IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルセロールミタルの特許一覧

特許7299956プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法
<>
  • 特許-プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法 図1
  • 特許-プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法 図2
  • 特許-プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法 図3
  • 特許-プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法 図4
  • 特許-プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法 図5
  • 特許-プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法 図6
  • 特許-プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】プレス焼入れのための鋼板を製造する方法及びプレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230621BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20230621BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230621BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230621BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20230621BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20230621BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20230621BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20230621BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20230621BHJP
   C23C 2/28 20060101ALN20230621BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 G
C21D9/00 A
C21D9/46 J
C23C2/12
C23C2/06
C21D1/18 C
C21D9/50 101B
C22C18/00
C23C2/28
C22C21/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021175214
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2019233860の分割
【原出願日】2016-06-10
(65)【公開番号】P2022023173
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2015/001156
(32)【優先日】2015-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ドリエ
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ポワリエ
(72)【発明者】
【氏名】スジャイ・サルカール
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-503456(JP,A)
【文献】国際公開第2014/027682(WO,A1)
【文献】特表2010-521584(JP,A)
【文献】特開2010-174275(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105632(WO,A1)
【文献】特開2004-025247(JP,A)
【文献】特開2006-200020(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0130675(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 9/46
C21D 9/00
C23C 2/12
C23C 2/06
C21D 1/18
C21D 9/50
C22C 18/00
C23C 2/28
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の連続した工程
質量で、
0.062%≦C≦0.095%
1.4%≦Mn≦1.9%
0.2%≦Si≦0.5%
0.020%≦Al≦0.070%
0.02%≦Cr≦0.1%、
ここで、1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7%であり、
0.040%≦Nb≦0.060%
3.4×N≦Ti≦8×N、
ここで、0.044%≦(Nb+Ti)≦0.090%であり、
0.0002%≦B≦0.004%
0.001%≦N≦0.009%
0.0005%≦S≦0.003%
0.001%≦P≦0.020%
任意に0.0001%≦Ca≦0.003%
を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である
組成を有する鋼半製品を提供する工程、次いで
- 半製品を熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る工程、次いで
- 巻き取られた鋼板を得るために、550℃からMsの間に含まれる巻取り温度Tcで熱間延鋼板を巻取り、Msは鋼板のマルテンサイト変態開始温度である工程、次いで
- 場合により、巻き取られた鋼板を冷間圧延する工程、次いで
- 焼鈍した鋼板を得るために、10%未満の未再結晶面積割合を得るために焼鈍温度Taで鋼板を焼鈍する工程
を含むプレス焼入れのための鋼板を製造する方法。
【請求項2】
1.7%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.3%である請求項1に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項3】
0.065%≦C≦0.095%である請求項1または2に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項4】
50から80%の間に含まれる圧延率で冷間圧延板が冷間圧延される請求項1に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項5】
焼鈍温度Taは、800から850℃の間に含まれる請求項1または2のいずれか一項に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項6】
焼鈍温度Taは、800から835℃の間に含まれる請求項1または2のいずれか一項に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項7】
焼鈍された鋼板に金属の被膜をプレコートする請求項1または2のいずれか一項に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項8】
金属の被膜は、亜鉛、または亜鉛系合金、または亜鉛合金である請求項7に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項9】
プレコートは、焼鈍された鋼板を浴中で溶融めっきすることにより行われる、請求項8に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項10】
