IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポーライト株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-潤滑油及び焼結含油軸受 図1
  • 特許-潤滑油及び焼結含油軸受 図2
  • 特許-潤滑油及び焼結含油軸受 図3
  • 特許-潤滑油及び焼結含油軸受 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】潤滑油及び焼結含油軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20230621BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20230621BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20230621BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20230621BHJP
   C10M 105/34 20060101ALN20230621BHJP
   C10M 143/10 20060101ALN20230621BHJP
   C10M 143/12 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
C10M169/04
F16C17/02 Z
C10M101/02
C10M107/02
C10M105/34
C10M143/10
C10M143/12
C10N30:00 Z
C10N40:02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019162469
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021038367
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】592128788
【氏名又は名称】ポーライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100070183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100131303
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 徳人
(72)【発明者】
【氏名】浅利 昌哉
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-257383(JP,A)
【文献】特開2000-044976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
F16C17/00-17/26
F16C33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結含油軸受に含浸される潤滑油であって、
炭化水素系基油と、スチレン-ジエンブロック共重合体と、を含有し、
前記スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量は、当該潤滑油の全質量に対する質量比で、0.1~10質量%の範囲内であることを特徴とする潤滑油。
【請求項2】
前記炭化水素系基油は、鉱物油、合成炭化水素油又は脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の潤滑油が含浸されてなる焼結含油軸受。
【請求項4】
ファンモータに適用されることを特徴とする請求項に記載の焼結含油軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸回転時のノイズを低減することが可能な潤滑油及び焼結含油軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安価かつ信頼性の高い軸受として、焼結含油軸受が知られている(特許文献1参照)。
近年、焼結含油軸受は、車載機器、IT機器、家電機器等に搭載されている小型モータにおいて広く使用されており、特に、ファンモータにおける使用が広まっている。
一方、ファンモータ等の小型モータについては、消費電力の低減及び静音性の向上を両立することが要求されている。特に、居住空間に設置される機器に搭載される小型モータについては、高い静音性が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-332363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の焼結含油軸受では、モータの消費電力の低減と、モータの静音性の向上と、を両立することが困難であった。
すなわち、一般的に、小型モータの静音性を向上するには、第一に、回転軸と摺動面とのクリアランスを狭めることにより、回転軸の暴れに起因するノイズを抑えることが有効であり、第二に、軸受に含浸する潤滑油の粘度を上げることにより、摺動面に発生する油膜強度を高めることが有効である。
