(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】塩型水素化物により開始される水素介在型アニオン性連鎖移動重合用のプロセス及び触媒
(51)【国際特許分類】
C08F 2/06 20060101AFI20230621BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20230621BHJP
C08F 4/46 20060101ALI20230621BHJP
C08F 112/08 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C08F2/06
C08F2/38
C08F4/46
C08F112/08
(21)【出願番号】P 2018555175
(86)(22)【出願日】2017-04-06
(86)【国際出願番号】 US2017026340
(87)【国際公開番号】W WO2017184350
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-02-26
(32)【優先日】2016-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594066006
【氏名又は名称】アルベマール コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイマン,ジュニア,ウイリアム・ジェイ
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522922(JP,A)
【文献】特表2010-529264(JP,A)
【文献】特表2005-534776(JP,A)
【文献】特表2019-513862(JP,A)
【文献】特開2007-297617(JP,A)
【文献】特表2005-513172(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175797(US,A1)
【文献】Yinheng Fan et al.,Chemical reactivity and thermal stability of nanometric alkali metal hydrides,Journal of Nanoparticle Research,米国,2006年,vol.8,p.935-942
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、4/00-4/58、
4/72-4/82、112/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性連鎖移動重合プロセスであって、水素分子を含む雰囲気下、不活性エーテル性溶媒及びアルカリ金属またはアルカリ金属合金を含む反応混合物を含有する反応容器に、共役ジエン単量体を伴うまたは伴わないビニル芳香族単量体を供給することを含み、かつ、
前記プロセスが20℃~100℃の範囲内の温度で実施され、
前記
水素分圧が1.0Bar~20Barの圧に維持され、ここで、前記水素分子は、式:MH
*(Mは
1以上のアルカリ金属またはアルカリ金属合金を表す)で示される
塩型水素化物金属のための塩型水素化物の活性型を形成している、
ことを特徴とする前記プロセス。
【請求項2】
前記ビニル芳香族単量体は、スチレン単量体である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記反応混合物は、さらに、電子移動連行剤を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記エーテル性溶媒及びアルカリ金属またはアルカリ金属合金は、前記反応容器に最初に投入されて、高剪断混合を用いて撹拌されて、前記最初に投入されたアルカリ金属またはアルカリ金属合金の分散体を形成する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アルカリ金属合金は、ナトリウム及びカリウムからなる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ビニル芳香族単量体はスチレンであり、前記エーテル性溶媒はテトラヒドロフランであり、及び前記
アルカリ金属合金はNaK
2である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ビニル芳香族単量体はスチレンであり、前記エーテル性溶媒はテトラヒドロフランであり、前記
アルカリ金属合金はNaK
2であり、及び前記水素分圧は、2.5Bar~10Barの圧に維持される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
アニオン性連鎖移動重合プロセスであって、水素分子を含む雰囲気下、反応容器中の反応混合物に、共役ジエン単量体を伴うまたは伴わないビニル芳香族単量体を供給することを含み、前記反応混合物は、以下(a)有機リチウム化合物;(b)ポリ第三級アミン化合物;(c)アルコキシドであって、アルカリ金属アルコキシド、またはマグネシウムアルコキシドである、前記アルコキシド;(d)任意選択の芳香族炭化水素、芳香族炭化水素はトルエンのpK
aより2.75pK
a単位高いpK
a~トルエンのpK
aより-4.30pK
a単位低いpK
aの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pK
aを有する;及び(e)H
2より高いpK
aを有する炭化水素溶媒、から形成されたものであり、かつ、
前記プロセスは20℃~100℃の範囲内の温度で実施され、
前記水素分子の分圧は1.0Bar~20Barの圧に維持され、ここで、前記水素分子は、式:MH
*(Mは
1以上のアルカリ金属またはアルカリ金属合金を表す)で示される
塩型水素化物金属のための塩型水素化物の活性型を形成している、
ことを特徴とする前記プロセス。
【請求項9】
前記プロセスは、トルエンのpK
aより2.75pK
a単位高いpK
a~トルエンのpK
aより-4.30pK
a単位低いpK
aの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pK
aを有する芳香族炭化水素を含み、かつ前記芳香族炭化水素及び炭化水素溶媒は、同じであるかたまたは異なっている場合がある、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記アルコキシドは、カリウムアルコキシドまたはナトリウムアルコキシドである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ビニル芳香族単量体は、スチレン単量体である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項12】
前記有機リチウム化合物は、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、イソブチルリチウム、フェニルリチウム、1-ヘキシル-1-フェニルリチウム、シクロヘキシルリチウム、またはポリ(スチリル)リチウムである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項13】
前記ポリ第三級アミンは、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項14】
前記アルコキシドは、t-ブチルアルコール[(CH
3)
3COH]、t-ペンチルアルコール[C
2H
5(CH
3)
2COH]、または3-メチル-t-ペンチルアルコール[CH
3(C
2H
5)
2COH]に由来するアルコキシドである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項15】
前記芳香族炭化水素は、ベンゼン、トルエン、メシチレン、o-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,3-ジアリールプロパン、またはスチレン二量体である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項16】
前記水素分圧は、1.0Bar~19.0Barに維持される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項17】
前記
反応容器に投入される前記アルコキシド対有機リチウム化合物のモル比は、0.25:1~10:1の範囲にあり;
前記ビニル芳香族はスチレンであり、スチレン体対有機リチウム化合物のモル比は、10:1~1000:1であり、及び前記ポリ第三級アミン対有機リチウム化合物のモル比は、1.5:1~20:1の範囲にあり、ならびに有機リチウムに対する
スチレンの時間供給率は、有機リチウム1モルあたり1時間あたり単量体10~200モルの範囲にある、請求項8に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ビニル芳香族単量体は、スチレンであり、前記有機リチウム化合物は、ブチルリチウムであり、前記ポリ第三級アミンは、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)であり、及び前記炭化水素は、エチルベンゼンである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項19】
請求項2に記載のプロセスによって製造され、かつ、単量体としてスチレン及び水素分子のみから形成されるポリスチレン重合体組成物であって、GPC分子量分布が、M
nは315~905ダルトンの範囲にあり;M
wは392~1716ダルトンの範囲にあり;かつ、M
zは512~3031ダルトンの範囲にあり;PD
nは1.24~1.90の範囲にあり;標準偏差は156~857ダルトンの範囲にあり、かつ、非対称度は1.40~3.14の範囲にあることを特徴とする、前記ポリスチレン重合体組成物。
【請求項20】
前記GPC分子量分布は、以下、M
nが410~680ダルトンの範囲にあり;M
wが553~1205ダルトンの範囲にあり;かつ、M
zが745~1950ダルトンの範囲にあり;PD
nが1.29~1.82の範囲にあり;標準偏差が257~600ダルトンの範囲にあり、かつ、非対称度が1.50~2.60の範囲にあることを特徴とする、請求項19に記載のポリスチレン重合体組成物。
【請求項21】
前記GPC分子量分布は、M
nが444~683ダルトンの範囲にあり;M
wが600~1150ダルトンの範囲にあり;かつ、M
zが798~1768ダルトンの範囲にあり;PD
nが1.35~1.68の範囲にあり;標準偏差が263~565ダルトンの範囲にあり、かつ、非対称度が1.50~2.31の範囲にあることを特徴とする、請求項19に記載のポリスチレン重合体組成物。
【請求項22】
炭化水素溶解性触媒組成物であって、(a)水素分子;(b)有機リチウム化合物;(c)ポリ第三級アミン化合物;(d)アルコキシドであって、アルカリ金属アルコキシド、またはマグネシウムアルコキシドである、前記アルコキシド;(e)トルエンのpK
aより2.75pK
a単位高いpK
a~トルエンのpK
aより-4.30pK
a単位低いpK
aの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pK
aを有する、芳香族炭化水素;及び(f)炭化水素溶媒;から形成され、前記芳香族炭化水素及び炭化水素溶媒は、同じであるかたまたは異なっている場合があ
る、
ことを特徴とする前記炭化水素溶解性触媒組成物。
【請求項23】
前記アルコキシドは、カリウムアルコキシド及び/またはナトリウムアルコキシドである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記有機リチウム化合物は、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、イソブチルリチウム、フェニルリチウム、1-ヘキシル-1-フェニルリチウム、シクロヘキシルリチウム、またはポリ(スチリル)リチウムである、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
前記第三級アミンは、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である、請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
前記アルコキシドは、t-ブチルアルコール[(CH
3)
3COH]、t-ペンチルアルコール[C
2H
5(CH
3)
2COH]、または3-メチル-t-ペンチルアルコール[CH
3(C
2H
5)
2COH]に由来するアルコキシドである、請求項22に記載の組成物。
【請求項27】
前記芳香族炭化水素は、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,3-ジアリールプロパン、またはスチレン二量体である、請求項22に記載の組成物。
【請求項28】
前記アルコキシド対有機リチウム化合物のモル比は、0.25:1~10:1の範囲にあり;及び前記ポリ第三級アミン対有機リチウム化合物のモル比は、1.5:1~20:1の範囲にあり、及び前記水素分圧は、1.0Bar~19Barの圧に維持される、請求項22に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規重合条件を介して、塩型水素化物により開始される水素介在型のアニオン性ポリスチレン分布集合を形成するプロセスに関し、本プロセスでは、水素分子が連鎖移動剤であり、高活性塩型水素化物(HASH)または超活性塩型水素化物(SASH)が、アニオン重合可能な炭化水素単量体に付加することにより、これらの塩型水素化物がアニオン性重合鎖開始種を形成し;これらは全て、高効率触媒サイクルに対して非常に効率的に機能し、鎖長の動力学的分布は、水素によってもたらされるか、そうでなければ単量体に対する水素の相対供給率により決定される。本発明はまた、本発明の塩型水素化物により開始される水素介在型重合を行う上で有用な、新規炭化水素溶解性超活性塩型水素化物触媒及び試薬組成物に関する。本発明はまた、単量体としてスチレン及び水素分子のみから形成された新規低分子量ポリスチレン重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子量(M
w<<4000ダルトン)のポリスチレン組成物は、重合体スリップ試薬(EPO 741147を参照)などの最終用途、またはさらに合成誘導化するための基質前駆体としての両方における様々な応用で有用である。そのような合成誘導化は、一般に、芳香族求電子置換反応を通じて行われてきた(US 8217120B2 ‘‘Functionalized styrene oligomers and polymers’’を参照)。ポリスチレンのアニオン性連鎖移動重合は、低分子量ポリスチレン組成物を形成する場合に、連鎖移動開始剤及び触媒の形成に使用される有機リチウム試薬及び他のアルカリ土類金属試薬の量を実質的に減少させて使用するため、アニオン性連鎖移動触媒の費用効果の高い効率的使用になるため経済利益をもたらす。したがって、メチルベンゼン化合物(トルエン)、ポリメチルベンゼン化合物(キシレン、メシチレン、ジュレンなど)は、さらなる合成加工に適した低分子量ポリスチレン組成物を形成するための優れた連鎖移動剤である。そうしたメチルベンゼン連鎖移動剤の有効性は、部分的には、そうした組成物のpK
aが、ポリ(スチリル)アニオンの共役酸のpK
aよりも少なくとも1桁低いことによるものである。他のアルキル置換ベンゼン、特にエチルベンゼンは、カリウムT-ブトキシド、ブチルリチウム、及びTMEDAから形成された触媒を用いるアニオン性連鎖移動スチレン分布集合の形成に適した有機連鎖移動剤であることが報告されており(EPO 741147)、または少なくとも示唆されている。アニオン性連鎖移動分布集合の形成方法に関わらず、そうした有機連鎖移動剤を含まずに、または本質的に含まずに、低分子量ポリスチレン組成物を形成することが望ましい。
【表1】
【0003】
EP 0 741 147 A1の実験の詳細から、上記の表Iに示すとおり、EP 0 741 147実施例2~7の比較から、実施例4のみが、限られた幅(標準偏差)及び小さい多分散度でアニオン性連鎖移動スチレン反応重合体分布集合(ACTSR分布集合)を生成したことがわかる。報告によれば、相対供給率または投入量、あるいはその両方を同時に多少変更するだけで、非常に大きな標準偏差を有し、かつ大幅に、実施例によっては天文学的に上昇した多分散度を有するACTSR分布集合がもたらされた。すなわち、そうした実験詳細から、幅の狭い、すなわち、標準偏差σnの小さい分布集合を製造するには、非常に狭く限られたプロセス間口しか提供されていないことがわかる。この先行技術の研究から、このプロセス技術が、炭化水素反応媒体に対する溶解性が低いまたは限られた触媒組成物の望ましくない形成に見舞われていることが明らかである。このプロセスはまた、リビング重合鎖とデッド重合鎖を平衡させる目的で、長時間の供給(6~18時間)にわたり行われる非常に遅い供給率に依存する。連鎖移動剤としてのエチルベンゼンに伴う本質的な問題は、エチルベンゼンのpKaが、ポリ(スチリル)アニオンの共役酸のものと同じ桁の大きさであることである。試薬をより経済的に使用するとともにより短時間で、すなわち重合反応器生産性をより高めて、より低分子量のポリスチレン分布集合をもたらすことが可能な、新規触媒及びアニオン性連鎖移動重合条件があることが望ましい。
【0004】
水素雰囲気下でのスチレン重合は、スチレンのチーグラー・ナッタ重合として知られている(Murahashi, S.; Nozakura, S.; and Utsuhara Y. ‘‘Polymerization of Styrene with
the Ziegler-Natta Catalysts in the Presence of Molecular Hydrogen.’’ Bulletin of the Chemical Society of Japan 1960 33 431)。さらに、水素雰囲気下でのスチレンのメタロセン重合に関して少なくとも1件の報告が存在する(参照文献14:Tomotsu, N., Kuramoto, M., Takeuchi, M., & Maezawa, H. (1996). Metallocenes 1996, 96, 211.(i) Chien, JCW.; Tomotsu, N.らの文献中 ‘‘Syndiospecific Polymerization of Styrene.’’ Journal of Molecular Catalysis A: Chemical 1998 128.1 167.)。両方の重合化学反応において、スチレンの水素化生成物、すなわちエチルベンゼンの形成が言及されている。すなわち、Utsuhara及び共同研究者らは、水素の存在下で低分子量のイソタクチックポリスチレンを得ることが可能であるが、これだけでなく、重合反応と競合する別の反応、すなわちスチレンからエチルベンゼンへの水素化も見られたことを報告した。水素を仲介させるスチレン重合の両方のアプローチ、すなわちチーグラー・ナッタ及びメタロセン触媒、において、エチルベンゼンは動力学的に不活性であり、回収不能な収率損失となる。
【0005】
Deffieux及び共同研究者らは、ポリ(スチリル)リチウム分布集合の水素化分解(50℃、1atmのH2)が、100℃でスチレンのアニオン重合を再開させることができる水素化リチウムのin situ形成を招くことを報告している(Menoret, S., Deffieux, A., & Desbois, P. ‘‘Initiation of retarded styrene anionic polymerization using complexes of lithium hydride with organometallic compounds.’’ Macromolecules, (2003) 36, 5988)。Deffieuxは、さらに以下のように報告している:「しかしながら、鎖成長に関してスチレンにLiHをゆっくりと加えると、不完全な開始がもたらされる」。Deffieuxは、追加の有機金属試薬(n、sec-Bu2Mg、またはBuMgOBT、またはi-Bu3Al)を添加することで、LiHの溶解性及び再開始効率は改善されるが、触媒効率は50%~150%にすぎないことを報告している。そのうえさらに、形成される二元金属錯体は、停止速度を低下させ、活性すなわちリビングポリ(スチリル)リチウム種の半減期は、シクロヘキサン中50℃及び1.1atmのH2で、錯形成していないポリ(スチリル)リチウムの場合の40分から二元金属錯形成ポリ(スチリル)リチウムの場合の34時間へと大幅に増加する。実際、Deffieuxらは、リビングポリ(スチリル)リチウム種の半減期を50分に修復するためには50atmのH2が必要であることを報告している。Deffieux及び共同研究者らは、溶解性水素化リチウムが、スチレン重合の開始剤となる可能性があることを教示している:
「水素化リチウムは、それが溶解している限り、非極性溶媒中であっても、少なくとも100℃でスチレンのアニオン重合の開始剤となる可能性がある。この開始剤の効率は、有機金属誘導体との錯形成により改善され、錯形成により、最初にその溶解が確実になり、次いでスチレン鎖成長速度を低下させる。n、sec-Bu2Mgを添加剤として使用する場合、Li-H結合は、実際の開始部位ではなく、重合は、2つの金属原子間でリガンド交換した後に進行する。」
「高温では、H2は、スチレンのアニオン重合における連鎖移動剤として作用する。しかしながら、効率的であるためには、平衡を水素化金属の形成側に移動させるために、媒体中のその濃度は高くなければならない。このためには、高い水素作用圧力が必要である。」
しかしながら、Deffieux及び共同研究者らは、LiHを溶解させるために、LiHと、ジアルキルマグネシウム試薬、水素化アルミニウムアルキル、及び/または水素化
アルキルアルミニウムなどのルイス酸との錯形成を必要とする。そのように形成された錯形成LiH試薬は、いったんスチレン重合に使用されると、効率的に還元されない。すなわち、そうしたルイス酸錯形成ポリ(スチリル)リチウム鎖は、効率的に還元されることもなく、それらの還元が高活性または超活性型のLIH開始剤を効率的に再生させることもない。
【0006】
ルイス酸と錯形成しない高溶解性の1族金属水素化物は、2種類だけ知られていることが文献に記載されている(以下を参照:STASCH, A. and Fohlmeister, L. Aust. J. Chem. 2015, 68, 1190-1201.;及びLiptrot, D. J., Springer Thesis: Group 2 Mediated Dehydrocoupling, Chapter 2. Group 1-Group 2 Bimetallic Alkyls and Hydrides, Springer International Publishing, 2016, Pp.41-61)。その2種とは以下のものである:(1)ブチルリチウムリチウムt-ブトキシドの混合物の光分解を介して生成する「超凝集体」[(t-BuOLi)16(LiH)17](Thomas, D. et. al.,
J. Am. Chem Soc. 1997, 119, 11998;及びThomas, D. et. al., Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 1537);及び(2)フェニルシランを反応性金属前駆体に施すことにより調製される、Stash炭化水素溶解性LiH錯体、[(DipNPPh2)4Li8H4](DiP、2,6-iPr2C6H3)(Stasch, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 1930)。しかしながら、この炭化水素溶解性LiH試薬は、非常に活性な分子種であるジフェニルアセチレンまたは1,1-ジフェニルエチレンをヒドロリチウム化するのにも、反応性が不十分である。すなわち、当業者ならお分かりだろうが、[(DipNPPh2)4Li8H4]は、スチレンまたは他のビニル芳香族単量体をヒドロリチウム化するとは思われず、したがって、そうした単量体の重合を開始させるとは思われない。Stashはまた、LiH/Li(pz)(pz=3,5-ジ-tert-ブチル-1H-ピラゾール)の「最初の透明溶液」が形成され、これが、次いで、乳濁するのは、コロイドLiHの形成によるらしいと思われることを報告している。そうした「最初の透明溶液」は、芳香族または脂肪族溶媒中、3,5-ジ-tert-ブチル-1H-ピラゾール(pzH)を1当量超のn-ブチルリチウムで処理し、続いてフェニルまたはジフェニルシランを加えて、過剰なアルキルリチウム基を水素化物に変換することにより、調製される。Stashは、LiH/Li(pz)方法と同じ合成戦略により、再び立体的に嵩高いピラゾレートリガンド(pz)を使用して、芳香族溶媒中、[Na(pz)]、[Na(n-Bu)]、及びジフェニルシランの反応により、最初のNaH錯体[(pz)6Na7H]を調製した。KH水素化物類似体を形成させるために、[(pz)6Na7H]を生成させるのに使用したのと同じ合成戦略を応用した結果、結晶性重合[K(pz)]のみが形成された。すなわち、水素分子H2から直接形成される、安定な、脂肪族及び/または脂環式及び/または芳香族炭化水素溶解性の、一元金属、二元金属、または多元金属アルカリ(1族)金属水素化物は、これまでのところ知られていない。
【0007】
彼らの報告(Stasch, A. and Fohlmeister, L. Aust. J. Chem. 2015, 68, 1190-1201)では、以下のとおり教示されている:
「純粋に1族金属からなる明確に定義された水素化物錯体は、非常に稀であり、実際、これまでのところ、リチウム及びナトリウムについてしか知られていない・・・アルカリ金属及びヒドリド水素中心を含む化合物で単離されたもののほとんどは、混合原子系であり、最良の表現をしたとしても「ate」型錯体であり、この錯体でヒドリドリガンドが最も強く相互作用するのは、非アルカリ金属中心または半金属とである・・・このことは
、これら「ate」錯体の大部分を共役型ヒドリド錯体にしている。この化合物クラスにおいて最も目立つ例は、おそらくLiAlH4、NaBH4、及び他の関連する市販誘導体、例えば、L-selectride(登録商標)、N-selectride(登録商標)、及びK-selectride(登録商標)(リチウム、ナトリウム、カリウムtri-sec-ブチル(ヒドリド)ボラート)など、または立体的に嵩高いリガンドを持つ誘導体である。(強調は著者による)
【0008】
共役型水素化物とは対照的に、塩型、すなわちイオン型水素化物は、負の電荷を帯びたイオンとして存在する水素、H ̄とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との組み合わせにより定義される。重合に併せてスチレンに他の塩型水素化物を添加することに関して、Deffieux及び共同研究者らは、以下の背景を提供している(同著):
「我々の知る限りでは、水素化金属により開始される、ビニル単量体のアニオン重合を扱った論文はごくわずかである。Williamsは、ヘキサン中、25℃で、NaHにより開始されるスチレン重合の実験を1例、簡単に記載していた。しかしながら、開始効率は非常に低く、変換率は、3日後で90%にしか到達しなかった。」
【0009】
Liao及び共同研究者らは、ナノメートル規模(約20nm)の粒子系分布を有する形状の高活性アルカリ金属水素化物を報告した(Liao, S.; et.al. Journal of Molecular Catalysis, 1993, 84,
211)。この論文では、Liaoは、THF中(40℃)、TiCl4及びナフタレンの触媒作用により、該当するアルカリ金属及び水素(1atm)から高活性塩型水素化物(HASH)が形成することを報告している。塩型水素化物への完全な変換は、LiH*の場合2時間、NaH*の場合4時間、及びKH*の場合28時間かかった(*は、高活性または超活性水素化物を示す)。これらのナノメートル規模の塩型水素化物は、ある種のハロゲン化アリールの脱塩素化及び脱臭素化に何かしらの有用性があることがわかった。それらは、ある種の遷移金属錯体に使用された場合に、1-ヘキセンなどのオレフィンの水素化用の共触媒として活性であることも報告された。0.003~45.3s-1の範囲の遷移周波数が報告された。すなわち、高活性アルカリ金属水素化物(50~300mol)は、遷移金属触媒(1mol)と併用した場合に、オレフィンを還元するのみであり、オレフィンの重合どころか二量体化さえも開示されていない。
【0010】
ナノメートルサイズのアルカリ金属水素化物の他の応用は、その後、Liao及び共同研究者により報告された(Liao, S.;et.al. Synth. Comm.
