(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】フロントピラーアウタ
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
B62D25/04 A
(21)【出願番号】P 2021533075
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2020027346
(87)【国際公開番号】W WO2021010389
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2019131349
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】東 昌史
(72)【発明者】
【氏名】木本 野樹
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105691463(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0113237(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス面側フランジ部と、ドア側フランジ部と、前記ガラス面側フランジ部及び前記ドア側フランジ部をつなぐ本体部と、を含むフロントピラーアウタであって、
前記ドア側フランジ部の長手方向の一部の領域において、前記ドア側フランジ部の側縁につながる第1板部が前記ドア側フランジ部上に折り返されて、前記第1板部と前記ドア側フランジ部とが二重に積み重なり、
前記ドア側フランジ部に積み重なった前記第1板部の端部は開放されており、
前記ガラス面側フランジ部の長手方向の一部の領域において、前記ガラス面側フランジ部の側縁につながる第2板部が前記ガラス面側フランジ部上に折り返されて、前記第2板部と前記ガラス面側フランジ部とが二重に積み重な
り、前記ガラス面側フランジ部に積み重なった前記第2板部の端部は開放されている、フロントピラーアウタ。
【請求項2】
請求項1に記載のフロントピラーアウタであって、
前記ガラス面側フランジ部の長さをLとしたとき、
前記第1板部と前記ドア側フランジ部との重なり領域は、前記ドア側フランジ部において、前記ガラス面側フランジ部の後端に相当する位置と、前記ガラス面側フランジ部の後端に相当する位置からL×2/3の位置と、の間の範囲の一部に設けられる、フロントピラーアウタ。
【請求項3】
請求項1に記載のフロントピラーアウタであって、
前記ガラス面側フランジ部の長さをLとしたとき、
前記第1板部と前記ドア側フランジ部との重なり領域は、前記ドア側フランジ部において、前記ガラス面側フランジ部の後端に相当する位置と、前記ガラス面側フランジ部の後端に相当する位置からL×2/3の位置と、の間の範囲の全域に設けられる、フロントピラーアウタ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフロントピラーアウタであって、
前記ガラス面側フランジ部の長さをLとしたとき、
前記第2板部と前記ガラス面側フランジ部との重なり領域は、前記ガラス面側フランジ部の前端からL×1/8の位置と、前記ガラス面側フランジ部の前端からL×2/3の位置と、の間の範囲の一部に設けられる、フロントピラーアウタ。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフロントピラーアウタであって、
前記ガラス面側フランジ部の長さをLとしたとき、
前記第2板部と前記ガラス面側フランジ部との重なり領域は、前記ガラス面側フランジ部の前端からL×1/8の位置と、前記ガラス面側フランジ部の前端からL×2/3の位置と、の間の範囲の全域に設けられる、フロントピラーアウタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントピラーを構成するフロントピラーアウタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体はフロントピラーを含む。フロントピラーは、フロントピラーインナ及びフロントピラーアウタ等を組み合せて構成される。自動車の燃費向上の観点から、フロントピラーは軽量であるのが望ましい。一方で、衝突安全性の向上の観点から、フロントピラーは高強度であるのが望ましい。このため、フロントピラーには、軽量化及び強度の向上が求められる。
【0003】
強度を向上させた車体部品はたとえば、特開2014-118009号公報(特許文献1)、特開平5-310147号公報(特許文献2)及び特開2016-2781号公報(特許文献3)に記載されている。
【0004】
特許文献1には、補強部品を備えるフロントピラーロアが記載されている。特許文献1に記載の補強部品は、前輪と対向する縦面部と、高強度の横面部と、を含む。車両が正面衝突すると、前輪が車両後方に移動する。縦面部は、車両後方への前輪の移動を制限する。横面部は、縦面部に負荷される衝突エネルギーを吸収する。これにより、衝突によるフロントピラーロアの変形を抑制できる、と特許文献1には記載されている。
【0005】
