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特許7299616ゼロフラックス型磁気センサ及びそれを備える非接触電流計並びにゼロフラックス型磁気センサの制御回路及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】ゼロフラックス型磁気センサ及びそれを備える非接触電流計並びにゼロフラックス型磁気センサの制御回路及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/04 20060101AFI20230621BHJP
   G01R 33/09 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
G01R33/04
G01R33/09
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019175490
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021051046
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506150146
【氏名又は名称】ビフレステック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】管野 正喜
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-204305(JP,A)
【文献】特開平6-235759(JP,A)
【文献】特開2002-90432(JP,A)
【文献】特開平9-43323(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0175605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/04
G01R 33/09
G01R 19/00
G01R 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気検出素子と、励磁素子と、制御回路とを備え、
前記磁気検出素子は偶関数特性を有し、
測定対象の磁束密度Bxと、前記磁束密度Bxのキャンセル磁束密度-Byは前記磁気検出素子で加算され、
前記磁気検出素子は加算された前記磁束密度Bxと前記キャンセル磁束密度-Byを出力電圧Voutに変換し、
前記制御回路は交流電流源と、+周期検波回路と、-周期検波回路と、差動アンプと、V/I変換とを備え、
前記交流電流源は電流0を中心にプラス(+)とマイナス(-)に等しい振幅の交流電流Iacを発生し、
前記交流電流Iacの振幅は前記磁気検出素子を磁気飽和させない範囲であり、
前記+周期検波回路及び前記-周期検波回路は前記交流電流Iacに同期し、
前記交流電流Iacが+周期のとき、前記+周期検波回路は前記出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、
前記交流電流Iacが-周期のとき、前記-周期検波回路は前記出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、
前記差動アンプは前記+周期検波回路にサンプルホールドされた前記出力電圧Voutと、前記-周期検波回路にサンプルホールドされた前記出力電圧Voutとを比較して差分Vdiffを出力し、
前記V/I変換は前記差分Vdiffを負帰還電流に変換して前記励磁素子に負帰還し、
前記交流電流源は前記負帰還電流に前記交流電流Iacを重畳してキャンセル電流-Iyとし、
前記励磁素子は前記キャンセル電流-Iyを前記キャンセル磁束密度-Byに変換し、
前記制御回路は前記差分Vdiffがゼロになるように前記キャンセル電流-Iyを制御することを特徴とするゼロフラックス型磁気センサ。
【請求項2】
請求項1に記載のゼロフラックス型磁気センサを備えることを特徴とする非接触電流計。
【請求項3】
磁気検出素子と、励磁素子とを備えるゼロフラックス型磁気センサに備えられ、
前記磁気検出素子は偶関数特性を有し、
測定対象の磁束密度Bxと、前記磁束密度Bxのキャンセル磁束密度-Byは前記磁気検出素子で加算され、
前記磁気検出素子は加算された前記磁束密度Bxと前記キャンセル磁束密度-Byを出力電圧Voutに変換し、
交流電流源と、+周期検波回路と、-周期検波回路と、差動アンプと、V/I変換とを備え、
前記交流電流源は電流0を中心にプラス(+)とマイナス(-)に等しい振幅の交流電流Iacを発生し、
前記交流電流Iacの振幅は前記磁気検出素子を磁気飽和させない範囲であり、
前記+周期検波回路及び前記-周期検波回路は前記交流電流Iacに同期し、
前記交流電流Iacが+周期のとき、前記+周期検波回路は前記出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、
前記交流電流Iacが-周期のとき、前記-周期検波回路は前記出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、
