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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】スラグ成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20230621BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20230621BHJP
   A01G 33/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C04B5/00 C
C02F1/00 K
A01G33/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019206285
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021080111
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高野 元志
(72)【発明者】
【氏名】山本 智郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡志
(72)【発明者】
【氏名】弘中 諭
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-164430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
C02F
A01G
C01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグと、
酸性官能基を有し、前記酸性官能基と前記製鋼スラグに含まれる鉄との反応により水環境中における前記鉄の溶出を補助する補助物質と、を含み、
前記補助物質を含有する第1の補助材を含み、
前記第1の補助材は、コーヒー豆粕、腐植たい肥、および竹炭からなる群より選択された1種または2種以上であり、
前記第1の補助材に含まれる前記酸性官能基の量に基づいて、前記酸性官能基を50μmol/g以上含有する割合で前記第1の補助材を含むことを特徴とするスラグ成形体。
【請求項2】
製鋼スラグと、
酸性官能基を有し、前記酸性官能基と前記製鋼スラグに含まれる鉄との反応により水環境中における前記鉄の溶出を補助する補助物質と、
前記補助物質を含有する第1の補助材と、
前記製鋼スラグと前記第1の補助材とを結合し、前記補助物質を含有する第2の補助材を含み、
前記第1の補助材は、コーヒー豆粕、腐植たい肥、および竹炭からなる群より選択された1種または2種以上であり、
前記第2の補助材は、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸の金属塩、糖蜜、および澱粉からなる群より選択された1種または2種以上であり、
前記第1の補助材および前記第2の補助材に含まれる前記酸性官能基の量に基づいて、前記酸性官能基を50μmol/g以上含有する割合で前記第1の補助材および前記第2の補助材を含むことを特徴とするスラグ成形体。
【請求項3】
前記スラグ成形体は、粒径または全長が10mm以上40mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のスラグ成形体。
【請求項4】
製鋼スラグと、
酸性官能基を有し、前記酸性官能基と前記製鋼スラグに含まれる鉄との反応により水環境中における前記鉄の溶出を補助する補助物質と、を含み、
前記酸性官能基を50μmol/g以上含有し、
前記製鋼スラグおよび前記補助物質の混合体の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部をさらに含み、
前記被覆部は、酸性土壌を主原料とし、リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有することを特徴とするスラグ成形体。
【請求項5】
製鋼スラグと、
酸性官能基を有し、前記酸性官能基と前記製鋼スラグに含まれる鉄との反応により水環境中における前記鉄の溶出を補助する補助物質、を含有する第1の補助材と、を含むスラグ成形体の製造方法であって、
前記第1の補助材は、コーヒー豆粕、腐植たい肥、および竹炭からなる群より選択された1種または2種以上であり、
前記第1の補助材に含まれる前記酸性官能基の量に基づいて、前記スラグ成形体1g当たりの前記酸性官能基の量が50μmol/g以上となるように、前記製鋼スラグと、前記第1の補助材との混合割合を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された混合割合にて、前記第1の補助材と前記製鋼スラグとを混合する混合工程と、を含むことを特徴とするスラグ成形体の製造方法。