特許文献2に開示された車体部品は、閉断面を有する第1構造体と、閉断面を有して、第1構造体に溶接された第2構造体と、を備える。そのため、車体部品は、第1構造体のみで構成される領域と、第1構造体及び第2構造体で構成される領域と、を含む。要するに、車体部品は、2つの異なる板厚の領域を含む。これにより、車体部品の衝突エネルギーの吸収能が高まる、と特許文献2には記載されている。
【0006】
特許文献3に開示された車体部品は、U字形状の第1部品と、U字形状の第2部品と、を備える。第1部品の端部及び第2部品の端部にはそれぞれ、スリットが設けられる。第1部品のスリットは、第2部品のスリットと重なるように配置され、第1部品と第2部品が相互に溶接される。したがって、車体部品の一部分において2つの部品が重なるため、強度が高まる。これにより、別部材の補強板等を備えなくても、車体部品の強度が高い、と特許文献3には記載されている。
【0007】
特許文献1~3の他に、軽量化及び強度の向上を図る技術として、フロントピラーの材料をテイラードウェルデッドブランク(以下、「TWB」ともいう。)にしたり、テイラードロールドブランク(以下、「TRB」ともいう。)にしたりすることが考えられる。また、フロントピラーの一部分に補強板を取り付けることが考えられる。
【0008】
TWBは、材質又は板厚が異なる複数の金属板を溶接によって組み合せた材料である。TWBから成形された部品は、部分的に板厚差、強度差、又はその両方を有する。
【0009】
TRBは、特殊なロール圧延によって成形された金属板であり、連続的に板厚が変化する材料である。TRBから成形された部品は、部分的に板厚差、強度差、又はその両方を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-118009号公報
【文献】特開平5-310147号公報
【文献】特開2016-2781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のフロントピラーロアは、別部材である補強部品を備える。特許文献2に記載の車体部品は、第1構造体の長手方向に沿って、第1構造体と溶接された第2構造体を備える。特許文献3に記載の車体部品では、第1部品と第2部品との溶接部の断面の全域にわたって、第1部品が第2部品と溶接されている。したがって、特許文献1~3の車体部品の重量は、いずれも重い。
【0012】
また、TWBは複数の金属板を接合したものであるため、TWBを製造する上で別途の接合工程が必要になる。このため、TWBから成形された部品は高価である。また、補強板により補強された部品を製造する上でも接合工程が必要になる。このため、この部品も高価である。TRBは、製造コストが高い。このため、TRBから成形された部品も高価である。
【0013】
本発明の目的は、安価で、軽量かつ高強度のフロントピラーアウタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態によるフロントピラーアウタは、ガラス面側フランジ部と、ドア側フランジ部と、ガラス面側フランジ部及びドア側フランジ部をつなぐ本体部と、を含む。ドア側フランジ部の長手方向の一部の領域において、ドア側フランジ部の側縁につながる第1板部が折り返されて、ドア側フランジ部に第1板部が重ね合わされている。ガラス面側フランジ部の長手方向の一部の領域において、ガラス面側フランジ部の側縁につながる第2板部が折り返されて、ガラス面側フランジ部に第2板部が重ね合わされている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によるフロントピラーアウタは、安価で、軽量かつ高強度である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態のフロントピラーアウタの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の線II-IIにおけるフロントピラーの断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の線III-IIIにおけるフロントピラーの断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すフロントピラーアウタの成形途中の段階を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、衝突荷重が負荷されたときのフロントピラーアウタを示す斜視図である。
【
図6】
図6は、フロントピラーアウタを含む車体構造の一部を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本実施形態のフロントピラーアウタの他の一例を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、実施例の解析条件を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明はそれらの例示に限定されない。
【0018】
本実施形態によるフロントピラーアウタは、ガラス面側フランジ部と、ドア側フランジ部と、ガラス面側フランジ部及びドア側フランジ部をつなぐ本体部と、を含む。ドア側フランジ部の長手方向の一部の領域において、ドア側フランジ部の側縁につながる第1板部が折り返されて、ドア側フランジ部に第1板部が重ね合わされている。ガラス面側フランジ部の長手方向の一部の領域において、ガラス面側フランジ部の側縁につながる第2板部が折り返されて、ガラス面側フランジ部に第2板部が重ね合わされている。
