(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】交流電圧出力システム、電力系統制御システム、電力系統、直流送電システム、発電システム及びバッテリシステム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20230621BHJP
【FI】
H02M7/49
(21)【出願番号】P 2020549162
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037111
(87)【国際公開番号】W WO2020059880
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018178007
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 良和
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133950(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128842(WO,A1)
【文献】特開2017-59778(JP,A)
【文献】特開2017-195687(JP,A)
【文献】特開2011-229262(JP,A)
【文献】特開2015-115977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定電圧を出力する複数の単位変換器が直列に接続されたアームを少なくとも1つ備え、
前記単位変換器が、
第1スイッチと第2スイッチとが直列に接続された第1スイッチアームと、
第3スイッチと第4スイッチとが直列に接続された第2スイッチアームと、
充放電できる電力貯蔵器とを備え、
前記第1スイッチアームの前記第1スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第3スイッチ側端部とが接続され、前記第1スイッチアームの前記第2スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第4スイッチ側端部とが接続されて、前記第1スイッチアーム、前記第2スイッチアーム及び前記電力貯蔵器が並列に接続された構成をし、
前記第1スイッチ及び前記第3スイッチ、又は、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチがノーマリーオン型のスイッチング素子で構成されている
交流電圧出力システム。
【請求項2】
前記電力貯蔵器が二次電池である
請求項1に記載の交流電圧出力システム。
【請求項3】
所定電圧を出力する複数の単位変換器が直列に接続されたアームを少なくとも1つ備え、
前記単位変換器が、
第1スイッチと第2スイッチとが直列に接続された第1スイッチアームと、
第3スイッチと第4スイッチとが直列に接続された第2スイッチアームと、
充放電できる電力貯蔵器とを備え、
前記単位変換器の直流電圧が30V以下であり、
前記第1スイッチアームの前記第1スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第3スイッチ側端部とが接続され、前記第1スイッチアームの前記第2スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第4スイッチ側端部とが接続されて、前記第1スイッチアーム、前記第2スイッチアーム及び前記電力貯蔵器が並列に接続された構成をし、
前記第1スイッチ及び前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチ又は前記第1スイッチ、前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチが、駆動用電源を喪失した際にスイッチがオン状態となるスイッチング素子で構成されている
交流電圧出力システム。
【請求項4】
前記スイッチング素子が、二次元電子ガスによって低オン電圧を実現した電界効果型トランジスタを用いて構成されている
請求項3に記載の交流電圧出力システム。
【請求項5】
前記スイッチング素子が、窒化ガリウムで構成された電界効果型トランジスタを用いて構成されている
請求項3に記載の交流電圧出力システム。
【請求項6】
前記電界効果型トランジスタがシリコン上に形成されている
請求項5に記載の交流電圧出力システム。
【請求項7】
前記第1スイッチ、前記第2スイッチ、前記第3スイッチ又は前記第4スイッチの少なくとも1つ以上を駆動する回路の少なくとも一部の素子が前記シリコン上に実装されている
請求項6に記載の交流電圧出力システム。
【請求項8】
前記スイッチング素子が、ノーマリーオフ型のスイッチング素子に対して、前記駆動用電源を喪失した際に、ノーマリーオンとなるように構成されている
請求項3~7のいずれか1項に記載の交流電圧出力システム。
【請求項9】
交流配電系統又は交流送電系統に接続され、
前記交流配電系統又は前記交流送電系統の周波数に基づいて、前記交流配電系統又は前記交流送電系統への出力を制御する制御装置を有する
請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システム。
【請求項10】
交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統を制御する系統制御装置を備え、
前記系統制御装置が、前記交流配電系統又は前記交流送電系統の周波数に基づいて、前記交流配電系統又は前記交流送電系統に接続された請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システムの出力を制御する
電力系統制御システム。
【請求項11】
交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統であって、
前記交流配電系統又は前記交流送電系統に、請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システムが接続され、
前記交流配電系統又は前記交流送電系統の周波数に基づいて、前記交流電圧出力システムの出力が制御される
電力系統。
【請求項12】
並列に接続された複数の交流配電系統又は複数の交流送電系統の一方に接続され、
前記交流配電系統又は前記交流送電系統の潮流を制御する制御装置を備える
請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システム。
【請求項13】
交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統を制御する系統制御装置を備え、
前記電力系統は、複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統が並列に接続されており、
複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統の少なくとも一方に請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システムが接続され、
前記系統制御装置が、前記交流電圧出力システムの出力を制御することで、前記交流配電系統又は前記交流送電系統の潮流を制御する
電力系統制御システム。
【請求項14】
交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統であって、
複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統が並列に接続されており、
複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統の少なくとも一方に請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システムが接続され、
前記交流電圧出力システムの出力により、前記交流配電系統又は前記交流送電系統の潮流が制御される
電力系統。
【請求項15】
2つの前記アームが直列に接続されたレグを少なくとも1つ備え、
前記レグは、直流電力を授受するための直流端子を両端にそれぞれ備え、交流電力を授受するための交流端子を前記アーム同士の接続点に備える
請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システム。
【請求項16】
請求項15に記載の交流電圧出力システムを備え、
前記直流端子に直流送電線が接続され、
前記直流送電線から前記直流端子に入力された直流電力を交流電力に変換して前記交流端子から出力する
直流送電システム。
【請求項17】
