(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
G06F 1/20 20060101AFI20230621BHJP
G06F 1/16 20060101ALI20230621BHJP
G06F 3/02 20060101ALI20230621BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
G06F1/20 C
G06F1/20 B
G06F1/16 312E
G06F1/16 312U
G06F3/02 400
H05K7/20 G
H05K7/20 H
(21)【出願番号】P 2021184086
(22)【出願日】2021-11-11
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋場 惇輝
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】堂薗 賢
【審査官】松浦 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-077267(JP,A)
【文献】特表2009-534769(JP,A)
【文献】特開2000-105636(JP,A)
【文献】特開2009-086704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/00
G06F 1/16- 1/20
G06F 3/02- 3/027
H03M 11/00-11/26
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器であって、
筐体と、
前記筐体の上面側に設けられ、複数のキーキャップを有するキーボード装置と、
前記筐体の上面側に設けられ、前記キーボード装置の各キーキャップ間を仕切るフレームと、
を備え、
前記複数のキーキャップのうちの少なくとも一部のキーキャップは、
操作面を形成する上板と、
前記上板の周縁部から垂下されるように設けられ、それぞれ前記フレームと対向する4辺の側壁と、
を有し、
前記4辺の側壁のうちの少なくとも1辺の側壁には、該側壁と前記フレームとの間の隙間を拡大して空気流路を形成する流路形成部が設けられて
おり、
前記流路形成部は、前記側壁の表面に設けられ、該側壁の下端に向かって前記フレームから離間する方向へと次第に傾斜した傾斜面である
ことを特徴とする電子機器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器であって、
前記キーボード装置の前後方向を基準とした場合に、前記流路形成部は、前記4辺の側壁のうちの後方を向いた側壁にのみ形成されている
ことを特徴とする電子機器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子機器であって、
前記筐体内で前記キーボード装置の下方に設けられ、上面に吸気口を有するファン装置と、
前記キーボード装置を上下方向に貫通するように設けられ、前記キーボード装置の上部から前記吸気口へと空気を通過させる連通孔と、
をさらに備え、
前記流路形成部は、前記複数のキーキャップのうち、少なくとも前記ファン装置と上下方向にオーバーラップする位置にある前記キーキャップに設けられている
ことを特徴とする電子機器。
【請求項4】
電子機器であって、
筐体と、
前記筐体の上面側に設けられ、複数のキーキャップを有するキーボード装置と、
前記筐体の上面側に設けられ、前記キーボード装置の各キーキャップ間を仕切るフレームと、
を備え、
前記複数のキーキャップのうちの少なくとも一部のキーキャップは、
操作面を形成する上板と、
前記上板の周縁部から垂下されるように設けられ、それぞれ前記フレームと対向する4辺の側壁と、
を有し、
前記4辺の側壁のうちの少なくとも1辺の側壁には、該側壁の下端に向かって前記フレームから離間する方向へと次第に傾斜した傾斜面が設けられている
ことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キーボード装置を備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型PCのような電子機器は、上面にキーボード装置を有する筐体と、筐体内でCPU等の発熱体を冷却する冷却モジュールとを備えた構成がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電子機器は、筐体の薄型化への要望が大きいため、大型の冷却モジュールを搭載するスペースの確保が難しい。このため、この種の電子機器は、筐体の上面にあるキーボード装置に筐体内の熱が伝わり易く、ユーザに不快感を与える懸念がある。特に、上記特許文献1のキーボード装置のように、各キーキャップの周囲がフレームで囲まれた構成は、筐体内からキーボード装置に伝達された熱の逃げ道が少なく、上記した熱の問題を生じ易い。
