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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】高反応性ガスの吸着剤による安定化
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230621BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20230621BHJP
   C01B 32/354 20170101ALI20230621BHJP
   C01B 6/06 20060101ALI20230621BHJP
   C01B 6/10 20060101ALI20230621BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20230621BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20230621BHJP
   C07C 63/15 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01J20/20 B
C01B32/354
C01B6/06
C01B6/10
C08L101/12
F17C11/00 A
C07C63/15 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020517111
(86)(22)【出願日】2018-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 US2018052404
(87)【国際公開番号】W WO2019060818
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】62/562,718
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516037501
【氏名又は名称】ヌマット テクノロジーズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】トム,グレン エム.
(72)【発明者】
【氏名】シウ,ポール ウェイ-マン
(72)【発明者】
【氏名】アルノ,ホゼ
(72)【発明者】
【氏名】ファーハ,オマール ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ヴァープローフ,ロス
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-533881(JP,A)
【文献】米国特許第05993766(US,A)
【文献】特開昭47-027181(JP,A)
【文献】特開2011-099562(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0034500(US,A1)
【文献】特開平11-082891(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0203277(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0008392(US,A1)
【文献】特開2000-210559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
C01B 32/00-32/991
C01B 3/00-6/34
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
F17C 1/00-13/12
C07B 31/00-61/00,63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)に吸着させる方法であって、
前記高反応性ガスの初期量を前記MOFと反応させることであって、前記高反応性ガスが、アルシン(AsH )、スチビン(SbH )、ホスフィン(PH )、ボラン(BH )、ジボラン(B )、ハロゲン化物、ゲルマン、ジゲルマン、シラン、ジシラン、ヒドラジン、及び三フッ化窒素の一又は複数より選択され、前記高反応性ガスの前記初期量が、最初の吸着サイクルにおいて前記MOFを不活性化し、それにより、後続の吸着サイクル中の吸着された高反応性ガスの分解速度が、前記最初の吸着サイクル中の前記吸着された高反応性ガスの分解速度より遅くなり、
前記初期量に続いて、前記高反応性ガスの追加の量を前記MOFに吸着させることと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記初期量に続いて前記高反応性ガスを前記MOFに吸着させる前に、前記高反応性ガスの前記初期量と前記MOFとの反応により形成された副産物を除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MOFの不活性化を加速するために、温度または圧力のうちの少なくとも一方を上昇させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)に吸着させる方法であって、