1997, 27 3977。)そのような応用として、ベンズアルデヒド、安息香酸メチル、アクロレイン、ならびにアクリル酸のメチル及びN-ブチルエステルの、カルボニル炭素からアルデヒド及び/またはアルコールへの還元が挙げられる。反応は、還流THF中で、化学量論的に過剰な高活性塩型水素化物、NaH*またはKaH*いずれか、を用いて、反応時間0.25~15時間で行われた。特に興味深いのは、NaH*を用いたアクロレイン(0.3時間)及びアクリル酸メチル(0.25時間)の還元であり、それぞれ、収率97%及び96%でアリルアルコールを生成した。別の論文では、Liao及び共同研究者らは、熱処理したナノメートル規模のLiH、NaH、及びKHがCp2TiCl2と錯形成したもの、Cp2TiCl2-MH(M=Li、Na、またはK)は、スチレン(M=LiまたはNa)またはオクテン(M=K)いずれかを水素化する触媒として使用可能であることを報告している。ナノメートル規模のKHとCp2TiCl2の錯体は、1気圧のH2下で、スチレンを水素化せず、そのかわり重合を開始させて、広範囲の融点T=160~180℃を有する非常に高分子量(MW)のポリスチレン(MW=200,000)を形成させた。ナノメートル規模のKHが、単独で、スチレンを重合させたこともさらにわかった。当業者には当然だろうが、そのような高MWアニオン性ポリスチレン(APS)組成物は、重合が非効率的に開始され、したがってごくわずかなリビング重合鎖しか形成されず、それらが、残存する不溶性ナノメートルKHを消費して、迅速に
スチレン単量体を組み込むことの結果である。
【0011】
Zhang及び共同研究者らは、水素雰囲気下、トルエン(9ml)中、-17℃~42℃で、スチレン(2ml)を水素化する高活性触媒を報告している(Zhang, M.;et.al. Catal Lett 2008, 124, 146.)。高活性触媒は、ナノメートルサイズの水素化ナトリウム(20mg、8.7×10-4)及び12種の異なるルイス塩基を含まないチタノセン錯体(4×10-4mol/Lを0.5mL、すなわち2×10-7mol)から形成された(NaH*/Ti=4350)。水素の取り込みは、チタノセン錯体が配位酸素(エーテル)または窒素(第三級アミン)種を含んでいた2つの他の実施例では観察されなかった。チタノセン触媒に対してNaH*が大過剰であるにも関わらず、スチレンの重合について報告も言及さえもなく、ましてどのような形の連鎖移動化学反応もない。
【0012】
超活性(極めて微細に分割された)形のリチウム、ナトリウム、及び水素化カリウムの調製が、Schleyer及び共同研究者らにより報告された(Schleyer, P. v. R.; et.al. J. Org. Chem. 1987. 52, 4299;及びSchleyer, P. v. R.; et.al. Angew Chem Int. Ed. Engl. 1986 25 465)。これら超活性塩型水素化物(SASH)を微細懸濁液として調製するには、ヘキサン中、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)の存在下で、該当するアルカリ金属アルキルを水素化する必要があった。超活性LiH*の形成は、30~35℃で行われ、超活性NaH*は、低温条件下(-10℃~-15℃)で調製され、超活性KH*は、-20℃~-25℃で形成されることが報告された。有機合成への水素化物の応用は、Schleyerにより探求され、上記の公開論文で報告された。合成反応の大部分(金属付加、付加、及び還元)は、-90℃もの低温になる低温条件下で行われ、少数の反応が、室温~50℃で行われた。またしても、Schleyerに、スチレン、ビニル芳香族、または共役ジエン単量体の重合のために水素化物を使用する開示はなく、まして水素が仲介するそのような重合プロセスはない。
【0013】
Harder及び共同研究者らは、2.5モル%の有機カルシウム触媒、[DIPPnacnacCaH・THF]2を用いて、スチレンを触媒反応で水素化する(20℃、20気圧のH2、ベンゼン中15時間)ことが可能であることを報告しており、有機カルシウム触媒は、最初にフェニルシランから形成させる、(Harder, S., Speilman, J., Buch, F. Angew. Chem. 2008, 120, 9576, Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 9434としても発表されている、を参照)。水素化により、エチルベンゼンが収率85%で生成し、併せて収率15%で、大部分がスチレン二量体からなり、痕跡量のスチレン三量体及びオリゴマーを含むオリゴマーが生成する。Harderは、さらに、1,1-ジフェニルエテンが、20℃、20気圧のH2、ベンゼン中15時間で、5モル%のブチルリチウム/TMEDA錯体から形成された触媒で、低い変換率で還元されて、14%のPh2CHCH3及び7%の二量体を生成することを報告している。この反応に関して、著者らは、以下のとおり記述している:
「市販のnBuLI/TMEDAにより触媒される反応は、低い変換率でしか進行しなかった・・・このことは、H2圧が低いほど、重いアルカリ土類金属錯体の方がより効率的な触媒であることを示唆している。」
【0014】
テトラヒドロフラン溶解型の水素化マグネシウムは、Ashby及び共同研究者らにより、オルト置換(2,6-ジメチル及び2,6-ジ-イソプロピルフェノキシド)アリールオキシマグネシウム試薬及び活性型の固形水素化マグネシウムから製造された。テトラヒドロフラン不溶解型の水素化マグネシウムは、アルコキシマグネシウム試薬及び固形水
素化マグネシウム試薬から得られた(Ashbey, E. C., Goel, A.
B., Lin, J. J. Tetrahedron letters, 1977, 3133を参照)。Ashbyはまた、テトラヒドロフラン溶解性水素化ジアルキルアミノマグネシウム、一連の嵩高いジアルキル及びアルキル置換シクロアルキル第二級アミン、及び活性型の固形水素化マグネシウムの形成を報告した。この活性型の水素化マグネシウムは、ジエチルエーテル中、ジメチルマグネシウムをLiAlH4で還元することにより調製された。すなわち、嵩高いジアルキル及びアルキル置換シクロアルキル第二級アミンを、ジメチルマグネシウムと反応させて、ビス(ジアルキルアミノ)マグネシウム化合物を形成させ、次いでこれをTHF中で活性型の水素化マグネシウムと反応させた(Ashbey, E. C., Goel, A. B., Lin, J. J. J. Or. Chem., 1978, 43, 1564を参照)。そうした水素化アミノマグネシウムは、アミドを単量体に加えることにより、重合を開始させるようであり、得られる重合体分布集合に望ましくないアミン官能基をもたらすようである。
【0015】
Michalczykは、「適切なリガンド」の存在下、エーテル性または炭化水素溶媒中での沈殿型の水素化マグネシウムMgH2LXの形成を報告している。そうした適切なリガンドとして、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、及びTMEDAが挙げられていた。使用された還元剤は、フェニルシランであった(Michalczyk, M. J. Organometallics, 1992, 11, 2307を参照)。最近の総説、表題「Molecular Early Main Group Metal Hydrides: Synthetic Challenge,
Structures And Applications」において、Harderは、明確に定義された1族及び2族金属水素化物の制御合成について最新技術を概説している。一般に、そのような水素化物は、上記に概要を記載した方法により調製されてきており、そのような方法として以下が挙げられる:光分解;Ashbyにより報告された、活性水素化物の反応による、水素化アリールオキシマグネシウムならびに水素化ジアルキルアミノマグネシウムなどの「ate錯体」の形成;Harderの、最初にフェニルシランから形成される[DIPPnacnacCaH・THF]2;ならびに、Stachの、フェニルシランから形成された溶解性水素化リチウム錯体。さらに、Harderは、マグネサイト錯体[(iPr2N)3Mg-]M+(M+=Na+、K+)の熱分解から形成された多くの水素化物を概説している。溶解性塩型水素化物組成物を形成するこれらのアプローチ全てに共通する特長は、嵩高い(通常はイソプロピル化リガンド)を使用して溶解性をもたらすことである。[DIPPnacnacCaH・THF]2(繰り返すが、これは、最初にフェニルシランから形成された)を用いる例などスチレンからエチルベンゼンへの水素化(収率85%)の最中に形成される触媒性の乏しい種を除く全ての場合において、塩型水素化物錯体は、水素分子以外のある他の試薬から形成された。Scheyerの不溶解型の超活性塩型水素化物(SASH)のみが、水素分子から、最初の試薬として形成される。
【0016】
したがって、先行技術は、ビニルヘテロ芳香族単量体及び/またはビニル芳香族単量体、例えばスチレン単量体及び/または共役ジエン単量体など、または他のオレフィン炭化水素系アニオン重合性単量体のアニオン性連鎖移動重合のための、高活性塩型水素化物(HASH)または超活性塩型水素化物(SASH)種いずれかの使用を開示していない。本発明者は、これらの水素化物の使用が、塩型水素化物により開始される水素介在型重合(HMSHIP)プロセスを触媒することができることを発見した。本発明は、周辺温度下(例えば、約20℃~100℃)でのビニル芳香族単量体の効率的アニオン性連鎖移動重合プロセスを提供し、このプロセスで、水素は、主たるまたは唯一の連鎖移動剤である。このプロセスは、比較的低い~非常に低い水素圧の部分圧で行うことができる。そのうえさらに、本発明者は、本発明の新規重合触媒が、スチレンのみからなるアニオン重合した低分子量スチレン分布集合を提供することを発見した。
【0017】
数値計算用語
アニオン性連鎖移動プロセスの効率(EffCT)は、以下の式で与えられ:
EffCT=MnTh/Mnexp;
式中、MnThは、理論上の数平均分子量であり、項Mnexpは、実際の反応またはプロセスで得られた数平均分子量である。
【0018】
分子量分布を記載するために使用されるパラメーター及びそれらを定義する式の大要を表2に提示する。(A. Rudin, The Elements of Polymer Science and Engineering, Academic Press, Orlando, 1982, pp, 54-58)。数平均DP(DP
n)は、100%ポリスチレン組成物としてMnを用いて計算する。
【表2】
【発明の概要】
【0019】
本発明の塩型水素化物により開始される水素介在型重合(HMSHIP)プロセスは、以下を特長とする:a)溶解性塩型水素化物種が持つ、ビニル芳香族または共役ジエン単量体に迅速に付加して開始種を形成する新規能力;b)塩型水素化物種の単量体への付加が起こり、そして活性な一過性リビングポリ(スチリル)アニオン鎖を成長させる成長反応工程と競合する再開始工程との間の競合を可能にし、そして活性成長鎖の数を一定に維持する、新規の高い効率性;ならびにc)穏やかかつ新規のプロセス条件下、水素から連鎖移動させて、そのようなリビングポリ(スチリル)アニオン性種を終了させ、塩型水素化物を、重合プロセスを効率的に再開始させることができる形で再生させる、能力。こうした特長がない限り、この化学プロセスは、極端な場合、主に還元された単量体を生成するだけになるか、高分子量重合体を生成するだけになるかのいずれかになると思われる。
【0020】
本発明は、アニオン性連鎖移動重合プロセスに関し、本プロセスは、水素分子を含む雰囲気下、不活性エーテル性溶媒及びアルカリ金属またはアルカリ金属合金の反応混合物を含む反応容器に、ビニルヘテロ芳香族単量体及び/またはビニル芳香族単量体、好ましくは、スチレン単量体、及び/または共役ジエン単量体を供給することを含む。
【0021】
本発明はまた、アニオン性連鎖移動重合プロセスに関し、本プロセスは、水素分子を含む雰囲気下、反応容器中の反応混合物に、ビニル芳香族単量体、好ましくは、スチレン単量体、及び/または共役ジエン単量体を供給することを含み、この反応混合物は、(a)有機リチウム化合物;(b)ポリ第三級アミン化合物;(c)金属アルコキシド、このアルコキシドは、1種または複数のアルカリ金属アルコキシド、またはマグネシウムアルコキシドであり;(d)任意選択で、トルエンのpKaより2.75pKa単位高いpKa~
トルエンのpKaより-4.30pKa単位低いpKaの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pKaを有する芳香族炭化水素;及び(e)H2より高いpKaを有する炭化水素溶媒、から形成されたものである。
【0022】
本発明はまた、以下を含む反応媒体から形成される、炭化水素溶解性の、一元金属、二元金属、または多元金属SASH触媒組成物に関する:(a)水素分子;(b)有機リチウム化合物及び/または有機マグネシウム化合物;(c)ポリ第三級アミン化合物;(d)アルコキシド、このアルコキシドは、1種または複数のアルカリ金属アルコキシド(複数可)、またはマグネシウムアルコキシドであり;(e)任意選択で、トルエンのpKaより2.75pKa単位高いpKa~トルエンのpKaより-4.30pKa単位低いpKaの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pKaを有する芳香族炭化水素;ならびに(f)炭化水素溶媒;芳香族炭化水素及び炭化水素溶媒は、同じでも異なっていてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
用語集
当然のことながら、及びおわかりいただけるだろうが、「重合体」という用語は、本明細書中、特許請求の範囲も含めて、どこで使用される場合でも、OECDの「重合体」の定義の文脈で定義されるとおりの「重合体」という用語を示し、OECDの「重合体」の定義は以下のとおりである:
「1種または複数の種類の単量体単位の連続を特徴とする分子からなり、分子の単純重量過半数は、少なくとも3つの単量体単位を含有し、単量体単位は少なくとも1つの他の単量体単位または他の反応体と共有結合している化学物質であり、かつ同一分子量の分子は単純重量過半数未満である化学物質。そのような分子は、ある範囲の分子量にわたり分布していなければならず、その分子量の差は、主に単量体単位の個数の差に帰せられる。」
【0024】
「有機リチウム(活性)」及び「活性有機リチウム」(Li活性と略記)という用語は、任意のプロトン性試薬ならびに任意のプロトン性不純物種、例えば、水、及び/またはアルコール、及び/または、第一級もしくは第二級アミンを滴定するのに必要な量の有機リチウム化合物を超えて投入された量の有機リチウム化合物を意味する。理論に固執するつもりはないが、活性有機リチウムのモル量は、1:1基準で形成された塩型水素化物のモル量に等しいと思われる。
【0025】
プロトン性は、種、または試薬、または溶媒、または不純物と併用される場合、本発明の化学プロセスの条件下、H2のpKaより低いpKaを持つ共役結合したプロトン(H+)を有する化学種を意味する(Buncel, E., Menon, B J.Am. Chem. Soc., 1977, 99, 4457:‘‘Carbanion Mechanisms. 6. Metalation Of Arylmethanes
By Potassium Hydride/18-Crown-6 Ether In Tetrahydrofuran and the Acidity of Hydrogen’’を参照)。
【0026】
「HASH」は、水素分子を含む雰囲気下、エーテル性溶媒中で、アルカリ金属またはアルカリ金属合金から形成される高活性塩型水素化物を意味する。
【0027】
「SASH」は、(a)水素分子;(b)有機リチウム化合物;(c)ポリ第三級アミン化合物;(d)アルコキシド、このアルコキシドは、アルカリ金属アルコキシド、またはマグネシウムアルコキシドであり;(e)任意選択で、トルエンのpKaより2.75pKa単位高いpKa~トルエンのpKaより-4.30pKa単位低いpKaの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pKaを有する芳香族炭化水素;及び(f)炭化水素溶媒
中、で形成される超活性塩型水素化物を意味し;芳香族炭化水素及び炭化水素溶媒は、同じでも異なっていてもよい(トルエンの参照pKaは、メチルプロトン、すなわち炭素水素(-CH3)結合の水素原子のうちの1つのものであり、環のプロトンでもどのような二次イオン化のものでもない。これに関しては、Gau, G. Marques, S. J. Am. Chem. Soc., 1976, 98, 1538: ‘‘Acidities Of Alkylarenes from the Equilibriums of their Sodium Salts’’を参照)。
【0028】
「水素分子」という用語は、1H2としてH2を意味するが、水素の同位体である2H2または3H2も、蒸気空間における気体状態であるか凝縮相に溶解しているかに関わらず、同位体の混合物としてまたは特定同位体が濃縮されたものとして含むことができる。
【0029】
「ジエン」(またはジオレフィン)という用語は、2つの炭素二重結合を含む不飽和炭化水素を意味する。共役ジエンとは、2つの二重結合が、単結合により隔たれており、そのため重なり合い、共有された分子軌道を有する、ジエンである。
【0030】
「不活性エーテル性溶媒」という用語は、エーテル性溶媒が分解または変換されて、化学反応またはプロセスにとって有害な別の試薬になるような様式で、アルカリ金属及び/または触媒及び/またはそれらに由来する任意の反応性中間体(複数可)と反応することがない、少なくとも1種のエーテル溶媒を含む溶媒を意味する。しかしながら、不活性エーテル性溶媒は、ルイス塩基として作用する場合があり、そのため、アルカリ金属及び/または触媒及び/またはそれらに由来する任意の反応性中間体(複数可)と錯形成する場合がある。