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題を考慮してなされたものであり、筐体の上面側に設けたキーボード装置の温度上昇を抑制することができる電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る電子機器は、筐体と、前記筐体の上面側に設けられ、複数のキーキャップを有するキーボード装置と、前記筐体の上面側に設けられ、前記キーボード装置の各キーキャップ間を仕切るフレームと、を備え、前記複数のキーキャップのうちの少なくとも一部のキーキャップは、操作面を形成する上板と、前記上板の周縁部から垂下されるように設けられ、それぞれ前記フレームと対向する4辺の側壁と、を有し、前記4辺の側壁のうちの少なくとも1辺の側壁には、該側壁と前記フレームとの間の隙間を拡大して空気流路を形成する流路形成部が設けられている。
【0007】
本発明の第2態様に係る電子機器は、筐体と、前記筐体の上面側に設けられ、複数のキーキャップを有するキーボード装置と、前記筐体の上面側に設けられ、前記キーボード装置の各キーキャップ間を仕切るフレームと、を備え、前記複数のキーキャップのうちの少なくとも一部のキーキャップは、操作面を形成する上板と、前記上板の周縁部から垂下されるように設けられ、それぞれ前記フレームと対向する4辺の側壁と、を有し、前記4辺の側壁のうちの少なくとも1辺の側壁には、穴部又は凹部が設けられている。
【0008】
本発明の第3態様に係る電子機器は、筐体と、前記筐体の上面側に設けられ、複数のキーキャップを有するキーボード装置と、前記筐体の上面側に設けられ、前記キーボード装置の各キーキャップ間を仕切るフレームと、を備え、前記複数のキーキャップのうちの少なくとも一部のキーキャップは、操作面を形成する上板と、前記上板の周縁部から垂下されるように設けられ、それぞれ前記フレームと対向する4辺の側壁と、を有し、前記4辺の側壁のうちの少なくとも1辺の側壁には、該側壁の下端に向かって前記フレームから離間する方向へと次第に傾斜した傾斜面が設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、筐体の上面側に設けたキーボード装置の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電子機器を上から見下ろした模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、筐体の内部構造を模式的に示す要部拡大側面断面図である。
【
図3】
図3は、キーボード装置の一部を拡大した斜視図である。
【
図4A】
図4Aは、キーキャップを斜め上から見た斜視図である。
【
図5】
図5は、流路形成部を有するキーキャップとフレームとの関係を示す一部断面側面図である。
【
図6】
図6は、流路形成部を有しない従来のキーキャップとフレームとの関係を示す一部断面側面図である。
【
図7】
図7は、流路形成部を有するキーキャップと、流路形成部を有しないキーキャップとを用い、各構成でのファン装置の吸気量を比較した実験結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、第1変形例に係る流路形成部を有するキーキャップを斜め上から見た斜視図である。
【
図9】
図9は、第2変形例に係る流路形成部を有するキーキャップを斜め上から見た斜視図である。
【
図10A】
図10Aは、第3変形例に係る流路形成部を有するキーキャップの側面図である。
【
図11】
図11は、第4変形例に係る流路形成部を有するキーキャップを斜め上から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る電子機器について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、一実施形態に係る電子機器10を上から見下ろした模式的な平面図である。
