(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 18/344 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
F04C18/344 351L
(21)【出願番号】P 2019102754
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 功史
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-268894(JP,A)
【文献】特開昭61-126392(JP,A)
【文献】特開2002-161882(JP,A)
【文献】特開昭58-027895(JP,A)
【文献】特開2015-059572(JP,A)
【文献】特開昭59-162380(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0187680(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344;18/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室を形成するポンプケーシングと、
前記ポンプ室に配置され、外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
前記複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、を備え、
前記ポンプ室は、前記ロータの回転中心との距離が前記ロータの周方向に変化するように形成された内周面により画定され、
前記ポンプ室の前記内周面は、
当該内周面と前記ロータの前記回転中心との前記距離が最小である前記周方向の第1角度位置から、前記ロータの回転方向における前記第1角度位置の下流側において前記距離が最大である角度位置のうち最上流に位置する第2角度位置までの角度をθ1、
前記第1角度位置から、前記回転方向において前記第2角度位置の下流側において前記距離が最小である角度位置のうち最上流に位置する第3角度位置までの角度をθ2、
と定義した場合に、θ1<θ2/2を満たすように構成され
、
前記ロータの回転方向における前記ロータの位相と、前記複数のベーンのうち第1ベーンが前記ロータの前記外周面から突出する突出量との関係を示す突出量変化曲線において、
前記第1ベーンの前記突出量が最大となる前記ロータの位相を第1位相、前記第1位相の次に前記第1ベーンの前記突出量が最小となる前記ロータの位相を第2位相、前記第1位相における前記第1ベーンの前記突出量をAmax、前記第2位相における前記第1ベーンの前記突出量をAmin、前記第1位相と前記第2位相との間において前記突出量が(Amax-Amin)の半分となる前記ロータの位相を第3位相、前記第1位相と前記第2位相との中点の位相を第4位相と定義した場合に、
前記第3位相は、前記第1位相と前記第4位相との間に位置し、
前記ロータの回転方向における前記ロータの位相と、前記第1ベーンの突出方向における前記第1ベーンの速度との関係を示すベーン速度変化線は、前記第1位相と前記第2位相の間において、前記位相が進むにつれて前記速度が上昇する第1区間を含み、
前記第1区間では、前記位相が進むにつれて前記速度の傾きが段階的に小さくなる
ベーンポンプ。
【請求項2】
ポンプ室を形成するポンプケーシングと、
前記ポンプ室に配置され、外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
前記複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、を備え、
前記ポンプ室は、前記ロータの回転中心との距離が前記ロータの周方向に変化するように形成された内周面により画定され、
前記ロータの回転方向における前記ロータの位相と、前記複数のベーンのうち第1ベーンが前記ロータの前記外周面から突出する突出量との関係を示す突出量変化曲線において、
前記第1ベーンの前記突出量が最大となる前記ロータの位相を第1位相、前記第1位相の次に前記第1ベーンの前記突出量が最小となる前記ロータの位相を第2位相、前記第1位相における前記第1ベーンの前記突出量をAmax、前記第2位相における前記第1ベーンの前記突出量をAmin、前記第1位相と前記第2位相との間において前記突出量が(Amax-Amin)の半分となる前記ロータの位相を第3位相、前記第1位相と前記第2位相との中点の位相を第4位相と定義した場合に、
