(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】低金属濃度の工業廃水から金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20230101AFI20230621BHJP
C02F 1/64 20230101ALI20230621BHJP
C02F 1/70 20230101ALI20230621BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20230621BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20230621BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20230621BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230621BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/64 Z
C02F1/70 A
C22B3/46
C22B3/22
C22B3/24
C22B3/44 101Z
C22B7/00 Z
(21)【出願番号】P 2020554144
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2019058383
(87)【国際公開番号】W WO2019193042
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】102018107923.0
(32)【優先日】2018-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512240154
【氏名又は名称】ヘルムホルツ-ツェントルム・ドレスデン-ロッセンドルフ・アインゲトラーゲナー・フェアアイン
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ジャイン・ロハン
(72)【発明者】
【氏名】ポールマン・カトリーン
(72)【発明者】
【氏名】レーマン・ファルク
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0065940(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0228103(US,A1)
【文献】国際公開第2018/032115(WO,A1)
【文献】特開2008-214551(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0325740(US,A1)
【文献】特開2012-017512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
C02F 1/28
C02F 1/42
C02F 1/70
C22B 1/00-61/00
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業廃水から非鉄金属を回収する方法であって、
A:シデロホアを工業廃水に加えることによる、回収すべき金属の錯化、
B:金属シデロホア錯体の分離、
C:金属シデロホア錯体からの金属の放出、
D:金属の分離、
E:シデロホアの回収、及び
F:シデロホアの分離、
を含
み、
及び
ステップCにおいて、Fe(III)イオンの添加及びFe(III)-シデロホア錯体の形成による金属-シデロホア錯体からの金属の放出を行い、及び
ステップEにおいて、還元剤の及び/またはキレート剤の添加によるシデロホアの回収を行う、あるいは
ステップCにおいて、キレート剤の添加による金属-シデロホア錯体からの金属の放出を行い、それによって、金属-キレート剤錯体が形成し、及び
ステップDにおいて、前記金属が金属-キレート剤錯体として分離し、
及び
前記シデロホアが、デフェロキサミンB(DFO-B)、デフェロキサミンE(DFO-E)、マリノバクチン、アクアケリン、アンフィバクチン、オクロバクチン及びシネコバクチン及びそれらの塩から選択される、
前記方法。
【請求項2】
前記還元剤が、H
2SO
3、アスコルビン酸及びそれらの塩から選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属が、Ga、In、Sc、Pu、Co、Ge、V、Al、Mn、Th、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Bk、Eu、Dy、Pa、Gd、Yb、Ce、La、Rh、Tl、Bi及びPdから選択される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
分離ステップB、D及びFのうちの少なくとも一つにおいて、分離のための方法が、
・クロマトグラフィ法、
・固定相抽出、
・析出、
・濾過及び/またはナノ濾過、
・キャリア材料上へのシデロホアの不動化、
・発泡と泡の収集による金属-シデロホア錯体の濃縮、
・並びに、上記の方法の組み合わせ、
から選択される、請求項1~
3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
温度が一貫して10℃と50℃との間である、請求項1~
4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一つに記載の方法における工業廃水からの非鉄金属の回収のための、シデロホアの使用
であって、前記シデロホアが、デフェロキサミンB(DFO-B)、デフェロキサミンE(DFO-E)、マリノバクチン、アクアケリン、アンフィバクチン、オクロバクチン及びシネコバクチン及びそれらの塩から選択される、前記使用。
【請求項7】
前記非鉄金属が、Ga、In、Sc、Pu、Co、Ge、V、Al、Mn、Th、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Bk、Eu、Dy、Pa、Gd、Yb、Ce、La、Rh、Tl、Bi及びPdから選択される、請求項
6に記載の使用。
【請求項8】
工業廃水から非鉄金属を回収する方法であって、
A:シデロホアを工業廃水に加えることによる、回収すべき金属の錯化、
B:金属シデロホア錯体の分離、
C:金属シデロホア錯体からの金属の放出、
D:金属の分離、
E:シデロホアの回収、及び
F:シデロホアの分離、
を含み、
分離ステップB、D及びFのうちの少なくとも一つにおいて、分離のための方法が、
・クロマトグラフィ法、
・固定相抽出、
・析出、
・濾過及び/またはナノ濾過、
・キャリア材料上へのシデロホアの不動化、
・発泡と泡の収集による金属-シデロホア錯体の濃縮、
・並びに、上記の方法の組み合わせ、
から選択され、
及び