【0019】
本実施形態のフロントピラーアウタに衝突荷重が負荷されると、フロントピラーアウタは湾曲する。これにより、ドア側フランジ部の長手方向の一部の領域に圧縮ひずみが付与される。本明細書では、この圧縮ひずみが付与される領域を「ドア側圧縮部位」ともいう。一方、ガラス面側フランジ部の長手方向の一部の領域に引張ひずみが付与される。本明細書では、この引張ひずみが付与される領域を「ガラス面側引張部位」ともいう。また、ガラス面側フランジ部の長手方向の他の一部の領域に圧縮ひずみが付与される。本明細書では、この圧縮ひずみが付与される領域を「ガラス面側圧縮部位」ともいう。ドア側圧縮部位及びガラス面側圧縮部位を総称して「圧縮ひずみ部位」ともいう。ガラス面側引張部位を総称して「引張ひずみ部位」ともいう。衝突時、圧縮ひずみ部位は座屈しやすい。
【0020】
本実施形態のフロントピラーアウタでは、ドア側圧縮部位において、第1板部が配置されてドア側フランジ部と重ね合わされている。さらに、ガラス面側圧縮部位において、第2板部が配置されてガラス面側フランジ部と重ね合わされている。要するに、ドア側圧縮部位及びガラス面側圧縮部位のいずれでも、材料が二重に積み重なっている。ここで、圧縮ひずみ部位の衝突特性は、材料の強度と材料の板厚の概ね三乗との積に比例する。このため、圧縮ひずみ部位で材料の板厚を厚くすることは、衝突特性の向上に大きく寄与する。この衝突特性は、耐座屈強度と称される。本実施形態のフロントピラーアウタでは、圧縮ひずみ部位(ドア側圧縮部位及びガラス面側圧縮部位)において、材料が二重に積み重なっており、板厚が実質的に厚くなっている。このため、圧縮ひずみ部位の耐座屈強度が大きく向上する。これにより、フロントピラーアウタの強度を高めることができる。
【0021】
本実施形態のフロントピラーアウタでは、ガラス面側引張部位は、単一の材料で構成される。ここで、引張ひずみ部位の衝突特性は、材料の強度と材料の板厚との積に比例する。このため、引張ひずみ部位で材料の板厚を厚くすることは、圧縮ひずみ部位で材料の板厚を厚くするほど衝突特性の向上に寄与するわけではない。引張ひずみ部位の衝突特性を向上させるには、材料の強度を高くすればよい。材料の強度を高くすれば、圧縮ひずみ部位の衝突特性もさらに向上する。本実施形態のフロントピラーアウタでは、引張ひずみ部位の板厚が増加するわけではない。このため、重量の増加が抑えられ、材料の強度を高くすることによってフロントピラーアウタの重量を軽くすることができる。
【0022】
また、本実施形態のフロントピラーアウタでは、ドア側圧縮部位において、ドア側フランジ部に対して、ドア側フランジ部と一体ものの第1板部が折り返されることにより、材料が二重に積み重なっている。さらに、ガラス面側圧縮部位において、ガラス面側フランジ部に対して、ガラス面側フランジ部と一体ものの第2板部が折り返されることにより、材料が二重に積み重なっている。要するに、ドア側圧縮部位及びガラス面側圧縮部位のいずれでも、別個に成形した2つの部材を接合することは行わずに、第1板部及び第2板部をそれぞれ折り返すことを行えば済む。このため、フロントピラーアウタを安価に製造することができる。
【0023】
第1板部及び第2板部それぞれの折り返し加工は、ホットスタンプによって行うことが好ましい。ホットスタンプによる折り返し加工の場合、加工時に材料の温度が高いため、材料の延性が高い。このため、第1板部はドア側フランジ部の側縁で急峻に折り曲げられるところ、この折り曲げ部に割れが発生することはない。同様に、第2板部はガラス面側フランジ部の側縁で急峻に折り曲げられるところ、この折り曲げ部に割れが発生することはない。ただし、第1板部及び第2板部それぞれの折り返し加工は、材料の特性次第で、冷間プレスによって行うことも可能である。
【0024】
第1板部及び第2板部それぞれの折り返し方向は、特に限定されない。具体的には、第1板部がフロントピラーアウタの表に出るように折り返されてもよいし、第1板部がフロントピラーアウタの裏に隠れるように折り返されてもよい。同様に、第2板部がフロントピラーアウタの表に出るように折り返されてもよいし、第2板部がフロントピラーアウタの裏に隠れるように折り返されてもよい。
【0025】
ただし、他部品との密着状態を担保する必要がある場合等では適宜、第1板部及び第2板部の折り返し方向を不具合の内容に応じて設定する必要がある。例えば、ガラス面側フランジ部にフロントガラスを乗せて密着させる必要がある場合、第1板部及び第2板部を表側に折り返すと、ガラス面側フランジ部に段差ができ、フロントガラスがガラス面側フランジ部に密着しなくなるおそれがある、これにより不具合が生じる場合は第1板部及び第2板部の折り返す向きを裏向きにする必要がある。
【0026】
ここでいうフロントピラーアウタの表裏とは、フロントピラーアウタが自動車に搭載された状態での表裏を意味する。具体的には、フロントピラーアウタの表とは、フロントピラーアウタの外側を意味し、フロントピラーアウタの裏とは、フロントピラーアウタの内側を意味する。
【0027】
