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特許7299555ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体及びその製造方法
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  • 特許-ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/228 20060101AFI20230621BHJP
   C08J 9/18 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C08J9/228 CES
C08J9/18
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022568977
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2022024273
(87)【国際公開番号】W WO2022270425
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2021105921
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂村 拓映
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-307177(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150466(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/225649(WO,A1)
【文献】特開2014-040507(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137344(WO,A1)
【文献】特開2012-102201(JP,A)
【文献】特開2018-131620(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235290(WO,A1)
【文献】特開平11-247322(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0181351(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08J 9/00 - 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する筒状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を成形型内に充填し、加熱媒体を供給して上記発泡粒子を相互に融着させてポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を製造する方法であって、
上記発泡粒子が、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡層を有し、
上記発泡粒子の独立気泡率が90%以上であり、
上記発泡粒子における上記貫通孔の平均孔径dが1mm未満であるとともに、上記発泡粒子の平均外径Dに対する上記平均孔径dの比[d/D]が0.4以下であり、
上記発泡粒子成形体の開放気泡率が2.5%以上12%以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項2】
上記発泡粒子成形体の開放気泡率が4%以上8%以下である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項3】
上記発泡粒子成形体の密度が10kg/m3以上100kg/m3以下である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項4】
上記発泡粒子の平均外径Dが2mm以上5mm以下である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項5】
上記発泡粒子の下記式(A)により表される平均肉厚tが1.2mm以上2mm以下である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
平均肉厚t=(上記平均外径D-上記平均孔径d)/2 ・・・(A)
【請求項6】
上記発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が800MPa以上1200MPa未満である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項7】
上記発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂がエチレン-プロピレンランダム共重合体である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項8】
上記発泡粒子は、上記発泡層を被覆する融着層を有する、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項9】
上記成形型内に充填する発泡粒子の内圧が0MPa(G)以上0.05MPa(G)以下である、請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法。
【請求項10】
貫通孔を有する筒形状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が相互に融着してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体であって、
上記発泡粒子成形体の独立気泡率が90%以上であり、
上記発泡粒子成形体の開放気泡率が2.5%以上12%以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【請求項11】
上記発泡粒子成形体の開放気泡率が4%以上8%以下である、請求項10に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【請求項12】
上記発泡粒子成形体の密度DEに対する上記発泡粒子成形体の最大曲げ強さSの比[S/DE]が9kPa・m3/kg以上15kPa・m3/kg以下である、請求項10又は11に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貫通孔を有する筒形状の発泡粒子が相互に融着してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、軽量で、緩衝性、剛性等に優れるため種々の用途に用いられている。ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、例えば、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子を成形型内に充填し、スチームで加熱することにより、発泡粒子を二次発泡させると共にその表面を溶融させて相互に融着させて、所望の形状に成形するという型内成形法によって製造される。成形直後の発泡粒子成形体は、二次発泡により膨らみやすいため、所望形状の発泡粒子成形体を得るためには、成形型内で発泡粒子成形体を水や空気等で冷却させた後に離型する。
【0003】
型内成形後の発泡粒子成形体を常温で保管すると、型内成形時に発泡粒子成形体の気泡内へ流入していたスチームが気泡中で凝縮し、気泡内が負圧となり、発泡粒子成形体に体積収縮が生じて成形体が大きく変形することがある。そのため、発泡粒子成形体を離型した後に、たとえば60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させて発泡粒子成形体の形状を回復させる養生工程が通常は必要である。
【0004】
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の型内成形において、養生工程は、設備投資が必要であることやその工程に手間を要することから、養生工程を省略することは、発泡粒子成形体の生産性の大幅な向上に繋がる。たとえば、特許文献1には、発泡層と融着層とからなる発泡粒子を粒子間に空隙を維持したまま融着させる技術が開示されており、特許文献1によれば、養生工程を省略できるとしている。また、特許文献2には、融点、メルトフローインデックス、及びZ平均分子量等が特定の範囲に調製されたポリプロピレン系樹脂を用いた発泡粒子を型内成形する技術が開示されており、特許文献2によれば、養生時間を短縮できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-39565号公報
【文献】特開2000-129028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、養生工程を省略できるものの、成形体の発泡粒子間に多数の空隙が形成されるため、発泡粒子成形体の外観が著しく悪く、その用途によっては剛性が不十分であった。特許文献2の技術に記載された技術では、養生工程を短縮できるものの依然として養生工程を必要とするものであり、養生工程を省略した場合には、発泡粒子成形体が著しく収縮、変形してしまい、所望形状を有する発泡粒子成形体を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、養生工程を省略しても、所望の形状を有し、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法を提供しようとするものである。また、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、貫通孔を有する筒状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を成形型内に充填し、加熱媒体を供給して上記発泡粒子を相互に融着させてポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を製造する方法であって、
上記発泡粒子が、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡層を有し、
上記発泡粒子の独立気泡率が90%以上であり、
上記発泡粒子における上記貫通孔の平均孔径dが1mm未満であり、
上記発泡粒子成形体の開放気泡率が2.5%以上12%以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の製造方法にある。
【0009】
本発明の他の態様は、貫通孔を有する筒形状のポリプロピレン系樹脂発泡粒子が相互に融着してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体であって、
上記発泡粒子成形体の独立気泡率が90%以上であり、
上記発泡粒子成形体の開放気泡率が2.5%以上12%以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、養生工程を省略しても、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体が得られる。したがって、上記製造方法によれば、剛性及び外観に優れた発泡粒子成形体の製造効率を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、発泡粒子の外観の模式図である。
図2図2は、発泡層から構成された発泡粒子の貫通孔の貫通方向と平行方向での発泡粒子断面の模式図である。
図3図3は、発泡層と融着層とを有する発泡粒子の貫通孔の貫通方向と平行方向での発泡粒子断面の模式図である。
