(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】フレア工具
(51)【国際特許分類】
B21D 41/02 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
B21D41/02 Z
(21)【出願番号】P 2019175968
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000132079
【氏名又は名称】株式会社スーパーツール
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】林 輝樹
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153136(JP,A)
【文献】特開平10-119795(JP,A)
【文献】特開平08-028763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属配管を固定してフレア加工を施すゲージと、
前記ゲージが取り付けられ、前記ゲージに対して垂直に設けられた雌ネジを有するヨーク本体と、
前記雌ネジに螺入され、前記雌ネジに噛合する雄ネジが刻設されたフィードスクリュと、
前記フィードスクリュに挿通され、前記フィードスクリュと共に回転するコーンシャフトと、
前記コーンシャフトの下端に取り付けられ、前記金属配管が固定されるゲージの受け孔に対してフレア加工のために偏心回転する偏心コーンと、
前記コーンシャフトの上部に取り付けられ、手動回転用の握り部を有し、動力式回転工具の回転軸が挿入されるドライバ穴がその軸心に合わせて設けられた回転ハンドルとで構成されたフレア工具において、
前記フィードスクリュの雄ネジのネジ先から少なくとも1山越えた位置に、少なくとも1山の幅で
前記フィードスクリュの胴部を一周するように前記雄ネジの全周に亘って凹溝が刻設され、ヨーク本体に対するフィードスクリュの捻じ込み位置を示す捻じ込み位置表示が形成されていることを特徴とするフレア工具。
【請求項2】
前記捩込位置表示は、溝の深さが前記フィードスクリュの雄ネジの谷よりも浅い、又は深い凹溝であり、該凹溝の溝底が塗装されていることを特徴とする請求項1に記載のフレア工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属配管の管端をフレア加工する際に用いられるフレア工具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、空調機の室内機と室外機とを接続する際、金属配管の管端を円錐状に拡径加工する必要があり、このような拡径加工を行うための配管工具としてフレア工具が使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
従来のフレア工具は、回転ハンドルと、回転ハンドルに固定され、下端部にコーン取付部が設けられて回転ハンドルと一体となって回転するコーンシャフトと、コーン取付部の下面に設けられたフレア加工用の偏心コーンと、回転ハンドルとコーン取付部との間にてコーンシャフトに同軸的に取り付けられ、その外周面に雄ネジが刻設されているフィードスクリュと、径の異なる複数の受け孔を有するゲージと、その上部にフィードスクリュの雄ネジが螺合する雌ネジを有し、その下部にゲージが挿通される挿通溝を有するヨーク本体と、ヨーク本体に取り付けられ、挿通溝に挿通されたゲージバーをヨーク本体に固定する締付クランプとを備えている。
【0004】
フィードスクリュの挿入先端部分には、雄ネジが切除された円筒部が設けられており、後述するようにフィードスクリュの雄ネジがヨーク本体の雌ネジから抜け出た時点でこの円筒部が雌ネジ内で空回りするようになっている。
【0005】
偏心コーンは、その基端部がコーンシャフトに対して偏心して設けられており、その先端(偏心コーンの回転中心)はコーンシャフトの軸心と一致している。そして、回転ハンドルの上面には、例えば、電気ドライバのような動力式回転工具の先端を差し込むためのドライバ穴が形成されている。
