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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】塗工液、硬化膜、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20230621BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20230621BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20230621BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20230621BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20230621BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20230621BHJP
   B32B 7/02 20190101ALN20230621BHJP
【FI】
C09K11/06
C09B67/20 F
C09D129/04
C09D5/29
C09D7/41
C09B57/00 G
B32B7/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019038292
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143176
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】古田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 敦子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 傑
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0210053(US,A1)
【文献】Hyeong-Ju Kim et al.,Angewandte Chemie,2015年,54,4330-4333,DOI: 10.1002/anie.201411568
【文献】Suguru Ito et al.,CrystEngComm,2018年,20,1-3,DOI: 10.1039/x0xx00000x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、前記機械的刺激により変化した前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う色素とを含む粉体と、
ポリビニルアルコールと
を含み、
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が下記一般式(4)で表される硬化膜。
【化1】
式(4)中、
乃至R 、及び、R 乃至R は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、
は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。
【請求項2】
前記粉体は、前記機械的刺激により極大発光波長が40nm以上変化する請求項1に記載の硬化膜。
【請求項3】
前記粉体は、前記機械的刺激により、前記励起光の照射下で第1色の光を発する発光状態から、前記励起光の照射下で前記第1色とは異なる第2色の光を発する発光状態へと変化する請求項1又は2に記載の硬化膜。
【請求項4】
前記粉体は、前記機械的刺激により、前記励起光の照射下で光を発する発光状態から、前記励起光の照射下で光を発しない非発光状態へと変化する請求項1又は2に記載の硬化膜。
【請求項5】
前記色素の極大吸収波長が500nm以上である請求項1乃至4の何れか1項に記載の硬化膜。
【請求項6】
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対する前記色素の量が、0.001質量部以上100質量部未満の範囲内である請求項1乃至5の何れか1項に記載の硬化膜。
【請求項7】
下記式(1)を満たす請求項1乃至6の何れか1項に記載の硬化膜。
after/Jbefore>1 (1)
式(1)中、Jafterは下記式(2)により表され、Jbeforeは下記式(3)により表され、Iλ (λ)afterは前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体に前記機械的刺激を付与した直後の面積で規格化した発光スペクトルであり、Iλ (λ)beforeは前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体に前記機械的刺激を付与する前の面積で規格化した発光スペクトルであり、ε(λ)は前記色素のモル吸光係数であり、λは波長である。
【数1】
【請求項8】
前記色素が蛍光色素である請求項1乃至の何れか1項に記載の硬化膜。
【請求項9】
基材と、前記基材上に設けられた請求項1乃至の何れか1項に記載の硬化膜とを備えた積層体。
【請求項10】
励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、前記機械的刺激により変化した前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う色素とを含む粉体と、
少なくとも1種類の液と、
ポリビニルアルコールと
を含み、
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が下記一般式(4)で表される塗工液。
【化2】
式(4)中、
乃至R 、及び、R 乃至R は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、
は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体、塗工液、硬化膜、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
メカノクロミズムは、固体発光性の有機分子が機械的刺激により発光色を変化させ、加熱や溶媒蒸気にさらすことにより元の発光色に戻る現象である。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、高速又は簡便にもとの発光色に戻すことができ、更に多色発光特性を有するメカノクロミック発光材料を提供することを目的としている。この文献には、このような目的を達成するために、有機金錯体にトリエチレングリコールモノメチルエーテル鎖又はジエチレンクリコールモノメチルエーテル鎖を導入した化合物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、機械的刺激に応じて吸収波長及び発色光波長が変化するメカノクロミック材料として、ピロロピリジン化合物の誘導体が記載されている。この誘導体は、機械的刺激に応じて、蛍光発光波長が30nm以上変化する。
【0005】
非特許文献1には、機械的刺激の種類を制御することにより、赤-緑-青の3色の間の発光を切り替えることができる超分子の固体フィルムが記載されている。この超分子は2種類の色素(DBDCSとm-BHCDCS)からなり、色素の質量比は10:3である。このフィルムに対して熱アニーリング又は溶媒蒸発アニーリングを施すと、2種類の色素が独立した相構造を形成し、DBDCSからの発光(青又は緑)がみられ、m-BHCDCSからの発光は抑制される。
一方、スミアリングを施すと、m-BHCDCSが結晶からアモルファスへの相転移を起こし、m-BHCDCSからの発光(赤)がみられ、DBDCSからの発光は抑制される。これは、せん断力によって構造が乱されたことで、DBDCSからm-BHCDCSへのフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)が生じるためである。
【0006】
