によって指令され得るもう1つの細胞死滅方法である。IgMは補体活性化のために最も有効なアイソタイプである。IgG1およびIgG3も、どちらも古典的補体活性化経路によってCDCを指令するのに非常に有効である。好ましくは、このカスケードにおいて、抗原抗体複合体の形成は、IgG分子などの関与する抗体分子のCH2ドメイン上のごく近接する多数のC1q結合部位の露出を生じさせる(C1qは補体C1の3つのサブ成分の1つである)。好ましくは、これらの露出されたC1q結合部位は、それまでの低親和性C1q-IgG相互作用を高いアビディティの相互作用へと変換し、それが、一連の他の補体タンパク質を含む事象のカスケードを開始させ、エフェクター細胞化学走性/活性化物質C3aおよびC5aのタンパク質分解性放出を導く。好ましくは、補体カスケードは、細胞内へのおよび細胞から外への水と溶質の自由な通過を促進する細胞膜の細孔を作り出す、膜傷害性複合体の形成で終了する。
【0188】
抗体の作製および試験
本明細書で述べる抗体は、従来のモノクローナル抗体法、例えばKohler and Milstein,Nature 256:495(1975)の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む、様々な技術によって作製することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手順が原則として好ましいが、モノクローナル抗体を作製するための他の技術、例えばBリンパ球のウイルス形質転換もしくは発癌性形質転換または抗体遺伝子のライブラリを用いたファージディスプレイ技術も使用することができる。
【0189】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを作製するための好ましい動物系はマウスの系である。マウスにおけるハイブリドーマの作製は極めて広く確立された手順である。免疫プロトコルおよび融合のために免疫脾細胞を単離する技術は当分野で公知である。融合パートナー(例えばマウス骨髄腫細胞)および融合手順も公知である。
【0190】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを作製するための他の好ましい動物系は、ラットおよびウサギの系である(例えばSpieker-Polet et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:9348(1995)に記載されている;またRossi et al.,Am.J.Clin.Pathol.124:295(2005)も参照のこと)。
【0191】
さらに別の好ましい実施形態では、ヒトモノクローナル抗体は、マウスの系ではなくヒト免疫系の一部分を担持するトランスジェニックまたはトランスクロモソーマルマウスを使用して作製できる。これらのトランスジェニックおよびトランスクロモソーマルマウスは、それぞれHuMAbマウスおよびKMマウスとして公知のマウスを含み、本明細書では集合的に「トランスジェニックマウス」と称する。そのようなトランスジェニックマウスにおけるヒト抗体の生産は、国際公開第2004/035607号の中でCD20に関して詳述されているように実施することができる。
【0192】
モノクローナル抗体を作製するためのさらに別の方策は、定義された特異性を有する抗体を産生するリンパ球から抗体をコードする遺伝子を直接単離することであり、例えばBabcock et al.,1996;A novel strategy for generating monoclonal antibodies from single,isolated lymphocytes producing antibodies of defined specificities参照。組換え抗体工学の詳細については、Welschof and Kraus,Recombinant antibodes for cancer therapy ISBN-0-89603-918-8およびBenny K.C.Lo Antibody Engineering ISBN 1-58829-092-1も参照のこと。
【0193】
抗体を作製するため、上述したように、抗原配列、すなわちそれに対して抗体が向けられるべき配列に由来する担体結合ペプチド、組換え発現された抗原もしくはそのフラグメントの富化調製物および/または抗原を発現する細胞でマウスを免疫することができる。あるいは、抗原またはそのフラグメントをコードするDNAでマウスを免疫することができる。抗原の精製または富化調製物を使用した免疫が抗体を生じない場合は、免疫応答を促進するために抗原を発現する細胞、例えば細胞株でマウスを免疫することもできる。
【0194】
免疫プロトコルの経過中、尾静脈または眼窩後採血によって得られる血漿および血清試料に関して免疫応答を観測することができる。免疫グロブリンの十分な力価を有するマウスを融合のために使用できる。特異的抗体を分泌するハイブリドーマの割合を高めるため、犠死および脾切除の3日前に抗原発現細胞を用いてマウスを腹腔内または静脈内経路で追加免疫することができる。
【0195】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製するため、免疫マウスからの脾細胞およびリンパ節細胞を単離し、マウス骨髄腫細胞株などの適切な不死化細胞株に融合することができる。生じたハイブリドーマを、次に、抗原特異的抗体の産生に関してスクリーニングすることができる。その後個々のウェルを、ELISAによって抗体を分泌するハイブリドーマに関してスクリーニングすることができる。抗原発現細胞を使用した免疫蛍光法およびFACS分析により、抗原に対して特異性を有する抗体を同定できる。抗体を分泌するハイブリドーマを再度プレートし、再びスクリーニングして、モノクローナル抗体に関してまだ陽性である場合は限界希釈によってサブクローニングすることができる。その後、安定なサブクローンをインビトロで培養し、特徴づけのために組織培養培地中で抗体を作製することができる。
【0196】
抗体はまた、例えば当分野で周知の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション法の組合せを用いて(Morrison,S.(1985)Science 229:1202)、宿主細胞トランスフェクトーマ中で産生させることもできる。
【0197】
例えば、1つの実施形態では、関心対象の遺伝子、例えば抗体遺伝子を、国際公開第87/04462号、同第WO89/01036号および欧州特許第338 841号に開示されているGS遺伝子発現系または当分野で周知の他の発現系によって使用されるような真核生物発現プラスミドなどの発現ベクターに連結することができる。クローニングした抗体遺伝子を含む精製プラスミドを、CHO細胞、NS/0細胞、HEK293T細胞またはHEK293細胞などの真核生物宿主細胞、あるいは植物由来細胞、真菌または酵母細胞のような他の真核細胞に導入することができる。これらの遺伝子を導入するのに使用される方法は、電気穿孔、リポフェクチン、リポフェクタミンその他のような当分野で記述されている方法であり得る。宿主細胞へのこれらの抗体遺伝子の導入後、抗体を発現する細胞を同定し、選択することができる。これらの細胞はトランスフェクトーマであり、その後これらを発現レベルに関して増幅し、抗体を生産するためにスケールアップすることができる。これらの培養上清および/または細胞から組換え抗体を単離し、精製することができる。
【0198】
あるいは、クローニングした抗体遺伝子を、微生物、例えば大腸菌などの原核細胞を含む、他の発現系において発現させることができる。さらに、抗体は、トランスジェニック非ヒト動物、例えばヒツジおよびウサギからの乳もしくは雌鶏からの卵において、またはトランスジェニック植物において生産することができる;例えばVerma,R.,et al.(1998)J.Immunol.Meth.216:165-181;Pollock,et al.(1999)J.Immunol.Meth.231:147-157;およびFischer,R.,et al.(1999)Biol.Chem.380:825-839参照。
【0199】
キメラ化
マウスモノクローナル抗体は、毒素または放射性同位体で標識した場合、ヒトにおいて治療用抗体として使用することができる。非標識マウス抗体は、反復適用した場合ヒトにおいて高度に免疫原性であり、治療効果の低下をもたらす。主たる免疫原性は重鎖定常領域によって媒介される。ヒトにおけるマウス抗体の免疫原性は、それぞれの抗体をキメラ化またはヒト化した場合、低減するまたは完全に回避することができる。キメラ抗体は、その異なる部分が異なる動物種に由来する抗体、例えばマウス抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域を有するものである。抗体のキメラ化は、マウス抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をヒト重鎖および軽鎖の定常領域と連結することによって達成される(例えばKraus et al.,in Methods in Molecular Biology series,Recombinant antibodies for cancer therapy ISBN-0-89603-918-8によって記述されている)。好ましい実施形態では、キメラ抗体は、ヒトκ軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に連結することによって作製される。同じく好ましい実施形態では、キメラ抗体は、ヒトλ軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に連結することによって作製できる。キメラ抗体の作製のための好ましい重鎖定常領域は、IgG1、IgG3およびIgG4である。キメラ抗体の作製のための他の好ましい重鎖定常領域は、IgG2、IgA、IgDおよびIgMである。
【0200】
ヒト化
抗体は、主として、6つの重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)内に位置するアミノ酸残基を介して標的抗原と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、個々の抗体間でCDRの外側の配列よりも多様である。CDR配列は大部分の抗体-抗原相互作用に関与するので、異なる特性を有する異なる抗体からのフレームワーク配列に移植された、特定の天然に存在する抗体からのCDR配列を含む発現ベクターを構築することにより、特定の天然に存在する抗体の特性を模倣する組換え抗体を発現することが可能である(例えばRiechmann,L.et al.(1998)Nature 332:323-327;Jones,P.et al.(1986)Nature 321:522-525;およびQueen,C.et al.(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.86:10029-10033参照)。そのようなフレームワーク配列は、生殖細胞系抗体遺伝子配列を含む公的DNAデータベースから入手することができる。これらの生殖細胞系配列は、B細胞の成熟の間にV(D)J連結によって形成される、完全に構築された可変遺伝子を含まないので、成熟抗体遺伝子配列とは異なる。生殖細胞系遺伝子配列はまた、高親和性二次レパートリー抗体の配列とも、可変領域全体にわたって均一に個別に異なる。
【0201】
抗原に結合する抗体の能力は、標準的な結合アッセイ(例えばELISA、ウェスタンブロット法、免疫蛍光法およびフローサイトメトリ分析)を用いて決定することができる。
【0202】
抗体を精製するため、選択したハイブリドーマをモノクローナル抗体精製用の2リットルスピナーフラスコ中で増殖させることができる。あるいは、透析に基づくバイオリアクターにおいて抗体を生産することができる。上清をろ過し、必要に応じて濃縮した後、プロテインG-セファロースまたはプロテインA-セファロースによるアフィニティクロマトグラフィに供することができる。溶出したIgGを、純度を保証するためにゲル電気泳動および高性能液体クロマトグラフィによって検査できる。緩衝液をPBSに交換し、1.43の吸光係数を使用してOD280によって濃度を決定することができる。モノクローナル抗体をアリコートに分け、-80℃で保存することができる。
【0203】
選択したモノクローナル抗体がユニークなエピトープに結合するかどうかを判定するため、部位指定または多部位指定突然変異誘発が使用できる。
【0204】
抗体のアイソタイプを決定するため、様々な市販のキット(例えばZymed、Roche Diagnostics)によるアイソタイプELISAを実施できる。マイクロタイタープレートのウェルを抗マウスIgで被覆することができる。ブロックした後、プレートを周囲温度で2時間、モノクローナル抗体または精製アイソタイプ対照と反応させる。次に、ウェルをマウスIgG1、IgG2a、IgG2bもしくはIgG3、IgAまたはマウスIgM特異的ペルオキシダーゼ結合プローブのいずれかと反応させることができる。洗浄後、プレートをABTS基質(1mg/ml)で展開し、405~650のODで分析することができる。あるいは、IsoStrip Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Kit(Roche、カタログ番号1493027)を、製造者によって述べられているように使用し得る。
【0205】
免疫したマウスの血清中の抗体の存在または抗原を発現する生細胞へのモノクローナル抗体の結合を明らかにするために、フローサイトメトリを用いることができる。天然にまたはトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株と抗原発現を欠く陰性対照(標準的な増殖条件下で増殖させた)を、ハイブリドーマ上清中または1%FBSを含有するPBS中で様々な濃度のモノクローナル抗体と混合し、4℃で30分間インキュベートすることができる。洗浄後、APC標識またはAlexa647標識抗IgG抗体を、一次抗体染色と同じ条件下で抗原結合モノクローナル抗体に結合することができる。単一生細胞をゲートする側方光散乱特性を利用したFACS装置でのフローサイトメトリによって試料を分析することができる。単一測定において抗原特異的モノクローナル抗体を非特異的結合体から区別するために、同時トランスフェクションの方法が使用できる。抗原と蛍光マーカーをコードするプラスミドを一過性にトランスフェクトした細胞を上述したように染色することができる。トランスフェクトされた細胞は、抗体染色細胞とは異なる蛍光チャネルで検出できる。トランスフェクト細胞の大部分は両方の導入遺伝子を発現するので、抗原特異的モノクローナル抗体は蛍光マーカー発現細胞に選択的に結合し、一方非特異的抗体は同等の割合で非トランスフェクト細胞に結合する。蛍光顕微鏡検査を用いた選択的なアッセイをフローサイトメトリアッセイに加えてまたはその代わりに使用し得る。細胞を上述したように正確に染色し、蛍光顕微鏡法によって検査することができる。