本実施形態のフロントピラーアウタにおいて、ガラス面側フランジ部の長さをLとしたとき、第1板部とドア側フランジ部との重なり領域は、ドア側フランジ部において、ガラス面側フランジ部の後端に相当する位置と、ガラス面側フランジ部の後端に相当する位置からL×2/3の位置と、の間の範囲の一部又は全域に設けられるのが好ましい。
【0028】
多くの場合、フロントピラーアウタに衝突荷重が負荷されたとき、フロントピラーアウタの後端近傍の湾曲した領域のドア側フランジ部に大きな圧縮ひずみが生じやすい。つまり、ドア側圧縮部位は、フロントピラーアウタの後端寄りに配置されやすい。したがって、そのような範囲の一部又は全部において、第1板部とドア側フランジ部とが相互に重なっていれば、フロントピラーアウタの座屈をより抑制することができる。
【0029】
本実施形態のフロントピラーアウタにおいて、ガラス面側フランジ部の長さをLとしたとき、第2板部とガラス面側フランジ部との重なり領域は、ガラス面側フランジ部の前端からL×1/8の位置と、ガラス面側フランジ部の前端からL×2/3の位置と、の間の範囲の一部又は全域に設けられるのが好ましい。
【0030】
フロントピラーアウタに衝突荷重が負荷されたとき、フロントピラーアウタの前端近傍の領域のガラス面側フランジ部に大きな圧縮ひずみが生じやすい。つまり、ガラス面側圧縮部位は、フロントピラーアウタの前端寄りに配置されやすい。したがって、そのような範囲の一部又は全部において、第2板部とガラス面側フランジ部とが相互に重なっていれば、フロントピラーアウタの座屈をより抑制することができる。
【0031】
上記のフロントピラーアウタにおいて、板厚は、特に限定されない。実用的には、板厚は、0.60mm以上、1.60mm以下であるのが好ましい。板厚の下限は、より好ましくは0.85mmである。板厚の上限は、より好ましくは1.05mmである。また、フロントピラーアウタの引張強度(材料の強度)は、800MPa以上であるのが好ましい。引張強度の下限は、より好ましくは1200MPaである。
【0032】
なお、第1板部とドア側フランジ部との重なり領域において、第1板部とドア側フランジ部とが相互に接合されてもよい。同様に、第2板部とガラス面側フランジ部との重なり領域において、第2板部とガラス面側フランジ部とが相互に接合されてもよい。その接合方法は、例えば溶接である。溶接方法は、レーザ溶接、及びスポット溶接等である。その接合方法は、機械締結、及び接着剤による接着等であってもよい。これらの接合方法を併用することもできる。
【0033】
この場合、フロントピラーアウタは自動車用のフロントピラーアウタに適する。
【0034】
本明細書において、フロントピラーアウタの各方向は、フロントピラーアウタが自動車に搭載された状態での方向を意味する。例えば「前」、「後」、「左」、「右」、「上」及び「下」の各方向は、自動車の各方向と一致する。図面中の符号「F」、「Re」、「Le」、「R」、「U」及び「D」は、それぞれ自動車の前、後、左、右、上及び下を意味する。また、本明細書において、特に断りがない限り、「長手方向」とは、フロントピラーアウタの前端から後端に沿う方向を意味する。「断面」とは、フロントピラーアウタの長手方向に垂直な断面を意味する。
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0036】
[フロントピラーアウタ1]
図1は、本実施形態のフロントピラーアウタ1の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1の線II-IIにおけるフロントピラー101の断面図である。
図2には、フロントピラーアウタ1の後端1re近傍の断面が示される。
図2に示される断面には、ドア側圧縮部位A1が含まれる。
図3は、
図1の線III-IIIにおけるフロントピラー101の断面図である。
図3には、フロントピラーアウタ1の前端1fe近傍の断面が示される。
図3に示される断面には、ガラス面側圧縮部位A2及びドア側圧縮部位A1が含まれる。
図4は、
図1に示すフロントピラーアウタ1の成形途中の段階を示す斜視図である。
図1~
図4には、自動車に搭載される2つのフロントピラーアウタのうちの左側に配置されるフロントピラーアウタ1が示される。
【0037】
まず、
図2及び
図3を参照して、フロントピラー101は、フロントガラス102を支持する。厳密に言えば、ここでのフロントピラー101は、車体の骨格を構成するフロントピラーアッパである。フロントピラーアッパを構成する部材の1つがフロントピラーアウタ1である。
【0038】
フロントピラー101は、サイドパネル104、フロントピラーインナ105、及びフロントピラーアウタ1を含む。サイドパネル104は、フロントピラーインナ105及びフロントピラーアウタ1の外側に配置される。サイドパネル104とフロントピラーインナ105によって、閉断面が形成される。フロントピラーアウタ1は、その閉断面の内部に配置される。フロントピラーアウタ1は、フロントピラー101を補強する役割を担う。
【0039】
図1~
図3を参照して、フロントピラーアウタ1は、ガラス面側フランジ部2、ドア側フランジ部3、及び本体部4を含む。本体部4は、フロントピラーアウタ1の幅方向において、ガラス面側フランジ部2とドア側フランジ部3との間に配置される。本体部4は、ガラス面側フランジ部2及びドア側フランジ部3をつなぐ。
