(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】地盤の改良工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/08 20060101AFI20230621BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20230621BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20230621BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20230621BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20230621BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230621BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20230621BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230621BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20230621BHJP
C09K 103/00 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
C09K17/08 P
C09K17/06 P
C09K17/10 P
C04B22/12
C04B22/06 A
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B22/14 Z
C04B22/10
C04B28/02
E02D3/12 102
C09K103:00
(21)【出願番号】P 2020203839
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2020023004
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 聡之
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011473(JP,A)
【文献】特開2001-003047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0079016(US,A1)
【文献】特開2006-241316(JP,A)
【文献】特開2001-098271(JP,A)
【文献】特開平10-102058(JP,A)
【文献】特開平11-293246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00 - 17/52
E02D 3/12
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1~3を有する地盤の改良工法。
<工程1>
水と、水硬性粉体と、下記(A)成分と
、下記(B)成分とを混合してスラリーを調製する工程
(A)成分:粒子群であって、含まれる全粒子を動的光散乱法によって粒子径を測定し、粒子径に対する累積個数頻度をプロットしたとき、累積個数頻度が10%になる時の粒子径が30nm以下であり、50%になるときの粒子径が70nm以下であり、90%になる時の粒子径が100nm以下である粒子群
(B)成分:20℃における水への溶解度が20g/1000ml以上であるカルシウム塩化物塩もしくはアルミニウム塩化物塩から選ばれる1種以上の化合物
<工程2>
工程1で得られたスラリーを地盤に注入してスラリーと土壌とを混合して混合物を得る工程であって、前記土壌が、強熱減量法によって求められる有機質分量が30%以上である土壌であり、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが6以下である土壌であり、土壌1m
3あたりのスラリーの混合量が150kg以上800kg以下であり、混合物中の水硬性粉体/土壌の質量比が0.01以上0.6以下である工程
<工程3>
工程2で得られたスラリーと土壌の混合物を固化させる工程
【請求項2】
(A)成分が、酸化ケイ素、及び酸化アルミニウムから選ばれる1種以上の粒子群である、請求項1に記載の地盤の改良工法。
【請求項3】
工程1で、(A)成分を、水硬性粉体に対して、0.1質量%以上10質量%以下で混合する、請求項1又は2に記載の地盤の改良工法。
【請求項4】
前記水硬性粉体が、普通ポルトランドセメント、高炉スラグセメント、及び製鋼スラグセメントから選ばれる1種以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の地盤の改良工法。
【請求項5】
(B)成分が塩化カルシウム及び塩化アルミニウムから選ばれる1種以上である、請求項
1~4の何れか1項に記載の地盤の改良工法。
【請求項6】
工程1で、(B)成分を、水硬性粉体に対して、0.1質量%以上10質量%以下で混合する、請求項
1~5の何れか1項に記載の地盤の改良工法。
【請求項7】
工程1で、更に(C)硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムから選ばれる1種以上の化合物(以下、(C)成分という)を混合する、請求項1~