【請求項6】
製鋼スラグと、
酸性官能基を有し、前記酸性官能基と前記製鋼スラグに含まれる鉄との反応により水環境中における前記鉄の溶出を補助する補助物質、を含有する第1の補助材と、
前記製鋼スラグと前記第1の補助材とを結合し、前記補助物質を含有する第2の補助材とを含むスラグ成形体の製造方法であって、
前記第1の補助材は、コーヒー豆粕、腐植たい肥、および竹炭からなる群より選択された1種または2種以上であり、
前記第2の補助材は、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸の金属塩、糖蜜、および澱粉からなる群より選択された1種または2種以上であり、
前記第1の補助材および前記第2の補助材に含まれる前記酸性官能基の量に基づいて、前記スラグ成形体1g当たりの前記酸性官能基の量が50μmol/g以上となるように、前記製鋼スラグと前記第1の補助材と前記第2の補助材との混合割合を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された混合割合にて、前記第1の補助材と前記第2の補助材と前記製鋼スラグとを混合する混合工程と、を含むことを特徴とするスラグ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水環境中で使用される、製鋼スラグを含むスラグ成形体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、沿岸部近傍の海域において、(i)岩場に海藻が繁殖しなくなり、岩場が石灰藻に覆われる現象(磯焼け)の発生、(ii)水質の悪化、および(iii)底質の泥化、等に伴う藻場の消失が問題となっている。そして、水産資源の減少という問題が深刻化している。
【0003】
上記(iii)底質の泥化という現象は、沿岸地形の人工的な変化に伴う海水流動の変化、生活排水からの有機物の流入、および、海砂の採取、等の要因によって、沿岸部近傍の海域の広い範囲に渡って生じている。泥化した底質付近の領域は貧酸素状態となり易く、そのような領域では、嫌気性の硫酸還元菌によって毒性の強い硫化水素が生成される。硫化水素は、底質付近における生物の生息に多大な支障をきたす。
【0004】
硫化水素の生成によりもたらされる問題を解決可能な環境補修材を開発することは、水産資源を確保する上で重要な課題である。環境中の硫化水素を低減する有効な手段の1つとして、硫化水素と鉄との反応を利用することが知られている。
【0005】
具体的には、以下の化学反応式に例示するように、2価鉄(Fe2+)または3価鉄(Fe3+)は、硫化水素イオンまたは硫化水素と反応して、硫化鉄(FeS)または単体硫黄(S)を生成する。
HS+Fe2+→FeS+H
HS+2Fe3+→S+2Fe2++H
S+Fe2+→FeS+2H
S+2Fe3+→S+2Fe2++2H
【0006】
また、藻場の消失という問題の発生原因の1つとして、森林の荒廃およびダムの建設等により、沿岸部近傍の海域への鉄(藻類の生育に必要な元素)の流入量が減少していることも挙げられる。沿岸部近傍の海域における水産資源の維持および回復のためには、上述の硫化水素の生成に関する問題を解決するだけでなく、水環境中に鉄を供給することも重要である。藻場を形成させることによって、多様な生物が生息可能な場を提供することができる。
【0007】
製鋼スラグは、製鉄工程(製鋼工程)において大量に発生する副産物であって、路盤材および造成材等、陸上での用途に主にリサイクルされている。製鋼スラグは、リサイクル用途の拡大が求められており、海域での利用技術の開発が進められている。
【0008】
製鋼スラグは鉄を含有しているため、上記硫化水素の生成に関わる問題を解決するとともに、藻場形成を助長することができる材料として着目されている。しかし、製鋼スラグ中の鉄は、主に酸化鉄として存在していることから、水環境中に溶出しにくい。そのため、製鋼スラグをそのまま水環境中へ投入しても鉄溶出量が乏しい。よって、製鋼スラグから鉄を効率良く溶出させる技術が求められている。また、製鋼スラグは、粉砕した状態のままでは運搬中または水環境中への投入時において発塵し易く作業性を著しく悪化させる場合がある。そのため、製鋼スラグを取扱い性の良好な形状とすることも求められている。
【0009】
例えば、製鋼スラグを用いて水環境中に鉄を供給する方法として、製鋼スラグおよび腐植をココナッツ繊維製の袋に詰めて、当該袋を海域へ投入する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この方法では、上記袋に封入されることにより製鋼スラグの発塵が防止されるとともに、腐植から生じる成分による鉄キレート作用によって製鋼スラグから鉄を水環境中に供給可能であるという特徴を有する。
【0010】