【0006】
従来のフレア工具を使用する際には、まず、金属配管の管端をゲージバーで挟持し、ゲージバーの端部をヨーク本体の挿通溝内に押し込む。そして、偏心コーンの真下に金属配管が来るようにゲージバーの位置調整を行い、締付クランプでゲージバーを締め付けてこれをヨーク本体に固定する。
【0007】
この状態で作業者が手で回転ハンドルを回す。ヨーク本体の雌ネジにフィードスクリュの雄ネジが螺合する前はフィードスクリュの円筒部が雌ネジ内で空回りしている。そして、その回転中に雌雄ねじの始端同士が上手く螺合すると、そのままフィードスクリュはヨーク本体を螺進し、その先端に取り付けた偏心コーンを金属配管の管端に押圧させつつ回転し、管端を拡開するフレア加工を行う。
【0008】
フレア加工が終了すると、回転ハンドルを逆回転させて偏心コーンを金属配管の管端から離間させる。フレア加工完了後の回転ハンドルの逆回転時に、ヨーク本体からフィードスクリュが完全に螺脱すると、フィードスクリュの雄ネジがヨーク本体の雌ネジから外れ、挿入先端部分の円筒部分がヨーク本体の雌ネジ内を空回りする。この回転ハンドルの空回がフィードスクリュの螺脱完了の合図となる。
【0009】
以上が従来の配管接続作業であるが、多数の配管を接続しなければならない現場においては、上記のような回転ハンドルの回転操作を手動で何度も繰り返し行うのは重労働であり且つ作業効率も悪い。
【0010】
従来のフレア工具では、回転ハンドルの上面にドライバ穴が形成されているので、このドライバ穴に動力式回転工具の先端を差し込むことにより、回転ハンドルの回転を、例えば、インパクトドライバのような動力式回転工具で行うことができ、これを使えば作業性が大いに高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
処が、回転ハンドルを動力式回転工具で回転させてフレア加工を行うと、以下のような問題が発生した。
【0013】
上記のように、フィードスクリュの先端部分には円筒部が設けられ、ヨーク本体の雌ネジに空回り状態で挿入されている。この円筒部と雌ネジとの間には若干の隙間があるため、ヨーク本体の雌ネジに対してフィードスクリュが垂直に保持されず、若干傾いていることがある。
【0014】
従って、作業者がこのような状態に気付かず、捻じ込み作業を開始してしまうことがある。フィードスクリュが雌ネジに対して少し斜めに傾いた状態で捻じ込むと、ネジの山・谷が一致せず、雌・雄ネジの噛合が悪い。
【0015】
手動で回転ハンドルを回転させる場合であれば、フィードスクリュが斜めに傾いた状態のまま締め込んだとしても噛合が悪く、ネジ山同士が噛み込んでそれ以上回転ハンドルを回転させることができなくなるため、ネジ山が潰れるようなことはない。
【0016】
処が、動力式回転工具を用いて回転ハンドルを回転させる場合には、ネジが噛み込んだ状態のまま動力で強引に捻じ込まれる為、ネジ山が潰れてしまう。ネジ山が潰れたフレア工具は、そのままでは使用できないので修理或いは部品交換が必要となる。
【0017】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は動力式回転工具を用いてフレア加工を行う際、噛合状態を確認できてネジ山の潰れを回避できるフレア工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載した発明は、
金属配管Pを固定してフレア加工を施すゲージ22と、
前記ゲージ22が取り付けられ、前記ゲージ22に対して垂直に設けられた雌ネジ24bを有するヨーク本体24と、
前記雌ネジ24bに螺入され、前記雌ネジ24bに噛合する雄ネジ18cが刻設されたフィードスクリュ18と、
フィードスクリュ18に挿通され、フィードスクリュ18と共に回転するコーンシャフト14と、
