(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20230621BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230621BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2019204899
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】井上 実紀
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-152068(JP,A)
【文献】特開2018-055810(JP,A)
【文献】特開2019-179592(JP,A)
【文献】特開2012-064477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/86
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒機能を有する混合粉末を含む空気極合剤を備えている空気二次電池用の空気極において、
前記混合粉末は、コア粒子に前記コア粒子よりも小さい触媒粒子が組み合わされた混合粒子の集合体であり、
前記コア粒子は、Niを含んでおり、
前記触媒粒子は、パイロクロア型金属酸化物触媒により形成されており、前記コア粒子の表面に存在しており、
前記Niの元素濃度をAとし、前記パイロクロア型金属酸化物触媒の金属成分の元素濃度をBとした場合に、A/Bで表される組成比をCとし、
前記混合粉末に含まれる前記混合粒子のうち任意に選ばれた複数個について測定された前記A及び前記Bからそれぞれ求められる前記Cの平均値をCavとし、前記C及び前記Cavから求められる標準偏差をσとした場合に、
前記混合粉末は、σ/Cavで求められる変動係数Dが、D≦0.52の関係を満たしている、空気二次電池用の空気極。
【請求項2】
前記触媒粒子の一次粒子の大きさは、前記コア粒子の一次粒子の大きさに対し、1/1000以上、1/10以下である、請求項1に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項3】
前記パイロクロア型金属酸化物触媒は、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物である、請求項1又は2に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項4】
前記混合粒子は、前記ビスマスルテニウム複合酸化物を5重量%以上、30重量%以下、前記Niを60重量%以上含む、請求項3に記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項5】
前記コア粒子は、フィラメント状のNi粒子である、請求項1~4の何れかに記載の空気二次電池用の空気極。
【請求項6】
容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含み、
前記正極は、請求項1~5の何れかに記載の空気二次電池用の空気極である、空気二次電池。
【請求項7】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項6に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(アルカリ電解液)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応という)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極という)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(I)
放電(酸素還元反応):O2+2H2O+4e-→4OH-・・・(II)
【0007】
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記した空気二次電池においては、エネルギー効率は未だ十分な値とはなっておらず、また、高出力化も未だ十分には図られていない。このため、空気二次電池の実用化を図るためには、更なるエネルギー効率の向上や高出力化が求められている。
【0010】
上記したようなエネルギー効率の向上や高出力化を妨げている主な要因は、空気極における過電圧が大きいことである。
【0011】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を含む空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、触媒機能を有する混合粉末を含む空気極合剤を備えている空気二次電池用の空気極において、前記混合粉末は、コア粒子に前記コア粒子よりも小さい触媒粒子が組み合わされた混合粒子の集合体であり、前記コア粒子は、Niを含んでおり、前記触媒粒子は、パイロクロア型金属酸化物触媒により形成されており、前記コア粒子の表面に存在しており、前記Niの元素濃度をAとし、前記パイロクロア型金属酸化物触媒の金属成分の元素濃度をBとした場合に、A/Bで表される組成比をCとし、前記混合粉末に含まれる前記混合粒子のうち任意に選ばれた複数個について測定された前記A及び前記Bからそれぞれ求められる前記Cの平均値をCavとし、前記C及び前記Cavから求められる標準偏差をσとした場合に、前記混合粉末は、σ/Cavで求められる変動係数Dが、D≦0.52の関係を満たしている、空気二次電池用の空気極が提供される。
【0013】
前記触媒粒子の一次粒子の大きさは、前記コア粒子の一次粒子の大きさに対し、1/1000以上、1/10以下である構成とすることが好ましい。
【0014】
前記パイロクロア型金属酸化物触媒は、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物である構成とすることが好ましい。
【0015】