請求項15に記載の交流電圧出力システムを備え、
前記直流端子に有効電力源が接続され、
前記有効電力源から前記直流端子に入力された直流電力を交流電力に変換して前記交流端子から出力する
発電システム。
【請求項18】
請求項1~8のいずれか1項に記載の交流電圧出力システムを備える
バッテリシステム。
【請求項19】
無停電電源装置又は電気自動車用のバッテリである
請求項18に記載のバッテリシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧出力システム、電力系統制御システム、電力系統、直流送電システム、発電システム及びバッテリシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
高効率に電力変換可能な蓄電システムとして、スイッチ回路(電力変換回路)と直流電源(蓄電器)とを接続して構成した単位変換器が、複数、直列に接続されてなり、各単位変換器の電源回路の出力電圧を合成して出力するように構成された多重化インバータ方式の蓄電システムが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている蓄電システムでは、複数の単位変換器が直列に接続されているため、制御装置が故障したり、スイッチ駆動用の電源が故障したり、電力の供給線が切断されたりして、1つの単位変換器のスイッチの駆動用電源が喪失し、当該単位変換器が動作できなくなると、他の単位変換器も運転をやめ、蓄電システムの運転をとめなくてはならなくなる。
【0004】
特許文献1に開示されている蓄電システムのような複数の単位変換器が直列に接続されたシステムにおいて、複数の単位変換器の内の1つの単位変換器の電源が喪失したときもシステムを継続運転させる手法として、特許文献2には、短絡スイッチを各単位変換器に設け、単位変換器が電源喪失したときに、短絡スイッチをオンにして電源喪失した単位変換器を短絡することが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-174663号公報
【文献】特開2011-193615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の蓄電システムでは、スイッチの駆動用電源が喪失したときに交流電圧出力システムを継続運転するためには、単位変換器に短絡スイッチを設け、電源喪失した単位変換器を短絡する必要があった。短絡スイッチはサイズが大きいため、交流電圧出力システムのサイズも大きくなってしまう。また、短絡スイッチを設けることでコストも増大する。そのため、短絡スイッチを設ける必要のない、スイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転できる交流電圧出力システムが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、スイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転できる、交流電圧出力システム、電力系統制御システム、電力系統、直流送電システム、発電システム及びバッテリシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による交流電圧出力システムは、所定電圧を出力する複数の単位変換器が直列に接続されたアームを少なくとも1つ備え、前記単位変換器が、第1スイッチと第2スイッチとが直列に接続された第1スイッチアームと、第3スイッチと第4スイッチとが直列に接続された第2スイッチアームと、充放電できる電力貯蔵器とを備え、前記第1スイッチアームの前記第1スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第3スイッチ側端部とが接続され、前記第1スイッチアームの前記第2スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第4スイッチ側端部とが接続されて、前記第1スイッチアーム、前記第2スイッチアーム及び前記電力貯蔵器が並列に接続された構成をし、前記第1スイッチ及び前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチ又は前記第1スイッチ、前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチがノーマリーオン型のスイッチング素子で構成されている。
【0009】
本発明による交流電圧出力システムは、所定電圧を出力する複数の単位変換器が直列に接続されたアームを少なくとも1つ備え、前記単位変換器が、第1スイッチと第2スイッチとが直列に接続された第1スイッチアームと、第3スイッチと第4スイッチとが直列に接続された第2スイッチアームと、充放電できる電力貯蔵器とを備え、前記第1スイッチアームの前記第1スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第3スイッチ側端部とが接続され、前記第1スイッチアームの前記第2スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第4スイッチ側端部とが接続されて、前記第1スイッチアーム、前記第2スイッチアーム及び前記電力貯蔵器が並列に接続された構成をし、前記第1スイッチ及び前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチ又は前記第1スイッチ、前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチが二次元電子ガスによって低オン電圧を実現した電界効果型トランジスタを用いたスイッチング素子で構成されている。
【0010】
本発明による交流電圧出力システムは、所定電圧を出力する複数の単位変換器が直列に接続されたアームを少なくとも1つ備え、前記単位変換器が、第1スイッチと第2スイッチとが直列に接続された第1スイッチアームと、第3スイッチと第4スイッチとが直列に接続された第2スイッチアームと、充放電できる電力貯蔵器とを備え、前記第1スイッチアームの前記第1スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第3スイッチ側端部とが接続され、前記第1スイッチアームの前記第2スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第4スイッチ側端部とが接続されて、前記第1スイッチアーム、前記第2スイッチアーム及び前記電力貯蔵器が並列に接続された構成をし、前記第1スイッチ及び前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチ又は前記第1スイッチ、前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチが窒化ガリウムで構成された電界効果型トランジスタを用いたスイッチング素子で構成されている。
【0011】
本発明による交流電圧出力システムは、所定電圧を出力する複数の単位変換器が直列に接続されたアームを少なくとも1つ備え、前記単位変換器が、第1スイッチと第2スイッチとが直列に接続された第1スイッチアームと、第3スイッチと第4スイッチとが直列に接続された第2スイッチアームと、充放電できる電力貯蔵器とを備え、前記第1スイッチアームの前記第1スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第3スイッチ側端部とが接続され、前記第1スイッチアームの前記第2スイッチ側端部と前記第2スイッチアームの前記第4スイッチ側端部とが接続されて、前記第1スイッチアーム、前記第2スイッチアーム及び前記電力貯蔵器が並列に接続された構成をし、前記第1スイッチ及び前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチ又は前記第1スイッチ、前記第3スイッチ、前記第2スイッチ及び前記第4スイッチが、窒化ガリウムで構成された電界効果型トランジスタを用いたスイッチング素子で構成されており、前記電界効果型トランジスタがシリコン上に形成されている。
【0012】
本発明による電力系統制御システムは、交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統を制御する系統制御装置を備え、前記系統制御装置が、前記交流配電系統又は前記交流送電系統の周波数に基づいて、前記交流配電系統又は前記交流送電系統に接続された上記のいずれかの交流電圧出力システムの出力を制御する。
【0013】