前記シデロホアが、デフェロキサミンB(DFO-B)、デフェロキサミンE(DFO-E)、マリノバクチン、アクアケリン、アンフィバクチン、オクロバクチン及びシネコバクチン及びそれらの塩から選択される、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業廃水から金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業廃水から金属を回収するためのより有利でかつ効率のよい方法を開発するための数多くの研究が行われている。注目される一つの変法は、選択的収着である。
【0003】
収着とは、工業廃水からの金属の回収のための費用効果の高い技術であるが、これには、多くの場合に、回収するべき金属に対する収着剤の低い選択性が伴う。選択性を高めるためには、回収するべき金属に対して選択的である錯化剤での官能化が推奨される。
【0004】
Renardら(2005)は、MTS(ミセルテンプレートシリカ)上に不動化されたピオペルジンのタイプのシデロホア、すなわち細菌が分泌する錯化剤を用いた多金属モデル廃水液からのFe(III)の取り込み及び再放出に取り組んでいる。Fe(III)のキレート化だけが取り組まれた。高い金属濃度(40mg/mL)がけが試験されている。錯体からのFe(III)の放出は、NaHSO3を用いてFe(II)に還元することによって行われた。ピオペルジンのタイプのシデロホアの再生のための開発は行われなかった。
【0005】
MTS上へのピオペルジンの不動化では、非常に僅かな負荷量だけが達成できた。それ故、一つのピオペルジンが一つのFe3+イオンを錯化(1:1)すると仮定すると、キャリア材料1gあたり鉄2.5mgの非常に僅かな錯化能力しか達成できない。それ故、大規模な使用のためには、ひどく多量のキャリア材料が必要とされた。
【0006】
それ故、シデロホアの不動化は、従来技術から既知である。
【0007】
Roosenら(2017)は、強アルカリ性モデル廃水(合成バイエル溶液)からGa(III)またはAl(III)を回収するために、キトサン-シリカ樹脂上に低分子量錯化剤である8-ヒドロキシキノリン及び8-ヒドロキシキナルジンの両方を不動化することを記載している。Al(III)との錯体が優先的に形成し、そしてこの方法は、ガリウムを選択的に分離するためには適していない。錯化剤が、有機化学的合成法によってしか製造できず、微生物では製造できず、それ故、環境的な理由から有利ではない点も不利である。高い金属濃度しか試験されなかった(140mg/LGa)。
【0008】
一般的に、全ての既存の方法は、高濃度の金属(>40mg/L)にしか使用できない。既存の方法はいずれも、強く希釈した工業廃水、すなわち回収するべき金属の含有率が<40mg/Lである工業廃水には適していない。
【0009】
これらの方法の全てにおいて、金属回収の効率は一般的に低い。
【0010】
Martinezら(2000)は、海産シデロホア、例えばアクアケリン(Aquachelinen)及びマリンバクチン(Marinobactinen)によるFe(III)の錯化を開示している。
【0011】
海産シデロホア、並びにFe(III)及びGa(III)とのそれの錯化が、13C-NMR及びIR分光分析によりZhangら(2009)によって分析的に検証された。
【0012】
Takagaiら(2007)は、シデロホアデフェロキサミンB(DFO-B)をナイロン6,6上に不動化し、そしてその後の溶剤抽出を用いた様々な金属の錯化を検証した。
【0013】
錯化をベースとしたこれらの全ての方法は、一般的に、特に精製ステップにおいて、例えば溶液から金属を例えば錯体の形で分離する場合にまたはこのような錯体から放出された金属を分離する場合に困難を伴う。
【0014】
金属回収のために錯化剤を使用する場合には、再使用のために錯化剤を効率よく回収する問題もある。錯化剤を使用する金属回収のためのこのような方法では、錯化剤の回収の後者の観点は、方法を経済的にするための必要な条件である。
【0015】
Borgiasら(1989)は、シデロホアデフェロキサミンB(DFO-B)を用いた同じ金属(Ga3+及びAl3+)の錯化並びにカチオン交換HPCLを用いた錯体の精製を記載している。錯化の速度論が徹底的に検証された。
【0016】
Jainら(2017)は、DFO-Bを用いたGa(III)の選択的収着において、逆相C18クロマトグラフィカラムを用いたカラムクロマトグラフィ分離を記載している。
【0017】
US20120325740A1(特許文献1)は、同様に、シデロフフォアを用いた錯化を開示しており、この場合、シデロホア産生細菌を、カラム材料、フィルターまたは多孔性表面上に不動化する。使用された細菌は、好塩性(好塩豊化環境)細菌である。この方法は、手間がかかり、特に障害を起こし易い点が欠点である、というのも、この細菌は、非常に限定された生存条件を必要とするためである。更に別の欠点の一つは、この方法の処理量が比較的少ない点にあり、なぜならば、面積あたりまたは空間単位あたりの提供されたシデロホアの量に限りがあり、特に、同様に、決まった細菌密度しか可能としない細菌の生存条件のためである。他では、この細菌は、シデロホア生産が採算がとれない程に低くないように、遺伝子工学により変性される。
【0018】
Hernlemら(1999)は、鉄とは異なる金属との、シデロホアデフェロキサミンB(FDO-B)の錯化係数を検証している。
【0019】
Gladyshevら(2015)、Liuら(2017)、Nusenら(2016)及びRoosenら(2017)は、代替の化学的プロセス、例えば溶剤抽出、イオン交換または析出などの方法を用いて工業廃水から様々な金属を回収することを記載している。
【0020】
溶剤抽出法、イオン交換法、分画析出法または電気化学的堆積法などの従来技術から既知の方法は、環境的に有利ではない、というのも、これらは化学的に製造された試薬をベースとするものであるからである。
【0021】
更に、有機溶剤の使用は、それの除去のための追加的なプロセスステップを必要とし、そのため、プロセスコストを高める。
【0022】
工業廃水からの金属回収のための環境を損なわない変法は、これまで得られていない。なかでも、毒性のある化学品及び有機溶剤(例えば、溶剤抽出法におけるもの)を避け、生分解性の物質(例えば前記錯化剤)を使用し、または(例えば電気化学的方法と比べて)エネルギー必要量のより少ない方法を開発することはより環境適合性であろう。
【0023】
一つの方策は、Kinoshitaら(2011)によって開示された、多金属溶液からのガリウムの富化法であり、これは、連続的な溶剤フリーの向流式方法において泡への選択的結合を用いる方法である。この方法は、工業的な熟成度にまだ達していない点が欠点である。しかし、特にこれは、単に、多金属溶液からのGaの富化のための方法であって、クリーンな分離のための方法ではない。他の金属による汚染は、富化されたガリウムの非常に制限された再使用しか可能としない。更に、泡の形成に必要な界面活性剤は化学的手法で製造する必要があり、そのためこの方法は環境適合性が低い点が欠点である。
