(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】グラフト共重合体、めっき用樹脂組成物、成形品及びめっき加工品
(51)【国際特許分類】
C08F 279/02 20060101AFI20230620BHJP
C08F 291/02 20060101ALI20230620BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20230620BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C08F279/02
C08F291/02
C08L55/02
C08L51/04
(21)【出願番号】P 2022169960
(22)【出願日】2022-10-24
【審査請求日】2022-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山下 真司
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 正尭
(72)【発明者】
【氏名】川口 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】別宮 英明
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-155445(JP,A)
【文献】特開昭61-123660(JP,A)
【文献】特開2008-056904(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0080957(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0044355(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104845031(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101985509(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/02-279/06
C08F 291/02
C08L 55/02
C08L 51/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体に単量体成分(a)がグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)であって、
前記単量体成分(a)は、下記の要件1及び要件2の両方を満たし、
前記グラフト共重合体(A)中のゴム含有量が、前記グラフト共重合体(A)の総質量に対して35質量%以上である、グラフト共重合体。
<要件1>
前記単量体成分(a)は、前記単量体成分(a)の総質量に対して、α-メチルスチレン
とスチレンからなる混合物(a1)
を60
~85質量%含
む。
<要件2>
前記単量体成分(a)の総質量に対するスチレンの含有量が62.5~66.7質量%である。
【請求項2】
前記単量体成分(a)は、前記要件1及び前記要件2に加えて、さらに下記の要件3を満たす、請求項1に記載のグラフト共重合体。
<要件3>
前記混合物(a1)の総質量を100質量%としたとき、前記混合物(a1)中のα-メチルスチレンの含有量が0質量%より大きく、28.6質量%未満である
。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のグラフト共重合体を含有するめっき用樹脂組成物であって、 前記めっき用樹脂組成物中の前記ゴム含有量が、前記めっき用樹脂組成物の総質量に対して10~18質量%である、めっき用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のめっき用樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項5】
請求項4に記載の成形品の表面の少なくとも一部にめっき膜を備えた、めっき加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体、めっき用樹脂組成物、成形品及びめっき加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)からなる成形品は、耐衝撃性、機械強度、耐薬品性が優れていることから、OA(オフィスオートメーション)機器、情報・通信機器、電子・電気機器、家庭電化機器、自動車、建築等の幅広い分野に使用されている。
また、ABS樹脂からなる成形品は、めっき処理を施してめっき加工品としたときに、めっき膜の密着強度(めっき密着強度)が高く、冷熱サイクル特性に優れるといっためっき特性を有していることから、プラスチックめっき用途においても、多くの機能性樹脂と併用され、多種多様な用途に使用されている。例えば、自動車分野では、耐衝撃性や耐熱性、成形性の要求からポリカ―ボネート樹脂と併用し、PC/ABS樹脂として用いられている。
【0003】
めっき特性は、成形品を形成する樹脂組成物の特性や成形条件の因子による影響を受けやすい。そのため、ABS樹脂を含む樹脂組成物を用いた場合でも、めっき外観不良が発生する可能性がある。成形条件が悪い場合には、成形品の外観不良の影響を受け、めっき膜の剥がれや浮き等のめっき外観不良が発生し、最終製品の商品価値を著しく損なわせる。
特許文献1では、素地となる成形品の外観不良である梨地やフローマークの影響を受けて、めっき外観不良が発生する問題を解決する為、ゴム含有グラフト共重合体100質量部に対して、特定の反応転化率、並びに質量平均分子量の硬質重合体を添加して得られるグラフト共重合体を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、成形品素地に発生した梨地やフローマークの影響を受けて発生するめっき外観の問題は解決できるが、素地に発生した微小な凹凸(ゆず肌)による、めっき外観不良を解決するものではなく、必ずしも十分なものではなかった。
本発明は、素地に発生する微小な凹凸(ゆず肌)の発生を抑制し、優れためっき外観がえられ、更に、めっき密着強度、冷熱サイクルに優れるめっき加工品が得られるめっき用樹脂組成物及びグラフト共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] ゴム質重合体に単量体成分(a)がグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)であって、前記単量体成分(a)は、前記単量体成分(a)の総質量に対して、α-メチルスチレン及びそれ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)60質量%以上を含み、前記グラフト共重合体(A)中のゴム含有量が、前記グラフト共重合体(A)の総質量に対して35質量%以上である、グラフト共重合体。
[2] 前記混合物(a1)の総質量を100質量%としたとき、前記混合物(a1)中のα-メチルスチレンの含有量が0質量%より大きく、28.6質量%未満である、[1]に記載のグラフト共重合体。
[3] [1]又は[2]に記載のグラフト共重合体を含有するめっき用樹脂組成物であって、前記めっき用樹脂組成物中の前記ゴム含有量が、前記めっき用樹脂組成物の総質量に対して10~18質量%である、めっき用樹脂組成物。
[4] [3]に記載のめっき用樹脂組成物を成形してなる成形品。
[5] [4]に記載の成形品の表面の少なくとも一部にめっき膜を備えた、めっき加工品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、めっき特性に優れるめっき加工品が得られる、成形品、めっき用樹脂組成物及びグラフト共重合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「成形品」とは、本発明のめっき用樹脂組成物を成形してなるものである。
「めっき加工品」とは、成形品をめっき処理してなるものであり、成形品の表面の少なくとも一部にめっき膜を有する。
「めっき特性に優れる」とは、めっき外観が良好であること、めっき密着強度が高いこと、冷熱サイクル特性が良好であることを意味する。