本発明による電力系統は、交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統であって、前記交流配電系統又は前記交流送電系統に、上記いずれかの交流電圧出力システムが接続され、前記交流発電系統又は前記交流送電系統の周波数に基づいて、前記交流電圧出力システムの出力が制御される。
【0014】
本発明による電力系統制御システムは、交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統を制御する系統制御装置を備え、前記電力系統は、複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統が並列に接続されており、複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統の少なくとも一方に上記のいずれかの交流電圧出力システムが接続され、前記系統制御装置が、前記交流電圧出力システムの出力を制御することで、前記交流配電系統又は前記交流送電系統の潮流を制御する。
【0015】
本発明による電力系統は、交流配電系統又は交流送電系統が接続された電力系統であって、複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統が並列に接続されており、複数の前記交流配電系統又は複数の前記交流送電系統の少なくとも一方に上記のいずれかの交流電圧出力システムが接続され、前記交流電圧出力システムの出力により、前記交流配電系統又は前記交流送電系統の潮流が制御される。
【0016】
本発明による直流送電システムは、上記のいずれかの交流電圧出力システムを備え、前記直流端子に直流送電線が接続され、前記直流送電線から前記直流端子に入力された直流電力を交流電力に変換して前記交流端子から出力する。
【0017】
本発明による発電システムは、上記のいずれかの交流電圧出力システムを備え、前記直流端子に有効電力源が接続され、前記有効電力源から前記直流端子に入力された直流電力を交流電力に変換して前記交流端子から出力する。
【0018】
本発明のバッテリシステムは、上記のいずれかの交流電圧出力システムを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、単位変換器のスイッチの駆動用電源が喪失したとき、当該単位変換器が短絡された状態となるので、スイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の交流電圧出力システムの構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の交流電圧出力システムの単位変換器の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3Aは、GaNで構成したFETの一例を示す概略断面図であり、
図3Bは、同一のシリコン基板上にGaN-FETと、Gan-FETを駆動するゲートドライバや単位変換器の制御回路を設けた場合の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4Aは、ノーマリーオン型のスイッチング素子をノーマリーオフ型に改良したスイッチング素子の構成の一例を示す概略図であり、
図4Bは、
図4Aのノーマリーオフ型のスイッチング素子をノーマリーオン型に改良したスイッチング素子の一例を示す概略図である。
【
図5】変形例の配電系統安定化装置を示す概略図である。
【
図6】変形例の交流電圧出力システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)本発明の実施形態の交流電圧出力システムの全体構成
図1に示すように、本実施形態の交流電圧出力システム1は、交流配電系統(以下、単に配電系統という)510との間で電力を授受し、配電系統510を安定化させる配電系統安定化装置として用いられる。この場合、交流電圧出力システム1は、電力系統50と負荷56の間の配電系統510の配電線に接続される。電力系統50は、電圧源を示す回路記号に集約したが、様々な系統構成がありうる。例えば、国内の電力系統等と同様に電力需要と供給の関係によって周波数が変化する系統であったりする。図示しない発電機への機械エネルギーの入力や光エネルギーなどの入力が発電機出力よりも大きければ、周波数が高くなり、低ければ、周波数が低くなる系統であったりする。また、前記とは異なり、電力変換器を介した発電機しか接続されていない系統も電力系統50の例の1つである。交流電圧出力システム1は、アームとして、R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tとを備えている。R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tは、それぞれ、所定電圧を出力する単位変換器3を4つ備え、4つの単位変換器3が直列に接続されている。R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tは、一端がリアクトル150R、150S、150Tを介して、配電系統510の配電線57u、57v、57wの端子53u、53v、53wにそれぞれ接続され、他端が接続点NPでスター結線されている。このように、R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tは、接続点NPと配電系統510の間で並列に接続されている。
【0022】
図2に示すように、単位変換器3は、第1スイッチ13Hと第2スイッチ13Lとが直列に接続された第1スイッチアーム13と、第3スイッチ14Hと第4スイッチ14Lとが直列に接続された第2スイッチアーム14と、充放電できる電力貯蔵器15とを備えている。電力貯蔵器15は、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池及びニッケルカドミウム電池などの二次電池で構成されている。なお、電力貯蔵器15は、電力を充放電可能であれば特に限定されず、コンデンサや電気二重層キャパシタ、直流のフライホイールなどであってもよい。
【0023】
このように、交流電圧出力システム1は、各単位変換器3が電力を充放電できる電力貯蔵器15を備えているので、各電力貯蔵器15を充電することで電気エネルギーを蓄えることができ、電力貯蔵装置として用いることができる。
【0024】
単位変換器3は、第1スイッチアーム13の第1スイッチ13H側の端部と、第2スイッチアーム14の第3スイッチ14H側の端部と電力貯蔵器15の一の端子(本実施形態ではプラス側)とが接続され、第1スイッチアーム13の第2スイッチ13L側の端部と第2スイッチアーム14の第4スイッチ14L側の端部と電力貯蔵器15の他の端子(本実施形態では、マイナス側)とが接続されている。このように、単位変換器3は、第1スイッチアーム13、第2スイッチアーム14及び電力貯蔵器15が並列に接続されたフルブリッジ回路構成をしている。
【0025】
単位変換器3は、図示しない制御回路が接続されており、第1スイッチ13H、第2スイッチ13L、第3スイッチ14H及び第4スイッチ14Lに、各スイッチのオン・オフを制御する駆動電圧(例えば、FET(電界効果型トランジスタ)で構成されたスイッチング素子の場合はゲート電圧)を供給する。
【0026】
単位変換器3は、第1スイッチアーム13の第1スイッチ13Hと第2スイッチ13Lとの接続点10から第1端子FTが引き出され、第2スイッチアーム14の第3スイッチ14Hと第4スイッチ14Lとの接続点12から第2端子STが引き出されている。単位変換器3は、電力貯蔵器15の電圧をVとすると、第1スイッチ13H、第2スイッチ13L、第3スイッチ14H及び第4スイッチ14Lのオン・オフを切り替えることにより、第1端子FTと第2端子STとの間に、±V、ゼロの3レベルの電圧を出力できる。なお、各単位変換器3が、同じ電圧を出力するように構成してもよく、各単位変換器3の電力貯蔵器15の構成(電池の容量など)を適宜変更することで異なる電圧を出力するように構成してもよい。
【0027】
図1に示す交流電圧出力システム1では、一の単位変換器3の第1端子FTと、他の単位変換器3の第2端子STとが接続されて、複数の単位変換器3が直列に接続されている。そのため、交流電圧出力システム1は、R相アーム2R、S相アーム2S及びT相アーム2Tにおいて、電圧を出力する単位変換器3の数をそれぞれ切り替えることで、単位変換器3の数に応じた多段階の電圧を各アームが出力できる。また、交流電圧出力システム1は、各単位変換器3の制御回路を統括する制御装置を備えている。制御装置は、各単位変換器の制御回路に、制御回路が各単位変換器のスイッチのオン・オフを制御するための指令を送出し、R相アーム2R、S相アーム2S及びT相アーム2Tから多段階の交流電圧を出力させる。なお、本実施形態では、R相アーム2R、S相アーム2S及びT相アーム2Tがそれぞれ4つの単位変換器3を備えている場合につて説明したが、各アームが備える単位変換器3の数は限定されない。各アームが備える単位変換器3の数が多いと、交流電圧出力システム1が出力する交流電圧の段数が多くなり、各スイッチング素子のスイッチング周波数が低くても交流電圧の波形をより正弦波に近い波形にできる。したがって、半導体のスイッチング損失を低減できる。また、正弦波に近い電圧波形を出力できることから、高調波フィルタを削除もしくは、簡素化できるメリットがある。さらに、多段とすることで高電圧を出力できるので、システムによっては、昇降圧トランスを省略できるメリットがある。
