(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】加工条件を決定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/00 20060101AFI20230621BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20230621BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
B23Q15/00 301H
G05B19/4155 V
G05B19/4093 A
(21)【出願番号】P 2019149726
(22)【出願日】2019-08-19
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174942
【氏名又は名称】平方 伸治
(72)【発明者】
【氏名】中本 圭一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真由
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 真二
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160303(JP,A)
【文献】特開2002-189510(JP,A)
【文献】特開平7-295619(JP,A)
【文献】特開平11-3111(JP,A)
【文献】特開2001-356804(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0294500(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00-15/28
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NC加工における加工条件を決定するための方法であって、
各々が複数の加工面を有する複数の既知の被加工物の各々について、形状データを複数のボクセルに変換する工程と、
前記複数の既知の被加工物の各々について、前記加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、
前記複数の既知の被加工物の前記ボクセル及び前記加工条件を用いて、入力がボクセルであり、出力が加工条件である、機械学習を行う工程と、
複数の加工面を有する対象被加工物の形状データを複数のボクセルに変換する工程と、
前記機械学習の結果に基づいて、前記対象被加工物の前記ボクセルを入力として用いて、前記対象被加工物の前記加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、
前記対象被加工物の前記加工面の各々に対して加工条件を決定する工程であって、1つの加工面のなかで最多のボクセルに対して設定された加工条件を当該加工面の加工条件として決定する工程と、
を備えることを特徴とした方法。
【請求項2】
前記加工条件は、工具経路パターンを含み、
当該方法は、前記対象被加工物の前記加工面の各々に対して決定された工具経路パターンに基づいて、前記対象被加工物を加工するための全体的な工具経路を生成する工程を更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の既知の被加工物の各々について、前記加工面を構成するボクセルの各々に対して面の品質を設定する工程と、
前記対象被加工物について、前記加工面を構成するボクセルの各々に対して面の品質を設定する工程と、
を更に備え、
前記機械学習を行う工程、及び、前記対象被加工物のボクセルに対して加工条件を設定する工程は、入力として、前記面の品質を更に用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記加工条件は、加工に用いられる工具を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
NC加工における加工条件を決定するための装置であって、
プロセッサと、
表示部と、
を備え、
前記プロセッサが、
各々が複数の加工面を有する複数の既知の被加工物の各々について、形状データを複数のボクセルに変換する工程と、
前記複数の既知の被加工物の各々について、前記加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、
前記複数の既知の被加工物の前記ボクセル及び前記加工条件を用いて、入力がボクセルであり、出力が加工条件である、機械学習を行う工程と、
複数の加工面を有する対象被加工物の形状データを複数のボクセルに変換する工程と、
前記機械学習の結果に基づいて、前記対象被加工物の前記ボクセルを入力として用いて、前記対象被加工物の前記加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、
前記対象被加工物の前記加工面の各々に対して加工条件を決定する工程であって、1つの加工面のなかで最多のボクセルに対して設定された加工条件を当該加工面の加工条件として決定する工程と、
を実行するように構成されており、
前記加工条件の各々には、視覚的に識別できる所定の特徴が割り当てられており、
前記プロセッサが、前記加工条件を前記所定の特徴として認識し、