【0031】
「アルカリ金属合金」という用語は、少なくとも2種の金属からなり、それらの金属のうち少なくとも1種は、アルカリ金属である金属合金を意味するが、そのようなアルカリ金属合金は、2種のアルカリ金属で構成される、例えば、NaKまたはNaK2などであることが可能であり、そのようなアルカリ金属が合金に溶解しているまたは合金と何かしら物理的に組み合わされていることが可能である。
【0032】
「電子移動連行剤」という用語は、アルカリ金属またはアルカリ金属合金からの一電子移動を介して容易に還元を起こして、ラジカルアニオンを形成し、次いでラジカルアニオンが電子をスチレンなどの重合性単量体に移動させ、それにより再酸化されて中性有機分子になる、中性の有機分子であり、例えば、ナフタレンまたはビフェニルなどであるが、これらに限定されない。
【0033】
「及び/または」という用語は、単独であるかまたは組み合わせであることを意味する。例えば、「A及び/またはB」は、「A」単独、「B」単独、またはAとBの組み合わせを意味する。
【0034】
「ありまたはなしで」という用語は、単独であるかまたは組み合わせであることを意味する。例えば、AをBありまたはなしで、は、「A」単独またはAとBの組み合わせを意味する。
【0035】
「有機リチウム化合物」という用語は、リチウム原子と結合した有機基を意味する。有機基の例として、脂肪族(例えば、アルキル基)、脂環式(例えば、シクロアルキル)、ビニル基、アリル基、ベンジル基、芳香族基(例えば、フェニル)、またはポリスチリルリチウムを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0036】
「ポリ第三級アミンプロモーター」という用語は、HMSHIPプロセス中に水素化物
触媒の形成を促進または活性化する第三級アミン基を少なくとも2つ含有する化合物を意味する。そのようなポリ第三級アミンの一般式の例として以下を挙げることができるが、これらに限定されない:
【化1】
式中、R’及びR’’は、独立して、2つ以上のアミンと結合を形成することができる有機基であり、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、独立して、他の第三級アミンによりさらに置換される場合もある有機基であり、指数値nは、独立して、0以上の整数である(すなわちn=0、1、2、3・・・)。当然のことながら、n=0の場合、括弧内の基は存在せず、この構造は、括弧の両側を横断する2つの基間の化学結合であることを意味するものとする。すなわち、ポリ第三級アミン構造2は、n=0の場合に構造4になる。
【0037】
「アルカリまたはアルカリ土類金属アルコキシド」という用語は、一般式MORを持つアルコキシドを意味し、式中、Mは、アルカリ金属、またはマグネシウムまたはカルシウム金属であり、Oは、酸素であり、Rは、アルキル、シクロアルキル、ベンジル、または芳香族基などの有機基である。これらは、典型的には、金属、金属水素化物、または金属アルキルと、アルコール基含有化合物との反応により形成される。触媒形状を区別する目的で、「アルカリ金属アルコキシド」は、その化学構造中に官能基の一部としてエーテルまたは第三級アミン部分を含有しない。これらの試薬から形成された触媒は、明確に異なる溶解性、反応性、及び選択制を有し、したがって、全く同一になるところがない。
【0038】
説明
本発明は、アニオン重合可能な炭化水素単量体で、塩型水素化物により開始される水素介在型重合(HMSHIP)を行うプロセス、そのようなプロセスを行うための触媒組成物、及びある特定の好適な条件下での、新規の有益な低分子量アニオン性連鎖移動重合体分布集合の形成に関する。本プロセスは、水素分子を含む雰囲気下、活性かつ概して可溶性の塩型水素化物触媒を含有する適切な溶媒に、少なくとも1種のアニオン重合可能な炭化水素単量体を供給することを特長とし、水素分子からの連鎖移動は、動力学的連鎖長(ν)分布を決定し、したがって得られる生成物分布集合の数平均分子量(Mn)を決定する、本機構の重要な構成要素である。
【0039】
本発明はまた、塩型水素化物により開始される水素介在型重合を行うプロセスに関し、本プロセスは、水素分子を含む雰囲気下、活性かつ概して可溶性の塩型水素化物触媒を含有する適切な溶媒に、少なくとも1種のアニオン重合可能なビニルヘテロ芳香族単量体を供給することを特長とし、水素分子からの連鎖移動は、動力学的連鎖長(ν)分布を決定し、したがって得られる生成物分布集合の数平均分子量(Mn)を決定する、本機構の重要な構成要素である。
【0040】
本発明の1つの実施形態は、活性塩型水素化物を用いた、ビニル芳香族単量体、例えばスチレン単量体(すなわち、スチレン)などのアニオン重合プロセスに関する。スチレン重合機構の限定ではなく一般的な代表例を以下に示す。アニオン重合プロセスのこの一般的代表例中、MH
*は、HASHまたはSASHの塩型水素化物金属に関して活性型の塩型水素化物を示す。k
MH*、k
i、k
p、及びk
rの項は、それぞれ、MH
*付加工程、連鎖
開始工程、連鎖成長工程、及び還元的連鎖移動工程の速度定数を表す。塩型水素化物は、イオン型水素化物とも呼ばれるが、そのようなものとして、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水素化物が挙げられる。すなわち、Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、またはカルシウムの1種または複数である、あるいはそれらの1種または複数を含むことができる。
【化2】
【0041】
本発明の新規アニオン性連鎖移動重合反応の条件下、HASHまたはSASHいずれかの触媒が、活性またはリビングポリ(スチリル)アニオンの水素分子による還元に使用される。この還元的連鎖移動は、離散したデッドポリスチレン鎖をもたらすとともに、活性触媒種を再生させる。以下の4工程からなる触媒サイクルを何回も経由する反復プロセス:1)スチレンへのMH
*付加;2)重合体連鎖の開始によりモノ付加体が形成される;3)重合体鎖成長、及び4)連鎖移動により離散したデッド重合体鎖が形成される;は、分子量(M
n、M
w、及びM
Z)、多分散指数、標準偏差、及び非対称度で特性決定されるデッド重合体鎖からなるアニオン性連鎖移動ポリスチレン分布集合を提供する。本発明のプロセスは、高効率であり、触媒効率は、典型的には200%~8000%の範囲にある。
【化3】
【0042】
任意選択の芳香族炭化水素の使用及びそれが得られる重合体分布集合中に組み込まれることを、上記の化学式で概説する[すなわち、(6)で始まり、(2)が続き、(3)で終わる式の連続]。式は、以下において、限定ではなく例として、単量体にスチレン、及び芳香族炭化水素にエチルベンゼンを使用する。当然のことながら、開始からエチルベンゼンが存在するかしないかに関わらず、スチレンが単量体である場合、HMSHIPプロセスの過程中にスチレンの一部は還元されてエチルベンゼンになる。しかしながら、形成されたエチルベンゼンは、HMSHIPプロセスが約50℃より高温で行われる場合、動力学的に活性であることが可能であり、連鎖移動化学反応に再度入ることが可能である。そのような条件下、水素化スチレン単量体(エチルベンゼン)は、連鎖移動剤として動力学的に活性であることが可能であり、単量体がスチレンである場合、この例におけるMH*がスチレン単量体に付加するときに形成されるとおり、同一の識別不能なアニオン性化学種を形成する。
【0043】
1種または複数の他の連鎖移動剤が溶媒(複数可)として使用される場合、デッド重合体鎖の分布集合の一部は、添加された連鎖移動剤(複数可)を組み込んでいる場合がある(連鎖移動剤の相対pKa及び塩型水素化物触媒の性質に依存する)。回収されたスチレン単量体還元生成物が、プロセスに直接戻されてリサクルされるプロセスの場合、デッド重合体鎖の生成物分布は、起点水素化物及び水素分子由来の終点プロトンを有する離散したスチレン重合体鎖の集合のみで構成される。
【0044】
本発明の重要な特長の1つは、HASHまたはSASHがスチレンまたは他のスチレン単量体に高効率で付加し、続いて迅速に連鎖開始すること(化学式1及び2)であるため、本発明により生成可能な重合体分布集合の数平均分子量分布M
nは、動力学的連鎖長(υ)で表現することができる。数平均重合度
であり、重合体を成長させている反応の割合を、成長が停止した反応の割合で割った比により与えられる。理論に固執するつもりはないが、
は、重合開始種(すなわちHsty
(-)で記される塩型水素化物が単量体に付加した生成物)の還元の連鎖移動定数
、ならびに水素が関与する連鎖移動
及びエチルベンゼンが関与する連鎖移動
の両方で表すことができる。動力学的連鎖長(υ)は、本発明のある特定の実施形態に関して、以下の式(IV)により表される。式(IV)から、スチレン濃度[sty]が上昇し(スチレン供給率の上昇)、H
2濃度[H
2]が低下し(部分圧または物質移動の減少)、及びエチルベンゼン濃度[EB]が低下すると、動力学的連鎖長υは、長くなる。反対に、スチレン濃度が低下し(スチレン供給を遅くすることによる)、H
2濃度が上昇し(部分圧または物質移動の増加)、及びエチルベンゼン濃度が上昇すると、動力学的連鎖長υは、短くなる。
【数1】
【0045】
本発明のさらに詳細な説明
アニオン重合可能な炭化水素単量体として、1種または複数のビニル芳香族単量体、特にスチレン単量体、共役ジエン単量体、及びオレフィン単量体を挙げることができる。好ましくは、ビニル芳香族単量体は、スチレン単量体、例えばスチレンなど、またはアルキル化スチレン単量体、例えば、メチルスチレンのo-、m-、及びp-異性体、p-イソ
プロピルスチレン、2,4-ジエチルスチレン、o-エチルスチレン、3,5-ジ-イソブチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2-エチル-4-メチルスチレンなど、ならびにそれらの組み合わせである。分岐分子構造を含まない直鎖重合マイクロ構造を形成させる場合、スチレンが、好適なビニル芳香族単量体である。本プロセス条件下、アルキル化スチレン単量体は、それ自身が連鎖移動剤として振る舞うことになり、ある程度の分岐及び架橋の可能性が出てくる。ジビニルベンゼンなどのジビニル芳香族単量体も、コ単量体として使用可能であるものの、分岐及び架橋が起こる可能性がある。
【0046】
共役ジエン単量体の限定ではなく例として、1,3-ブタジエン、イソプレン、1、3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、及び1,3-ヘキサジエンがある。
【0047】
オレフィン単量体の限定ではなく例として、エチレン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンなど、ならびに非共役ジオレフィン、例えば4-ビニル-1-シクロヘキセンなどを挙げることができる。そうしたオレフィン単量体は、HMSHIPプロセス条件下、テロマー分布集合を形成する。
【0048】
本出願の1つの実施形態は、水素介在型アニオン性連鎖移動重合プロセス(本明細書中以下:HASH触媒プロセス)に関し、本プロセスは、水素分子を含む雰囲気下、不活性エーテル性溶媒及びアルカリ金属またはアルカリ金属合金からなる反応混合物を理想的には懸濁分散物として含有する反応容器に、スチレン単量体及び/または他のビニル芳香族単量体及び/または共役ジエン単量体を供給することを含む。単量体がスチレンのみである場合の生成物は、HASH PS分布集合と表す。
【0049】
不活性エーテル性溶媒の限定ではなく例として、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジグリム、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、エチルtert-ブチルエーテル、メトキシエタン、メチルtert-ブチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、及びテトラヒドロピランがある。
【0050】
アルカリ金属、及び/またはアルカリ金属及び/またはアルカリ金属合金の混合物の限定ではなく好適な例として、リチウム、及び/またはナトリウム、及び/またはカリウム、及び/またはルビジウム及び/またはセシウムの分散体;ならびにナトリウムカリウム合金、例えばNaK及び/またはNaK2から形成された分散体がある。
【0051】
HASH触媒プロセスの1つの実施形態は、スチレン単量体がスチレンであり、エーテル性溶媒がテトラヒドロフランであり、ナトリウムカリウム合金がNaK2である場合である。また、水素の分圧は、約2.5Bar~約10Barの圧に維持される。
【0052】
上記のHASH触媒プロセスは、反応混合物中に、電子移動連行剤も含有することができる。電子移動連行剤の限定ではなく例として、ビフェニル、ナフタレン、または他の好ましくは無置換の(重合体組成物に組み込まれるのを回避するため)共役芳香族炭化水素、または縮合環芳香族炭化水素がある。
【0053】
本出願の1つの実施形態において、エーテル性溶媒、及びアルカリ金属またはアルカリ金属合金は、最初に反応容器に投入され、高剪断高速混合(先端速度>15ft/秒または4.5メートル/秒の高剪断インペラ)を用いて撹拌されて、金属性(Li0、Na0、K0、Rb0、Cs0)アルカリ金属が存在する限りにおいて、及びその融点より高温で、アルカリ金属または金属合金の分散体となりそれを維持する。
【0054】
上記のHASH触媒プロセスで使用される水素分圧は、約1.0~約20.0Bar、または約1.5~約12.0Bar、または約2.5~約10.0Bar、または約3.0~約7.0Barの圧に維持される。
【0055】
アルカリ金属またはアルカリ金属合金対スチレン及び/または共役ジエン単量体のモル比の大きさは、約1:10~約1:100または約1:15~約1:50の範囲が可能である。
【0056】
反応混合物及び/またはプロセスの温度は、約20℃~約100℃の範囲、好ましくは約40℃~約80℃の範囲に維持される。
【0057】
上記のとおり、反応容器中の撹拌は、不活性エーテル性溶媒中のスチレン単量体の実質的に均質な濃度プロファイルを維持するのに、及びH2を気体または蒸気相から凝縮相へと効率的に移送するのに、少なくとも十分でなければならない。
【0058】
さらに、アルカリ金属がカリウム、ナトリウム、またはカリウム及びナトリウムの合金である場合、もし金属または金属合金がその融点より高温でもすぐには液状にならないならば、アルカリ金属または金属合金を溶融させるのに十分な温度で、高剪断混合を使用して、最初に投入されたアルカリ金属を分散体にし、それを維持することが望ましい。
【0059】
例えば、一定した熱流量でのプロセス温度の急激な低下及び/またはH2取り込みの終了により示されるとおり、反応が完了したら、反応混合物を、上昇した水素圧下に置き、次いで、クエンチ及び水洗浄のため洗浄反応器に移す。洗浄反応器には、水をほとんどまたは全く含まないエチルベンゼンなどの高沸点溶媒があらかじめ投入されていてもよい。溶媒の回収に役立つように、反応混合物を水と接触させる前に、エーテル性溶媒を蒸留することが好ましい。クエンチは、周辺温度で行うことができ、最小限のプロトン性溶媒、例えばイソプロピルアルコールなどを用いて、これを水素が安全に反応器から放出されるように時間をかけて注意しながら供給する。生成物を水で洗い、アルカリ金属塩を除去する。高沸点溶媒は、洗った反応混合物から分離及び回収することができ、これにより、最後の痕跡量の水も、反応混合物から共沸除去される。この分離操作は、溶媒及び単量体還元生成物(スチレンの場合、還元生成物はエチルベンゼンである)のほとんどが除去されるまで続けられる。あるいは、プロトン性クエンチ剤をゆっくりと加えることにより、重合反応器中で触媒をクエンチすることができる。クエンチが完了したら、クエンチされた反応混合物を洗浄反応器に移し、上記のとおり後処理する。
【0060】
本出願の別の実施形態は、水素介在型アニオン性連鎖移動重合プロセスに関し、本プロセスは、水素分子を含む雰囲気下、炭化水素溶媒と炭化水素溶解性塩型水素化物触媒の反応混合物を含有する反応容器に、スチレン単量体及び/または他のビニル芳香族単量体及び/または共役ジエン単量体を供給することを含む。溶解性塩型水素化物触媒は、SASH触媒である。
【0061】
本出願の別の実施形態は、アニオン性連鎖移動重合プロセスに関し、本プロセスは、水素分子を含む雰囲気下、反応容器中の反応混合物に、ビニル芳香族単量体、好ましくはスチレン単量体、及び/または共役ジエン単量体を供給することを含み、この反応混合物は、(a)有機リチウム化合物;(b)ポリ第三級アミン化合物;(c)金属アルコキシド、このアルコキシドは、1種または複数のアルカリ金属アルコキシド、またはマグネシウムアルコキシドであり;(d)任意選択で、トルエンのpKaより2.75pKa単位高いpKa~トルエンのpKaより-4.30pKa単位低いpKaの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pKaを有する芳香族炭化水素;及び(e)H2より高いpKaを有する炭化水素溶媒、から形成されたものである。芳香族炭化水素及び炭化水素溶媒は、同じであ
っても異なっていてもよい。
【0062】
水素分圧は、約1.0Bar~約19.0Bar、または約1.5Bar~約12.0Bar、または約2.5Bar~約10.0Bar、または約3.0Bar~約7.0Barの圧に維持することができる。
【0063】
反応混合物及び/またはプロセスの温度は、約20℃~約130℃の範囲、より好ましくは約40℃~約110℃の範囲、特に好ましくは60℃~90℃に維持される。
【0064】
好ましくは、アルコキシドは、カリウムまたはナトリウムアルコキシドである。また、別の実施形態は、アルコキシドが、t-ブチルアルコール[(CH3)3COH]、t-ペンチルアルコール[C2H5(CH3)2COH]、または3-メチル-t-ペンチルアルコール[CH3(C2H5)2COH]に由来する場合である。
【0065】