非特許文献2には、3色の間で発光色を切り替えることができる二成分色素が記載されている。この二成分色素は、メカノクロミック発光を殆ど示さない有機色素(ビチオフェン誘導体)とメカノクロミック発光を示さない有機色素(DMQA)との混合物である。この発光色の変化は、ビチオフェン誘導体が結晶状態から、完全なアモルファス状態及び結晶の初期構造を含むアモルファス状態へ変化することで引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-158678号公報
【文献】国際公開第2012/039508号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hyeong-Ju Kim、Dong Ryeol Whang、Jhannes Gierschner、Chong Han Lee、Soo Young Park、「High-Contrast Red-Green-Blue Tricolor Fluorescence Switching in Bicomponent Molecular Film」、Angewandte Chemie、2015、54、4330-4333
【文献】Suguru Ito、Genki Katada、Tomohiro Taguchi、Izuru Kawamura、Takashi Ubukata、Masatoshi Aasami、「Tricolor mechanochromic luminescence of an organic two-component dye: visualization of a crystalline state and two amorphous states」、CrystEngComm、2019、21、53-59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、機械的刺激を付与した後における色について、自由度を大きくすることを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面によると、励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、前記機械的刺激により変化した前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う色素とを含む粉体と、ポリビニルアルコールとを含み、前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が下記一般式(4)で表される硬化膜が提供される。
【化3】
式(4)中、
乃至R 、及び、R 乃至R は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、
は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。
【0011】
本発明の第2側面によると、励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、前記機械的刺激により変化した前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う色素とを含む粉体と、少なくとも1種類の液と、ポリビニルアルコールとを含み、前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が下記一般式(4)で表される塗工液が提供される。
【化4】
式(4)中、
乃至R 、及び、R 乃至R は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、
は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。
【0013】
本発明の第3側面によると、基材と、上記基材上に第1側面に係る硬化膜とを備えた積層体が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、機械的刺激を付与した後における発光色について、自由度を高めることを可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る機械的刺激を付与する前後の蛍光スペクトル及び吸収スペクトルの一例を示す概略図。
図2A】第5実施形態に係る積層体の一例を概略的に示す断面図。
図2B】第5実施形態に係る積層体において、機械的刺激が加わった場合に生じる現象を説明するための概略断面図。
図3】第5の実施形態に係る積層体の他の例を概略的に示す断面図。
図4】試験例6の粉体に機械的刺激を付与した前後の蛍光スペクトル。
図5】試験例24の積層体に機械的刺激を付与した前後の蛍光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る粉体は、励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、上記機械的刺激により変化した上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う発光性色素とを含む粉体であって、上記励起光の照射下で第1色の光を発する発光状態から、上記励起光の照射下で上記第1色とは異なる第2色の光を発する発光状態へと変化する粉体である。ここでは、一例として、発光性色素は蛍光色素である。
【0018】
本実施形態の粉体は、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)により、粉体の発光色を変化させている。FRETは、例えば、蛍光分子間におけるエネルギー移動に関する相互作用で、励起したドナーの蛍光分子からアクセプターの蛍光分子にエネルギーが移動する。ドナーとアクセプターの発光強度に着目すると、FRETが起きていないときに比べて、FRETが起きるとドナーの発光強度が低下し、アクセプターの発光強度が向上する。FRETは、ドナーの発光をアクセプターが吸収した結果ではなく、FRETを介在する中間的な光子も存在しない。FRETは、振動している電気双極子の相互作用であり、共鳴周波数に近い電子双極子の共鳴である。そのため、FRETは、共役振動の振る舞いに似た現象である。このように、FRETでは、近接した2個の蛍光分子の間で励起エネルギーが電磁波にならず、電子の共鳴により移動する。
【0019】
FRETは、蛍光分子間の距離が、例えば、10nm以下であり、ドナーの発光スペクトルとアクセプターの吸収スペクトルが重なりを有し、かつ、ドナーとアクセプターの配向因子が適切なときに起こる。
【0020】
本実施形態の粉体では、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体がドナーとして用いられ、蛍光色素がアクセプターとして用いられている。
【0021】
(機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体)
機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、例えば、その化合物に対して機械的刺激として摩擦を付与することにより、発光スペクトルが変化するため、その発光スペクトルに対応する発光色が変化する。発光色が変化した後、発光色が機械的刺激を付与する前の発光色へ、加熱若しくは溶媒蒸気への曝露により、又は自発的に戻る。
【0022】
機械的刺激は、特に限定されるものではないが、例えば、摩擦、圧縮、延伸、衝撃、せん断、粉砕、曲げ、超音波が挙げられる。
【0023】
このようなインドリルベンゾチアジアゾール誘導体としては、発光色が機械的刺激を付与する前の発光色へ自発的に戻る化合物が好ましく、特に、発光色が機械的刺激を付与する前の発光色へ室温付近で自発的に戻る化合物が好ましい。室温とは、例えば、10℃以上35℃以下である。
【0024】
インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0025】
【化1】
【0026】
式(1)中、R乃至R、及び、R乃至Rは、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、
は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。
【0027】
インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、インドリル基の窒素原子上にtert-ブトキシカルボニル基を含む基を有することが好ましく、特に、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0028】
