(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ゼラチンフィラメント糸及びこれを用いた繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D01F 4/00 20060101AFI20230620BHJP
C08L 89/00 20060101ALI20230620BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20230620BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230620BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20230620BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20230620BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
D01F4/00 Z
C08L89/00
C08L101/14
C08L71/02
A61L31/04 120
A61L31/06
A61L31/14
(21)【出願番号】P 2022116319
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2019113008の分割
【原出願日】2019-06-18
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 智一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 弘毅
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-237083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0130729(US,A1)
【文献】国際公開第2010/010817(WO,A1)
【文献】特開昭49-093562(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235745(WO,A1)
【文献】特開2005-120527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00-6/96
D01F 9/00-9/04
A61L 31/00-31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンを主成分とするフィラメント糸であって、
前記ゼラチンフィラメント糸は、水溶性高分子を含まないか又は水溶性高分子が0質量%を超え10質量%以下含まれ、化学架橋成分は含まず、
糸断面が扁平かつ中実であり、糸断面はくびれがあり、表面のスキン層と内部のコア層があることを特徴とするゼラチンフィラメント糸。
【請求項2】
前記ゼラチンフィラメント糸の断面扁平度は、長径/短径が2以上である請求項1に記載のゼラチンフィラメント糸。
【請求項3】
前記水溶性高分子はポリエチレングリコールである請求項1又は2に記載のゼラチンフィラメント糸。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールの分子量は500以上5000未満である請求項3に記載のゼラチンフィラメント糸。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールの添加量はフィラメント糸に対して0.01~10質量%である請求項3又は4に記載のゼラチンフィラメント糸。
【請求項6】
湿潤状態におかれたときに色調が変わり、湿潤状態になったことが外観で判別することができる請求項1~5のゼラチンフィラメント糸。
【請求項7】
前記フィラメント糸はさらに熱架橋されており、前記熱架橋により、37℃の温水で20時間浸漬しても形状を維持し、溶解しない請求項1~6のいずれかに記載のゼラチンフィラメント糸。
【請求項8】
前記ゼラチンフィラメント糸の強伸度曲線は、最大強度の後に破断伸度までの伸度が10%以上ある請求項請求項1~7のいずれかに記載のゼラチンフィラメント糸。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載のゼラチンフィラメント糸を含む繊維構造物。
