(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】油中水型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/25 20060101AFI20230621BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230621BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20230621BHJP
A61K 8/29 20060101ALI20230621BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20230621BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230621BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230621BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20230621BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20230621BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20230621BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
A61K8/25
A61K8/06
A61K8/19
A61K8/29
A61K8/36
A61K8/73
A61K8/81
A61K8/891
A61Q1/02
A61Q17/04
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2020511066
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019013919
(87)【国際公開番号】W WO2019189719
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2018063662
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】福原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】依田 幸枝
(72)【発明者】
【氏名】小河 頌子
(72)【発明者】
【氏名】日吉 淳也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 俊
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-095636(JP,A)
【文献】特開2006-342140(JP,A)
【文献】特表2017-508441(JP,A)
【文献】特開2003-055143(JP,A)
【文献】特開2011-256154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-99
A61Q1/00-90/00
B01J13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)油相、(b)水相、および(c)平均粒径1~
10μmの粉体を含
み、(b)水相を(a)油相中に(c)粉体を用いて乳化したピッカリング乳化化粧料であって、
前記(a)油相と
(b)水相との油水界面と、前記(c)粉体層との接点における当該粉体表面の接線を含む面と前記油水界面とのなす角(三相接触角)が0°より大きく160°未満であり、
前記(b)水相が、
水性増粘剤を含有し、ひずみ0.01~1%における損失弾性率が80Pa以上というレオロジー特性を有する、油中水型乳化
化粧料。
【請求項2】
平均乳化粒径が20μm~200μmである、請求項1に記載の
化粧料。
【請求項3】
前記水性増粘剤が、セルロースナノファイバー、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマー、ポリアクリル酸Naクロスポリマー、および寒天からなる群から選択される、
請求項1または2に記載の
化粧料。
【請求項4】
前記粉体が、合成金雲母
粉末、硫酸バリウム
粉末、セルロース
粉末、シリカ
粉末、炭酸カルシウム
粉末、(メタクリル酸メチル/メタクリル酸PEG/PPG-4/3)クロスポリマー
粉末、タルク
粉末、シリカ被覆(IPDI/ポリ(1,4-ブタンジオール)-14
)クロスポリマー
粉末、セルロース/酸化チタン複合粉末、および前記粉末を疎水化処理した粉末からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項5】
前記疎水化処理が、金属石鹸処理である、
請求項4に記載の
