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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】集塵水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20230620BHJP
   C02F 1/64 20230101ALI20230620BHJP
   C02F 1/72 20230101ALI20230620BHJP
【FI】
C02F1/58 N
C02F1/64 Z
C02F1/72 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022084684
(22)【出願日】2022-05-24
(65)【公開番号】P2023010580
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2021113219
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】西内 亨
(72)【発明者】
【氏名】井上 綾
(72)【発明者】
【氏名】天田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大土橋 真希
(72)【発明者】
【氏名】盛一 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032412(JP,A)
【文献】特開2014-004581(JP,A)
【文献】特開2013-094694(JP,A)
【文献】特開2020-025955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58-1/64
C02F 1/70-1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み、
前記カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、集塵水の処理方法。
【請求項2】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み、
前記カチオン性化合物は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含む、集塵水の処理方法。
【請求項3】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み、
前記カチオン性化合物は、オレイルアミンを含む、集塵水の処理方法。
【請求項4】
排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、前記懸濁物質、及びさらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、かつ、前記集塵水中の前記懸濁物質濃度が500~10000mg/Lであり、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記固液分離設備での固液分離処理前の前記集塵水であって、前記固液分離設備に前記集塵水を供給するための流路における前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記集塵水中の前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、前記集塵水中に前記ペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物を生じさせ、その難溶化物及び/又は不溶化物を前記懸濁物質とともに固体成分として前記固液分離設備で固液分離処理し、除去することを含み、
前記カチオン性化合物は、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を含む、集塵水の処理方法。
【請求項5】
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含み、
少なくとも前記条件1を満たす条件下、前記集塵水に前記カチオン性化合物を添加することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項6】
前記条件2として、前記集塵水に、前記亜鉛塩及び前記銅塩の一方又は両方を添加することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項7】
前記集塵水は、さらにシアン化物イオンを含有し、
前記集塵水;前記循環設備に供給される前の前記分離液;及び前記循環設備に供給された前記分離液;のうちの少なくともいずれかに、酸化剤を添加することを含む請求項1~のいずれか1項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項8】
前記酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含む請求項に記載の集塵水の処理方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;次亜塩素酸又はその塩と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを含む請求項に記載の集塵水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集塵水の処理方法に関し、より詳しくは、排ガスを湿式集塵処理することで得られる、懸濁物質、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する集塵水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば製鉄所における高炉や転炉等から発生するガスはダストを含むことから、図6に示すように、ガスに含有されるダストを湿式集塵機2により捕集する処理(湿式集塵処理)が行われている。この湿式集塵処理により、ダストを懸濁物質として含有する集塵水が得られる。その集塵水については、集塵水の処理システム1において、集塵水が湿式集塵機2から第1の沈殿槽(シックナー)4に送られ、第1の沈殿槽4で集塵水中の懸濁物質を分離除去する処理が行われている。
【0003】
集塵水には、ガスに含まれていたダスト由来の微細な懸濁物質や塩類等が懸濁又は溶解していることが多いことから、ガスに含まれていたダスト(懸濁物質)を除去するための固液分離処理だけでは、集塵水を清浄化することは難しい。そのため、固液分離処理によりダストとは分離された液分(分離液)は、図6に示すように、循環設備5にて湿式集塵機2に循環される方式で用いられたり、微細な懸濁物質や溶解性の物質を除去するためのさらなる処理が行われたりしている。
【0004】
例えば、上記分離液(集塵水)にシアン化物イオン及びシアノ錯体等のシアン成分が含有されている場合、分離液からシアン成分を除去し、シアン成分が除去された処理水を得るための処理が必要となる。水中のシアン成分を除去する技術としては、次亜塩素酸ナトリウムを用いるアルカリ塩素法、鉄塩を用いる紺青法、並びに銅塩及び還元剤を用いる還元銅塩法(図6参照)等が知られている。還元銅塩法として、例えば特許文献1には、遊離シアン及びシアン錯塩を含有する廃水に銅塩及び還元剤を存在させ、難溶性の沈殿を生成させて分離するシアン含有廃水の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-39693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したアルカリ塩素法では、シアン化ナトリウム等のアルカリ金属塩や、亜鉛シアノ錯体及び銅シアノ錯体等の易分解性のシアノ錯体を除去することができる一方、鉄シアノ錯体を除去することはできない。
【0007】
また、紺青法や還元銅塩法では、廃水中のフェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン等の鉄シアノ錯体についても、難溶性塩を生成させることで廃水から除去することができるといわれている。しかし、本発明者らの検討の結果、紺青法や還元銅塩法では、廃水からの除去処理が困難なシアノ錯体もあることがわかっている。例えば、紺青法では、廃水からペンタシアノカルボニル鉄錯体([FeII(CN)(CO)]3-、[FeIII(CN)(CO)]2-等)を有効に除去することができないことがわかっている。
【0008】
さらに、還元銅塩法では、廃水に銅塩と還元剤を添加して反応させた後に固液分離処理するという2段階の工程が必要である。そのため一般的に、図6に示すように、銅塩及び還元剤を添加して反応させるための反応槽6と、その後に、反応により生成した難溶性塩を除去するための第2の沈殿槽7が必要であり、処理水を得るまでに必要な設備の設置費用が高くなる。
【0009】