プレコートは、450から520℃を含む温度で合金化溶融亜鉛めっきすることを含み、金属の被膜は、7から11%のFeを含む、請求項9に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項11】
金属の被膜は、アルミニウム、またはアルミニウム系合金、またはアルミニウム合金である請求項7に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項12】
プレコートは、焼鈍された鋼板を670から680℃の温度の浴中で溶融めっきすることにより行われる、請求項11に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項13】
浴は、質量で、5から11%のSi、2から4%のFeを含み、残部はAlおよび不可避的不純物である、請求項12に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項14】
金属の被膜の予備合金化を得るために、金属の被膜でプレコートされた鋼板は、620から680℃の範囲の温度で熱処理に供される、請求項11に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項15】
該熱処理の後、熱処理された金属の被膜は、Alおよび鉄および場合によりケイ素を含有する少なくとも1つの金属間化合物層を含み熱処理された金属の被膜は、遊離AlもFeSiAl12型のτ相もFeSiAl型のτ相も含まない請求項14に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項16】
金属の被膜は、亜鉛または亜鉛系合金または亜鉛合金の層によって覆われたアルミニウムまたはアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の層を含む請求項7に記載の鋼板を製造する方法。
【請求項17】
プレス焼入れのためのレーザ溶接ブランクを製造する方法であって、連続する以下の工程
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の組成を有し、アルミニウムまたはアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の金属の被膜でプレコートされた少なくとも1つの第1の鋼板を提供する工程、次いで
- 0.065から0.38質量%の炭素を含有する組成を有し、アルミニウムまたはアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の金属の被膜でプレコートされた少なくとも1つの第2の鋼板を提供する工程、次いで
- 少なくとも1つの第1の鋼板および少なくとも1つの第2の鋼板の周縁の一辺に沿って上下の側のアルミニウムの被膜の厚さの一部を除去する工程、次いで
- 溶接金属中のアルミニウム含有率が0.3質量%未満となるように、少なくとも1つの第1の鋼板および少なくとも1つの第2の鋼板をレーザ溶接することにより溶接ブランクを作製する工程であって、レーザ溶接はアルミニウムの被膜の一部が除去された周縁辺部に沿って行われる工程
を含む、方法。
【請求項18】
第1の鋼板を提供する工程が、連続する以下の工程
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の組成を有する鋼半製品を提供する工程、
- 半製品を熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る工程、次いで
- 巻き取られた鋼板を得るために、550℃からMsの間に含まれる巻取り温度Tcで熱間延鋼板を巻取り、Msは鋼板のマルテンサイト変態開始温度である工程、次いで
- 場合により、巻き取られた鋼板を冷間圧延する工程、次いで
- 焼鈍した鋼板を得るために、10%未満の未再結晶面積割合を得るために焼鈍温度Taで鋼板を焼鈍する工程、
- 焼鈍された鋼板に金属の被膜をプレコートする工程
を含む、
請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間成形され、プレス工具内に部品を保持することによって達成される冷却工程によってプレス焼入れされる鋼部品に関する。これらの部品は、侵入防止機能またはエネルギー吸収機能用の自動車の構造要素として使用される。そのような部品は、例えば、農業機械用の工具または部品の製造にも使用することができる。
【背景技術】
【0002】
そのような種類の用途では、高い機械的強度、高い耐衝撃性、良好な耐食性および寸法精度を組み合わせた鋼部品を有することが望ましい。この組み合わせは、自動車産業において特に望ましい。フロントレールまたはリアレール、ルーフレール、Bピラー、下部制御アーム、エンジンクレードル等の胴体部品等の自動車部品は、さらに特にこれらの特性を必要とする。
【0003】
プレス焼入れ工程は、刊行物GB1490535号に開示されている。焼入れされた鋼部品は、鋼がオーステナイトに変態し、次いでプレスで熱間成形される温度に鋼ブランクを加熱することによって得られる。ブランクはプレス工具内で同時に急速に冷却され、ひずみを防止するように保持され、マルテンサイトおよび/またはベイナイトの微細構造を得る。使用される鋼は、以下の組成を有することができる。即ち、C<0.4%、0.5から2.0%のMn、SおよびP<0.05、0.1から0.5%のCr、0.05から0.5%のMo、<0.1%のTi、0.005から0.01%のB、<0.1%のAlである。しかし、この刊行物は、高い機械的抵抗および伸び、良好な曲げ性および溶接性を同時に得るための解決法を提供していない。
【0004】
良好な耐食性および1500MPaより高い引張強度を有する部品の製造は、刊行物FR2780984号に開示されており、0.15から0.5%のC、0.5から3%のMn、0.1から0.5%のSi、0.01から1%のCr、<0.2%のTi、0.1%のAlおよびP、0.05<%のS、0.0005から0.08%のBを含むアルミニウムめっきを施された鋼板が加熱され、成形され、急冷される。しかし、高い引張強度レベルのために、引張試験における全伸びは6%未満である。
【0005】
刊行物EP2137327号は、0.040から0.100%のC、0.80から2.00%のMn、<0.30%のSi、<0.005%のS、<0.030%のP、0.01から0.070%のAl、0.015から0.100%のAl、0.030から0.080%のTi、<0.009%のN、<0.100%のCu、Ni、Mo、<0.006%のCaを含有する組成を有する鋼ブランクのプレス焼入れを開示している。プレス焼入れ後、500MPaより高い引張強度を得ることができる。しかし、等軸フェライトである微細構造の性質のために、非常に高い引張強度レベルを達成することは不可能である。
【0006】
文献EP1865086号は、0.1から0.2%のC、0.05から0.3%のSi、0.8から1.8%のMn、0.5から1.8%のNi、≦0.015%のP、≦0.003%のS、0.0002から0.008%のB、場合により0.01から0.1%のTi、場合により0.01から0.05%のAl、場合により0.002から0.005%のNを含む鋼組成物を開示している。この組成物により、1000MPaより高い引張強度および10%より高い伸びを有するプレス焼入れ部品を製造することが可能になる。しかし、ニッケル含有率が高いため、この鋼は製造コストが高い。
【0007】
文献EP1881083号は、0.11から0.18%のC、0.10から0.30%のSi、1.60から2.20%のMn、<0.0015%のP、<0.010%のS、1.00から2.00%のCr、<0.020%のN、0.020から0.060%のNb、0.001から0.004%のB、0.001から0.050%のTiを含む鋼合金から製造されたプレス焼入れ部品を開示している。この部品は、1200MPaより高い引張強度および12%より大きい全伸びを有する。しかし、クロム含有率が高いため、この鋼は製造コストが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】英国特許出願公開第1490535号明細書