さらなる実施形態において、ビニル芳香族単量体は、スチレン単量体である。有機リチウム化合物は、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、イソブチルリチウム、フェニルリチウム、1-ヘキシル-1-フェニルリチウム、シクロヘキシルリチウム、またはポリ(スチリル)リチウムである。ポリ第三級アミンは、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である。また、芳香族炭化水素は、好ましくは、ベンゼン、トルエン、メシチレン、o-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン、N-プロピルベンゼン、N-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,3-ジアリールプロパン、またはスチレン二量体が可能である。
【0066】
上記のプロセスにおいて、反応器に投入されたアルコキシド対有機リチウム化合物のモル比は、約0.25:1.0~約10:1の範囲にあり;スチレン対有機リチウム化合物のモル比は、約10:1~約1000:1であり、第三級アミン対有機リチウム化合物のモル比は、約1.5:1~約20:1の範囲にあり、有機リチウムに対する単量体の時間供給率は、1時間あたり有機リチウム1モルあたり単量体10~200モルの範囲にある。
【0067】
より好ましくは、上記のプロセスにおいて、ビニル芳香族単量体はスチレンであり、有機リチウム化合物はブチルリチウムであり、ポリ第三級アミンはN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)であり、炭化水素はエチルベンゼンである。
【0068】
溶解性触媒組成物は、(a)有機リチウム化合物;(b)ポリ第三級アミンプロモーター化合物;(c)金属アルコキシド、このアルコキシドは、アルカリ金属アルコキシド、またはマグネシウムアルコキシドであり;(d)任意選択で、トルエンのpKaより2.75pKa単位高いpKa~トルエンのpKaより-4.30pKa単位低いpKaの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pKaを有する芳香族炭化水素;及び(e)H2より高いpKaを有する炭化水素溶媒、から形成され、芳香族炭化水素及び炭化水素溶媒は、同じであっても異なっていてもよい。単量体がスチレンのみである場合に、そのようなプロセスから形成された生成物分布集合は、本明細書中以下、SASH PS分布集合と表す。
【0069】
上記の触媒組成物において、アルコキシドは、好ましくは、カリウム及び/またはナトリウムアルコキシドである。同じく好ましいのは、アルコキシドが、t-ブチルアルコール[(CH3)3COH]、t-ペンチルアルコール[C2H5(CH3)2COH]、または3-メチル-t-ペンチルアルコール[CH3(C2H5)2COH]に由来する場合である。
【0070】
触媒組成物の別の実施形態において、有機リチウム化合物は、好ましくは、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、イソブチルリチウム、フェニルリチウム、1-ヘキシル-1-フェニルリチウム、シクロヘキシルリチウム、またはポリ(スチリルリチウム)である。
【0071】
触媒組成物のさらに別の実施形態において、第三級アミンは、好ましくは、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である。
【0072】
上記の触媒組成物において、芳香族炭化水素は、好ましくは、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,3-ジアリールプロパン、またはスチレン二量体である。
【0073】
そのうえさらに、上記の触媒組成物において、アルコキシド対有機リチウム化合物のモル比は、約0.25:1~10:1の範囲にあり;ポリ第三級アミン対有機リチウム化合物のモル比は、約1.5:1~約20:1.0の範囲にあり、水素の分圧は、約1.0Bar~約19Barの圧に維持される。
【0074】
本発明を実施する上で、様々な方法で、任意選択でSASH触媒の前駆体を形成させ、SASH触媒へと変換することができ、そのような方法として、以下が挙げられるが、それらに限定されない:
I.不活性雰囲気下、少なくとも(a)及び(b)を(e)中に含む十分に混合された溶液を形成させ、次いで以下によりSASHへと変換する:1)単量体の一部を供給する;2)反応器にまだ導入されていなければ、(c)を(b)とともに(e)に溶解させて供給する;ならびに3)不活性雰囲気をH2と交換するまたはいずれにしろ置き換える、あるいは
II.不活性雰囲気下、(a)、(b)、(c)、及び(d)を(e)中に含む十分に混合された溶液または懸濁液を形成させ、前駆体を形成させ、次いで、不活性雰囲気を水素と交換するまたはいずれにしろ置き換えることにより、この前駆体をSASHに変換する;あるいは
III.水素雰囲気下、(b)及び(c)を(e)中に含む十分に混合された溶液を形成させ;単量体の一部を供給し、次いで(a)を全て一度に供給する;あるいは
IV.水素雰囲気下、(b)、(c)、及び(d)を(e)中に含む十分に混合された溶液を形成させ、次いで、約3分を超える長さの時間をかけて(a)を供給する。
【0075】
これら4通りのSASH触媒の形成方法(すなわち上記の方法I~IV)のうち、方法IVが最も一貫して実行ごとの再現性を提供する。方法IVの実施は、懸濁固体、ならびに熱表面(すなわち加熱された反応器壁)に付着する固体、及び冷表面(すなわち冷却コイル、バッフル、液浸脚、ならびに撹拌器のブレード及びシャフト)に付着する固体をほぼ排除する。方法I及びIIは、固体の形成を促進し、しかも不活性雰囲気のパージまたは交換を必要とする点で、最も望ましくない。方法IIIは、生成物分布集合の形成に追加の連鎖移動剤が望ましいとされなければ、使用可能である。方法IIIの欠点は、高分子量不純物分布集合の形成を回避するために、以下;(a)を迅速に加えなければならず、このことは顕著な熱放出をもたらし、そのような熱放出は、商業規模の反応器では望ましくないと見なされる可能性がある。当然のことながら、水素分子の存在下、またはその導入前に、他の試薬もしくは溶媒(例えばルイス塩基としての量のTHFなど)の添加と合わせて、(a)、(b)、(c)、(d)、及び(e)を組み合わせる他の様式または順番を実施することが可能であり、本発明の範囲内に十分含まれる。
【0076】
当然のことながら、SASH触媒プロセスを行う目的で、SASH触媒を形成させる方法IVを実施する際、金属アルコキシド:有機リチウム化合物のモル比、及びポリ第三級アミン:有機リチウム化合物のモル比は、導入される有機リチウムの最初の1滴による∞:1の極限から、活性有機リチウム試薬の意図される合計投入量に基づく最終の化学量論的比までの範囲にわたり数学的に変化する。すなわち、金属アルコキシド及び/またはポリ第三級アミン投入量のいずれかがモル過剰であることは、まったくまたはほとんど問題にならず、それでも本発明のプロセスの実施で使用されるSASH触媒は形成される-触媒は、これら試薬が大モル過剰でも形成する。すなわち、以下に記載される合計投入量の相対比の好適な範囲外の量の(a)、(b)、及び(c)の使用、そのような量のそのような使用は、本発明の範囲内に十分含まれる。触媒成分投入量比について記載された好適な範囲外にあるそのような比を用いて本発明を実施することは、良くて原材料の非効率的使用をもたらすにすぎず、悪ければSASH触媒が生成及び溶解する上での効率に干渉する組成物をもたらす可能性がある。
【0077】
SASH触媒を形成するのに適した有機リチウム化合物の限定ではなく好適な例として、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、イソブチルリチウム、アリルリチウム、ビニルリチウム、フェニルリチウム、1-ヘキシル-1-フェニルリチウム、1-ヘキシル-1,1-ジフェニルリチウム、シクロヘキシルリチウム、及びポリ(スチリル)リチウム化合物があり、これらは、加えることも、in situで生成させることも可能である。
【0078】
可溶性SASH触媒を形成するのに使用される金属アルコキシドの限定ではなく例として、t-ブチルアルコール[(CH3)3COH]、t-ペンチルアルコール[C2H5(CH3)2COH]、及び3-メチル-t-ペンチルアルコール[CH3(C2H5)2COH]に由来するもの、例えばカリウムt-ブトキシドまたはナトリウムペントキシドなどがある。カリウム由来のアルコキシドが好ましい。
【0079】
SASH触媒、用途に有用なポリ(第三級アミン)プロモーターの限定ではなく例として、プロピレンジアミン由来のジ(第三級アミン)リガンド、エチレンジアミン由来またはポリエチレンイミン由来のジ(第三級アミン)リガンドが挙げられる。好適な例として、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、スパルテイン、イソスパルテイン、及び1,4-メチルピペラジンが挙げられ、TMEDAが特に好適である。特に好適なポリ(第三級アミン)プロモーターリガンドは、特に揮発性及び/または特に水及び/または酸溶解性の化合物であり、したがってTMEDAが好適である。
【0080】
使用可能である好適な芳香族炭化水素は、トルエンに対して±2.75pKa単位のpKaを有する任意の芳香族炭化水素であるが、pKaがトルエンより4.32単位低いジフェニルメタンなどの芳香族炭化水素も、以下の限りにおいて、使用可能であることが考えられる:1)重合体マイクロ構造にジフェニルメタン部分が組み込まれても、最終的な最終用途に影響しない;及び/または2)そのような炭化水素のpKaが、反応条件下でH2のものより十分に高いので、水素介在型連鎖移動機構を妨げない。使用可能な芳香族炭化水素の限定ではなく例として、ベンゼン、トルエン、メシチレン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、アミルベンゼン、1,2-ジアリールエタン、1,3-ジアリールプロパン、クメン、t-ブチルベンゼン、1-アルキルナフタレン、2-アリルナフタレン、またはスチレン二量体もしくは低分子量オリゴマー分布集合(スチレン二量体、三量体、四量体、五量体、及び六量体)がある。そのような芳香族炭化水素の使用は任意選択であるものの、それらが存在することで、有機リチウム、より具体的にはアルキルリチウム試薬がポリ第三級アミンプロモーターに望ましくないアタックをしかけることが減少し、または阻止され、またはいずれにしろ軽減さ
れると思われる点で、それらの使用が好ましい。生成物分布集合から、蒸留によりまたは重合体沈殿により、容易に除去される炭化水素が好ましい。スチレンを用いるHMSHIPプロセスに特に好適な芳香族炭化水素は、エチルベンゼンである。
【0081】
使用可能な炭化水素溶媒は、反応条件下で水素分子(H2)より高いpKaを有する任意の炭化水素である。そのような好適な溶媒の限定ではなく例として、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及び上記の芳香族炭化水素がある。他の炭化水素溶媒も、それらの使用が塩型水素化物触媒、反応性中間体、一過性リビング重合体鎖、及び重合体鎖分布集合生成物の溶解性に影響を及ぼさないかぎり、使用可能である。
【0082】
芳香族炭化水素及び芳香族溶媒は、同じでも異なっていてもよい。これは、芳香族炭化水素が、芳香族炭化水素として及び溶媒としての両方で作用可能であることを意味する。例えば、エチルベンゼンは、スチレン重合において好適な成分であり、芳香族炭化水素及び溶媒の両方として使用可能である。この場合、SASHプロセスに関して成分(d)及び(e)は、まとめて1つの成分(または限界)となり同一であると思われる。同様に、それらは異なっていることも可能である。例えば、芳香族炭化水素はエチルベンゼンの場合があり、炭化水素はシクロヘキサンの場合がある。すなわち、成分(d)及び(e)は異なっていると思われる。そのうえさらに、成分(d)は、芳香族炭化水素が使用されなければ、任意選択であることも可能であり、例えば、シクロヘキサンが、成分(e)として使用される。
【0083】
上記のSASH触媒プロセスにおける水素分圧は、約0.001Bar~約10.0Bar、または約0.3Bar~約6.8Bar、または約0.5Bar~約5.2Bar、または約1.0Bar~約4.2Barの圧に維持される。約10.0Barより高い水素分圧は、プロセス条件が、水素の凝集相への移動を維持するための適切な混合を伴うルーチン操作を必然とする場合に、プロセス中のある一定時間、許容される。しかしながら、そのように上昇した水素分圧にある時間が相当に長いと、一般に、単量体の水素化がもたらされ、重合体分子量及び収率が、水素活性[H2]で動力学的連鎖長(ν)を表す数式IVにより予想されるものより相当に低下する。反対に、0.1Bar未満(1.5PSI未満)の水素圧は、水素化カリウム型のSASH触媒が関与するプロセスのルーチン操作中、許容される。低い水素分圧、したがって凝集相中の低いH2活性というそのような条件下、有機連鎖移動剤からの連鎖移動は、連鎖移動剤が添加されたのかプロセス実行過程中に形成されたのかにかかわらず、より大きく競合するようになる。なお、上記の分圧は、分圧が水素分子の凝集相活性を反映するように、水素分子から凝集相への適切な質量移動が維持される、すなわちH2の凝集相への効率的かつ定常状態の質量移動が確立される場合に限り意味のあるものである。すなわち、非常に高いH2分圧は、蒸気相と凝集相の混合が不十分なために凝集相への質量移動が減少し、そのため不十分な質量移動となってしまう場合に、適用可能である。
【0084】
その場合、本発明の塩型水素化物触媒により、窒素が「固定される」、すなわちN2が還元される可能性があり(もっとも、これについての証拠はまだ観測されていない)、セミバッチ条件下で操作する場合に反応器のヘッドスペース容積が単量体の供給により減少するため、N2を反応器のヘッドスペース及びシステムから除去するまたは少なくとも最小限にすることが望ましい可能性があるが、おそらく必須ではない。希ガス(He、Ne、Ar)など、活性化水素化物に対して一般に不活性と見なされる他の気体、または比較的軽い脂肪族もしくは脂環式炭化水素(反応温度に近いまたはそれ未満の沸点を有する炭化水素)の存在下で操作することは可能である。これらの不活性気体のうち、比較的軽い炭化水素が好ましい。なぜなら、そのような炭化水素は、概して、反応媒体に溶解性であり、したがって、一定の反応器圧で単量体を供給する過程中に、H2に置き換わって、それによりH2分圧を大幅に変化する量で低下させることがないからである。すなわち、ヘ
ッドスペースで圧縮状態になる不活性気体は、凝集相容積の上昇になるので、あまり望ましくない。しかしながら、ヘッドスペース容積が固定された連続プロセスにおけるそのような低溶解性気体、例えば希ガスなどの存在は、おそらく何らかの利益をもたらすように利用することができる。商業用反応器を一定圧の低い陽圧で操作することは困難であり、したがって、所望のH2分圧、したがって活性が、より高い反応器全体での圧で維持可能であるように、低沸点(石油エーテル)炭化水素を存在させることは有利となる可能性がある。そのような軽い炭化水素は、ある種の還流式冷却手段の追加利点さえも提供する可能性がある。
【0085】
SASHプロセスの場合、金属アルコキシド:有機リチウム(活性)化合物のモル比の大きさは、1:3~約3:1、または約0.66:1~約1.33:1、または約0.7:1~約1:1である。実施者は、加えた過剰の試薬が、可溶性SASH触媒の形成を妨げない限り、好適な範囲の外側の金属アルコキシド:有機リチウム(活性)の比を用いることができる。最初に投入される有機リチウム化合物がややモル過剰であること(例えば、最大約30%過剰)は、得られるSASH触媒の芳香族炭化水素への溶解性を改善するように思われる。[1:1]を大幅に上回るまたは下回る比の金属アルコキシド:有機リチウムの使用は、一般に、ポリ第三級アミンの投入量の増加を必要とする。有機リチウムが大過剰である大幅に高い比は、溶解性の低いリチウム型のSASH触媒(すなわちSASH触媒プロセスにおいて非常に低い溶解性及び活性であるナノメートル規模の水素化リチウム粒子、以下の実施例42及び43を参照)を形成する危険性がある。そのようなナノメートル規模の水素化リチウム固体の形成を招く条件は、許容されるものの、高価な試薬の非経済的使用となる可能性がある。
【0086】
単量体の全投入量対最初に形成される金属水素化物化合物のモル比(単量体:金属水素化物)は、約(10.0:1.0)~約(1000.0:1.0)、または約(40.0:1.0)~約(600.0:1.0)、または約(150.0:1.0)~約(360.0:1.0)である。一方で、形成される金属水素化物のモル量は、有機リチウム炭素金属結合のモル量と等しいと見なされ、その共役酸は、pKa>H2を有し、これは、触媒形成反応の条件下、pKa<H2を有するすべてのプロトン性種との反応後も残存する。分解反応による金属水素化物の量の減少はどんなものも、考慮に入れずに、触媒不活性化に寄与する条件(例えば、温度)ならびに試薬(例えば、容易に金属化を起こし、有機リチウム試薬により分解される、ある種のエーテルなどの有機種)を回避するだけでよい。
【0087】
本発明のプロセス技術のバッチまたはセミバッチ操作において、単量体(例えばスチレン)は、反応媒体に、経時的に供給され、したがって、単量体供給の最初の1滴または増分に由来する蒸気が反応器に導入されるまさにその瞬間の単量体:有機リチウムの最初の比は、数学的に極限(1:∞)に近づく。すなわち、記載される好適な範囲外の投入される全単量体対投入される有機リチウム化合物のモル比-すなわち単量体対有機リチウムの極限から始まる範囲にあるモル比(1.0:∞~約1.00:0.101、これは約9.9:1.0である)-は、以下に提示される各実施例の始めに実行可能な範囲として実証される。しかしながら単量体供給は、一般に、より高い所望の単量体対金属水素化物比に達するまで続けられる。極限からのものに限定される(1.0:∞~1.00:0.10)投入モル比の実施は、本発明の範囲内にあるが、有機リチウム化合物の非経済的利用を表すにすぎない。