6の何れか1項に記載の地盤の改良工法。
【請求項8】
工程1で、(C)成分を、水硬性粉体に対して、0.1質量%以上10質量%以下で混合する、請求項
7に記載の地盤の改良工法。
【請求項9】
工程1で、アルカリ金属炭酸塩の混合量が、水硬性粉体に対して、1質量%以下である、請求項1~
8の何れか1項に記載の地盤の改良工法。
【請求項10】
下記(A)成分、
及び下記(B)成分を含有する、地盤改良用添加剤組成物
であって、強熱減量法によって求められる有機質分量が30%以上である土壌であり、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが6以下である土壌用の地盤改良用添加剤組成物。
(A)成分:粒子群であって、含まれる全粒子を動的光散乱法によって粒子径を測定し、粒子径に対する累積個数頻度をプロットしたとき、累積個数頻度が10%になる時の粒子径が30nm以下であり、50%になるときの粒子径が70nm以下であり、90%になる時の粒子径が100nm以下である粒子群
(B)成分:20℃における水への溶解度が20g/1000ml以上であるカルシウム塩化物塩もしくはアルミニウム塩化物塩から選ばれる1種以上の化合物
【請求項11】
土壌、水硬性粉体、水、下記(A)成分、
及び下記(B)成分を含有する地盤改良体であって、水硬性粉体の含有量と土壌の含有量との質量比(水硬性粉体/土壌)が0.01以上0.6以下であり、前記土壌が、強熱減量法によって求められる有機質分量が30%以上である土壌であり、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが6以下である地盤改良体。
(A)成分:粒子群であって、含まれる全粒子を動的光散乱法によって粒子径を測定し、粒子径に対する累積個数頻度をプロットしたとき、累積個数頻度が10%になる時の粒子径が30nm以下であり、50%になるときの粒子径が70nm以下であり、90%になる時の粒子径が100nm以下である粒子群
(B)成分:20℃における水への溶解度が20g/1000ml以上であるカルシウム塩化物塩もしくはアルミニウム塩化物塩から選ばれる1種以上の化合物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の改良工法、地盤改良用添加剤組成物、及び地盤改良体に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物を建設する基礎を地盤改良する方法として、コンクリート製又は鋼管製の地盤改良コラムを地盤に打ち込む地盤改良工法や、地盤を掘削しながらセメントミルクなどのセメント系固化材を注入し、掘削土と前記セメントミルクとが混じり合って形成されるコラム状の地盤改良体を地盤中に直接形成する地盤改良工法が知られている。
【0003】
セメント系固化材を土と添加混合により地盤の改質を行う地盤改良では、混合する土壌の性質、地盤改良を行う工法の種類などを考慮して、適切な固化材、配合比、添加剤などを選定することが望まれる。特に混合する土壌が腐植酸等の有機物を多く含む酸性土の場合、有機物がセメント表面に吸着することでセメントの水和反応が阻害されるためにセメント固化材を用いても望ましい強度が得られず、地盤改良が困難な場合がある。
【0004】
特許文献1には、カルシウムイオンを含む泥土に、全体量の固形物換算において、粒径0.06mm以下の火山灰を1~20重量%及び水性コロイド溶液を形成するに足る珪砂から成る微粒子の特殊キラを0.02~1重量%、混合することを特徴とする泥土の固化方法カルシウムイオンを含む泥土に、全体量の固形物換算において、粒径0.06mm以下の火山灰を1~20重量%及び水性コロイド溶液を形成するに足る珪砂から成る微粒子の特殊キラを0.02~1重量%、混合することを特徴とする泥土の固化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フミン酸、フルボ酸、ヒューミン、ビチューメンなどの有機物を含む酸性土の土壌を用いた場合でもソイルセメントの圧縮強度を高めることができる、地盤の改良工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の工程1~3を有する地盤の改良工法に関する。
<工程1>
水と、水硬性粉体と、下記(A)成分とを混合してスラリーを調製する工程
(A)成分:粒子群であって、含まれる全粒子を動的光散乱法によって粒子径を測定し、粒子径に対する累積個数頻度をプロットしたとき、累積個数頻度が10%になる時の粒子径が30nm以下であり、50%になるときの粒子径が70nm以下であり、90%になる時の粒子径が100nm以下である粒子群
<工程2>
工程1で得られたスラリーを地盤に注入してスラリーと土壌とを混合して混合物を得る工程であって、土壌1m3あたりのスラリーの混合量が150kg以上800kg以下であり、混合物中の水硬性粉体/土壌の質量比が0.01以上0.6以下である工程
<工程3>
工程2で得られたスラリーと土壌の混合物を固化させる工程
【0008】
また本発明は、前記(A)成分を含有する、地盤改良用添加剤組成物に関する。
【0009】