前記第3位相は、前記第1位相と前記第4位相との間に位置
し、
前記ロータの回転方向における前記ロータの位相と、前記第1ベーンの突出方向における前記第1ベーンの速度との関係を示すベーン速度変化線は、前記第1位相と前記第2位相の間において、前記位相が進むにつれて前記速度が上昇する第1区間を含み、
前記第1区間では、前記位相が進むにつれて前記速度の傾きが段階的に小さくなる
ベーンポンプ。
【請求項3】
前記ポンプ室のうち隣り合う2つの前記ベーンで画定される第1空間の圧力が大気圧以上に昇圧されてから、前記第1空間と前記ポンプ室の排気口とが連通するように構成された、
請求項
1又は2に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記ポンプ室の前記内周面は、
当該内周面と前記ロータの前記回転中心との前記距離が、前記回転中心に対して対称である2つの角度位置において最大値を有するように構成された
請求項1~
3の何れか一項に記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記ポンプ室の前記内周面は、
当該内周面と前記ロータの前記回転中心との前記距離が、前記ロータの前記周方向に等間隔である3つの角度位置において最大値を有するように構成された
請求項1~
3の何れか一項に記載のベーンポンプ。
【請求項6】
前記ポンプ室の前記内周面は、
前記ロータの回転方向における前記ロータの位相と、前記ポンプ室のうち隣り合う2つの前記ベーンで画定される第1空間の容積との関係を表す容積変化曲線において、前記容積の最小値に対応する前記ロータの位相を第5位相、前記容積の減少する区間における前記容積変化曲線の変曲点に対応する位相のうち前記第5位相の次に位置する位相を第6位相、前記第5位相から前記第6位相までの角度をα1、前記容積変化曲線の1周期に対応する角度をα2とした場合に、α1/α2<3/4を満たすように構成されている
請求項1~
5の何れか一項に記載のベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されるように、自動車等の車両におけるブレーキブースターの負圧室内を負圧にするためのベーンポンプが知られている。ベーンポンプは、外周面にスリットが形成されたロータと該スリットに配置されたベーンとを備えており、ロータの回転によりベーンが遠心力でポンプ室のカム面に押し付けられながらカム面上を摺動するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベーンポンプにおいては、一般的に排気ポートの圧力(出口圧力)よりも吸気ポートの圧力(入口圧力)が低いため、ポンプ室内に吸入された流体は排気前に圧縮されて排気される。しかし、特許文献1に開示されたような従来のベーンポンプは、ポンプ室内に収納されるロータの回転軸線方向視において、ポンプ室の内周面のプロファイルが、ロータの回転中心と該回転中心からポンプ室の内周面までの距離が最大である内周面上の点とを結ぶ線(例えば楕円の長軸を含む)を挟んで、吸気通路に連通する吸気側と排気通路に連通する排気側とが線対象の形状(例えば楕円形を含む)に形成されていた。かかる従来のベーンポンプの場合、排気通路とポンプ室とが連通して排気が始まる際におけるポンプ室内の圧力が上記出口圧力に満たないことがあり、一時的に排気通路からポンプ室内に流体が逆流してポンプ効率が低下する虞があった。特許文献1には、このような問題を解決するための方策が何ら開示されていない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、ポンプ効率を向上できるベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも1つの実施形態に係るベーンポンプは、
ポンプ室を形成するポンプケーシングと、
ポンプ室に配置され、外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、を備え、
ポンプ室は、ロータの回転中心との距離がロータの周方向に変化するように形成された内周面を含み、
ポンプ室の内周面は、
