IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7299464方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法及び巻鉄心変圧器の製造方法
<>
  • 特許-方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法及び巻鉄心変圧器の製造方法 図1
  • 特許-方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法及び巻鉄心変圧器の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法及び巻鉄心変圧器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230621BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230621BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230621BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20230621BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20230621BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
H01F1/147 183
H01F41/02 A
H01F27/245 155
C21D8/12 B
C21D9/46 501A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018187873
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020056080
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】茂木 尚
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史明
(72)【発明者】
【氏名】新井 聡
(72)【発明者】
【氏名】溝上 雅人
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-052228(JP,A)
【文献】特開2014-086597(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110217(WO,A1)
【文献】特開平08-269571(JP,A)
【文献】特開2014-196536(JP,A)
【文献】特開2015-086414(JP,A)
【文献】特開2003-027139(JP,A)
【文献】特開2011-155079(JP,A)
【文献】特開2015-071815(JP,A)
【文献】特開2012-036442(JP,A)
【文献】特開2012-012666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/147
H01F 27/245
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延方向に280mmに切り出した鋼片を、圧延面内における圧延方向と垂直な方向が鉛直方向と一致するように前記鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、前記鋼片の圧延方向の他端における板厚方向の変位量が13mm以上30mm未満である反りを有し、
巻鉄心変圧器に用いられる、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板。
【請求項2】
圧延方向に280mmに切り出した鋼片を、圧延面内における圧延方向と垂直な方向が鉛直方向と一致するように前記鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、前記鋼片の圧延方向の他端における板厚方向の変位量が13mm以上30mm未満である反りを有し、
一方の面に、溝加工が施されている、方向性電磁鋼板。
【請求項3】
圧延方向に280mmに切り出した鋼片を、圧延面内における圧延方向と垂直な方向が鉛直方向と一致するように前記鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、前記鋼片の圧延方向の他端における板厚方向の変位量が20mm以上30mm未満である反りを有する、方向性電磁鋼板。
【請求項4】
一方の面に、線状の熱ひずみが導入されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
板厚が、0.18mm以上0.35mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心の製造方法。
【請求項7】