【0028】
単位変換器3では、第1スイッチアーム13と第2スイッチアーム14とが並列に接続されていることから、第1端子FTと第2端子STとの間では、第1スイッチ13Hと第3スイッチ14Hが直列(逆直列)に接続され、第2スイッチ13Lと第4スイッチ14Lが直列に接続された構成になっている。ここで、第1端子FTと第2端子ST間で直列に接続されたスイッチの一方(第1スイッチ13H及び第3スイッチ14H)を第1スイッチ群16とし、直列に接続されたスイッチの他方(第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L)を第2スイッチ群17とする。
【0029】
単位変換器3は、第1スイッチ群16の各スイッチ(第1スイッチ13H及び第3スイッチ14H)、第2スイッチ群17の各スイッチ(第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L)又は第1スイッチ群16及び第2スイッチ群17の各スイッチ(第1スイッチ、第3スイッチ、第2スイッチ及び第4スイッチ)をノーマリーオン型のスイッチング素子で構成する。ここで、本明細書でいうノーマリーオン型のスイッチング素子は、スイッチのオン・オフを制御する駆動電圧がゼロのとき、スイッチがオン状態であるスイッチング素子をいう。なお、ノーマリーオフ型のスイッチング素子は、駆動電圧がゼロのとき、スイッチがオフ状態であるスイッチング素子であり、パワーエレクトロニクス分野でスイッチとして一般に用いられている、例えば、シリコンで形成された金属酸化物半導体FET(Si-MOSFET)や絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated-gate bipolar transistor:IGBT)、ゲートターンオフサイリスタ(Gate Turn-Off thyristor:GTO)、ゲート転流型ターンオフサイリスタ(Gate Commutated Turn-off thyristor:GCT)などである。
【0030】
本実施形態では、単位変換器3は、第1スイッチ群16の各スイッチがノーマリーオフ型のスイッチング素子であるIGBTで構成され、第2スイッチ群17の各スイッチがノーマリーオン型のスイッチング素子である高電子移動度トランジスタ(以下、HEMTともいう)で構成されている。さらに、本実施形態では、HEMTとして、GaN(窒化ガリウム)で構成されたFET(以下、GaN-FETともいう)を用いている。このGaN-FETは、Si(シリコン)の上に、例えば、Si基板に形成されたGaN-FETである。なお、HEMTは、半導体ヘテロ接合に誘起された高移動度の二次元電子ガスをチャネルとし、ゲートに電圧を印加してオンにする通常のFETより低オン電圧を実現した電界効果型トランジスタである。HEMTは、オン電圧が低いのでスイッチのオン・オフの切り替えによる消費電力を削減でき、さらに高耐圧のFETであるので、100V~6.6kV程度の配電系統やさらに高電圧の送電系統に接続する交流電圧出力システム1に適している。特に、GaN-FETは、高電圧領域においてSiよりもスイッチング損失が低いので、高電圧を扱う交流電圧出力システム1により適している。さらに、本実施形態の場合、GaN-FETがSi基板上に形成されているので、GaN基板にGaN-FETを形成する場合より安価に作製することができ、さらに好ましい。なお、二次元電子ガスによって低オン電圧を実現した電界効果型トランジスタを用いたスイッチング素子としては、ノーマリーオン型であるデプレッションモードのMOS-FETも用いることができる。
【0031】
本実施形態に用いたGaN-FETの構成を説明する。
図3Aに示すように、GaN-FET20は、Si基板21に形成されている。GaN-FET20は、Si基板21上に形成されたGaN層22と、GaN層22に接して形成されたAlGaN層23と、AlGaN層23に接して形成されたソース電極24、ドレイン電極25及びゲート絶縁層27と、ゲート絶縁層27と接して形成されたゲート電極26とを備えている。GaN-FET20では、AlGaN層23とGaN層22の界面に2次元電子気体層が生じ、当該2次元電子気体層が導電チャネルとなるので、ゲート電極26に印加される電圧がゼロでもソース電極24-ドレイン電極25間に電流を流すことが可能である。そのため、GaN-FET20で構成されたスイッチング素子は、ゲート電極26に印加される駆動電圧がゼロでもオン状態であり、ノーマリーオン型となる。なお、GaN-FET20で構成されたスイッチング素子では、ゲート電極26に負の駆動電圧を印加することで、ソース電極24-ドレイン電極25間に電流が流れなくなり、オフ状態にできる。
【0032】
また、
図3Bに示すように、GaN-FET20で構成されたスイッチング素子としては、GaN-FET20を駆動するゲートドライバ28や単位変換器3の制御回路(第1スイッチ13H、第2スイッチ13L、第3スイッチ14H及び第4スイッチ14Lを駆動する制御回路)19などが同じSi基板21上に実装されたものでもよい。なお、
図2では、説明の便宜上、GaN-FET20を大きく示している。また、GaN-FETは、Si基板に限らず、例えば、SiC基板やGaN基板などに形成されていてもよい。また、本実施形態では、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14LにSi基板に形成されたGaN-FETのスイッチング素子を用い、第2スイッチ13L用のスイッチング素子と、第4スイッチ14L用のスイッチング素子が別体である。しかし、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L用のスイッチング素子は一体に形成されていてもよく、例えば、1枚のSi基板に第2スイッチ13L用のGaN-FETと第4スイッチ14L用のGaN-FETが形成されたものを用いてもよい。さらに、第1スイッチ13H及び第3スイッチ14Hも第2スイッチ13L及び第4スイッチ14Lと一体(同一基板上)に形成してもよい。
【0033】
このように、単位変換器3では、第1スイッチ群16の各スイッチがノーマリーオフ型のスイッチング素子であり、第2スイッチ群17の各スイッチがノーマリーオン型のスイッチング素子であるので、第1スイッチ13H、第2スイッチ13L、第3スイッチ14H及び第4スイッチ14Lに制御回路が駆動電圧を供給するためのスイッチ駆動用の電源が故障したり、単位変換器3の制御回路自体が故障したり、電力の供給線が切断したりして、単位変換器3の各スイッチ(スイッチング素子)の駆動用電源が喪失したとき、各スイッチの駆動電圧がゼロとなり、第1スイッチ13H及び第3スイッチ14Hがオフ状態となり、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14Lがオン状態となる。すなわち、第2端子STから、第4スイッチ14L、第2スイッチ13Lとこの順に経由した第1端子FTへの短絡経路が形成される。よって、単位変換器3は、第1端子FTと第2端子STとの間が短絡された状態となる。
【0034】
単位変換器を直列に接続した構成を有する変換器の従来技術では、単位変換器のすべてのスイッチがノーマリーオフ型のスイッチング素子で構成されているため、スイッチの駆動用電源が喪失したとき、すべてのスイッチがオフ状態となり、第1端子と第2端子との間が絶縁され、当該単位変換器及び当該単位変換器の属するアームに電流が流れなくなり、運転を停止しなくてはならなかった。そのため、従来の交流電圧出力システムは、第1端子と第2端子との間を短絡する短絡スイッチが必要であった。
【0035】
これに対して本実施形態の交流電圧出力システム1は、単位変換器3の各スイッチの駆動用電源が喪失したとき、第1端子FTと第2端子STとの間が短絡され、当該単位変換器3が短絡された状態となり、第1端子FTと第2端子STとの間に電流が流れるので、当該単位変換器の属するアームに電流が流れなくなることがなく、継続運転することができる。また、交流電圧出力システム1は、第1端子FTと第2端子STとの間が短絡された状態となるので、第1端子FTと第2端子STの間に単位変換器3を短絡する短絡スイッチを設ける必要がない。単位変換器3が、第1スイッチ群16の各スイッチ(第1スイッチ13H及び第3スイッチ14H)又は第1スイッチ群16及び第2スイッチ群17の各スイッチ(第1スイッチ13H、第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L)をノーマリーオン型のスイッチング素子で構成されていても同様の効果を奏する。