図4図4は、高温ピークの面積の算出方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」と同義であり、その数値範囲の端点であるA及びBの値を含むものとして用いることとする。また、下限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以上であることを意味し、上限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以下であることを意味する。また、「重量%」と「質量%」、「重量部」と「質量部」は、それぞれ実質的に同義である。また、本明細書において、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子のことを適宜「発泡粒子」といい、発泡粒子成形体のことを適宜「成形体」という。なお、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡層を有する発泡粒子は、一般に、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子と呼ばれる。
【0013】
発泡粒子成形体は、多数の発泡粒子を成形型内に充填し、スチーム等の加熱媒体を供給して上記発泡粒子を相互に融着させる成形工程を行うことにより製造される。つまり、発泡粒子を型内成形することにより、成形体を得ることができる。
【0014】
発泡粒子は、貫通孔を有する筒形状であり、貫通孔の平均孔径dは1mm未満であるとともに、発泡粒子の平均外径Dに対する平均孔径dの比d/Dが0.4以下である。発泡粒子は、ポリプロピレン系樹脂から構成される発泡層を有し、独立気泡率が90%以上である。このような発泡粒子を型内成形して開放気泡率が2.5%以上12%以下の成形体を製造することにより、養生工程を省略しても、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を得ることができる。養生工程を省略する場合には、例えば、離型後の成形体をたとえば23℃の環境中で12時間以上静置することにより、成形体の形状を安定させることができる。ただし、養生工程を行うことも可能である。なお、上記製造方法では、成形型内に充填する前の発泡粒子に予め内圧を付与する前処理加圧を行ってもよいし、前処理加圧を行わなくてもよい。前処理加圧を行わなくても、養生工程を省略しつつ、所望の形状を有する、外観及び剛性に優れた発泡粒子成形体を製造することができる。
【0015】
図1図3には、発泡粒子を例示するが、本発明はこれらの図面に限定されるものではない。図1及び図2に示されるように、発泡粒子1は、筒形状であり、貫通孔11を有する。発泡粒子1は、ポリプロピレン系樹脂から構成された発泡層2を有する。さらに、図3に示すごとく、発泡粒子1は、発泡層2を被覆する融着層3を有することが好ましい。
【0016】
発泡層は、ポリプロピレン系樹脂から構成される。本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレンに由来する構成単位を50質量%以上含むプロピレン系共重合体をいう。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンと他のモノマーとが共重合したプロピレン系共重合体であることが好ましい。プロピレン系共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体、ヘキセン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等のプロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体が好ましく例示される。これらの共重合体は、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等であり、ランダム共重合体であることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂は、複数の種類のポリプロピレン系樹脂を含有していてもよい。
【0017】
発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂は、本開示の目的、効果を阻害しない範囲でポリプロピレン系樹脂以外の他の重合体を含んでいてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等のポリプロピレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂やエラストマー等が例示される。発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂中の他の重合体の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0、つまり、発泡層は、重合体として実質的にポリプロピレン系樹脂のみを含むことが特に好ましい。
【0018】
発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂は、エチレン-プロピレンランダム共重合体であり、共重合体中のエチレン成分の含有量が0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。なお、エチレン-プロピレンランダム共重合体中のエチレン成分とプロピレン成分との合計が100質量%である。この場合には、より低い成形加熱温度(つまり、低い成形圧)で剛性に優れる良好な成形体を成形することが可能となる。この効果がより向上するという観点から、共重合体中のエチレン成分の含有量は2.0質量%を超え5.0質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以上4.0質量%以下であることがさらに好ましく、2.8質量%以上3.5質量%以下であることが特に好ましい。なお、IRスペクトル測定により共重合体中のモノマー成分の含有量を求めることができる。エチレン-プロピレン共重合体のエチレン成分、プロピレン成分は、エチレン-プロピレン共重合体におけるエチレン由来の構成単位、プロピレン由来の構成単位をそれぞれ意味する。また、共重合体中の各モノマー成分の含有量は、共重合体中の各モノマー由来の構成単位の含有量を意味するものとする。
【0019】
発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、155℃以下であることが好ましい。この場合には、より低い成形温度(つまり、低い成形圧)で外観や剛性に優れる成形体を成形することができる。この効果が向上するという観点から、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは150℃以下であることが好ましく、145℃以下であることがより好ましい。一方、成形体の耐熱性や機械的強度等がより向上するという観点からは、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcは、135℃以上であることが好ましく、138℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、状態調節としては「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得し、該融解ピークの頂点温度を融点とする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが表れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点温度を融点とする。
【0021】
発泡性や成形性をより高める観点から、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレート(つまり、MFR)は5g/10分以上であることが好ましく、6g/10分以上であることがより好ましく、7g/10分以上であることがさらに好ましい。一方、成形体の剛性をより高めるという観点から、MFRは12g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以下であることがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0022】
発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は800MPa以上1600MPa以下であることが好ましい。成形体の剛性を高めるという観点、養生工程を省略した場合の寸法変化をより確実に抑制するという観点から、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、800MPa以上であることが好ましく、850MPa以上であることがより好ましく、900MPa以上であることがさらに好ましい。一方、より低い成形温度(つまり、低い成形圧)で外観や剛性に優れる成形体を成形することができるという観点、エネルギー吸収性に優れる発泡粒子成形体を得る観点から、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、1200MPa未満であることが好ましく、1100MPa以下であることがより好ましく、1000MPa以下であることがさらに好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に基づき、求めることができる。
従来、特に曲げ弾性率1200MPa未満のポリプロピレン系樹脂から構成される発泡粒子を型内成形した場合には、離型後の収縮・変形に対する抵抗力が小さいためか、養生工程を省略した場合には、成形体が著しく収縮・変形する傾向があった。上記成形体の製造方法によれば、たとえば1200MPa未満の曲げ弾性率を有するポリプロピレン系樹脂から構成される発泡粒子を用いた場合であっても、養生工程を省略することができる。
【0023】
発泡粒子の独立気泡率は、90%以上である。発泡粒子の良好な型内成形性を確保するという観点、発泡粒子の外観、剛性が良好なものとなるという観点から、発泡層の独立気泡率は92%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0024】
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定することができる。具体的には、次のようにして測定される。状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、下記の通りエタノール没法により正確に見掛けの体積Vaを測定した。見掛けの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、島津製作所社製アキュピックII1340により測定される測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定する。そして、これらの体積値Va及びVxを基に、下記の式(I)により独立気泡率を計算し、サンプル5個(N=5)の平均値を発泡粒子の独立気泡率とする。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(I)
ただし、
Vx:上記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm
Va:発泡粒子を、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の水位上昇分から測定される発泡粒子の見掛けの体積(単位:cm
W:発泡粒子測定用サンプルの重量(単位:g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(単位:g/cm
【0025】
成形体は、開放気泡構造を有する。開放気泡構造とは、成形体の外部と連通した微小な空間部分である。開放気泡構造は、複数の発泡粒子の貫通孔が相互に連通して形成される空隙、発泡粒子の貫通孔が発泡粒子間に形成される空隙と連通して形成される空隙、発泡粒子間の空隙が連通して形成される空隙、成形体を構成する発泡粒子の連続気泡部分などが、複雑につながって形成される。
【0026】
