(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】研削工具を試験する方法及び対応する装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20230621BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20230621BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20230621BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20230621BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
G01N21/892 Z
G01B11/24 K
B24B49/12
B23Q17/22 D
B23Q17/24 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019001836
(22)【出願日】2019-01-09
【審査請求日】2021-12-23
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504269327
【氏名又は名称】クリンゲルンベルク・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Klingelnberg GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・シュヴァイツァー
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/169782(WO,A1)
【文献】特開2012-108037(JP,A)
【文献】特許第2627913(JP,B2)
【文献】特開2013-002810(JP,A)
【文献】特開2013-029350(JP,A)
【文献】特開2005-331274(JP,A)
【文献】特表2018-516178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01B 11/00 - G01B 11/30
B24B 41/00 - B24B 51/00
B23Q 17/00 - B23Q 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置(1)で
研削工具(20)を試験する方法であって、
-前記装置(1)の工具軸線(A1)周りを前記研削工具(20)が回転駆動するステップと、
-光学試験装置(30)による試験方法を実行し、前記光学試験装置(30)は、前記研削工具(20)の回転駆動中に光(L)に少なくとも部分的に照射される領域に配置され、前記光(L)は、前記
光学試験装置(30)のエミッタ(31)より発せられ、さらに、前記光(L)の少なくとも一部は、前記
光学試験装置(30)のセンサ(32)の方向に前記研削工具(20)によって反射され、前記センサ(32)は、試験情報(PI)を提供するステップと、
-前記試験情報(PI)は、前記研削工具(20)の3次元ベクトルモデル(Vm)の形態に巨視的基本情報(mG)を決定するため、計算装置(40)によって処理されるステップと、
-メモリ(42)から標的ベクトルモデル(S-Vm)が提供され、計算機を使用して前記
3次元ベクトルモデル(Vm)を前記標的ベクトルモデル(S-Vm)と比較
して、前記3次元ベクトルモデル(Vm)と前記標的ベクトルモデル(S-Vm)との間の偏差(ΔVm)を決定するステップとを有
しており、
前記巨視的基本情報(mG)は、少なくとも
-前記研削工具(20)の直径、
-前記研削工具(20)の幅、
-前記研削工具(20)のピッチ及び/または傾斜、
-前記研削工具(20)の輪郭の角度、
-前記研削工具(20)の輪郭の厚さ、
-前記研削工具(20)のポイントの半径
のうち、1つまたはそれ以上に関する情報を含む方法。
【請求項2】
前記3次元ベクトルモデル(Vm)が、少なくとも基体(24)によって前記研削工具(20)を定めることを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記3次元ベクトルモデル(Vm)が、少なくとも基体(24)の縁によって前記研削工具(20)を定めることを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも、前記研削工具(20)の第1の部分領域が、前記3次元ベクトルモデル(Vm)に基づいて決定されることを特徴とする、請求項1から請求項