しかしながら、ファンモータのように、低負荷で駆動され、かつ、低トルクで駆動される小型モータでは、回転軸と摺動面との摩擦抵抗は、軸受に含浸される潤滑油の流体抵抗が支配的となる。
したがって、小型モータでは、回転軸と摺動面とのクリアランスを狭めるほど、軸回転時の潤滑油の流体抵抗が増大し、すなわち、回転軸と摺動面との摩擦抵抗が増大し、その結果、モータの消費電力が増大する。また、潤滑油の粘度を上げるほど、軸回転時の潤滑油の流体抵抗が増大し、すなわち、回転軸と摺動面との摩擦抵抗が増大し、その結果、モータの消費電力が増大する。
よって、モータ消費電力の低減と、モータ静音性の向上と、のうち、一方を優先した場合には、他方が犠牲になり、モータの消費電力の低減と、モータの静音性の向上と、を両立することが困難であった。
本発明の課題は、モータの消費電力の低減と、モータの静音性の向上と、を両立することが可能な潤滑油及び焼結含油軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、第一の発明に係る潤滑油は、焼結含油軸受に含浸される潤滑油であって、炭化水素系基油と、スチレン-ジエンブロック共重合体と、を含有し、前記スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量は、当該潤滑油の全質量に対する質量比で、0.1~10質量%の範囲内であることを特徴とする。
第一の発明に係る潤滑油では、スチレン-ジエンブロック共重合体が含有されている。これによって、潤滑油の弾性が向上され、回転軸の暴れに起因するノイズを低減することが可能となる。特に、モータの静音性を向上するにあたって、潤滑油の粘度(粘性)を上げる必要がないため、モータの消費電力が増大することがなく、また、モータの低温特性が低下することがない。
以上のように、第一の発明に係る潤滑油によれば、モータの消費電力の低減と、モータの静音性の向上と、低温特性の向上と、を並立することが可能となる。
特に、第一の発明に係る潤滑油では、前記スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量が、当該潤滑油の全質量に対する質量比で、0.1~10質量%の範囲内となっている。ここで、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量が、潤滑油の全質量に対する質量比で、0.1質量%未満となると、モータの静音性を十分に向上することができない。一方、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量が、潤滑油の全質量に対する質量比で、10質量%を超えると、潤滑油の流動性が失われ(潤滑油がグリース状となり)、焼結含油軸受に含浸させることが困難となる。そこで、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量を、潤滑油の全質量に対する質量比で、0.1~10質量%の範囲内とすることにより、焼結含油軸受に含浸させることが困難となることを抑制しつつ、モータの静音性を十分に向上することが可能となる。
【0006】
第二の発明に係る潤滑油は、第一の発明に係る潤滑油において、前記炭化水素系基油は、鉱物油、合成炭化水素油又は脂肪酸エステルであることを特徴とする。
第二の発明に係る潤滑油によれば、多様な使用条件において、特性を発揮することが可能となる。
【0008】
の発明に係る焼結含油軸受は、第一又は第二の発明に係る潤滑油が含浸されてなることを特徴とする。
の発明に係る焼結含油軸受によれば、モータの消費電力の低減と、モータの静音性の向上と、低温特性の向上と、を並立することが可能となる。
の発明に係る焼結含油軸受は、第の発明に係る焼結含油軸受において、ファンモータに適用されることを特徴とする。
の発明に係る焼結含油軸受によれば、ファンモータの消費電力の低減と、ファンモータの静音性の向上と、低温特性の向上と、を並立することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る潤滑油及び焼結含油軸受によれば、モータの消費電力の低減と、モータの静音性の向上と、を両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るファンモータの部分断面図である。
図2図1に示すファンモータが備える焼結含油軸受の断面図である。
図3】本発明の実施例に係る焼結含油軸受について実施した音響特性評価の結果を示す図である。
図4】潤滑油におけるスチレン-ジエンブロック共重合体の含有量と、潤滑油の流動性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る焼結含油軸受20について、図面を参照しながら説明する。
焼結含油軸受20は、家電用、車載用等の各種モータ、IT機器など広範囲に渡って適用することが可能である。本実施形態では、焼結含油軸受20をファンモータ1に適用した一例を示している。