図1に示すように、電子機器10は、キーボード装置12を搭載した筐体14と、ディスプレイ16を搭載したディスプレイ筐体18とを備える。電子機器10は、筐体14とディスプレイ筐体18とをヒンジ20で相対的に回動可能に連結したクラムシェル型のノート型PCである。
図1は、ディスプレイ筐体18を筐体14から開いて使用形態とした状態を示す。電子機器10は、クラムシェル型以外の電子機器でもよい。
【0013】
ディスプレイ筐体18は、薄い扁平な箱体である。ディスプレイ筐体18には、ディスプレイ16が搭載されている。ディスプレイ16は、例えば有機ELや液晶で構成される。
【0014】
以下、筐体14及びこれに搭載された各要素について、
図1に示すキーボード装置12を操作する姿勢を基準として、手前側を前、奥側を後、幅方向を左右、高さ方向(筐体14の厚み方向)を上下、と呼んで説明する。
【0015】
筐体14は、薄い扁平な箱体である。筐体14は、上面14a及び四周の側面を形成するカバー部材21と、下面14bを形成するプレート状のカバー部材22とを有する(
図2も参照)。カバー部材21,22は、厚み方向に重ね合わされて互いに着脱可能に連結される。上側のカバー部材21には、キーボード装置12が下かから挿入される開口21aが設けられている(
図2も参照)。カバー部材21は、開口21aに代えて浅いバスタブ状の凹部を有し、この凹部にキーボード装置12を上から載置する構成でもよい。
【0016】
筐体14の上面14aには、キーボード装置12及びタッチパッド24が設けられている。キーボード装置12は、上面14aの大部分を形成している。筐体14は、後端部がヒンジ20を用いてディスプレイ筐体18と連結されている。
【0017】
図2は、筐体14の内部構造を模式的に示す要部拡大側面断面図である。
図1及び
図2に示すように、筐体14の内部には、基板26と、冷却モジュール28とが収容されている。筐体14の内部には、さらにバッテリ装置等の各種電子部品や機械部品等が設けられる。
【0018】
基板26は、電子機器10のマザーボードである。基板26は、CPU(Central Processing Unit)30が実装されたプリント基板である。基板26は、さらに、GPU(Graphics Processing Unit)、通信モジュール、メモリ、及び接続端子等の各種電子部品が実装されている。基板26は、キーボード装置12の下方に配置されている。基板26は、キーボード装置12の裏面やカバー部材21の内面にねじ止めされ、これにより筐体14に固定されている。基板26は、上面がカバー部材21に対する取付面となり、下面がCPU30等の実装面となる。
【0019】
CPU30は、電子機器10の主たる制御や処理に関する演算を行う処理装置である。CPU30は、電子機器10に搭載されたデバイス中で最大級の発熱体である。
【0020】
冷却モジュール28は、主としてCPU30が発生する熱を吸熱して輸送し、筐体14外へと排出する装置である。冷却モジュール28は、CPU30以外の発熱体、例えばGPU31等の熱も筐体14外に排出可能である。冷却モジュール28の大部分は、基板26の下方に配置されている。冷却モジュール28は、基板26の下面、キーボード装置12の裏面、及びカバー部材21の内面等にねじ止めされ、これにより筐体14に固定されている。
【0021】
冷却モジュール28は、ファン装置32,33と、冷却フィン34,35と、ヒートパイプ36と、を備える。
【0022】
本実施形態の冷却モジュール28は、CPU30及びGPUの冷却のために用いられるため、ファン装置及び冷却フィンをそれぞれ一対ずつ搭載している。冷却モジュール28は、その冷却対象や必要な能力等によっては、ファン装置及び冷却フィンをそれぞれ1台ずつ搭載した構成としてもよい。ファン装置32,33は、大きさや形状が多少異なる以外、基本的な構成は同一又は同様である。冷却フィン34,35についても大きさや形状が多少異なる以外、基本的な構成は同一又は同様である。そこで、以下ではファン装置32及び冷却フィン34について代表的に説明し、ファン装置33及び冷却フィン35の説明は省略する。
【0023】
ファン装置32,33は、それぞれ筐体14の左右の後角部付近に配置されている(
図1参照)。
図2に示すように、ファン装置32は、ファン筐体40と、回転部41と、インペラ42とを備える。ファン装置32は、回転部41がモータによって回転することで、その外周側に設けられたインペラ42が回転する遠心ファンである。
【0024】
ファン筐体40は、回転部41及びインペラ42を収納する扁平な箱体である。ファン筐体40は、下板40Aと、上板40Bと、側板40Cとを有する。各板40A~40Cは、例えば金属板である。
