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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】テールブラシの診断方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20230621BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
E21D11/00 B
E21D9/06 301Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020170662
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062561
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】516308364
【氏名又は名称】JIMテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】中野 聡
(72)【発明者】
【氏名】西渕 雅之
(72)【発明者】
【氏名】新木 健司
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180226(JP,A)
【文献】特開2004-143693(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0079485(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部にカッタヘッドが取り付けられている筒状の掘削機本体を備えるトンネル掘削機において、前記掘削機本体の後端部内周とセグメントの外周との間に設けられるテールブラシの診断方法であって、
前記セグメントの外周に作用する前記テールブラシの反発力と、前記テールブラシと前記セグメントとの間の摺動抵抗とを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記反発力および前記摺動抵抗に基づいて、前記テールブラシと前記セグメントとの間の摩擦係数を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで算出された前記摩擦係数に基づいて、前記テールブラシの状態を診断する診断ステップと、
を含む、
テールブラシの診断方法。
【請求項2】
前記診断ステップでは、
前記摩擦係数が第1閾値以下である場合、前記テールブラシが、前記掘削機本体内への水、土砂または裏込材の侵入を防止可能な正常状態であると診断し、
前記摩擦係数が前記第1閾値より大きい場合、前記テールブラシが、前記正常状態ではない非正常状態であると診断する、
請求項1に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項3】
前記診断ステップでは、前記摩擦係数が前記第1閾値より大きい場合のうち、前記摩擦係数が前記第1閾値よりも大きな第2閾値以下である場合、前記テールブラシのグリス量が不足している、または、前記テールブラシに異物が侵入していると診断する、
請求項2に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項4】
前記診断ステップでは、
前記摩擦係数が前記第1閾値より大きい場合のうち、前記摩擦係数が前記第2閾値以下である場合、前記テールブラシへのグリスの供給量を増加させ、
前記テールブラシへのグリスの供給量を増加させたにもかかわらず、前記摩擦係数が低下しない場合、前記テールブラシに異物が侵入していると診断する、
請求項3に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項5】
前記診断ステップでは、前記摩擦係数が前記第1閾値より大きい場合のうち、前記摩擦係数が前記第1閾値よりも大きな第2閾値より大きい場合、前記テールブラシに異物が固着していると診断する、
請求項2~4のいずれか一項に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項6】
前記診断ステップでは、前記反発力、前記摺動抵抗または前記摩擦係数の少なくともいずれかに基づいて、前記テールブラシの毛量が基準毛量に対して低下しているか否かを診断する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項7】
前記取得ステップでは、前記掘削機本体の後端部内周と前記セグメントの外周との間のテールクリアランスの大きさに基づいて、前記反発力を間接的に取得する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項8】
前記取得ステップでは、前記掘削機本体の推力抵抗の総和から前記摺動抵抗以外の成分を差し引くことによって、前記摺動抵抗を間接的に取得する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項9】
前記セグメントまたは前記トンネル掘削機には、前記反発力を検出する反発力検出部が設けられており、
前記取得ステップでは、前記反発力検出部の検出結果に基づいて、前記反発力を直接的に取得する、
請求項1~8のいずれか一項に記載のテールブラシの診断方法。
【請求項10】
前記セグメントまたは前記トンネル掘削機には、前記摺動抵抗を検出する摺動抵抗検出部が設けられており、
前記取得ステップでは、前記摺動抵抗検出部の検出結果に基づいて、前記摺動抵抗を直接的に取得する、
請求項1~9のいずれか一項に記載のテールブラシの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テールブラシの診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トンネル掘削機は、カッタヘッドを回転させ、カッタヘッドの前面に装着された複数のカッタが前方の地盤に切羽を形成することにより、トンネルを掘削する。カッタヘッドは筒状の掘削機本体の前端部に取り付けられており、掘削機本体が前方に推進されることによって、トンネルが掘削される。掘削されたトンネルの内壁面は、環状に組み立てられるセグメントにより覆工される。掘削機本体内の後部では、掘削機本体の前進に伴って、既設のセグメントの前端にセグメントが継ぎ足される。
【0003】
ここで、掘削機本体の後端部内周とセグメントの外周との間には、テールブラシが設けられる。テールブラシは、掘削機本体の後端部内周に設けられており、セグメントの外周と摺接する。テールブラシは、掘削機本体内への水、土砂または裏込材等の侵入(以下、水等の侵入とも呼ぶ)を防止するために設けられている。しかしながら、例えば、テールブラシのテールグリス(以下、単にグリスと呼ぶ)の量であるグリス量の不足等に起因して、テールブラシの止水性能(つまり、掘削機本体内への水等の侵入を防止する性能)が低下してしまう場合がある。そこで、例えば、特許文献1に開示されているように、掘削機本体内への水等の侵入を検知する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-297821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1等に開示されている従来の技術は、テールブラシ自体の状態を診断するものではなかった。テールブラシの状態を診断することは、テールブラシの止水性能が低下する要因を判断し、その要因に応じた対策を行う上で重要である。ゆえに、テールブラシの状態を適切に診断することによって、安全なトンネル施工を実現することが期待される。
