(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】溶接構造体、ならびにその設計方法および施工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20230621BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20230621BHJP
G01N 3/30 20060101ALI20230621BHJP
B23K 9/00 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K9/02 D
B23K9/02 S
G01N3/30 S
B23K9/00 501A
(21)【出願番号】P 2022555155
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015906
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2021121170
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】大川 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】小田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】島貫 広志
(72)【発明者】
【氏名】米澤 隆行
(72)【発明者】
【氏名】井上 健裕
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-041966(JP,A)
【文献】特開2020-117779(JP,A)
【文献】特開2021-094573(JP,A)
【文献】国際公開第2020/136777(WO,A1)
【文献】特開2012-052873(JP,A)
【文献】特開2018-039052(JP,A)
【文献】国際公開第2013/168429(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 9/02
G01N 3/30
B23K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体であって、
前記接合部材は、前記接合部材の板厚方向に垂直な第1表面および第2表面を有し、
前記接合部材の板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記接合部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1表面側に形成された第1溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みをd
1(mm)、前記第2表面側に形成された第2溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みをd
2(mm)とした時に、
d
1およびd
2が16mm以上であり、
前記接合部材の、前記第1表面からd
1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd
2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取され、厚さ方向の中心が、前記第1表面からd
1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd
2(mm)の深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、
溶接構造体。
t≧50.0 ・・・(i)
【請求項2】
前記接合部材の板厚t(mm)、前記部分溶込みd
1(mm)および前記部分溶込みd
2(mm)が、下記(ii)式および(iii)式を満足する、
請求項1に記載の溶接構造体。
t/4≦d
1<t/2 ・・・(ii)
t/4≦d
2<t/2 ・・・(iii)
【請求項3】
板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に完全溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体であって、
前記接合部材は、前記接合部材の板厚方向に垂直な第1表面および第2表面を有し、
前記接合部材の板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記接合部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記接合部材の板厚中心位置から採取され、厚さ方向の中心が前記板厚中心位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、
溶接構造体。
t≧50.0 ・・・(i)
【請求項4】
前記接合部材の板厚t(mm)が下記(iv)式を満足する、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の溶接構造体。
t>80.0 ・・・(iv)
【請求項5】
前記接合部材の降伏応力が400~580MPaであり、引張強さが510~750MPaである、
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項6】
板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の設計方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に両側部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)、前記第1部材の端面に形成する開先形状、および溶接条件を設定する、設定工程と、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とし、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記第2部材に、前記設定工程で設定された前記溶接条件にて両側部分溶込み溶接した場合の、
前記第1表面側に形成される第1溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd
1(mm)、および前記第2表面側に形成される第2溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd
2(mm)を推定する、推定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記推定工程で推定されたd
1およびd
2が16mm以上であり、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の、前記第1表面からd
1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd
2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取され、厚さ方向の中心が、前記第1表面からd