前記表示部が、前記対象被加工物の前記加工面の各々を、決定された加工条件に対応する前記所定の特徴と共に示すことを特徴とした装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、加工条件を決定するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NC(Numerical Control)加工を支援するための様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1は、NCデータを用いた金型の設計を支援するための方法及び装置を開示している。特許文献1では、既存の金型のNCデータを用いて金型を設計する際に、既存の金型のCAMデータと、設計対象の金型のCAMデータとが比較されて、加工部位毎に、既存の金型のデータを用いることは可能か否かが判定される。既存の金型のデータを用いることが可能な加工部位の数と、加工部位の総数との比率が、流用率として算出される。流用率の算出には、ニューラルネットワークが用いられている。
【0003】
特許文献2には、NC工作機械におけるツールパスデータの生成を支援するための装置が開示されている。特許文献2では、製品の3次元形状に関する特徴データ、素材データ、各加工工程のデータ、各加工工程後の形状に関するデータ、及び、使用可能な工具のデータに基づいて、ツールパスデータが自動的に生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-160303号公報
【文献】特開2002-189510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NC加工における加工条件は、オペレータの経験及びノウハウに基づいて、CAMソフトウェアに様々なデータを入力することによって生成される場合がある。しかしながら、オペレータが未熟である場合、特に加工物が複雑な形状を有するときには、望ましい加工条件を決定することが困難である。
【0006】
本発明は、過去に類型のない被加工物について、複数の事例に基づいて新たに加工条件を決定することができる方法及び装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、NC加工における加工条件を決定するための方法であって、各々が複数の加工面を有する複数の既知の被加工物の各々について、形状データを複数のボクセルに変換する工程と、複数の既知の被加工物の各々について、加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、複数の既知の被加工物のボクセル及び加工条件を用いて、入力がボクセルであり、出力が加工条件である、機械学習を行う工程と、複数の加工面を有する対象被加工物の形状データを複数のボクセルに変換する工程と、機械学習の結果に基づいて、対象被加工物のボクセルを入力として用いて、対象被加工物の加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、対象被加工物の加工面の各々に対して加工条件を決定する工程であって、1つの加工面のなかで最多のボクセルに対して設定された加工条件を当該加工面の加工条件として決定する工程と、を備える方法である。
【0008】
本開示の一態様に係る方法では、既知の被加工物の形状データが、複数のボクセルに変換される。また、加工面を構成するボクセルの各々に対して、加工条件が設定される。この加工条件は、例えば、熟練オペレータによって加工面の各々に対して予め設定されたものであることができる。そして、複数の既知の被加工物のボクセル及び加工条件に基づいて、入力がボクセルであり、出力が加工条件である機械学習が行われる。この機械学習の結果に基づいて、新たに対象被加工物の加工面の各々について加工条件が自動で決定される。したがって、過去に類型のない対象被加工物について、複数の事例に基づいて新たに加工条件を決定することができる。
【0009】
加工条件は、工具経路パターンを含んでもよく、方法は、対象被加工物の加工面の各々に対して決定された工具経路パターンに基づいて、対象被加工物を加工するための全体的な工具経路を生成する工程を更に備えてもよい。この場合、対象被加工物に対して、全体的な工具経路を自動で決定することができる。
【0010】
複数の既知の被加工物の各々について、加工面を構成するボクセルの各々に対して面の品質を設定する工程と、対象被加工物について、加工面を構成するボクセルの各々に対して面の品質を設定する工程と、を更に備えてもよく、機械学習を行う工程、及び、対象被加工物のボクセルに対して加工条件を設定する工程は、入力として、面の品質を更に用いてもよい。被加工物の形状(ボクセルの形状)と同様に、面の品質も、加工条件の選択に影響を及ぼす可能性がある。したがって、面の品質を機械学習の入力として更に用いることによって、より高精度に加工条件を決定することができる。
【0011】
加工条件は、加工に用いられる工具を含んでもよい。この場合、対象被加工物の加工面の各々について、加工に用いられる工具を自動で決定することができる。
【0012】