【0006】
そこで、本発明は、このような課題に鑑み、テールブラシの状態を適切に診断することが可能なテールブラシの診断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のテールブラシの診断方法は、前端部にカッタヘッドが取り付けられている筒状の掘削機本体を備えるトンネル掘削機において、掘削機本体の後端部内周とセグメントの外周との間に設けられるテールブラシの診断方法であって、セグメントの外周に作用するテールブラシの反発力と、テールブラシとセグメントとの間の摺動抵抗とを取得する取得ステップと、取得ステップで取得された反発力および摺動抵抗に基づいて、テールブラシとセグメントとの間の摩擦係数を算出する算出ステップと、算出ステップで算出された摩擦係数に基づいて、テールブラシの状態を診断する診断ステップと、を含む。
【0008】
診断ステップでは、摩擦係数が第1閾値以下である場合、テールブラシが、掘削機本体内への水、土砂または裏込材の侵入を防止可能な正常状態であると診断し、摩擦係数が第1閾値より大きい場合、テールブラシが、正常状態ではない非正常状態であると診断してもよい。
【0009】
診断ステップでは、摩擦係数が第1閾値より大きい場合のうち、摩擦係数が第1閾値よりも大きな第2閾値以下である場合、テールブラシのグリス量が不足している、または、テールブラシに異物が侵入していると診断してもよい。
【0010】
診断ステップでは、摩擦係数が第1閾値より大きい場合のうち、摩擦係数が第2閾値以下である場合、テールブラシへのグリスの供給量を増加させ、テールブラシへのグリスの供給量を増加させたにもかかわらず、摩擦係数が低下しない場合、テールブラシに異物が侵入していると診断してもよい。
【0011】
診断ステップでは、摩擦係数が第1閾値より大きい場合のうち、摩擦係数が第1閾値よりも大きな第2閾値より大きい場合、テールブラシに異物が固着していると診断してもよい。
【0012】
診断ステップでは、反発力、摺動抵抗または摩擦係数の少なくともいずれかに基づいて、テールブラシの毛量が基準毛量に対して低下しているか否かを診断してもよい。
【0013】
取得ステップでは、掘削機本体の後端部内周とセグメントの外周との間のテールクリアランスの大きさに基づいて、反発力を間接的に取得してもよい。
【0014】
取得ステップでは、掘削機本体の推力抵抗の総和から摺動抵抗以外の成分を差し引くことによって、摺動抵抗を間接的に取得してもよい。
【0015】
セグメントまたはトンネル掘削機には、反発力を検出する反発力検出部が設けられており、取得ステップでは、反発力検出部の検出結果に基づいて、反発力を直接的に取得してもよい。
【0016】
セグメントまたはトンネル掘削機には、摺動抵抗を検出する摺動抵抗検出部が設けられており、取得ステップでは、摺動抵抗検出部の検出結果に基づいて、摺動抵抗を直接的に取得してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、テールブラシの状態を適切に診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るトンネル掘削機の全体構成を示す断面模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るトンネル掘削機におけるテールブラシとその周囲の構成を示す部分拡大図である。
図3】本発明の実施形態に係るテールブラシの診断方法の処理フローの第1の例を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係るテールブラシの診断方法の処理フローの第2の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
<トンネル掘削機の構成>
図1および図2を参照して、本発明の実施形態に係るトンネル掘削機1について説明する。
【0021】
まず、図1を参照して、トンネル掘削機1の全体構成について説明する。図1は、トンネル掘削機1の全体構成を示す断面模式図である。なお、図1中の矢印A1は、トンネル掘削機1の進行方向を示す。以下、トンネル掘削機1の進行方向を前方向とも呼び、進行方向に対して逆方向を後方向とも呼ぶ。
【0022】
トンネル掘削機1は、地盤Gを掘削可能な土圧式(泥土圧式を含む。)のシールド掘削機である。図1に示すように、トンネル掘削機1は、掘削機本体10を備える。掘削機本体10は、筒状(例えば、円筒状または矩形筒状等)である。掘削機本体10の軸方向は、トンネル掘削機1の進行方向と一致する。以下では、掘削機本体10の軸方向を単に軸方向とも呼び、掘削機本体10の径方向を単に径方向とも呼び、掘削機本体10の周方向を単に周方向とも呼ぶ。
【0023】
掘削機本体10の前端には、カッタヘッド11が設けられる。カッタヘッド11は、略円盤状の回転体である。カッタヘッド11の中心部には、カッタ中心軸12の前端が嵌入されており、カッタヘッド11は、カッタ中心軸12を中心に回転可能に軸支されている。
【0024】
カッタヘッド11は、外周リング11aと、内周リング11bと、カッタスポーク11cと、フィッシュテールカッタ11dと、カッタビット11eなどを有する。このうち、外周リング11aは、カッタヘッド11の外周部を形成しており、内周リング11bは、外周リング11aよりも径方向内側に配置されている。また、複数のカッタスポーク11cは、カッタヘッド11の前面において、カッタ中心軸12を中心として放射状に配置されている。カッタヘッド11の前面の中心部には、フィッシュテールカッタ11dが装着されている。さらに、カッタスポーク11cの前面には、多数のカッタビット11eが装着されている。なお、フィッシュテールカッタ11dおよびカッタビット11eは、着脱可能であってもよく、着脱可能でなくてもよい。
【0025】
そして、カッタヘッド11には、上記外周リング11a、内周リング11bおよびカッタスポーク11cの相互の間に、複数の開口部が形成されている。当該開口部は、カッタヘッド11によって地盤G(切羽)を掘削した際に発生する掘削土砂を、掘削機本体10内(後述するチャンバ17内)に取り込むための掘削土砂取込口として機能する。
【0026】
掘削機本体10におけるカッタヘッド11よりも後方には、隔壁13が配置されている。隔壁13は、トンネル延伸方向に対して垂直に配置される板状(例えば、円板状)の壁体であり、隔壁13の外周縁は掘削機本体10の内周面に取り付けられる。カッタヘッド11と隔壁13は、軸方向(トンネル延伸方向)に所定間隔を空けて配置される。隔壁13の後方側には、トンネル掘削機1の各種設備が配置されており、隔壁13は、切羽で生じる掘削土砂から当該設備を隔離する。隔壁13の下部には、掘削土砂を排出するための開口部である排出口13aが形成されている。
【0027】