化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中水型乳化化粧料に関する。より詳細には、肌の補正効果に優れる油中水型乳化化粧料であって、界面活性剤に起因するべたつき及び粉末に起因するきしみ感や粉っぽさが無く、サラッと滑らかな使用感を有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション等のメーキャップ化粧料には、シミ、そばかす等の肌の色むらや毛穴等の肌の凹凸を補正する効果を有する酸化チタン等の白色顔料や酸化鉄等の着色顔料が用いられている。製品形態としては、界面活性剤を用いた乳化形態の化粧料が主流であった。しかしながら、界面活性剤を配合した化粧料は、肌に塗布した際にべたつきやぬるつきを生じる、あるいは界面活性剤による皮膚への刺激が問題とされることがあった。
【0003】
近年、界面活性剤を実質的に配合せず、粉末を用いて乳化した乳化物(ピッカリング乳化物)の研究が進み、ピッカリング乳化を用いた水中油型乳化化粧料(特許文献1及び2)、油中水型乳化化粧料(特許文献3)が知られるに至っている。
【0004】
ピッカリング乳化に使用される粉末として、特許文献1では金属酸化物粉末、特許文献2ではシリカ被覆酸化亜鉛等の無機粉末、特許文献3ではポリアルキルシラセスキオキサン固体球状粒子が用いられている。これらの粉末の粒径は、大きくても200nm(とされ(特許文献1及び2)、特許文献3では直径14nm未満の微細粒子が好ましいとされている。これは、乳化物における乳化粒子サイズが乳化剤として使用する粉末の粒径によって変化するため、合一を生じない安定な乳化物とするためには、粉末の粒径を小さくして乳化粒子サイズを小さくする必要があったためと考えられる。しかしながら、粒径の小さい粉末を配合した化粧料は、きしみ感を生じるという大きな問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2001-518111号公報
【文献】特許第5506130号公報
【文献】特許第2656226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の背景技術に鑑みて、本発明は、ピッカリング乳化を用いた油中水型乳化化粧料において、きしみ感の原因となる微小粉末を用いず、優れた乳化安定性と良好な使用感触を両立させた油中水型乳化化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、1~100μmの粒径を有する粉体を用いて使用感を損なうことなくピッカリング乳化するとともに、内水相のレオロジー(粘弾性)特性を調整することによって優れた乳化安定性を持つ油中水型乳化化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(a)油相、(b)水相、および(c)平均粒径1~100μmの粉体を含む油中水型乳化組成物であって、
前記(a)油相と水との油水界面と、前記(c)粉体層との接点における当該粉体表面の接線を含む面と前記油水界面とのなす角(三相接触角)が0°より大きく160°未満であり、
前記(b)水相が、ひずみ0.01~1%における損失弾性率が80Pa以上というレオロジー特性を有する油中水型乳化組成物、並びに前記組成物からなる化粧料に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油中水型乳化組成物は、従来のピッカリング乳化組成物より大きなサイズの粉体を用い、なおかつ内相(水相)のレオロジー特性を調整することにより安定な乳化物としているため、従来技術で見られたような使用時のきしみ感がなく、塗布時にみずみずしく滑らかな感触が得られる。また、配合した粉末がしみやそばかす等の色むらをカバーしながら毛穴等の肌の凹凸を目立たなくすることができ、粉末が毛穴や肌の微細なしわ部分(皮溝等)に落ち込み、却って肌の凹凸を目立たせてしまう現象(毛穴落ち、きめ落ち、ともいう)を引き起こし難い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】三相接触角の測定方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の油中水型乳化組成物(以下「本発明の組成物」ともいう)は、(a)油相、(b)水相、及び(c)平均粒径1~100μmの粉体を含む。
【0012】
(a)油相
本発明の組成物の外相(連続相)となる油相を構成する油分は、特に限定されず、炭化水素油、エステル油、シリコーン油から適宜選択できる。但し、(a)油相と水との油水界面と、後述する(c)粉体層との接点における当該粉体表面の接線を含む面と前記油水界面とのなす角(三相接触角)が0°より大きく160°未満であることを条件として選択される。油分として、シリコーン油、中でも、揮発性の環状シリコーン油および/または直鎖状シリコーン油を配合するのが使用感の点で好ましい。
【0013】
(b)水相
本発明の組成物の内相(分散相)となる水相は、25℃、周波数1Hzの条件下で測定したときの、ひずみ0.01~1%における損失弾性率が80Pa以上というレオロジー特性を有する。レオロジー特性は、特に限定されないが、コーンプレート冶具を備えたレオメーター(例えば、アントンパール(Antonpaar)社のレオメーターMCR-302)を用いて測定することができる。
【0014】
本発明の水相は、上記レオロジー特性の要件を満たしていればよいが、通常は、水及び水性成分から構成される。水性成分として水性増粘剤を含有するのが好ましい。水性増粘剤とは、水溶性または水膨潤性の増粘剤を意味する。