前記差動アンプは前記+周期検波回路にサンプルホールドされた前記出力電圧Voutと、前記-周期検波回路にサンプルホールドされた前記出力電圧Voutとを比較して差分Vdiffを出力し、
前記V/I変換は前記差分Vdiffを負帰還電流に変換して前記励磁素子に負帰還し、
前記交流電流源は前記負帰還電流に前記交流電流Iacを重畳してキャンセル電流-Iyとし、
前記励磁素子は前記キャンセル電流-Iyを前記キャンセル磁束密度-Byに変換し、
前記差分Vdiffがゼロになるように前記キャンセル電流-Iyを制御することを特徴とするゼロフラックス型磁気センサの制御回路。
【請求項4】
ゼロフラックス型磁気センサは磁気検出素子と、励磁素子と、制御回路とを備え、
前記磁気検出素子は偶関数特性を有し、
測定対象の磁束密度Bxと、前記磁束密度Bxのキャンセル磁束密度-Byは前記磁気検出素子で加算され、
前記磁気検出素子は加算された前記磁束密度Bxと前記キャンセル磁束密度-Byを出力電圧Voutに変換し、
前記制御回路は交流電流源と、+周期検波回路と、-周期検波回路と、差動アンプと、V/I変換とを備え、
前記交流電流源は電流0を中心にプラス(+)とマイナス(-)に等しい振幅の交流電流Iacを発生し、
前記交流電流Iacの振幅は前記磁気検出素子を磁気飽和させない範囲であり、
前記+周期検波回路及び前記-周期検波回路は前記交流電流Iacに同期し、
前記交流電流Iacが+周期のとき、前記+周期検波回路は前記出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、
前記交流電流Iacが-周期のとき、前記-周期検波回路は前記出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、
前記差動アンプは前記+周期検波回路にサンプルホールドされた前記出力電圧Voutと、前記-周期検波回路にサンプルホールドされた前記出力電圧Voutとを比較して差分Vdiffを出力し、
前記V/I変換は前記差分Vdiffを負帰還電流に変換して前記励磁素子に負帰還し、
前記交流電流源は前記負帰還電流に前記交流電流Iacを重畳してキャンセル電流-Iyとし、
前記励磁素子は前記キャンセル電流-Iyを前記キャンセル磁束密度-Byに変換し、
前記制御回路は前記差分Vdiffがゼロになるように前記キャンセル電流-Iyを制御し、
磁気的オフセットc1の影響を相殺して前記磁気的オフセットc1を見積もり、
B/V曲線の最小値から電気的オフセットc3を見積もった後に測定対象の前記磁束密度Bxを入力することを特徴とするゼロフラックス型磁気センサの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゼロフラックス型磁気センサ及びそれを備える非接触電流計並びにゼロフラックス型磁気センサの制御回路及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサは、磁束の密度・方向を計測することを目的としたセンサである。磁気センサの用途は、磁束の計測だけでなく、非接触電流計、磁気ヘッド、回転センサ等、多岐にわたる。磁束を検出する磁気検出素子は、原理に応じて電圧、電流等の特性の変化を出力する。磁気検出素子の種類としては、例えば、GMR素子、TMR素子、AMR素子等の磁気抵抗効果素子、ホール素子、コイル等が挙げられる。
【0003】
<磁気比例方式>
図1に代表的な磁気検出素子10の例を示す。代表的な磁気検出素子10は4つのGMR素子(第1のGMR素子11~第4のGMR素子14)を備え、4つのGMR素子はブリッジ回路を構成する。電源電圧Vcc15とGND16の間において第1のGMR素子11と第3のGMR素子13、第2のGMR素子12と第4のGMR素子14がそれぞれ直列に接続される。代表的な磁気検出素子10の出力は、第1のGMR素子11と第3のGMR素子13の第1の中間電位Vout17と、第2のGMR素子12と第4のGMR素子14の第2の中間電位Vout18との差電圧(出力電圧)Voutである。
【0004】
代表的な磁気検出素子10は、4つのGMR素子が形成する面方向の磁束を検出する。例えば、磁束の向きが第2のGMR素子12及び第3のGMR素子13の長手方向(X軸方向)の場合、第2のGMR素子12、第3のGMR素子13の初期抵抗RはΔR減少し、R-ΔRとなる。このとき、他方の第1のGMR素子11及び第4のGMR素子14は長手方向がこの磁束の向きに直交するため、初期抵抗Rのままである。
【0005】
第1のGMR素子11と第3のGMR素子13の間の第1の中間電位Vout17は、GND16側の第3のGMR素子13の抵抗が減少した分低くなり、第2のGMR素子12と第4のGMR素子14の間の第2の中間電位Vout18は、電源電圧Vcc15側の第2のGMR素子12の抵抗が減少した分高くなる。第1の中間電位Vout17と第2の中間電位Vout18の差電圧(出力電圧)Voutより磁束の変化を測定することができる。ただし、磁束の方向がX軸のプラス方向/マイナス方向のいずれであっても第2のGMR素子12、第3のGMR素子13の抵抗は同じように減少する(偶関数特性)ため、磁束の向きを判別することはできない。
【0006】
