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特許7299445リチウム電池のバッファおよびリチウム電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】リチウム電池のバッファおよびリチウム電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20230621BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230621BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230621BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230621BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230621BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230621BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M4/139
H01M10/0562
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020560702
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046793
(87)【国際公開番号】W WO2020129183
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】523164159
【氏名又は名称】ナッシュ エナジー (アイ) プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】友寄 壹
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028846(JP,A)
【文献】特開2008-171588(JP,A)
【文献】特開2011-129316(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0036410(KR,A)
【文献】特開2009-301726(JP,A)
【文献】特開2001-229967(JP,A)
【文献】特開2013-045738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/1399
H01M 4/36- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の面に形成されている正極材層と、
前記正極材層の前記基板を向く面とは反対側の面に形成されている電解質層と、
前記電解質層の前記基板を向く面とは反対側の面に形成されており、電解液またはイオン性液体にアルミナエアロゲルが添加された材料を含むバッファ層と、
前記バッファ層の前記基板を向く面とは反対側の面に形成されており、金属リチウムを含む負極層と
を備え、
前記電解質層は、前記負極層を向く面の端部を除く領域において、前記基板に向けてくぼんでいるバスタブ形状を有する凹部を有し、
前記バッファ層は、前記凹部を満たすように形成されている、
リチウム電池。
【請求項2】
前記電解質層は、前記負極層を向く面の一部において、前記凹部を複数有し、
前記バッファ層は、複数の前記凹部を満たすように形成されている、
請求項に記載のリチウム電池。
【請求項3】
前記正極材層および前記電解質層は、5μm以下のサイズに細粒化されているLAGPを有する、請求項1または2に記載のリチウム電池。
【請求項4】
前記正極材層および前記電解質層は、5μm以下のサイズに細粒化されているLISICON(Lithium-Super-Ion-Conductor)を有し、
前記電解質層は、少なくとも前記負極層との界面において、被覆材料を有する、請求項1または2に記載のリチウム電池。
【請求項5】
前記電解質層および前記負極層の間に、リン酸リチウム、ソルダーレジスト、およびフォトレジストのうち少なくとも1つを有する被覆材料が更に設けられている、請求項1からのいずれか一項に記載のリチウム電池。
【請求項6】
基板の一方の面に正極材を塗布して乾燥させ、焼成することで正極材層を形成するステップと、
前記正極材層の前記基板を向く面とは反対側の面に電解質を塗布して乾燥させ、焼成することで電解質層を形成するステップと、
前記電解質層の前記基板を向く面とは反対側の面の少なくとも一部に、電解液またはイオン性液体にアルミナエアロゲルが添加された材料を含むバッファ材を塗布してバッファ層を形成するステップと、
前記バッファ層の前記基板を向く面とは反対側の面に金属リチウムを含む負極材を貼り合わせて負極層を形成するステップと
を備え、
前記電解質層を形成するステップは、前記電解質を乾燥した後に、前記電解質の前記基板を向く面とは反対側の面の一部に、前記基板に向けてくぼむように凹部を形成するステップを更に有し、
前記バッファ層を形成するステップは、前記電解質層の前記凹部にバッファ材を塗布して前記バッファ層を形成する、