本発明は、上記の従来技術に鑑みて、集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分をも除去可能な集塵水の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、前記集塵水は、さらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記固液分離設備で固液分離処理することを含む、集塵水の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、集塵水中の懸濁物質を固液分離設備にて固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、上記懸濁物質の固液分離処理時に集塵水中のシアン成分をも除去可能な集塵水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの第1例を示す模式構成図である。
図2】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの第2例を示す模式構成図である。
図3】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの第3例を示す模式構成図である。
図4】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの第4例を示す模式構成図である。
図5】本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの第5例を示す模式構成図である。
図6】シアン成分を含有する集塵水の処理方法に用いうる従来の処理システムの一例を示す模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、図面における各図で共通する部分については同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、図中の矢印は、物質の流れを表し、当該矢印の線を当該物質の流路として示すこともある。
【0014】
図1図5は、本発明の一実施形態の集塵水の処理方法に用いうる集塵水処理システムの一例として、それぞれ、第1例乃至第5例の集塵水処理システム11、12、13、14、15を表す模式構成図である。本実施形態の集塵水の処理方法は、排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備40と、固液分離設備40で得られた分離液の一部を洗浄水として湿式集塵処理に供する循環設備50とを用いる。以下、本実施形態の集塵水の処理方法について、固液分離設備40と循環設備50とを備える集塵水処理システム11~15における集塵水の処理方法を例示して説明する。なお、集塵水処理システム11~15は、排ガスを湿式集塵処理して得られる集塵水を処理するシステムであることから、図1図5においては、ガス及び湿式集塵機2を破線(長破線)で示している。集塵水処理システム11~15は、湿式集塵機2を備える排ガス処理システムの一部として構成されていてもよい。
【0015】
本実施形態の集塵水の処理方法では、排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水であって、懸濁物質、及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する集塵水を処理対象とする。集塵水は、排ガスを湿式集塵機2にて湿式集塵処理することにより得られる。また、集塵水中の懸濁物質を固液分離処理により除去するために、集塵水を湿式集塵機2から流路(第1の流路)31を通って固液分離設備40に供給することができる。
【0016】
排ガスとしては、湿式集塵機2での洗浄水との接触により、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を生じる可能性があることから、例えば、鉄等を含むダスト、シアン化水素等のシアン成分、及び一酸化炭素を含有する排ガスが好適である。このような排ガスとしては、例えば、製鉄所から生じる排ガス、溶融炉(精錬炉)等の金属精錬設備から生じる排ガス、セメント製造設備から生じる排ガス、及び各種ごみ等の廃棄物を焼却する廃棄物焼却施設から生じる排ガス等を挙げることができる。
【0017】
排ガス中の気体成分としては、例えば、一酸化炭素(CO)、シアン成分の他、二酸化炭素(CO)、及び窒素(N)等が挙げられるが、これらに限られない。また、排ガス中のダストに含まれる固体成分としては、例えば、鉄分(例えば、鉄、酸化鉄、及び水酸化鉄等)、亜鉛、及び銅等が挙げられるが、これらに限られない。これらのなかでも、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合、後述の通り、集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物(以下、単に「カチオン性化合物」と記載することがある。)を添加するだけで、集塵水を有効に処理しうることから、ダスト及び懸濁物質は、亜鉛及び銅の一方又は両方を含むことが好ましい。
【0018】
懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合、集塵水中の亜鉛及び銅の合計含有量は、1~1000mg(Zn+Cu)/Lであることが好ましく、2~200mg(Zn+Cu)/Lであることがより好ましく、10~100mg(Zn+Cu)/Lであることがさらに好ましい。
【0019】
本方法における処理対象である集塵水は、排ガスに含まれていたダストとしての懸濁物質(SS)を含有する。集塵水中の懸濁物質(SS)濃度は、100~10000mg/Lであることが好ましく、200~5000mg/Lであることがより好ましく、500~3000mg/Lであることがさらに好ましい。
【0020】
また、集塵水は、懸濁物質のほか、ペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する。本明細書において、ペンタシアノカルボニル鉄錯体には、[FeII(CN)(CO)]3-及び[FeIII(CN)(CO)]2-、並びにそれら錯イオンの塩(錯塩)及びその水和物が含まれる。集塵水は、ペンタシアノカルボニル鉄錯体以外のシアン成分を含有してもよい。他のシアン成分としては、例えば、シアン化物イオン(CN;遊離シアン、フリーシアンとも称される。)、フェロシアン化物イオン([Fe(CN)4-;ヘキサシアノ鉄(II)酸イオンとも称される。)、フェリシアン化物イオン([Fe(CN)3-;ヘキサシアノ鉄(III)酸イオンとも称される)、及び[Fe(CN)(CO)2-等を挙げることができる。
【0021】
集塵水のpHは、特に限定されないが、集塵水に後述するカチオン性化合物を添加する際に、5.0~10.0が好ましく、5.5~9.5がより好ましく、6.5~9.0がさらに好ましい。集塵水にpH調整剤を添加して、集塵水のpHを上記範囲内に調整してもよい。pH調整剤は特に限定されず、例えば、塩酸及び硫酸等の酸、並びに水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、及び炭酸ナトリウム等の塩基等の公知のpH調整剤を適宜用いうる。
【0022】
集塵水の温度も特に限定されない。前述の好適な排ガスは比較的高温状態にあることが多く、そのような排ガスを湿式集塵処理して得られる集塵水が好適である観点から、集塵水の温度は、集塵水に後述するカチオン性化合物を添加する際に、20~80℃であることが好ましく、35~80℃であることがより好ましい。集塵水の温度が上記範囲にあることにより、後述のカチオン性化合物や、必要に応じて用いられる亜鉛塩及び/又は銅塩を集塵水に対して十分に反応させることも可能である。
【0023】
本方法では、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び集塵水に亜鉛塩及び銅塩を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加する。すなわち、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合、少なくとも上記条件1を満たすこととなるため、集塵水にカチオン性化合物を添加すればよい。また、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅のいずれも含まない場合、上記条件2を満たすように、集塵水にカチオン性化合物と、亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加すればよい。上記の条件下、アミン構造を有するカチオン性化合物を集塵水に添加することにより、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を難溶化及び/又は不溶化し、集塵水中にペンタシアノカルボニル鉄錯体の難溶化物及び/又は不溶化物(以下、難溶化物も含めて単に「不溶化物」と記載することがある。)を生じさせることができる。
