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特許7299974電子機器筐体、その製造方法および金属樹脂複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】電子機器筐体、その製造方法および金属樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/02 20060101AFI20230621BHJP
   B21D 47/04 20060101ALI20230621BHJP
   B21D 53/00 20060101ALI20230621BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230621BHJP
   H05K 5/03 20060101ALI20230621BHJP
   H05K 5/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
H05K5/02 J
B21D47/04
B21D53/00 D
B29C45/14
H05K5/03 A
H05K5/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021516123
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017156
(87)【国際公開番号】W WO2020218277
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019080746
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】冨永 高広
(72)【発明者】
【氏名】森元 海
(72)【発明者】
【氏名】木村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】牧口 航
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩佑
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-199803(JP,A)
【文献】特開2007-238684(JP,A)
【文献】特開2009-262530(JP,A)
【文献】特開2008-58669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/02
B21D 47/04
B21D 53/00
B29C 45/14
H05K 5/03
H05K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、プラスチック製アンテナカバーとがインサート成形によって接合一体化された電子機器筐体であって、
前記プラスチック製アンテナカバーは、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体であり、
前記熱可塑性樹脂組成物は、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を40~80質量%と、
オレフィン由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(D)を含む、前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)以外のその他のポリマー成分(Q)を1~20質量%と、
ガラス繊維、炭素繊維、タルクおよびミネラルからなる群より選ばれる少なくともいずれかの充填剤(F)を5~50質量%と、
必ず含み、また、
任意成分として、融点Tmが50℃以上250℃未満の熱可塑性ポリエステル樹脂または非晶性樹脂を含んでもよいが、当該任意成分を含む場合、その量は前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の半分以下である
電子機器筐体。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器筐体であって、
前記プラスチック製アンテナカバーの、広角X線回折プロファイルにより求められる結晶化度は50%以下である電子機器筐体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子機器筐体であって、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)は、芳香族ジカルボン酸系モノマー由来の構造単位と、脂環骨格を有するジオール由来の構造単位とを含む電子機器筐体。
【請求項4】
請求項3に記載の電子機器筐体であって、
前記芳香族ジカルボン酸系モノマーは、テレフタル酸である電子機器筐体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電子機器筐体であって、
前記その他のポリマー成分(Q)は、さらに、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)、ポリブチレンテレフタレート(E2)、ポリカーボネート(E3)およびイソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)からなる群より選ばれる1以上のポリマー(E)を含む電子機器筐体。
【請求項6】
請求項5に記載の電子機器筐体であって、
前記共重合体(D)と、前記ポリマー(E)との質量比は、1:0.1~1:0.5である電子機器筐体。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電子機器筐体であって、
前記共重合体(D)と、前記ポリブチレンテレフタレート(E2)、前記ポリカーボネート(E3)および前記イソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)との質量比は、1:1~1:10である電子機器筐体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の電子機器筐体であって、
前記金属部材が、マグネシウムまたはマグネシウム合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金、および、銅または銅合金からなる群より選ばれる一種である電子機器筐体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電子機器筐体であって、
前記金属部材の表面の、少なくともプラスチック製アンテナカバーが接合していない部分には耐蝕性の表面改質膜が形成されている電子機器筐体。
【請求項10】
電子機器筐体の製造方法であって、以下の工程1~工程5をこの順に実施する製造方法。
(工程1)金属部材を準備する工程。
(工程2)前記金属部材と、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む熱可塑性樹脂組成物とを、インサート成形によって接合一体化して、金属部材とプラスチック製アンテナカバーとの異材接合体を製造する工程。ここで、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を40~80質量%と、オレフィン由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(D)を含む、前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)以外のその他のポリマー成分(Q)を1~20質量%と、ガラス繊維、炭素繊維、タルクおよびミネラルからなる群より選ばれる少なくともいずれかの充填剤(F)を5~50質量%と、を必ずみ、また、任意成分として、融点Tmが50℃以上250℃未満の熱可塑性ポリエステル樹脂または非晶性樹脂を含んでもよいが、当該任意成分を含む場合、その量は前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の半分以下である
(工程3)前記異材接合体を、180~350℃下で1~30分間アニーリングして、熱処理異材接合体に変換する工程。
(工程4)前記熱処理異材接合体の金属部材における、少なくともプラスチック製アンテナカバーが接合していない部分の表面を、陽極酸化、マイクロアーク酸化および化成処理からなる群より選ばれる少なくとも一つの方法で酸化処理することで表面改質異材接合体を得る工程。
(工程5)前記表面改質異材接合体の、少なくとも金属部材とプラスチック製アンテナカバーの接合部分を含む領域に塗膜層を形成する工程。
【請求項11】
マグネシウム合金部材と樹脂部材とが接合一体化された金属樹脂複合体であって、
前記樹脂部材は、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体であり、
前記熱可塑性樹脂組成物は、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を40~80質量%と、
オレフィン由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(D)を含む、前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)以外のその他のポリマー成分(Q)を1~20質量%と、
ガラス繊維、炭素繊維、タルクおよびミネラルからなる群より選ばれる少なくともいずれかの充填剤(F)を5~50質量%と、
必ずみ、また、
任意成分として、融点Tmが50℃以上250℃未満の熱可塑性ポリエステル樹脂または非晶性樹脂を含んでもよいが、当該任意成分を含む場合、その量は前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の半分以下である
金属樹脂複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器筐体、その製造方法および金属樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN(ローカルエリアネットワーク)機能を内蔵したノートPC(ノートパソコン)や、各種モバイル機器などの電子機器が急速に普及している。
【0003】
無線LAN機能を備えたノートPCにおいては、携帯性や落下時の破損防止の観点から、アンテナ素子の形状は、ノートPC本体から突出した形ではなく、筐体本体に内蔵されていることが望ましい。ノートPC以外の電子機器においても同様である。
しかし、筐体材料として頻用されるマグネシウム合金やアルミニウム合金等の軽金属は無線電波の伝達を阻害する特性を有する。よって、内蔵型アンテナを備えた電子機器の筐体として金属製の筐体を用いる場合は、例えば、筐体のアンテナ素子に対応する箇所に開口部を形成し、この開口部をプラスチック製アンテナカバーで覆い、プラスチック部と金属部材を緊結する構造とする(このような構造については、例えば、特許文献1、2などを参照)。ここでの緊結する方法として、リベット等による機械的係合などが考えられる。
しかしながら、機械的係合の場合、係合部に隙間が発生する、あるいは、長期間の使用によって係合部が緩むなどして、電子機器全体の強度にも悪影響を及ぼす場合がありうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-282493号公報
【文献】特開2011-156587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械的係合とは異なる方法として、金属製筐体とプラスチック製アンテナカバーとを、インサート成形により接合一体化する方法が考えられる。インサート成形により、上述の機械的係合の際の問題をクリアすることができると考えられる。また、インサート成形は生産性に優れた方法であり、さらには得られる接合部の強度と接合界面の水密性に優れる。
【0006】
しかし、本発明者らの予備的な検討によれば、インサート成形時に金属部材側に課される高温処理によって発生する残留応力の除去のためのアニーリング(焼きなまし)工程において、プラスチック材料が変形または変質し、接合強度が低下してしまう問題が発生しうる。
特に最近、軽量化を目的に、金属部材として軽量なマグネシウム合金を用いることが増加している。しかし、本発明者らの知見などによれば、マグネシウム合金の十分なアニーリングには比較的高温が必要であるため、上記問題はより顕著となる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために行われたものである。本発明の課題の1つは、インサート成形後のアニーリングに対して十分な耐熱性を有する、金属部材とプラスチック製アンテナカバーとが接合一体化された電子機器筐体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた。そして、以下に示される本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
【0010】
1.
金属部材と、プラスチック製アンテナカバーとがインサート成形によって接合一体化された電子機器筐体であって、
前記プラスチック製アンテナカバーは、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体である電子機器筐体。
2.
1.に記載の電子機器筐体であって、
前記プラスチック製アンテナカバーの、広角X線回折プロファイルにより求められた結晶化度が50%以下である電子機器筐体。
3.
1.または2.に記載の電子機器筐体であって、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂が、芳香族ジカルボン酸系モノマー由来の構造単位と、脂環骨格を有するジオール由来の構造単位とを含む電子機器筐体。
4.