【0012】
(ファンモータ1の構成)
図1は、本発明の実施形態に係るファンモータの部分断面図である。図2は、図1に示すファンモータが備える焼結含油軸受の断面図である。
図1に示すファンモータ1は、ハウジングホルダ2と、ハウジングホルダ2に保持された焼結含油軸受20と、焼結含油軸受20により回転自在に支持された回転軸10と、を備えている。
ハウジングホルダ2は、内部に焼結含油軸受20を保持する円筒部2aを有している。円筒部2aの外周面には、コイル3aを巻回して形成された積層コア(固定子)3が配設されている。
【0013】
回転軸10は、金属(炭素鋼やステンレス鋼などの合金鋼)より円柱状に形成されている。回転軸10には、ロータヨーク4を介して、マグネット(回転子)5が取り付けられている。マグネット5は、ハウジングホルダ2の外周面に配設された積層コア3に対向するように配設されている。ロータヨーク4の外周には、インペラ(ファン)6が取り付けられている。また、ハウジングホルダ2の円筒部2aの内底部には、スラストプレート7が嵌め込まれ、回転軸10の反出力側端部をスラスト方向に軸支している。
図1及び図2に示すように、焼結含油軸受20は、回転軸10におけるロータヨーク4とスラストプレート7との間の部分を支持している。焼結含油軸受20は、焼結金属(焼結合金を含む)からなり、多孔質構造を有している。そして、焼結含油軸受20の内部には、後述する潤滑油Lが含浸されている。
焼結含油軸受20は、略円筒状に形成され、回転軸10を回転自在に支持する軸受孔hを有している。軸受孔hは、軸方向(図1に示す上下方向)に貫通するように設けられている。
【0014】
焼結含油軸受20は、第一軸受部21と、第二軸受部22と、第一軸受部21と第二軸受部22との間に設けられた中間部23と、を有している。第一軸受部21の内周面は、回転軸10の外周面を支持する第一軸受面21aとなっている。また、第二軸受部22の内周面は、回転軸10の外周面を支持する第二軸受面22aとなっている。
第一軸受部21の内径及び第二軸受部の内径は、それぞれ、回転軸10の外径より大きい寸法で形成されている。また、第一軸受部21の内径と第二軸受部22の内径とは、略同一寸法に形成されている。
本実施形態では、第一軸受部21の内径及び第二軸受部22の内径は、それぞれ、各軸受面21a,22aと回転軸10の外周面との間のクリアランスが6μm以下となるように寸法が設定されている。また、中間部23の内径は、第一軸受部21の内径及び第二軸受部22の内径のそれぞれより大きい寸法で形成されている。
【0015】
回転軸10は、焼結含油軸受20の軸受孔h内に挿通された状態で配設されている。そして、焼結含油軸受20では、第一軸受部21が回転軸10の出力側の端部を支持し、第二軸受部22が回転軸10の反出力側の端部を支持している。
また、焼結含油軸受20では、第一軸受面21a及び第二軸受面22aのそれぞれが回転軸10を回転自在に支持し、中間部23の内周面23aは回転軸10の外周面に接触(摺接)することはない。
【0016】
次に、焼結含油軸受20に含浸される潤滑油Lの組成を説明する。
潤滑油Lは、炭化水素系基油に、スチレン-ジエンブロック共重合体が添加されてなる組成を有している。
炭化水素系基油としては、鉱物油(鉱油系基油)、合成油(合成系基油)、これらの混合油等が例示される。
鉱物油としては、原油を蒸留して得られる留出油、留出油を精製することにより得られる精製油等が例示される。原油としては、パラフィン基系原油、中間基系原油、ナフテン基系原油等が例示される。留出油としては、原油を常圧蒸留して得られる留出油、原油を常圧蒸留して得られる残渣油を更に減圧蒸留して得られる留出油等が例示される。留出油を精製する方法としては、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製手段のうち、一又は複数の精製手段を、適宜、組み合わせて用いることができる。すなわち、精製油としては、溶剤精製油、水添精製油、脱蝋処理油、白土処理油等が例示される。特に、高精製鉱油が、抗酸化寿命、熱安定性(抗スラッジ析出性)、温度・粘度特性等の点で優れている。
合成油としては、例えば、ポリα-オレフィン(PAO)、α-オレフィンコポリマー、ポリブデン、ポリイソブチレン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、芳香族エステル、ヒンダードエステル、シリコーンオイル、ポリカーボネート、ポリビニルエーテル等が例示される。
潤滑油Lでは、上記の各種の基油のうち、一の基油を単独で、又は、複数の基油を組み合わせて用いることができる。
特に、潤滑油Lでは、炭化水素系基油として、鉱物油、ポリα-オレフィンに代表される合成炭化水素油、又は、脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0017】