【0024】
上述の通り、集塵水にカチオン性化合物、及び必要に応じてさらに亜鉛塩及び/又は銅塩を添加して、それらが添加された集塵水を対象として、固液分離設備40にて集塵水中の懸濁物質の固液分離処理を行う。これにより、集塵水中に生じさせた不溶化物を懸濁物質とともに固体成分として固液分離し、除去することが可能となる。このように、集塵水中の懸濁物質を除去するための固液分離処理と同時に、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を不溶化物として固液分離処理により分離除去することが可能となる。集塵水は刻々と変動しうるために懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含むか否かも変わる可能性があること、また、それらの濃度も変わる可能性があること、さらに除去性能が高まりやすいことから、上記条件1及び条件2の両方を満たすことが好ましい。すなわち、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含み、かつ、その集塵水にカチオン性化合物、並びに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加することが好ましい。
【0025】
懸濁物質等の固液分離に用いる固液分離設備40としては、例えば、沈殿処理を行い得るシックナー等の沈殿装置、膜分離処理を行い得る膜分離装置、及びろ過処理を行い得るろ過装置等を挙げることができる。これらのなかでも、沈殿装置を用いた沈殿処理が好ましい。固液分離設備40には、撹拌機構48が設けられていてもよい(図2図5参照)。
【0026】
集塵水へのカチオン性化合物及び必要に応じて用いられる亜鉛塩及び/又は銅塩の添加場所は、固液分離処理の対象となる集塵水にカチオン性化合物や、亜鉛塩及び/又は銅塩が添加されればよいことから、固液分離設備40、及び/又は固液分離設備40の前であればよい。固液分離設備40の前としては、湿式集塵機2と固液分離設備40との間であればよく、例えば、第1の流路31の途中にカチオン性化合物や、亜鉛塩及び/又は銅塩の添加位置を設けてもよい。
【0027】
また、図示しないが、湿式集塵機2と固液分離設備40との間に、湿式集塵機2から第1の流路31を流れる集塵水を受け入れる受入槽や、その受入槽から集塵水を固液分離設備40に送るための流路等が設けられてもよい。その受入槽や、受入槽から固液分離設備40への流路等を、カチオン性化合物等の添加位置としてもよい。
【0028】
さらに、図2図5に示すように、固液分離設備40には、集塵水を湿式集塵機2から固液分離設備40に送るための樋や配管等の流路(第2の流路)32を敷設することが好ましい。その第2の流路32をカチオン性化合物や、亜鉛塩及び/又は銅塩の添加位置とし、当該第2の流路32において、集塵水に対して、カチオン性化合物、さらには必要に応じて亜鉛塩及び/又は銅塩を接触させ、それらを第2の流路32で流して固液分離設備40に送ることが好ましい。第2の流路32は、第1の流路31と同一流路として構成されていてもよいし、第1の流路31に接続されていてもよい。
【0029】
図1図5に示すように、固液分離設備40や第2の流路32等には、集塵水にカチオン性化合物を添加するための装置(カチオン性化合物添加装置)42を設けることができる。カチオン性化合物添加装置42は、例えば、カチオン性ポリマーを貯留するためのタンク、並びにカチオン性化合物を供給するためのポンプ及び供給管等を備えることができる。
【0030】
集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅を含まない場合、集塵水に亜鉛塩を添加するための装置(亜鉛塩添加装置)44、及び銅塩を添加するための装置(銅塩添加装置)46の少なくとも一方を、固液分離設備40や第2の流路32等に設けることが好ましい。図3に示すように、第2の流路32が亜鉛塩や銅塩の添加位置となるように、亜鉛塩添加装置44及び銅塩添加装置46の少なくとも一方を設けることがより好ましい。亜鉛塩添加装置44や銅塩添加装置46は、例えば、各材料(亜鉛塩又は銅塩)を貯留するためのタンク、並びに各材料を供給するためのポンプ及び供給管等を備えることができる。
【0031】
集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合には、亜鉛塩添加装置44や銅塩添加装置46を設けなくてもよい(図1及び図2参照)が、上述の通り、上記の条件1及び条件2の両方を満たすことが好ましいことから、亜鉛塩添加装置44及び/又は銅塩添加装置46を設けることが好ましい(図3図5参照)。なお、図3では、亜鉛塩添加装置44及び銅塩添加装置46の両方が示されているが、いずれか一方でもよい。また、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む場合に、亜鉛塩添加装置44及び銅塩添加装置46を設けなくてもよいことを表すように、図4及び図5では、亜鉛塩添加装置44及び銅塩添加装置46を破線で示している。
【0032】
カチオン性化合物におけるアミン構造は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の構造であればよい。アミン構造を有するカチオン性化合物は、水中で水溶性カチオンとして利用される。本明細書において、アミン構造とは、アンモニア(NH)の構造中の水素原子を原子団(ヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基)に置換した構造をいう。そして、置換した数が1つの場合を第1級アミンの構造、2つの場合を第2級アミンの構造、3つの場合を第3級アミンの構造、第3級アミンの構造中の窒素原子にさらに炭化水素基が結合した構造を第4級アンモニウムの構造という。
【0033】
アミン構造を有するカチオン性化合物は、モノマー、オリゴマー、及びポリマーのいずれでもよい。これらのなかでも、集塵水にカチオン性化合物を添加し、混合した際の発泡を抑制しやすい観点から、第1級、第2級、及び第3級アミンの構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するカチオン性モノマー、並びにアミン構造を有するカチオン性ポリマーが好ましく、第1級アミンの構造を有するカチオン性モノマー、及びアミン構造を有するカチオン性ポリマーがより好ましい。なお、以下のアミン構造を有するカチオン性ポリマーには、オリゴマーも含まれるものとする。
【0034】
第1級~第3級アミン構造を有するカチオン性モノマーとしては、例えば、n-オクチルアミン、2-エチルへキシルアミン、3-(2-エチルへキシルオキシ)プロピルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、ヤシアルキルアミン、牛脂アルキルアミン、及び大豆アルキルアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する脂肪族アミン、並びにN-オレオイルエチレンジアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する脂肪酸アミドアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する1級アミン化合物;ジ(2-エチルヘキシル)アミン、ジ(n-オクチル)アミン、ジデシルアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアミン、及びN-(2-ヒドロキシエチル)オレイルアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する2級アミン化合物;ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、トリ-n-オクチルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オレイルアミン等の炭素原子数7以上の炭化水素基を有する3級アミン化合物;等を挙げることができる。また、第1級~第3級アミン構造を有するカチオン性モノマーとしては、第1級アミン構造、第2級アミン構造、及び第3級アミン構造のうちの2以上の構造と、炭素原子数7以上の炭化水素基とを一分子内に有する化合物も用いることができる。そのようなカチオン性モノマーとしては、例えば、N,N-ビス(アミノプロピル)ドデシルアミン、N-オレイルプロピレンジアミン、及びN-オレイルエチレンジアミン等を挙げることができる。さらに、上記に挙げたカチオン性モノマーの具体例は、塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、スルファミン酸塩、炭酸塩、及びクエン酸塩等)であってもよい。これらの塩のうち、塩酸塩及び硫酸塩がより好ましい。また、第4級アンモニウムの構造(第4級アンモニウムカチオン)を有するカチオン性モノマーとしては、例えば、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、及びベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。これらにおける第4級アンモニウムカチオンと対となる陰イオンは、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオン及び臭化物イオンがより好ましい。