【文献】仏国特許第2780984号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2137327号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1865086号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1881083号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、以前の制限を有しないプレス焼入れ部品および製造方法を有することが望ましい。より具体的には、0.8から4mmの間に含まれる厚さ、700から950MPaの間に含まれる降伏応力YS、950から1200MPaの間に含まれる引張応力TS、および75°より高い曲げ角度を特徴とする高い延性を有するプレス焼入れされた鋼部品を有することが望ましい。
【0010】
また、平面ひずみ条件下で、0.60より高い破壊ひずみを有するプレス焼入れ部品を有することが望ましい。
【0011】
さらなる使用条件または車両の衝突中には、例えば、半径領域のようなプレス焼入れ部品のひどく変形した領域が高い応力集中を受けるので、これらの変形領域においてより高い延性を示すプレス焼入れ部品を有することも望ましい。
【0012】
容易に溶接可能なプレス焼入れ部品、および高い延性を有し、熱の影響を受ける領域において顕著な軟化がないプレス焼入れされた溶接継手を有することも望ましい。
【0013】
レーザ溶接(この方法は、平坦性が不十分であるために起こり得るずれ不良に非常に影響を受けるため、レーザ溶接には非常に良好な平坦性を有する鋼板が必要である)に適するであろう鋼板を有することも望ましい。
【0014】
均質な方法(即ち、同じ組成の2枚の鋼板の溶接)または不均質な方法(異なる鋼組成の2枚の鋼板の溶接)のいずれかで容易に溶接可能であり、さらにプレス焼入れされ得、これらのプレス焼入れ溶接は高い機械的性質を有する鋼板を有することが望ましい。
【0015】
また、無コーティング状態またはプレス焼入れ後の耐食性を鋼基板に与える金属コーティングのいずれかで利用できるプレス焼入れ用の鋼組成物を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的のために、本発明の第1の目的は、重量で、0.062%≦C≦0.095%、1.4%≦Mn≦1.9%、0.2%≦Si≦0.5%、0.020%≦Al≦0.070%、0.02%≦Cr≦0.1%、ここで、1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7%であり、0.040%≦Nb≦0.060%、3.4×N≦Ti≦8×N、ここで、0.044%≦(Nb+Ti)≦0.090%であり、0.0005≦B≦0.004%、0.001%≦N≦0.009%、0.0005%≦S≦0.003%、0.001%≦P≦0.020%、場合により0.0001%≦Ca≦0.003%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である鋼の化学組成を有するプレス焼入れ鋼部品であって、ここで、該プレス焼入れ鋼部品の微細構造が、部品の大部分において、表面割合で、40%未満のベイナイト、5%未満のオーステナイト、5%未満のフェライトを含み、残部がマルテンサイトであり、マルテンサイトは新鮮なマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイトからなるプレス焼入れ鋼部品である。
【0017】
好ましくは、組成は、1.7%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.3%である。
【0018】
好ましい態様では、鋼部品のC含有率は、0.065%≦C≦0.095%である。
【0019】
好ましくは、微細構造は、表面割合で少なくとも5%の自己焼戻しマルテンサイトを含む。
【0020】
新鮮なマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイトの表面割合の合計は、65から100%の間に含まれることが好ましい。
【0021】
好ましい態様によれば、窒化チタンの平均サイズは、部品の1/4の厚さと部品の最も近い表面との間に含まれる外側領域において2マイクロメートル未満である。
【0022】
好ましくは、硫化物の平均長さは、部品の1/4の厚さと部品の最も近い表面との間に含まれる外側領域において120マイクロメートル未満である。
【0023】
好ましい態様によれば、プレス焼入れ鋼部品は、0.15より大きい変形量を有する少なくとも1つの熱間変形領域(A)と、領域(A)とプレス焼入れにおいて同じ冷却サイクルを受け、変形量は0.05未満である少なくとも1つの領域(B )とを含む。
【0024】
領域(B)と熱間変形領域(A)との間の硬度の差は、好ましくは20HVより多い。
【0025】
好ましくは、熱間変形領域(A)におけるマルテンサイト-ベイナイト構造の平均ラス幅は、領域(B)におけるマルテンサイト-ベイナイト構造のラス幅と比較して50%超減少する。
【0026】
好ましい態様では、熱間変形領域(A)におけるマルテンサイト-ベイナイト構造の平均ラス幅は1μm未満である。
【0027】
領域(B)におけるマルテンサイト-ベイナイト構造の平均ラス幅は、好ましくは1から2.5μmの間である。
【0028】
本発明の1つの態様によれば、プレス焼入れ鋼部品は、金属コーティングで被覆される。
【0029】
金属コーティングは、亜鉛系合金または亜鉛合金であることが好ましい。
【0030】
好ましくは、金属コーティングは、アルミニウム系合金またはアルミニウム合金である。
【0031】
好ましい態様において、プレス焼入れ部品は、700から950MPaの間に含まれる降伏応力、950から1200MPaの間に含まれる引張応力TS、および75°より高い曲げ角度を有する。
【0032】
好ましい態様によれば、プレス焼入れ鋼部品は可変の厚さを有する。
【0033】
非常に好ましくは、可変の厚さは、連続的で、フレキシブル圧延法によって製造される。
【0034】
本発明の別の目的は、プレス焼入れされたレーザ溶接鋼部品であって、ここで、溶接の少なくとも1つの第1の鋼部品は、少なくとも1つの第2の鋼部品と溶接された、上述のAl被覆部品であり、第2の鋼部品の組成は、0.065から0.38重量%の炭素を含み、ここで、第1の鋼部品と第2の鋼部品との間の溶接金属が、0.3重量%未満のアルミニウム含有率を有し、第1の鋼部品、第2の鋼部品、および溶接金属は、同じ操作でプレス焼入れされる該プレス焼入れされたレーザ溶接鋼部品である。
【0035】
本発明はまた、以下の連続した工程:
- 上記の組成を有する鋼半製品を提供する工程、
- 半製品を熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る工程、次いで
- 巻き取られた鋼板を得るために、550℃からMsの間に含まれる巻取り温度Tcで熱間延鋼板を巻取り、Msは鋼板のマルテンサイト変態開始温度である工程、
- 場合により、巻き取られた鋼板を冷間圧延する工程、
- 焼鈍された鋼板を得るために、10%未満の未再結晶面積割合を得るために焼鈍温度Taで鋼板を焼鈍する工程、
- ブランクを得るために、焼鈍された鋼板を所定の形状に切断する工程、
- 加熱されたブランクを得るために、ブランクを加熱し、890℃から950℃の間に含まれる温度Tmでブランクを保持し、該温度での保持時間Dmは1から10分の間に含まれる工程、
- 加熱されたブランクを成形プレス内で移送する工程であって、移送時間Dtが10秒未満である工程、
- 成形部品を得るために、加熱されたブランクを成形プレス内で熱間成形する工程、
- 750から450℃の間の温度範囲で40から360℃/秒の間に含まれる冷却速度CR1および450から250℃に含まれる温度範囲で15から150℃/秒の間の冷却速度CR2で成形した部品を冷却する工程であって、ここで、CR2<CR1である該工程
を含むプレス焼入れ鋼部品を製造する方法を目的とする。