請求項2~5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心変圧器の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心変圧器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法及び巻鉄心変圧器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板の用途の一つである変圧器(トランス)には、省エネルギー化、周辺環境への配慮から、低鉄損、低騒音が求められている。そのため、近年、低鉄損及び騒音特性に優れる方向性電磁鋼板の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋼板表面に張力付与型の絶縁被膜を備え、鋼板の片面に歪みを導入して磁区構造を変化させた方向性電磁鋼板であって、歪み導入処理前における張力付与型絶縁被膜の鋼板面に対する付与張力が所定の値の範囲にあり、かつ歪み導入処理後における歪み導入面の鋼板反り量が1mm以上10mm以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、鋼板の表裏面にフォルステライト被膜および張力コーティングを備える方向性電磁鋼板に、線状の熱歪みを導入する磁区細分化処理が施された方向性電磁鋼板であって、該鋼板の圧延方向の反り量が前記歪みの導入面を内側とする反り面の曲率半径が600mm以上6000mm以下であり、かつ前記圧延方向と直角方向の反り量が前記歪みの導入面を内側とする反り面の曲率半径で2000mm以上であることを特徴とする方向性電磁鋼板が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献3には、表面にフォルステライト被膜および絶縁コーティングを備えた方向性電磁鋼板であって、上記方向性電磁鋼板の磁歪特性が、所定の条件を満足し、前記フォルステライト被膜と前記絶縁コーティングの合計張力の表裏差が0.5MPa未満であって、前記フォルステライト被膜の張力の表裏差が0.5MPa以上であることを特徴とする方向性電磁鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-52228号公報
【文献】国際公開第2013/99160号
【文献】国際公開第2016/125504号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、騒音は小さいほど好ましく、従来の方向性電磁鋼板には未だ改善の余地がある。そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、騒音特性に優れた、方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法、及び巻鉄心変圧器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決のため、本発明者らは、鋭意検討し、方向性電磁鋼板の反りに着目した。従来、平坦で曲率が小さい方向性電磁鋼板ほど、変圧器の騒音特性が向上すると考えられていた。しかし、本発明者らは、巻鉄心変圧器においては、反りを有する方向性電磁鋼板を巻き回して巻鉄心を形成することで、巻鉄心における当該鋼板間の隙間が狭くなり、変圧器の騒音特性が向上することを見出し、さらに検討した結果、本発明に至った。
【0009】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 圧延方向に280mmに切り出した鋼片を、圧延面内における圧延方向と垂直な方向が鉛直方向と一致するように前記鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、前記鋼片の圧延方向の他端における板厚方向の変位量が13mm以上30mm未満である反りを有し、巻鉄心変圧器に用いられる、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板。
(2) 圧延方向に280mmに切り出した鋼片を、圧延面内における圧延方向と垂直な方向が鉛直方向と一致するように前記鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、前記鋼片の圧延方向の他端における板厚方向の変位量が13mm以上30mm未満である反りを有し、一方の面に、溝加工が施されている、方向性電磁鋼板。
(3) 圧延方向に280mmに切り出した鋼片を、圧延面内における圧延方向と垂直な方向が鉛直方向と一致するように前記鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、前記鋼片の圧延方向の他端における板厚方向の変位量が20mm以上30mm未満である反りを有する、方向性電磁鋼板。
) 一方の面に、線状の熱ひずみが導入されている、上記(1)~(3)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
) 板厚が、0.18mm以上0.35mm以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(6) 上記(2)~(5)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心の製造方法。