【0035】
カチオン性化合物としてポリマー(カチオン性ポリマー)を用いる場合、カチオン性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、1,000~1,000,000であることが好ましく、5,000~800,000であることがより好ましく、10,000~500,000であることがさらに好ましい。カチオン性ポリマーのMwは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)若しくはゲルろ過クロマトグラフィー(GFC))、又は粘度測定からの類推法により測定される、標準試料としてのポリエチレングリコール換算の値をとることができる。
【0036】
アミン構造を有するカチオン性ポリマーとしては、例えば、アリルアミン重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミンアミド硫酸塩重合体等のアリルアミン系重合体;ジアリルアミン重合体、ジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン・アクリルアミド共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、メチルジアリルアミン・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド-ジアリルアミン塩酸塩誘導体共重合体等のジアリルアミン系重合体;アリルアミン・ジアリルアミン重合体、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩共重合体、アリルアミン・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体等のアリルアミン・ジアリルアミン系共重合体;部分メトキシカルボニル化アリルアミン重合体、部分メチルカルボニル化アリルアミン酢酸塩重合体、部分尿素化アリルアミン重合体、及び部分カルボキシルメチル化ポリアリルアミン重合体等の変性アリルアミン系重合体;等を挙げることができる。
【0037】
また、アミン構造を有するカチオン性ポリマーとしては、例えば、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物;ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物;ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物;ジメチルアミン・アンモニア・エピクロロヒドリン重縮合物;ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロロヒドリン重縮合物;ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物;ポリアミドポリアミン-エピクロロヒドリン重縮合物;ポリエチレンイミン;等を挙げることもできる。
【0038】
上記に挙げたカチオン性化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。それらのなかでも、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を不溶化しやすく、かつ、集塵水に混合した際の発泡を抑制しやすい観点から、カチオン性化合物は、アミン構造を有するカチオン性ポリマーを含むことが好ましい。なかでも、カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0039】
上記のカチオン性ポリマーのなかでも、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体をより不溶化しやすい観点から、カチオン性化合物は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含むことがさらに好ましい。また、上記のカチオン性ポリマーのなかでも、粘度が比較的低いことでポンプ等による送液及び添加等が行いやすい観点から、カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むこともさらに好ましい。
【0040】
また、カチオン性化合物としては、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を不溶化しやすいこと、集塵水に混合した際の発泡を抑制しやすいこと、及び粘度が比較的低く、ポンプ等による送液及び添加等が行いやすいことから、オレイルアミンもさらに好ましい。さらには、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体をさらに不溶化しやすいこと、及び粘度が比較的低く、ポンプ等による送液及び添加等が行いやすいことから、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を用いることもさらに好ましい。オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合比率としては、オレイルアミンによる上記効果を維持しつつ、不溶化処理能をさらに高める観点から、オレイルアミンの質量に対するジデシルジメチルアンモニウムクロリドの質量の比が0.5~2の範囲が好ましく、1~2の範囲がより好ましい。
【0041】
集塵水にカチオン性化合物を添加する際のカチオン性化合物の形態としては、粉末状や、水等に溶かした溶液(水溶液等)状などを挙げることができ、水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0042】
集塵水にカチオン性化合物とともに必要に応じて添加される亜鉛塩には、水中で亜鉛イオン(Zn2+)を生じうる化合物を好適に用いることができる。好適な亜鉛塩としては、例えば、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛、及び亜硫酸亜鉛等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、硫酸亜鉛が好ましい。集塵水に亜鉛塩を添加する際の亜鉛塩の形態としては、粉末状や、水等に溶かした溶液(水溶液等)状などを挙げることができ、水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0043】
集塵水にカチオン性化合物とともに必要に応じて添加される銅塩には、銅(I)塩及び銅(II)塩のいずれも用いることができ、水中で銅(I)イオン(Cu)又は銅(II)イオン(Cu2+)を生じうる化合物を好適に用いることができる。好適な銅(I)塩としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、臭化銅(I)、酢酸銅(I)、及び硫化銅(I)等を挙げることができる。好適な銅(II)塩としては、例えば、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、酢酸銅(II)、酸化銅(II)、及び硝酸銅(II)等を挙げることができる。銅(I)塩及び銅(II)塩のうちの1種又は2種以上を用いることができ、なかでも、酸化銅(I)、硫酸銅(II)が好ましい。集塵水に銅塩を添加する際の銅塩の形態としては、粉末状や、溶液状などを挙げることができ、溶液状の形態で用いることが好ましい。溶液状の形態で用いる場合の溶媒としては、水;希塩酸及び希硫酸等の酸;アンモニア水等の塩基;等を挙げることができる。
【0044】
集塵水に対するカチオン性化合物の添加量(集塵水中のカチオン性化合物の濃度)は、カチオン性化合物(有効成分量)として、1~500mg/Lであることが好ましく、2~100mg/Lであることがより好ましく、3~25mg/Lであることがさらに好ましい。また、集塵水に亜鉛塩を添加する場合、集塵水に対する亜鉛塩の添加量(集塵水中の亜鉛塩の濃度)は、亜鉛塩として、0.1~100mg/Lであることが好ましく、0.5~40mg/Lであることがより好ましく、1~20mg/Lであることがさらに好ましい。さらに、集塵水に銅塩を添加する場合、集塵水に対する銅塩の添加量(集塵水中の銅塩の濃度)は、銅塩として、0.1~100mg/Lであることが好ましく、0.5~40mg/Lであることがより好ましく、1~15mg/Lであることがさらに好ましい。上記のカチオン性化合物、亜鉛塩、及び銅塩の各添加量は、それらの2種以上が用いられる場合には当該2種以上の合計の添加量を表す。