【0206】
免疫したマウスの血清中の抗体の存在または抗原を発現する生細胞へのモノクローナル抗体の結合を明らかにするために、免疫蛍光顕微鏡分析を用いることができる。例えば、自然にまたはトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株と抗原発現を欠く陰性対照を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、2mM L-グルタミン、100IU/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを添加したDMEM/F12培地中、標準的な増殖条件下にチャンバースライド中で増殖させる。次に細胞をメタノールまたはパラホルムアルデヒドで固定するかまたは未処理のまま放置することができる。その後細胞を、25℃で30分間、抗原に対するモノクローナル抗体と反応させることができる。洗浄後、同じ条件下で細胞をAlexa555標識抗マウスIgG二次抗体(Molecular Probes)と反応させることができる。その後蛍光顕微鏡法によって細胞を検査することができる。
【0207】
抗原を発現する細胞からの細胞抽出物および適切な陰性対照を調製し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供することができる。電気泳動後、分離された抗原をニトロセルロース膜に移し、ブロックして、試験するモノクローナル抗体でプローブする。抗マウスIgGペルオキシダーゼを使用してIgG結合を検出し、ECL基質で展開することができる。
【0208】
抗体を、当業者に周知の方法で免疫組織化学によって、例えば通常の外科手術の間に患者から得た、または自然にもしくはトランスフェクション後に抗原を発現する細胞株を接種した異種移植腫瘍を担持するマウスから得た、非癌組織試料または癌組織試料からの、パラホルムアルデヒドもしくはアセトンで固定した凍結切片またはパラホルムアルデヒドで固定したパラフィン包埋組織切片を使用して、抗原との反応性をさらに試験することができる。免疫染色のために、抗原に対して反応性の抗体をインキュベートし、次いで供給者の指示に従ってホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスまたはヤギ抗ウサギ抗体(DAKO)と共にインキュベートすることができる。
【0209】
抗体を、CLDN18.2を発現する細胞の食作用および死滅を媒介するその能力に関して試験することができる。インビトロでのモノクローナル抗体活性の試験は、インビボモデルにおける試験に先立つ初期スクリーニングを提供する。
【0210】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)
簡単に述べると、健常ドナーからの多形核細胞(PMN)、NK細胞、単球、単核細胞または他のエフェクター細胞を、Ficoll Hypaque密度勾配遠心分離、次いで混入赤血球の溶解によって精製することができる。洗浄したエフェクター細胞を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清または5%熱不活性化ヒト血清を添加したRPMIに懸濁し、CLDN18.2を発現する51Cr標識標的細胞と、エフェクター細胞対標的細胞の様々な比率で混合することができる。あるいは、標的細胞を蛍光増強リガンド(BATDA)で標識してもよい。死細胞から放出される増強リガンドを有するユウロピウムの高度蛍光キレートを蛍光光度計によって測定することができる。もう1つの選択的な技術は、ルシフェラーゼによる標的細胞のトランスフェクションを利用し得る。添加したルシファーイエローは、その後、生細胞によってのみ酸化され得る。次に精製抗CLDN18.2 IgGを様々な濃度で添加することができる。無関係なヒトIgGを陰性対照として使用できる。アッセイは、使用するエフェクター細胞型に依存して37℃で4~20時間実施できる。培養上清中の51Cr放出またはEuTDAキレートの存在を測定することによって試料を細胞溶解に関して検定することができる。あるいは、ルシファーイエローの酸化から生じるルミネセンスは生細胞の評価尺度であり得る。抗CLDN18.2モノクローナル抗体はまた、細胞溶解が複数のモノクローナル抗体で増強されるかどうかを判定するために様々な組合せで試験することもできる。
【0211】
補体依存性細胞傷害(CDC)
モノクローナル抗CLDN18.2抗体を、様々な公知の技術を用いてCDCを媒介するその能力に関して試験することができる。例えば、補体のための血清は、当業者に公知の方法で血液から入手できる。mAbのCDC活性を測定するために、種々の方法が使用できる。例えば51Cr放出を測定することができ、またはヨウ化プロピジウム(PI)排除アッセイを用いて膜透過性上昇を評価することができる。簡単に述べると、標的細胞を洗浄し、5×105/mlを様々な濃度のmAbと共に室温または37℃で10~30分間インキュベートすることができる。次に血清または血漿を20%(v/v)の最終濃度まで添加し、細胞を37℃で20~30分間インキュベートすることができる。各々の試料からのすべての細胞をFACSチューブ内のPI溶液に添加することができる。その後FACSArrayを使用してフローサイトメトリ分析によって直ちに混合物を分析することができる。
【0212】
選択的なアッセイでは、CDCの誘導を接着細胞で測定することができる。このアッセイの1つの実施形態では、細胞を、アッセイの24時間前に組織培養平底マイクロタイタープレートに3×104/ウェルの密度で接種する。その翌日、増殖培地を取り出し、細胞を抗体と共に三つ組みでインキュベートする。対照細胞を、それぞれバックグラウンド溶解および最大溶解の測定のために増殖培地または0.2%サポニンを含有する増殖培地と共にインキュベートする。室温で20分間インキュベートした後、上清を取り、DMEM中の20%(v/v)ヒト血漿または血清(あらかじめ37℃に温めておく)を細胞に添加して、37℃でさらに20分間インキュベートする。各々の試料からのすべての細胞をヨウ化プロピジウム溶液(10μg/ml)に添加する。次に、上清を、2.5μg/ml臭化エチジウムを含有するPBSに交換し、Tecan Safireを使用して520nm励起での蛍光放出を600nmで測定する。特異的溶解のパーセントを以下のように計算する:特異的溶解%=(試料蛍光-バックグラウンド蛍光)/(最大溶解蛍光-バックグラウンド蛍光)×100。
【0213】
モノクローナル抗体によるアポトーシスの誘導および細胞増殖の阻害
アポトーシスを開始させる能力に関して試験するため、モノクローナル抗CLDN18.2抗体を、例えばCLDN18.2陽性腫瘍細胞、例えばSNU-16、DAN-G、KATO-IIIまたはCLDN18.2トランスフェクト腫瘍細胞と共に37℃で約20時間インキュベートすることができる。細胞を採取し、Annexin-V結合緩衝液(BD biosciences)中で洗浄して、FITCまたはAPCと結合したAnnexin-V(BD biosciences)と共に暗所で15分間インキュベートすることができる。各々の試料からのすべての細胞をFACSチューブ内のPI溶液(PBS中10μg/ml)に添加し、直ちにフローサイトメトリによって評価することができる(上記のように)。あるいは、モノクローナル抗体による細胞増殖の一般的な阻害は市販のキットで検出できる。DELFIA Cell Proliferation Kit(Perkin-Elmer、カタログ番号AD0200)は、マイクロプレートにおける増殖中の細胞のDNA合成の間の5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)の組込みの測定に基づく非同位体免疫検定法である。組み込まれたBrdUは、ユウロピウム標識モノクローナル抗体を用いて検出される。抗体検出を可能にするため、Fix液を用いて細胞を固定し、DNA変性する。非結合抗体を洗い流し、DELFIA誘導剤を添加して標識抗体からユウロピウムイオンを溶液中に解離し、溶液中で前記イオンはDELFIA誘導剤の成分と高度蛍光キレートを形成する。検出において時間分解蛍光光度法を利用して、測定された蛍光は、各々のウェルの細胞におけるDNA合成に比例する。
【0214】
前臨床試験
CLDN18.2に結合するモノクローナル抗体はまた、CLDN18.2を発現する腫瘍細胞の増殖を制御するうえでのそれらの効果を測定するためにインビボモデルにおいて(例えばCLDN18.2を発現する細胞株、DAN-G、SNU-16もしくはKATO-III、またはトランスフェクション後にCLDN18.2を発現する細胞株、例えばHEK293を接種した異種移植腫瘍を担持する免疫不全マウスにおいて)試験することもできる。
【0215】
CLDN18.2を発現する腫瘍細胞を免疫無防備状態マウスまたは他の動物に異種移植した後のインビボ試験を、本明細書で述べる抗体を使用して実施することができる。腫瘍を有さないマウスに抗体を投与し、次いで腫瘍細胞を注射して、腫瘍の形成または腫瘍関連症状を予防する抗体の作用を測定することができる。腫瘍担持マウスに抗体を投与し、腫瘍の成長、転移または腫瘍関連症状を低減するそれぞれの抗体の治療効果を測定することができる。抗体の適用は、併用の相乗効果および潜在的毒性を測定するために他の物質、例えば細胞増殖抑制剤、増殖因子阻害剤、細胞周期ブロッカー、血管新生阻害剤または他の抗体の適用と組み合わせることができる。抗体によって媒介される毒性副作用を分析するため、動物に抗体または対照試薬を接種し、CLDN18.2抗体治療に関連する可能性がある症状に関して十分に検討することができる。CLDN18.2抗体のインビボ適用の起こり得る副作用には、特に、胃を含むCLDN18.2発現組織における毒性が含まれる。ヒトおよび他の種、例えばマウスにおいてCLDN18.2を認識する抗体は、ヒトにおけるモノクローナルCLDN18.2抗体の適用によって媒介される潜在的副作用を予測するために特に有用である。
【0216】
抗体によって認識されるエピトープのマッピングは、Glenn E.Morris ISBN-089603-375-9による"Epitope Mapping Protocols(Methods in Molecular Biology)"およびOlwyn M.R.Westwood,Frank C.Hayによる"Epitope Mapping:A Practical Approach"Practical Approach Series,248において詳述されているように実施することができる。
【0217】
本明細書で述べる化合物および作用物質は、任意の適切な医薬組成物の形態で投与し得る。
【0218】
医薬組成物は、通常単位投与形態で提供され、それ自体公知の方法で調製され得る。医薬組成物は、例えば溶液または懸濁液の形態であり得る。
【0219】
医薬組成物は、塩、緩衝物質、防腐剤、担体、希釈剤および/または賦形剤を含有してよく、それらすべてが、好ましくは医薬的に許容される。「医薬的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の無毒性を指す。
【0220】
医薬的に許容されない塩は、医薬的に許容される塩を調製するために使用することができ、本発明に包含される。この種の医薬的に許容される塩は、非限定的に、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等から調製されるものを含む。医薬的に許容される塩はまた、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩としても調製され得る。
【0221】
医薬組成物における使用のための適切な緩衝物質には、塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸および塩中のリン酸が含まれる。
【0222】
医薬組成物における使用のための適切な防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールが含まれる。
【0223】
注射用製剤は、乳酸リンガー液などの医薬的に許容される賦形剤を含有し得る。
【0224】
「担体」という用語は、適用を容易にする、増強するまたは可能にするために活性成分が組み合わされる、天然または合成の有機または無機成分を指す。本発明によれば、「担体」という用語はまた、患者への投与に適する、1またはそれ以上の適合性の固体または液体充填剤、希釈剤または被包物質も包含する。
【0225】
非経口投与のために可能な担体物質は、例えば滅菌水、リンガー液、乳酸リンガー液、滅菌塩化ナトリウム溶液、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレンおよび、特に生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーである。
【0226】
本明細書で使用される場合の「賦形剤」という用語は、医薬組成物中に存在してよく、および活性成分ではないすべての物質、例えば担体、結合剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝剤、着香剤または着色剤を指示することが意図されている。
【0227】
本明細書で述べる作用物質および組成物は、任意の従来の経路によって、例えば注射または注入を含む非経口投与によって投与し得る。投与は、好ましくは非経口的であり、例えば静脈内、動脈内、皮下、皮内または筋肉内経路である。
【0228】
非経口投与に適する組成物は、通常、好ましくは受容者の血液と等張である、活性化合物の滅菌水性または非水性調製物を含む。適合性担体および溶媒の例は、リンガー液および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は滅菌の、固定油が溶液または懸濁液の媒質として使用される。
【0229】
本明細書で述べる作用物質および組成物は有効量で投与される。「有効量」は、単独でまたはさらなる投与物と共に所望の反応または所望の作用を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態の治療の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の進行の阻止に関する。これは、疾患の進行を遅らせること、特に疾患の進行を妨げるまたは逆転させることを含む。疾患または状態の治療における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止であり得る。
