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特許7299454振動板またはダストキャップ並びにスピーカーユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】振動板またはダストキャップ並びにスピーカーユニット
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/14 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
H04R7/14 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018162233
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020036240
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】720009479
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 岳
(72)【発明者】
【氏名】吉村 創
(72)【発明者】
【氏名】雲 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】久本 禎俊
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-089330(JP,U)
【文献】特開2013-042441(JP,A)
【文献】特開2009-240501(JP,A)
【文献】特開2015-170881(JP,A)
【文献】特開昭63-261985(JP,A)
【文献】特開2007-221638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00- 7/26
H04R 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動電型のスピーカーユニットを構成する振動板またはダストキャップであって、
音波を放射する振動板部の少なくとも一方面に昆虫の翅を模した凹凸が形成され、
前記凹凸が、前記昆虫の実際の翅脈の形状を測定したデータ、または、前記昆虫の翅脈を模したボロノイ図のデータ、に基づいて形成されている、
振動板またはダストキャップ。
【請求項2】
前記凹凸が、所定の面積の同一の前記翅脈の形状を、前記振動板部に複数繰り返して配置して形成されている、
請求項1に記載の振動板またはダストキャップ。
【請求項3】
前記振動板部の前記凹凸における凸部の厚みt2が、前記凹凸における凹部の厚みt1とほぼ同じか、前記t1以上の厚みに形成されている、
請求項1または2に記載の振動板またはダストキャップ。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載の前記振動板と、
前記振動板の内径部に連結されるボイスコイルと、
前記振動板の外径部に連結されるエッジと、
前記エッジの外周端部が固定されるフレームと、
前記ボイスコイルの前記コイルが配置される磁気空隙を有して前記フレームに固定される磁気回路と、を少なくとも備える
スピーカーユニット。
【請求項5】
コーン形状の振動板と、
前記振動板の内径部に連結されるボイスコイルと、
前記振動板または前記ボイスコイルに連結する請求項1からのいずれかに記載の前記ダストキャップと、
前記振動板の外径部に連結されるエッジと、
前記エッジの外周端部が固定されるフレームと、
前記ボイスコイルの前記コイルが配置される磁気空隙を有して前記フレームに固定される磁気回路と、を少なくとも備える、
スピーカーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波を放射する振動板またはダストキャップ並びにこれを備えて構成される動電型のスピーカーユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