また、製鋼スラグを取扱い良好な形状にて海底へ施工する有効な方法として、製鋼スラグを造粒してなるスラグ成形体を用いることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2に記載のスラグ成形体は、成形されていることにより、発塵が少なく運搬し易いという特徴を有する。また、成形用バインダーとしてリグニンスルホン酸を含有しており、リグニンスルホン酸による鉄キレート作用によって製鋼スラグから鉄を水環境中に多量に供給し得る。
【0011】
そして、例えば鉄含有物に果実酸またはポリフェノールを接触させることによって鉄含有物から水環境中に鉄を溶出させる方法が知られている(例えば、特許文献3、4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2005-34140号公報
【文献】特開2014-200195号公報
【文献】特開2012-75398号公報
【文献】特開2016-195579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1~4のような方法においては、以下のような点で改善の余地がある。
【0014】
例えば特許文献1に記載の方法では、袋内部における発酵等により生成した腐物質と製鋼スラグに含まれる鉄とが錯形成することによって、水環境中に鉄が溶出する。しかし、鉄を安定して溶出させるための腐物質の形態が完全に明らかとなっておらず、腐物質の生成条件に依存して、水環境中への鉄供給が不安定となり得る。
【0015】
特許文献2に記載の方法では、スラグ成形体の表面に、酸性土壌を主原料とするとともにリグニンスルホン酸を含む被覆部を形成することによって、水環境中への遊離石灰の溶出によるpH上昇を抑制しつつ、水環境中への鉄溶出を促進している。この方法においては、リグニンスルホン酸に含有される官能基の量が少ないと、鉄溶出量を安定化し難い場合がある。
【0016】
特許文献3、4に記載の方法では、鉄含有物に果実酸またはポリフェノールを接触させることによって水環境中における鉄溶出を促進させている。しかし、製鋼スラグからの鉄溶出の安定化および効率化という観点から、果実酸またはポリフェノールの種類に応じて、スラグ成形体に果実酸またはポリフェノールをどの程度含ませればよいかについての知見は、特許文献3および4には開示されていない。
【0017】
本発明の一態様は、このような現状に鑑み、取扱性が良好であり、安定的かつ効率的に鉄を水環境中に溶出させることができるスラグ成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様におけるスラグ成形体は、製鋼スラグと、酸性官能基を有し、前記酸性官能基と前記製鋼スラグに含まれる鉄との反応により水環境中における前記鉄の溶出を補助する補助物質と、を含み、前記酸性官能基を50μmol/g以上含有することを特徴とする。
【0019】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様におけるスラグ成形体の製造方法は、製鋼スラグと、酸性官能基を有し、前記酸性官能基と前記製鋼スラグに含まれる鉄との反応により水環境中における前記鉄の溶出を補助する補助物質、を含有する補助材と、を含むスラグ成形体の製造方法であって、前記補助材に含まれる前記酸性官能基の量に基づいて、前記スラグ成形体1g当たりの前記酸性官能基の量が50μmol/g以上となるように、前記製鋼スラグと、前記補助材との混合割合を算出する算出工程と、前記算出工程で算出された混合割合にて、前記補助材と前記製鋼スラグとを混合する混合工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、取扱性が良好であり、安定的かつ効率的に鉄を水環境中に溶出させることができるスラグ成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態1におけるスラグ成形体の構成を示す概略図である。
図2】上記スラグ成形体の製造工程の一例の概要を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態2におけるスラグ成形体の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものでは無い。
【0023】
以下の説明においては、本実施形態におけるスラグ成形体についての理解を容易にするため、先ず、本発明者らの見出した新規な知見について概略的に説明する。
【0024】
<発明の知見の概略的な説明>
本明細書において、水環境中における鉄の溶出を補助する作用を有する物質を補助物質と称する。水環境とは、スラグ成形体を投入して改質する対象となる環境であればよく、特に限定されないが、例えば海水、淡水、河口付近の汽水、湖水、沼水、等である。
【0025】