コーンシャフト14の下端に取り付けられ、金属配管Pが固定されるゲージ22の受け孔40に対してフレア加工のために偏心回転する偏心コーン16と、
コーンシャフト14の上部に取り付けられ、手動回転用の握り部12eを有し、動力式回転工具100の回転軸が挿入されるドライバ穴12bがその軸心に合わせて設けられた回転ハンドル12とで構成されたフレア工具10において、
フィードスクリュ18の雄ネジ18cのネジ先から少なくとも1山越えた位置に、少なくとも1山の幅で前記フィードスクリュ18の胴部18bを一周するように前記雄ネジ18cの全周に亘って凹溝38が刻設され、ヨーク本体24に対するフィードスクリュ18の捻じ込み位置を示す捻じ込み位置表示Hが形成されていることを特徴とするフレア工具である。
【0019】
請求項2に記載した発明は、「捩込位置表示Hは、溝の深さがフィードスクリュ18の雄ネジ18cの谷よりも浅い、又は深い凹溝38であり、該凹溝38の溝底が塗装されている」ことを特徴とする。
【0020】
本発明では、捻じ込み位置表示Hが形成されているので、この捻じ込み位置表示Hが見えなくなる位置まで手でフィードスクリュ18を捻じ込めば、フィードスクリュ18とヨーク本体24との噛合が確実に行われていることを作業者が目視確認できる。それ故、噛合ミスなく、それ以後の動力式回転工具を用いてのフレア加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明に係るフレア工具を示す斜視図である。
【
図2】(a)は
図1におけるフレア加工後のA-A’線断面図、(b)は(a)の(B)部分の側面側の断面図である。
【
図3】
図1におけるフレア加工前のA-A’線断面図である。
【
図4】雄ネジに設けた凹溝と雌ネジの関係を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態に係るフレア工具10について図面を参照しつつ詳細に説明する。フレア工具10は、大略、ゲージ22とヨーク本体24及び機構部20とで構成されている。機構部20は、回転ハンドル12、コーンシャフト14、偏心コーン16、フィードスクリュ18及び押圧バネ26などで構成されている。
【0023】
回転ハンドル12は、その外形が円形ブロック状のもので、その周囲には6つの指掛け凸部12aが等角度間隔で外方に張り出している(
図1参照)。
【0024】
回転ハンドル12の上面には、断面矩形状のドライバ穴12bが軸心に一致させて凹設されており、下面には、ドライバ穴12bと同軸で断面円形状のシャフト取付穴12cがドライバ穴12bと連通して形成されている。
【0025】
また、このシャフト取付穴12cの近傍には、係止ピン保持孔12dがシャフト取付穴12cと平行に穿設されている。係止ピン保持孔12dには、係止ピン36が出没方向にてスライド可能に挿入されている。なお、この係止ピン36には、回り止め(図示せず)が設けられている。
【0026】
コーンシャフト14は、細いシャフト本体14aと、下端部にシャフト本体14aより太径のコーン取付部14bとで形成されており、その上端部がシャフト取付穴12cに挿入されている。そして、上記係止ピン36は、その外周に設けられた係合溝にシャフト本体14aに取り付けられた保持ピン28の先端が嵌め込まれており、回転ハンドル12とコーンシャフト14とが一体的に上下方向に移動できるように係止固定されている。
【0027】
コーン取付部14bの下面には、コーンシャフト14に対して傾斜した傾斜穴14cが穿設されており、スラストベアリング30及びニードルベアリング32を介して偏心コーン16の偏心軸16aが偏心回転可能に挿入されている。偏心軸16aには、傾斜穴14cから偏心軸16aが脱落することを防止する抜け止め用のC形リング34が装着されている。これにより偏心コーン16はコーンシャフト14の中心軸を中心にして回転する。なお、円錐状の偏心コーン16の先端は、コーンシャフト14の中心軸に一致し、偏心コーン16の母線は、後述するゲージ22の受け孔40a~40eのフレア加工面に一致するように設けられている。