前記混合粒子は、前記ビスマスルテニウム複合酸化物を5重量%以上、30重量%以下、前記Niを60重量%以上含む構成とすることが好ましい。
【0016】
前記コア粒子は、フィラメント状のNi粒子である構成とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明によれば、容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含み、前記正極は、上記した空気二次電池用の空気極である、空気二次電池が提供される。
【0018】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る空気二次電池用の空気極は、触媒機能を有する混合粉末を含む空気極合剤を備えている空気二次電池用の空気極において、前記混合粉末は、コア粒子に前記コア粒子よりも小さい触媒粒子が組み合わされた混合粒子の集合体であり、前記コア粒子は、Niを含んでおり、前記触媒粒子は、パイロクロア型金属酸化物触媒により形成されており、前記コア粒子の表面に存在しており、前記Niの元素濃度をAとし、前記パイロクロア型金属酸化物触媒の金属成分の元素濃度をBとした場合に、A/Bで表される組成比をCとし、前記混合粉末に含まれる前記混合粒子のうち任意に選ばれた複数個について測定された前記A及び前記Bからそれぞれ求められる前記Cの平均値をCavとし、前記C及び前記Cavから求められる標準偏差をσとした場合に、前記混合粉末は、σ/Cavで求められる変動係数Dが、D≦0.52の関係を満たしている。変動係数Dの値が0.52以下である混合粉末では、混合粉末を構成する混合粒子において、コア粒子の表面に触媒粒子が薄く均一に担持された状態となり、パイロクロア型金属酸化物触媒を有効利用することができる。その結果、充放電反応における過電圧を低減することに貢献する。よって、斯かる空気極を含む空気二次電池は、エネルギー効率が向上し、出力も高くなる。このため、本発明によれば、充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極、及び、この空気極触媒を含む、エネルギー効率の向上と高出力化が図られた空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
【
図2】触媒層の厚さが均一な混合粒子の概略的な構成を示した断面図である。
【
図3】触媒層の厚さにばらつきがある不均一混合粒子の概略的な構成を示した断面図である。
【
図4】実施例1の混合粒子のSEM画像を示した図面代用写真である。
【
図5】比較例1の混合粒子のSEM画像を示した図面代用写真である。
【
図6】比較例2の混合粒子のSEM画像を示した図面代用写真である。
【
図7】実施例1の混合粒子の断面のSEM画像を示した図面代用写真である。
【
図8】比較例1の混合粒子の断面のSEM画像を示した図面代用写真である。
【
図9】比較例2の混合粒子の断面のSEM画像を示した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る空気二次電池用の空気極を含む空気水素二次電池2(以下、電池2という)について図面を参照して説明する。
【0022】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに入れられた電極群10とを備えている。
【0023】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0024】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤層とを備えている。上記したような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0025】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛、カーボンブラック等の粒子の集合体である粉末を用いることができる。
【0026】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgaNib-c-dAlcMd・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0027】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0028】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0029】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0030】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、多孔質構造をなしている。
【0031】
次に、空気極16は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の空気極基材と、前記した空孔内及び空気極基材の表面に担持された空気極合剤層(正極合剤層)とを備えている。上記したような空気極基材としては、例えば、発泡ニッケルやニッケルメッシュを用いることができる。
【0032】
空気極合剤は、空気二次電池用の触媒機能を有する混合粉末及び結着剤を含む。
空気二次電池用の触媒機能を有する混合粉末は、コア粒子に、このコア粒子よりも小さい触媒粒子が組み合わされた混合粒子の集合体である。
【0033】
上記したコア粒子は、空気極16における導電材として機能するとともに、上記した触媒粒子を担持する担体として用いられる。また、コア粒子は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるために優れた導電性を備えていることが望まれる。斯かるコア粒子としては、例えば、Ni粒子を用いることが好ましい。上記したNi粒子としては、例えば、平均粒径が10μm~20μmの粒子を用いることが好ましい。ここで、本発明において平均粒径といった場合、特に言及した場合を除き、対象となる粒子の集合体である粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置を用いて体積基準で粒径分布を測定して得られた体積平均粒径を指すものとする。