3.に記載の電子機器筐体であって、
前記芳香族ジカルボン酸系モノマーが、テレフタル酸である電子機器筐体。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の電子機器筐体であって、
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を40~80質量%含む電子機器筐体。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の電子機器筐体であって、
前記熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)以外のその他のポリマー成分(Q)を含む電子機器筐体。
7.
6.に記載の電子機器筐体であって、
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記その他のポリマー成分(Q)を1~20質量%含む電子機器筐体。
8.
6.または7.に記載の電子機器筐体であって、
前記その他のポリマー成分(Q)は、オレフィン由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(D)を含む電子機器筐体。
9.
8.に記載の電子機器筐体であって、
前記その他のポリマー成分(Q)は、さらに、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)、ポリブチレンテレフタレート(E2)、ポリカーボネート(E3)およびイソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)からなる群より選ばれる1以上のポリマー(E)を含む電子機器筐体。
10.
9.に記載の電子機器筐体であって、
前記共重合体(D)と、前記ポリマー(E)との質量比は、1:0.1~1:0.5である電子機器筐体。
11.
9.または10.に記載の電子機器筐体であって、
前記共重合体(D)と、前記ポリブチレンテレフタレート(E2)、前記ポリカーボネート(E3)および前記イソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)との質量比は、1:1~1:10である電子機器筐体。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載の電子機器筐体であって、
前記金属部材が、マグネシウムまたはマグネシウム合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金、および、銅または銅合金からなる群より選ばれる一種である電子機器筐体。
13.
1.~12.のいずれか1つに記載の電子機器筐体であって、
前記金属部材の表面の、少なくともプラスチック製アンテナカバーが接合していない部分には耐蝕性の表面改質膜が形成されている電子機器筐体。
14.
電子機器筐体の製造方法であって、以下の工程1~工程5をこの順に実施する製造方法。
(工程1)金属部材を準備する工程。
(工程2)前記金属部材と、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物とを、インサート成形によって接合一体化して、金属部材とプラスチック製アンテナカバーとの異材接合体を製造する工程。
(工程3)前記異材接合体を、180~350℃下で1~30分間アニーリングして、熱処理異材接合体に変換する工程。
(工程4)前記熱処理異材接合体の金属部材における、少なくともプラスチック製アンテナカバーが接合していない部分の表面を、陽極酸化、マイクロアーク酸化および化成処理からなる群より選ばれる少なくとも一つの方法で酸化処理することで表面改質異材接合体を得る工程。
(工程5)前記表面改質異材接合体の、少なくとも金属部材とプラスチック製アンテナカバーの接合部分を含む領域に塗膜層を形成する工程。
15.
マグネシウム合金部材と樹脂部材とが接合一体化された金属樹脂複合体であって、
前記樹脂部材は、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体である金属樹脂複合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インサート成形後のアニーリングに対して十分な耐熱性を有する、金属部材とプラスチック製アンテナカバーとが接合一体化された電子機器筐体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電子機器の一例であるノートPCの外観図である。
図2図1のX―X線に沿ってノートPCのディスプレイユニットを切断したものを模式的に表した図である。
図3図2の円αで囲われた部分を拡大し、S方向から眺めたときに見える構造を模式的に表した図である。
図4】実施例における「異材接合体A」を説明するための図である。
図5】実施例における「異材接合体B」を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。
図はあくまで概略図である。図中の寸法比率と実際の物品の寸法比率とは必ずしも一致しない。
【0014】
本明細書中、数値範囲の説明における「~」は、特に断りがない限り、以上から以下を表す。例えば、「100~200℃」とは、100℃以上200℃以下の意である。
【0015】
<電子機器筐体>
図1は、電子機器の一例であるノートPC(ノートPC1)の外観図である。
ノートPC1は、本体ユニット(パームレスト部)1aと、ディスプレイユニット1bから構成されている。
本体ユニット1aは、扁平な箱状筐体内に、例えばCPUを実装したプリント配線板やハードディスク駆動装置のような主要な構成要素を収納したものである。
ディスプレイユニット1bは、通常、ヒンジ機構を介して本体ユニット1aに連結されている。ディスプレイユニット1bの扁平な箱状筐体内には、液晶表示パネルなどが収容されている。
【0016】
ディスプレイユニット1bにおいては、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2とが、破線部(図1に示す)でインサート成形により接合一体化している。つまり、ディスプレイユニット1bは、金属部材とプラスチック製アンテナカバーとの異材接合体と言える。
【0017】
図2は、図1のX―X線に沿ってディスプレイユニット1bを切断したものを模式的に表した図である。
また、図3は、図2における円αで囲われた部分を拡大し、S方向から眺めたときに見える構造を模式的に表した図である。図3は、図1のX―X線に沿ってディスプレイユニット1bを切断したときの断面の一部を拡大して示した図とも言える。
【0018】
プラスチック製アンテナカバー2は、融点Tmが250℃以上の熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体である。これにより、インサート成形後のアニーリングに対して十分な耐熱性を有することとなる。つまり、プラスチック製アンテナカバー2の変形や変質が抑えられる。このことは、特に、金属部材4が、比較的高温でのアニーリングが必要なマグネシウム合金である場合に効果的である。
【0019】
また、プラスチック製アンテナカバー2が、融点Tmが250℃以上の熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体であること等により、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2が接合した異材接合体の表面に塗膜層5を設けた場合に、接合部7およびその近傍(図3に点Pとして示している)において、段差が生じないか、または段差を極めて小さくすることができるというメリットもある。
具体的には、適切な金型を用いたインサート成形により金属部材とプラスチック製アンテナカバーとを接合一体化して異材接合体を製造する際に発生する、主に金属部材側に発生する変形を除去するために該異材接合体を高温アニーリング(焼きなまし)した場合であっても、プラスチックの変形量を小さくすることができ、接合部7に隙間が発生する現象を回避しやすい(プラスチック製アンテナカバーが、Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂を含む耐熱性プラスチックであるため)。その結果、異材接合体の表面に塗膜層5を形成した場合であっても段差の発生を抑制でき、意匠性に優れた電子機器筐体が提供される。
【0020】
特に、本実施形態では、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2が接合した異材接合体を、まず、薬液等を用いて酸化処理して表面改質し、その後、異材接合体の表面に塗膜層5を設ける場合においても、接合界面(接合部7)およびその近傍の段差を抑えることができる。
接合界面(接合部7)での接合が不十分であると、表面改質時に薬液が接合部7に侵入して接合部7が部分破壊しうる。また、アニーリングによってプラスチック製アンテナカバー2が変形すると、接合部7に隙間が生じて薬液が接合部7により侵入しやすくなってしまう。そして、塗膜層5の点P付近に段差(陥没)が生じがちである。しかし、本実施形態では、接合部7での接合力を十分に強くすることができ、かつ、アニーリングによるプラスチック製アンテナカバー2の変形・変質が抑えられるため、薬液の侵入が抑えられる。その結果、塗膜層5の点P付近に段差(陥没)が生じにくい。
【0021】
図3では、L字状のプラスチック製アンテナカバー2と、金属部材4は、相欠き構造で繋がれている。しかし、この構造は特に限定されない。突き付け継ぎ、斜め継ぎ、失筈継ぎ、本実継ぎ、相じゃくり継ぎ等の接手構造が任意に採用される。
【0022】
金属部材4の表面の一部または全部、より具体的には、金属部材4における、少なくともプラスチック製アンテナカバー2が接合していない部分には、金属部材4の防蝕のため、耐蝕性の表面改質膜が形成されていてもよい。表面改質膜は、例えば、後述の、陽極酸化、マイクロアーク酸化、化成処理などの酸化処理方法により形成することができる。換言すると、表面改質膜は、例えば酸化膜である。