【請求項10】
前記繊維構造物は、織物、編物、組み紐から選ばれる少なくとも一つである請求項9に記載の繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として医療用途に有用なゼラチンフィラメント糸及びこれを用いた繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは生体適合性のある高分子であり、細胞培養基材や手術時の臓器の一時的代替のための構造物の材料として用いられている。従来のゼラチン繊維は破断伸度が低くて折れやすく、また長繊維(フィラメント糸)は膠着しやすく解舒が困難なため、織物、編物、組み紐といった長繊維からなる繊維構造物を作成することは困難であった。特許文献1には、ゼラチンとポリエチレングリコール等の水溶性直鎖状高分子を含む水溶液を、空気中に押し出して紡糸することが提案されている。特許文献2には、ゼラチン溶液を凝固浴に吐出させてゲル状繊維とし、取り出して延伸し、残存する溶液を除去することが提案されている。特許文献3には、ゼラチン水溶液をゾル状態となるように加温し、空気中で紡糸した後、架橋剤溶液に浸漬して架橋させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-167397号公報
【文献】特開2005-120527号公報
【文献】特開2005-163204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記のような従来技術で得られたゼラチン繊維からなる長繊維(フィラメント)は、巻き取った糸の解舒が困難でフィラメントを得ることができなかった。またゼラチン繊維にアルデヒド類を用いた化学架橋を施し、破断伸度の大きいゼラチン繊維が提案されているが、架橋成分に問題があり、細胞培養や臓器代替繊維構造物には用いることができなかった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、巻き取った糸の解舒ができ、医療用途に好適なゼラチンフィラメント糸及びこれを用いた繊維構造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のゼラチンフィラメント糸は、ゼラチンを主成分とするフィラメント糸であって、前記ゼラチンフィラメント糸は、水溶性高分子を含まないか又は水溶性高分子が0質量%を超え10質量%以下含まれ、化学架橋成分は含まず、糸断面が扁平かつ中実であり、糸断面はくびれがあり、表面のスキン層と内部のコア層があることを特徴とする。
【0007】
本発明の繊維構造物は、前記のゼラチンフィラメント糸を含む繊維構造物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゼラチンフィラメント糸は、ゼラチンを主成分とするフィラメント糸であって、化学架橋成分は含まず、糸断面が扁平かつ中実であり、糸断面はくびれがあり、表面のスキン層と内部のコア層があることにより、巻き取った糸の解舒ができ、織物、編み物、組み紐などに加工することができる。このゼラチンフィラメント糸は、医療用途等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態のゼラチンフィラメント糸の断面図である。
【
図2】
図2は同、実施例1で得られたゼラチンフィラメント糸の走査型電子顕微鏡(日立FLEX SEM1000型,倍率200倍)の断面写真である。
【
図3】
図3は同、実施例1で得られたゼラチンフィラメント糸の走査型電子顕微鏡(日立FLEX SEM1000型,倍率100倍)の側面写真である。
【
図4】
図4は本発明の一実施例で使用する紡糸機の模式的説明図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例及び比較例のゼラチンフィラメント糸の熱架橋前の強伸度グラフである。
【
図6】
図6は本発明の実施例1のゼラチンフィラメント糸の熱架橋後の強伸度グラフである。
【
図7】
図7は本発明の実施例4のゼラチンフィラメント糸の組み紐の側面写真である。
【
図8】
図8Aは本発明の一実施形態のゼラチンフィラメント糸の乾燥状態の写真(倍率13倍)、
