IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図1
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図2
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図3
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図4
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図5
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図6
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図7
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図8
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図9
  • 特許-化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20230621BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20230621BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
G01N21/359
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019157176
(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公開番号】P2021032855
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
(72)【発明者】
【氏名】川岸 明菜
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】度会 悦子
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-209265(JP,A)
【文献】特開2011-215511(JP,A)
【文献】特開2013-108766(JP,A)
【文献】特開2011-080915(JP,A)
【文献】特開2013-212247(JP,A)
【文献】特開2011-206513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
G01N 21/00-21/61
A61B 5/107
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の組成物に対する吸光度よりも評価対象となる化粧剤に対する吸光度が低い近赤外の照明光を、前記組成物を含み、かつ前記化粧剤が塗布されている被塗布面に照射する光照射工程と、
前記光照射工程において、前記照明光が照射されている前記被塗布面で反射または透過される光に係る光情報を取得する光情報取得工程と、
前記光情報を解析し、前記被塗布面に塗布された前記化粧剤の塗布状態を判定する解析工程と、を含み、
前記光情報取得工程は、
前記光照射工程において光が照射されている前記被塗布面を撮像し、撮像画像を生成する画像生成工程を含み、
前記解析工程は、前記撮像画像を解析して前記化粧剤の塗布状態を判定し、さらに、
前記光照射工程においては、前記照明光を照射する光源と前記光情報取得工程において光情報を取得する光情報取得部との間に波長フィルタが設けられ、前記波長フィルタが透過する光の中心波長であるフィルタ波長と、前記皮膚の組成物の吸収ピークの中心波長である吸収波長とが相違している化粧剤の評価方法。
【請求項2】
前記フィルタ波長は、1350nm以上1400nm以下である、請求項1に記載の化粧剤の評価方法。
【請求項3】
皮膚の組成物に対する吸光度よりも評価対象となる化粧剤に対する吸光度が低い近赤外の照明光を、前記組成物を含み、かつ前記化粧剤が塗布されている被塗布面に照射する光照射工程と、
前記光照射工程において、前記照明光が照射されている前記被塗布面で反射または透過される光に係る光情報を取得する光情報取得工程と、
前記光情報を解析し、前記被塗布面に塗布された前記化粧剤の塗布状態を判定する解析工程と、を含み、
前記光情報取得工程は、
前記光照射工程において光が照射されている前記被塗布面を撮像し、撮像画像を生成する画像生成工程を含み、
前記画像生成工程において、複数の撮像画像を含む画像群を生成し、
前記解析工程において
前記撮像画像を解析して前記化粧剤の塗布状態を判定し、
前記被塗布面に塗布された前記化粧剤の塗布状態の相違に係る特徴である化粧剤相違情報を抽出し、
前記化粧剤が塗布されるときに塗布物に生じる音の物理量、被験者の肌により前記化粧剤を塗布するときに前記被験者の肌に伝わる物理量、前記化粧剤が塗布されるときに被験者の嗅覚に伝わる物理量の少なくとも一つを非視覚情報として時系列に取得する非視覚情報取得工程をさらに含み、