前記高反応性ガスを前記MOFに供給することを含み、前記高反応性ガスが、アルシン(AsH )、スチビン(SbH )、ホスフィン(PH )、ボラン(BH )、ジボラン(B )、ハロゲン化物、ゲルマン、ジゲルマン、シラン、ジシラン、ヒドラジン、及び三フッ化窒素の一又は複数より選択され、前記高反応性ガスおよび前記MOFは、同じ温度および同じ体積負荷での純高反応性ガスの分解速度と比較して前記高反応性ガスの分解速度を遅くさせる不安定なルイス酸-塩基付加物を形成する、方法。
【請求項5】
前記高反応性ガスが、電子供与体ルイス塩基として作用する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記ルイス塩基が、1~3個の非炭素原子を有する5または6員環から選択される複素環式分子である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記高反応性ガスが、電子受容体ルイス酸として作用する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)に吸着させる方法であって、前記高反応性ガスが、アルシン(AsH )、スチビン(SbH )、ホスフィン(PH )、ボラン(BH )、ジボラン(B )、ハロゲン化物、ゲルマン、ジゲルマン、シラン、ジシラン、ヒドラジン、及び三フッ化窒素の一又は複数より選択され、前記方法が、
前記MOFの部分との反応により副産物を生成することが可能な不活性化流体であって、前記高反応性ガスとは異なる不活性化流体を反応させることであって、前記不活性化流体が前記MOFを不活性化し
記高反応性ガスを前記不活性化MOFに吸着させ、それにより吸着された高反応性ガスおよび純高反応性ガスの両方に対して等しい体積負荷および等しい温度で、吸着された高反応性ガスの分解速度が、純高反応性ガスの分解速度よりも遅くなることと、を含む、方法。
【請求項9】
前記高反応性ガスを前記MOFに吸着させる前に、前記不活性化流体と前記MOFとの反応により形成された副産物を除去することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記MOFの不活性化を加速するために、温度または圧力のうちの少なくとも一方を上昇させることをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記不活性化流体が、酸化剤または還元剤を含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化剤が、酸素、塩素、フッ素、または過酸化水素を含み、
前記還元剤が、水素、アンモニア、または二酸化硫黄を含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性を提供し、ガス分解の速度およびその場での不純物生成を低下させる、高反応性ガスの吸着ベースの貯蔵を対象とする。例として、実施形態は、アルシン(AsH)、ホスフィン(PH)、スチビン(SbH)、ボラン(BH)、ジボラン(B)、ハロゲン化物、ゲルマン、ジゲルマン、シラン、ジシラン、ヒドラジン、および三フッ化窒素を含む高反応性ガスの安定化を対象とする。
【背景技術】
【0002】
現在、高反応性ガスは、分解、爆発、または爆燃を軽減するために、希釈濃度での貯蔵または極低温での貯蔵を必要とする。希釈は、最も頻繁に好まれる貯蔵方法であり、バルク水素中に貯蔵される5%ジボランの場合のように希釈ガス混合物を使用することによるか、またはゲルマンもしくはジゲルマンのように低圧でのガス貯蔵により達成され得る。高反応性ガスの希釈の結果として、高反応性ガスの体積負荷が制限される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一実施形態は、高反応性ガスを吸着材料に吸着させることを含む、高反応性ガスを吸着材料に吸着させる方法に関する。吸収材料は、少なくとも1つのルイス塩基性官能基、または高反応性ガスの単一分子を保持するサイズの細孔、または高反応性ガスと同時に、高反応性ガスを吸着させる前に、もしくは高反応性ガスを吸着させた後に吸着材料に供給される不活性部分、または吸着材料の部分と反応し、吸着材料の不活性化を引き起こす高反応性ガスを含む。吸着された高反応性ガスおよび純ガスの両方に対して等しい体積負荷および等しい温度での吸着された高反応性ガスの分解速度は、純ガスの分解速度よりも遅い。
【0004】
