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  • 特許-装飾被膜面の形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】装飾被膜面の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20230620BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20230620BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D5/06 101Z
E04F13/02 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022071282
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2018100432の分割
【原出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2022097564
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2017148809
(32)【優先日】2017-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 徹也
(72)【発明者】
【氏名】守本 浩直
(72)【発明者】
【氏名】杉本 美由紀
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-106205(JP,A)
【文献】特開2012-106204(JP,A)
【文献】特開2005-081176(JP,A)
【文献】特開平7-232127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
E04F 13/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜面の形成方法であって、
色差(△E)が20以上であり、かつ光沢度が異なる少なくとも2種の被覆材を用い、
上記被覆材は、いずれも加熱残分が25重量%以上であり、
被塗面に、
第1被覆材を塗付する第1工程、第2被覆材を塗付する第2工程を含み、
第1被覆材よりも上記第2被覆材の加熱残分が高く、
上記第1被覆材が非流動状態となった後に、上記第2被覆材を部分的に塗着するように不連続に塗付することを特徴とする装飾被膜面の形成方法。
【請求項2】
上記第1被覆材を被塗面に対し全面に塗付することを特徴とする請求項1に記載の装飾被膜面の形成方法。
【請求項3】
上記第1被覆材を被塗面に対し部分的に塗着するように不連続に塗付することを特徴とする請求項1に記載の装飾被膜面の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な装飾被膜面の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木構造物等の壁面に対し、種々の模様を有する装飾被膜を形成することが行われている。このような装飾被膜の一例として、複数の被覆材を部分的に塗り重ねて模様を形成した装飾被膜が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、下塗り塗料を全面に塗付し、下塗り塗料の乾燥前に、下塗り塗料より濃い色の塗料(模様付け塗料)を模様付けする方法が記載されている。しかしながら、上記特許文献1では、下塗り塗料が乾燥する前に、模様付け塗料を塗付するため、被塗面において下塗り塗料と模様付け塗料が混ざりやすく、色、質感等のコントラストが減殺されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-266911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたもので、コントラストを有する美観性の高い装飾被膜面の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するため、本発明者は鋭意検討の結果、被塗面に、色差(△E)が20以上であり、かつ光沢度が異なる少なくとも2種の被覆材を特定の方法で塗付する工程を含む装飾被膜面の形成方法に想到し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