炭化水素系基油に添加されるスチレン-ジエンブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエンのジブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンのトリブロック共重合体、スチレン-イソプレンのジブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンのトリブロック共重合体、及び、これらの水添物(水素添加物)等が例示される。
特に、潤滑油Lでは、スチレン-ジエンブロック共重合体として、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を用いることが好ましい。水添スチレン-イソプレンブロック共重合体としては、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等が例示される。
潤滑油Lでは、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.1~10質量%の範囲内とすることが好ましく、特に、1.0~8.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
すなわち、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量が、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.1質量%未満となると、モータの静音性を十分に向上することができない。
一方、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量が、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、10質量%を超えると、潤滑油Lの流動性が失われ(潤滑油Lがグリース状となり)、潤滑油Lを焼結含油軸受20(後述する焼結体)の内部に含浸させることが困難となる。
そこで、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.1~10質量%の範囲内とすることにより、焼結体への潤滑油Lの含浸が困難となることを抑制しつつ、モータの静音性を十分に向上することが可能となる。
【0018】
ここで、潤滑油Lには、炭化水素系基油と、スチレン-ジエンブロック共重合体と、の他に、必要に応じて、各種の添加剤が添加されていても構わない。
例えば、潤滑油Lには、リン酸エステル類が添加されていても構わない。
リン酸エステル類を添加することによって、焼結含油軸受20の耐摩耗性、耐摩擦係数及び耐スラッジ性を向上することが可能となる。
リン酸エステル類としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル等が例示される。
ここで、潤滑油Lでは、リン酸エステル類の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.01~10.0質量%の範囲内とすることが好ましく、特に、0.05~5.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
すなわち、リン酸エステル類の含有量が、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.01質量%未満となると、摩擦特性等を十分に向上することができない。一方、リン酸エステル類の含有量が、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、10質量%を超えると、含有量に応じた効果の向上がみられなくなる。そこで、リン酸エステル類の含有量は、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.01~10.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
また、潤滑油Lには、硫黄系極圧剤が添加されていても構わない。
硫黄系極圧剤は、分子内に硫黄原子を有し、基油中に、溶解又は均一に分散する。そして、硫黄系極圧剤を添加することによって、極圧性、摩擦特性等を向上することが可能となる。
硫黄系極圧剤としては、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジブロピオネート化合物等が例示される。
ここで、潤滑油Lでは、硫黄系極圧剤の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.01~10.0質量%の範囲内とすることが好ましく、特に、0.05~5.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