(7) 上記(2)~(5)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心変圧器の製造方法。
(8) 上記(1)に記載の巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心の製造方法。
(9) 上記(1)に記載の巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板を、前記反りに沿って巻き回す工程を含む、巻鉄心変圧器の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、騒音特性に優れた、方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法及び巻鉄心変圧器の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】方向性電磁鋼板の板厚方向の変位量の測定方法を説明するための模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る巻鉄心変圧器の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図中の各構成要素の比率、寸法は、実際の各構成要素の比率、寸法を表すものではない。
【0013】
<1.方向性電磁鋼板>
まず、図1を参照して、本実施形態に係る方向性電磁鋼板について説明する。図1は、方向性電磁鋼板の板厚方向の変位量の測定方法を説明するための模式図である。
【0014】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、熱間圧延及び冷間圧延がされた方向性電磁鋼板であり、図1に示すように、圧延方向に長さ280mmに切り出した鋼片を、圧延面内における圧延方向と垂直な方向が鉛直方向と一致するように前記鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、当該鋼片の圧延方向の他端における板厚方向の変位量w(反り量)が13mm以上30mm未満である反りを有する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板を巻き回して巻鉄心を形成することで、巻き回されて隣り合う方向性電磁鋼板の間の隙間を小さくすることができる。その結果、当該巻鉄心を用いて製造された変圧器の作動時の騒音を低減することが可能となる。本実施形態に係る方向性電磁鋼板の反り量は、好ましくは、13mm以上25mm以下であり、更に好ましくは、19mm以上23mm以下である。
【0015】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の厚みは、例えば、0.18mm以上0.35mm以下とすることができる。好ましくは、方向性電磁鋼板の厚みは、0.18mm以上0.27mm以下である。厚みを0.30mmより大きくすると鉄損が増大するため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の厚みは、0.27mm以下とすることが好ましい。厚みを0.20mm以上とすることで、製造工程において、反り量の制御を容易に行うことが可能となる。本実施形態に係る方向性電磁鋼板の厚みは、より好ましくは、0.23mm以上0.27mm以下である。
【0016】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、特に制限されるものではなく、公知の鋼成分からなる方向性電磁鋼板を用いることができる。このような方向性電磁鋼板として、例えば、質量%で2~7%のSiを少なくとも含有する方向性電磁鋼板を挙げることができる。鋼成分中のSi濃度を2%以上とすることで、所望の磁気特性を実現することが可能となる。一方、鋼成分中のSi濃度が7%超となる場合には、鋼板の脆性が低く、製造が困難となるため、鋼成分中のSi濃度は7%以下であることが好ましい。
【0017】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の表面は、絶縁処理が施されていることが好ましい。方向性電磁鋼板の表面に絶縁処理が施されていることで、方向性電磁鋼板を巻き回して形成した巻鉄心において、方向性電磁鋼板同士の間が絶縁されるため、板厚面内において渦電流が生じ難くなり、渦電流損を低減することが可能となる。その結果、鉄損を低減することが可能となる。例えば、方向性電磁鋼板の表面は、コロイダルシリカ及びリン酸塩を含有する絶縁コーティング液を用いて絶縁処理が施されていることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、既存の方向性電磁鋼板の製造工程に加えて、反り制御工程を経ることで製造される。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、例えば、所定の組成を有するスラブを熱延鋼板とする熱間圧延工程、熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程、冷延鋼板のひずみを除去して一次再結晶する一次再結晶焼鈍工程、Goss方位の結晶粒を優先的に再結晶させる二次再結晶焼鈍工程、及び反り量制御工程を経て製造される。方向性電磁鋼板の製造に使用されるスラブは、既存の方向性電磁鋼板の製造に使用されるスラブを用いることができる。また、熱間圧延工程、冷間圧延工程、一次再結晶焼鈍工程、及び二次再結晶焼鈍工程は、既存の方法で実施することができる。以下に、反り量制御工程について説明する。