動電型のスピーカーユニットにおいては、円筒状のボイスコイルボビンの円筒側面に、スピーカー振動板(特に、コーン型振動板)の内周端を接着剤で接着する組立構造が多用されている。動電型スピーカーでは、ボイスコイルボビンに巻回されるコイルに音声信号電流が供給される。コーン型の振動板の外径部にはエッジが連結し、エッジの外周端側は磁気回路と連結するフレームに固定され、ボイスコイルのコイルは磁気回路の磁気空隙に配置される。ダストキャップは、ボイスコイルボビン並びに磁気回路の磁気空隙に異物が入るのを防ぐように取り付けられる。その結果、振動板およびボイスコイルが振動すると、振動板およびダストキャップが音波を放射する。
【0003】
振動板およびダストキャップの形状は、動電型のスピーカーユニットが再生する音声の品質並びに音圧周波数特性に影響を与える。振動板およびダストキャップは、軽さと構造強度の両立を必要とする。従来のスピーカーにおいては、このコーン型振動板の形状、または、ダストキャップの形状に工夫を施して、音圧周波数特性の平坦化を含めた音響特性の改善を図ろうとするものがある。円形のコーン型振動板では、振動系の構成が中心軸に対して対称性がよくなり、その結果、ローリング等の動作不良が発生しにくくなる利点がある一方で、コーン型振動板の剛性が低くなると、円形であるが故に分割振動モードの影響が顕著に現れて音圧周波数特性上のピーク・ディップが大きくなり、再生音質の低下を招く場合があるという問題がある。
【0004】
例えば、従来には、コーン形状の振動板の変曲部に沿って振動板の前方もしくは後方に突出する垂直断面がV字状の突状リブを周方向接線と交差する方向に、または、周方向に不規則に複数分布するように設けたことを特徴とするスピーカー用振動板がある(特許文献1、図2図3)。振動板部の剛性が、周方向に対して不均一となって著しい分割共振が発生せず、周波数特性の平坦化が図られる。
【0005】
一方で、従来には、昆虫の形状を似せて厚さ1000μm以下で多結晶Si、単結晶Si又はSiCからなるウエハ状のシリコン基板よりなり、昆虫の翅を模した外形を有するとともに、表面をエッチング処理して前記昆虫の翅脈を模した凹凸模様を形成してなることを特徴とする昆虫型飛翔玩具の翼体がある(特許文献2)。
【0006】
昆虫の翅は、背中の外骨格が薄く伸びたもので、キチン質でできており、飛行に適するように非常に軽く、必要な強度を有する。昆虫の翅は、膜状に広がった翅を支えるために、翅脈という太くなったキチン質の筋が葉脈のように翅に広がる。昆虫の翅脈は、羽化時に体液を充填して翅を展開できる構造になっている。例えば、従来には、トンボの翅に見られる翅脈の幾何学形成に学び建築への応用可能性を考察した研究がある(非特許文献1)。また、昆虫のトンボの翅の翅脈には、ボロノイ構造が現れる(非特許文献2)。
【0007】
軽さと強度の両立を必要とする点で、昆虫の翅とスピーカーの振動板およびダストキャップは共通する。ただし、従来には、音波を放射する振動板またはダストキャップ並びにスピーカーユニットにおいて、昆虫の翅の形状や模様等を模したものは、存在しない。
【0008】
【文献】実開昭62-26997号公報
【文献】特許第4968139号公報
【文献】工藤俊輔、宇野求、田中陽輔、”トンボの翅脈の形態学的特性とその建築的応用可能性”、(日本建築学会大会学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集 巻:2012 ページ:5324)[平成30年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/unolab/thesis/2011/kudo.pdf〉
【文献】中河 友里 濱野 彩音 山田 瑞、”トンボの翅脈にはなぜボロノイ構造が現れるのか”、(広島大学附属高等校)、[平成30年8月21日検索]、インターネット〈URL:https://www.musashino-u.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00004627.pdf&n=%E6%9C%80%E5%84%AA%E7%A7%80%E8%B3%9E_%E5%BA%83%E5%B3%B6%E5%A4%A7%E9%99%84%E5%B1%9E%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、音波を放射する振動板およびダストキャップ並びにこれを備えて構成される動電型のスピーカーユニットに関し、分割振動モードの影響が現れて音圧周波数特性上のピーク・ディップが大きくなることを防いで、再生音質に優れるスピーカーユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の振動板またはダストキャップは、動電型のスピーカーユニットを構成する振動板またはダストキャップであって、音波を放射する振動板部の少なくとも一方面に昆虫の翅を模した凹凸が形成されている。