【0036】
好ましくは、冷間圧延率は50から80%の間である。
【0037】
焼鈍温度Taは、好ましくは800から850℃の間、非常に好ましくは800から835℃の間に含まれる。
【0038】
特定の態様では、ブランクは、ブランクを温度Tmで加熱する前に冷間成形される。
【0039】
好ましくは、熱間成形は、該部品の少なくとも1つの熱間変形領域において0.15より高い変形量で行われる。
【0040】
好ましい態様では、焼鈍された鋼板ブランクを予め定められた形状に切断する前に、焼鈍された鋼板に金属のプレコートをプレコートする。
【0041】
金属プレコートは、好ましくは、亜鉛、または亜鉛系合金、または亜鉛合金である。
【0042】
好ましくは、金属プレコートは、アルミニウム、またはアルミニウム系合金、またはアルミニウム合金である。
【0043】
好ましい態様によれば、金属プレコート鋼板は、Alおよび鉄および場合によりケイ素を含有する少なくとも1つの金属間化合物層でプレコートされ、該金属プレコート鋼板は、遊離AlもFeSiAl12型のτ相もFeSiAl型のτ相も含まない。
【0044】
別の好ましい態様では、金属プレコートは、亜鉛または亜鉛系合金または亜鉛合金の層によって覆われたアルミニウムまたはアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の層を含む。
【0045】
本発明はまた、プレス焼入れされたレーザ溶接鋼部品を製造する方法であって、連続する以下の工程
- 上述の組成を有し、アルミニウムまたはアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の金属プレコートでプレコートされた少なくとも1つの第1の鋼板を提供する工程、
- 0.065から0.38重量%の炭素を含有する組成を有し、アルミニウムまたはアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の金属プレコートでプレコートされた少なくとも1つの第2の鋼板を提供する工程、
- 第1の鋼板および第2の鋼板の周縁の一辺に沿って上下の側のアルミニウムプレコートの厚さの一部を除去する工程、次いで
- 溶接金属中のアルミニウム含有率が0.3重量%未満となるように、第1の鋼板および第2の鋼板をレーザ溶接することにより溶接ブランクを作製する工程であって、レーザ溶接がアルミニウムプレコートの一部が除去された周縁部に沿って行われる工程、
- 加熱溶接されたブランクを得るために、溶接されたブランクを加熱し、溶接されたブランクを890から950℃の間に含まれる温度Tmで保持し、該温度での保持時間Dmは1から10分の間に含まれる工程、
- 加熱された溶接ブランクを成形プレス内で移送する工程であって、移送時間Dtが10秒未満である工程、
- 溶接された成形部品を得るために、加熱された溶接ブランクを成形プレス内で熱間成形する工程、
- 750から450℃の間の温度範囲で40から360℃/秒の間に含まれる冷却速度CR1および450から250℃に含まれる温度範囲で15から150℃/秒の間の冷却速度CR2で、溶接された成形部品を冷却する工程であって、ここで、CR2<CR1である工程
を含む該方法を目的とする。
【0046】
好ましくは、保持時間Dmは、1から6分の間に含まれる。
【0047】
本発明はまた、車両の構造部品または安全部品の製造のための、上記のような部品の使用、または上記の方法に従って製造された部品の使用を目的とする。
【0048】
本発明は、以下の図を考慮して、より詳細に説明されるが、限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明に従って製造されたプレス焼入れ部品の微細構造を示す。
図2】本発明に従って製造されたプレス焼入れ部品の微細構造を示す。
図3】本発明に対応しない鋼組成物から製造されたプレス焼入れ部品の微細構造を示す。
図4】本発明に対応しない鋼組成物から製造されたプレス焼入れ部品の微細構造を示す。
図5】本発明に対応しない鋼組成物から製造されたプレス焼入れ部品における、亀裂伝搬経路に対する大きなサイズの窒化チタンの影響を示す。
図6】本発明に対応しない鋼組成物から製造されたプレス焼入れ部品中の大きなサイズの硫化マンガンを示す。
図7】プレス焼入れ部品の表面付近の外側領域を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
プレス焼入れされた鋼部品は、特定の組成を有する鋼板から製造され、その元素は以下のように重量パーセントで表される。
【0051】
- 0.062%≦C≦0.095%:充分な焼入れ性(quenchability、hardenability)と、プレス焼入れ後の十分な引張強度を得るには、炭素含有率は0.062%以上である必要がある。このような特性を安定して得るためには、C含有率を0.065%以上にすることが最適である。しかし、炭素含有率が0.095%を超えると、曲げ性および溶接靱性が低下する。
【0052】
- 1.4%≦Mn≦1.9%:プレス焼入れ後に十分なマルテンサイト割合を有する構造を得るために、十分な焼入れ性を有するためにマンガンは1.4%未満であってはならない。しかし、マンガンの含有率が1.9%より高いと、延性低下に関連するバンドタイプの微細構造を有する偏析の形成の危険性が増加する。
【0053】
- 0.2%≦Si≦0.5%:ケイ素は液体段階での鋼の脱酸と熱間成形後の焼入れに寄与する。これらの効果を得るためには、Siは0.2%より高くなければならない。しかし、Siは、プレス焼入れにおける冷却工程中のオーステナイトの過度の安定化を避けるために、0.5%を超えてはならない。さらに、そのような高いSi含有率によって、金属被覆鋼板の製造におけるコーティングの付着を防止する表面酸化物の形成が引き起こされる可能性がある。
【0054】
- 0.020%≦Al≦0.070%:0.020%以上の量で添加すると、アルミニウムは液体状態で非常に効果的な脱酸剤である。しかし、Alが0.070%を超えると、液体状態の粗大なアルミネートが形成され、プレス焼入れ部の延性を低下させる危険性がある。
【0055】
- 0.02%≦Cr≦0.1%:0.02%より多い量で、クロムを添加することはプレス焼入れ中の焼入れ性を高めるのに有効である。しかし、焼入れ性を増加させる、組成の他の元素と組み合わせて、0.1%より高いCrの添加は、変形領域においても完全なマルテンサイト構造の条件に有利に働き、延性を増加させるベイナイトが形成される可能性はない。
【0056】
- 0.030%≦Nb≦0.060%:炭素および/または窒素と組み合わせて、ニオブは微細なNb(CN)を形成する。Nb含有率が0.030%以上であれば、熱間プレス成形直前の加熱中にオーステナイト粒径を微細化するそのような析出物を得ることができる。このより微細なオーステナイト粒は、より微細なラス構造をもたらし、延性と靱性を増加させる。しかし、含有率が0.060%を超えると、熱間圧延板の硬度がより高くなり、熱間バンド圧延を実施することがより困難になる。
【0057】
- 3.4×N≦Ti≦8×N:チタンが窒化物の形で高温で析出する。Tiが3.4×N以上であれば、十分な量の窒素がチタンと安定に結合しているので、窒素はもはやホウ素と結合するのに利用できない。従って、ホウ素は、オーステナイト粒界に向かって拡散し、冷却時にオーステナイトの変態を遅延させ、焼入れ性を高めるために利用可能である。しかし、チタンが8×Nを超えると、鋼の精錬中に液体段階でチタンが析出し、プレス焼入れ後の延性および曲げ性を低下させる粗大な窒化チタンが生成する危険性がある。さらにより好ましくは、Ti含有率は7×N未満である。
【0058】
- 0.044%≦(Nb+Ti)≦0.090%:プレス焼入れ後に950MPaより高い引張強度を得るのに寄与する析出物を得るためには、ニオブおよびチタンの含有率の合計は0.044%以上でなければならない。しかし、プレス焼入れ後の曲げ角度が75°未満になる危険性が増えない限り、チタンとニオブの合計は0.090%を超えてはならない。
【0059】