【0019】
一般に、二次再結晶焼鈍工程ではコイル状の鋼板に対して焼鈍を行うため、二次再結晶焼鈍工程後の鋼板には、巻きぐせがついている。反り量制御工程では、二次焼鈍工程後の鋼板に対し、所定の熱処理が施されることで、巻ぐせが矯正されて方向性電磁鋼板の反り量が制御される。反り量制御工程では、二次再結晶焼鈍工程後に、一般に行われる平坦化焼鈍工程の焼鈍温度及び通板張力を変更して熱処理が行われる。
【0020】
反り量制御工程は、従来の二次再結晶焼鈍工程後に行われる平坦化焼鈍の温度より10℃~20℃程度低い温度で行われる。例えば、従来の平坦化焼鈍温度が850℃である場合、反り量制御工程における焼鈍温度は、830℃以上840℃以下とすることができる。反り量制御工程における焼鈍温度は、好ましくは、830℃以上837℃以下であり、さらに好ましくは、830℃以上835℃以下である。
【0021】
通板張力は、従来の二次再結晶焼鈍工程後に行われる平坦化焼鈍の通板張力より10%~20%程度小さい張力で行われる。例えば、従来の平坦化焼鈍における通板張力が7N/mmである場合、通板張力は、5.6N/mm以上6.3N/mm以下とすることができる。従来の通板張力より10%~20%程度小さい張力で通板することで、反り量制御工程後の方向性電磁鋼板の鋼片の反り量を、13mm以上30mm未満とすることができる。通板張力は、好ましくは、5.5N/mm以上6.5N/mm以下であり、さらに好ましくは、5.8N/mm以上6.2N/mm以下である。
【0022】
反り量制御工程を経ることで、方向性電磁鋼板の鋼片の反り量を13mm以上30mm未満とすることができる。当該方向性電磁鋼板を反りに沿って巻き回して製造される巻鉄心は、方向性電磁鋼板間の隙間が狭くなる。その結果、当該巻鉄心を用いた変圧器の騒音特性を向上させることが可能となる。
【0023】
<2.巻鉄心及び巻鉄心変圧器>
続いて、図2を参照して、本発明の一実施形態に係る巻鉄心及び巻鉄心変圧器について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る巻鉄心変圧器の一例を示す平面図である。なお、以降、巻鉄心変圧器を単に変圧器と呼称することもある。
【0024】
本実施形態に係る巻鉄心変圧器1は、反りを有する方向性電磁鋼板100が巻き回されて形成された巻鉄心10、巻鉄心10に巻き回された一次巻線20A及び二次巻線20Bを備える。
【0025】
巻鉄心10は、方向性電磁鋼板100が有する反りに沿って巻き回されて形成される。巻鉄心10の形状は、図示した角丸方形状に限られず、例えば、楕円形状、長円形状又は角丸方形状とすることができる。
【0026】
一次巻線20A及び二次巻線20Bは、巻鉄心10における対向する位置に、巻鉄心10に巻き回される。一次巻線20A及び二次巻線20Bには、既存の電線を用いることができ、例えば、高電気伝導性の金属線を絶縁体で被覆したものを用いることができる。金属線としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、絶縁材料を塗って焼付けるエナメルで被覆された銅線などを用いることができる。金属線の表面を被覆する絶縁体には、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂、又はポリエステル等を用いることができる。
【0027】
一次巻線20Aの巻き数及び二次巻線20Bの巻き数は、特段制限されないが、例えば、巻鉄心変圧器1の仕様に応じて、一次巻線20Aの巻き数及び二次巻線20Bの巻き数を決定することができる。
【0028】
一次巻線20Aは、使用時においては、電源側の回路に接続され、電源から交流電圧が印加される。一次巻線20Aに交流電圧が印加されることにより、巻鉄心10に磁束が生じ、生じた磁束の変化により、負荷側の回路に接続された二次巻線20Bに、一次巻線20Aの巻き数と二次巻線20Bの巻き数とに応じた電圧が生じる。
【0029】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態を説明した。以下では、本発明の上記実施形態の幾つかの変形例を説明する。なお、以下に説明する各変形例は、単独で本発明の上記実施形態に適用されてもよいし、組み合わせで本発明の上記実施形態に適用されてもよい。また、各変形例は、本発明の上記実施形態で説明した構成に代えて適用されてもよいし、本発明の上記実施形態で説明した構成に対して追加的に適用されてもよい。
【0030】