磁気センサの用途として、電流Ixの非接触電流計を考える。電流Ixと、電流Ixが距離dxに発生する磁界強度Hxとの関係を(式1)に示す。
Hx=Ix/dx+c1 (式1)
【0007】
磁界強度Hxは電流Ixに比例し、距離dxに反比例する。地磁気等の誤差c1(磁気的オフセット)がある場合、Ix=0でもHxは0にならない。
【0008】
磁束密度Bxと磁界強度Hxの関係を(式2)に示す。
Bx=μ・Hx+c2 (式2)
【0009】
磁束密度Bxは磁界強度Hxと透磁率μに比例する。残留磁束等の誤差c2(磁気的ヒステリシス)がある場合、Hx=0でもBxは0にならない。
【0010】
磁気検出素子の出力電圧Vxと磁束密度Bxと感度aの関係を(式3)に示す。
Vx=a・Bx+c3 (式3)
【0011】
磁気検出素子の出力電圧Vxは磁束密度Bxと感度aに比例する。しかし、例えば、磁気検出素子が4つのGMR素子からなるブリッジ回路で、4つのGMR素子にアンバランスが生じた場合、R1~R4が同じ抵抗値にはならず、誤差c3が生じることがある。また、温度によって誤差c3が生じることもある。これらを電気的オフセットといい、Bx=0でもVxは0にならない。
【0012】
(式1)~(式3)より、電流Ixと出力電圧Vxの関係を(式4)に示す。
Ix=dx/(a・μ)×(Vx-(a・μ・c1+a・c2+c3)) (式4)
【0013】
電流Ixは出力電圧Vxと無関係な誤差成分dx/(a・μ)×(a・μ・c1+a・c2+c3)を含む。この誤差成分は一般に無視できると考え、(式5)で近似し、出力電圧Vxと変換感度dx/(a・μ)から電流Ixを求める。このように出力電圧Vxから直接電流Ixを求めることを磁気比例方式という。
Ix=dx/(a・μ)×Vx (式5)
【0014】
磁気比例方式は、出力電圧Vxが小さくなると、(式4)より誤差成分が相対的に大きくなる。さらに、磁気比例方式はIxが大きくなると磁気飽和の問題が生じるため、ダイナミックレンジは磁気飽和を生じさせない範囲に限られる。以上より、磁気比例方式は高い精度が求められる磁気センサには用いられない。
【0015】
<ゼロフラックス法(磁気平衡方式)>
高級な非接触電流計等、高い精度が求められる磁気センサにはゼロフラックス法(磁気平衡方式)がよく用いられてきた。図2に、特許文献1に記載されている従来のゼロフラックス型磁気センサ20を示す。従来のゼロフラックス型磁気センサ20は、導体21に通流される被測定電流からの誘導磁界により特性が変化する磁気検出素子22と、磁気検出素子22の近傍に配置され、誘導磁界を相殺するキャンセル磁界を発生するフィードバックコイル(励磁素子)23と、IC(制御回路)24とを備える。磁気検出素子22の構造は、特許文献1には記載されていないが、図3に概要を示すように、絶縁基板25と、その上に形成されたMR素子やホール素子等の磁束検出素子26とを備え、絶縁基板25はフィードバックコイル23の上に配置されると考えられる。絶縁基板25は磁気検出素子22の機械的強度と、フィードバックコイル23と磁束検出素子26との絶縁を確保すると考えられる。
【0016】
従来のゼロフラックス型磁気センサ20は、フィードバックコイル(励磁素子)23にキャンセル電流-Iyを流すことにより、磁束密度Bxと大きさが同じで向きが逆のキャンセル磁束密度-Byを発生させる。キャンセル電流-Iyは、Bxと-Byによる合計出力電圧がゼロになるようにIC(制御回路)24によって制御される。
【0017】
従来のゼロフラックス型磁気センサ20の制御方法を、図4を用いてさらに説明する。導体21を流れる電流Ixは、(式1)より磁気的オフセットc1を含む磁界強度Hxに変換される(I/H変換)。磁界強度Hxは、(式2)より磁気的ヒステリシスc2を含む磁束密度Bxを形成する。磁束密度Bxとキャンセル磁束密度-Byは磁気検出素子(B/V変換)22において加算され、出力電圧Voutに変換される。出力電圧Voutは制御回路(IC)24によってキャンセル電流-Iyに変換され、磁気検出素子(B/V変換)22との距離dyに設けられたフィードバックコイル(励磁素子、I/H変換)23に負帰還される。フィードバックコイル(励磁素子、I/H変換)23はキャンセル電流-Iyをキャンセル磁束密度-Byに変換する。制御回路(IC)24は電流Ixによる磁束密度Bxとキャンセル電流-Iyによるキャンセル磁束密度-Byとの合計出力電圧がゼロになるようにキャンセル電流-Iyを制御する。
【0018】
制御回路(IC)24はフィルタ27と、差動アンプ28と、増幅器29と、V/I変換30とを備える。出力電圧Voutはフィルタ27でノイズ除去等の処理をされ、差動アンプ28で0Vと比較された後、増幅器29でA倍に増幅され、V/I変換30でキャンセル電流-Iyに変換される。
【0019】
Ixは、Iyにdx/dyとコイルのターン数nをかけることにより求めることができる。また、制御中はキャンセル電流-Iyの向きにより、被測定磁束の向きを判別することができる。この関係を(式6)~(式9)に示す。
-Hy=-Iy/dy+c1’ (式6)
-By=-μ・Hy+c2’ (式7)
-Vy=-a・By+c3’ (式8)
Vx-Vy=a・(Bx-By)+c3+c3’ (式9)
【0020】