1.少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜面の形成方法であって、
色差(△E)が20以上であり、かつ光沢度が異なる少なくとも2種の被覆材を用い、
上記被覆材は、いずれも加熱残分が25重量%以上であり、
被塗面に、
第1被覆材を塗付する第1工程、第2被覆材を塗付する第2工程を含み、
第1被覆材よりも上記第2被覆材の加熱残分が高く、
上記第1被覆材が非流動状態となった後に、上記第2被覆材を部分的に塗着するように不連続に塗付することを特徴とする装飾被膜面の形成方法。
2.上記第1被覆材を被塗面に対し全面に塗付することを特徴とする1.に記載の装飾被膜面の形成方法。
3.上記第1被覆材を被塗面に対し部分的に塗着するように不連続に塗付することを特徴とする1.に記載の装飾被膜面の形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、色差(△E)が20以上であり、かつ光沢度が異なる少なくとも2種の被覆材を用い、被塗面に、上記2種の被覆材をそれぞれ順に塗付する工程を含み、前の工程で先に塗付された被覆材が非流動状態となった後に、次工程の被覆材を不連続に塗付することにより、少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜面を形成するものであり、コントラストを有する美観性の高い装飾被膜面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明により形成される装飾被膜面の一例を示す正面図である。
図2図2は、本発明で使用可能な押圧具の一例を示す断面図である。
図3図3は、本発明で使用可能なローラーの一例を示す断面図である。
図4図4は、本発明により形成される装飾被膜面の一例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0010】
1.装飾被膜面
1a.着色領域A
1b.着色領域B
1c.着色領域C
2.押圧具
2a~2e.スポンジ質材
2f.高さ方向
3.ローラー
3a~3e.スポンジ質材
3f.円筒外周面
3g.円筒外径方向
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
本発明は、少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜面の形成方法であって、色差(△E)が20以上であり、かつ光沢度が異なる少なくとも2種の被覆材を用い、被塗面に、上記2種の被覆材をそれぞれ順に塗付する工程を含み、前の工程で先に塗付された被覆材が非流動状態となった後に、次工程の被覆材を不連続に(部分的に)塗付することを特徴とするものである。本発明で形成される装飾被膜面は、正面から視認した場合に、少なくとも2種以上の着色領域(例えば、着色領域A、着色領域B、・・等)が混在するものである。また、装飾被膜面の表面側に不連続に塗付された被膜が形成されている。
【0013】
図1に、本発明によって形成される装飾被膜面の一例(正面図)を示す。本発明の装飾被膜面の形成方法によれば、図1のように正面から視認した場合に、着色領域A(図1:1a)と着色領域B(図1:1b)が混在し、コントラストを有する美観性の高い装飾被膜面を形成することができる。
【0014】
以下、図1の装飾被膜面の形成方法を例に説明する。
【0015】
図1は、被覆材として、第1被覆材と、第2被覆材の2種の被覆材を順に塗付し、装飾被膜面を形成したものである。第1被覆材と第2被覆材としては、色差(△E)が20以上(好ましくは25以上)であり、かつ光沢度が異なるものを使用する。色差(△E)の上限は特に限定されないが、好ましくは90以下である。これら被覆材における光沢度の差は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上である。光沢度の差の上限は、好ましくは90以下、より好ましくは60以下である。上記のように色差(△E)と光沢度の差が特定の値であることにより、着色領域同士のコントラストが明瞭となり、色、質感等の変化が大きく、豪華な仕上がりが得られる。これにより、コントラストを有する美観性の高い被膜を形成することができる。
【0016】
なお、本発明における色差(△E)は、色彩色差計を用いて測定される値である。具体的には、標準白紙に、すきま250μmのフィルムアプリケータを用いてそれぞれの被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態(気温23℃、相対湿度50%。以下同様。)で48時間乾燥したときの被膜のL値、a値、b値(測定点3箇所以上の平均値)より下記式にて算出することができる。