内周面とロータの回転中心との距離が最小である周方向の第1角度位置から、ロータの回転方向における第1角度位置の下流側において距離が最大である角度位置のうち最上流に位置する第2角度位置までの角度をθ1、
第1角度位置から、回転方向において第2角度位置の下流側において距離が最小である角度位置のうち最上流に位置する第3角度位置までの角度をθ2、
と定義した場合に、θ1<θ2/2を満たすように構成されている。
【0007】
(2)本発明の少なくとも1つの実施形態に係るベーンポンプは、
ポンプ室を形成するポンプケーシングと、
ポンプ室に配置され、外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、を備え、
ポンプ室は、ロータの回転中心との距離がロータの周方向に変化するように形成された内周面を含み、
ロータの回転方向におけるロータの位相と、複数のベーンのうち第1ベーンがロータの外周面から突出する突出量との関係を示す突出量変化曲線において、
第1ベーンの突出量が最大となるロータの位相を第1位相、第1位相の次に第1ベーンの突出量が最小となるロータの位相を第2位相、第1位相における第1ベーンの突出量をAmax、第2位相における第1ベーンの突出量をAmin、第1位相と第2位相との間において突出量が(Amax-Amin)の半分となるロータの位相を第3位相、第1位相と第2位相との中点の位相を第4位相と定義した場合に、
第3位相は、第1位相と第4位相との間に位置する。
【0008】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のベーンポンプにおいて、
ロータの回転方向におけるロータの位相と、複数のベーンのうち第1ベーンがロータの外周面から突出する突出量との関係を示す突出量変化曲線において、
第1ベーンの突出量が最大となるロータの位相を第1位相、第1位相の次に第1ベーンの突出量が最小となるロータの位相を第2位相、第1位相における第1ベーンの突出量をAmax、第2位相における第1ベーンの突出量をAmin、第1位相と第2位相との間において突出量が(Amax-Amin)の半分となるロータの位相を第3位相、第1位相と第2位相との中点の位相を第4位相と定義した場合に、
第3位相は、第1位相と第4位相との間に位置していてもよい。
【0009】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)に記載のベーンポンプにおいて、
ロータの回転方向におけるロータの位相と、第1ベーンの突出方向における第1ベーンの速度との関係を示すベーン速度変化線は、第1位相と前記第2位相の間において、位相が進むにつれて速度が上昇する第1区間を含み、
第1区間では、位相が進むにつれて速度の傾きが小さくなっていてもよい。
【0010】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載のベーンポンプにおいて、
第1区間では、位相が進むにつれて速度の傾きが段階的に小さくなっていてもよい。
【0011】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)~(5)の何れか一つに記載のベーンポンプにおいて、
ポンプ室のうち隣り合う2つのベーンで画定される第1空間の圧力が大気圧以上に昇圧されてから、第1空間とポンプ室の排気ポートとが連通するように構成されていてもよい。
【0012】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)~(6)の何れか一つに記載のベーンポンプにおいて、
ポンプ室の内周面は、
内周面とロータの回転中心との距離が、回転中心に対して対称である2つの角度位置において最大値を有するように構成されていてもよい。
【0013】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)~(6)の何れか一つに記載のベーンポンプにおいて、
ポンプ室の内周面は、
内周面とロータの回転中心との距離が、ロータの周方向に等間隔である3つの角度位置において最大値を有するように構成されていてもよい。
【0014】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)~(8)の何れか一つに記載のベーンポンプにおいて、