上記製造方法では、開放気泡率が2.5%以上12%以下の成形体を製造する。これにより、養生工程を省略しても、著しい収縮、変形等が抑制され、所望形状を有する、外観及び剛性に優れた成形体を製造することができる。これは、成形体が上記所定の割合で開放気泡構造を有することにより、離型後、速やかに成形体内部の気泡まで空気が流入し、成形体全体の内圧が高められる結果、成形体の寸法が早期に安定化しやすくなるためであると考えられる。成形体の開放気泡率が2.5%未満の場合には、養生工程を省略すると、成形体が著しく収縮、変形し、所望の形状の成形体が得られなくなるおそれがある。養生工程を省略しても、成形体の著しい収縮、変形等を一層防止することができる観点から、成形体の開放気泡率は、3%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、4.5%以上であることがさらに好ましい。一方、成形体の開放気泡率が12%を超える場合には、成形体の外観が悪くなると共に、剛性が低下するおそれがある。成形体の外観や剛性をより向上させることができるという観点から、成形体の開放気泡率は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、7.5%以下であることがさらに好ましく、6%以下であることが特に好ましい。
【0027】
成形体の開放気泡率は、ASTM2856-70手順Bに準拠して測定される。つまり、測定用サンプルの切り出し時に破壊される独立気泡を考慮して補正して求める方法により測定される補正開放気泡率である。測定装置としては、乾式自動密度計(具体的には、島津製作所社製アキュピックII1340)を使用する。具体的には、次のようにして開放気泡率を測定する。まず、成形体を23℃、12時間静置して状態調節する。次いで、成形体の中心部から、縦2.5cm×横2.5cm×高さ2.5cmの立方体形状の第1試験片を切り出し、その幾何学的体積Va[単位:cm3]を測定する。Vaは具体的には、縦寸法[cm]×横寸法[cm]×高さ寸法[cm]により求められる値である。乾式自動密度計により、第1試験片の真の体積V1[単位:cm3]を測定する。次いで、第1試験片を8等分にし、縦1.25cm×横1.25cm×高さ1.25cmの立方体形状の第2試験片を得る。次に、乾式自動密度計により、第2試験片の真の体積V2[単位:cm3]を測定する。なお、第2試験片の真の体積V2は、第1試験片から切り出される8個の各々の真の体積の合計値である。開放気泡率Co[単位:%]は、下記式(II)により算出される。
なお、成形体の開放気泡率は、成形体から第1試験片を5個切り出し、上記方法により開放気泡率を算出し、その算術平均値を結果として用いる。このようにして測定される開放気泡率Coは、補正連続気泡率とも呼ばれる。
Co=(Va-2V1+V2)×100/Va ・・・(II)
【0028】
なお、本明細書における開放気泡率Coは上記のようにASTM2856-70手順Bに準拠して測定される物性値であり、後述するASTM2856-70手順Cに準拠して測定される成形体の独立気泡率をもとに算出することはできない物性値である。具体的には、ASTM2856-70手順Bに準拠して測定される成形体の開放気泡率Coは、ASTM2856-70手順Cに準拠して測定される成形体の独立気泡率Bpと下記の式(III)の関係を有するものである。ASTM2856-70手順Bに準拠して測定される開放気泡率Coは、試験片を切り出した際に破壊される独立気泡を考慮して補正されているのに対し、ASTM2856-70手順Cに記載された方法では、試験片を切り出した際に破壊される独立気泡が考慮されていないため、両者は概念的に異なるものである。また、試験片を切り出した際に破壊される独立気泡の割合は、発泡粒子成形体を構成する発泡粒子の形状(つまり、貫通孔の有無、貫通孔の孔径等)や発泡粒子の独立気泡率の影響を大きく受ける。さらに、発泡粒子成形体の成形条件(つまり、成形圧、発泡粒子の内圧、充填方法等)等によっても影響を受ける。したがって、開放気泡率Coの値は、ASTM2856-70手順Cに準拠して測定される成形体の独立気泡率の値をもとに推定することも困難である。
また、本明細書における開放気泡率Coは、成形体の空隙率とも概念的に異なるものである。成形体の空隙率は、例えば次のようにして測定、算出される。具体的には、まず、成形体の中心部分から直方体形状(縦20mm×横100mm×高さ20mmの試験片を切り出す。次いで、この試験片を、エタノールを入れたメスシリンダー中に沈めてエタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc[L]を求める。また、試験片の外形寸法から見掛けの体積Vd[L]を求める。求められる真の体積Vcと見掛けの体積Vdから下記式(IV)により成形体の空隙率を求めることができる。したがって、成形体の空隙率の測定においても、試験片を切り出した際に破壊される独立気泡は考慮されていない。また、測定のための媒体としてエタノール等の液体を用いる点で上記開放気泡率Coの測定方法とは異なる。成形体の空隙率は、該成形体の開放気泡率Coよりも必ず大きな値となる。
Co≠100-Bp ・・・(III)
空隙率(%)=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(IV)
【0029】
開放気泡率が2.5%以上12%以下の成形体は、下記(1)~(3)を満足する発泡粒子を型内成形することにより、製造される。
(1)発泡粒子は、貫通孔を有する。発泡粒子が貫通孔を有していない場合には、成形体の開放気泡率の値を2.5%以上とすることが困難となる。
(2)発泡粒子の貫通孔の平均孔径dを1mm未満とする。平均孔径を小さくすることにより、開放気泡率は小さくなる傾向があり、平均孔径を大きくすることにより、開放気泡率が大きくなる傾向がある。貫通孔の平均孔径が1mm以上である場合には、成形体の開放気泡率の値を12%以下とすることが難しくなりやすい。
(3)発泡粒子の平均外径Dに対する貫通孔の平均孔径dの比[d/D]を0.4以下とする。比[d/D]を小さくすることにより、開放気泡率は小さくなる傾向があり、比[d/D]を大きくすることにより、開放気泡率が大きくなる傾向がある。比[d/D]が0.4を超える場合には、成形体の開放気泡率の値を12%以下とすることが難しくなりやすい。
【0030】
上記(1)~(3)を満足する発泡粒子を用いて型内成形することに加えて、例えば、型内成形における下記(4)~(6)の条件を制御することによって、成形体の開放気泡率を2.5%以上12%以下の範囲により容易に調製することができる。
(4)成形型内に充填する前の発泡粒子に内圧を付与すると、成形時に二次発泡し易くなるため開放気泡率が小さくなる傾向がある。また、発泡粒子の内圧を高くすると、成形時により膨らみ易くなるため開放気泡率が小さくなる傾向がある。開放気泡率が小さくなりすぎることを防止し、開放気泡率2.5%以上である成形体をより安定して製造する観点、成形体の生産効率の観点からは、成形型内に充填する発泡粒子の内圧は、0.05MPa(G)(G:ゲージ圧)以下であることが好ましく、0.03MPa(G)以下であることがより好ましく、0.01MPa(G)以下であることがさらに好ましく、0MPa(G)、つまり、発泡粒子に内圧を付与せずに成形することが特に好ましい。なお、良好な発泡粒子成形体を成形する観点からは、上記内圧の下限は0MPa(G)である。
(5)クラッキング充填法により発泡粒子を成形型内に充填する場合、クラッキング量(%)を大きくすると、発泡粒子間の間隙が埋まり易くなるため、開放気泡率が小さくなる傾向があり、クラッキング量(%)を小さくすると、発泡粒子間の間隙が形成されやすくなるため、開放気泡率が大きくなる傾向がある。クラッキング量は、通常5%~35%の範囲にすることが好ましく、10%~30%の範囲にすることがより好ましく、15%~25%の範囲にすることがさらに好ましい。なお、クラッキング充填法とは、発泡粒子を成形型内に充填する際に、成形型内の体積を超える量の発泡粒子を効率よく充填するために、成形型を完全に閉鎖させないようにする成形型の開き部分を設ける方法である。この開き部分をクラッキングと呼び、成形型内の体積に対する開き部分の体積の比率(%)をクラッキング量(%)として現す。なお、クラッキングは、成形型内に発泡粒子を充填後、スチームを導入する際には最終的に閉じられており、その結果充填された発泡粒子は機械的に圧縮される。
(6)成形温度(具体的には、成形圧)を高くすると、開放気泡率が小さくなる傾向があり、成形温度(具体的には、成形圧)を低くすると、開放気泡率が大きくなる傾向がある。ただし、成形体の生産効率の観点からは、低い成形圧で成形することが好ましい。かかる観点から、成形圧は、例えば0.20MPa(G)(G:ゲージ圧)~0.30MPa(G)の範囲にすることが好ましく、0.20MPa(G)~0.26MPa(G)の範囲にすることがより好ましく、0.22MPa(G)~0.24MPa(G)の範囲にすることがさらに好ましい。
上記のとおり、発泡粒子の成形条件を、(4)~(6)のように制御することにより、成形体の開放気泡率を2.5%以上12%以下の範囲により容易に調製することができる。成形体の開放気泡率を調整するための条件は、必ずしも(4)~(6)に限定されない。つまり、成形体の開放気泡率が2.5%以上12%以下となるように発泡粒子を成形することにより、無養生成形でありながら、所望形状を有し、外観、剛性に優れた成形体を製造することができる。
【0031】
発泡粒子は、発泡層と、発泡層を被覆する融着層とを有する多層構造の発泡粒子であることが好ましい。発泡粒子が融着層を有する場合には、融着層は、例えばポリオレフィン系樹脂から構成される。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂等が挙げられる。発泡層との接着性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂は、好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂であり、より好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。ポリプロピレン系樹脂としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン単独重合体等が挙げられ、中でもエチレン-プロピレン共重合体又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体が好ましい。
【0032】
融着層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点Tmcよりも低いことが好ましい。つまり、Tms<Tmcであることが好ましい。この場合には、発泡粒子の融着性が向上し、より低温での成形が可能になる。さらに、この場合には、養生工程を省略した場合の著しい収縮・変形をより容易に抑制しやすくなる。この理由は明らかではないが、低い成形加熱温度での成形により、型内成形においてスチーム等の加熱媒体により発泡粒子が受ける熱量をより低く抑えることができ、成形体の熱収縮による寸法変化がより抑制されやすいためと考えられる。上記観点から、Tmc-Tms≧5であることが好ましく、Tmc-Tms≧6であることがより好ましく、Tmc-Tms≧8であることがさらに好ましい。発泡層と融着層との剥離や、発泡粒子間の互着等をより抑制する観点からは、Tmc-Tms≦35であることが好ましく、Tmc-Tms≦20であることがより好ましく、Tmc-Tms≦15であることがさらに好ましい。
【0033】
成形時の発泡粒子の融着性をより高めるという観点から、融着層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点Tmsは、120℃以上145℃以下であることが好ましく、125℃以上140℃以下であることがより好ましい。融着層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、上述の発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂と同様の条件、方法により求められる。
【0034】
発泡層と融着層との剥離を確実に抑制するという観点から、融着層を構成するポリオレフィン系樹脂のMFRは、発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂のMFRと同程度であることが好ましく、具体的には2~15g/10分であることが好ましく、3~12g/10分であることがより好ましく、4~10g/10分であることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合には、そのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値であり、ポリオレフィン系樹脂がポリエチレン系樹脂である場合には、そのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0035】