1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd
2(mm)の深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定し、かつ、前記設定工程で設定された前記溶接条件を、前記溶接構造体を製造する際の溶接条件に選定する、選定工程と、を備える、
溶接構造体の設計方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【請求項7】
前記選定工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)、前記推定工程で推定された前記部分溶込みd
1(mm)および前記部分溶込みd
2(mm)が、さらに下記(ii)式および(iii)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、
請求項6に記載の溶接構造体の設計方法。
t/4≦d
1<t/2 ・・・(ii)
t/4≦d
2<t/2 ・・・(iii)
【請求項8】
板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に完全溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の設計方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に完全部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)を設定する、設定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とした場合の、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の板厚中心位置から採取され、厚さ方向の中心が前記板厚中心位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、選定工程と、を備える、
溶接構造体の設計方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【請求項9】
前記選定工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、さらに下記(iv)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、
請求項6から請求項8までのいずれかに記載の溶接構造体の設計方法。
t>80.0 ・・・(iv)
【請求項10】
前記選定工程において、前記第1部材の降伏応力が400~580MPaであり、引張強さが510~750MPaである、という条件をさらに満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、
請求項6から請求項9までのいずれかに記載の溶接構造体の設計方法。
【請求項11】
板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の施工方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に両側部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)、前記第1部材の端面に形成する開先形状、および溶接条件を設定する、設定工程と、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とし、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記第2部材に、前記設定工程で設定された前記溶接条件にて両側部分溶込み溶接した場合の、
前記第1表面側に形成される第1溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd
1(mm)、および前記第2表面側に形成される第2溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd
2(mm)を推定する、推定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記推定工程で推定されたd
1およびd
2が16mm以上であり、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の、前記第1表面からd
1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd
2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取され、厚さ方向の中心が、前記第1表面からd
1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd
2(mm)の深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材として、前記設定工程で設定された前記溶接条件によって、前記被接合部材の素材となる部材に両側部分溶込み溶接する、溶接工程と、を備える、
溶接構造体の施工方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【請求項12】
前記溶接工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)、前記推定工程で推定された前記部分溶込みd
1(mm)および前記部分溶込みd
2(mm)が、さらに下記(ii)式および(iii)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材とする、
請求項11に記載の溶接構造体の施工方法。
t/4≦d
1<t/2 ・・・(ii)
t/4≦d
2<t/2 ・・・(iii)
【請求項13】
板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に完全溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の設計方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に完全部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)を設定する、設定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とした場合の、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の板厚中心位置から採取され、厚さ方向の中心が前記板厚中心位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材として、前記被接合部材の素材となる部材に完全溶込み溶接する、溶接工程と、を備える、
溶接構造体の施工方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【請求項14】
前記溶接工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、さらに下記(iv)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材とする、