上記補助物質は、水環境中において、製鋼スラグに含まれる鉄と反応して以下のように鉄の溶出を補助する。すなわち、水環境中において、補助物質が鉄イオンと結合し、水環境中で分散する。このような反応を生じ得る補助物質としては様々な種類があり、鉄等の元素と結合を形成する官能基についても様々な種類がある。
【0026】
補助物質と各種元素との反応の詳細について調べることは容易では無いとともに、製鋼スラグから水環境中へ鉄分を溶出させる反応の生じ易さは、補助物質の種類毎に異なり得る。そのため、従来、特定の種類の物質(例えば果実酸、ポリフェノール)を製鋼スラグと組み合わせて使用するに際して、上記物質の添加量は場当たり的に設定されており、上記物質の添加量によっては水環境中への鉄溶出量が不十分となる場合があった。また、例えば、補助物質を含有する材料の品質が変動することによって、鉄溶出量も変動し得る。そのため、鉄を安定的に溶出できない場合があった。
【0027】
本発明者らは、製鋼スラグと補助物質との混合体(スラグ成形体)を製造する上で、鉄溶出量に影響する要因について鋭意検討を行った。その結果、補助物質の有する酸性官能基を指標として、スラグ成形体中に含まれる酸性官能基の濃度を所定値以上とすることによって、安定的かつ効率的に鉄を水環境中に溶出させることができることを見出し、本願発明を想到した。
【0028】
上記の知見に基づく、本実施形態におけるスラグ成形体およびその製造方法について、以下に詳細に説明する。
【0029】
<スラグ成形体>
本発明の一実施形態におけるスラグ成形体について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態におけるスラグ成形体1の構成を示す概略図である。なお、図1では、スラグ成形体1を球状にて図示しているが、実際上、スラグ成形体1は不定形状である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態のスラグ成形体1は、製鋼スラグ2、補助材(第1の補助材)3、およびバインダー(第2の補助材)4を含む。補助材3およびバインダー4は、補助物質5を含有する。
【0031】
(製鋼スラグ)
製鋼スラグ2は、製鋼工程において大量に発生する副産物である。製鋼スラグ2は、例えば、転炉スラグ、電気炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱硫スラグ、脱リンスラグ、脱珪スラグ、電気炉酸化スラグ、電気炉還元スラグ、二次精錬スラグおよび造塊スラグ等である。製鋼スラグ2は、これらのスラグの混合物であってもよい。
【0032】
製鋼スラグ2は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)およびリン(P)等の元素を含有している。スラグ成形体1は、製鋼スラグ2を含有することにより、水環境中において鉄を溶出させるだけでなく、水環境の補修のために上記元素のうちの鉄以外の成分をスラグ成形体から溶出させてもよい。特にMnおよびPは、藻類の栄養成分として有効に寄与し得る。
【0033】
製鋼スラグ2は、水環境中において溶出する鉄の量を確保するため、全鉄で10.0質量%以上の鉄含有量であることが好ましい。製鋼スラグ2に含まれるCaのうち未反応の可溶性CaO(フリーライム)は、水酸化物イオンを溶出し、水環境のpHを上昇させて生物環境を悪化させる場合がある。そのため、製鋼スラグ2を成形する前後において、製鋼スラグ2に対して大気エージングまたは二酸化炭素による処理を行うことによって、可溶性CaOが炭酸化されていてもよい。
【0034】
(補助材)
補助材3は、酸性官能基を有する補助物質5を比較的高濃度に含有する材料であり、コストを考慮すると、好ましくはリサイクル材料(再生材料)である。リサイクル材料とは、例えば使用用途に合わせて製造および販売される新品材料とは異なり、不用物または廃棄物(いわゆる廃材)を利用した材料である。そのような補助材3として、例えば、柑橘類外皮、コーヒー豆粕、腐たい肥、および竹炭が挙げられる。製鋼スラグ2を利用するだけでなく補助材3としてリサイクル材料を使用することにより、スラグ成形体1を、環境に大きく配慮した循環型の材料とすることができる。
【0035】
補助材3は、上記例示した材料からなる群より選択された1種または2種以上であってよく、すなわち、複数の材料を組み合わせたものであってもよい。各材料の入手性、若しくは材料中の酸性官能基の濃度に応じて、または低コスト化を目的に、補助材3中の各材料の混合比を適宜変更してもよい。
【0036】
補助材3は、乾燥および粉砕された状態にてスラグ成形体1に含有される。本発明の一態様におけるスラグ成形体1に含有される補助材3の粒径は適宜調整されてよく、特に限定されるものではないが、補助材3の粒径が小さいと、粉砕に要する費用が高くなるとともに発塵し易くなる。そのため、補助材3の粒径は100μm以上であることが好ましい。また、補助材3の粒径が大きすぎると、スラグ成形体1の強度が低下するとともに、水環境中で有効に利用可能な補助物質5の量(すなわち酸性官能基の量)が少なく成り得る。そのため、補助材3の粒径は5mm以下であることが好ましい。