各変換時にそれぞれc1’~c3’の誤差が生じる。一般にはc1≒c1’、c2≒c2’が成り立つ。また、ゼロフラックス型磁気センサ20ではIxと-Iyに対して磁気検出素子(B/V変換)22が共通であるため、c3’は実際には加算されない。
【0021】
従来のゼロフラックス法のメリットは、誤差成分(c1~c3、c1’~c2’)が無視できる場合、Bx-By=0であればよいため、出力電圧Vx-Vyが感度aのずれや非直線性に左右されないことである。つまり、感度aの誤差に伴うゲイン誤差がゼロであるため、測定精度が非常に高い。
【0022】
ここで、(式4)の変形を(式10)に示す。
Ix=dx/(a・μ)×Vx(1-(a・μ・c1+a・c2+c3)/Vx) (式10)
【0023】
Vxが(a・μ・c1+a・c2+c3)に対して十分大きい場合(例えば、100倍以上)、誤差成分は十分小さく、無視できるため、測定精度は非常に高い。しかし、磁気比例方式でも説明したように、Vxが(a・μ・c1+a・c2+c3)に対して小さい場合、即ち、小信号測定の場合、誤差成分が相対的に大きく、無視できないため、測定精度は悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】特開2012-021787号公報
【文献】特開平6-235759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
そこで、特許文献2では、リセットコイル31を備える磁気センサ32が提案されている(図5)。リセットコイル31は磁気抵抗ブリッジ(磁気検出素子)33に磁気的に結合している。リセットコイル31はリセット磁界を発生し、磁気抵抗ブリッジ33を構成する素子(磁気抵抗器)の「容易軸」と呼ばれる磁化方向を、周期的に180度切換える。磁気抵抗ブリッジ(磁気検出素子)33の検出磁界方向が切換わる(フリップ)ため、一方の信号出力がV+Vのとき、フリップ後の信号出力は-V+Vとなる。両者の差分を取ると、磁気と無関係の電気的オフセットVを相殺することができる。Vは(式3)のc3に相当する。
【0026】
しかし、この磁気センサ32は、リセットコイル31やその駆動回路等、多くの部品を必要とするため、サイズやコストが増大するという問題がある。また、容易軸のフリップのためにリセット磁界を発生させるため、消費電力が増大するという問題がある。さらに、(式1)で示した磁気的オフセットc1及び(式2)で示した磁気的ヒステリシスc2には対応していないため、小信号測定における誤差対策が十分でないという問題がある。
【0027】
本開示のいくつかの態様は、小型化が容易であり、製造コスト及び消費電力を低減しやすく、小信号測定における誤差を含みにくいゼロフラックス型磁気センサ及びそれを備える非接触電流計並びにゼロフラックス型磁気センサの制御回路及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本開示の一の態様は、磁気検出素子と、励磁素子と、制御回路とを備え、磁気検出素子は偶関数特性を有し、測定対象の磁束密度Bxと、磁束密度Bxのキャンセル磁束密度-Byは磁気検出素子で加算され、磁気検出素子は加算された磁束密度Bxとキャンセル磁束密度-Byを出力電圧Voutに変換し、制御回路は交流電流源と、+周期検波回路と、-周期検波回路と、差動アンプと、V/I変換とを備え、交流電流源は電流0を中心にプラス(+)とマイナス(-)に等しい振幅の交流電流Iacを発生し、交流電流Iacの振幅は磁気検出素子を磁気飽和させない範囲であり、+周期検波回路及び-周期検波回路は交流電流Iacに同期し、交流電流Iacが+周期のとき、+周期検波回路は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、交流電流Iacが-周期のとき、-周期検波回路は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、差動アンプは+周期検波回路にサンプルホールドされた出力電圧Voutと、-周期検波回路にサンプルホールドされた出力電圧Voutとを比較して差分Vdiffを出力し、V/I変換は差分Vdiffを負帰還電流に変換して励磁素子に負帰還し、交流電流源は負帰還電流に交流電流Iacを重畳してキャンセル電流-Iyとし、励磁素子はキャンセル電流-Iyをキャンセル磁束密度-Byに変換し、制御回路は差分Vdiffがゼロになるようにキャンセル電流-Iyを制御することを特徴とするゼロフラックス型磁気センサに関する。
【0029】
本開示の一の態様のゼロフラックス型磁気センサはリセットコイルやその駆動回路が不要のため、小型化が容易であり、製造コストを低減することができる。また、リセット磁界を発生させないため、大電流が不要であり、消費電力を低減することができる。
【0030】
誤差c1~c3については、後で詳しく説明するが、本開示の一の態様のゼロフラックス型磁気センサは磁気的ヒステリシスc2及び電気的オフセットc3の影響をキャンセルすることができるとともに、磁気的オフセットc1及び電気的オフセットc3を正確に見積もることができるため、測定対象の磁束密度Bxが小信号であっても高精度の測定が可能である。
【0031】