「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0009】
[めっき用樹脂組成物]
本発明の第一態様のめっき用樹脂組成物は、本発明の第二態様のグラフト共重合体(A)を含有する。また、めっき用樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、グラフト共重合体(A)以外の他の成分をさらに含有してもよい。
【0010】
<グラフト共重合体(A)>
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体に単量体成分(a)がグラフト重合した共重合体である。なお、グラフト共重合体(A)においては、ゴム質重合体に単量体成分(a)がどのように重合しているか特定することは容易ではない。すなわち、グラフト共重合体(A)については、その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。したがって、グラフト共重合体(A)は「ゴム質重合体に単量体成分(a)がグラフト重合した」と規定することがより適切とされる。
【0011】
(ゴム質重合体)
グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体としては、例えばポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル-ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴム;スチレン-イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム;エチレン-プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコーン系ゴムなどが挙げられる。なお、これらゴム質重合体は、未重合のモノマーを含んでいてもよい。ゴム質重合体は複合ゴム構造やコア/シェル構造をとってもよい。ゴム質重合体としては、色調と耐衝撃性のバランスが良好である点から、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、又はそれらの複合ゴム質重合体が好ましい。
【0012】
ゴム質重合体の平均粒子径は、0.20~0.50μmが好ましく、0.25~0.40μmがより好ましい。ゴム質重合体の平均粒子径が上記下限値以上であれば、成形品をめっき処理する際のめっき析出性が向上する。また、めっき加工品の冷熱サイクル特性がより向上する。ゴム質重合体の平均粒子径が上記上限値以下であれば、めっき加工品のめっき密着強度がより高まる。また、めっき用樹脂組成物の流動性が高まる。ゴム質重合体の平均粒子径は、粒度分布測定器を用いて質量基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より算出することができる。ゴム質重合体の平均粒子径は、ゴム質重合体の製造時の重合条件(温度、時間など)や、モノマーの種類とその配合割合を調整することで制御できる。
【0013】
ゴム質重合体の製造方法としては特に制限されないが、粒子径の制御が容易であることから乳化重合で製造するのが好ましい。乳化重合は公知の方法が適用でき、使用する触媒、乳化剤等は特に制限なく、各種のものが使用できる。
【0014】
ゴム質重合体は、肥大化された肥大化ゴムであってもよい。また、肥大化操作によって平均粒子径、分布等を調整できる。肥大化方法としては、機械凝集法、化学凝集法、酸基含有共重合体による凝集方法が挙げられる。化学凝集法としては、ゴム質重合体のラテックスに酸性物質を加えて乳化安定性を不安定にして凝集させ目的粒子径に達したところで、アルカリ物質を加えゴム質重合体のラテックスを再安定化させる方法が挙げられる。酸性物質としては、酢酸、無水酢酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。アルカリ物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。酸基含有共重合体による凝集方法としては、ゴム質重合体のラテックスと酸基含有共重合体のラテックスとを混合することで、肥大化ゴムのラテックスを得る方法が挙げられる。酸基含有共重合体のラテックスとしては、例えば水中にて、酸基含有単量体(例えば(メタ)アクリル酸等のカルボキシ基含有単量体)、アルキル(メタ)アクリレート単量体、及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を含む単量体成分を重合して得られる酸基含有共重合体のラテックスが挙げられる。
【0015】
(単量体成分(a))
グラフト共重合体(A)を構成する単量体成分(a)は、α-メチルスチレンと、それ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)を含む。
さらに、シアン化ビニル化合物(a2)を含むことが好ましく、必要に応じて他のビニル化合物(a3)を含んでも構わない。
【0016】
前記混合物(a1)に含まれる、それ以外の芳香族ビニル化合物として、例えばスチレン、ビニルトルエン類(p-メチルスチレン等)、ハロゲン化スチレン類(p-ブロモスチレン、p-クロロスチレン等)、p-tert-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。それ以外の芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
シアン化ビニル化合物(a2)としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でもアクリロニトリルが好ましい。これらシアン化ビニル化合物(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
他のビニル化合物(a3)は、α-メチルスチレンと、それ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)及びシアン化ビニル化合物(a2)と共重合可能なビニル化合物である。このようなビニル化合物としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸化合物等などが挙げられる。これら他のビニル化合物(a3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
単量体成分(a)中の各ビニル化合物の割合は、単量体成分(a)の総質量に対して、α-メチルスチレンとそれ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)が60~85質量%であり、シアン化ビニル化合物(a2)が15~40質量%であり、他のビニル化合物(a3)が0~25質量%であることが好ましい。各化合物の割合が上記範囲内であれば、めっき密着強度が向上する。
【0020】
前記混合物(a1)中のα-メチルスチレンの割合は、混合物(a1)の総質量に対して、0質量%超、28.6質量%未満が好ましい。混合物(a1)の総質量に対して、α-メチルスチレンの割合が、上記範囲内であるとめっき外観が良好となる。
また、前記混合物(a1)中のα-メチルスチレンの割合は、混合物(a1)の総質量に対して、3.8質量%以上、26.5質量%以下がより好ましい。上記範囲内であると、めっき外観がより良好となる。
さらに、前記混合物(a1)中のα-メチルスチレンの割合が、混合物(a1)の総質量に対して、10.7質量%以上、21.9質量%以下がさらに好ましい。上記範囲内であると、めっき外観並びにめっき密着強度が共に良好となる。
【0021】
(ゴム含有量)
本発明において、グラフト共重合体(A)の総質量に対するゴム質重合体の割合を「グラフト共重合体(A)中のゴム含有量」という。
グラフト共重合体(A)の総質量に対して、ゴム質重合体の含有割合が35質量%以上、単量体成分(a)の含有割合が65質量%以下である。ゴム質重合体と単量体成分(a)の割合が上記範囲内であれば、めっき加工品のめっき密着強度及び冷熱サイクル特性が向上する。
ゴム質重合体の割合(ゴム含有量)は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、ゴム質重合体の割合は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく。70質量%以下がさらに好ましい。