前記解析工程は、前記非視覚情報と前記画像群とを取得タイミングにより対応つけて前記化粧剤相違情報を抽出する化粧剤の評価方法。
【請求項4】
前記照明光を照射する光源と、前記撮像画像を結像する撮像レンズとを有し、
前記画像生成工程においては、前記光源から前記撮像レンズまでの間に透過軸が互いに直交する二枚の偏光板を備え、クロスニコルで前記被塗布面を撮像する、請求項1から3いずれか一項に記載の化粧剤の評価方法。
【請求項5】
皮膚の組成物に対する吸光度よりも評価対象となる化粧剤に対する吸光度が低い近赤外の照明光を、前記組成物を含む被塗布面に照射する光照射部と、
前記照明光が照射されている前記被塗布面において反射または吸収される光に係る光情報を取得する光情報取得部と、
前記光情報取得部によって取得された前記光情報を解析し、前記被塗布面に塗布された前記化粧剤の塗布状態を判定する解析部と、を備え、
前記光情報取得部は、
前記光照射部において光が照射されている前記被塗布面を撮像し、撮像画像を生成する画像生成部を含み、
前記解析部は、前記撮像画像を解析して前記化粧剤の塗布状態を判定し、
前記光照射部においては、前記照明光を照射する光源と前記光情報取得部との間に波長フィルタが設けられ、前記波長フィルタが透過する光の中心波長であるフィルタ波長と、前記皮膚の組成物の吸収ピークの中心波長である吸収波長とが相違している化粧剤の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚、あるいは皮膚に塗布された剤の状態を非接触で観察する方法として、皮膚に光を照射しながら撮像し、撮像された画像を解析することが行われている。皮膚に照射される照射光としては、観察の対象となる皮膚または剤に応じた波長の光が選択される。このような技術は、例えば、特許文献1、特許文献2により公知になっている。
【0003】
特許文献1に記載のサンスクリーン化粧料の塗布状態判定方法は、紫外線吸収剤を皮膚に塗布し、紫外光を照射して紫外線吸収剤の塗布状態をカメラによって撮影して観察するものである。特許文献1には、腕に複数の種類の紫外線吸収剤を塗布して測定部に挿入し、例えばUVA(紫外線A波)である紫外線を照射することが記載されている。
紫外線が照射された腕は、カメラによって撮影される。撮影された画像はモニタに表示される。照射された紫外線は紫外線吸収剤に吸収される。このような特許文献1に記載の発明によれば、紫外線吸収剤が塗布されている箇所が画像において他の箇所より黒く見えるために塗布状態が分かるようになる。
【0004】
特許文献2に記載の塗りむら評価方法は、紫外線吸収剤及び又は紫外線散乱剤等を含む皮膚外用剤を被写体に塗布し、この後の塗りむらを所定のUV(UltraViolet)波長領域で撮影可能なカメラを用いて撮影し、撮影によって得られた画像により評価するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-321333号公報
【文献】特開2011-80915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1、特許文献2に記載の発明は、紫外線吸収剤の日焼け防止効果の状態を判定するものであり、化粧剤の付着厚さや均一性といった美観や使用感、使用性に係る塗布状態を評価するものではない。塗布状態の評価の対象となる化粧剤には、無機物質の顔料が含まれている剤が多く、顔料としては、例えばタルク、酸化チタン、酸化亜鉛や酸化鉄等がある。このような顔料は、紫外線に対する吸光の特性が皮膚と大きく相違するものではなく、特許文献1、特許文献2のように紫外線を照射して画像を撮像することにより皮膚上の化粧剤の状態を観測することはできない。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、化粧剤の塗布状態を観測可能な評価方法及び評価装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の化粧剤の評価方法は、皮膚の組成物に対する吸光度よりも評価対象となる化粧剤に対する吸光度が低い近赤外の照明光を、前記組成物を含み、かつ前記化粧剤が塗布されている被塗布面に照射する光照射工程と、前記光照射工程において、前記照明光が照射されている前記被塗布面で反射または透過される光に係る光情報を取得する光情報取得工程と、を含む。
【0008】
本発明の化粧剤の評価装置は、皮膚の組成物に対する吸光度よりも評価対象となる化粧剤に対する吸光度が低い近赤外の照明光を、前記組成物を含む被塗布面に照射する光照射部と、前記照明光が照射されている前記被塗布面において反射または吸収される光に係る光情報を取得する光情報取得部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、化粧剤の塗布状態を観測可能な評価方法及び評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一実施形態の化粧剤評価方法を説明するための図である。
図2】(a)、(b)共に、図1の光照射工程において近赤外光を被塗布面に照射することを説明するための図である。