発泡粒子は、発泡層と、発泡層を被覆する融着層とを有する多層構造の粒子である場合、発泡層は、発泡状態のポリプロピレン系樹脂から構成されており、融着層は、発泡状態又は非発泡状態のポリオレフィン系樹脂から構成されている。融着層は、実質的に非発泡状態であることが好ましい。「実質的に非発泡」とは、融着層が発泡せず、気泡が含まれない状態と、発泡後に気泡が消失した状態とを含み、ほとんど気泡構造がないことを意味する。融着層の厚みは、例えば0.5~100μmである。また、発泡層と融着層との間にさらに中間層を設けてもよい。
【0036】
発泡層を構成する樹脂と融着層を構成する樹脂との質量比(質量%の比)は、成形体の剛性を維持しつつ、成形性を高める観点から、好ましくは99.5:0.5~80:20であり、より好ましくは99:1~85:15、さらに好ましくは97:3~90:10である。質量比は、発泡層を構成する樹脂:融着層を構成する樹脂で表される。
【0037】
発泡粒子は、加熱速度10℃/分で23℃から200℃まで加熱した際に得られるDSC曲線に、ポリプロピレン系樹脂固有の融解による吸熱ピーク(つまり、樹脂固有ピーク)と、その高温側に1以上の融解ピーク(つまり、高温ピーク)とが現れる結晶構造を有することが好ましい。DSC曲線は、発泡粒子1~3mgを試験サンプルとして用い、JIS K7121:1987に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により得られる。
樹脂固有ピークとは、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂固有の融解による吸熱ピークであり、ポリプロピレン系樹脂が本来有する結晶の融解時の吸熱によるものであると考えられる。一方、樹脂固有ピークの高温側の吸熱ピーク(つまり、高温ピーク)とは、DSC曲線で上記樹脂固有ピークよりも高温側に現れる吸熱ピークである。この高温ピークが現れる場合、樹脂中に二次結晶が存在するものと推定される。なお、上記のように10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第1回目の加熱)を行った後、10℃/分の冷却速度で200℃から23℃まで冷却し、その後再び10℃/分の加熱速度で23℃から200℃までの加熱(つまり、第2回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線においては、発泡粒子を構成するポリプロピレン系樹脂に固有の融解による吸熱ピークのみが見られるため、樹脂固有ピークと高温ピークとを見分けることができる。この樹脂固有ピークの頂点の温度は、第1回目の加熱と第2回目の加熱とで多少異なる場合があるが、通常、その差は5℃以内である。
【0038】
発泡粒子の高温ピークの融解熱量は、発泡粒子の成形性をより向上させるという観点、剛性により優れる成形体を得るという観点から、好ましくは5~40J/g、より好ましくは7~30J/g、更に好ましくは10~20J/gである。
また、上記高温ピークの融解熱量と、DSC曲線の全融解ピークの融解熱量の比(高温ピークの融解熱量/全融解ピークの融解熱量)は、好ましくは0.05~0.3、より好ましくは0.1~0.25、更に好ましくは0.15~0.2である。
高温ピークの融解熱量及び全融解ピークの融解熱量との比をこのような範囲にすることで、高温ピークとして表れる二次結晶の存在により、発泡粒子は特に機械的強度に優れると共に、型内成形性に優れるものになると考えられる。
ここで、全融解ピークの融解熱量とは、DSC曲線の全ての融解ピークの面積から求められる融解熱量の合計をいう。
上記発泡粒子のDSC曲線の各ピークの融解熱量は、次のようにして求められる値である。まず、状態調節を行った後の発泡粒子群から1個の発泡粒子を採取する。この発泡粒子を試験片として用い、試験片を示差熱走査熱量計によって23℃から200℃まで加熱速度10℃/分で昇温させたときのDSC曲線を得る。図4にDSC曲線の一例を示す。図4に例示されるように、DSC曲線には、樹脂固有ピークΔH1と、樹脂固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
次いで、DSC曲線上における温度80℃での点αと、発泡粒子の融解終了温度Tでの点βとを結び直線L1を得る。次に、上記の樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線L2を引き、直線L1と直線L2との交わる点をδとする。なお、点γは、樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点ということもできる。
樹脂固有ピークΔH1の面積は、DSC曲線の樹脂固有ピークΔH1部分の曲線と、線分α-δと、線分γ-δとによって囲まれる部分の面積であり、これを樹脂固有ピークの融解熱量とする。
高温ピークΔH2の面積は、DSC曲線の高温ピークΔH2部分の曲線と、線分δ-βと、線分γ-δとによって囲まれる部分の面積であり、これを高温ピークの融解熱量(つまり、高温ピーク熱量)とする。
全融解ピークの面積は、DSC曲線の樹脂固有ピークΔH1部分の曲線と高温ピークΔH2部分の曲線と、線分α-β(つまり、直線L1)とによって囲まれる部分の面積であり、これを全融解ピークの融解熱量とする。
【0039】
発泡粒子は、上記のように貫通孔を有する。貫通孔を有する筒形状の発泡粒子は、円柱、角柱等の柱状の発泡粒子の軸方向を貫通する筒孔を少なくとも1つ有することが好ましい。発泡粒子は、円柱状であり、その軸方向を貫通する筒孔を有することがより好ましい。
【0040】
発泡粒子が貫通孔を有していない場合には、成形体の開放気泡率が例えば2.5%未満にまで小さくなりやすい。その結果、養生工程を省略した場合には成形体の著しい収縮・変形を抑制することができないおそれがある。貫通孔を有していない発泡粒子を用いて成形体の開放気泡率を大きくしたい場合には、例えば成形圧を下げて粒子間空隙を積極的に形成することとなるが、成形体の外観や剛性が著しく低下するおそれがある。一方、発泡粒子が貫通孔を有している場合であっても、平均孔径dが大きすぎる場合には、成形体の開放気泡率が例えば12%超にまで大きくなりやすい。その結果、成形体の外観や剛性が低下するおそれがある。平均孔径dが大きすぎる発泡粒子を用いて成形体の開放気泡率を小さくしたい場合には、例えば成形圧を十分に高くすることが考えられるが、成形体が熱収縮して寸法安定性が損なわれるおそれがある。かかる観点から、発泡粒子の平均孔径dは上記のごとく1mm未満である。養生工程を省略しても、所望形状を有する成形体が得られると共に、より外観及び剛性に優れた成形体が得られるという観点から、発泡粒子の平均孔径dは、0.95mm以下であることが好ましく、0.92mm以下であることがより好ましく、0.90mm以下であることがさらに好ましい。なお、成形体の開放気泡率の値をより容易に調整できるという観点から、発泡粒子の平均孔径dの下限は、0.2mm以上であることが好ましく、0.4mm以上がより好ましい。
発泡粒子の平均孔径dは、後述する樹脂粒子における貫通孔の孔径drを調整することのほか、発泡粒子の見掛け密度や高温ピーク熱量を調整することにより調整することができる。また、発泡粒子を二段発泡により製造される二段発泡粒子とすることにより、平均孔径dをより容易に小さな値に調整することができる。
【0041】
発泡粒子の貫通孔の平均孔径dは、以下のように求められる。発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、貫通孔部分の断面積(具体的には、開口面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の貫通孔の平均孔径dとする。なお、各発泡粒子の貫通孔の大きさが、貫通孔径が貫通方向に一様でない場合であっても、各発泡粒子の貫通孔径は、上記のように発泡粒子の切断面の面積が最大となる位置での孔径によって定められる。
【0042】
筒形状の発泡粒子の肉厚が増加して発泡粒子の二次発泡性や成形体の剛性が向上するという観点から、発泡粒子の平均外径Dは、好ましくは2mm以上、より好ましくは2.5mm以上、更に好ましくは3mm以上である。一方、成形時の成形型内への充填性を向上させるという観点から、好ましくは5mm以下、より好ましくは4.5mm以下、更に好ましくは4.3mm以下である。
【0043】
発泡粒子の平均外径Dに対する上記平均孔径dの比d/Dは0.4以下である。比d/Dが大きすぎる場合には、成形体の開放気泡率が例えば12%超にまで大きくなりやすい。その結果、成形体の外観や剛性が低下するおそれがある。成形体の外観がより良好になるという観点、剛性がより向上するという観点、二次発泡性がより向上するという観点から、d/Dは、0.35以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。なお、比d/Dは、成形体の開放気泡率の値をより容易に調整できるという観点から、0.1以上であることが好ましい。
【0044】
発泡粒子の平均外径Dは、以下のように求められる。発泡粒子群から無作為に選択した50個以上の発泡粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、発泡粒子の断面積(具体的には、貫通孔の開口部分も含む断面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらの算術平均した値を、発泡粒子の平均外径Dとする。なお、各発泡粒子の外径が、貫通方向において一様ではない場合であっても、各発泡粒子の外径は上記のように貫通方向と垂直方向での発泡粒子の切断面の面積が最大となる位置での外径によって定められる。
【0045】
筒形状の発泡粒子の肉厚tの平均値は1.2mm以上2mm以下であることが好ましい。肉厚tの平均値がこの範囲内であれば、発泡粒子の肉厚が十分に厚いため、型内成形時の二次発泡性がより向上する。また、外力に対して発泡粒子がより潰れにくくなり、成形体の剛性がより向上する。かかる観点から、発泡粒子の平均肉厚tは、より好ましくは1.3mm以上、さらに好ましくは1.5mm以上である。
【0046】
発泡粒子の平均肉厚tは、発泡粒子の表面(つまり、外表面)から貫通孔の外縁(つまり、発泡粒子の内表面)までの距離であり、下記式(A)により求められる値である。
t=(D-d)/2 ・・・(A)
d:貫通孔の平均孔径(mm)
D:発泡粒子の平均外径(mm)
【0047】
また、発泡粒子の平均外径Dに対する平均肉厚tの比t/Dは0.35以上0.5以下であることが好ましい。t/Dが上記範囲内であれば、発泡粒子の型内成形において、発泡粒子の充填性がよく、二次発泡性がより向上する。したがって、外観や剛性に優れる成形体をより低い成形加熱温度で製造することができる。
【0048】
成形体の軽量性と剛性とのバランスの観点から、発泡粒子の見掛け密度は、10kg/m3以上150kg/m3以下であることが好ましく、より好ましくは15kg/m3以上100kg/m3以下、さらに好ましくは20kg/m3以上80kg/m3以下であり、特に好ましくは25kg/m3以上45kg/m3以下である。従来、特に見掛け密度の小さい成形体を製造する場合には、成形体が離型後に著しく変形しやすく、養生工程を省略することは困難であった。これに対し、本開示の製造方法では、見掛け密度が小さい場合であっても、養生工程を省略することが可能であり、無養生でも外観の良好な成形体を製造することができる。
【0049】
発泡粒子の見掛け密度は、23℃のアルコール(例えばエタノール)を入れたメスシリンダー内に、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて1日放置した発泡粒子群(発泡粒子群の重量W(g))を、金網などを使用して沈め、水位の上昇分から発泡粒子群の体積V(L)を求め、発泡粒子群の重量を発泡粒子群の体積で除し(W/V)、単位を[kg/m3]に換算することにより求めることができる。
【0050】
養生工程を省略した場合における成形体の著しい収縮、変形をより抑制する観点から、発泡粒子の嵩密度に対する発泡粒子の見掛け密度の比(つまり、見掛け密度/嵩密度)は、好ましくは1.7以上であり、より好ましくは1.75以上である。一方、成形体の剛性をより高める観点、外観をより良好なものとする観点から、見掛け密度/嵩密度は、好ましくは2.3以下、より好ましくは2.1以下、さらに好ましくは1.9以下である。