請求項11から請求項13までのいずれかに記載の溶接構造体の施工方法。
t>80.0 ・・・(iv)
【請求項15】
前記溶接工程において、前記第1部材の降伏応力が400~580MPaであり、引張強さが510~750MPaである、という条件をさらに満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材とする、
請求項11から請求項14までのいずれかに記載の溶接構造体の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナ船等において利用される溶接構造体、ならびにその設計方法および施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大量の貨物を搭載する大型のコンテナ船においては、アッパーデッキ(上甲板)に、貨物の積み下ろしを行うための大きな開口部(ハッチ)が形成されている。また、アッパーデッキ上には、海水の流入防止等のために、ハッチを囲むようにハッチサイドコーミングが設けられている。アッパーデッキおよびハッチサイドコーミングはそれぞれ、複数の鋼板を溶接して構成されている。また、ハッチサイドコーミングは、アッパーデッキ上に溶接されている。
【0003】
上記のような大型のコンテナ船が海上を航行する際には、波浪によって、船体全体を曲げるような荷重(縦曲げ荷重)が船体に負荷される。このような荷重に対して、船体の強度(縦曲げ強度)を十分に確保するために、アッパーデッキおよびハッチサイドコーミングには、高強度の厚肉鋼板が利用されている。
【0004】
また、上述のように、ハッチサイドコーミングおよびアッパーデッキはそれぞれ、複数の鋼板を溶接した構成を有している。言い換えると、ハッチサイドコーミングおよびアッパーデッキには、鋼板同士を溶接したことによる複数の溶接部が形成されている。溶接部で発生したき裂は、溶接部に沿って伝播しやすい。このため、例えば、ハッチサイドコーミングの溶接部においてき裂が発生した場合、そのき裂が溶接部に沿ってアッパーデッキ側に向かって伝播し、伝播したき裂がアッパーデッキに進展する場合がある。したがって、船体の強度を十分に向上させるためには、ハッチサイドコーミングおよびアッパーデッキが、上記のようなき裂の進展を停止させることができる特性(脆性き裂伝播停止特性)を有する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1および2には、脆性き裂伝播停止特性に関する溶接構造体が開示されている。
【0006】
ところで、ハッチサイドコーミングで発生し、アッパーデッキ側に向かって伝播したき裂の進展を停止させるためには、例えば、脆性き裂伝播停止特性の指標である「-10℃におけるKca値」が6000N/mm1.5以上の厚肉鋼板を用いる必要があることが知られている。
【0007】
また、上述の例だけでなく、き裂がアッパーデッキから発生しハッチサイドコーミング側に向かって伝播する可能性もある。そして、日本海事協会と日本溶接協会との共同研究にて実施された実証試験結果によれば、アッパーデッキで発生し、ハッチサイドコーミング側に向かって伝播するき裂の進展を停止させるためには、8000N/mm1.5以上という極めて高いKca値を有する厚肉鋼板を用いる必要があることが分かってきた。
【0008】
しかしながら、このような高い脆性き裂伝播停止特性を有する厚肉鋼板を安定的に製造することは、技術的な面からもコスト的な面からも困難であるという問題がある。そのため、より合理的な手法により低コストで優れた脆性き裂伝播停止特性を有する溶接構造体を得る必要がある。
【0009】
また、鋼板のKca値を評価するには、ESSO試験(脆性破壊伝播停止試験:試験片に脆性き裂を人為的に発生させ、脆性き裂を停止させる性能を評価する試験)などの大型試験を実施する必要がある。
【0010】
しかしながら、大型試験を実施するためには、多くの時間と費用とを必要とするため、Kca値の評価が容易でないという問題がある。そのため、Kca値ではなく、より簡便に評価できるパラメータにより脆性き裂伝播停止特性を保証した溶接構造体が望ましい。
【0011】
上記の課題を解決するため、特許文献3では、ハッチサイドコーミングとなる厚肉鋼板の表層部における脆性き裂伝播停止特性を、き裂が突入する領域の深さに応じて向上させることで、低コストで優れた脆性き裂伝播停止特性を有する溶接構造体を得ることを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2007-326147号公報
【文献】特許第5365761号
【文献】国際公開第2020/136777号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3においては、主として、アッパーデッキからハッチサイドコーミング側に向かってき裂が伝播する場合において、き裂の突入領域がハッチサイドコーミングに用いられる厚肉鋼板の表層領域のみに制限されるような構造にすることを想定している。そのため、き裂が突入する領域の深さが大きい場合には、ハッチサイドコーミングに用いられる厚肉鋼板の表層部に過大な脆性き裂伝播停止特性が要求されることとなる。
【0014】
アッパーデッキとハッチサイドコーミングの接合部の継手強度を重視する場合においては、溶接金属の溶込み深さを大きく設定する必要があり、き裂の突入領域が表層領域に限られない場合もある。一般的に、厚肉鋼板においては、表層領域と内部領域とでは、金属組織の作り分けが可能であり、それゆえに脆性き裂伝播停止特性も大きく異なる場合がある。そのことから、特に、溶接金属の溶込み深さが大きい溶接構造体に関しては、内部領域の特性についても考慮する必要があり、さらなる改善の余地が残されている。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、継手強度および脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接構造体、ならびにその設計方法および施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、下記の溶接構造体を要旨とする。
【0017】
(1)板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体であって、
前記接合部材は、前記接合部材の板厚方向に垂直な第1表面および第2表面を有し、
前記接合部材の板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記接合部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1表面側に形成された第1溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みをd1(mm)、前記第2表面側に形成された第2溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みをd2(mm)とした時に、
d1およびd2が16mm以上であり、