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記研削工具(20)の前記第1の部分
領域の局所的偏差は、前記標的ベクトルモデル(S-Vm)の対応する前記第1の部分
領域から計算された結果として、互いに関連して設定されていることを特徴とする、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記研削工具(20)は、ガルバニック被覆の研削工具
、ガルバニック砥石車(20.1)、ガルバニック研削ウォーム(20.2)、またはガルバニックカップ砥石(20.3)であることを特徴とする、請求項1から請求項
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記研削工具(20)を用いて研削材を研削するように設計されている研削盤、または測定装置(10)において使用されることを特徴とする、請求項1から請求項
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
試験され
る研削工具(20)用の回転駆動可能なレセプタクル(13,14)を備える装置(1)であって、
-回転駆動可能な前記レセプタクル(13,14)の領域に配置され、前記研削工具(20)が回転駆動されている間、少なくとも部分的に、
光学試験装置(30)
のエミッタ(31)の発する光(L)によって照射され、光(L)の少なくとも一部は、前記
光学試験装置(30)
のセンサ(32)の方向に前記研削工具(20)から反射可能であり、前記センサ(32)は
、試験情報(PI)を提供するように適合されている、前記光学試験装置(30)と、
-巨視的基本情報(mG)から前記研削工具(20)
の3次元ベクトルモデル(Vm)を決定するために、前記試験情報(PI)を処理するように設計された
、計算装置(40)と、
-標的ベクトルモデル(S-Vm)が記憶されてい
るメモリ(42)と、
-前記
3次元ベクトルモデル(Vm)を前記標的ベクトルモデル(S-Vm)と比較
して、前記3次元ベクトルモデル(Vm)と前記標的ベクトルモデル(S-Vm)との間の偏差(ΔVm)の決定を可能とするように設計された前記計算装置(40)とを備え、
前記巨視的基本情報(mG)は、少なくとも
-前記研削工具(20)の直径、
-前記研削工具(20)の幅、
-前記研削工具(20)のピッチ及び/または傾斜、
-前記研削工具(20)の輪郭の角度、
-前記研削工具(20)の輪郭の厚さ、
-前記研削工具(20)のポイントの半径
のうち、1つまたはそれ以上に関する情報を含むことを特徴とする、装置(1)。
【請求項9】
前記研削工具(20)を試験するために設計された座標測定装置(10)であることを特徴とする、請求項
8に記載の装置(1)。
【請求項10】
前記研削工具(20)を用いて研削材を研削し、さらに前記研削工具(20)を試験するように設計された研削盤(11)であることを特徴とする、請求項
8に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削工具を試験するための方法及び対応する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
研削工具が使用される多くの技術分野がある。一例としては、ギアの歯切りであり、砥石車、カップ砥石、及び研削ウォームが用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
時に、電気メッキ研削工具は、研削時間を短くすることを可能にし、高い研削材の除去率で低摩耗性を示すので、ギアの歯切りに使用される。そのような電気メッキ研削工具は、それゆえに、例えば大量生産においてホイールセットを機械加工するのに適している。
【0004】
電気メッキまたはガルバニック接着研削工具(galvanic bonded grinding tools)は、ここでは略してガルバニック研削工具と呼ばれる。ガルバニック接着ドレッシング工具(ドレッシングロールなど)もまた、ここではガルバニック研削工具と呼ばれる。
【0005】
本件の問題のガルバニック研削工具の場合、研削工具の基体はダイヤモンド砥粒及び/またはCBN砥粒(CBNは立方晶窒化ホウ素の略語)で被覆されている。