別の実施形態は、高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)上に吸着させる方法に関し、その方法は、高反応性ガスをMOFに供給することを含み、ガスおよびMOFは、同じ温度および同じ体積負荷での純高反応性ガスの分解速度と比較して高反応性ガスの分解速度を遅くさせる不安定なルイス酸-塩基付加物を形成する。
【0005】
別の実施形態は、高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)上に吸着させる方法に関し、その方法は、高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)に供給することを含み、MOFの細孔は、高反応性ガスの1つの分子を保持するサイズである。
【0006】
別の実施形態は、高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)上に吸着させる方法に関し、その方法は、高反応性ガスの初期量をMOFと反応させることであって、高反応性ガスの初期量が最初の吸着サイクル中にMOFを不活性化し、それにより、後続の吸着サイクル中の吸着されたガスの分解速度が最初の吸着サイクル中の吸着されたガスの分解速度よりも遅くなる、反応させることと、高反応性ガスの追加量を初期量に続いてMOFに吸着させることと、を含む。
【0007】
別の実施形態は、高反応性ガスを金属有機構造体(MOF)上に吸着させる方法に関し、その方法は、高反応性ガスとは異なる流体を吸着材料と反応させることであって、流体が吸着剤を不活性化し、それにより、吸着されたガスおよび純ガスの両方に対して等しい体積負荷および等しい温度で、反応性吸着ガスの分解速度が、純ガスの分解速度よりも遅くなる、反応させることと、高反応性ガスをMOFに吸着させることと、を含む。
【0008】
別の実施形態は、高反応性ガス用のガス貯蔵および分配装置に関し、容器と、容器内に配置された吸着材料とを備える。吸収材料は、少なくとも1つのルイス塩基性官能基、高反応性ガスと化学的に反応しない不活性部分、または高反応性ガスの単一分子を保持するサイズの細孔、または高反応性ガスと反応し、吸着材料の不活性化を引き起こす部分を含む。
【0009】
別の実施形態は、高反応性ガスを吸着材料上に吸着させる方法に関し、その方法は、高反応性ガスを吸着材料に吸着させることと、高反応性ガスと同時に、高反応性ガスを吸着させる前に、または高反応性ガスを吸着させた後に不活性部分を吸収材料に吸着させることと、を含む。吸着された高反応性ガスおよび純ガスの両方に対して等しい体積負荷および等しい温度で、吸着された高反応性ガスの分解速度は、純ガスの分解速度よりも遅い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ジボラン濃度の関数としてのジボランの分解のグラフである。
図2】ジボランのファンデルワールス幾何学の球棒モデルである。
図3】完全に吸着されたジボランの安定性を細孔径の関数として示したグラフである。
図4】温度の関数として測定された、吸着されたアルシンの分解のグラフである。
図5A】ジボランを安定させるに好ましい細孔径を有するいくつかの金属有機構造体(MOF)の球棒の図である。
図5B】ジボランを安定させるに好ましい細孔径を有するいくつかの金属有機構造体(MOF)の球棒の図である。
図5C】ルイス塩基基を有するMOFの球棒の図である。
図6A】他の金属有機構造体(MOF)の結晶構造の球棒の図である。
図6B】他の金属有機構造体(MOF)の結晶構造の球棒の図である。
図6C】他の金属有機構造体(MOF)の結晶構造の球棒の図である。
図6D】他の金属有機構造体(MOF)の結晶構造の球棒の図である。
図6E】他の金属有機構造体(MOF)の結晶構造の球棒の図である。
図7】スチレンからの重合生成物およびBで充填された架橋剤からなるPOPに関する試料セルの圧力の経時変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
高反応性ガスは、衝撃、高圧、または高温で自然に分解するガスの分類として定義され得る。これらのガスには、アルシン(AsH)、スチビン(SbH)、ホスフィン(PH)、ボラン(BH)、ジボラン(B)、ハロゲン化物、ゲルマン、ジゲルマン、シラン、ジシラン、ヒドラジン、または三フッ化窒素が含まれ得る。例えば、半導体製造でドーパントとして広く使用されるジボランは、周囲温度で容易に分解および反応して、BおよびB1014、ならびに水素ガスなどの高次ボランを形成する高反応性分子である。その結果、純ジボランは、通常、固有の熱分解を遅らせるために、かなりの冷却(<-75℃)下で出荷および貯蔵される。別の分解軽減方法は、ジボランを、典型的には5体積%以下のBに水素または窒素で希釈することにより、貯蔵することを含む。様々なジボラン濃度での推定されたジボラン濃度対時間のプロットである図1に示されるように、ジボランの濃度が増加すると、ジボランの分解が増加する。分解を軽減するために必要な希釈の結果として、エンドユーザー向けのより高次のジボラン混合物をカスタマイズする能力と同様に、貯蔵能力が失われる。