【0051】
発泡粒子の嵩密度は、以下のように求められる。発泡粒子群から発泡粒子を無作為に取り出して容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、収容された発泡粒子の質量W2[g]を収容体積V2(1L])で除して(W2/V2)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の嵩密度が求められる。
【0052】
発泡粒子は、たとえば、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とするポリプロピレン系樹脂粒子を分散媒(例えば、液体)に分散させ、樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、発泡剤を含む樹脂粒子を分散媒とともに低圧下に放出する方法(つまり、分散媒放出発泡方法)により製造することができる。具体的には、樹脂粒子を、密閉容器内で分散媒に分散させ、加熱後、発泡剤を圧入して樹脂粒子に発泡剤を含浸させることが好ましい。その後、一定温度にて二次結晶を成長させる保持工程を経た後、密閉容器内の内容物を低圧下に放出することにより発泡剤を含む樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得ることが好ましい。なお、融着層を形成する場合には、芯層と、芯層を被覆する融着層とを有する多層構造の樹脂粒子を発泡させることにより、発泡層と、発泡層を被覆する融着層とを有する多層構造の発泡粒子を得ることができる。
【0053】
樹脂粒子は、例えば、次のようにして製造される。まず、押出機内に基材樹脂となるポリプロピレン系樹脂と、必要に応じて供給される気泡核剤等の添加剤を供給し、加熱、混練して樹脂溶融混練物とする。その後、押出機先端に付設されたダイの小孔から、樹脂溶融混練物を、貫通孔を有する筒形状のストランド状に押し出し、冷却させてカットすることにより樹脂粒子を得ることができる。押出物は例えばペレタイザーで切断される。カット方式は、ストランドカット方式、ホットカット方式、水中カット方式等から選択することができる。このようにして、貫通孔を有する筒状の樹脂粒子を得ることができる。なお、融着層を形成する場合には、芯層形成用押出機と融着層形成用押出機を用いてそれぞれの原料の樹脂溶融混練物を得、各溶融混練物を押出し、ダイ内で合流させて、非発泡状態の筒状の芯層と、該筒状の芯層の外側表面を被覆する非発泡状態の融着層とからなる鞘芯型の複合体を形成させ、押出機先端に付設された口金の細孔から複合体をストランド状に押し出しながら冷却させてカットすることにより多層樹脂粒子を得ることができる。
【0054】
樹脂粒子の粒子径は、好ましくは0.1~3.0mm、より好ましくは0.3~1.5mmである。また、樹脂粒子の長さ/外径比は、好ましくは0.5~5.0、より好ましくは1.0~3.0である。また、1個当たりの平均質量(無作為に選んだ200個の粒子の質量から求める)は、0.1~20mgとなるように調製されることが好ましく、より好ましくは0.2~10mg、更に好ましくは0.3~5mg、特に好ましくは0.4~2mgである。多層樹脂粒子の場合における芯層と融着層の質量比率は、好ましくは99.5:0.5~80:20であり、より好ましくは99:1~85:15、さらに好ましくは97:3~90:10である。質量比率は、芯層:融着層で表される。
【0055】
樹脂粒子における貫通孔の孔径drを調整することにより、発泡粒子における貫通孔の平均孔径dを上記所望の範囲に調整することができる。樹脂粒子の芯層の貫通孔の孔径drは、たとえば貫通孔を形成するためのダイの小孔の孔径(つまり、ダイスの内径)により調整することができる。また、樹脂粒子の粒子径、平均質量を調整することにより、発泡粒子の平均外径、平均肉厚を上記所望の範囲に調整することができる。
貫通孔の平均孔径dが1mm未満であるとともに、平均外径Dに対する平均孔径dの比d/Dが0.4以下である発泡粒子をより確実に製造する観点から、樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drが0.25mm未満であることが好ましく、0.24mm未満であることがより好ましく、0.22mm以下であることが更に好ましい。貫通孔を有する樹脂粒子の製造安定性の観点からは、樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drは0.1mm以上であることが好ましい。
また、同様の観点から、樹脂粒子の平均外径Drに対する平均孔径drの比dr/Drは0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることが更に好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。貫通孔を有する樹脂粒子の製造安定性の観点からは、樹脂粒子の平均外径Drに対する平均孔径drの比dr/Drは0.1以上であることが好ましい。
【0056】
樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drは、以下のように求められる。樹脂粒子群から無作為に選択した50個以上の樹脂粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各樹脂粒子の切断面の写真撮影をし、貫通孔部分の断面積(具体的には、開口面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、樹脂粒子の貫通孔の平均孔径drとする。なお、各樹脂粒子の貫通孔の大きさが、貫通孔径が貫通方向に一様でない場合であっても、各樹脂粒子の貫通孔径は、上記のように樹脂粒子の切断面の面積が最大となる位置での孔径によって定められる。
【0057】
樹脂粒子の平均外径Drは、以下のように求められる。樹脂粒子群から無作為に選択した50個以上の樹脂粒子を、切断面の面積が最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断する。各樹脂粒子の切断面の写真撮影をし、樹脂粒子の断面積(具体的には、貫通孔の開口部分も含む断面積)を求め、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらの算術平均した値を、樹脂粒子の平均外径Drとする。なお、各樹脂粒子の外径が、貫通方向において一様ではない場合であっても、各樹脂粒子の外径は上記のように貫通方向と垂直方向での樹脂粒子の切断面の面積が最大となる位置での外径によって定められる。
【0058】
なお、ストランドカット法における、樹脂粒子の粒子径、長さ/外径比や平均質量の調製は、樹脂溶融混練物を押出す際に、押出速度、引き取り速度、カッタースピードなどを適宜変えて切断することにより行うことができる。
【0059】
上記のようにして得られた樹脂粒子を密閉容器内で分散させるための分散媒(具体的には液体)としては水性分散媒が用いられる。水性分散媒は、水を主成分とする分散媒(具体的には液体)である。水性分散媒における水の割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。水性分散媒中の水以外の分散媒としては、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0060】
樹脂粒子の芯層には、必要に応じて、気泡調製剤、結晶核剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤等の添加剤を添加できる。気泡調製剤としては、タルク、マイカ、ホウ酸亜鉛、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、石膏、ゼオライト、ホウ砂、水酸化アルミニウム、カーボン等の無機粉体;リン酸系核剤、フェノール系核剤、アミン系核剤、ポリフッ化エチレン系樹脂粉末等の有機粉体が挙げられる。気泡調製剤を添加する場合、気泡調製剤の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~1質量部である。
【0061】
上記分散媒放出発泡方法においては、容器内で加熱された樹脂粒子同士が互いに融着しないように、分散媒体中に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、樹脂粒子の容器内での融着を防止するものであればよく、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、取り扱いの容易さから微粒状無機物が好ましい。分散剤としては、例えば、アムスナイト、カオリン、マイカ、クレー等の粘土鉱物が挙げられる。粘土鉱物は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。また、分散剤としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、酸化鉄等が挙げられる。分散剤は、1種または2種以上が使用される。これらの中でも分散剤としては粘土鉱物を用いることが好ましい。分散剤は、樹脂粒子100質量部当たり0.001~5質量部程度添加することが好ましい。
【0062】
なお、分散剤を使用する場合、分散助剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。上記分散助剤の添加量は、上記樹脂粒子100質量部当たり、0.001~1質量部とすることが好ましい。
【0063】
樹脂粒子を発泡させるための発泡剤としては、物理発泡剤を用いることが好ましい。物理発泡剤は、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤が挙げられ、無機物理発泡剤としては、二酸化炭素、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。また、有機物理発泡剤としては、プロパン、ブタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロメタン、1-クロロ-1,1-ジクロロエタン、1,2,2,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。なお、物理発泡剤は単独で用いても、あるいは二種以上を混合して用いてもよい。また、無機物理発泡剤と有機物理発泡剤とを混合して用いることもできる。環境に対する負荷や取扱い性の観点から、好ましくは無機物理発泡剤、より好ましくは二酸化炭素が用いられる。有機物理発泡剤を用いる場合には、ポリプロピレン系樹脂への溶解性、発泡性の観点から、n-ブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタンを使用することが好ましい。
【0064】
樹脂粒子100質量部に対する発泡剤の添加量は、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~15質量部である。
【0065】
発泡粒子の製造工程において、樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法としては、樹脂粒子を密閉容器内の水性分散媒中に分散させ、加熱しながら、発泡剤を圧入し、樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法が好ましく用いられる。
【0066】
発泡時の密閉容器内圧は0.5MPa(G:ゲージ圧)以上であることが好ましい。一方、密閉容器内圧は4.0MPa(G)以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、密閉容器の破損や爆発等のおそれがなく安全に発泡粒子を製造することができる。
【0067】
発泡粒子製造工程における水性分散媒の昇温を、1~5℃/分で行うことで、発泡時の温度も適切な範囲とすることができる。
【0068】
示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線に、樹脂固有の融解ピーク(樹脂固有ピーク)とその高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有する発泡粒子は、例えば、次のようにして得られる。