前記接合部材の、前記第1表面からd1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取され、厚さ方向の中心が、前記第1表面からd1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd2(mm)の深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、
溶接構造体。
t≧50.0 ・・・(i)
【0018】
(2)前記接合部材の板厚t(mm)、前記部分溶込みd1(mm)および前記部分溶込みd2(mm)が、下記(ii)式および(iii)式を満足する、
上記(1)に記載の溶接構造体。
t/4≦d1<t/2 ・・・(ii)
t/4≦d2<t/2 ・・・(iii)
【0019】
(3)板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に完全溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体であって、
前記接合部材は、前記接合部材の板厚方向に垂直な第1表面および第2表面を有し、
前記接合部材の板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記接合部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記接合部材の板厚中心位置から採取され、厚さ方向の中心が前記板厚中心位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、
溶接構造体。
t≧50.0 ・・・(i)
【0020】
(4)前記接合部材の板厚t(mm)が下記(iv)式を満足する、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の溶接構造体。
t>80.0 ・・・(iv)
【0021】
(5)前記接合部材の降伏応力が400~580MPaであり、引張強さが510~750MPaである、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載の溶接構造体。
【0022】
(6)板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の設計方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に両側部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)、前記第1部材の端面に形成する開先形状、および溶接条件を設定する、設定工程と、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とし、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記第2部材に、前記設定工程で設定された前記溶接条件にて両側部分溶込み溶接した場合の、
前記第1表面側に形成される第1溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd1(mm)、および前記第2表面側に形成される第2溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd2(mm)を推定する、推定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記推定工程で推定されたd1およびd2が16mm以上であり、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の、前記第1表面からd1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取され、厚さ方向の中心が、前記第1表面からd1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd2(mm)の深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定し、かつ、前記設定工程で設定された前記溶接条件を、前記溶接構造体を製造する際の溶接条件に選定する、選定工程と、を備える、
溶接構造体の設計方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【0023】
(7)前記選定工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)、前記推定工程で推定された前記部分溶込みd1(mm)および前記部分溶込みd2(mm)が、さらに下記(ii)式および(iii)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、
上記(6)に記載の溶接構造体の設計方法。
t/4≦d1<t/2 ・・・(ii)
t/4≦d2<t/2 ・・・(iii)
【0024】
(8)板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に完全溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の設計方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に完全部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)を設定する、設定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とした場合の、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の板厚中心位置から採取され、厚さ方向の中心が前記板厚中心位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、選定工程と、を備える、
溶接構造体の設計方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【0025】
(9)前記選定工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、さらに下記(iv)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、
上記(6)から(8)までのいずれかに記載の溶接構造体の設計方法。
t>80.0 ・・・(iv)
【0026】
(10)前記選定工程において、前記第1部材の降伏応力が400~580MPaであり、引張強さが510~750MPaである、という条件をさらに満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材に選定する、
上記(6)から(9)までのいずれかに記載の溶接構造体の設計方法。
【0027】
(11)板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の施工方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に両側部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)、前記第1部材の端面に形成する開先形状、および溶接条件を設定する、設定工程と、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とし、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記第2部材に、前記設定工程で設定された前記溶接条件にて両側部分溶込み溶接した場合の、