本開示の二の態様は、本開示の一の態様のゼロフラックス型磁気センサを備えることを特徴とする非接触電流計に関する。本開示の二の態様の非接触電流計は、本開示の一の態様のゼロフラックス型磁気センサを備えることから、小型化が容易であり、製造コストを低減することができる。また、リセット磁界を発生させないため、大電流が不要であり、消費電力を低減することができる。さらに、磁気的ヒステリシスc2及び電気的オフセットc3の影響をキャンセルすることができるとともに、磁気的オフセットc1及び電気的オフセットc3を正確に見積もることができるため、測定対象の磁束密度Bxを発生する電流が小さくても高精度の測定が可能である。
【0032】
本開示の三の態様は、磁気検出素子と、励磁素子とを備えるゼロフラックス型磁気センサに備えられ、磁気検出素子は偶関数特性を有し、測定対象の磁束密度Bxと、磁束密度Bxのキャンセル磁束密度-Byは磁気検出素子で加算され、磁気検出素子は加算された磁束密度Bxとキャンセル磁束密度-Byを出力電圧Voutに変換し、交流電流源と、+周期検波回路と、-周期検波回路と、差動アンプと、V/I変換とを備え、交流電流源は電流0を中心にプラス(+)とマイナス(-)に等しい振幅の交流電流Iacを発生し、交流電流Iacの振幅は磁気検出素子を磁気飽和させない範囲であり、+周期検波回路及び-周期検波回路は交流電流Iacに同期し、交流電流Iacが+周期のとき、+周期検波回路は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、交流電流Iacが-周期のとき、-周期検波回路は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、差動アンプは+周期検波回路にサンプルホールドされた出力電圧Voutと、-周期検波回路にサンプルホールドされた出力電圧Voutとを比較して差分Vdiffを出力し、V/I変換は差分Vdiffを負帰還電流に変換して励磁素子に負帰還し、交流電流源は負帰還電流に交流電流Iacを重畳してキャンセル電流-Iyとし、励磁素子はキャンセル電流-Iyをキャンセル磁束密度-Byに変換し、差分Vdiffがゼロになるようにキャンセル電流-Iyを制御することを特徴とするゼロフラックス型磁気センサの制御回路に関する。
【0033】
本開示の三の態様の制御回路を備えることにより、ゼロフラックス型磁気センサは磁気的ヒステリシスc2及び電気的オフセットc3の影響をキャンセルすることができるとともに、磁気的オフセットc1及び電気的オフセットc3を正確に見積もることができるため、測定対象の磁束密度Bxが小信号であっても高精度の測定が可能になる。
【0034】
本開示の四の態様は、ゼロフラックス型磁気センサは磁気検出素子と、励磁素子と、制御回路とを備え、磁気検出素子は偶関数特性を有し、測定対象の磁束密度Bxと、磁束密度Bxのキャンセル磁束密度-Byは磁気検出素子で加算され、磁気検出素子は加算された磁束密度Bxとキャンセル磁束密度-Byを出力電圧Voutに変換し、制御回路は交流電流源と、+周期検波回路と、-周期検波回路と、差動アンプと、V/I変換とを備え、交流電流源は電流0を中心にプラス(+)とマイナス(-)に等しい振幅の交流電流Iacを発生し、交流電流Iacの振幅は磁気検出素子を磁気飽和させない範囲であり、+周期検波回路及び-周期検波回路は交流電流Iacに同期し、交流電流Iacが+周期のとき、+周期検波回路は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、交流電流Iacが-周期のとき、-周期検波回路は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、差動アンプは+周期検波回路にサンプルホールドされた出力電圧Voutと、-周期検波回路にサンプルホールドされた出力電圧Voutとを比較して差分Vdiffを出力し、V/I変換は差分Vdiffを負帰還電流に変換して励磁素子に負帰還し、交流電流源は負帰還電流に交流電流Iacを重畳してキャンセル電流-Iyとし、励磁素子はキャンセル電流-Iyをキャンセル磁束密度-Byに変換し、制御回路は差分Vdiffがゼロになるようにキャンセル電流-Iyを制御し、磁気的オフセットc1の影響を相殺して磁気的オフセットc1を見積もり、B/V曲線の最小値から電気的オフセットc3を見積もった後に測定対象の磁束密度Bxを入力することを特徴とするゼロフラックス型磁気センサの制御方法に関する。
【0035】
本開示の四の態様のゼロフラックス型磁気センサの制御方法を用いることにより、ゼロフラックス型磁気センサは磁気的ヒステリシスc2及び電気的オフセットc3の影響をキャンセルすることができるとともに、磁気的オフセットc1及び電気的オフセットc3を正確に見積もることができるため、測定対象の磁束密度Bxが小信号であっても高精度の測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】磁気検出素子の代表的な例を示す。
図2】従来のゼロフラックス型磁気センサを示す。
図3】磁気検出素子の構造の概要を示す。
図4】ゼロフラックス型磁気センサの制御方法を示す。
図5】リセットコイルを備える磁気センサの例を示す。
図6】本実施形態のゼロフラックス型磁気センサを示す。