【0015】
本発明で用いられる水性増粘剤は、化粧料等に使用可能な水性増粘剤であれば特に限定されない。例えば、天然又は半合成の水性高分子、合成の水性高分子、水膨潤性粘土鉱物等を挙げることができる。具体例としては以下の通りである。
【0016】
天然又は半合成の水性高分子には、多糖類及びその誘導体(水溶性アルキル置換多糖誘導体を含む)が含まれる。例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)及びその誘導体(例えば、アクリル酸Naグラフトデンプン等)、グリチルリチン酸等の植物系高分子;キサンタンガム、デキストラン、サクシノグリカン、ブルラン等の微生物系高分子等;カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子;メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子(ナノファイバー形態のものを含む);アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子等が挙げられる。
【0017】
合成の水性高分子はイオン性又はノニオン性の水溶性高分子を含み、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)等のビニル系高分子;ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン系高分子;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体共重合系高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミド化合物(例えば、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリメタクリロイルオキシトリメチルアンモニウム、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマー等)、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体等のアクリル系高分子;ポリエチレンイミン、カチオンポリマー等が挙げられる。
【0018】
無機の水膨潤性粘土鉱物としては、例えばベントナイト、ケイ酸AlMg(商品名「ビーガム」)、ラポナイト、ヘクトライト等が挙げられる。
【0019】
上記の水性増粘剤の中で、セルロースナノファイバー、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマー、ポリアクリル酸Naクロスポリマー、および寒天からなる群から選択される水性増粘剤を用いるのが特に好ましい。
【0020】
なお、本発明の一態様では、水性増粘剤としてカルボキシル基を有する吸水性ポリマーを用いる。当該吸水性ポリマーは、カルボキシル基を持つモノマーのホモポリマー又はコポリマー、若しくはそれらの誘導体であって、好ましくは自重の10倍以上、より好ましくは10倍~1000倍、さらに好ましくは10倍~500倍の吸水能力を有する。具体例としては、架橋型又は非架橋のポリアクリル酸ナトリウムを含むポリアクリル酸塩(例えば、カルボマーNa)、アクリル酸ナトリウム(Na)グラフトデンプン等が挙げられる。但し、これらの高吸水性ポリマーを用いる場合、金属石鹸処理粉体以外の粉体と組み合わせて用いると、塗布した後に粉っぽさを感じることがある。
【0021】
本発明の組成物における水性増粘剤の配合量は、(b)水相が前記のレオロジー特性の条件を満たす量であればよい。通常は、(b)水相の全重量に対して0.05~5質量%、好ましくは0.1~4質量%、より好ましくは0.3~3質量%である。
【0022】
(c)粉体
本発明の組成物で用いられる(c) 粉体は、平均粒径1~100μmの粉体であり、前記(a)油相と(b)水相との油水界面と、前記(c)粉体層との接点における当該粉体表面の接線を含む面と前記油水界面とのなす角(三相接触角)が0°より大きく160°未満である。
【0023】
上記の三相接触角は、
図1に示すように、(c)粉体を板状に成形したペレット(粉体層)を底面とする容器(1)を(a)油相を満たし、油相中に水を滴下したとき、(a)油相と(b)水相とから形成される油水界面(11)と粉体層表面(12)とのなす角(θ)として測定することができる。
【0024】
(c)粉体は、化粧料等の分野で従来から配合されている粉末であれば特に限定されない。具体例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化鉄、タルク、マイカ、セリサイト、カオリン、雲母チタン、紺青、酸化クロム、水酸化クロム、シリカ、酸化セリウム等の白色顔料、着色顔料、体質顔料を含む粉末から選択される1種又は2種以上が挙げられる。また、粉末の形状も特に限られず、球状、楕円形状、破砕状等が含まれ、一次粒子の状態であっても、凝集した二次集合体を形成したものでもよい。
【0025】