【0069】
発泡粒子製造工程における加熱時に、(ポリプロピレン系樹脂の融点-20℃)以上、(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度)未満の温度で十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する一段保持工程を行う。その後、(ポリプロピレン系樹脂の融点-15℃)から(ポリプロピレン系樹脂の融解終了温度+10℃)の温度に調節する。そして、必要により、その温度でさらに十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する二段保持工程を行う。次いで、発泡剤を含む発泡性樹脂粒子を密閉容器内から低圧下に放出して発泡させることにより、上述の結晶構造を有する発泡粒子を得ることができる。発泡は、密閉容器内を(ポリプロピレン系樹脂の融点-10℃)以上で行われることが好ましく、(ポリプロピレン系樹脂の融点)以上(ポリプロピレン系樹脂の融点+20℃)以下で行われることがより好ましい。
【0070】
また、特に見掛け密度の低い発泡粒子の製造にあたっては、加圧可能な密閉容器に発泡粒子を投入し、空気等の加圧気体を該容器内に圧入することにより加圧処理をして発泡粒子の内圧を高め、発泡粒子を容器内でスチーム等の加熱媒体を用いて所定の時間加熱することにより特に見掛け密度の低い発泡粒子を得る、二段発泡を行うことができる。
【0071】
成形体は、上述のように発泡粒子を型内成形すること(つまり、型内成形法)により得ることができる。型内成形法は、発泡粒子を成形型内に充填し、スチーム等の加熱媒体を用いて加熱成形することにより行われる。具体的には、発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内にスチーム等の加熱媒体を導入することにより、発泡粒子を加熱して二次発泡させると共に、相互に融着させて成形空間の形状が賦形された成形体を得ることができる。
【0072】
成形体は、例えば、発泡粒子を型内成形してなり、相互に融着した多数の発泡粒子から構成されている。成形体は、開放気泡構造を有する。開放気泡構造は、成形体の外部と連通した微小な空間部分である。開放気泡構造は、複数の発泡粒子の貫通孔が相互に連通して形成される空隙、発泡粒子の貫通孔が発泡粒子間に形成される空隙と連通して形成される空隙、発泡粒子間の空隙が連通して形成される空隙、成形体を構成する発泡粒子の連続気泡部分などが、複雑につながって形成される。
【0073】
成形体の開放気泡率は2.5%以上12%以下である。成形体の開放気泡率が2.5%未満の場合には、養生工程を省略した場合には成形体が著しく収縮・変形するおそれがある。一方、成形体の開放気泡率が12%を超える場合には、成形体の外観や剛性が低下するおそれがある。養生工程を省略した際の寸法変化をより確実に抑制する観点から、成形体の開放気泡率は、3%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、4.5%以上であることが更に好ましい。成形体の外観や剛性をより向上させることができるという観点から、成形体の開放気泡率は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、7.5%以下であることがさらに好ましく、6%以下であることが特に好ましい。
【0074】
養生工程を省略しても寸法変化をより十分抑制することができるという観点から、成形体の空隙率は4%以上であることが好ましく、4.5%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。一方、剛性や外観がより向上するという観点から、成形体の空隙率は12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。成形体の空隙率は、上述の測定方法により測定することができる。
【0075】
成形体の独立気泡率は、90%以上である。90%未満の場合には、成形体の外観や剛性が損なわれるおそれがある。成形体の外観や剛性をより向上させるという観点から、成形体の独立気泡率は91%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。
【0076】
成形体の独立気泡率は、ASTM2865-70手順Cに準じて測定される。成形体の独立気泡率は、具体的には、次のようにして測定される。まず、成形体の中心部から縦2.5cm×横2.5cm×高さ2.5cmの測定用サンプルを切り出し、幾何学的体積Vaを求める。Vaは具体的には、縦寸法[cm]×横寸法[cm]×高さ寸法[cm]により求められる値である。次に、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計(具体的には、島津製作所社製のアキュピックII1340)により、測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定する。下記の式(VII)により独立気泡率を算出する。なお、5つの測定用サンプルについて独立気泡率を算出し、その算術平均値を結果として採用する。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(VII)
Vx:上記方法で測定される測定用サンプルの真の体積、即ち、測定用サンプルを構成する樹脂の容積と、測定用サンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3
Va:測定用サンプルの幾何学的体積(単位:cm3
W:測定用サンプルの重量(単位:g)
【0077】
成形体の密度は10kg/m3以上100kg/m3以下であることが好ましい。この場合には、成形体の軽量性と剛性とをバランスよく向上させることができる。成形体の剛性がより向上するという観点から、成形体の密度は20kg/m3以上であることがより好ましく、25kg/m3以上であることがさらに好ましい。成形体の軽量性がより向上するという観点から、成形体の密度は80kg/m3以下であることがより好ましく、50kg/m3以下であることがさらに好ましい。成形体の密度は、成形体の重量(g)を成形体の外形寸法から求められる体積(L)で除し、単位換算することにより算出される。なお、例えば成形体が少なくとも部分的に複雑形状を有し、成形体の外形寸法から体積を求めることが容易でない場合には、水没法により成形体の体積を求めることができる。
従来、密度の小さい成形体を製造する場合、離型後に成形体が著しく変形しやすいため、養生工程を省略することは特に困難であった。これに対し、本開示における発泡粒子成形体によれば、見掛け密度が小さい場合であっても、養生工程を省略することが可能であり、無養生でも所望形状で、外観、剛性に優れた成形体となる。この効果を有効に発揮するという観点からも、成形体の密度を上記範囲にすることが好ましい。
【0078】
機械的強度がより向上するという観点から、成形体の最大曲げ強さは、250kPa以上であることが好ましく、300kPa以上であることがより好ましく、320kPa以上であることがさらに好ましい。最大曲げ強さは、JIS K7221-2:2006に準拠し、成形体の最大曲げ強さの最大点を最大曲げ強さとして測定することができる。
【0079】
成形体の密度DEに対する、成形体の最大曲げ強さSの比[S/DE]が9kPa・m3/kg以上15kPa・m3/kg以下であることが好ましい。この場合には、発泡粒子成形体の剛性に優れるという効果が得られる。成形体の剛性がより向上するという観点から、成形体の密度DEに対する成形体の最大曲げ強さSの比[S/DE]は、9.5kPa・m3/kg以上であることがより好ましく、10kPa・m3/kg以上であることがさらに好ましい。なお、上記計算に使用する成形体の密度DEは、最大曲げ強さの測定に供する試験片の密度を意味する。
【0080】
成形体は、自動車などの車両分野、建築分野等の種々の分野における吸音材、衝撃吸収材、緩衝材等にも用いられる。
【実施例
【0081】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0082】
実施例、比較例に使用した樹脂、発泡粒子、成形体について、以下の物性測定及び評価を実施した。なお、発泡粒子の物性測定及び評価は、発泡粒子を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置して状態調節した後に行った。また、成形体の物性測定及び評価は、養生工程を行わずに成形した成形体を用いて行った。具体的には、後述する成形体の製造において、離型後の成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて12時間静置して状態調節した成形体を用いて物性測定及び評価を行った。
【0083】
<ポリプロピレン系樹脂>
表1に、発泡粒子の製造に使用したポリプロピレン系樹脂の性状等を示す。なお、本例において使用したエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体は、いずれもランダム共重合体である。また、ポリプロピレン系樹脂の密度はいずれも900kg/mである。
【0084】
【表1】
【0085】
(ポリプロピレン系樹脂のモノマー成分含有量)
ポリプロピレン系樹脂(具体的には、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体)のモノマー成分含有量は、IRスペクトルにより決定する公知の方法により求めた。具体的には、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、出版年月:1995年1月、出版社:紀伊国屋書店、ページ番号と項目名:615~616「II.2.3 2.3.4 プロピレン/エチレン共重合体」、618~619「II.2.3 2.3.5 プロピレン/ブテン共重合体」)に記載されている方法、つまり、エチレン及びブテンの吸光度を所定の係数で補正した値とフィルム状の試験片の厚み等との関係から定量する方法により求めた。より具体的には、まず、ポリプロピレン系樹脂を180℃環境下でホットプレスしてフィルム状に成形し、厚みの異なる複数の試験片を作製した。次いで、各試験片のIRスペクトルを測定することにより、エチレン由来の722cm-1及び733cm-1における吸光度(A722、A733)と、ブテン由来の766cm-1における吸光度(A766)とを読み取った。次いで、各試験片について、以下の式(1)~(3)を用いてポリプロピレン系樹脂中のエチレン成分含有量を算出した。各試験片について得られたエチレン成分含有量を算術平均した値をポリプロピレン系樹脂中のエチレン成分含有量(単位:wt%)とした。
(K´733=1/0.96{(K´733-0.268(K´722}・・・(1)
(K´722=1/0.96{(K´722-0.268(K´722}・・・(2)
エチレン成分含有量(%)=0.575{(K´722+(K´733}・・・(3)
ただし、式(1)~(3)において、K´:各波数における見かけの吸光係数(K´=A/ρt)、K´:補正後の吸光係数、A:吸光度、ρ:樹脂の密度(単位:g/cm3)、t:フィルム状の試験片の厚み(単位:cm)を意味する。なお、上記式(1)~(3)はランダム共重合体に適用することができる。
また、各試験片について、以下の式(4)を用いてポリプロピレン系樹脂中のブテン成分含有量を算出した。各試験片について得られたブテン成分含有量を算術平均した値をポリプロピレン系樹脂中のブテン成分含有量(%)とした。
ブテン成分含有量(%)=12.3(A766/L)・・・(4)
ただし、式(4)において、A:吸光度、L:フィルム状の試験片の厚み(mm)を意味する。
【0086】
(ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率)
ポリプロピレン系樹脂を230℃でヒートプレスして4mmのシートを作製し、このシートから長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を切り出した。この試験片の曲げ弾性率を、JIS K7171:2008に準拠して求めた。なお、圧子の半径R1及び支持台の半径R2は共に5mmであり、支点間距離は64mmであり、試験速度は2mm/minである。