【0034】
ここで、上記したNi粒子としては、スパイク状の粒子又はスパイク状の粒子が鎖状につながったフィラメント状の粒子を用いることが好ましい。このようなスパイク状又はフィラメント状のNi粒子は、カーボニル法により製造され、比表面積の増加、触媒担持性向上、導電ネットワークの形成、ガス拡散性の向上が期待できる。このため、空気極の抵抗値が低く抑えられ、電池の過電圧低減に貢献する。
【0035】
上記したようなコア粒子の集合体であるコア粒子の粉末、すなわち、Ni粉末を従来の製造方法により製造する。
【0036】
次に触媒粒子について説明する。触媒粒子としては、パイロクロア型金属酸化物触媒の粒子が用いられる。
【0037】
パイロクロア型金属酸化物触媒としては、一般式:A2-xB2-yO7-z(ただし、x、y、zは、それぞれ、0≦x≦1、0≦y≦1、-0.5≦z≦0.5の関係を満たし、Aは、Bi、Pb、Tb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mn、Y、Zn及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Bは、Ru、Ir、Si、Ge、Ta、Sn、Hf、Zr、Ti、Nb、V、Sb、Rh、Cr、Re、Sc、Co、Cu、In、Ga、Cd、Fe、Ni、W及びMoから選ばれる少なくとも1種の元素を表している。)で表される組成を有している複合酸化物を用いることが好ましい。より好ましくはパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2Ru2O7)が用いられる。
【0038】
パイロクロア型金属酸化物触媒においては、酸素発生及び酸素還元に対して2元機能を有するパイロクロア型金属酸化物触媒を用いることが好適である。このような二元機能を有する触媒は、充電過程でも、放電過程でも電池の過電圧を低減させることに寄与する。
【0039】
次に、空気二次電池用のパイロクロア型金属酸化物の製造方法に関し、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を例に挙げて具体的に以下に説明する。
【0040】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを同じ濃度となるように蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。このとき蒸留水の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加える。この際の浴温度は60℃以上、90℃以下に保持し、酸素バブリングを行いながら撹拌する。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で10時間以上、20時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。そして、この乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で350℃以上、650℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、24時間以下保持することにより焼成し、焼成物を得る。得られた焼成物を60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗した後乾燥させる。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物が得られる。
【0041】
次に、調製されたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0042】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、準備する硝酸水溶液に関し、その濃度は5mol/L以下とし、その量はビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量とし、その温度は20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0043】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、6時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定されたイオン交換水に投入され洗浄される。
【0044】
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物は、100℃以上、120℃以下の環境下で1時間以上、2時間以下保持され、乾燥させられる。
【0045】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物(パイロクロア型の複合酸化物)の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0046】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。上記した機械的粉砕の際、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子は、上記したコア粒子よりも小さくなるように粉砕される。
【0047】