【0024】
工業廃水からの金属の分離のための一般的な方法の開発は平凡なものではない、なぜならば、このような工業廃水の実際の組成は、完全に知られるものではないし、また一定して同じものではないからである。工業部門及び企業によっては、工業廃水の組成は通常は大きく変化する。それ故、汎用的で、全てのタイプの工業廃水に使用可能な方法を開発することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【非特許文献】
【0026】
【文献】Borgias,B.;Hugi,A.D.;Raymond Kenneth N.,“Isomerization and Solution Structures of Desferrioxamine B Complexes of Al3+ and Ga3+1Inorg”,Chem.1989,28,3538-3545 doi:10.1021/i000317a029
【文献】Hernlem,B.J.;Vane,L.M.;Sayles,G.D.,“The application of siderophores for metal recovery and waste remediation:Examination of correlations for prediction of metal affinities”,Water Res.1999,33,951-960 doi:10.1016/SOO43-1354(98)00293-0
【文献】Martinez,J.S.; Zhang,G.P.; Holt,P.D.; Jung,H.-T.; Carrano,C.J.; Haygood,M.G.; Butler,Alison,“Self-Assembling Amphiphilic Siderophores from Marine Bacteria”,Science 2000,287,1245-1247
【文献】Renard,G.;Mureseanu,M.;Galarneau.A.;Lerner.D.A.;Brunel,D.,“Immobilisation of a biological chelate in porous mesostructured silica for selective metal removal from wastewater and its recovery”,Inorg.Chem.1989,28,3538-3545 doi:10.1039/b500302b
【文献】Takagai,Y.;Takahashi,A.;Yamaguchi,H.;Kubota,T.;Igarashi,S.,“Adsorption behaviors of high-valence metal ions on desferrioxamine B immobilization nylon 6,6 chelate fiber under highly acidic conditions”,J.Colloid Interface Sci.2007,313(1),359-362
【文献】Zhang G.;Amin,S.A.;Kuepper,F.C.;Holt,Pamela D.;Carrano,C.J.;Butler,A.,“Ferric Stability Constants of Representative Marine Siderophores:Marinobactins,Aquachelins,and Petrobactin”,Inorg Chem.2009,48(23),11466-11473
【文献】Kinoshita,T.;Ishigaki,Y.;Shibata,N.;Yamaguchi,K.;Akita,S.;Kitagawa,S.;Kondou,H.;Nii,S.,“Selective recovery of gallium with continuous counter-current foam separation and its application to leaching solution of zinc refinery residues”,Sep.Purif.Technol. 2011,78,181-188
【文献】Su,B.L.;Moniotte,N.;Nivarlet,N.;Chen,L.H.;Fu,Z.Y.;Desmet,J.;Li,J.Fl-DFO,“molecules@mesoporous silica materials:Highly sensitive and selective nanosensor for dosing with iron ions”,J.Colloid Interface Sci.2011,358(1),136-145
【文献】Nusen,S.;Chairuangsri,T.;Zhu,Z.;Cheng,C.Y.,“Recovery of indium and gallium from synthetic leach solution of zinc refinery residues using synergistic solvent extraction with LIX 63 and Versatic 10 acid”,Hyd rometallurgy 2016,160,137-146. doi:10.1016/j.hydromet.2016.01.007
【文献】Gladyshev,S.V.;Akcil,A.;Abdulvaliyev,R.A.;Tastanov,E.A.;Beisembekova,K.O.;Temirova,S.S.;Deveci,H.,“Recovery of vanadium and gallium from solid waste by-products of Bayer process”,Miner.Eng.2015,74,91-98. doi:10.1016/j.mineng.2015.01.011
【文献】Jain,R.;Cirina,F.;Kaden,P.;Pollmann,K.,“Investigation of the Ga Complexation Behaviour of the Siderophore Desferrioxamine B”,Solid State Phenom.2017,262,643-646. doi:10.4028/www.scientific.net/SSP.262.643
【文献】Liu,F.;Liu,Z.;Li,Y.;Wilson,B.P.;Liu,Z.;Zeng,L.;Lundstrom,M.,“Recovery and separation of gallium(l|l) and germanium(IV) from zinc refinery residues:Part II:Solvent extraction”,Hydrometallurgy 2017,171,149-156. doi:10.1016/j.hydromet.2017.05.009