【0230】
本明細書で述べる作用物質または組成物の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、患者の年齢、生理的状態、大きさおよび体重を含む患者の個別のパラメータ、治療の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路および同様の因子に依存する。したがって、本明細書で述べる作用物質の投与される用量は、そのような様々なパラメータに依存し得る。患者における反応が初期用量で不十分である場合は、より高用量(または異なる、より限局された投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用し得る。
【0231】
本明細書で述べる作用物質および組成物は、本明細書で述べるような様々な障害を治療または予防するために、例えばインビボで、患者に投与することができる。好ましい患者には、本明細書で述べる作用物質および組成物を投与することによって矯正または改善することができる障害を有するヒト患者が含まれる。これには、CLDN18.2の変化した発現パターンを特徴とする細胞に関わる障害が含まれる。
【0232】
例えば、1つの実施形態では、本明細書で述べる抗体は、癌疾患、例えばCLDN18.2を発現する癌細胞の存在を特徴とする本明細書で述べるような癌疾患を有する患者を治療するために使用できる。
【0233】
本発明に従う、前述した医薬組成物および治療の方法は、本明細書で述べる疾患を予防するための免疫またはワクチン接種にも使用し得る。
【0234】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、それらは本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 患者において膵癌を治療または予防する方法であって、(i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質を前記患者に投与することを含む方法。
2. CLDN18.2の発現が癌細胞の細胞表面において行われる、1.に記載の方法。
3. CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる前記作用物質が、細胞周期の停止または細胞周期の1もしくはそれ以上の期、好ましくはG1期以外の細胞周期の1もしくはそれ以上の期、より好ましくはG2期および/もしくはS期の細胞の蓄積を誘導する作用物質を含む、1.または2.に記載の方法。
4. CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる前記作用物質が、ヌクレオシド類似体、白金化合物、カンプトテシン類似体、タキサン類、そのプロドラッグ、その塩およびそれらの組合せから成る群より選択される作用物質を含む、1.から3.のいずれか一つに記載の方法。
5. CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる前記作用物質が、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、オキサリプラチン、イリノテカン、パクリタキセル、そのプロドラッグ、その塩およびそれらの組合せから成る群より選択される作用物質を含む、1.から4.のいずれか一つに記載の方法。
6. CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる前記作用物質が、免疫原性細胞死を誘導する作用物質を含む、1.から5.のいずれか一つに記載の方法。
7. 免疫原性細胞死を誘導する前記作用物質がオキサリプラチンを含む、6.に記載の方法。
8. 前記方法が、ゲムシタビンとオキサリプラチンの組合せ、ゲムシタビンとシスプラチンの組合せ、ゲムシタビンとカルボプラチンの組合せ、またはオキサリプラチン、5-フルオロウラシルもしくはそのプロドラッグとイリノテカンの組合せを投与することを含む、1.から7.のいずれか一つに記載の方法。
9. 前記方法が、フォリン酸、オキサリプラチン、5-フルオロウラシルまたはそのプロドラッグおよびイリノテカンを投与することを含む、1.から8.のいずれか一つに記載の方法。
10. 患者において癌を治療または予防する方法であって、(i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)ゲムシタビンを前記患者に投与することを含む方法。
11. 前記癌が膵癌である、10.に記載の方法。
12. 前記方法が、γδT細胞を刺激する作用物質を投与することをさらに含み、前記γδT細胞が好ましくはVγ9Vδ2T細胞である、1.から11.のいずれか一つに記載の方法。
13. γδT細胞を刺激する前記作用物質がビスホスホネートである、12.に記載の方法。
14. γδT細胞を刺激する前記作用物質が窒素含有ビスホスホネート(アミノビスホスホネート)である、12.または13.に記載の方法。
15. γδT細胞を刺激する前記作用物質が、ゾレドロン酸、クロドロン酸、イバンドロン酸、パミドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、オルパドロン酸、アレンドロン酸、インカドロン酸およびそれらの塩から成る群より選択される、12.から14.のいずれか一つに記載の方法。
16. γδT細胞を刺激する前記作用物質をインターロイキン2と組み合わせて投与する、12.から15.のいずれか一つに記載の方法。
17. CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体が、CLDN18.2の第一細胞外ループに結合する、1.から16.のいずれか一つに記載の方法。
18. CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体が、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介性溶解、抗体依存性細胞傷害(ADCC)媒介性溶解、アポトーシスの誘導および増殖の阻害の1つまたはそれ以上による細胞死滅を媒介する、1.から17.のいずれか一つに記載の方法。
19. CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体が、(i)アクセッション番号DSM ACC2737、DSM ACC2738、DSM ACC2739、DSM ACC2740、DSM ACC2741、DSM ACC2742、DSM ACC2743、DSM ACC2745、DSM ACC2746、DSM ACC2747、DSM ACC2748、DSM ACC2808、DSM ACC2809またはDSM ACC2810の下で寄託されたクローンによって産生されるおよび/または前記クローンから入手可能な抗体、(ii)(i)に含まれる前記抗体のキメラ化またはヒト化形態である抗体、(iii)(i)に含まれる前記抗体の特異性を有する抗体、ならびに(iv)(i)に含まれる前記抗体の抗原結合部分または抗原結合部位、特に可変領域を含有し、および好ましくは(i)に含まれる前記抗体の特異性を有する抗体から成る群より選択される抗体である、1.から18.のいずれか一つに記載の方法。
20. 前記方法が、CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体を1000mg/m
2
までの用量で投与することを含む、1.から19.のいずれか一つに記載の方法。
21. 前記方法が、CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体を300から600mg/m
2
の用量で反復投与することを含む、1.から20.のいずれか一つに記載の方法。
22. 前記癌がCLDN18.2陽性である、1.から21.のいずれか一つに記載の方法。
23. CLDN18.2が配列番号:1に従うアミノ酸配列を有する、1.から22.のいずれか一つに記載の方法。
24. 前記膵癌が、原発癌、進行癌もしくは転移癌、または膵原発癌と転移癌の組合せなどのこれらの組合せを含む、1.から9.および11.から23.のいずれか一つに記載の方法。
25. 前記転移癌が、リンパ節、卵巣、肝臓もしくは肺、またはこれらの組合せへの転移を含む、24.に記載の方法。
26. 前記膵癌が膵管の癌を含む、1.から9.および11.から25.のいずれか一つに記載の方法。
27. 前記膵癌が、腺癌もしくは癌腫、またはこれらの組合せを含む、1.から9および11から26のいずれか一つに記載の方法。
28. 前記膵癌が、膵管腺癌、粘液性腺癌、神経内分泌癌もしくは腺房細胞癌、またはこれらの組合せを含む、1.から9および11から27のいずれか一つに記載の方法。
29. 前記膵癌が、ゲムシタビン単独療法などのゲムシタビン治療に対して部分的または完全に抗療性である、1.から9および11から28のいずれか一つに記載の方法。
30. 膵癌を予防することが、膵癌の再発を予防することを含む、1.から9および11から29のいずれか一つに記載の方法。
31. 前記患者が膵癌のための手術を受けたことがある、1.から9および11から30のいずれか一つに記載の方法。
32. 前記患者が、前癌膵病変、特に膵管における初期の悪性組織学的変化を含む前癌膵病変を有する、1.から9.および11.から31.のいずれか一つに記載の方法。
33. 膵癌を治療または予防するための医療製剤であって、(i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)CLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる作用物質を含有する医療製剤。
34. CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体を含有する第一容器およびCLDN18.2の発現を安定化するまたは増大させる前記作用物質を含有する第二容器を含むキットの形態で存在する、33.に記載の医療製剤。
35. 膵癌の治療または予防のための前記製剤の使用に関する印刷された指示書をさらに含む、33.または34.に記載の医療製剤。
36. (i)CLDN18.2に結合する能力を有する抗体および(ii)ゲムシタビンを含有する医療製剤。
37. 癌、特に膵癌を治療または予防するためである、36.に記載の医療製剤。
38. CLDN18.2に結合する能力を有する前記抗体を含有する第一容器およびゲムシタビンを含有する第二容器を含むキットの形態で存在する、36.または37.に記載の医療製剤。
39. 癌、特に膵癌の治療または予防のための前記製剤の使用に関する印刷された指示書をさらに含む、36.から38.のいずれか一つに記載の医療製剤。
【実施例】
【0235】
[実施例1]
実験材料および方法
1.抗体
【表1】
【0236】
2.免疫組織化学(IHC)
組織切片(厚さ4μm)を使用時まで2~8℃で保存した。
【0237】
脱パラフィン工程の前に、パラフィンを溶融し、水を定量的に除去するために、切片を乾燥炉において58~60℃で1時間インキュベートし、それによりスライドガラスへの組織の接着を改善した(「焼付け」)。
【0238】
脱パラフィン
溶融および乾燥後、2つのキシロール工程(5分)を用いてスライドガラスを脱パラフィンし、漸減アルコールアレイを用いて再水和した(20~27℃の周囲温度で):
・キシレン浴中に5(±1)分間;
・この工程を新鮮浴中で1回反復した;
・過剰の液体;
・絶対エタノール中に5(±1)分間;
・この工程を新鮮浴で1回反復;
・過剰の液体を除去;
・96%エタノール中に5(±1)分間;
・この工程を新鮮浴で1回反復;
・過剰の液体を除去;
・80%エタノール中に5(±1)分間;
・過剰の液体を除去;
・70%エタノール中に5(±1)分間;
・過剰の液体を除去;
・蒸留水または脱イオン水中に5分間。
【0239】
エピトープの回収およびクエンチング
パラフィン除去後、熱誘導エピトープ回収手順を用いて標的エピトープを回収した。そのため、スライドガラスを、回収緩衝液(10mMクエン酸緩衝液;0.05%Tween-20;pH6)200mlを満たした染色ジャーに入れ、プレッシャークッカー(PASCAL,Dako)中で120℃にて10分間インキュベートした。その後ジャーをクッカーから取り出し、室温で10(±1)分間、エピトープ回収溶液中で冷却させた。スライドガラスを洗浄緩衝液(1×PBS)中で洗った。
【0240】
冷却後、切片を、クエンチング溶液(1×PBS中0.3%ペルオキシダーゼ)200mlを満たした染色ジャーに移し、室温で15分間インキュベートして、次いで新鮮洗浄緩衝液中で2×5分間の洗浄工程に供した。
【0241】
ブロッキングおよび抗体のインキュベーション
過剰の洗浄緩衝液を除去し、スライドガラスをブロッキング緩衝液(1×PBS中10%ヤギ血清)200μlで覆って、室温で30分間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を除去し、希釈抗体溶液(ブロッキング緩衝液中で希釈)200μlに交換した。スライドガラスを一次抗体と共に2~8℃で一晩インキュベートした:
【表2】
【0242】
その翌日、一次抗体溶液を除去し、切片を洗浄緩衝液で3×5分間洗浄した。その後過剰の洗浄緩衝液を除去し、すぐに使用できる二次抗体溶液200μlを添加した(Power Vision HRPヤギα-マウス;Immunologic;NL)。スライドガラスを室温で30分間インキュベートした。過剰の液体を除去し、スライドガラスを新鮮洗浄緩衝液中で3×5分間洗浄した。
【0243】
基質反応および対比染色
過剰の洗浄緩衝液の除去後、切片を、新鮮調製した基質-色原体溶液(VectorRed;Vector Labs)約50~150μLで2分間覆った。過剰の基質を除去し、スライドガラスをジャー中で脱イオン水と共に1~5分間インキュベートした。
【0244】
その後、Mayerのヘマトキシリン200mlを含有するジャーに切片を2分間液浸することによって組織の対比染色を実施した。その後、核を青く染めるために切片を5~10分間水道水中に置いた。
【0245】
脱水および封入
対比染色を実施した後、漸増アルコールアレイを用いて切片を脱水した:
・70%エタノール中に浸漬(約5~10秒間)
・80%エタノール中に浸漬(約5~10秒間)
・96%エタノール中に浸漬(約5~10秒間)