また、内表面と外表面のうち、少なくとも外表面側の一部または全部に、意匠性向上を目的とした塗膜層5が塗装されていることが好ましい。前述のように、点P付近に段差は生じないか、または段差が生じるとしてもその段差を極めて小さくすることができるため、塗膜層5の表面にも段差が生じづらい。このことは意匠性向上の点で好ましい。
【0023】
プラスチック製アンテナカバー2内には、アンテナ素子3が配置されている。図1および図2においてアンテナ素子3は便宜上1つのみ描かれているが、実際のノートPCにおいては、アンテナ素子3は、ディスプレイユニット1bの周縁部に複数個配置されていてもよい。
【0024】
以下、本実施形態の電子機器筐体の構成部材である金属部材4、プラスチック製アンテナカバー2を構成する熱可塑性樹脂組成物、塗膜層5などについて順次説明する。
【0025】
(金属部材)
金属部材4としては、インサート成形によって熱可塑性樹脂組成物と接合することができ、電子機器筐体として所望の性能を奏する金属を制限なく使用できる。
金属部材4の素材として具体的には、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウム、錫、ニッケル、亜鉛、これらの合金などが挙げられる。
これらのうち、金属部材4ひいては電子機器筐体の軽量化に資する視点から、マグネシウムまたはマグネシウム合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金、銅または銅合金が好ましく、マグネシウムまたはマグネシウム系合金がより好ましい。
マグネシウム系合金の例としては、アルミニウム、マンガン、シリコン、亜鉛、ジルコニウム、銅、リチウム、トリウム、銀およびイットリウムなどの元素とマグネシウムとの合金などを挙げることができる。
冒頭で説明したように、マグネシウム合金を十分にアニーリングするには比較的高温が必要である。しかし、本実施形態では、プラスチック製アンテナカバー2が十分な耐熱性を有するため、比較的高温のアニーリングによっても接合強度低下や接合部7にクラックが発生する現象が抑えられる。
【0026】
金属部材4の形状は特に限定されない。形状は、電子機器筐体の種類や用途に応じて任意に定めることができる。形状には、平面状、曲板状、棒状、筒状および不定形状などが含まれる。ただし、金属部材4において、熱可塑性樹脂組成物との接触部位(以下、単に「接触部位」ともいう。)は平面状であることが好ましい。
所望の形態の金属部材4は、公知の金属加工法、例えば、プレスなどによる塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、および、放電加工などを含む除肉加工によって作製可能である。
【0027】
金属部材4の表面の、少なくともプラスチック製アンテナカバー2との接合部7は、任意の方法で表面処理されていてもよい。金属部材4と熱可塑性樹脂組成物との接合強度をより高める観点からは、金属部材4のプラスチック製アンテナカバー2との接合部7は粗面化されていることが好ましい。具体的には、金属部材4のプラスチック製アンテナカバー2との接合部7は、間隔周期が5nm~500μmである凸部が林立した微細凹凸構造を有することが好ましい。
【0028】
上記「間隔周期」とは、微細凹凸表面に存在する凸部から隣接する凸部までの距離の平均値であり、例えば電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真から求めることができる。具体的には、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡により、金属部材4の接触部位を撮影して得られた写真から50個の凸部を任意に選択し、それら凸部について、隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。そして、50個の凸部についての上記隣接する凸部までの距離の加算平均を計算した得られた値を、間隔周期とする。
ちなみに、間隔周期は、JIS B 0601で規定されている粗さ曲線要素の平均長さRSmに対応する値ということができる。
【0029】
間隔周期は、10nm~300μmであることが好ましく、20nm~200μmであることがより好ましい。間隔周期が10nm以上であると、微細凹凸表面の凹部に熱可塑性樹脂組成物が十分に進入することができ、金属部材と上記熱可塑性樹脂組成物との接合強度をより向上させることができる。また、間隔周期が300μm以下であると、得られる異材接合体が有する金属と樹脂との界面への隙間の発生を抑制できる。そのため、隙間に水分などの不純物が浸入することを効率的に防止できる。このことは、例えば異材接合体を高温・高湿下で使用したときの強度低下の抑制につながる。
【0030】
また、微細凹凸構造における凹部の平均孔深さは好ましくは5nm~250μmである。凹部の平均孔深さとしては、JIS B 0601に準じて測定される十点平均粗さRzjisを採用することができる。
【0031】
特定の間隔周期および/または深さ(粗さ)の微細凹凸構造を持つ表面は、公知の物理粗化法、化学粗化法、電気化学的粗化法、またはこれらの組み合わせた粗化方法によって形成することができる。特に、粗化面の品質安定性や生産性の視点からは、化学粗化法が好ましい。化学粗化法としては、(i)苛性ソーダなどの無機塩基水溶液、または塩酸もしくは硝酸などの無機酸水溶液への浸漬、(ii)クエン酸やマロン酸等の有機酸水溶液への浸漬、(iii)ヒドラジン、アンモニアおよび水溶性アミン化合物などを含む塩基性水溶液への浸漬などを挙げることができる。粗化法は、粗化対象の金属の種類や異材接合体に求められる接合強度等によって適宜選択または組み合わせて用いればよい。
【0032】
金属部材4の表面には、上記のような方法での粗化後に、さらに腐食防止を目的とした化成処理がなされてもよい。特に、金属部材4がマグネシウムまたはマグネシウム合金部材である場合には、空気中の湿気や酸素によって自然酸化されやすいという点に鑑み、化成処理を施すことが好ましい。
化成処理としては、クロム酸や重クロム酸カリ水溶液を用いたクロメート処理、リン酸マンガン系化合物水溶液や弱酸性とした過マンガン酸カリ水溶液を用いた化成処理などが挙げられる。
【0033】
金属部材4は、上記のような化成処理に加えて、さらに硫酸ヒドロキシルアミンのような水溶性還元剤で処理することによって表面脱色処理を行ってもよい。脱色を行うことによって、塗膜層5(図3参照)を上塗りした場合であっても、地肌色に起因した外観不良を防ぐことができる。
【0034】
(熱可塑性樹脂組成物)
熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分として熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む。
好ましくは、熱可塑性樹脂組成物は、さらに、その他のポリマー成分(Q)、添加剤(R)、充填剤(F)などのうち1種または2種以上を含む。
【0035】
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の融点Tmは250℃以上である。融点Tmは、270℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましい。融点Tmの上限値は特に制限されないが、インサート成形時の加熱温度を低くしてエネルギーコストを節約する観点などから、例えば350℃、好ましくは335℃である。
【0036】
融点Tmが250℃以上であると、溶融しての金属部材への接触による樹脂組成物の成形物の変色や変形などが抑制される。融点が350℃以下であると、溶融しての金属部材への接触に際して熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の分解が抑制されるため好ましい。
【0037】
例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の融点Tmは、250~350℃の範囲内であることが好ましく、270~350℃の範囲内であることがより好ましく、290~335℃の範囲内であることがさらに好ましい。
【0038】
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の融点Tmは、示差走査熱量計(DSC)により、JIS K 7121に準拠して測定されうる。
具体的には、約5mgの樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、PerkinElemer社製DSC7を用いて、室温から10℃/minで340℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、340℃で5分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで340℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱でのピーク温度(℃)を樹脂の融点Tmとする。
【0039】
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)のより好ましい態様として、広角X線回折プロファイルにより求められる結晶化度が50%以下、好ましくは47%以下、より好ましくは45%以下である。下限は特にない(0%でもよい)が、現実的には10%以上、好ましくは20%以上である。
結晶化度は、全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積の比率より算出される。例えば、広角X線回折装置(RINT2100:リガク)を用い、Cu線源にて測定したときの結晶性構造に由来するピーク面積比より算出することができる。
融点Tmが250℃以上であり、さらに結晶化度が上記数値であることによって、プラスチック製アンテナカバー2と金属部材4とが一層強固に接合される。また、寸法精度が一層高まり、上塗り塗装を施した後であっても両者の接合界面付近には段差が認められない意匠性に優れた外観を得やすい。
【0040】
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)は、分子内に-(C=O)-O-で表されるエステル構造を複数有する重合体であり、融点Tmが250℃以上である限り、その構造・種類は特に限定されない。
【0041】