【0037】
(バインダー)
バインダー4は、酸性官能基を有する補助物質5を含み、スラグ成形体1の成形時における歩留まりの向上および成形後の強度上昇のためにスラグ成形体1に添加される。
【0038】
本発明の一態様におけるスラグ成形体1は、酸性官能基の量、費用、スラグ成形体1の強度等を考慮して、バインダー4の種類および添加量を適宜決定されてよい。バインダー4として、例えば、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸の金属塩、糖蜜、および澱粉が挙げられる。リグニンスルホン酸または糖蜜を添加する場合、バインダー4の添加量は、費用、スラグ成形体1の強度、および鉄溶出量のバランスを考慮して、製鋼スラグ2および補助材3の合計重量に対して、2質量%以上10質量%以下の量を添加することが好ましい。
【0039】
リグニンスルホン酸およびその金属塩は、分散性および粘結性に優れることから、粘結剤として好適に用いられる。リグニンスルホン酸およびその金属塩は、鉄キレート作用を有することから、水環境下においてスラグ成形体1からの鉄溶出量を増加させる作用を有する。
【0040】
また、リグニンスルホン酸は、必要に応じてpH調整可能であるが、スラグ成形体1における海水のpH上昇および白濁化を抑制する観点から、非アルカリ性であることが好ましい。特に、リグニンスルホン酸が酸性であると、海水のpH上昇を防止または緩和する効果を奏しやすいためより好ましい。
【0041】
リグニンスルホン酸の金属塩を用いる場合、金属元素の種類は、適宜選択してもよく、例えばナトリウム(Na)、カリウム(K)、等の金属であってよく、取り扱い性およびコストを考慮すると、Mg、CaまたはNaが好ましい。
【0042】
リグニンスルホン酸およびその金属塩の形態は適宜選択でき、製造過程において、粉末または水溶液の状態にて添加することができる。
【0043】
(酸性官能基)
補助材3およびバインダー4に含まれる補助物質5は、酸性官能基を1種類有する物質であってよく、複数種類有する物質であってもよい。多数の酸性官能基を有する補助物質5は、鉄イオンとキレート錯体を形成したり、鉄イオンを吸着したりするとともに、水環境中に分散して、鉄の溶出量を増加させる。
【0044】
補助物質5が有する酸性官能基の種類としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホ基、等が挙げられる。なお、補助物質5の有する酸性官能基としては、これらに限定されるものではなく、水酸化ナトリウムを用いた中和滴定によって水酸化ナトリウムと反応する種類の酸性官能基であればよい。この中和滴定について具体的には後述するが、本実施形態におけるスラグ成形体1は、補助材3およびバインダー4に含まれる酸性官能基の量に基づいて、製鋼スラグ2と補助材3とバインダー4との混合割合が調整されている。
【0045】
補助物質5としては、実際上、多種多様な有機物が考えられ、それらを具体的に列挙することは現実的ではないし、そのことの意義は小さい。補助物質5は、製鋼スラグ2中において各種の酸化物として存在する鉄以外の元素(例えばCa)と、比較的生じ易い(速い)反応を生じることもあり得ると考えられる。製鋼スラグ2と補助物質5との反応を詳細に解明することは困難である。
【0046】
本発明者らは、スラグ成形体1中に含まれる酸性官能基の量に着目することによって、製鋼スラグ2と補助物質5との複雑な反応により生じる鉄溶出量を定量的に推定可能とし、水環境中への鉄の溶出を安定的かつ効率的に生じさせることを実現した。
【0047】
すなわち、本実施形態におけるスラグ成形体1は、スラグ成形体1の1g当たりの酸性官能基の量として、酸性官能基を50μmol/g以上含む。水環境中での製鋼スラグ2と補助物質5との反応において、製鋼スラグ2中の鉄以外の元素は、補助物質5と反応して鉄錯体の生成量を低下させる要因となり得る。しかし、スラグ成形体1は、酸性官能基を50μmol/g以上含むことにより、製鋼スラグ2中の鉄を効果的に溶出させることができる。水環境中において分散した補助物質5に鉄が吸着する、または補助物質5と鉄とが錯体を形成して分散することにより、水環境中で鉄を沈殿させることなく分散させることが可能となる。そのため、製鋼スラグ2から安定的かつ効率的に鉄を水環境中に溶出させることができる。
【0048】
本明細書において、鉄溶出量は、水環境中に溶出する鉄の全量を対象とし、酸性官能基と結合して水環境中に溶出する鉄イオンは、生物利用性の高い2価鉄であってよく、3価鉄であってもよい。水環境中に溶出した3価鉄は、硫化水素の低減に有効に作用するとともに、海藻または微生物により2価鉄に還元されて、水環境中で有効に利用されることができる。