【0088】
反対に、有機リチウムに対して約1000:1より大きい相対モル比で単量体を供給すると、実行不可能になり;連鎖移動が減少して、望ましくない分子量分布(MWD)の組成物を生成する結果となる。300:1のスチレン:有機リチウム化合物の比から形成されるSASHポリスチレン分布集合の理論上のMn(MnTh別名Mcalc)は、MnTh300×104=31,200ダルトンである。300:1の単量体対触媒投入比を採用する典
型的な、水素媒介型SASH触媒アニオン性連鎖移動プロセスは、MW=1000を有する純粋なポリスチレン組成物を提供することができる。すなわち、EffCT=31,200/600=52であり、600Mn組成物を形成させるために必要な有機リチウム試薬の量は、5200%減少する。約600:1より十分に高い投入量も、SASHプロセスに関して本発明の範囲内にあるが、あまり望ましくない。
【0089】
SASHプロセスの場合、単量体PTA組成物を使用する場合の投入された全金属、すなわちあらゆる形状で存在するアルカリ及びアルカリ土類金属のモル量、に対するポリ第三級アミン(PTA)プロモーターのモル比の大きさ(PTA:金属)は、約(1.2:1)~約(8:1)、または約(1.3:1)~約(4:1)、または約(1.8:1)~約(2.7:1)である。ポリ第三級アミンの量は、アルカリ金属アルコキシドが最初に形成される反応媒体に十分に溶解するために必要な量であるとともに、SASH触媒を溶解させ水素連鎖移動機構を促進する量でなければならない。SASH触媒の触媒活性及び見かけの溶解性は、両方とも、(PTA:金属)のモル比の上昇とともに上昇する可能性がある。しかし、活性のそのような上昇は、安定させなければならず、そのため(4:1)を大幅に上回る投入比は、あったとしても、利点をあまり提供せず、しかも過剰な遊離(触媒と錯形成していない)ポリ第三級アミンから形成された不純物の増加を招く可能性がある。
【0090】
触媒の量に対する単量体供給率は、重合体組成物の多分散度PDn、したがって、Mn、MW、MZ、PDn、数平均標準偏差(σn)、及び非対称度(nα3)の値により測定される場合の総合分子量分布(MWD)の設定に関して、動力学的決定因子である。したがって、所定の反応器設計または形状中、所定のH2活性(または分圧)において、ある特定の相対速度で単量体を供給することが望ましい。触媒に対して単量体の相対供給率が非常に小さい(すなわち、約15モル未満の単量体/時間/モル活性Li)と、望ましくないレベルの還元(本質的に水素化された)単量体を、いくらかの二量体とともに生成することになることが明らかなはずである。そのうえさらに、生成した組成物は、高い非対称値を有し、あまり望ましくない。一方で、非常に高い相対供給率は、一般に、より大きい分子量分布を形成し、そのような組成物は、他のやり方で連鎖移動をほとんどまたは全く起こさずに経済的に製造することが可能である。SASH触媒は経験的分子式も分子式も、特定されておらず、定義する必要もなく、既知のそうした触媒の分子量についてもそうであるため、触媒に対する単量体(スチレン)の時間供給率は、触媒中に存在すると推定される活性水素化物の量で表される。各等モルの活性有機リチウムが、1等モルの塩型水素化物を形成すると仮定する。すなわち、本発明の実施において、塩型水素化物化合物に対する単量体の時間供給率は、反応器に投入された活性塩型水素化物試薬1モルあたり1時間あたり単量体約10~約350モルの範囲、より好ましくは反応器中で最初に形成される塩型水素化物1モルあたり1時間あたり単量体約65~約260モルの範囲になければならない。再び、等モルの塩型水素化物は、触媒が形成された場合に、最初に投入された活性有機リチウムのモル当量に等しいと見なされる。再び、活性有機リチウムは、反応混合物中に存在するH2よりも低いpKaを有するありとあらゆるプロトン性種との反応後に残る有機リチウム基の量を意味する。そして、これらの残存活性有機リチウム基は、プロセスを通じて、水素分子により活性塩型水素化物へ完全に変換されるものとみなされ、別の塩型金属基の中間形成を必然的に伴う可能性がある。例えば、n-ブチルリチウムは、一過性n-ブチルカリウム試薬に変換されてから、還元されて、超活性水素化カリウム触媒を形成するようであるが、水素化カリウムの量は、活性n-ブチルリチウムの量と関連する。
【0091】
単量体供給過程中の反応混合物の温度は、約20℃~約130℃の範囲、または約40℃~約99℃の範囲、または約60℃~約90℃の範囲に維持される。それより高温を、プロセス実行全体に、またはプロセス実行の一部に採用することが可能であると考えられ
る;しかしながら、触媒の分解をどのようなものでも促進する及び/または重合体鎖から水素化物を除去し及び末端が不飽和結合である連鎖を形成する温度は、回避することが一番である。そのような水素化物排除終結反応の量は、温度及び触媒組成とともに変化するはずである。SASH触媒の形成及び最初の加熱中、触媒は、炭化水素溶媒(または混合溶媒)の融点または供給される単量体の凍結点のすぐ上の温度で混合される。触媒成分を、低温で(すなわち-10~15℃)及びさらには極低温条件で(-10℃~-126℃)混合することは、ポリ(第三級アミン)プロモーターの部分分解を招く恐れがあるリチウム化または他の金属付加反応を回避または抑制する利点を有する場合がある。しかしながら、塩型水素化物触媒またはその一過性前駆錯体及び試薬の沈殿をもたらす条件は、おそらく回避することが一番である。
【0092】
反応媒体中の単量体の所望レベルの分散は、プロセス実行の過程全体を通じて、水素を蒸気相から移動させる効率及び/または凝集相への水素ガス供給に依存することになる。理想的には、商業規模、試験規模、さらにはベンチ規模の反応器は、蒸気相から凝集相への水素移動が、単量体供給の過程全体を通じて本質的に均一であるように、設計及び構成することができる。相間でのそのように均一な水素移動下では、反応器中局所的に高濃度が存在するような単量体の供給により、単量体からその飽和類似体への還元を最小限にすることが望ましい。ベンチ規模または小試験規模反応器中、そのように局所的に高い単量体濃度は、比較的遅い供給速度を用いて単量体対触媒の供給率及び比を相対的に非常に高くすることにより達成される。巨大な商業設備では、単量体は、反応混合物の塊から物理的に離れているまたは別離していることが可能な反応域(すなわち、ポンプを取り巻くループ)に供給される。
【0093】
例えば、一定した熱流量でのプロセス温度の急激な低下及び/またはH2取り込みの終了により示されるとおり、SASH触媒プロセスの単量体供給及び反応が完了したら、反応混合物を、水素圧下に維持し、次いで、クエンチ及び水洗浄のため洗浄反応器に移す。洗浄反応器は、水が投入されている(酸及びH2SO4などの鉱酸または酢酸などの有機酸を含むまたは含まない)。さらに、洗浄反応器には、任意選択の追加量の炭化水素溶媒をあらかじめ投入することができる。クエンチは、冷却しながら、または周辺温度~洗浄反応器の圧条件下で炭化水素溶媒が水と共沸物を形成する温度までで行うことができる。生成物を水で洗い、アルカリ金属塩ならびにプロモーター及び分極剤の少なくとも一部を除去する。非常に強い酸性条件下、そのような試薬は、酸から形成されるアルカリ及びアルカリ土類金属塩でほぼ完全に除去される。酸に等しいまたはそれ以下の塩基性が使用される条件下では、プロモーターを、有機反応混合物と水性洗浄液の間で分配する。水洗浄は、存在する洗浄水に所望のpHが得られるまで続ける。塩基性条件下、pH9~pH11は、全てのアルカリ及びアルカリ土類金属塩が除去されたことを示す。酸性条件下、pH6~pH8(洗浄水のアルカリ性に依存する)は、すべての酸性種が除去された、または少なくとも中和されたことを示す。
【0094】
洗浄が完了したと見なされたら、溶媒ならびにあらゆる残存するポリ第三級アミンプロモーター及び単量体還元生成物の一部を、好ましくは分離させて、反応混合物から回収し、それにより、最後の痕跡量の水も、反応混合物から共沸除去する。この分離操作は、得られる生成混合物の単量体還元生成物含有量が約0.1wt%未満になるまで続けなければならない。単量体二量体含有量の低下による生成物分布のさらなる修飾及び形成が、用途によっては望ましい。高沸点二量体の場合、これは、薄膜蒸発器を用いて容易に行われる。
【化4】
【0095】
最初に形成される、塩型水素化物により開始される水素介在型スチレン分布集合として特に好適なものは、スチレン単量体及び水素のみから形成され、上記構造の鎖長分布を有する。この鎖長分布は、相対モル含有量の統計数平均分布でi-1の離散した重合体鎖長で構成され、式中、iは、i=2~i=iの正の整数である。すなわち、(鎖-1)について、n=0(スチレン二量体)の場合、i=2であり;(鎖-2)について、n=1(スチレン三量体)の場合、i=3であり;(鎖-3)について、n=2(スチレン四量体)の場合、i=4であり;(鎖-4)について、n=3(スチレン五量体)の場合、i=5であり;(鎖-5)について、n=4(スチレン六量体)の場合、i=6であり;…そして(鎖-(i-1))について、n=i-2の場合、i=iである。すなわち、(i-1)番目の離散した重合体鎖とは、最大鎖長の離散した重合体鎖である。本発明者らは、本発明の重合体組成物についてのGPC分子量分布(MWD)分析結果が、概して、ガンマ確率密度関数(PDF)で合理的にモデル化できることを見出した。しかし、より重要なことに、本発明者らは、SASH触媒から形成された組成物が、概して、ベータPDFでより正確にモデル化されたことを見出した;このことは、SASH触媒プロセスの場合、分子量分布が、デッド重合体鎖(スチレン二量体)の顕著な再生と併せて連鎖移動により決められることを示していると思われ、ならびに重合体分布集合の形成においてエチルベンゼンが有機連鎖移動剤として活性化、沈殿、または組み込まれることを示す。
【0096】
本発明の鎖長分布の分子量分布は、スチレンが単量体である場合、Mnが315~905ダルトンの範囲にあること;MWが約392~約1716ダルトンの範囲にあること;及びMZが約512~3031ダルトンの範囲にあること;PDnが1.24~1.90の範囲にあること;このとき、標準偏差が156~857ダルトンの範囲にあり、非対称度が1.40~約3.14の範囲にあることにより、特性決定される。より好適な組成物は、Mnが410~680ダルトンの範囲にあり;MWが約553~約1205ダルトンの範囲にあり;及びMZが約745~1950ダルトンの範囲にあり;PDNが1.29~1.82の範囲にあり;このとき、標準偏差が257~600ダルトンの範囲にあり、非対称度が1.50~約2.60の範囲にある、分子量分布を有する。特に好適な組成物は、Mnが444~683ダルトンの範囲にあり;MWが約600~約1150ダルトンの範囲にあり;及びMZが約798~1768ダルトンの範囲にあり;PDnが1.35~1.68の範囲にあり;このとき、標準偏差が263~565ダルトンの範囲にあり、非対称度が1.50~約2.31の範囲にある、分子量分布を有する。
【0097】
本発明の好適な非ブレンド組成物は、本質的に、スチレンのみではない場合に限り構成され、その鎖長分布を、最小分子量鎖部分を除去することによりさらに成形または修飾されたものにしている。分子量が低い方の鎖、特にスチレン二量体を除去することは、最低値(複数可)または最低値(複数可)の一部をその他全ての算術平均(例えば、成績評価点平均)から除去するようなものであり、これにより、全体的な分子量分布が上昇した新たな平均が得られる。すなわち、本発明の好適な修飾後の分子量分布は、未改変の分布と重なり合うことになるが、改変されたことの単純数値結果故に、上記の分子量分布または分子量パラメーターの範囲内に含まれない場合がある。すなわち、二量体が削減されているが依然として存在し、全分布の0.1~1.0wt%(GPC分析により特定した場合)を占める好適な組成物は、Mnが407~968ダルトンの範囲にあり;MWが約487
~約1746ダルトンの範囲にあり;及びMZが約579~3038ダルトンの範囲にあり;PDnが1.40~1.80の範囲にあり;このとき、標準偏差が180~868ダルトンの範囲にあり、非対称度が1.31~約3.12の範囲にある分子量分布または鎖長分布を有する。より好適な組成物は、Mnが494~788ダルトンの範囲にあり;MWが約623~約1278ダルトンの範囲にあり;及びMZが約782~1964ダルトンの範囲にあり;PDnが1.26~1.62の範囲にあり;このとき、標準偏差が253~621ダルトンの範囲にあり、非対称度が1.40~約2.40の範囲にある分子量分布を有する。特に好適な組成物は、Mnが521~737ダルトンの範囲にあり;MWが約661~約1202ダルトンの範囲にあり;及びMZが約827~1783ダルトンの範囲にあり;PDnが1.27~1.63の範囲にあり;このとき、標準偏差が270~586ダルトンの範囲にあり、非対称度が1.40~約2.50の範囲にある分子量分布を有する。
【0098】
なお、統計的分布集合を1つにまとめるブレンド操作は、非統計的分布集合をもたらす可能性があり、その場合、PDn、標準偏差について提示された制約は、当てはまらないと思われる。しかしながら、そのようなブレンドも、本発明の組成物の組み合わせにより形成される、及び本発明から形成されるという点で、本発明の範囲内に含まれる。
【0099】
本出願の別の実施形態は、以下から形成される、炭化水素可溶性触媒または試薬組成物であり:(a)水素分子;(b)有機リチウム化合物;(c)ポリ第三級アミン化合物;(d)アルコキシド、このアルコキシドは、アルカリ金属アルコキシド、及び/または、マグネシウムアルコキシド及び/またはカルシウムであり;(e)任意選択で、トルエンのpKaより2.75pKa単位高いpKa~トルエンのpKaより-4.30pKa単位低いpKaの範囲内に少なくとも1つのC-H共有結合pKaを有する芳香族炭化水素;ならびに(f)炭化水素溶媒;芳香族炭化水素及び炭化水素溶媒は、同じでも異なっていてもよく;この触媒を含む水素化物の溶解性は、1リットルあたり少なくとも約0.010モルであり、より好ましくは、1リットルあたり約0.10モルより高く;及び、金属アルコキシドがマグネシウムアルコキシドである場合、任意選択の芳香族炭化水素は、ビニル芳香族単量体である。
【0100】
SASH触媒プロセスについて上記されたものと同じ、限定ではない例及び量を、上記の触媒組成物に使用することができるので、繰り返す必要はない。
【0101】
本明細書または本明細書の特許請求の範囲のどの場所であっても、化学名または化学式により示される成分は、単数で示されるか複数で示されるかに関わらず、それらが、化学名または化学種により示される別の物質(例えば、別の成分、溶媒など)と接触することになる前から存在するとして同定される。化学的変化、変換、及び/または反応は、もしあったとしても、得られる混合物または溶液中でどのようなものが起こるかは問題ではない。というのも、そのような変化、変換、及び/または反応は、本開示に従って要求される条件下、指定される成分を一緒にした自然の結果であるからである。すなわち、成分は、所望の操作を行うことに関連して、または所望の組成物を形成する上で、一緒にされる成分として同定される。また、本明細書中以下の特許請求の範囲は、物質、要素、及び/または成分を、現在形(「comprises(含む)」、「is(は)」など)で示す場合があるものの、そのような言及は、物質、要素、または成分に対して、それが、本開示に従って、1種または複数の他の物質、要素、及び/または成分と最初に接触、ブレンド、または混合された直前の時点で存在していたということである。物質、要素、または成分が、接触、ブレンド、または混合操作の過程中に、化学反応または変換を通じてその元来の独自性を失ってしまう場合があるという事実は、そうした操作が本開示に従って及び化学の当業者に従って行われる場合には、事実上問題ない。
【0102】
本明細書中記載され、特許請求される本発明は、本明細書中開示される具体的な実施例及び実施形態によりその範囲が限定されることはない。なぜなら、それら実施例及び実施形態は、本発明の複数の態様の例示であることを意図するからである。任意の等価な実施形態が、本発明の範囲内に含まれることが意図される。実際、本明細書中示され記載されるものの他に、本発明の様々な修飾形態が、上記の説明から当業者に明らかとなるだろう。そのような修飾形態も添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0103】
以下の実施例は、本発明を例示する。しかし、当然のことながら、本発明は、本明細書中で十分に説明されるとおり、及び特許請求の範囲で挙げられるとおり、以下の実施例の詳細により限定されることを意図しない。
【実施例】
【0104】
HASH触媒プロセス実施例1~3
実施例1~3は、HASH触媒プロセスの限定ではなく例を提供する。HASH触媒プロセスに使用される装置は、米国特許第5,771,169号及び同第5,866,720号にすでに記載されている。
【0105】
実施例1
ビフェニル連行剤を用いたHASH触媒スチレン重合
乾燥窒素雰囲気下、20℃で、反応器に、無水テトラヒドロフラン820g、ナトリウムカリウム合金(NaK2)5ml(4.33g、0.128g原子アルカリ金属)、及びビフェニル0.50g(0.00324モル)を投入した。反応混合物を撹拌せずに、水素(3×65PSIG)で窒素をパージし、50PSIGのH2で加圧した。高速高剪断混合(1900RPM)を行い、反応混合物に、スチレン200.0g(1.92モル)を70分かけて(3.15ml/分)供給した。スチレン単量体供給中、反応器圧は、50~40PSIGのH2に維持した。供給が完了したら、反応器からH2を放出させ、反応混合物を、イソプロピルアルコールで注意しながらクエンチした。クエンチした反応混合物の試料を、GPC分析したところ、以下のMWDであった:Mn:965、MW:2005、MZ:3318、PD:2.078、σn=1002、nα3=2.602.