また本発明は、土壌、水硬性粉体、水、及び前記(A)成分を含有する地盤改良体であって、水硬性粉体の含有量と土壌の含有量との質量比(水硬性粉体/土壌)が0.01以上0.6以下である地盤改良体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フミン酸、フルボ酸、ヒューミン、ビチューメンなどの有機物を含む酸性土の土壌を用いた場合でもソイルセメントの圧縮強度を高めることができる、地盤の改良工法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔地盤の改良工法〕
<工程1>
工程1は、水と、水硬性粉体と、前記(A)成分とを混合してスラリーを調製する工程である。
【0012】
本発明に用いられる水硬性粉体は、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント等が挙げられる。好ましくはセメント、例えば、普通ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸塩セメント等のセメントである。また、セメント等に高炉スラグ、製鋼スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポゾラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加された高炉スラグセメント、製鋼スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等でもよい。また、セメント系固化材でもよい。
水硬性粉体は、経済性の観点から、普通ポルトランドセメント、高炉スラグセメント、及び製鋼スラグセメントから選ばれる1種以上が好ましい。
【0013】
なお、本発明では、水硬性粉体の量は、水和反応により硬化する物性を有する粉体の量であるが、水硬性粉体が、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。
【0014】
本発明の(A)成分は、粒子群であって、含まれる全粒子を動的光散乱法によって粒子径を測定し、粒子径に対する累積個数頻度をプロットしたとき、累積個数頻度が10%になる時の粒子径が30nm以下であり、50%になるときの粒子径が70nm以下であり、90%になる時の粒子径が100nm以下である粒子群である。
(A)成分の累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)、50%になるときの粒子径(D50)、90%になる時の粒子径(D90)は、粒子群に含まれる全粒子を、レーザー粒子解析システム(例えば、大塚電子株式会社製、商品名:ELSZ-1000)を用いて、動的光散乱法により粒子径を測定し、粒子径に対する累積個数頻度をプロットして、キュムラント法解析により算出する。より詳細には実施例に記載の方法で算出する。
【0015】
(A)成分の粒子群の累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)は、ソイルセメントの強度向上の観点から、30nm以下、好ましくは25nm以下、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは15nm以下、より更に好ましくは12nm以下、そして、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1.0nm以上である。
(A)成分の粒子群の累積個数頻度が50%になるときの粒子径(D50)は、ソイルセメントの強度向上の観点から、70nm以下、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは40nm以下、より更に好ましくは30nm以下、より更に好ましくは25nm以下、より更に好ましくは20nm以下、そして、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1.0nm以上である。
(A)成分の粒子群の累積個数頻度が90%になる時の粒子径(D90)は、ソイルセメントの強度向上の観点から、100nm以下、好ましくは90nm以下、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは70nm以下、より更に好ましくは60nm以下、より更に好ましくは50nm以下、より更に好ましくは40nm以下、より更に好ましくは30nm以下、そして、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1.0nm以上である。
【0016】
本発明の(A)成分の粒子群としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄から選ばれる1種以上の粒子群が挙げられ、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、酸化ケイ素、及び酸化アルミニウムから選ばれる1種以上の粒子群が好ましい。
【0017】
工程1では、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、更に(B)成分として、20℃における水への溶解度が20g/100ml以上であるカルシウム塩化物塩もしくはアルミニウム塩化物塩から選ばれる1種以上の化合物を混合することが好ましい。
【0018】
(B)成分は、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、好ましくは塩化カルシウム及び塩化アルミニウムから選ばれる1種以上である。