反り量制御工程において、二次再結晶後の鋼板の両面にそれぞれ異なる目付量でコーティング材を塗布し、先立って説明した焼鈍温度及び通板張力でコーティング材を焼き付けるコーティング処理を行ってもよい。また、コーティング処理は、反り量制御工程の後に行われてもよい。鋼板の板厚方向に、コーティング材の目付量に応じた張力が働くことによって鋼板に反りが生じ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板が得られる。なお、鋼材へのコーティング材の塗布方法は、特段制限されず、公知の方法で行うことが可能である。
【0031】
コーティング材の目付量は、例えば、3.1g/m以上6.6g/m以下とすることができる。コーティング材を上記範囲内で、鋼板の一方の面に塗布するコーティング材の目付量と他方の面に塗布するコーティング材の目付量とを異ならせることで、目付量が大きい面側に張力が作用し、反り量制御工程後の方向性電磁鋼板の鋼片の反り量を、13mm以上30mm未満とすることができる。また、コーティング材の目付量を、上記範囲とすることで、反り量制御工程後の方向性電磁鋼板に張力が付与され、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の鉄損を低減することが可能となる。コーティング材の目付量は、好ましくは、3.5g/m以上6.5g/m以下である。
【0032】
コーティング材は、鋼材に張力を与えてその鋼材を反らせることができるものであり、目付量を変更しやすいものを使用することができる。コーティング材としては、好ましくは、コロイダルシリカ及びリン酸塩を含有する既存のコーティング液を用いることができる。コロイダルシリカ及びリン酸塩を含有するコーティング液を用いることで、板厚の小さい方向性電磁鋼板の反り量を制御することが可能となり、更に、方向性電磁鋼板の絶縁性を向上させることが可能となる。
【0033】
コーティング処理における処理温度は、先だって説明した焼鈍温度範囲内で、用いられるコーティング材に応じて適宜変更することができる。例えば、コーティング材としてコロイダルシリカ及びリン酸塩を含有するコーティング液を用いる場合は、処理温度は、840℃以下とすることができる。
【0034】
また、反り量制御工程における焼鈍温度、通板張力及びコーティング材の目付量は、鋼板の厚みに応じて適宜変更することができる。これにより、板厚が異なる場合でも、方向性電磁鋼板の鋼片の反り量を、13mm以上30mm未満とすることができる。
【0035】
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板には、一方の面に線状の熱ひずみを導入することができる。線状の熱ひずみの導入には、既存の方法を適用することができ、例えば、反り量制御工程後に、鋼板の一方の面にレーザーまたは電子ビーム等を照射して、線状の熱ひずみを導入することができる。線状の熱ひずみの導入位置は、特段制限されず、例えば、鋼板の圧延方向に対して垂直に横切る線状に導入することができる。線状の熱ひずみを導入することで、鋼板の磁区を細分化することができ、その結果、鉄損を低減することが可能となる。方向性電磁鋼板に熱ひずみを導入する場合、反り量制御工程における焼鈍温度、通板張力、コーティング材の目付量、またはレーザー等の照射条件は、熱ひずみ導入後の方向性電磁鋼板の鋼片の反り量が13mm以上30mm未満となるように設定されればよい。
【0036】
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板には、一方の面に溝加工を施すことができる。溝加工には、既存の方法を適用することができ、例えば、反り量制御工程後に、鋼板の一方の面に荷重をかけることで、方向性電磁鋼板の一方の面に溝を形成することができる。溝の位置は、特段制限されず、例えば、鋼板の圧延方向に対して垂直に横切る線状に形成することができる。方向性電磁鋼板に溝が形成されることで、鋼板の磁区を細分化することができ、その結果、鉄損を低減することが可能となる。方向性電磁鋼板に溝を形成する場合、反り量制御工程における焼鈍温度、通板張力、コーティング材の目付量、または溝加工の条件は、溝形成後の方向性電磁鋼板の鋼片の反り量が13mm以上30mm未満となるように設定されればよい。なお、溝の深さは、鋼板の磁区が細分化されれば特段制限されないが、例えば、10μm以上20μm以下とすることができる。また、溝の幅は、鋼板の磁区が細分化されれば特段制限されないが、例えば、0.1mm以上0.5mm以下とすることができる。
【0037】
また、本実施形態において、変圧器は、二巻線変圧器としたが、これに限られず、例えば、単巻線変圧器又は三巻線変圧器とすることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を適用することができる変圧器の容量は、特段制限されず、例えば、10kVA以上2000kVA以下の変圧器に適用することができる。
【実施例
【0039】
以下に、実施例を示しながら、本発明の実施形態について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
板厚が0.23mmの二次再結晶焼鈍工程後の鋼板を複数用意し、かかる鋼板に対して、表1に示す焼鈍温度及び通板張力で焼鈍を行った。焼鈍時間は、2分とした。当該焼鈍後の鋼板に、表1に示す目付量でコロイダルシリカ及びリン酸塩を含有するコーティング液を塗布し、840℃の温度で、1分、熱処理を施した。コーティング液の目付量を変えて、それぞれ異なる反り量の方向性電磁鋼板を製造した。