図7】磁気検出素子の、電気的オフセットを含むB/V曲線を示す。
図8】偶関数特性を有する磁気検出素子の、磁気的ヒステリシスの影響を含むI/B曲線を示す。
図9】偶関数特性を有する磁気検出素子の、磁気的ヒステリシスの影響を含む時間軸で見たB曲線を示す。
図10】偶関数特性を有する磁気検出素子の、磁気的オフセットの影響を含むB/V曲線を示す。
図11】偶関数特性を有する磁気検出素子の、磁気的オフセットの影響を相殺した後のB/V曲線を示す。
図12】差分VdiffとIx-Iyとの関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0038】
本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35を図6に示す。本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35は、磁気検出素子22と、励磁素子23と、制御回路24とを備え、磁気検出素子22は偶関数特性を有し、測定対象の磁束密度Bxと、磁束密度Bxのキャンセル磁束密度-Byは磁気検出素子22で加算され、磁気検出素子22は加算された磁束密度Bxとキャンセル磁束密度-Byを出力電圧Voutに変換し、制御回路24は交流電流源36と、+周期検波回路37と、-周期検波回路38と、差動アンプ28と、V/I変換30とを備え、交流電流源36は電流0を中心にプラス(+)とマイナス(-)に等しい振幅の交流電流Iacを発生し、交流電流Iacの振幅は磁気検出素子22を磁気飽和させない範囲であり、+周期検波回路37及び-周期検波回路38は交流電流Iacに同期し、交流電流Iacが+周期のとき、+周期検波回路37は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、交流電流Iacが-周期のとき、-周期検波回路38は出力電圧Voutを検波、サンプルホールドし、差動アンプ28は+周期検波回路37にサンプルホールドされた出力電圧Voutと、-周期検波回路38にサンプルホールドされた出力電圧Voutとを比較して差分Vdiffを出力し、V/I変換30は差分Vdiffを負帰還電流に変換して励磁素子23に負帰還し、交流電流源36は負帰還電流に交流電流Iacを重畳してキャンセル電流-Iyとし、励磁素子23はキャンセル電流-Iyをキャンセル磁束密度-Byに変換し、制御回路24は差分Vdiffがゼロになるようにキャンセル電流-Iyを制御する。
【0039】
本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35はリセットコイルやその駆動回路が不要のため、小型化が容易であり、製造コストを低減することができる。また、リセット磁界を発生させないため、大電流が不要であり、消費電力を低減することができる。
【0040】
誤差c1~c3の影響を検討する。まず、電気的オフセットc3の影響を検討する。図7に磁気検出素子22の、磁束密度Bに対する出力V(B/V曲線)を示す。図7(a)は奇関数特性を有する磁気検出素子22のB/V曲線であり、図7(b)は偶関数特性を有する磁気検出素子22のB/V曲線である。図7(a)奇関数特性の場合、電気的オフセットc3と他の誤差要因とを区別できないため、B=0の切片から電気的オフセットc3を正確に求めることができない。一方、図7(b)偶関数特性の場合、B/V曲線はB=0を中心に左右対称であり、かつ、B=0のときに最小値c3を示す。本実施形態の磁気検出素子22は偶関数特性を有するため、他の誤差要因を含んでも、B/V曲線の最小値から電気的オフセットc3を見積もることができる。また、+周期検波回路37にサンプルホールドされた出力電圧Voutと-周期検波回路38にサンプルホールドされた出力電圧Voutはいずれも電気的オフセットc3を含むため、両者の差分Vdiffは電気的オフセットc3の影響がキャンセルされる。したがって、出力Vを測定すると磁束密度Bを求めることができる。
【0041】
次に、図8に、式(2)の磁気的ヒステリシスc2の影響が出る例を示す。横軸は電流I又は磁界強度H,縦軸は磁束密度Bである。I/B曲線は実線で示すように、磁気的ヒステリシスに伴う残留磁束により原点Oを通らず、また、偶関数特性によりB=0で折り返され、I=0を中心に左右対称であり、原点Oのプラス側とマイナス側に磁束密度Bの最小値0([1]、[3])が1点ずつ生じ、原点Oからさらに離れたプラス側とマイナス側に磁束密度Bの最大値([2]、[4])が1点ずつ生じる。I/B曲線は交流電流Iacにより[1]-[2]-[3]-[4]-[1]のループを形成する。
【0042】
図9に磁束密度Bを時間軸で見た場合の波形を示す。横軸は時間で、図9(b)に交流電流Iacの変化(検出用Iac信号、相対値)、図9(a)にBの変化(磁気検出素子22への入力、相対値)を示す。BはIacに同期し、Bの最小値0([1]、[3])で折り返った2倍波となる。磁気的ヒステリシスよりB=0の折り返し点([1]、[3])はIacの0点よりも遅れ、Bの半波はIacの半波に対して位相シフトを含む。しかし、本実施形態の磁気検出素子22は偶関数特性を有する、即ち、I/B曲線(図8)はI=0を中心に左右対称であるから、+周期と-周期の時間軸波形は同じになる。したがって、それらの差分Vdiffは常にゼロである。よって、本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35は磁気的ヒステリシスc2の影響をキャンセルすることができる。