ここで、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子(触媒粒子)の一次粒子の平均粒径は、コア粒子(Ni粒子)の一次粒子の平均粒径に対して、1/1000以上、1/10以下の範囲とすることが好ましい。ビスマスルテニウム複合酸化物粒子(触媒粒子)の一次粒子の平均粒径が、コア粒子(Ni粒子)の一次粒子の平均粒径に対して、1/1000未満の場合、凝集し易くなり、触媒能が低下する。一方、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子(触媒粒子)の一次粒子の平均粒径が、コア粒子(Ni粒子)の一次粒子の平均粒径に対して、1/10を超えると、コア粒子(Ni粒子)の表面をビスマスルテニウム複合酸化物粒子(触媒粒子)で均一に覆うことが難しくなり電池反応が阻害されるおそれがある。このため、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子(触媒粒子)の一次粒子の平均粒径は、コア粒子(Ni粒子)の一次粒子の平均粒径に対して、上記の範囲に設定することが好ましい。
【0048】
次に、上記のようにして得られたコア粒子の粉末と、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末とを混合し、コア粒子にビスマスルテニウム複合酸化物の粒子(触媒粒子)を組み合わせた混合粒子の集合体である混合粉末を形成する。
【0049】
上記した触媒粒子の大きさは、コア粒子の大きさとの関係では、粒径がnmオーダーのいわゆるナノ粒子となる場合がある。このようなナノ粒子は、凝集し易い。このため、コア粒子と、ナノ粒子である触媒粒子とを混合する場合、凝集を抑制すべく強い剪断力を加えながら分離や粉砕を繰り返して混合を行う必要がある。このような混合作業には、容器内に回転する撹拌羽を備えている機械的撹拌型混合機や、容器自体も回転可能な複合型混合機がある。このような混合機の容器内にコア粒子及び触媒粒子を投入し、混合機を駆動することにより、マクロな混合、ミクロな混合、粒子の複合化が進行し、コア粒子と触媒粒子とが組み合わされた混合粒子が得られ、この混合粒子の集合体が混合粉末となる。
【0050】
上記のようにナノ粒子の凝集を抑制するために、混合に際し強いせん断力を加える必要があるが、そのせん断力が強すぎると、粒子相の緻密化による比表面積の低下、摩擦熱の発生による溶融や変質といった不具合が生じ得る。このような不具合が生じた混合粒子は、触媒が有効に機能せず、空気二次電池に採用しても電池特性に悪影響を与えるおそれがある。
【0051】
本発明者は、導電性を確保しつつ触媒の機能を有効に発揮できる混合粒子を開発すべく、鋭意研究を行なった。その結果、導電性担体成分(コア粒子中のNi)及び触媒成分(例えば、Bi及びRu)の組成比(Ni/(Bi+Ru))の分散度(ばらつき)と、電池特性との間に相関関係があることを見出し、混合粒子の処理方法を調整することにより、導電性を確保しつつ触媒の機能を有効に発揮できる混合粒子を得た。
【0052】
本発明における触媒機能を有する混合粉末を構成する混合粒子は、上記したように、Niを含むコア粒子と、コア粒子の表面に存在している触媒粒子(パイロクロア型金属酸化物触媒)とを備えている。そして、コア粒子のNiの元素濃度をAとし、パイロクロア型金属酸化物触媒の金属成分の元素濃度をBとした場合に、A/Bで表される組成比をCとし、混合粉末に含まれる混合粒子のうち任意に選ばれた複数個について測定された前記A及び前記Bからそれぞれ求められる前記Cの平均値をCavとし、前記C及び前記Cavから求められる標準偏差をσとした場合に、前記混合粉末は、σ/Cavで求められる変動係数Dが、D≦0.52の関係を満たしていることを特徴としている。
【0053】
混合粒子に関し、Niと、触媒の金属成分との組成比を求めることにより、コア粒子の表面に担持されている触媒粒子の割合を把握することができる。これにより、コア粒子表面の触媒層の厚さが把握できる。そして、この組成比のばらつきの度合いとしての変動係数Dから触媒層の厚さの均一性が把握できる。上記した混合粒子においては、変動係数Dが0.52以下の場合、触媒層の厚さが薄く均一であることを示すので、変動係数Dが0.52以下の混合粒子を採用した空気二次電池は、電池特性に優れる。
【0054】
ここで、混合粒子の概略的な構成について説明する。まず、本発明において理想とされる混合粒子70の概略構成を
図2に示す。この
図2に示されるように、本発明に係る混合粒子70は、コア粒子72と、このコア粒子72の表面に担持された触媒粒子74とを備えている。上記した触媒粒子74は、コア粒子72の表面に薄く均一に担持されていることが好ましい。触媒粒子74により電池反応が進行するが、触媒粒子74自体は導電性に優れていないので、触媒粒子74の層が厚くなりすぎると混合粒子70全体としての導電性が阻害される。このため、触媒粒子74により形成された触媒層76はコア粒子72の表面に存在することが必要であるが、厚くなりすぎても不具合が生じる。よって、上記したように、触媒粒子74は、コア粒子72の表面に薄く均一に存在することが好ましい。このように、コア粒子72の表面に触媒粒子74を薄く均一に担持させるには、混合機により35Wh以下の負荷量をかけて混合することが好ましい。なお、本発明においては、混合機による負荷をWで表し、その負荷を1時間かけて混合した場合の負荷の量を負荷量としてWhで表すこととする。
【0055】
一方、本発明において、あまり好ましくないとされる形態の不均一混合粒子71の概略構成を
図3に示す。この
図3に示されるように、不均一混合粒子71は、触媒粒子74により形成された触媒層76の厚さが不均一であり、部分的にコア粒子72の表面72aが露出している。
【0056】
この不均一混合粒子71は、混合の際の負荷量が35Whを超えるくらいに大きくした場合、また、逆に、混合の際の負荷が小さすぎる場合、例えば、5Wh以下となるような場合に発生し易い。
【0057】
詳しくは、混合の際の負荷量が35Whを超えるような場合、触媒粒子はコア粒子に多く担持され触媒層76は厚く付き易い。しかし、触媒層76において、厚くなりすぎた表面部分が剥離して、触媒層76が部分的に薄くなったり、コア粒子72の表面72aが露出したりして、触媒層76の厚さがばらつく。また、混合の際の負荷が5Wh以下となるような場合、触媒粒子74は凝集し易く、触媒層76は比較的厚くなり易い。しかしながら、負荷が弱いので、触媒粒子74はコア粒子72の表面72aから脱落し易い。つまり、負荷が低すぎても触媒層の厚さはばらついてしまう。上記したように、触媒層76の厚さがばらつくと、触媒の機能が十分に発揮されず、電池特性の低下を招くおそれがある。