【0087】
(ポリプロピレン系樹脂の融点)
ポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に基づき求めた。具体的には、状態調節として「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、状態調節された試験片を10℃/minの加熱速度で30℃から200℃まで昇温することによりDSC曲線を取得し、該融解ピークの頂点温度を融点とした。なお、測定装置は、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用いた。
【0088】
(ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト)
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト(つまり、MFR)は、JIS K7210-1:2014に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0089】
表2に、多層樹脂粒子、発泡粒子の性状等を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
(貫通孔の平均孔径d)
発泡粒子の貫通孔の平均孔径は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から無作為に選択した100個の発泡粒子について、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、断面写真における貫通孔部分の断面積(開口面積)を求めた。断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の貫通孔の平均孔径(d)とした。
【0092】
(平均外径D)
発泡粒子の平均外径は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から無作為に選択した100個の発泡粒子について、切断面の面積が概ね最大となる位置で、貫通孔の貫通方向に対して垂直に切断した。各発泡粒子の切断面の写真撮影をし、発泡粒子の断面積(貫通孔の開口部も含む)を求めた。断面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を算出し、これらを算術平均した値を、発泡粒子の平均外径(D)とした。
【0093】
(平均肉厚t)
発泡粒子の平均肉厚は、下記式(5)により求めた。
平均肉厚t=(平均外径D-平均孔径d)/2・・・(5)
【0094】
(嵩密度及び嵩倍率)
発泡粒子の嵩密度は、以下のように求めた。状態調節後の発泡粒子群から発泡粒子を無作為に取り出して容積1Lのメスシリンダーに入れ、自然堆積状態となるように多数の発泡粒子を1Lの目盛まで収容し、収容された発泡粒子の質量W2[g]を収容体積V2(1[L])で除して(W2/V2)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の嵩密度を求めた。また、発泡粒子の発泡層を構成する樹脂の密度[kg/m]を発泡粒子の嵩密度[kg/m]で除すことにより発泡粒子の嵩倍率[倍]を求めた。
【0095】
(見掛け密度)
発泡粒子の見掛け密度は、以下のように求めた。まず、温度23℃のエタノールが入ったメスシリンダーを用意し、状態調節後の任意の量の発泡粒子群(発泡粒子群の質量W1[g])をメスシリンダー内のエタノール中に金網を使用して沈めた。そして、金網の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる発泡粒子群の容積V1[L]を測定した。メスシリンダーに入れた発泡粒子群の質量W1[g]を容積V1[L]で除して(W1/V1)、単位を[kg/m3]に換算することにより、発泡粒子の見掛け密度を求めた。
【0096】
(独立気泡率)
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定した。具体的には、次のようにして求めた。状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、下記の通りエタノール没法により正確に見掛けの体積Vaを測定した。見掛けの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、島津製作所社製アキュピックII1340により測定される測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定した。そして、これらの体積値Va及びVxを基に、下記の式(5)により独立気泡率を計算し、サンプル5個(N=5)の平均値を発泡粒子の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(5)
ただし、
Vx:上記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm
Va:発泡粒子を、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の水位上昇分から測定される発泡粒子の見掛けの体積(単位:cm
W:発泡粒子測定用サンプルの重量(単位:g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(単位:g/cm
【0097】
(発泡粒子の高温ピーク熱量)
状態調節を行った後の発泡粒子群から1個の発泡粒子を採取した。この発泡粒子を試験片として用い、試験片を示差熱走査熱量計(具体的には、ティー・エイ・インスツルメント社製DSC.Q1000)によって23℃から200℃まで加熱速度10℃/分で昇温させたときのDSC曲線を得た。DSC曲線において、高温ピークの面積を求め、これを高温ピーク熱量とした。
上記測定を5個の発泡粒子について行い、算術平均した値を表2に示した。
【0098】
<成形体>
表3、表4に、成形体の性状等を示す。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
(前処理加圧工程)
発泡粒子の成形前に前処理加圧工程を行った場合には、前処理加圧は、次のようにして行った。具体的には、発泡粒子を密閉容器内に入れ、圧縮空気により発泡粒子を加圧し、成形前の発泡粒子に予め表3、4に示す内圧を付与した。なお、発泡粒子の内圧は、以下のようにして測定される値である。成形型内に充填する直前の、内圧が高められた状態の発泡粒子群の重量をQ(g)とし、48時間経過後の発泡粒子群の重量をU(g)として、該重量Q(g)とU(g)の差を増加空気量W(g)とし、式P=(W÷M)×R×T÷Vにより発泡粒子の内圧P(MPa(G))を計算した。ただし、式中、Mは空気の分子量、Rは気体定数、Tは絶対温度、Vは発泡粒子群の見掛け体積から発泡粒子群中に占める基材樹脂の体積を差し引いた体積(L)を意味し、本例では、M=28.8(g/mol)、R=0.0083(MPa・L/(K・mol))、T=296(K)である。
なお、前処理加圧工程を行わなかった場合には、表中の粒子内圧の欄には「-」の記号を表示した。この場合、粒子内圧は0MPaG(つまり、大気圧に等しい内圧)である。
【0102】
(開放気泡率)
ASTM2856-70手順Bに準拠して開放気泡率(つまり、補正開放気泡率)を測定した。測定装置としては、乾式自動密度計(具体的には、島津製作所社製アキュピックII1340)を使用した。まず、成形体を23℃、12時間静置して状態調節した。次いで、成形体の中心部から、縦2.5cm×横2.5cm×高さ2.5cmの立方体形状の第1試験片を切り出し、その幾何学的体積Va[単位:cm3]を測定した。Vaは具体的には、縦寸法[cm]×横寸法[cm]×高さ寸法[cm]により求められる値である。乾式自動密度計により、第1試験片の真の体積値V1[単位:cm3]を測定した。次いで、第1試験片を8等分にし、縦1.25cm×横1.25cm×高さ1.25cmの立方体形状の第2試験片を得た。次に、乾式自動密度計により、第2試験片の真の体積値V2[単位:cm3]を測定した。なお、第2試験片の真の体積V2は、第1試験片から切り出される8個の各々の真の体積の合計値である。開放気泡率Co[単位:%]は、下記式(6)により算出される。成形体から第1試験片を5個切り出し、上記方法により開放気泡率を算出し、その算術平均値を結果として用いた。
Co=(Va-2V1+V2)×100/Va ・・・(6)
【0103】
(独立気泡率)
ASTM2865-70手順Cに準じて成形体の独立気泡率を測定した。具体的には、次のようにして測定した。まず、成形体の中心部から縦2.5cm×横2.5cm×高さ2.5cmの測定用サンプルを切り出し、幾何学的体積Vaを求めた。Vaは、具体的には、縦寸法[cm]×横寸法[cm]×高さ寸法[cm]により求められる値である。次に、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計(具体的には、島津製作所社製のアキュピックII1340)により、測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定した。下記の式(7)により独立気泡率を算出した。なお、5つの測定用サンプルについて独立気泡率を算出し、その算術平均値を結果として採用した。
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(7)
Vx:上記方法で測定される測定用サンプルの真の体積、即ち、測定用サンプルを構成する樹脂の容積と、測定用サンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3
Va:測定用サンプルの幾何学的体積(単位:cm3
W:測定用サンプルの重量(単位:g)
【0104】
(成形体密度)
成形体密度(kg/m3)は、成形体の重量(g)を成形体の外形寸法から求められる体積(L)で除し、単位換算することにより算出した。
【0105】
(無養生成形性評価)
無養生成形性の評価は、成形体を成形金型から離型した後に、60℃から80℃程度の温度に調整された高温雰囲気下で所定時間静置させるという養生工程を行うことなく、成形体の融着性及び回復性を評価することにより行った。具体的には、後述する成形体の製造において、離型後の成形体を23℃で12時間静置した成形体を用いて後述の融着性、回復性の評価を行い、融着性及び回復性の評価結果がいずれも合格である成形体が得られた場合を「Good」と評価し、その他の場合を「Poor」と評価した。
【0106】
(融着性)
成形体を折り曲げて破断させ、破断面に存在する発泡粒子の数C1と破壊した発泡粒子の数C2とを求め、上記破断面に存在する発泡粒子の数に対する破壊した発泡粒子の数の比率(つまり、材料破壊率)を算出した。材料破壊率は、C2/C1×100という式から算出される。異なる試験片を用いて上記測定を5回行い、材料破壊率をそれぞれ求めた。材料破壊率の算術平均値が90%以上であるときを合格とした。
【0107】
(回復性)
縦300mm、横250mm、厚み60mmの平板形状の金型を用いて得られた成形体における四隅部付近(具体的には、角より中心方向に10mm内側)の厚みと、中心部(縦方向、横方向とも2等分する部分)の厚みをそれぞれ計測した。次いで、計測した箇所のうち最も厚みの厚い箇所の厚みに対する最も厚みの薄い箇所の厚みの比(単位:%)を算出し、比が95%以上であるときを合格とした。
【0108】
(外観評価)
下記基準に基づいて評価した。
A:成形体の表面に粒子間空隙が少なく、かつ貫通孔等に起因する凹凸が目立たない良好な表面状態を示す。
B:成形体の表面に粒子間空隙および/または貫通孔等に起因する凹凸がやや認められる。
C:成形体の表面に粒子間空隙および/または貫通孔等に起因する凹凸が著しく認められる。
【0109】
(50%圧縮応力)
成形体の表面にあるスキン層が試験片に含まれないように、成形体の中心部から縦50mm×横50mm×厚み25mmの試験片を切り出した。JIS K6767:1999に基づき、圧縮速度10mm/分にて圧縮試験を行い成形体の50%圧縮応力を求めた。なお、50%圧縮応力の測定に用いた試験片の密度を上記成形体密度の測定と同様の方法により求め、「切り出し成形体密度(圧縮)」として表3、表4に表示した。
【0110】
(最大曲げ強さ)