耐熱性をより高める観点からは、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)は、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位(a1)と、脂環骨格を有するジオールに由来する構造単位(a2)とを含むことが好ましい。
【0042】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性をより高める観点からは、構造単位(a1)は、少なくともテレフタル酸系モノマーに由来する構造単位を含むことが好ましい。テレフタル酸系モノマーに由来する構造単位の量は、構造単位(a1)の全体に対して、好ましくは30~100モル%、より好ましくは40~100モル%、さらに好ましくは60~100モル%である。
また、構造単位(a1)は、テレフタル酸ではない芳香族ジカルボン酸系モノマーに由来する構造単位を含んでもよい。この構造単位の量は、構造単位(a1)の全体に対して、例えば0~70モル%、好ましくは0~60モル%、より好ましくは0~40モル%である。
【0043】
テレフタル酸系モノマーとしては、テレフタル酸、または、テレフタル酸エステルを挙げることができる。テレフタル酸エステルの例にはジメチルテレフタレートなどが含まれる。
テレフタル酸系モノマー以外の芳香族ジカルボン酸系モノマーとしては、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、これらの芳香族ジカルボン酸のエステル(好ましくは芳香族ジカルボン酸の炭素数1~4のアルキルエステル)などが挙げられる。
【0044】
テレフタル酸系モノマーに由来する構造単位と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸系モノマーに由来する構造単位との合計量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)中のジカルボン酸由来の構造単位中、100モル%であることが好ましい。ただし、所望の特性に応じて、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)は、少量の、脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位や、分子内に3以上のカルボン酸基を有する多価カルボン酸に由来する構造単位をさらに含んでもよい。これら構造単位の量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の全構造単位中、例えば10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0045】
脂肪族ジカルボン酸の炭素原子数は特に制限されない。好ましくは4~20、より好ましくは6~12である。脂肪族ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸などを挙げることができる。これらの脂肪族ジカルボン酸のうち、アジピン酸が好ましい。
多価カルボン酸の例としては、トリメリット酸やピロメリット酸などの三塩基酸や多塩基酸を挙げることができる。
【0046】
また、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性をより高める観点からは、脂環骨格を有するジオールに由来する構造単位(a2)は、炭素数4~20の脂環族ジオールに由来する構造単位を有することが好ましい。
【0047】
構造単位(a2)は、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性を高め、また、吸水性を低減しうる。脂環族ジオールの例としては、炭素数4~20の脂環式炭化水素骨格を有するジアルコール、例えば、1,3-シクロペンタンジオール、1,3-シクロペンタンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘプタンジオール、1,4-シクロヘプタンジメタノールなどを挙げることができる。なかでも、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性をより高める、吸水性をより低減する、入手が容易である、などの観点から、脂環族ジオールは、シクロヘキサン骨格を有する化合物であることが好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノールであることがより好ましい。
【0048】
脂環族ジオールには、シス/トランス構造などの異性体が存在する。熱可塑性樹脂組成物の耐熱性をより高める観点からは、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)はトランス構造の脂環族ジアルコールに由来する構造単位をより多く含むことが好ましい。
具体的には、脂環族ジオールに由来する構造単位のシス/トランス比は、好ましくは50/50~0/100、より好ましくは40/60~0/100である。
【0049】
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)は、脂肪族ジオールに由来する構造単位を含んでもよい。これにより、熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性をより高めることができる。
脂肪族ジオールの例としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコールなどを挙げることができる。
【0050】
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)は、ジオールに由来する構造単位として、脂環骨格を有するジオールに由来する構造単位(a2)と、脂肪族ジオールに由来する構造単位のうち、いずれか一方のみを有してもよいし、双方を有してもよい。
好ましくは、ジオールに由来する構造単位は、脂環骨格を有するジオールに由来する構造単位(a2)(好ましくはシクロヘキサン骨格を有するジオールに由来する成分単位、より好ましくはシクロヘキサンジメタノールに由来する成分単位)を30~100モル%含み、脂肪族ジオールに由来する成分単位を0~70モル%含む。
脂環骨格を有するジオールに由来する構造単位(a2)の割合は、より好ましくは50~100モル%、さらに好ましくは60~100モル%である。
脂肪族ジオールに由来する構造単位の割合は、より好ましくは0~50モル%、さらに好ましくは0~40モル%である。
【0051】
脂環骨格を有するジオールに由来する構造単位(a2)と、脂肪族ジオールに由来する構造単位との合計量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)中のジオール由来構造単位中、100モル%であることが好ましい。ただし、所望の特性に応じて、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)は、少量の、芳香族ジオールに由来する構造単位をさらに含んでもよい。
芳香族ジオールの例としては、ビスフェノールA、ハイドロキノン、2,2-ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビスフェノールAのEO付加体などを挙げることができる。
芳香族ジオールに由来する構造単位の割合は、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の全構造単位中、例えば10モル%以下、好ましくは5モル%以下であることができる。
【0052】
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の固有粘度[η]は、0.3~1.5dl/gであることが好ましい。固有粘度が上記範囲にある場合、熱可塑性樹脂組成物の成形時の流動性がより高まる。
熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の固有粘度[η]は、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の分子量を調整するなどして上記範囲に調整されうる。
固有粘度[η]の測定方法の詳細は、後掲の実施例を参照されたい。
【0053】
前述のように、熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)以外のその他のポリマー成分(Q)を含んでいてもよい。
【0054】
本発明者らの知見によると、熱可塑性樹脂組成物がその他の樹脂を含むことで、接合後にアニーリング処理した後の、金属部材と樹脂組成物との接合強度が特に低下しにくくなる、かつ/または、アニーリング処理前よりも接合強度が高まる。
【0055】
その他のポリマー成分(Q)は、好ましくは、オレフィン由来の構造単位および環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位を有する共重合体(以下、「共重合体(D)」ともいう。)、および、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)、ポリブチレンテレフタレート(E2)、ポリカーボネート(E3)およびイソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)からなる群より選ばれる1以上のポリマー(E)(以下、「ポリマー(E)」ともいう。)からなる群より選ばれる一種又は二種以上である。
特に、共重合体(D)とポリマー(E)の両方を用いることで、接合後にアニーリング処理した後の、金属部材と樹脂組成物との接合強度の低下を抑えやすくなる。
また、本発明者らの知見によれば、特に、ポリマー(E)としてポリブチレンテレフタレート(E2)および/またはポリカーボネート(E3)を用いることで、マイクロアーク酸化などの表面改質の際、薬液に浸漬した場合であっても、接合強度が低下しにくい。これは、ポリブチレンテレフタレート(E2)および/またはポリカーボネート(E3)を熱可塑性樹脂組成物に含めることで、熱可塑性樹脂組成物の結晶化度が低くなるためと考えられる。結晶化度が低いと、樹脂の固化速度が遅いので、溶融した樹脂が金属の凹凸構造により奥まで侵入し易くなり、接合強度がより高くなると考えられる。その結果、表面改質時の薬液の侵入を抑えられ、接合強度の低下が抑制されると考えられる。