【0040】
フロントピラーアウタ1のガラス面側フランジ部2は、溶接等によって、サイドパネル104及びフロントピラーインナ105と接合される。ガラス面側フランジ部2は、フロントガラス102の側縁を直接的又は間接的に支持する領域を含む。ガラス面側フランジ部2は、サイドパネル104及びフロントピラーインナ105とともに、フロントガラス102の側縁を支持する。
【0041】
ドア側フランジ部3は、溶接等によって、サイドパネル104及びフロントピラーインナ105と接合される。ドア側フランジ部3は、ドア103の上縁と直接的又は間接的に対向する領域を含む。ドア側フランジ部3は、サイドパネル104及びフロントピラーインナ105とともに、ドア103の上縁と対向する。フロントピラーアウタ1の断面形状は、ハット形である。
【0042】
図1~
図4を参照して、ドア側フランジ部3は、ドア側圧縮部位A1を含む。ドア側圧縮部位A1は、ドア側フランジ部3の長手方向の一部の領域である。ドア側圧縮部位A1には、フロントピラーアウタ1に衝突荷重が負荷されたときに、圧縮ひずみが付与される。
【0043】
ガラス面側フランジ部2は、ガラス面側圧縮部位A2を含む。ガラス面側圧縮部位A2は、ガラス面側フランジ部2の長手方向の一部の領域である。ガラス面側圧縮部位A2には、フロントピラーアウタ1に衝突荷重が負荷されたときに、圧縮ひずみが付与される。
【0044】
また、ガラス面側フランジ部2は、ガラス面側引張部位Bを含む。ガラス面側引張部位Bは、ガラス面側フランジ部2の長手方向の一部の領域である。ガラス面側引張部位Bには、フロントピラーアウタ1に衝突荷重が負荷されたときに、引張ひずみが付与される。
【0045】
ドア側圧縮部位A1の全域に第1板部3aが配置されている。ドア側圧縮部位A1において、第1板部3aは、ドア側フランジ部3の側縁3b(
図2~4参照)につながっている。第1板部3aは、もとはドア側フランジ部3の側縁3bから突出した部分であり、ドア側フランジ部3と一体ものである。第1板部3aは、ドア側フランジ部3に対して折り返されて、ドア側フランジ部3に重ね合わされている。要するに、ドア側圧縮部位A1の全域において、材料が二重に積み重なっている。これにより、ドア側圧縮部位A1の全域の板厚が実質的に厚くなっている。このため、ドア側圧縮部位A1の耐座屈強度が大きく向上する。これにより、フロントピラーアウタ1の強度を高めることができる。
【0046】
なお、ドア側フランジ部3のうちでドア側圧縮部位A1以外の領域には、第1板部3aは配置されない。
【0047】
ドア側圧縮部位A1において、別個に成形した2つの部材を接合することは行わずに、第1板部3aを折り返すことを行えば済む。このため、フロントピラーアウタ1を安価に製造することができる。
【0048】
図1~
図4に示す一例では、第1板部3aは、ドア側フランジ部3の表に出るように折り返されて、ドア側フランジ部3の表面に重ね合わされている。第1板部3aの一部が、ドア側フランジ部3と本体部4とをつなぐ稜線部5にかかってもよいし、さらに本体部4にかかってもよい。
【0049】
図1~
図4に示す一例では、第1板部3aとドア側フランジ部3との重なり領域O1は、ドア側圧縮部位A1の範囲と一致する。本明細書では、この重なり領域O1を「ドア側重なり領域」ともいう。ドア側圧縮部位A1の範囲は、ガラス面側フランジ部2の長さをLとしたとき、ドア側フランジ部3において、ガラス面側フランジ部2の後端2reに相当する位置と、ガラス面側フランジ部2の後端2reに相当する位置からL×2/3の位置と、の間の範囲である。このため、ドア側重なり領域O1は、ドア側圧縮部位A1の範囲の全域に設けられる。ただし、ドア側重なり領域O1は、ドア側圧縮部位A1の範囲の一部に設けられてもよい。例えば、ドア側フランジ部3の後端3re付近の領域において、圧縮ひずみが小さい場合がある。この場合、ドア側フランジ部3の後端3re付近の領域で第1板部3aが存在しなくてもよい。
【0050】
ガラス面側圧縮部位A2の全域に第2板部2aが配置されている。ガラス面側圧縮部位A2において、第2板部2aは、ガラス面側フランジ部2の側縁2b(
図3~4参照)につながっている。第2板部2aは、もとはガラス面側フランジ部2の側縁2bから突出した部分であり、ガラス面側フランジ部2と一体ものである。第2板部2aは、ガラス面側フランジ部2に対して折り返されて、ガラス面側フランジ部2に重ね合わされている。要するに、ガラス面側圧縮部位A2の全域において、材料が二重に積み重なっている。これにより、ガラス面側圧縮部位A2の全域の板厚が実質的に厚くなっている。このため、ガラス面側圧縮部位A2の耐座屈強度が大きく向上する。これにより、フロントピラーアウタ1の強度を高めることができる。
【0051】
なお、ガラス面側フランジ部2のうちでガラス面側圧縮部位A2以外の領域には、第2板部2aは配置されない。
【0052】
ガラス面側圧縮部位A2において、別個に成形した2つの部材を接合することは行わずに、第2板部2aを折り返すことを行えば済む。このため、フロントピラーアウタ1を安価に製造することができる。
【0053】
図1~