・96%エタノール中に浸漬(約5~10秒間)
・絶対エタノール中に浸漬(約5~10秒間)
・キシレン中に5分間
・キシレン中に5分間。
【0246】
試料の封入のために非水性封入剤(X-TRA-Kit,Medite)を使用した。スライドガラスを最後のキシレン充填ジャーから直接封入し、室温で空気乾燥した。
【表3】
【0247】
3.培養
本明細書で提示する実験のために使用するすべての膵癌細胞株および付加的な対照細胞株は、起源のデータシートに従い、標準的な組織培養手順によって培地中で培養する。条件を表4に要約する。すべての新たに得られた細胞株に関して、細胞をマイコプラスマ汚染に関して試験し、マスターセルバンクを調製した。
【表4】
【0248】
4.膵細胞株のルシフェラーゼトランスフェクション
ADCCアッセイのために膵癌細胞株をルシフェラーゼRNAで一過性にトランスフェクトした。このルシフェラーゼRNA(pST1-luc2mut-2hBgUTR-A121-EciIベクター(pST1-109))をARCAキャップと共に作製し、H2Oに溶解した。RNAを22μlアリコート中で-80℃にて保存した。すべての膵細胞株に関して、最適電気穿孔条件を決定し、最も高いトランスフェクション率と細胞の生存能を生じさせた。各々のアッセイにおいて、細胞をPBS/5mM EDTAで分離し、X-Vivo 250μl中に溶解した2.5×106細胞を氷冷キュベット中でRNA 10μgと混合した。細胞を直ちに電気穿孔し(GenePulser Xcell,Biorad)、あらかじめ温めておいたアッセイ培地中に再懸濁して、細胞を5×105細胞/mlに調整した。試験した電気穿孔条件はすべての細胞株について以下のとおりであった:
EP1:250V、475μF
EP2:200V、300μF
EP3:150V、300μF
EP4:200V、400μF
EP5:250V、950μF
対照:0V、0μF。
【0249】
細胞の生存能を、電気穿孔後にCASYを用いて直接決定するかまたはトリパンブルーで細胞を染色し、ノイバウアー室において死細胞のパーセンテージを測定することによって決定した。細胞を白色96ウェルプレート(2.5×104細胞/ウェル)中に四つ組で接種し、24時間インキュベートした。その後、ルシフェリン混合物の添加後にルシフェラーゼ活性をルミノメータ(Tecan Infinite200)で90分間測定した。RLU値>1.000が得られた場合は、トランスフェクションは成功であり、その結果としてADCCは測定可能であった。
【0250】
5.定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)
膵癌細胞株からRNAを単離するために、細胞を10cm皿に接種し、80%の集密度まで2~3日間増殖させた。RNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen)を用いて提供される指示に従ってRNAを単離した。SuperScript(登録商標)III First Strandキット(Invitrogen)を用いて提供される製造者の指示に従ってcDNAの調製を実施した。RNAおよびcDNA試料を-80℃で保存した。
【0251】
CLDN18.2転写産物の定量的分析を、CLDN18.1アイソフォームとCLDN18.2アイソフォームを識別するPCRプライマーNo.5054s(5'-AGAGAGCTCTGGCTTCACCGAGTG-3')およびNo.5060as(5'-CCAGAAGTTAGTCACCAGCATGTTGG-3')を使用して、40サイクルのPCR反応においてオリゴ(dT)でプライムしたcDNAを増幅することによって実施した。反応物を、二本鎖DNAにインターカレートするSYBR Green(QuantiTect SYBR Green PCR Kit、Qiagen)を用いて調製した。反応および測定は、ABI-PRISM7900 Sequence Detection Systemの装置およびソフトウェア(Applied Biosystems)を用いて実施した。
【0252】
CLDN18転写産物の相対発現レベルを、ハウスキーピング遺伝子HPRTに関してΔΔCT計算を用いてコンピュータで算出した。
【0253】
6.ウェスタンブロット分析
膵癌細胞株のタンパク質の単離のために、細胞を10cm皿に接種し、80%の集密度まで2~3日間増殖させた。4×SDS試料緩衝液(34%グリシン、250mMトリス pH6.8、5%β-メルカプトエタノール、8.2%SDS)800μlを添加して細胞を溶解した。ゲノムDNAを分解するため、タンパク質試料を以下の条件下で超音波処理した:出力制御:レベル1、デューティサイクル:20~25秒間70%。タンパク質濃度を分光光度計(280nmでの吸収)で測定し、試料を使用時まで-80℃で保存した。
【0254】
ウェスタンブロット法においてCLDN18.2発現を検出するため、分離用の12.5%ポリアクリルアミドゲル(2つの小さなゲルについて、29:1 アクリルアミド/ビス-アクリルアミド4.1ml、10%SDS 100μl、トリス pH8.8 2.5ml、H2O 3.2ml、APS 100μl、TEMED 10μl)を2つの固定したガラスプレートの間で調製した。重合後、ゲルを濃縮ゲル(29:1 アクリルアミド/ビス-アクリルアミド1.5ml、10%SDS 100μl、トリス pH6.8 2.5ml、H2O 5.8ml、APS 100μl、TEMED 10μl)と重ね合わせ、ゲルコームをガラスプレートの間に置いた。重合後、(1:20の)4×SDS試料緩衝液(トリス-HCL 250mM、34%グリセリン、8.2%SDS、pH6.8)の添加によって調製した各タンパク質試料75μgおよびサイズマーカー混合物(SeaBlue Plus2 Prestained Standard 6μlと混合したMagic Mark XP Western Standard 1.5μl)7.5μlをゲルに付加した。ゲルを1×SDS泳動緩衝液(25mMトリス、0.192Mグリシン、0.1%SDS)中で80Vにて30分間および180Vにて60分間泳動させた。ニトロセルロース膜上のゲルのセミドライブロッティングを、1×転移緩衝液(25mMトリス、0.192mMグリシン、20%MeOH)中で160mAにて90分間実施した。ブロットを最初に5%粉乳/PBS中でブロックし、一次抗体(0.25μg/ml抗クローディン18(C末端)または0.1μg/ml抗β-アクチン)を1%粉乳/PBSの溶液に添加した。ブロットを4℃で一晩インキュベートし、1×PBS/0.05%Tween20中で10分間ずつ3回洗浄して、次に1%粉乳/PBS中で室温にて標識二次抗体(1:1000希釈したヤギ抗ウサギIgG(FC))と共に1時間インキュベートした。ブロットを再び1×PBS/0.05%Tween20中で10分間ずつ3回洗浄し、検出溶液(Pico and Dura Detection System(Pierce))1~3mlの1分間の添加、およびGA_056_Chemolumineszenzentwickler LAS3000に従うLAS-3000検出ボックス(増分:10秒、時間間隔:10秒、感度:高)におけるブロットのスキャニングにより、検出を実施した。
【0255】
7.フローサイトメトリ(FACS)
細胞を、PBS/5mM EDTAまたはトリプシン/EDTAを用いて70~85%集密度の指数増殖中の培養物から採取した。細胞を計数し、5分間遠心分離して(468g)、ペレットをFACS緩衝液(PBS中2%FCS、0.1%アジ化ナトリウム)中に再懸濁し、濃度を2×106/mlに調整した。細胞100μlを丸底96ウェルプレートに塗布し、再び遠心分離した(5分間、468g)。IMAB362(またはアイソタイプ対照リツキシマブ)をFACS緩衝液50μl中で0.1~200μg/ml(11希釈段階+抗体なし対照)に段階希釈し、4℃で30分間細胞に添加した。次に、FACS緩衝液200μlを各ウェルに添加し、プレートを遠心分離した(5分間、468g)。上清を取り、洗浄を繰り返した。二次ヤギ抗ヒト抗体(FC特異的、APCと結合したF(ab')2(Dianova))をFACS緩衝液中に希釈し(1:100)、30μlを各ウェルに添加した。プレートを4℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを再びFACS緩衝液200μlで2回洗浄し、ペレットを、GA_018_BD FACS Arrayバイオアナライザに従ってFACS Array Bioanalyzer(BD)測定のために最終的にFACS緩衝液100μlに再懸濁した。
【0256】
8.レンチウイルス形質導入
レンチウイルスベクターの構築:レンチウイルスは、分裂細胞と非分裂細胞の両方のヒトゲノムDNAに安定に組み込まれる、RNAウイルスに属する。ベクターpLenti6.4(Invitrogen)を骨格として使用した。前記ベクターは、確実に形質導入された細胞の選択のためにブラスチシジン遺伝子を含む。EF1αプロモーターに融合したCLDN18.2をベクターの組換え領域にクローニングし、pL64B42E(EF1α-hクローディン18.2)-ブラスチシジンを作製した(
図1)。
【0257】
細胞株の選択:細胞株を文献データに従って、またはそれまでにインビボで試験されたデータに従って選択した。選択基準には、ヌードマウスにおける均一な皮下増殖および20~100日間の治療ウィンドウが含まれた。既にCLDN18.2 mRNAの弱い発現を示した3つの細胞株(DANG、YAPCおよびBxPC3)および文献によれば転移することができる3つの細胞株(MiaPaCa-2、Patu8902およびSuit-2)を組み込んだ。2つの他の細胞株(インビボで均一な皮下腫瘍として増殖することが公知)をランダムに選択した(HPAC、CAPAN1)。
【0258】
ブラスチシジン選択条件の決定:すべての細胞株に関して、形質導入を実施する前に、レンチウイルス形質導入後の細胞の選択に必要なブラスチシジン濃度を決定した。膵癌細胞を6ウェルプレートに高密度で接種し、24時間後に80~90%集密度を生じさせた。ブラスチシジン(原液:10mg/ml、Invitrogen)を、0.5~12μg/ml(5希釈段階+ブラスチシジンなし対照)の範囲の漸増濃度でウェルに添加した。3~4日ごとに培地を交換し、細胞を顕微鏡で分析した後、培地を除去した。死細胞の量および生細胞の状態を記録した。細胞を14日間培養した。14日後に100%のアポトーシス細胞を生じさせる最小ブラスチシジン濃度がレンチウイルス形質導入細胞の選択のために好ましかった。確立されたLVT細胞株の各々について必要なブラスチシジン濃度を表4に示す。
【0259】
エンベロープの選択:レンチウイルス形質導入のために、GFP-レンチウイルス対照ベクターpL64B42E-(EF1a-GFP)-ブラスチシジンを種々のエンベロープ粒子(VSV-G、GALV、RD114、Mokola-GおよびRabies-G)にパッケージングした。エンベロープ中に存在するタンパク質および細胞膜の組成物に依存して、標的癌細胞への付着はおおむね効率的である。すべての膵癌細胞株に関して、VSV-Gエンベロープは最も高い形質導入効率を示した(68.5~91.2%)(表5)。その結果、CLDN18.2発現ベクターpL64B42E(EF1α-hクローディン18.2)-ブラスチシジンをVSV-Gエンベロープにパッケージングした。プロデューサー細胞を感染させ、ウイルスを高力価(3.86×10
7粒子/ml)で培地から単離した。ウイルス上清を-80℃で保存した。
【表5】
【0260】
膵癌細胞株のレンチウイルス形質導入:膵癌標的細胞株の感染のために、24ウェルプレートを1×レトロネクチン(登録商標)(20μg/ml、Takara Inc.)200μlで被覆し、プレートをパラフィルム(登録商標)で密封して、4℃で3~16時間インキュベートした。プレートをPBS 200mlで洗浄し、PBS/2%BSAで室温にて30分間ブロックした。プレートを再び洗浄し、15℃にて2500rpmで25分間の遠心分離によってウイルス上清300μlを負荷した。上清を除去し、負荷を3回反復した。プレートを最後にPBSで1回洗浄し、低継代の標的細胞を各ウェルに接種した。すべての膵癌細胞株に関して、24ウェルにつき5×105~1×107細胞を接種した。プレートを37℃で2日間インキュベートした。その後細胞を分離し、FITC標識IMAB362抗体を使用してFACSによって形質導入効率を決定した。細胞を増殖させ、マスターセルバンクを各細胞株について調製した。
【0261】
9.ADCCアッセイ
膵癌標的細胞を2日前にフラスコに接種し、ADCCを開始する日に80~90%集密培養物を得た。膵癌細胞をルシフェラーゼRNAでトランスフェクトし、アッセイ培地(20mM HEPESを添加した表4に記載する培地)50μl中1×104細胞/ウェルの密度で白色96ウェルプレートに接種した。加えて、NUGC-4 sub 10cH11 subE10 Luci#2細胞(8000細胞/ウェル)をすべてのアッセイにおいて陽性対照として接種した。細胞を4~6時間培養した後、抗体および精製PBMCを添加した。
【0262】
PBMCを、健常ドナーから得た新鮮ヒト軟膜から調製した。約3×20~25ml血液をPBSで希釈し(1:2)、50mlファルコンチューブ内で4×15mlのFicol-Paque Plus(GE Healthcare)上に注意深く載せた。勾配を遠心分離した(25分間、700g)。遠心分離後、末梢血単核細胞(PBMC)を相間から収集し、PBS/2mM EDTA中で洗浄して、遠心分離し(5分間、468g)、再びPBS/2mM EDTAに再懸濁して、遠心分離し(10分間、208g)、血小板を除去した。ペレットをPBS/2mM EDTA 50mlに再懸濁し、細胞を計数した。PBMCを遠心分離し(5分間、468g)、膵細胞への添加用には1.6×107細胞/mlの濃度でおよびNUGC-4 sub 10cH11 subE10 Luci#2細胞への添加用には1.28×107細胞/mlの濃度でX-Vivo-15培地に再懸濁した。
【0263】
抗体(IMAB362およびアイソタイプ対照抗体ch78H11 1H6)を10回段階希釈し(4.5倍)、200μg/ml~0.26ng/mlの濃度範囲を生じさせた。各々の希釈物のうち25μlを四つ組で標的細胞に添加した。抗体を含まないPBSを培地および溶解対照ウェルに添加した。その後、PBMC 25μlを各ウェルに添加し(E:T比=40:1)、プレートを37℃、5%CO2で24時間±1時間インキュベートした。
【0264】