【0025】
下板40Aは、矩形板の一側を円形状に形成した略弾丸形状の薄板である。下板40Aは、ファン装置32の下面32aを形成する。下板40Aには、下吸気口44が形成されている。下吸気口44は、例えば円形状、ドーナツ形状、又は複数の楕円を周方向に並べた形状の貫通孔である。
【0026】
上板40Bは、下板40Aと同一の外形形状を有する薄板である。上板40Bは、ファン装置32の上面32bを形成する。上板40Bには、上吸気口45が形成されている。上吸気口45は、下吸気口44と同一又は同様な形状でよい。吸気口44,45は、インペラ42の回転によってファン筐体40の外部の空気を内部へと取り込むための開口である。
【0027】
側板40Cは、下板40Aと上板40Bとの間に形成されるファン筐体40の内部空間の側部を覆う湾曲板である。本実施形態の側板40Cは、上板40Bと一体に構成されている。
【0028】
ファン筐体40の後方を向いた側面は、側板40Cが設けられていないか又は側板40Cに穴が設けられることで、開口が形成されている。この開口が、ファン装置32の排気口46となる。排気口46は、冷却フィン34と対向配置される。
【0029】
冷却フィン34,35の前面は、それぞれファン装置32,33の直後に配置され、排気口46に面している。冷却フィン34,35の後面は、筐体14の後側面に開口した筐体排気口14cに面している。冷却フィン34は、複数のプレート状の金属フィンをプレートの表面で左右方向に等間隔に並べた構造である。各フィンは、上下方向に起立し、前後方向に延在している。隣接するフィンの間には、ファン装置32から送られた空気が通過する隙間が形成されている。冷却フィン34は、ヒートパイプ36を介してCPU30と熱的に接続されている。
【0030】
ヒートパイプ36は、パイプ型の熱輸送デバイスである。ヒートパイプ36は、1本又は2本以上の組で用いられる。ヒートパイプ36は、金属パイプを薄く扁平に潰して断面楕円形状に形成し、内部の密閉空間に作動流体が封入されたものであり、公知のヒートパイプでよい。ヒートパイプ36は、例えば一端の吸熱部がCPU30と熱的に接続され、他端の放熱部が冷却フィン34,35と接続されている。
【0031】
このような冷却モジュール28は、ヒートパイプ36によって運ばれたCPU30等の熱が冷却フィン34,35に伝達される。冷却フィン34,35に伝達された熱は、ファン装置32,33の排気口46からの送風により、筐体排気口14cを通過して筐体14の外部に排出される。
図1中の参照符号47,48は、CPU30等の熱を拡散するプレート型の熱輸送デバイスであり、例えば金属プレート又はベーパーチャンバである。
【0032】
図3は、キーボード装置12の一部を拡大した斜視図である。
図2及び
図3に示すように、キーボード装置12は、複数のキースイッチ50と、積層板52と、フレーム54とを備える。
【0033】
各キースイッチ50は、ガイド機構50a及びラバードーム50bで上下動可能に支持されたキーキャップ56を有する。ガイド機構50aは、キーキャップ56の下面と積層板52の上面との間を連結するシザー機構である。ラバードーム50bは、シリコーンゴム等の可撓性を有する弾性材料で形成されたドーム形状部材である。ラバードーム50bは、ガイド機構50aの中央に配置され、キーキャップ56と積層板52との間に介在している。
【0034】
各キーキャップ56は、例えば樹脂で成形され、平面視で略矩形に形成されている。各キーキャップ56は、上板56aと、4辺の側壁56b~56eとを有する(
図4A及び
図4Bも参照)。
【0035】
上板56aは、キースイッチ50の操作面を形成する。側壁56b~56eは、上板56aの周縁部から垂下されるように設けられている。側壁56bは、キーキャップ56の前側面を形成する。側壁56cは、キーキャップ56の後側面を形成する。側壁56dは、キーキャップ56の左側面を形成する。側壁56eは、キーキャップ56の右側面を形成する。
【0036】
積層板52は、ベースプレート57と、ベースプレート57の上面に積層されたメンブレンシート58と、ベースプレート57の下面に積層された導光板59とを有する。ベースプレート57は、各所に切り起こしや孔部が形成された金属プレートである。メンブレンシート58は、例えば押圧された場合に接点が閉じる三層構造のスイッチシートである。メンブレンシート58は、キーキャップ56が押し下げされた際に圧縮されるラバードーム50bによって接点が閉じられる。導光板59は、下面に取り付けられた光源が発する光を左右方向に導き、光反射面で反射して各キーキャップ56を裏面から照射するための透明な樹脂板である。導光板59は省略してもよく、この場合はベースプレート57の下面に防水シートを積層してもよい。