図3】(a)から(d)は、ファンデーションの塗布状態の相違を近赤外光画像で検証した結果を示す図である。
図4】近赤外光画像に現れる輝度の高い画素の面積率を示すグラフである。
図5】(a)から(d)は近赤外光画像の解析結果を示す図であり、それぞれが画像群を構成するフレーム画像である。
図6】(a)から(d)は近赤外光画像の解析結果を示す図であり、それぞれが画像群において図5(d)よりも後のフレーム画像である。
図7】(a)、(b)は近赤外光画像の解析結果を示す図であり、それぞれが画像群において図6(d)よりも後のフレーム画像である。
図8】(a)はファンデーションの塗布完了直後の近赤外光画像であり、(b)は(a)に示す被塗布面の時間が経過した後の近赤外光画像である。
図9】第一実施形態の化粧剤の評価装置を説明するための模式図である。
図10】(a)は相対的に凹凸の大きい皮膚に対するファンデーションの塗布開始直後の近赤外光画像、(b)は相対的に凹凸の小さい皮膚に対するファンデーションの塗布開始直後の近赤外光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第一実施形態、第二実施形態を説明する。この実施形態では、説明において同一の部材を同一の符号で示し、その一部の説明を略す場合がある。また、第一実施形態、第二実施形態は、本発明の技術思想を例示して説明するものであり、本発明を限定するものではない。
(概要)
第一実施形態、第二実施形態の化粧剤の評価方法は、皮膚に塗布されている化粧剤の塗布状態を判定するものである。ここで、化粧剤とは、皮膚の状態を良好に保つため、あるいは皮膚の美観を増すため人の皮膚に塗布されるもの全般をいう。第一実施形態、第二実施形態は、特に顔料を含む化粧剤に好適である。顔料には無機顔料や高分子粉体等が含まれる。無機顔料としては、例えば、体質顔料、着色顔料、真珠光沢顔料等がある。体質顔料は光沢や使用感の調整を目的として配合される剤であり、具体的にタルクや雲母等が挙げられる。
【0012】
着色顔料は、色調を調整することに用いられる剤であり、例えばベンガラや黄酸化鉄である。白色顔料は、色調の調整の他、下地(皮膚)の色むらをカバーすることに使用される。白色顔料としては、例えば、酸化チタンや亜鉛華が挙げられる。酸化チタンや酸化亜鉛の微粒子は、紫外線の散乱剤に使用される。真珠光沢顔料としては、例えば酸化チタン皮膜雲母が用いられる。高分子粉体は、例えば酸化チタン被覆雲母が用いられ、典型的には、屈折率の異なる層を交互に積層させて干渉色を出すものであって、所謂ラメとして使用される。このような顔料を含む化粧剤としては、液体、粉体、クリーム状のファンデーション、サンスクリーン剤及び頬紅が挙げられる。
ただし、本発明は、無機顔料を含む化粧剤に適用されることに限定されず、水と吸光度の異なる波長領域が存在する化粧剤であれば、どのようなものにも適用することができる。
【0013】
化粧剤は、先ず皮膚上に置かれ、その後に厚さが薄く、かつ均一になるように塗り広げられる。化粧剤は、塗布される面(以下、「被塗布面」と記す)の起伏や比較的細かな凹凸による分布を生じる。また、塗布の完了後、化粧剤は皮膚の皮脂や汗等によって凝集する、あるいは他の部材との摩擦によって剥離する。第一実施形態、第二実施形態の化粧剤の評価方法は、このような化粧剤の塗布状態を化粧剤の皮膚に対する付着量の分布で判定するものとする。
付着量の空間的な分布は、皮膚を撮影した画像の輝度分布によって主に判定される。
【0014】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態の化粧剤評価方法を説明するための図である。皮膚に対する塗布状態の特徴を抽出するため、第一実施形態の化粧剤評価方法は、皮膚の組成物に対する吸光度よりも評価対象となる化粧剤に対する吸光度が低い近赤外の照明光(以下、「近赤外光」と記す)を、皮膚の組成物を含み、かつ化粧剤が塗布されている被塗布面に照射する光照射工程を含んでいる(ステップS101)。
皮膚の組成物としては、例えば、水や皮脂等の油脂が挙げられる。近赤外光は、可視光と赤外線との間に波長領域がある光であり、凡そ700nm以上、2500nm以下の波長を有している。このような波長の光は、水や油脂によく吸収され、上記の顔料には水ほど吸収されない。このことにより、第一実施形態は、光照射工程によって近赤外の照明光を水や油脂を含む被塗布面に照射する。
【0015】
また、第一実施形態の化粧剤の評価方法は、光照射工程において照明光が照射されている被塗布面で反射または透過される光に係る光情報を取得する光情報取得工程を含んでいる(ステップS102)。第一実施形態の光情報取得工程は、被塗布面で反射される反射光を取得している。このため、第一実施形態では、以降このような工程を「反射光情報取得工程」と記す。
【0016】
ただし、第一実施形態は、反射光を取得する構成に限定されるものではなく、透過光を取得して化粧剤を評価することができる。透過光を取得する場合には、皮膚に代えて皮膚ファントムに照射光を照射し、光が照射される側の面に対する裏面から光情報を取得するようにする。皮膚ファントムは、例えば、散乱体、吸収体として皮膚の散乱体やメラニン、ヘモグロビン等の色素の代替となる色材や色素等を用い作製される皮膚を模した部材である。