【化2】
【0029】
(蛍光色素)
蛍光色素は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体からのエネルギー移動により励起されるものであればよい。このような蛍光色素として、例えば、キサンテン色素、シアニン色素、スクアリウム色素、クマリン色素、トリフェニルメタン系色素、ピリミジン色素が挙げられる。
【0030】
キサンテン色素としては、例えば、スルホローダミンB、ガレイン、アシッドレッド289、ブロモピロガロールレッド、2’,7’-ジクロロフルオレセインナトリウム、9-(4’-ジメチルアミノフェニル)-2,6,7-トリヒドロキシフルオロン硫酸塩水和物、ジブロモフルオレセイン、アシッドレッド91、ウラニンK、フルオレセイン、ピロガロールレッド、ローダミン6G、ローダミンB、アシッドレッド94、ローダミン19、ローダミン110クロリド、ローダミン590クロリド、ローダミン700、ローダミン800、過塩素酸ローダミン19、過塩素酸ローダミン640、スルホンフルオレセイン、スルホローダミン101、テトラブロモフルオレセインカリウム、アシッドレッド87、2’,4’,5’,7’-テトラブロモ-3,4,5,6-テトラクロロフルオレセイン、アシッドレッド92、3,4,5,6-テトラクロロフルオレセイン、フェニルフルオロン、及びエリスロシンBが挙げられる。
【0031】
シアニン色素としては、例えば、1,1’-ジエチル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニンヨージド、クリプトシアニン、シアニン、3,3’-ジエチルオキサカルボシアニンヨージド、3,3’-ジプロピルチアジカルボシアニンヨージド、3,3’-ジエチルオキサジカルボシアニンヨージド、3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-ビス(4-スルホブチル)ベンゾインドジカルボシアニンナトリウム、3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-ビス(4-スルホブチル)インドカルボシアニンナトリウム、3,3’-ジエチルチアトリカルボシアニンヨージド、1,1’-ジブチル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドトリカルボシアニンヘキサフルオロホスファート、インドシアニングリーン、IR 775 クロリド、IR 676 ヨージド、IR 783、ピナシアノールクロリド、及びピナシアノールヨージドが挙げられる。
【0032】
スクアリウム色素としては、例えば、2,4-ビス[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシフェニル]スクアライン及び2,4-ビス[8-ヒドロキシ-1,1,7,7-テトラメチルジュロリジン-9-イル]スクアラインが挙げられる。
【0033】
クマリン色素としては、例えば、ソルベントレッド197が挙げられる。
【0034】
トリフェニルメタン系色素としては、例えば、ベーシックグリーン1、エリオグリーンB、アシッドグリーン9、マラカイトグリーンシュウ酸塩が挙げられる。
【0035】
蛍光色素の極大吸収波長は、500nm以上であることが好ましく、500nm以上650nm以下の範囲内であることがより好ましく、520nm以上650nm以下の範囲内であることが更に好ましい。蛍光色素の極大吸収波長が長くなるにつれて、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体からのエネルギー移動により、蛍光色素を励起することが困難になる。一方、蛍光色素の極大吸収波長が短くなるにつれて、機械的刺激を付与する前後での発光色の変化が小さくなる。
【0036】
インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の100質量部に対する蛍光色素の量は、20質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよく、3質量部以下であってもよく、1質量部以下であってもよく、0.1質量部以下であってもよい。また、0.001質量部以上であってもよく、0.01質量部以上であってもよい。蛍光色素の量が多くなるにつれて、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光強度が低下するため、粉体からの発光の確認が困難になる。また、蛍光色素の量が多くなるにつれて、機械的刺激を付与した後の発光色から付与する前の発光色への変化に要する時間が長くなる。即ち、発光色の回復速度が遅くなる。一方、蛍光色素の量が少なくなるにつれて、粉体に機械的刺激を付与する前後で、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光強度の低下を確認することが困難になる。
【0037】
この粉体は、例えば、下記の式(3)を満たす。
【0038】
after/Jbefore>1 (3)
【0039】
式(3)中、Jafterは下記式(4)により表され、Jbeforeは下記式(5)により表され、Iλ (λ)afterはインドリルベンゾチアジアゾール誘導体に機械的刺激を付与した直後の面積で規格化した蛍光スペクトルであり、Iλ (λ)beforeはインドリルベンゾチアジアゾール誘導体に機械的刺激を付与する前の面積で規格化した発光スペクトルであり、ε(λ)は上記色素のモル吸光係数であり、λは波長である。
【数1】
【0040】
上記の条件を満たすことにより、機械的刺激を付与することで、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)による蛍光色素の発光強度が大きくなる変化を生じさせることができる。以下、図1を用いてその理由を説明する。
【0041】
図1は、本実施形態に係る機械的刺激を付与する前後の蛍光スペクトル及び吸収スペクトルの一例を示す概略図である。図1に示すように、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体に機械的刺激を付与する前の蛍光スペクトル1は、機械的刺激を付与することにより、蛍光スペクトル2へとシフトする。この蛍光スペクトルのシフトにより、蛍光色素の吸収スペクトル3との重なりの大きさが変化する。
【0042】
この重なりの大きさは上記の式(4)及び式(5)により表される。即ち、上記式(4)は蛍光スペクトル2と吸収スペクトル3との重なりの大きさに対応し、上記式(5)は蛍光スペクトル1と吸収スペクトル3との重なりの大きさに対応する。インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の蛍光スペクトルが上記のように変化することで、蛍光色素の吸収スペクトル3との重なりが大きくなる。これによりインドリルベンゾチアジアゾール誘導体から蛍光色素へのFRETが効率よく生じるため、ひいては蛍光色素の発光強度を増大させることができると考えられる。
【0043】
図1において、本実施形態に係る粉体の発光色の変化は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の蛍光スペクトル1の極大発光波長に対応する発光色から、蛍光色素の蛍光スペクトル4の極大発光波長に対応する発光色への変化に対応する。使用可能な蛍光色素の選択肢は多いことから、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体に蛍光色素を組み合わせると、発光色の変化の自由度を大きくすることができる。
【0044】
粉体からの発光は、例えば、励起光を照射することで確認することができる。励起光の波長は特に限定されるものではないが、100nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましく、200nm以上460nm以下の範囲内であることがより好ましく、250nm以上450nm以下の範囲内であることが更に好ましい。励起光の波長が長くなるにつれて、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体を励起させることが困難になる。