<式>△E={(L *1-L *2+(a *1-a *2+(b *1-b *2 0.5
(式中、L *1、a *1、b *1はそれぞれ第1被覆材のL、a、b。L *2、a *2、b *2はそれぞれ第2被覆材のL、a、b
【0017】
また、「光沢度」とは、JIS K5600-4-7「鏡面光沢度」に準じて測定される値である。具体的には、ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態で48時間乾燥したときの鏡面光沢度(測定角度60度)を測定することによって得られる値である。
【0018】
図1に示す装飾被膜面の形成方法としては、例えば、
被塗面に、第1被覆材を塗付する第1工程、第2被覆材を塗付する第2工程を含み、
(I)第1被覆材を被塗面に対し全面に塗付し、前記第1被覆材が非流動状態となった後に、第2被覆材を不連続に塗付する方法、
(II)第1被覆材を被塗面に対し不連続に塗付し、前記第1被覆材が非流動状態となった後に、第2被覆材を不連続に塗付する方法、
等が挙げられる。
【0019】
上記(I)において、第1被覆材の塗付け量は、被塗面の種類・状態、仕上がり等を勘案して適宜設定すればよいが、好ましくは30~500g/m、より好ましくは80~400g/m、さらに好ましくは90~300g/mである。第1被覆材の塗付け量が上記範囲を満たす場合、被塗面の全体を覆う連続的な被膜が形成されやすい。また、第2被覆材の塗付け量は、所望の仕上り(模様等)に応じて、適宜設定すればよいが、第1被覆材よりも第2被覆材の塗付け量が少ないことが好ましく、好ましくは100g/m以下、より好ましくは5~90g/m、さらに好ましくは10~80g/mである。第2被覆材の塗付け量が上記範囲を満たす場合、不連続な被膜が形成されやすく、異色の着色領域が混在する装飾被膜面を安定して形成することができる。なお、本発明において「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0020】
上記(II)において、第1被覆材、第2被覆材の塗付け量は、少なくとも1種が、好ましくは100g/m以下(より好ましくは5~90g/m、さらに好ましくは10~80g/m)であればよい。もう1種の被覆材は、被塗面の種類・状態・仕上がり等を勘案して適宜設定すればよいが、好ましくは500g/m以下(より好ましくは100g/m以下、さらに好ましくは5~90g/m、特に好ましくは10~80g/m)である。上記(II)では、第1被覆材、第2被覆材の塗付け量が、それぞれ100g/m以下の範囲内であることが好ましい。
【0021】
また、上記(I)において、被塗面に対して全面に塗付された被覆材の塗着量は、固形分換算で、好ましくは10~500g/m、より好ましくは20~400g/mである。また、上記(I)、(II)において被塗面に対して不連続に塗付された被覆材の塗着量は、固形分換算で、好ましくは100g/m以下、より好ましくは1~80g/m、さらに好ましくは5~40g/mである。なお、上記(I)では、第2被覆材の塗着量が、第1被覆材の塗着量よりも少ない態様が好適である。
【0022】
本発明における被覆材は、塗付時に各種溶媒で希釈することができる。被覆材の希釈割合は、被覆材に対して、好ましくは0~50重量%(より好ましくは0~30重量%)の割合とする。本発明では、第1工程の被覆材(先に塗付した被覆材)の希釈割合よりも、第2工程(次工程)の被覆材の希釈割合が小さいことが好ましい。特に、上記(I)では、第1被覆材として希釈割合の大きい(好ましくは1~50重量%、より好ましくは2~40重量%)被覆材を被塗面全面に塗付し、第2被覆材として希釈割合の小さい(好ましくは0~20重量%、より好ましくは0~10重量%)被覆材を不連続に塗付する態様が好適である。この場合、異色の着色領域が混在し、コントラストを有する美観性の高い装飾被膜面をより効率的に形成することができる。
【0023】
上記被覆材の塗付時の粘度は、好ましくは0.1~10Pa・s、より好ましくは0.5~9.5Pa・sである。特に、上記(I)において、第1工程の被覆材(先に塗付した被覆材)の塗付時の粘度は、好ましくは0.1~8Pa・s(より好ましくは0.5~6Pa・s)である。このような場合、被塗面の全面を覆う連続的な被膜が形成されやすく、優れた仕上がり性を確保できる。一方、第2工程(次工程)の被覆材の塗付時の粘度は、好ましくは2~10Pa・s(より好ましくは2.5~9.5Pa・s)である。このような場合、スポンジ質材に被覆材が適量含まれ、不連続な被膜が形成されやすく、着色領域同士の境界が明瞭となり、意匠性を高めることができる。特に、上記(I)では、第1工程の被覆材(先に塗付した被覆材)の粘度よりも、第2工程(次工程)の被覆材の粘度が高いことが好ましく、その粘度の差は、好ましくは1~8Pa・s(より好ましくは1.5~6Pa・s)である。この場合、異色の着色領域が混在し、コントラストを有する美観性の高い装飾被膜面をより効率的に形成することができる。