【0028】
コーン取付部14bの上端外周縁は、抜け止め用の係合縁14dとなっていて、後述するヨーク本体24の雌ネジ24bが螺設されているフィードスクリュ孔24aの下端で、段状に形成されている下縁に係合する。
【0029】
偏心コーン16は、偏心軸16aと円錐ヘッド16bとで構成されており、円錐ヘッド16bがコーン取付部14bの下面から傾斜して露出している。
【0030】
フィードスクリュ18は、その上部に円盤状のフランジ部18aが形成され、フランジ部18aの下面からフランジ部18aより細い胴部18bが垂設されている。胴部18bの挿入先端部分には、ネジが刻設されていない(雄ネジ18cの谷径と同じまたはそれよりも小さい直径)円筒部18gが設けられ、該円筒部18gとフランジ部18aとの間に雄ネジ18cが刻設されている。円筒部18gの外径は、雄ネジ18cの谷径と同じまたはそれよりも小さい直径なので、後述するヨーク本体24に刻設された雌ネジ24bの山の内径より若干細い寸法に形成されている。
【0031】
そして、フランジ部18aから胴部18bの途中にかけてコーンシャフト14のシャフト本体14aが回転自在かつ摺動自在に挿通されるスライド孔18dが穿設されており、スライド孔18dの下端から胴部18bの下面にかけて太いバネ収納孔18eが穿設されている。
【0032】
前記フランジ部18aには、上下に貫通する係脱孔18fが穿設されており、この係脱孔18fに、係止ピン保持孔12d内に挿入されている円柱状の係止ピン36の下端が嵌り込んでいる。
【0033】
フィードスクリュ18の胴部18bには、凹溝38がネジ先から少なくとも1山以上(例えば、2山~3山)越えた位置に胴部18bを一周するように全周に亘って刻設されている。凹溝38は、ヨーク本体24に対するフィードスクリュ18の捻じ込み位置を示す「捻じ込み位置表示H」として機能するもので、溝の深さは、雄ネジ18cの谷よりも浅く、又は深く設定されている。そして、また、外部から凹溝38を容易に識別できるよう、該凹溝38の溝底38aは、塗料が塗布されて塗装されている。
【0034】
凹溝38は、胴部18bの雄ネジ18cを切削して形成されているため、その溝底38aの深さが雄ネジ18cの谷より深く形成されておれば(凹溝38の第1実施形態:
図4参照)、ヨーク本体24の雌ネジ24bに捻じ込んだ際、該雌ネジ24bの山が、塗料の塗布された凹溝38の溝底38aに接触せず、当然、塗料が剥がれることがない。また、凹溝38の溝底38aの深さが雄ネジ18cの谷より浅かったとしても(凹溝38の第2実施形態:
図5参照)、溝底38aであるその切除面(この面に塗料が塗布される)には、やはり該雌ネジ24bの山が接触せず、塗料が剥がれることがない。
【0035】
凹溝38は、上記のように胴部18bの雄ネジ18cを切削して形成されているので、溝底38aの深さが雄ネジ18cの谷より深く形成されておれば、先端側と上部側とで雄ネジ18cは凹溝38によって途切れてしまうことになる。ただし、凹溝38は、胴部18bの雄ネジ18cを切削加工で削除したものであるから、先端側の雄ネジ18c1の延長上に上部側の雄ネジ18c2が伸びることになる。その結果、先端側の雄ネジ18c1にヨーク本体24の雌ネジ24bが噛合しさえすれば、そのまま捻じ込むと、ヨーク本体24の雌ネジ24bは、上部側の雄ネジ18c2にスムーズに噛合することになる。
【0036】
これに対して、凹溝38が雄ネジ18cの谷より浅く形成されている場合は、凹溝38部分の浅く切除された山が断面台形状に残り、先端側の雄ネジ18c1と上部側の雄ネジ18c2とがこの浅く切除された断面台形状の山で連続する。従って、この場合、上記の場合よりもヨーク本体24の雌ネジ24bが上部側の雄ネジ18c2にスムーズに噛合することになる。
【0037】
ゲージ22は、開閉自在な棒状の半体部材22a,22bからなり、半体部材22a,22bを閉じた状態で、その合わせ面にフレア形成面を有し、直径の異なる複数の受け孔40a~40eが形成されている。従って、各受け孔40a~40eは、半割れ状に形成されている。