【0045】
なお、固液分離処理の際には、上述したカチオン性化合物、亜鉛塩、及び銅塩のほか、さらに凝集剤が用いられてもよい。凝集剤の種類は特に限定されず、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、及び塩化第二鉄等の無機凝集剤、並びにアニオン性高分子凝集剤等の高分子凝集剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
アミン構造を有するカチオン性化合物、並びに必要に応じて亜鉛塩及び/又は銅塩が添加された集塵水を固液分離設備で固液分離処理するに当たり、集塵水、カチオン性化合物、並びに必要に応じて添加された亜鉛塩及び/又は銅塩は、所定時間混合されることが好ましい。混合の時間としては、例えば、2秒~20分間が好ましく、5秒~10分間がより好ましく、10秒~5分間がさらに好ましい。このような短時間でも、集塵水に対するカチオン性化合物、並びに亜鉛塩及び/又は銅塩の添加効果を得ることができる。上述した第2の流路32が敷設された固液分離設備(より好適には沈殿装置)40を用いれば、第2の流路32において、集塵水、カチオン性化合物、並びに必要に応じて用いられる亜鉛塩及び/又は銅塩を混合することができる(図2図5参照)。
【0047】
固液分離設備40において、固形分(懸濁物質、及び不溶化物等)とは分離された液分(分離液)の一部は、循環設備50により、排ガスの洗浄水として湿式集塵処理(湿式集塵機2)に供給される。これにより、分離液中にペンタシアノカルボニル鉄錯体等のシアン成分が僅かに残留する場合でも、循環して繰り返して処理を行うことで、水中シアン濃度をさらに低減することが可能となる。
【0048】
固液分離設備40で固形分とは分離された分離液の一部は、配管等の流路(第3の流路)33を通って循環設備50に供給することができる。循環設備50は、固液分離設備40で得られた分離液を貯留する貯槽52、並びに貯槽52内の分離液の一部を湿式集塵処理に送るための配管等の流路(第4の流路)54及び循環ポンプ56を備えて構成されることが好ましい。
【0049】
また、本実施形態の集塵水の処理方法では、固液分離処理(固液分離設備40)により得られた分離液の一部を、湿式集塵処理に供される洗浄水とは別にブロー水として循環設備外に排出することができる。例えば、固液分離処理により得られた分離液を第3の流路33を通じて循環設備50の貯槽52に送り、その貯槽52内の分離液の一部をブロー水として、配管等の流路(第5の流路)35を通じて排出することができる。また、図示しないが、固液分離設備40と第5の流路(35)とを接続し、循環設備50に送る分離液とは別に、固液分離設備40から第5の流路(35)を通じてブロー水を排出してもよい。
【0050】
本方法では、固液分離処理により、集塵水中の懸濁物質とともに、ペンタシアノカルボニル鉄も不溶化物として分離除去することが可能であることから、上記ブロー水を、全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である処理水とすることが可能である(図1図3参照)。しかも、循環設備50の貯槽52の後には、前述した還元銅塩法で必要となるようなさらなる沈殿槽7(図6参照)は不要であるため、設備の設置費用を還元銅塩法の場合と比べて低く抑えることができる。
【0051】
一方、集塵水がシアン成分としてペンタシアノカルボニル鉄とともにシアン化物イオンを含有する場合、固液分離処理により得られた分離液中にシアン化物イオンが含有されている可能性もある。そこで、集塵水がさらシアン化物イオンを含有する場合、本実施形態の集塵水の処理方法は、集塵水、並びに固液分離設備40で得られた分離液であって、循環設備50に供給される前の分離液、及び循環設備50に供給された分離液(より好ましくは貯槽52内の分離液)のうちの少なくともいずれかに、酸化剤を添加することを含むことが好ましい。これにより、集塵水又は分離液中にシアン化物イオンが残留している場合に、シアン化物イオンを酸化分解することできる。また、そのように処理された分離液の一部を循環設備で循環利用することで、集塵水がシアン化物イオンを含有する場合にも、それらシアン成分が有効に低減された処理水、例えば全シアン濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である処理水を得ることができる。しかもこの場合にも、循環設備50の貯槽52の後には、前述した還元銅塩法で必要となるようなさらなる沈殿槽7(図6参照)は不要であるため、設備の設置費用を還元銅塩法の場合と比べて低く抑えることができる。
【0052】
集塵水、循環設備50に供給される前の分離液、及び循環設備50に供給された分離液のうちの少なくともいずれかに、酸化剤を添加する場合、図4及び図5に示すように、酸化剤を添加するための装置(酸化剤添加装置)62を用いることができる。集塵水や、循環設備50に供給される前の分離液、循環設備50に供給された分離液(好ましくは貯槽52内の分離液)に酸化剤を添加するために、例えば、前述の第2の流路32、固液分離設備40、第3の流路33、及び貯槽52の少なくともいずれかが酸化剤の添加位置となるように、酸化剤添加装置62を設けることが好ましい。酸化剤添加装置62は、例えば、酸化剤を貯留するためのタンク、並びに酸化剤を供給するためのポンプ及び供給管等を備えることができる。酸化剤添加装置62は、使用する酸化剤の種類に応じて、複数設けられてもよい。なお、集塵水がシアン化物イオンを含有しない場合、酸化剤添加装置62を設けなくてもよい(図1図3参照)ことを表すように、図5では、酸化剤添加装置62を破線で示している。
【0053】
酸化剤としては、過酸化水素、酸素、オゾン、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、及びヨウ素化合物等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、シアン化物イオンに対する酸化分解能、及び設備の腐食が生じ難い観点から、使用する酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含むことが好ましい。また、酸化剤とともに、酸化剤の反応助剤を用いてもよい。反応助剤としては、例えば、触媒量としての銅塩や、還元性硫黄化合物等を挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
また、集塵水や分離液中のシアン化物イオンをより酸化分解し易い観点から、酸化剤としては、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;次亜塩素酸又はその塩と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを用いることが好ましい。これらのなかでも、酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;及び過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;のうちの少なくとも1種の組み合わせを含むことがさらに好ましい。上記の各組み合わせの酸化剤は、水等に溶かした溶液(水溶液等)状の形態で用いることがより好ましい。
【0055】
次亜塩素酸塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、及び次亜塩素酸マグネシウム等を挙げることができる。触媒量としての銅塩とは、銅がシアン化物イオン及び/又はシアノ錯体に対してモル比1:1より少ない量のことを指す。銅塩としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、臭化銅(I)、酢酸銅(I)、及び硫化銅(I)等の銅(I)塩、並びに硫酸銅(II)、塩化銅(II)、酸化銅(II)、酢酸銅(II)、及び硝酸銅(II)等の銅(II)塩を挙げることができる。還元性硫黄化合物としては、例えば、チオ硫酸塩、硫化物塩、多硫化物塩、チオシアン酸塩、メルカプト酢酸、メルカプトエタノール、システイン、システイン塩酸塩、チオグリコール酸、チオジグリコール、チオエタノール、チオリンゴ酸、チオリンゴ酸塩、及びメルカプトベンゾイミダゾール等を挙げることができる。チオ硫酸塩としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カルシウム、及びチオ硫酸マグネシウム等を挙げることができる。硫化物塩としては、例えば、硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化アンモニウム、及び硫化鉄(II)等を挙げることができる。多硫化物塩としては、例えば、多硫化ナトリウム、多硫化カルシウム、多硫化カリウム、及び多硫化マグネシウム等を挙げることができる。チオシアン酸塩としては、例えば、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、及びチオシアン酸カルシウム等を挙げることができる。