【0043】
最後に、図10(a)に示すようにB/V曲線に磁気的オフセットc1の影響がある場合を考える。磁束密度Bには、励磁素子23に重畳される交流電流IacによってB=0を中心とし、磁気検出素子22を磁気飽和させない範囲の交流磁束(振幅ΔB)、実際には磁気飽和の1/2程度の交流磁束が加算される。磁束密度Bが磁気的オフセットc1の影響を相殺するとき(B=-B(図中●印)のとき)、出力Vは最小値Vminを示す。B=0のときのV(図中○印)は磁気的オフセットc1の影響があるため、Vmin≦Vである。交流電流Iacが磁気的オフセットc1の影響を相殺する側の極性(-周期)の最大振幅(B=-ΔB)のとき、出力は極大値Vmax(-)を示す(図中■印)。交流電流Iacが逆の極性(+周期)の最大振幅(B=ΔB)のとき、出力は極大値Vmax(+)を示す(図中△印)。交流電流Iacが磁気的オフセットc1の影響を相殺する側の極性の極大値Vmax(-)(■)は、逆の極性の極大値Vmax(+)(△)よりもB=-B(●)に近いため、Vmax(-)≦Vmax(+)である。
【0044】
図10(b)に出力Vを時間軸で見た場合の波形を示す。+周期検波回路37は、交流電流Iacが+周期の出力電圧Vout(即ち、○-△-○)を検波、サンプルホールドする。一方、-周期検波回路38は、交流電流Iacが-周期の出力電圧Vout(即ち、○-●-■-●-○)を検波、サンプルホールドする。差分Vdiffは、+周期検波回路37にサンプルホールドされた出力電圧Vout(○-△-○)と、-周期検波回路38にサンプルホールドされた出力電圧Vout(○-●-■-●-○)との差分である。V(○)≧Vmin(●)、Vmax(-)(■)≦Vmax(+)(△)であるため、B/V曲線に磁気的オフセットc1の影響があるとVdiffはゼロにならない。
【0045】
ここで、本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35では、制御回路24は差分Vdiffがゼロになるようにキャンセル電流-Iyを制御している。より具体的には、V/I変換30は差分Vdiffに比例する負帰還電流を励磁素子23に負帰還する。励磁素子23は、負帰還電流に交流電流Iacが重畳されたキャンセル電流-Iyをキャンセル磁束密度-Byに変換する。キャンセル磁束密度-Byによって磁気的オフセットc1の影響が相殺され、差分Vdiffがゼロになる。
【0046】
図11に磁気的オフセットc1の影響を相殺した後のB/V曲線を示す。破線が相殺前、実線が相殺後を示す。磁気的オフセットc1の影響が相殺されるため、B/V曲線はB=0を中心に左右対称になる(図11(a))。出力Vを時間軸で見た波形(図11(b))では、出力Vの最小値Vmin(●)が交流電流Iacの0点に一致する。また、+周期の最大振幅(B=ΔB)のときの極大値Vmax(+)(△)と、-周期の最大振幅(B=-ΔB)のときの極大値Vmax(-)(■)は一致する。即ち、+周期の波形と-周期の波形は同じであり、Vdiffはゼロである。
【0047】
磁気的オフセットc1の影響が図10(a)とは逆位相の場合を考える。即ち、B=0を対称軸とした線対称であり、B=-ΔBのときV=Vmax(+)、B=0のときV=V、B=BのときVmin、B=ΔBのときV=Vmax(-)である。出力Vを時間軸で見た場合の波形は、図10(b)の+周期と-周期の波形を入れ替えたものと同じである。+周期検波回路37にサンプルホールドされた出力電圧Voutと、-周期検波回路38にサンプルホールドされた出力電圧Voutとの差分Vdiffと、Ix-Iyとの関係を図12に示す。差分Vdiffは原点Oを通る奇関数特性になるため、差分Vdiffをゼロにするキャンセル電流-Iyから磁気的オフセットc1を正確に見積もることができる。これは、本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35の校正を行ったことを意味する。
【0048】
磁気的オフセットc1の影響を相殺(校正)した後に測定対象の磁束密度Bxが入力され、磁気検出素子22に加算されると、磁束密度Bxによって磁気的オフセットと同じ現象が生じ、差分Vdiffが生じる。制御回路24は、差分Vdiffがゼロになるようにキャンセル電流-Iyを制御する。測定対象の磁束密度Bxを入力する前と後のキャンセル電流-Iyの差分を求めることにより、磁気的オフセットc1の影響を含まない磁束密度Bxを求めることができる。
【0049】
以上より、通常の磁気センサは磁気検出素子が奇関数特性を有するため、ブリッジ回路のアンバランスによる電気的オフセットc3や磁気的ヒステリシスc2と地磁気等の磁気的オフセットc1とを区別することができない。したがって、磁気的オフセットc1を正確に見積もることができない。しかし、本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35は磁気検出素子22が偶関数特性を有するため、誤差c1~c3について、磁気的ヒステリシスc2及び電気的オフセットc3の影響をキャンセルすることができるとともに、磁気的オフセットc1及び電気的オフセットc3を正確に見積もることができるため、測定対象の磁束密度Bxが小信号であっても、高精度の測定が可能である。