【0006】
対応して被覆されたガルバニック研削工具は、非常に良好な耐熱性を有し、そして高い機械的強度を示す。その上、ガルバニック研削工具は良いグリップ性を有する。しかしながら、ガルバニック研削工具は、ドレスできないことが欠点であると見られ得る。一方、ガルバニック研削工具は通常、形状及び外形を保持する。この形状保持も利点であり、それゆえ、ガルバニック研削工具が成形工具としてしばしば使用される。
【0007】
ガルバニック研削工具はドレスできないが、いくらかの努力により再コーティングすることができる。
【0008】
ガルバニック研削工具の形状保持を調べる必要がある。
【0009】
例えば、表面の状態及び外形の触覚による測定用に設計された様々な測定装置がある。一般的には、機械的走査中に、プローブ先端が測定されるべき表面上に載せられる。しかしながら、ガルバニック研削工具は、表面に粒状性があり、さらに砥粒のダイヤモンドまたはCBNは硬さを有することで、プローブ先端の急速な劣化に繋がる。触覚による測定方法は、それゆえに、ガルバニック研削工具の表面を測定するためには条件付きのみでしか適していない。
【0010】
ガルバニック研削工具について可能な限り迅速に試験を実施でき、かつ強固であるという要望がある。
【0011】
本発明の目的は、ガルバニック研削工具の迅速かつ正確な試験を可能にする装置及び対応する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本課題は、請求項1に記載の方法及び請求項8に記載の装置によって解決される。
【0013】
本発明によれば、装置の研削工具を試験するように設計され、少なくとも以下のステップを有する方法が提供される。
-装置の工具軸線(tool spindle axis)周りを研削工具が回転駆動するステップと、
-光学試験装置による試験方法を実行し、光学試験装置は、研削工具の回転駆動中に光に少なくとも部分的に照射される領域に配置され、光は、光学試験装置のエミッタにより発せられ、さらに、光の少なくとも一部は、光学試験装置のセンサの方向に研削工具によって反射され、センサは、試験情報を提供するステップと、
-試験情報は、研削工具の3次元ベクトルモデルの形態で巨視的基本情報を決定するため計算装置によって処理されるステップと、
-計算機を用いて、3次元ベクトルモデルをメモリから提供された標的ベクトルモデル(target vector model)と比較して、3次元ベクトルモデルと標的ベクトルモデルとの間の偏差を決定するステップとを有しており、
巨視的基本情報は、少なくとも
-前記研削工具(20)の直径、
-前記研削工具(20)の幅、
-前記研削工具(20)のピッチ及び/または傾斜、
-前記研削工具(20)の輪郭の角度、
-前記研削工具(20)の輪郭の厚さ、
-前記研削工具(20)のポイントの半径
のうち、1つまたはそれ以上に関する情報を含む。
【0014】
本発明によれば、試験される研削工具用の回転駆動可能なレセプタクルを備える装置(例えば、測定装置または研削盤)が提供される。この装置は、
-回転駆動可能なレセプタクルの領域に配置され、研削工具が回転駆動されている間、少なくとも部分的に、光学試験装置のエミッタの発する光によって照射され、光の少なくとも一部は、光学試験装置のセンサの方向に研削工具から反射でき、センサは、試験情報を提供するように適合されている、光学試験装置と、
-巨視的基本情報から研削工具の3次元ベクトルモデルを決定するために、試験情報を処理するように設計された、計算装置と、
-標的ベクトルモデルが記憶されているメモリと、
-3次元ベクトルモデルを標的ベクトルモデルと比較して、3次元ベクトルモデル(Vm)と標的ベクトルモデル(S-Vm)との間の偏差(ΔVm)の決定を可能とするように適合された計算装置とを備え、
巨視的基本情報は、少なくとも
-前記研削工具(20)の直径、
-前記研削工具(20)の幅、
-前記研削工具(20)のピッチ及び/または傾斜、
-前記研削工具(20)の輪郭の角度、
-前記研削工具(20)の輪郭の厚さ、
-前記研削工具(20)のポイントの半径
のうち、1つまたはそれ以上に関する情報を含むことを特徴とする。
【0015】
少なくともいくつかの実施形態では、3次元ベクトルモデルが、少なくともその基体の縁によって研削工具を定める。
【0016】
実施形態の少なくとも一部では、研削工具の少なくとも第1の部分領域は、3次元ベクトルモデルに基づいて決定されるか、または数学的に正確に定められる。