【0056】
集塵水又は分離液に対する酸化剤の添加量(集塵水又は分離液中の酸化剤の濃度)は、酸化剤(有効成分量)として、1~1000mg/Lであることが好ましく、2~500mg/Lであることがより好ましく、5~160mg/Lであることがさらに好ましい。上記の酸化剤の添加量は、2種以上の酸化剤が用いられる場合には、当該2種以上の合計の添加量を表す。
【0057】
酸化剤を添加する際の集塵水又は分離液のpHは、特に限定されないが、5.0~10.0であることが好ましく、5.5~9.5であることがより好ましく、6.0~9.0であることがさらに好ましい。酸化剤を添加する前の集塵水又は分離液にpH調整剤を添加して、集塵水又は分離液のpHを上記範囲内に調整してもよい。pH調整には、上述の通り、公知のpH調整剤を適宜用いうる。
【0058】
集塵水又は分離液に酸化剤を添加した後、集塵水又は分離液中のシアン化物イオンと酸化剤とが十分に反応しうるように、酸化剤が添加された集塵水又は分離液を所定時間撹拌することが好ましい。撹拌の時間としては、例えば、1~60分間が好ましく、2~45分間がより好ましく、5~30分間がさらに好ましい。集塵水に酸化剤を添加する場合には、固液分離設備40にて撹拌を行うことが好ましく、分離液に酸化剤を添加する場合には、循環設備50の貯槽52にて撹拌を行うことが好ましい。例えば、撹拌機構48を備えた固液分離設備40や、撹拌機構(不図示)を設けた貯槽52にて撹拌を行うことができる。
【0059】
固液分離設備40で液分とは分離された固形分(懸濁物質、及び不溶化物等)を含むスラリーについて、濃縮処理及び脱水処理のいずれか一方又は両方を行い、脱水ケーキと分離水を得ることが好ましい。また、得られた分離水を前述の固液分離処理(固液分離設備40)に送ることが好ましい。これにより、集塵水中のシアン成分の除去処理をさらに安定して行うことが可能となる。
【0060】
例えば図5に示すように、固液分離設備40で液分とは分離された固形分を含むスラリーを、配管等の流路(第6の流路)36を介して脱水機80に送り、脱水処理することにより、脱水ケーキ及び分離水を得ることができる。脱水機80による脱水処理の代わりに濃縮槽(不図示)による濃縮処理であってもよく、濃縮槽による濃縮処理と脱水機80による脱水処理とを併用してもよい。脱水機80で得られた分離水(脱水ろ液)は、配管等の流路(第7の流路)37を通って、より好ましくはさらに第2の流路32を通って固液分離設備40に送られることが好ましい。この場合、第7の流路37と第2の流路32とが接続されていることが好ましい。固液分離設備40には、脱水機80で得られた分離水(脱水ろ液)のほか、濃縮槽で得られた分離水が送られてもよく、余剰のスラリーが送られてもよい。
【0061】
本実施形態の集塵水の処理方法は、集塵水又は分離液中の全シアン濃度と、集塵水、分離液、又は処理水中のシアン化物イオン濃度を測定することを含んでいてもよい。集塵水又は分離液中の全シアン濃度の測定値、及び集塵水、分離液、又は処理水中のシアン化物イオン濃度の測定値に応じて、カチオン性化合物、亜鉛塩、銅塩、及び酸化剤の各添加量を調整することもできる。
【0062】
以上詳述した通り、本実施形態の集塵水の処理方法によれば、特定の条件下、アミン構造を有するカチオン性化合物を集塵水に添加することにより、集塵水中にペンタシアノカルボニル鉄錯体の不溶化物を生じさせることができる。そして、集塵水中に生じさせたペンタシアノカルボニル鉄錯体の不溶化物、及び懸濁物質を一緒に、固液分離処理により分離除去することができる。したがって、本方法によれば、集塵水中の懸濁物質を固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、集塵水中の懸濁物質を分離除去するのと同時に、集塵水中のシアン成分(ペンタシアノカルボニル鉄錯体)をも有効に除去処理することができる。よって、従来技術と比べて、設備の設置費用を低く抑えつつ、シアン濃度が有効に低減された処理水を得ることができる。
【0063】
また、本実施形態の集塵水の処理方法では、その一態様として、集塵水、又は固液分離処理で得られた分離液のうちの少なくとも一方に、酸化剤を添加することができる。そのため、集塵水又は分離液中にシアン化物イオンが残留している場合に、シアン化物イオンを酸化分解により除去した分離液を得ることができ、その分離液の一部を循環設備で循環利用することで、シアン化物イオンもより有効に低減された処理水を得ることができる。
【0064】
なお、本発明の一実施形態の集塵水の処理方法は、次の構成をとることが可能である。
[1]排ガスの湿式集塵処理により得られる集塵水中の懸濁物質を固液分離する固液分離設備と、前記固液分離設備で得られた分離液の一部を洗浄水として前記湿式集塵処理に供する循環設備とを用いて、前記集塵水を処理する方法であって、
前記集塵水は、さらにペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有し、
前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含む条件1、及び前記集塵水にさらに亜鉛塩及び銅塩の一方又は両方を添加する条件2のうちの少なくとも一方を満たす条件下、前記集塵水に、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して、前記固液分離設備で固液分離処理することを含む、集塵水の処理方法。
[2]前記集塵水中の前記懸濁物質が亜鉛及び銅の一方又は両方を含み、
少なくとも前記条件1を満たす条件下、前記集塵水に前記カチオン性化合物を添加することを含む上記[1]に記載の集塵水の処理方法。
[3]前記条件2として、前記集塵水に、前記亜鉛塩及び前記銅塩の一方又は両方を添加することを含む上記[1]又は[2]に記載の集塵水の処理方法。
[4]前記カチオン性化合物は、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン重縮合物、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・ポリエチレンポリアミン重縮合物、アリルアミン塩酸塩重合体、及びアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[5]前記カチオン性化合物は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[6]前記カチオン性化合物は、オレイルアミンを含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[7]前記カチオン性化合物は、オレイルアミンとジデシルジメチルアンモニウムクロリドの混合物を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[8]前記集塵水は、さらにシアン化物イオンを含有し、
前記集塵水;前記循環設備に供給される前の前記分離液;及び前記循環設備に供給された前記分離液;のうちの少なくともいずれかに、酸化剤を添加することを含む上記[1]~[7]のいずれかに記載の集塵水の処理方法。
[9]前記酸化剤は、少なくとも過酸化水素を含む上記[8]に記載の集塵水の処理方法。
[10]前記酸化剤は、過酸化水素と、次亜塩素酸又はその塩との組み合わせ;過酸化水素と、触媒量としての銅塩との組み合わせ;過酸化水素と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;次亜塩素酸又はその塩と、還元性硫黄化合物との組み合わせ;からなる群より選ばれる少なくとも1種の組み合わせを含む上記[8]に記載の集塵水の処理方法。
【実施例
【0065】
以下、試験例を挙げて、上述した本発明の一実施形態の集塵水の処理方法の効果等をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
【0066】
<模擬集塵水>
本試験例では、処理対象である集塵水として、以下に述べる、シアン成分を含有する原水と、懸濁物質とを混合して調製した模擬集塵水を用いた。
【0067】
(原水)
所定の工場における排ガスの洗浄を行う排ガス処理装置から排出された、未燃カーボン、鉄分、及び亜鉛分等の懸濁物質を含有する廃水を沈降分離して得られた上澄水を用意した。この上澄水を原水とし、採取した日が異なる3種の原水No.1~3を用意した。これらの原水について、JIS K0102:2013における全シアンの測定方法により、全シアン(T-CN)濃度を測定し、JIS K0102:2013におけるシアン化物の測定法のうちの通気法により、遊離シアン(F-CN)濃度を測定した。また、T-CN濃度の測定値からF-CN濃度の測定値を差し引いた値をシアノ錯体濃度として算出した。その結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