【0056】
共重合体(D)は、オレフィン由来の構造単位と、環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位と、を有する。共重合体(D)は、α,β-不飽和カルボン酸エステル由来の構造単位をさらに有してもよい。共重合体(D)を含むことによって、金属部材に接合した後に加熱処理したときの、金属部材と樹脂組成物との接合強度の低下が抑制される。
【0057】
共重合体(D)を構成するオレフィン由来の構造単位の例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンなどに由来する構造単位を挙げることができる。これらのうち、エチレンに由来する構造単位が好ましい。
共重合体(D)を構成する環状オキシ炭化水素構造を有する構造単位の例としては、α,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル由来の構造単位などが挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステルの例としては、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステルなどが挙げられる。これらのうち、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。
共重合体(D)を構成するα,β-不飽和カルボン酸エステル由来の構造単位の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどを含むアクリル酸エステル、および、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどを含むメタクリル酸エステルなどに由来する構造単位を挙げることができる。これらのうち、アクリル酸メチルに由来する構造単位が好ましい。
【0058】
ちなみに、α,β-不飽和カルボン鎖エステル由来の構造単位は、グリシジルエステル基等の環状オキシ炭化水素構造を有していてもよい。具体的には、共重合体(D)は、オレフィン由来の構造単位と、α,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル由来の構造単位とを含む共重合体であってもよい。
【0059】
共重合体(D)の具体的態様として、エチレン単位、アクリル酸メチル単位およびグリシジルメタクリレート由来の構成単位を含む共重合体であり、例えば以下の構造式で表されるエチレン・メチルアクリレート・グリシジルメタクリレート共重合体を挙げることができる。
【0060】
【化1】
【0061】
上記構造式中、n、mおよびlは、それぞれ独立に正の整数を表す。
【0062】
上記構造式で表される共重合体(D)は、エチレン単位、アクリル酸メチル単位、グリシジルメタクリレート由来の構成単位の総量(100質量%)に対して、エチレン由来の構成単位を30~99質量%の割合で含むことが好ましく、50~95質量%で含むことがさらに好ましい。
【0063】
共重合体(E1)は、好ましくは、エチレンと少なくとも1種以上の炭素数3~20のα-オレフィンとの、エチレンを主体とした共重合体である。「エチレンを主体とした」とは、例えば、全構造単位中、エチレン由来の構造単位が50モル%以上である、好ましくは60モル%以上であることを意味する。
【0064】
共重合体(E1)は、熱可塑性樹脂組成物を金属部材に接合した際の、金属部材と樹脂組成物との接合強度のばらつきを抑制する機能を有する。
【0065】
炭素数3~20のα-オレフィンの例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテンなどが挙げられる。この中でも、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンが好ましい。これらのα-オレフィンは、単独で用いられてもよいし、複数が併用されてもよい。
【0066】
共重合体(E1)において、炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位の比率は、好ましくは5~30モル%、より好ましくは8~30モル%、さらに好ましくは10~25モル%である。
【0067】
共重合体(E1)は、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとのランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよい。好ましくはランダム共重合体である。
【0068】
共重合体(E1)の密度は0.85~0.95g/cmであることが好ましく、0.87~0.93g/cmであることがより好ましい。
また、共重合体(E1)の、JIS K 7210:1999に準拠し、190℃、2.16kg荷重下で測定されるメルトフローレート(MFR)は、0.5~100g/10分であることが好ましく、1~80g/10分であることがより好ましい。共重合体(E1)のメルトフローレートがこの範囲であると、熱可塑性樹脂組成物の成形時の流動性が高まりやすくなる。
【0069】
使用可能なポリブチレンテレフタレート(E2)は特に限定されない。ジメチルテレフタレートまたは高純度テレフタル酸由来の構造単位と、1,4-ブタンジオール由来の構造単位とを含むポリマーを特に制限なく利用可能である。市販品では、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製NOVADURAN(ノバデュラン)、東レプラスチック精工株式会社製TPS-PBT、ポリプラスチックス社製ジュラネックス500FP等が挙げられる。
【0070】
使用可能なポリカーボネート(E3)は特に限定されない。市販品では、帝人社製パンライトL-1225Y、出光興産社製タフロン、住化ポリカーボネート社製SDポリカ、チーメイ社製ワンダーライト、帝人社製パンライト、三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス、ユーピロン等が挙げられる。
【0071】
イソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)とは、テレフタル酸またはその誘導体と、シクロヘキシレンジメチレンジオールとの縮合重合によって製造されるポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレートにおいて、原料モノマーのテレフタル酸またはその誘導体の一部(全部ではない)を、イソフタル酸またはその誘導体で置き換えたものである。原料のジカルボン酸またはその誘導体全体(テレフタル酸またはその誘導体と、イソフタル酸またはその誘導体の合計量)に対する、イソフタル酸またはその誘導体の比率は、通常、50mol%未満である。
イソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)の市販品としては、イーストマンケミカル社製、製品名:デュラスター、銘柄:DS2000などが挙げられる。
【0072】
その他の成分(Q)として、共重合体(D)とポリマー(E)が併用される場合、共重合体(D)とポリマー(E)の質量比((D):(E))は、1:0.1~1:0.5程度である。
【0073】
その他の成分(Q)として、共重合体(D)と、ポリブチレンテレフタレート(E2)、ポリカーボネート(E3)およびイソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)からなる群より選ばれる1または2以上が併用される場合、共重合体(D)と(E2)~(E4)との質量比((D):{(E2)+(E3)+(E4)})は、例えば1:1~1:10、好ましくは1:2~1:10、さらに好ましくは1:3~1:8である。
【0074】
前述のように、熱可塑性樹脂組成物は、添加剤(R)を含んでいてもよい。
添加剤(R)としては、例えば、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類、リン酸類など)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類、オギザニリド類など)、難燃剤(臭素系、塩素系、リン系、アンチモン系、無機系など)、滑剤、蛍光増白剤、可塑剤、増粘剤、帯電防止剤、離型剤、顔料、結晶核剤、発泡剤、発泡助剤などの公知の添加剤を挙げることができる。
【0075】
熱可塑性樹脂組成物は、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2との線膨張係数差の調整や、アンテナカバー2そのものの機械的強度を向上させる観点から、充填材(F)をさらに含んでもよい。
充填材(F)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。
【0076】
各成分の量は、熱可塑性樹脂組成物の全体(100質量%)に対して、以下のように設定することができる。
・熱可塑性ポリエステル樹脂(P):40~80質量%、好ましくは50~70質量%、より好ましくは55~65質量%
・その他のポリマー成分(Q):1~20質量%、好ましくは2~15質量%、より好ましくは5~15質量%
・添加剤(R):0.1~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.2~3質量%
・充填剤(F):5~50質量%、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%。
各成分の量を適切に調整することによって、プラスチック製アンテナカバー2と金属部材4とがより強固に接合される。また、寸法精度を一層高めることができる。さらに、プラスチック製アンテナカバー2と金属部材4との接合界面に隙間が発生することを十二分に抑えることができ、この上に塗膜層5を設けた場合に、接合部7付近に実質上段差が無い意匠性に優れた異材接合体を得やすい。
【0077】
熱可塑性樹脂組成物の性状は特に限定されない。熱可塑性樹脂組成物は、上記の各成分の粒子が混合されたもの、予め混練されたものなどであることができる。また、インサート成形(射出成形)の際に各成分を混合して装置のホッパーに投入してもよい。