【0038】
ヨーク本体24は門型の下部(ゲージ支持部24f)とその上面に一体的に設けられた筒状部24gとで形成され、筒状部24gには、上面に開口するフィードスクリュ孔24aが穿設され、フィードスクリュ孔24aの内周面に雌ネジ24bが穿設されている。
【0039】
フィードスクリュ孔24aの下縁(この部分がコーンシャフト14のコーン取付部14bとの係合部である抜け止め段部24cである)からフィードスクリュ孔24aより内径の大きな中間孔部24dが形成され、中間孔部24dの下縁から中間孔部24dより更に内径の大きな下部孔部24eが形成され、ヨーク本体24の下部に設けられたゲージ支持部24fに開口している。
【0040】
ここで、フィードスクリュ孔24aの内径は、コーン取付部14bの外径より小さく、中間孔部24dの内径は、コーン取付部14bの外径よりやや大きく、フィードスクリュ18の螺退と共にコーンシャフト14が筒状部24g側に引き込まれた時には、コーン取付部14bが中間孔部24d内に収納されるようになっている(
図3参照)。
【0041】
フィードスクリュ孔24aの下縁は、中間孔部24dに対して段状に形成されており、この段状部分が、フィードスクリュ18の螺退時のコーンシャフト14の引き込みで、コーン取付部14bの上縁の係合縁14dと係合する。この時、フィードスクリュ孔24aの雌ネジ24bからフィードスクリュ18の雄ネジ18cが螺脱し、ネジが刻設されていない円筒部18gが雌ネジ24b内を空回りする。
【0042】
押圧バネ26は、バネ収納孔18eに収納されており、その上端は、バネ収納孔18eの天井に弾接し、その下端は、スラストベアリング27を介してコーン取付部14bに弾接し、コーンシャフト14をフィードスクリュ18から下方に抜き出す方向に押圧付勢している。
【0043】
ヨーク本体24のゲージ支持部24fは、ヨーク本体24の下部にて、その側壁を貫通し、ゲージ22が挿通される挿通溝24hを有する門型の部分である。挿通溝24hはヨーク本体24の中心軸に対して直角に形成されている。このゲージ支持部24fの一方の壁面には、ゲージ22を偏心コーン16の回転中心に一致して固定するように締付クランプ42が設けられている。
【0044】
以上のような本発明のフレア工具10の作用について説明する。
図3は、フレア加工前の断面図である。まず、ゲージ22を開いて最適の受け孔(
図3の場合は、受け孔40a)を選択する。そして金属配管Pの管端を所定の高さで挟み込み、ゲージ支持部24fに挿入する。そして、偏心コーン16の回転中心が金属配管Pの直上にて中心にほぼ一致したところで締付クランプ42を締め付ける。締付クランプ42の先端は、ゲージ22の側面に設けた位置決め穴(図示せず)に挿入されて偏心コーン16の回転中心と金属配管Pの中心を自動的に一致させてゲージ22をゲージ支持部24fに固定する。
【0045】
次にフレア加工に移るが、この状態では、フィードスクリュ18の雄ネジ18cがヨーク本体24の雌ネジ24bから螺脱した状態となっている(
図3)。それ故、フィードスクリュ18の先端部分の円筒部18gは、ヨーク本体24の雌ネジ24b内で空回り状態で挿入されており、フィードスクリュ18の雄ネジ18cの先端側の雄ネジ18c1は、雌ネジ24bに噛合していない。
【0046】
そして、この段階では、上記のようにヨーク本体24の雌ネジ24b内で空回り状態で挿入されているフィードスクリュ18の先端部分の円筒部18gが、フィードスクリュ18の中心軸とフィードスクリュ孔24aの中心軸とをある程度合わせる働きをするものの、円筒部18gと雌ネジ24bとの間には若干の隙間があるため、必ずしも軸合せが正確とは言えない。
図3でこの状態を説明する。
【0047】
図3において、ヨーク本体24の中心軸をCLで示し、これに対して僅かに傾斜したフィードスクリュ18の中心軸をCLxで示す。この状態では、フィードスクリュ18の先端側の雄ネジ18c1は、雌ネジ24bにうまく噛合していない。