【0017】
本発明の適用は、形状保持が研削結果にとって重要な、精密研磨材の場合に特に有利である。
【0018】
本発明は、ガルバニック砥石車、ガルバニック研削ウォーム、及びガルバニック砥石ポット(カップ砥石車)に特に有利に適用することができる。
【0019】
必要に応じて、ベクトルモデルの作成/決定を補助するためにエッジ検出アルゴリズムを使用することができる。
【0020】
好ましくは、ガルバニック研削工具の試験は製造工程の一部としてインラインで実行される。これは、少なくともいくつかの実施形態について、本発明による方法を歯切り盤(例えば、研削盤)内またはその上で実行できることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【
図1A】ガルバニック砥石車の形態である、例示的な第1の研削工具の斜視図。
【
図1B】ガルバニック研削ねじの形態である、例示的な第2の研削工具の概略側面図。
【
図2】本発明の実施形態の基本原理を概略的かつ例示的に示す図。
【
図3A】ガルバニック砥石車の上半分の概略側面図。
【
図3B】
図3Aのガルバニック砥石車の例示的かつ概略的なベクトルモデルの側面図。
【
図4】別のガルバニック砥石車の例示的かつ概略的なベクトルモデルの正面図。
【
図5】損傷した円周を有する他のガルバニック砥石車の例示的かつ概略的なベクトルモデルの拡大正面図。
【
図6B】
図6Aのガルバニック研削ウォームの例示的かつ概略的なベクトルモデルの側面図。
【
図6C】局所的に「乱れた」表面を有するガルバニック研削ねじの例示的な図式化されたベクトルモデルの一部の拡大図。
【
図8】クロスレーザを含む例示的な光学試験装置の概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この説明に関連して、関連する刊行物及び特許においても使用されている用語が用いられる。しかしながら、これらの用語の使用は単に便宜上のものであることに注意すべきである。本発明の概念及び特許請求の範囲の保護範囲は、特定の用語の選択による解釈によって制限されるべきではない。本発明は他の概念のシステム及び/または分野に容易に移転することができる。この用語は他の専門分野でも同様に使用される。
【0024】
図2に示される本発明の第1の実施形態は、ここではガルバニック砥石車(galvanic grinding wheel)20.1の形態であるガルバニック研削工具20の非接触光学試験に関する。この砥石車20.1は、砥粒で被覆された環状外側領域21を備える(ここでは粒度を示すため、環状外側領域に模様が示されている)。
【0025】
環状外側領域21は、環状輪郭領域(annular profile area)または有効領域とも呼ばれる。用語「有効」は、この領域が研削中に研削材と機械的に相互作用することを示す意図がある。
【0026】
研磨工具20を試験する方法は、少なくともいくつかの実施形態では以下のステップを有する。
-装置1(例えば、歯切り盤、歯車切削センタ、または測定装置10)の工具軸線A1周りに研削工具20が回転駆動する。
-
図2で単に概略的な形態で示されるように、回転駆動中に研削工具20が少なくとも部分的に光Lによって照射されるような領域に配置された、光学試験装置30による試験方法を実行する。上述の光Lは、試験装置30のエミッタ31によって放射され、研削工具20の有効領域21に向けられる。
図2では、エミッタ31が、有効領域21上に線状の光帯(light strip)を形成することが分かる。光Lの少なくとも一部は、試験装置30のセンサ32の方向に研削工具20から反射される(エミッタ31もセンサ32も
図2には示されていない)。
-このセンサ32は、
図2にPIと表示された矢印で示すように、試験情報PIを提供する。
-この試験情報PIは、研削工具20の3次元ベクトルモデルVmの形態で巨視的基本情報(macroscopic basic information)mGを決定するため、計算装置40によって処理される。
-そして、ベクトルモデルVmが、標的ベクトルモデルS-Vm(例えば、同じ計算装置40によって、または別の計算装置41によって実行され得る)と比較される。標的ベクトルモデルS-Vmは、
図2に示すように、例えば、メモリ42から提供され得る。比較は、ベクトルモデルVmとS-Vmとの間の偏差ΔVmが数学的に決定可能なように実行される。