すなわち、ゴム質重合体の割合は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、35質量%以上、80質量%以下が好ましく、40~75質量%がより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。
単量体成分(a)の割合は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、20質量%以上、65質量%以下が好ましく、25~60質量%がより好ましく、30~50質量%がさらに好ましい。
【0022】
(グラフト率)
詳しくは後述するが、めっき加工品は成形品をめっき処理することで得られるが、めっき膜の接着性を高めるなどの目的で、通常、めっき処理の前に成形品をエッチング処理する。成形品をエッチング処理すると、ゴム質重合体がエッチング液に溶出し、成形体の表面に微細な孔が形成される。この微細な孔に金属が入り込むことで、めっき密着強度が高まると考えられる。一般的に、微細な孔の形状が円形に近いほど、また、微細な孔が均一に分散しているほど、めっき密着強度や冷熱サイクル特性は高まる傾向にある。ゴム質重合体は、めっき用樹脂組成物を成形する際の剪断力で変形したり凝集したりすることがある。ゴム質重合体が変形するとエッチング処理により形成される微細な孔の形状も変形してしまう。また、ゴム質重合体が凝集すると、微細な孔の分散状態が悪くなる。グラフト共重合体(A)のグラフト率が高いほど、成形時のゴム質重合体の変形や凝集が起こりにくくなり、めっき加工品のめっき密着強度や冷熱サイクル特性が高まる傾向にある。
【0023】
グラフト率を高めるには、グラフト共重合体の重合時にグラフト共重合体(A)中のゴム含有量を減らせばよい。しかし、ゴム含有量が少なくなるほど、成形品の耐衝撃性が低下したり、めっき加工品のめっき密着強度が低下したりする傾向にある。
【0024】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明の第二態様のグラフト共重合体(A)の単量体成分(a)が単量体成分(a)の総質量に対して、α-メチルスチレンとそれ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)60質量%以上を含み、前記グラフト共重合体(A)中のゴム含有量が、前記グラフト共重合体(A)の総質量に対して35質量%以上であることによって、このグラフト共重合体(A)を含む本発明の第一態様のめっき用樹脂組成物からなる成形品が良好なめっき特性を示すことを見出した。
また、本発明の第二態様のグラフト共重合体を構成する前記単量体成分(a)に、シアン化ビニル化合物(a2)と、前記他のビニル化合物(a3)を含み、かつ、このグラフト共重合体(A)を含む本発明の第一態様のめっき用樹脂組成物の総質量に対するグラフト共重合体(A)のゴム含有量が10~18質量%であることによって、極めて良好なめっき特性が得られることを見出した。
【0025】
グラフト共重合体(A)のグラフト率は、20~100質量%が好ましく、25~95質量%がより好ましく、30~90質量%がさらに好ましい。
【0026】
なお、グラフト率とは、ゴム質重合体にグラフト重合した単量体成分(a)の質量(Wa)を、ゴム質重合体の質量(Wd)に対する百分率((Wa/Wd)×100)で示した値のことである。一般的には、グラフト重合後に得られたグラフト共重合体(A)のアセンン不溶分から以下のようにして算出できる。グラフト共重合体(A)にアセトンを加えて55℃で3時間加温し、アセトン溶解分を抽出する。ついで、アセトン不溶分を濾過、乾燥させて質量を測定し、下記式(3)によりグラフト率を求める。なお、下記式(3)において、「m」は抽出前のグラフト共重合体(A)の質量(g)であり、「n」はアセトン不溶分の質量(g)であり、「L」はグラフト共重合体(A)のゴム含有率(質量%)である。
グラフト率(%)={(n-m×L)/(m×L)}×100・・・(3)
【0027】
グラフト率は、アセトン不溶分を濾過、乾燥させたものについて、赤外分光測定装置を用いてゴム質重合体とグラフト重合した単量体成分(a)を測定して求めてもよい。アセトン不溶分の入手方法としては上記のようにグラフト重合体(A)をアセトンに溶解して入手する以外に、めっき用樹脂組成物をアセトンに溶解して入手してもよい。ポリカーボネート樹脂が配合されている場合はクロロホルム等で溶解して除去する等の手法がとられる。その後、赤外分光測定装置でゴム質重合体とグラフト重合した単量体成分(a)を測定して求めることもできる。
【0028】
(製造方法)
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体の存在下で単量体成分(a)を重合(グラフト重合)することにより得られる。このようにして得られるグラフト共重合体(A)は、単量体成分(a)を重合することによって得られるビニル系共重合体がゴム質重合体にグラフトされた形態を有している。グラフト重合を行う方法としては特に制限されないが、反応が安定して進行するように制御可能であることから乳化重合が好ましい。具体的には、ゴム質重合体のラテックスに単量体成分(a)を一括して仕込んだ後に重合する方法;ゴム質重合体のラテックスに単量体成分(a)の一部を先に仕込み、随時重合させながら残りを重合系に滴下する方法;ゴム質重合体のラテックスに単量体成分(a)の全量を滴下しながら随時重合する方法などが挙げられる。単量体成分(a)の重合は1段で行ってもよく、2段以上に分けて行ってもよい。2段以上に分けて行う場合、各段における単量体成分(a)を構成するビニル化合物の種類や組成比を変えて行うことも可能である。乳化重合で得られるグラフト共重合体(A)は、通常、ラテックスの状態である。重合条件は、例えば30~95℃で1~10時間であってよい。
【0029】
乳化重合には、通常、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤が用いられる。グラフト共重合体(A)のゴム含有量は、ゴム質重合体の仕込み量(配合量)により調整できる。グラフト率は、ゴム質重合体及び単量体成分(a)の仕込み量、重合開始剤や乳化剤の使用量により調整できる。
【0030】
重合開始剤としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸、スルホキシレート等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物などが挙げられる。重合開始剤は、油溶性でも水溶性でもよく、さらにはこれらを組み合わせて用いてもよい。これら重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合開始剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続的に添加することができる。重合開始剤の使用量は、ゴム質重合体及び単量体成分(a)の合計100質量部に対して0.05~0.25質量部が好ましく、0.08~0.2質量部がより好ましい。
【0031】
連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサメチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、tert-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類;α-メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これら連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。連鎖移動剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続して添加することができる。連鎖移動剤の使用量は、ゴム質重合体及び単量体成分(a)の合計100質量部に対して0.1~0.3質量部が好ましく、0.1~0.2質量部がより好ましい。
【0032】