リチウム電池の製造方法。
【請求項7】
前記正極材層を形成するステップは、乾燥後の前記正極材を予め定められた圧力で加圧するステップを更に有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記電解質層を形成するステップは、乾燥後の前記電解質を予め定められた圧力で加圧するステップを更に有する、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記電解質を加圧するステップは、前記電解質層に予め定められた形状の前記凹部を形成させる、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記負極層を形成するステップの後に、
前記基板および前記負極層のそれぞれに配線材料を接続するステップと、
前記配線材料の一部以外の材料をシール材料でシーリングするステップと、
前記シール材料を加圧するステップと
を更に備える、請求項からのいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池のバッファおよびリチウム電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負極用電極板に金属リチウムを用いたリチウム二次電池が知られている。また、特許文献1には、このようなリチウム電池を、LISICON(Lithium-Super-Ion-Conductor)を含む固体電解質膜を用いて製造できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-301726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池は、非水性の有機溶媒を含む可燃性の電解液が用いられていた。したがって、このようなリチウムイオン二次電池は、電解液の漏洩の恐れがあり、また、発火事故が生じうるという課題があった。また、電解液に代えて、当該電解液の漏洩を低減できるポリマー電解質を用いることが知られていた。このようなポリマー電解質は、例えば、200℃程度の高温における可燃性を抑えることができず、また、リチウムイオンの伝導性が劣るという課題があった。したがって、電解液の漏洩を低減でき、また、発火性を克服できる固体電解質層を用いたリチウム電池の実現が期待されている。しかしながら、このような固体電解質層を用いたリチウム電池は、電解質層および負極材の間の界面抵抗が大きくなる傾向にあり、導電性が低下してしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、導電性を向上させたリチウム電池を効率よく作製できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、基板と、前記基板の一方の面に形成されている正極材層と、前記正極材層の前記基板を向く面とは反対側の面に形成されている電解質層と、前記電解質層の前記基板を向く面とは反対側の面に形成されているバッファ層と、前記バッファ層の前記基板を向く面とは反対側の面に形成されており、リチウムを含む負極層とを備え、前記電解質層は、前記負極層を向く面の一部において、前記基板に向けてくぼんでいる凹部を有し、前記バッファ層は、前記凹部を満たすように形成されている、リチウム電池を提供する。
【0007】
前記バッファ層は、アルミナエアロゲルが添加されているゲル状の層でもよい。前記電解質層は、前記負極層を向く面の一部において、前記凹部を複数有し、前記バッファ層は、複数の前記凹部を満たすように形成されていてもよい。
【0008】
前記正極材層および前記電解質層は、5μm以下のサイズに細粒化されているLAGPを有してもよい。前記正極材層および前記電解質層は、5μm以下のサイズに細粒化されているLISICON(Lithium-Super-Ion-Conductor)を有し、前記電解質層は、少なくとも前記負極層との界面において、被覆材料を有してもよい。
【0009】
本発明の第2の態様においては、基板の一方の面に正極材を塗布して乾燥させ、焼成することで正極材層を形成するステップと、前記正極材層の前記基板を向く面とは反対側の面に電解質を塗布して乾燥させ、焼成することで電解質層を形成するステップと、前記電解質層の前記基板を向く面とは反対側の面の少なくとも一部にバッファ材を塗布してバッファ層を形成するステップと、前記バッファ層の前記基板を向く面とは反対側の面にリチウムを含む負極材を貼り合わせて負極層を形成するステップとを備え、前記電解質層を形成するステップは、前記電解質を乾燥した後に、前記電解質の前記基板を向く面とは反対側の面の一部に、前記基板に向けてくぼむように凹部を形成するステップを更に有し、前記バッファ層を形成するステップは、前記電解質層の前記凹部にバッファ材を塗布して前記バッファ層を形成する、リチウム電池の製造方法を提供する。
【0010】
前記バッファ材は、電解液またはイオン性液体にアルミナエアロゲルが添加された材料を含んでもよい。前記正極材層を形成するステップは、乾燥後の前記正極材を予め定められた圧力で加圧するステップを更に有してもよい。前記電解質層を形成するステップは、乾燥後の前記電解質を予め定められた圧力で加圧するステップを更に有してもよい。