【0045】
機械的刺激を付与する前後で、粉体の極大発光波長は40nm以上変化することが好ましく、60nm以上変化することがより好ましく、100nm以上変化することが更に好ましい。
【0046】
(添加剤)
本実施形態の粉体は、本発明の効果を損なわない範囲で、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体又は蛍光色素以外の材料を添加剤として含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、及び無機酸化物が挙げられる。
【0047】
添加剤の含有量は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。添加剤の含有量がこの範囲にあることで、粉体の発光強度を維持することができる。
【0048】
本実施形態の粉体は、例えば、取扱いを容易にするために、液体に混合させてもよい。液体としては、25℃で液状の化合物を用いることが好ましい。このような液体としては、例えば、水、エーテル類、ケトン類、エステル類、アルコール類、及びアミド類が挙げられる。用いる液体は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0049】
エーテル類としては、例えば、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、及びフェネトールが挙げられる。
【0050】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサノンが挙げられる。
【0051】
エステル類としては、例えば、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n-ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n-ペンチル、2-エトキシエチルアセテート、及びγ-ブチロラクトンが挙げられる。
【0052】
アルコール類としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、及び2-ブトキシエタノールが挙げられる。
【0053】
アミド類としては、例えば、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0054】
次に、粉体の蛍光スペクトルの測定方法、粉体の発光色の確認方法、及び粉体の発光色の変化の確認方法について説明する。
【0055】
(粉体の蛍光スペクトルの測定方法)
粉体の蛍光スペクトルは、分光蛍光光度計を用いて測定する。具体的には、粉体に365nmの紫外線を照射した際の発光を分光蛍光光度計で測定する。この分光蛍光光度計としては、例えば、オーシャンオプティクス社製の小型分光器 USB2000+を使用することができる。
【0056】
(粉体の発光色の確認方法)
粉体の発光色は、目視で確認する。具体的には、粉体に365nmの紫外線を照射した際の発光を観察する。
【0057】
粉体の発光色は、例えば、紫、青、青緑、緑、黄、橙、又は赤である。発光していないと認められる場合には、発光色は黒である。なお、各発光色に対応する波長は、例えば、紫の場合380nm以上430nm未満、青の場合430nm以上460nm未満、青緑の場合460nm以上500nm未満、緑の場合500nm以上570nm未満、黄の場合570nm以上590nm未満、橙の場合590nm以上610nm未満、及び、赤の場合610nm以上780nm以下である。
【0058】
(粉体の発光色の変化の確認方法)
まず、機械的刺激を与える前の粉体の発光色を、上記の確認方法により確認する。次に、機械的刺激として、例えば、スパチュラにより粉体をこする。こすった直後、こすった部分の発光色を上記の確認方法により確認する。一定時間経過後、例えば、1分後、こすった部分の発光色を上記の確認方法により確認する。
【0059】
(粉体の製造方法)
例えば、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体及び蛍光色素を上記の液体に混合する。この混合物を基材に塗布し、混合物中の液体を、例えば加熱により除去することで、粉体を得ることができる。混合物の塗布は、1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。また、他の基材、例えば、転写基材上に塗布した後に転写してもよい。
【0060】
基材は、特に限定されないが、混合物の使用目的に合わせて適宜選択することができる。基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ガラス、シリコン、不織布、メッシュ、紙、及びパルプが挙げられる。
【0061】
基材に混合物を塗布する方法は、例えば、刷毛塗り、筆塗り、鏝塗り、バーコータ、ナイフコータ、ドクターブレード、スクリーン印刷、スプレー塗布、インクジェット印刷、スピンコータ、アプリケータ、ロールコータ、フローコータ、遠心コータ、超音波コータ、(マイクロ)グラビアコータ、ディップコート、フレキソ印刷、ポッティング、又はすきこみ処理の手法が挙げられる。
【0062】
第1実施形態に係る粉体は、励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、上記機械的刺激により変化した上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う蛍光色素とを含む粉体であって、上記励起光の照射下で第1色の光を発する発光状態から、上記励起光の照射下で上記第1色とは異なる第2色の光を発する発光状態へと変化する粉体である。従って、第1実施形態に係る粉体は、機械的刺激を付与した後における色について、自由度を高めることができる。
【0063】
<第2実施形態>
本発明の第2の実施形態に係る粉体は、励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、上記機械的刺激により変化した上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う色素とを含む粉体であって、上記機械的刺激により、上記励起光の照射下で光を発する発光状態から、上記励起光の照射下で光を発しない非発光状態へと変化する粉体である。
【0064】
本実施形態の粉体は、第1実施形態と同様に、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)により、発光状態から非発光状態へ変化している。本実施形態の粉体では、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体がドナーとして用いられ、色素がアクセプターとして用いられている。FRETが生じると、ドナーからアクセプターへのエネルギー移動が起きる。アクセプターへのエネルギー移動が起きても、アクセプターが光を発しない化合物である場合(非発光性色素)、本実施形態の粉体は発光状態から非発光状態へと変化する。また、粉体中の色素の量が多くなるにつれて濃度消光が生じるため、蛍光色素などの発光性色素を用いても非発光状態へと変化する。このような変化は、第1実施形態の粉体では実現できない特殊な色変化である。
【0065】
(機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体)
機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体としては、例えば、第1実施形態で例示した化合物と同様の化合物を使用することができる。
【0066】
(色素)
色素は、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体からのエネルギー移動を受けることができるものであればよい。このような色素として、例えば、非発光性色素及び発光性色素が挙げられる。
【0067】
非発光性色素としては、例えば、メロシアニン色素、テトラアザポルフィリン系色素、及びフタロシアニン系色素を用いることができる。
【0068】
発光性色素としては、例えば、第1実施形態で例示した色素と同様に、キサンテン色素、シアニン色素、スクアリウム色素、クマリン色素、トリフェニルメタン系色素、ピリミジン色素などの蛍光色素を用いることができる。