【0048】
上記のように軸合せが不正確な状態で、動力式回転工具100を使用すれば、フィードスクリュ18の先端側の雄ネジ18c1が雌ネジ24bにうまく噛合せず、既述のようにネジ山が潰れてしまう。
【0049】
そこで、最初の段階では、作業者が手で回転ハンドル12を回し、フィードスクリュ18の先端側の雄ネジ18c1の始端を雌ネジ24bに始端に噛合させる。
【0050】
ここで、最初の噛合せ幅が浅く、フィードスクリュ18とフィードスクリュ孔24aとの軸合せが不十分な場合(上記のように一方が他方に対して傾斜している場合)、この状態で動力式回転工具100を使用すれば、傾斜したまま捻じ込まれ、ネジ山が潰れてしまう。換言すれば、最初の噛み合わせを作業者が手で行ったとしても噛合せ幅が浅く、且つ、軸合せが不十分な場合には問題を発生させる。
【0051】
このような事態を防ぐため、本発明では、フィードスクリュ18に「捻じ込み位置表示H」を設け、この「捻じ込み位置表示H」としての凹溝38がヨーク本体24の上端から隠れるまでフィードスクリュ18をフィードスクリュ孔24a内に手で捻じ込むことでこの問題を解決した。換言すれば、「捻じ込み位置表示H」である凹溝38の幅分だけ、フィードスクリュ18の先端側の雄ネジ18c1が雌ネジ24bの奥まで螺入され、先端側の雄ネジ18c1と雌ネジ24bとが確実に噛合した状態となる。
【0052】
ただしこの噛合状態では、フィードスクリュ18の上部側の雄ネジ18c2は、ヨーク本体24の雌ネジ24bに噛合していないので、上部側の雄ネジ18c2が上手く雌ネジ24bに噛合しなければ、上部側の雄ネジ18c2が雌ネジ24bに噛み込み、従来と同じ問題を引き起こす。
【0053】
本発明では、上記のように凹溝38が深い場合、凹溝38によって雄ネジ18cが先端側の雄ネジ18c1と上部側の雄ネジ18c2に分割されてしまうが、本来1つの雄ネジ18cに対して切削加工して2つに分割したものであるため、先端側の雄ネジ18c1と上部側の雄ネジ18c2とは、凹溝38において、仮想の1本の山・谷で繋がっている。その結果、捻じ込み時に、確実に噛合状態にある先端側の雄ネジ18c1がリードして未噛合状態の上部側の雄ネジ18c2の始端が雄ネジ18cにスムーズに噛合するようになる。
【0054】
上記とは逆に、凹溝38が浅い場合、凹溝38には、頂部が切除された山が残っているので、先端側の雄ネジ18c1がリードし、且つ頂部が切除された凹溝38のネジの谷に雌ネジ24bが連続的に噛合して上部側の雄ネジ18c2の始端が雄ネジ18cによりスムーズに噛合するようになる。
【0055】
以上のように、本発明では「捻じ込み位置表示H」である凹溝38がヨーク本体24の上端から隠れるまでフィードスクリュ18をフィードスクリュ孔24a内に手で捻じ込むことで、動力式回転工具100による捻じ込みの準備が整うことになる。
【0056】
以上のようにして捻じ込み準備が完了すると、回転ハンドル12のドライバ穴12bに動力式回転工具100の先端を嵌め込み正転させる。動力式回転工具100の回転により回転ハンドル12がコーンシャフト14と共に高速で回転するが、上述したようにフィードスクリュ18の先端側の雄ネジ18c1がヨーク本体24の雌ネジ24bに正常状態にて捻じ込まれているので、動力式回転工具100で回転ハンドル12を高速回転させても、フィードスクリュ18の雄ネジ18c(特に、上部側の雄ネジ18c2の始端)と、コーンシャフト14の雌ネジ24bとの間で、いわゆる「噛み込み」を生じさせるようなことがなく、ネジの潰れが生じるようなことはない。
【0057】
繰り返しになるが、フィードスクリュ18の先端側の雄ネジ18c1をヨーク本体24に捻じ込むことなく、或いは「捻じ込み位置表示H」である凹溝38が露出した不十分な状態で動力式回転工具100にて回転ハンドル12を回転させた場合は、フィードスクリュ18が斜めになった状態で捻じ込まれることがあり、この場合、先端側の雄ネジ18c1或いは上部側の雄ネジ18c2にネジの潰れが生じることとなる。