【0049】
本実施形態におけるスラグ成形体1は、スラグ成形体1中の酸性官能基の量が多いほど、水環境中における鉄溶出量が大きくなる傾向にあるため、酸性官能基の量を指標とすることにより、水環境中における鉄溶出量(溶出速度)を調整することもできる。
【0050】
また、スラグ成形体1は、例えば、硫化水素で汚染された水環境の改質のために使用する場合は硫化水素濃度に応じて鉄溶出量を制御されてもよく、藻場造成のために用いる場合は施肥効果に応じて鉄溶出量を制御されてもよい。スラグ成形体1は、目標とする鉄溶出量に応じて酸性官能基の含有量の下限を設定されることが望ましい。ただし、硫化水素低減と藻場造成のいずれの目的においても、鉄溶出による明確な効果を得るためには、スラグ成形体1は少なくとも酸性官能基を50μmol/g以上含むことが望ましく、効果の即効性を高める場合は酸性官能基を100μmol/g以上含むことが好ましい。
【0051】
水環境中における鉄溶出量が小さすぎると、スラグ成形体1を水環境中に投入した初期において、水環境中への鉄の供給が不十分となり得る。一方で、水環境中における鉄溶出量が多すぎると、水環境中へ鉄が過剰に供給されることになる。ここで、スラグ成形体1中の酸性官能基の量が多いほど、補助材3およびバインダー4の存在割合が大きくなり、結果として製鋼スラグ2の存在割合が小さくなる。そのため、スラグ成形体1から水環境中に溶出可能な鉄の全量が減少し得る。また、補助材3およびバインダー4の添加量が多いほど、スラグ成形体1の製造コストが高くなり得る。
【0052】
よって、スラグ成形体1は、酸性官能基の含有量の上限として、1000μmol/g以下と規定されることが好ましい。これにより、水環境中におけるスラグ成形体1からの単位時間当たりの鉄溶出量を適正な量(すなわち適正な溶出速度)に調整することができる。その結果、長期的に継続してスラグ成形体1から水環境中に鉄が安定的に溶出する蓋然性を高めることができる。また、水環境中のpHに及ぼす影響を低減することもできる。そして、スラグ成形体1中に、補助材3およびバインダー4を適度に添加すればよいことから、スラグ成形体1の製造コストを比較的低減することもできる。
【0053】
(その他の構成)
スラグ成形体1は、その粒径または全長が大きいほど製造効率および強度が高くなる。そのため、スラグ成形体1は、10mm以上の粒径または全長を有することが好ましい。粒径または全長が10mm未満の場合、発塵し易くなり取扱い性が低下し得る。
【0054】
また、スラグ成形体1の比表面積が大きいほど重量あたりの鉄溶出量が増加するため、スラグ成形体1は、40mm以下の粒径または全長を有することが好ましい。粒径または全長が40mmを超える場合、スラグ成形体1の比表面積が小さくなり、鉄の溶出量を低下させる。
【0055】
スラグ成形体1は、粒径または全長が10mm以上40mm以下であることにより、スラグ成形体1の製造効率および運搬時の取扱い性を向上させることができるとともに、比表面積を高めて水環境中における鉄溶出量を増加させ易くすることができる。
【0056】
本実施形態のスラグ成形体1は、水環境中に投入して、鉄溶出による藻場造成を効率的に実施することができるとともに、底質を効果的に改善することができる。また、スラグ成形体1は、開口部を有する容器に装入されて環境補修材として使用されてもよい。
【0057】
<製造方法>
次に、本実施形態におけるスラグ成形体1の製造方法について、図2を参照して説明する。
【0058】
図2に示すように、本実施形態におけるスラグ成形体1の製造方法は、測定工程S1、原料準備工程S2、割合算出工程(算出工程)S3、混合工程S4、および成形工程S5を含む。測定工程S1と原料準備工程S2は互いに逆の順番で行ってもよく、並行して行ってもよい。また、スラグ成形体1の製造方法における上記の各工程は、互いに異なる場所で行われてもよく、例えば測定工程S1は、遠隔地で測定が行われた結果を取得してもよい。
【0059】
測定工程S1では、補助材3およびバインダー4に含まれる酸性官能基の量を、例えばNaOHを用いた中和滴定により測定する。中和滴定による酸性官能基の測定は、例えば以下のように行う。
【0060】
すなわち、補助材3について、例えば80℃または100℃の温度にて乾燥させた後、平均粒径が1.0mm以下の粉末状に粉砕する。乾燥および粉砕された補助材3と、補助材3の乾燥重量の10倍以上の重量の水と、を混合して1時間以上撹拝して補助材3から補助物質5を溶出させた後、濾過または遠心分離によって固形物を除去した上澄みを抽出液とする。ここで、補助材3からの抽出液中に鉱酸または金属塩等、滴定分析の妨害になる物質が共存する場合、予め強塩基性のイオン交換樹脂により酸性官能基を有する有機物を分離してから中和滴定を実施してもよい。
【0061】