【0036】
第1スイッチ群16の各スイッチをノーマリーオン型のスイッチング素子とし、第2スイッチ群17の各スイッチをノーマリーオフ型のスイッチング素子とした場合、単位変換器3の各スイッチ(スイッチング素子)の駆動用電源が喪失したとき、各スイッチの駆動電圧がゼロとなり、第1スイッチ13H及び第3スイッチ14Hがオン状態となり、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14Lがオフ状態となる。すなわち、第2端子STから、第1スイッチ13H、第3スイッチ14Hとこの順に経由した第1端子FTへの短絡経路が形成される。よって、単位変換器3は、第1端子FTと第2端子STとの間が短絡された状態となる。
【0037】
また、第1スイッチ群16及び第2スイッチ群17の各スイッチ(第1スイッチ13H、第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L)をノーマリーオン型のスイッチング素子とした場合、単位変換器3の各スイッチ(スイッチング素子)の駆動用電源が喪失したとき、各スイッチの駆動電圧がゼロとなり、すべてのスイッチがオン状態となる。その結果、第2端子STから、第1スイッチ13H、第3スイッチ14Hとこの順に経由した第1端子FTへの短絡経路と、第2端子STから、第2スイッチ13L、第4スイッチ14Lとこの順に経由した第1端子FTへの短絡経路とが形成され、第1端子FTと第2端子STとの間が短絡された状態となる。
【0038】
このように、交流電圧出力システム1は、単位変換器3が、第1スイッチ群16の各スイッチ(第1スイッチ13H及び第3スイッチ14H)又は第1スイッチ群16及び第2スイッチ群17の各スイッチ(第1スイッチ13H、第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L)をノーマリーオン型のスイッチング素子で構成されていても、単位変換器3の各スイッチの駆動用電源が喪失したとき、第1端子FTと第2端子STとの間が短絡され、当該単位変換器3が短絡された状態となる。そして、交流電圧出力システム1は、駆動用電源が喪失した単位変換器3の第1端子FTと第2端子STとの間に電流が流れるので、当該単位変換器3の属するアームに電流が流れなくなることがなく、継続運転することができる。
【0039】
次に、配電系統安定化装置としての交流電圧出力システム1を、配電系統510の周波数を安定させる周波数安定化装置として使用したときの効果について説明する。
図1に示すように、交流電圧出力システム1は、配電系統510に接続されている。配電系統510は、電力系統50と負荷56との間を配電線57u、57v、57wによって接続し、電力系統50から負荷56へと電力を供給する。ここで、電力系統50は、国内の電力系統と同じく、図示しない発電機への機械エネルギーの入力や光エネルギーなどの入力が発電機出力よりも大きければ、周波数が高くなり、低ければ、周波数が低くなる系統であるとする。配電線57uは、一端が電力系統50のu相に接続され、他端が負荷56のR相に接続されている。配電線57vは、一端が電力系統50のv相に接続され、他端が負荷56のS相に接続されている。配電線57wは、一端が電力系統50のw相に接続され、他端が負荷56のT相に接続されている。ここで、電力系統50は、発電機などの発電設備、交流送電系統などの送電設備、変圧器などの変電設備、交流配電系統などの配電設備及び負荷などの需要家設備などが含まれる電力の送配電ネットワークであり、指令所などに備えられた電力系統制御システム(
図1には不図示)によって制御されている。配電系統510及び負荷56はこのような電力系統50に接続されている。
【0040】
また、配電線57uは、端子53uを有し、端子53uに交流電圧出力システム1のR相アーム2Rが接続されている。配電線57vは、端子53vを有し、端子53vに交流電圧出力システム1のS相アーム2Sが接続されている。配電線57wは、端子53wを有し、端子53wに交流電圧出力システム1のT相アーム2Tが接続されている。このように交流電圧出力システム1は、配電系統510に接続されている。なお、負荷56は、例えば、工場などの需要家又は需要家の有する機械や製造装置などである。また、
図1中の52u、52v、52wと51u、51v、51wは、端子53u、53v、53wより電力系統50側の配電線57u、57v、57wのリアクタン成分及び抵抗成分を模式的に表したものであり、54u、54v、54wと55u、55v、55wは、端子53u、53v、53wより負荷56側の配電線57u、57v、57wのリアクタン成分及び抵抗成分を模式的に表したものである。
【0041】
配電系統安定化装置としての交流電圧出力システム1は、配電系統510の周波数を安定化させることができる。例えば、制御装置(
図1には不図示)が、配電系統510に設けられた周波数測定器(
図1には不図示)から三相一括又は各相の周波数の検出結果を受け取るなどし、配電系統510の周波数を監視する。通常の三相の電力系統は、三相発電機から電力供給を受けるので、各相の周波数は同じである。ここでは、個々の相に単相発電機のみが接続されることも物理的には可能であることを考慮して、各相の周波数が必ずしも同じではないというかなり非常識な想定もありうるという前提で説明する。各相の周波数が違うと、相順が入れ替わるなど別の深刻な問題が生じるが、周波数のみに注目して説明する。制御装置は、いずれかの相の周波数が高くなったことを検出したとき、周波数が高くなった相(配電線)から電力を吸収し、いずれかの相の周波数が低下したことを検出したとき、周波数が低下した相に電力を放出するように、R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tの単位変換器3を制御する。例えば、配電系統510のu相の周波数が高くなった場合、制御装置は、R相アーム2Rの単位変換器3の各スイッチを制御し、u相の電圧により電力貯蔵器15を充電するようにしてu相から電力を吸収し、u相の周波数を低下させる。また、配電系統510のu相の周波数が低下した場合、制御装置は、R相アーム2Rの単位変換器3の各スイッチを制御し、電力貯蔵器15がu相に放電するようにしてR相アーム2Rからu相に電力を放出し、u相の周波数を上昇させる。このように、交流電圧出力システム1を用いた配電系統安定化装置は、配電系統510の周波数を安定化できる。
【0042】
配電系統510の周波数は、落雷などによる系統事故時に電力需給バランスが崩れることにより変動し、極端な場合は、電力系統50の図示していない発電機が脱調してしまう。本来であれば、交流電圧出力システム1がそのような事態を防ぐのであるが、落雷などは、交流電圧出力システム1にもダメージを与えやすく、単位変換器3の各スイッチなどの駆動用電源を喪失してしまう場合もある。交流電圧出力システム1が本発明によるものであれば、駆動用電源を一部喪失した状態でも運転継続できるので、周波数変動や発電機脱調に対するロバスト性を向上できる。
【0043】
なお、ここでは、交流電圧出力システム1の制御装置が、交流電圧出力システム1が接続された配電系統510の各相の周波数に基づいて、配電系統510への出力を相毎に制御し、配電系統510の各相の周波数を安定させたことについて説明した。しかし、本発明はこれに限られず、配電系統510が接続された電力系統50を制御する上記の電力系統制御システムの系統制御装置(
図1には不図示)が、配電系統510の各相の周波数を安定化する制御を行ってもよい。この場合、系統制御装置は、配電系統510の各相の周波数に基づいて、配電系統510に接続された交流電圧出力システム1の出力を相毎に制御し、配電系統510の各相の周波数を安定化させる。周波数安定化の制御手法は、交流電圧出力システム1の制御装置の場合と同じなので説明は省略する。
【0044】
次いで、配電系統安定化装置としての交流電圧出力システム1を配電系統510の相間の電力調整装置として使用した時の効果について説明する。例えば、u相が負荷56の電力需要に対して電力不足で、w相が負荷56の電力需要に対して電力過剰であるように配電系統510のu相、v相、w相で必要な電力がアンバランスなとき、制御装置が、S相アーム2Sの各単位変換器3のスイッチを制御し、w相の電圧で単位変換器3の電力貯蔵器15を充電するようにして、w相から電力を吸収して電力過剰を解消する。そして、制御装置は、R相アーム2Rの各単位変換器3のスイッチを制御し、電力貯蔵器15がu相に放電するようにしてR相アーム2Rがu相に電力を放出して電力不足を解消する。このように、配電系統安定化装置は、電力不足のu相には電力を供給し、電力過剰のw相からは電力を吸収し、相間の電力のアンバランスを調整し、配電系統510を安定化できる。