【0011】
前記電解質を加圧するステップは、前記電解質層に予め定められた形状の前記凹部を形成させてもよい。
【0012】
前記負極層を形成するステップの後に、前記基板および前記負極層のそれぞれに配線材料を接続するステップと、前記配線材料の一部以外の材料をシール材料でシーリングするステップと、前記シール材料を加圧するステップとを更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導電性を向上させた固体電解質膜を用いたリチウム電池を効率的に作製できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るリチウム電池10の構成例を示す。
図2】本実施形態に係るリチウム電池10の断面構成の一例を示す。
図3】本実施形態に係るリチウム電池10を作製するフローの一例を示す。
図4】本実施形態に係る基板110に正極材層120を形成した後に、電解質を塗布して乾燥させた段階における断面構造の一例を示す。
図5】本実施形態に係る基板110に凹部132を形成した段階における断面構造の一例を示す。
図6】本実施形態に係るリチウム電池10の内部構成を形成した段階における断面構造の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<リチウム電池10の概略構成例>
図1は、本実施形態に係るリチウム電池10の構成例を示す。図1において、互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸、およびZ軸とする。本実施形態に係るリチウム電池10は、負極材として少なくとも金属リチウムを用いた二次電池である。リチウム電池10は、内部に電荷を蓄積して充電し、また、外部に蓄積した電荷を放出して放電するための正極端子12および負極端子14を備える。
【0016】
なお、本実施形態において、このような負極の材料としてリチウムを用いた二次電池を、慣例として、「リチウムイオン電池」ではなく「リチウム電池」と表記する。しかしながら、本発明の技術的範囲は、リチウム電池と表記された二次電池だけに限定されることはなく、負極材として少なくともリチウムを用いた二次電池であれば、他の表記の電池にも及ぶことは言うまでもない。
【0017】
従来、リチウム電池10は、電解質層の上面に金属リチウムの電極板を貼り合わせて作製していたので、電解質層および負極材の間の界面抵抗が大きくなる傾向にあった。理想的には、電解質層の上面に金属リチウムを真空蒸着させて、電解質層および負極材を密着させて形成することが考えられる。しかしながら、金属リチウムの真空蒸着は生産効率が低く、また、真空装置を用いるので製造に手間およびコストがかかってしまう。そこで、蒸着等を用いずに簡便な方法によって作製可能で、電解質層および負極材の間の界面抵抗を低減させ、導電性を向上させた本実施形態に係るリチウム電池10について説明する。
【0018】
<リチウム電池10の断面の構成例>
図2は、本実施形態に係るリチウム電池10の断面構成の一例を示す。図2は、図1に示すA-A’線におけるリチウム電池10の断面の構成例を示す。リチウム電池10は、正極端子12および負極端子14と、基板110と、正極材層120と、電解質層130と、バッファ層140と、負極層150と、シール材160とを備える。
【0019】
基板110は、導電性を有する電極板である。基板110は、例えば、金属製の電極板である。基板110は、例えば、鉄およびクロム等を有するステンレス基板、アルミナ基板等である。基板110には、正極端子12が電気的に接続されている。正極端子12は、例えば、銅等の金属を有する。図1は、XY面と略平行に基板110が配置された例を示す。また、図1は、基板110の一方の面において、正極材層120、電解質層130、バッファ層140、および負極層150が+Z方向に積層された例を示す。
【0020】
正極材層120は、基板110の一方の面に形成されている。正極材層120は、正極活物質として、例えば、LiMn、LiCoO、LiFePO、およびLiPOのいずれかを含んでよい。そして、正極材層120は、このような正極活物質を含有するMPS(Metal Polymer Solution:金属ポリマー溶液)をバインダとして用いて形成されている。
【0021】
また、正極材層120は、5μm以下のサイズに細粒化されているLi1+xAlGe2-x(PO等のLAGPを有する。正極材層120は、これに代えて、5μm以下のサイズに細粒化されているLISICONを有してもよい。例えば、正極材層120は、細粒化したLAGPまたはLISICONと正極活物質含有MPSとを混合してスラリー化した正極材を用いて形成されている、無機固体電解質層である。
【0022】
電解質層130は、正極材層120の基板110を向く面とは反対側の面に形成されている。電解質層130は、例えば、細粒化されているLAGPを活物質として有している。そして、電解質層130は、このような活物質を含有するMPSをバインダとして用いて形成されている。また、電解質層130は、正極材層120と同様に、5μm以下のサイズに細粒化されているLISICONを有してもよい。例えば、電解質層130は、細粒化したLISICONと活物質含有MPSとを混合してスラリー化した電解質を用いて形成されている、無機固体電解質層である。