【0106】
実施例2
HASH触媒スチレン重合
乾燥窒素雰囲気下、20℃で、反応器に、無水テトラヒドロフラン820g及びナトリウムカリウム合金(NaK2)4.8g(0.142g原子アルカリ金属)を投入した。反応混合物を撹拌せずに、水素(3×65PSIG)で窒素をパージし、55PSIGのH2で加圧した。高速高剪断混合(1900RPM)を行い、反応混合物に、スチレン217.0g(1.92モル)を76分かけて(3.15ml/分)供給した。スチレン単量体供給中、反応器圧は、55~45PSIGのH2に維持した。供給が完了したら、反応器からH2を放出させ、反応混合物を、イソプロピルアルコールで注意しながらクエンチした。クエンチした反応混合物の試料を、GPC分析したところ、以下のMWDであった:Mn:897、MW:1677、MZ:2722、PD:1.87、σn=836、nα3=2.55.
【0107】
実施例3
連行剤を用いないHASH触媒スチレン重合
乾燥窒素雰囲気下、20℃で、反応器に、無水テトラヒドロフラン818g及びナトリウムカリウム合金(NaK2)6.2g(0.183g原子アルカリ金属)を投入した。反応混合物を撹拌せずに、水素(3×70PSIG)で窒素をパージし、70PSIGのH2で加圧した。高速高剪断混合(1900RPM)を行い、反応混合物に、スチレン208.0g(2.00モル)を73分かけて(3.15ml/分)供給した。スチレン単
量体供給中、反応器圧は、70~60PSIGのH2に維持した。供給が完了したら、反応器からH2を放出させ、反応混合物を、イソプロピルアルコールで注意しながらクエンチした。クエンチした反応混合物の試料を、GPC分析したところ、以下のMWDであった:Mn:591、MW:943、MZ:1438、PD:1.60、σn=456、nα3=2.38。反応物の塊を、エチルベンゼンの入った縦溝入り洗浄反応器に移し、THFをストリッピングし、ついで水で洗った。薄膜蒸発器WFE(2インチのガラスPope Still、グラファイトブレード、300.0mmHG真空、140℃、1.0リットル/時間の速度で供給してワイパーのフルスピードの60%で操作)でさらにストリッピングして、ポリスチレン樹脂191gを得た。これは以下のGPC MWDを有していた:Mn:603、MW:956、MZ:1373、PD:1.58、σn=461、nα3=1.906。上記の191gのうち164gを試料として、第二のWFE操作に供し(0.4mmHG真空、230℃、1.0リットル/時間の速度で供給してワイパーのフルスピードの60%)、樹脂153.6gを得た。これは以下のGPC MWDを有していた:Mn:802、MW:1081、MZ:1418、PD:1.35、σn=473、nα3=1.645.
【0108】
SASH触媒プロセス実施例4~60
実施例4~60は、本発明のポリスチレン重合体組成物の分布集合を形成するSASH触媒プロセスのためのプロセスを提供する。
【0109】
使用装置全般
HMSHIPプロセスに使用される装置は、以下のとおりである。熱電対、底部排出弁、冷却コイル、熱オイルジャケット、及び2つまたは3ついずれかのピッチブレードタービンインペラ(各インペラの配置は、実施例に記載のとおり)を備えた316ステンレス鋼2リットルParrオートクレーブに、さらにピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、窒素でパージした250mlステンレス投入容器、十分に較正された高圧定量ポンプ、及び内径0.02インチ、または0.01インチ、または0.007インチいずれかの末端部分を有する1/16インチOD表面下単量体供給ライン(実施例に記載のとおり)を装着した。撹拌器の磁気駆動部を、高速エア式モーターと接続し、概して、撹拌インペラが1130±25RPMの速度で回転するように操作した。オートクレーブは、オイルバブラーへと、及び/または6リットルオイルジャケットを装着した縦溝入り洗浄容器へと放出するようになっており、縦溝入り洗浄容器は、底部排出部を有するとともに、オーバーヘッドの撹拌及び蒸留用の装備を有する。底部排出弁及び液浸脚試料採取口は、どちらも、クエンチされていない反応混合物の直接移送のため、洗浄容器へと配管されている。バルク溶媒(例えば、シクロヘキサンまたはエチルベンゼン、あるいは先行するプロセス実行から回収されたそれらの混合物)は、ピストンポンプを介して、投入容器を通じて反応器に投入される。触媒成分(例えば、TMEDA/カリウムt-ブトキシド/溶媒溶液及びブチルリチウム)は、投入容器を通じて別々に反応器に投入される。投入容器の内容物は、最小限の窒素を用いて、窒素または水素または水素/窒素雰囲気を有するオートクレーブに圧移送される。スチレンは、高圧定量ポンプを介して、予め定めた一定速度で、阻害剤を除去するための塩基性アルミナカラムを通じて供給される。水素は、ヘッドスペース及び/または表面下に供給され、所望の圧に維持される。オートクレーブ反応器は、所望の反応温度にまたはそのすぐ上(+1℃~+3℃)に温度設定点を有するオイルで加熱されるので、反応温度は、いったん反応器コントローラが指示を出したら(一般に、周辺温度で開始した場合、単量体供給の最初の20~30分後)、予め定めた設定点に厳密に維持された。すなわち、反応温度は、所望の設定点温度を概して5℃以上超えない、わずかな例外温度しか有さない。
【0110】
本発明の開発過程中、3通りの別個の構成(以下の構成I~III)、すなわち2つ、3つ、または4つのピッチブレードタービンインペラを含む配置が、用いられた:
I.2つのピッチブレードがあり、反応器の頂部から、1つめは6.25インチ、及び2つ目は10インチの位置にある。
II.2つのピッチブレードがあり、反応器の頂部から、1つめは5.5インチ、及び2つ目は10インチの位置にある。
III.3つのピッチブレードがあり、反応器の頂部から、1つめは4.0インチ、2つ目は6.75インチ、及び3つ目は10インチの位置にある。
そして、構成Iは、概して、単量体スチレン供給の最後の3分の1の間、水素取り込みに顕著な減少が生じた。構成II及びIIIは、概して、供給過程の間、水素の取り込みにやや減速を生じ、供給の後半の間、水素取り込みを復旧させた。重合反応器は容積が2000mlで最大稼働容積1750mlを有し、最初に形成される反応混合物は、典型的には体積400~600mlであることから、安全に供給できるスチレンの最大体積は、1350ml~1150mlの範囲にある(重合に際しての温度または密度変化は考慮しない)。すなわち、そのような体積(1150ml~1350ml)のスチレンを供給することは、この反応器構成の場合、スチレンまたは単量体の満投入と見なされる。スチレンの満投入またはスチレンの部分投入という用語、または投入されるスチレンの少数部分を意味するために使用される任意の用語もしくは他の語句は、上記に記載されるとおりの装置に対する限定または制約であり、どのような形でも、異なる反応器構造または構成または操作様式(バッチ、セミバッチ、セミ連続式、連続式、逆混合、または差し込みフロー、これらは全て、本発明の範囲内にある様式及び/または構成である)を有する反応器システム(複数可)での本発明のプロセスまたは実施にかかる限定を表さない。以下に記載される実施例は、本発明のバッチまたはセミバッチ操作の代表例である。明らかに、当業者なら、これら実施例から教示を得て本発明の応用を拡張して、あるレベルの逆混合の有無に関わらず連続操作を必然的に伴う操作様式を含めることができ、そのような様式は、本発明の範囲内に十分含まれる。
【0111】
窒素雰囲気下で重合反応器への投入がなされる場合、オートクレーブ反応器は、少なくとも3回、65PSIGのH2で加圧し、次いで放出させる(65PSIGから0PSIGへ)ことによりパージされる。次いで、重合反応器を、所望のH2圧に加圧する。反応器への投入が、水素雰囲気を有する反応器に対してなされる場合、反応器は、50PSIGのH2での加圧及び放出を2回行う。スチレン(99%、Acros)、TMEDA(Aldrich)、カリウムt-ブトキシド(97%、Alfa Aesar)、N-ブチルリチウム(2M含有シクロヘキサン、Aldrich)は、それぞれ、業者から受け取ったまま使用する。無水シクロヘキサン、及びエチルベンゼン(どちらもAldrich)は、不活性乾燥窒素雰囲気下で取り扱う。反応混合物は、洗浄反応器に移すことによりクエンチされる。
【0112】
実施例4~9
実施例4~9の実験詳細(反応条件、試薬投入量、及び初期ならびに最終触媒濃度)、スケールアップパラメーター(相対供給量及び時間あたりの相対単量体供給率)、及び結果(GPCにより測定した場合の重合体分子量分布及び重合体収率)を、表形式で表IIIに提示する。触媒濃度は、ppm KH*で表し、この計算は、形成した全てのKHが超活性型であり、単一塩型水素化物種として(凝集体ではなく)反応媒体中に可溶性であると仮定し、TMEDAと形成したどのような錯体も無視し(質量計算において)及びリビング重合体鎖または連鎖開始種に存在する触媒のどのような量も無視する。これは、本発明の1つの実施形態とさらに別のものとの比較を単純にするため、便宜的にのみ、このようにして表される。例示目的で、実施例4及び実施例6を、以下にさらに詳細に説明する。
【0113】
実施例4
スチレン供給体積を低下させて用いる一次触媒スクリーニング反応の実証
乾燥窒素雰囲気下、23℃で、反応器に、無水シクロヘキサン500gを投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、2つのピッチブレードインペラ、ブレードの配置は構成I)、そこに、投入容器を通じて、カリウムt-ブトキシド11.2g(0.998mol.)、エチルベンゼン1.06g(0.01mol.)、及びTMEDA47g(0.404mol.)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう容器及びラインを、75g部のシクロヘキサンでフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム50ml(0.100mol.)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて50g分量のシクロヘキサンを移した。反応器の撹拌を1130RPMに上昇させ、次いで、乾燥H2で65PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、N2をパージした。H2レギュレータを25PSIGにし、スチレン200g(1.92mol.)を、表面下供給ライン(内径0.01インチの先端、5.2ft/秒)を通じて46分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間反応器温度は27℃に維持した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。
【0114】
標準後処理手順
反応混合物のクエンチしていない内容物を、予め脱酸素水300mlを投入し65℃に加熱した洗浄容器に移した(N2雰囲気)。こうして、反応混合物は、洗浄反応器中で、注意しながらクエンチされる。次いで、反応混合物を脱酸素水で洗った(合計3×300ml)。相カットは、60℃で行い、その場で要したのはわずかな沈殿時間だけであった。水及びあらゆる澱または乳濁液を、底部排出弁を通じて除去した。反応器から除去される洗浄水のpHを監視した。最初の洗液は、常にpH=14であった。除去された洗浄水相がpH=10になるまで、追加の脱酸素水洗浄(約300ml)を行った。pH=10は、全てのアルカリ金属が除去されたことを示す。他の実験に対する注として、pH=10(標準pH紙)に到達するために一般に合計3回の洗浄が必要であったが5回の洗浄を超えることは決してなかった。洗浄反応混合物から、GPCによる分析用に一定量を分取した(Mn:357、MW:545、MZ:936、PD:1.53、σn=259、nα3=3.72)。
【0115】
実施例6
中温56℃~65℃での実行におけるシクロヘキサン中でのSASH触媒プロセス実行について単量体供給体積がフルスケールである代表例
乾燥窒素雰囲気下、23℃で、反応器に、無水シクロヘキサン250gを投入した。溶媒を撹拌しながら(1130RPM、2つのピッチブレードインペラ、ブレードの配置は構成I)、そこに、投入容器を通じて、カリウムt-ブトキシド3.27g(0.0291mol.)、エチルベンゼン3.56g(0.0336mol.)、及びTMEDA15.00g(0.129mol.)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及びラインを、70g部のシクロヘキサンでフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム14.56ml(0.0291モル)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて70g分量のシクロヘキサンを移した。撹拌を1130RPMに上昇させ、反応器を、乾燥H2で65PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、N2をパージした。H2レギュレータを19PSIGに設定し、反応器を60℃に加熱し、スチレン911g(8.75mol.)を、表面下供給ライン(内径0.01インチの先端、5.2ft/秒)を通じて208分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して
供給し、その間反応器温度は66℃に維持した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。スチレン供給の約90%が完了した後、水素取り込みは、顕著に遅くなった。
【0116】
反応混合物のクエンチしていない内容物を、標準後処理手順に従って洗った。洗浄反応混合物から、GPCによる分析用に一定量を分取した(Mn:455、MW:697、MZ:1044、PD:1.53、σn=332、nα3=2.37)。
【0117】
生成物単離の標準手順
洗浄反応器中、通常の蒸留により、徐々に洗浄反応器のジャケット温度を165℃に加熱しながら、生成物からシクロヘキサン、TMEDA、及びエチルベンゼンをストリッピングした。蒸留は、容器温度が135℃超の温度に達した時点で完了とみなした。溶液は、放冷して、939gの溶液を収集した。次いで、溶液からさらに、薄膜蒸発器(WFE、2インチのガラスPope Still、50.0mmHG真空、140℃、ワイパーのフルスピードの60%で操作、1.0リットル/時間で供給)を用いてエチルベンゼン及びTMEDAをストリッピングした。この最初のWFE操作により、超活性塩型水素化物により開始されたポリスチレン分布集合(SASH PS分布集合)677gが得られ、これは、以下のGPC MWDを有した:Mn:357、MW:545、MZ:936、PD:1.53、σn=259、nα3=3.72。2回目のWFE操作(0.1~0.3mmHG真空、120℃、ワイパーのフルスピードの60%、1.0リットル/時間で供給)により、SASH PS分布集合638.1gが得られ、これは、12.26GPC面積%のスチレン二量体含有量、及び以下のGPC MWDを有していた:Mn:483、MW:724、MZ:1066、PD:1.50、σn=341、nα3=2.30。
【0118】
実施例10~19
実施例10~19の実験詳細(反応条件、試薬投入量、及び初期ならびに最終触媒濃度)、スケールアップパラメーター(相対供給量及び時間あたりの相対単量体供給率)、及び結果(GPCにより測定した場合の重合体分子量分布及び重合体収率)を、表形式で表IVに提示する。100%を超える生成物収率は、有機連鎖移動剤の純取り込み量を表し、有機連鎖移動剤はこれらの実施例ではエチルベンゼンである。100%未満の生成物収率は、エチルベンゼンの純生産量を表す。SASH触媒実施例14は、全ての離散した重合体鎖(すなわち全ての連鎖二量体及びそれ以上)を含む全分布集合に関してSASH PS重合体分布集合に収率100%という結果をもたらした。実施例14は、二量体の除去後にSASH PS重合体分布集合の収率88%をもたらしたので、表IVの10の実施例を実施した中の代表例と見なされる。そこで、実施例14を、以下にさらに詳細に説明する。
【0119】
実施例13
中温70℃でエチルベンゼン中でのSASH触媒プロセス実行について単量体供給体積が80%である代表例
乾燥窒素雰囲気下、20℃で、反応器に、無水エチルベンゼン300g(2.83モル)のうち200gを投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、2つのピッチブレードインペラ、ブレードの配置は構成I)、そこに、投入容器を通じて、カリウムt-ブトキシド4.57g(0.0407mol.)、エチルベンゼン44g(0.41mol.)、及びTMEDA20.83g(0.179mol.)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及びラインを、上記300gのうち50g部のエチル
ベンゼンでフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム20.34ml(0.0407モル)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて上記から50g分量のエチルベンゼンを移した。反応器を65℃に加熱した。次いで、撹拌を1130RPMに上昇させ、反応器を、乾燥H2で65PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、N2をパージした。H2レギュレータを11PSIGに設定し、スチレン800g(7.68mol.)を、表面下供給ライン(内径0.01インチの先端、5.2ft/秒)を通じて183分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は70℃に制御した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。
【0120】
反応混合物のクエンチしていない内容物を、洗浄反応器に移し、次いで標準後処理手順に従って洗った。クエンチしていない反応混合物を移す間に、反応混合物の試料10mlを、分析用に得る。試料は赤色をしており光に対して透明であって、この試料に、リビングAPSプロセス試料の色と同様な外観を与えている。試料の外観は、水素雰囲気不在下で行われたアニオン性連鎖移動重合の試料の特徴的な暗黒赤色(ブラックチェリー色)とは全く似ていない。触媒成分をN2下で混合してから水素化物を形成させる場合のSASH触媒のそのような試料は、概して、巨大(mmサイズの)触媒粒子を含有する可能性がある。試料にメタノールを滴下してクエンチすると、赤色は直ちにクエンチされて、直ちに水素ガスの発生及び放出が起こる。クエンチした粗反応混合物のGPC分析は、以下のとおりであった:Mn:367、MW:497、MZ:695、PD:1.35、σn=218、nα3=2.38.
【0121】
次いで、生成物を、生成物単離の標準手順に従って単離し、SASH PS分布集合827.9gを得た。これは、以下のGPC MWDを有した:Mn:376、MW:508、MZ:707、PD:1.35、σn=223、nα3=3.34。2回目のWFE操作(0.1~0.3mmHG真空、172.5℃、ワイパーのフルスピードの60%、1.0リットル/時間で供給)により、608.7のSASH PS集合分布が得られ、これは、0.99GPC面積%のスチレン二量体含有量、及び以下のGPC MWDを有していた:Mn:486、MW:593、MZ:750、PD:1.22、σn=228、nα3=2.15.