【0012】
一実施形態では、高反応性ガスは、多孔質材料上に吸着される。吸着の結果、高反応性ガスの分解速度は、同様の体積負荷および同様の温度で、純高反応性ガスの分解速度よりも遅い。実際には、高反応性ガスの吸着は、固有の分解を安定させ、軽減するように作用する。この効果は、様々な温度での推定されたアルシン圧力変化対時間の関数として図4に示されるように、吸着されたアルシンの分解の相対速度で示される。アルシンは、以下の式1に従って、ヒ素および水素に熱分解する。
【数1】
【0013】
5.5mmol/mLのバルク密度および25℃でのアルシン分解の活性化エネルギーは、吸着されたアルシンおよび純アルシンに対してそれぞれ150kJ/molおよび134kJ/molである。
【0014】
好ましい実施形態では、使用される吸着剤の種類は、金属有機構造体(MOF)である。MOFは、ゼオライトまたは活性炭によく似たソーベントのクラスである。ただし、MOFは、図5A図5Cおよび図6A図6Eに示されるように、金属ノードおよび有機リンカーで構成される。本明細書で説明される様々な実施形態では、図5A図5Cおよび図6A図6EのMOFが使用され得るか、または任意の他の適切なMOFが使用され得る。金属ノードと有機リンカーとの組み合わせは、ほぼ無数の種類の可能な構造の膨大な配列を提供する。例えば、図5A図5Cに示されるMOFを使用して、B(または他の反応性ガス)を安定させてもよく、図6A図6D、および図6Eに示されるMOFを使用して、他の反応性ガスを安定させてもよい。他の実施形態では、活性(すなわち、多孔質)炭または多孔質有機ポリマー(POP)などの他の吸着剤が使用されてもよい。
【0015】
一実施形態では、吸着材料は、少なくとも複数の有機モノマーからの重合生成物を含み、かつ少なくとも複数の結合有機反復単位を含む多孔質有機ポリマー(POP)を含む。代替の実施形態では、吸着材料は、多孔質炭素を含む。しかしながら、好ましい実施形態では、吸着材料は、MOFを含む。
【0016】
第1の実施形態では、MOF中のガス貯蔵部位上のルイス酸またはルイス塩基が供給される。特に、有機リンカーの調整可能性により、MOFまたはPOPまたは活性炭の吸着表面に、様々なルイス酸性および/またはルイス塩基性官能基を含めることが可能となる。一実施形態では、MOF、POP、または活性炭は、1つ以上のルイス塩基性官能基を含み、高反応性ガスは、ルイス酸として作用する。この実施形態では、MOF中のルイス塩基性官能基は、電子を高反応性ガスに供与し、配位結合を形成し、それにより高反応性ガスを安定させる。ルイス塩基性官能基には、任意の形態または種類のアミン、アミド、イミン、アゾ基、アジド、エーテル、カルボニル、アルコール、アルコキシド、チオール、チオレート、イソチオシアネート、スルフィド、サルフェート、サルファイト、スルホキシド、スルホン、ジスルフィド、ニトリル、イソニトリル、カルボン酸塩、ニトロ基、リン酸塩、ホスフィン、ホスフィン酸塩、ホウ酸塩、ハロゲン化物、芳香族基(複素環など)アルキン、またはアルケンが含まれ得るが、これらに限定されない。例示的な複素環(すなわち、複素環式分子)は、環上のP、Se、Sb、N、S、Bi、O、またはAsのうちの1つ以上から選択される1、2、または3個の非炭素原子を有する5または6員環を含む。
【0017】
均一で適切に配置されたルイス酸性および/またはルイス塩基性官能基の追加により、高反応性ガスの安定化が可能になる。これは、ジボランの場合である。MOF、POP、または活性炭貯蔵部位上にルイス塩基が存在する場合、ジボランは、ホモリティックに2つのボラン分子に開裂し、未開裂のジボラン分子よりも安定している2つのルイス酸-ルイス塩基対を形成する。これは、BH・THF(テトラヒドロフラン)などのボラン付加物で観察され、これは通常、分解を軽減するために0~50℃で貯蔵される液体である。同様に、金属有機構造体の官能化表面に形成されたボラン付加物は、ジボラン前駆体の分解速度を遅くさせる。温熱および/または真空を含む外部刺激にさらされると、ボラン付加物は、開裂し、ボランが再結合してジボランを形成し、ジボランは、ソーベントから放出または脱着される。図5Cは、ルイス塩基を含有する、BDCがベンゼンジカルボキシレートである、例示的なMOF Zn(O)(BDCNHを示す。
【0018】
別の実施形態では、吸着された高反応性ガスの安定化は、分子分離によって達成される。この実施形態では、MOF、POP、または活性炭は、反応性ガスの最大で1つの分子を保持する少なくともいくつかの細孔を有するように設計される。すなわち、MOF、POP、または活性炭の細孔の少なくともいくつかは、反応性ガス分子の直径より大きく、反応性ガス分子の直径の2倍より小さい、例えば反応性ガス分子の直径の1.1~1.5倍である細孔径を有する。MOFの結晶性を考えると、細孔径は、高反応性ガスの1つの分子のみを収容するように正確に調整され得る。収容、例えば、ジボランの単一分子は、ジボランの安定化をもたらす。上記のように、ジボランは、熱分解し、他のジボラン分子と反応して、高次ボラン化合物および水素ガスを形成する(以下の式2および図1を参照)。