また、原水No.1~3の各原水を5種Cろ紙でろ過して得られたろ液について、液体クロマトグラフィー(LC;商品名「Alliance 2695」、日本ウォーターズ社製)に、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS;商品名「ICP-MS7500」、アジレント・テクノロジー社製)を検出器として結合させた装置(LC-ICP-MS)を用い、以下の測定条件にて、原水中の溶解性のシアノ錯体の濃度を分析した。
(測定条件)
カラム;ODSカラム(商品名「L-Column2」;粒子径5μm、内径4.6mm、カラム長150mm、2連;化学物質評価研究機構製)
移動相;アセトニトリルと25mMリン酸緩衝液(pH7.0、イオンペア試薬として15mMリン酸二水素テトラブチルアンモニウムを含む)との体積比40:60の混合物
流速;0.8mL/分
カラム温度;40℃
検出器;ICP-MS及びフォトダイオードアレイ(PDA)(検出波長:210~400nm)
ICP-MSにおける検出対象元素:Fe(原子量56)、Cu(原子量63)、Ni(原子量60)、Co(原子量59)、Zn(原子量66)
注入量;50~100μL
【0070】
上記分析の結果、原水No.1~3はいずれも[Fe(CN)(CO)]3-、[Fe(CN)(CO)2-、[Fe(CN)4-、及び[Fe(CN)3-を含有することが確認された。それらシアノ錯体の合計濃度は、原水No.1では3.0mg-CN/L、原水No.2では2.8mg-CN/L、原水No.3では1.2mg-CN/Lであった。これらの原水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の濃度は、表1に示すT-CN濃度からF-CN濃度を差し引いたシアノ錯体濃度と比較することで、原水中のシアノ錯体の過半(50質量%超)が、ペンタシアノカルボニル鉄錯体であることが認められた。なお、上記分析の結果、原水No.1のシアノ錯体濃度の内訳は、[Fe(CN)(CO)]3-:1.8mg/L、[Fe(CN)(CO)2-:0.3mg/L、[Fe(CN)4-:0.6mg/L、及び[Fe(CN)3-:0.3mg/Lであった。また、原水No.2のシアノ錯体濃度の内訳は、[Fe(CN)(CO)]3-:1.7mg/L、[Fe(CN)(CO)2-:0.3mg/L、[Fe(CN)4-:0.5mg/L、及び[Fe(CN)3-:0.3mg/Lであった。さらに、原水No.3のシアノ錯体濃度の内訳は、[Fe(CN)(CO)]3-:0.7mg/L、[Fe(CN)(CO)2-:0.1mg/L、[Fe(CN)4-:0.3mg/L、及び[Fe(CN)3-:0.1mg/Lであった。
【0071】
(懸濁物質)
所定の工場における排ガスの洗浄を行う排ガス処理装置から排出された、未燃カーボン、鉄分、及び亜鉛等を含む懸濁物質(SSNo.1)と、亜鉛及び銅を含まない懸濁物質(SSNo.2)を用意した。これらの懸濁物質(SS)の元素組成を蛍光X線分析によって求め、表2に示した。後述する通り、これらの懸濁物質(SSNo.1又はSSNo.2)と、上述した原水(原水No.1~3のいずれか)とを混合して模擬集塵水を調製した。
【0072】
また、後述する通り、組成を変更したSSを用意するために、原水と、SSNo.2と、以下に述べる金属塩の溶液に水酸化ナトリウムを混合して調製した金属水酸化物懸濁液の所定量とを同時に混合し、模擬集塵水中のSS組成を表2のSSNo.3~13に示す通りに変更した模擬集塵水も用意した。上記金属塩の溶液として、SSNo.3~6ではZn2+源である硫酸亜鉛7水和物の水溶液、SSNo.7~10ではCu源である酸化第一銅を塩酸で溶解した溶液、SSNo.11ではFe2+源である塩化第一鉄の水溶液、SSNo.12ではNi2+源である硫酸ニッケル6水和物の水溶液、SSNo.13ではMn2+源である硫酸マンガン5水和物の水溶液を用いた。
【0073】
なお、表2には、各懸濁物質(SSNo.1~13)の概要として、SSNo.1は「Zn含有SS」、SSNo.2は「Zn,Cu不含SS」と記した。また、SSNo.3は、SSNo.2に硫酸亜鉛を添加したことでSS中のZn含有率(質量%)を0.1質量%に調整したことから、「Zn,Cu不含SS+Zn0.1%」と記した。SSNo.4~13についても、SSNo.3と同様に概要を記した。
【0074】
【0075】
(模擬集塵水の調製)
原水(原水No.1~3のいずれか)を100mLビーカーにとり、50℃になるように加熱撹拌し、塩酸によりpH7.5に調整した。原水に対し、懸濁物質(SSNo.1又はSSNo.2)、又はSSNo.2と上記金属水酸化物懸濁液を、合計SS濃度が後述する試験例で示す通りになるように添加した。このようにして、シアン成分、及び懸濁物質(SSNo.1~13のいずれか)を含有する模擬集塵水を調製した。各試験例で処理対象とした模擬集塵水に使用した原水及び懸濁物質(SS)の種類(No.)、並びに当該集塵水中のSS濃度、及び亜鉛(Zn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、又はマンガン(Mn)の濃度を、後記表5~10の模擬集塵水欄に示す。
【0076】
<予備試験>
原水No.1を100mLビーカーにとり、50℃になるように加熱撹拌し、塩酸によりpH7.5に調整した。この原水にSSNo.2を2000mg/L添加して模擬集塵水とし、その模擬集塵水に対して、硫酸亜鉛7水和物の10質量%濃度水溶液を硫酸亜鉛(ZnSO)として10mg/L、後記表4に示すカチオン性化合物Aを10mg/L添加した。それらの添加後、予備試験1では20秒間、予備試験2では300秒間(5分間)撹拌して反応させ、反応液を得た。得られた反応液をろ紙(5種C)でろ過し、ろ液を得た。このろ液中の全シアン(T-CN)濃度を、後記の「処理水のT-CN濃度の測定」と同様の方法で測定した。予備試験1及び2の結果を、原水No.1のT-CN濃度値とともに表3に示す。
【0077】
【0078】
予備試験1及び2の結果より、模擬集塵水に亜鉛塩及びカチオン性化合物を添加した後、それらの混合時間が20秒間、及び5分間でも十分にT-CN濃度が低減された処理水が得られることが確認された。そのため、前述の集塵水処理システム12~15における第2の流路32(図2図5参照)において、集塵水、カチオン性化合物、及び亜鉛塩を混合することで、十分に処理を行い得ることが認められる。予備試験1及び2の結果を踏まえ、以下の試験例では、模擬集塵水と、カチオン性化合物等との混合時間の条件を5分間に設定した。
【0079】
<カチオン性化合物>
以下に述べる試験例では、カチオン性化合物として下記表4に示す化合物A~Lを用い、また、比較のための化合物Mとしてアクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合物を用いた。化合物A~Hはアミン構造を有するカチオン性ポリマーである。化合物Iは第4級アンモニウムの構造を有するカチオン性モノマーであり、化合物Jは第1級アミンの構造を有するカチオン性モノマーである。また、化合物K及びLは、2種のカチオン性化合物(オレイルアミン及びジデシルジメチルアンモニウムクロリド)の混合物であるが、便宜上、化合物と記載する。
【0080】
【0081】
<試験例1シリーズ>
(試験方法)
上記「模擬集塵水の調製」の通り、原水No.1にSSNo.2をSS濃度が2000mg/Lとなるように添加して調製した模擬集塵水を処理対象とした。この50℃、pH7.5の模擬集塵水に、表4に示すカチオン性化合物Aを10mg/L、及び金属塩溶液を下記表5の処理条件欄に示す金属としての添加濃度(金属塩中の金属元素換算の添加濃度)にて添加し、5分間撹拌した後、その模擬集塵水を含む液(以下、反応液)をろ紙(5種C)でろ過した。得られたろ液を処理水とした。ただし、試験例1-1では、ブランク試験として、模擬集塵水にカチオン性化合物A及び金属塩溶液のいずれも添加せずに試験を行い、試験例1-2では、金属塩を添加せずに試験を行った。上記金属塩溶液には、Zn2+源として硫酸亜鉛7水和物の水溶液、Cu源として酸化第一銅の塩酸溶液、Cu2+源として硫酸銅5水和物の水溶液、Ni2+源として硫酸ニッケル6水和物の水溶液、Mn2+源として硫酸マンガン5水和物の水溶液、及びFe2+源として塩化第一鉄の水溶液を用いた(それぞれ、表中、Zn2+、Cu、Cu2+、Ni2+、Mn2+、及びFe2+と記す。)。
【0082】
(処理水のT-CN濃度の測定)
得られた処理水について、JIS K0102の38.1.2で規定される「pH2以下で発生するシアン化水素」で前処理し、JIS K0102の38.3で規定される「4-ピリジンカルボン酸-ピラゾロン吸光光度法」に準じた方法を用いることで全シアン(T-CN)濃度を測定した。結果を表5の処理水欄に示す。
【0083】
【0084】
<試験例2シリーズ>