【0017】
第一実施形態では、反射光情報取得工程が、光照射工程により光が照射されている被塗布面を撮像し、撮像画像を生成する画像生成工程を含んでいる(ステップS102)。ここで、「撮像画像」の文言は、反射光の強度を、この反射光が観測された被塗布面上の反射位置に合わせて示すものを指す。撮像画像は、静止画であってもよいし、動画であってもよい。さらに、撮像画像は、二次元画像であってもよいし、三次元画像であってもよい。第一実施形態の解析工程は、撮像画像を解析して化粧剤の塗布状態を判定する。
ただし、第一実施形態は、被塗布面の化粧剤の塗布状態を撮像画像を使って判定するものに限定されるものではない。光情報は、例えば、被塗布面の複数の位置で観測された反射光の強度を示す複数個のデータを位置に対応つけることなく配置した一次元のデータであってもよい。また、光情報は、被塗布面の複数の位置で反射された反射光の強度の平均値であってもよい。
【0018】
被塗布面は、化粧剤が塗布される面であって、皮膚の組成物のうちの少なくとも一つを含み、この組成物が化粧剤よりも近赤外光についての吸光率が高いものであればよい。このような被塗布面は、皮膚であってもよいし、化粧剤を評価するために使用される皮膚を模擬した部材の面であってもよい。皮膚を模擬した面には、例えば、皮革または合成皮革、人工皮膚、ビニールもしくはシリコーン等の樹脂を用いることが考えられる。さらに、皮膚を模擬した面としては、上記した材料以外のものにクリーム状の人工皮膚を塗布したもの、あるいは前述した皮膚ファントムであってもよい。
【0019】
第一実施形態の化粧剤の評価方法は、光情報を解析し、被塗布面に塗布された化粧剤の塗布状態を判定する解析工程を含んでいる(ステップS103)。光情報を解析するとは、例えば、複数の測定点で測定された反射光または透過光の強度の平均値を算出する、あるいは強度分布を求めることをいう。また、反射光の波長に基づいて被塗布面の状態を示す物理量を算出するものであってもよい。さらに、解析工程は、光情報として動画像を撮影し、動画像の変化を目視等により観察して変化に係る情報を検出することをも含んでいる。解析工程は、化粧剤の塗布状態を判定するため、反射光の測定された物理量を使って演算処理や統計処理を実行するものであればどのようなものであってもよい。なお、演算処理としては、例えば、コントラスト補正、ガンマ補正等による輝度補正、エッジ抽出等の空間フィルタリング処理等がある。統計的な処理としては、例えば、光強度の平均値、中央値、最頻値を求めるものがある。
【0020】
さらに、化粧剤の評価方法は、ステップS103において実行された解析の結果を出力する出力工程を含んでいる(ステップS104)。解析結果の出力は、不図示のデスプレイ画面に図画やテキストを出力するものであってもよいし、紙媒体に対して図画やテキストを出力するものであってもよい。
【0021】
次に、以上述べた工程を具体的に説明する。
図2(a)、図2(b)は、図1の光照射工程(ステップS101)において近赤外光を被塗布面に照射することを説明するための図である。図2(a)は可視光が照射された被塗布面を撮像した撮像画像を示し、図2(b)は、被塗布面に近赤外光を照射して撮影された撮像画像である。図2(a)、図2(b)に示す撮像画像は、いずれも静止画像である。なお、図2(b)の撮影画像は、近赤外光を波長1450nmのフィルタに通して撮影されている。
図2(a)、図2(b)に示す撮像画像では、被塗布面である人の顔の皮膚の一部(図中に示す領域A内)に化粧剤である粉体固形のファンデーションが塗布されている。ファンデーションは、被塗布面に塗布された後に手、またはスポンジ等によって顔全体に塗り広げられるが、図2(a)、図2(b)に示すファンデーションは、塗り広げられる以前の状態のものである。
【0022】
図2(a)、図2(b)から明らかなように、被塗布面に塗布されたファンデーションは、近赤外光を照射して撮像することによって可視光を照射して撮影するよりも明確に視認することができるようになる。このような現象は、皮膚は水を多く含み、ファンデーションよりも水に対する近赤外光の吸光度が大きいことによって起こる。本実施形態では、以降、図2(b)のように近赤外光を照射して撮像した撮像画像を「近赤外光画像」とも記す。近赤外光画像においては、化粧剤の単位面積当たりの付着量が多い方が近赤外光の吸光度が下がって輝度が高くなる。図2(b)によれば、頬の部分に塗布されたファンデーションが周囲より高い輝度として表れていることが分かる。
【0023】
図3(a)、図3(b)、図3(c)及び図3(d)は、ファンデーションの塗布状態の相違を近赤外光画像で検証した結果を示す図である。図3(a)はファンデーションが塗布されていない被塗布面の近赤外光画像であり、図3(b)から図3(d)はいずれにも中央に示す直線を境界にして被塗布面が部分Fと部分NFとに区分されている。部分Fはファンデーションが塗布されている範囲であり、部分NFはファンデーションが塗布されていない範囲である。