得られた抽出液に、酸性官能基の濃度に応じて0.1~1.0mol/L程度に濃度調整したNaOHを滴下し、pHの推移を計測して滴定曲線を得る。得られた滴定曲線の変曲点に相当するNaOHの物質量(mol)を、補助材3に含まれる酸性官能基の量として求める。バインダー4についても上記と同様に測定することにより、バインダー4に含まれる酸性官能基の量を求めることができる。
【0062】
なお、測定工程S1により測定された酸性官能基の量は、水環境中において、補助材3またはバインダー4から溶出して各種の反応に寄与する補助物質5の量に対応する「有効酸性官能基」の量であるともいえる。そして、スラグ成形体1における酸性官能基の含有量についても、有効酸性官能基の含有量であると表現することができる。
【0063】
原料準備工程S2では、鉄含有原料である製鋼スラグ2について、スラグ成形体1の製造時における成形性および製造後のスラグ成形体1の強度の観点から、平均粒径が0.5mm以上25mm以下の粒状に粉砕する。または、製鋼スラグ2について、例えば、長径5mm以下の大きさに篩い分けされた粒状スラグとする。粒状の製鋼スラグを用いる場合には、その大きさや形状によって加工せずにそのまま次工程に用いてもよい。
【0064】
或いは、原料準備工程S2では、粒状スラグを粉砕することにより、例えば平均粒径が0.01mm以上0.2mm以下の粉末状スラグとしてもよく、この場合、スラグ成形体1中において製鋼スラグ2が微細化して、補助物質5と製鋼スラグ2との反応性が向上し易い。
【0065】
また、必要に応じて、エージング処理などによりスラグの膨張を抑制した製鋼スラグ2を用いてもよく、炭酸化処理または塩酸若しくは硫酸への浸漬処理を施した製鋼スラグ2を用いてもよい。
【0066】
次いで、割合算出工程S3では、補助材3に含まれる酸性官能基の量に基づいて、スラグ成形体1の1g当たりの酸性官能基の量が50μmol/g以上となるように、製鋼スラグ2と、補助材3およびバインダー4との混合割合を算出する。ここで、製鋼スラグ2と補助材3との混合割合を決定した後、製鋼スラグ2および補助材3の合計重量に対して、バインダー4の混合割合を算出するようになっていることが好ましい。
【0067】
混合工程S4では、割合算出工程S3で算出された混合割合を用いて、補助材3およびバインダー4と製鋼スラグ2とを、例えば混練機を用いて混合する。上記割合算出工程S3および混合工程S4において、補助材3およびバインダー4の両方を合わせて、補助物質5を含有する補助材と表現することもできる。
【0068】
成形工程S5では、スラグ成形体1の成形に用いる機器は具体的に限定されないが、例えば、ブリケットマシン、パンペレタイザー、ドラムミキサー、ロータリーミキサー、圧縮成形プレス機などから適宜選択して用いることができる。製造効率とスラグ成形体1の強度を考慮すると、ブリケットマシンを用いることが好ましい。
【0069】
上記のように、割合算出工程S3では、測定工程S1にて測定された補助材3およびバインダー4に含まれる「有効酸性官能基」の量を使用する。ここで、スラグ成形体1を水環境中に投入した場合、実際上、補助材3またはバインダー4から、上記測定工程S1において測定された「有効酸性官能基」の量よりも多くの酸性官能基が水環境中に供給される可能性がある。これは、例えば上記測定工程S1において除去された固形物の内部に残存する酸性官能基等による影響が有り得るためである。
【0070】
一方で、スラグ成形体1を水環境中に投入した場合に、実際上、補助材3またはバインダー4から水環境中に供給される酸性官能基の量が「有効酸性官能基」の量よりも少なくなることは、発生し難い。
【0071】
そのため、本実施形態の製造方法により製造されたスラグ成形体1は、補助材3、または補助材3およびバインダー4の添加量から算出される、スラグ成形体1の1g当たりの酸性官能基の量を例えばXμmol/g(X≧50)とすると、以下のことが言える。
【0072】
すなわち、スラグ成形体1は、水環境中に投入した場合に、少なくともXμmol/gにスラグ成形体1の重量を乗じて得られる量の酸性官能基(より詳細には、そのような量の酸性官能基に相当する量の補助物質5)を、水環境中に供給することができる。これは、実際上、上記計算量よりも多くの酸性官能基(換言すれば補助物質5)を水環境中に供給することができると考えられるためである。よって、スラグ成形体1は、水環境中において、少なくとも、予め想定された量の酸性官能基を水環境中に供給することができ、安定的かつ効率的に鉄を水環境中に溶出させることができる。
【0073】
(変形例)
本実施形態の一変形例におけるスラグ成形体は、製鋼スラグ2および補助材3を組み合わせて製造されてもよく、この場合、バインダー4を含まない構成であってもよい。バインダー4を含まなくても、上記成形工程S5によって成形され、酸性官能基の量が50μmol/g以上となっていればよい。
【0074】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0075】