【0019】
工程1では、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、更に(C)成分として、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムから選ばれる1種以上の化合物を混合することが好ましい。
【0020】
工程1では、セメントスラリーの流動性向上の観点から、更にセメント分散剤を混合してもよい。セメント分散剤は、ポリカルボン酸系分散剤又はナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物系分散剤が好ましい。
【0021】
工程1では、施工性の観点から、水硬性粉体と水とを、水/水硬性粉体の質量比が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、そして、好ましくは150質量%以下、より好ましくは120質量%以下、更に好ましくは100質量%以下で混合する。この質量比は、(水の量/水硬性粉体の量)×100で算出される。
工程1では、スラリーの調製に用いる水は、真水、海水の何れも用いることが出来る。スラリーの水の少なくとも一部が海水であってもよい。
【0022】
工程1では、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、(A)成分を、水硬性粉体に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下で混合する。
【0023】
工程1では、(B)成分を用いる場合、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、(B)成分を、水硬性粉体に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下で混合する。
【0024】
工程1では、(B)成分を用いる場合、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、(A)成分と(B)成分を、(A)成分と(B)成分との質量比(A)/(B)が、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、そして、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下となるように混合する。
【0025】
工程1では、(C)成分を用いる場合、酸性土を含むソイルセメントの強度向上の観点から、(C)成分を、水硬性粉体に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下、より更に好ましくは6質量%以下で混合する。
【0026】
本発明の地盤の改良工法では、(C)成分を用いる場合、ソイルセメントの強度向上の観点から、(A)成分と(C)成分を、(A)成分と(C)成分との質量比(A)/(C)が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.5以上、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下となるように混合する。
【0027】
工程1で、更にアルカリ金属炭酸塩を混合してもよいが、ソイルセメントの強度向上の観点から、アルカリ金属炭酸塩の混合量は制限される。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0028】
工程1で、アルカリ金属炭酸塩を混合する場合、アルカリ金属炭酸塩の混合量は、ソイルセメントの強度向上の観点から、水硬性粉体に対して、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下である。また工程1では、アルカリ金属炭酸塩を混合しないことが好ましい。
【0029】
工程1で、アルカリ金属炭酸塩を混合する場合、その混合量が制限される理由は必ずしも定かではないが、以下のように推定される。
工程1で、アルカリ金属炭酸塩を混合した場合、水硬性粉体に含まれるC3Aが炭酸イオンと反応し、炭酸系水和物(モノカーボネート、ヘミカーボネート)を生成させてしまい、C3Aからのエトリンガイトの生成が阻害されることで強度が低下してしまう。ソイルセメント、特にフミン酸、フルボ酸、ヒューミン、ビチューメンなどの有機物を含む酸性土の土壌を用いたソイルセメントの強度発現性には、水硬性粉体が含有するC3Aからのエトリンガイドの生成が極めて重要となる。なぜならC-S-Hの生成は、土壌の種類による影響を強く受けるのに対して、エトリンガイドの生成は土壌の種類による影響を受けにくいためである。
したがってエトリンガイトの生成量を低下させないためにアルカリ金属炭酸塩の混合量を制限することが好ましい。
【0030】
工程1で、スラリーを調製する具体的な方法は、セメントミルクなどの水硬性組成物を調製する公知の方法に準じてよい。
【0031】
<工程2>
工程2は、工程1で得られたスラリーを地盤に注入してスラリーと土壌とを混合して混合物を得る工程であって、土壌1m3あたりのスラリーの混合量が150kg以上800kg以下であり、混合物中の水硬性粉体/土壌の質量比が0.01以上0.6以下である工程である。
【0032】
本発明の地盤の改良工法は、土壌が種々の地盤を対象とすることができる。