【0078】
熱可塑性樹脂組成物は、上記成分以外に、例えば融点Tmが50℃以上250℃未満の熱可塑性ポリエステル樹脂や、非晶性樹脂などを含んでもよい。前者の代表例はポリブチレンテレフタレートであり、後者の代表例はポリカーボネートである。これらの樹脂を含む場合、その量は、通常、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の半分程度かそれ以下である。
【0079】
(塗膜層)
本実施形態において、好ましくは、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2との接合部位を含む表面の一部または全部には、連続的に塗膜層5が形成されている。より好ましくは、接合部位を含む外表面側全体に連続的に塗膜層5が形成されている。塗膜層5は、通常、電子機器筐体の保護や装飾(意匠性向上)の機能を有する。
既に述べたように、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2との接合部7およびその近傍の外表面(図3の点P近辺)においては、係合段差(痕跡)が生じないか、またはそれを極めて小さくすることができる。このため、塗膜層5の表面においても段差が抑えられる。好ましい態様として、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2との接合部7に形成された塗膜層5には、段差は認められず、よって意匠性に優れる。
塗膜層5の平均厚みは、例えば10~500μm、好ましくは20~300μmである。
【0080】
塗膜層5を構成する主要な成分は、例えば、成膜物質、顔料、添加剤などである。
成膜物質としては、公知の樹脂を挙げることができる。例えば、ポリエチレン、プリプロピレン、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
顔料としては、カーボンブラック、チタンホワイトなどを挙げることができる。その他、所望の意匠性などに応じて公知の顔料を1種または2種以上用いることができる。
添加剤としては、可塑剤、難燃剤、潤滑剤、安定剤、発泡剤などを例示できる。
また、塗膜層5に光沢感を付与するために、アルミ粉、銀粉などの金属微粒子を含ませることも可能である。
【0081】
<電子機器筐体の製造方法>
本実施形態の電子機器筐体は、好ましくは、下記工程1~工程5をこの順に実施することにより製造される。
(工程1)金属部材4を準備する工程。
(工程2)金属部材4と、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物とを、インサート成形によって接合一体化して、金属部材とプラスチック製アンテナカバーとの異材接合体を製造する工程。
(工程3)上記異材接合体を、180~350℃下で1~30分間アニーリングして、熱処理異材接合体に変換する工程。
(工程4)上記熱処理異材接合体の金属部材における、少なくともプラスチック製アンテナカバーが接合していない部分の表面を、陽極酸化、マイクロアーク酸化および化成処理からなる群より選ばれる少なくとも一つの方法で酸化処理することで表面改質異材接合体を得る工程。
(工程5)上記表面改質異材接合体の、少なくとも金属部材とプラスチック製アンテナカバーの接合部分を含む領域に塗膜層5を形成する工程。
【0082】
工程1は、金属部材4を準備する工程である。前述した通り、金属部材4表面の、少なくともプラスチック製アンテナカバー2との接合部7には表面処理がされていてもよい。金属部材4と熱可塑性樹脂組成物の接合強度をより高める観点からは、金属部材4の少なくとも接合部7は粗面化されていることが好ましい。
【0083】
工程2は、金属部材4と、Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む熱可塑性樹脂組成物とを、インサート成形によって接合一体化して、金属部材とプラスチックとの異材接合体を製造する工程である。
「インサート成形」とは、射出成形の一種であり、具体的には予め金型内に金属部材を挿入しておき、そしてその金型内に溶融樹脂を射出成形して金属部材と樹脂を一体化する成形技術である。
工程2の具体的手順としては、まず、金属部材4を射出成形用の金型内に設置する。次いで、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)を含む熱可塑性樹脂組成物の溶融物を、射出成形機を通して金型内に射出成形する。金属部材4に接合した熱可塑性樹脂組成物の溶融物を冷却することによって、金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2とが一体化した異材接合体となる。
【0084】
金属部材4の表面に微細凹凸構造が形成されている場合は、その微細凹凸構造と接するように熱可塑性樹脂組成物が射出成形されることが好ましい。
【0085】
射出および保圧時の金型の内表面温度は、熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度以上であることが好ましく、ガラス転移温度よりも5~100℃高い温度であることがより好ましい。
一例として、シリンダー温度280~350℃、射出速度10~30mm/secで、粗面化した金属部材4が配置された金型に熱可塑性樹脂組成物の溶融物を射出する。このとき、保圧は70~120MPa、保圧時間は10~30秒とすることができる。
その後、金型を開き、離型することにより、異材接合体を得ることができる。
【0086】
本実施形態においては、インサート成形(射出成形)にあわせて、公知の射出発泡成形や、金型を急速に加熱冷却する高速ヒートサイクル成形(ヒート&クール成形)を併用してもよい。
【0087】
工程3は、工程2で得られた異材接合体を、180~350℃下で、1~30分間アニーリングして、熱処理異材接合体に変換する工程である。
アニーリングは別名、時効硬化処理、応力除去焼きなまし処理などとも呼ばれる。アニーリングは、鍛造、鋳造、冷間加工、溶接、機械加工、射出成形などの加熱操作等で生じる残留応力の除去や、寸法変化によって生じた変形の是正のために通常行われる。アニーリング温度は、金属部材4を構成する金属種、プラスチック製アンテナカバー2を構成する樹脂種などによっても異なるが、通常180~350℃、好ましくは190~330℃、より好ましくは200~300℃、特に好ましくは200~280℃である。アニーリング時間は通常1~30分間、好ましくは5~20分間である。
【0088】
アニーリングは、例えば、異材接合体を、常圧下または加圧下で、温度制御されたホットプレート上で加熱することにより行われる。その後、必要により加圧状態、場合によっては異材接合体の形状を物理的に拘束した状態で加熱を停止して徐冷操作が行われる。
【0089】
工程4は、工程3で得られた熱処理異材接合体の金属部材における、少なくてもプラスチックが接合していない部分の表面を、陽極酸化、マイクロアーク酸化(MAO酸化)および化成処理からなる群より選ばれる少なくとも一つの方法で酸化処理することで表面改質異材接合体を得る工程である。
この工程を行うことにより、金属部材4表面の、空気中での安定性を向上できるので好ましい。また、この処理では金属部材表面にnmオーダーの微細凹凸孔が形成されるので、後続の工程5で形成される塗膜層との密着性向上にも資する。
陽極酸化処理については公知の方法が制限なく使用できる。
MAO酸化は、通常、リン酸やピロリン酸のアルカリ金属塩を溶解したアルカリ性電解溶液中で高電圧をかける方法によって行われる。
化成処理は、クロムや重クロム酸カリ等に浸漬して酸価クロムの薄層で全面を覆うクロメート処理や、またはリン酸を含むマンガン塩の水溶液に浸漬してリン酸マンガン系化合物の薄層で全面を覆う処理、弱酸性として過マンガン酸カリの水溶液に浸漬して二酸化マンガンの薄層で全面を覆う処理法などを例示できる。
これらの酸化処理については、プラスチックが接合されていない金属部分のみの選択的処理であってもよいし、異材接合体全体の処理であってもよい。処理スピードを高める観点からは、通常は異材接合体全体を処理溶液中に浸漬させた状態で実施される。
【0090】
工程5は、上記表面改質異材接合体の、少なくとも金属部材4とプラスチック製アンテナカバー2との接合部7を含む領域に塗膜層5を形成する工程である。
【0091】
塗膜層5を構成する成分については、前述したとおりである。
その塗膜層5を構成する成分を、例えば、エタノール、アセトン、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素などの汎用溶媒(有機溶媒)に溶解または分散した塗料を、表面改質異材接合体の表面に塗装する。その後、必要に応じて加熱して(または自然乾燥により)、溶媒等の揮発成分を留去することによって塗膜層5が形成される。
塗装方法としては、はけ塗り、ローラ塗り、浸漬塗り、またはスプレー塗装など公知の方法を制限なく適用できる。塗膜層5を形成する際には、下地層としてのプライマー層を設けてもよい。
【0092】
例えば上記のようにして得ることができる電子機器筐体において、プラスチック製アンテナカバーの、広角X線回折プロファイルにより求められる結晶化度は、好ましくは50%以下、好ましくは47%以下、より好ましくは45%以下である。下限は特にない(0%でもよい)が、現実的には10%以上、好ましくは20%以上である。
結晶化度の求め方は、前述のとおりである。よって、改めての説明は省略する。
最終的な電子機器筐体におけるプラスチック製アンテナカバーの結晶化度が低いということは、電子機器筐体の製造段階において、溶融した樹脂が金属の凹凸構造により奥まで侵入しやすくなっていたことを意味すると考えられる。よって、プラスチック製アンテナカバーの結晶化度が低い電子機器筐体の、金属部材-プラスチック製アンテナカバー間の接合強度は良好であり、接合強度は低下しにくい傾向があると考えられる。
プラスチック製アンテナカバーの結晶化度は、原料の熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の結晶化度を調整したり、上記工程2や工程3の温度条件などを調整したりすることで調整することができる。
【0093】