【0037】
フレーム54は、樹脂や金属等で形成された網目状のプレートである。フレーム54は、積層板52の上面にねじ止め等で固定されている。フレーム54は、カバー部材21と一体成形されてもよい。フレーム54は、各キーキャップ56の周囲を仕切るものである。フレーム54は、樹脂や金属等で形成されている。
【0038】
フレーム54は、各キーキャップ56が上下動可能に挿入された複数のキー配置孔54aを有する。キー配置孔54aは、フレーム54の網目のうちの前後方向に延びた縦枠54bと、左右方向に延びた横枠54cとで囲まれた矩形状の空間である。
【0039】
図2に示すように、筐体14は、下面14bから内部に空気Aを流入させるための下連通孔60を備える。
【0040】
下連通孔60は、筐体14の下面14bを形成するカバー部材22に形成された貫通孔である。下連通孔60は、例えば複数本のスリット状の孔部を並列した構成である。下連通孔60は、平面視でファン装置32,33の下吸気口44とオーバーラップした位置に設けられ、これと対向している。
【0041】
図2に示すように、筐体14は、上部から内部に空気Aを流入させるための上連通孔62を備える。
【0042】
上連通孔62は、キーボード装置12を上下方向に貫通した貫通孔である。上連通孔62は、上から下に向かって順に、隣接するキーキャップ56,56間の隙間と、切欠状凹部54dと、孔部12aとが連通することで形成されている。切欠状凹部54dは、フレーム54の下面側を切り欠くことで空気Aの流路を形成したものである。孔部12aは、積層板52に形成された貫通孔である。
【0043】
上連通孔62は、ファン装置32,33の上吸気口45と連通している。本実施形態の上連通孔62は、平面視でファン装置32,33の上吸気口45とオーバーラップした位置に設けられ、これと対向している。キーボード装置12の下にカバー部材21を配置する構成とした場合、上連通孔62は、キーボード装置12の下にあるカバー部材21に設けた孔部も含む必要がある。
【0044】
従って、
図2に示すように、ファン装置32,33は、筐体14の下側の空気Aをカバー部材22の下連通孔60から下吸気口44を介して吸気する。同時に、ファン装置32,33は、筐体14の上側の空気Aを上連通孔62から上吸気口45を介して吸気する。ファン装置32,33は、各吸気口44,45から吸い込んだ空気Aを排気口46から筐体14外に排出する際、冷却フィン34,35を空冷する。これによりファン装置32,33は、筐体14の上下面から十分に空気を取り込むことができ、高い冷却効率が得られる。
【0045】
図2中の参照符号63a,63bは、スポンジ等で形成されたシール材である。シール材63aは、ファン装置32の下吸気口44の周囲に止水壁を形成する。シール材63bは、ファン装置32の上吸気口45の周囲に止水壁を形成する。シール材63a,63bは、キーボード装置12上に飲料等の液体がこぼされた際、筐体14内の基板26等への浸水を防止する。
【0046】
ところで、キーキャップ56の側壁56b~56dとフレーム54との間の隙間は、可能な限り狭くすることが望まれている。その理由は、キーボード装置12の外観品質を向上させ、隙間から異物が侵入することを防止するためである。本実施形態に係る電子機器10においても、キーキャップ56とフレーム54との間の隙間Cは非常に狭く(
図2及び
図3参照)、例えば0.4mm程度に設定されている。その結果、上連通孔62は、この隙間Cがボトルネックとなって吸気量が制限され、ファン装置32,33が十分な量の空気Aを吸い込むことができない懸念がある。
【0047】
そこで、本実施形態の電子機器10は、隙間Cを拡大し、ここに空気流路を形成する流路形成部64をキーキャップ56に設けている。
図4Aは、キーキャップ56を斜め上から見た斜視図である。
図4Bは、
図4Aに示すキーキャップ56を斜め下から見た斜視図である。
【0048】
図4A及び
図4Bに示すように、流路形成部64は、キーキャップ56の後側の側壁56cに形成された一対の穴部64a,64aを有する。穴部64aは、側壁56cを下端面から上方に向かって略台形状に切り欠いた切欠形状の穴である。穴部64aは、切欠形状の凹部と言い換えることもできる。穴部64aは、アーチ形状や矩形状等でもよい。穴部64aは、切欠形状ではなく、側壁56cを貫通する貫通孔でもよい。穴部64aは、キーキャップ56の成形時に形成してもよいし、キーキャップ56の成形後に機械加工で形成してもよい。