【0027】
図2は、研削工具20.1の回転駆動中に、角度及び/または速度情報I1(例えば、ω1)がセンサ43によって検出されることを示している。この角度及び/または速度情報I1は、研削工具20.1の3次元ベクトルモデルVmを決定するための計算装置40による試験情報PIと共に処理される。
図2は、このモデルVmを研削工具20.1の小さな画像の形で示している。これは主に研削工具20.1の有効領域を試験することに関するものであるので、3次元ベクトルモデルVmは、例えば、2つの平行な円形端面22と、有効領域21の画像のみとを備える。
【0028】
例として、理想的な形状であり摩耗していない研削工具20.1を表す標的ベクトルモデルS-Vmは、3次元ベクトルモデルVmと同じ構造を有する。したがって、参照符号S-Vmの別の小さい画像が
図2に示される。計算装置40または41は、2つのモデルVm及びS-Vmを計算上で比較することができる。
図2に示されるように、この比較は、ここでΔVmと呼ばれる偏差をもたらす。この偏差ΔVmは計算可能である。
【0029】
発明の意味におけるベクトルモデルは、3次元空間における物体の数学的な描写である。ここでは座標系と呼ばれる、参照系を必要とする。ベクトルモデルは基本的にラインとポイントとで構成される。直方体などの単純な3次元体の場合、対応するベクトルモデルは直方体の縁の12個のベクトルを有する。3次元体の表面は閉じたポリラインで囲まれている。
【0030】
本発明の意味において、ベクトルモデルは、このように説明される物体の線形的、幾何学的構造の数学的な描写である。全ての実施形態における線形幾何学的構造は、例えば、一連のポイント及びこれらのポイントの間の距離によって説明することができる。
【0031】
好ましくは、トポロジカル(topological)ベクトルモデルが、少なくとも一部の実施形態に使用され、ポイント及び/またはラインの空間的関係に関する情報も有する。
【0032】
好ましくは、トポロジカルベクトルモデルが、少なくとも一部の実施形態で使用され、ベクトルモデルのより単純な態様で、より複雑な3次元体を表すことができるようにするために、ライン及びポイントの横の円及び曲線も含む。
【0033】
好ましくは、トポロジカルベクトルモデルが、少なくとも一部の実施形態で使用され、各ベクトルは固有の座標によって表される。
【0034】
三次元体の直線の縁は、例えば、2つの境界点と直線の接続線とによって定められる。円は、例えば、円の中心及び半径によって定めることができる。
【0035】
本発明の意味において、ベクトルモデルは、表面が規則的なラスタまたはメッシュに分割されている、いわゆるラスタモデルも含む。縁の数学的な描写に使用されるベクトルに加えて、ラスタモデルはラスタのような細分化面を含む。
【0036】
砥石車20.1は
図2に概略的に示されており、典型的には、既に述べた砥粒で被覆されているリング形状の縁領域21(輪郭領域とも呼ばれる)を有する。この研削工具20の3次元ベクトルモデルVmの主な重要な点は、この工具軸線A1は参照系を定めるために使用可能であるため、工具軸線A1の位置も重要であるが、ベクトルモデルVmが環状輪郭領域21の描写に集中できることである。
【0037】
図2において、砥石車20.1のベクトルモデルVm及び標的ベクトルモデルS-Vmは砥石車20.1の画像の右隣に、小さな図の形で互いに隣接して示される。これらの小さな図は、対応するベクトルモデルが、例えば、工具軸線A1と同心で配置され、その相互の距離は砥石車20.1の輪郭領域の厚みを決定する、2つの円形端面22(ここでは、しかしながら、端面22のみが見られる)によっていずれも記述され得ることを示している。
【0038】
輪郭領域21自体は、その中心が全て工具軸線A1上にある一組の円によって記述することができる。これらの各円は、異なる直径及び異なる相対距離、例えば、正面の円形端面22からの距離を有し得る。理想的な砥石車20.1では、一組の円のこれらの全ての円は、完全な円形である(砥粒の粒径が顕微鏡レベルであり考慮されない場合)。標的ベクトルモデルS-Vmは、例えば、一組の円、これらの円の直径、及び相対距離(工具軸線A1と平行に測定される)によって定めることができる。
【0039】
不均衡のある実際の砥石車20.1は、例えば、1つまたはそれ以上の変形した円を有する。
【0040】
標的ベクトルモデルS-Vmと、実際の砥石車20.1の3次元ベクトルモデルVmとの計算上の比較は、標的の状態と比較した実際の状態の偏差(不均衡から生じる)を示すだろう。