本開示の他の態様は、NC加工における加工条件を決定するための装置であって、プロセッサと、表示部と、を備え、プロセッサが、各々が複数の加工面を有する複数の既知の被加工物の各々について、形状データを複数のボクセルに変換する工程と、複数の既知の被加工物の各々について、加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、複数の既知の被加工物のボクセル及び加工条件を用いて、入力がボクセルであり、出力が加工条件である、機械学習を行う工程と、複数の加工面を有する対象被加工物の形状データを複数のボクセルに変換する工程と、機械学習の結果に基づいて、対象被加工物のボクセルを入力として用いて、対象被加工物の加工面を構成するボクセルの各々に対して加工条件を設定する工程と、対象被加工物の加工面の各々に対して加工条件を決定する工程であって、1つの加工面のなかで最多のボクセルに対して設定された加工条件を当該加工面の加工条件として決定する工程と、を実行するように構成されており、加工条件の各々には、視覚的に識別できる所定の特徴が割り当てられており、プロセッサが、加工条件を所定の特徴として認識し、表示部が、対象被加工物の前記加工面の各々を、決定された加工条件に対応する所定の特徴と共に示す装置である。
【0013】
この態様に係る装置では、上記の方法と同様に、過去に類型のない対象被加工物について、複数の事例に基づいて新たに加工条件を決定することができる。また、この装置では、加工面の各々に対して決定された加工条件が、視覚的に識別できる所定の特徴として表示部に示される。したがって、オペレータは、加工面の各々に対して決定された加工条件を容易に認識することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、過去に類型のない被加工物について、複数の事例に基づいて新たに加工条件を決定することができる方法及び装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る方法及び装置を示す概略図である。
【
図2】加工条件の一例としていくつかの工具経路パターンを示す概略図である。
【
図3】
図1の装置で実行される機械学習を示すフローチャートである。
【
図4】
図1の装置で実行される対象被加工物に対する加工条件の決定を示すフローチャートである。
【
図6】
図6(a)は過去の工程設計事例のモデルAのCADデータを示す。
図6(b)は過去の工程設計事例のモデルBのCADデータを示す。
【
図7】
図7(a)は本開示の方法によって加工条件が設定されたモデルAのボクセルを示す。
図7(b)は本開示の方法によって加工条件が設定されたモデルBのボクセルを示す。
【
図8】
図8(a)は本開示の方法によって加工条件が設定されたモデルAのCADデータを示す。
図8(b)は本開示の方法によって加工条件が設定されたモデルBのCADデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係るNC加工における加工条件を決定するための方法及び装置を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、実施形態に係る方法及び装置を示す概略図である。本開示の方法は、CAD(Computer Aided Design)システム50、CAM(Computer Aided Manufacture)システム60、加工条件を決定するための装置10、及び、工作機械70を含むシステム100内で実施されることができる。システム100は、その他の構成要素を含んでもよい。CADシステム50、CAMシステム60、及び、装置10は、別々の装置として構成されてもよいし、同じ装置に組み込まれてもよい(例えば、装置10は、CAMシステム60に組み込まれてもよい。また、例えば、CADソフトウェア及びCAMソフトウェアが、装置10に組み込まれてもよい)。
【0018】
CADシステム50では、被加工物のCADデータが作成される。被加工物は、様々な物(例えば、金型等)であることができる。CADデータで表される被加工物は、工具によって加工された後の目標形状を有する。CADシステム50では、装置10が機械学習を行う際に教師データとなる「既知の被加工物」(以下では、教師データとも称され得る)のCADデータ51と、機械学習の結果に基づいて新たに加工条件が決定される「対象被加工物」のCADデータ52と、が作成される。なお、「既知の被加工物(教師データ)」は、実際に過去に作製された加工物であってもよく、又は、電子データとしてのみ作成され、熟練オペレータによって加工条件が決定された加工物であってもよい。
【0019】
CADデータ51,52は、加工物に含まれる頂点、辺、及び、面などの形状データを含んでいる。CADデータ51,52は、例えば、3次元直交座標系であるXYZ軸座標系で定義されることができる。CADデータ51,52は、その他の座標系で定義されてもよい。加工物は、キャラクタラインによって囲まれた(又は分割された)複数の加工面を含んでいる。
【0020】
教師データのCADデータ51は、CAMシステム60に入力される。CAMシステム60では、オペレータ(特に、熟練オペレータ)が、教師データの複数の加工面の各々に対して、加工条件を設定する。加工条件は、加工に関する様々な情報であることができる。例えば、加工条件は、工具経路パターン、工具の寸法(例えば、径、ホルダからの突き出し長さ 等)、切削条件(工具の回転数、送り速度、切り込み深さ等)、工具の本数、工具1本あたりの加工面積、及び、工具の種類等を含むことができる。例えば、オペレータは、ある加工条件について準備された複数の選択肢の中から、過去の実際の加工でその加工面に対して用いられた加工条件、又は、その加工面の加工に適していると考えられる加工条件を選択することができる。本実施形態では、機械学習で用いられる加工条件(対象被加工物に対して新たに設定される加工条件)は、工具経路パターンとして説明される。オペレータは、例えば、複数の工具経路パターンの中から、過去の実際の加工でその加工面に対して用いられた工具経路パターン、又は、その加工面の加工に適していると考えられる工具経路パターンを選択することができる。複数の加工面について選択された複数の工具経路パターンを組み合わせることによって、1つの加工物の全体的な工具経路が生成される。