【0041】
上記の方法で得られた方向性電磁鋼板を用いて巻鉄心を作製し、作成した巻鉄心に巻線を巻いて、容量が100kVA及び750kVAの巻鉄心変圧器を作製した。方向性電磁鋼板は、巻鉄心のコーナー部それぞれの曲率円の中心が一致するように巻き回した。巻線には、絶縁材料を塗って焼付けるエナメルで被覆された銅線を使用し、一次巻線の巻き数は1430とし、二次巻線の巻き数は50とした。
【0042】
製造した方向性電磁鋼板の反り量を測定した。反り量の測定は次のようにして行った。まず、製造した方向性電磁鋼板から圧延方向に長さ280mmに鋼片を切り出した。切り出した鋼片を、圧延直角方向が鉛直方向と一致するように置き、鋼片の圧延方向の一端を圧延方向に沿って30mm固定した際に、鋼片の当該圧延方向の他端における板厚方向の変位量を反り量とした。
【0043】
また、作製した巻鉄心変圧器について、JEC-2200に準じて騒音(音圧)を測定した。一般に、音圧が3dB変化したときに、人間は音の大きさの変化を認識することができることから、反り量が0mmの方向性電磁鋼板で製造された変圧器の音圧を基準として、3dB以上音圧が低減した場合を、騒音特性が向上したと判断した。
【0044】
表1に、各方向性電磁鋼板の製造条件、反り量、及び騒音測定の結果を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
試験No.1及び試験No.2は、評価の基準である。試験No.1は、反り量が0mmの方向性電磁鋼板を用いて、容量が750kVAの変圧器を作製した例である。試験No.1の音圧は、68.9dBであった。試験No.2は、反り量が0mmの方向性電磁鋼板を用いて、容量が100kVAの変圧器を作製した例である。試験No.2の音圧は、62.5dBであった。
【0047】
試験No.3では、反り量が15mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、60.1dBとなり、試験No.1と比較して、騒音特性が向上した。試験No.4では、反り量が20mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、60.1dBとなり、試験No.1と比較して、騒音特性が向上した。また、試験No.5は、反り量が21mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された容量が100kVAの変圧器の音圧は、50.8dBとなり、試験No.2と比較して、騒音特性が向上した。
【0048】
一方で、試験No.6、試験No.7に示すように、反り量が13mm未満の方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器では、試験No.11に対する音圧の変化量が3dB未満であり、騒音特性の向上効果は得られなかった。これらの方向性電磁鋼板で製造された巻鉄心において、層を成す方向性電磁鋼板同士の間に比較的大きな隙間が生じ、この隙間によって振動音が大きくなったため、騒音特性は向上しなかったと考えられる。
【0049】
また、試験No.8に示すように、反り量が31mmの方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器では、音圧は67.0dBであり、試験No.1に対する音圧の変化量が1.9dBであり、騒音特性の向上効果は得られなかった。反り量が大きい場合にも、巻鉄心において、層を成す方向性電磁鋼板同士の間に比較的大きな隙間が生じ、この隙間によって振動音が大きくなったため、騒音特性は向上しなかったと考えられる。
【0050】
(実施例2)
続いて、一方の面にレーザーを照射して熱ひずみを導入した方向性電磁鋼板を製造し、騒音特性を評価した。詳細には、板厚が0.23mmまたは0.27mmの二次焼鈍工程後の鋼板を複数用意し、表2に示す焼鈍温度及び通板張力で焼鈍を行った後、表2に示す目付量でコロイダルシリカ及びリン酸塩を含有するコーティング液を塗布し、熱処理を行った。焼鈍時間と、コーティング液塗布後の熱処理は、実施例1と同様の条件とした。その後、厚目付面の圧延方向に垂直になる線方向にレーザーを照射して熱ひずみを導入した。製造された方向性電磁鋼板の反り量は、実施例1と同様にして測定した。
【0051】
実施例1と同様にして、製造された方向性電磁鋼板を用いて容量が750kVAの変圧器を製造し、音圧を測定した。
【0052】
表1に、各方向性電磁鋼板の製造条件、反り量、及び騒音測定の結果を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
試験No.11及び試験No.12は、評価の基準である。試験No.11は、板厚が0.23mmの方向性電磁鋼板を用いて、変圧器を作製した例である。試験No.11及び試験No.12は、熱ひずみを導入したことにより、それぞれ1mmおよび0.5mmの反りが生じた。試験No.11の音圧は、71.0dBであった。試験No.12は、板厚が0.27mmであり、反り量が0mmの方向性電磁鋼板を用いて、変圧器を作製した例である。試験No.12の音圧は、69.8dBであった。
【0055】