【0011】
好ましくは、本発明の振動板またはダストキャップは、凹凸が、昆虫の実際の翅脈の形状を測定したデータ、または、昆虫の翅脈を模したボロノイ図のデータ、に基づいて形成されている。
【0012】
また、好ましくは、本発明の振動板またはダストキャップは、凹凸が、所定の面積の同一の翅脈の形状を、振動板部に複数繰り返して配置して形成されている。
【0013】
また、好ましくは、本発明の振動板またはダストキャップは、振動板部の凹凸における凸部の厚みt2が、凹凸における凹部の厚みt1とほぼ同じか、t1以上の厚みに形成されている。
【0014】
また、好ましくは、本発明の振動板またはダストキャップは、振動板部の凹凸における凸部が、翅脈を模した中空空間を内部に形成している。
【0015】
また、本発明のスピーカーユニットは、上記の振動板と、振動板の内径部に連結されるボイスコイルと、振動板の外径部に連結されるエッジと、エッジの外周端部が固定されるフレームと、ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有してフレームに固定される磁気回路と、を少なくとも備える。
【0016】
また、本発明のスピーカーユニットは、コーン形状の振動板と、振動板の内径部に連結されるボイスコイルと、振動板またはボイスコイルに連結する上記のダストキャップと、振動板の外径部に連結されるエッジと、エッジの外周端部が固定されるフレームと、ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有してフレームに固定される磁気回路と、を少なくとも備える。
【0017】
以下、本発明の作用について説明する。
【0018】
本発明の振動板またはダストキャップは、動電型のスピーカーユニットを構成する振動板またはダストキャップであって、音波を放射する振動板部の少なくとも一方面に昆虫の翅を模した凹凸が形成されている。ここで、凹凸は、昆虫の実際の翅脈の形状を測定したデータ、または、昆虫の翅脈を模したボロノイ図のデータ、に基づいて形成されているのが好ましい。自然界に存在する昆虫の翅は、昆虫が飛行するのに必要な強度と軽さを両立した構造物であり、その凹凸を模した構造は、振動板またはダストキャップにおいても同様の期待される効果を発揮することができる。
【0019】
本発明のスピーカーユニットは、この振動板またはダストキャップと、振動板のエッジ部の外周端部が固定されるフレームと、ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有してフレームに固定される磁気回路と、を備える。凹凸は、振動板またはダストキャップの振動板部の剛性を高めるので、分割振動モードの影響により出現しやすい音圧周波数特性上のピーク・ディップを抑制し、再生音質に優れるスピーカーユニットを提供することができる。
【0020】
振動板またはダストキャップの振動板部の凹凸は、所定の面積の同一の翅脈の形状を、振動板部に複数繰り返して配置して形成してもよい。トンボなどの昆虫の細長い翅を模した凹凸であっても、広い円形の面積を有する振動板またはダストキャップに採用することができる。
【0021】
振動板またはダストキャップの振動板部の凹凸は、その凸部の厚みt2が、凹凸における凹部の厚みt1とほぼ同じか、t1以上の厚みに形成されているのが好ましい。また、振動板部の凹凸における凸部が、翅脈を模した中空空間を内部に形成していてもよい。振動板部の凹凸を構成する構造を、昆虫の翅に更に模したものに近づけられるので、より再生音質に優れるスピーカーユニットを提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の動板およびダストキャップ並びにこれを備えて構成される動電型のスピーカーユニットは、分割振動モードの影響が現れて音圧周波数特性上のピーク・ディップが大きくなることを防いで、再生音質に優れるスピーカーユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る動電型のスピーカーユニットの外観図である。
図2】昆虫の翅の翅脈/凹凸を説明する図である。