本実施形態の電子機器筐体は、様々な分野で用いられうる。例えば、ノートパソコンの本体ユニットやディスプレイユニットなどのノートPC分野;携帯電話やスマートフォン用の筐体、フレームボディ等のモバイル機器分野;デジタル一眼レフカメラ用のカバーやミラーボックス等のカメラ分野を挙げることができる。
【0094】
<金属樹脂複合体>
これまで、金属部材と、プラスチック製アンテナカバーとがインサート成形によって接合一体化された「電子機器筐体」について説明してきた。しかし、アニーリング処理の前後での接合強度の良好な保持率などを考慮すると、本明細書に記載した金属-樹脂接合技術は、電子機器筐体に限定されない種々の用途に好ましく適用される。「種々の分野」の具体例としては、家電機器、車両、建材、日用品などが挙げられるが、もちろんこれら分野のみに限定されない。電子機器筐体以外の好ましい用途としては、バスバーや、端子などの絶縁パーツなどが挙げられる。
【0095】
とりわけ、マグネシウム合金部材と、樹脂部材とが接合一体化された金属樹脂複合体(ここでの樹脂部材は、融点Tmが250℃以上である熱可塑性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の成形体である)は、電子機器筐体に限られない種々の分野に好ましく適用可能である。
【0096】
上記「マグネシウム合金部材と、樹脂部材とが接合一体化された金属樹脂複合体」におけるマグネシウム合金については、<電子機器筐体>の項で説明したとおりである。
上記「マグネシウム合金部材と、樹脂部材とが接合一体化された金属樹脂複合体」における樹脂部材に関する具体的な事項は、<電子機器筐体>の(熱可塑性樹脂組成物)などで説明したとおりである。
上記「マグネシウム合金部材と、樹脂部材とが接合一体化された金属樹脂複合体」における、接合一体化の方法については、例えば、<電子機器筐体の製造方法>で説明した、インサート成形、アニーリング等の方法を適宜適用することができる。
【0097】
以上、本実施形態に係る電子機器筐体の用途について述べたが、これらは本実施形態の用途の例示であり、上記以外の様々な用途に適用可能である。
【実施例
【0098】
以下、実施例を参照して本発明をさらに具体的に説明する。本発明の範囲は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0099】
1.熱可塑性樹脂組成物の原料樹脂の準備
(熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の合成)
106.2質量部のジメチルテレフタレートと、94.6質量部の1,4-シクロヘキサンジメタノール(シス/トランス比:30/70)との混合物に、0.0037質量部のテトラブチルチタネートを加え、150℃から260℃まで3時間30分かけて昇温して、エステル交換反応をさせた。
エステル交換反応終了時に、1,4-シクロヘキサンジメタノールに溶解させた0.0165質量部の酢酸マンガン・四水塩を加えて、引き続き0.0299質量部のテトラブチルチタネートを導入して重縮合反応を行った。
【0100】
重縮合反応は常圧から1Torrまで85分かけて徐々に減圧し、同時に所定の重合温度300℃まで昇温させた。温度と圧力を保持して、所定の撹拌トルクに到達した時点で反応を終了した。
得られた重合体の固有粘度[η]は0.6dl/g、融点Tmは290℃であった。
また、得られた重合体について、広角X線回折装置(RINT2100:リガク)を用い、Cu線源にて測定したときの結晶性構造に由来するピーク面積比より算出した結晶化度は、47%であった。
以下、この重合体を、熱可塑性ポリエステル樹脂(p)と記載する場合がある。
【0101】
(共重合体(D)の準備)
共重合体(D)として、エポキシ基含有エチレンメタクリレート共重合体(アルケマ社製 LOTADER GMA AX8900(LOTADERは同社の登録商標)を準備した。
以下、この共重合体を、共重合体(d)と記載する場合がある。
【0102】
(エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の合成)
十分に窒素置換したガラス製フラスコに、0.63mgのビス(1,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを投入し、1.57mlのメチルアミノキサンのトルエン溶液(Al:0.13ミリモル/リットル)および2.43mlのトルエンをさらに添加して、触媒溶液を得た。
【0103】
充分に窒素置換した内容積2Lのステンレス製オートクレーブに、912mLのヘキサンと320mLの1-ブテンを導入し、系内の温度を80℃に昇温した。引き続き、0.9mmolのトリイソブチルアルミニウムおよび2.0mLの上記触媒溶液(Zrとして0.0005mmol)をエチレンで圧入することにより重合を開始した。
【0104】
エチレンを連続的に供給することにより全圧を8.0kg/cm-Gに保ち、80℃で30分間重合を行った。少量のエタノールを系中に導入して重合を停止させた後、未反応のエチレンをパージした。得られた溶液を大過剰のメタノール中に投入することにより、白色固体を析出させた。
【0105】
この白色固体を濾過により回収し、減圧下で一晩乾燥し、白色固体状のエチレン・1-ブテン共重合体を得た。このエチレン・1-ブテン共重合体の1-ブテン含量は14mol%、密度は870kg/m、MFR(JIS K 7210:1999、190℃、2160g荷重)は3.6g/10分であった。
以下、このエチレン・1-ブテン共重合体を、共重合体(e)と記載する場合がある。
【0106】
(ポリブチレンテレフタレート(E2)の準備)
DuPont社製、製品名:Crastin、銘柄:S600F10 NC010を準備した。
【0107】
(ポリカーボネート(E3)の準備)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名:ユーピロン、銘柄:H-3000を準備した。
【0108】
(イソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(E4)の準備)
イーストマンケミカル社製、製品名:デュラスター、銘柄:DS2000を準備した。
【0109】
上記において、各樹脂の固有粘度[η]および融点Tmは、それぞれ以下の方法で測定した。
【0110】
[固有粘度[η]]
0.5gの各樹脂を50mlの96.5質量%硫酸水溶液に溶解させた。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、次式に基づき固有粘度[η]を算出した。
[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」
[η]:固有粘度(dl/g)
ηSP:比粘度〔ηSP=(t-t)/t
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
【0111】
[融点Tm]
融点Tmは、JIS K 7121の規定に準じて測定した。
具体的には、約5mgの樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、PerkinElemer社製DSC7を用いて、室温から10℃/minで340℃まで加熱した。それぞれの樹脂を完全融解させるために、340℃で5分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで340℃まで2度目の加熱を行なった。この2度目の加熱でのピーク温度(℃)を樹脂の融点Tmとした。
【0112】
2.金属部材の準備
合金番号AZ31Bのマグネシウム板(厚み2mm)を、長さ45mm、幅18mm、または、長さ50mm、幅10mmに切断した(前者は下記の異材接合体Aを作製するためのもの、後者は下記の異材接合体Bを作製するためのものである)。
切断されたマグネシウム板の表面を、国際公開第2008/133096号の実験例1に記載の方法によって粗面化した。
粗面化後のマグネシウム板の表面粗さを、東京精密社製の表面粗さ測定装置「サーフコム1400D」を用いて測定した。その結果、十点平均粗さRzが2~3μmの範囲に、粗さ曲線要素の平均長さRSmは90~110μmの範囲にあることを確認した。
【0113】
3.異材接合体(模擬的な電子機器筐体)の作製と特性評価
まず、評価方法について説明する。
【0114】
[接合強度]
異材接合体の接合強度は、引っ張りせん断強度で評価する。具体的には、アイコーエンジニアリング社製の引っ張り試験機モデル1323に専用の治具を取り付け、次いで、図4に模式的に示される異材接合体A(詳細は後述)を設置する。室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて、異材接合体Aの金属部材と樹脂部材とを反対方向に引っ張る。このとき、金属部材103と樹脂部材105とが破断して引き離されたときの荷重を求める。
測定値のバラツキによる影響を小さくするため、同一の熱可塑性樹脂組成物を接合させた5つの異材接合体Aについて引っ張りせん断強度を測定し、それらの平均値を接合強度として採用する。また測定値のバラツキを把握するため標準偏差も求める。
【0115】
「異材接合体A」は、図4に模式的に示されるような形態のものである。より具体的には、異材接合体Aは、上記2.で準備したマグネシウム合金部材(図4で符号103により示す)の片末端(図4の斜線部:斜線部の大きさは5mm×10mm)に、樹脂部材105が接合したものである。
【0116】
[塗膜層の上塗り適性(塗膜層に段差があるか否か)]
塗膜層の上塗り適性、すなわち、異材接合体の表面に塗膜層を形成した際に、接合部位に段差が認められるかどうかを目視評価するための異材接合体として、図5に模式的に示される突き合わせ試験片(以下、「異材接合体B」とも表記する)を準備する。異材接合体Bは、金属部材103(マグネシウム合金製)と樹脂部材105が突き合わせられたようにして接合しているものである(接合部分は2mm×10mm)。
金属部材103の表面改質(酸化処理)および塗膜の形成については、以下(1)および(2)のようにして行う。
(1)まず、異材接合体Bの全表面に対して、クリモト技報No.64、38~43頁の記載に準拠して、マイクロアーク酸化(MAO)を施す。