【0021】
図2は、加工条件の一例としていくつかの工具経路パターンを示す概略図である。複数の工具経路パターンは、様々な工具経路パターンを含むことができる。例えば、
図2の左側の図は、等高線経路を示している。等高線経路では、工具Tが、加工面を等高線動作で加工する。
図2の中央の図は、走査線経路を示している。走査線経路では、工具Tが、加工面を倣いながら領域を埋めるように加工面を加工する。
図2の右側の図は、面沿い経路を示している。面沿い経路では、工具Tは、加工面の境界線に沿った動作で加工面を加工する。複数の工具経路パターンは、上記の3つの工具経路パターン以外の工具経路パターン(例えば、工具が高さ方向に螺旋状に移動しながら加工面を加工するスパイラル加工等)を含んでもよい。
【0022】
加工面にどの加工条件が選択されたかを視覚的に識別できるようにするために、複数の選択肢の各々には、所定の色が割り当てられている。
図2に示されるように、例えば、本実施形態では、等高線経路が選択された加工面には「赤」が割り当てられ、走査線経路が選択された加工面には「緑」が割り当てられ、面沿い経路が選択された加工面には「青」が割り当てられる。CAMシステム60の表示部は、加工面の各々を、選択された加工条件に対応する所定の色で示す。これによって、オペレータは、加工面にどの加工条件が選択されたかを容易に認識することができる。なお、加工面にどの加工条件が選択されたかを視覚的に識別できるようにするためには、複数の選択肢の各々に、視覚的に識別できる所定の特徴(例えば、色、模様、及び/又は、文字など)が割り当てられることができる。
【0023】
図1を参照して、教師データは、CAMシステム60から装置10に入力される。教師データは、CADシステム50で作成されたCADデータ51と、CAMシステム60で設定された加工条件と、を含んでいる。本実施形態では、工具経路パターンが、その工具経路パターンに割り当てられた色として、教師データに含まれている。
【0024】
装置10は、例えば、記憶装置11、プロセッサ12、及び、表示部13を備えることができ、これらの構成要素は、バス(不図示)等を介して互いに接続されている。装置10は、ROM(read only memory)、RAM(random access memory)、及び/又は、入力装置(例えば、マウス、キーボード、及び/又、タッチパネル等)など、他の構成要素を備えることができる。装置10は、例えば、コンピュータ、サーバー、又は、タブレット等であることができる。
【0025】
記憶装置11は、例えば、1つ又は複数のハードディスクドライブ等であり得る。記憶装置11は、入力された教師データを記憶することができる。プロセッサは12、例えば、1つ又は複数のCPU(Central Processing unit)等であり得る。プロセッサ12は、以下に示される複数の処理を実行するように構成されており、各処理を実行するためのプログラムは、例えば、記憶装置11に記憶されることができる。プロセッサ12は、記憶装置11に記憶された複数の教師データの情報に基づいて機械学習を行うように構成されている(詳しくは後述)。機械学習には、例えば、ニューラルネットワーク(例えば、畳み込みニューラルネットワーク)を用いることができる。また、プロセッサ12は、CADシステム50で作成された対象被加工物のCADデータ52を用いて、上記の機械学習の結果に基づいて、対象被加工物に対して新たに加工条件を決定するように構成されている(詳しくは後述)。
【0026】
表示部13は、液晶ディスプレイ及び/又はタッチパネル等であり得る。表示部13は、CAMシステム60の表示部と同様に、加工面の各々を、設定された加工条件に対応する、視覚的に識別できる所定の特徴(例えば、色、模様、及び/又は、文字など)と共に示す。
【0027】
装置10で決定された被対象加工物の加工条件のデータは、CAMシステム60に入力される。CAMシステム60に入力されたデータは、NCデータに変換されて、NC工作機械70に入力されることができる。
【0028】
次に、装置10で実行される動作について説明する。
【0029】
まず、装置10で実行される機械学習について説明する。
図3は、
図1の装置で実行される機械学習を示すフローチャートである。
【0030】
プロセッサ12は、記憶装置11から、複数の教師データの各々について、情報を取得する(ステップS100)。取得する情報には、CADデータ51、及び、複数の加工面の各々に対して選択された加工条件(工具経路パターン(色))が含まれる。
【0031】
続いて、プロセッサ12は、複数の教師データの各々について、CADデータ(形状データ)51を複数のボクセルに変換する(ステップS102)。具体的には、
図1を参照して、プロセッサ12は、プログラムに基づいて及び/又はオペレータからの入力に基づいて、CADデータ51の中の全ての加工面が含まれる領域53を設定する。領域53は、被加工物の材料が存在しない空間も含むことができる。領域53は、例えば、立方体形状又は直方体形状等の3D形状を有することができる。プロセッサ12は、プログラムに基づいて及び/又はオペレータからの入力に基づいて、例えば、領域53をX方向にn
x個の区分に分割し、Y方向にn
y個の区分に分割し、Z方向にn
z個の区分に分割し、これによって、n
x×n
y×n