本発明の地盤の改良工法は、土壌が、強熱減量法によって求められる有機質分量が30%以上である土壌であり、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが6以下である土壌であっても効果が発現する。
【0033】
土壌は、強熱減量法によって求められる有機質分量が、小粒径の(A)成分でより強度を向上させる観点から、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上、そして、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下であるものである。ここで、強熱減量法とは日本工学規格JISA1226:2009で規定される方法である。
また土壌に含まれる有機質としては、フミン酸、フルボ酸、ヒューミン、ビチューメンから選ばれる1種以上の有機物が挙げられる。
【0034】
土壌は、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが、好ましくは6以下、より好ましくは5.5以下、更に好ましくは5.0以下の酸性土であってよい。
【0035】
工程2では、ソイルセメントの混合性の観点から、土壌1m3あたりのスラリーの混合量が、150kg以上、好ましくは200kg以上、より好ましくは250kg以上、更に好ましくは300kg以上、そして、ソイルセメントの施工性の観点から、800kg以下、好ましくは500kg以下、より好ましくは400kg以下である。
【0036】
工程2では、ソイルセメントの混合性の観点から、土壌に、水硬性粉体を、水硬性粉体/土壌の質量比が、0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上、そして、ソイルセメントの施工性の観点から、0.6以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.45以下、更に好ましくは0.4以下で混合する。
【0037】
スラリーを地盤に注入する具体的な方法は、公知の地盤改良工法に準じてよい。
スラリーを地盤に注入する方法として、例えば、噴射撹拌工法(一相流方式、二相流方式、三相流方式)や機械撹拌工法(CDM工法など)、さらに地中連続壁工法(SMW工法、TRD工法など)などが挙げられる。さらに水硬性粉体に(A)成分と任意に(B)成分とをドライブレンドした系では、粉体混合方式のDJM(Dry Jet Mixing)工法やスタビライザなどを使用した浅層改良などにも使用できる。
【0038】
<工程3>
工程3は、工程2で得られたスラリーと土壌の混合物を固化させる工程である。スラリーと土壌の混合物は、公知の地盤改良工法に準じて固化させる。
【0039】
本発明の地盤の改良工法は、表層改良工法、深層改良工法、鋼管杭工法、シールド工法などの工法に適用できる。例えば、深層改良工法では、高圧噴射工法、TRD工法、SMW工法などに適用できる。
【0040】
〔地盤改良用添加剤組成物〕
本発明の地盤改良用添加剤組成物は、(A)成分を含有する、地盤改良用添加剤組成物である。本発明の地盤改良用添加剤組成物は、強度向上の観点から、更に(B)成分を含有することができる。また本発明の地盤改良用添加剤組成物は、強度向上の観点から、更に(C)成分を含有することができる。本発明の地盤改良用添加剤組成物は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分からなるものであってもよい。
【0041】
かかる地盤改良用添加剤組成物は、地盤改良のために土壌と混合される地盤改良材、例えばセメントミルクなどの水硬性組成物に用いられる添加剤組成物である。
本発明の地盤改良用添加剤組成物の使用量は、地盤改良材の種類、土壌(地盤)の種類などを考慮して設定できるが、本発明の地盤の改良工法や本発明の地盤改良体で述べた量となることが好ましい。本発明の地盤の改良工法で述べた事項は、適宜、本発明の地盤改良用添加剤組成物に適用することができる。
本発明の地盤改良用添加剤組成物は、酸性土用であってよい。また、本発明の地盤改良用添加剤組成物は、強熱減量法によって求められる有機質分量が30%以上である土壌であり、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが6以下である土壌用であってよい。
【0042】
〔地盤改良用スラリー〕
本発明の地盤改良用スラリーは、水と、水硬性粉体と、(A)成分とを含有する、地盤改良用スラリーである。当該スラリーは、水/水硬性粉体の質量比が好ましくは40質量%以上150質量%以下である。本発明の地盤改良用スラリーは、水と、水硬性粉体と、本発明の地盤改良用添加剤組成物とを混合してなる地盤改良用スラリーであってよい。本発明の地盤改良用スラリーは、本発明の地盤の改良工法に好ましく用いられる。また、本発明の地盤改良用スラリーは、(B)成分、及び(C)成分から選ばれる成分を1つ以上含有することができる。本発明の地盤の改良工法、地盤改良用添加剤組成物で述べた事項は、適宜、本発明の地盤改良用スラリーに適用することができる。本発明の地盤改良用スラリーは、酸性土用であってよい。また、本発明の地盤改良用スラリーは、強熱減量法によって求められる有機質分量が30%以上である土壌であり、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが6以下である土壌用であってよい。