隔壁13の中心部には、カッタ中心軸12が回転可能に支持されている。さらに、隔壁13には、環状の回転リング14が、カッタ中心軸12を中心として回転可能に支持されている。回転リング14の前部には、複数の連結ビーム15が周方向に所定の間隔で設けられている。複数の連結ビーム15は、カッタヘッド11と回転リング14を連結する。連結ビーム15の前端は、カッタヘッド11の内周リング11bとカッタスポーク11cとの接続部に連結されている。一方、回転リング14の後部には、リングギヤ14aが設けられている。なお、リングギヤ14aは、外歯式であってもよく、内歯式であってもよい。さらに、隔壁13の後方にはカッタ旋回用モータ16が設けられている。このカッタ旋回用モータ16の駆動ギヤ16aは、回転リング14のリングギヤ14aと噛み合っている。
【0028】
カッタ旋回用モータ16を駆動させることにより、その駆動ギヤ16aの回転がリングギヤ14aから回転リング14および連結ビーム15に伝達される。これにより、カッタヘッド11を、カッタ中心軸12を中心として回転させることができる。この結果、回転するカッタヘッド11の前面を地盤G(切羽)に押し付けて、地盤Gを掘削することができる。
【0029】
カッタヘッド11と隔壁13との間には、チャンバ17が画成されている。チャンバ17は、カッタヘッド11の後面と、隔壁13の前面と、掘削機本体10の内周面とにより区画された空間(例えば、略円柱状の空間)である。カッタヘッド11による地盤Gの掘削に伴って発生する掘削土砂は、カッタヘッド11に貫通形成された上記開口部(掘削土砂取込口)を通じて、チャンバ17内に取り込まれる。チャンバ17は、掘削土砂を一時的に蓄えるための空間(室)として機能する。チャンバ17内に取り込まれた掘削土砂は、隔壁13の下部にある排出口13aを通じて、チャンバ17からスクリューコンベヤ18内に排出される。
【0030】
スクリューコンベヤ18は、掘削機本体10内における隔壁13の後方側に設けられる。スクリューコンベヤ18は、掘削機本体10内において、後方側に向かうにつれて上方に傾斜して配置される。スクリューコンベヤ18の前端の開口部は、隔壁13の排出口13aに接続されている。これにより、スクリューコンベヤ18の内部空間は、隔壁13の排出口13aを通じてチャンバ17と連通する。スクリューコンベヤ18内には、螺旋状の羽根を備えたスクリュー状の回転体であるスクリュー羽根18aが設けられている。スクリュー羽根18aを回転駆動させることで、チャンバ17内に蓄えられた掘削土砂をスクリューコンベヤ18内に取り込んで、掘削機本体10の後方に向けて運搬し、排出することができる。
【0031】
また、掘削機本体10の隔壁13よりも後方側には、エレクタ装置(図示省略)が設けられる。エレクタ装置は、掘削機本体10の軸方向、径方向および周方向(すなわち、トンネル延伸方向、トンネル径方向およびトンネル周方向)に移動可能に設けられる。エレクタ装置は、覆工部材であるセグメントSを把持可能であり、把持したセグメントSをトンネルTの内壁面(坑壁)に沿って組み立てる。
【0032】
セグメントSは、掘削されたトンネルTの内壁面に沿った湾曲形状を有する環片である。上記エレクタ装置を駆動させることにより、複数のセグメントSを周方向に沿って環状に組み立てることができる。これにより、トンネルTの内壁面が複数のセグメントSにより覆工され、内壁面の崩落を防止できる。
【0033】
掘削機本体10内には、複数のシールドジャッキ19が、周方向に相互に間隔を空けて設けられている。各シールドジャッキ19は、掘削機本体10の内周面に沿って、トンネル延伸方向に延びるように設けられる。シールドジャッキ19は、例えば、油圧ジャッキであるが、トンネル掘削機1の推力を発生可能であれば、他の種類のジャッキ、アクチュエータ等であってもよい。シールドジャッキ19の後端には、伸縮可能な駆動ロッド19aが設けられている。駆動ロッド19aの先端は、既設のセグメントSの前端面と対向している。シールドジャッキ19の駆動ロッド19aを、後方に向けて伸長し、セグメントSを押圧することにより、掘削機本体10に推進反力(つまり、推力)を付与することができる。すなわち、シールドジャッキ19がセグメントSを押圧したときに発生する推力によって、掘削機本体10は前進可能である。
【0034】
なお、図1に示すトンネル掘削機1は、シールドジャッキ19の前端部から掘削機本体10に推力が伝達されるタイプのトンネル掘削機であるが、本発明に係るトンネル掘削機は、この例に限定されない。例えば、本発明に係るトンネル掘削機は、シールドジャッキ19の後側の部分から掘削機本体10に推力が伝達されるタイプのトンネル掘削機であってもよい。なお、本発明に係るトンネル掘削機は、中折れ機能を有し、かつ、前胴が押されて推進するタイプのトンネル掘削機であってもよく、中折れ機能を有し、かつ、後胴が押されて推進するタイプのトンネル掘削機であってもよい。また、本発明に係るトンネル掘削機は、カッタヘッド11の駆動方式が図1の中間支持方式以外の方式(例えば、センターシャフト方式、中央軸支持方式または外周支持方式等)であるトンネル掘削機であってもよい。
【0035】
掘削機本体10内の後部では、掘削機本体10の前進に伴って、既設のセグメントSの前端に新たなセグメントSが継ぎ足される。これにより、掘削機本体10の後端部に対して径方向内側にセグメントSが配置されている状態が維持される。掘削機本体10の後端部内周とセグメントSの外周との間には、テールブラシ20が設けられる。テールブラシ20は、掘削機本体10の後端部内周に取り付けられており、セグメントSの外周と摺接する。テールブラシ20は、掘削機本体10内への水等の侵入(具体的には、水、土砂または裏込材等の侵入)を防止するために設けられている。
【0036】
図2は、トンネル掘削機1におけるテールブラシ20とその周囲の構成を示す部分拡大図である。図2に示すように、掘削機本体10には、テールブラシ20A、20B、20Cの3列のテールブラシ20が設けられている。ただし、掘削機本体10に設けられるテールブラシ20の数は、3列以外であってもよい。テールブラシ20は、掘削機本体10の周方向に沿って環状に配置されたワイヤブラシ(つまり、金属製の多数のワイヤ線を束ねたブラシ)、および、ワイヤブラシに対して径方向内向きの付勢力を付与するばね鋼等を含む。ワイヤブラシの自然状態では、ワイヤブラシの先端がセグメントSの外周よりも径方向内側に位置する状態となる。ゆえに、ワイヤブラシは、セグメントSの外周によって押し広げられ、セグメントSの外周に密着してワイヤブラシ自身の復元力によって押し付けられる。テールブラシ20の基部は、溶接またはボルト締結等によって掘削機本体10の内周に固定されており、テールブラシ20の先端部(具体的には、ワイヤブラシの先端部)は、テールブラシ20自身の復元力によってセグメントSの外周に押し付けられる。それにより、後述する反発力N(押付力)が発生する。テールブラシ20A、20B、20Cは、掘削機本体10の軸方向に間隔を空けて、前方からこの順に設けられている。
【0037】
掘削機本体10の後方では、トンネルTの内壁面とセグメントSの外周が対向している。トンネルTの内壁面とセグメントSの外周との隙間21には、モルタル等の裏込材22が充填される。これにより、セグメントSがトンネルTに固定される。ここで、掘削機本体10の後端部内周とセグメントSの外周との間には、環状の隙間であるテールクリアランスCが存在する。ゆえに、掘削機本体10の外部に存在する水等が、隙間21およびテールクリアランスCを通って、掘削機本体10内へ侵入するおそれがある。このような掘削機本体10内への水等の侵入を、テールブラシ20によって防止することができる。
【0038】