図4に示す一例では、第2板部2aは、ガラス面側フランジ部2の表に出るように折り返されて、ガラス面側フランジ部2の表面に重ね合わされている。第2板部2aの一部が、ガラス面側フランジ部2と本体部4とをつなぐ稜線部6にかかってもよいし、さらに本体部4にかかってもよい。
【0054】
図1~
図4に示す一例では、第2板部2aとガラス面側フランジ部2との重なり領域O2は、ガラス面側圧縮部位A2の範囲と一致する。本明細書では、この重なり領域O2を「ガラス面側重なり領域」ともいう。ガラス面側圧縮部位A2の範囲は、ガラス面側フランジ部2の長さをLとしたとき、ガラス面側フランジ部2の前端2feからL×1/8の位置と、ガラス面側フランジ部2の前端2feからL×2/3の位置と、の間の範囲である。このため、ガラス面側重なり領域O2は、ガラス面側圧縮部位A2の範囲の全域に設けられる。ただし、ガラス面側重なり領域O2は、ガラス面側圧縮部位A2の範囲の一部に設けられてもよい。
【0055】
ガラス面側引張部位Bは、ガラス面側圧縮部位A2の後方に位置する。ガラス面側引張部位Bは、ガラス面側圧縮部位A2と隣接し、ガラス面側フランジ部2の後端2reまで存在している。ガラス面側引張部位Bには、第2板部2aは配置されない。このため、ガラス面側引張部位Bは、単一の材料で構成される。これにより、重量の増加が抑えられ、材料の強度を高くすることによってフロントピラーアウタ1の重量を軽くすることができる。
【0056】
第1板部3a及び第2板部2aそれぞれの折り返し加工は、例えばホットスタンプによって行う。冷間プレスによって、第1板部3a及び第2板部2aそれぞれの折り返し加工を行ってもよい。第1板部3a及び第2板部2aそれぞれの折り返し加工は、フロントピラーアウタ1の成形とともに行ってもよい。ただし、それらの折り返し加工は、フロントピラーアウタ1の成形前に行ってもよいし、フロントピラーアウタ1の成形後に行ってもよい。
【0057】
[衝突時のフロントピラーアウタ1の変形挙動と、圧縮ひずみ部位及び引張ひずみ部位の関係]
上記のとおり、ドア側圧縮部位A1に対応するドア側重なり領域O1では、材料が二重に積み重なっている。ガラス面側圧縮部位A2に対応するガラス面側重なり領域O2でも、材料が二重に積み重なっている。一方、ガラス面側引張部位Bは、単一の材料で構成されている。このため、圧縮ひずみ部位(ドア側圧縮部位A1及びガラス面側圧縮部位A2)の板厚は、引張ひずみ部位(ガラス面側引張部位B)及びその他の各領域よりも実質的に厚い。したがって、圧縮ひずみ部位の衝突特性は、引張ひずみ部位及びその他の各領域よりも高い。
【0058】
図5は、衝突荷重が負荷されたときのフロントピラーアウタ1を示す斜視図である。
図5を参照して、フロントピラーアウタ1が自動車に搭載された状態において、フロントピラーアウタ1の前端1feは後端1reよりも低い位置に配置される。自動車が正面衝突したとき、衝突荷重Pはフロントピラーアウタ1の前端1feに負荷される。フロントピラーアウタ1は前端1feから後端1reにかけて上方向に凸に湾曲した形状を有する。フロントピラーアウタ1に衝突荷重Pがかかると、フロントピラーアウタ1の湾曲部分に応力が集中し、湾曲部分が上方に折れ曲がろうとする。このため、ドア側フランジ部3には圧縮応力が作用して、圧縮ひずみが付与される。一方、ガラス面側フランジ部2には引張応力が作用して、引張ひずみが付与される。ドア側フランジ部3に作用する圧縮応力、及びガラス面側フランジ部2に作用する引張応力により、ガラス面側フランジ部2に圧縮ひずみが付与される。
【0059】
圧縮ひずみが過剰に大きくなると、フロントピラーアウタ1は座屈し、上方に向けて折れ曲がる。フロントピラーアウタ1が座屈すると、フロントピラーアウタ1の衝突エネルギー吸収能は著しく低下する。したがって、フロントピラーアウタ1の衝突特性を高めるには、フロントピラーアウタ1の座屈を抑制する必要がある。
【0060】
フロントピラーアウタ1の座屈を抑制するには、ドア側フランジ部3において、圧縮ひずみが付与される領域、すなわちドア側圧縮部位A1の衝突特性を高めるのが効果的である。ガラス面側フランジ部2において、圧縮ひずみが付与される領域、すなわちガラス面側圧縮部位A2の衝突特性を高めることも、フロントピラーアウタ1の座屈の抑制に寄与する。
【0061】
フロントピラーアウタ1の場合、
図1、
図2及び
図5に示される領域Sにおいて、ドア側フランジ部3の曲率が大きい。この領域Sに圧縮ひずみが付与される。この領域がドア側圧縮部位A1となる。また、ガラス面側フランジ部2の一部にも圧縮ひずみが付与される。この領域がガラス面側圧縮部位A2となる。
【0062】
ガラス面側フランジ部2において、ガラス面側圧縮部位A2の後方の領域に引張ひずみが付与される。この領域がガラス面側引張部位Bとなる。
【0063】
ここで、フロントピラーアウタ1の衝突特性(耐座屈強度)は、圧縮ひずみ部位における材料の板厚に大きく依存する。引張ひずみ部位における材料の板厚は、圧縮ひずみ部位における材料の板厚ほど、フロントピラーアウタ1の衝突特性に影響しない。したがって、ガラス面側引張部位Bにおける材料の板厚は、ドア側圧縮部位A1及びガラス面側圧縮部位A2における材料の板厚よりも薄くてよい。
【0064】
図6は、フロントピラーアウタ1を含む車体構造の一部を示す模式図である。
図6では、フロントピラーのサイドパネルの図示は省略する。