ポンプ室の内周面は、
ロータの回転方向におけるロータの位相と、ポンプ室のうち隣り合う2つのベーンで画定される第1空間の容積との関係を表す容積変化曲線において、容積の最小値に対応するロータの位相を第5位相、容積の減少する区間における容積変化曲線の変曲点に対応する位相のうち第5位相に最も近い位相を第6位相、第5から第6位相までの角度をα1、容積変化曲線の1周期に対応する角度をα2とした場合に、α1/α2<3/4を満たしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、ポンプ効率を向上できるベーンポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係るベーンポンプ2を示す概略的な分解斜視図である。
【
図2】
図1に示したベーンポンプ2の一部切り欠き断面図である。
【
図4】一実施形態におけるポンプ室5の構成例を示す平面図である。
【
図5】一実施形態における内周面42の形状を例示する図である。
【
図6】一実施形態に係るベーンポンプ2における第1空間S1の容積変化を例示する図である。
【
図7】一実施形態に係るポンプ室5の構成例を示す概略図である。
【
図8】ロータ38の回転方向Rdにおけるロータ38の位相とベーン40の加速度との関係を示すベーン加速度変化線F1の一例を示すグラフである。
【
図9】ロータ38の位相とベーン40の移動速度との関係を示すベーン速度変化線F2の一例を示すグラフである。
【
図10】ロータ38の位相とベーン40の突出量Aとの関係を示すベーン突出量変化曲線F3の一例を示すグラフである。
【
図11】ロータ38の位相と第1空間S1の容積Vとの関係を示す容積変化曲線F4の一例を示すグラフである。
【
図12】他の実施形態に係るベーンポンプを概略的に例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0018】
先ず、本開示の一実施形態に係るベーンポンプの概略構成について説明する。
図1は、一実施形態に係るベーンポンプ2を示す概略的な分解斜視図である。
図2は、
図1に示したベーンポンプ2の一部切り欠き断面図である。
図3は、ポンプカバー18を上方から視た図である。
図4は、一実施形態におけるポンプ室5の構成例を示す平面図である。図示する例示的なベーンポンプ2は、自動車等の車両におけるブレーキブースター(マスターバック)の負圧室内を負圧にするための電動バキュームポンプである。以下において「上」及び「下」とは、ベーンポンプ2が車両に設置された状態における「上」及び「下」を意味する。
【0019】
図1及び
図2に示すように、ベーンポンプ2は、ポンプ室5を形成するポンプケーシング10と、ポンプ室5に配置され、外周面32に複数のスリット36が形成されたロータ38と、複数のスリット36にそれぞれ配置された複数のベーン40と、を備えている。また、ベーンポンプ2は、ロータ38を回転させるための駆動装置としてのモータ66を備えている。
【0020】
ポンプケーシング10は、例えば
図1及び
図2に示すように、ロータ38及び複数のベーン40で構成される可動部4としてのロータ組立体が配置されるポンプ室5と、ポンプ室5に気体を導くための吸気通路6と、ポンプ室5から気体を外部に導くための排気通路8と、を含む。また、
図1~
図3に示すように、ポンプケーシング10は、可動部4の一方側(上側)を覆うポンプカバー18と、ポンプカバー18の上側を覆うトップカバー44と、を含む。ポンプケーシング10のポンプケーシング本体16は、ロータ38の外周面32と対向する内周面42を含む。
【0021】
可動部4は、モータ66に駆動されてポンプ室5への気体の吸込及びポンプ室5からの気体の吐出を行うことで気体を移送する。可動部4におけるロータ38の外周面32は、平面視において円形状を呈するようになっていてもよい。このように、ベーンポンプ2は、モータ66の不図示のシャフトに連結されたロータ38をモータ66で回転させることにより、例えば
図4に示すように、ロータ38のスリット36に沿ってベーン40が遠心力でロータ38の径方向Dの外側(より詳細には、ロータ38の回転軸線方向視においてベーン40がロータ38の外周面32からスリット36の延在方向に沿って突出する突出方向Pd)に向けて移動し、ベーン40の先端部13が内周面42上を摺動するように構成されている。