【0041】
このような計算上の比較は、例えば、数学的ベクトル計算によって少なくとも一部の実施形態について行うことができる。
【0042】
図3Aは、ガルバニック砥石車20.1の上半分の概略側面図を示す。図示の例では、この砥石車20.1は、左右の端面22を画定するホルダとカウンタホルダとを備える。これらの端面22は、工具軸線A1に対して垂直である。ガルバニック砥石車20.1の基体は、少なくとも環状の輪郭領域21は砥粒で被覆されており、ホルダと、カウンタホルダとの間に配置されている。簡略にするため、ここでは輪郭領域21は、対称的な放物線状の輪郭を有する。
【0043】
図3Bは、
図3Aのガルバニック砥石車20.1の例示的かつ概略的な標的ベクトルモデルS-Vmの側面図を示す。ここで、x軸は工具軸線A1と一致している。この例では、このx軸がベクトルモデルのベクトルを定めるための基準軸として機能する。位置x0は右の端面22であり、位置x3は左の端面22であり、これら2つの境界端面22の間は、環状輪郭領域21である。上述の放物線状の輪郭は、この例のベクトルモデルでは1組の円で表される。
図3Bで見られるように、放物線状の輪郭は、それゆえに、多数の点からなる。これらの各点は、作図平面を通る円のうちの1つの交点を表す。一組の円の各円は、x軸上のx座標及び半径を割り当てることができる。したがって、各円はx軸の参照系で一意に確定される。
【0044】
輪郭は対称的であるので、2つの半径である、位置x1におけるr1及び位置x2におけるr2は同じ長さを有する。しかしながら、これは特別な場合である。放物線の形状の最上点(ガルバニック砥石車20.1の最大径が位置する)は、半径r3を有する。
【0045】
このような標的ベクトルモデルS-Vmは、使用されたガルバニック砥石車20.1において光学的に測定されたベクトルモデルVmと計算上で比較することができる。そのような計算上の比較は、両方のモデルS-VmとVmとが同じ参照系(例えばx軸)を用いる場合、特に簡単である。2つのベクトルモデルS-VmとVmとは、例えば、それぞれ行列の形で数学的に表すことができる。これら2つの行列を差し引くと、偏差ΔVmが得られる。
【0046】
2つのモデルS-VmとVmとが異なる参照系を有する場合、両方のモデルS-VmとVmとを同じ参照系に変換するため、比較を行う前に座標変換を実行できる。
【0047】
図4は、他のガルバニック砥石車20.1のベクトルモデルS-Vmの概略正面図を示す。このベクトルモデルS-Vmは、
図3Bの例で既に説明したように、工具軸線A1と同心の一組の円(このモデルでも軸線A1とxとは一致する)を有する。
図4に示す例では(
図3Bのように)、個々の円の間の距離は等距離である。
図4の描写が複雑になることを避けるため、ここでは6つの円のみが示されている。これらの各円もまた、x軸上の位置及び半径によって確定される。最も内側の円は半径r1を有し、最も外側の円は半径r3を有する。
【0048】
図5は、円周23に明らかに損傷を受けた、実際のガルバニック砥石車20.1のベクトルモデルVmの一部分のみの概略正面図を示す。3つの円弧のうちの2つは理想的な円形を有する。その一方、最も外側の円弧は、ベクトルモデルS-Vmからの偏差を有する。行列演算を使用して実行できる数学的な比較では、例えば、結果は偏差ΔVmになるだろう。
【0049】
図5は、ガルバニック砥石車20.1が損傷を受けた例を示す。
図6Aから
図6Cは、ガルバニック研削ウォーム(galvanic grinding worm)20.2の領域の動きが悪くなった例を説明するために用いる。
【0050】
図6Aは、ガルバニック研削ウォーム20.2を示す。ここでは強調して図式化された形態で示されており、この研削ウォーム20.2は、円周方向の歯25を備えた円筒形の基体24を有する。
図6Aに示すように、少なくとも歯25の側面は砥粒で覆われている。この研削ウォーム20.2が、歯25の側面のみで被研削材を機械加工するために使用されると仮定する場合、光学試験装置30による光走査において、歯25のみが光Lを試験装置30のセンサ32の方向へ反射するように設計され、並べられれば十分である。
図6Aでは、研削ウォーム20.2に向けられた光ビームL(または光線の束)は斜線で表されている。光ビームLによる光走査の間、研削ウォーム20.2は、軸線A1周りを回転する。研削ウォーム20.2の全幅を走査できるようにするために、試験装置30と研削ウォーム20.2との間で相対移動(シフト移動)をすることができる。