図3(b)はファンデーションを相対的に薄く塗布して塗り広げられる以前の被塗布面を示し、図3(c)はファンデーションを相対的に厚く塗布して塗り広げられる以前の被塗布面を示し、図3(d)はファンデーションを塗布した後に塗り広げて整えた被塗布面を示している。
【0024】
図3(b)と図3(c)とを比較すると、図3(c)に示す近赤外光画像は、図3(b)に示す近赤外光画像よりも輝度の高い領域があることが分かる。このことにより、ファンデーションの付着量により近赤外光画像の輝度が変化し、ファンデーションは付着量が多い方が高い輝度を示すことが分かる。また、図3(d)は、近赤外光画像の輝度分布に急峻な変化がなく、図3(a)と比較すると全体に輝度が高くなっている。このことにより、ファンデーションは、充分塗り広げられることによって被塗布面上に均一な薄膜を形成することが分かる。
なお、図3(a)によれば、ファンデーションを塗布していない場合にも近赤外光画像に輝度の高い部分が表れることが分かる。本発明者により、このような事象は、皮膚が荒れて生じる鱗屑が近赤外光を反射して高い輝度を示すことにより起こることが分かった。
【0025】
以上説明した近赤外光画像と化粧剤の塗布状態との関係から、第一実施形態では、画像生成工程において、複数の撮像画像を含む画像群を生成し、解析工程において、被塗布面に塗布された化粧剤の塗布状態の相違に係る特徴である化粧剤相違情報を抽出する。画像群は、化粧剤が塗布された複数の被塗布面を撮影して生成された複数の静止画像の群であってもよいし、動画として撮影された被塗布面のフレーム画像の群であってもよい。
【0026】
第一実施形態では、化粧剤相違情報を、化粧剤の塗布状態の経時変化に係る相違の特徴とする。化粧剤の塗布状態の変化には、化粧剤の塗布開始から終了までの塗布過程における経時的な変化と、塗布終了からの経時的な変化がある。
以下、塗布過程における変化を過程変化、経時的な変化を終了後変化と記し、その評価方法について以下に説明する。なお、過程変化、終了後変化の評価は、図1に示す解析工程(ステップS103)に相当する。
【0027】
(過程変化の評価)
図4及び図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)、図7(a)及び図7(b)は、解析工程のうちの過程変化の評価方法を説明するための図である。第一実施形態では、ファンデーションの塗布過程を近赤外光動画で撮影し、動画を構成する複数のフレーム画像を画像群とした。
第一実施形態の解析工程は、画像群において近赤外光の吸光度の相違によって生じる輝度に関する情報により、化粧剤(ファンデーション)の塗布厚の分布の経時変化を化粧剤相違情報として抽出する。より具体的には、空間フィルタリングを複数利用してエッジ検出等を実施することで、輝度情報がより空間的に不均一な部分(ムラづいている部分)を選択、抽出する。塗布厚は、塗布されたファンデーションによって形成される膜の厚さをいい、付着量の目安である。なお、ここでいう塗布厚の分布は、具体的な数値をいうものでなく、被塗布面上における相対的な分布をいう。
【0028】
図5(a)から図7(b)は、近赤外光画像を解析処理した結果を示す図であり、それぞれが画像群を構成する動画のフレーム画像である。図4は、近赤外光画像に現れる輝度の高い画素の面積率を示すグラフであって、縦軸に面積率を、横軸に画像群におけるフレームの順番(番号)を示している。フレーム番号は、即ち塗布開始からの経時時間を示し、フレーム番号が小さいほど塗布の初期段階であることを示す。図5(a)から図7(b)は、図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)、図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)、図7(a)、図7(b)の順にフレーム番号が大きくなり、塗布の段階がより後期であることを示している。
【0029】
図4中に示す面積率5aから面積率7bは、各々対応する図5(a)から図7(b)において算出されたものである。面積率7bが得られた近赤外光画像は、塗布開始から47.5秒経過後に撮像されたフレーム画像である。なお、図4は、化粧剤の塗布開始から塗布終了までの面積率を示すものである。塗布終了のタイミングは、化粧剤を被塗布面に塗布している実験者の判断によって決定される。第一実施形態では、実験者が自身の皮膚(顔)に化粧剤を塗布し、塗布終了のタイミングを判定している。
【0030】
なお、面積率は、近赤外光画像から予め設定された閾値以上の輝度値の画素を検出してカウントし、カウント値を近赤外光画像の全画素数で除算して算出することができる。また、面積率は、閾値を複数設定し、各閾値に対応する画素数をそれぞれカウントして求めるものであってもよい。このようにした場合、面積率は、各閾値に対応する重み付けをし、各閾値に対応する面積率の合計を求めるものであってもよい。
【0031】
図4及び図5(a)から図7(b)に示すように、閾値以上の輝度を示す面積率は、塗布開始直後に小さく、その後に面積率5cから面積率6bにかけてピーク値をとり、後に徐々に減少する。