すなわち、硫黄系極圧剤の含有量が、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.01質量%未満となると、摩擦係数等を十分に向上することができない。一方、硫黄系極圧剤の含有量が、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、10質量%を超えると、含有量に応じた効果の向上がみられなくなる。そこで、硫黄系極圧剤の含有量は、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.01~10.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0020】
また、潤滑油Lには、酸化防止剤が添加されていても構わない。
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が例示される。
ここで、潤滑油Lでは、酸化防止剤の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.01~5.0質量%の範囲内とすることが好ましく、特に、0.03~3.0質量%の範囲内とすることが好ましい。
また、潤滑油Lには、抗乳化剤、防錆剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、消泡剤等が添加されていても構わない。
抗乳化剤としては、ポリアルキレングリコール、金属スルホネート等が例示される。
防錆剤としては、金属系スルホネート、カルボン酸、アルカノールアミン、アミド、酸アミド、リン酸エステルの金属塩等が例示される。
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール等が例示される。
清浄分散剤としては、金属スルホネート、金属フェネート、金属サリチレート、金属ホスホネート、コハク酸イミド、酸アミド系等が例示される。
消泡剤としては、メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等が例示される。
【0021】
(焼結含油軸受20の製造方法)
次に、焼結含油軸受20の製造方法を説明する。
なお、以下において、焼結含油軸受20(内径中逃軸受)の製法は、特開平2-8302号公報や特開平7-332363号公報に示される製法を用いる。
すなわち、焼結含油軸受20を製造するには、まず、原料粉末を生成する。
原料粉末は、原料となる金属粉末及び固体潤滑剤を攪拌混合することにより生成される。この際、原料粉末に金型潤滑剤が添加されても構わない。
金属粉末としては、銅粉、青銅粉、黄銅粉、洋白粉、鉄粉、銅ニッケル合金粉、銅被覆鉄粉、ステンレス粉、これらの混合粉等を用いることができる。
固体潤滑剤としては、グラファイト粉末、二硫化モリブデン粉末及び窒化ホウ素粉末のうち、一又は複数の粉末を組み合わせて使用することができる。
金型潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム等に代表される金属石鹸の粉末や、エチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪酸アミドの粉末、又は、ポリエチレン等のワックス系潤滑剤の粉末を使用することができる。なお、金型潤滑剤は、これらに限定したものではない。
なお、原料となる金属粉末、固体潤滑成分、金型潤滑油は、これらに限定されるものではない。
【0022】
次に、原料粉末を圧縮成形して、圧粉体を形成する。
具体的には、生成した原料粉末を、金型内に収容する。そして、金型内に収容された原料粉末を、100~500MPaの圧力でプレス成形して、圧粉体を形成する。
次に、圧粉体を焼結して、中間焼結体を形成する。
具体的には、形成された圧粉体を、所定の雰囲気中において、所定の焼結温度により焼結して、中間焼結体を形成する。圧粉体を焼結することにより、隣接する金属粒子が拡散接合され、金属粒子が結合して、多孔質の中間焼結体(焼結金属)が形成される。
所定の雰囲気は、真空中、還元性ガス中(アンモニア分解ガス、水素ガス、エンドサーミックガス等)、不活性ガス中(窒素ガス、アルゴンガス等)、これらの還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス中等であり、原料粉末の組成に応じて、適宜、選択される。
焼結温度は、600~1200℃の範囲内で、原料粉末の組成に応じて、適宜、選択される。例えば、青銅(Cu-Sn)の場合で、600~800℃程度とされ、鉄を主体とする場合で、700~1200℃程度とされ、こちらも原料粉末の組成によって、適宜、選択される。
次に、中間焼結体にサイジング(再圧縮)を施す。
具体的には、形成した中間焼結体を、金型内に収容する。そして、金型内に収容された中間焼結体にサイジング(再圧縮)を施して、最終焼結体(以下、「焼結体」とする)を形成する。中間焼結体にサイジングを施すことにより、寸法精度が向上され、また、表面粗さが改善される。
次に、焼結体を洗浄して、加工によって生じた金属屑、サイジング用潤滑油等の汚れを除去する。
次に、洗浄された焼結体に潤滑油Lを含浸させる。これによって、焼結含油軸受20が完成する。
【0023】
(実施例)
次に、本発明の実施例を説明する。
図3は、本発明の実施例に係る焼結含油軸受について実施した音響特性評価の結果を示す図である。