試験No.13では、反り量が13mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、67.9dBとなり、試験No.11と比較して、騒音特性が向上した。試験No.14では、反り量が18mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、63.2dBとなり、試験No.11と比較して、騒音特性が向上した。試験No.15では、反り量が22mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、59.7dBとなり、試験No.11と比較して、騒音特性が向上した。また、試験No.16は、反り量が21mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、58.7dBとなり、試験No.12と比較して、騒音特性が向上した。
【0056】
一方で、試験No.17~試験No.19に示すように、反り量が13mm未満の方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器では、試験No.11に対する音圧の変化量が3dB未満であり、騒音特性の向上効果は得られなかった。これらの方向性電磁鋼板で製造された巻鉄心において、層を成す方向性電磁鋼板同士の間に比較的大きな隙間が生じ、この隙間によって振動音が大きくなったため、騒音特性は向上しなかったと考えられる。
【0057】
また、試験No.20に示すように、反り量が35mmの方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器では、音圧は70.2dBであり、試験No.11に対する音圧の変化量が0.8dBであり、騒音特性の向上効果は得られなかった。反り量が大きい場合にも、巻鉄心において、層を成す方向性電磁鋼板同士の間に比較的大きな隙間が生じ、この隙間によって振動音が大きくなったため、騒音特性は向上しなかったと考えられる。
【0058】
(実施例3)
続いて、一方の面に溝が形成された方向性電磁鋼板を製造し、騒音特性を評価した。詳細には、板厚が0.23mmの二次焼鈍工程後の鋼板を複数用意し、表3に示す焼鈍温度及び通板張力で焼鈍を行った後、表3に示す目付量でコロイダルシリカ及びリン酸塩を含有するコーティング液を塗布し、熱処理を行った。焼鈍時間と、コーティング液塗布後の熱処理は、実施例1と同様の条件とした。その後、鋼板に荷重をかけて、厚目付面の圧延方向に垂直になる線方向に溝を形成した。製造された方向性電磁鋼板の反り量は、実施例1と同様にして測定した。
【0059】
実施例1と同様にして、製造された方向性電磁鋼板を用いて容量が750kVAの変圧器を製造し、音圧を測定した。
【0060】
表3に、各方向性電磁鋼板の製造条件、反り量、及び騒音測定の結果を示す。
【0061】
【表3】
【0062】
試験No.21は、評価の基準である。試験No.21は、反り量が0.5mmの方向性電磁鋼板を用いて、変圧器を作製した例である。試験No.21は、溝を形成させたことにより、0.5mmの反りが生じた。試験No.21の音圧は、68.1dBであった。
【0063】
試験No.22では、反り量が13mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、64.8dBとなり、試験No.21と比較して、騒音特性が向上した。試験No.23では、反り量が16mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、60.1dBとなり、試験No.21と比較して、騒音特性が向上した。試験No.24では、反り量が21mmであり、この方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器の音圧は、57.3dBとなり、試験No.21と比較して、騒音特性が向上した。
【0064】
一方で、試験No.25~試験No.27に示すように、反り量が13mm未満の方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器では、音圧の変化量が3dB未満であり、騒音特性の向上効果は得られなかった。これらの方向性電磁鋼板で製造された巻鉄心において、層を成す方向性電磁鋼板同士の間に比較的大きな隙間が生じ、この隙間によって振動音が大きくなったため、騒音特性は向上しなかったと考えられる。
【0065】
また、試験No.28に示すように、反り量が32mmの方向性電磁鋼板を用いて製造された変圧器では、音圧の変化量が0.6dBであり、騒音特性の向上効果は得られなかった。反り量が大きい場合にも、巻鉄心において、層を成す方向性電磁鋼板同士の間に比較的大きな隙間が生じ、この隙間によって振動音が大きくなったため、騒音特性は向上しなかったと考えられる。
【0066】
以上、本発明によれば、騒音特性に優れた、方向性電磁鋼板、巻鉄心変圧器用方向性電磁鋼板、巻鉄心の製造方法及び巻鉄心変圧器の製造方法を提供することが可能となる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0068】
1 巻鉄心変圧器
10 巻鉄心
20A 一次巻線
20B 二次巻線
100 方向性電磁鋼板
図1
図2