【文献】Roosen,J.;Mullens.S.;Binnemans,K.,“Chemical immobilization of 8-hydroxyquinoline and 8-hydroxyquinaldine on chitosan-silica adsorbent materials for the selective recovery of gallium from Bayer liquor”,Hydrometallurgy 2017,171,275-284.doi:10.1016/j.hydromet.2017.05.026
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明が基づく技術的課題は、工業廃水から金属を回収するため方法の提供である。この方法は、様々な工業部門の工業廃水に使用可能であるべきであり、すなわち汎用の方法であるべきである。この方法は、環境適合性並びに経済な観点で有利であるべきであり、また低い温度(最大50℃)において実施可能であるべきである。またこれは同様に、経済的に実用的であるために、使用された錯化剤の効率のよい回収を含む必要がある。金属回収の効率はできるだけ高いものであるべきである。
【0028】
更に、該方法は、非常に低い金属濃度でも、すなわち希釈された工業廃水の場合でも使用可能であるべきである。
【0029】
本発明は、工業廃水からの非鉄金属の選択的で、環境適合性でかつ費用効果の高い回収のための多段階方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0030】
それ故、本発明の対象は、工業廃水から非鉄金属を回収するための方法であって、
A:シデロホアを工業廃水に加えることによる、回収すべき金属の金属イオンの錯化、
B:金属シデロホア錯体の分離、
C:金属シデロホア錯体からの金属の放出、
D:金属の分離、
E:シデロホアの回収、及び
F:シデロホアの分離、
を含む、前記方法である。
【0031】
本発明によれば、金属含有溶液にシデロホアを添加した時に、シデロホア金属錯体が形成する(A)。Bでは、金属シデロホア錯体の分離が行われ、ここで、その後のステップCでは、錯化された金属が放出される。
【0032】
Dでは、金属が分離される。
【0033】
Eでは、本発明によれば、シデロホアが回収され、分離され(F)、それ故、ほぼ未使用の状態で再びプロセスから生じる。
【0034】
そのため、該方法は、経済的かつ費用効果が高く、並びに環境適合性である。
【0035】
本発明の方法は、希釈された工業廃水でも、すなわち回収すべき金属が低濃度である場合も(<40mg/L、とりわけ1~30mg/L、好ましくは20mg/L未満でさえ可能)行うことができる。
【0036】
本発明による方法は、有利に、通常の汚染物、例えばZn、Cu、Cd、Pb、Ni、アルカリ金属及びアルカリ土類金属に対して選択的である。
【0037】
工業廃水中の回収すべき金属は、一般的に金属イオンとして存在する。
【0038】
「回収すべき金属」または「金属」という記載は、本発明では常に対応する金属イオンのことを意味し、詳しくは、個々の価数に限定されない。
【0039】
シデロホアは、錯化剤の一つの部類である。微生物及び植物から合成されそして生分解可能な水溶性の低分子量有機物質が、シデロホア(ギリシャ語のsideros=鉄、ギリシャ語のphorein=運ぶ)と称される。これらは、安定したキレート錯体を形成しつつ高い特異性及び親和性で鉄(III)イオンを結合し、そして細胞中に鉄を輸送する。鉄イオンの錯化の後、負荷されたシデロホアは、特異的な輸送システムを介して生産体の細胞によって再び取り込まれる。Fe(II)イオンに対するシデロホアの錯化係数は、三価の鉄に対する錯化係数よりも非常に低いために、金属イオンは、鉄(II)への還元の後に錯体から放たれる。シデロホアの部類には、様々な物質が包含される:デフェロキサミン、例えばデフェロキサミンB(DFO-B)及びデフェロキサミンE(DFO-E)、脂肪酸基を有する海産シデロホア(ここでは、脂肪酸含有シデロホアと称す)、例えばマリノバクチン、アクアケリン、アンフィバクチン、オクロバクチン及びシネロバクチン、並びに脂肪酸基を持たない海産シデロホア、例えばペトロバクチン。以下の構造は、これらの一部及びシデロホアの更に別の代表物を示す。
【0040】
【化1】
シデロホアのこれらの構造式から分かるように、シデロファアは、金属の錯化に適した複数の極性基、とりわけカルボニル、ヒドロキシル、アミノ、アミドまたはヒドロキサムを含む。
【0041】
シデロホア自体は、例えば他の二価のカチオン、例えばアルカリ土類金属(Mg、Ca)、Cu、Zn、Niまたは一価のアルカリ金属(Na、K)などと比べて、Ga、In、Ge(IV)、Fe(III)またはVなどの金属に対して元々選択性がある。シデロホアは、アニオン型の金属形態、例えばアルセナイト(AsO2
-)、アルセネート(AsO4
3-)、クロメート(CrO4
2-)、セレネート(S2O4
2-)、セレナイト(SeO3
2-)と比較しても、Ga、In、Ge(IV)、Fe(III)及びVに対しこの高い選択性を有する。例えばFe、Ga及びInを含む廃液の場合は、シデロホアの選択性は、Fe3+>Ga3+>In3+の順番となる。
【0042】
本発明では、シデロホア及びそれの塩が錯化剤として使用される。好ましくは、シデロホアは、デフェロキサミン及び脂肪酸含有シデロホア及びそれらの塩から選択される。
【0043】
一つの態様では、デフェロキサミンは、デフェロキサミンB(DFO-B)及びデフェロキサミンE(DFO-E)及びそれらの塩から選択される。他の実施形態の一つでは、脂肪含有シデロホアは、マリノバクチン、アクアケリン、アンフィバクチン、オクロバクチン及びシネコバクチン及びそれらの塩から選択される。
【0044】
該方法を比較的大きな規模で使用できるようにするためには、錯化剤の量は非実用的なほど多量であってはならない、すなわち錯化された金属を回収するために工業廃水に加えるシデロホアの量は、できるだけ少量でなければならない。これを達成するためには、シデロホアの錯化能は、金属に依存して、相応して高いものでなければならない。これは希釈された工業廃水の場合により一層重要である、なぜならば、さもなくば、過度に多量のシデロホアを工業廃水に加える必要があるからである。本発明では、この錯化能は、金属とそのモル質量に依存して、デフェロキサミンの例では鉄及びガリウムで非常に高い点が有利である(シデロホア1gあたり100~130mgの金属)。
【0045】
本発明では、シデロホアは該方法で回収されるため、該方法は、他の方法よりも費用効果が高い。加えて、シデロホアは、微生物または植物によって生産されそして最後には再び生物学的に分解可能でもあるため、該方法は環境適合性がよい。これに対して、他の場合に使用される合成により製造された化学品は、分解が困難であり、そして時折毒性がある。