- 0.0002%≦B≦0.004%:ホウ素は、少なくとも0.0002%の含有率で、冷却時のフェライトの形成を防止し、プレス焼入れ工程中の焼入れ性を高める。このレベルを超えると、その効果は飽和し、さらなる添加は有効でないため、その含有率は0.004%に制限される。
【0060】
- 0.001%≦N≦0.009%:鋼の精錬中に窒素含有率が調整される。0.001%以上の含有率では、窒素がチタンおよびニオブと結合して、加熱中のオーステナイト粒の粗大化を制限し、ひいてはプレス焼入れ後に得られるマルテンサイトのラスおよびベイナイト構造を緻密化する窒化物および炭窒化物を形成する。しかし、N含有率が0.009%を超えると、プレス焼入れ部品の曲げ角度が低下し、延性が低下する。さらにより好ましくは、窒素含有率は0.007%未満である。
【0061】
- 0.0005%≦S≦0.003%:プレス焼入れ部品の曲げ性および延性を低下させる硫化物が生成するため、硫黄含有率は0.003%を超えてはならない。しかし、S含有率が0.0005%よりも低いと、著しく有益なことなく費用のかかる脱硫処理が必要となる。従って、0.0005%以上のS含有率が好ましい。
【0062】
- 0.001%≦P≦0.020%:0.020%より高い量で存在すると、リンはオーステナイト粒界で偏析し、プレス焼入れ部品の靱性を低下させる可能性がある。しかし、0.001%未満のP含有率では、プレス焼入れ部品の機械的特性に大きな利益をもたらすことなく、液体段階で費用のかかる処理が必要となる。従って、0.001%以上のP含有率が好ましい。
【0063】
- 0.0001%≦Ca≦0.003%:任意成分として、カルシウムを鋼組成物に添加することができる。0.0001%以上の含有率で添加すると、Caは硫黄および酸素と結合し、細長い硫化マンガンの場合のように、延性に悪影響を及ぼさないオキシ硫化物を生成する。さらに、これらのオキシ硫化物は、(Ti、Nb)(C、N)の微細析出のための核生成剤として作用する。この効果は、Ca含有率が0.003%を超えると飽和する。
【0064】
1.5%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.7%:炭素、マンガン、ケイ素、クロムは焼入れ性を高める元素である。所望の結果が得られるように組み合わせて、これらの元素の含有率の合計が選択される。(C+Mn+Si+Cr)が1.5重量%未満では、マルテンサイトの所望の表面割合を得るには焼入れ性が不十分である危険性がある。しかし、これらの元素の含有率の合計が2.7%より高いと、プレス焼入れ部品の靱性を低下させるおそれがある新鮮なマルテンサイトを多量に生成する危険性がある。好ましくは、焼入れ性および靭性に関する非常に効率的で安定した結果を確実にするために、含有率は1.7%≦(C+Mn+Si+Cr)≦2.3%である。
【0065】
次に、本発明のプレス焼入れ鋼部品の微細構造について説明する。この微細構造の説明は、プレス焼入れ鋼部品の大部分にあてはまり、それは所望の機械的特性を達成するために、この微細構造がプレス焼入れ部品の体積の少なくとも95%に存在することを意味する。以下に説明するように、プレス焼入れ前に部品を溶接できること、即ち、溶接微細構造がプレス焼入れ部品のバルクと異なる可能性があるという事実のために、またはプレス形成工程におけるより強い局所的変形に起因し得る微細構造の変化のために、この部品の体積の5%未満を占める、部品の一部の領域でミクロ構造が局所的に異なることがある。
【0066】
従って、焼入れ部品の大部分は、表面割合で50%を超えるマルテンサイトを含有する。表面割合は、以下の方法、即ち、微細構造を明らかにするために、プレス焼入れ部品から試験片を切り出し、それ自体既知の試薬で研磨してエッチングすることにより決定される。その後、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で断面を検査する。各構成要素(マルテンサイト、ベイナイト、フェライト、オーステナイト)の表面割合の測定は、それ自体既知の方法による画像解析を用いて行われる。
【0067】
マルテンサイトは、従来のオーステナイト粒内に配向された微細な細長いラスとして存在する。
【0068】
プレス焼入れ工程における冷却速度およびマルテンサイトへのオーステナイトの変態温度Msによれば、マルテンサイトは新鮮なマルテンサイトおよび/または自己焼戻しされたマルテンサイトとして存在することができる。これらの副構成要素の特定の特徴は、電子顕微鏡観察によって以下のように決定することができる。
- 自己焼戻しされたマルテンサイトは炭化鉄を含む微細なラスとして現れ、炭化物はラス格子の<111>方向に沿って配向される。それは、この析出を可能にするのに熱間成形後の冷却速度が高過ぎない場合に、Msよりも低い温度範囲で炭化物が析出することによって得られ、
- 対照的に、新鮮なマルテンサイトは、ラスまたはフィルムの形態で、そのような炭化物析出物を含まない。
【0069】
本発明の好ましい態様によれば、プレス焼入れ部品における新鮮なマルテンサイトおよび自己焼戻しされたマルテンサイトの表面割合の合計は65から100%の間に含まれる。このような条件は、750から450℃の温度範囲でプレス焼入れにおける冷却速度が40から360℃/秒に含まれる場合、少なくとも950MPaの引張強度を達成するのに寄与する。
【0070】
別の好ましい態様によれば、プレス焼入れ部品の微細構造は、表面割合において少なくとも5%の自己焼戻しマルテンサイトを含む。従って、微細構造が新鮮なマルテンサイトのみを含有する状況と比較して、延性および曲げ性が増加する。
【0071】
- プレス焼入れ部品の靭性および曲げ性を高めるために、部品の微細構造は40%未満の表面割合でベイナイトも含む。構造中にマルテンサイトのみが存在する状況と比較して、ベイナイトによりより高い延性を得ることが可能になる。
【0072】
- 部品の微細構造はフェライトを含むことができる。しかし、この軟質で延性のある構成要素により、高い引張応力を達成することできない。従って、本発明の1つの目的は、950から1200MPaの間に含まれる引張強度を有するプレス焼入れ部品を製造することであるので、フェライトの表面割合は5%より高くてはならず、そうでなければ所望の強度を得ることができない。
【0073】
- 部品の微細構造は少ない割合のオーステナイトを含むこともできる。これは室温で残留オーステナイトである。炭素およびケイ素の含有率が高いと、冷却時のオーステナイトの変態温度は、オーステナイトが室温で安定する程度に低下することがある。オーステナイトは、これら2種の構成要素を結合するマルテンサイト-オーステナイト(または「M-A」)島の形態で存在することがある。5%未満の表面割合で存在する場合、オーステナイトは延性を高めるのに寄与する。しかし、オーステナイトの割合がより高いと、このオーステナイトは高い安定性を有しておらず、衝突や温度低下の場合には新鮮なマルテンサイトに容易に変態することができないため、靭性が低下する危険性がある。
【0074】
プレス焼入れ部品は高い曲げ特性を有していなければならないので、この目的のために窒化チタンの平均粒径を制御しなければならないことが判明した。TiNの平均サイズは、走査型または透過型電子顕微鏡観察による観察によって決定することができる。より具体的には、TiNの平均サイズは、曲げの間に最もひずんだ領域であるプレス焼入れ部品の表面付近の外側領域において限定されなければならないことが判明した。これらの領域は、部品の1/4の厚さと部品の最も近い表面との間に含まれる。プレス焼入れ部品の主表面に平行なそのような外側領域は、図7のプレス焼入れ帽子形状部分(または「オメガ」形状)の概略図の一例として示されており、それらは(A)および(B)と称される。外側領域のこのような図示は、この特定の帽子形状の形状に限定されず、あらゆるプレス焼入れ部品の形状に適用されることが理解される。
【0075】
TiNの平均サイズが2マイクロメートル以上である場合には、矩形状の窒化チタンと母材との境界で損傷が開始し、曲げ角度が75°未満となる場合がある。
【0076】