【0069】
色素の極大吸収波長は、500nm以上であることが好ましく、500nm以上650nm以下の範囲内であることがより好ましく、520nm以上650nm以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0070】
非発光性色素の場合、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の100質量部に対する色素の量は、20質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよく、5質量部以下であってもよく、3質量部以下であってもよく、1質量部以下であってもよく、0.1質量部以下であってもよい。また、0.001質量部以上であってもよく、0.01質量部以上であってもよい。蛍光色素の量が多くなるにつれて、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光強度が低下するため、粉体からの発光の確認が困難になる。一方、蛍光色素の量が少なくなるにつれて、粉体に機械的刺激を付与する前後で、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光強度の低下を確認することが困難になる。
【0071】
発光性色素の場合、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の100質量部に対する色素の量は、10質量部超100質量部以下の範囲内であってもよい。
【0072】
(添加剤)
添加剤としては、第1実施形態と同様の添加剤を用いることができる。
【0073】
また、例えば、取扱いを容易にするために、本実施形態に係る粉体を液体に混合させてもよい。液体としては、第1実施形態と同様の液体を用いることができる。
【0074】
本実施形態に係る粉体の蛍光スペクトルの測定方法、粉体の発光色の確認方法、及び粉体の発光色の変化の確認方法、及び粉体の製造方法も、第1実施形態と同様である。
【0075】
第2の実施形態に係る粉体は、励起光の照射によって発光する粉体であって、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、上記機械的刺激により変化した上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う色素とを含む粉体であって、上記機械的刺激により、上記励起光の照射下で光を発する発光状態から、上記励起光の照射下で光を発しない非発光状態へと変化する粉体である。従って、第2の実施形態に係る粉体は、機械的刺激を付与した後における色について、自由度を高めることができる。
【0076】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る塗工液は、粉体と、少なくとも1種類の液とを含む。
【0077】
(粉体)
粉体には、第1実施形態又は第2実施形態の粉体が用いられる。
【0078】
(液)
液は、機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を少なくとも完全に溶解させない分散媒である。液は、水系樹脂を少なくとも1種類含むことが好ましい。水系樹脂を用いることで、粉体の分散性を良好にすることができ、かつ、塗工性を向上させることができる。水系樹脂は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。また、環境負荷の観点から、天然由来の高分子であることが好ましい。
【0079】
水系樹脂としては、例えば、タンパク質、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン系、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂が挙げられる。
【0080】
タンパク質としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、及びコンドロイチン硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0081】
ビニル系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルピロリドン・ビニルアセテート共重合体が挙げられる。特に、ポリビニルアルコールは、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が分散しやすいため好ましい。
【0082】
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリルアミド、及びアクリルアミド・アクリレート共重合体が挙げられる。
【0083】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0084】
機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の量は、水系樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることが更に好ましい。
【0085】
第3実施形態に係る塗工液は、第1実施形態又は第2実施形態に係る粉体を含む。従って、第3実施形態に係る塗工液は、機械的刺激を付与した後における色について、自由度を高めた膜を与えることができる。
【0086】
<第4実施形態>
第4の実施形態に係る硬化膜は、第1実施形態又は第2実施形態の粉体を含む。
【0087】
本実施形態に係る硬化膜は、第3実施形態に係る塗工液の塗膜から液を除去し、硬化させて得られる膜であり、常温乾燥コーティング、加熱硬化コーティング、電着コーティング等の公知の方法を用いて形成することができる。以下において、機械的刺激応答層などともいう。
【0088】
硬化膜の膜厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定できる。例えば、生産性や成形性、施工時の操作性の観点からは、硬化膜の膜厚は、5μm以上1000μm以下であってよく、10μm以上500μm以下であってよい。
【0089】
本実施形態に係る硬化膜は、それ自体を単独で取り扱うことが可能な自立性膜であってもよいし、以下に説明する積層体に含まれていてもよい。
【0090】
<第5実施形態>
第5の実施形態に係る積層体は、基材と、この基材上の硬化膜とを備える。以下、本実施形態に係る積層体について図面を参照しながら説明する。但し、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。
【0091】
図2Aは、第5の実施形態に係る積層体5を概略的に示す断面図である。この積層体5は、基材6と、基材6の上に形成された硬化膜7とを備える。
【0092】
(基材)
基材6の材質は、積層体5の使用目的に合わせて適宜選択することができる。基材6の材質としては、例えば、プラスチック材料を用いることができる。
【0093】
プラスチック材料としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル(ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、及びリルセルロース(トリアセチリルセルロース、ジアセチルセルロース)が挙げられる。
【0094】
基材6における硬化膜7を設ける側の面には、表面処理を施しても構わない。表面処理を行うことで、基材6への塗工液のコーティングが行いやすく、また、基材6と硬化膜7との密着性を向上できる。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。なお、例えば、機械的刺激応答層である硬化膜7が自立性膜である場合には、基材6を省略することができる。
【0095】
(硬化膜)
機械的刺激応答層である硬化膜7は、第1実施形態又は第2実施形態に係る粉体を含む。図2Bは、積層体5の硬化膜7の一部に機械的刺激が加わった部位7aを示す。硬化膜7において機械的刺激が加わった部位7aは、発光の極大波長が変化する、あるいは発光強度が低下する。より具体的には、硬化膜7において、機械的刺激が加わった部位7aから確認できる発光の極大波長は、刺激を加える前の極大波長から、例えば100nm以上シフトする、あるいは機械的刺激が加わった部位7aからは発光が確認できなくなる。極大波長のシフトが小さくなるにつれて、目視にて発光色の変化を確認することが困難になる場合がある。なお、発光は分光蛍光光度計によって測定することができる。