乳化剤としては、例えばサルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸カルシウム、不均化ロジン酸カルシウム等のカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられる。これら乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。乳化剤の使用量は、ゴム質重合体及び単量体成分(a)の合計100質量部に対して0.1~0.4質量部が好ましく、0.1~0.3質量部がより好ましい。
【0033】
グラフト共重合体(A)は、通常、ラテックスの状態で得られる。グラフト共重合体(A)のラテックスからグラフト共重合体(A)を回収する方法としては、例えばグラフト共重合体(A)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入することによってスラリー状に凝析する湿式法;加熱雰囲気中にグラフト共重合体(A)のラテックスを噴霧することによって半直接的にグラフト共重合体(A)を回収するスプレードライ法等が挙げられる。湿式法に用いる凝固剤としては、例えば硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸;塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩などが挙げられ、重合で用いた乳化剤に応じて選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩のみが使用されている場合には、上述した凝固剤の1種以上を用いることができる。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を使用した場合には、凝固剤としては金属塩が好適である。
【0034】
湿式法を用いると、スラリー状のグラフト共重合体(A)が得られる。このスラリー状のグラフト共重合体(A)から乾燥状態のグラフト共重合体(A)を得る方法としては、まず残存する乳化剤残渣を水中に溶出させて洗浄し、次いで、このスラリーを遠心又はプレス脱水機等で脱水した後に気流乾燥機等で乾燥する方法;圧搾脱水機や押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。かかる方法によって、粉体又は粒子状の乾燥グラフト共重合体(A)が得られる。洗浄条件としては特に制限されないが、乾燥後のグラフト共重合体(A)100質量%中に含まれる乳化剤残渣量が2質量%以下となる条件で洗浄することが好ましい。なお、圧搾脱水機や押出機から排出されたグラフト共重合体(A)を回収せず、直接、樹脂組成物を製造する押出機や成形機に送って成形品とすることも可能である。
【0035】
<他の熱可塑性樹脂>
本発明のめっき用樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で他の熱可塑性樹脂を併用することが可能である。
他の熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、例えば、スチレン系共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、各種オレフィン系エラストマー、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、PPS樹脂、PES樹脂、PEEK樹脂、およびポリアミド樹脂(ナイロン)等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、本発明の効果を十分に発揮させることができることから、好ましくは、スチレン系共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、ポリアミド樹脂である。
【0037】
(スチレン系共重合体(C))
スチレン系共重合体(C)は、芳香族ビニル化合物(c1)と、シアン化ビニル化合物(c2)と、必要に応じて他のモノビニル化合物(c3)とを共重合してなるものである。すなわち、スチレン系共重合体(C)は、芳香族ビニル化合物(c1)由来の単量体単位と、シアン化ビニル化合物(c2)由来の単量体単位と、必要に応じて他のモノビニル化合物(c3)由来の単量体単位とを有する共重合体である。
スチレン系共重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
スチレン系共重合体(C)における芳香族ビニル化合物(c1)、シアン化ビニル化合物(c2)、及び必要に応じて用いられる他のビニル化合物(c3)はそれぞれ、グラフト共重合体(A)の説明において先に例示した、α-メチルスチレンと、それ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)、シアン化ビニル化合物(a2)、他のビニル化合物(a3)と同様な化合物を使用することができ、好ましい態様も同様である。
【0039】
スチレン系共重合体(C)における芳香族ビニル化合物(c1)由来の単量体単位の含有量は特に限定されないが、例えばスチレン系共重合体(C)の総質量に対して50~85質量%が好ましい。スチレン系共重合体(C)におけるシアン化ビニル化合物(c2)由来の単量体単位の含有量は特に限定されないが、例えばスチレン系共重合体(C)の総質量に対して15~50質量%が好ましい。スチレン系共重合体(C)における他のビニル化合物(c3)由来の単量体単位の含有量は特に限定されないが、例えばスチレン系共重合体(C)の総質量に対して0~35質量%が好ましい。ここで、成分(c1)~(c3)の合計がスチレン系共重合体(C)の総質量であることが好ましい。
【0040】
スチレン系共重合体(C)の質量平均分子量は、例えば50,000~270,000が好ましい。スチレン系共重合体(C)の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
【0041】
スチレン系共重合体(C)は、芳香族ビニル化合物(c1)とシアン化ビニル化合物(c2)と、必要に応じて他のビニル化合物(c3)とを共重合することにより製造できる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合又はこれらを複合した方法等の公知の重合方法をいずれも適用できる。
【0042】
スチレン系共重合体(C)としては、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル-N-置換マレイミド三元共重合体、スチレン-無水マレイン酸-N-置換マレイミド三元共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)等のスチレン系エラストマー、ポリスチレン、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。
【0043】
より好ましいスチレン系共重合体(C)としては、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン―アクリロニトリル―N-置換マレイミド三元共重合体、スチレン-無水マレイン酸-N-置換マレイミド三元共重合体が挙げられる。
【0044】
(ポリカーボネート樹脂(P))
ポリカーボネート樹脂(P)は、主鎖にカーボネート結合を有する樹脂である。ポリカーボネート樹脂(P)としては特に限定されないが、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、脂肪族-芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステルカーボネート樹脂などが挙げられる。これらのポリカーボネート樹脂(P)は、末端がR-CO-基又はR’-O-CO-基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。
【0045】