【0024】
また、上記(II)では、第1被覆材、第2被覆材の塗付時の粘度は、好ましくは2~10Pa・s(より好ましくは2.5~9.5Pa・s)である。このような場合、スポンジ質材に被覆材が適量含まれ、不連続な被膜が形成されやすく、着色領域同士の境界が明瞭となり、意匠性を高めることができる。なお、粘度は、標準状態(温度23℃・相対湿度50%)でBH型粘度計(回転数20rpm)を用いて測定される値(4回転目の指針値)である。
【0025】
また、上記(I)、(II)において、第2被覆材を塗付するタイミングは、第1被覆材(先に塗付した被覆材)が非流動状態となった後であれば、特に限定されない。本発明において、「非流動状態」とは、第1被覆材を塗付した後、被膜の流動性が失われた状態のことをいい、具体的には、第2被覆材を塗付しても滲みを生じない程度、あるいは各被覆材が互いに混ざらない程度に乾燥・硬化した状態のことをいう。この「非流動状態」には、JIS K5400に規定される指触乾燥、半硬化乾燥、硬化乾燥等の状態も含まれる。本発明では、第1被覆材の指触乾燥後(より好ましくは半硬化乾燥後、さらに好ましくは硬化乾燥後)に、第2被覆材を塗付することが好ましい。なお、本発明において、乾燥・硬化は、好ましくは常温(5~40℃)で行えばよい。
【0026】
本発明とは異なり、第1被覆材が流動状態であるうちに第2被覆材を塗付すると、塗装工程中、塗付器具において次第に第1被覆材と第2被覆材が混ざってしまい、形成される被膜の仕上がり性が不安定化するおそれがある。さらに、被塗面においても各被覆材が混ざり合い、コントラストが減殺されやすくなってしまう。これに対し、本発明では、第1被覆材が非流動状態となった後に、第2被覆材を不連続に塗付することによって、各被覆材が混ざりにくく、安定した仕上がりを付与することができ、コントラストを有する美観性の高い装飾被膜を得ることができる。特に、被塗面が大面積である場合に顕著な効果を得ることができる。
【0027】
被覆材を塗付する際の塗付器具としては、例えば、スプレー、ローラー、ブラシ(刷毛等を含む)、押圧具(叩き具等を含む)等を使用することができる。このうち、ローラーとしては、例えば、繊維質ローラー、多孔質(スポンジ質)ローラー等が挙げられ、押圧具としては、例えば、スポンジ、フェルト、織布、不織布等を有するものが使用できる。
【0028】
上記(I)のように、被覆材を被塗面全体に塗付する場合には、例えば、スプレー、ローラー、ブラシ等を使用することが望ましい。ローラーとしては、特に繊維質ローラーが好適である。
【0029】
上記(I)、(II)のように、被覆材を不連続に塗付する工程では、例えば、ローラー、ブラシ、押圧具等を用いて、被塗面に対し部分的に被覆材が塗着するように塗付すればよい。被覆材を不連続に塗付するには、被塗面に塗付器具を断続的(部分的)に接触させればよく、例えば、押すように塗付する方法、叩くように塗付する方法、擦りながら塗付する方法等を採用することができる。被覆材を不連続に塗付する際には、特にスポンジ質材を有する塗付器具が好適であり、スポンジ質材を有するローラーまたは押圧具がより好適である。なお、スポンジ質材を有するローラーを使用する場合は、不連続に転動させて塗付する、すなわち、被塗面に断続的(部分的)に接触・転動させることが好ましい。この際、ローラーは、ランダム方向に接触・転動させることが好ましい。このような塗付器具を用いることにより、コントラストを付与しつつ、着色領域同士の境界を非直線状態(入り組んだ状態)にすることができ、美観性をいっそう高めることができる。
【0030】
スポンジ質材としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、エチレン樹脂等の樹脂をスポンジ状に多孔化したものが使用できる。スポンジ質材の硬度は、好ましくは10~3000N、より好ましくは20~2000N、さらに好ましくは30~1500Nである。スポンジ質材の密度は、好ましくは1~300kg/m、より好ましくは3~200kg/m、より好ましくは5~150kg/mである。ここで言う、「硬度」とは、JIS K6400-2に準じ、試験片の厚さ40%まで圧縮したときの力から測定される硬さ(C法)の値である。また、「密度」とは、JIS K7222に準じ、試験片の重量及び寸法から算出される見掛け密度の値である。