本発明の実施例として、3種類の焼結含油軸受(実施例1~3)を製造した。また、比較例として、4種類の焼結含油軸受(比較例1~4)を製造した。
そして、実施例1~3及び比較例1~4に係る焼結含油軸受について、アンデロン試験機を用いた音響特性評価を実施した。
実施例1~3及び比較例1~4に係る焼結含油軸受は、互いに同一の構成(組成)の焼結体(以下、「サンプル焼結体」とする)を含んで構成されている。
サンプル焼結体は、上記の製造方法(焼結含油軸受20の製造方法)にしたがって製造される。
すなわち、サンプル焼結体では、原料粉末として、青銅粉末(金属粉末)と、脂肪酸アミド粉末(金型潤滑剤)と、を撹拌混合した粉末を使用している。各粉末の含有量は、原料粉末の全質量に対する質量比で、青銅粉末:99.5質量%、脂肪酸アミド粉末:0.5質量%としている。
また、金型内に収容された原料粉末を、200MPaの圧力でプレス成形して、圧粉体を形成している。さらに、圧粉体を、還元雰囲気において、焼結温度770℃により焼結して、中間焼結体を形成している。そして、この中間焼結体について、サイジングを施した後に、洗浄を施すことによって、サンプル焼結体を形成している。
【0024】
図3(a)に示すように、比較例1に係る焼結含油軸受は、サンプル焼結体のみから構成されている。すなわち、比較例1に係る焼結含油軸受には、潤滑油が含浸されていない。
一方、実施例1~3及び比較例2~4に係る焼結含油軸受は、サンプル焼結体と、所定の潤滑油と、から構成されている。すなわち、実施例1~3及び比較例2~4に係る焼結含油軸受は、サンプル焼結体に所定の潤滑油を含浸することによって形成されている。この際、比較例2に係る焼結含油軸受には、潤滑油Aが含浸されている。一方、比較例3に係る焼結含油軸受には、潤滑油Bが含浸されている。一方、比較例4に係る焼結含油軸受には、潤滑油Cが含浸されている。一方、実施例1に係る焼結含油軸受には、潤滑油Dが含浸されている。一方、実施例2に係る焼結含油軸受には、潤滑油Eが含浸されている。一方、実施例3に係る焼結含油軸受には、潤滑油Fが含浸されている。
潤滑油A,B,C,D,E,Fは、互いに同一の組成の基油(以下、「サンプル基油」とする)を含んで構成されている。そして、サンプル基油として、ポリアルファオレフィン(40℃動粘度:56mm/s)を使用している。
具体的には、潤滑油Aは、サンプル基油のみから構成されている。
一方、潤滑油Bは、サンプル基油に、高粘度ポリアルファオレフィンを添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Bの全質量に対する質量比で、サンプル基油:87質量%、高粘度ポリアルファオレフィン:13質量%とされている。
一方、潤滑油Cは、サンプル基油に、リチウム石けんを添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Cの全質量に対する質量比で、サンプル基油:99質量%、リチウム石けん:1質量%とされている。
一方、潤滑油Dは、本発明の実施形態に係る潤滑油Lとなっている。すなわち、潤滑油Dは、サンプル基油に、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Dの全質量に対する質量比で、サンプル基油:95質量%、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:5質量%とされている。
一方、潤滑油Eは、本発明の実施形態に係る潤滑油Lとなっている。すなわち、潤滑油Eは、サンプル基油に、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Eの全質量に対する質量比で、サンプル基油:99.5質量%、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:0.5質量%とされている。
一方、潤滑油Fは、本発明の実施形態に係る潤滑油Lとなっている。すなわち、潤滑油Eは、サンプル基油に、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Fの全質量に対する質量比で、サンプル基油:99.95質量%、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:0.05質量%とされている。
また、図3(b)に示すように、潤滑油Aについては、40℃動粘度が、56mm/sとなり、100℃動粘度が、9mm/sとなり、粘度指数が、140となっている。一方、潤滑油Bについては、40℃動粘度が、70mm/sとなり、100℃動粘度が、11mm/sとなり、粘度指数が、148となっている。一方、潤滑油Cについては、添加物(具体的には、リチウム石けん)の影響により、動粘度を測定することができない。一方、潤滑油Dについては、40℃動粘度が、70mm/sとなり、100℃動粘度が、13mm/sとなり、粘度指数が、189となっている。一方、潤滑油Eについては、40℃動粘度が、57mm/sとなり、100℃動粘度が、9mm/sとなり、粘度指数が、145となっている。一方、潤滑油Fについては、40℃動粘度が、56mm/sとなり、100℃動粘度が、9mm/sとなり、粘度指数が、140となっている。