掘削機本体10の壁部内には、グリス供給路23A、23Bが形成されている。グリス供給路23A、23Bは、グリス供給ポンプ(図示省略)と接続されている。グリス供給ポンプから送出されるグリスは、グリス供給路23A、23Bを流通する。グリス供給路23A、23Bは、掘削機本体10の内周に形成される開口である吐出口24、25とそれぞれ接続されている。吐出口24は、テールブラシ20Aとテールブラシ20Bとの間に画成される空間26と連通している。吐出口24から吐出されるグリスは、空間26に供給される。吐出口25は、テールブラシ20Bとテールブラシ20Cとの間に画成される空間27と連通している。吐出口25から吐出されるグリスは、空間27に供給される。吐出口24から吐出されるグリスの量と、吐出口25から吐出されるグリスの量とは、個別に調整可能となっていてもよい。吐出口24、25からグリスを吐出させ、テールブラシ20にグリスを供給することによって、テールブラシ20内およびテールブラシ20間の空間にグリスが充填され、テールブラシ20の止水性能を向上させることができる。また、グリスは、テールブラシ20とセグメントSとの間の摩擦低減の役割も果たしている。
【0039】
セグメントSの外周には、力センサ28が設けられている。力センサ28は、セグメントSの外周に作用するテールブラシ20の反発力Nを検出する反発力検出部としての機能を有する。反発力Nは、テールブラシ20がセグメントSの外周に径方向に押し付けられることにより生じる径方向の力である。具体的には、力センサ28により検出される反発力Nは、図2に示すように、セグメントSの外周に作用する径方向内側を向く力である。なお、テールブラシ20には、セグメントSの外周に作用する径方向内側を向く力の反力(つまり、径方向外側を向く力)が作用する。詳細には、反発力Nは、テールクリアランスCの大きさに応じて変化する成分と、テールブラシ20の前後での差圧に応じて変化する成分とを含む。力センサ28は、例えば、径方向に歪み変形し、径方向の歪み量を電気抵抗の変化として検出することによって、テールブラシ20の反発力Nを検出する。
【0040】
さらに、力センサ28は、テールブラシ20とセグメントSとの間の摺動抵抗Fを検出する摺動抵抗検出部としての機能を有する。摺動抵抗Fは、掘削機本体10の前進に伴って生じる軸方向の力である。具体的には、力センサ28により検出される摺動抵抗Fは、図2に示すように、セグメントSの外周に作用する軸方向前側を向く力である。なお、テールブラシ20には、セグメントSの外周に作用する軸方向前側を向く力の反力(つまり、軸方向後側を向く力)が作用する。力センサ28は、例えば、軸方向に歪み変形し、軸方向の歪み量を電気抵抗の変化として検出することによって、摺動抵抗Fを検出する。
【0041】
上記のように、図2に示す例では、反発力検出部としての機能、および、摺動抵抗検出部としての機能の双方が1つのセンサである力センサ28によって実現される。ただし、反発力検出部としての機能を有するセンサ(例えば、土圧計)と、摺動抵抗検出部としての機能を有するセンサ(例えば、摺動抵抗センサ)とが、別々に設けられてもよい。なお、図2に示す例では、反発力検出部および摺動抵抗検出部(つまり、力センサ28)がセグメントSに設けられているが、反発力検出部および摺動抵抗検出部は、トンネル掘削機1(例えば、掘削機本体10の後端部内周)に設けられてもよい。この場合、詳細には、反発力検出部および摺動抵抗検出部は、テールブラシ20の先端部のうちのセグメントSの外周に押し付けられる部分の近傍(例えば、テールブラシ20の内部)に設けられ得る。
【0042】
掘削機本体10には、テールクリアランスセンサ29が設けられている。テールクリアランスセンサ29は、掘削機本体10の後端部内周とセグメントSの外周との間のテールクリアランスCの大きさを検出する。テールクリアランスセンサ29は、例えば、超音波または光等をセグメントSの外周に照射し、その反射波を受信することによって、テールクリアランスCの大きさを検出する。なお、テールクリアランスセンサ29は、上記の例に限定されず、例えば、セグメントSの前方からテールクリアランスCの大きさを検出するセンサであってもよく、測定子をセグメントSに接触させて測定子の移動量に基づいてテールクリアランスCの大きさを検出するセンサであってもよい。なお、作業者がメジャー等を用いてテールクリアランスCの大きさを実測してもよい。
【0043】
上記で説明したように、トンネル掘削機1には、掘削機本体10内への水等の侵入を防止するために、テールブラシ20が設けられている。しかしながら、例えば、テールブラシ20のグリス量(つまり、テールブラシ20に供給されるグリスの量)の不足等に起因して、テールブラシの止水性能が低下してしまう場合がある。ここで、本件発明者は、テールブラシ20の摩擦係数μとテールブラシ20の状態との間に密接な関係があると考えられる点に着目し、テールブラシ20の状態を適切に診断することができる診断方法を見出した。
【0044】
<テールブラシの診断方法>
図3および図4を参照して、本発明の実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の処理の流れについて説明する。
【0045】
本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法は、取得ステップと、算出ステップと、診断ステップとを含む。取得ステップでは、セグメントSの外周に作用するテールブラシ20の反発力Nと、テールブラシ20とセグメントSとの間の摺動抵抗Fとが取得される。算出ステップでは、取得ステップで取得された反発力Nおよび摺動抵抗Fに基づいて、テールブラシ20とセグメントSとの間の摩擦係数μが算出される。診断ステップでは、算出ステップで算出された摩擦係数μに基づいて、テールブラシ20の状態が診断される。
【0046】
以下、テールブラシ20の診断方法の処理の流れの例として、反発力Nおよび摺動抵抗Fがセンサ(具体的には、力センサ28)を用いて直接的に取得される第1の例と、反発力Nおよび摺動抵抗Fが間接的に取得される第2の例とをこの順に説明する。なお、以下では、直接的に取得される反発力Nと間接的に取得される反発力Nとを区別するために、間接的に取得される反発力Nを特に反発力N’とも呼ぶ。
【0047】
図3は、テールブラシ20の診断方法の処理フローの第1の例を示すフローチャートである。図3に示す処理フローは、例えば、予め設定された時間間隔で繰り返し行われる。なお、以下では、図3に示す処理フローの各処理がトンネル掘削機1の作業者によって行われる例を説明するが、図3に示す処理フローの処理の一部または全部が演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)によって行われてもよい。なお、CPUは、CPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する記憶素子であるROM(Read Only Memory)、および、CPUの実行において適宜変化するパラメータ等を一時記憶する記憶素子であるRAM(Random Access Memory)等を含む。
【0048】
図3に示す処理フローのうち、ステップS101が取得ステップに相当する。図3に示す処理フローのうち、ステップS102が算出ステップに相当する。図3に示す処理フローのうち、ステップS103~S117が診断ステップに相当する。
【0049】
図3に示す処理フローが開始されると、ステップS101において、作業者は、力センサ28の検出結果に基づいて、テールブラシ20の反発力N、および、テールブラシ20とセグメントSとの間の摺動抵抗Fを直接的に取得する。