【0050】
本実施形態の磁気検出素子22は偶関数特性を有すれば特に制限はないが、例えば、AMR素子やナノグラニュラー型TMR素子が挙げられる。
【0051】
本実施形態の励磁素子23は、測定対象の磁束密度Bxの一部又は全部を相殺するキャンセル磁束密度-Byを発生することができれば特に制限はないが、磁気検出素子22の近傍に配置されることが好ましい。磁束密度は電流との距離に反比例するため、励磁素子23が磁気検出素子22に近いほどキャンセル電流-Iyを小さくし、消費電力を低減することができる。また、本実施形態の励磁素子23としては、例えば、コイルや巻回されない単線配線が好ましい。コイルは、ターン数nを増やすことでキャンセル磁束密度-Byを強くすることができるため、消費電力を低減することができる。巻回されない単線配線は回路を簡単にすることができるため、製造コストを低減することができる。
【0052】
本実施形態の交流電流Iacの振幅は磁気検出素子を磁気飽和させない範囲であることは必須であり、かつ、なるべく大きな信号であることが好ましい。例えば、磁気飽和の1/2程度が好ましい。交流電流Iacの振幅が大きいと、SN比を高くすることができる。
【0053】
本実施形態の交流電流Iacの周波数f0はゼロフラックス型磁気センサ35の動作周波数fmの1/2より低いことが好ましい。検出には交流電流Iacの2倍波が用いられるが、2倍波がゼロフラックス型磁気センサ35の動作周波数fmを超えないため、ゼロフラックス型磁気センサ35を安定に動作させることができる。
【0054】
さらに、本実施形態の交流電流Iacの周波数f0は、V/I変換30から励磁素子23への負帰還回路の応答周波数fcの2倍より高いことが好ましく、3~10倍程度が推奨される。交流電流Iacの負帰還回路への影響を低減することができる。結果として、交流電流Iacの周波数f0はゼロフラックス型磁気センサ35の動作周波数fmの1/5~1/3程度が推奨される。例えば、ゼロフラックス型磁気センサ35の動作周波数fmが100kHzならば、交流電流Iacの周波数f0は30kHz、負帰還回路の応答周波数fcは10kHzに設定される。負帰還回路が応答周波数fcまで動作すると考えると、本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35は直流電流から応答周波数fcまでの交流電流を非接触で測定することができる。
【0055】
本実施形態の交流電流源36は、V/I変換30から励磁素子23への負帰還回路の外に配置することが好ましい。交流電流Iacの負帰還回路への影響を低減することができる。
【0056】
低周波小信号を検出する場合、1/fノイズ等の低周波ノイズの影響によりSN比が悪化するという問題がある。そこで、本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35は制御回路24にフィルタ27や増幅器29を備えてもよい。フィルタ27は磁気検出素子22が出力した出力電圧Voutに低周波ノイズの除去や増幅等の処理を行い、+周期検波回路37及び-周期検波回路38に出力する。増幅器29は差動アンプ28が出力した差分Vdiffに対して誤差増幅器として働き、V/I変換30に出力する。差分VdiffがV/I変換30によって負帰還電流に変換されて励磁素子23に負帰還され、負帰還電流は励磁素子23によって磁束に変換された結果、差分Vdiffをゼロにすることができる。本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ35は交流電流Iacを重畳し、高周波化した信号を処理するため、1/fノイズ等の低周波ノイズの影響を低減し、SN比を改善することができる。
【0057】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義の異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 代表的な磁気検出素子、11 第1のGMR素子、12 第2のGMR素子、13 第3のGMR素子、14 第4のGMR素子、15 電源電圧Vcc、16 GND、17 第1の中間電位Vout、18 第2の中間電位Vout、20 従来のゼロフラックス型磁気センサ、21 導体、22 磁気検出素子(B/V変換)、23 フィードバックコイル(励磁素子)、24 IC(制御回路)、25 絶縁基板、26 磁束検出素子、27 フィルタ、28 差動アンプ、29 増幅器、30 V/I変換、31 リセットコイル、32 磁気センサ、33 磁気抵抗ブリッジ(磁気検出素子)、35 本実施形態のゼロフラックス型磁気センサ、36 交流電流源、37 +周期検波回路、38 -周期検波回路
図1
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