これらの外側領域では、損傷開始が細長い硫化物の存在の結果として生じる危険性もある。硫黄含有率が主としてマンガンと結合するのに十分高い場合、これらの構成要素は粗い析出物の形態で存在する可能性がある。高温ではその可塑性が高いので、それらは熱間圧延によりおよびプレス焼入れにおける熱間変形中に容易に伸長する。従って、硫化物の平均長さが外側領域(即ち、1/4の厚さから最も近い表面まで)において120マイクロメートルよりも高い場合には、これらの硫化物上での延性開始により、破壊ひずみは0.60未満になり得る。
【0077】
上述のこのプレス焼入れ部品は被覆されていなくてもよく、または場合により被覆されてもよい。コーティングは、アルミニウム系合金またはアルミニウム合金であってもよい。コーティングは、亜鉛系合金または亜鉛合金であってもよい。
【0078】
特定の実施形態では、本発明のプレス焼入れ鋼部品は、均一ではないが変化し得る厚さを有することができる。従って、最も外部応力を受ける領域において所望の機械的抵抗レベルを達成することができ、プレス焼入れ部品の他の領域では重量を削減することができるので、車両の軽量化に寄与する。特に、厚さの不均一な部品は、連続的な、フレキシブル圧延、即ち、圧延後の鋼板厚が圧延処理中にローラを介して鋼板に加えられた荷重に関連して、圧延方向に可変である方法によって製造することができる。従って、本発明の条件内で、フロントレールおよびリアレール、シートクロスメンバー、トンネルアーチ、ピラー、ダッシュパネルクロスメンバー、またはドアリング等、様々な厚さの車両部品を有利に製造することが可能である。
【0079】
次に、プレス焼入れ部品の製造方法について説明する。
【0080】
さらに熱間圧延が可能な鋳造スラブまたは鋳塊の形態の半製品は、上述の鋼組成を備える。この半製品の厚さは、典型的には50から250mmの間に含まれる。
【0081】
この半製品は熱延鋼板を得るために熱間圧延され、温度Tcで巻き取られる。巻き取り温度は550℃以下でなければならず、さもなければ、炭窒化ニオブの析出があまりにも顕著であり、これが焼入れを誘発し、さらなる冷間圧延工程に対する難点を増大させる。Tcが550℃を超えない場合、少なくとも50%の遊離ニオブが鋼板に残る。冷間圧延工程をより困難にするマルテンサイトの形成を避けるためには、またTcはMsより低くてはならない。
【0082】
この段階で、熱間圧延鋼板の厚さは、1.5から4mmの典型的な範囲にある。所望の最終厚さが2.5から4mmの範囲である用途の場合には、鋼板は、以下に記載される方法で直接焼鈍されてもよい。0.8から2.5mmの範囲の用途では、通常の条件で熱延鋼板は酸洗され、さらに冷間圧延される。冷間圧延率は以下のように定義され、即ち、tが冷間圧延前の厚さを示し、tが冷間圧延後の厚さを示すと、圧延率は(t-t)/tである。今後の焼鈍の間に高い割合の再結晶を得るために、冷間圧延率は、典型的には50から80%の間に含まれる。
【0083】
次いで、熱間圧延された、または熱間圧延され、且つさらに冷間圧延された鋼板は、10%未満の割合の未再結晶を得るように選択された温度Taで、変態区間範囲Ac1-Ac3で焼鈍される。未再結晶化割合が10%未満であると、焼鈍後の鋼板の平坦性が特に良好であることが証明され、これはレーザ溶接に使用することができる鋼板またはブランクを製造することが可能になる。レーザ溶接は、厳密な平坦度公差を有するブランクが求められる。そうでなければ、間隙のために溶接に幾何学的欠陥が生じる可能性がある。800から850℃の間に含まれる焼鈍温度Taにより、この結果を得ることが可能になる。800から835℃の好ましい範囲の焼鈍温度により、非常に安定した結果を達成することが可能になる。
【0084】
温度Taでの保持工程の後、方法の直ぐ後の工程は、製造されるべき鋼板の種類に依存する。
- 被覆されていない鋼板が製造される場合、焼鈍された鋼板は室温まで冷却される。
- あるいは、金属プレコートを有する鋼板を製造することができる。
- 所望のプレコートがアルミニウム、アルミニウム系合金(即ち、プレコートの重量パーセントにおいてAlが主元素である)またはアルミニウム合金(即ち、プレコートの重量においてAlが50%より高い)である場合、鋼板は 約670から680℃の温度の浴中でホットディップされ、正確な温度はアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の組成に依存する。好ましいプレコートは、重量で、5から11%のSi、2から4%のFe、場合により0.0015から0.0030%のCaを含み、残部がAlおよび精錬から生じる不純物である浴に鋼板をホットティップすることによって得られるAl-Siである。
【0085】
その後、鋼板は室温まで冷却される。選択肢として、鋼基材中にプレコートの予備合金化を得るために、このAl、Al系またはAl合金板は、620から680℃の範囲の温度でさらなる熱処理に供することができる。この前処理により、さらなるプレス焼入れ工程において鋼ブランクをより迅速に加熱することが可能になる。この予備合金処理の後、プレコートは、Alおよび鉄、および場合によりケイ素を含有する少なくとも1つの金属間化合物層を含み、遊離AlもFeSiAl12型のτ相もFeSiAl型のτ相も含まない。
【0086】
- 所望のプレコートが亜鉛、亜鉛系合金または亜鉛合金である場合、約460℃の温度の浴に鋼板がホットディップされて、その正確な温度が亜鉛系合金または亜鉛合金の組成に依存する。7から11%のFeを含むプレコートを得るために、プレコートは、即ち、約450から520℃の溶融亜鉛めっきの直後の熱処理をはじめとする連続的な溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきであることができる。
【0087】
選択肢として、金属プレコート工程は、2層の蒸着を含むことができ、即ち、金属プレコートは、亜鉛または亜鉛系合金または亜鉛合金である層によって覆われたアルミニウムまたはアルミニウム系合金またはアルミニウム合金の層から構成される。
【0088】
次いで、さらなる工程で熱間成形することができる平坦なブランクを得るために、未被覆またはプレコートされた、焼鈍された鋼板は所定の形状に切断される。
【0089】
選択肢として、加熱およびプレスにおける熱間成形工程の前に、予備変形されたブランクを得るためにブランクを冷間成形することができる。この冷間予備変形により、次の熱間成形工程における変形量を減少させることが可能になる。
【0090】
次に、平らなまたは冷間予備変形されたブランクは、890から950℃の間に含まれる温度Tmで加熱される。加熱手段は限定されず、放射線、誘導、または抵抗に基づくものであってもよい。加熱されたブランクは、1から10分の間の持続時間Dmの間、Tmで保持される。これらの(温度-持続時間)により、オーステナイトへの鋼の完全な変態を得ることが可能になる。ブランクがプレコートされている場合には、この処理によりプレコートと鋼基材との相互拡散が生じる。従って、加熱の間に、金属間相が相互拡散によって一時的にまたは決定的に作り出され、それによりホットプレスにおけるさらなる変形を容易にし、鋼表面の脱炭および酸化を防止することが可能になる。処理効率を高めるために、持続時間Dmは1から6分の間である。
【0091】
加熱および保持工程の後、加熱されたブランクは、例えば、加熱炉であることができる加熱装置から引き出される。加熱されたブランクは成形プレスに移され、移送時間Dtは10秒未満である。この移送は、プレス中の熱間変形前の多角形のフェライトの形成を避けるために十分速くなければならず、さもなければプレス焼入れ部品の引張強度が950MPa未満になる危険性がある。
【0092】
成形部品を得るために、加熱されたブランクはその後成形プレスで熱間成形される。成形工程の間、変形の方法および量は、最終部品および成形工具の形状のために、場所によって異なる。例えば、いくつかの領域は拡張中であることができ、他の領域は拘束中に変形する。どのような変形方法であっても、等価変形εを以下のものとしてプレス焼入れ部品の各位置で定義することができる。
【数1】
式中εおよびεは主な変形である。従って、εはプレス焼入れ部品の各領域における熱間成形工程によって導入されるひずみの量を表す。
【0093】
部品は、適切な冷却速度を確保し、収縮および相変態による部品のひずみを回避するために、成形プレスの工具内に保持される。
【0094】