【0031】
スポンジ質材の形状としては、その断面が、例えば、三角形、四角形、ひし型、五角形、六角形等の多角形、円形、楕円形、ドロップ(水滴)型等の曲面を有する形状、あるいは不定形等、さらには、これらを組み合わせた形状のものが使用できる。その大きさは、所望の模様により適宜設定すればよい。
【0032】
スポンジ質材としては、上記条件を満たす1種のスポンジ材を使用することができるが、例えば、図2に示すような硬度及び/または密度が異なる少なくとも2種以上のスポンジ質材(図2:2a~2e)がランダムに混在する押圧具や、図3に示すような硬度及び/または密度が異なる少なくとも2種以上のスポンジ質材(図3:3a~3e)が円筒外周面(図3:3f)に混在するローラーよって塗付することが好ましい。このような塗付器具では、少なくとも1種(好ましくは2種以上)のスポンジ質材が上記条件を満たせばよい。このような特定の塗付器具を使用することにより、仕上がり性、美観性等をいっそう高めることができる。
【0033】
図2図3において、上記スポンジ質材は、積み重なるように固定されている形態がより好ましい。さらには、多数のスポンジ質材がランダムに混在するように圧縮成形された形態であることがいっそう好ましい。
【0034】
図2図3のスポンジ質材は、外形が不定形の立体形のものであり、その個々の大きさは、好ましくは1~30mm(より好ましくは2~20mm)である。本発明では、大きさの異なる多数のスポンジ質材が混在することが好ましい。このような場合、スポンジ質材どうしの間で不定形の凹凸形状が形成されやすいため、本発明の効果をいっそう高めることができる。なお、ここで言う「大きさ」は、外形の最長軸であり、例えば、一辺が所定寸法の升目を有する篩いにより篩い分けされて測定されるものである。また、スポンジ質材の厚み(図2:2f方向の厚み、図3:3g方向の厚み)は、個々のスポンジ質材の大きさにもよるが、好ましくは2~50mm(より好ましくは3~30mm)である。
【0035】
図4に、本発明の装飾被膜面の形成方法によって形成される装飾被膜面の別の一例(正面図)を示す。図4は、被覆材として、第1被覆材と、第2被覆材と、第3被覆材の3種の被覆材を順に塗付し、第1被覆材による着色領域A、第2被覆材による着色領域B、第3被覆材による着色領域C(図4:1a~1c)を有する装飾被膜面を形成したものである。図4に示す装飾被膜面の形成方法としては、上記図1の場合と同様の方法で行えばよく、例えば、
第1被覆材を被塗面に対し全面、または不連続に塗付し(第1工程)、
第1被覆材が非流動状態となった後に、第2被覆材を不連続に塗付し(第2工程)、
第2被覆材が非流動状態となった後に、第3被覆材を不連続に塗付する(第3工程)方法、
等により形成できる。
【0036】
被覆材が3種の場合、形成される装飾被覆面において隣接する少なくとも2種の被覆材の色差(△E)と光沢差が上記条件を満たせばよい。このような態様としては、例えば、
(X)第1被覆材と第2被覆材、
(Y)第1被覆材と第3被覆材、
(Z)第2被覆材と第3被覆材、
の組み合わせにおいて、少なくとも1つの組み合わせが上記条件を満たす態様、2つの組み合わせが上記条件を満たす態様、3つの組み合わせがそれぞれ上記条件を満たす態様等が挙げられる。
【0037】
上記第3被覆材の塗付け量は、好ましくは100g/m以下(より好ましくは2~80g/m、さらに好ましくは5~60g/m)である。さらに、第3被覆材の塗付け量は、第1被覆材、第2被覆材の塗付け量よりも少ない態様が好適である。また、不連続に塗付された第3被覆材の塗着量は、固形分換算で、好ましくは100g/m以下、より好ましくは1~60g/m、さらに好ましくは2~30g/mであり、第1被覆材、第2被覆材の塗着量よりも少ない態様が好適である。また、異なる4種以上の被覆材を使用する場合も、上記同様に被覆材(第1被覆材、第2被覆材、第3被覆材、第4被覆材・・・等)を塗付(第1工程、第2工程、第3工程、第4工程・・・等)し、着色領域A、着色領域B、着色領域C、着色領域D、・・・等を有する装飾被膜面を形成すればよい。
【0038】
本発明の装飾被膜面の形成方法では、本発明の効果を阻害しない限り、表面保護、耐候性向上、耐汚染性等の目的で、最表面にクリヤー被覆材を塗付して、クリヤー層を設けることもできる。但し、クリヤー層を設けた場合には、コントラストが滅殺されるおそれがある。本発明の効果を十分に得るには、クリヤー層を設けない態様が好適である。