【0046】
有利なことに、金属回収の効率は、方法全体で>90%となり高い。
【0047】
有利なことに、本発明による方法の実施のためには、熱の供給は不要である。該方法を周囲温度で行うことも可能である。それ故、温度は、プロセスステップのいずれにおいても50℃を超えない。好ましくは、周囲温度は10~50℃の範囲である。これらの低い温度は、個々のステップにおいて加熱は必要ではない点及びそれ故、該方法は、他の方法と比べて、よりエネルギー節約的であり、より費用効果が高くかつ最後に、より環境適合性がよい点で有利である。
【0048】
本発明によれば、回収するべき金属は非鉄金属である。これらは、特に、Ga、In、Sc、Pu、Co、Ge、V、Al、Mn、Th、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Bk、Eu、Dy、Pa、Gd、Yb、Ce、La、Rh、Tl、Bi及びPdから選択される。これらは、好ましくはイオンとして存在し、Ga(III)、In(III)、Sc(III)、Pu(IV)、Co(III)、Ge(IV)、V(IV)、Al(III)、Mn(III)、Th(IV)、Ti(IV)、Zr(IV)、Hf(IV)、Nb(V)、Ta(V)、Mo(IV)、Bk(III)、Eu(III)、Dy(III)、Pa(IV)、Gd(III)、Yb(III)、Ce(III)、La(III)、Rh(III)、Tl(III)、Bi(III)、Pd(II)から選択される。
【0049】
本発明の好ましい実施形態の一つでは、回収するべき金属は、Ga、In、Sc、Pu、Co及びGeから選択され、そしてイオンとして存在し、Ga(III)、In(III)、Sc(III)、Pu(IV)、Co(III)及びGe(IV)から選択される。一実施形態では、回収するべき金属はGa及びInから選択される。
【0050】
本発明による方法の以下に記載の第一の変法では、各ステップは、A、B、C、D、E及びFの順番で行われる。本発明による方法の以下に記載の第二の変法では、第一のステップは、A、B及びCの順番で行われる。この際、ステップD、E及びFの順番は、以下に記載のように変えることができる。
【0051】
金属シデロホア錯体からの回収すべき金属の本発明による放出(C)は、本発明による方法の第一の変法ではFe(III)イオンを加えて行われる。それによって、金属シデロホア錯体中の金属は、>90%がFe(III)と有利に交換される。溶液中では、今や、回収すべきフリーの金属及びFe(III)シデロホア錯体が存在する。この実施形態では、回収するべき金属の分離(D)の後のシデロホアの回収(E)は、還元剤及び/またはキレート剤の添加によって行われる。特に、回収は
a. Fe(III)-シデロホア錯体に還元剤を添加することによって行われ、それにより、Fe(III)がFe(II)に還元され、このFe(II)が脱錯化され、最後にFe(II)としてフリーな状態で存在する、
b. a.に記載の還元剤の添加及びキレート剤の添加による形成したFe(II)の追加的な錯化によって行われ、それにより、溶液中のFe(II)が結合され、そして脱錯化の平衡が、より高い収率の方向にシフトされる、または
c. Fe(III)をシデロホアと競合して錯化する過剰のキレート剤の添加によって、行われる。
【0052】
その結果、a.及びb.では、Fe(III)からFe(II)への還元が行われ、そしてFe(III)と比べてFe(II)に対するシデロホアのより小さい錯化係数の故に、形成されたFe(II)の脱錯化が起こる。
【0053】
c.では、この脱錯化は、還元はせずに、加えるべきキレート剤を過剰に添加することによってのみ行われる。このキレート剤は、シデロホアと競合してFe(III)を錯化する。過剰のキレート剤またはそれの比較的高い錯化係数によって、シデロホアの回収がより高い収率にシフトされる。その結果、鉄(III)が、鉄(III)-シデロホア錯体から放出され、そして鉄(III)-キレート剤錯体として結合する。例えば、4倍過剰のEDTAの添加は、シデロホアの95%超の放出及びFe(III)-EDTA錯体の形成をもたらす。
【0054】
任意選択的にEに使用されるキレート剤はシデロホアではなく、特定されない、当業者には通例で安定した錯化剤、例えばEDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、1,10-フェナントロリンまたはフェロジンである。ここでは、キレート剤はFe(II)またはFe(III)のいずれかとまたは両者と錯化する。
【0055】
本発明による方法のこの第一の変法においてCで使用されるFe(III)は、好ましくはFeCl3から選択される。
【0056】
本発明による方法のこの第一の変法では、Cにおいて、回収するべき金属を錯体中のFe(III)によって交換するためには、溶液を周囲温度で置いておくだけで十分である。
【0057】
酸性の工業廃水(特にpH2.0~3.0)では、金属(例えばガリウム)の脱錯化は、一実施形態では、周囲温度下に、(分離するべき金属の量を基準にして)2倍~4倍量のFe(III)の添加によって行われる。ここでは、通常は、24時間内に>90%の交換が達成される。
【0058】
この際、周囲温度は特に先に記載のように選択される。
【0059】
一実施形態では、工業廃水のpH値には依存せずに、溶液は、交換を加速するために超音波で処理される。この超音波処理は、とりわけ0.5~30分間及び/または10~50℃で行われる。
【0060】
ステップEにおける還元のための適当な還元剤は、H2SO3、アスコルビン酸及びこれらの塩から選択される。特に、該還元剤は、Na2SO3及びNaHSO3から選択される。
【0061】
金属-シデロホア錯体からの、回収するべき金属の本発明による放出(C)は、本発明による方法の第二の変法では、キレート剤を添加して行われる。
【0062】
ここで使用されるキレート剤は、(任意選択に、前記第一の変法のステップEで使用されるキレート剤と同様に)シデロホアではなく、特定されない、当業者に通例でかつ安定した錯化剤、例えばEDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)である。該キレート剤は、回収するべき金属をそれの存在する価数で、すなわち存在する電荷で錯化することができる。この際、該キレート剤は、シデロホアに対してモル過剰で使用される及び/または該キレート剤は、キレート剤及び回収するべき金属についての錯化係数が、シデロホア及び回収するべき金属についての錯化係数よりも大きくなるように選択される。本発明による方法のこの第二の変法では、回収するべき金属は、金属-シデロホア錯体から金属-キレート剤錯体中に移動し、そしてシデロホアは、金属を含まない錯化剤として存在する。この変法では、シデロホアは、このようにして回収され(E)、そして分離される(F)。すなわち、C及びEは、好ましくは同時に行われる。