【0058】
また、負荷が高すぎる場合においては、触媒層76の粒子が緻密化し、比表面積が低下したり、摩擦熱による溶融や変質が起こる。このような緻密変質部分78では、触媒の機能が阻害され、電池特性が低下する。
【0059】
なお、
図2及び3においては、簡略化のため、混合粒子70及び不均一混合粒子71を構成するコア粒子72及び触媒粒子74は、球形であると仮定している。また、触媒層76の層数もこれらの図に記載された数に限定されるものではない。
【0060】
上記した混合粒子70においては、触媒層76の厚さは、薄すぎると電池反応が起こり難く、厚すぎると導電性が低下する。つまり、触媒層が薄いと触媒の量が少なく、触媒の機能が十分発揮されず、触媒層が厚いと、金属に比べ導電性が低い触媒の割合が増えて導電性の低下を招く。このため、触媒層76の厚さを適切な厚さに設定しなければ、電池特性は低下してしまう。混合粒子70においては、触媒としてのビスマスルテニウム複合酸化物により形成される触媒層76の厚さは、コア粒子としてのNi粒子と、ビスマスルテニウム複合酸化物との重量の比率に依存する。このため、良好な厚さのビスマスルテニウム複合酸化物の触媒層76を得るには、ビスマスルテニウム複合酸化物を5重量%以上、30重量%以下に設定し、Ni粒子を60質量%以上に設定することが好ましい。
なお、触媒粒子74による被覆厚みは、5~10粒子層程度とすることが好ましい。
【0061】
次に、結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させるとともに空気極16に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。
【0062】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、コア粒子としてのNi粒子と、触媒粒子(ビスマスルテニウム複合酸化物粒子)とが組み合わされた混合粒子の集合体である混合粉末を準備する。更に、結着剤及び水を準備する。そして、これら混合粉末、結着剤及び水を混錬して空気極合剤ペーストを調製する。
【0063】
得られた空気極合剤ペーストは、例えば、ローラプレスを施すことによりシート状に成形され、それにより空気極合剤シートを得る。その後、空気極合剤シートは、ニッケルメッシュ(空気極基材)にプレス圧着される。これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0064】
次いで、得られた中間製品は、焼成炉に投入され焼成処理が行われる。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、300℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、20分以下の間保持する。その後、中間製品を焼成炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された中間製品が得られる。この焼成処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。空気極合剤は、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子と組み合わされたNi粒子等を含んでいるので、斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。
【0065】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0066】
形成された電極群10は、アルカリ電解液とともに容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル製の箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、
図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。
【0067】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0068】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0069】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0070】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
【0071】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
【0072】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0073】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0074】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、
図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が満たされる。このようにして、電池2が形成される。
【0075】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0076】
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0077】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、
図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0078】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気極触媒の合成