前記第1表面側に形成される第1溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd1(mm)、および前記第2表面側に形成される第2溶接金属における、前記板厚方向における継手の部分溶込みd2(mm)を推定する、推定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記推定工程で推定されたd1およびd2が16mm以上であり、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の、前記第1表面からd1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取され、厚さ方向の中心が、前記第1表面からd1(mm)の深さ位置および前記第2表面からd2(mm)の深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚および前記開先形状を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材として、前記設定工程で設定された前記溶接条件によって、前記被接合部材の素材となる部材に両側部分溶込み溶接する、溶接工程と、を備える、
溶接構造体の施工方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【0028】
(12)前記溶接工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)、前記推定工程で推定された前記部分溶込みd1(mm)および前記部分溶込みd2(mm)が、さらに下記(ii)式および(iii)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材とする、
上記(11)に記載の溶接構造体の施工方法。
t/4≦d1<t/2 ・・・(ii)
t/4≦d2<t/2 ・・・(iii)
【0029】
(13)板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に完全溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体の設計方法であって、
第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、前記第1部材を前記第2部材に完全部分溶込み溶接する際の、前記第1部材の板厚t(mm)を設定する、設定工程と、
前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足し、
前記第1部材が有する、前記第1部材の板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とした場合の、
前記第1部材の、前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が前記第1表面および前記第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であり、
前記第1部材の板厚中心位置から採取され、厚さ方向の中心が前記板厚中心位置と一致するとともに、厚さ方向が前記板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下である、という条件を全て満足する場合に、
前記設定工程で設定された前記板厚を有する前記第1部材を、前記接合部材の素材として、前記被接合部材の素材となる部材に完全溶込み溶接する、溶接工程と、を備える、
溶接構造体の施工方法。
t≧50.0 ・・・(i)
【0030】
(14)前記溶接工程において、前記設定工程で設定された板厚t(mm)が、さらに下記(iv)式を満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材とする、
上記(11)から(13)までのいずれかに記載の溶接構造体の施工方法。
t>80.0 ・・・(iv)
【0031】
(15)前記溶接工程において、前記第1部材の降伏応力が400~580MPaであり、引張強さが510~750MPaである、という条件をさらに満足する場合に、前記第1部材を、前記接合部材の素材とする、
上記(11)から(14)までのいずれかに記載の溶接構造体の施工方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶接構造体を示す斜視図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る溶接構造体を示す斜視図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る溶接構造体を示す斜視図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る溶接構造体を示す斜視図である。
【
図7】構造モデルアレスト試験体の形状を説明するための図である。
【
図8】構造モデルアレスト試験体の形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の一実施形態に係る溶接構造体について説明する。
【0035】
1.溶接構造体の構成
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接構造体を示す斜視図である。本実施形態に係る溶接構造体10は、接合部材11および被接合部材12を備えている。接合部材11は板状であり、板厚方向に垂直な第1表面11aおよび第2表面11bを有する。また、被接合部材12は板状であり、接合部材11の端面11cが当接される被接合面12aを有する。
【0036】
そして、
図1に示すように、溶接構造体10は、端面11cが被接合面12aに当接した状態で、接合部材11が被接合部材12に溶接されたT継手部を有する。また、接合部材11には開先が設けられており、開先溶接によって接合されている。
【0037】
なお、上記のT継手部を有する溶接構造体には、
図1に示すようなT字状の構造体に加えて、例えば、
図2および3に示すような、複数のT継手部を有する構造体も含まれる。すなわち、被接合部材12の被接合面12aとは反対側の面に他の接合部材が溶接によって接合されていてもよい。この際、
図2に示すように、接合部材11と他の接合部材との端面同士が向き合う位置にある、十字状を呈する構造体であってもよい。また、
図3に示すように、端面同士は、板厚方向に直交する方向において、ずれた位置にあってもよい。
【0038】
本発明においては、厚肉の接合部材を対象としており、具体的には、接合部材11の板厚をt(mm)とした場合に、下記(i)式を満足する。接合部材11の板厚t(mm)は、下記(iv)式を満足するのが好ましい。tの上限は特に規定する必要はないが、例えば200mm、150mm、または120mmとすることができる。