ポリカーボネート樹脂(P)としては、成形品の耐衝撃性、耐熱性が向上する観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂及び芳香族ポリエステルカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、耐衝撃性がより向上する観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂がより好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂は、一般式-(-O-X1-O-C(=O)-)-で示される構成単位を有する重合体である。前記一般式におけるX1は、1以上の芳香環を有する炭化水素基、又は前記炭化水素基にヘテロ原子又はヘテロ結合を導入した基である。X1において、X1に隣接する酸素原子に直接結合する原子は、芳香環を構成する炭素原子である。芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による反応生成物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重縮合法による重縮合物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとのピリジン法による重縮合物等が挙げられる。
【0046】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内に芳香環に結合したヒドロキシ基を2つ有する化合物であればよく、例えばヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’-ビフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、9,9-ビス(p-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これら芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。この化合物において、炭化水素基としては、例えばアルキレン基が挙げられる。炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物としては、ビスフェノールA、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3、5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタンなどが挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールAが好ましい。これら2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これら炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
ポリカーボネート樹脂(P)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、粘度平均分子量が互いに異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を併用してもよい。ポリカーボネート樹脂(P)の分子量は任意であり、特に限定されるものではないが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)は、通常15,000~40,000が好ましく、17,000~30,000がより好ましく、18,000~28,000が特に好ましい。粘度平均分子量が上記下限値以上であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。粘度平均分子量が上記上限値以下であれば、めっき用樹脂組成物の流動性が向上する。
【0050】
ポリカーボネート樹脂(P)の粘度平均分子量(Mv)は、溶液粘度法により測定される値である。具体的には、塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂(P)0.7gを溶解して調製した溶液(試料)とウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求めて、下記式(4)より粘度平均分子量(Mv)を求める。
[η]=1.23×10-4×Mv0.83・・・(4)
【0051】
(ポリエステル樹脂(E))
好ましいポリエステル樹脂(E)としては、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、各種ポリエステル系エラストマー、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらのポリエステル樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
また、より好ましく用いられるPET樹脂は、リサイクルおよび/またはリペレットされたPET樹脂を固相重合してなるものである。具体的には、リサイクルされたPET樹脂、リペレットされたPET樹脂、リサイクルされリペレットされたPET樹脂等を固相重合してなるものが挙げられる。
【0052】
リサイクルされたPET樹脂は、PET樹脂の成形工程を経て得られるPET樹脂製品を回収し、再生したものである。PET樹脂製品としては、使用済みのPETボトル、食品トレー等が代表的なものであるが、それに限定されることはなく、PET樹脂製品のオフグレードや成形工程で発生する廃材等も対象とすることができる。ゆえに、リサイクルおよび/またはリペレットされたPET樹脂を用いる事により、資源を有効活用する事ができる。
使用済みPETボトルや食品トレー等を回収して得られるリサイクル材については、分別により異種材料や金属の混入を避ける必要が有る。また、アルカリ水等によって洗浄した場合は、PET樹脂の加水分解を促進させるアルカリ分が残留しないように、十分に水洗した後、乾燥処理が必要である。
リサイクルされたPET樹脂の形状としては、フレーク状が一般的であり、平均粒径としては2~5mmが好ましい。また、異物除去のためにいったんペレット化(リペレット)したものを用いてもよい。
リペレットされたPET樹脂としては、上記リサイクルされたPET樹脂をペレット化したもの、市販されているペレット状製品(バージン材)をペレット化したもの等が挙げられる。ペレット化は、押出機等を用いて実施できる。
PET樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
他の熱可塑性樹脂組は、1種単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
例えば、スチレン系共重合体(C)のアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)とスチレン-アクリロニトリル-N-置換マレイミド三元共重合体の併用や、スチレン系共重合体(C)とポリカーボネート樹脂(P)等の2種類の組み合わせ、スチレン系共重合体(C)、ポリカーボネート樹脂(P)、ポリエステル樹脂(E)等の3種類の組み合わせが挙げられる。
【0054】
他の熱可塑性樹脂が、スチレン系共重合体(C)とポリカーボネート樹脂(P)との組み合わせである場合、スチレン系共重合体樹脂(C)を1~55質量%、5~52質量%、又は6~50質量%、ポリカーボネート樹脂(P)を45~99質量%、48~95質量%、又は50~94質量%、(ここで、スチレン系重合体(C)とポリカーボネート樹脂(P)の合計量が100質量%である。)含有することが好ましい。
他の熱可塑性樹脂が、スチレン系共重合体(C)とポリカーボネート樹脂(P)とポリエステル樹脂(E)の組み合わせである場合、スチレン系共重合体(C)を1~55質量%、5~52質量%、又は6~50質量%、ポリカーボネート樹脂(P)を30~98質量%、38~94質量%、又は43~93質量%、ポリエステル樹脂(E)を1~15質量%、1~10質量%、又は1~7質量%(ここで、スチレン系共重合体(C)とポリカーボネート樹脂(P)とポリエステル樹脂(E)の合計量が100質量%である。)含有することが好ましい。
各成分が上記の範囲であれば、めっき基材用強化樹脂組成物の成形加工性、機械的強度およびめっき性のバランスがより良好になる。
【0055】
<他の成分>