第1ステップとして、Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを所定量準備し、これらBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oが同じ濃度となるように75℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。そして、この混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を加えた。この際の浴温度は75℃とし、酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成した。このペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で12時間保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物(前駆体)を得た。
【0079】
第2ステップとして、得られた乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で500℃に加熱し、3時間保持する焼成処理を施し、焼成物を得た。得られた焼成物を70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で乾燥させた。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物を得た。
【0080】
得られたビスマスルテニウム複合酸化物を、乳鉢を用いて粉砕することにより所定粒子径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を得た。このビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0081】
第3ステップとして、濃度が5mol/Lに調整した硝酸水溶液と、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末とをスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌した。このとき、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末1gに対して、硝酸水溶液が20mLの割合となるように硝酸水溶液の量を調整した。
【0082】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、70℃に加熱したイオン交換水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、25℃の室温下で減圧容器に入れ、減圧環境下で12時間保持することにより乾燥を行った。
【0083】
以上のようにして、硝酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2Ru2O7)の粉末を得た。ここで、得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末のうち、一部は分析用試料として取り分けておき、残りを混合粒子の製造用とした。
【0084】
(2)混合粒子の製造
Ni粒子の集合体であるNi粉末を準備した。このNi粒子は、カーボニル法により製造したフィラメント状のNi粒子であり、平均粒径が10~20μmであった。
【0085】
上記のNi粉末を35g、及び混合粒子の製造用のビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を10g準備し、これらを機械的撹拌混合機(ホソカワミクロン社製ノビルタミニ)にて混合した。このとき、撹拌羽の回転数は4000rpmで、400Wの負荷にて5分間の混合処理を施した。この混合処理における負荷量は33.3Whであった。この混合処理により、Ni粒子の表面にビスマスルテニウム複合酸化物の粒子が担持された混合粒子を形成し、この混合粒子の集合体である混合粉末を得た。ここで、得られた混合粉末のうち、一部は分析用試料として取り分けておき、残りを空気極の製造用とした。なお、得られた混合粉末につき、乾式粒度計にて粒径を測定した結果、体積平均粒径は9.0μmであった。
【0086】
(3)空気極の製造
上記のようにして得られた混合粉末に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を混合した。このとき、混合粉末は100重量部、PTFEディスパージョンは11重量部、イオン交換水は30重量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。
【0087】
得られた空気極合剤のペーストをローラプレスによりシート状に成形し、このシート状の空気極合剤のペーストをメッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。
【0088】
ニッケルメッシュに圧着された空気極合剤のペーストを窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で13分間保持して焼成した。焼成された空気極合剤のシートは、縦40mm、横40mmに裁断された。これにより空気極16を得た。この空気極は、厚さが0.23mm、混合粉末の量は0.32gであった。
【0089】