【0096】
硬化膜7の膜厚は、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定できる。例えば、生産性や成形性、施工時の操作性の観点からは、硬化膜の膜厚は、5μm以上1000μm以下であってよく、10μm以上500μm以下であってよい。
【0097】
(接着層)
基材6と硬化膜7との密着性を向上する目的で、基材6と硬化膜7との間に接着層(図示せず)を更に設けてもよい。接着層の形成に用いる接着成分としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂等の接着樹脂が挙げられる。なかでも、接着樹脂としては、密着性が良好な点から、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0098】
(オーバーコート層)
図3は、第5の実施形態に係る積層体15を概略的に示す断面図である。その積層体15は、任意選択的に設けてもよい基材6と、硬化膜7と、任意選択的に設けてもよいオーバーコート層16とをこの順序で備える。オーバーコート層16は、主として耐擦傷性の観点から設けられる。オーバーコート層16の材質は、特に限定しないが、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱硬化型又は光硬化型樹脂が挙げられる。
【0099】
次に、積層体の蛍光スペクトルの測定方法、積層体の発光色の確認方法、及び積層体の発光色の可逆変化の確認方法について説明する。
【0100】
(積層体の蛍光スペクトルの測定方法及び積層体の発光色の確認方法)
積層体の蛍光スペクトルの測定方法及び積層体の発光色の確認方法は、いずれも第1実施形態に係る粉体の蛍光スペクトルの測定方法、及び第1実施形態に係る粉体の発光色の確認方法と同様の方法である。
【0101】
(積層体の発光色の可逆変化の確認方法)
まず、機械的刺激を与える前の積層体の発光色を、上記の確認方法により確認する。次に、機械的刺激として、例えば、スパチュラにより積層体をこする。こすった直後、こすった部分の発光色を上記の確認方法により確認する。一定期間経過後、例えば、7日後に、こすった部分の発光色を上記の確認方法により確認する。
【0102】
第5実施形態に係る積層体は、第4実施形態に係る硬化層を含む。従って、第5実施形態に係る積層体は、機械的刺激を付与した後における色について、自由度を高めることができる。
【0103】
上記の粉体、塗工液、硬化膜、及び積層体は、例えば、記録媒体、装飾用シート、偽造防止表自体、及びセンシング媒体などに利用できる。
【実施例
【0104】
以下に、本発明を試験例で更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
<実験例1:粉体>
(試験例1)
試験例1では、以下の手順により、試験例1の粉体を作製した。
【0106】
ドナーとして上記式(2)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を、アクセプターとしてNK-9940(株式会社林原製)を準備した。上記式(2)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、特開2017-57191号公報に記載の方法に従って準備した。
【0107】
インドリルベンゾチアジアゾール誘導体及びNK-9940を、それらの濃度がそれぞれ7.9g/L及び7.9×10-2g/Lとなるようにメタノールに添加した。即ち、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、NK-9940が1質量部となるように調整した。
【0108】
得られた溶液に対して、マグネチックスターラにより1時間攪拌して、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体及びNK-9940を溶解させた。この溶液を50mg程度ガラスに滴下し、室温で5分間乾燥して粉体を得た。
【0109】
(試験例2)
試験例2では、表1に示すように、NK-9940の代わりにローダミン110クロリド(ALDRICH製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0110】
(試験例3)
試験例3では、表1に示すように、NK-9940の代わりにアシッドレッド289(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0111】
(試験例4)
試験例4では、表1に示すように、NK-9940の代わりにNK-4674(株式会社林原製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0112】
(試験例5)
試験例5では、表1に示すように、NK-9940の代わりにスルホローダミンB(ALDRICH製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0113】
(試験例6)
試験例6では、表1に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0114】
(試験例7)
試験例7では、表1に示すように、NK-9940の代わりにスルホローダミン101(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0115】
(試験例8)
試験例8では、表1に示すように、NK-9940の代わりにNK-10676(株式会社林原製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0116】
(試験例9)
試験例9では、表1に示すように、NK-9940の代わりに2,4-ビス[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシフェニル]スクアライン(東京化成工業株式会社製)を用い、メタノールの代わりにジクロロメタンを用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0117】
(試験例10)
試験例10では、表1に示すように、NK-9940の代わりにローダミン700(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0118】
(試験例11)
試験例11では、表1に示すように、NK-9940の代わりにローダミン800(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0119】
(試験例12)
試験例12では、表1に示すように、NK-9940の代わりに3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-ビス(4-スルホブチル)ベンゾインドジカルボシアニンナトリウム(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0120】
(試験例13)
試験例13では、表1に示すように、NK-9940の代わりに1,1’-ジブチル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドトリカルボシアニンヘキサフルオロホスファート(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0121】
(試験例14)
試験例14では、表1に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用い、過塩素酸ローダミン640の濃度を7.9×10-1g/Lとしたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。即ち、本例では、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、過塩素酸ローダミン640を10質量部とした。
【0122】
(試験例15)