z個のボクセル55が生成される。例えば、プロセッサ12は、被加工物の材料を含むボクセル55(材料が充填されているボクセル)に対して「1」を、及び、被加工物の材料を含まないボクセル55に対して「0」を設定する(本開示において、「充填度」とも称され得る)。これらの動作によって、n
x×n
y×n
zの充填度配列A
fが生成される。分割数n
x×n
y×n
zは、複数の教師データの間で同じにする。各教師データ毎に分割数n
x×n
y×n
zが異なるデータの場合は、形状データの縮尺を維持したまま、個々のボクセルの辺の長さを拡大・縮小する、一つのボクセルを複数のボクセルに分割する、または被加工物の外側の領域に「0」のボクセルを補填することによって、予め同じ分割数への変換を行う。
【0032】
図3を参照して、続いて、プロセッサ12は、複数の教師データの各々について、加工面を構成するボクセル55の各々に対して加工条件(工具経路パターン(色))を設定する(ステップS104)。具体的には、
図1を参照して、プロセッサ12は、例えば、CAMシステム60において熟練オペレータによって各加工面に対して予め設定された色を、その加工面に含まれるボクセル55に対して設定することができる。プロセッサ12は、各色に対して配列A
R、A
G、A
Bを生成する。具体的には、配列A
Rでは、赤が設定されたボクセル55に対して「1」が設定され、その他のボクセル55に対して「0」が設定される。同様に、配列A
Gでは、緑が設定されたボクセル55に対して「1」が設定され、その他のボクセル55に対して「0」が設定される。配列A
Bでは、青が設定されたボクセル55に対して「1」が設定され、その他のボクセル55に対して「0」が設定される。これらの動作によって、n
x×n
y×n
zの3つの配列A
R、A
G、A
Bを含む、工具経路パターン配列A
TPが生成される。なお、いくつかのボクセル55(例えば、エッジに位置するボクセル)は、複数の加工面に属する可能性がある。このようなボクセル55に対しては、異なる工具経路パターン(色)が設定される可能性がある(例えば領域53において、最上部のボクセルに対しては、緑(上面)及び赤(側面)が設定される可能性がある)。このようなボクセル55に対しては、配列A
Gにおいて「1」が設定され、配列A
Rにおいても「1」が設定される。
【0033】
図3を参照して、続いて、プロセッサ12は、複数の教師データのボクセル及び加工条件を用いて、入力がボクセルであり、出力が加工条件である、機械学習を行う(ステップS106)。具体的には、
図1を参照して、プロセッサ12は、充填度配列A
fを入力とし、工具経路パターン配列A
TPを出力とする機械学習を行う。これによって、学習済みのネットワーク14が得られる。機械学習には、例えば、ニューラルネットワーク(NN)を用いることができる。いくつかの実施形態では、セグメンテーションに適用可能なニューラルネットワークを用いることができる。また、いくつかの実施形態では、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いることができる。
【0034】
以上により、装置10で実行される機械学習に関する一連の動作が終了する。なお、以上のステップは、所望の収束結果が得られるまで繰り返されてもよい。
【0035】
次に、装置10で実行される新たな対象被加工物に対する加工条件の決定について説明する。
図4は、
図1の装置で実行される対象被加工物に対する加工条件の決定を示すフローチャートである。
【0036】
プロセッサ12は、対象被加工物の形状データを取得する(ステップS200)。具体的には、
図1を参照して、プロセッサ12は、CADシステム50で作成された対象被加工物のCADデータ52を取得する。取得されるCADデータには、対象被加工物の形状データが含まれる。
【0037】
図4を参照して、続いて、プロセッサ12は、対象被加工物の形状データを複数のボクセル56に変換する(ステップS202)。具体的には、
図1を参照して、プロセッサ12は、プログラムに基づいて及び/又はオペレータからの入力に基づいて、CADデータ52の中の全ての加工面が含まれる領域54を設定する。領域54は、上記の領域53と同様に、被加工物が存在しない空間も含むことができ、例えば、立方体形状又は直方体形状等の3D形状を有することができる。プロセッサ12は、上記の領域53と同様に、領域54をX方向にn
x個の区分に分割し、Y方向にn
y個の区分に分割し、Z方向にn
z個の区分に分割し、これによって、n
x×n
y×n
z個のボクセル56が生成される。プロセッサ12は、上記の領域53と同様に、被加工物の材料を含むボクセル56に対して「1」を、被加工物の材料を含まないボクセル56に対して「0」を設定し、これによって、n
x×n
y×n
zの充填度配列A
fが生成される。対象被加工物の分割数n
x×n
y×n
zは、教師データの分割数n
x×n
y×n
zと同じ分割数のものを用意する。対象被加工物の分割数n
x×n
y×n
zが教師データの分割数n
x×n
y×n
zと異なるデータの場合は、形状データの縮尺を維持したまま、個々のボクセルの辺の長さを拡大・縮小する、一つのボクセルを複数のボクセルに分割する、または被加工物の外側の領域に「0」のボクセルを補填することによって、予め同じ分割数への変換を行う。
【0038】
図4を参照して、続いて、プロセッサ12は、上記の機械学習の結果に基づいて、対象被加工物の加工面を構成するボクセル56の各々に対して加工条件(工具経路パターン(色))を設定する(ステップS204)。具体的には、
図1を参照して、プロセッサ12は、対象被加工物の充填度配列A