部品は主に、工具との熱伝達による伝導によって冷却される。工具は、冷却速度を上げるための冷媒循環、または冷却速度を低下させるために加熱カートリッジを含むことができる。従って、冷却速度は、このような手段の実施によって調整することができる。
【0095】
本発明によるプレス焼入れ部品を得るために、成形された部品は、最初に、750から450℃の間の温度範囲で、40から360℃/秒の冷却速度CR1で冷却される。この範囲内では、マルテンサイト、最終的にはベイナイトへのオーステナイトの変態が起こる。
【0096】
さらなる工程では、450℃から250℃に含まれる温度範囲で、冷却速度CR1よりも遅い、即ち、CR2<CR1である15から150℃/秒の冷却速度CR2で部品が冷却される。この範囲内では、マルテンサイトの自己焼戻しがある程度起こることがあり、即ち、微細な炭化物が析出する。この自己焼戻し工程により靭性が高まる。
【0097】
記載された方法によって得られる部品は、典型的には0.8から4mmの間に含まれる厚さを有する。
【0098】
本発明者らは、部品の使用中に高い応力集中を受けるプレス焼入れ部品の領域において高い延性を得る方法を見出した。成形プレス内の領域が0.15より大きい等価ひずみεで変形される場合には、本発明者らは、これらの変形領域の構造がより微細であり、より柔らかくより延性のある相がこれらの領域で得られることを示した。
【0099】
本発明者らは、変形していないまたはほとんど変形していない領域(後者はε<0.05の領域を指定)をひずみが0.15よりも高い量で適用された領域と比較した。非常にひずんだ領域の硬度は、プレス焼入れ部品のひずんでいないまたはほとんどひずんでいない領域と比較して、20HV1(HV1は1kgfの荷重の下で測定したビッカース硬度)超も下回った。この局所的な軟化は靭性の増加に対応する。しかし、軟化の量は制限されたままであり、そのことはこれらの変形領域において降伏応力および引張強度の要件が満たされることを意味する。
【0100】
平均の(新鮮なまたは自己焼入れされた)マルテンサイト/ベイナイトのラスサイズLは、ほとんど変形していない領域または高度に変形した領域で測定された。微細構造を明らかにするために適切なエッチングの後、ラスサイズは、それ自体既知の切片法によって決定される。適用されたひずみが0.15より高い領域では、平均のベイナイト/マルテンサイトのラスサイズ幅は1μm未満である。これと比較して、ほとんど変形していない領域の平均ラスサイズLsは1から2.5μmの範囲にある。また、0.15より高いひずみレベルの適用により、ほとんど変形していない領域と比較して、50%を超えてラスサイズを減少させることが証明された。このラスサイズの減少により、最終的な亀裂開始および伝播に対する耐性が高まる。
【0101】
従って、鋼組成物とプレス焼入れパラメータとの組み合わせにより、部品の目標とされた領域において高延性を達成することが可能になる。自動車用途では、成形された部品は、衝突の場合に高い延性を示す。
【0102】
本発明の他の目的は、プレス焼入れ部品の高い機械的特性を利用する、アルミニウムコーティングを有するプレス焼入れされた溶接鋼部品であり、そのような部品を製造するために、AlまたはAl系合金またはAl合金で被覆した、上記の組成を有する少なくとも1つの第1の鋼板が提供される。この第1の鋼板と共に、AlまたはAl系合金またはAl合金でプレコートされた少なくとも1つの第2の鋼板が提供される。鋼板は、同じ組成または異なる組成、および同じ厚さまたは異なる厚さを有することができる。異なる組成の場合には、所望の延性特性を有する溶接部を生成するために、第2の鋼の炭素含有率は0.065から0.38%の間に含まれなければならないことが証明された。
【0103】
第1および第2の鋼板は、それらのそれぞれの周縁側の1つに沿って溶接される。これらの周縁側上では、Alプレコートの厚さの一部が除去される。この除去は、パルスレーザーアブレーションまたは機械的アブレーションによって行うことができる。このアブレーションの目的は、プレコートの多すぎる量のAlが溶融して、溶融金属に混入することを避けることである。初期Alプレコートの厚さおよび鋼板の厚さによれば、アブレーションによって除去されるべきAlの量は、程度の差はあるが多いことがある。本発明者らは、第1の鋼板と第2の鋼板との間に生成された溶接金属中のAl含有率が0.3重量%未満となるようにアブレーション条件を適合させなければならないことを示した。さもなければ、脆い金属間化合物が溶接部に析出するか、または高いAl含有率により、アルミニウムのアルファジェン特性のためにプレス成形前に加熱するとオーステナイトへの変態が防止される可能性がある。
【0104】
従って、これらの条件が満たされる場合、第1および第2の鋼板は、熱間成形中に亀裂の危険性なしに、上記の条件でプレス焼入れすることができる。溶接金属と第1および第2の鋼板とが同じ作業でプレス焼入れされた、このようにして得られたプレス焼入れされた溶接部品は、高い機械的抵抗および延性特性を示す。
【実施例
【0105】
限定的ではない以下の実施例によって本発明を説明する。
【0106】
[実施例1]
重量パーセントで表した表1の組成を有する鋼をスラブの形態で提供した。これらのスラブは1250℃で加熱され、熱間圧延され、520℃で巻き取られた。酸洗後、熱間圧延鋼板を圧延率50%で1.5mmの厚さまで冷間圧延した。その後、10%未満の未再結晶の表面割合を得るために、鋼板を830℃で焼鈍して、675℃の浴中で連続的にホットディップすることによってAl-Siでプレコートした。プレコートの厚さは、両側で25μmである。これらのプレコートされた鋼板をブランクに切断し、これをさらにプレス焼入れした。
【0107】
【表1】
【0108】
表2は、適用されたプレス焼入れ条件、即ち、加熱温度Tm、加熱時間Dm、移送時間Dt、および冷却速度CR1およびCR2を詳述する。
【0109】
【表2】
【0110】
降伏応力YSおよび引張強度TSは、規格ISO(EN 10002-1)に従って20×80mmの試験片を用いてプレス焼入れ部品について決定した。
【0111】
臨界曲げ角度は、VDA-238曲げ規格に従って、2本のローラで支持された60×60mmのプレス焼入れ部品について決定した。曲げる力は、半径0.4mmの鋭いパンチによって行われる。ローラとパンチの間隔は、被検査部品の厚さに等しく、0.5mmのクリアランスが加えられる。亀裂の出現は、荷重-変位曲線における荷重の減少と一致するので、検出される。荷重が最大値の30Nを超えて低下すると、試験を中断する。各サンプルの曲げ角度(α)は、無負荷後、ひいては試験片のスプリングバック後に測定する。曲げ角度の平均値αを得るために各方向(圧延方向および横方向)に沿った5つのサンプルを曲げる。
【0112】
破壊ひずみは、車両の衝突を考慮して最も厳しい条件である平面ひずみ条件で試験片を曲げることによって決定する。これらの試験から、破壊が発生したときの試験片の臨界変位を決定することが可能である。他方、有限要素解析は、そのような試験片の曲げをモデル化すること、即ち、そのような臨界変位のために曲げ領域に存在するひずみレベルを知ることを可能にする。このような臨界条件におけるこのひずみは、材料の破壊ひずみである。
【0113】
このような機械的試験の結果を表3に示す。慣例により、試験条件は鋼の組成とプレス焼入れ組成とを関連付ける。従って、I1Bは、例えば、条件Bで試験した鋼の組成物I1を指す。
【0114】
表3は、プレス焼入れ部品のいくつかの微細構造の特徴も示している。種々の構成要素の表面割合は、特定の構成要素を明らかにするために、異なる試薬(Nital、Picral、Bechet-Beaujard、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびLePera)を用いて試験片を研磨およびエッチングすることによって決定した。表面割合の定量化は、画像解析とAphelion(商標)ソフトウェアを使用して、少なくとも100×100μmの10を超える代表領域について行った。
【0115】