【0045】
配電系統安定化装置は、配電系統510の配電線57u、57w、57v間の線間電圧をバランスすることもできる。例えば、制御装置(
図1には不図示)が配電系統510の各相の電圧を監視する。制御装置は、各相の電圧から線間電圧のアンバランスを検出したとき、交流電圧出力システム1が、電圧が高くなった相に高い電圧を出力し、電圧が低下した相に低い電圧を出力するように、R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tの単位変換器3を制御する。例えば、配電系統510のw相の電圧が高く、配電系統510のu相の電圧が低い場合、制御装置は、R相アーム2R、S相アーム2Sの各単位変換器3のスイッチを制御し、u相に高い電圧を出力し、w相に低い電圧を出力し、配電線57u及び配電線57w間の線間電圧をバランスする。このように、配電系統安定化装置は、配電系統510の配電線57u、57w、57v間の線間電圧をバランスし、配電系統510を安定化できる。
【0046】
なお、落雷の影響が配電系統510の相間で異なり、特定相のみ地絡などが生じて、負荷が脱落した時などにも相間電圧のアンバランスが生じる。また、該落雷の影響で、同時に、交流電圧出力システム1の該当相の駆動用電源も喪失してしまう場合もある。交流電圧出力システム1が本発明によるものであれば、駆動用電源を一部喪失した状態でも運転継続できるので、周波数変動や発電機脱調に対するロバスト性を向上できる。
【0047】
以上より、交流電圧出力システム1を用いた配電系統安定化装置は、各相の周波数を制御したり、相間で電力の過不足を調整したり、相間の電圧のアンバランスを解消したりでき、配電系統510を安定化できる。さらに、配電系統安定化装置は、交流電圧出力システム1を備えているので、交流電圧出力システム1の単位変換器3のスイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転でき、より信頼性が高い。なお、交流電圧出力システム1は、交流配電系統510に変えて、電力系統間を接続する交流送電系統に接続し、交流送電系統の安定化装置として適用することもできる。また、交流電圧出力システム1は、三相交流用であったが、1つのアームを除去して単相用とすることもできる。さらに、2つのアームを除去して残った1アームを連系点の単相端子間に接続することによっても単相用とすることができる。
【0048】
(2)作用及び効果
以上の構成において、交流電圧出力システム1は、所定電圧を出力する複数の単位変換器3が直列に接続されたアームを少なくとも1つ(R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2T)備え、単位変換器3が、第1スイッチ13Hと第2スイッチ13Lとが直列に接続された第1スイッチアーム13と、第3スイッチ14Hと第4スイッチ14Lとが直列に接続された第2スイッチアーム14と、充放電できる電力貯蔵器15とを備え、第1スイッチアーム13の第1スイッチ13H側端部と第2スイッチアーム14の第3スイッチ14H側端部とが接続され、第1スイッチアーム13の第2スイッチ13L側端部と第2スイッチアーム14の第4スイッチ14L側端部とが接続されて、第1スイッチアーム13、第2スイッチアーム14及び電力貯蔵器15が並列に接続された構成をし、第1スイッチ13H及び第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L又は第1スイッチ13H、第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14Lがノーマリーオン型のスイッチング素子で構成されているようにした。
【0049】
よって本発明の交流電圧出力システム1は、単位変換器3のスイッチの駆動用電源が喪失したとき、第1端子FTと第2端子STとの間が短絡され、当該単位変換器3が短絡された状態となるので、スイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転することができる。そのため、交流電圧出力システム1は、短絡スイッチを省略できる。
さらに、単位変換器3をバッテリのSOC(state of charge)やSOH(state of health)などを測定する制御手段と一緒に一つのケースに収納すると、変換器を内蔵したバッテリパックとして機能するのでバッテリが劣化した際の交換などをスムーズに行える。
また、単位変換器3の直流電圧が約30V以下のように低いときは、複数の単位変換器3を防爆機能低い一つのケースに内蔵してもよい。直流電圧が低いと、単位変換器3の第1スイッチ13Hと第2スイッチ13Lが誤ってオン状態となり、PN短絡となっても電圧が低いのでスイッチング素子が爆発するリスクは十分に低く、防爆機能の低い一つのケース内に内蔵できる。
また、各ケースに凹部と凸部を設け、一つのケースの凹部に他のケースの凸部を挿入できるようにすると、多数のバッテリパックを多段に接続するのが容易になる。特に、一つの単位変換器3と他の単位変換器3が該挿入により電気的に接続できるようにできるとなお好ましい。
【0050】
(3)変形例
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。上記の実施形態では、ノーマリーオン型のスイッチング素子であるHEMTを、第1スイッチ13H及び第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L又は第1スイッチ13H、第2スイッチ13L、第3スイッチ14H及び第4スイッチ14L(
図2参照)に用いることを説明した。実際には、HEMTのようなノーマリーオン型のスイッチング素子は、ノーマリーオフ化する回路を付加されて、ノーマリーオフ型のスイッチング素子として市販されていることが多い。
【0051】
このようなノーマリーオフ化されたノーマリーオン型のスイッチング素子(以下、説明の便宜上、N-OFFスイッチング素子ということとする)も、後述する回路を付加して駆動用電源が喪失したときにノーマリーオン化することで、ノーマリーオン型のスイッチング素子として上記の実施形態のスイッチ(第1スイッチ、第2スイッチ、第3スイッチ、第4スイッチ)に用いることができる。以下では、N-OFFスイッチング素子の回路の一例及びN-OFFスイッチング素子をノーマリーオン化する回路の一例について説明する。
【0052】
図4Aは、N-OFFスイッチング素子の一例を示す図である。
図4Aに示すN-OFFスイッチング素子30は、ノーマリーオン型のスイッチング素子29(例えば、HEMTであるGaN-FET)と、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31(例えば、Si-MOSFET)とがカスコード接続された構成をしている。
図4A中のSは、N-OFFスイッチング素子30のソース側端子であり、Dは、N-OFFスイッチング素子30のドレイン側端子である。ノーマリーオン型のスイッチング素子29がドレイン端子D側に配置され、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31がソース側に配置されている。ノーマリーオン型のスイッチング素子29のゲート29Gは、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31よりもソース側の配線に接続されている。ノーマリーオフ型のスイッチング素子31のゲート31Gは、N-OFFスイッチング素子30の制御回路(
図4Aには不図示)に接続されており、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31を駆動する駆動電圧が、制御回路からゲート31Gに印加されるようになされている。
【0053】
N-OFFスイッチング素子30では、制御回路からゲート31Gに正の駆動電圧が印加されている場合、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31はオン状態となり、ノーマリーオン型のスイッチング素子29はゲート29Gに印加された電圧が当該スイッチング素子29のソース電圧と等しくなるので、スイッチング素子29はオン状態となる。
【0054】