【0051】
図6Bは、
図6Aのガルバニック研削ウォーム20.2の、あり得る標的ベクトルモデルS-Vmの一例を、単に概略的な形態で示す。ここでx軸はまた、軸線A1と一致する。光学試験装置30を用いて走査することにより、歯25は多数の平行線に「細分」された。これらの線の各々は、参照系(例えば、x軸に関して)におけるベクトルとして数学的に決定されている。さらに望むなら、歯25の縁をベクトルで表すことができる。
図6Bでは、縁はそれゆえに、歯25のアウトラインとして表される。
【0052】
図6Cは、
図6Aのガルバニック研削ウォーム20.2の1つの領域のみの、あり得るベクトルモデルVmの一例を、単に概略的な形態で示す。この図では、ベクトルの集合のうちいくつかの並列のベクトルのみが示される。ある領域には乱れ26がある。この乱れは認識でき、そうでなければ平行ベクトルが局所的偏差を示す。乱れ26の領域のベクトルは、例えば、連続的な直線の代わりに多角形のコースによって表すことができる。
【0053】
図6CのベクトルモデルVmが、
図6Bの標的ベクトルモデルS-Vmと重ね合わされる場合(例えば、数学的比較の範囲内で)、そのような偏差は決定され得る。
【0054】
様々な図の概略的な描写では、エミッタ31が直線(またはクロスレーザの場合、互いに直交する2つの直線)をたどる光ビームを発生することに留意されたい。しかしながら、研削材が異なる角度(例えば、センサ32の位置)から見られる場合、光線は研削材の幾何学的形状によって変形して見え得る。表現の複雑化を避けるために、この種の変形は図には示されていない。
【0055】
モデルS-Vm、Vmを決定するために円を用いる代わりに、一組の短いベクトル(理想的には同じ長さ)からの多角形のコースも使用することができ、例えば、円の中の正割または接線のように円に接してもよい。
例えば、円を360個の等しい大きさの角度セグメントに分割すると、対応する円は360個の短いベクトルに分割できる。これらの各ベクトルは、中心基準軸に対して同じ半径、同じ長さ、及び異なる角度の値を有する。
【0056】
好ましくは、ラインレーザが、全ての実施形態でエミッタ31として使用される。エミッタ31が発する光Lによって発生するライン長さは、ラインレーザの開き角と、走査される走査物表面までの距離とから求めることができる。例えば、ラインレーザが90度の開口角を有する場合、生成されるライン長さはレーザ距離の2倍に対応する。
【0057】
図7は、エミッタ31として適している円筒のラインレーザの一例を示す。光ビームが出るレーザの開口は、ここでは黒で示されている。
【0058】
ラインレーザの代わりに、クロスレーザを全ての実施形態に使用することもでき、このレーザは、光線の代わりに、2本の交差線からなる交差光(light cross)を研削材上に投影する。
図8は、例示的なクロスレーザ34の2つの光学的な開口35,36を示す。上部開口35は垂直光ビームL1を照射するように設計されている。下部開口36は水平光ビームL2を照射するように設計されている。光ビームL1は研削材上に第1光線37を生成し、光ビームL2は第2光線38を生成する。これにより、互いに垂直に配置されたベクトルを1回の走査で決定することができる。このような場合、対応するベクトルモデルは交差する線の格子を含む。例えば、クロスレーザ34は、2つの光ビームL1、L2を放射するために2つが直交して取り付けられたミラーを備え得る。
【0059】
ラインレーザまたはクロスレーザの代わりに、回転レーザ(例えば、移動ミラーを含む構成)も全ての実施形態に使用することができる。
【0060】
好ましくは、検出器群は感光性要素(例えば、フォトダイオードまたはフォトトランジスタ)からなり、全ての実施形態についてセンサ32として使用される。検出器群は、例えば、いくつかの感光性要素の線形配置を有し得る。
【0061】
好ましくは、干渉光及び乱反射に対する感度を低下させるために、全ての実施形態においてレーザがエミッタ31として使用され、その光ビームは変調される(例えば、パルス化)。この場合、エミッタ31とセンサ32とは、変調形態に関して互いに一致していなければならない。
【0062】
全ての実施形態について、光学試験装置30は、エミッタ31及び検出器32が同じ光ビーム経路を送信及び受信するように設計されてもよい。エミッタ31と検出器32とが異なる光ビーム経路で機能するように光学試験装置30を構成することも可能である。