【0050】
次に、ステップS102において、作業者は、反発力Nおよび摺動抵抗Fに基づいて、テールブラシ20とセグメントSとの間の摩擦係数μを算出する。具体的には、作業者は、摺動抵抗Fを反発力Nで除算して得られる値を摩擦係数μとして算出する(μ=F/N)。
【0051】
次に、ステップS103において、作業者は、摩擦係数μが第1閾値以下であるか否かを判定する。
【0052】
第1閾値は、テールブラシ20が正常状態(つまり、掘削機本体10内への水等の侵入を防止可能な状態)となっている程度に摩擦係数μが小さいか否かを適切に判断し得る値に設定される。なお、第1閾値は、テールブラシ20の仕様(例えば、材質、寸法、形状)、または、セグメントSの材質等に応じて適宜変更され得る。
【0053】
ステップS103でYESと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第1閾値以下であると判定された場合)、基本的には、テールブラシ20が正常状態であると診断することができる。ただし、後述するように、テールブラシ20が消耗している状態(つまり、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下している状態)となっている場合があり得る。ゆえに、ステップS103でYESと判定された場合、ステップS104に進み、作業者は、テールブラシ20が正常状態である、または、テールブラシ20が消耗している状態であると診断する。
【0054】
なお、ステップS103でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第1閾値より大きいと判定された場合)には、後述するように、テールブラシ20が非正常状態であると診断される。例えば、ステップS109のように、テールブラシ20に異物が固着していると診断され、あるいは、ステップS110のように、テールブラシ20のグリス量が不足している、または、テールブラシ20に異物が侵入していると診断される。
【0055】
ステップS104の次に、ステップS105において、作業者は、反発力Nが基準反発力より小さいか否かを判定する。
【0056】
ここで、本件発明者は、反発力Nとテールブラシ20の毛量との間に密接な関係があると考えられる点に着目し、テールブラシ20の毛量を適切に診断することができる方法を見出した。テールブラシ20の毛量が低下するにつれて、テールブラシ20の止水性能が低下しやすくなる。テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下している場合、テールブラシ20の止水性能をより確実に確保するために、テールブラシ20の交換を検討する必要性が高くなる。基準毛量は、例えば、テールブラシ20の初期毛量でもよく、初期毛量より少なくてもよい。基準反発力は、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下している程度に反発力Nが小さいか否かを適切に判断し得る値に設定される。なお、基準反発力は、テールブラシ20の仕様(例えば、材質、寸法、形状)等に応じて適宜変更され得る。
【0057】
ステップS105でNOと判定された場合(つまり、反発力Nが基準反発力以上であると判定された場合)、ステップS106に進み、作業者は、テールブラシ20の毛量が適量である(つまり、基準毛量以上である)と診断し、図3に示す処理フローを終了する。この場合、作業者は、テールブラシ20の交換が不要であると判断することができる。
【0058】
一方、ステップS105でYESと判定された場合(つまり、反発力Nが基準反発力より小さいと判定された場合)、ステップS107に進み、作業者は、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下していると診断し、図3に示す処理フローを終了する。この場合、作業者は、テールブラシ20の交換を検討する必要性が高いと判断することができる。
【0059】
ステップS103でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第1閾値より大きいと判定された場合)、ステップS108に進み、作業者は、摩擦係数μが第2閾値以下であるか否かを判定する。第2閾値は、第1閾値よりも大きい。
【0060】
第2閾値は、テールブラシ20に異物が固着している程度に摩擦係数μが大きいか否かを適切に判断し得る値に設定される。異物としては、例えば、コンクリート剥離片、水、土砂または裏込材22等が挙げられる。なお、第2閾値は、テールブラシ20の仕様(例えば、材質、寸法、形状)、または、セグメントSの材質等に応じて適宜変更され得る。
【0061】
ステップS108でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第2閾値より大きいと判定された場合)、ステップS109に進み、作業者は、テールブラシ20に異物が固着していると診断し、図3に示す処理フローを終了する。テールブラシ20に異物が固着している場合、テールブラシ20の止水性能が著しく低下している。ゆえに、作業者は、テールブラシ20を交換する必要性が特に高い、または、テールブラシ20の交換を検討する必要性が特に高いと判断することができる。
【0062】
一方、ステップS108でYESと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第2閾値以下であると判定された場合)、ステップS110に進み、作業者は、テールブラシ20のグリス量が不足している、または、テールブラシ20に異物が侵入していると診断する。
【0063】
次に、ステップS111において、作業者は、テールブラシ20へのグリスの供給量を増加させる。具体的には、作業者は、グリス供給ポンプから送出されるグリスの量を増加させ、図2に示した吐出口24、25から空間26、27に吐出されるグリスの量を増加させる。
【0064】
次に、ステップS112において、作業者は、摩擦係数μを再計算する。具体的には、作業者は、ステップS101、S102の処理を行うことによって、摩擦係数μを再計算する。
【0065】
次に、ステップS113において、作業者は、摩擦係数μが低下しているか否かを判定する。具体的には、作業者は、ステップS112で再計算された摩擦係数μが、グリスの供給量の増加(ステップS111)の前に計算された摩擦係数μよりも低下しているか否かを判定する。
【0066】
ステップS113でYESと判定された場合(つまり、摩擦係数μが低下していると判定された場合)、ステップS103に戻る。この場合、作業者は、直前のステップS103でNOと判定された要因が、テールブラシ20のグリス量が不足していたことであると判断できる。ゆえに、テールブラシ20へのグリスの供給量を増加させたことによってテールブラシ20が正常状態となり、次のステップS103でYESと判定される可能性がある。
【0067】
一方、ステップS113でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが低下していないと判定された場合)、ステップS114に進み、作業者は、テールブラシ20に異物が侵入していると診断する。
【0068】
次に、ステップS115において、作業者は、反発力Nが基準反発力より小さいか否かを判定する。ステップS115は、ステップS105の処理と同様である。