【0122】
実施例14
中温56℃~65℃でエチルベンゼン中でのSASH触媒プロセス実行について単量体供給体積がフルスケールである代表例
乾燥窒素雰囲気下、20℃で、反応器に、無水エチルベンゼン300g(2.83モル)のうち200gを投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、2つのピッチブレードインペラ、ブレードの配置は構成I)、そこに、投入容器を通じて、カリウムt-ブトキシド3.02g(0.0269mol.)、エチルベンゼン43.5g(0.41mol.)、及びTMEDA13.75g(0.118mol.)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及びラインを、50g部のエチルベンゼンでフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム13.44ml(0.0269モル)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて50g分量のエチルベンゼンを移した。反応器を65℃に加熱した。次いで、撹拌を1130RPMに上昇させ、反応器を、乾燥H2で65PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、N2をパージした。H2レギュレータを15PSIGに設定し、スチレン1050g(10.08mol.)を、表面下供給ライン(内径0.01インチの先端、5.2ft/秒)を通じて24
0分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は67℃~68℃に制御した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。スチレン供給の約80~90%が完了した後、水素取り込みは、顕著に遅くなった。
【0123】
反応混合物のクエンチしていない内容物を、洗浄反応器に移し、次いで標準後処理手順に従って洗った。クエンチしていない反応混合物を移す間に、反応混合物の試料10mlを、分析用に得る。試料は赤色をしており光に対して透明であって、この試料に、リビングAPSプロセス試料の色と同様な外観を与えている。試料の外観は、水素雰囲気不在下で行われたアニオン性連鎖移動重合の試料の特徴的な暗黒赤色(ブラックチェリー色)とは全く似ていない。触媒成分をN2下で混合してから水素化物を形成させる場合のSASH触媒のそのような試料は、概して、巨大(mmサイズの)触媒粒子を含有する可能性がある。試料にメタノールを滴下してクエンチすると、赤色は直ちにクエンチされて、直ちに水素ガスの発生及び放出が起こる。クエンチした粗反応混合物のGPC分析は、以下のとおりであった:Mn:560、MW:914、MZ:1344、PD:1.63、σn=445、nα3=2.03.
【0124】
次いで、生成物を、生成物単離の標準手順に従って単離し、SASH PS分布集合1050gを得た。これは、以下のGPC MWDを有した:Mn:357、MW:545、MZ:936、PD:1.53、σn=259、nα3=3.72。2回目のWFE操作(0.1~0.3mmHG真空、172.5℃、ワイパーのフルスピードの60%、1.0リットル/時間で供給)により、925.0のSASH PS集合分布が得られ、これは、0.99GPC面積%のスチレン二量体含有量、及び以下のGPC MWDを有していた:Mn:728、MW:1019、MZ:1380、PD:1.40、σn=460、nα3=1.80.
【0125】
プロセス実行が完了したら、オートクレーブ反応器を標準ドラムグレードの(無水ではない)エチルベンゼンですすぎ、窒素で十分にパージし、次いで検査のため開ける。加熱された反応器壁は、概して固体を有さないものの、しかしながら、冷表面(すなわち、冷却コイル、撹拌器集合体、液浸脚、単量体供給ライン、及びサーモウエル)は、最初の反応器撹拌内容物体積の境界線を示す溶媒ライン、すなわち水素及びスチレンを投入する前に形成された撹拌反応媒体の高さまたはレベルのところまで赤色結晶固体に厚く覆われていた。
【0126】
実施例20~28
実施例20~28の実験詳細(反応条件、試薬投入量、及び初期ならびに最終触媒濃度)、スケールアップパラメーター(相対供給量及び時間あたりの相対単量体供給率)、及び結果(GPCにより測定した場合の重合体分子量分布及び重合体収率)を、表形式で表Vに提示する。これらの実施例は、先行する1回または複数回のプロセス実行から回収されたリサイクルオリゴマー(主に>90%の二量体で構成される)を特徴とするため、GPC MWDは、スチレン二量体含有量を除く粗生成物分布についてのみ報告する。100%を超える生成物収率は、有機連鎖移動剤の純取り込み量を表し、有機連鎖移動剤はこれらの実施例ではエチルベンゼンである。概して、回収される二量体の量は、リサイクルで投入された量の約100%未満~約80%超であった。100%未満の生成物収率は、エチルベンゼン及び/または二量体の純生産量を表す。SASH触媒実施例24は、SASH PS重合体分布集合の収率102%及び二量体をストリッピングしてSASH P
S生成物分布集合の収率100%をもたらした。GPC Mn=234を有する回収二量体流を93.5g用いた実施例24は、Mn=215の回収二量体を120gもたらした。すなわち、表Vに示す実施例14及びその他の8つの実施例は、高収率の、塩型水素化物により開始される水素介在型スチレン重合プロセスを非常によく実証する。実施例24は、表IVの9つの実施例を実施した中の代表例と見なされる。そこで、実施例24を、以下にさらに詳細に説明する。
【0127】
実施例24
中温70℃~75℃で回収オリゴマーを用いるSASH触媒について単量体供給体積がフルスケールである代表例
乾燥窒素雰囲気下、23℃で、反応器に、エチルベンゼン154.76g(1.46mol)、シクロヘキサン126.84g、及びスチレンオリゴマー混合物(Mn=234、0.043モル)93.46gからなる無水混合溶媒を投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、2つのピッチブレードインペラ、ブレードの配置は構成I)、そこに、投入容器を通じて、カリウムt-ブトキシド3.51g(0.0313mol.)、エチルベンゼン51.5g(0.49mol.)、及びTMEDA15.98g(0.138mol.)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及びラインを、30ml部の無水シクロヘキサンでフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム15.63ml(0.0313モル)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて25g分量のシクロヘキサンを移した。次いで、撹拌を1130RPMに上昇させ、反応器を、乾燥H2で65PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、N2をパージした。H2レギュレータを20PSIGに設定し、スチレン1172g(11.26mol.)を供給しながら、反応器を72℃に加熱した。スチレンは、表面下供給ライン(内径0.01インチの先端、5.2ft/秒)を通じて263分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は72℃に制御した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。スチレン供給の約75%が完了した後、水素取り込みは、顕著に遅くなった。
【0128】
反応混合物のクエンチしていない内容物を、洗浄反応器に移し、次いで標準後処理手順に従って洗った。クエンチしていない反応混合物を移す間に、反応混合物の試料10mlを、分析用に得た。試料は赤~暗赤色をしており光に対して透明であって、ほとんどまたは全く沈殿または懸濁固体を含まなかった。試料にメタノールを滴下してクエンチすると、赤色は直ちにクエンチされて、直ちに水素ガスの発生及び放出が起こった。クエンチした粗反応混合物の二量体含有物を除くGPC分析は、以下のとおりであった:Mn:744、MW:1045、MZ:1390、PD:1.40、σn=473、nα3=1.59.
【0129】
次いで、生成物を、生成物単離の標準手順に従って単離し、SASH PS分布集合(SASH PS分布集合)1289gを得た。これは、二量体を除いて以下のGPC MWDを有した:Mn:770、MW:1096、MZ:1490、PD:1.42、σn=501、nα3=1.76。2回目のWFE操作(0.1~0.3mmHG真空、172.5℃、ワイパーのフルスピードの60%、1.0リットル/時間で供給)により、SASH
PS集合分布1169gが得られ、これは、0.60GPC面積%のスチレン二量体含有量、及び以下のGPC MWDを有していた:Mn:750、MW:1053、MZ:1395、PD:1.40、σn=477、nα3=1.56.
【0130】
プロセス実行が完了したら、オートクレーブ反応器を標準ドラムグレードの(無水ではない)エチルベンゼンですすぎ、窒素で十分にパージし、次いで検査のため開けた。加熱された反応器壁及び冷表面(すなわち、冷却コイル、撹拌器集合体、液浸脚、単量体供給ライン、及びサーモウエル)は、概して結晶固体を有さなかった。少量の赤色結晶固体が、単量体供給ライン液浸脚に付着していた。この実験及び同様な他の実験に基づき、相当量の単量体の存在により、窒素雰囲気下で形成されたTMEDAと錯形成した有機カリウムアニオンが、水素で還元されてSASH触媒を形成する前に結晶化することが抑制されると考えられる。
【0131】
実施例29~36
実施例29~36の実験詳細(反応条件、試薬投入量、及び初期ならびに最終触媒濃度)、スケールアップパラメーター(相対供給量及び時間あたりの相対単量体供給率)、及び結果(GPCにより測定した場合の重合体分子量分布及び重合体収率)を、表形式で表VIに提示する。
【0132】
実施例29
SASH触媒を形成するためのリビングアニオン性ポリスチレン分布集合からの部分的単量体供給
乾燥窒素雰囲気下、19℃で、反応器に、無水シクロヘキサン300mlを投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、2つのピッチブレードインペラ、ブレードの配置は構成I)、そこに、投入容器を通じて、TMEDA0.64g(0.0325モル)を含有するシクロヘキサン50ml、続いて2.0Mのn-ブチルリチウム16.27ml(0.0325モル)を順次投入し、続いてシクロヘキサン50mlを投入して、反応器に向かう投入容器及びラインを、フラッシュ洗浄した。スチレン全投入量316.4g(3.04mol)のうち25gを、2.8分かけて(10ml/分)、TMEDA:ブチルリチウム開始剤に供給して、リビングAPS組成物を形成させた。次いで、スチレン定量ポンプを0.25ml/分に設定し、低下した速度で供給を継続し、その間に、カリウムt-ブトキシド3.63g(0.0324mol.)、シクロヘキサン109ml、及びTMEDA18.96g(0.137mol.)から予め形成しておいた溶液を、反応器に投入した。反応器に向かう投入容器及びラインを、50ml部のシクロヘキサンでフラッシュ洗浄した。次いで、撹拌を1130RPMに上昇させ、反応器を、乾燥H2で65PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、N2をパージした。H2レギュレータを72PSIGに設定し、スチレン残部を4.93ml/分の供給率で供給しながら、反応器を72℃に加熱した。スチレンバルクは、表面下供給ライン(内径0.01インチの先端、5.3ft/秒)を通じて約71分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は72℃に制御した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。
【0133】
クエンチしていない重合反応混合物を、H2陽圧で、洗浄容器に移した。洗浄容器は、予め加熱されており(N2雰囲気)、また脱酸素水300mlが、先行するプロセス実行から蒸留されて回収されたシクロヘキサン100mlとともに投入されていた。すなわち、反応混合物は、洗浄反応器で、注意しながらクエンチされる。しかしながら、表VIのこの実施例及び次の5つの実施例(実施例30~34)に関して、移送は、液浸脚の試料ポートを通じて行われるため、反応混合物100mlすなわち約82gが、反応器に残された。こうして形成された反応物残部は、続いて行われるプロセス実行で、触媒の形成に使用された。実施例35のみが、反応器の全内容物を、洗浄反応器に移し、それによりこ
の一組の実施例を完了した。実施例29のクエンチされた反応混合物は、廃棄し、他の6回のプロセス実行の複合体の形成に使用しなかった。
【0134】
クエンチしていない反応混合物を移す間に、反応混合物の試料10mlを、分析用に得た。試料は明桃色(ピンクレモネード~熟す前のスイカ)をしており光に対して透明であって、懸濁固体を少し含んでいた。試料にメタノールを滴下してクエンチすると、桃色は直ちにクエンチされて、直ちに水素ガスの発生及び放出が起こる。しばらくの間、懸濁固体は、水素を生成または放出し続けたように見えた。クエンチした粗反応混合物のGPC分析は、以下のとおりであった:Mn:351、MW:706、MZ:1331、PD:1.40、σn=353、nα3=3.53。なお、このGPC MWDは、Mn:1330、MW:1480、MZ:1680、PD:1.12、σn=447、nα3=1.776で、約35GPC面積%を占める二量体以上の組成の高分子量画分を有する二峰性であり、組成物の大部分はエチルベンゼンであった。
【0135】
実施例30及び31
有機連鎖移動剤を加えずに72℃のプロセス実行で形成されたSASH触媒を用いたシクロヘキサン中でのSASH触媒プロセス実行について単量体供給体積がフルスケールである代表例
水素雰囲気(0PSIG)下、反応器中、30℃で、先行する実施例の残部に、無水シクロヘキサン250mlを投入した。反応混合物を撹拌しながら(1130RPM、2つのピッチブレードインペラ、1つ目は撹拌シャフトの底部にあり、2つ目は1つ目より5.0インチ上に位置する)、そこに、投入容器を通じて、カリウムt-ブトキシド3.63g(0.0324mol.)、シクロヘキサン109ml、及びTMEDA19.6g(0.169mol.)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及び移送ラインを、50ml部のシクロヘキサンでフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム16.11ml(0.0322モル)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて50ml分量のシクロヘキサンを移した。触媒成分を投入するときに入り込んだ痕跡量のN2を、乾燥H2で50PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、パージした。H2レギュレータを72PSIGに設定し、72℃に加熱し、一方でスチレン912.4g(8.76mol.)を、表面下供給ライン(内径0.01インチの先端、5.3ft/秒)を通じて205分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は72℃に維持した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。スチレン供給の約66%が完了した後、水素取り込みは、最初の量に対して明らかに遅くなったが、取り込みは、スチレン単量体供給が終わるまで、十分な速度で継続した。
【0136】
クエンチしていない重合反応混合物を、H2陽圧で、洗浄容器に移した。洗浄容器は、予め65℃に加熱されており(N2雰囲気)、また脱酸素水300mlが投入されて撹拌されていた。粗反応混合物の移送は、液浸脚の試料ポートを通じて行われたため、反応混合物100ml、すなわち約82gが、次のプロセス実行用に反応器に残された。次いで、反応器に無水シクロヘキサン250mlを投入し、65PSIGの水素雰囲気下、400rpmで撹拌しながら、30℃に冷却した。
【0137】
実施例31の場合、SASHスチレン重合プロセスは、実施例30について上記したものからわずかに実験的差がある範囲内で正確に繰り返された。プロセス実行が完了したら
、反応器の内容物を、液浸脚の試料ポートを通じて移送して、あらかじめ形成された水溶液300mlで実施例30由来の反応混合物をクエンチしたものを加熱(65℃)及び撹拌しているところに加えた。後に残った実施例31の残部100mlを、無水シクロヘキサン250mlと混合し、この一連のプロセス実行の次の実施例のために30℃に冷却した。
【0138】
実施例30及び31で形成されたクエンチされた反応混合物を1つにまとめ、脱酸素水で水洗いし(3×300ml)、容器温度が135℃に到達するまで、シクロヘキサン、TMEDA、及びプロセスで形成されたエチルベンゼンを蒸留することにより濃縮した。冷却することで、これらの試料を収集し、後で実施例32と33及び実施例34と35で形成された洗浄及びストリッピングした混合生成物とひとまとめにするために取っておいた。
【0139】
実施例30及び31のクエンチしていない反応混合物を移す間に、各反応混合物の試料10mlを、分析用に得た。試料は明桃色をしており光に対して透明であって、懸濁固体を少し含んでいた。試料にメタノールを滴下してクエンチすると、直ちに水素ガスを放出して無色になった。実施例30及び31のクエンチした粗反応混合物のGPC分析は、以下のとおりであった:実施例30.Mn:401、MW:637、MZ:1067、PD:1.59、σn=308、nα3=3.24;実施例31:Mn:423、MW:659、MZ:1025、PD:1.59、σn=316、nα3=2.64。すなわち、組成物は、分子量がほぼ同一であり、実施例30は、実施例29のMW=1480ダルトンのAPSアーチファクトよりやや非対称度が上昇していた。
【0140】
実施例36
上記複合体のブレンド、ならびに薄膜蒸発器によるエチルベンゼン及び二量体の回収
実施例30と31、実施例32と33、及び実施例34と35の洗浄及びストリッピングした混合生成物をまとめることにより、複合体ブレンドを形成させた。これは、実施例30と31、実施例32と33のこれら洗浄及びストリッピングしたブレンドを、実施例34と35の洗浄及びストリッピングしたブレンドの入った洗浄反応器に、100℃で、加え戻すことにより行った。ブレンド後、生成物溶液を放冷し、溶液4857.99を収集した。次いで、薄膜蒸発器(WFE、2インチのガラスPope Still、50.0mmHG真空、140℃、ワイパーのフルスピードの60%で操作、1.0リットル/時間で供給)を使用して、生成物溶液からエチルベンゼン及びTMEDAをさらにストリッピングした。この最初のWFE操作により、SASH PS分布集合2986.7g(スチレン二量体以上の収率61.5%)が得られ、これは以下のGPC MWDを有した:Mn:428、MW:663、MZ:1050、PD:1.55、σn=317、nα3=2.83。2回目のWFE操作(0.1~0.3mmHG真空、172.5℃、ワイパーのフルスピードの60%、1.0リットル/時間で供給)により、SASH PS分布集合2332.7(収率50%)が得られ、これは1.4GPC面積%のスチレン二量体含有量及び以下のGPC MWDを有した:Mn:558、MW:763、MZ:1100PD:1.40、σn=477、nα3=1.56。同じく2回目のWFE操作から回収されたのは、スチレンオリゴマー組成物642.18gであり、これは、Mn:213、MW:220、MZ:227、PD:1.031であった。
【0141】
一連の7回のプロセス実行(実施例29~35)が完了したら、オートクレーブ反応器を標準ドラムグレードの(無水ではない)シクロヘキサンですすぎ、窒素で十分にパージし、次いで検査のため開けた。加熱された反応器壁及び冷表面(すなわち、冷却コイル、撹拌器集合体、液浸脚、単量体供給ライン、及びサーモウエル)は、概して結晶固体を有さなかった。しかしながら、水溶性白色粉末固体のわずかな沈着物が、重合反応器の加熱された壁に付着していた。
【0142】
実施例37~43