このような結果により、第一実施形態は、評価対象の化粧剤が塗布開始直後には化粧剤が被塗布面の比較的小さい範囲に置かれ、塗り広げられることによって広がり、徐々に被塗布面全体に薄く延ばされたと同時に、肌の荒れた部分にファンデーションが凝集付着している部分が残っているものと評価する。第一実施形態の化粧剤の評価方法は、例えば、面積率5aから面積率7bが検出されるまでの時間によって化粧剤の塗布完了までの時間を評価することができる。塗布開始から塗布完了までの間に検出される面積率の変動が小さい方が化粧剤の所謂「伸びの良さ」の指標となる。ここで、伸びの良さとは、化粧剤がより薄く伸び広がり、均一に付着することをいう。
【0032】
また、第一実施形態の化粧剤の評価方法は、例えば、塗布終了時における面積率の値によって化粧剤の付着状態を評価することができる。塗布終了時の面積率は、最終的な化粧剤の仕上がりにおけるムラ付度合いを示すものであり、化粧剤の付着性能や化粧剤が塗布される肌状態の違いの指標となる。
なお、第一実施形態は、上記の経時的変化の評価に限定するものでなく、例えば、化粧剤を塗布する環境の温度や湿度による塗布終了直後の相違を評価するものであってもよい。
【0033】
(終了後変化の評価)
図8(a)、図8(b)は、終了後変化を説明するための図である。図8(a)は、化粧剤としてファンデーションの塗布完了直後の近赤外光画像であり、図8(b)は図8(a)に示す被塗布面の6時間経過後の近赤外光画像である。図8(a)に示すように、塗布完了直後の近赤外光画像は、光が照射された側の輪郭を除き、特に輝度の高い部位は認められない。このような状態は、ファンデーションが被塗布面全体に比較的薄く塗り延ばされていることを示す。
【0034】
一方、図8(b)に示すように、時間が経過した後の近赤外光画像では、大小の輝度の高い部分が複数生じている。このような状態は、塗布されているファンデーションが被塗布面上を移動し、凝集して近赤外光の吸収を妨げていることを示す。
第一実施形態の化粧剤の評価方法は、評価対象の化粧剤が被塗布面全体を良好にカバーしている経時時間を評価することができる。この経時時間は、化粧剤の所謂「化粧くずれ」を評価する指標になる。
【0035】
(化粧剤の評価装置)
次に、以上説明した化粧剤の評価方法で使用される化粧剤の評価装置1を説明する。ただし、評価装置1は、皮膚に塗布される化粧剤を評価することばかりでなく、化粧剤を塗布する以前の肌の状態を評価することにも使用可能である。
図9は、化粧剤の評価装置1を説明するための模式図である。評価装置1は、近赤外の照明光Liを被塗布面に照射する光照射部であるランプ14と、照明光Liが照射されている被塗布面において反射される反射光に係る光情報を取得する光情報取得部である波長フィルタ16及びカメラ10と、カメラ10によって取得された光情報を解析し、被塗布面に塗布された化粧剤の塗布状態を判定する解析部である画像処理装置15と、を備えている。
ただし、第一実施形態は、図9のように、波長フィルタ16を偏光フィルタ13bの直前に置くものに限定されるものではない。波長フィルタ16は、ランプ14とカメラ10との間に設けられるものであればよく、例えば、偏光フィルタ13aの直前に設けられるものであってもよい。
【0036】
第一実施形態の評価装置1は、被験者Sの皮膚18を被塗布面とし、皮膚18に評価対象となる化粧剤を塗布している。このため、評価装置1は、皮膚18を固定するために被験者Sが顎を乗せる台11を備えている。台11には、第11に固定されて上方に延び、被験者Sの額付近に当接する支持台12が設けられている。
【0037】
第一実施形態では、ランプ14に例えばハロゲンランプを使用することができる。ただし、第一実施形態は、ランプ14をハロゲンランプに限定するものでなく、例えば、白熱電球、ハロゲン電球等の温度照射光源や高圧水銀ランプ、セルフバラスト水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ等の高圧放電ランプ(放電発光光源)、蛍光ランプ、低圧ナトリウムランプ等の定圧放電ランプ(放電発光光源)、EL(Electroluminescence)、LED(Light Emitting Diode)等の電界発光光源等を用いることができる。
【0038】
波長フィルタ16には、例えばUVAカット、赤外線バンドパスフィルタ、熱線カットフィルタ等を用いることができる。第一実施形態は、波長フィルタ16を使用して所定の近赤外領域の画像を取得する。ランプ14が照射する照明光は、偏光フィルタ13aを通って皮膚18に照射される。波長フィルタ16は、800nm以上であって、かつ1100nm以下、1200nm以上であって、かつ1700nm以下、1700nm以上であって、かつ2300nm以下、の少なくとも一つの波長の範囲にある皮膚18からの反射光を透過するように構成されている。特に、波長フィルタ16の波長範囲としては、1300nm以上であって、かつ1600nm以下、1800nm以上であって、かつ2100nm以下が好ましい。カメラ10は、800nmから約2500nm付近の波長帯域における光による画像を撮影可能な近赤外カメラである。
【0039】