【0063】
Dでは、金属の分離は、この変法では最も簡単な形では、金属-キレート剤錯体として行われる。この場合は、D及びF(金属及びシデロホアの分離)は、好ましくは同時に行われる。金属-キレート剤錯体としての分離の利点は、方法の簡素化の他、金属-キレート剤錯体(例えばガリウム-EDTA)中の金属が安定した形で存在し、そのため、良好に工業的に利用できる点にある。
【0064】
代替的に、Dにおいて、金属を金属-キレート剤錯体から単離する。このためには、好ましくは、鉄(III)イオンの添加は、本方法の第一の変法のステップCにおいて記載したように行われる。ここで、鉄(III)イオンの添加の前に、シデロホアの分離(F)を行うことが有意義である。
【0065】
本発明では、プロセスステップB、D及びFにおいて、それ自体既知の方法を用いた精製または分離を行う。
【0066】
一つの形態では、分離ステップB、D及びFのうちの少なくとも一つにおいて、成分を分離するための方法は、クロマトグラフィ法から選択される。好ましくは、これは、逆相クロマトグラフィ樹脂を用いたクロマトグラフィである。とりわけ、これは、逆相C18樹脂及び逆相C8樹脂から選択される。一つの実施形態において、これらは、ジメチル-n-オクタデシルシランでコーティングされたシリカからなるエクストラ・デンス・ボンディング(XDB)固定相を備えたクロマトグラフィカラム(例えば、「ZORBAX Eclipse XDB-C18、4.6×150mm、5μm」)からの樹脂である。
【0067】
加えて、更に別の実施形態においては、分離ステップB、D及びFのうちの少なくとも一つにおける成分の分離のための方法は次から選択される:
・固定相抽出
・析出
・濾過及び/またはナノ濾過
・キャリア材料上へのシデロホアの不動化
・発泡と泡の収集による金属-シデロホア錯体の濃縮
・並びに、上記の方法の組み合わせ。
【0068】
特に好ましくは、分離ステップB、D及びFのうちの少なくとも一つにおいて、分離のための方法は次から選択される:
・クロマトグラフィ法
・析出
・濾過及び/またはナノ濾過
・キャリア材料上へのシデロホアの不動化
・発泡と泡の収集による金属-シデロホア錯体の濃縮、並びに
・上記の方法の組み合わせ。
【0069】
好ましくは、分離ステップB、D及びFのいずれにおいても、上記の方法のうちの少なくとも一つが使用される。
【0070】
上記の方法の全ての組み合わせが可能である。とりわけ、次の組み合わせが適している:
・キャリア材料上へのシデロホアの不動化と、濾過及び/またはナノ濾過との組み合わせ、及び
・析出と、濾過及び/またはナノ濾過との組み合わせ。
【0071】
析出の原理は、例えば温度を低下させることによって、存在する溶剤中への、析出させるべき分子の溶解性を低下させることに基づく。例えば、デフェロキサミンE及びB(DFO-E及びDFO-B)は、温度を、水中で50℃から<20℃にまで低下させることによって析出させることができる。
【0072】
代替的に、析出は、水溶性溶剤を添加して、分子が非常に僅かにしか溶解しないようにすることによって行われる。例えば、デフェロキサミンEは、アセトンを添加することによって水溶液から析出させることができる。
【0073】
一実施形態では、ステップFにおけるFe(II)の分離は、硫化物イオンまたはリン酸塩イオンの添加によって行われる。その結果、硫化鉄(II)またはリン酸鉄(II)が析出する。
【0074】
シデロホアの不動化の原理は、従来技術の記載において冒頭に既に述べたように、文献に記載されている。シデロホア中の反応性基(例えば、DFO-BのフリーのNH2基)は、キャリア材料(例えば、カルボキシル官能化ポリスチレンキャリア材料またはナイロン6,6)の反応性基での不動化の際、共有結合(例えばアミド結合)を形成しながら反応することができる[参考文献Takagai et al.(2007)]。例えばシリカなどのキャリア材料上へのデフェロキサミンなどのシデロホアの非共有結合型不動化も既知である[参考文献Su et al.(2011)]。このようなキャリア材料は、とりわけ、粒子状の形態(小球など)または繊維の形態で存在する。
【0075】
発泡と泡の収集による金属-シデロホア錯体の濃縮の原理は、例えばDFO-B、DFO-Bまたはマリノバクチンとの金属錯体などの金属-シデロホア錯体が泡に結合できることに基づく。そのためには、多くの場合に、大概は化学合成される追加的な発泡剤(界面活性剤)が必要である(参考文献Kinoshita et al.(2011)参照)。
【0076】
例えばマリノバクチン、アクアケリン、アンフィバクチン、オクロバクチンまたはシネコバクチンなどの脂肪含有シデロホアの場合は、これらは、それらの両性の構造の故に、それら自体が表面活性であり、そのため発泡剤として機能する点が有利である。これらは非常に良好に発泡する。その結果、これらの脂肪含有シデロホアの場合は、化学合成された界面活性剤の添加量を減少させることが可能であり、これは、シデロホアの再生及び精製を容易にし、そしてプロセスをより環境適合性なものとする。
【0077】
その後のステップにおいて、泡は集められる。好ましくは、濃縮された金属-シデロホア錯体を含む泡は、今や、本発明による方法のステップCに供給され(“鉄(III)イオンの添加による金属-シデロホア錯体からの金属の放出と、Fe(III)-シデロホア錯体の形成”)、そしてそこから、本発明による方法に従い更に処理される。
【0078】
本発明による方法の一つの変法では、該方法は、個々のケースに依存して更なる慣用の方法と組み合わせることができる。
【0079】
Fe3+で汚染された工業廃水の場合は、例えば、本発明による方法の最初に過剰のシデロホアを使用することによって、鉄及びガリウムイオンを、DFO-BまたはDFO-Eなどのシデロホアで錯化することができる。本発明による方法のステップBにおいて金属-シデロホア錯体(これは、今や、鉄-シデロホア錯体及び例えばガリウム-シデロホア錯体である)を分離した後、該方法のステップCにより、すなわち更なるFe3+イオンを添加して、該方法を最初に述べた通りに終了させる。
【0080】
代替的に、ヒ酸イオンまたはリン酸イオンも工業廃水中に含まれる場合には、予備処理ステップにおいて、すなわち本発明による方法のステップAの前に、Fe3+を、ヒ酸鉄またはリン酸鉄として析出させることが可能である。この際、析出は、工業廃水のpH値を変えることによって引き起こされるであろう。
【0081】
複数の異なる金属で汚染された工業廃水の場合には、シデロホアが選択的な金属(例えば、Ga、In、Ge(IV)、Fe(III)またはV)と、優先的には錯化されない金属(例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、P、S、Si,Zn、Pb)とは区別される。優先的に錯化されない金属は、一実施形態では、ステップB(金属-シデロホア錯体の分離)において分離される。