これによって、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体が添加されている潤滑油Dは、高粘度ポリアルファオレフィンが添加されている潤滑油Bと同等以上の温度特性を有していることが確認された。
【0025】
音響特性評価では、アンデロン試験機を用いて、焼結含油軸受の軸受孔に挿通された回転軸を所定の回転数で回転させ、焼結含油軸受の半径方向の振動を速度センサで検出し、検出した振動をアンデロン値として数値化した。ここで、アンデロン値が小さいほど、ノイズ(振動)が小さいことを示す。
また、アンデロン試験機として、菅原研究所製:ADA-100を使用し、試験条件を、以下に示すように設定した。
回転数:1,800rpm。
荷重:側圧200g(0.035MPa)。
時間:「20秒ON・40秒OFF」を1サイクルとし、10サイクル実施した。
10サイクル目ON時の後半10秒間のアンデロン値の平均により評価した。
その結果、図3(a)に示すように、比較例1に係る焼結含油軸受の平均アンデロン値は、8.2となり、比較例2に係る焼結含油軸受の平均アンデロン値は、4.2となり、比較例4に係る焼結含油軸受の平均アンデロン値は、4.1となり、比較例4に係る焼結含油軸受の平均アンデロン値は、1.7となり、実施例1に係る焼結含油軸受の平均アンデロン値は、1.7となり、実施例2に係る焼結含油軸受の平均アンデロン値は、3.9となり、実施例3に係る焼結含油軸受の平均アンデロン値は、4.2となった。
これによって、潤滑油に水添スチレン-イソプレンブロック共重合体が添加されている実施例1に係る焼結含油軸受によれば、潤滑油にリチウム石けんが添加されている比較例4に係る焼結含油軸受と同等のノイズ低減効果が得られることが確認された。
特に、実施例3に係る焼結含油軸受(サンプル基油+水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:0.05質量%)では、比較例2に係る焼結含油軸受(サンプル基油のみ)と比較して、ノイズが低減されないことが確認された。
したがって、潤滑油Lでは、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.1未満とすると、ノイズ低減効果を得ることができないことができないことが確認された。
一方、実施例4に係る焼結含油軸受(サンプル基油+水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:0.5質量%)では、比較例2に係る焼結含油軸受(サンプル基油のみ)と比較して、ノイズが僅かに低減されることが確認された。
すなわち、潤滑油Lでは、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、1.0未満とすると、得られるノイズ低減効果が僅かとなることが確認された。
これによって、潤滑油Lでは、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、0.1以上とすることが好ましく、特に、1.0以上とすることが好ましいことが確認された。
【0026】
次に、潤滑油におけるスチレン-ジエンブロック共重合体の含有量と、潤滑油の流動性との関係の検証結果を説明する。
図4は、潤滑油におけるスチレン-ジエンブロック共重合体の含有量と、潤滑油の流動性との関係を示す図である。
サンプル潤滑油として、5種類のサンプル潤滑油G,H,I,J,Kを製造した。
サンプル潤滑油G,H,I,J,Kには、互いに同一の組成の基油(具体的には、上記のサンプル基油)が使用されている。また、サンプル潤滑油H,I,J,Kには、互いに同一のスチレン-ジエンブロック共重合体(具体的には、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体)が添加されている。
具体的には、サンプル潤滑油Gは、サンプル基油のみから構成されている。
一方、サンプル潤滑油Hは、サンプル基油に、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Bの全質量に対する質量比で、サンプル基油:97.0質量%、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:3.0質量%とされている。
一方、サンプル潤滑油Iは、サンプル基油に、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Cの全質量に対する質量比で、サンプル基油:94.0質量%、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:6.0質量%とされている。
一方、サンプル潤滑油Jは、サンプル基油に、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Dの全質量に対する質量比で、サンプル基油:91.0質量%、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:9.0質量%とされている。