本実施形態におけるスラグ成形体10は、製鋼スラグ2および補助物質5の混合体11の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部12を含む。被覆部12は、酸性土壌を主原料とし、リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有する。
【0076】
一般に、水環境下において、製鋼スラグ2を由来とするアルカリ成分の溶出が生じると、スラグ成形体10の周辺のpHを上昇させる可能性がある。そこで、スラグ成形体10は、被覆部12を有することにより、水環境下における鉄成分の溶出量の増加させることができるとともに、pH上昇を抑制することができる。
【0077】
酸性土壌は、例えば、赤土、鹿沼土、腐植土および泥炭などのように、海水に投入した際にpHの低下が生じ、かつ、海水の水質悪化や有害成分の溶出が生じないものであればよい。なお、赤土とは、関東ローム層などを代表とする酸化鉄を多く含んだ赤褐色または黄褐色で粘土質の土壌である。
【0078】
海水中に酸性土壌を投入すると、pHの低下だけでなく、植物プランクトンや藻類の栄養成分となるアンモニア態窒素、硝酸態窒素およびリン酸態リンなどの溶出が生じる。特に赤土や腐植土は、上述のイオン交換によるpH低下作用も奏しやすいため、被覆部を形成する原料として好ましい。
【0079】
また、被覆部12は、混合体11の表面の一部を覆うように形成されていてよく、表面の全体を覆うように形成されていてもよい。
【0080】
また、被覆部12は、リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有することにより、被覆部12の強度上昇および鉄溶出量を増加させることができる。被覆部12は水環境中で剥離して早期に鉄溶出効果を損なう可能性があるため、被覆部12に含有される鉄含有量と酸性官能基は本発明において規定しないが、鉄溶出量への影響を考慮して被覆部12の鉄含有量と酸性官能基を適宜調整してもよい。
【0081】
〔附記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0082】
以下、本発明の一態様におけるスラグ成形体の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0083】
原料として用いた製鋼スラグ、補助材、およびバインダーの化学組成を表1に示す。各種の補助材およびバインダーについて、化学組成を乾燥状態で測定した。
【0084】
【表1】
【0085】
また、原料として用いた製鋼スラグについて、表2に示すように前処理を行った。そして、各種の補助材およびバインダーについて、表2に示すように前処理を行うとともに、実施形態1にて前述したようにNaOHを用いて中和滴定を行うことにより酸性官能基の量を測定した。
【0086】
【表2】
【0087】
前処理後の製鋼スラグ並びに各種の補助材およびバインダーを、表3に示す各試料の混合割合となるように混合し、混練機を用いて、適宜水分を添加しながら5分間混合した。
【0088】
混合した各試料を、ブリケットマシンを用いて粒径約30mmに造粒し、得られた造粒物を105℃で24時間乾燥させて、スラグ成形体を製造した。
【0089】
製造したスラグ成形体について、以下のように鉄溶出試験を行った。
【0090】
スラグ成形体100gを2Lのビーカー内で1000mlの人工海水に浸し、攪拌子を用いて回転速度100rpmにて1時間撹拌した。撹拌後、吸引濾過することにより得られた溶液中の鉄濃度を酸分解―誘導結合プラズマ質量分析法により測定した。この測定における鉄の検出限界は5μg/L未満である。結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示すように、スラグ成形体中の酸性官能基の量が50μmo1/g以上である実施例では、溶出試験においてFeが検出された(すなわち溶液中の鉄濃度が5μg/L以上であった)。実施例のスラグ成形体は、人工海水に投入して1時間撹拌した時点(すなわち水環境中への投入初期の時点)において、人工海水中に鉄が溶出していることがわかる。また、鉄が過剰に溶出することはなかった。概して、酸性官能基の量が多いほど、鉄溶出量が多くなる関係にあり、酸性官能基の量を調整することによって鉄溶出量も調整し得ることが示された。実施例のスラグ成形体は、安定的かつ効率的に鉄を水環境中に溶出させることができることがわかる。
【0093】
一方、スラグ成形体中の酸性官能基の量が50μmo1/g未満である比較例では、溶出試験においてFeが検出されず、溶液中の鉄濃度が5μg/L未満であった。
【符号の説明】
【0094】
1、10 スラグ成形体
2 製鋼スラグ
3 補助材(第1の補助材)
4 バインダー(第2の補助材)
5 補助物質
11 混合体
12 被覆部
図1
図2
図3