【0082】
優先的に錯化される様々な金属は、一実施形態では、クロマトグラフィ、様々な沈殿剤を用いた順次的な析出及び/または様々な錯化剤を用いた錯化などの既知の方法により分離される。
【0083】
本発明の更に別の対象の一つは、本発明による方法において工業廃水から非鉄金属を回収するためのシデロホアの使用である。
【0084】
上記使用の好ましい実施形態の一つでは、非鉄金属は、Ga、In、Sc、Pu、Co、Ge、V、Al、Mn、Th、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Bk、Eu、Dy、Pa、Gd、Yb、Ce、La、Rh、Tl、Bi及びPdから選択される。
【0085】
本発明の実施のためには、先に記載した本発明による設計、実施形態及び請求項の特徴を任意の配置で互いに組み合わせることも有利である。
【0086】
本願が出願されるに至ったプロジェクトは、欧州連合の「ホライゾン2020リサーチ・アンド・イノベーションプログラム」による助成を受けた-マリア・スクウォドフスカ-キュリー贈与契約番号704852。
【0087】
以下、本発明を図面及び実施例によって説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】
図1は、シデロホアデフェロキサミンEの錯化特性並びにC18逆相クロマトグラフィを用いた精製方法の例示的な利用に基づいた、工業廃水から非鉄金属を回収するための本発明による多段階方法の第一の変法の実施形態を示す。
【実施例】
【0089】
1.本発明による方法の第一の変法
DFO-Eを使用した、低Ga濃度(4mg/L)の工業廃水のための方法の説明:
低Ga濃度の工業廃水1.95mLに、デフェロキサミンEの2mM溶液0.05mLを加え、そして得られた溶液を15分間、室温で攪拌する。この溶液100μLを、溶剤流速を0.8mL/分として商業的に入手可能なクロマトグラフィカラムであるZORBAX Eclipse XDB-C18(4.6×150mm、5μm)中にポンプ輸送する。作業温度は25℃である。溶剤としては10mM KH2PO4(溶剤A)及びアセトニトリル(HPLCグレード、溶剤B)を勾配モードで利用する。プロセスコストを低減するためには、勾配モードにおいて溶剤Aを比較的低い濃度で使用することもでき、具体的には1mM H3PO4を使用できる。溶剤Bの割合は、10分間のうちに10%から15%に高める。溶離の後には、90%の10mM KH2PO4及び10%のアセトニトリルからなる溶剤混合物を用いた20分間の平衡相が続く。
【0090】
工業廃水の汚染物は、2.5分間から4.5分間の間の一つの画分(1.6mL)に集められた。ガリウム-デフェロキサミン-E錯体は、8分間から10分間の溶離時間の間の画分(1.6mL)として集められた。ガリウム-デフェロキサミン-E錯体の収率は、元々含まれていたガリウムに基づいて92.0%±2.5%であった。4.75μLの水性2mM Fe3+溶液を加え、そしてpHを0.1M HClを用いて2.5±0.3の値にした。ここで総体積は1.6475mLである。<50℃での12時間の超音波処理の後、この溶液100μLを、「ZORBAX Eclipse XDB-C18、4.6×150mm、5μm」(商業的に入手可能)のタイプのクロマトグラフィに、0.8mL/分間の溶剤の流速でポンプ輸送する。2.5~4.5分間の溶離時間での画分は、回収すべきガリウムを含む。ガリウムの収率は>90%である。8~10分間の画分は、91%の収率でFe-デフェロキサミン-E錯体を含む。この後者の画分の総体積は1.6mLである。この溶液を28μLの水性10mM Na2SO3溶液と混合し、そしてpH値を、0.5M HClを用いて3.5±0.3に調節する。更に28μLの2mM水性エチレンジアミンテトラ酢酸溶液(EDTA)を加える。この溶液を室温で24時間静置した後、この溶液を、「ZORBAX Eclipse XDB-C18 4.6×150mm、5μm」タイプのクロマトグラフィに供給し、そして0.8mL/分間の溶剤の流速でクロマトグラフィにかける。2.5~4.5分間の溶離時間の間の画分は廃棄物を含む。再生されたデフェロキサミン-Eは、16.5分間~18.5分間の間の画分に集められる。
【0091】
DFO-Eを使用した、低In濃度(10mg/L)の工業廃水のための方法の説明:
0.087mMのインジウムを含む工業廃水1.91mLに、デフェロキサミンEの2mM溶液0.09mLを加え、そして得られた溶液を15分間、室温で攪拌する。この溶液100μLをクロマトグラフィカラムに供給する。残りのステップは、DFO-Eを使用した低Ga濃度についての上記の実験と同様に行う。インジウム含有工業廃水の場合は、以下の他の汚染元素がイオン形態で含まれていた: Na、K、Ca、Mg、P、S、Si、Zn及びPb。
【0092】
DFO-Eを使用した、比較的高いGa濃度(40mg/L)の工業廃水のための方法の説明:
全プロセスの類似の実験を、Ga濃度が40mg/Lの工業廃水試料1.6mLを用いて行う。この溶液に、0.4mLの2mM水性デフェロキサミン-E溶液を加える。上記のプロセスの全てのステップを同様に使用する。唯一の違いは、使用した試薬の量にある:41.6μLの1mM Fe3+溶液及びその後に、28μLのNa2SO3の10mM溶液を使用する。
【0093】
DFO-Bを使用した、低Ga濃度(4mg/L)の工業廃水のための方法の説明:
及び
DFO-Bを使用した、比較的高いGa濃度(40mg/L)の工業廃水のための方法の説明:
比較的高いGa濃度の工業廃水、並びに低Ga濃度の工業廃水からのガリウムの回収は、上記の方法に類似して、デフェロキサミン-Eの代わりにデフェロキサミン-Bを使用して行う。全てのプロセスステップを、収集される画分は除き同様に使用する。Ga-デフェロキサミン-B錯体及びFe-デフェロキサミン-B錯体のどちらも、8~10分間ではなく、4.5~6.5分間の溶離時間で集められる。
M=mol/L。
【0094】
2.本発明による方法の第二の変法
DFO-Eを使用した、低Ga濃度(4mg/L)の工業廃水のための方法の説明
低Ga濃度(4mg/L)の工業廃水1.95mLに、デフェロキサミン-Eの2mM溶液0.05mLを加え、そして得られた溶液を15分間、室温で攪拌する。この溶液100μLを、溶剤流速を0.8mL/分として商業的に入手可能なクロマトグラフィカラムであるZORBAX Eclipse XDB-C18(4.6×150mm、5μm)中にポンプ輸送する。作業温度は25℃である。溶剤としては10mM KH2PO4(溶剤A)及びアセトニトリル(HPLCグレード、溶剤B)を勾配モードで利用する。溶剤Bの割合は、10分間のうちに10%から15%に高める。溶離の後には、90%の10mM KH2PO4及び10%のアセトニトリルからなる溶剤混合物を用いた20分間の平衡相が続く。