【0063】
本発明によれば、研削材は、実施形態の少なくとも一部において光学的に走査され、次いでベクトルモデルVmの形で3次元空間において計算上で再構成される。
【0064】
試験情報PIは、実施形態の少なくともいくつかについてはエッジ検出アルゴリズムを用いて処理することができる。この場合、ポリラインまたは多角形のコース上にある画素は、対応するベクトルまたは対応する一連のベクトルによって数学的に定められる。同時にまたは付加的に、他の画素(例えば、個々の画像の乱れ)を抑制することができる。
【0065】
図9は、(座標)測定装置10の部分範囲を示す。この測定装置10は、ここでは概して装置1とも呼ばれ、研削工具20が試験されるための少なくとも1つの回転駆動可能なレセプタクル13,14を備える。ここでは、薄い円筒形ディスクの形態の砥石車20.1が示されている。薄い円筒形ディスクの円周に沿った垂直線はラインレーザによる直線走査を表すものとする。
【0066】
回転駆動可能なレセプタクル13,14は、研削工具20のためのスピンドルまたはレセプタクル13.2を有する(回転)テーブル13.1を備える。随意的に、カウンタベアリングとして機能する付随のセンタリング装置14を使用することができる。砥石車20.1を締め付けることができるようにするために、図示の例では、互いにねじ止めされた2つのスタブシャフト12.1,12.2を備えていた。
図9の右側には、光学試験装置30が示されている。ここでは砥石車20.1の方向に照射され、そこから反射される光ビームLが示される。センサ32及びエミッタ31は、試験装置30のハウジングの内側に配置されている。試験装置30の隣の軸指定X1、Y1、及びZ1の二重矢印は、砥石車20.1が試験装置30に対して相対運動をするように、(座標)測定装置10が設計されていることを示す。
【0067】
(回転)テーブル13.1の領域に、対応する角度または回転情報I1を計算装置40/41に送信するため、センサ43(ここでは、角度デコーダ)を設けることができる。試験装置30は、試験情報PIを提供し、標的ベクトルモデルS-Vmはメモリ42によって供給される。
【0068】
図10は研削盤11の断面図を示す。この研削盤11も、ここでは概して装置1とも呼ばれ、試験される研削工具20(ここではカップホイール20.3が示される)用の少なくとも1つの回転駆動可能なレセプタクル13,14を備える。装置1または研削盤11はさらに以下を含む。
-光学試験装置30は、回転駆動可能なレセプタクル13,14の領域に配置されており、研削工具20.3は回転駆動されながら、試験装置30のエミッタ31から発する光Lに少なくとも部分的に照射される。
図10に示すように、光Lの少なくとも一部は、研削工具20.3から試験装置30のセンサ32の方向に反射されて戻る。センサ32は試験情報PIを提供するように設計されている。
-巨視的基本情報mGから研削工具20.3の3次元ベクトルモデルVmを決定するために、試験情報PIを処理するよう設計された計算装置40/41が使用される。
-標的ベクトルモデルS-Vmが記憶されるメモリ42も存在する。
-計算によってベクトルモデルVmとS-Vmとの間の偏差ΔVmの決定を可能とするために、ベクトルモデルVmを標的ベクトルモデルS-Vmと比較するよう設計された計算装置40/41が使用される。
【符号の説明】
【0069】
1・・・装置
10・・・(座標)測定装置
11・・・研削盤
12.1,12.・・・スタブシャフト
13,14・・・レセプタクル
13.1・・・回転盤
13.2・・・スピンドルまたはレセプタクル
20,20.1,20.2,20.3・・・研削工具
21・・・環状外周/環状輪郭領域/有効領域
22・・・端面
23・・・損傷
24・・・基体
25・・・歯
26・・・乱れ
30・・・光学試験装置
31・・・エミッタ
32・・・センサ
33・・・ラインレーザ
34・・・クロスレーザ
35,36・・・開口
37,38・・・光線
39・・・ハウジング
40・・・計算装置
41・・・計算装置
42・・・メモリ
43・・・センサ
A1・・・工具軸線
I1・・・情報
ΔVm・・・偏差
L・・・光/ビーム経路
L1、L2・・・光ビーム
PI・・・試験情報
r1、r2、r3・・・半径
S-Vm・・・標的ベクトルモデル
X1、Y1、Z1、A1・・・軸線
x・・・座標軸/基準軸
x、y、z・・・座標系
Vm・・・ベクトルモデル
ω1・・・回転運動