【0022】
スリット36は、例えば
図4に示すように、ロータ38の径方向Dにおける内側に向かうにつれてロータ38の回転方向Rdにおける上流側に向かうように平面視において直線状に形成されていてもよい。この場合、ベーン40は、スリット36の内壁に沿って摺動可能な幅(厚さ)を有する板状に形成されてもよい。以下において、ベーンポンプ2におけるロータ38の軸方向を単に「軸方向」といい、ロータ38の周方向Cdを単に「周方向」といい、ロータ38の回転方向Rdを単に「回転方向」といい、ロータ38の径方向Dを単に「径方向」ということがある。また、「回転方向Rdにおける上流側」とは、ロータ38の回転方向Rdとは逆方向を意味し、「回転方向Rdにおける下流側」とは、ロータ38の回転が進む方向を意味することとする。なお、
図1に示すように、ベーンポンプ2では、軸方向において、ロータ38側(上記カバー部分側)が上側であり、モータ66側が下側である。
【0023】
ここで、ポンプ室5の内周面42について更に詳細に説明する。
図5は、幾つかの実施形態における内周面42(42A,42B)の形状を例示する図である。
図3~
図5に例示するように、ポンプ室5は、
図1及び
図2に示すポンプケーシング本体16の内周面42および底面と、ポンプカバー18の下面とで画定される。内周面42は、ロータ38の外周面32から
図4に示すロータ38の径方向Dの外側(詳細には突出方向Pd)に向かうベーン40の突出量Aを規定するカム面として機能する。かかるポンプ室5の内周面42は、ロータ38の回転中心Cとの距離Lがロータ38の周方向Cdに周期的に変化するように形成されている。具体的に、内周面42(42A,42B)は、当該内周面42とロータ38の回転中心Cとの距離Lが最小(Lmin)である周方向Cdの第1角度位置P1から、ロータ38の回転方向Rdにおける第1角度位置P1の下流側において距離Lが最大(Lmax)である角度位置のうち最上流に位置する第2角度位置P2までの角度をθ
1、第1角度位置P1から、回転方向Rdにおいて第2角度位置P2の下流側において距離Lが最小(Lmin)である角度位置のうち最上流に位置する第3角度位置P3までの角度をθ
2と定義した場合に、θ
1<θ
2/2を満たす。
【0024】
つまり、内周面42は、ともに距離Lが最小値Lminである第1角度位置P1から第3角度位置P3までの角度θ
2の半分に相当する角度位置よりもロータ38の回転方向Rdの上流側に、距離Lが最大値Lmaxである第2角度位置P2が位置するように構成される。すなわち、ロータ38の回転中心Cとの距離Lが最大である第2角度位置P2が、ロータ38の回転方向Rdにおいて第2角度位置P2より上流側と下流側とでそれぞれ最も近くで距離Lが最小である第1角度位置P1と第3角度位置P3との中点よりも回転方向Rdの上流側に位置する。例えば
図3~
図5に例示するように、ロータ38の1回転につき吸気工程と排気工程とがそれぞれ2回(2サイクル)行われるベーンポンプ2の場合、θ
2=180°、且つθ
1<90°である。なお、最大値Lmaxは、回転方向Rdにおける前後近傍の距離Lと比較した最大値である極大値であってもよい。同様に、最小値Lminは、回転方向Rdにおける前後近傍の距離Lと比較した最小値である極小値であってもよい。また、周方向Cdの全周に亘って、各々の最大値Lmaxが同一の値であってもよいし、各々の最小値Lminが同一の値であってもよい。
【0025】
ここで、ポンプ室5のうちロータ38の周方向Cdにおいて隣り合う2つのベーン40の間の第1空間S1の容積Vの変化について説明する。
図6は、幾つかの実施形態に係るベーンポンプ2における第1空間S1の容積Vの変化を例示する図である。
図7は、一実施形態に係るポンプ室5の構成例を示す概略図である。
ポンプ室5には、例えば
図4に例示するように、第1角度位置P1と第2角度位置P2との間に
図2及び
図3に示す吸気通路6が連通しており、第2角度位置P2と第3角度位置P3との間に排気通路8が連通している。ポンプ室5のうち第1空間S1内の容積Vは、隣り合う2つのベーン40の突出量Aに応じて変化する。本開示におけるベーン40の突出量Aは、例えば
図4におけるロータ38の外周面32からベーン40の先端(径方向外側端)までの、スリット36の延在方向に沿った距離である。
第1空間S1の容積Vは、具体的には、