図6を参照して、フロントピラーの後端は、車両のルーフ106に接合される。ルーフ106は、地面に対しておおよそ水平に設けられる。一方、車両のフロントガラス102は、地面に対して斜めに配置される。このため、フロントピラーは、自身の後端近傍で湾曲する。これに伴って、フロントピラーアウタ1も、自身の後端1re近傍で湾曲する。
【0065】
フロントピラーアウタ1に衝突荷重が負荷されたとき、フロントピラーアウタ1の後端1re近傍の湾曲した領域Sのドア側フランジ部3に大きな圧縮ひずみが生じやすい。車種によりフロントピラーアウタ1の形状は異なる。このため、大きな圧縮ひずみが発生する部分は車種により異なる。しかしながら、多くの場合、圧縮ひずみが付与される領域は一定の範囲内に定められる。具体的には、
図6に示すように、ドア側フランジ部3において、ガラス面側フランジ部2の後端2reに相当する位置R1と、ガラス面側フランジ部2の後端2reに相当する位置R1からL×2/3の位置と、の間の範囲に、圧縮ひずみが付与される。要するに、この範囲がドア側圧縮部位A1の範囲である。ここで、Lは、フロントピラーアウタ1のガラス面側フランジ部2のドア側の縁に沿った弧長(長手方向の長さ)を意味する。位置R1は、ドア側フランジ部3の後端3reに相当する。
【0066】
したがって、
図1に示すように、ドア側重なり領域O1は、ドア側フランジ部3において、ガラス面側フランジ部2の後端2reに相当する位置R1と、ガラス面側フランジ部2の後端2reに相当する位置R1からL×2/3の位置と、の間の範囲の少なくとも一部に設けられる。つまり、ドア側重なり領域O1は、ドア側圧縮部位A1の範囲の一部又は全域に設けられる。
図1には、ドア側圧縮部位A1の範囲の全域に、ドア側重なり領域O1が設けられた例が示される。
【0067】
図7は、本実施形態のフロントピラーアウタ1の他の一例を示す斜視図である。
図7に示すフロントピラーアウタ1では、ドア側フランジ部3の後端3re付近の領域において、圧縮ひずみが小さい。この場合、ドア側フランジ部3の後端3re付近の領域で第1板部3aが存在しない。つまり、
図7には、ドア側圧縮部位A1の一部に、ドア側重なり領域O1が設けられた例が示される。
【0068】
図1を参照して、フロントピラーアウタ1に衝突荷重が負荷されたとき、フロントピラーアウタ1の前端1fe近傍のガラス面側フランジ部2に大きな圧縮ひずみが生じやすい。この圧縮ひずみは、ドア側フランジ部3に作用する圧縮応力、及びガラス面側フランジ部2に作用する引張応力に起因する。多くの場合、この圧縮ひずみが付与される領域は一定の範囲内に定められる。具体的には、
図1に示すように、ガラス面側フランジ部2において、ガラス面側フランジ部2の前端2feからL×1/8の位置と、ガラス面側フランジ部2の前端2feからL×2/3の位置と、の間の範囲に、圧縮ひずみが付与される。要するに、この範囲がガラス面側圧縮部位A2である。ここで、Lは、フロントピラーアウタ1のガラス面側フランジ部2のドア側の縁に沿った弧長(長手方向の長さ)を意味する。
【0069】
したがって、
図1に示すように、ガラス面側重なり領域O2は、ガラス面側フランジ部2において、ガラス面側フランジ部2の前端2feからL×1/8の位置と、ガラス面側フランジ部2の前端2feからL×2/3の位置と、の間の範囲の少なくとも一部に設けられる。つまり、ガラス面側重なり領域O2は、ガラス面側圧縮部位A2の範囲の一部又は全域に設けられる。
図1には、ガラス面側圧縮部位A2の範囲の全域に、ガラス面側重なり領域O2が設けられた例が示される。
【0070】
[板厚]
フロントピラーアウタ1において、板厚は、実用的には、0.60mm以上、1.60mm以下であるのが好ましい。板厚が0.60mm以上であれば、材料が二重に積み重なっている圧縮ひずみ部位の強度を十分に確保することができる。材料の重なりがなくて、単一の材料で構成された、引張ひずみ部位及びその他の各領域でも同様のことがいえる。一方、板厚が1.60mm以下であれば、重量の増加を抑えることができる。また、板厚が1.60mm以下であれば、第1板部3a及び第2板部2aの折り返し加工を支障なく行うことができる。
【0071】
[引張強度]
フロントピラーアウタ1において、引張強度は、800MPa以上であるのが好ましい。引張強度が800MPa以上であれば、材料が二重に積み重なっている圧縮ひずみ部位の強度を十分に向上させることができる。材料の重なりがなくて、単一の材料で構成された、引張ひずみ部位及びその他の各領域でも同様のことがいえる。引張強度の下限は、より好ましくは1200MPaであり、さらに好ましくは1500MPaである。
【0072】
[第1板部3a及び第2板部2aの折り返し加工]
第1板部3a及び第2板部2aそれぞれの折り返し加工は、ホットスタンプによって行うことが好ましい。ホットスタンプによる折り返し加工の場合、加工時に材料の温度が高いため、材料の延性が高い。このため、第1板部3aはドア側フランジ部3の側縁3bで急峻に折り曲げられるところ、この折り曲げ部に割れが発生することはない。同様に、第2板部2aはガラス面側フランジ部2の側縁2bで急峻に折り曲げられるところ、この折り曲げ部に割れが発生することはない。ただし、第1板部3a及び第2板部2aそれぞれの折り返し加工は、材料の特性次第で、冷間プレスによって行うことも可能である。