一方で、制御回路からゲート31Gに駆動電圧が印加されていない場合、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31はオフ状態となる。このとき、ノーマリーオン型のスイッチング素子29のゲート電圧は、ノーマリーオン型のスイッチング素子29のソース電圧より低いので、ノーマリーオン型のスイッチング素子29もオフ状態となる。その結果、N-OFFスイッチング素子30は、ソース端子Sとドレイン端子Dの間に電流が流れることができず、オフ状態となる。このように、N-OFFスイッチング素子30は、ノーマリーオン型のスイッチング素子29とノーマリーオフ型のスイッチング素子30をカスコード接続することで、ノーマリーオン型のスイッチング素子29をノーマリーオフ化している。
【0055】
ノーマリーオン型のスイッチング素子29をノーマリーオフ化したスイッチング素子であるN-OFFスイッチング素子30を、駆動用電源が喪失したときにノーマリーオン化する本発明の一手法について
図4Bを参照して説明する。ここで、説明の便宜上、N-OFFスイッチング素子30をノーマリーオン化したスイッチング素子をN-ONスイッチング素子ということとする。
【0056】
図4Bに示すように、N-ONスイッチング素子37は、直列に接続されたノーマリーオン型のスイッチング素子29及びノーマリーオフ型のスイッチング素子31(
図4Aに示したN-OFFスイッチング素子30に相当)と、抵抗32と、ツェナーダイオード33と、駆動電圧供給用スイッチング素子34とを備えている。抵抗32は、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31のゲート31Gとドレイン端子Dの間に挿入されている。ツェナーダイオード33は、ゲート31Gとソース端子Sの間に挿入され、アノードがソース端子S側に接続され、カソードがゲート31G側に接続されている。本実施形態では、接続点35で、ゲート31Gと抵抗32とツェナーダイオード33とが接続されている。なお、抵抗32及びツェナーダイオード33のスペックは、ノーマリーオフ型のスイッチング素子31の閾値電圧などに応じて適宜設定する。
【0057】
さらに、接続点35には、駆動電圧供給用スイッチング素子34のドレインが接続されている。駆動電圧供給用スイッチング素子34は、ソースにノーマリーオフ型のスイッチング素子31の駆動電圧を供給するN-ONスイッチング素子37の制御回路(
図4Bには図示せず)が接続されている。駆動電圧供給用スイッチング素子34は、電源喪失時に、制御回路と接続点35とを遮断するために設けている。駆動電圧供給用スイッチング素子34は、通常、ゲート34GがON状態である。駆動電圧供給用スイッチング素子34はN-ONスイッチング素子37の制御回路の電源回路に接続されている。駆動電圧供給用スイッチング素子34がON状態であれば、制御回路によって、ゲート34Gを駆動できる。
【0058】
一方で、N-ONスイッチング素子37の駆動用電源が喪失した場合は、駆動電圧供給用スイッチング素子34がオフ状態となり、接続点35が制御回路から遮断される。その結果、接続点35の電圧がツェナーダイオード33が許容する電圧まで上昇する。上昇した接続点35の電圧が、スイッチング素子31のゲート31Gに印加され、スイッチング素子31の駆動電圧より高いので、スイッチング素子31がオン状態となる。その結果、N-ONスイッチング素子37がオン状態となる。このように、N-ONスイッチング素子37は、駆動用電源が喪失し、駆動電圧が供給されなくなったときにオン状態となる。よって、N-ONスイッチング素子37をノーマリーオン型のスイッチング素子として、上記の実施形態の単位変換器3のスイッチに用いても、上記の実施形態と同様の効果を奏する。
【0059】
上記の実施形態では、
図2に示した単位変換器3の第2スイッチ13L及び第4スイッチ14Lに、ノーマリーオン型のスイッチング素子として、Si基板に形成されたGaN-FET(
図3A参照)を用いた場合について説明した。このとき、ノーマリーオン型のスイッチング素子としては、1枚のSi基板に第2スイッチ13L用のGaN-FETと第4スイッチ14L用のGaN-FETとを一体に形成したものであってもよいことも説明した。本発明はさらに、例えば、単位変換器3の制御回路をSi上に実装されたSi基板に第2スイッチ13L用のGaN-FETと第4スイッチ14L用のGaN-FETとを形成したものをノーマリーオン型のスイッチング素子として用いてもよい。Si基板上に実装する回路としては、他には、例えば、交流電圧出力システム1の各単位変換器3の制御回路を統括する制御装置に相当する回路、ゲートドライバに相当する回路などがある。なお、第1スイッチ13Hと第3スイッチ14Hとをノーマリーオン型のスイッチング素子とした場合は、回路が形成されたSi基板上に、第1スイッチ13H用のGaN-FETと第3スイッチ14H用のGaN-FETとを形成する。また、ノーマリーオン型のスイッチング素子を用いたスイッチ以外のスイッチに用いるノーマリーオフ型のスイッチング素子についても、回路形成したSi基板上に形成してもよい。単位変換器3の制御回路や交流電圧出力システム1の各単位変換器3の制御回路を統括する制御装置に相当する回路、ゲートドライバに相当する回路など、単位変換器3の各スイッチ(第1スイッチ13H、第2スイッチ13L、第3スイッチ14H及び第4スイッチ14L)の少なくとも1つを駆動する回路を構成するすべての素子や全てのスイッチをSi上に実装してもよく、その一部の素子のみSi上に実装するようにしてもよい。
【0060】
上記の実施形態では、
図1に示すように交流電圧出力システム1が、三相交流用として用いられた場合について説明したが、本発明はこれに限られず、交流電圧出力システムのアームを1つにして単相交流用として用いることもできる。
【0061】
また、上記の実施形態では、
図1に示したように、電力系統と負荷の間の配電系統の配電系統安定化装置として交流電圧出力システム1を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、
図5に示すように、交流電圧出力システム1を、電力系統50及び電力系統59間で並列に接続された配電系統510、610の潮流制御に用いることができる。
図5に示す例では、電力系統50と電力系統59とが、配電系統510と配電系統610とによって連系されている。配電系統610の両端が配電系統510に接続されて、配電系統510と配電系統610とが並列に接続されている。交流電圧出力システム1は、配電系統510の各相の端子53u、53v、53wに接続されている。なお、配電系統510及び配電系統610には、それぞれ負荷(
図5には不図示)が接続されている。
【0062】
このような場合も、配電系統安定化装置は、
図1に示した配電系統安定化装置と同様に、各相の周波数を制御したり、相間で電力の過不足を調整したり、相間の電圧のアンバランスを解消したりできる。さらに、配電系統安定化装置は、電力系統50と電力系統59との間の潮流が配電系統510及び配電系統610でアンバランスであることを解消できる。例えば、配電系統510の潮流が過剰なときは、配電系統510の電圧により、R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tの単位変換器3の電力貯蔵器15を充電し配電系統510の電力を吸収することで、潮流を減少させる。
【0063】
一方で、配電系統510の潮流が不足なとき(
図5に不図示の負荷に必要な電力を供給できていないとき)は、R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tの単位変換器3の電力貯蔵器15を放電して配電系統510に電力を供給することにより、潮流を増加させる。また、出力電圧(連系点の電圧)を高くすることでも、潮流を増加できる。
【0064】
このように、配電系統510との間で電力を授受する交流電圧出力システム1は、配電系統の潮流の過不足を解消できる。さらに、交流電圧出力システム1を用いた配電系統安定化装置は、交流電圧出力システム1の単位変換器3のスイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転でき、より信頼性が高い。なお、交流電圧出力システム1は、配電系統510のかわりに配電系統610に接続されていてもよい。複数の交流電圧出力システム1を用意し、配電系統510及び配電系統610の両方にそれぞれ交流電圧出力システム1を接続するようにしてもよい。
【0065】