翌日、8%トリトンX100/PBS溶液10μlを溶解対照ウェルに添加し、他のすべてのウェルにはPBS 10μlを添加した。最後に、新鮮調製したルシフェリン原液50μl(160mM HEPES、1×PBS、3.84mg/ml D-ルシフェリン(BD Biosciences))を各ウェルに添加し、プレートを暗所で室温にて80分間インキュベートした。生細胞のルシフェラーゼによるルシファーイエローの酸化から生じるルミネセンスを、マイクロプレートリーダー(Infinite200,Tecan,Switzerland)を用いて測定した。細胞傷害のパーセンテージを、以下の式:
【数1】
を用いて計算した。
【0265】
10.CDC
CDCを以下のように実施した。
【0266】
標的細胞(CHO-K1 p740 MACS/FACS(24H5)p3151 Luci#2A5)を96ウェル白色アッセイプレート中のアッセイ培地50μlに接種し(10,000細胞/ウェル)、37℃、7.5%CO2および95%相対湿度で24時間+20分間増殖させた後、試料を添加した。各々の96ウェルアッセイプレートは、3つの異なる陰性対照(熱不活性化血清、IMAB362を含む血清と含まない血清およびアイソタイプ対照抗体(リツキシマブ)を含む血清)ならびに500ng/ml IMAB362を含む健常ヒト血清プール(ロット番号31032011)の陽性対照の総数を含んだ。2番目の培地対照ウェルに0.8%トリトンX100を添加して全溶解を生じさせることにより、付加的な陽性対照を反応の終了時に生成した。96ウェルアッセイプレートの1つは、IMAB362の7回の段階的3.16倍希釈(10000~31.8ng/ml)によって生成した機能的陽性対照を含んだ。この対照は、標的細胞のS字状用量依存性溶解をもたらした。すべての試料を96ウェルのディープウェル希釈プレート中で同時に調製した(それぞれ200μl)。試料をリバースピペッティングによって各ウェルから3回採取し、アッセイプレート中で三つ組みを生成した。各試験物および対照物50μlをアッセイプレートに添加した後、プレートを37℃、7.5%CO2および95%相対湿度で80+5分間インキュベートした。
【0267】
トリトン溶解対照ウェルを除き、各ウェルにPBS 10μlを添加した。各々のトリトン溶解対照ウェルには、0.8%トリトン/PBS溶液10μlを添加した。ルシフェリン基質溶液を調製した(Aqua bidest 6114μl、HEPES(1M)2496μl、1×DPBS 1998μl、D-ルシフェリン原液(12mg/ml))4992μl)。各ウェルにルシフェリン基質溶液50μlを添加した。プレートを37℃、7.5%CO
2および95%相対湿度で45分間インキュベートした。プレートをマイクロプレートリーダーで測定する。
・補体依存性溶解を、式:
【数2】
を用いて計算した。
【0268】
膵癌細胞株を試験するための変更:
・膵癌細胞を、最適化条件を用いてルシフェラーゼRNAでトランスフェクトした。試験した各細胞株について、各ウェルにつき1.5×104細胞を接種した。
・大部分の膵癌細胞株は、分離し、単一化することが困難であるので、1日目にトリプシンを使用した。
・アッセイプレート中の膵癌細胞を37℃、5%CO2で培養した。
・化学療法剤で前処理した細胞に関するCDCアッセイを以下のIMAB362濃度またはアイソタイプ対照抗体としてのch78H11 1H6抗体濃度で実施した:640000、160000、40000、10000、2500、625、156および39ng/ml。
【0269】
11.増殖の阻害
各化学療法剤の用量反応曲線を分析するため、増殖アッセイを実施した。
【表6】
【0270】
細胞を96ウェルプレートに接種し、4~6時間後にゲムシタビンまたはオキサリプラチンを以下の濃度で添加した:1000、500、250、100および20ng/ml。増殖アッセイを37℃、5%CO2で4日間インキュベートした。XTT完全試薬(XTT 50部+カップリング試薬 1部の割合で混合)50μlを添加し、37℃でインキュベートした。吸光度(細胞+上清)の測定を3時間後と4時間後にTecan Safireで行った。100%と設定した中央値と比較して増殖の阻害を計算した。ゲムシタビンおよびオキサリプラチンについてのEC50値をGraphPad Prismプログラムで計算した。
【0271】
12.ADCCまたはCDCのための化学療法剤と膵癌細胞株の培養
DANG 4~6E+06に関しては、細胞を接種し、培地中または培地+1ng/mlゲムシタビンもしくは1ng/mlゲムシタビン+10ng/mlオキサリプラチン中で2日間培養した。1~1.4E+07 Patu8988Sを接種し、10ng/mlゲムシタビンなしまたはこれと共に、もしくはオキサリプラチン100ng/mlと組み合わせた10ng/mlゲムシタビンと共に、またはこれらなしで培養した。
【0272】
ADCCを開始する日に、上述したプロトコルに従い、CLDN18の細胞表面発現を上述したようにFACS分析において決定した。
【0273】
13.細胞周期分析
細胞を6ウェルプレートに塗布し、5~6時間後に化学療法剤を24時間、48時間または3日間添加した。培地中に浮遊する細胞を接着細胞層と合わせ、これをトリプシン処理した。細胞を洗浄した。細胞周期分析を直接開始するか、または事前に上述したように細胞表面染色を行った。細胞をPBS 1mlに再懸濁し、4%PFA 3mlに添加する。細胞を室温で15分間固定した後、細胞をペレット化し、洗浄する。RNアーゼ処理のために細胞をRNアーゼ(10000U/ml)プラス0.05%トリトンX-100 200μlに再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。PBS 1mlを添加し、試料を遠心分離して、PBS/PJ 50μg/ml 200μlに再懸濁した。少なくとも30分後、試料はフローサイトメトリによって分析する準備ができた。DNA含量ヒストグラムを分析するFlowJoソフトウェアを用いて細胞周期分布を決定した。
【0274】
14.アポトーシスアッセイ
指示されている処理後、アポトーシスを、製造者(PharMingen,San Diego,CA)によって推奨されるようにアネキシンV結合によって(検出キットI)またはDNA断片化アッセイによって(Apo-Direct)測定した。簡単に述べると、上清中に浮遊する細胞を接着画分と合わせ、これをトリプシン処理して、その後洗浄した。5E+05細胞のアリコートをアネキシンV-APCおよびPIと共に暗所で室温にて15分間インキュベートした。細胞を直ちにフローサイトメトリによって分析した。生細胞はアネキシンV-APCおよびPIの両方を排除する。初期アポトーシス細胞はアネキシンV-APC陽性およびPI陰性であるが、アポトーシスまたは壊死性細胞死のためにもはや生存可能でない細胞はアネキシンVおよびPIの両方によって陽性染色される。各象限内の染色細胞のパーセンテージを、FlowJoソフトウェア(BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)を用いて定量化した。
【0275】
DNA断片化に基づくアポトーシスアッセイを以下のように実施した。処理した細胞(接着および浮遊)を70%氷冷EtOH中で一晩固定した。洗浄後、106固定細胞をターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ酵素(TdT)およびFITC-dUTPと共に37℃で90分間インキュベートし、DNA断片を標識した。細胞を洗浄し、暗所で室温にて30分間、RNアーゼA/ヨウ化プロピジウム中でインキュベートして、全DNAを染色し、その後フローサイトメトリによって分析した。細胞ダブレットおよびクランプをゲーティングによって分析から除外した。
【0276】
15.インビボ試験
すべてのインビボ実験は、実験動物試験に関する国の規制および倫理指針に従って実施した。
【0277】
15.1 異種移植片の処置
異種移植腫瘍を、雌性Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスの側腹部への、PBS 200μl中の腫瘍細胞の皮下注射によって接種した。腫瘍担持マウスを、0μg、200μg、400μgまたは800μg抗体を週1回i.v.注射するかまたは週2回交互にi.v./i.p.注射して処置した。化学療法剤を週1回または週2回i.p.適用した。腫瘍サイズと動物の健康状態を週2回観測した。化学療法処置の終了時に、腫瘍が>1400mm3の体積に達するかまたは腫瘍が潰瘍性になるまで抗体適用を続けた。腫瘍試料を、その後の分析のために凍結保存するかまたは4%ホルマリンに固定した。
【0278】
15.2 転移アッセイ
種々の膵癌細胞株を、最初に、ヌードマウスにおいて細胞のi.v.適用後に転移を形成するその能力に関して分析した。これらの生着分析のために、5~10匹のマウスの群に1×106細胞および/または2×106細胞を注射し、転移生着および成長の時点を見出すために種々の時点で1匹のマウスを犠死させた。
【0279】
転移処置を各処置群につき10~12匹のHsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウスに関して実施した。これらのマウスに2×106細胞(Patu8988SまたはSuit2-LVT)を静脈内注射した。転移疾患の最初の症状(体重減少、衰弱、息切れ)が現れるかまたは最初のマウスが死亡するとすぐに、すべてのマウスを同時点で犠死させた。
【0280】
組織の調製:生着試験のために、種々の時点でまたはマウスが転移性疾患の明らかな生理的徴候(体重減少、衰弱、息切れ)を示すとすぐに、マウスを犠死させた。マウスのすべての器官を転移に関して肉眼で分析した。Patu8988S細胞およびSuit-2細胞に関してのみ、肺および肺/肝臓がそれぞれ肉眼で見える転移を示した。これらの器官を4つの等しい小片に切断し、2つ(肺:右上葉および左下葉)をゲノムDNA単離のために保存した。その他の2つの小片はホルマリン固定し、IHC分析のために保存した(
図2)。
【0281】
ゲノムDNAの調製およびQ-PCR方法:ゲノムDNAを肺または肝組織から抽出した。対照として、ヒト膵癌細胞Patu8988SからもゲノムDNAを単離し、ならびに注射していない陰性対照マウスのゲノムDNAも単離した。
【0282】
Q-PCR方法は、転移内に存在するヒトDNAの増幅に基づく。マウス肺試料中のヒトDNAの相対検出レベルは転移の量および/または大きさと直接相関する。この方法は、転移が肺の中で均一に拡大せず、時として1つの肺葉がその他の肺葉より強く侵襲されるという事実によってバイアスを受けるので、肺の2つの異なる領域を1つのDNA調製物中で混合した(
図2)。
【0283】
Q-PCR反応を、ヒト第17番染色体中に存在するがマウスDNAには存在しないα-サテライトDNAを特異的に増幅するプライマー対、No.5861 5'-GGGATAATTTCAGCTGACTAAACAG-3'およびNo.5862 5'-TTCCGTTTAGTTAGGTGCAGTTATC-3'を用いて実施した。標準曲線を作成するためおよび陽性対照として、Patu8988S DNAをマウスDNAと混合し、5倍希釈を調製して、マウスDNA中100%、20%、4%、0.8%、0.16%、0.032%および0.0064%ヒトDNAとした。この曲線を使用して、マウス肺組織中に存在するヒト転移DNAの量を計算した(線形回帰)。Q-PCR反応を、マウス肺DNA 20μl(200ng)、Sybr Green(Qiagen)25μl、センスプライマー(10μM)1.6μlおよびアンチセンスプライマー1.6μlならびにH2O 1.8μlから成る最終容量50μl中で実施した。
【0284】
[実施例2]
正常および腫瘍性ヒト膵組織におけるCLDN18.2発現
正常および膵腫瘍組織におけるCLDN18.2の発現レベルおよびパターンを分析するため、FFPE切片の組織学的染色を、2つのマウスモノクローナル抗体試薬を用いて実施した(
図3)。
【0285】
予備パイロット実験を、組織マイクロアレイ(TMA)上でプロトタイプ抗体35-22Aを使用することによって実施した。TMAの主要な難点は、スポットした組織の質の変動性および試料の小さなサイズ、したがって試料の特徴を代表しないことである。これが十分に最適化されない染色プロトコルと一緒になって、陽性症例の過小評価をもたらした可能性がある。
【0286】
主実験は抗体43-14Aを用いて実施した。これらの染色を、(TMAと比較して)より大きい、腫瘍細胞の存在に関して前評価した組織切片に関して実施した。
【0287】
膵管から発生する前癌性病変を国際膵上皮内腫瘍(pancreas intraepithelial neoplasia(PanIN)システム(PanIN-1A、PanIN-1B、PanIN-2、PanIN-3サブタイプ)に従って順位付けることができる。
【0288】
PanIN-1病変(
図4A)は、扁平で、丈の高い円柱状細胞から成り、基底部に局在する核および豊富な核上ムチンを有する。核は小さく、円形から楕円形の形状で、基底膜に対して垂直方向である。非腫瘍性の扁平な過形成病変と異型性を伴わない扁平な腫瘍性病変との間には組織学的重複が存在する。
【0289】
PanIN-1Bサブタイプの病変は、乳頭状、微小乳頭状または基底部に偽重層化した構造を有し、その他の点ではPanIN-1Aと同じである(Hruban et al.Am J Surg Pathol.2001 May;25(5):579-86.)。
【0290】
PanIN-2病変(
図4B)は、扁平または乳頭状であり、極性の多少の喪失、核の密集、拡大した核、偽層化および過染色性を含む、典型的な核異常を有する。有糸分裂はまれであるが、存在する場合は非管腔(頂端でない)であり、異型ではない(Hruban et al.Am J Surg Pathol.2001 May;25(5):579-86)。
【0291】
PanIN-3病変(
図4C)は、通常は乳頭状または微小乳頭状であるが、まれに扁平であり得る。真性の篩状の、上皮細胞の小さなクラスターの管腔内への出芽および管腔壊死はPanIN-3の診断を示唆する。病変は、核の極性喪失、異栄養性杯細胞(管腔に向かう核と基底膜に向かう粘液性細胞質を有する杯細胞)、時として異常であり得る有糸分裂、核の不規則性および顕著な(マクロ)核小体を特徴とする(Hruban et al.Am J Surg Pathol.2001 May;25(5):579-86)。
【0292】
前癌性組織におけるCLDN18.2の発現を、様々な供給源の組織試料を使用して43-14A抗体を用いて分析した。
【0293】
CLDN18.2は、PanIN-1、PanIN-2およびPanIN-3サブタイプのPanIN構造においてしばしば検出され、前癌性病変におけるCLDN18.2の早期発現を明らかにし(
図4)、これは後期段階で保存される。これに対し、膵臓の管構造を含む正常膵組織試料中では発現を認めなかった。