また、第一実施形態では、波長フィルタ16が透過する光の中心波長であるフィルタ波長と、水の吸収ピークの中心波長である吸収波長とが相違するように評価装置1を構成している。第一実施形態の例では、照明光の中心波長を1450nm、波長フィルタ16の中心波長を1350nm以上、1400nm以下とした。水分子に最もよく吸収される近赤外光の波長は1450nmであるが、波長フィルタ16の中心波長を1450nmとすると、皮膚が著しく暗く映る一方、化粧剤が著しく白く映るため、画像における明暗のダイナミックレンジが大きくなる。このような場合、撮像できる明暗の幅が大きすぎるため、顔の位置が分かり難くなる等の問題が生じる。波長フィルタ16の中心波長を1400nmとすると、水の吸収が緩和されてダイナミックレンジに関する課題が解決できる。このようにすることにより、第一実施形態は、より見やすい画像を得ることができる。
【0040】
皮膚の組成物(水)に吸収される光のピーク(吸収ピーク)の中心波長とフィルタ波長との相違は、上記の数値に限定されるものでない。第一実施形態では、フィルタ波長と水の吸収ピークの中心波長との相違の絶対値を、2%以上、15%以下とする。
【0041】
さらに、第一実施形態は、図1に示す反射光情報取得工程が、光照射工程において光が照射されている被塗布面を撮像し、撮像画像を生成する画像生成工程を含んでいる。画像生成工程にあっては、ランプ14から撮像レンズ17までの間に偏光フィルタ13a及び偏光フィルタ13bを備えている。偏光フィルタ13a、13bは、透過軸が互いに直交するクロスニコル配置されていて、被塗布面において反射された反射光のうち、表面反射された光を除き、内部反射された反射光を撮像レンズ17に導いている。
【0042】
画像処理装置15は、CPU(Central Processor Unit)やメモリ等を有するパーソナルコンピュータを使用して実現することができる。画像処理装置15は、図1に示す解析工程を実行する構成であり、カメラ10によって撮像された撮像画像のデータを入力する。そして、例えば、図5(a)から図7(b)に示す近赤外光画像からノイズを除去した上でピクセルの輝度を検出する。そして、検出された輝度のうち、閾値以上の輝度を有するピクセルをカウントし、ピクセルが占める面積率を算出する。
さらに、画像処理装置15は、算出した面積率と動画のフレームあるいは塗布開始から経過した時間との関係を図4に示すグラフを作成し、出力する。出力先は、画像処理装置15に接続されたプリンタであってもよいし、パーソナルコンピュータとして構成された画像処理装置15が備えるデスプレイ装置であってもよい。
【0043】
以上説明したように、第一実施形態の化粧剤の評価方法及び化粧剤の評価装置は、水によく吸収されて、かつ化粧剤に反射される近赤外光を皮膚等の被塗布面に照射しているため、その反射光の強度から被塗布面上の化粧剤の有無を検出することができる。このため、第一実施形態は、化粧剤の塗布状態を観測可能にすることができる。
また、第一実施形態は、反射光をカメラ10により撮像して撮像画像を形成している。このため、第一実施形態は、化粧剤の位置と被塗布面における位置とを簡易に対応つけて、化粧剤の状態を直感的に理解し易くすることができる。
【0044】
さらに、第一実施形態は、化粧剤が塗布された被塗布面を複数回撮像し、画像群を生成している。このため、第一実施形態は、塗布開始から塗布終了、あるいは塗布終了直後から数時間が経過した後の化粧剤の状態の変化を観測することができる。このような第一実施形態は、化粧剤の伸びや薄付き、さらには化粧崩れに関する指標を得ることができる。
【0045】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態の化粧剤の評価方法を説明する。第二実施形態の化粧剤の評価方法は、聴覚、触覚、嗅覚の少なくとも一つで捕らえられる非視覚情報を時系列に取得する非視覚情報取得工程をさらに含んでいる。第二実施形態では、解析工程が、非視覚情報と画像群とを取得タイミングにより対応つけて化粧剤相違情報を抽出する。
つまり、第二実施形態では、第一実施形態で述べた画像群の他、撮像画像が撮像されたタイミングで視覚以外の感覚で捕らえられる情報を取得し、両者を併せて化粧剤を評価する。
【0046】
第二実施形態は、被塗布面、または被塗布面に繰り返し接触して化粧剤を塗布する塗布物に生じる現象に関する物理量を非視覚情報として測定する非視覚情報取得工程をさらに含んでいる。塗布物としては、例えば、指、パフ、スポンジ及びアプリケータが考えられる。
非視覚情報が聴覚情報である場合、非視覚情報取得工程は、被験者の耳に集音マイクを取り付けて取得することが考えられる。非視覚情報が触覚情報である場合、非視覚情報取得工程は、例えば、被験者が化粧剤を塗布する指に伝わる力を取得するセンサであってもよい。また、第二実施形態でいう触覚は温度を含み、非触覚情報が被塗布面に被験者の指が繰り返し接触して化粧剤を塗布する場合、非視覚情報取得工程は、指または被塗布面の温度を測定する温度計であってもよい。このようなセンサは、加速度センサや温度センサ、圧電素子を用いた振動センサ等のどのようなセンサでもよく、センサで得られた信号波形を時系列周波数解析等により解析して特徴抽出をしてもよい。また、温度を含む振動や圧力といった触覚を検出するセンサ全般を「触センサ」とも記す。