【数2】
【0019】
ジボラン分子を隔離することにより、化学衝突が減少し、ジボラン分解の速度が低下する。ジボランのファンデルワールス直径は、3.6Åであるが、図2に示されるように、ジボランの幅は、おおよそ3.0Åである。ジボランのサイズの結果として、吸着されたジボランの安定性は、ジボランが吸着剤の細孔を完全に充填する細孔径の関数としての概念図として図3に示される。図3に示されるように、細孔径が増加するにつれて、高反応性ジボランガスの安定性が増加する。最大の安定性は、細孔径が約5Åであると推定される。細孔径が7.2Åを超えて大きくなると、細孔は、複数のジボラン分子を収容する場合があるため、安定性が低下する。したがって、ジボランの好ましい細孔径は、4~6Åである。適切な細孔径を有するMOFの例には、図5Aおよび図5Bに示される、Mn(BDC)およびMg(ピラゾールジカルボキシレート)のMOFが含まれる。
【0020】
別の実施形態では、吸着された高反応性ガスの安定性は、吸着材料が不活性化された後に増加する。一実施形態では、これは、吸着材料を高反応性ガスで処理して、吸着材料中の感受性部分を調整し、吸着剤の高反応性ガスに対する反応性を低くすることにより達成される。この方法は、最初の吸着サイクル中に、MOF、POP、または活性炭と高反応性ガスの初期量を反応させて、MOF、POP、または活性炭を不活性化することと、続いて、高反応性ガスの、MOF、POP、または活性炭との反応により形成された不活性化副産物を、MOF、POP、または活性炭の感受性部分と共に除去することと、を含む。不活性化副産物を除去した後、この方法は、MOF、POP、または活性炭中にガスを貯蔵するために、初期量に続いて追加の高反応性ガスをMOF、POP、または活性炭に吸着させることを含む。一実施形態では、不活性化反応を促進するために、高温(例えば、室温より高い)および/またはより高い圧力(例えば、1気圧より高い)が使用され得る。
【0021】
感受性部分の例には、1)開放金属配位部位、カルボン酸部位、または酸性クラスター部位などの酸性部分、2)アミン、組み込まれた金属、シュウ酸、ギ酸、または亜リン酸塩などの還元剤、および3)酸素化クラスター、金属酸化物、または過酸化物などの酸化剤、が含まれ得るが、これらに限定されない。感受性部分が不活性化されると、高反応性ガスおよび他の潜在的な不純物が脱着される。後続の高反応性ガス吸着サイクルの後、感受性吸着部分の不活性化のため、分解速度が遅くなる。
【0022】
代替の実施形態では、不活性化は、貯蔵に使用される反応性ガスではなく、異なる流体、例えば、強力な酸化剤(酸素、塩素、フッ素、または過酸化水素などであるがこれらに限定されない)または還元剤(水素、アンモニア、二酸化硫黄などであるがこれらに限定されない)を使用することにより達成され得る。この方法は、高反応性ガスとは異なる流体(例えば、ガス)を吸着材料と反応させて、吸着剤を不活性化することと、その後に、高反応性ガスを吸着材料に吸着させることと、を含む。所望の濃度、圧力、および温度の選択を使用して、反応速度を調整することができる。反応速度の調整を使用して、所望の不活性化時間を達成するか、またはMOF、POP、もしくは活性炭を望ましくないほど劣化させる過剰反応を防止してもよい。不活性化流体は、容易に除去され得る感受性部分を有する反応副産物を生成するその能力に基づいて選択することが好ましい。MOF、POP、または活性炭が不活性化されると、反応性流体およびいかなる反応副産物も容器から除去される。一実施形態では、副産物の除去は、真空の適用および/または熱の適用によって支援されてもよい。副産物を除去した後、容器に高反応性ガスを充填して、MOF、POP、または活性炭にそれを吸着させ得る。
【0023】
一例として、低濃度(5体積%)のフッ素ガスが、MOFを含有する容器内に1気圧の圧力で導入されてもよい。フッ素ガスは、強力な酸化剤であり、MOF表面に存在する反応性C-OH部分と反応して、HFおよびOFのガス状反応生成物を生成し、MOF C-OH部位をより安定したCF結合に置き換える。
【0024】
別の実施形態では、MOF、POP、または活性炭などの吸着材料中の高反応性ガスの分子隔離は、反応性ガスに加えて、不活性部分を吸着材料の細孔に供給することにより達成される。本明細書で使用される場合、不活性部分は、高反応性ガスと化学的に反応しない原子または分子である。本明細書で使用される場合、「部分」は、同じ組成または異なる組成を有する複数の原子または分子を意味する。
【0025】
一実施形態では、不活性部分は、ファンデルワールス力により細孔内に(例えば、その上に)吸着される。好ましくは、不活性部分は、吸着材料に化学的に結合しない。
【0026】