図3】本発明の一実施形態に係る振動板の形状を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るダストキャップの形状を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る振動板およびダストキャップを用いた動電型のスピーカーユニット、並びに比較例のスピーカーユニットの音圧周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態による振動板またはダストキャップ並びにスピーカーユニットについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の好ましい実施形態による動電型のスピーカーユニット1について説明する図である。具体的には、図1は、コーン型振動板並びにダストキャップを備えるスピーカーユニット1の外観を示す前面側からの斜視図である。なお、スピーカーユニット1の形態は、本実施例の場合に限定されない。また、本発明の説明に不要なスピーカーユニット1の構成については、図示及び説明を省略する。
【0026】
本実施例のスピーカーユニット1は、スピーカーシステム用または車両取付用の呼び口径が16cmの動電型スピーカーである。スピーカーユニット1は、スピーカーシステムを構成するキャビネット又は車両のボディ/ドア等に取り付けられて、音声を再生するスピーカーを構成する。ただし、このスピーカーユニット1を用いるスピーカーシステム等の具体的な形態については、図示及び説明を省略する。
【0027】
スピーカーユニット1は、金属材料でバスケット状に形成されるフレーム2と、フレーム2に固定される磁気回路3と、紙質材料を抄紙して形成するコーン形状の振動板10と、振動板10の内周側に連結してそのコイルが(図示しない)磁気回路3の(図示しない)磁気空隙に配置される(図示しない)ボイスコイル4と、ボイスコイル4の(図示しない)ボビンに連結して振動可能に支持する(図示しない)ダンパー5と、振動板10の外周側に連結して振動板10を振動可能に支持するエッジ9と、ボイスコイル4の(図示しない)ボビンの上端側を塞ぐように取り付けられるダストキャップ20と、を備える。なお、ボイスコイル4、並びに、ダンパー5は、図1では振動板10の背面側に位置して隠れることになるので、外観視されていない。
【0028】
したがって、スピーカーユニット1では、強い直流磁界が発生する磁気回路3の磁気空隙中に配置されるボイスコイル4のコイルに音声信号電流が供給されると、図示するZ軸方向に駆動力が発生し、ボイスコイル4ならびに振動板10並びにダストキャップ20から構成されるスピーカー振動系がZ軸方向に振動する。つまり、スピーカー振動系は、ダンパー5およびエッジ9によって振動可能に支持されており、その結果、振動板10並びにダストキャップ20の前後に存在する空気に圧力変化を生じ、音声信号電流を音波(音声)に変換する。
【0029】
図2は、昆虫の翅の翅脈/凹凸を説明する図である。具体的には、図2は、あるトンボの翅の一部拡大写真であり、光源を翅の裏側に置いているので、翅を透過した光により翅脈の筋が濃い影の線として見えている。昆虫の翅において、翅脈に囲まれた一つ一つの領域には薄い膜が形成されており、凹部としての膜の厚みは、凸部としての翅脈の厚みよりも薄い構造となっている。自然の昆虫の翅の翅脈の広がり方は、その種類/個体によって様々であるが、図2のような凹凸が出現する点では共通する。
【0030】
昆虫の翅の凹凸は、昆虫の実際の翅脈の形状を測定して得たデータにより模すことができる。例えば、図2のような写真から翅脈の交点の位置を2次元で特定してデータ化し、これらの交点を結ぶことで実際の翅脈を模した凹凸が再現できる。実際の翅脈では、翅脈の交点の間の距離が様々に分散する。翅脈は、大きさおよび形状が様々に異なる多数の多角形(主に三角形または四角形または五角形)が連なるような凹凸を形成する。翅脈の凹凸は、昆虫が飛行する翅として必要な強度と軽さを両立した構造を実現している。
【0031】