図6に示すように周期的に変化し、2つのベーン40が距離Lが最小である角度位置を挟んだ位置にあるときに最小となり、2つのベーン40が距離Lが最大である角度位置を挟んだ位置にあるときに最大となる。従って、ベーンポンプ2は、ロータ38の回転に伴い、距離Lが最小から最大に向かう容積拡大の際に吸気し、
図7に例示するような距離Lが最大から最小に向かう容積縮小の際に排気する。排気通路8からポンプ室5への逆流を防ぐ観点において、排気の際は、ポンプ室5内の流体を排気前に排気通路8(排気出口)の圧力以上に圧縮(昇圧)してポンプ室5外に排出することが好ましい。
【0026】
この点、上述した本開示のベーンポンプ2によれば、上記(1)式を満たすことにより、従来のベーンポンプ(例えばθ1=θ2/2を満たすベーンポンプ)に比べてより上流側の角度位置で圧縮工程に移行することができるため、圧縮工程を長くすることができる。よって、ポンプ室5内と排気通路8とが連通して排気が開始される際における第1空間S1内の圧力を従来よりも高くすることができる。これにより、排気通路8からポンプ室5内への流体の逆流を効果的に抑制してポンプ効率の向上を図ることができるベーンポンプ2を提供することができる。
【0027】
また、ポンプ効率が向上することにより、省エネ化(低消費電力化)を図ることができる。また、負荷トルクが低下するため、例えば従来と同一性能のモータを使用する際には回転速度が上昇することにより排気に要する時間を短縮できるから、真空性能が向上する。また、負荷トルクの低下によりベーンポンプ2での発熱量が低減されるため、熱膨張によるベーンポンプ2内部のクリアランスの変化が減少し、真空性能の温度特性が改善される。
【0028】
また、ベーンポンプ2での発熱量が低減されることにより、例えばロータ38、ベーン40及びポンプケーシング10の摩耗量が低減され、ポンプ部分の寿命を改善することができる。また、負荷トルク及びベーンポンプ2の発熱量が低減されることにより、モータ66の寿命も改善することができる。また、ベーンポンプ2の稼働中における製品全体の温度が低下するため、耐熱性の低い材料を採用することができる。さらに、第1空間S1内の容積変化を大きく確保することができることにより、例えば1つのロータ38に設けるベーン40の枚数を低減することができる。
【0029】
幾つかの実施形態では、例えば
図3~
図5に例示するように、ポンプ室5の内周面42(42A,42B)は、内周面42とロータ38の回転中心Cとの距離Lが、回転中心Cに対して対称である2つの角度位置において最大値Lmaxとなるように構成されている。この場合、2つの第2角度位置P2、P4は、ロータ38の回転軸線方向視において互いが回転中心Cに対して点対称の位置に配置され得る。また、この場合、例えば
図4及び
図5において、角度位置P3は第2角度位置P4との関係において第1角度位置であり、角度位置P1は第2角度位置P4との関係において第3角度位置である。
【0030】
このように、距離Lが、回転中心Cに対して対称である2つの角度位置において最大値Lmaxとなる構成では、例えば排気通路8と吸気通路6とが1つずつ設けられ、ロータ38の1回転につき吸気工程と排気工程とがそれぞれ1回(1サイクル)行われるベーンポンプ(距離Lが1つの角度位置のみで最大値Lmaxとなる構成)と比較して、圧縮工程が短くなりやすい。このように圧縮工程が短くなりやすい構成においても、上記(1)式を満たすようにベーンポンプ2を構成することにより、圧縮工程を長くして上述の逆流を抑制することができる。
【0031】
幾つかの実施形態では、上述したベーンポンプ2は、ポンプ室5のうち隣り合う2つのベーン40で画定される第1空間S1の圧力が大気圧以上に昇圧されてから、第1空間S1と排気口14(より詳細にはポンプ室5に開口された排気通路8の排気ポート35)とが連通するように構成されていてもよい。第1空間S1とポンプ室5の排気ポート35とが連通する前に第1空間S1内の圧力が大気圧以上に昇圧される内周面42のプロファイルは、ロータ38の周方向Cdに配置されるベーン40の数や、周方向Cdにおいて吸気通路6及び排気通路8とポンプ室5とが連通する位置とを考慮して予め試験を行うことにより設定することができる。
【0032】