本発明において特に好ましい粉体としては、限定されないが、例えば、合成金雲母粉末、硫酸バリウム粉末、セルロース粉末、シリカ粉末、炭酸カルシウム粉末、(メタクリル酸メチル/メタクリル酸PEG/PPG-4/3)クロスポリマー粉末、タルク粉末、シリカ被覆(IPDI/ポリ(1,4-ブタンジオール)-14)クロスポリマー粉末、セルロース/酸化チタン複合粉末、および前記粉末を疎水化処理した粉末を例示することができる。
【0026】
粉体表面の疎水化処理は、化粧料等に通常使用されている処理方法が用いられる。例えば、シリコーン処理、シラン処理、有機チタネート処理、有機アルミニウム処理、油剤処理、樹脂処理、フッ素化合物処理、N-アシル化リジン処理、金属石鹸処理などが挙げられる。これらの中でも、金属石鹸処理又はシラン処理が好ましい。
【0027】
金属石鹸とは、脂肪酸等のカルボキシル基含有化合物と2価以上の金属との塩と定義される。ここで、金属石鹸を構成するカルボキシ基含有化合物は、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を持つ脂肪酸、カルボキシル変性シリコーン等を含むが、中でも高級脂肪酸、即ち、炭素数8~24、好ましくは炭素数12~18の直鎖状もしくは分岐鎖状のカルボン酸が好ましい。高級脂肪酸の好ましい具体例としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等が挙げられる。
【0028】
金属石鹸を構成する2価以上の金属としては、限定されないが、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等のアルカリ土類金属、アルミニウム等の3価金属が好ましく例示される。
即ち、表面処理剤として好ましく用いられる金属石鹸の例として、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ジステアリン酸アルミニウム、オレイン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム,ミリスチン酸アルミニウム、ジミリスチン酸アルミニウム、シリコーン金属石鹸(末端カルボキシル基を有するオルガノシロキサン誘導体の2価又は3価の金属塩)等が挙げられる。
【0029】
シラン処理としては、特に、炭素数4~20の範囲のアルキル基(アルキル基の水素原子の一部を他の元素で置換してもよい)を有するアルキルシラン化合物から選ばれる少なくとも1種、例えば、オクチルトリエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン化合物で表面処理するのが好ましい。
【0030】
本発明における粉体は、1~100μmの平均粒径を有することにより、従来のピッカリング乳化に使用されていた微細粉末(平均粒径200nm以下)に起因するきしみ感がなく、サラサラとした心地よい肌ざわりを与える。
【0031】
本発明の組成物における(c)粉体の配合量は、0.1~18質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.5~15質量%、更に好ましくは1~10質量%である。配合量が0.1質量%未満では十分な乳化ができず、18質量%を超えると、塗布後に粉っぽさを感じる場合がある。
【0032】
本発明の組成物は、(b)水相を(a)油相中に(c)粉体を用いて乳化したピッカリング乳化物である。本発明の組成物は、(c)粉体として比較的大きなサイズの粉体を用いることにより、乳化粒子(水相)のサイズも従来のピッカリング乳化物より大きくすることができる。例えば、本発明の組成物における平均乳化粒径は、10μm~200μm、あるいは20μm~200μmとすることができる。このような大きな乳化粒子を有することにより、肌に塗布した際にみずみずしい感触を与えることができる。
【0033】
本発明の組成物に(d)シリコーンエラストマーを油相ゲル化剤として配合すると、粉っぽさの抑制及びみずみずしさの向上効果が更に顕著になる。
【0034】
本発明における(d)シリコーンエラストマーとしては、架橋型又は非架橋型のシリコーン樹脂粉末(エラストマー)が使用できる。中でも、乳化能を有するポリエーテル変性シリコーンエラストマーが好ましい。
【0035】
架橋型で非乳化性のシリコーンエラストマーとしては、例えば、(ジメチコン/フェニルビニルジメチコン)クロスポリマー、(ジメチコン/ビニルジメチコン/メチコン)クロスポリマー、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー、ジメチコンクロスポリマー、(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/シルセスキオキサン)クロスポリマーなどの架橋型シリコーン樹脂粉末の一種または二種以上が挙げられる。
【0036】
乳化能を有するシリコーンエラストマー(シリコーン系界面活性剤ともいう)としては、シリコーン骨格にポリオキシアルキレン構造を導入したポリエーテル変性シリコーンが好ましく用いられる。例えば、シリコーン鎖をポリオキシアルキレン鎖で架橋した架橋物、シリコーン鎖に側鎖としてポリオキシアルキレン基を導入した側鎖型のポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
【0037】