ただし、振動板またはダストキャップに利用する凹凸の寸法は、実際の昆虫の翅脈の寸法に一致させるように限ることなく、何倍かに拡大して利用するのが現実的である。昆虫の翅の実際の面積は小さいので、凹凸の大きさの相対比を保ったまま拡大して利用するのが適当である。また、所定の面積の同一の翅脈の形状を、振動板またはダストキャップの振動板部を補強する凹凸として、複数繰り返して配置して形成してもよい。なお、昆虫の翅の翅脈が形成する凹凸は、翅脈の部分を厚みが厚い凸部として、翅脈に囲まれた膜の部分を厚みが薄い凹部として利用すればよく、厚み寸法まで正確に模さなくてもよい。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態に係る振動板10の形状を示す図である。具体的には、図3(b)は振動板10の平面図であり、図3(a)は振動板10のA-A断面図であり、図3(c)は振動板10の側面図である。コーン形状の振動板10は、円孔を規定する内径部11と、内径部11と同心円となる円形の縁部を規定する外径部12と、内径部11と外径部12を結ぶ略円錐面状の曲面を有する振動板部13と、を有する。
【0033】
本実施例の振動板10の振動板部13の曲面の一方面には、昆虫の翅を模した凹凸が形成されている。この凹凸は、昆虫の翅の凹凸と同様に、厚みの薄い凹部14(厚みt1)と、厚みが厚い凸部15(厚みt2(>t1))を含む。本実施例の振動板10の場合には、図3(b)に示すように、中心Oからの角度72°の略扇形の領域Sの凹凸を、5つ周方向に繰り返すように配置して、全周にわたる凹凸を実現している。したがって、凹部14および凸部15は、翅の翅脈と同様のリブ状の構造を振動板部13の略円錐面状の曲面に形成する。凹部14および凸部15が形成する凹凸は、振動板部13の剛性を高めるように作用する。
【0034】
なお、本実施例の振動板10では、振動板部13の曲面の一方面にのみ凹凸が出現するように構成しているが、両面に凹凸が出現してもよい。その場合には、振動板部13の曲面の一方面での凸部15に対応させて、他方面に細い凹部を形成して翅脈を形作るようにして、凸部15の厚みt2を広い凹部14の部分の厚みt1とほぼ同じようにしてもよい。また、振動板部13の曲面の両面に、凹部14の厚みt1よりも厚く突出する凸部15をそれぞれ設けてもよい。また、振動板部13の曲面において、凹凸を全体に設けるだけでなく、一部のみに設けてもよい。
【0035】
図4は、本発明の一実施形態に係るダストキャップ20の形状を示す図である。具体的には、図4(b)はダストキャップ20の平面図であり、図4(a)はダストキャップ20のA-A断面図であり、図4(c)はダストキャップ20の側面図である。ダストキャップ20は、円形の縁部を規定する外径部22と、略ドーム状の振動板部23と、を有する。
【0036】
本実施例のダストキャップ20の振動板部23の曲面の一方面には、昆虫の翅を模した凹凸が形成されている。この凹凸は、昆虫の翅の凹凸と同様に、厚みの薄い凹部24(厚みt3)と、厚みが厚い凸部25(厚みt4(>t3))を含む。本実施例のダストキャップ20の場合には、振動板10に比べて面積が狭いので、昆虫の翅を模した凹凸をそのまま一面に配置している。したがって、凹部24および凸部25は、翅の翅脈と同様のリブ状の構造を振動板部23のドーム状の曲面に形成する。凹部24および凸部25が形成する凹凸は、振動板部23の剛性を高めるように作用する。
【0037】
なお、本実施例のダストキャップ20では、振動板部23の曲面の一方面にのみ凹凸が出現するように構成しているが、両面に凹凸が出現してもよい。その場合には、振動板部23の曲面の一方面での凸部25に対応させて、他方面に細い凹部を形成して翅脈を形作るようにして、凸部25の厚みt4を広い凹部24の部分の厚みt3とほぼ同じようにしてもよい。また、振動板部23の曲面の両面に、凹部24の厚みt3よりも厚く突出する凸部25をそれぞれ設けてもよい。また、振動板部23の曲面において、凹凸を全体に設けるだけでなく、一部のみに設けてもよい。
【0038】
図5は、本実施例の振動板10およびダストキャップ20を用いた動電型のスピーカーユニット1、並びに(図示しない)比較例のスピーカーユニット100の音圧周波数特性を示すグラフである。比較例のスピーカーユニット100は、昆虫の翅を模した凹凸が形成されていない(図示しない)比較例の振動板およびダストキャップを備える点で相違するので、説明および図示を省略する。
【0039】