他の成分としては、各種の添加剤、その他の樹脂などが挙げられる。添加剤としては、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、エステル交換反応抑制剤、加水分解抑制剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料等)、炭素繊維、ガラス繊維、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等の充填材、臭素系難燃剤、リン系難燃剤等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、フッ素樹脂等のドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコーンオイル、カップリング剤などが挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
なお、本発明で用いられる必須成分や任意成分には、何れも、品質に問題がなければ、重合工程や加工工程、成形時等の工程回収品、市場から回収されたリサイクル品を用いることができる。
【0057】
<各成分の含有量>
グラフト共重合体(A)の含有量は、めっき用樹脂組成物の総質量に対して、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。グラフト共重合体(A)の含有量が上記下限値以上であれば、めっき用樹脂組成物の流動性が向上する。また、成形品の耐衝撃性が向上する。グラフト共重合体(A)の含有量が上記上限値以下であれば、めっき析出性が向上する。
【0058】
他の成分の含有量は、めっき用樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、0~60質量%が好ましく、0~10質量%がより好ましく、0~2質量%がさらに好ましい。
【0059】
第一態様のめっき樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、樹脂主成分の含有量は60質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
前記樹脂主成分がグラフト共重合体(A)及びスチレン共重合体(C)によって形成されているとき、樹脂主成分中のグラフト共重合体(A)の含有量25質量部に対して、スチレン共重合体(C)の含有量は、60~90質量部が好ましく、65~85質量部がより好ましく、70~80質量部がさらに好ましい。
前記樹脂主成分がグラフト共重合体(A)、スチレン共重合体(C)及びポリカーボネート樹脂(P)によって形成されているとき、樹脂主成分中のグラフト共重合体(A)の含有量25質量部に対して、スチレン共重合体(C)の含有量は1~45質量部が好ましく、ポリカーボネート樹脂(P)の含有量は、30~80質量部が好ましい。
前記樹脂主成分がグラフト共重合体(A)、スチレン共重合体(C)、ポリカーボネート樹脂(P)及びポリエステル樹脂(E)によって形成されているとき、樹脂主成分中のグラフト共重合体(A)の含有量25質量部に対して、スチレン共重合体(C)の含有量は1~45質量部が好ましく、10~35質量部がより好ましく、15~25質量部がさらに好ましく、ポリカーボネート樹脂(P)の含有量は、30~80質量部が好ましく、35~60質量部がより好ましく、40~55質量部がさらに好ましく、ポリエステル樹脂(E)の含有量は、1~50質量部が好ましく、2~30質量部がより好ましく、3~10質量部がさらに好ましい。
前記樹脂主成分が上記の好適な組成であると、めっき樹脂組成物のめっき特性(優れた外観、めっき密着強度及び冷熱サイクル耐性)がより一層向上する。
【0060】
<ゴム含有量>
めっき用樹脂組成物中のゴム含有量は、めっき用樹脂組成物の総質量に対して10~18質量%である。ゴム含有量が上記下限値以上であれば、めっき加工品のめっき密着強度が向上する。ゴム含有量が上記上限値以下であれば、めっき加工品の冷熱サイクル特性が向上する。めっき用樹脂組成物中のゴム含有量は、赤外分光測定装置による測定や、使用したゴム質重合体の仕込み量と、グラフト共重合体(A)の配合量から求めることができる。
【0061】
<めっき用樹脂組成物の製造方法>
本発明の第一態様のめっき用樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)を含む熱可塑性樹脂組成物であり、必要に応じて用いられる他の熱可塑性樹脂や他の成分と混合、混練して製造される。各成分を混合、混練する方法は特に制限はなく、一般的な混合、混練方法を何れも採用することができ、例えば、押出機、バンバリーミキサー、混練ロール等にて混練した後ペレタイザー等で切断しペレット化する方法等が挙げられる。本発明のめっき用熱可塑性樹脂組成物は、成形して成形品とすることができる。
【0062】
[成形品]
成形品は、上述した本発明のめっき用樹脂組成物からなる。成形品は、本発明のめっき用樹脂組成物を成形することにより得られる。その成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、インサート成形法、真空成形法、ブロー成形法などが挙げられる。
【0063】
成形品は、本発明のめっき用樹脂組成物を用いているため、成形外観に優れ、めっき特性に優れる。つまり、めっき処理を施したときに優れためっき密着強度が発現し、冷熱サイクルにおいてめっき外観が変化しにくく、めっき外観にも優れる。
【0064】
[めっき加工品]
めっき加工品は、上述した成形品と、成形品の表面の少なくとも一部に形成されためっき膜とを有する。めっき加工品は、成形品にめっき処理を施すことにより得られる。めっき処理方法としては特に限定されないが、例えば無電解めっき工法、ダイレクトめっき工法、ノンクロムめっき工法などが挙げられる。また、めっき処理の前に、過マンガン酸塩溶液やクロム酸溶液等のエッチング液を用いてエッチング処理することが好ましい。
【0065】
めっき加工品は、本発明のめっき用樹脂組成物を成形した成形品の表面の少なくとも一部をめっき処理し、めっき膜を形成したものであるため、成形品とめっき膜との密着強度と冷熱サイクルに優れる。くわえて、本発明のめっき用樹脂組成物を成形した成形品の素地には微小な凹凸がないため、めっき外観にも優れる。
【0066】
めっき加工品は、OA(オフィスオートメーション)機器、情報・通信機器、電子・電気機器、家庭電化機器、自動車、建築をはじめとする多種多様な用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例における各種測定及び評価方法は、以下の通りである。なお、以下の説明において、特に断りがない限り「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0068】
[測定・評価方法]
<ゴム質重合体の質量粒子径分布>
ゴム質重合体のラテックスの水希釈溶液を、動的散乱理論を原理としたナノ粒子粒度分布測定機(日機装株式会社製、「ナノトラックUPA-EX150」)を使用して、質量基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布から、質量平均粒子径(μm)を求めた。
【0069】
<スチレン系共重合体(C)の質量平均分子量(Mw)の測定>
スチレン系共重合体(C)をテトラヒドロフランに溶解して得られた溶液を測定試料として、GPC装置(東ソー株式会社製)を用いて測定し、標準ポリスチレン換算法にて算出した。
【0070】
<めっき外観の評価>
めっき用樹脂組成物のペレットを、80トン射出成形機(株式会社日本製鋼所製、「J80ADS-110U」)を用いて射出成形し、試験片(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)を得た。射出成形は、シリンダ温度250℃、金型温度60℃、射出速度50mm/secの条件で行った。得られた試験片にめっき加工を施し、めっき外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎(4点):めっき品の表面に微小な凹凸は全くみられず、非常に優れている。
〇(3点):めっき品の表面に微小な凹凸が若干みられるが優れている。
△(2点):めっき品の表面に微小な凹凸がみられるが実用可能と判断されるレベル。
×(1点):めっき品の表面に微小な凹凸が多数みられ、実用レベルに達していない。
【0071】
(めっき加工A)