【0023】
バッファ層140は、電解質層130の基板110を向く面とは反対側の面に形成されている。バッファ層140は、例えば、電解液またはイオン性液体を少なくとも有する。また、バッファ層140は、粘度を上げて操作性を高めるために、アルミナエアロゲルを添加してもよい。アルミナエアロゲルは、増粘剤でよく、一例として、粉体の酸化アルミニウムが混合されている。
【0024】
バッファ層140の少なくとも一部は、電解質層130の表面の加工された領域に形成されていることが望ましい。例えば、電解質層130は、負極層150を向く面の一部において、基板110に向けてくぼんでいる凹部132を有する。凹部132は、電解質層130の端部を除く領域に形成されることが望ましい。凹部132は、一例として、バスタブ形状を有している。凹部132は、電解質層130に複数設けられてもよい。これにより、凹部132は、リチウム電池10の製造過程において、ゲル状のバッファ層140が電解質層130の端部から流出することを防止できる。そして、バッファ層140は、このような凹部132を満たすように形成されている。
【0025】
負極層150は、バッファ層140の基板110を向く面とは反対側の面に形成されており、リチウムを含む。負極層150は、導電性を有する電極板である。負極層150は、例えば、銅箔およびリチウム箔が貼り合わされている基板である。負極層150には、負極端子14が電気的に接続されている。負極端子14は、例えば、銅等の金属を有する。図1は、負極層150が基板110と略平行に配置された例を示す。
【0026】
シール材160は、基板110、正極材層120、電解質層130、バッファ層140、および負極層150を覆うように設けられ、リチウム電池10の内部を被覆している。シール材160は、リチウム電池10の内部に通電させるための正極端子12および負極端子14の一部を露出させている。シール材160は、少なくとも、基板110および負極層150と密着するように設けられていることが望ましい。
【0027】
シール材160は、基板110、正極材層120、電解質層130、バッファ層140、および負極層150を封止するように設けられる。シール材160は、例えば、負極層150側の第1シール材162と、基板110側の第2シール材164を有する。第1シール材162および第2シール材164は、例えば、一体の材料である。例えば、シール材160を折り曲げ、折り目で分割される一部を第1シール材162とし、他方の一部を第2シール材164とする。この場合、第1シール材162および第2シール材164の対応する端部同士が重ね合わさり、真空シーラ等で少なくとも端部同士が密着されることで、内部を封止しているシール材160が形成されることになる。
【0028】
第1シール材162は、負極層150の基板110とは反対側を向く面と密着している。また、第2シール材164は、基板110の正極材層120とは反対側を向く面と密着している。また、第1シール材162および第2シール材164は、XY平面において、基板110、正極材層120、電解質層130、バッファ層140、および負極層150のいずれの部材よりも大きく、基板110、正極材層120、電解質層130、および負極層150の部材の周囲と密着して、これらの部材を封止している。これにより、シール材160は、バッファ層140のゲル状の材料が外部に染み出すことを防止できる。
【0029】
以上のように、本実施形態に係るリチウム電池10は、バッファ層140を挟んで電解質層130および負極層150が形成されている。したがって、電解質層130の表面に負極層150を貼り合わせていた従来の構成例と比較して、電解質層130と負極層150との密着性に優れ、界面抵抗を低減させることができる。また、金属リチウムを真空蒸着することなしに、負極層150およびバッファ層140を貼り合わせることで、リチウム電池10を作製できる。したがって、このような導電性を向上させたリチウム電池10を安価に、また、高効率で作製できる。以上のリチウム電池10を作製するプロセスについて次に説明する。
【0030】
<リチウム電池10の製造フロー>
図3は、本実施形態に係るリチウム電池10を作製するフローの一例を示す。まず、基板110の一方の面に正極材を塗布する(S310)。正極材は、例えば、5μm以下のサイズに細粒化されているLAGPに、正極活物質含有MPS溶液を加えて撹拌させた、正極用電解質原材である。なお、LAGPに代えて、5μm以下のサイズに細粒化されているLISICONを用いてもよい。正極材は、例えば、撹拌分散装置、スパチューラ、スターラ、超音波振動機等によって撹拌されてスラリー化される。また、正極材は、例えば、塗布装置によって塗布される。
【0031】
LAGPまたはLISICONのサイズは、直径が5μm以下でよく、例えば、直径が0.1μmから5μm程度の範囲である。LAGPまたはLISICONのサイズは、0.3μmから4μm程度の範囲であることが好ましく、また、0.5μmから3μm程度の範囲であることがより好ましい。
【0032】