一方、サンプル潤滑油Kは、サンプル基油に、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加することによって構成されている。ここで、各成分の含有量は、潤滑油Eの全質量に対する質量比で、サンプル基油:88.0質量%、水添スチレン-イソプレンブロック共重合体:12.0質量%とされている。
【0027】
そして、サンプル潤滑油G,H,I,J,Kについて、流動性評価を実施した。
流動性評価は、各サンプル潤滑油G,H,I,J,Kについて、所定量をガラス容器内に滴下し、当該ガラス容器を水平状態から所定角度だけ傾け、ガラス容器内における潤滑油の液面の状態を目視により観察した。
この際、ガラス容器を傾けてから5・0秒以内に各サンプル潤滑油G,H,I,J,Kの液面が動くか否かによって、焼結含油軸受に含浸される潤滑油に求められる流動性の基準を満たしているか否かを判定した。
ここで、流動性評価は、所定温度の状況下において実施している。本実施例では、所定温度は、焼結体に潤滑油が含浸される際の温度である25℃としている。
なお、図4では、流動性の優劣を、記号(「○」又は「×」)により示している。この際、「○」が付されているサンプルについては、焼結含油軸受に含浸される潤滑油に求められる流動性の基準を満たしている(ガラス容器を傾けてから5・0秒以内に潤滑油の液面が動いた)ことを示している。一方、「×」が付されているサンプルについては、焼結含油軸受に含浸される潤滑油に求められる流動性の基準を満たしていない(ガラス容器を傾けてから5・0秒以内に潤滑油の液面が動かなかった)ことを示している。
その結果、図4に示すように、サンプル潤滑油G,H,I,Jについては、焼結含油軸受に含浸される潤滑油に求められる流動性の基準を満たしていることが確認された。一方、サンプル潤滑油Kについては、焼結含油軸受に含浸される潤滑油に求められる流動性の基準を満たしていないことが確認された。
これによって、潤滑油Lでは、スチレン-ジエンブロック共重合体の含有量を、潤滑油Lの全質量に対する質量比で、10質量%以下とすることが好ましく、特に、8.0質量%以下とすることが好ましいことが確認された。
【0028】
(ファンモータ1の作用・効果)
次に、ファンモータ1(焼結含油軸受20)の作用・効果を説明する。
ファンモータ1では、積層コア3のコイル3aに電流を流すことによって、回転軸10が回転され、これに伴い、回転軸10の出力側に配設されたインペラ6が回転される。
この際、ファンモータ1では、焼結含油軸受20に含浸されている潤滑油Lにおいて、スチレン-ジエンブロック共重合体が含有されている。これによって、潤滑油Lの弾性が向上され、回転軸10の暴れに起因するノイズを低減することが可能となる。
特に、ファンモータ1では、静音性を向上するにあたって、潤滑油Lの粘性を上げる必要がないため、消費電力が増大することがなく、また、低温特性が低下することがない。
以上により、ファンモータ1によれば、消費電力の低減と、静音性の向上と、低温特性の向上と、を並立することが可能となる。
また、ファンモータ1では、潤滑油Lの弾性が向上することにより、潤滑油Lの滲み出しの発生を抑制でき、周囲の汚染を防止することが可能となるとともに、耐久性を向上することが可能となる。
【0029】
(変形例)
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、上記実施形態及び実施例では、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、上記実施形態及び実施例では、焼結含油軸受20をファンモータ1に適用した一例を示したが、焼結含油軸受20は、以下のように、広範囲な用途に適用が考えられる。
[家電・IT機器用]
コンピューター,テレビ,デジタルビデオ,プロジェクター,LED照明などの冷却ファン、DLP用カラーホイールモータ、デジタルカメラやデジタルビデオなどの小径ステッピングモータ、冷蔵庫用ファン、電子レンジ用ファン、扇風機、換気扇、エアコン、ドライヤー、掃除機、ジューサーミキサー、フードプロセッサー、振動モータ、ODD用スピンドルモータ、HDD用スピンドルモータ等。
[車載用]
バッテリー冷却用ファン、温度調節シート用ファン、インカーセンサー用ファン、オーディオやナビゲーション機器用冷却ファン、ブロワー、エアコン用アクチュエータ、ウォッシャーポンプ、ドアミラー、ドアクローザ、シートリクライニング、シートスライド、パワーウィンドー、ワイパー、スタータ、ETCやEGRなどの吸排気機構のモータ、EPS(電動パワーステアリング)、EPB(電子制御パーキングブレーキ)等。
[OA機器用]
ポリゴンミラースキャナーモータ、ステッピングモータ等。
【符号の説明】
【0030】
1 ファンモータ
10 回転軸
20 焼結含油軸受
21 第一軸受部
22 第二軸受部
23 中間部
21a 第一軸受面
22a 第二軸受面
23a 内周面
h 軸受孔
図1
図2
図3
図4