TiNおよび硫化物の測定は、X線微量分析に関連する光学顕微鏡法である走査型電子顕微鏡を用いて行った。これらの観察は、ひずみが曲げ態様において最も顕著である試験片の表面近くに位置する領域で行った。これらのサブサーフェース領域は、4分の1の厚さと部品の最も近い表面との間に位置する。それぞれの場合において、TiNの平均サイズが2μmを超えるか、硫化物の平均サイズが120μmを超えるかどうかを決定した。
【0116】
【表3】
【0117】
試験I1B、I2A、I3A、I4Eにおいて、組成物およびプレス焼入れ条件が本発明に対応し、所望の微細構造の特徴が得られる。その結果、高い引張特性、高い延性および耐衝撃性が達成される。走査型電子顕微鏡によって観察された部品I1BおよびI2Aの微細構造がそれぞれ図1および図2に示される。構成要素に関するいくつかの詳細が顕微鏡写真で強調された。
【0118】
試験R1Aでは、C、Mn、Cr、Nbの含有率は本発明の条件を満たしていない。プレス焼入れ条件が本発明の範囲に従っても、自己焼戻しマルテンサイトの量が不十分であり、曲げ角度および破壊ひずみが要求値を満たさない。
【0119】
試験I2Cでは、組成物が本発明の元素範囲に対応しても、加熱温度Tmが不十分である。結果として、フェライトの表面割合が高すぎ、マルテンサイトの表面割合が低すぎる。従って、700MPaの降伏応力に達することはできない。
【0120】
試験R2Dでは、高い冷却速度CR1およびCR2のために、自己焼戻しマルテンサイトの量が不十分である。
【0121】
試験R3Bでは、C、CrおよびBの含有率が低すぎる。従って、焼入れ性が不十分であると、フェライト含有率が高すぎ、降伏応力および引張応力に達することができない。R3Bの微細構造は図3に示される。所与の処理(B)について、鋼の組成の影響は、部品I1B(本発明による)およびR3B(本発明によらない)の微細構造の比較を通して見ることができる。さらに、高いTi含率によって、2μmより大きい平均サイズを有するTiNの形成が引き起こされる。破壊試験では、いくつかの亀裂領域が観察された。図5は、これらの脆弱領域が、亀裂の開始部位として作用するTiN(矢印で図5に示される)の存在に対応することを示す。これらの粗いTiNは、プレス焼入れ部品の表面の近く、即ち、1/4の厚さと部品の最も近い表面との間に含まれる外側領域に位置する。その結果、破壊ひずみは不十分である。
【0122】
試験R4Aでは、NbおよびSの含有率が本発明の条件を満たさない。部品R4Aの微細構造が図4に示される。鋼I4AおよびR4Aの組成は、NbおよびSの含有率を除いて、非常に類似している。図1図4の比較から、従来のオーステナイト粒径は、Nbが存在しない場合にはより大きく、これにより、長さが増加したマルテンサイトラスが形成され、亀裂伝播に対する抵抗が少なくなることが分かる。さらに、R4Aはより高い硫黄含有率を有し、従って図6に示すように細長いMnSの形成を引き起こす。これらの細長い硫化物は、1/4の厚さと部品の最も近い表面との間に含まれる外側領域の近くに位置する。結果として、臨界曲げ角度および破壊ひずみは低すぎる。
【0123】
[実施例2]
上記条件I2AおよびR1Aで製造されたプレス焼入れ部品について、抵抗スポット溶接試験を行った。溶接パラメータは次のとおりであり、即ち、強度:7.2kA、溶接力:450daNである。溶接金属の近くの熱に影響された領域で最終的な軟化を決定するために、切断および研磨されたスポット溶接部について硬度試験を行った。溶接に関連する熱サイクルは、室温から鋼の液相線までの温度勾配を誘発する。Ac1からAc3の範囲の温度で加熱すると、プレス焼入れ部品の微細構造が軟化することがある。この軟化は、母材金属の硬度と熱に影響された領域の最低硬度値との差によって測定される。軟化が顕著過ぎる場合、軟化した領域に外部から加えられた応力が集中することがあり、ひずみ集中による早期破壊が引き起こされる。抵抗スポット溶接部について引張試験を行い、溶接部の全伸びを測定した。母材金属の伸びと比較して、溶接部は母材金属のものと比較して程度の差はあるが顕著であり得る伸びの変化を引き起こす。従って、相対的な伸びの変化は、(母材金属伸び-溶接部伸び)/母材金属の伸びによって定義される。結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
HAZ軟化の量は、本発明に従って製造されたプレス焼入れ部品I2Aにおいて、基準部品R1A程顕著ではない。この軟化領域の存在にもかかわらず、伸びの損失は、本発明I2Aの条件については測定されず、一方、伸びの損失は基準部品R1Aでは著しい。
【0126】
[実施例3]
組成I2およびR1を有するプレコートされたAl-Si鋼板を提供した。上述したように、前記製造方法により、レーザ溶接を可能にする厳密な平坦度公差を有するブランクを製造することが可能になる。
【0127】
さらに、表5の組成を有する厚さ25μmのAl-Siでプレコートされた厚さ1.5mmの鋼板も提供した。
【0128】
【表5】
【0129】
条件Aでプレス焼入れすると、この鋼は約2000MPaの引張強度UTSを得ることを可能にする。
【0130】
これらのAl-Siプレコートされた鋼ブランクを全て、それらの周縁側の1つでアブレーションした。Al-Siコーティングの金属部分を除去し、一方鋼基材とプレコートとの間の金属間層を所定の位置に残した。このアブレーションは、プレコートされた鋼板の上下の側に1mmの焦点スポットで、YAGレーザ4kWを用いて行った。
【0131】
その後、ヘリウム保護下で溶接速度6m/Mnで、4kW YAGレーザを用いてレーザ溶接を行った。様々な構成を試験した。
- 均質溶接:別のI2鋼板に溶接されたI2鋼板
- 異種溶接:鋼板R2またはR5に溶接されたI2鋼板。この場合、I2鋼(C=0.091%)は、C含有率がより高い鋼(R1では0.22%、R5では0.34%)と組み立てられる。
【0132】
全ての場合において、溶接前に行われたアブレーションにより、溶接金属中のアルミニウム含有率を0.3%未満にすることが可能になった。従って、金属間化合物の形成が回避され、プレス焼入れ前のオーステナイトへの溶接金属の完全な変態が達成された。全ての溶接継手を表2の条件Aに従って加熱してプレス焼入れし、プレス焼入れされたレーザ溶接鋼部品を製造した。このようにして、溶接継手の異なる要素(溶接部を包囲するベース鋼板、および溶接自体)を同じ作業でプレス焼入れした。引張試験片を、溶接部を横切る方向および隣接するベース鋼において機械加工した。溶接の結果を、隣接するベース鋼の結果と比較した。
【0133】
【表6】
【0134】
従って、Al-Si溶接部が0.3%未満のAlを含有するならば、本発明による鋼板は、脆化の危険性なしに0.34%までのC含有率を有する鋼板に溶接することができる。
【0135】
[実施例4]
種々の「オメガ」形状の部品を製造するために、鋼材I1を用意し、表2の条件Bでプレス焼入れした。これにより、小さな変形量(εb<0.05)の領域およびεb=0.18の領域を得ることができた。後者の領域は、使用条件における応力集中に対応する。
【0136】
これらの部品から試験片を切断し、微細構造を明らかにするためにNitalでエッチングした。これらの試験片を、電界放出銃を備えた電子顕微鏡によって5000倍および10000倍の倍率で観察した。観察された領域は、主としてマルテンサイト(新鮮なまたは自己焼戻し)およびベイナイトから構成される。マルテンサイトおよびベイナイトのラス幅の平均サイズ(即ち、これらの2つの構成要素を区別しない)は、切片法によって決定した。さらに、ビッカース硬度測定を異なる領域で実施した。
【0137】
結果を表7に示す。
【0138】
【表7】
【0139】
ひずみ領域は25HVの硬度低下を示す。この硬度値から推定されるように、このひずみ領域のUTSは約1050MPaであり、これは要求値を満たす。
【0140】
平均ラス幅に関して、ひずみ領域は、わずかなひずみ領域またはひずんでいない領域と比較して、50%を超える減少を示す。このように、変形した領域におけるより微細なラス構造により、部品の使用中に最も重要な領域における靱性の増加を達成することが可能になる。
【0141】
従って、本発明に従って製造された鋼部品は、車両の構造部品または安全部品の製造についての利益を伴って使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7