(4)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0090】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0091】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0092】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0重量部、カーボンブラックの粉末0.5重量部、水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0093】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約250g/m2、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、体積当たりの合金量を高めた後、縦40mm、横40mmに切断して負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.25mmであった。
【0094】
次に、得られた負極12に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極12の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極12とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、ニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
【0095】
この単極セルに対し、初回の充放電操作として、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.1Itで14時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。次いで、2回目の充放電操作として、0.5Itで2.8時間の充電を行った後に、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させる操作を行った。3回目以降は、上記した2回目の充放電操作を1サイクルとする充放電サイクルを複数回行うことにより負極12の活性化処理を行った。また、各充放電サイクルにおいては単極セルの容量を求めた。そして、得られた容量の最大値を負極の容量とした。なお、負極の容量は640mAhであった。
【0096】
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極12を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極12を得た。
【0097】
(5)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0098】
次いで、容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0099】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0100】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐように蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0101】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0102】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、
図1に示すような電池2を製造した。
【0103】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0104】
(比較例1)
混合粒子の製造の際に、機械的撹拌混合機を使わずに、乳鉢を用いて10分間混合したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、この乳鉢による混合の場合の負荷量は、実施例1や後述する比較例2の場合に比べて非常に低い。
【0105】
(比較例2)
混合粒子の製造の際に、撹拌羽の回転数を7800rpmで、600Wの負荷にて5分間の混合処理を施したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、この比較例2における混合処理の負荷量は50Whであった。なお、得られた混合粉末につき、乾式粒度計にて粒径を測定した結果、体積平均粒径は7.6μmであった。
【0106】
2.混合粒子及び空気水素二次電池の評価
(1)混合粒子の形態
実施例1、比較例1、2の混合粉末の分析用試料をカーボンテープ上に固定し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、加速電圧15keVにて10000倍まで拡大して粒子形態を観察した。得られた実施例1、比較例1、2に係る混合粒子のSEM画像をそれぞれ
図4~6に示した。
【0107】
更に、実施例1、比較例1、2の混合粉末の分析用試料を樹脂中に埋設し、当該樹脂を硬化させた後、機械的に切断し、混合粒子の断面を表出させた。そして、表出した混合粒子の断面にイオンビームを照射して平滑処理を施した後、当該断面について、SEMを用いて、加速電圧15keVにて30000倍まで拡大して観察した。得られた実施例1、比較例1、2に係る混合粒子の断面のSEM画像をそれぞれ
図7~9に示した。
【0108】
(2)混合粒子の組成分析
混合粉末の分析用試料について、走査型電子顕微鏡で観察するとともにエネルギー分散型X線分光法により元素分析を行う、いわゆるSEM/EDSにより組成分析を行った。このときの加速電圧は15keVであった。詳しくは、平均粒径に近い粒子を10個選別し、分析対象とした。これら分析対象に電子線をスポット照射した。その際に生じる特性X線を分光することで、各スポット点におけるNi、Bi及びRuの原子比率を算出し、これら元素の元素濃度を求めた。そして、Niの元素濃度をAとし、BiとRuの合計の元素濃度をBとした場合に、A/Bで表される組成比Cを、各スポット点1~10について求めた。その結果を表1に示した。この組成比Cは、Niと(Bi+Ru)との割合を表し、Ni粒子の表面に存在するBi2Ru2O7の割合を反映している。このCの値が小さいほどNi粒子はBi2Ru2O7の触媒で覆われており、逆にこのCの値が大きいほどNi粒子は露出していることを表している。