t≧50.0 ・・・(i)
t>80.0 ・・・(iv)
【0039】
なお、被接合部材の板厚については特に制限はないが、接合部材と同様に、50.0mm以上であることが好ましく、80.0mm超であることがより好ましい。
【0040】
接合部材11と被接合部材12とは、
図1~3に示すように、両側部分溶込み溶接によって接合されていてもよいが、
図4に示すように、完全溶け込み溶接によって接合されていてもよい。それぞれの場合の溶接構造体の構成についてさらに説明する。
【0041】
(1)両側部分溶込み溶接
図1~3に示すように、接合部材11と被接合部材12とが両側部分溶込み溶接によって接合されている場合において、溶接構造体10は、第1表面11a側に形成された第1溶接金属13aおよび第2表面11b側に形成された第2溶接金属13bを有する。
【0042】
接合部材11および被接合部材12の接合箇所付近について、
図5を用いてさらに詳しく説明する。
図5は、両側部分溶込み溶接の場合における、溶接構造体10の、第1表面11aおよび被接合面12aに垂直な断面図である。
図5においては、図面が煩雑になることを避けるため、ハッチングは付していない。
【0043】
図5に示すように、接合部材11および被接合部材12の接合箇所の第1表面11a側には、第1溶接金属13aが形成されている。同様に、第2表面11b側には、第2溶接金属13bが形成されている。
【0044】
すなわち、接合部材11と被接合部材12とは、第1溶接金属13aおよび第2溶接金属13bによって接合されている。そのため、溶接構造体の継手強度を確保する観点からは、第1溶接金属13aおよび第2溶接金属13bの溶込み深さを所定値以上とする必要がある。
【0045】
具体的には、本実施形態に係る溶接構造体10においては、第1溶接金属13aにおける、接合部材11の板厚方向における継手の部分溶込みをd1(mm)、第2溶接金属13bにおける、接合部材11の板厚方向における継手の部分溶込みをd2(mm)とした時に、d1およびd2をいずれも16mm以上とする。
【0046】
継手強度をより高めるためには、d1およびd2は、接合部材11の板厚t(mm)との関係において、t/4以上であるのが好ましい。一方、溶接施工性の観点から、両側部分溶込み溶接においては、d1およびd2は、t/2未満であることが好ましい。すなわち、下記(ii)式および(iii)式を満足するのが好ましい。
t/4≦d1<t/2 ・・・(ii)
t/4≦d2<t/2 ・・・(iii)
【0047】
なお、部分溶込みd1は、第1表面11aと、第1表面11aと平行でかつ接合部材11の板厚方向における第1溶接金属13aの板厚中心側の端部を通る仮想的な面11fとの距離である。また、部分溶込みd2は、第2表面11bと、第2表面11bと平行でかつ接合部材11の板厚方向における第2溶接金属13bの板厚中心側の端部を通る仮想的な面11gとの距離である。第1溶接金属13aおよび第2溶接金属13bと接合部材11との境界は、目視により容易に判別することが可能である。
【0048】
また、被接合部材12から発生する亀裂は、第1溶接金属13aおよび第2溶接金属13bを経由して接合部材11に伝播する。そのため、接合部材11の脆性亀裂伝播停止特性を向上させる観点からは、接合部材11の表層部に加えて、接合部材11の第1溶接金属13aおよび第2溶接金属13bの溶込み深さに対応した深さ位置における無延性遷移温度を低くする必要がある。
【0049】
具体的には、
図5に示すように、第1表面11aおよび第2表面11bの1mm深さ位置からそれぞれ採取されるASTM E208に規定されるタイプP3試験片14a,bを用いたNRL落重試験による無延性遷移温度(以下、「NDTT
S1」および「NDTT
S2」ともいう。)を、-80℃以下とするとともに、第1表面11aからd
1(mm)の深さ位置および第2表面11bからd
2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取されるASTM E208に規定されるタイプP3試験片14c,dを用いたNRL落重試験による無延性遷移温度(以下、「NDTT
I1」および「NDTT
I2」ともいう。)を、-60℃以下とする。NDTT
S1およびNDTT
S2は-90℃以下であるのが好ましい。
【0050】
(2)完全溶込み溶接
図6は、完全溶込み溶接の場合における、溶接構造体10の、第1表面11aおよび被接合面12aに垂直な断面図である。
図6においては、図面が煩雑になることを避けるため、ハッチングは付していない。
図4および6に示すように、接合部材11と被接合部材12とが完全溶込み溶接によって接合されている場合において、溶接構造体10は、接合部材11と被接合部材12との間に溶接金属13cを有する。
【0051】
被接合部材12から発生する亀裂は、溶接金属13cを経由して接合部材11に伝播する。そのため、接合部材11の脆性亀裂伝播停止特性を向上させる観点からは、接合部材11の表層部に加えて、接合部材11の板厚中心位置における無延性遷移温度を低くする必要がある。
【0052】
具体的には、
図6に示すように、第1表面11aおよび第2表面11bの1mm深さ位置からそれぞれ採取されるASTM E208に規定されるタイプP3試験片14a,bを用いたNRL落重試験による無延性遷移温度(以下、「NDTT
S1」および「NDTT
S2」ともいう。)を、-80℃以下とするとともに、接合部材11の板厚中心位置から採取されるASTM E208に規定されるタイプP3試験片14eを用いたNRL落重試験による無延性遷移温度(以下、「NDTT
C」ともいう。)を、-60℃以下とする。NDTT
S1およびNDTT
S2は-90℃以下であるのが好ましい。
【0053】
(3)無延性遷移温度の測定方法
NDTTS1、NDTTS2、NDTTI1、NDTTI2およびNDTTCの測定方法について、詳しく説明する。なお、測定に用いられるASTM E208に規定されるタイプP3試験片(以下、単に「タイプP3試験片」という。)とは、長さ130mm、幅50mm、厚さ16mmの試験片である。
【0054】
まず、両側部分溶込み溶接および完全溶込み溶接のいずれの場合においても、第1表面11a側および第2表面11b側のそれぞれの表層部から、タイプP3試験片14a,bを採取する。この際、
図5および6に示すように、第1表面11aおよび第2表面11bのそれぞれを1mmずつ削り取った後、試験片14a,bそれぞれの一方の表面が第1表面11aおよび第2表面11bの1mm深さ位置と一致し、かつ試験片14a,bの厚さ方向が、接合部材11の板厚方向と一致するように採取する。すなわち、第1表面11aおよび第2表面11bの1mm深さ位置から17mm深さ位置までの領域から試験片14a,bが採取されることとなる。
【0055】
続いて、両側部分溶込み溶接の場合、第1溶接金属13aおよび第2溶接金属13bの溶込み深さのそれぞれに対応した深さ位置から、タイプP3試験片14c,dを採取する。この際、
図5に示すように、試験片14c,dの厚さ方向の中心が、第1表面からd
1(mm)の深さ位置(仮想的な面11f)および前記第2表面からd
2(mm)の深さ位置(仮想的な面11g)と一致し、かつ試験片14c,dの厚さ方向が、接合部材11の板厚方向と一致するように採取する。
【0056】
一方、完全溶込み溶接の場合、