fを学習済みのネットワーク14に入力し、これによって、対象被加工物に対する工具経路パターン配列A
TPが生成される。工具経路パターン配列A
TPは、各色に対する3つの配列A
R、A
G、A
Bを含む。
【0039】
図4を参照して、続いて、プロセッサ12は、対象被加工物の加工面の各々に対して色を決定する(ステップS206)。具体的には、プロセッサ12は、ステップS204で得られた結果を用いて、1つの加工面のなかで最多のボクセル56に対して設定された色を、当該加工面の色として決定する。上記のように、いくつかのボクセル56(例えば、エッジに位置するボクセル)については、1つのボクセル56に対して複数の工具経路パターン(色)が設定される可能性がある。以上のような動作によって、ある加工面に対して加工条件を決定するときに、その加工面の周辺からの影響を考慮することができる。
【0040】
続いて、プロセッサ12は、対象被加工物の加工面の各々に対して決定された工具経路パターンに基づいて、対象被加工物を加工するための全体的な工具経路を生成する(ステップS208)。例えば、プロセッサ12は、加工面の各々に対して決定された個々の工具経路パターンを組み合わせて、全体的な工具経路を生成する。プロセッサ12は、生成された工具経路を表示部13に送信する。
【0041】
続いて、表示部13は、生成された対象被加工物の工具経路を表示する(ステップS210)。具体的には、
図1を参照して、表示部13は、対象被加工物のCADデータ52の加工面の各々を、ステップS206で決定された色で表示する。表示部13はまた、対象被加工物のボクセル56の各々を、ステップS204で設定された色で表示してもよい。
【0042】
続いて、
図4を参照して、プロセッサ12は、生成された対象被加工物の工具経路を記憶装置11に保存して(ステップS212)、一連の動作を終了する。次回に行われる機械学習では、記憶装置11に保存された新たな工具経路が、教師データの1つとして用いられてもよい。また、生成された工具経路は、CAMシステム60に送信されてもよく、CAMシステム60でNCデータに変換された後に、工作機械70における加工で実際に使用されてもよい。
【0043】
以上のような実施形態に係る方法及び装置10では、既知の被加工物のCADデータ51が、複数のボクセル55に変換される。また、加工面を構成するボクセル55の各々に対して、加工条件が設定される。この加工条件は、例えば、熟練オペレータによって加工面の各々に対して予め設定されたものであることができる。そして、複数の既知の被加工物のボクセル55及び加工条件に基づいて、入力がボクセル55であり、出力が加工条件である機械学習が行われる。この機械学習の結果に基づいて、新たに対象被加工物の加工面の各々について加工条件が自動で決定される。したがって、過去に類型のない対象被加工物について、複数の事例に基づいて新たに加工条件を決定することができる。
【0044】
また、実施形態に係る方法及び装置10では、加工条件は、工具経路パターンを含み、方法は、対象被加工物の加工面の各々に対して決定された工具経路パターンに基づいて、対象被加工物を加工するための全体的な工具経路を生成する工程を更に備える。したがって、対象被加工物に対して、全体的な工具経路を自動で決定することができる。
【0045】
また、実施形態に係る方法及び装置10では、加工面の各々に対して決定された加工条件が、視覚的に識別できる所定の特徴として表示部13に示される。したがって、オペレータは、加工面の各々に対して決定された加工条件を容易に認識することができる。
【0046】
NC加工における加工条件を決定するための方法及び装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解するだろう。また、当業者であれば、上記の方法は、上記の順番で実施される必要はなく、矛盾が生じない限り、他の順番で実施可能であることを理解するだろう。
【0047】
例えば、
図1を参照して、上記の実施形態のネットワーク14では、入力として、ボクセル(ボクセルの充填度配列A
f)が用いられている。しかしながら、他の実施形態では、入力として更なる情報が用いられてもよい。例えば、入力として、「面の品質」が更に用いられてもよい。面の品質は、例えば、オペレータによってCADシステム50又はCAMシステム60において予め設定されることができる。装置10は、複数の既知の被加工物の各々について、加工面を構成するボクセルの各々に対して面の品質を設定する工程と、対象被加工物について、加工面を構成するボクセルの各々に対して面の品質を設定する工程と、を更に実施するように構成される。具体的には、プロセッサ12は、既知の被加工物及び対象被加工物の双方について、各加工面に対してCADシステム50又はCAMシステム60において予め設定された面の品質を、その加工面に含まれるボクセルに対して設定することができる。例えば、面の品質は、低品質であるとして「0」に設定されることができ、高品質であるとして「1」に設定されることができる。また、例えば、面の品質は、表面粗さの値であってもよい。被加工物の形状(ボクセルの形状)と同様に、面の品質も、加工条件の選択に影響を及ぼす可能性がある。したがって、面の品質を入力として更に用いることによって、より高精度に加工条件を決定することができる。付加的に又は代替的に、装置10は、面の品質以外の他の様々な加工面に関するパラメータ(例えば、寸法精度、幾何精度等)を入力に用いてもよい。
【0048】