車両におけるブレーキブースターの負圧室内を負圧にするためのベーンポンプ2においては、排気口14が大気に向けて開放されており、排気通路8内の圧力が大気圧であることが多い。従って、第1空間S1の圧力を大気圧以上に昇圧してから、第1空間S1とポンプ室5の排気ポート35とが連通される構成によれば、第1空間S1とポンプ室5の排気ポート35との連通が開始される際における第1空間S1内の圧力を排気通路8内の圧力よりも高くすることができるから、排気通路8からポンプ室5の第1空間S1内への流体の逆流を効果的に抑制することができる。
【0033】
図8は、ロータ38の回転方向Rdにおけるロータ38の位相(以下、単に「ロータ38の位相」という。)とベーン40の加速度との関係を示すベーン加速度変化線F1の一例を示すグラフである。
図9は、ロータ38の位相とベーン40の移動速度との関係を示すベーン速度変化線F2の一例を示すグラフである。
図10は、ロータ38の位相とベーン40の突出量Aとの関係を示すベーン突出量変化曲線F3の一例を示すグラフである。
図11は、ロータ38の位相と第1空間S1の容積Vとの関係を示す容積変化曲線F4の一例を示すグラフである。
本発明の少なくとも1つの実施形態に係るベーンポンプ2は、例えば
図10に例示するように、ベーン突出量変化曲線F3において、第1ベーン40の突出量Aが最大となるロータ38の位相を第1位相Ph1、第1位相Ph1の次に第1ベーン40の突出量Aが最小となるロータ38の位相を第2位相Ph2、第1位相Ph1における第1ベーン40の突出量AをAmax、第2位相Ph2における第1ベーン40の突出量AをAmin、第1位相Ph1と第2位相Ph2との間において突出量Aが(Amax-Amin)の半分となるロータ38の位相を第3位相Ph3、第1位相Ph1と第2位相Ph2との中点Hの位相を第4位相Ph4と定義した場合に、第3位相Ph3は、第1位相Ph1と第4位相Ph4との間に位置する。
つまり、
図10に示すように、ベーン突出量変化曲線F3は、第1ベーン40の突出量Aが最大又は最小であるロータ38の位相を挟んで、突出側と戻り側とが非対称のグラフとなる。なお、ベーン突出量変化曲線F3が
図10の上記特徴を満たすようにベーン40の突出量Aを規定する内周面42は、平面視にて例えば
図5に示す内周面42Aのような形状である。
【0034】
かかる構成のベーンポンプ2によれば、例えば第3位相Ph3が第4位相Ph4以降に位置する場合に比べて、圧縮工程すなわち第1空間S1の容積Vが減少する工程における圧縮量(第1空間S1の容積Vの減少量)を大きくすることにより、排気を開始する際における第1空間S1内の圧力を大きくすることができる。つまり、上述したθ1<θ2/2を満たす構成では、θ1=θ2/2の場合に比べて圧縮工程に移行するタイミングを早めることにより、排気が開始される際における第1空間S1内の圧力を従来よりも高めることが可能であるのに対し、第3位相Ph3が第1位相Ph1と第4位相Ph4との間に位置する構成では、容積Vの減少工程(圧縮工程)全体における前半での圧縮量を後半での圧縮量よりも大きく確保することにより排気が開始される際における第1空間S1内の圧力を従来よりも高めるができる。これにより、排気通路8からポンプ室5内への流体の逆流を効果的に抑制してポンプ効率を向上可能なベーンポンプ2を提供することができる。
【0035】
幾つかの実施形態では、例えば
図9に例示するように、第3位相Ph3が第1位相Ph1と第4位相Ph4との間に位置するベーンポンプ2において、ベーン速度変化線F2は、位相が進むにつれて第1ベーン40の速度が上昇する第1区間Z1を第1位相Ph1と第2位相Ph2の間に含む。第1区間Z1では、位相が進むにつれて速度の傾き(つまり
図8に例示する加速度)が小さくなる。
【0036】
かかる構成のベーンポンプ2によれば、圧縮工程すなわち第1空間S1内の容積が減少する排気側の行程において、圧縮の開始側の容積変化を圧縮の終了側の容積変化よりも大きくすることができる。つまり、ベーン突出量変化曲線F3における圧縮工程において、圧縮の開始側の容積変化を圧縮の終了側の容積変化よりも大きくすることにより、排気が開始する際における第1空間S1内の圧力を大きくすることができる。
【0037】
幾つかの実施形態では、例えば
図9に例示するように、ベーン速度変化線F2の第1区間Z1では、位相が進むにつれて速度の傾きが段階的に小さくなっていてもよい。例えば