【0043】
本発明の地盤改良用スラリーは、地盤改良のために土壌と混合される地盤改良用のスラリー、例えばセメントミルクなどの水硬性組成物である。
本発明の地盤改良用スラリーの使用量は、地盤改良用スラリーの組成、土壌(地盤)の種類などを考慮して設定できるが、本発明の地盤の改良工法や本発明の地盤改良体で述べた量となることが好ましい。
本発明の地盤改良用スラリーは、土壌1m3あたり150kg以上、好ましくは200kg以上、より好ましくは250kg以上、更に好ましくは300kg以上、そして、800kg以下、好ましくは500kg以下、より好ましくは400kg以下で土壌と混合して用いられる。また、本発明の地盤改良用スラリーは、該スラリー中の水硬性粉体と土壌とが、水硬性粉体/土壌の質量比が0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.25以上、そして、0.6以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.45以下、更に好ましくは0.4以下で土壌と混合して用いられる。
【0044】
〔地盤改良体〕
本発明の地盤改良体は、土壌、水硬性粉体、水、及び(A)成分を含有する地盤改良体であって、水硬性粉体の含有量と土壌の含有量との質量比(水硬性粉体/土壌)が0.01以上0.6以下である地盤改良体である。この地盤改良体は、土壌と、水と、水硬性粉体と、(A)成分とを含有するスラリーを硬化させてなる地盤改良体であってよい。
本発明の地盤改良体は、土壌と、本発明の地盤改良用スラリーとを混合してなる、地盤改良体であってよい。
【0045】
本発明の地盤の改良工法、地盤改良用添加剤組成物、地盤改良用スラリーで述べた事項は、本発明の地盤改良体に適宜適用することができる。本発明の地盤改良体は、(B)成分、及び(C)成分から選ばれる成分を1つ以上含有することができる。
本発明の地盤改良体における、水硬性粉体、(A)成分、(B)成分、(C)成分、土壌などの具体例、好ましい態様や、各質量比などの量的な規定も、それぞれ、本発明の地盤の改良工法、地盤改良用添加剤組成物、地盤改良用スラリーと同じである。例えば、土壌は、酸性土、好ましくは強熱減量法によって求められる有機質分量が30%以上である土壌であり、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定される土懸濁液のpHが6以下である土壌であってよい。
【実施例】
【0046】
<配合成分>
以下の実施例、比較例で用いた成分を以下に示す。
(A)成分
・酸化ケイ素(1):酸化ケイ素(コロイダルシリカ)、累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)5nm、累積個数頻度が50%になる時の粒子径(D50)8nm、累積個数頻度が90%になる時の粒子径(D90)10nm、日揮触媒化成株式会社製
・酸化ケイ素(2):酸化ケイ素(コロイダルシリカ)、累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)7nm、累積個数頻度が50%になる時の粒子径(D50)10nm、累積個数頻度が90%になる時の粒子径(D90)15nm、日揮触媒化成株式会社製
・酸化ケイ素(3):酸化ケイ素(コロイダルシリカ)、累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)10nm、累積個数頻度が50%になる時の粒子径(D50)14nm、累積個数頻度が90%になる時の粒子径(D90)27nm、日揮触媒化成株式会社製
・酸化アルミニウム:γ―アルミナ、累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)15nm、累積個数頻度が50%になる時の粒子径(D50)23nm、累積個数頻度が90%になる時の粒子径(D90)31nm、バイコウスキージャパン製
(A’)成分((A)成分の比較成分)
・酸化ケイ素(4):酸化ケイ素(コロイダルシリカ)、累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)83nm、累積個数頻度が50%になる時の粒子径(D50)100nm、累積個数頻度が90%になる時の粒子径(D90)130nm、日揮触媒化成株式会社製
【0047】
(A)成分、(A’)成分の累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)、50%になるときの粒子径(D50)、90%になる時の粒子径(D90)は、(A)成分、(A’)成分の粒子群に含まれる全粒子をレーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、商品名:ELSZ-1000)を用いて、下記条件で動的光散乱法により粒子径を測定し、粒子径に対する累積個数頻度をプロットして、キュムラント法解析により算出した。
[測定条件]
・測定サンプル:測定サンプルをスクリュー管に計量し、固形分濃度が0.4質量%となるように分散溶媒として水を加えて調製
・温度:23.6℃
・入射光と検出器との角度:90°
・積算回数:50回
・分散溶媒としての水の屈折率:1.333
【0048】
(B)成分
・塩化カルシウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