めっき外観の評価においてめっき加工は次の(1)~(17)の手順で実施した。(1)脱脂→(2)水洗→(3)エッチング→(4)水洗→(5)酸処理→(6)水洗→(7)触媒化処理→(8)水洗→(9)活性化処理→(10)水洗→(11)化学Niめっき→(12)水洗→(13)電機銅めっき→(14)水洗→(15)電機Niめっき→(16)水洗→(17)電気Crめっき
・各工程での条件
(1)脱脂:CRPクリーナー(奥野製薬工業株式会社製)により、50℃で5分間処理した。
(2)水洗:20℃で水洗を行った。なお、(4)以降の水洗についても(2)と同様の条件で行った。
(3)エッチング:エッチング液として無水クロム酸400g/Lと、硫酸200mL/Lとの混合液を用いてエッチング処理した。浸漬条件は、68℃×20分とした。
(5)酸処理:35%塩酸100mLに、23℃で1分間浸漬した。
(7)触媒化処理:CRPキャタリスト40mL/Lと、35%塩酸250mL/Lの混合液(Pd-Snコロイド触媒)に、30℃で3分間浸漬した。
(9)活性化処理:硫酸100mLに、40℃で3分間浸漬した。
(11)化学Niめっき:化学ニッケルA(奥野製薬工業株式会社製)160mL/Lと化学ニッケルB(奥野製薬工業株式会社製)160mL/Lとの混合液に、35℃で5分間浸漬し、0.5μmの膜厚の化学めっき膜を形成した。
(13)電機銅めっき:硫酸銅200g/Lと、硫酸30mL/Lと、光沢剤との混合液に、20℃、電流密度3A/dm2で20分間浸漬し、20μmの膜厚の銅めっき膜を形成した。
(15)電機Niめっき:硫酸ニッケル200g/Lと、塩化ニッケル45g/Lと、硼酸45g/Lと、光沢剤との混合液に、55℃、電流密度3A/dm2で15分間浸漬し、10μmの膜厚のニッケルめっき膜を形成した。
(17)電気Crめっき:無水クロム酸200g/Lと、硫酸1.5g/Lとの混合液に、45℃、電流密度15A/dm2で2分間浸漬し、0.3μmの膜厚のクロムめっき膜を形成した。
【0072】
<めっき密着強度の評価>
めっき用樹脂組成物のペレットを、80トン射出成形機(株式会社日本製鋼所製、「J80ADS-110U」)を用いて射出成形し、試験片(縦90mm×横50mm×厚さ3mm)を得た。射出成形は、成形温度250℃、金型温度60℃、射出速5mm/secの条件で行った。得られた試験片について、以下のようにしてめっき加工を施し、荷重測定器上でめっき膜を垂直方向に引き剥がしてその強度を測定し、下記基準でめっき密着強度を判定した。
◎(4点):めっき密着強度が15N/cm以上で非常に優れる。
〇(3点):めっき密着強度が12N/cm以上、15N/cm未満で優れている。
△(2点):めっき密着強度が8N/cm以上、12N/cm未満で実用上問題ない。
×(1点):めっき密着強度が8N/cm未満か、めっき膜が試験片に全面析出せず(評価できず)、実用レベルに達していない。
【0073】
(めっき加工B)
めっき密着強度の評価においてめっき加工は次の(1)~(15)の手順で実施した。(1)脱脂→(2)水洗→(3)エッチング→(4)水洗→(5)酸処理→(6)水洗→(7)触媒化処理→(8)水洗→(9)活性化処理→(10)水洗→(11)化学Niめっき→(12)水洗→(13)電機銅めっき→(14)水洗→(15)乾燥
・各工程での条件
(1)脱脂:CRPクリーナー(奥野製薬工業株式会社製)50mL/Lの溶液により、50℃で5分間処理した。
(2)水洗:20℃で水洗を行った。なお、(4)以降の水洗についても(2)と同様の条件で行った。
(3)エッチング:エッチング液として無水クロム酸400g/Lと、硫酸200mL/Lとの混合液を用いてエッチング処理した。浸漬条件は、68℃×15分とした。
(5)酸処理:35%塩酸100mLに、23℃で1分間浸漬した。
(7)触媒化処理:CRPキャタリスト40mL/Lと、35%塩酸250mL/Lの混合液(Pd-Snコロイド触媒)に、30℃で3分間浸漬した。
(9)活性化処理:硫酸100mLに、40℃で3分間浸漬した。
(11)化学Niめっき:化学ニッケルA(奥野製薬工業株式会社製)160mL/Lと化学ニッケルB(奥野製薬工業株式会社製)160mL/Lとの混合液に、35℃で5分間浸漬し、0.5μmの膜厚の化学めっき膜を形成した。
(13)電機銅めっき:硫酸銅200g/Lと、硫酸30mL/Lと、光沢剤との混合液に、20℃、電流密度3A/dm2で60分間浸漬し、35μmの膜厚の銅めっき膜を形成した。
(15)乾燥:80℃で2時間乾燥した。
【0074】
<冷熱サイクル特性の評価>
めっき用樹脂組成物のペレットを、80トン射出成形機(株式会社日本製鋼所製、「J80ADS-110U」)を用いて射出成形し、試験片(縦100mm×横100mm×厚さ3mm)を得た。射出成形は、シリンダ温度250℃、金型温度60℃、射出速度50mm/secの条件で行った。得られた試験片について、以下のようにしてめっき加工を施し、[-35℃×1時間の冷却及び90℃×1時間の加熱]を1サイクルとして10サイクルを行った。その後、めっき加工品のめっき膜の状態を目視観察し、下記基準で冷熱サイクル特性を判定した。
○(3点):めっき加工品の有効面にめっき膨れ、剥がれ等の形態変化はなく、非常に優れている。
△(2点):めっき加工品の有効面に実用上問題ないレベルの若干の膨れ、剥がれ等の形態変化がある。
×(1点):めっき加工品の有効面にめっき膨れ、剥がれ等の形態変化があるか、めっき膜が試験片に全面析出せず(評価できず)、実用レベルに達していない。
【0075】
(めっき加工)
冷熱サイクル特性の評価におけるめっき加工品は、上述のめっき加工Bと同じ手順でめっき処理を行い、めっき加工品を得た。
【0076】
<総合判定>
上記評価結果において、
合計点数が12~20点の場合を総合判定において「〇」と判定し、
合計点数が11点以下又はいずれかの評価結果に1点がある場合を総合判定において「△」と判定した。
【0077】
[グラフト共重合体(A)の製造]
<合成例1:ゴム質重合体(g-1)の製造>
反応器に水150部、牛脂脂肪酸カリウム塩3.3部、水酸化カリウム0.14部、ピロリン酸ナトリウム0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.20部を仕込み、次いで、1,3-ブタジエン100部を仕込み、62℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.12部を圧入して重合を開始した。反応は10時間かけて75℃に到達させて行った。更に、75℃で1時間反応させた後ナトリウムホルムアデヒドスルホキシレート0.08部を圧入した。残存する1,3-ブタジエンを除去した後、重合物を取り出し、ゴム質重合体のラテックスを得た。得られたゴム質重合体の質量平均粒子径は、0.08μmであった。反応器にゴム質重合体のラテックスを固形分換算で100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.15部を仕込み、水を加えて固形分を36.5%に調整した。30℃昇温した後、酢酸1.3部を添加した後10分撹拌し、水酸化カリウムで中和しゴム質重合体(g-1)のラテックスを得た。得られたゴム質重合体(g-1)の質量平均粒子径は、0.30μmであった。
【0078】
<合成例2:グラフト共重合体(A-1)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で60部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル10部、スチレン25部、α-メチルスチレン5部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-1)を得た。
【0079】
<合成例3:グラフト共重合体(A-2)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で60部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル12部、スチレン25部、α-メチルスチレン3部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-2)を得た。
【0080】
<合成例4:グラフト共重合体(A-3)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で60部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル8部、スチレン25部、α-メチルスチレン7部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-3)を得た。