【0095】
工業廃水の汚染物は、2.5分間から4.5分間の間の一つの画分(1.6mL)に集められた。ガリウム-デフェロキサミン-E錯体は、8分間から10分間の溶離時間の間の画分(1.6mL)として集められた。ガリウム-デフェロキサミン-E錯体の収率は、元々含まれていたガリウムに基づいて92.0%±2.5%であった。
【0096】
10mM エチレンジアミンテトラ酢酸溶液(EDTA)2.1μLを、前記ガリウム-デフェロキサミン-E画分1.6mLに加え、そして室温で24時間攪拌する。その後、この溶液100μLを、「ZORBAX Eclipse XDB-C18、4.6×150mm、5μm」(商業的に入手可能)に、0.8mL/分間の溶剤の流速でポンプ輸送する。クロマトグラフィ中の作業温度は25℃である。溶剤としては10mM KH2PO4(溶剤A)及びアセトニトリル(HPLCグレード、溶剤B)を勾配モードで利用する。溶剤Bの割合は、10分間のうちに10%から15%に高める。溶離の後には、90%の10mM KH2PO4及び10%のアセトニトリルからなる溶剤混合物を用いた20分間の平衡相が続く。3.5~5.5分間の溶離時間での画分は、ガリウム-EDTA錯体を含む。再生されたデフェロキサミン-Eは、16.5分間~18.5分間の間の画分に集められる。使用量に対して、ガリウム-EDTA錯体の93%(±1.5%)及びデフェロキサミン-Eの92%(±2.5%)が回収された。
【0097】
単離されたガリウム-EDTA錯体は、GaNまたはGaAsウェハの製造のために直接使用することができる。
【0098】
ガリウム-EDTA錯体の脱錯化のために、1mM Fe(III)溶液2.56μLを加え、そして室温で24時間攪拌する。これにより、ガリウムが放出し、Fe(III)-EDTA錯体が形成する。
【0099】
3.プロセスステップB:金属シデロホア錯体の分離のためのクロマトグラフィ
逆相クロマトグラフィ樹脂を使用した、負荷の最大化及び溶剤損失の最小化のための最適化されたクロマトグラフィ樹脂
Ga-シデロホア錯体の分離または精製のための最適化されたクロマトグラフィ樹脂の探索では、以下の最適化を行った。
【0100】
様々な金属、すなわちGa、Zn、Ca、Cu、Mg及びAs(それぞれ0.25mM~1.0mM)を含む溶液に、(Gaの濃度に関して)等モルのDFO-BまたはDFO-Eを加える。この混合物を、24時間、30℃で攪拌しながらインキュベートする。次いで、この溶液の各々5mLまたは8mLを、それぞれ様々な充填材(クロマトグラフィ樹脂)を含むクロマトグラフィカラムに注入する。クロマトグラフィの間、Ga-シデロホア錯体を含む各画分を集める。純度と、単離されたGa-シデロホア錯体1mmol当たりのアセトニトリルの使用量を計算した。結果を表1に記載する。
【0101】
【0102】
全てのクロマトグラフィカラムは、4.6mmの直径を有した。ZORBAX(150mm及び250mm)は除いて、全てのカラムは250mmの長さを有した。ZORBAX及びYMC C18 TRIARTカラムには、5μmの粒度を有するクロマトグラフィ樹脂を充填し、他の樹脂は、10μmの粒度を有した。
【0103】
Ga-DFO-B錯体の精製/分離のために最良のクロマトグラフィカラムは、表1から分かるように、ZORBAX及びREPROSPHER 100 C18-DEである。Ga-DFO-E錯体には、最良のカラムは、REPROSIL SAPHIR 1000、PROSPHERE 300 C18及びREPROSPHER 100 C18-DEである。シデロホアDFO-BまたはDFO-Eを含むGa-シデロホア錯体には、REPROSPHER 100 C18-DEが最良のカラムである。クロマトグラフィでは、これは高純度及び同時に少ない溶剤損失をもたらす。
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1. 工業廃水から非鉄金属を回収する方法であって、
A:シデロホアを工業廃水に加えることによる、回収すべき金属の錯化、
B:金属シデロホア錯体の分離、
C:金属シデロホア錯体からの金属の放出、
D:金属の分離、
E:シデロホアの回収、及び
F:シデロホアの分離、
を含む、前記方法。
2. 前記1.に記載の方法であって、
C:Fe(III)イオンの添加及びFe(III)-シデロホア錯体の形成による金属-シデロホア錯体からの金属の放出を行い、及び
E:還元剤の及び/またはキレート剤の添加によるシデロホアの回収を行う、
前記方法。
3. 前記還元剤が、H
2
SO
3
、アスコルビン酸及びそれらの塩から選択される、前記2.に記載の方法。
4. 前記1.に記載の方法であって、
C: キレート剤の添加による金属-シデロホア錯体からの金属の放出を行い、それによって、金属-キレート剤錯体が形成する、
前記方法。
5. 前記金属が金属-キレート剤錯体として分離される、前記4.に記載の方法。
6. 前記金属が、Ga、In、Sc、Pu、Co、Ge、V、Al、Mn、Th、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Bk、Eu、Dy、Pa、Gd、Yb、Ce、La、Rh、Tl、Bi及びPdから選択される、前記1.~5.のいずれか一つに記載の方法。
7. 前記シデロホアが、デフェロキサミン及び脂肪酸含有シデロホア及びそれらの塩から選択される、前記1.~6.のいずれか一つに記載の方法。
8. 前記シデロホアが、デフェロキサミンB(DFO-B)、デフェロキサミンE(DFO-E)、マリノバクチン、アクアケリン、アンフィバクチン、オクロバクチン及びシネコバクチン及びそれらの塩から選択される、前記7.に記載の方法。
9. 分離ステップB、D及びFのうちの少なくとも一つにおいて、分離のための方法が、
・クロマトグラフィ法、
・固定相抽出、
・析出、
・濾過及び/またはナノ濾過、
・キャリア材料上へのシデロホアの不動化、
・発泡と泡の収集による金属-シデロホア錯体の濃縮、
・並びに、上記の方法の組み合わせ、
から選択される、前記1.~8.のいずれか一つに記載の方法。
10. 温度が一貫して10℃と50℃との間である、前記1.~9.のいずれか一つに記載の方法。
11. 前記1.~10.のいずれか一つに記載の方法における工業廃水からの非鉄金属の回収のための、シデロホアの使用。
12. 前記非鉄金属が、Ga、In、Sc、Pu、Co、Ge、V、Al、Mn、Th、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Bk、Eu、Dy、Pa、Gd、Yb、Ce、La、Rh、Tl、Bi及びPdから選択される、前記11.に記載の使用。
【0104】
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