乳化能を有するシリコーンエラストマーの具体例は、PEG-10ジメチコン、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-15ポリジメチルシロキシエチルジメチコン等のポリエーテル変性シリコーン、(ジメチコン/(PEG10/15))クロスポリマー、(ジメチコン/ポリグリセリン-3)クロスポリマー等の架橋型ポリエーテル変性シリコーンを含み、これらの一種又は二種以上を混合して配合することもできる。
【0038】
本発明のシリコーンエラストマーは、乳化能の有無に依らず、エラストマーと溶媒とからなるシリコーンゲルの状態で配合してもよい。このようなシリコーンゲルは市販品を使用することができ、例えば、KSG-18A、KSG-16、KSG-15AP(以上、信越化学工業(株)製)、エラストマーブレンドDC9045、EL-7040(東レ・ダウコーニング社製)、KSG-210、KSG-710、KSG-360Z(以上、信越化学工業(株)製)等が例示される。
【0039】
本発明の化粧料における(d)シリコーンエラストマーの配合量は、通常は0.1~30質量%、好ましくは2~10質量%、より好ましくは3~8質量%である。配合量が0.1質量%未満であるとシリコーンエラストマー配合の効果が得られず、30質量%を超えて配合すると却ってみずみずしさが失われることがある。
【0040】
本発明の組成物は、上述したような優れた使用感触を有するため、ファンデーション等のメーキャップ化粧料とするのに特に適したものである。従って、本発明は、リキッドファンデーション、化粧下地、BBクリーム、CCクリーム、クッションファンデーション等の形態の化粧料で提供するのが好ましい。一方、肌補正効果を有するサンスクリーンや乳液等のスキンケア化粧料としても提供できる。
【0041】
上記の化粧料は、油中水型乳化化粧料に配合可能な他の任意成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で含有していてもよい。他の任意成分としては、限定されないが、例えば、他の粉末成分((c)成分以外)、アルコール類、多価アルコール、色素、pH調整剤、保湿剤、界面活性剤、分散剤、安定化剤、着色剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、香料等が挙げられる。
【0042】
本発明の化粧料は、油中水型乳化化粧料の常法に従って製造することができる。即ち、必要に応じて加熱しながら別途調製した油相成分に水相成分と粉末を攪拌乳化させることによって製造できる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される組成物全量に対する質量%で示す。
【0044】
以下の表1に示す処方で油中水型のピッカリング乳化組成物を調製した。水相として使用した水性増粘剤水溶液の特性は表2に示すとおりである。また、調製した乳化物の乳化状態及び平均乳化粒径も表2に併記する。ここで、乳化状態は以下の基準に従って評価した。
A:安定な乳化粒子を形成し、合一及び離水を認めない。
B:乳化粒子を形成するが、わずかな合一又は離水が認められる。
C:乳化粒子を形成しない(調製直後に増粘剤水溶液が分離又は凝集する)。
【0045】
【0046】
【0047】
表2に示すように、水相(水性増粘剤水溶液)の損失弾性率が80Pa未満であると安定な乳化粒子が形成されない。一方、損失弾性率は80Pa以上の水性増粘剤水溶液を水相として用いると安定な乳化が可能であり、その乳化粒径は20~200μmの範囲内となった。
【0048】
次に、水相として2質量%のセルロースナノファイバー水溶液(損失弾性率=175Pa)を用い、粉体(表4)を各種変更して油中水型のピッカリング乳化組成物(表3)を調製し、それらの乳化状態及び乳化粒径を測定した。
【0049】
【0050】
【0051】
表4に示すように、三相接触角が160°未満となる粉体を用いた場合には安定性の良好な乳化粒子が形成され、それらの乳化粒径は20~200μmの範囲内であった。しかし、三相接触角が160°以上となる粉体では安定な乳化をすることができなかった。
【0052】
下記の表5に示す処方で油中水型のピッカリング乳化化粧料を調製した。各例の乳化状態を上記の通り評価した後、各例の化粧料を専門パネルの肌に塗布してもらい、塗布中のみずみずしさ、きしみ感のなさ、塗布後の粉っぽさのなさについて以下の基準に従って評価した。
A:優れている
B:普通
C:劣っている
【0053】
【0054】
表5に示すように、損失弾性率が80Paに満たない(28.6Pa)の水性増粘剤水溶液を水相とした比較例1は安定な乳化物を形成することができなかった。一方、三相接触角が45°であり本発明の要件を満たすシリカを用いても、その粒径が1μm未満であると塗布時にきしみ感があった(比較例2)。それらに対して、本発明の要件を満たす実施例1~3は、塗布中にみずみずしさを感じ、きしみ感がない化粧料となった。但し、粉体の配合量が18質量%を超える実施例2は塗布後に粉っぽさが残り、吸水性ポリマーであるポリアクリル酸Naクロスポリマーを金属石鹸処理されていない粉末と組み合わせた実施例3でも塗布後の粉っぽさが生じた。
【符号の説明】
【0055】
(a):油相;(b):水相;(c):粉体層;1:容器;11:油水界面;12:粉体層表面