【0049】
一対の穴部64aは、側壁56cの長手方向(左右方向)に沿って並んでいる。穴部64aは、側壁56cに3個以上設けられてもよい。隣接する穴部64a,64aの相互間には、側壁56cの一部が垂下された防護壁64bが設けられている。防護壁64bは、穴部64aにユーザの爪等が引っ掛かり、キーキャップ56が誤って外れることを防止するための壁部材である。
図4A及び
図4Bに示す流路形成部64は、防護壁64bを含む側壁56cが略M字状に形成されている。このため、防護壁64bは、根本(上部)が幅広に形成され、高い強度と剛性を有する。
【0050】
図4B中の参照符号65は、上板56aの下面に形成されたガイド機構50aを支持するための複数の突起である。各突起65は、前後の側壁56b,56cに沿ってそれぞれ配置されている。各突起65は、ガイド機構50aの安定した昇降動作を担保するため、可能な限り側壁56b,56cに近接した位置に設ける必要がある。この点について、流路形成部64を構成する穴部64aは、キーキャップ56の中央側に突出しないため、突起65に干渉することがない。
【0051】
図3に示すように、本実施形態の流路形成部64は、キーキャップ56の4辺の側壁56b~56eのうち、後方を向いた側壁56cにのみ設けている。流路形成部64は、側壁56cと共に又は側壁56cに代えて、他の側壁56b,56d,56eの一部又は全部に設けてもよい。
【0052】
但し、
図3に示すように、流路形成部64はキーボード装置12の外観に露出する。特に、本実施形態のキーボード装置12は、キーキャップ56がフレーム54の上面から上方に突出した構成のため、流路形成部64が外観上で目立ち易い。このため、流路形成部64は、後向きの側壁56cに形成した方が前向きや横向きの側壁56b,56d,56eに形成するよりもユーザの視界に入りにくく、また導光板59からの光漏れも目立ちにくく、外観品質の低下を抑制できるという利点がある。
【0053】
図5は、流路形成部64を有するキーキャップ56とフレーム54との関係を示す一部断面側面図である。
図6は、流路形成部64を有しない従来のキーキャップ66とフレーム54との関係を示す一部断面側面図である。
【0054】
図5に示す本実施形態のキーキャップ56は、側壁56cとフレーム54との間の隙間Cが流路形成部64の穴部64aによって拡大され、幅広な隙間C1となっている。隙間C1は、例えば0.9mmである。一方、
図6に示す従来のキーキャップ66は、側壁56cに流路形成部64が設けられていないため、側壁56cとフレーム54との間の隙間C2は隙間C1よりも大幅に小さい。隙間C2は、上記した隙間Cと同じく、例えば0.4mmである。
【0055】
従って、本実施形態の電子機器10は、キーキャップ56はとフレーム54との間の隙間C,C2が流路形成部64によって隙間C1まで拡大され、幅広な空気流路が形成されている。
【0056】
ここで、流路形成部64によるファン装置32の吸気量の増大効果について説明する。
【0057】
図7は、流路形成部64を有するキーキャップ56と、流路形成部64を有しないキーキャップ66とを用い、各構成でのファン装置32の吸気量を比較した実験結果を示すグラフである。
図7において、横軸はノイズ(dBA)を示し、縦軸はファン装置32の風量(cfm)を示す。また、実線で示すグラフ(1)は、
図5に示す流路形成部64を有する本実施形態のキーキャップ56での実験結果である。破線で示すグラフ(2)は、
図6に示す流路形成部64を有しない従来のキーキャップ66での実験結果である。
【0058】
ここで、一般的にノート型PCのような電子機器は、ファン装置32の最大回転数をノイズの許容範囲内で制御しており、例えばノイズが50(dBA)を超えないようにファン装置32の回転数を制御する。このため、冷却モジュール28は、同一のノイズ(dBA)でのファン装置32の風量(cfm)が大きければ大きいほど、高い冷却性能が得られることになる。
【0059】
図7に示すように、本実施形態のキーキャップ56での実験結果を示すグラフ(1)は、従来のキーキャップ66での実験結果を示すグラフ(2)と比較して、全範囲のノイズ(dBA)で風量(cfm)が大きいことが分かる。具体的には、グラフ(1)でのファン装置32の風量は、全てのノイズ値でグラフ(2)よりも約6%増加している。つまり本実施形態の電子機器10は、キーキャップ56に流路形成部64を形成したことにより、ファン装置32の風量が増加し、冷却モジュール28の冷却性能が向上することが分かった。