【0081】
<合成例5:グラフト共重合体(A-4)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で60部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル14部、スチレン25部、α-メチルスチレン1部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-4)を得た。
【0082】
<合成例6:グラフト共重合体(A-5)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で60部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル6部、スチレン25部、α-メチルスチレン9部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-5)を得た。
【0083】
<合成例7:グラフト共重合体(A-6)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で40部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル15部、スチレン40部、α-メチルスチレン5部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-6)を得た。
【0084】
<合成例8:グラフト共重合体(A-7)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で60部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル5部、スチレン25部、α-メチルスチレン10部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-7)を得た。
【0085】
<合成例9:グラフト共重合体(A-8)>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g-1)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で60部、及び不均化ロジン酸カリウム0.18部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル10部、スチレン30部、及びクメンヒドロパーオキシド0.1部、tert-ドデシルメルカプタン0.12部の混合液を4.5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-8)を得た。
【0086】
[スチレン系共重合体(C)の製造]
<合成例10:アクリロニトリル-スチレン共重合体(C-1)>
アクリロニトリル24.1部およびスチレン75.9部からなり、N,N-ジメチルホルムアミド溶液により25℃で測定した還元粘度が0.49dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体(C-1)を公知の懸濁重合により製造した。ポリスチレン換算分子量Mwは88,000であった。
【0087】
<合成例11:アクリロニトリル-スチレン共重合体(C-2)>
アクリロニトリル26.7部およびスチレン73.3部からなり、N,N-ジメチルホルムアミド溶液により25℃で測定した還元粘度が0.61dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体(C-2)を公知の懸濁重合により製造した。ポリスチレン換算分子量Mwは106、000であった。
【0088】
<合成例12:スチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド三元共重合体(C-3)>
アクリロニトリル17.0部およびスチレン55.5部およびN-フェニルマレイミド28.5部からなり、N,N-ジメチルホルムアミド溶液により25℃で測定した還元粘度が0.67dl/gであるスチレン-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド三元共重合体(C-3)を公知の連続溶液重合により製造した。ポリスチレン換算分子量Mwは200、000であった。
【0089】
[ポリカーボネート樹脂(P)]
ポリカーボネート樹脂(P)として以下のものを用いた。
ポリカーボネート樹脂(P-1):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製の「ユーピロンS2000F」(粘度平均分子量(Mv):22,000)。
ポリカーボネート樹脂(P-2):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製の「ユ-ピロンH3000F」(粘度平均分子量(Mv):18,000)。
【0090】
[ポリエステル樹脂(E)]
ポリエステル樹脂(E)として以下のものを用いた。
リサイクルされたPET樹脂(E-1):ウツミリサイクルシステムズ社製の「UK-31」
【0091】
[実施例1~14、比較例1~5]
表2~5に示す割合(質量部)でグラフト共重合体(A)と他の熱可塑性樹脂とを混合して、めっき用樹脂組成物を調製した。得られためっき用樹脂組成物を、30mm二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX30α」)を用いて、200℃の温度で溶融混練して、それぞれをペレット化し、めっき用樹脂組成物のペレットを得た。各例のめっき用性樹脂組成物を用いて、めっき外観、めっき密着強度及び冷熱サイクル特性を評価した。これらの結果を表2~5に示す。なお、表中の空欄は、その成分が配合されていないことを示す。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
各実施例のめっき用樹脂組成物の成形品(試験片)をめっき処理しためっき加工品は、めっき品表面の微小な凹凸による外観不良がなく、めっき外観の優れたものが得られた。また、めっき密着強度が高く、冷熱サイクル特性に優れ、めっき特性が良好であった。
対して、グラフト共重合体(A)の単量体成分(a)であるα-メチルスチレンとそれ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)中のα-メチルスチレンの含有量が過多であるグラフト共重合体(A-7)を用いた比較例3の場合、めっき外観と冷熱サイクル特性は、実用上問題ないレベルであったが、めっき密着強度が劣っていた。
グラフト共重合体(A)の単量体成分(a)にα-メチルスチレンを含まないグラフト共重合体(A-8)を用いた比較例1、比較例2の場合、共にめっき外観が劣っていた。
また、めっき用樹脂組成物中のゴム含有量が規定量より少ない比較例4では、めっき密着強度が劣る結果となり、めっき用樹脂組成物中のゴム含有量が規定量より多い比較例5では、良好な冷熱サイクル性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、めっき特性に優れるめっき加工品が得られるめっき用樹脂組成物を提供でき、本発明は産業上極めて重要である。
【要約】
【課題】素地に発生する微小な凹凸(ゆず肌)の発生を抑制し、優れためっき外観がえられ、更に、めっき密着強度、冷熱サイクルに優れるめっき加工品が得られるめっき用樹脂組成物及びグラフト共重合体を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体に単量体成分(a)がグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)であって、前記単量体成分(a)は、前記単量体成分(a)の総質量に対して、α-メチルスチレン及びそれ以外の芳香族ビニル化合物の混合物(a1)60質量%以上を含み、前記グラフト共重合体(A)中のゴム含有量が、前記グラフト共重合体(A)の総質量に対して35質量%以上である、グラフト共重合体。
【選択図】なし