ここでは、並列に接続された複数の配電系統510、610の一方(配電系統510)に接続された交流電圧出力システム1の制御装置が、配電系統510及び配電系統610の潮流を制御する場合について説明したが、本発明はこれに限られない。配電系統510が接続された電力系統50、電力系統59又は両方を制御する電力系統制御システムの系統制御装置が、複数の配電系統510に接続された交流電圧出力システム1の出力を制御し、配電系統510及び配電系統610潮流を制御するようにしてもよい。潮流の制御手法は、交流電圧出力システム1の制御装置が潮流を制御する場合と同じであるので、説明を省略する。交流電圧出力システム1は、配電系統510に変えて、電力系統間を接続する交流送電系統に接続し、交流送電系統の安定化装置として適用することもできる。
【0066】
(4)交流電圧出力システムの他の用途
本発明の交流電圧出力システム1は、各単位変換器3が充放電可能な電力貯蔵器15を有しており、電力を貯蔵し、所定のタイミングで貯蔵した電力を交流電圧として出力することができるので、配電系統安定化装置以外に、例えば、UPS(無停電電源装置)及び電気自動車のバッテリなど各種バッテリシステムや直流送電用の変換器などに用いることができる。
【0067】
交流電圧出力システム1は、UPSとしても用いることができる。例えば、
図1に示すように、交流電圧出力システム1は、商用交流電源に接続され、商用交流電源から電力を受け取る受電部と、受電部が受け取った電力を蓄電する蓄電部と、蓄電部に蓄えられた電力を電気機器や電子機器に供給する給電部とを備えている。交流電圧出力システムは、当該蓄電部として用いられUPSとして機能する。該UPSとして機能する交流電圧出力システム1は、商用交流電源からの電力により交流電圧出力システムの各単位変換器の電力貯蔵器を充電しておき、商用交流電源が遮断されたとき、交流電圧出力が交流電圧を出力し、給電部を介して電気機器や電子機器に交流電圧を供給する。UPSは、本発明の交流電圧出力システムを備えているので、交流電圧出力システムの単位変換器3のスイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転でき、より信頼性が高い。
【0068】
電気自動車のバッテリに用いる場合、交流電圧出力システム1は、
図1に示す電力系統50に変えて三相交流用モーターの各相に接続される。また、各単位変換器3の電力貯蔵器15は、大容量の二次電池を用いるのが好ましい。また、電気自動車の外部から電力貯蔵器15を充電するための端子が、交流電圧出力システム1の各アームに接続されている。交流電圧出力システム1を備えるバッテリは、外部からの電力供給により電力貯蔵器15が充電されて交流電圧出力システム1に蓄えられた電力を、交流電圧出力システム1が交流電圧に変換して三相交流用モーターの各相に供給して、モーターを回転させる。このとき、モーターで回生された電圧によって、交流電圧出力システム1の電力貯蔵器15を充電することもできる。従来の電気自動車のバッテリは、リチウムイオン電池などの二次電池なので、二次電池が出力する直流電圧を交流電圧に変換するインバータが必要であった。一方で、電気自動車のバッテリにとして交流電圧出力システム1を用いることで、バッテリとインバータとを交流電圧出力システム1に置き換え、これらの構成を省略できる。さらに電気自動車のバッテリは、交流電圧出力システム1を備えているので、本発明の交流電圧出力システム1の単位変換器3のスイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転でき、より信頼性が高い。なお、交流電圧出力システム1は、電気自動車以外の自動車のバッテリにも適用できる。
【0069】
図1に示した交流電圧出力システム1は、R相アーム2R、S相アーム2S、T相アーム2Tの一端がスター結線され、他端がリアクトル150R、150S、150Tを介して配電系統の各相に接続された形式であったが、交流電圧出力システムの態様を種々変更できる。例えば、
図6に示す交流電圧出力システム110のように、2つのアーム112Rが直列に接続されたレグ110R(R相レグともいう)、2つのアーム112Sが直列に接続されたレグ110S(S相レグともいう)及び2つのアーム112Tが直列に接続されたレグ110T(T相レグともいう)が、一端部同士及び他端部同士がそれぞれ接続されて、並列に接続されている交流電圧出力システム110であってもよい。
【0070】
図6に示す交流電圧出力システム110の各アーム112R、112S、112T(R相アーム、S相アーム、T相アームともいう)は、3つの単位変換器3とリアクトル103が、リアクトル103が端部に来るように直列に接続されている。
図6に示す例では、各アーム112R、112S、112Tの構成は同じである。各レグ110R、110S、110Tは、各アーム112R、112S、112Tのリアクトル103同士が接続されて直列に接続されている。各レグ110R、110S、110Tは、両端に直流電力を授受するための直流端子P1、N1をそれぞれ備え、アーム同士の接続点に交流電力を授受するための交流端子113R、113S、113Tをそれぞれ備えている。交流電圧出力システム110では、各レグ110R、110S、110Tが、端部同士が接続されているので、1つの直流端子P1、N1を共有している。
【0071】
交流端子113R、113S、113Tは、それぞれ、電力系統50のu相、v相、w相に接続されている。そのため、交流電圧出力システム110は、各レグ110R、110S、110Tが直流端子P1及び直流端子N1でスター結線された構成となっている。各アーム112R、112S、112Tの単位変換器3は、
図2に示す単位変換器3であり、フルブリッジ回路構成をしている。
【0072】
交流電圧出力システム110は、各レグ110R、110S、110Tの直流端子P1と直流端子N1との間に、例えば原動機や太陽光発電装置、風力発電装置など有効電力源105を接続することで、例えば、原動機で発電された直流電力を単位変換器3の数に応じた多段階の交流電力に変換し、電力系統50の各相に出力する発電システムに利用できる。また、交流電圧出力システム110は、直流端子P1と直流端子N1に直流送電線を接続することで、直流送電線から入力された直流電力を多段の交流電力に変換して電力系統50の各相に出力する直流送電システムに利用できる。この直流送電システムは、逆に、交流電圧出力システム110は、電力系統50から入力された交流電力を直流電力に変換し、直流送電線に出力して直流送電することもできる。公知情報であるが、単位変換器3がフルブリッジ構成の場合、落雷などによる直流短絡事故時に直流出力電圧を低下させて、短絡電流を抑制することができるメリットがある。
【0073】
このような交流電圧出力システム110は、所定電圧を出力する複数の単位変換器3が直列に接続されたアームを少なくとも1つ(アーム112R、112S、112T)備え、単位変換器3が、第1スイッチ13Hと第2スイッチ13Lとが直列に接続された第1スイッチアーム13と、第3スイッチ14Hと第4スイッチ14Lとが直列に接続された第2スイッチアーム14と、充放電できる電力貯蔵器15とを備え、第1スイッチアーム13の第1スイッチ13H側端部と第2スイッチアーム14の第3スイッチ14H側端部とが接続され、第1スイッチアーム13の第2スイッチ13L側端部と第2スイッチアーム14の第4スイッチ14L側端部とが接続されて、第1スイッチアーム13、第2スイッチアーム14及び電力貯蔵器15が並列に接続された構成をし、第1スイッチ13H及び第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14L又は第1スイッチ13H、第3スイッチ14H、第2スイッチ13L及び第4スイッチ14Lがノーマリーオン型のスイッチング素子で構成されている。
【0074】
交流電圧出力システム110の効果について説明する。例えば、落雷など発生した時に、交流電圧出力システム110は、単位変換器3のスイッチの駆動用電源が喪失する可能性がある。しかし、交流電圧出力システム110は、単位変換器3のスイッチの駆動用電源が喪失したとき、当該単位変換器3が短絡された状態となるので、スイッチの駆動用電源が喪失したときも継続運転することができる。そのため、交流電圧出力システム110は、短絡スイッチを省略できる。
【0075】
図6に示した交流電圧出力システム110は、三相交流用であるが、レグを2つ除去することにより、単相用として用いることができる。また、各アーム112R、112S、112Tが有する単位変換器3の数は限定されない。この例では、交流電圧出力システム110は、電力系統50に接続されているが、電力系統に接続された交流配電系統や直流配電系統に接続されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 交流電圧出力システム
2R R相アーム
2S S相アーム
2T T相アーム
3 単位変換器
13 第1スイッチアーム
13H 第1スイッチ
13L 第2スイッチ
14 第2スイッチアーム
14H 第3スイッチ
14L 第4スイッチ
15 電力貯蔵器
20 GaN-FET