実施例37~43の実験詳細(反応条件、試薬投入量、及び初期ならびに最終触媒濃度)、スケールアップパラメーター(相対供給量及び時間あたりの相対単量体供給率)、及び結果(GPCにより測定した場合の重合体分子量分布及び重合体収率)を、表形式で表VIIに提示する。実施例37~42は、上記で詳細に提示した実施例14と類似の様式で行った。これらの実施例が、本発明のあまり好適ではない実施形態となっていることは、結果から明らかである。当然のことながら、実施例37は、有機連鎖移動剤としてm-キシレンを使用し、その結果、ポリスチレン組成物が生成するが、SASH触媒で連鎖開始された部分の他に、組成物の相当部分が、m-キシレンで連鎖開始している。実施例38は、少なくともこの重合温度に、35℃という低さは、あまり好ましくないことを示す。実施例39~42は、ナトリウム及びリチウムがどちらも、低分子量アニオン性連鎖移動ポリスチレン分布集合を形成させるのにあまり好適ではない形のSASH触媒であることを実証する。実施例43を、以下により詳細に記載する。
【0143】
実施例43
一元金属リチウムSASH触媒プロセス
水素雰囲気(0PSIG)下、20℃で、反応器に、無水エチルベンゼン300gを投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、2つのピッチブレードインペラ、構成III)、そこに、投入容器を通じて、tert-ブチルアルコール3.62g(0.0489mol.)、エチルベンゼン69.9g(0.66mol.)、及びTMEDA23.50g(0.202mol.)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及び移送ラインを、50g部のエチルベンゼンでフラッシュ洗浄した。撹拌を1130RPMに上昇させ、次いで、2.0Mのn-ブチルリチウム54.10ml(0.11モル)をエチルベンゼン100gに溶解させた溶液を、投入容器を通じて、反応器にゆっくりと移した。反応器温度は、5℃から25℃に上昇し、圧は、2PSIGに上昇した後、-4PSIGに降下して、ブチルリチウム溶液及び続いてすすぎ分のエチルベンゼン50g部を反応器に吸引した。合計570g(5.4mol.)のエチルベンゼンを含む反応器を90℃に加熱した。触媒成分を投入するときに入り込んだ痕跡量のN2を、乾燥H2で50PSIGに加圧(ヘッドスペースを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、パージした。H2レギュレータを最初に21PSIGに設定した。スチレン462.2g(4.44mol.)を、表面下供給ライン(内径0.02インチの先端、1.2ft/秒)を通じて116分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は90℃に維持し、それから徐々に水素圧を41PSIGに上昇させた。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水シクロヘキサン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。反応は、とてもゆっくりではあるが、水素を取り込んだ。
【0144】
反応混合物のクエンチしていない内容物を、65℃に加熱された脱酸素水300mlが予め投入された洗浄容器(N2雰囲気)に移し、次いで脱酸素水(3×300ml)で洗った。この反応混合物から、水性クエンチ物を分離させて、適切に廃棄した。クエンチしていない反応混合物を移す間に、クエンチしていない反応混合物から10mlを、分析用に分取した。この無色試料には、非常に細かく分離した固体が全体に均一に懸濁していた。試料をメタノールでクエンチすると、粘性混合物から直ちに水素ガスが発生して放出された。試料のGPC分析は、標準高分子量カラム及びポリスチレン標準物質を用いて、以下のとおりであった:GPC MWDは、Mn:1030、MW:5635、MZ:10,
066、PD:5.47、σn=2178、nα3=4.13。
【0145】
実施例44~60
実施例44~51及び実施例52~60の実験詳細(反応条件、試薬投入量、及び初期ならびに最終触媒濃度)、スケールアップパラメーター(相対供給量及び時間あたりの相対単量体供給率)、及び結果(GPCにより測定した場合の重合体分子量分布及び重合体収率)を、それぞれ、表形式で表VI及び表VIIに提示する。実施例44~57は、先行する1回または複数回のプロセス実行から回収されたリサイクルオリゴマー(主に>90%の二量体で構成される)を反応混合物の形成に使用することを特徴とする。そのため、実施例44~60の全てについて、実施例どうしの比較を簡単にする目的で、GPC MWDは、スチレン二量体含有量を除く粗生成物分布について報告する。100%を超える生成物収率は、有機連鎖移動剤の純取り込み量を表し、有機連鎖移動剤はこれらの実施例ではエチルベンゼンである。概して、回収される二量体の量は、リサイクルで投入された量より多かった。100%未満の生成物収率は、エチルベンゼン及び/または二量体の純生産量を表す。SASH触媒実施例60は、SASH PS重合体分布集合の収率105%及び二量体をストリッピングしたSASH PS生成物分布集合の収率89%という結果になった。これらの実施例は、凝集相へ均一またはほぼ均一に水素移動させる場合、有機連鎖移動が水素の関与する連鎖移動との競合に、より上手く勝るように、75℃超の温度が好適であることを実証する。この一連の実施例の中で特に本発明の特長であるのは、水素雰囲気下での比較的遅い(15~20分)有機リチウム試薬の供給である。この技法または投入プロトコルは、最も再現性の高い触媒活性及びプロセス実行間の再現性を提供する。実施例54を実施例55と合わせて、ならびに実施例60を、以下にさらに詳細に説明する。
【0146】
実施例54及び55
80℃でのSASH触媒について二量体リサイクルを用い単量体供給体積がフルスケールである代表例
無水エチルベンゼン336ml(290.9g、2.74モル)及びスチレンオリゴマー混合物154ml(Mn=227、143.0g、0.63モル)を含む反応溶媒を形成させ、合計で約490mlとした。乾燥水素雰囲気(0PSIGのH2)下、20℃で、反応器に、混合溶媒のうち340mlを投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、3つのピッチブレードインペラ、上記の構成III)、そこに、投入容器を通じて、窒素陽圧を介して、カリウムt-ブトキシド4.01g(0.0357mol.)、エチルベンゼン69.9g(0.66mol)、及びTMEDA19.90g(0.171mol)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及び移送ラインを、上記の合計量から50ml部の反応溶媒でフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム18.91ml(0.0378モル)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて上記の合計量から50ml分量の反応溶媒を2回、移した。有機リチウム試薬の15分の供給開始時に、撹拌を1130RPMに上昇させた。有機リチウム投入中、反応器圧は、-3PSIGに降下した。反応器ヘッドスペースを、乾燥H2で50PSIGに加圧(表面下供給ラインを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、パージした。H2レギュレータを18PSIGに設定し、スチレン1038.8g(9.97mol.)を供給しながら反応器を80℃に加熱した。スチレンは、表面下供給ライン(内径0.02インチの先端、1.88ft/秒)を通じて163分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は80℃に維持した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラム(酸性アルミナ)も含めて、無水エチルベンゼン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給
中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。62±10分という短時間(スチレン供給の約41%、反応器中の合計反応質量935g)で、水素取り込みが遅くなったことが観察された。しかしながら、水素取り込みは、合計508gのスチレン(全スチレン供給の約50%、または反応器中の反応質量約1050g)供給が完了した後、完全に回復した。水素取り込みは、残りの供給全体を通じて、概して一定したままであった。
【0147】
クエンチしていない重合反応混合物を、H2陽圧で、予め加熱され、脱酸素水300mlが予め投入された洗浄容器(N2雰囲気)に移した。すなわち、反応混合物は、洗浄反応器中で、注意しながらクエンチされる。上記プロセスを、試薬の定量及び条件の再現における実行間のわずかな変動内で同一の投入量及び条件を用いて、実施例55として繰り返した。
【0148】
クエンチしていない反応混合物(実施例54及び55)を移す間に、各反応混合物の試料10mlを、分析用に得た。試料は赤色をしており光に対して透明であって、沈殿または懸濁固体はなかった。試料に移送ピペットからメタノールを滴下してクエンチした。メタノールは直ちに赤色をクエンチし、直ちに水素ガスが発生及び放出される。二量体含有量を除く、クエンチした粗反応混合物のGPC分析は、以下のとおりであった:実施例54 Mn:533、MW:681、MZ:892、PD:1.278、σn=281、nα3=2.086;実施例55 Mn:555、MW:722、MZ:961、PD:1.301、σn=304、nα3=2.100。すなわち、本発明のこのSASHプロセスの堅牢性及び実行間再現性が実証される。
【0149】
二相混合生成物が、実施例54及び55で形成され、クエンチ水を76℃に加熱し、それから相を分離させた。相カットは、76℃で容易に行われ、その場で要したのはわずかな沈殿時間だけであった。水及びあらゆる澱または乳濁液を、底部排出弁を通じて除去した。反応器から除去される洗浄水のpHを監視した。最初の洗液は、常にpH=14であった。除去された洗浄水相がpH約10になるまで、追加の脱酸素水洗浄(2×350ml)を行った。pH10は、全てのアルカリ金属が除去されたことを示す。洗浄反応器中、通常の蒸留により、徐々に洗浄反応器のジャケット温度を165℃に加熱しながら、シクロヘキサン、TMEDA、及びエチルベンゼンを、生成物からストリッピングした。蒸留は、容器温度が140℃超の温度に達した時点で完了とみなした。溶液を放冷して、3271gの溶液を収集した。次いで、溶液からさらに、薄膜蒸発器(WFE、2インチのガラスPope Still、50.0mmHG真空、140℃、ワイパー速度はフルスピードの60%で操作、1.0リットル/時間で供給)を用いてエチルベンゼン及びTMEDAをストリッピングした。この最初のWFE操作により、SASH PS分布集合2299.8gが得られ、これは二量体を含むGPC MWDとして以下:Mn:416、MW:610、MZ:884、PD:1.466、σn=284、nα3=2.251;二量体を含まないものとして以下:Mn:547、MW:705、MZ:932、PD:1.289、σn=294、nα3=2.122を有した。2回目のWFE操作(0.1~0.3mmHG真空、172.5℃、ワイパー速度はフルスピードの60%、1.0リットル/時間で供給)により、SASH PS分布集合1790gが得られ、これは、0.62GPC面積%のスチレン二量体含有量、及び以下のGPC MWDを有していた。Mn:559、MW:719、MZ:941、PD:1.29、σn=299、nα3=2.00。
【0150】
実施例60
90℃でのSASH触媒について単量体供給体積がフルスケールである代表例
乾燥水素雰囲気(3PSIGのH2)下、20℃で、反応器に、無水エチルベンゼン合計487ml(422.13g、3.98mol)のうち337mlを投入した。溶媒を撹拌しながら(800RPM、3つのピッチブレードインペラ、上記の構成III)、そ
こに、投入容器を通じて、窒素陽圧を介して、カリウムt-ブトキシド3.75g(0.0324mol.)、エチルベンゼン69.9g(0.67mol)、TMEDA17.90g(0.154mol)から予め形成しておいた溶液を投入した。反応器に向かう投入容器及び移送ラインを、上記の合計量から50ml部の無水エチルベンゼンでフラッシュ洗浄した。次に、2.0Mのn-ブチルリチウム21.88ml(0.0438モル)を、投入容器を通じて、反応器に移し、続いて上記の合計量から50ml分量の無水エチルベンゼンを移した。有機リチウム試薬の15分の供給開示時に、撹拌を1130RPMに上昇させた。有機リチウム投入中、反応器圧は、0PSIGに降下した。反応器ヘッドスペースを、乾燥H2で50PSIGに加圧(表面下供給ラインを通じて)及び放出(内容物が発泡して反応器から出ることがないようにゆっくりと放出)を3回行うことにより、パージした。H2レギュレータを23PSIGに設定し、スチレン1044.9g(10.03mol.)を供給しながら反応器を90℃に加熱した。スチレンは、表面下供給ライン(内径0.02インチの先端、2.02ft/秒)を通じて153分の時間をかけて水素ヘッド圧に対抗して供給し、その間温度は90℃に維持した。スチレン供給が終了したら、反応器への単量体供給ラインを、アルミナカラムも含めて、無水エチルベンゼン50mlでフラッシュ洗浄した。スチレン供給及び反応器へのフラッシュ洗浄は、それ以上反応熱が観測されなくなったら完了したものとみなし、これは一般に、コイル化コイル上の自動制御弁の永続的閉鎖により示される。プロセス実行過程中、水素レギュレータへの弁は、スチレン供給中の水素取り込みを確認するために、周期的に閉じられた。60±10分という短時間(スチレン供給の約41%、反応器中の合計反応質量910g)で、水素取り込みが遅くなったことが観察された。しかしながら、水素取り込みは、合計510gのスチレン(全スチレン供給の約50%、または反応器中の反応質量約1000g)供給が完了した後、完全に回復した。水素取り込みは、残りの供給全体を通じて、概して一定したままであった。
【0151】
クエンチしていない重合反応混合物を、H2陽圧で、洗浄容器に移した。洗浄容器は、予め加熱されており(N2雰囲気)、また脱酸素水300mlがあらかじめ投入されていた。すなわち、反応混合物は、洗浄反応器中で、注意しながらクエンチされる。この二相混合生成物を76℃に加熱し、それから相を分離させた。相カットは、76℃で容易に行われ、その場で要したのはわずかな沈殿時間だけであった。水及びあらゆる澱または乳濁液を、底部排出弁を通じて除去した。反応器から除去される洗浄水のpHを監視した。最初の洗液は、常にpH=14であった。除去された洗浄水相がpH約10になるまで、追加の脱酸素水洗浄(2×300ml)を行った。pH10は、全てのアルカリ金属が除去されたことを示す。
【0152】
クエンチしていない反応混合物を移す間に、反応混合物の試料10mlを、分析用に得た。試料は赤色~暗赤色をしており光に対して透明であって、沈殿または懸濁固体はほとんどまたは全くなかった。試料にメタノールを滴下してクエンチした。メタノールは直ちに赤色をクエンチし、直ちに水素ガスが発生及び放出される。クエンチした粗反応混合物のGPC分析は、以下のとおりであった:二量体を含むGPC MWDのMn:474、MW:718、MZ:1070、PD:1.516、σn=340、nα3=2.369;二量体を除いてMn:590、MW:795、MZ:1103、PD:1.347、σn=348、nα3=2.327。洗浄反応器中、通常の蒸留により、徐々に洗浄反応器のジャケット温度を165℃に加熱しながら、シクロヘキサン、TMEDA、及びエチルベンゼンを、水で洗った混合生成物からストリッピングした。蒸留は、容器温度が135℃超の温度に達した時点で完了とみなした。溶液は、放冷して、1770gの溶液を収集した。次いで、溶液からさらに、薄膜蒸発器(WFE、2インチのガラスPope Still、50.0mmHG真空、140℃、ワイパーのフルスピードの60%で操作、1.0リットル/時間で供給)を用いてエチルベンゼン及びTMEDAをストリッピングした。この最初のWFE操作により、SASH PS分布集合1100.0gが得られ、これは二量体
を含むGPC MWDとして以下:Mn:481、MW:724、MZ:1070、PD:1.506、σn=342、nα3=2.319を有した。2回目のWFE操作(0.1~0.3mmHG真空、172.5℃、ワイパーのフルスピードの60%、1.0リットル/時間で供給)により、SASH PS分布集合932.0gが得られ、これは、0.47GPC面積%のスチレン二量体含有量、及び以下のGPC MWDを有していたMn:605、MW:812、MZ:1119、PD:1.34、σn=354、nα3=2.28。さらに、Mn=222を有するスチレンオリゴマー混合物165.49g(投入したスチレンの15.8%)が回収された。
【0153】
分析方法
低分子量(MW<1600ダルトン)の場合のMW、Mn、MZ、及びPD値による分子量分布は、Viscotek TDAモジュール式システムにUV検出器、オートサンプラー、ポンプ、及び温度制御カラム室を装備したものを用いて、GPCにより測定した。使用したカラムは、Agilent Oligoporeカラム、300mm×7.5mm、部品番号1113-6520であった。使用した溶媒は、テトラヒドロフラン、HPLCグレードであった。使用した試験手順は、試料約0.06~0.1gを10mlのTHFに溶解させる必要があった。この溶液から一定量を分取して、濾過し、200μLをカラムに注入する。単離された1,3-ジフェニルブタン(二量体)及び1,3,5-トリフェニルヘキサン(三量体)付加体、及び分離モードがサイズ排除であることに基づいて、ピークをそれらの溶出順序に従って、1,3-ジフェニルブタン、1,3,5-トリフェニルヘキサン、1,3,5,7-テトラフェニルオクタン(四量体)、1,3,5,7,9-ペンタフェニルデカン(五量体)などと同定する。次いで、オリゴマー材料の個々のピークに、分子量の理論値を割り当てる。これらの理論値及びそれらに対応する滞留時間を用いて、較正曲線を構築する。この較正に基づいて、全体的な分布データを、計算し報告する。計算は、Viscotek Omnisec、バージョン4.2.0.237ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)データ収集及び処理システムにより行った。
【0154】
それより高分子量(M
W>1600ダルトン)の場合のM
W、M
n、M
Z、及びPD値による分子量分布は、Viscotek TDAモジュール式システムにUV検出器、オートサンプラー、ポンプ、及び温度制御カラム室を装備したものを用いて、GPCにより測定した。以下の3種のAgilent Technologiesカラムを、分離を行うために直列で使用した:(1)Oligoporeカラム、300mm×7.5mm、部品番号1113-6520、(1)Mixed Bed E、300mm×7.5mm、部品番号1110-6300、及び(1)Mixed Bed D、300mm×7.5mm、部品番号1110-6504。使用した溶媒は、テトラヒドロフラン、HPLCグレードであった。使用した試験手順は、試料約0.06~0.1gを10mlのTHFに溶解させる必要があった。この溶液から一定量を分取して、濾過し、200μLをカラムに注入する。単離された1,3-ジフェニルブタン(二量体)及び1,3,5-トリフェニルヘキサン(三量体)付加体、及び分離モードがサイズ排除であることに基づいて、ピークをそれらの溶出順序に従って、1,3-ジフェニルブタン、1,3,5-トリフェニルヘキサン、1,3,5,7-テトラフェニルオクタン(四量体)、1,3,5,7,9-ペンタフェニルデカン(五量体)などと同定する。次いで、オリゴマー材料の個々のピークに、分子量の理論値を割り当てる。これらの理論値及びそれらに対応する滞留時間を、分子量既知のポリスチレン参照用標準物質と合わせて用いて、較正曲線を構築する。この較正に基づいて、全体的な分布データを、計算し報告する。上記のとおり、計算は、Viscotek Omnisec、バージョン4.2.0.237ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)データ収集及び処理システムにより行った。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【表9-4】