【0039】
<被塗面>
本発明における被塗面は、好ましくは、建築物、土木構造物等の基材表面、特に、内外壁、天井、建具等の表面を構成する基材である。このような基材としては、例えば、石膏ボード、コンクリート、モルタル、磁器タイル、煉瓦、セメント板、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、パーライト板、ALC板、サイディング板、押出成形板、合板、木質板、鋼板、プラスチック板、ガラス板、等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、フィラー等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたものであってもよい。
【0040】
<被覆材>
本発明における被覆材としては、樹脂、及び顔料を含むものが使用できる。本発明では、顔料の種類、混合比率等を調整することにより、色、光沢等を設定することができる。樹脂と顔料の混合比率は、樹脂固形分100重量部に対して、顔料が好ましくは5~500重量部(より好ましくは20~400重量部、さらに好ましくは30~300重量部)である。
【0041】
樹脂としては、例えば、水溶性樹脂、水分散性樹脂、溶剤可溶形樹脂、無溶剤形樹脂、非水分散形樹脂等、あるいはこれらを複合したもの等が挙げられる。これらは架橋反応性を有するものであってもよく、またその形態は特に限定されず、1液型、2液型のいずれであってもよい。本発明では特に、水分散性樹脂及び/または水溶性樹脂が好適に用いられる。使用可能な樹脂の種類としては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。なお、本発明では、セメント等の水硬性結合材は、本発明の効果を阻害しない限り使用できるが、被膜の色を制限するおそれがあるため使用しないことが望ましい。
【0042】
顔料としては、公知の着色顔料、体質顔料等が使用できる。このうち、着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、アルミニウム顔料、パール顔料、光輝性顔料等が挙げられる。これら着色顔料の1種または2種以上を用いることにより任意の色相に着色することができる。本発明では、着色顔料として、アルミニウム顔料、パール顔料、光輝性顔料等を含むことにより、金属(メタリック)調、錆調等の意匠性を付与し、コントラストを有する美観性の高い装飾被膜面を形成することができる。
【0043】
体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、寒水石、軽微性炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、珪砂、珪石粉、石英粉、樹脂ビーズ、ガラスビーズ、中空バルーン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。体質顔料の種類、混合比率等を適宜設定することにより、被覆材を所望の光沢度に調整することができる。
【0044】
本発明の被覆材は、上記成分以外に、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内において、公知の添加剤、例えば、骨材、染料、増粘剤、湿潤剤、凍結防止剤、造膜助剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、希釈溶媒等を含むものであってもよい。被覆材は、上述の各成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0045】
被覆材の加熱残分は、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30~80重量%である。被覆材の加熱残分がこのような範囲内であれば、乾燥・硬化に要する時間を短縮化することができ、早期に非流動状態を得ることができる。また、コントラスト付与等の点でも好適である。なお、加熱残分は、JIS K5601-1-2の方法にて測定される値であり、加熱温度は105℃、加熱時間は60分である。
【0046】