【0058】
フレア加工終了直前になると、偏心コーン16が金属配管Pのフレアに圧接した状態で停止する。一方、回転ハンドル12は動力式回転工具100によって回転し続ける。従って、フィードスクリュ18は、回転ハンドル12の回転と共に螺進する。偏心コーン16が設けられたコーンシャフト14及び回転ハンドル12は、偏心コーン16と共に停止している。保持ピン28はコーンシャフト14に取り付けられているので、やはり停止している。そして、係止ピン36には保持ピン28が係止しているので、やはりその位置で停止している。これに対してフィードスクリュ18は、上記のように螺進しているので、係止ピン36は係止ピン保持孔12dから抜け出し、抜け出した時点で螺進が停止する(
図2)。これによりフレア加工の終了を知る。
【0059】
この時、図示していないが、係止ピン36の先端は斜めに切落されていて、順方向(締め込み方向)の回転時に係止ピン保持孔12dの孔縁を滑り、回転ハンドル12が空回りする。
【0060】
そしてフレア加工終了後、回転ハンドル12を動力式回転工具100で逆回転させると、押圧バネ26の弾発作用でフィードスクリュ18が回転ハンドル12方向に常時押し上げられているために、逆回転した係止ピン保持孔12dの傾斜した先端が係止ピン保持孔12dの孔縁に係止し、回転ハンドル12と共に逆回転し、雌ネジ24bから螺脱する。最終的には、フィードスクリュ18の先端側の雄ネジ18c1がヨーク本体24の雌ネジ24bから螺脱し、この状態でフィードスクリュ18の円筒部18gがヨーク本体24の雌ネジ24b内を空回りする。
【0061】
このとき、回転ハンドル12に固定されているコーンシャフト14は、コーン取付部14bの上端部が抜け止め段部24cと当接してそれ以上の引き抜き方向への移動が規制されるので、コーンシャフト14及びこれに取付けられ、これと共に回転するフィードスクリュ18は、ヨーク本体24から完全に螺脱してはいるが、抜け落ちるようなことはない。これにより動力式回転工具100を用いてフレア加工をすることができる。
【0062】
なお、このようなフレア工具10に適用される動力式回転工具100は、例えば、トルク10N・m以下、回転数0~3000rpmに選択可能なインパクトドライバ等の低トルク高速回転で駆動可能な回転工具が使用される(勿論、これに限定されることはない)。
【0063】
既述のように、凹溝38は、溝の深さが雄ネジ18cの谷よりも深い位置となるように設定されているので、フィードスクリュ18をヨーク本体24に捻じ込んでも、ヨーク本体24の雌ネジ24bが凹溝38の溝底に接触することはない。凹溝38が雄ネジ18cの谷よりも浅い場合でも、雄ネジ18cの切除面38aには、雌ネジ24bが接触しない。従って、凹溝38の溝底、或いは切除面38aのインク塗装が剥げるようなことはない。
【符号の説明】
【0064】
10:フレア工具、12:回転ハンドル、12a:指掛け凸部、12b:ドライバ穴、12c:シャフト取付穴、12d:係止ピン保持孔、12e:握り部、14:コーンシャフト、14a:シャフト本体、14b:コーン取付部、14c:傾斜穴、14d:係合縁、16:偏心コーン、16a:偏心軸、16b:円錐ヘッド、18:フィードスクリュ、18a:フランジ部、18b:胴部、18c:雄ネジ、18c1:先端側の雄ネジ、18c2:上部側の雄ネジ、18d:スライド孔、18e:バネ収納孔、18f:係脱孔、18g:円筒部、20:機構部、22:ゲージ、22a,22b:半体部材、24:ヨーク本体、24a:フィードスクリュ孔、24b:雌ネジ、24c:抜け止め段部、24d:中間孔部、24e:下部孔部、24f:ゲージ支持部、24g:筒状部、26:押圧バネ、27:スラストベアリング、28:保持ピン、30:スラストベアリング、32:ニードルベアリング、34:C形リング、36:係止ピン、38:凹溝、38a:切除面、40a~40e:受け孔、42:締付クランプ、100:動力式回転工具、P:金属配管、CL・CLx:中心軸、H:捻じ込み位置表示