図6に示すように、接合部材11の板厚中心位置から、タイプP3試験片14eを採取する。この際、試験片14eの厚さ方向の中心が、接合部材の板厚中心(仮想的な面11h)と一致し、かつ試験片14eの厚さ方向が、接合部材11の板厚方向と一致するように採取する。
【0057】
また、後述するように、試験片の長手方向と垂直な面においてき裂が発生するように試験を行う。溶接構造体において、き裂は第1溶接部13aおよび第2溶接部13bの延伸方向と垂直な面において発生する。そのため、全ての試験片は、その長手方向が溶接構造体の溶接部の延伸方向と一致するように採取する。
【0058】
その後、上記試験片を用いて、ASTM E208に準拠したNRL落重試験を実施する。具体的には、まず上記試験片の厚さ方向に垂直な接合部材の表面側の面上に、試験片の長手方向に平行な方向に延びる溶接ビードを形成する。その際、溶接材料はASTM E208に規定される靱性の低い溶接材料を使用する。溶接ビードの長さは60~70mm、幅は12~16mmの範囲となるよう調整する。そして、溶接ビード上に試験片の幅方向に平行な切欠きを形成する。この時、切欠きの幅は1.5mm以下とし、切欠きの溝底と試験片との距離が1.8~2.0mmの範囲となるよう調整する。
【0059】
そして、上記試験片の溶接ビードを形成した面を下側に向け、長さ方向の両端部を支持した後、溶接ビードを形成したのと反対側の面に対して、落重による衝撃曲げ荷重を加える。その後、切欠きから発生した脆性き裂が試験片に伝播する状態を調べることで、Break(き裂伝播あり)またはNo Break(き裂伝播なし)を判定する。切欠から発生した脆性き裂が試験片の表面を試験片幅方向に伝播してその端部まで進行した場合、試験結果はBreak(き裂伝播あり)と判定される。幅方向の端部にき裂が達しなかった場合、試験結果はNo Break(き裂伝播なし)と判定される。
【0060】
上記の落重試験は、2個ずつの試験片を用いて例えば、-100℃の条件から開始して、5℃間隔で試験温度を変化させながら(No Breakの場合は5℃低下、Breakの場合は5℃上昇)、2個の試験片ともにNo Breakが得られた最も低い試験温度から5℃低い温度を無延性遷移温度とする。
【0061】
なお、無延性遷移温度と相関のあるパラメータとして、例えば、Vノッチシャルピー衝撃試験、プレスノッチシャルピー衝撃試験、または三面スリットノッチシャルピー試験により測定される、破面遷移温度またはエネルギー遷移温度が挙げられる。しかしながら、本発明においては、直接的に無延性遷移温度を測定可能なNRL落重試験を採用することとする。
【0062】
2.接合部材の機械的特性
本発明の溶接構造体に用いられる接合部材の機械的特性について、特に制限は設けない。しかし、溶接構造体をコンテナ船等において利用する場合においては、接合部材の降伏応力は400~580MPaであるのが好ましく、引張強さは510~750MPaであるのが好ましい。なお、接合部材の降伏応力は410~570MPaであるのがより好ましく、引張強さは520~740MPaであるのがより好ましい。
【0063】
3.溶接構造体の設計方法および施工方法
溶接構造体の設計方法および施工方法について、特に制限は設けない。溶接構造体が両側部分溶込み溶接されたT継手部を有するものである場合には、例えば、以下に示す設計工程、推定工程、および選定工程または溶接工程を行うことによって、設計または施工することができる。また、溶接構造体が完全溶込み溶接されたT継手部を有するものである場合には、例えば、以下に示す設計工程、および選定工程または溶接工程を行うことによって、設計または施工することができる。各工程について、以下に詳しく説明する。
【0064】
(1)両側部分溶込み溶接
(a)設定工程
本実施形態に係る設計方法および施工方法では、まず、第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、第1部材を第2部材に両側部分溶込み溶接することを想定する。ここで、第1部材は、接合部材11の素材の候補となる部材であり、第2部材は、被接合部材12の素材の候補となる部材である。そして、設定工程においては、第1部材の板厚t(mm)、第1部材の端面に形成する開先形状、および第1部材を第2部材に両側部分溶込み溶接する際の溶接条件を設定する。
【0065】
(b)推定工程
第1部材が有する、板厚方向に垂直な一対の表面を、それぞれ第1表面および第2表面とする。そして、推定工程においては、設定工程で設定された板厚および開先形状を有する第1部材を、第2部材に、設定工程で設定された溶接条件にて両側部分溶込み溶接した場合の、第1表面側に形成される第1溶接金属における、板厚方向における継手の部分溶込みd1(mm)、および第2表面側に形成される第2溶接金属における、板厚方向における継手の部分溶込みd2(mm)を推定する。
【0066】
なお、d1およびd2を推定する方法については特に制限はなく、実際に溶接試験を実施し、板厚方向における継手の部分溶込みを測定することでd1およびd2を推定してもよいし、解析モデルを用いて、d1およびd2を推定してもよい。
【0067】
(c)選定工程/溶接工程
上記の設定工程および推定工程を実施した後に、本実施形態の設計方法においては選定工程を行い、一方、本実施形態の施工方法においては溶接工程を行う。
【0068】
選定工程/溶接工程では、まず、以下の<1>~<4>の条件を全て満足するかどうかを判定する。
<1>設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足するかどうか。
t≧50.0 ・・・(i)
<2>推定工程で推定されたd1およびd2が16mm以上であるかどうか。
【0069】
<3>第1部材の、第1表面および第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が第1表面および第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であるかどうか。
【0070】
<4>第1部材の、第1表面からd1(mm)の深さ位置および第2表面からd2(mm)の深さ位置からそれぞれ採取され、厚さ方向の中心が、第1表面からd1(mm)の深さ位置および第2表面からd2(mm)の深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下であるかどうか。
【0071】
なお、<3>および<4>における無延性遷移温度の測定方法は、上述した方法と同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0072】
そして、<1>~<4>の条件を全て満足する場合に、選定工程においては、設定工程で設定された板厚および開先形状を有する第1部材を、接合部材11の素材に選定し、かつ、設定工程で設定された溶接条件を、溶接構造体10を製造する際の溶接条件に選定する。同様に、溶接工程においては、設定工程で設定された板厚および開先形状を有する第1部材を、接合部材11の素材として、設定工程で設定された溶接条件によって、被接合部材12の素材となる部材に両側部分溶込み溶接する。これにより、溶接構造体10が製造できる。なお、被接合部材12の素材となる部材については特に制限はなく、上記の第2部材を用いてもよいし、他の鋼板等の部材を用いてもよい。
【0073】
(2)完全溶込み溶接