図9に示す例では、第1区間Z1において、位相が進むにつれてベーン40の速度の傾きが2段階に小さくなる。なお、排気側におけるベーン40の速度の傾き(加速度)の変化は3段階以上であってもよい。また、他の実施形態では、ベーン速度変化線F2は、第1区間Z1において、位相が進むにつれてベーン40の速度の傾きが連続的に小さくなってもよい。
【0038】
かかる構成のベーンポンプ2によれば、圧縮工程すなわち第1空間S1内の容積が減少する排気側の行程において、圧縮の開始側の容積変化を圧縮の終了側の容積変化よりも大きくすることができる。つまり、ベーン突出量変化曲線F3における圧縮工程において、圧縮の開始側の容積変化を圧縮の終了側の容積変化よりも大きくすることにより、排気が開始する際における第1空間S1内の圧力を大きくすることができる。
【0039】
幾つかの実施形態では、例えば
図11に例示するように、容積変化曲線F4において、容積Vの最小値に対応するロータ38の位相を第5位相Ph5、容積Vの減少する区間における容積変化曲線F4の変曲点Iに対応する位相のうち第5位相Ph5の次に位置する位相を第6位相Ph6、第5位相Ph5から第6位相Ph6までの角度をα1、容積変化曲線F4の1周期に対応する角度をα2とした場合に、ポンプ室5の内周面42Aは、α1/α2<3/4を満たすように構成されている。
【0040】
かかる構成のベーンポンプ2によれば、圧縮工程すなわち第1空間S1内の容積が減少する排気側において、圧縮の開始側の容積変化を圧縮の終了側の容積変化よりも大きくすることができる。つまり、容積変化曲線F4における圧縮工程において、圧縮の開始側の容積変化を圧縮の終了側の容積変化よりも大きくすることにより、排気が開始する際における第1空間S1内の圧力を大きくすることができる。
【0041】
図12は、他の実施形態に係るベーンポンプを概略的に例示する斜視図である。
幾つかの実施形態では、例えば
図12に例示するように、上述した何れか一つの実施形態に記載のベーンポンプ2において、ポンプ室5の内周面42は、内周面42とロータ38の回転中心Cとの距離Lが、ロータ38の周方向Cdに等間隔である3つの角度位置P2、P4、P6において最大値Lmaxを有するように構成されてもよい。この場合、内周面42は、ロータ38の周方向Cdに等間隔である3つの角度位置P1、P3、P5において距離Lが最小値Lminとなるように構成される。このように、ロータ38の1回転につき吸気工程と排気工程とがそれぞれ3回(3サイクル)行われるベーンポンプ2では、θ
2=120°、且つθ
1<60°を満たすように内周面42を形成してもよい。
【0042】
かかる構成のベーンポンプ2によれば、ロータ38の1回転につき吸気工程と排気工程とがそれぞれ3回(3サイクル)行われるベーンポンプ2においても、上述した本開示の利益を享受することができる。また、他の実施形態では、ベーンポンプは、ロータの1回転につき吸気工程と排気工程とがそれぞれ4回(4サイクル)以上行われるように構成されていてもよい。
【0043】
本開示の少なくとも1つの実施形態によれば、ポンプ効率を向上できるベーンポンプ2を提供することができる。
【0044】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変更を加えた形態や、これらの形態を組み合わせた形態も含む。例えば、上述した幾つかの実施形態では、複数のスリット36及び複数のベーン40として、ロータ38の周方向Cdに等間隔に配置された6つのスリット36と、各スリット36にそれぞれ配置された6つのベーン40とを含む構成を例示したが、スリット36及びベーン40の数は6つに限定されず、例えば、2~5つであってもよいし、7つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
2 ベーンポンプ
5 ポンプ室
14 排気口
32 外周面
35 排気ポート
36 スリット
38 ロータ
40 ベーン
42 内周面
S1 第1空間
F1 ベーン加速度変化線
F2 ベーン速度変化線
F3 突出量変化曲線
F4 容積変化曲線
P1 第1角度位置
P2 第2角度位置
P3 第3角度位置
Ph1 第1位相
Ph2 第2位相
Ph3 第3位相
Ph4 第4位相
Z1 第1区間
A 第1ベーンの突出量
Amax 第1ベーンの最大突出量
Amin 第1ベーンの最小突出量
C 回転中心
Cd 周方向
I 変曲点
L ポンプ室の内周面とロータの回転中心との距離
Pd ベーンの突出方向
Rd 回転方向