図8Bは同、湿潤状態の写真(倍率13倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ゼラチンを主成分とするフィラメント糸である。主成分とは90質量%以上をいう。化学架橋成分は含まない。有害物質を加えないためである。本発明のフィラメント糸は、糸断面が扁平かつ中実であることが特徴である。本発明の製造方法とも関係するが、本発明では加熱紡糸筒を使用し、この加熱紡糸筒を出た位置では、ゼラチンフィラメント糸は中空状体であり、巻き取ると中空がつぶれて断面が扁平かつ中実になる。前記ゼラチンフィラメント糸の断面扁平度は、長径/短径が2以上であることが好ましく、さらに好ましくは長径/短径が2.2以上である。前記ゼラチンフィラメント糸断面は、くびれがあってもよい。その他さまざまな扁平形状を含む。糸断面が扁平であることにより、巻き取った糸の解舒ができる。
【0011】
前記ゼラチンフィラメント糸はゼラチン100質量%でもよいし、水溶性高分子を含ませてもよい。水溶性高分子を含ませると伸度が高くなり、織物、編み物、組み紐などに加工しやすくなる。前記水溶性高分子はポリエチレングリコールが好ましい。前記ポリエチレングリコールの分子量は500以上5000未満が好ましい。ポリエチレングリコールの添加量はフィラメント糸に対して0.01~10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.1~8質量%である。
【0012】
前記フィラメント糸は、乾燥状態では外観は白く不透明であるが、水で濡れて湿潤状態になると瞬時に透明になる。これはゼラチンとポリエチレングリコールの間の空隙が水分で満たされることにより生じていると思われ、細胞培養基材や手術時の臓器の一部代替のための構造物として用いられる際に糸の湿潤状態が外観で判別できることから、非常に有用な特性である。
図8A-Bに乾燥状態と湿潤状態の外観写真を示す。
【0013】
前記フィラメント糸の最大強度は0.3cN/dtex以上、破断伸度は20%以上であるのが好ましい。最大強度と伸度が前記の範囲であれば、織物、編み物、組み紐などに加工しやすくなる。前記において、dtexはdecitexの略語であり、当業界で一般的に使用されている語句である。
【0014】
前記フィラメント糸は熱架橋することが耐水性を上げるために好ましい。熱架橋は化学架橋に比べて架橋剤を使用しない点で安全である。熱架橋の温度は100~150℃、加熱時間は24時間~96時間、真空度10kPa以下が好ましい。これにより、熱架橋時の酸化劣化を防止できる。大気中で熱処理すると、酸化劣化が進んで物性が低下する問題がある。前記条件で熱架橋させると、耐水性が向上し水に溶けにくくなる。熱架橋は、フィラメント糸で行ってもよいし、織物、編み物、組み物等に加工した後に行ってもよい。織物、編み物、組み物等に加工する場合は、加工後に熱架橋するのが好ましい。熱架橋により、フィラメント糸は37℃の温水で20時間浸漬しても形状を維持し、溶解しない状態となる。
【0015】
本発明のゼラチンフィラメント糸の製造方法は、次の工程を含む。
(1)ゼラチン濃度が50質量%を超え70質量%以下となるように、水を加えてゼラチン水溶液の気液混合物とする工程。このときにポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を添加してもよい。
(2)前記ゼラチン水溶液の気液混合物を減圧脱泡して紡糸液とする工程。
(3)前記紡糸液を押し出し、加熱紡糸筒を通過させて乾式紡糸する工程。
(4)好ましい工程として、熱架橋工程。
【0016】
前記工程(1)において、ゼラチンを加熱水に溶解するのが好ましい。溶解温度は40~90℃が好ましい。溶解した後、フィルトレーションして異物やごみなどを除去してもよい。
【0017】
前記工程(2)において、減圧脱泡時の真空度は5~30kPaであるのが好ましい。これにより効率よく気体(気泡)を除去できる。この工程においても40~90℃に保持するのが好ましい。
【0018】
前記工程(3)において、紡糸液も40~90℃に保持して押し出すのが好ましい。前記加熱紡糸筒は、温度120~180℃に保持し、かつ押し出し物の滞留時間は5秒以上とするのが好ましい。これにより、押し出し物から急激に水分が除去され、糸条が形成される。
【0019】
前記加熱紡糸筒は垂直方向に向いている。そして、加熱紡糸筒を出た位置では、ゼラチンフィラメント糸は中空状体であり、巻き取ると中空がつぶれて断面が扁平かつ中実になる。
【0020】