試験例15では、表1に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用い、過塩素酸ローダミン640の濃度を7.9×10-4g/Lとしたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。即ち、本例では、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、過塩素酸ローダミン640を0.01質量部とした。
【0123】
(試験例16)
試験例13では、表1に示すように、NK-9940の代わりにFDG-004(山田化学工業株式会社製)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0124】
(試験例17)
試験例17では、表1に示すように、NK-9940を用いなかったこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0125】
(試験例18)
試験例18では、表1に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用い、過塩素酸ローダミン640の濃度を7.9g/Lとしたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。即ち、本例では、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、過塩素酸ローダミン640が100質量部とした。
【0126】
(試験例19)
試験例19では、表1に示すように、インドリルベンソチアジアゾール誘導体を用いなかったこと、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用いたこと以外は、試験例1と同様にして粉体を得た。
【0127】
【表1】
【0128】
(蛍光スペクトルの測定)
試験例6の粉体を、先に説明した方法にしたがう蛍光スペクトル測定に供した。その結果を、図4に示す。図4に示すスペクトルは、試験例6の粉体に機械的刺激を付与した前後の蛍光スペクトルである。図4の横軸は波長(nm)である。図4の縦軸は規格化された放射照度(normalized irradiance)である。また、表1に、機械的刺激付与前の極大発光波長(nm)、機械的刺激付与後のアクセプター由来の極大発光波長(nm)、及び発光色を示す。
【0129】
図4に示すスペクトルは、機械的刺激を付与する前は極大発光波長が467nmであり、機械的刺激を付与した後は極大発光波長が607nmとなった。機械的刺激を付与してから5分後、極大発光波長は、機械的刺激を付与する前の極大発光波長と一致した。
【0130】
(評価方法)
試験例1乃至19で作製した粉体について、先に説明した方法に従って機械的刺激を付与し、機械的刺激の付与前の発光色及び極大発光波長(nm)並びに機械的刺激付与後の発光色及びアクセプター由来の極大発光波長(nm)を得た。この波長から、機械的刺激の付与前後の極大発光波長の変化量(nm)を算出した。また、機械的刺激を付与した後に、自発的に機械的刺激の付与前の色に回復したかどうかを確認した。これらの結果を表1に示す。
【0131】
表1に示す通り、試験例1乃至16の粉体は、試験例17の粉体とは異なる色変化を生じた。また、試験例18及び19の粉体は、機械的刺激の付与前後の双方において発光しなかった。
【0132】
<実験例2:塗工液及び積層体>
(試験例20)
試験例20では、以下の手順により、塗工液の調製及び積層体の作製を行った。
ドナーとして上記式(5)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を、アクセプターとしてNK-9940を準備した。上記式(5)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、非特許文献2に記載の方法に従って準備した。また、液としてポリビニルアルコール(PVA105、株式会社クラレ製)の固形分10%となる水溶液を準備した。
【0133】
インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、その濃度がポリビニルアルコールに対して5質量%となるようにポリビニルアルコールに分散させた。また、NK-9940は、その濃度がインドリルベンゾチアジアゾール誘導体に対して1質量%となるようにポリビニルアルコールに溶解させた。即ち、ポリビニルアルコール100質量部に対してインドリルベンゾチアジアゾール誘導体が5質量部となるように、及び、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対してNK-9940が1質量部となるように、塗工液を調製した。
【0134】
得られた塗工液を、厚さ75μmのポチエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥後の膜厚が10μmとなるようにバーコータを用いて塗工し、60℃で乾燥させて積層体を得た。
【0135】
(試験例21)
試験例21では、表2に示すように、NK-9940の代わりにローダミン110クロリドを用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0136】
(試験例22)
試験例22では、表2に示すように、NK-9940の代わりにアシッドレッド289を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0137】
(試験例23)
試験例23では、表2に示すように、NK-9940の代わりにNK-4674を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0138】
(試験例24)
試験例24では、表2に示すように、NK-9940の代わりにスルホローダミンBを用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0139】
(試験例25)
試験例25では、表2に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0140】
(試験例26)
試験例26では、表2に示すように、NK-9940の代わりにスルホローダミン101を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0141】
(試験例27)
試験例27では、表2に示すように、NK-9940の代わりにNK-10676を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0142】
(試験例28)
試験例28では、表2に示すように、NK-9940の代わりに2,4-ビス[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシフェニル]スクアラインを用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0143】
(試験例29)
試験例29では、表2に示すように、NK-9940の代わりにローダミン700を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0144】
(試験例30)
試験例30では、表2に示すように、NK-9940の代わりにローダミン800を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0145】
(試験例31)
試験例31では、表2に示すように、NK-9940の代わりに3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-ビス(4-スルホブチル)ベンゾインドジカルボシアニンナトリウムを用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0146】
(試験例32)
試験例32では、表2に示すように、NK-9940の代わりに1,1’-ジブチル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドトリカルボシアニンヘキサフルオロホスファートを用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0147】