【0294】
結論として、CLDN18.2は、膵管における初期悪性組織学的変化の早期マーカーである。
【0295】
原発膵癌におけるCLDN18.2の発現を評価するために2つの試験を実施した。パイロット試験のために合計141の原発膵癌症例に関するいくつかのTMAをモノクローナルCLDN18.2特異的抗体35-22Aで染色した。分析したTMAの全体的な質は満足のいかないものであった。多くのスポットが回収の間に部分的に失われ、ヘマトキシリンでの不均一な対比染色は、FFPE組織の最適以下の組織処理を示唆した。
【0296】
全体として染色症例の>48.9%がCLDN18.2に対して陽性であり、膵管腺癌の49.2%(65/132)、腺房細胞癌の50%(1/2)および7例の神経内分泌癌のうち3例が含まれた(表7)。腫瘍細胞膜を他の細胞型に関するバックグラウンドなしで染色した(
図6)。
【0297】
さらに、本発明者らは、CLDN18.2発現の強度と腫瘍内の染色腫瘍細胞の割合との間に相関を認めた(表8、
図5)。
【表7】
【表8】
【表9】
【0298】
2番目の試験は、品質管理組織切片を使用して高感受性抗体43-14Aに関して最適化染色プロトコルで実施した。
【表10】
【0299】
合計で42の原発膵管癌試料を分析した。これらの約90%(42例のうち38例)はCLDN18.2に関して陽性であり(表10)、その大部分(>60%)が+++の強いシグナル強度を示した(
図7、表11)。ここでもCLDN18.2発現レベルと陽性腫瘍細胞の割合との間に相関が認められた。分析した症例の大部分(62%)がグレード3の腫瘍であった(表12)。
【表11】
【表12】
【0300】
膵癌は、大部分の患者において進行した病期で診断される。患者の腫瘍は既にリンパ節および他の器官、特に肝臓に転移している。主試験では、CLDN18.2特異的43-14A抗体を使用して、膵癌のリンパ節および肝転移の79のFFPE組織試料を免疫組織化学アッセイにおいて分析した。
【0301】
リンパ節転移の70.5%(31/44症例)および遠隔肝転移の68.6%(24/35症例)は、CLDN18.2に関する明確な腫瘍細胞染色を示した(表13)。陽性腫瘍細胞の染色パターンは膜型であり、一部の症例では付加的なより弱い細胞質シグナルを伴った(
図9)。原発腫瘍分析の結果と一致して、転移試料においてCLDN18.2発現レベルとCLDN18.2陽性腫瘍細胞の割合との間に相関が認められた(
図8)。
【0302】
分析した腫瘍のグレードとCLDN18.2の発現レベルまたは陽性腫瘍細胞の割合との間に相関は見出せなかった。
【表13】
【0303】
陽性原発腫瘍症例のCLDN18.2発現が同じ患者の転移において保存されているかどうかを試験するため、マッチする原発癌/リンパ節転移のダブレットを、抗体43-14Aを用いてスクリーニングした。
【表14】
【0304】
27の分析した対症例のうち25例(92.5%)において、原発性腫瘍とリンパ節転移対の両方がCLDN18.2に関して陽性であった。1症例では両方の組織が陰性であり、他の1例では原発性腫瘍はCLDN18.2陽性であったが、転移は陰性であった。
【0305】
26の陽性試験ダブレットのうち21(80.7%)において、原発性腫瘍細胞と転移性腫瘍細胞シグナル強度は同じであった。5例では、シグナル強度は+++から++に低下した。
【0306】
25の対組織のうち11(44%)において、陽性腫瘍細胞の数は、原発性腫瘍と比較して転移ではより低かった(表14)。
【0307】
要約すると、原発性腫瘍細胞が転移段階へと進行する場合、CLDN18.2発現は保存されると思われる。リンパ節転移における全体的な強度および陽性腫瘍細胞の割合は、原発性腫瘍と比較してわずかだけ低かった(
図10)。
【0308】
原発性腫瘍に由来する少数の患者組織試料に関して、リンパ節転移および肝転移が入手可能であった。これらのマッチするトリプレットを、遠隔転移におけるCLDN18.2発現の保存を調べるために染色した。6つのマッチするトリプレットを抗体43-14Aを用いて分析した。
【表15】
【0309】
6つのトリプレットのうち3つでは、3つの組織標本すべてがCLDN18.2についての陽性スコアに関して同等であった(
図11)。3症例では、原発性病変において腫瘍細胞の一部がCLDN18.2陽性であったが、転移性病変はCLDN18.2染色を示さなかった(表15)。
【0310】
[実施例3]
インビトロおよびインビボモデルならびに膵癌モデルのために使用したヒト膵癌細胞株における標的発現
細胞株の供給源
この前臨床評価試験の主要目的は、適切なモデル系においてIMAB362処置の阻害作用を分析することであった。IMAB362作用のインビトロおよびインビボ特性付けに使用できるCLDN18.2陽性細胞株を同定するため、26の市販の膵癌細胞株のセットをCLDN18.2発現に関してスクリーニングし、詳細に特性付けた。実験的使用のためのセルバンクを、各々の細胞株について到着後直ちに調製した。これらは、原発性膵腺癌(10、そのうち6は粘液性腺癌)、原発癌(4)、肝臓(5)もしくは脾臓(1)への膵腺癌転移に由来するか、または腹水(5)から単離された(表16参照)。これらの細胞株のいくつか(8)は、CLDN18.2を発現するようにレンチウイルスで形質導入された。
【表16】
【0311】
ヒト膵癌細胞株におけるCLDN18.2転写産物発現
CLDN18.2を発現する膵細胞株を同定するため、CLDN18.2のエクソン1に結合する正プライマーおよびCLDN18のエクソン3に結合する逆プライマーを使用して、定量的リアルタイムPCR(RT-PCR)で転写産物レベルを測定した。内因性にCLDN18.2を発現するヒト胃癌細胞株KATO-IIIおよびCLDN18.2陰性乳癌細胞株SKBR-3を、それぞれ陽性対照および陰性対照として含めた。RT-PCRは、膵癌細胞株DANG、Panc03.27、Panc05.04、Patu8988SおよびYAPCにおいて1×10
5を超える相対レベルで明確な内因性CLDN18.2発現を明らかにした。興味深いことに、Patu8988S細胞は、胃癌KATO-III細胞と同等のCLDN18.2発現レベル(約1×10
8)を示した(
図12A)。結論として、本発明者らは、22の膵癌細胞株のうち5つにおいて堅固なCLDN18.2発現を検出した。
【0312】
内因性細胞株に加えて、CLDN18.2を異所性に発現するLVT細胞株を転写産物レベルに関して分析した(
図12A)。8つのLVT細胞株のうち6つに関して、1×10
8を上回る相対的CLDN18.2発現レベルを検出した。HAPC-LVTおよびSuit2-LVT細胞においてのみ、発現レベルは1×10
5より上であった。
【0313】
本発明者らは、CLDN18.2発現がインビトロ培養の間安定であるかどうかを検討した。Patu8988S、Panc05.04細胞およびレンチウイルス形質導入細胞株Suit2-LVT、MiaPaCa2-LVTおよびPatu8902-LVTを15回まで継代し、CLDN18.2転写産物を分析した(
図12B~D)。本発明者らは、継代数が高くなると共に内因性細胞と形質導入細胞の両方においてCLDN18.2発現の喪失を認めた。発現の喪失は形質導入細胞において最も高かった。そのため、インビトロ実験には可能な限り初期継代を使用し、腫瘍異種移植片におけるCLDN18.2の発現を以下の生着実験において確認した。
【0314】
ヒト膵癌細胞株におけるCLDN18.2タンパク質発現
全細胞溶解物におけるCLDN18.2の検出
転写産物分析に加えて、CLDN18.2の発現をウェスタンブロット法とIFによってタンパク質レベルで分析した。ウェスタンブロット分析のために、26の膵癌細胞株の細胞溶解物を、CLDN18特異的抗体、抗クローディン18(C末端)を用いてウェスタンブロット法(WB)によって検討した。SKBR-3細胞の溶解物を再び陰性対照として使用し、CLDN18.2で安定にトランスフェクトしたHEK293細胞の溶解物(HEK293-p740)を陽性対照として使用した。ここで、本発明者らはPatu8988S、DANGおよびPanc05.04細胞における高タンパク質発現を検出し、RNAデータを確認した。Panc03.27およびBxPC3細胞溶解物においてかすかなバンドが検出可能であった。RNAレベルで陽性と同定されたYAPC細胞は、ウェスタンブロット法ではより小さなサイズのかすかなバンドを示した。他のすべての細胞株は陰性であった(
図13)。
【0315】
膵癌細胞におけるCLDN18の細胞発現
裏付けとなるタンパク質発現データを得るため、細胞の固定および透過処理後に、検出のために抗体35-22Aを使用して、膵癌細胞株を免疫蛍光法(IF)によって検討した。IF分析は、先のRNAおよびタンパク質データを確認し、大部分の膵癌細胞株がCLDN18.2染色に関して陰性であることを示した(
図14)。少数の細胞株(AsPC1、DANG、HUP-T3、HUP-T4、Panc01など)において核ドットを認め、これはおそらく染色による人為的産物である。RNAおよび/またはタンパク質レベルで低いCLDN18.2を特徴とすると同定されたDANG、Panc03.27およびBxPC3細胞は、より低い検出感度を有するIF分析では陰性であった。これに対し、Panc05.04、Patu8988SおよびKATO-III胃癌対照細胞の膜および細胞質は、CLDN18.2に関して強く陽性に染まった。染色強度は各々の細胞について異なり、また集団の中で陰性細胞も検出された(
図14JおよびN)。LVT細胞株において、本発明者らは、全細胞の80%を超える強い膜染色を認めた。
【0316】
膵癌細胞におけるCLDN18.2発現の確認
CLDN18.2の発現を確認するためおよび細胞表面上のこの標的の量を評価するために、内因性細胞株Panc05.04およびPatu8988SならびにLVT細胞株を、ネイティブ染色プロトコルを用いてIMAB362で染色した。Patu8988S、Panc05.04およびKATO-III胃癌対照細胞のIMAB362による染色はより弱く、陽性細胞のパーセンテージは35-22Aでの染色細胞と比較して低かったが(
図16A~F)、IF分析は、CLDN18.2が膵癌細胞の表面で発現されることを確認した。CLDN18.2を異所性に発現する8つのLVT膵癌細胞株に関して、ほとんどのすべての細胞上で明確な膜染色が認められた(
図16G~Lで6つのLVT細胞株について示すように)。
【0317】
結論として、CLDN18.2発現分析は、内因性発現膵癌細胞株Panc05.04およびPatu8988Sならびに8つすべてのレンチウイルス形質導入細胞株BxPC3-LVT、CAPAN1-LVT、DANG-LVT、MiaPaCa-2-LVT、Suit-2-LVT、Patu8902-LVTおよびYAPC-LVTを適切なCLDN18.2陽性細胞モデル系として同定した。
【0318】
膵癌異種移植および転移モデルの開発
適切な皮下膵癌腫瘍モデルの同定のための生着試験
種々の膵癌細胞株に関する合計37の生着試験を実施し、IMAB362のインビボ効果を試験するための適切な皮下異種移植モデルを同定した。試験したすべての細胞株のうちで、異所性にCLDN18.2を発現するBxPC3-LVT、CAPAN1-LVT、MiaPaCa-2-LVT、HPAC-LVT、DANG-LVTおよびYAPC-LVT細胞株を皮下異種移植モデルのために選択し、これらは高い生着率と均一な腫瘍増殖を示した。加えて、内因性にCLDN18.2を発現する皮下異種移植モデルPatu8988SおよびDANG細胞株を、インビボでIMAB362効果を試験するために選択した。Panc05.04細胞のS.c.注射は皮下腫瘍の形成をもたらさなかった。
【表17A】
【表17B】
【0319】
適切な転移モデルの同定のための生着試験
転移形成へのIMAB362の作用を検討するため、転移性癌のモデルをヌードマウスにおいて確立した。膵癌細胞株を、i.v.適用後に転移するその能力に関して分析した。CAPAN1-LVT、MiaPaCa-2、Patu8988S、Patu8902およびSuit-2細胞を、Mohanty and Xu 2010によって記述されたようにヌードマウスの尾静脈に注射した。転移生着の時点および増殖速度を測定するため、マウスを種々の時点で犠死させた(表18)。
【表18】
【0320】
Patu8902細胞およびCAPAN1-LVTの生着分析は、大部分のマウスがほとんどすぐに死亡したため、実施不可能であった。CAPAN-LVT細胞で攻撃誘発した5匹の生存マウスの肺と肝臓において、72日後に肉眼で見える転移は検出されなかった。Suit-2およびMiaPaCa2細胞注射は、対照的に、良好に耐容された。これらのマウスの肺組織を注射後種々の時点でIHC分析において分析した。MiaPaCa-2細胞で攻撃誘発したマウスでは、73日後まで肺において転移は検出されず、そのためこの細胞株はIMAB362処置モデルとして選択しなかった。Suit-2癌細胞はマウスの肺に転移した。多数の病巣が組織全体にわたって検出された。そのため、レンチウイルスでCLDN18.2を形質導入したSuit-2-LVT細胞株を、転移形成へのIMAB362処置の作用を分析するためのモデル系として選択した。
【0321】
Suit-2に加えて、CLDN18.2を内因性に発現するPatu8988S細胞の転移を形成する能力も分析した。生着検査を、マウスにつき2つの異なる細胞数(1×10
6、2×10
6)をi.v.注射して実施した。肺および肝臓を表18に示す種々の時点で単離した。最初に、得られた種々の組織を、Q-PCRを使用して分析した。70日目までに得られた肺および肝臓を、第17番染色体のヒトα-サテライトDNAを増幅することによって分析した。肺の結果は、経時的なマウス肺におけるヒトDNAのパーセンテージの明らかな増加を示し、これは注射した細胞数に依存しなかった。1×10
6または2×10
6細胞のi.v.適用により、70日後に5.8%および3.7%のヒトDNAをそれぞれ検出することができた(
図19)。肝臓では、ヒトDNAはほとんど増幅されなかった。70日後にパーセンテージはわずかに増加したが、まだ0.005%未満であった。
【0322】
Patu8988S転移におけるCLDN18.2発現を確認するため、マウス組織中のヒト細胞の検出のための抗ヒトMHCクラスI抗体ならびに抗クローディン18(中央)抗体を使用して肺組織を免疫組織化学的に染色した。MHC-I染色は、明らかな転移病巣がマウス肺組織切片において検出可能であるが、肝切片では検出されないことを示した(
図20)。さらに、これらの病巣中の細胞の膜を抗クローディン18(中央)抗体で染色し、これらの細胞におけるIMAB362標的タンパク質の明らかな発現を示した。そのため、Suit2-LVTモデルに加えて、この内因性転移モデルをIMAB362処置の検討のために選択した。