さらに、本発明では、被覆材の加熱残分が上記範囲を満たせばよいが、第1被覆材よりも第2被覆材の加熱残分を高く設定することが好ましい。また、3種以上の被覆材を用いる場合には、第1被覆材よりも第3被覆材、第4被覆材・・・等の加熱残分を高くすることが好ましい。これにより、本発明の効果を高めることができる。なお、加熱残分は、被覆材の希釈割合により設定することも可能であり、例えば、希釈割合の大きい被覆材を第1被覆材、希釈割合の小さい被覆材を第2被覆材とすればよい。第1被覆材と第2被覆材の加熱残分の差は、好ましくは1~30重量%、より好ましくは2~25重量%、より好ましくは3~20重量%である。
【0047】
被覆材の隠蔽率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。被覆材の隠蔽率がこのような範囲内であれば、被覆材の形成被膜を不透明化することができ、コントラスト付与等の点で好適である。なお、隠蔽率は、被覆材を隠蔽率試験紙にフィルムアプリケータ(隙間150μm)で塗付し、標準状態で24時間乾燥させて得た試験片について、視感反射率を測定した後、下記式によって算出される値である。
<式>
隠蔽率(%)=(黒地上の塗膜の視感反射率)/(白地上の塗膜の視感反射率)×100
【実施例
【0048】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0049】
被覆材として、以下のものを用意した。
【0050】
・被覆材1-1
アクリル樹脂エマルション、顔料(酸化チタン、カーボンブラック、黄色酸化鉄、体質顔料)を主成分とする灰色系被覆材(L値:60.0、a値:-0.1、b値:0.3、光沢度:12、加熱残分:54重量%、粘度:3.5Pa・s、隠蔽率:97%、顔料比率:樹脂固形分100重量部に対し126重量部)
【0051】
・被覆材1-2
アクリル樹脂エマルション、顔料(カーボンブラック、黄色酸化鉄、体質顔料)を主成分とする黒色系被覆材(L値:26.1、a値:0.1、b値:0.2、光沢度:1.5、加熱残分:57重量%、粘度:5Pa・s、隠蔽率:97%、顔料比率:樹脂固形分100重量部に対し240重量部、被覆材1-1との色差△E:34)
【0052】
・被覆材2-1
アクリル樹脂エマルション、顔料(酸化チタン、カーボンブラック、黄色酸化鉄、体質顔料)を主成分とする灰色系被覆材(L値:54.3、a値:-0.6、b値:-1.2、光沢度:30、加熱残分:42重量%、粘度:2.1Pa・s、隠蔽率:98%、顔料比率:樹脂固形分100重量部に対し38重量部)
【0053】
・被覆材2-2
アクリル樹脂エマルション、顔料(カーボンブラック、べんがら、黄色酸化鉄、酸化チタン、体質顔料)を主成分とする濃茶色系被覆材(L値:33.9、a値:4.0、b値:7.5、光沢度:9、加熱残分:59重量%、粘度:4.8Pa・s、隠蔽率:98%、顔料比率:樹脂固形分100重量部に対し142重量部、被覆材2-1との色差△E:23)
【0054】
・被覆材3-1
アクリル樹脂エマルション、顔料(酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、カーボンブラック、体質顔料)を主成分とするグレー系被覆材(L値:53.6、a値:0.8、b値:1.6、光沢度:2、加熱残分:59重量%、粘度:6.4Pa・s、隠蔽率:98%、顔料比率:樹脂固形分100重量部に対し230重量部)
【0055】
・被覆材3-2
アクリル樹脂エマルション、顔料(酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、カーボンブラック、体質顔料)を主成分とするグレー系被覆材(L値:49.1、a値:0.7、b値:0.1、光沢度:2、加熱残分:59重量%、粘度:6.4Pa・s、隠蔽率:98%、顔料比率:樹脂固形分100重量部に対し230重量部、被覆材3-1との色差△E:4.8)
【0056】
・被覆材3-3
アクリル樹脂エマルション、顔料(アルミニウム顔料、赤色酸化鉄、カーボンブラック)を主成分とする金属(メタリック)調被覆材(L値:82.6、a値:0.3、b値:1.6、光沢度:12、加熱残分:24重量%、粘度:5.0Pa・s、隠蔽率:94%、顔料比率:樹脂固形分100重量部に対し36重量部、被覆材3-1との色差△E:29、被覆材3-2との色差△E:34)
【0057】
(実施例1)
基材(スレート板)に対し、第1工程として被覆材1-1を塗付け量120g/m(塗着量64.8g/m)で全面にローラー塗りし(繊維質ローラーを使用)、指触乾燥以上の状態となるように2時間乾燥させた。次いで、第2工程として被覆材1-2を塗付け量40g/m(塗着量22.8g/m)で不連続に叩き塗りし[スポンジ質材(硬度110~140N、密度15~50kg/m)からなる押圧具を使用]、24時間乾燥させた。塗装及び乾燥は、全て標準状態にて行った。以上の方法より、灰色領域と黒色領域が混在し、明瞭なコントラストを有する美観性の高い装飾被膜面が得られた。なお、塗着量は、固形分換算の値である(以下、同様)。