(d)設定工程
本実施形態に係る設計方法および施工方法では、まず、両側部分溶込み溶接の場合と同様に、第1部材の端面を第2部材の被接合面に当接させた状態で、第1部材を第2部材に完全溶込み溶接することを想定する。そして、設定工程においては、第1部材の板厚t(mm)を設定する。
【0074】
(e)選定工程/溶接工程
上記の設定工程を実施した後に、本実施形態の設計方法においては選定工程を行い、一方、本実施形態の施工方法においては溶接工程を行う。
【0075】
選定工程/溶接工程では、まず、以下の<5>~<7>の条件を全て満足するかどうかを判定する。
<5>設定工程で設定された板厚t(mm)が、下記(i)式を満足するかどうか。
t≧50.0 ・・・(i)
【0076】
<6>第1部材の、第1表面および第2表面の1mm深さ位置からそれぞれ採取され、一方の表面が第1表面および第2表面の1mm深さ位置と一致するとともに、厚さ方向が板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-80℃以下であるかどうか。
【0077】
<7>第1部材の板厚中心位置から採取され、厚さ方向の中心が板厚中心位置と一致するとともに、厚さ方向が板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度が、-60℃以下であるかどうか。
【0078】
なお、<6>および<7>における無延性遷移温度の測定方法は、上述した方法と同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0079】
そして、<5>~<7>の条件を全て満足する場合に、選定工程においては、設定工程で設定された板厚を有する第1部材を、接合部材11の素材に選定する。同様に、溶接工程においては、設定工程で設定された板厚を有する第1部材を、接合部材11の素材として、設定工程で設定された溶接条件によって、被接合部材12の素材となる部材に完全溶込み溶接する。これにより、溶接構造体10が製造できる。なお、被接合部材12の素材となる部材については特に制限はなく、上記の第2部材を用いてもよいし、他の鋼板等の部材を用いてもよい。
【0080】
なお、第1部材の端面に形成する開先形状を調整することで、両側部分溶込み溶接および完全溶込み溶接のいずれかを選択することができる。開先形状の形成は、第1部材の端面全体にわたって施してもよいが、被接合部材の素材となる部材との接合箇所にのみ施してもよい。
【0081】
また、溶接工程における溶接方法についても特に制限はなく、CO2溶接または被覆アーク溶接(SMAW)等の公知の方法を採用すればよい。この際、熱影響部の幅を小さくするためには、入熱量を0.5~3.0kJ/mmとすることが好ましい。
【0082】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
表1に示す板厚を有する各種鋼板を用意した後、各鋼板の板厚の1/4位置から圧延方向に直角な方向にJIS Z 2241:2011に記載の4号引張試験片を採取し、JIS Z 2241:2011に準拠して引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強さ(TS)および全伸び(EL)を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
次に、上記の各種鋼板を試験板(接合部材11)とし、
図7または8に示す構造モデルアレスト試験体を作製して試験を実施した。板厚100mmの鋼板をCO
2溶接により接合した溶接継手を助走溶接継手(被接合部材12)とし、後述の表2に示す条件でCO
2溶接または被覆アーク溶接(SMAW)を用いて、両側部分溶込み溶接(
図7)または完全溶込み溶接(
図8)により溶接金属13を形成し、溶接構造体10を作製した。
【0086】
さらに、溶接構造体10のフュージョンライン部16aにノッチ16bを導入した。そして、溶接構造体10を船舶設計温度である-10℃に冷却し、EH40の設計応力に相当する257MPaの試験応力を負荷し、ノッチ部近傍だけを-50℃程度に急冷し、ノッチ部に楔を介して打撃を加えて脆性き裂を発生、伝播させた。
【0087】
両側部分溶込み溶接を行った場合については、試験後の構造モデルアレスト試験体を使用し、試験体の荷重方向の中心位置から左右に250mm離れた位置において、接合部材と被接合部材との一方側(第1表面側)および他方側(第2表面側)の溶接金属(第1溶接金属および第2溶接金属)の断面を切り出した。これらの2カ所の溶接継手断面の写真をデジタルカメラによりそれぞれ撮影し、写真画像から溶接金属の継手の部分溶込みを測定し、2カ所の測定結果の平均値を使用した。
【0088】
その後、それぞれの鋼板について、両側部分溶込み溶接または完全溶込み溶接のいずれを実施したかに応じて所定の位置よりタイプP3試験片を採取し、上述した方法により、NDTTS1およびNDTTS2、ならびにNDTTI1およびNDTTI2、またはNDTTCの測定を行った。得られたデータを表1に示す。
【0089】
また、測定された溶接金属の継手の部分溶込み、および上記の構造モデルアレスト試験体を用いた試験の結果を表2に併せて示す。脆性き裂が接合部材で停止した場合は停止、接合部材を破断した場合は破断と判定した。
【0090】
【0091】
表2から明らかなように、本発明の規定を満足する接合部材を用いた場合には、脆性き裂が接合部材で停止したのに対して、本発明の規定を満足しない比較例の接合部材を用いた場合には、脆性き裂が接合部材で停止せず、接合部材を破断する結果となった。
【0092】
具体的には、試験No.10では、NDTTS1およびNDTTS2が-80℃を超えており、試験No.11および12では、NDTTI1およびNDTTI2が-60℃を超えており、試験No.13では、NDTTCが-60℃を超えたため、脆性き裂が接合部材を破断する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明によれば、脆性き裂伝播停止特性に優れた溶接構造体を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
10 溶接構造体
11 接合部材
11a 第1表面
11b 第2表面
11c 端面
11f,g,h 仮想的な面
12 被接合部材
12a 被接合面
13 溶接金属
13a 第1溶接金属
13b 第2溶接金属
14a,b,c,d,e 試験片
16a フュージョンライン部
16b ノッチ
【要約】
接合部材11の端面11cが被接合部材12の被接合面12aに当接した状態で接合部材11が被接合部材12に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有し、接合部材11は第1表面11aおよび第2表面11bを有し、接合部材11の板厚t(mm)が50.0mm以上であり、接合部材11の、第1表面11aおよび第2表面11bの1mm深さ位置の無延性遷移温度が-80℃以下であり、第1溶接金属13aの継手の部分溶込みd1(mm)、および第2溶接金属13bの継手の部分溶込みd2(mm)が16mm以上であり、接合部材11の、第1表面11aからd1(mm)の深さ位置および第2表面11bからd2(mm)の深さ位置の無延性遷移温度が-60℃以下である、溶接構造体10。