【0323】
[実施例4]
IMAB362媒介性細胞死滅作用
IMAB362架橋は効率的なアポトーシスを誘導する
細胞表面標的への抗体結合は、細胞死を直接生じさせる異常なシグナル伝達を開始させ得る。そのようなシグナル伝達事象は、標的エピトープ、結合の原子価、および結合が標的の架橋に関連するかどうかに依存し得る。いくつかのCD20陽性リンパ腫細胞株に関して、例えばリツキシマブによるアポトーシスの誘導は架橋条件下でのみ認められる。そのような架橋は、高親和性Fc受容体陽性免疫細胞が抗体被覆された腫瘍細胞と相互作用する場合にインビボで起こり得る。
【0324】
IMAB362の架橋は、TUNELアッセイによって測定されるようにヒト胃癌細胞NUGC-4およびKATO-IIIにおいて18~42時間以内に直接のアポトーシスを誘導する。アポトーシスの程度は、抗体の用量および癌細胞上の標的発現のレベルと相関する。ゲムシタビンでの処置は、腫瘍細胞の細胞周期停止、次いでアポトーシス性細胞死をもたらす。ゲムシタビンで処置した膵腫瘍細胞のアポトーシスを
図21に示す。
【0325】
膵癌細胞に対するIMAB362媒介性ADCC活性
IMAB362は、ナチュラルキラー細胞などのFcγ受容体陽性免疫エフェクター細胞を動員し、活性化するうえで極めて強力である。標的細胞へのIMAB362の結合は、エフェクター細胞のFcγ受容体が抗体に結合したときにエフェクター細胞によって分泌されるグランザイムおよびパーフォリンによる抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導する。この作用機構の影響は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の存在下でIMAB362と共に24時間インキュベートすることにより(エフェクター対標的比=40:1)、ルシフェラーゼ陽性およびCLDN18.2陽性胃癌細胞(NUGC-4およびKATO-IIIなど)に関して以前に示された。200μg/mlまでのIMAB362の適用は80~100%の最大溶解率を生じさせた。
【0326】
ここで、本発明者らは、膵癌細胞株に対するIMAB362のADCC活性を測定した。漸増濃度のIMAB362を40:1のE:T比で種々の細胞株と共にインキュベートした。各実験において種々のドナーのPBMCを添加した。すべての細胞株についての結果を表19に要約する。5つの最初に同定されたCLDN18.2陽性膵細胞株のうちで、Patu8988S、Panc05.04およびDANGだけがIMAB362およびPBMCの添加によって効率的に死滅化された(
図22A)。CLDN18.2表面発現は、Panc05.04およびDANGについてはFACSで検出可能ではなかったが、発現レベルはエフェクター細胞依存性死滅を引き起こすのに十分なだけ有意である(EC
50:Patu8988S:0.01~1.4μg/ml、DANG/Pan05.04:0.1~38μg/ml)。これらのデータから、相対的RNAレベル>5.5×10
5を発現する細胞だけが効率的に溶解されると結論付けることができる。
【0327】
ADCC分析をLVT膵癌細胞株およびそれらの対応する親細胞株に関しても実施した(
図22B~F)。CLDN18.2陽性標的細胞だけがIMAB362およびPBMCによって死滅化されるので、ADCCはIMAB362の標的への特異的結合に厳密に依存する。IMAB362によってヒト膵癌細胞において誘導される半最大死滅率および最大死滅率はPBMCドナーの間で異なり、CLDN18.2の発現レベルに影響を及ぼす細胞の継代数にも依存した。
【0328】
標的細胞の半最大死滅率ならびに最大死滅率を引き起こすIMAB362濃度を
図22G~Hに示す。LVT膵癌細胞株は、少量の抗体の添加後に高い率で死滅したが、DANGおよびPanc05に関しては、約50%の最大死滅率に達するのに最も高い抗体濃度が必要である。Panc05.04については、サブクローン15D3(Panc05.04の限界希釈およびFACSによって選択したCLDN18.2陽性クローン)に関して得られた結果を図面に含めており、LVT細胞株と同等のADCC溶解率を示す。残念ながら、このクローンにおけるCLDN18.2発現は、細胞を継代した後インビトロで急速にサイレンシングし、したがってこのクローンはさらなる実験には使用しなかった。
【0329】
膵癌細胞に対するIMAB362媒介性CDC活性
ADCCアッセイにおいてIMAB362で死滅した膵癌細胞を、IMAB362の補体依存性溶解活性に対する感受性に関して分析した。加えて、LVT細胞株および親株をCDCにおいて試験した。
【0330】
CDC活性は、抗原とIgMもしくはIgG抗体の複合体によって(古典経路)または微生物表面によって(第二経路)活性化される。古典経路では補体C5がC5bに変換される。アナフィラトキシンC3a、C4aおよびC5bが放出され、C5b、C7、C8およびC9の連続的な結合によって膜侵襲複合体(MAC)が形成される。この経路は、可溶性であるが膜結合性でもあるタンパク質(例えばCR1、DAF、MCP、CD59、CD55、CD46)によって阻害され、自己組織を保護する。
【0331】
CLDN18.2で安定にトランスフェクトしたCHO-K1細胞(p740)およびルシフェラーゼを各アッセイにおいてアッセイ陽性対照として使用した(
図23A)。細胞株DANG、BxPC3、YAPC、Patu8988S、Panc05.04、CAPAN1およびSuit2は、IMAB362および健常ヒト血清プールの添加によって溶解されなかった(
図23B)。DANG、Patu8988SおよびPanc05.04細胞は、先のすべての実験で示されたようにCLDN18.2陽性であるが、これらの細胞は補体依存的に溶解されなかった。これは、腫瘍細胞が1またはそれ以上の膜結合補体阻害性タンパク質(例えばCD46、CD55およびCD59)を過剰発現するという事実に起因する可能性が最も高い(Geis et al.,Curr Cancer Drug Targets,2010 10:922-931)。しかし、腫瘍細胞上のこれらの阻害性タンパク質の発現が抗体療法の臨床転帰に影響を及ぼすかどうかはまだ議論の余地がある(Dzietczenia et al.Med.Oncol.2010,27:743-6;Weng and Levy at al.,Blood 2001 98:1352-7)。
【0332】
内因性細胞株に加えて、すべてのLVT細胞株をCDCアッセイにおいて試験した。
図23に示すように、MiaPaCa-2-LVT、Suit2-LVTおよびCAPAN1-LVTへのIMAB362および血清の添加は、0.3~2.6μg/mlの範囲のEC
50値で用量依存的溶解を生じさせた。
【0333】
ヒト膵癌細胞株におけるCLDN18.2発現の概観
【表19】
【0334】
[実施例5]
膵癌異種移植モデルへのIMAB362の効果
41の試験した膵癌異種移植モデルのうち10を、インビボでのIMAB362の効果を検討するために選択した。CLDN18.2の高発現を有する膵異種移植モデルを使用して、IMAB362処置は高い抗腫瘍作用を示した。これを、左側腹部の皮下にBxPC3-LVTまたはMiaPaCa-2-LVT異種移植片を担持するマウスの処置によって検討した。IMAB362 200μgの週2回の注射による腫瘍接種の3日後に処置を開始した。IMAB362処置マウスは、生理食塩水対照で処置したマウスと比較して有意に阻害された腫瘍増殖を示した。加えて、IMAB362処置マウスの腫瘍増殖抑制は、平均生存期間の延長をもたらした(
図24および
図25)。IMAB362の効果は処置の期間と相関する。早期時点でのIMAB362処置の開始は、確立された腫瘍への作用を検討するための後期の処置開始よりも、腫瘍増殖阻害に増大された作用を及ぼした。さらに、IMAB362の抗腫瘍作用はCLDN18.2標的発現の量に依存した。DANGおよびPatu8988S異種移植片のような低いCLDN18.2発現の腫瘍のIMAB362媒介性増殖阻害は、CLDN18.2を高発現する異種移植腫瘍を使用した腫瘍増殖の阻害と比較して低かった。
【0335】
[実施例6]
膵転移マウスモデルの処置
【表20】
【0336】
Suit2-LVT転移モデル:
マウスに2×106のSuit2-LVT細胞を静脈内注射し、表20に示すようにIMAB362 200μg、アイソタイプ対照抗体(IMAB027)またはPBSで処置した。35日後、最初のマウス(アイソタイプ対照群)が死亡した。その結果、すべてのマウスを42日目に犠死させ、IHCおよびQ-PCR分析のために肝臓を採取した。
【0337】
マウスの肺におけるヒトDNAのQ-PCR分析を三つ組みで少なくとも2回反復した。得られたCt値とヒトDNAのパーセンテージの計算は、マウスをIMAB362で処置した場合、PBSおよびアイソタイプ対照処置の両方と比較して肺において検出されるSuit2-LVT転移の有意の減少(P<0.05)を明らかにした(
図26A)。これらの結果を確認するため、肺試料の組織切片を調製し、MHC-I抗体を用いて染色した。ImageJ Programを用いて肺切片中の陽性染色細胞の表面を計算した。IMAB362処置に関して、PBS処置と比較して有意の阻害(P<0.05)が認められ、Q-PCRで得られた結果を確認した。アイソタイプ対照抗体については、しかしながら、差は有意ではなかった(
図26B)。この不一致は組織処理の相違に起因する可能性が高い:組織切片のIHC処理はQ-PCR分析に比べて肺の非常に小さな切片への洞察だけを提供し、Q-PCR分析にはゲノムDNAを組織の半分から抽出する。
【0338】
組織処理に加えて、結果が、CLDN6を標的とするアイソタイプ対照抗体の予期せぬ阻害作用を示している可能性がある。この選択肢を検討するため、Suit2-LVT細胞をFACSにおいてCLDN6発現およびIMAB027結合に関して分析した。Suit2-LVT細胞への200μg/mlのIMAB362の添加は細胞への強力な結合を確認し、一方200μg/mlのIMAB027の添加はこれらの標的細胞への抗体の弱い結合をもたらし、CLDN6が実際にこれらの細胞で弱く発現されることを示した。これらの結果は、少なくとも2つの因子(組織処理および弱いIMAB027阻害)がアイソタイプ対照抗体に関して認められた不一致をもたらしたことを示唆する。
【0339】
Patu8988S転移モデル
インビボでのPatu8988S転移の発症および増殖へのIMAB362処置の作用を分析するため、群につき10匹のマウスに2×10
6のPatu8988S細胞を注射した。最初の実験は、IMAB362処置をPBS処置マウスと比較することによって実施した。各々の群において1匹のマウスが細胞の注射後直ちに死亡した。その他の18匹のマウスでは、生着実験と比較して転移が非常に迅速に発症した。63日後、PBS群の最初の2匹のマウスを健康状態の悪化のために犠死させた。他のすべてのマウスは65日後に犠死させた。肺の光学的分析は、肺組織全体にわたって大きな転移を明らかにした。転移の量をQ-PCR実験で分析した(
図27)。結果は、IMAB362が肺組織における転移の増殖を阻害することを示す。
【0340】
各群につき11匹のマウスに関する2番目の実験は、IMAB362処置をアイソタイプ対照(リツキシマブ)処置と比較することによって実施した。この実験では、転移は、生着実験で認められたように緩やかに発症した。それにもかかわらず、整合性のためにこの2番目の実験は65日後に終了させた。再び肺組織をQ-PCRにおいて分析し、やはりIMAB362は転移の成長を低減させた。IMAB362群の1匹のマウスが異常値と同定され、この異常値を除外することにより、ほぼ有意の(P=0.0588)阻害となった。これらのデータは、Suit2-LVT転移実験について述べたようにIHC表面分析によって確認された。ここでも同じ異常値を同定することができ、t検定でこの値を除外すると、IMAB362の阻害はやはり有意の境界(P=0.0691)であり、前記異常値は同じマウスのものであった。
【0341】
[実施例7]
化学療法と併用したIMAB362の一次薬力学
ゲムシタビンおよびオキサリプラチンに対する膵癌細胞の感受性
CLDN18.2を構成的に発現する膵癌細胞株(DANG、Patu8988S)およびCLDN18.2を安定に形質導入した細胞(MiaPaCa-2-LVT、BxPC3-LVT)を使用して、化学療法剤オキサリプラチンまたはゲムシタビンと併用したIMAB362の作用機構を検討した。
【0342】
化学的に、ゲムシタビン(Gemzar、Eli Lilly&Coによって市販されている)はヌクレオシド類似体である。5-フルオロウラシル(5-FU)およびピリミジンの他の類似体と同様に、ゲムシタビンの三リン酸類似体は、DNA複製の間に核酸の構築ブロックの1つを置換する。この工程は、1個の付加的なヌクレオシドだけしか「欠陥」ヌクレオシドに結合することができないので、腫瘍増殖を停止させ、アポトーシスをもたらす。
【0343】
オキサリプラチンは、DNA中で鎖間架橋および鎖内架橋の両方を形成することによって機能する。DNA中の架橋はDNAの複製および転写を妨げ、細胞死をもたらす(Graham,Joanne;Mushin,Mohamed;Kirkpatrick,Peter(January 2004)."Oxaliplatin".Nature Reviews Drug Discovery 3(1):11-2)。
【0344】
ゲムシタビンおよびオキサリプラチンの用量反応曲線は、試験した膵腫瘍細胞株の種々の感受性を示した(
図28および
図29)。
【表21】
【0345】
Patu8988Sの細胞増殖を阻害するには、高濃度のゲムシタビン(IC50>100ng/ml)またはオキサリプラチン(IC50>500ng/ml)が必要である。DANGおよびBxPC3-LVTはゲムシタビンに非常に鋭敏に反応するが、オキサリプラチンには鋭敏に反応しない。MiaPaCa-2-LVT細胞はオキサリプラチンに対して最も鋭敏に反応するが、ゲムシタビンでの処置に対してはより感受性が低い(
図28、
図29および表21)。
【0346】
膵癌細胞株におけるCLDN18.2発現への化学療法剤の作用
IMAB362結合が引き金となる作用機構は、その標的であるCLDN18.2の存在と細胞表面密度に厳密に依存する。ゲムシタビン(Gem)ならびにオキサリプラチンと組み合わせたゲムシタビン(GemOx)でのDANGおよびPatu8988S細胞の前処置は、未処置細胞および化学療法で前処置した細胞のRT-PCR(
図30)およびウェスタンブロット(