(試験例33)
試験例33では、表1に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用い、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、過塩素酸ローダミン640が10質量部となるようにしたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0148】
(試験例34)
試験例34では、表1に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用い、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、過塩素酸ローダミン640が0.01質量部となるようにしたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0149】
(試験例35)
試験例35では、表2に示すように、NK-9940の代わりにFDG-004を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0150】
(試験例36)
試験例36では、表2に示すように、NK-9940を用いなかったこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0151】
(試験例37)
試験例37では、表2に示すように、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用い、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対して、過塩素酸ローダミン640が100質量部となるようにしたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0152】
(試験例38)
試験例38では、表2に示すように、インドリルベンソチアジアゾール誘導体を用いなかったこと、NK-9940の代わりに過塩素酸ローダミン640を用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0153】
(試験例39)
試験例39では、表2に示すように、NK-9940の代わりにスルホローダミンBを用い、樹脂として重量平均分子量(Mw)100000程度のポリ酢酸ビニル(ALDRICH製)を用い、水の代わりにメチルエチルケトンを用いたこと以外は、試験例20と同様にして塗工液及び積層体を得た。
【0154】
【表2】
【0155】
(蛍光スペクトルの測定)
試験例24の積層体を、先に説明した方法にしたがう蛍光スペクトル測定に供した。その結果を、図5に示す。図5に示すスペクトルは、試験例24の積層体に機械的刺激を付与した前後の蛍光スペクトルである。図5の横軸は波長(nm)である。図5の縦軸は規格化された放射照度(normalized irradiance)である。また、表2に、機械的刺激付与前の極大発光波長(nm)、機械的刺激付与後のアクセプター由来の極大発光波長(nm)、及び発光色を示す。
【0156】
図5に示すスペクトルには、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体に由来するピークP11(457nm)及びP12(487nm)と、スルホローダミンBに由来するピークP21(588nm)及びP22(588nm)とがある。機械的刺激を付与すると、ピークP11がピークP12へ長波長シフトすると同時に、ピークP21からピークP22へ照度が増加した。これから、FRETが起きていることを確認することができた。
【0157】
(評価方法)
試験例20乃至39で得られた塗工液及び積層体について、先に説明した方法に従って機械的刺激を付与し、機械的刺激の付与前後の発光色及び極大発光波長(nm)並びに機械的刺激の付与後の発光色及びアクセプター由来の極大発光波長(nm)を得た。これらの波長から、機械的刺激の付与前後の極大発光波長の変化量(nm)を算出した。また、機械的刺激を付与した後に、自発的に機械的刺激の付与前の色に回復したかどうかを確認した。これらの結果を表2に示す。
【0158】
表2に示す通り、試験例20乃至35の積層体は、試験例36の積層体とは異なる色変化を生じた。また、試験例37及び38の積層体は、機械的刺激の付与前後の双方において発光しなかった。試験例39の積層体は、ポリ酢酸ビニルにインドリルベンゾチアジアゾール誘導体が溶解したため、機械的刺激の付与前後で発光色の変化が生じなかった。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
励起光の照射によって発光する粉体であって、
機械的刺激により発光スペクトルが可逆的に変化するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と、
前記機械的刺激により変化した前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の発光スペクトルと吸収スペクトルが少なくとも部分的に重なり合う色素と
を含む粉体。
[2]
前記機械的刺激により極大発光波長が40nm以上変化する項1に記載の粉体。
[3]
前記機械的刺激により、前記励起光の照射下で第1色の光を発する発光状態から、前記励起光の照射下で前記第1色とは異なる第2色の光を発する発光状態へと変化する項1又は2に記載の粉体。
[4]
前記機械的刺激により、前記励起光の照射下で光を発する発光状態から、前記励起光の照射下で光を発しない非発光状態へと変化する項1又は2に記載の粉体。
[5]
前記色素の極大吸収波長が500nm以上である項1乃至4の何れか1項に記載の粉体。
[6]
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体100質量部に対する前記色素の量が、0.001質量部以上100質量部未満の範囲内である項1乃至5の何れか1項に記載の粉体。
[7]
下記式(1)を満たす項1乃至6の何れか1項に記載の粉体。
after /J before >1 (1)
式(1)中、J after は下記式(2)により表され、J before は下記式(3)により表され、Iλ (λ) after は前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体に前記機械的刺激を付与した直後の面積で規格化した発光スペクトルであり、Iλ (λ) before は前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体に前記機械的刺激を付与する前の面積で規格化した発光スペクトルであり、ε (λ)は前記色素のモル吸光係数であり、λは波長である。
【数1】
[8]
前記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体が下記一般式(4)で表される項1乃至7の何れか1項に記載の粉体。
【化1】
式(4)中、
乃至R 、及び、R 乃至R は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表し、
は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を表し、
は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。
[9]
前記色素が蛍光色素である項1乃至8の何れか1項に記載の粉体。
[10]
項1乃至9の何れか1項に記載の粉体と少なくとも1種類の液とを含む塗工液。
[11]
ポリビニルアルコールを更に含む項10に記載の塗工液。
[12]
項1乃至9の何れか1項に記載の粉体を含む硬化膜。
[13]
ポリビニルアルコールを更に含む項12に記載の硬化膜。
[14]
基材と、前記基材上に項12又は13に記載の硬化膜とを備えた積層体。
【符号の説明】
【0159】
1…蛍光スペクトル、2…蛍光スペクトル、3…吸収スペクトル、4…蛍光スペクトル、5…積層体、6…基材、7…硬化膜、7a…機械的刺激が付与された部位、15…積層体、16…オーバーコート層。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5