次に図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施例で得られたゼラチンフィラメント糸1の走査型電子顕微鏡(日立FLEX SEM1000型,倍率200倍)の断面写真のトレース図面である。このゼラチンフィラメント糸1は扁平状でかつくびれ2が観察される。L1は長径、L2は短径である。この形状は、中心部が中空部であったものが巻き取り時につぶれて形成されたものである。これは加熱紡糸筒の下部でゼラチンフィラメント糸をカットして観察し、確認した。加熱紡糸筒を出た位置で中空になる理由は、加熱紡糸筒内で急激に水分が除去されるためと思われる。また、表面のスキン層3と、内部のコア層4が観察される。スキン層3は加熱紡糸筒において急激に水分が除去されて形成し、内部コア層4はゆっくり水分が除去されて形成したものと思われる。
【0021】
実施例1-2(ゼラチンにポリエチレングリコールを混合)と実施例3(ゼラチン100質量%)を比較すると、最大強度までの挙動は共通するが、ゼラチン100質量%は最大強度の点で破断してしまう。ところが、ゼラチンにポリエチレングリコールを混合した組成は最大強度の50%以上の強度を保って破断伸度まで進む。おそらく配向分子の滑りが生じているものと推定される。本発明のゼラチンフィラメント糸は、このように特異な強伸度特性を示す。このスキン-コア構造も巻き取った糸の解舒に寄与していると思われる。すなわち、表面がスキン層であれば、糸同士の膠着は防げる。
【0022】
図2は同、ゼラチンフィラメント糸の走査型電子顕微鏡(日立FLEX SEM1000型,倍率100倍)の断面写真、
図3は同、側面写真である。
【0023】
図4は本発明の一実施例で使用するフィラメント製造装置10の模式的説明図である。シリンジ11に入れたゼラチン水溶液の紡糸液12をノズル13から空気中に押し出す。ノズル13は通常の丸断面でよい。ノズル13の下には加熱紡糸筒14が直結している。加熱紡糸筒14は14a-14dの4区画からなり、それぞれの区画で温度制御が可能となっている。得られたゼラチンフィラメント糸15はガイドロール16を通過して巻き取り機17に巻き取られる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
測定方法は下記のとおりである。
<フィラメント糸断面>
走査型電子顕微鏡(日立FLEX SEM1000型,倍率500倍)の写真で観察した。
<その他>
JIS又は業界の規定する測定方法に従って測定した。
【0025】
(実施例1)
ゼラチンとして新田ゼラチン社製、(ゼリー強度262g 原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン57.0gとポリエチレングリコール(分子量1000)3.0gを混合し、水40gを加えて100gとし、80℃に加温して溶解し、10kPaの真空下で脱泡して紡糸原液を得た。
この紡糸原液を樹脂シリンジに充填し、内径0.61mmの樹脂製ノズルを装着して保温ホルダーに入れて温度を57℃に調整し、末端より0.1MPaの加圧空気を送ってノズルから原液を押し出した。
ノズルから押し出した原液を垂直に設置した内径200mmのステンレス管にヒーターを巻き付けた長さ2mの加熱紡糸筒に上から通して150℃の温度で加熱して乾燥し、下端の筒出口で速度10m/minでモノフィラメント糸を巻き取った。滞留時間は12秒であった。
得られたゼラチンモノフィラメント糸を20℃、65%RH環境下で24時間静置した後、島津製作所製オートグラフASX-Gにて、試料長さ100mm、引張速度100mm/分でJIS-L1013法に準拠して引張強さと破断伸度を測定した。糸の繊度は長さ10mのフィラメント糸を採取して重量を測定し、10000mに換算して繊度を算出した。フィラメント糸形状は光学顕微鏡にて観察した。
得られたモノフィラメント糸のサンプル10個の平均値の強伸度特性は、繊度357dtex、最大強度123cN、繊度当たりの強度0.34cN/dtex、破断伸度42.6%であった。また、繊維の断面形状は
図1-2に示すように扁平でくびれが見られた。繊維断面の長径L1は0.283mm、短径L2は0.121mm、長径/短径は2.34であった。このモノフィラメント糸は扁平でくびれがあるため巻き取ったフィラメント糸同士が膠着せず、連続で解舒することができた。このモノフィラメント糸の前記強伸度平均値に近い強伸度グラフを
図5に示す。また、実施例1のゼラチンフィラメント糸を140℃、48時間、真空度1kPaの条件で熱架橋させた。熱架橋前は37℃の温水で20時間浸漬すると溶解したが、熱架橋させると、37℃の温水で20時間浸漬しても形状を維持し、溶解しなかった。このことから、耐水性が向上し、水に溶けにくくなることが確認できた。