上記「模擬集塵水の調製」の通り、原水No.1に、下記表6の模擬集塵水欄に示す懸濁物質(SSNo.2~13のいずれか)を2000mg/L含むように調製した模擬集塵水を処理対象とした。この50℃、pH7.5の模擬集塵水に、表4に示すカチオン性化合物Aを下記表6の処理条件欄に示す添加濃度にて添加し、5分間撹拌した後、反応液をろ紙(5種C)でろ過した。得られたろ液を処理水とした。ただし、試験例2-1~2-8では、模擬集塵水にカチオン性化合物Aを添加せずに試験を行った。得られた処理水中の全シアン(T-CN)濃度を、上記の「処理水のT-CN濃度の測定」と同様の方法で測定した。その結果を表6の処理水欄に示す。
【0085】
【0086】
<試験例3シリーズ>
上記「模擬集塵水の調製」の通り、原水No.1に、下記表7の模擬集塵水欄に示す懸濁物質(SSNo.1又はSSNo.6)を当該欄に示すSS濃度にて含むように調製した模擬集塵水を処理対象とした。この50℃、pH7.5の模擬集塵水に、表4に示すカチオン性化合物Aを10mg/L添加し、5分間撹拌した後、反応液をろ紙(5種C)でろ過した。得られたろ液を処理水とした。ただし、試験例3-1~3-6では、模擬集塵水にカチオン性化合物Aを添加せずに試験を行った。得られた処理水中の全シアン(T-CN)濃度を、上記の「処理水のT-CN濃度の測定」と同様の方法で測定した。その結果を表7の処理水欄に示す。
【0087】
【0088】
<試験例4シリーズ>
上記「模擬集塵水の調製」の通り、原水No.1にSSNo.1を2500mg/L添加して調製した模擬集塵水を処理対象とした。この50℃、pH7.5の模擬集塵水に、下記表8の処理条件欄に示す化合物A~M(表4参照)のいずれかを15mg/L添加し、試験例4-3及び4-15~4-29ではさらに、試験例1シリーズで述べた「Zn2+源」又は「Cu源」の金属塩溶液を下記表8の処理条件欄に示す金属としての添加濃度(金属塩中の金属元素換算の添加濃度)にて添加し、5分間撹拌した後、反応液をろ紙(5種C)でろ過した。得られたろ液を処理水とした。ただし、試験例4-1では、模擬集塵水に化合物A~Mのいずれも添加せずに試験を行った。得られた処理水中の全シアン(T-CN)濃度を、上記の「処理水のT-CN濃度の測定」と同様の方法で測定した。その結果を表8の処理水欄に示す。
【0089】
【0090】
<試験例5シリーズ>
上記「模擬集塵水の調製」の通り、原水No.2にSSNo.1をSS濃度が2000mg/Lとなるように添加して調製した模擬集塵水を処理対象とした。この50℃、pH7.5の模擬集塵水に、下記表9の処理条件欄に示す化合物A~M(表4参照)のいずれかを20mg/L添加し、また、同欄中に示す薬剤を各試験例の条件に応じて添加し、5分間撹拌した。ただし、試験例5-1~5-3では、模擬集塵水に化合物A~Mのいずれも添加せずに試験を行った。上記薬剤には、35質量%濃度の過酸化水素水、12質量%濃度の次亜塩素酸水溶液、及び1質量%濃度の硫酸銅(II)5水和物の水溶液を用いた。各試験例における過酸化水素水のHとしての添加濃度(mg(H)/L)、次亜塩素酸水溶液のNaClOとしての添加濃度(mg(NaClO)/L)、硫酸銅(II)水溶液のCuとしての添加濃度(mg(Cu)/L)を、表9の薬剤欄に示す。
上記5分間の撹拌後、残存した過酸化水素及び次亜塩素酸を重亜硫酸ナトリウムの添加によって除去した上で、反応液をろ紙(5種C)でろ過して得られたろ液を処理水とした。得られた処理水中の全シアン(T-CN)濃度を、上記の「処理水のT-CN濃度の測定」と同様の方法で測定した。その結果を表9の処理水欄に示す。
【0091】
【0092】
<試験例6シリーズ>
上記「模擬集塵水の調製」の通り、原水No.3にSSNo.1をSS濃度が2000mg/Lとなるように添加して調製した模擬集塵水を処理対象とした。この50℃、pH7.5の模擬集塵水に、下記表10の処理条件欄に示す化合物A~M(表4参照)のいずれかを20mg/L添加し、また、同欄中に示す薬剤を各試験例の条件に応じて添加し、5分間撹拌した。ただし、試験例6-1~6-3では、模擬集塵水に化合物A~Mのいずれも添加せずに試験を行った。上記薬剤には、35質量%濃度の過酸化水素水、12質量%濃度の次亜塩素酸水溶液、及び1質量%濃度の硫酸銅(II)5水和物の水溶液を用いた。各試験例における過酸化水素水のHとしての添加濃度(mg(H)/L)、次亜塩素酸水溶液のNaClOとしての添加濃度(mg(NaClO)/L)、硫酸銅(II)水溶液のCuとしての添加濃度(mg(Cu)/L)を、表10の薬剤欄に示す。
上記5分間の撹拌後、残存した過酸化水素及び次亜塩素酸を重亜硫酸ナトリウムの添加によって除去した上で、反応液をろ紙(5種C)でろ過して得られたろ液を処理水とした。得られた処理水中の全シアン(T-CN)濃度を、上記の「処理水のT-CN濃度の測定」と同様の方法で測定した。その結果を表10の処理水欄に示す。
【0093】
【0094】
以上の試験例1~6シリーズの各試験例の結果、懸濁物質及びペンタシアノカルボニル鉄錯体を含有する模擬集塵水に対して、様々な条件で処理を行い、全シアン(T-CN)濃度が排水基準の1mg(CN)/L以下である処理水が得られた(試験例1-3~12、試験例2-13~24、試験例3-7~12、試験例4-4~29、試験例5-5~15、及び試験例6-5~17)。
【0095】
具体的には、ペンタシアノカルボニル鉄等のシアノ錯体及び懸濁物質を含有する集塵水に対して、当該集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び銅を含まない場合、アミン構造を有するカチオン性化合物と、亜鉛塩又は銅塩とを添加して固液分離処理することで、T-CN濃度が有効に低減された処理水が得られることが確認された(試験例1-3~12)。
【0096】
また、ペンタシアノカルボニル鉄等のシアノ錯体及び懸濁物質を含有する集塵水に対して、当該集塵水中の懸濁物質が亜鉛又は銅を含む場合、アミン構造を有するカチオン性化合物を添加して固液分離処理することで、T-CN濃度が有効に低減された処理水が得られることが確認された(試験例2-13~24)。この場合の効果は、集塵水中のSS濃度が変わっても認められ(試験例3-7~12及び試験例4-4~29)、さらに亜鉛塩又は銅塩を集塵水に添加することで、T-CN濃度がより低減された処理水が得られやすいことが認められた(試験例4-15~29)。
【0097】
さらに、ペンタシアノカルボニル鉄等のシアノ錯体、シアン化物イオン、及び懸濁物質を含有する集塵水に対して、当該集塵水中の懸濁物質が亜鉛を含む条件下、アミン構造を有するカチオン性化合物、及び酸化剤を添加して固液分離処理することで、T-CN濃度が有効に低減された処理水が得られることが確認された(試験例5-5~15及び試験例6-5~17)。
【0098】
以上の結果から、集塵水中の懸濁物質が亜鉛及び/又は銅を含む条件や集塵水にさらに亜鉛塩及び/又は銅塩を添加する条件下におけるカチオン性化合物の作用により、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体の不溶化物を生じさせ、それを懸濁物質と一緒に固液分離処理で分離除去できると認められる。また、集塵水がさらにシアン化物イオンを含む場合、集塵水やその固液分離処理後に得られた分離液に酸化剤を添加することで集塵水中のシアン化物イオンも酸化分解できると認められる。
【0099】
さらに付言すると、化合物A~H及びJを用いた試験例(No.1-3~12;2-13~24;3-7~12;4-4~10、12、15~21、23及び25~27;5-5~12及び14;6-5~14及び16)では、化合物Iを用いた試験例(No.4-11、22及び28;5-13;6-15)に比べて、当該化合物を模擬集塵水に添加した際の発泡が抑制されていた。また、化合物C、E、H、J、K及びLを用いた試験例(No.4-5、7、10、12~14、16、18、21、23、24、26及び29;5-12、14及び15;6-14、16及び17)では、それら以外の化合物を用いた場合に比べて、粘度が低く、ポンプ送液がより容易であった。
【0100】
上記試験例の結果から、実際に、排ガスを湿式集塵処理して得られる集塵水について、前述の固液分離設備及び循環設備を用いる実施形態に係る集塵水の処理方法を適用することが非常に有用であることが確かめられた。固液分離設備により、集塵水中の懸濁物質とともにペンタシアノカルボニル鉄錯体を分離除去できるためである。また、それにより、集塵水中の懸濁物質を固液分離した後にさらなる沈殿槽を必要としなくても、集塵水中のペンタシアノカルボニル鉄錯体を有効に除去処理することができ、従来技術と比べて、設備の設置費用を低く抑えつつ、シアン濃度が有効に低減された処理水を得ることができるためである。
【符号の説明】
【0101】
11、12、13、14、15:集塵水処理システム
2:湿式集塵機
31、32、33、35、36、37:流路
40:固液分離設備
42:カチオン性化合物添加装置
44:亜鉛塩添加装置
46:銅塩添加装置
50:循環設備
52:貯槽
54:流路
56:循環ポンプ
62:酸化剤添加装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6