図5のグラフに示すように、振動板10およびダストキャップ20を用いる本実施例のスピーカーユニット1において、振動板10およびダストキャップ20の凹凸は、振動板部13および振動板部23の剛性をそれぞれ高めるので、分割振動モードの影響により出現しやすい音圧周波数特性上のピーク・ディップを抑制し、再生音質に優れるものになる。一方で、凹凸を有さない比較例の振動板およびダストキャップを備える比較例のスピーカーユニット100では、振動板部よび振動板部23の剛性が劣るので、分割振動モードの影響が音圧周波数特性上のピーク・ディップとして出現しやすくなる。
【0040】
なお、本実施例の振動板10およびダストキャップ20の凹凸は、実際のトンボの翅脈の形状を測定したデータに基づいて形成されている。ただし、凹凸は、トンボに限らず、セミ、蝶、カブトムシ、テントウムシ、などの他の昆虫の翅を模してもよい。
【0041】
また、昆虫の翅の凹凸がボロノイ図と類似性を有するという考察に基づいて、作図したボロノイ図のデータから昆虫の翅脈を模した凹凸を作成することができる。ボロノイ図は、平面状に幾つかの点(母点)をとり、これらの点と点を線で結ぶように作図し、出来た三角形の各辺の垂直二等分線をつなぐように作図し、最初に作図した線を消して得られる図である。ボロノイ図は、平面上に配置された母点を、他のどの母点に最も近いかによって分割して得られる図であると言える。したがって、ボロノイ図でつないだ垂直二等分線を用いて、昆虫の翅脈に模した凹凸を描くことができる。凹凸は、昆虫の翅脈を模したボロノイ図のデータ、に基づいて形成されていてもよい。
【0042】
昆虫の翅の凹凸を形成する翅脈には、翅を伸ばす際にのみ体液が流れて、翅が形成された後は乾くので、体液が流れた翅脈は中空になる。これは、翅として必要な強度と軽さを両立した構造に寄与している。したがって、本発明の昆虫の翅を模した凹凸を形成する振動板10またはダストキャップ20では、昆虫の翅脈を模した中空空間を内部に形成してもよい。
【0043】
例えば、振動板部13の昆虫の翅を模した凹凸において、厚みが厚い凸部15の内部の振動板材料の密度が、厚みの薄い凹部14の振動板材料の密度よりも低くなるようにしてもよい。また、表側材料と裏側材料を貼り合わせて形成するような振動板において、厚みの薄い凹部14を貼り合わせて形成し、厚みが厚い凸部15の内部に、表側材料と裏側材料とが貼り合わせられていない中空空間を設けるようにしてもよい。
【0044】
また、実施例の振動板10またはダストキャップ20を構成する材料は、樹脂材料であってもよい。例えば、振動板10またはダストキャップ20を構成する樹脂材料は、PETのフィルム状部材であってもよい。振動板10またはダストキャップ20を形成する材料は、例えば、他のPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PI(ポリイミド)、PAR(ポリアリレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、等の軽量な樹脂材料のフィルム、もしくは、シートを熱プレスして形成したものであってもよく、また、エラストマーのシートをプレス成形したものであってもよい。また、振動板10またはダストキャップ20を形成する材料は、セルロース等の天然繊維や合成繊維から構成された不織布、または、紙材であってもよい。
【0045】
また、本発明の振動板10は、ダストキャップ20と同様に音波を放射するドーム形状の振動板であってもよい。また、振動板の口径、形状を問わず、本発明の振動板は、ドーム形状の振動板とコーン形状の振動板を組み合わせるようなバランスドーム形状の振動板であってもよい。もちろん、コーン形状の振動板であって、ダストキャップ部分を一体に形成している振動板であってもよい。また、ダストキャップは、振動板としてのサブコーンを備えるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の振動板は、図示するような動電型のスピーカーユニットに限らず、ダンパーを備えずにスピーカー振動系を構成するスピーカーユニットであってもよい。また、動電型のスピーカーユニットに限らず、圧電型のスピーカーユニットにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 スピーカーユニット
2 フレーム
3 磁気回路
4 ボイスコイル
9 エッジ
10 振動板
11 内径部
12 外径部
13 振動板部
14 凹部
15 凸部
20 ダストキャップ
22 外径部
23 振動板部
24 凹部
25 凸部
図1
図2
図3
図4
図5