【0060】
図8は、第1変形例に係る流路形成部68を有するキーキャップ56を斜め上から見た斜視図である。
図8に示す流路形成部68は、
図4Aに示す流路形成部64と比べて、側壁56cの略全幅に広がった1つの穴部64aを有し、中央に防護壁64bが設けられていない点が異なる。流路形成部68は、防護壁64bがない分だけ流路形成部64よりも空気流路を大きくでき、ファン装置32の吸気量を一層向上させることができる。
【0061】
図9は、第2変形例に係る流路形成部69を有するキーキャップ56を斜め上から見た斜視図である。
図9に示す流路形成部69は、
図4Aに示す流路形成部64と比べて、穴部64aよりも幅狭な複数のスリット69aを有する点が異なる。各スリット69aは、側壁56cの長手方向に沿って並列された穴部又は凹部である。スリット69aの相互間にも防護壁64bが設けられている。流路形成部69は、流路形成部64よりも空気流路は小さくなるが、防護壁64bが格子状に並んでいるため、爪や異物等の侵入防止効果が高い。
【0062】
図10Aは、第3変形例に係る流路形成部70を有するキーキャップ56の側面図である。
図10Bは、
図10Aに示すキーキャップ56の側面断面図である。
図10A及び
図10Bに示す流路形成部70は、側壁56cの表面に設けられた傾斜面70aを有する。傾斜面70aは、側壁56cの下端に向かってフレーム54から離間する方向(前方)へと次第に傾斜している。流路形成部70は、流路形成部64よりも空気流路は小さくなるが、傾斜面70a自体が防護壁64bと同様に機能するため、爪や異物等の侵入防止効果が一層高い。
【0063】
図11は、第4変形例に係る流路形成部71を有するキーキャップ56を斜め上から見た斜視図である。
図11に示す流路形成部71は、側壁56cの表面に設けられた溝部71aを有する。溝部71aは、側壁56cの上下方向に沿って形成された溝形状の凹部である。溝部71aの相互間にも防護壁64bが設けられている。流路形成部71は、流路形成部64よりも空気流路は小さくなるが、溝部71a自体も防護壁64bと同様に機能するため、爪等の防護効果が一層高い。流路形成部71は、1つの溝部71aを側壁56cの略全幅に拡大した構成としてもよい。
【0064】
以上のように、本実施形態の電子機器10は、キーキャップ56に流路形成部64,69~71を設けたことにより、キーキャップ56とフレーム54との間の隙間Cを拡大して空気流路を形成している。
【0065】
従って、当該電子機器10は、キーボード装置12を貫通する上連通孔62から上吸気口45への空気Aの流量が増大する。このため、電子機器10は、ファン装置32,33の風量が向上し、冷却モジュール28による冷却性能が向上する。その結果、電子機器10は、キーボード装置12に伝達されるCPU30等の熱量を低減することができ、キーボード装置12の温度上昇を抑制することができる。この場合、流路形成部64等は、少なくともファン装置32,33と上下方向にオーバーラップする位置にあるキーキャップ56に設けられていればよい(
図2参照)。
【0066】
ところで、当該電子機器10は、キーキャップ56に流路形成部64,69~71を設けたことにより、CPU30等からキーボード装置12に伝達された熱をこの流路形成部64等を通して上方に排出することもできる。すなわち、当該電子機器10は、
図2に示すように、CPU等からキーボード装置12に伝達された熱Hは、流路形成部64等で拡大された隙間C(C1)から上方に円滑に排出される。
図2中に実線で示す矢印Hは、熱の流れを模式的に示したものである。
【0067】
従って、当該電子機器10において、キーボード装置12を貫通する上連通孔62は必須ではない。つまり電子機器10は、上連通孔62を持たない構成としたとしても、流路形成部64等で拡大された隙間C(C1)からの効率的な排熱ができ、キーボード装置12の温度上昇を抑制できる。この場合、流路形成部64等は、可能な限り多く、好ましくは全てのキーキャップ56に設けられていることが望ましい。
【0068】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
10 電子機器
12 キーボード装置
14 筐体
28 冷却モジュール
30 CPU
32,33 ファン装置
45 上吸気口
52 積層板
54 フレーム
56,66 キーキャップ
62 上連通孔
64,68~71 流路形成部
64b 防護壁