さらに、非視覚情報が嗅覚情報である場合、非視覚情報取得工程は、被験者の顔近くに取りつけた臭気センサや、計測を目的とする成分(例えば揮発性有機化合物)を感知するセンサを取り付けることが考えられる。
【0047】
非視覚情報取得工程としては、例えば、化粧剤が化粧剤を塗布する指に伝わる力を取得することが考えられる。このような例では、例えば、被塗布面である皮膚の凹凸が相違する二人の被験者が自身の皮膚にファンデーションを塗布し、そのときに皮膚に加わる振動の大きさを計測する。指または塗布物で化粧剤を被塗布面に塗り広げる場合、指または塗布物と被塗布面との間にミクロな振動が生じる。このような振動は、その原因により様々な周波数を有していて、振動の計測にあっては様々な周波数を含む信号が出力される。
図10(a)、図10(b)は、同一の被験者の状態が異なる皮膚の近赤外線光画像であって、いずれもファンデーションの塗布開始直後の状態を示している。近赤外光画像から明らかなように、図10(a)の皮膚は、図10(b)の皮膚よりも荒れた状態になっていて、荒れ具合を以降「荒れの程度」といい、皮膚の荒れによる凹凸が相対的に大きいことを「荒れの程度が大きい」とも記す。
【0048】
本発明者らは、図10(a)、図10(b)に示す皮膚にそれぞれファンデーションを塗布して実験を行った。この実験では、同一被験者が、皮膚の状態が異なる時期に自身の皮膚にファンデーションを塗布する過程を動画像で撮影する。動画像は、連続する複数の近赤外光画像を含む近赤外光画像群となる。実験では、この際、被験者の指に触センサとして振動センサを装着し、動画像の撮影を行いながら評価する実験を行った。
上記の実験の結果、本発明者らは、図10(a)に示す皮膚と図10(b)に示す皮膚とで振動センサから得られた振動波形が異なることがわかった。具体的には、図10(a)に示す皮膚の方が、図10(b)に示す皮膚よりもファンデーションのむら付きがより顕著であり、塗布中に生じる振動波形の振幅が大きいことが分かった。特に、得られた振動波形を時系列周波数解析した結果、人間の振動感度が高い200Hz~500Hzの周波数において振幅が大きくなることがわかった。このような結果は、皮膚の荒れの程度の違いがファンデーションの付着状態と、その塗布感の双方に影響を与えていることを評価するための指標となることを示す。また、近赤外光画像と触センサの双方の結果を考察することで、対象とする皮膚に対するファンデーションのムラ付き(あるいはムラ付のなさ)や伸び広がりの良さといった使用性の指標となることを示す。
【0049】
以上のことから、荒れの程度の大きい皮膚(図10(a)に示す)に化粧剤を塗布する場合、指に加わる振動が荒れの程度の小さい皮膚(図10(b)に示す)に化粧剤を塗布する場合よりも大きいことが分かる。皮膚の表面には、相対的に大きく、かつ緩やかな凹凸と、この凹凸表面に現れる相対的に小さな(細かい)凹凸とがある。皮膚の荒れの程度は、このような二種類の凹凸の状態によって決定されて、特に皮膚表面の細かな凹凸は、指との間の振動に影響を及ぼす因子である。
上記の結果によれば、荒れの程度、すなわち皮膚の大小の凹凸の状態の相違により、被験者の指に加わる振動が変化するものと考えられる。
【0050】
上記の振動センサは、例えば3軸の方向にかかる加速度をそれぞれ計測し、それらを合成した加速度を得ることができるものであってもよい。また、振動は、例えば、予め設定されている所定の位置から指までの距離を測定する測距センサを使って測定することができる。測距センサによれば、被験者の指が予め設定されている所定の位置にない、またはあるタイミングを検出して指の振動をカウントすることができる。
【0051】
ただし、第二実施形態で取得する物理量は、振動に限定されず、指と皮膚との間の摩擦力、圧力、タック力、接触面積、相対的な速度、加速度、角速度であってもよい。
【0052】
第二実施形態の化粧剤の評価装置は、図9で説明した第一実施形態の評価装置1に、被塗布面、または指等に生じる現象に関する物理量を測定する計測装置を追加することによって実現することができる。第二実施形態では、画像処理装置15が計測装置の計測信号を入力し、入力タイミングに基づいてフレーム画像と対応つける。そして、計測信号とフレーム画像から得られる情報とを合わせて解析し、化粧剤を評価する。
なお、上記の「入力タイミングに基づいて」の語句は、入力タイミングが一致または近接していることの他、計測信号やフレーム画像に付された時刻情報が対応するものを合わせて解析することを指す。
【符号の説明】
【0053】
1・・・評価装置
5a、5b、5c、5d、6a、6b、6c、6d、7a、7b・・・面積率
10・・・カメラ
11・・・台
12・・・支持台
13a、13b・・・偏光フィルタ
14・・・ランプ
15・・・画像処理装置
16・・・波長フィルタ
17・・・撮像レンズ
18・・・皮膚
A・・・領域
F・・・(ファンデーションが塗布されている)部分
NF・・・(ファンデーションが塗布されていない)部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10