【0069】
ステップS115でNOと判定された場合(つまり、反発力Nが基準反発力以上であると判定された場合)、ステップS116に進み、作業者は、テールブラシ20の毛量が適量であると診断し、図3に示す処理フローを終了する。この場合、テールブラシ20の毛量は適量であるものの、テールブラシ20に異物が侵入していると診断されている。ゆえに、作業者は、テールブラシ20を交換する必要性が高い、または、テールブラシ20の交換を検討する必要性が高いと判断することができる。
【0070】
一方、ステップS115でYESと判定された場合(つまり、反発力Nが基準反発力より小さいと判定された場合)、ステップS117に進み、作業者は、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下していると診断し、図3に示す処理フローを終了する。この場合、テールブラシ20に異物が侵入していると診断され、さらに、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下していると診断されている。ゆえに、作業者は、テールブラシ20を交換する必要性、または、テールブラシ20の交換を検討する必要性が、テールブラシ20の毛量が適量である場合(ステップS116)よりもさらに高いと判断することができる。
【0071】
図4は、テールブラシ20の診断方法の処理フローの第2の例を示すフローチャートである。図4に示す処理フローは、例えば、予め設定された時間間隔で繰り返し行われる。なお、以下では、図4に示す処理フローの各処理がトンネル掘削機1の作業者によって行われる例を説明するが、図4に示す処理フローの処理の一部または全部が演算処理装置であるCPUによって行われてもよい。
【0072】
図4に示す処理フローのうち、ステップS201、S202が取得ステップに相当する。図4に示す処理フローのうち、ステップS203が算出ステップに相当する。図4に示す処理フローのうち、ステップS204~S215が診断ステップに相当する。
【0073】
図4に示す処理フローが開始されると、ステップS201において、作業者は、テールクリアランスCの大きさに基づいて、テールブラシ20の反発力N’を間接的に取得する。なお、テールクリアランスCの大きさは、テールクリアランスセンサ29を用いて取得され得る。作業者は、例えば、テールクリアランスCの大きさが小さいほど、テールブラシ20の反発力N’として大きな値を取得する。このように間接的に取得される反発力N’は、テールブラシ20が正常状態である場合に想定される反発力N’であり、図3に示す処理フローで直接的に取得される反発力Nとは異なり得る。
【0074】
なお、反発力N’は、上述したように、テールクリアランスCの大きさに応じて変化する成分と、テールブラシ20の前後での差圧に応じて変化する成分とを含む。ゆえに、作業者は、テールブラシ20の前後での差圧を加味することによって、反発力N’をより精度良く取得することができる。
【0075】
次に、ステップS202において、作業者は、掘削機本体10の推力抵抗の総和から摺動抵抗F以外の成分を差し引くことによって、テールブラシ20とセグメントSとの間の摺動抵抗Fを間接的に取得する。例えば、掘削機本体10の推力抵抗の総和Fnは、以下の式(1)により表される。なお、推力抵抗の総和Fnは、掘削機本体10を前進させる装置(例えば、シールドジャッキ19等)の出力を示す情報を用いて取得され得る。以下の式(1)は、土木学会著、「トンネル標準示方書「共通編」・同解説/「シールド工法編」・同解説 2016年制定」、167頁の記載に基づく式である。
【0076】
Fn=F1+F2+F3+F4+F5・・・(1)
【0077】
式(1)において、F1は、掘削機本体10の外周面と土(地盤Gの土)との摩擦抵抗あるいは粘着抵抗を示す。F2は、切羽前面抵抗を示す。F3は、曲線施工等の変向荷重による推進抵抗を示す。F4は、テールブラシ20とセグメントSとの間の摺動抵抗Fを示す。F5は、後続台車の牽引抵抗を示す。
【0078】
作業者は、例えば、式(1)を利用し、テールブラシ20とセグメントSとの間の摺動抵抗F以外の成分であるF1、F2、F3およびF5をFnから差し引くことによって得られる値を摺動抵抗Fとして取得する。なお、F1、F2、F3およびF5は、周知の理論式を用いた算出、または、センサ等による実測によって、取得され得る。
【0079】
次に、ステップS203において、作業者は、反発力N’および摺動抵抗Fに基づいて、テールブラシ20とセグメントSとの間の摩擦係数μを算出する。具体的には、作業者は、摺動抵抗Fを反発力N’で除算して得られる値を摩擦係数μとして算出する(μ=F/N’)。
【0080】
次に、ステップS204において、作業者は、摩擦係数μが第1閾値以下であるか否かを判定する。なお、ステップS204の第1閾値と、図3中のステップS103の第1閾値とは、一致していてもよく、異なっていてもよい。
【0081】
ステップS204でYESと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第1閾値以下であると判定された場合)、基本的には、テールブラシ20が正常状態であると診断することができる。ただし、後述するように、テールブラシ20が消耗している状態(つまり、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下している状態)となっている場合があり得る。ゆえに、ステップS204でYESと判定された場合、ステップS205に進み、作業者は、テールブラシ20が正常状態である、または、テールブラシ20が消耗している状態であると診断する。
【0082】
なお、ステップS204でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第1閾値より大きいと判定された場合)には、後述するように、テールブラシ20が非正常状態であると診断される。例えば、ステップS210のように、テールブラシ20に異物が固着していると診断され、あるいは、ステップS211のように、テールブラシ20のグリス量が不足している、または、テールブラシ20に異物が侵入していると診断される。
【0083】
ステップS205の次に、ステップS206において、作業者は、摩擦係数μが第3閾値より小さいか否かを判定する。第3閾値は、第1閾値よりも小さい。
【0084】
作業者は、図4に示す第2の例において、摩擦係数μが第1閾値以下である場合のうち、摩擦係数μが過度に小さい場合、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下しており、それ以外の場合、テールブラシ20の毛量が適量(つまり、基準毛量以上である)であると診断する。基準毛量は、図3中のステップS105と同様に、例えば、テールブラシ20の初期毛量でもよく、初期毛量より少なくてもよい。第3閾値は、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下している程度に摩擦係数μが小さいか否かを適切に判断し得る値に設定される。なお、第3閾値は、テールブラシ20の仕様(例えば、材質、寸法、形状)等に応じて適宜変更され得る。
【0085】