正極活物質がLiMnの場合、正極活物質含有MPSは、例えば、有機リチウムおよび有機マンガンを、プロピレングリコールモノメチルエーテルを溶剤として、ポリ酢酸ビニルポリマーに溶解させて形成される。また、正極活物質がLiCoOの場合、正極活物質含有MPSは、例えば、有機リチウムおよび有機コバルトを、プロピレングリコールモノメチルエーテルを溶剤として、ポリ酢酸ビニルポリマーに溶解させて形成される。
【0033】
次に、塗布した正極材を乾燥させる(S320)。正極材は、例えば、略100℃以上の温度の環境に晒される。一例として、正極材が塗布された基板110を125℃程度の環境に30分間程度保持することで、正極材を乾燥させる。
【0034】
次に、乾燥後の正極材を予め定められた圧力で加圧する(S330)。この場合、例えば、ローラプレス機、加熱平面プレス機等を用いて、正極材を乾燥した後の基板110に圧力を加える。これにより、正極材の内部に空孔等が発生していた場合、当該空孔を消滅または低減させることができる。
【0035】
次に、乾燥した正極材を焼成させる(S340)。正極材は、例えば、焼成炉等により、略500℃以上の温度の環境に晒される。一例として、正極材を塗布して乾燥させた基板110を600℃程度の環境に60分間程度保持することで、正極材を焼成させる。以上のように、基板110の一方の面に正極材を塗布して乾燥させ、焼成することで、正極材層120を形成する。
【0036】
次に、正極材層120の露出している面に電解質を塗布する(S350)。電解質は、例えば、5μm以下のサイズに細粒化されているLAGPをMPS溶液に加えて撹拌させた、電解質原材である。なお、LAGPに代えて、5μm以下のサイズに細粒化されているLISICONを用いてもよい。電解質は、正極材と同様に、例えば、遠心力を用いた自公転する攪拌分散装置を用いて分散されて塗布スラリー化される。塗布直前に更にスパチューラ、スターラ、超音波振動機等によって再度撹拌分散され、電解質は、正極材と同様に、例えば、塗布装置によって塗布される。
【0037】
次に、塗布した電解質を乾燥させる(S360)。電解質は、例えば、略100℃以上の温度の環境に晒される。電解質は、一例として、正極材と同様の条件で乾燥される。図4は、本実施形態に係る基板110に正極材層120を形成した後に、電解質を塗布して乾燥させた段階における断面構造の一例を示す。
【0038】
次に、乾燥後の電解質を予め定められた圧力で加圧する(S370)。これにより、電解質の内部に空孔等が発生していた場合、当該空孔を消滅または低減させることができる。ここで、電解質を加圧することにより、凹部132を形成してもよい。この場合、電解質を乾燥させた後に、当該電解質の基板110を向く面とは反対側の面の一部を加圧して、基板110に向けてくぼむように凹部132を形成する。これにより、電解質の空孔を低減させると共に、乾燥後の電解質に予め定められた形状の凹部132を形成できる。
【0039】
電解質の加圧には、例えば、ローラプレス機、加熱平面プレス機等を用いる。なお、電解質は、既に焼成された正極材層120に重ねて形成されているので、ローラプレス機で加圧すると、正極材層120にクラック等が発生することがある。したがって、電解質への加圧は、加熱平面プレス機を用いる方が好ましい。
【0040】
ここで、一例として、XY平面において、50mm×50mmの正方形の基板110の一方の面に正極材層120および電解質が形成されているとする。この場合、露出している電解質の50mm×50mmの面のうち、例えば、40mm×40mmの正方形の領域を加圧して、凹部132が形成される。図5は、本実施形態に係る基板110に凹部132を形成した段階における断面構造の一例を示す。
【0041】
ここで、凹部132は、複数形成されてもよい。例えば、バッファ層140の界面を平滑な面とすべく、凹部132は複数に分割して設けられていてもよい。また、このように凹部132を複数設けて平滑な界面を形成することで、加圧工程における接触不良等の発生率を低減できる。また、凹部132を複数設けることにより、複数の凹部132を満たすバッファ層140の少なくとも一部が負極材と接触して、通電不良となることを防止できる。
【0042】
次に、凹部132が形成された電解質を焼成させる(S380)。電解質は、正極材と同様に、例えば、焼成炉等により、略500℃以上の温度の環境に晒される。一例として、凹部132が形成された電解質を有する基板110を600℃程度の環境に60分間程度保持することで、電解質を焼成させる。以上のように、正極材層120の基板110とは反対側の面に電解質を塗布して乾燥させ、焼成することで、電解質層130を形成する。このような、電解質の焼成により、凹部132も安定化される。
【0043】
次に、電解質層130の基板110を向く面とは反対側の面の少なくとも一部にバッファ材を塗布してバッファ層140を形成する(S390)。バッファ材は、例えば、電解液またはイオン性液体にアルミナエアロゲルが添加されたゲル状の材料を含む。アルミナエアロゲルは、例えば、Alを含む。バッファ層140は、電解質層130の凹部132にこのようなバッファ材を塗布することで形成される。バッファ材の塗布は、例えば、アルゴンガス中のグローブボックス内等の酸素に暴露しない雰囲気中で実行されることが好ましい。
【0044】