【0058】
(実施例2)
基材(スレート板)に対し、第1工程として被覆材2-1を塗付け量120g/m(塗着量50.4g/m)で全面にローラー塗りし(繊維質ローラーを使用)、指触乾燥以上の状態となるように2時間乾燥させた。次いで、第2工程として被覆材2-2を塗付け量50g/m(塗着量29.5g/m)で不連続に叩き塗りし[スポンジ質材(硬度75~110N、密度15~30kg/m)からなる押圧具を使用]、24時間乾燥させた。塗装及び乾燥は、全て標準状態にて行った。以上の方法より、灰色領域と濃茶色領域が混在し、明瞭なコントラストを有する美観性の高い装飾被膜面が得られた。
【0059】
(実施例3)
基材(スレート板)に対し、第1工程として被覆材2-1を塗付け量120g/m(塗着量50.4g/m)で全面にローラー塗りし(繊維質ローラーを使用)、指触乾燥以上の状態となるように2時間乾燥させた。次いで、第2工程として被覆材2-2を塗付け量50g/m(塗着量29.5g/m)で不連続にローラー塗りし(図3に示すような5種のスポンジ質材を有するローラーを使用。スポンジ質材3a:硬度45~60N、密度50~100kg/m、スポンジ質材3b:硬度75~110N、密度15~30kg/m、スポンジ質材3c:硬度110~140N、密度15~50kg/m、スポンジ質材3d:硬度110~300N、密度30~85kg/m、スポンジ質材3e:硬度1000~1500N、密度10~20kg/m)、24時間乾燥させた。塗装及び乾燥は、全て標準状態にて行った。以上の方法より、灰色領域と濃茶色領域が混在し、明瞭なコントラストを有する美観性の高い装飾被膜面が得られた。
【0060】
参考例4)
基材(スレート板)に対し、第1工程として被覆材3-1を水で希釈割合15%希釈し(希釈後の粘度:2.5Pa・s、希釈後の加熱残分:51重量%)、塗付け量120g/m(塗着量61.2g/m)で全面にローラー塗りし(繊維質ローラーを使用)、指触乾燥以上の状態となるように2時間乾燥させた。次いで、第2工程として被覆材3-3を塗付け量50g/m(塗着量12g/m)で不連続にローラー塗りし[図3に示すような5種のスポンジ質材を有するローラー(実施例3と同様)を使用。]、24時間乾燥させた。塗装及び乾燥は、全て標準状態にて行った。以上の方法より、グレー色領域と金属調の領域が混在し、明瞭なコントラストを有する美観性の高い装飾被膜面が得られた。
【0061】
(実施例5)
基材(スレート板)に対し、第1工程として被覆材3-1を水で希釈割合15%希釈し(希釈後の粘度:2.5Pa・s、希釈後の加熱残分:51重量%)、塗付け量120g/m(塗着量61.2g/m)で全面にローラー塗りし(繊維質ローラーを使用)、指触乾燥以上の状態となるように2時間乾燥させた。次いで、第2工程として被覆材3-2を塗付け量50g/m(塗着量29.5g/m)で不連続にローラー塗りし[図3に示すような5種のスポンジ質材を有するローラー(実施例3と同様)を使用。]、指触乾燥以上の状態となるように2時間乾燥させた。さらに、第3工程として被覆材3-3を塗付け量30g/m(塗着量7.2g/m)で不連続に叩き塗りし(図2に示すような5種のスポンジ質材を有する押圧具を使用。スポンジ質材2a:硬度45~60N、密度50~100kg/m、スポンジ質材2b:硬度75~110N、密度15~30kg/m、スポンジ質材2c:硬度110~140N、密度15~50kg/m、スポンジ質材2d:硬度110~300N、密度30~85kg/m、スポンジ質材2e:硬度1000~1500N、密度10~20kg/m)、24時間乾燥させた。塗装及び乾燥は、全て標準状態にて行った。以上の方法より、グレー色領域と濃グレー色領域、及び金属調の領域が混在し、明瞭なコントラストを有する美観性の高い装飾被膜面が得られた。
【0062】
実施例1~3、参考例4ではいずれも、第1工程で形成された被膜と、第2工程で不連続に形成された被膜の2種の着色領域が混在し、明瞭なコントラストを有する美観性の高い装飾被膜面が得られた。また、実施例5では、第1工程で形成された被膜と、第2工程、第3工程で不連続に形成された被膜の3種の着色領域が混在し、明瞭なコントラストを有する美観性の高い装飾被膜面が得られた。特に、実施例3、参考例4、実施例5では、着色領域同士の境界をより複雑な非直線状(入り組んだ模様)にすることができ、いっそう仕上がり性、美観性の高い装飾被膜面が得られた。

図1
図2
図3
図4