図31)分析によって示されるCLDN18.2のmRNAおよびタンパク質レベルの上昇をもたらした。その結果として、GemまたはGemOxで前処置した膵癌細胞株の表面上のIMAB362によって標的可能なCLDN18.2タンパク質の量は、フローサイトメトリによって示されるように増大した(
図32)。
【0347】
ゲムシタビンでのDANGおよびPatu8988Sの処置はCLDN18.2の上方調節を導く。Patu8988Sは、GemによるCLDN18.2の強力な上方調節およびGemOxによるより低い上方調節を示す。
【0348】
細胞周期およびCLDN18.2発現への化学療法化合物の作用
細胞周期進行とは、細胞における1つの有糸分裂と別の有糸分裂との間の一連の事象を指す。静止期(G0/G1)に続いてDNA合成期(S)、次に細胞拡大期(G2)、およびDNA複製(M)の後に細胞の2個の子孫細胞への分裂が続く。細胞機構へのいかなる干渉も、細胞周期のいずれの期においてもすべての周期進行を阻止し得る。例えば、特定の化学療法剤は、G2もしくはM期のいずれかまたはG2とM期の両方(G2/M)で進行をブロックし得る。
【0349】
DANGまたはPatu8988Sのゲムシタビン処置は、S期での細胞周期停止をもたらす(
図33、
図34)。Gemと共に培養したPatu8988Sを分析した。ゲムシタビン処置は細胞周期停止をもたらすだけでなく、CLDN18.2の発現も変化させる(
図34B)。ゲムシタビン処置後のCLDN18.2密度の変化は、S期の増殖中の細胞をG0/G1期の静止細胞と比較した場合さらに一層大きい(
図34C)。Patu8988S細胞では、CLDN18.2は細胞周期のすべての期で発現される。ゲムシタビンでの処置後、その発現はさらに増大し、細胞当たりのCLDN18.2の最高レベルはS期細胞集団で認められる。
【0350】
腫瘍細胞表現型のこの変動は、治療用抗体の生物学的有効性に有意の影響を及ぼす。ADCCおよびCDCは用量関連性であり、それゆえ標的構造であるCLDN18.2の増加は、標準的な化学療法レジメンに相乗作用的利益を提供する。
【0351】
ヒト胃腫瘍細胞株、Kato III細胞を、20%FCS(Perbio)および2mM Glutamax(Invitrogen)を含有するRPMI 1640培地(Invitrogen)中で37℃および5%CO2にて細胞増殖抑制性化合物と共にまたは前記化合物なしで培養した。5-FU(NeoCorp AGからのNeofluor)を10または100ng/mlの濃度で試験し、オキサリプラチン(Hospira)を50または500ng/mlの濃度で試験した。8×105 Kato III細胞を、培地交換なしで96時間培養するか、または72時間培養し、次に標準培地で24時間培養して、6ウェル組織培養プレート中で37℃、5%CO2にて細胞を細胞周期停止から解除した。細胞をEDTA/トリプシンで採取し、洗浄して、分析した。
【0352】
CLDN18.2細胞の細胞外検出のために、細胞をモノクローナル抗CLDN18.2抗体IMAB362(Ganymed)またはアイソタイプがマッチする対照抗体(Ganymed)で染色した。二次試薬としてDianovaからのヤギ抗ヒトIgG-APCを使用した。
【0353】
細胞周期の段階を細胞のDNA含量の測定に基づいて決定した。これは、細胞周期のG1、SまたはG2期の細胞を識別することを可能にする。S期にはDNA複製が起こり、G2期には細胞が増殖し、有糸分裂の準備をする。細胞周期分析を、BD BiosciencesからのCycleTEST PLUS DNA Reagent Kitを使用して製造者のプロトコルに従って行った。フローサイトメトリの獲得および分析は、BD FACS CantoII(BD Biosciences)およびFlowJo(Tree Star)ソフトウェアを用いて実施した。
【0354】
図35aおよびb中の欄は、細胞周期のG1、SまたはG2期の細胞のそれぞれのパーセンテージを示す。培地で培養したKato III細胞は、主としてG1期で細胞周期停止を示す。5-FUで処置した細胞は主としてS期でブロックされる。オキサリプラチンで処置したKato III細胞は、主としてG1およびG2期の細胞の富化を示す。
図35cに見られるように、S期またはG2期での細胞周期停止はCLDN18.2の安定化または上方調節をもたらす。細胞が細胞周期のいずれかの段階から解除されるとすぐに(
図35b)、Kato III細胞の細胞表面でのCLDN18.2発現が上方調節される(
図35d)。
【0355】
Kato III細胞をイリノテカンまたはドセタキセルで4日間前処置し、CLDN18.2発現および細胞周期停止に関して分析した。イリノテカンでの細胞の処置は、細胞増殖の用量依存的阻害およびS/G2期での細胞周期停止を生じさせた(
図36)。ドセタキセルでの細胞の処置は、細胞増殖の用量依存的阻害およびG2期での細胞周期停止をもたらした(
図36)。
【0356】
IMAB362が誘導する抗体依存性細胞傷害(ADCC)への化学療法の作用
IMAB362媒介性ADCCへのゲムシタビン(Gem)またはゲムシタビン+オキサリプラチン(GemOx)の作用を検討するため、構成的にCLDN18.2を発現する膵癌細胞株Patu8988SおよびDANGに関して一連の実験を実施した。前処置した細胞のIMAB362媒介性細胞溶解についての用量反応曲線を培養培地と比較した。
【0357】
Gem(1ng/ml)またはGemOx(Gem 1ng/ml+Ox 10ng/ml)で前処置したDANG(2日間)の用量反応曲線は、未処置標的細胞と比較して上方および左側にシフトする(
図37A)。GemまたはGemOxでの腫瘍細胞の処置は、CLDN18.2の上方調節およびIMAB362媒介性ADCCに対するより高い感受性をもたらす。本発明者らは、化学療法剤での処置後にDANG細胞においてIMAB362媒介性ADCCに関するEC50値の低下およびより高い最大細胞溶解を認めることができた(
図37B)。
【0358】
健常ヒトドナーからのNK細胞、単球、単核細胞または他のエフェクター細胞を含む末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll Hypaque密度遠心分離によって精製した。洗浄したエフェクター細胞をX-Vivo培地に接種した。CLDN18.2を内因性に発現し、胃起源であるKato III細胞をこの設定における標的細胞として使用した。標的細胞は、生細胞によってのみ酸化されるルシフェラーゼ、ルシファーイエローを安定に発現した。精製抗CLDN18.2抗体IMAB362を様々な濃度で添加し、アイソタイプ対照抗体として無関係なキメラヒトIgG1抗体を使用した。IMAB362が細胞傷害を誘導した後に残った生細胞の量についての値である、ルシファーイエローの酸化から生じるルミネセンスを測定することにより、試料を細胞溶解に関して検定した。イリノテカン(1000ng/ml)、ドセタキセル(5ng/ml)またはシスプラチン(2000ng/ml)で3日間前処置したKato IIIを未処置の培地培養した標的細胞と比較し、IMAB362誘導性ADCCを定量化した。
【0359】
イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで3日間前処置したKato III細胞は、培地培養した標的細胞に比べてより低いレベルの生細胞を示し(
図38a)、イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンで前処置した細胞におけるクローディン18.2発現は培地培養細胞と比較して増大した(
図38b)。
【0360】
さらに、イリノテカン、ドセタキセルまたはシスプラチンでのKato III細胞の前処置は、ADCCを誘導するIMAB362の効力を増大させた(
図38c、d)。
【0361】
IMAB362誘導性CDCへの化学療法の作用
IMAB362のCDC効力を、補体の供給源としてヒト血清の存在下で標的細胞とのインキュベーションによって特性付けた。
【0362】
培地培養したMiaPaCa-2-LVTは、7665ng/mlのというIMAB362特異的溶解についてのEC50値を示す。Gemでの処置は、最大溶解の増大と比較してEC50の4677ng/mlへの低下をもたらす(
図39)。
【0363】
IMAB362誘導性CDCへの化学療法剤の作用を、KATO III胃癌細胞を10ng/ml 5-FUおよび500ng/mlオキサリプラチン(5-FU+OX)で48時間前処置することによって分析した。化学療法剤で前処置したKATO III細胞を使用したIMAB362誘導性CDCの代表的な用量反応曲線を
図40に示す。腫瘍細胞の48時間の前処置は、CDCを誘導するIMAB362の効力を増大させ、未処置細胞と比較して前処置した腫瘍細胞のより高い最大細胞溶解をもたらした。
【0364】
[実施例8]
マウス腫瘍モデルにおける化学療法と併用したIMAB362の効果
GemまたはGemOxと併用したIMAB362の抗腫瘍活性を、以前に単剤としてのIMAB362の効果を試験するために使用した、皮下膵癌異種移植モデルにおいて検討した。
【0365】
IMAB362で処置したBxPC3-LVTまたはMiaPaCa-2-LVT腫瘍担持ヌードマウスは、生理食塩水対照で処置した対照マウスと比較して有意の腫瘍増殖遅延を示した。付加的なIMAB362処置を伴わない100mg/kgまでのゲムシタビンによる化学療法は、BxPC3-LVTまたはMiaPaCa-2-LVT異種移植片に有意の治療効果を示さなかった。これに対し、50~100mg/kgゲムシタビンプラスIMAB362での併用処置は、化学療法単独で処置したマウスと比較して腫瘍増殖阻害の有意の増大および腫瘍担持マウスの生存期間延長をもたらした(
図41、
図42、
図43)。これらの所見は、ゲムシタビンとIMAB362免疫療法の併用による相乗作用的治療効果の存在を示す。
【0366】
週当たり2×150mg/kgのゲムシタビンの高用量を使用した場合、確立されたMiaPaCa-2-LVT異種移植腫瘍は、IMAB362処置とは無関係に腫瘍増殖を強力に阻害される(
図44A)。しかし、IMAB362とゲムシタビンの併用療法で処置されたマウスは、単剤としてのゲムシタビンで処置されたマウスと比較して極めて有意の生存期間延長を示した(
図44B)。
【0367】
[実施例9]
ZA/IL-2処置はVγ9Vδ2T細胞の高い量の増殖をもたらす
PBMCを、1μMゾレドロン酸(ZA)と共にまたはZAなしで300U/ml IL-2を添加したRPMI培地で14日間培養した。CD3+リンパ球集団内のVγ9+Vδ2+T細胞のパーセンテージおよびCD3+Vγ9+Vδ2+T細胞集団内のCD16+細胞のパーセンテージを0日目と14日目にマルチカラーFACSによって測定した。
【0368】
PBMC培養物へのIL-2添加はリンパ球の生存と増殖のために必要である。リンパ球は、300U/ml IL-2を添加した培養物中で効率的に増殖する。Vγ9およびVδ2特異的抗体を使用したFACS分析は、ZA/IL-2の添加がVγ9Vδ2T細胞の蓄積を特異的に誘導することを明らかにする。14日後、CD3+リンパ球集団は、80%までのVγ9Vδ2T細胞を含み得る。Vγ9Vδ2T細胞の一部はCD16を発現するが、CD3+リンパ球集団内でのこれらの細胞の富化は、ドナーに依存して10~700倍である。培養物中のCD16+Vγ9+Vδ2+T細胞の富化は、ZAなしで増殖させた培養物と比較して10~600倍高い。本発明者らは、インビトロでのPBMCのZA/IL-2処置が有意の割合のγδT細胞においてADCC媒介性FcγIII受容体CD16の上方調節をもたらすと結論する。
【0369】
NK細胞と同様に、ZA/IL-2が増殖させたVγ9Vδ2T細胞は、細胞結合抗体がそれを介してADCCを始動させるFcγRIII受容体、CD16に関して陽性である。Vγ9Vδ2T細胞がIMAB362と共に強力なADCCを誘導することができるかどうかを評価するために一連の実験を実施した。
【0370】
2例の異なるドナー(No.1およびNo.2)に由来するPBMCを、1μM ZAと共にまたはZAなしで300U/ml IL-2を添加した培地で培養した。14日後、細胞を採取し、漸増濃度(0.26ng/ml~200μg/ml)のIMAB362と共に、CLDN18.2を発現するNUGC-4細胞に添加した。特異的死滅をルシフェラーゼアッセイにおいて測定した。ADCCアッセイを、ZAと共にまたはZAなしで300U/ml IL-2中で増殖させた27例のドナーに関して実施し、ここでNUGC-4を標的細胞として使用した。各ドナーについて、用量反応曲線から計算したEC50値および200μg/ml IMAB362の用量での最大特異的死滅率を散布図において評価した。
【0371】
強力なIMAB362依存性ADCC活性が、ZA/IL-2と共に14日間培養したPBMCを使用して、CLDN18.2陽性NUGC-4細胞に対して認められた。ZA/IL-2処置したPBMC培養物を使用して、ADCCはVγ9Vδ2T細胞の存在に依存する。細胞をZAなしで培養した場合、ADCC活性は大部分のドナーに関して低下する。これらの培養物において、残存ADCC活性はNK細胞依存性である。20例を超えるドナーを試験することにより、ADCCアッセイは、PBMCのZA/IL-2処置が、IL-2単独と共に培養したPBMCと比較してEC50および最大特異的死滅率を改善することを明らかにする。
【0372】
[実施例10]
マウス転移モデルにおけるゲムシタビンと併用したIMAB362の効果
Patu8988S肺転移へのゲムシタビン処置と併用したIMAB362の効果をインビボで分析するため、各群につき12匹のHsd:無胸腺ヌード-Foxn1
nuマウスを、2×10
6 Patu8988S細胞の尾静脈への静脈内注射で処置した。腫瘍細胞注射の14日後に、マウスを週2回のIMAB362 200μgまたは対照としてPBS(i.v./i.p.)プラス週1回の100mg/kg用量のゲムシタビンi.p.で4週間処置した。腫瘍細胞注射後70日目にマウスを犠死させるまで、IMAB362またはPBSでの処置を維持した。肺における異種移植した腫瘍量の分析を、調製した肺でのヒトDNAのQPCRによって、および抗ヒトMHC-I抗体(クローンEPR1394Y)での免疫組織学的染色の光学的分析によって実施した。結果は、IMAB362プラスゲムシタビンで処置したマウスがその肺に有意に低い量のヒトDNAを有すること(
図45A)およびヒトMHC-I複合体に対して染色した肺切片の表面が、無関係な抗体プラスゲムシタビンで処置したマウスの肺におけるよりも有意に小さいこと(
図45B)を示す。どちらの方法も、IMAB362プラスゲムシタビンで処置したマウスの肺におけるPatu8988s異種移植片の低い腫瘍量を明らかにし、IMAB362との併用がゲムシタビンでの単独療法を有意に上回ることを示す。
【配列表】