【0073】
[追加の技術]
ドア側圧縮部位A1に対応するドア側重なり領域O1において、第1板部3aとドア側フランジ部3とが相互に接合されてもよい。同様に、ガラス面側圧縮部位A2に対応するガラス面側重なり領域O2において、第2板部2aとガラス面側フランジ部2とが相互に接合されてもよい。二重に積み重なった材料同士が接合されれば、圧縮ひずみ部位の強度がより向上するからである。
【0074】
その接合方法は、例えば溶接である。溶接方法は、レーザ溶接、及びスポット溶接等である。その接合方法は、機械締結、及び接着剤による接着等であってもよい。これらの接合方法を併用することもできる。これらの接合方法のうちでレーザ溶接又はスポット溶接が好ましい。生産性に優れるからである。
【実施例1】
【0075】
本実施形態のフロントピラーアウタの効果を確認するために、CAE(Computer Aided Engineering)解析を実施した。衝突特性を評価するため、CAE解析により衝突試験を模擬した。発明例1~4のモデルとして、
図1に示すフロントピラーアウタ1を作製した。発明例1~4のモデルでは板厚を種々変更した。比較例のモデルとして、第1板部及び第2板部を有しないフロントピラーアウタを作製した。各モデルの引張強度は1500(MPa)で一定とした。
【0076】
[解析条件]
図8は、実施例の解析条件を示す模式図である。
図8を参照して、フロントピラーアウタ1の前端1feに、フロントピラーアウタ1の長手方向に沿う変位Dを付与した。一方、ガラス面側フランジ部2の後端2reは固定した。
【0077】
変位Dによってフロントピラーアウタ1の前端1fe近傍に曲げモーメントM1が生じた。この曲げモーメントM1の向きは、車両の左方から見て、時計回りであった。変位Dは、フロントピラーアウタ1の前端1feから後端1reに向かう方向を正とした。変位Dによってガラス面側フランジ部2の後端2reに曲げモーメントM2が生じた。この曲げモーメントM2の向きは、車両の左方から見て、曲げモーメントM1と同じ向きの時計回りであった。
【0078】
[評価方法]
各モデルにおいて、変位Dの付与によって座屈が発生した時点の荷重、すなわち最大荷重を調査した。さらに、比較例のモデルの最大荷重を基準とし、比較例のモデルの最大荷重に対する各モデルの最大荷重の増加量の百分率を算出した。また、各モデルの重量を算出した。さらに、比較例のモデルの重量を基準とし、比較例のモデルの重量に対する各モデルの重量の減少量の百分率、すなわち軽量化率を算出した。そして、最大荷重の増加率、及び軽量化率を比較して、評価した。
【0079】
[結果]
下記の表1に結果を示す。
【0080】
【0081】
表1の結果から下記のことが示される。発明例1~4の軽量化率はいずれも0を超えた。つまり、発明例1~4のフロントピラーアウタは、比較例のフロントピラーアウタよりも軽かった。発明例1~4の最大荷重の増加率はいずれも0を超えた。つまり、発明例1~4のフロントピラーアウタは、比較例のフロントピラーアウタよりも衝突特性(耐座屈強度)が向上した。
【実施例2】
【0082】
実施例1と同様に、CAE解析を実施した。実施例2における発明例11~20のモデルでは、本体の板厚を1.05mmで一定とし、第1板部及び第2板部それぞれの設置領域を種々変更した。実施例2における比較例のモデルとして、実施例1における比較例のモデル(板厚:1.25mm)を用いた。下記の表2に各モデルの変更した条件を示す。その他の諸条件は実施例1のものと同じであった。
【0083】
【0084】
表2の結果から下記のことが示される。発明例11~20の軽量化率はいずれも0を超えた。つまり、発明例11~20のフロントピラーアウタは、比較例のフロントピラーアウタよりも軽かった。発明例11~20の最大荷重の増加率はいずれも0を超えた。つまり、発明例11~20のフロントピラーアウタは、比較例のフロントピラーアウタよりも衝突特性(耐座屈強度)が向上した。
【0085】
実施例1及び2の結果から、本実施形態のフロントピラーアウタによれば、軽量かつ高強度を実現できることが実証された。特に、実施例2の結果から、第1板部の設置領域、すなわちドア側重なり領域O1が、ドア側圧縮部位A1の一部又は全域に設置され、さらに第2板部の設置領域、すなわちガラス面側重なり領域O2が、ガラス面側圧縮部位A2の一部又は全域に設置された場合、より有効に軽量かつ高強度を実現できることが実証された。
【0086】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0087】
1:フロントピラーアウタ
1fe:フロントピラーアウタの前端
1re:フロントピラーアウタの後端
2:ガラス面側フランジ部
2a:第2板部
2b:側縁
2fe:ガラス面側フランジ部の前端
2re:ガラス面側フランジ部の後端
3:ドア側フランジ部
3a:第1板部
3b:側縁
3re:ドア側フランジ部の後端
4:本体部
5:稜線部
6:稜線部
A1:ドア側圧縮部位
A2:ガラス面側圧縮部位
B:ガラス面側引張部位
O1:ドア側重なり領域
O2:ガラス面側重なり領域
101:フロントピラー
102:フロントガラス
103:ドア
104:サイドパネル
105:フロントピラーインナ
106:ルーフ