次に、バッファ層140の基板110を向く面とは反対側の面にリチウムを含む負極材を貼り合わせて負極層150を形成する(S400)。負極材は、例えば、銅箔およびリチウム箔が貼り合わされている基板である。負極材は、例えば、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中でバッファ層140に貼り合わせられることが好ましい。負極材は、一例として、XY平面において、50mm×50mmの正方形の形状を有し、略50mm×50mmの形状のリチウム電池10の内部構成が形成される。図6は、本実施形態に係るリチウム電池10の内部構成を形成した段階における断面構造の一例を示す。
【0045】
次に、基板110および負極層150のそれぞれに配線材料を接続する(S410)。配線材料は正極端子12および負極端子14である。即ち、正極端子12を基板110に、負極端子14を負極層150に固定する。正極端子12および負極端子14は、例えば、ポリイミドテープ等でそれぞれ固定される。リチウム金属負極材の場合、正極端子12および負極端子14は、例えば、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中でそれぞれ固定されることが好ましい。
【0046】
次に、配線材料の一部以外の材料をシール材料でシーリングする(S420)。シール材料はシール材160である。シール材160は、基板110、正極材層120、電解質層130、バッファ層140、および負極層150を覆い、正極端子12および負極端子14の一部を外部に露出させるようにシーリングする。シール材160は、例えば、真空シーラ等によるシーリングにより、リチウム電池10の内部構成をシーリングする。なお、基板110の他方の面と、負極層150の基板110とは反対側の面とに、それぞれアルミ箔等を配置してから、シール材160でシーリングしてもよい。
【0047】
次に、リチウム電池10の内部構成をシーリングした状態のシーリング材料を加圧する(S430)。シール材料であるシール材160は、例えば、加熱ローラ等によって加圧される。これにより、シール材160とリチウム電池10の内部構成とが密着するので、バッファ層140のゲル状の材料が外部に染み出すことを防止できる。シール材160の加圧は、例えば、標準大気圧よりも気圧の低い減圧雰囲気において実行されることが好ましい。一例として、S390のバッファ材の塗布からS430のシール材料の加圧までを、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中で実行してよい。図1および図2は、シール材160を加圧した段階の構成例であり、即ち、本実施形態に係るリチウム電池10を作製した結果の一例である。
【0048】
以上のように、本実施形態に係るリチウム電池10は、蒸着等を用いないので、例えば、グローブボックス等の簡便な設備を用いて、容易に作製することができる。したがって、バッファ層140を設けて導電性を向上させたリチウム電池10を、安価に、また高効率で作製できる。なお、本実施形態においては、単体のリチウム電池10を作製する例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、一方向に延伸する基板110に、正極材層120、電解質層130、バッファ層140、および負極層150を形成して、複数のリチウム電池10の一部を共通に形成してもよい。この場合、共通に形成した部材を切断した後に、S400の配線材料の接続以降のフローを切断した部材ごとに実行することで、複数のリチウム電池10を作製できる。
【0049】
以上の本実施形態に係るリチウム電池10は、電解質層130を加圧してバッファ材が充填される凹部132を形成する例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、電解質層130をエッチング等によって加工することで、凹部132を形成してもよい。また、電解質層130の少なくとも一部をフォトリソグラフィ等により選択的に積層させて、凹部132を形成してもよい。
【0050】
また、本実施形態に係るリチウム電池10は、電解質層130の一部に凹部132を形成し、当該凹部132にバッファ層140を形成する例を説明した。この場合、電解質層130の凹部132が形成されない部分は、負極層150と接するように貼り合わされる。ここで、LISICONを有する電解質層130は、リチウムと化学反応することがある。このような化学反応は、電解質層130を破損し、バッテリー機能を喪失させる。
【0051】
そこで、電解質層130および負極層150の間に、このような化学反応を低減させる被覆材料を更に設けてもよい。被覆材料は、電解質層130および負極層150の間の化学反応を低減できる材料であればよい。例えば、電解質層130は、少なくとも負極層150との界面において、被覆材料としてリン酸リチウム(LiPO)、ソルダーレジスト、フォトレジスト等を有してよい。
【0052】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0053】
10 リチウム電池
12 正極端子
14 負極端子
110 基板
120 正極材層
130 電解質層
132 凹部
140 バッファ層
150 負極層
160 シール材
162 第1シール材
164 第2シール材
図1
図2
図3
図4
図5
図6