(2)次いで、市販のアクリル変性エポキシ樹脂であるユニテクト20(関西ペイント社製)を刷毛塗りし、その後、80℃で10分間乾燥させることにより、塗膜層を設ける。
【0117】
塗膜層に段差が認められるか否かについては、以下のようにして確認する。
異材接合体Bの、樹脂部材105と金属部材103の境界領域に、斜め45°からLEDライトを照射し、塗装面に段差があるか否かを目視で確認する。
【0118】
[実施例1]
射出成型機に以下を投入して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物とした。
・63.8質量部の熱可塑性ポリエステル樹脂(p)
・2.0質量部の共重合体(d)
・0.16質量部のフェノール系酸化防止剤(BASF社製、MP-X、以下、「酸化防止剤1」とも記載)
・0.34質量部のリン酸系酸化防止剤(株式会社ADEKA製、アデカスタブ(登録商標)PEP-36、以下、「酸化防止剤2」とも記載)
・結晶核剤としての3.0質量部のスチレン変性エチレン系重合体(固有粘度[η]:0.03dl/g、140℃での溶融粘度:40mPa・s、重量平均分子量Mw:930、分子量分布Mw/Mn:1.8、融点:107℃)
・0.7質量部のタルク
・30.0質量部のガラス繊維(10μm径)
【0119】
上記の溶融した熱可塑性樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、射出速度25mm/secで、上記2.で粗面化した金属部材が配置された金型に射出し、保圧100MPa、保圧時間15秒の条件にて射出成形(インサート成形)を行い、15個の異材接合体Aを得た。
これら異材接合体Aの中から任意の5個を選び、上記方法に従って接合強度(5つの値の平均値)を求めた。接合強度は1560Nであった。また、標準偏差は66Nであった。
【0120】
次いで、残りの10個の異材接合体について、240℃で1時間のアニーリング処理を行い、その後、室温まで徐冷した。徐冷後、任意の5個の異材接合体A(熱処理済)について、同様に接合強度(5つの値の平均値)を求めた。接合強度は1276Nであった。また、標準偏差は78Nであった。
アニーリング処理の前後での接合強度の保持率は82%であった。
【0121】
また、異材接合体A(アニーリング処理済)のうち任意の1つを選択し、その樹脂部材部分について、広角X線回折プロファイルにより求められる結晶化度を求めた(測定装置などは、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の結晶化度の測定と同様)。求められた結晶化度は36%であった。
【0122】
また、上塗り適性を評価するため、熱可塑性樹脂組成物の組成や射出成形(インサート成形)の条件は上記と同様にして、5個の異材接合体Bを得た。得られた異材接合体Bを240℃で1時間アニーリング処理し、その後室温まで徐冷した。
次いで、上記[塗膜層の上塗り適性(塗膜層に段差があるか否か)]の項で説明したようにして、異材接合体B全体をマイクロアーク酸化(MAO)し、次いで塗膜層を設けた。そして塗膜層の段差発生状況を確認した。
確認の結果、5個全てにおいて段差は確認されなかった。
【0123】
[実施例2]
熱可塑性樹脂組成物として、射出成型機に以下を投入して溶融混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして異材接合体Aの作製や評価を行った。
・58.8質量部の熱可塑性ポリエステル樹脂(p)
・5.0質量部の共重合体(d)
・2.0質量部の共重合体(e)
・0.16質量部の酸化防止剤1
・0.34質量部の酸化防止剤2
・結晶核剤としての3.0質量部のスチレン変性エチレン系重合体(実施例1と同じもの)
・0.7質量部のタルク
・30.0質量部のガラス繊維(10μm径)
【0124】
アニーリング処理前の異材接合体Aの接合強度の平均値は1340N(標準偏差:10N)、アニーリング処理後の異材接合体Aの接合強度の平均値は1340N(標準偏差:22N)であった。アニーリング処理の前後での接合強度の保持率は100%であった。
【0125】
また、アニーリング処理後の異材接合体Aのうち任意の1つを選択し、その樹脂部材部分について、広角X線回折プロファイルにより求められる結晶化度を求めた(測定装置などは、熱可塑性ポリエステル樹脂(P)の結晶化度の測定と同様)。求められた結晶化度は35%であった。
【0126】
また、上塗り適性を評価するため、熱可塑性樹脂組成物の組成や射出成形(インサート成形)の条件は上記と同様にして、5個の異材接合体Bを得た。得られた異材接合体Bを240℃で1時間アニーリング処理し、その後室温まで徐冷した。
次いで、上記[塗膜層の上塗り適性(塗膜層に段差があるか否か)]の項で説明したようにして、異材接合体B全体をマイクロアーク酸化(MAO)し、次いで塗膜層を設けた。そして塗膜層の段差発生状況を確認した。
確認の結果、4個については全く段差が認められず、1個のみについて僅かな段差が認められた。
【0127】
[実施例3~5]
熱可塑性樹脂組成物として、射出成型機に以下を投入して溶融混練したものを用いた以外は、実施例1と同様にして異材接合体Aの作製や評価、および、異材接合体Bの作製や評価(マイクロアーク酸化(MAO)、塗膜層の形成なども含む)を行った。
【0128】
(実施例3)
・53.8質量部の熱可塑性ポリエステル樹脂(p)
・2.0質量部の共重合体(d)
・10質量部のポリブチレンテレフタレート(上記のもの)
・0.16質量部の酸化防止剤1
・0.34質量部の酸化防止剤2
・結晶核剤としての3.0質量部のスチレン変性エチレン系重合体(実施例1と同じもの)
・0.7質量部のタルク
・30.0質量部のガラス繊維(10μm径)
【0129】
(実施例4)
・53.8質量部の熱可塑性ポリエステル樹脂(p)
・2.0質量部の共重合体(d)
・10質量部のポリカーボネート(上記のもの)
・0.16質量部の酸化防止剤1
・0.34質量部の酸化防止剤2
・結晶核剤としての3.0質量部のスチレン変性エチレン系重合体(実施例1と同じもの)
・0.7質量部のタルク
・30.0質量部のガラス繊維(10μm径)
【0130】
(実施例5)
・53.8質量部の熱可塑性ポリエステル樹脂(p)
・2.0質量部の共重合体(d)
・10質量部のイソフタル酸変性ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(上記のもの)
・0.16質量部の酸化防止剤1
・0.34質量部の酸化防止剤2
・結晶核剤としての3.0質量部のスチレン変性エチレン系重合体(実施例1と同じもの)
・0.7質量部のタルク
・30.0質量部のガラス繊維(10μm径)
【0131】
実施例3~5の全てにおいて、アニーリング処理の前後での接合強度の保持率(異材接合体Aを用いた評価)は100%であった。
また、実施例3~5の全てにおいて、実施例1および2と同様にして、アニーリング処理後の異材接合体Aの樹脂部材部分の、広角X線回折プロファイルにより求められる結晶化度を求めた。実施例3~5のすべてにおいて、求められた結晶化度は50%以下(30~40%程度)であった。
また、実施例3~5の全てにおいて、異材接合体Bを用いた塗膜層の上塗り適性は良好で、各実施例で作製した5個ずつの異材接合体Bの全てにおいて、段差は確認されなかった。
【0132】
[比較例1]
63.8質量部の熱可塑性ポリエステル樹脂(p)の代わりに、65.8質量部のポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ社製、トレコン1401X06、融点Tm:224℃)を用い、かつ、共重合体(d)を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、異材接合体Aの作製、アニーリング処理および接合強度の評価を行った。
アニーリング処理前の異材接合体Aの接合強度(5つの値の平均値)は1250Nであった。一方、アニーリング処理後の異材接合体Aにおいては、樹脂部材105の形状が大きく変形してしまい、接合強度の測定は不能であった。
比較例1においては、段差確認用の異材接合体Bの製造は行わなかった。
【0133】
[評価結果のまとめ、考察]
実施例1~5においては、金属部材103と樹脂部材105とが強く接合し、かつ、その接合力はアニーリング処理(240℃で1時間)でも維持された。
特に、実施例2~5では、アニーリング処理の前後で接合力は100%維持された。これは、恐らくはポリマー(E)に相当する成分による効果と考えられる。
【0134】
実施例1~5においては、塗膜層の上塗り適性も良好であった。すなわち、金属部材103と樹脂部材105との異材接合体の表面に塗膜層を形成したとき、その塗膜層に段差が発生することが抑えられた。これは、アニーリング時に接合部の破壊発生がなく、また次段の表面酸化処理の際に熱処理異材接合体全体を薬液に浸漬した場合であっても段差を誘起するクラック(ヘコミ、隙間や陥没)の発生ないし拡開が抑制されたため、と考えられる。異材接合体のプラスチックアンテナ部の優れた耐熱性と耐薬性、金属部材との接合部間の高い接合強度、高い気密性/水密性などが、この結果の遠因になっていると考えられる。
【0135】
一方、Tmが250℃より低い熱可塑性ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を用いた比較例1においては、インサート成形後のアニーリングにより変形が生じてしまった。
【0136】
[追加評価:マイクロアーク酸化(MAO)を経ての接合強度]
実施例1~5でマイクロアーク酸化(MAO)を施された異材接合体Bの接合強度を評価した。評価の結果、特に、実施例3(ポリブチレンテレフタレート使用)および実施例4(ポリカーボネート使用)で、良好な結果が得られた(マイクロアーク酸化後の接合強度の低下が小さかった)。
【0137】
この出願は、2019年4月22日に出願された日本出願特願2019-080746号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0138】
1 ノートPC
1a 本体ユニット
1b ディスプレイユニット
2 プラスチック製アンテナカバー
3 アンテナ素子
4 金属部材
5 塗膜層
7 接合部
103 金属部材
105 樹脂部材
図1
図2
図3
図4
図5