JIS K7221-2:2006に準拠して測定し、成形体の曲げ強さの最大点を最大曲げ強さとして測定した。具体的には、成形体から長さ120mm、幅25mm、厚み20mmの試験片を表面のスキン層を除いて切り出した。この試験片を使用して、加圧くさびの降下速度10mm/分、支点間距離100mm、支持台先端部の半径5mm、加圧くさび先端部の半径5mmとした以外はJIS K7221-2:2006に基づいて、曲げ強さを測定した。なお、最大曲げ強さの測定に用いた試験片の密度を上記成形体密度の測定と同様の方法により求め、「切り出し成形体密度(曲げ)」として表3、表4に表示した。
【0111】
(成形体の空隙率)
成形体の空隙率は、以下のように求めた。
成形体の中心部分から直方体形状(縦20mm×横100mm×高さ20mmの試験片を切り出した。この試験片を、エタノールを入れたメスシリンダー中に沈めてエタノールの液面の上昇分から試験片の真の体積Vc[L]を求めた。また、試験片の外形寸法から見掛けの体積Vd[L]を求めた。求められた真の体積Vcと見掛けの体積Vdから下記式(8)により成形体の空隙率を求めた。
空隙率(%)=[(Vd-Vc)/Vd]×100・・・(8)
【0112】
以下、実施例1~6、比較例1~7における、発泡粒子及び成形体の製造方法を説明する。
(実施例1)
<ポリプロピレン系発泡粒子(発泡粒子A)の製造>
ポリプロピレン系樹脂1(略称PP1)を芯層形成用押出機内で最高設定温度245℃にて溶融混練して樹脂溶融混練物を得た。なお、PP1は、エチレン-プロピレンランダム共重合体であり、エチレン成分含有量3.1質量%である。PP1の特性を表1に示す。また、ポリプロピレン系樹脂4(略称PP4)を融着層形成用押出機内で最高設定温度245℃にて溶融混練して樹脂溶融混練物を得た。次いで、芯層形成用押出機及び融着層形成用押出機から各樹脂溶融混練物を、貫通孔を形成するための小孔を備えた共押出ダイの先端から押出した。このとき、ダイ内で各樹脂溶融混練物を合流させて、非発泡状態の筒状の芯層と、該筒状の芯層の外側表面を被覆する非発泡状態の融着層とからなる鞘芯型の複合体を形成させた。押出機先端に付設された口金の細孔から複合体を、貫通孔を有する筒形状を有するストランド状に押し出し、ストランド状物を引取ながら水温を10℃に調整した冷水で水冷した後、ペレタイザーで質量が約1.5mgとなるように切断した。このようにして、貫通孔を有する円筒状の芯層と該芯層を被覆する融着層とからなる多層樹脂粒子を得た。なお、多層樹脂粒子の製造に際し、芯層形成用押出機に気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛を供給し、ポリプロピレン系樹脂中にホウ酸亜鉛500質量ppmを含有させた。
【0113】
多層樹脂粒子1kgを、分散媒としての水3Lともに5Lの密閉容器内に仕込み、更に多層樹脂粒子100質量部に対し、分散剤としてカオリン0.3質量部、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.004質量部を密閉容器内に添加した。発泡剤として二酸化炭素を密閉容器内に添加した後、密閉容器を密閉し、密閉容器内を攪拌しながら発泡温度150.1℃まで加熱した。このときの容器内圧力(つまり、含浸圧力、二酸化炭素圧力)は2.6MPa(G)であった。同温度(つまり、150.1℃)で15分保持した後、容器内容物を大気圧下に放出して発泡粒子を得た。この発泡粒子を23℃で24時間乾燥させた。
【0114】
次いで、耐圧容器内に上記発泡粒子を入れ、耐圧容器内に空気を圧入することにより、容器内の圧力を高め、空気を気泡内に含浸させて発泡粒子の気泡内の内圧を高めた。次いで、耐圧容器から取り出した発泡粒子(一段発泡粒子)に耐圧容器内の圧力(つまり、ドラム圧力)が表2に示す圧力となるようスチームを供給し、大気圧下で加熱した。耐圧容器から取り出した一段発泡粒子における気泡内の圧力(つまり、内圧)は表2に示す値であった。以上により、一段発泡粒子の見掛け密度を低下させ、発泡粒子(二段発泡粒子)を得た。このようにして、嵩倍率37.5倍の発泡粒子を得た。これを発泡粒子Aという。
【0115】
<成形体の製造>
成形体の製造には、発泡粒子を23℃で24時間乾燥させたものを用いた。次いで、クラッキング量を20%(つまり、12mm)に調節した、縦300mm×横250mm×厚さ60mmの平板成形型(成形型は、具体的には金型)に発泡粒子を充填し、型締めして金型両面からスチームを5秒供給して予備加熱する排気工程を行った。その後、所定の成形圧より0.08MPa(G)低い圧力に達するまで、金型の一方の面側からスチームを供給して一方加熱を行った。次いで、所定の成形圧より0.04MPa(G)低い圧力に達するまで金型の他方の面側よりスチームを供給して一方加熱を行った後、所定の成形圧に達するまで加熱(つまり、本加熱)を行った。加熱終了後、放圧し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで水冷した後、型から離型して成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は3.9%であった。なお、所定の成形圧は、上述の融着性の評価において合格品を取得可能な成形圧のうち、最も低い圧力となる値として設定した。
【0116】
(実施例2)
発泡温度、二酸化炭素圧力を表2に示す値に変更し、二段発泡を行わなかった以外は発泡粒子Aの製造と同様にして、嵩倍率38.3倍の発泡粒子(つまり、発泡粒子B)を得た。発泡粒子Bを用いた以外は実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は5.3%であった。
【0117】
(実施例3)
発泡温度、二酸化炭素圧力を表2に示す値に変更し、二段発泡を行わなかった以外は発泡粒子Aの製造と同様にして、嵩倍率36.0倍の発泡粒子(つまり、発泡粒子C)を得た。また、発泡粒子Cを用いた以外は実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は5.3%であった。
【0118】
(実施例4)
発泡層を形成するポリプロピレン系樹脂として、PP1とPP2とを80重量%:20重量%の混合比率で混合した混合樹脂PP3を用い、発泡温度を表2に示す値に変更した以外は発泡粒子Aの製造と同様にして、嵩倍率37.7倍の発泡粒子(つまり、発泡粒子D)を得た。また、発泡粒子Dを用いた以外は実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は4.1%であった。
【0119】
(実施例5)
発泡温度変更し、二段発泡を行わなかった以外は発泡粒子Aの製造と同様にして、嵩倍率18.0倍の発泡粒子(つまり、発泡粒子G)を得た。また、発泡粒子Gを用いた以外は実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は5.1%であった。
【0120】
(実施例6)
成形工程において、成形型内に充填する前の発泡粒子の内圧が所定の値となるよう前処理加圧を行った点及びクラッキング量変更した点以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は3.5%であった。
【0121】
(比較例1)
多層樹脂粒子の製造時に、貫通孔を有さない樹脂粒子を製造し、発泡温度、二酸化炭素圧力を表2に示す値に変更した以外は発泡粒子Aの製造と同様にして、嵩発泡35.7倍の発泡粒子(つまり、発泡粒子E)を得た。また、発泡粒子Eを用い、成形工程において、成形型内に充填する前の発泡粒子の内圧が表4に示す値となるよう前処理加圧を行い、クラッキング量及び成形圧を表4に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は0.4%であった。
なお、本例のように貫通孔を有さない発泡粒子は成形時のスチームの通りが悪いため、前処理加圧を行わない場合には、成形体の外観、剛性が著しく劣るものとなる。したがって、本例では、上記のように前処理加圧を行った。
【0122】
(比較例2)
多層樹脂粒子の製造時に、貫通孔を形成するための小孔を備えた共押出ダイの小孔の内径を変更し、発泡温度、二酸化炭素圧力を表2に示す値に変更し、二段発泡を行わなかった以外は実施例1と同様にして、嵩倍率45.0倍の発泡粒子(つまり、発泡粒子F)を得た。また、発泡粒子Fを用いた以外は実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は35.8%であった。
【0123】
(比較例3)
成形工程において、成形型内に充填する前の発泡粒子の内圧が表4に示す値となるよう前処理加圧を行った点を除いては、比較例2と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は17.4%であった。
【0124】
(比較例4)
成形工程において、成形型内に充填する前の発泡粒子の内圧が表4に示す値となるよう前処理加圧を行い、クラッキング量及び成形圧を表4に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は0.6%であった。
【0125】
(比較例5)
また、成形工程において、成形型内に充填する前の発泡粒子の内圧が表4に示す値となるよう前処理加圧を行った点を除いては、実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は0.9%であった。
【0126】
(比較例6)
また、成形工程において、成形型内に充填する前の発泡粒子の内圧が表4に示す値となるよう前処理加圧を行い、成形圧を表4に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は0.3%であった。
【0127】
(比較例7)
多層樹脂粒子の製造時に、貫通孔を形成するための小孔を備えた共押出ダイの小孔の内径を変更し、発泡温度、二酸化炭素圧力変更し、二段発泡を行わなかった以外は実施例1と同様にして、嵩倍率36.7倍の発泡粒子(つまり、発泡粒子H)を得た。また、発泡粒子Hを用いた以外は実施例1と同様にして成形体を得た。このようにして製造された成形体の開放気泡率は15.0%であった。
【0128】
表2~表3より理解されるように、実施例1~6によれば、養生工程を省略しても、所望形状を有する、外観及び剛性に優れた成形体を製造することができる。
【0129】
一方、表2、表4より理解されるように、比較例1では、貫通孔を有していない発泡粒子を用いて成形体を製造したため、成形体の開放気泡率が低くなりすぎた。その結果、無養生成形では、成形体の著しい収縮・変形が生じ(つまり、回復性が不合格)、良好な成形体を得ることができなかった。
比較例2では、貫通孔の平均孔径が大きすぎる発泡粒子を用いて成形体を製造したため、成形体の開放気泡率が高くなりすぎた。その結果、成形体の外観が悪く、剛性も低下した。
比較例3は、比較例2よりも開放気泡率が小さくなるように成形した例である。比較例3では、開放気泡率を低下させることができたものの低下が不十分であり、その結果、外観や剛性が良好な成形体を得ることができなかった。
【0130】
比較例4は、実施例1と同様の発泡粒子を用い、異なる成形条件で成形体を製造した例である。比較例4では、成形体の開放気泡率が低すぎるため、無養生成形では、成形体の著しい収縮・変形が生じ(つまり、回復性が不合格)、良好な成形体を得ることができなかった。
比較例5も比較例4と同様に、実施例1と同様の発泡粒子を用い、異なる成形条件で成形体を製造した例である。比較例5では、比較例4よりは成形体の開放気泡率が高いものの、依然として開放気泡率が低すぎるため、無養生成形では、成形体の著しい収縮・変形が生じ(つまり、回復性が不合格)、良好な成形体を得ることができなかった。
比較例6も比較例4と同様に、実施例1と同様の発泡粒子を用い、異なる成形条件で成形体を製造した例である。比較例6では、比較例4よりもさらに成形体の開放気泡率が低い。比較例6では、成形体の開放気泡率が低すぎるため、無養生成形では、成形体の著しい収縮・変形が生じ(つまり、回復性が不合格)、良好な成形体を得ることができなかった。
比較例7では、比較例2よりは発泡粒子の貫通孔の平均孔径が小さいものの、依然として貫通孔の平均孔径が大きすぎる発泡粒子を用いて成形体を製造したため、成形体の開放気泡率が高くなりすぎた。その結果、成形体の外観が悪く、剛性も低下した。
図1
図2
図3
図4