ステップS206でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第3閾値以上であると判定された場合)、ステップS207に進み、作業者は、テールブラシ20の毛量が適量であると診断し、図4に示す処理フローを終了する。この場合、作業者は、テールブラシ20の交換が不要であると判断することができる。
【0086】
一方、ステップS206でYESと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第3閾値より小さいと判定された場合)、ステップS208に進み、作業者は、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下していると診断し、図4に示す処理フローを終了する。この場合、作業者は、テールブラシ20の交換を検討する必要性が高いと判断することができる。
【0087】
ステップS204でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第1閾値より大きいと判定された場合)、ステップS209に進み、作業者は、摩擦係数μが第2閾値以下であるか否かを判定する。第2閾値は、第1閾値よりも大きい。なお、ステップS209の第2閾値と、図3中のステップS108の第2閾値とは、一致していてもよく、異なっていてもよい。
【0088】
ステップS209でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第2閾値より大きいと判定された場合)、ステップS210に進み、作業者は、テールブラシ20に異物が固着していると診断し、図4に示す処理フローを終了する。テールブラシ20に異物が固着している場合、テールブラシ20の止水性能が著しく低下している。ゆえに、作業者は、テールブラシ20を交換する必要性が特に高い、または、テールブラシ20の交換を検討する必要性が特に高いと判断することができる。
【0089】
一方、ステップS209でYESと判定された場合(つまり、摩擦係数μが第2閾値以下であると判定された場合)、ステップS211に進み、作業者は、テールブラシ20のグリス量が不足している、または、テールブラシ20に異物が侵入していると診断する。
【0090】
次に、ステップS212において、作業者は、テールブラシ20へのグリスの供給量を増加させる。具体的には、作業者は、グリス供給ポンプから送出されるグリスの量を増加させ、図2に示した吐出口24、25から空間26、27に吐出されるグリスの量を増加させる。
【0091】
次に、ステップS213において、作業者は、摩擦係数μを再計算する。具体的には、作業者は、ステップS201~S203の処理を行うことによって、摩擦係数μを再計算する。
【0092】
次に、ステップS214において、作業者は、摩擦係数μが低下しているか否かを判定する。具体的には、作業者は、ステップS213で再計算された摩擦係数μが、グリスの供給量の増加(ステップS212)の前に計算された摩擦係数μよりも低下しているか否かを判定する。
【0093】
ステップS214でYESと判定された場合(つまり、摩擦係数μが低下していると判定された場合)、ステップS204に戻る。この場合、作業者は、直前のステップS204でNOと判定された要因が、テールブラシ20のグリス量が不足していたことであると判断できる。ゆえに、テールブラシ20へのグリスの供給量を増加させたことによってテールブラシ20が正常状態となり、次のステップS204でYESと判定される可能性がある。
【0094】
一方、ステップS214でNOと判定された場合(つまり、摩擦係数μが低下していないと判定された場合)、ステップS215に進み、作業者は、テールブラシ20に異物が侵入していると診断し、図4に示す処理フローを終了する。この場合、作業者は、テールブラシ20を交換する必要性が高い、または、テールブラシ20の交換を検討する必要性が高いと判断することができる。
【0095】
上記では、図3を参照してテールブラシ20の診断方法の処理フローの第1の例を説明し、図4を参照してテールブラシ20の診断方法の処理フローの第2の例を説明した。ただし、テールブラシ20の診断方法の処理の流れは、上記で説明した例に特に限定されない。例えば、上記で説明した第1の例または第2の例に対して一部の処理を追加、削除または変更してもよい。例えば、第2の例のステップS215の次に、ステップS206~S208の処理が追加的に行われてもよい。
【0096】
また、上記では、反発力Nおよび摺動抵抗Fがセンサを用いて直接的に取得される第1の例と、反発力N’および摺動抵抗Fが間接的に取得される第2の例とをそれぞれ説明した。ただし、反発力Nおよび摺動抵抗Fの取得方法として、第1の例のように、直接的な取得のみが用いられてもよい。この場合、トンネル掘削機1の構成からテールクリアランスセンサ29が省略され得る。また、第2の例のように、間接的な取得のみが用いられてもよい。この場合、セグメントSまたはトンネル掘削機1の構成から力センサ28が省略され得る。また、直接的な取得と間接的な取得の双方が使い分けられてもよく、直接的な取得と間接的な取得の双方が併用されてもよい。直接的な取得では、センサの設置位置における反発力Nおよび摺動抵抗Fを精度良く取得できる。これにより、センサの設置位置でのテールブラシ20の状態を把握することが可能となる。なお、力センサ28等のセンサの設置位置としては、例えば、周方向に互いに間隔を空けた複数の位置、または、テールブラシ20の各列と対応する複数の位置等が挙げられる。また、センサの各設置位置でのテールブラシ20の状態の相違に基づいて、吐出口24から吐出されるグリスの量と、吐出口25から吐出されるグリスの量とを異ならせてもよい。それにより、グリスの効率良い使用が可能となる。一方、間接的な取得では、装置全体での平均的な反発力N’および摺動抵抗Fを取得できる。例えば、間接的な取得によって、装置全体での反発力N’および摺動抵抗Fの傾向を把握した上で、特定の位置での反発力Nおよび摺動抵抗Fを精度良く取得したい場合に直接的な取得を利用することが考えられる。また、直接的な取得に用いるセンサが故障した場合等に、適宜、間接的な取得に切り替えて対応するといった時系列的な使い分けも可能である。
【0097】
また、上記では、第2の例のステップS206において、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下しているか否かを摩擦係数μに基づいて診断する例を説明した。ただし、第2の例のように反発力N’および摺動抵抗Fが間接的に取得される場合において、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下しているか否かを摺動抵抗Fに基づいて診断してもよい。例えば、作業者は、摺動抵抗Fが基準摺動抵抗より小さい場合、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下していると診断してもよい。基準摺動抵抗は、ステップS206の第3閾値を反発力N’に乗じて得られる値である。
【0098】
また、上記では、テールブラシ20が非正常状態となっている場合の例として、テールブラシ20に異物が固着している場合、テールブラシ20のグリス量が不足している場合、または、テールブラシ20に異物が侵入している場合を挙げた。ただし、テールブラシ20が非正常状態となっている場合は、上記以外の場合も含み得る。例えば、テールブラシ20が非正常状態となっている場合として、テールブラシ20が反転している場合(つまり、テールブラシ20の先端部が基部より前方に位置する状態になっている場合)、または、裏込材22の注入圧力が異常に高くなることに起因してテールブラシ20がセグメントSに対して異常に高い力で押し付けられている場合等がある。ゆえに、作業者は、テールブラシ20が非正常状態であると診断する場合において、例えば、テールブラシ20が反転していると診断してもよく、テールブラシ20がセグメントSに対して異常に高い力で押し付けられていると診断してもよい。