処理後のモノフィラメント糸のサンプル10個の平均値の強伸度特性は、最大強度129.6cN、繊度当たりの強度0.36cN/dtex、破断伸度8.5%であった。熱架橋後のモノフィラメント糸の前記強伸度平均値に近い強伸度グラフを
図6に示す。
図5の実施例1の熱架橋無しのゼラチンフィラメント糸に比べると、引っ張り強さはやや高くなるが、伸度は大幅に低くなった。これは架橋が進んだからと判断される。
【0026】
(実施例2)
ゼラチンを58.2g、ポリエチレングリコール(分子量1000)を1.8gとした以外は実施例1と同様に液調整・紡糸し、ゼラチンモノフィラメント糸を得た。得られたモノフィラメント糸のサンプル10個の平均値の強伸度特性は、繊度310dtex、最大強度100cN、繊度当たりの強度0.32cN/dtex、破断伸度22.4%であった。繊維の断面形状は扁平で、表面にはくぼみが見られた。繊維断面の長径L1は0.273mm、短径L2は0.103mm、長径/短径は2.65であった。このモノフィラメント糸は扁平でくびれがあるため巻き取ったフィラメント糸同士が膠着せず、連続で解舒することができた。このモノフィラメント糸の前記強伸度平均値に近い強伸度グラフを
図5に示す。
実施例2のゼラチンフィラメント糸は、140℃、48時間、真空度1kPaの条件で熱架橋させた。熱架橋前は37℃の温水で20時間浸漬すると溶解したが、熱架橋させると、37℃の温水で20時間浸漬しても形状を維持し、溶解しなかった。このことから、耐水性が向上し、水に溶けにくくなることが確認できた。
【0027】
(実施例3)
ポリエチレングリコールを添加しない以外は実施例1と同様に実施した。このモノフィラメント糸は扁平でくびれがあるため巻き取ったフィラメント糸同士が膠着せず、連続で解舒することができた。得られたモノフィラメント糸のサンプル10個の平均値の強伸度特性は、繊度306dtex、引張強度79cN、繊度当たりの強度0.26cN/dtex、破断伸度1.1%であった。このモノフィラメント糸の前記強伸度平均値に近い強伸度グラフを
図5に示す。繊維の断面形状は扁平で、繊維断面の長径L1は0.250mm、短径L2は0.095mm、長径/短径は2.63であった。
実施例3のゼラチンフィラメント糸は、140℃、48時間、真空度1kPaの条件で熱架橋させた。熱架橋前は37℃の温水で20時間浸漬すると溶解したが、熱架橋させると、37℃の温水で20時間浸漬しても形状を維持し、溶解しなかった。このことから、耐水性が向上し、水に溶けにくくなることが確認できた。
【0028】
(比較例1)
実施例1と同様に準備した紡糸液を、紡糸の際に加熱紡糸筒を使用せず、室温でモノフィラメント糸を巻き取った。モノフィラメント糸の断面形状は円形(中実)となり、巻き取ったフィラメント糸が膠着して解除することができず、長繊維を得ることができなかった。
以上の結果を表1にまとめて示す。表1のデータは紡糸後1日後のデータであり(熱架橋無し)、測定数10の平均値である。
【0029】
【0030】
表1に示すとおり、実施例1~3のゼラチンフィラメント糸は、巻き取った糸の解舒ができる糸であった。この糸は、織物、編み物、組み紐などに加工できることも確認できた。
【0031】
(実施例4)
実施例1で得られたモノフィラメント糸を16本用いて、組み紐を作成した。得られた組み紐は内径0.5mm、外径0.9mmの筒状で、安定な形状を維持できるものであった。
図7はこのゼラチンフィラメント糸の組み紐の側面写真である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のゼラチンフィラメント糸は、巻き取ったフィラメント糸同士が膠着せず、連続で解舒することができ、実生産するのに好適である。また、強度及び伸度があり、織物、編み物、組み紐などに加工できる。この織物、編み物、組み紐などは人工血管、腸管などのステントに有用である。また、織物、編物、組み紐等の繊維構造物に加工することで、創傷被覆材や手術時の保護・支持材等の医療用資材、細胞培養基材等の再生医療用基材などに有用である。さらに熱架橋すると耐水性も向上する。
【符号の説明】
【0033】
1,15 ゼラチンフィラメント糸
2 くびれ
3 表面スキン層
4 内部コア層
10 フィラメント製造装置
11 シリンジ
12 紡糸液
13 ノズル
14 加熱紡糸筒
16 ガイドロール
17 巻き取り機