不活性部分は、吸着された高反応性ガスの反応性および高反応性ガスとの化学反応の欠如に基づいて選択される。例として、ジボランに対する不活性部分の例には、水素、ヘリウム、窒素、ヘキサンなどの炭素および水素原子のみを含む脂肪族アルカン、ならびにベンゼンなどの炭素および水素原子のみを含む芳香環が含まれ得るが、これらに限定されない。ファンデルワールス力に加えて、いくつかの不活性部分(例えば、不活性分子)が、毛管凝縮のために空間を充填する場合がある。
【0027】
特定の理論に縛られることを望まないが、本発明者らは、吸着材料の細孔内の不活性部分の存在が、高反応性ガス分子間(例えば、ジボラン分子間)での化学的衝突を減少させ、高反応性ガスの分解速度が低下すると考える。言い換えれば、不活性部分(例えば、ヘリウム原子)は、高反応性ガス分子(例えば、ジボラン分子)の動きを制限すると考えられる。
【0028】
特定の理論に縛られることを望まないが、本発明者らは、不活性部分の存在が高反応性ガスの解離の自由エネルギーを増加させ、それが、高反応性ガスの分解速度を低下させると考える。例えば、密度汎関数理論(DFT)から計算されたエネルギーを用いたバイアスBorn-Oppenheimer分子動力学(BOMD)シミュレーションを使用して、吸着材料の細孔内でのジボランのボランへの解離に必要な自由エネルギーを計算することができる(方程式3)。
【数3】
【0029】
これは、ジボランの熱分解における最初のステップであり、より高い自由エネルギー障壁は、より遅い分解速度をもたらすであろうと考えられる。ヘリウム分子などの不活性部分をMOFなどの吸着材料に導入すると、同じ吸着材料に吸着されたジボランのみと比較して、ジボランを解離するために必要な自由エネルギーが10~20kJ/mol増加すると考えられる。
【0030】
高反応性ガスおよび不活性部分は、任意の順序で吸着材料に追加されてもよい。一実施形態では、高反応性ガスは、例えば、高反応性ガスに対する吸着材料の最大吸着能力まで吸着材料に最初に供給され、その後、不活性部分が吸着材料に供給される。しかしながら、他の実施形態では、高反応性ガスおよび不活性部分は、同時に吸着材料に供給されるか、または高反応性ガスの前に不活性部分が吸着材料に供給される。
【0031】
一実施形態では、吸着材料の細孔の少なくともいくつかの細孔径は、先の実施形態に記載されるように、高反応性ガスの1つの分子および1つ以上の不活性部分(例えば、1つ以上のヘリウム原子)のみに適合するように選択される。
【0032】
上記の実施形態の1つ以上において、吸着材料に貯蔵された(例えば、吸着された)高反応性ガスは、少なくとも1つのルイス塩基を含有し、1つの高反応性ガス分子のみに適合するサイズである少なくともいくつかの細孔を含有し、不活性化され、および/または不活性部分で充填され、純高反応性ガスよりも経時的に低い圧力変化を示す。例えば、吸着材料に貯蔵された(例えば、吸着された)高反応性ガスは、同じ(すなわち、等しい)温度(例えば、室温)、同じ(すなわち、等しい)体積負荷、および同じ(すなわち、等しい)初期圧力で8日間にわたり、同じ純高反応性ガスより少なくとも50%、例えば50%~200%低い圧力変化(例えば、圧力の増減)を示す。
【0033】
一実施形態では、上述の吸着材料に貯蔵された(例えば、吸着された)高反応性ガスは、8日間にわたり、初期圧力から0%~25%などの25%未満、例えば5%~20%の圧力変化を有する。別の実施形態では、上述の吸着材料に貯蔵された(例えば、吸着された)高反応性ガスは、室温で少なくとも8日間、例えば8~14日間にわたって圧力の増加を示さない。
【0034】
非限定的な一例では、圧力変換器および隔離弁を備えたステンレス鋼の試料セルに、スチレンとジビニルベンゼン架橋剤との重合生成物を含むPOPを装填した。POPは、1つのジボラン分子のみに適合するサイズである少なくともいくつかの細孔を含むと考えられる。さらに、スチレンPOP前駆体は、芳香族ルイス塩基として挙動すると考えられるフェニル基を供給する。周囲温度(22℃)で18.6psiaまで容器をBで充填し、POP1mLあたり1.4mmolのBの体積負荷を得た。図7に示されるように、試料セルをB源から分離し、試料圧力を経時的に監視した。有効な圧力変化は、1月目1日目で0.6psiaであると決定され、これは、純B試料の圧力変化(1月目1日目で1.6psia)よりも低かった。より低い圧力変化は、ルイス塩基、および1つのジボラン分子のみに適合するサイズである少なくともいくつかの細孔を含有するPOPに貯蔵されたジボランのより少ない分解の証拠であると考えられる。
【0035】
上記は、特定の好ましい実施形態について言及しているが、本発明は、それらに限定されないことが理解されるであろう。開示された実施形態に対して様々な修正を行うことができ、そのような修正が本発明の範囲内にあることを意図することは、当業者に思い浮かぶであろう。本明細書に引用された刊行物、特許出願、および特許はすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7