【0099】
以下、本発明の実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の効果について説明する。
【0100】
本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法は、セグメントSの外周に作用するテールブラシ20の反発力Nと、テールブラシ20とセグメントSとの間の摺動抵抗Fとを取得する取得ステップと、取得ステップで取得された反発力Nおよび摺動抵抗Fに基づいて、テールブラシ20とセグメントSとの間の摩擦係数μを算出する算出ステップと、算出ステップで算出された摩擦係数μに基づいて、テールブラシ20の状態を診断する診断ステップと、を含む。それにより、摩擦係数μとテールブラシ20の状態との関係に基づいて、テールブラシ20の状態を適切に診断することができる。ゆえに、例えば、テールブラシ20の止水性能が低下する要因に応じた対策を適切に行うことができる。よって、安全なトンネル施工を実現することができる。
【0101】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の診断ステップでは、摩擦係数μが第1閾値以下である場合、テールブラシ20が、掘削機本体10内への水、土砂または裏込材22の侵入を防止可能な正常状態であると診断し、摩擦係数μが第1閾値より大きい場合、テールブラシ20が、正常状態ではない非正常状態であると診断することが好ましい。それにより、テールブラシ20が正常状態であるか否かを、摩擦係数μとテールブラシ20の状態との関係に基づいて適切に診断することができる。
【0102】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の診断ステップでは、摩擦係数μが第1閾値より大きい場合のうち、摩擦係数μが第1閾値よりも大きな第2閾値以下である場合、テールブラシ20のグリス量が不足している、または、テールブラシ20に異物が侵入していると診断することが好ましい。それにより、テールブラシ20のグリス量が不足している、または、テールブラシ20に異物が侵入しているか否かを、摩擦係数μとテールブラシ20の状態との関係に基づいて適切に診断することができる。
【0103】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の診断ステップでは、摩擦係数μが第1閾値より大きい場合のうち、摩擦係数μが第2閾値以下である場合、テールブラシ20へのグリスの供給量を増加させ、テールブラシ20へのグリスの供給量を増加させたにもかかわらず、摩擦係数μが低下しない場合、テールブラシ20に異物が侵入していると診断することが好ましい。それにより、摩擦係数μが第1閾値より大きく、かつ、第2閾値以下である場合において、テールブラシ20のグリス量が不足しているのか、テールブラシ20に異物が侵入しているのかを適切に診断することができる。
【0104】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の診断ステップでは、摩擦係数μが第1閾値より大きい場合のうち、摩擦係数μが第1閾値よりも大きな第2閾値より大きい場合、テールブラシ20に異物が固着していると診断することが好ましい。それにより、テールブラシ20に異物が固着しているか否かを、摩擦係数μとテールブラシ20の状態との関係に基づいて適切に診断することができる。
【0105】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の診断ステップでは、反発力N、摺動抵抗Fまたは摩擦係数μの少なくともいずれかに基づいて、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下しているか否かを診断することが好ましい。それにより、テールブラシ20の毛量が基準毛量に対して低下しているか否かを適切に診断することができる。
【0106】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の取得ステップでは、掘削機本体10の後端部内周とセグメントSの外周との間のテールクリアランスCの大きさに基づいて、反発力N’を間接的に取得することが好ましい。それにより、反発力Nを直接的に取得可能なセンサ(例えば、力センサ28等)を用いることなく、反発力N’を取得することができる。ゆえに、トンネル掘削機1のセンサ数を減らすことができる。
【0107】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の取得ステップでは、掘削機本体10の推力抵抗の総和から摺動抵抗F以外の成分を差し引くことによって、摺動抵抗Fを間接的に取得することが好ましい。それにより、摺動抵抗Fを直接的に取得可能なセンサ(例えば、力センサ28等)を用いることなく、摺動抵抗Fを取得することができる。ゆえに、トンネル掘削機1のセンサ数を減らすことができる。
【0108】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の取得ステップでは、反発力検出部(例えば、力センサ28)の検出結果に基づいて、反発力Nを直接的に取得することが好ましい。それにより、反発力Nを精度良く取得することができる。
【0109】
また、本実施形態に係るテールブラシ20の診断方法の取得ステップでは、摺動抵抗検出部(例えば、力センサ28)の検出結果に基づいて、摺動抵抗Fを直接的に取得することが好ましい。それにより、摺動抵抗Fを精度良く取得することができる。
【0110】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0111】
例えば、上記では、土圧式(泥土圧式を含む。)のトンネル掘削機1を説明したが、本発明に係るトンネル掘削機は、泥水式であってもよい。
【0112】
また、例えば、上記では、図面を参照して、トンネル掘削機1の各構成要素を説明したが、図面における各構成要素の寸法および位置関係はあくまでも例示に過ぎないので、トンネル掘削機1の各構成要素の寸法および位置関係は図面に示す例に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、テールブラシの診断方法に利用できる。
【符号の説明】
【0114】
1 トンネル掘削機
10 掘削機本体
11 カッタヘッド
12 カッタ中心軸
13 隔壁
14 回転リング
15 連結ビーム
16 カッタ旋回用モータ
17 チャンバ
18 スクリューコンベヤ
19 シールドジャッキ
20、20A、20B、20C テールブラシ
21 隙間
22 裏込材
23A、23B グリス供給路
24 吐出口
25 吐出口
26 空間
27 空間
28 力センサ(反発力検出部、摺動抵抗検出部)
29 テールクリアランスセンサ
C テールクリアランス
F 摺動抵抗
G 地盤
N、N’ 反発力
S セグメント
T トンネル
μ 摩擦係数
図1
図2
図3
図4