また、上記の実施形態のネットワーク14では、出力(加工条件)として、工具経路パターン(工具経路パターン配列ATP)が用いられている。しかしながら、他の実施形態では、出力(加工条件)として、他の情報が追加的に又は代替的に用いられてもよい。例えば、加工条件として、「加工に使用される工具」が用いられてもよい。加工に使用される工具は、例えば、オペレータによってCAMシステム60において、既知の被加工物に対して予め設定されることができる。プロセッサ12は、各加工面に対してCAMシステム60において予め設定された工具を、その加工面に含まれるボクセルに対して設定することができる。例えば、工具は、小径であるとして「0」に設定されることができ、大径であるとして「1」に設定されることができる。また、例えば、工具径の値が各ボクセルに設定されてもよい。付加的に又は代替的に、装置10は、工具径以外の他の様々な加工に関するパラメータ(例えば、工具のホルダからの突き出し長さ、切削条件(工具の回転数、送り速度、切り込み深さ等)、工具の本数、工具1本あたりの加工面積、及び、工具の種類等)を加工条件に用いてもよい。
【0049】
例えば、上記の実施形態では、機械学習にニューラルネットワークが用いられている。しかしながら、他の実施形態では、機械学習に他の方法(例えば、決定木法等)が用いられてもよい。
【実施例】
【0050】
本実施例では、畳み込みニューラルネットワークをベースとしたネットワーク(3D U-net)を機械学習に用いた。当該ネットワークの詳細については、例えば、Cicek, O., Abdulkadir, A., Lienkamp, S. S., Brox, T., and Ronneberger, O 著、「3d U-Net: Learning Dense Volumetric Segmentation from Sparse Annotation」、arXiv:1606.06650、2016年を参照されたい。
【0051】
図5は、ネットワーク構造を示す概略図である。なお、
図5では、図面の明確さのために、3層のネットワーク14が示されているが、実際の実施例においては、5層のネットワークが使用されたことに留意されたい。ネットワーク14は、畳み込みネットワーク部分と、逆畳み込みネットワーク部分と、を有する。
図5に示されるように、ネットワーク14には、ボクセル数n
x×n
y×n
z=128×128×128個を有する充填度配列Afが入力される。
【0052】
図5のネットワーク14では、まず、入力された充填度配列Af(128×128×128×1)に対して、4つのフィルタを使用してコンボリューションが実行される。これによって、128×128×128の配列が、4チャンネル得られる(128×128×128×4)。各コンボリューションでは、3×3×3のサイズのフィルタが使用される。あるボクセルに対してコンボリューションを実行するとき、そのボクセルを中心としたフィルタと同じサイズの配列(3×3×3の配列)が、充填度配列Afから抽出される。抽出された配列のなかの各ボクセル(位置)の充填度(「1」又は「0」)と、フィルタのなかの対応する位置の値と、を掛け合わせることによって、3×3×3個の積が得られる。これらの積の合計が、コンボリューションの結果としてそのボクセルに対して出力される。次に、フィルタを移動させ(ストライド)、この演算が、充填度配列Afのなかの全てのボクセル(位置)に対して実行される。
図5のネットワーク14では、コンボリューションのストライドの幅は1である。以上の演算が、全てのフィルタに対して実行される。なお、端のボクセルに対しては、フィルタと同じサイズの配列を抽出するために、充填度配列Afの周囲に任意の値(例えば「0」)を設定するパディングが実行されてもよい。コンボリューションでは、対象被加工物の局所的な特徴が抽出される。各層におけるコンボリューションの回数、並びに、コンボリューションで使用されるフィルタの数、サイズ及びストライドの幅は、オペレータによって決定される(ハイパーパラメータとも称され得る)。フィルタのなかの各値は、機械学習によって調整される。
【0053】
1回又は複数回のコンボリューションが実行された後に、得られた各チャンネルの配列に対して、マックスプーリングが実行され、これによって、次の層(2層目)に移動する。各マックスプーリングでは、2×2×2のサイズのフィルタが使用され、これによって、128×128×128の配列が、64×64×64の配列に変換される。マックスプーリングでは、フィルタと同じサイズの配列(2×2×2の配列)が、各チャネルの配列から抽出される。抽出された配列のなかから、最も大きな数値が、マックスプーリングの結果として出力される。次に、フィルタを移動させ(ストライド)、この演算が、配列のなかの全ての位置に対して実行され、全てのチャンネルに対して実行される。
図5では、マックスプーリングのストライドの幅は、2×2×2である。マックスプーリングでは、コンボリューションによって抽出された特徴の全体的な位置情報がぼかされる。マックスプーリングで使用されるフィルタのサイズ及びストライドの幅は、オペレータによって決定される。
【0054】
以上の演算を全ての層について実行することによって、畳み込みネットワーク部分が完了する。
図5では、畳み込みネットワーク部分において、最終的に32×32×32の配列が32チャンネル得られる(32×32×32×32)。なお、上記のように、実際の実施例においては5層のネットワークが使用され、最終的には8×8×8の配列が128チャンネル得られたことに留意されたい(
図5において不図示)。
【0055】