・塩化アルミニウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
(C)成分
・硫酸カルシウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
・硫酸ナトリウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
・チオ硫酸ナトリウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
【0049】
水硬性粉体
・普通ポルトランドセメント:太平洋セメント株式会社製
・高炉スラグセメント:日鉄高炉セメント株式会社製
【0050】
土壌は、表1に示す泥炭を用いた。泥炭の有機質分量は、日本工学規格JIS A1226:2009で規定される強熱減量法を用いて測定した。また泥炭の土懸濁液のpHは、地盤工学会基準JGS0211-2009で規定される方法によって測定した。
【0051】
【0052】
<実施例、及び比較例>
表1の土壌を用いてソイルセメントを調製し、ソイルセメントに対する評価を以下のように行った。結果を表2に示す。
【0053】
(1)ソイルセメントの調製
まず、セメントミルクを次の手順で調製した。(A)成分又は(A’)成分と、(B)成分と水とを混合して添加剤水溶液を調製し、500mlプラスチックカップ(500mLディスポカップ、ニッコー・ハンセン株式会社)内で添加剤水溶液と水硬性粉体と(C)成分を混合し、ハンドミキサーにて1分間混練してセメントミルクを調製した。
添加剤水溶液を調製するための水は上水道水を用いた。水硬性粉体と添加剤水溶液は、添加剤水溶液/水硬性粉体の質量比が60質量%となるように用いた。添加剤水溶液/水硬性粉体の質量比は、実質的に水/水硬性粉体比に相当する。
(A)成分又は(A’)成分、(B)成分、(C)成分は、水硬性粉体に対する添加量が表2の通りとなるように用いた。
その後、別の500mlプラスチックカップ内に、土壌を投入し、セメントミルクを、表2に記載の注入量となるように投入し(質量比(水硬性粉体/土壌)は0.38)、ハンドミキサーにて3分間撹拌してソイルセメントを調製した。攪拌後、振動を与えて上面を均し、ラップフィルムで封をして所定時間まで22℃で静置した。
【0054】
(2)評価
調製したソイルセメントを用いて得た地盤改良体の強度を次の方法で評価した。ソイルセメントを、型枠(直径50mm×高さ100mm)に充填した。充填は、テーブルバイブレータで30秒の2層詰めとした。供試体は2本作製した。前記で得た供試体の硬化体(地盤改良体)の20℃気中7日強度を、一軸圧縮試験機により測定した。表2には、2本の供試体の強度の平均値を7日強度として示した。
【0055】
【0056】
表2中、7日強度が0と表記されている比較例は、ソイルセメントが硬化しないことにより型枠から脱型できなかったため、強度を測定しなかった。
【0057】
<参考例>
上記の(A)成分に加えて、参考例で用いた(A’)成分を以下に示す。
・酸化ケイ素(5):酸化ケイ素(コロイダルシリカ)、累積個数頻度が10%になる時の粒子径(D10)120nm、累積個数頻度が50%になる時の粒子径(D50)160nm、累積個数頻度が90%になる時の粒子径(D90)200nm、日揮触媒化成株式会社製
【0058】
(3)セメントペーストの調製
セメントを次の手順で調製した。(A)成分又は(A’)成分と水とを混合して添加剤水溶液を調製し、500mlプラスチックカップ(500mLディスポカップ、ニッコー・ハンセン株式会社)内で添加剤水溶液と水硬性粉体(普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製))を混合し、ハンドミキサーにて1分間混練してセメントペーストを調製した。攪拌後、振動を与えて上面を均し、ラップフィルムで封をして所定時間まで22℃で静置した。
添加剤水溶液を調製するための水は上水道水を用いた。水硬性粉体と添加剤水溶液は添加剤水溶液中の水分量/水硬性粉体の質量比が60質量%となるように用いた。
(A)成分又は(A’)成分は、水硬性粉体に対する添加量が表3の通りとなるように用いた。
【0059】
(4)評価
調製したセメントペーストの強度を次の方法で評価した。セメントペーストを、型枠(直径50mm×高さ100mm)に充填した。充填は、テーブルバイブレータで30秒の2層詰めとした。供試体は2本作製した。前記で得た供試体の硬化体(地盤改良体)の20℃気中7日強度を、一軸圧縮試験機により測定した。表3には、2本の供試体の強度の平均値を7日強度として示した。
【0060】
【0061】
表2中、泥炭である土壌に、水硬性粉体のみで(A)成分を混合しない比較例1、水硬性粉体と本発明の条件を満たさない粒子群を混合した比較例2では、ソイルセメントを硬化させることができないが、土壌に、水硬性粉体と(A)成分である特定の粒子群を混合した本発明の実施例1~12では、ソイルセメントを硬化させることが出来ることが分かる。
一方、表3の結果の通り、土壌を含まないセメントペーストに粒子群を添加した場合、本発明の条件を満たさない粒子群を添加した場合でも7日強度を向上させることができることが分かる。このように、本発明は、土壌と水硬性粉体を含むソイルセメントに対して、特定の条件を満たす粒子群を添加することで、ソイルセメントの硬化強度が向上できることを見出した発明であることが分かる。