【0109】
次いで、スポット点1~10のCの値の平均値Cavを求め、前記したCの値とCavの値から標準偏差σを求めた。更に、標準偏差σの値を平均値Cavで除して変動係数Dを求めた。これらCav、σ、Dの値についても、表1に併せて示した。
【0110】
【0111】
(3)放電試験
実施例1、比較例1、2の空気水素二次電池については、空気極端子58及び負極端子60を介して、0.5Itで1.2時間充電し、0.5Itで電池電圧が0.4Vになるまで放電することを1サイクルとし、斯かる充放電を3サイクル繰り返した。このとき、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、53mL/分の割合で常に空気を供給し続けた。なお、負極容量(640mAh)を1Itとした。
【0112】
そして、各サイクルにおいて、放電容量と電圧とを測定した。
ここで、放電容量の値が全放電容量の半分の値になった時の電池電圧を中間電圧として測定した。得られた中間電圧のうち3サイクル時の値を放電中間電圧として表2に示した。この放電中間電圧の値が高いほど電池特性に優れていることを示す。
【0113】
【0114】
(4)考察
図4~6に示す混合粒子のSEM画像より、比較例1の混合粒子は表面に50nm程度の粒子が付着した凹凸のある表面を形成しているが、比較例2では平滑な表面を形成していることがわかる。実施例1は、比較例1と比較例2の中間的な表面形状を形成している。
【0115】
図7~9には混合粒子の断面のSEM画像を示す。粒子中央部の一様な部分はNi粒子であり、その周囲に存在する小さな粒子が触媒粒子である。実施例1、比較例1、2ともに、Ni粒子を触媒粒子が被覆していることが確認できる。しかし、比較例1ではNi粒子に担持されておらず遊離した触媒粒子やNi表面の露出部が観察される。実施例1ではNi粒子を被覆している触媒粒子同士が一部圧着しているが、遊離した触媒粒子は観察されない。また、より強い負荷をかけた比較例2では、さらに触媒粒子同士の圧着が進行し、密な表面層を形成している。なお、
図7~9において、Ni粒子の部分には「導電性担体」との記載を付し、触媒粒子が存在する部分には、「触媒」との記載を付した。
【0116】
表1には、SEM-EDSを用いて平均粒径に近い粒子を選択し電子線をスポット照射した際の、各スポット点(粒子)における組成比をまとめた。ここでは、組成比C=導電性担体の成分(Ni)/触媒の成分(Bi+Ru)を計算することで、各スポットにおける組成(混合状態)を評価した。また、表1には組成比Cのデータを基に、組成比の平均値Cav、標準偏差σ、変動係数Dを示している。この結果より、同じ比率で混合したにも関わらず、Cavは比較例2が最も低く、次いで実施例1、比較例1の順に高くなる。これは、高い負荷をかけたことで触媒層がつぶれて薄くなり、Niの特性X線が表面に出てきやすくなったことが一因と推測される。σは実施例1が最も小さく、スポット(粒子)間の組成のばらつきが小さいのに対し、比較例2、比較例1の順に高くなっている。比較例1は、
図5、8で示すように、遊離した触媒粒子やNi粒子の表面の露出があるため、ばらつきが大きくなっている。比較例2は、触媒粒子の凝集物やNi粒子の表面の露出は見られないが、触媒層の厚みのばらつきが大きくなったと考えられる。変動係数Dはσ/Cavで表される数値で、Cavが異なる集団のばらつきの比較に有用であり、実施例1がばらつきは小さいことが明らかである。
【0117】
表2には、放電中間電圧をまとめた。実施例1が最も放電電圧が高く電池特性が良好であり、次いで比較例1、比較例2の順に低くなる。このことから、触媒粒子と導電性担体(Ni粒子)との混合の仕方が電池特性に大きく影響することが明らかである。これは導電性に劣る金属酸化物触媒を有効に利用するには、導電性担体である金属の表面に、薄く均一に触媒を担持しなければ、触媒を有効利用できないためである。実施例1は、触媒層の厚みが均一であり、特性が良好であると考えられる。さらに、比較例2に示すように、混合時の負荷が高すぎると、触媒層の厚みが逆にばらつくことで特性を落とすと考えられる。これは高すぎる負荷により触媒層が局所的につぶれ過ぎてしまうことや、厚くなり過ぎた密な表面層が剥離する現象などが原因と考えられる。
【0118】
本実施例では、カーボニル法により合成したフィラメント形状のNi粒子を用いており、Ni粒子の凹凸により触媒の保持が容易であり、Ni表面に触媒層を形成するのに優位である。しかしながら、比較例1のように、負荷が弱ければ触媒は脱落しやすく、担持は不十分となることがわかる。
【0119】
組成の分析方法としては、本実施例で用いたSEM以外にもEPDM(電子プローブマイクロアナライザー)が有用である。これらを用いることで、個々のNi粒子および混合後の粒子を分離解析できる1000倍以上の倍率で観察することができる。なお、1000倍未満の過小な倍率での観察では、本発明のようなミクロな範囲における組成を評価することが難しくなる。
【0120】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、空気二次電池用の空気極触媒としては、ビスマスルテニウム複合酸化物の他に、上記したパイロクロア型金属酸化物の組成を表す一般式において挙げた選択可能元素の酸化物が挙げられる。また、上記した実施形態及び実施例では、負極に水素吸蔵合金を用いる水素空気二次電池について説明したが、空気極での反応は、その他の空気二次電池と同様であるので、本発明は、水素空気二次電池に限定されるものではなく、負極に用いる金属として、Zn、Al、Mg、Liなどを用いた他の空気二次電池であっても構わない。これら他の空気二次電池に本発明を採用しても同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0121】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材
70 混合粒子
72 コア粒子
74 触媒粒子
76 触媒層