逆畳み込みネットワーク部分では、畳み込みネットワーク部分で最終的に得られた各チャンネルの配列に対してアッププーリングが実行され、前の層(2層目)に移動する。各アッププーリングでは、畳み込みネットワーク部分のマックスプーリングと同じサイズのフィルタ(2×2×2)が使用される。
図5では、アッププーリングによって、32×32×32の配列が64×64×64の配列に変換される。アッププーリングでは、1つの位置が、フィルタと同じサイズの配列(2×2×2の配列)に分割される。分割された全ての位置には、元の位置の値がアッププーリングの結果として出力される。この演算が、配列のなかの全ての位置に対して実行され、全てのチャンネルに対して実行される。これによって、64×64×64×32の配列(
図5において不図示)が得られる。アッププーリングでは、抽出された特徴を保持したまま、前の層(2層目)のものと同じサイズを有する配列を得ることができる。
【0056】
アッププーリングが実行された後に、コンカチネートが実行される。コンカチネートでは、アッププーリングで得られた配列(64×64×64×32)と、畳み込みネットワーク部分の同じ層で最終的に得られた配列(64×64×64×16)と、が結合され、これによって、64×64×64×48の配列が得られる。コンカチネートでは、全体的な特徴が復元される。
【0057】
コンカチネートが実行された後に、得られた配列(64×64×64×48)に対して、コンボリューションを実行する。逆畳み込みネットワーク部分におけるコンボリューションでは、畳み込みネットワーク部分のコンボリューションと同様に、オペレータによって決定されるフィルタ数によって同数のチャンネルが得られるようにすることで、64×64×64×48の配列が、64×64×64×16の配列に変換される。
【0058】
以上の演算を全ての層について実行することによって、逆畳み込みネットワーク部分が完了し、最終的に、各色(各工具経路パターン)に対する3つの配列AR、AG、ABを含む、工具経路パターン配列ATPが得られる。
【0059】
各コンボリューションでは、活性化関数としてReLU(Rectified Linear Unit)が使用され、ReLUの前には、Batch Normalizationが実行された。工具経路パターン配列ATPを生成するための最終のコンボリューションでは、1×1×1のサイズのフィルタが使用され、活性化関数としてSigmoid Functionが使用された。損失関数にはダイス関数が使用され、勾配降下法にはミニバッチ勾配降下法が使用され、最適化アルゴリズムにはAdamが使用された。加工物の形状データを作成するのに使用されたCADソフトウェアは、Siemens社のNXであり、システム開発ではNXのAPI(Application Programming Interface)とGoogle社の深層学習ライブラリTensorFlowが使用された。
【0060】
図6(a),(b)は、それぞれ過去の工程設計事例のモデルA,BのCADデータを示す。
図6(a),(b)のモデルA,Bを対象被加工物として用いた。
図6(a),(b)のモデルA,Bは、教師データとしては用いられず、対象被加工物としてのみ用いられた。
図6(a),(b)は、正解として熟練オペレータによって施された工具経路パターン(色)を示している。教師データとして、別の過去の工程設計事例の223モデルが用いられた(不図示)。これらのモデルの工具経路も、熟練オペレータによって施された。
【0061】
図7(a),(b)は、それぞれ本開示の方法によって加工条件が設定されたモデルA,Bのボクセルを示す。
図7(a),(b)は、工具経路パターンが付されたボクセルを示しており、これらは、
図4のステップS204で得られる結果に相当する。
図7(a),(b)のボクセルの工具経路パターンは、それぞれ
図6(a),(b)のCADデータの工具経路パターンと概ね一致していることがわかる。具体的には、モデルAでは、
図7(a)に示されるボクセルの工具経路パターンと、熟練オペレータによって施された工具経路パターンとの一致率は93.9%であった。また、モデルBでは、
図7(b)に示されるボクセルの工具経路パターンと、熟練オペレータによって施された工具経路パターンとの一致率は90.7%であった。
【0062】
図8(a),(b)は、それぞれ本開示の方法によって加工条件が設定されたモデルAのCADデータを示す。
図8(a),(b)は、工具経路パターンが付されたCADデータを示しており、これらは、
図4のステップS206で得られる結果に相当する。
図8(a),(b)のCADデータの工具経路パターンは、それぞれ
図6(a),(b)のCADデータの工具経路パターンと概ね一致していることがわかる。具体的には、モデルAでは、
図8(a)にCADデータの工具経路パターンと、熟練オペレータによって施された工具経路パターンとの一致率は70.6%であった。また、モデルBでは、
図8(b)に示されるCADデータの工具経路パターンと、熟練オペレータによって施された工具経路パターンとの一致率は90.5%であった。以上のことから、本開示の方法及び装置は、過去の工程設計事例のデータの工具経路と概ね同様な工具経路を生成することができ、熟練オペレータのノウハウ及び経験を考慮した工具経路を生成可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0063】
10 装置
12 プロセッサ
13 表示部
51 既知の被加工物のCADデータ(形状データ)
52 対象被加工物のCADデータ(形状データ)
55 既知の被加工物のボクセル
56 対象被加工物のボクセル
70 NC工作機械