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特許7300000測定値を同期させた溶接方法及び溶接装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】測定値を同期させた溶接方法及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20230621BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20230621BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20230621BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
B23K9/12 331F
B23K9/09
B23K9/073 545
B23K9/12 305
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021559737
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2020060166
(87)【国際公開番号】W WO2020208144
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】19168536.1
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー・ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー・マヌエル
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-083268(JP,A)
【文献】特開平09-206939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/10
B23K 9/12
B23K 9/09
B23K 9/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの溶接機器(B)により溶接プロセスを実施する溶接方法であって、この少なくとも1つの溶接機器(B)が、その溶接電流回路において溶接機器(B)の溶接プロセスを制御するための電気測定量を検出し、この溶接機器(B)により実施される溶接プロセス中に、少なくとも1つの時点に機器電流回路において時間的に変化する機器電流(IEG)が流れる少なくとも1つの別の電気機器(EG)から、この少なくとも1つの溶接機器(B)に同期情報(Y)が送信され、
この少なくとも1つの溶接機器(B)が、前記の時点に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用する、溶接方法において、
前記の同期情報(Y)が、所定の先行時間(tv)だけ機器電流の変化(dI EG /dt)及び/又は溶接電流の変化(dI /dt)の前に送信されることを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接方法において、
前記の同期情報(Y)が、溶接機器(B)の測定量に影響する機器電流の時間的な変化(dIEG/dt)に関する情報を含み、溶接機器(B)が、この測定量に影響する機器電流の時間的な変化(dIEG/dt)中に検出された測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用することを特徴とする溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接方法において、
電気機器(EG)として、溶接システムの電気構成部品、特に、点溶接装置又は溶接ロボットが使用されることを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接方法において、
電気機器(EG)として、時間的に変化する溶接電流(IA)により溶接プロセスを実施する溶接機器(A)が使用され、この時間的に変化する溶接電流(IA)により溶接プロセスを実施する溶接機器(A)が、溶接機器(B)の測定量に影響する、実施される溶接プロセスの溶接電流の変化(dI/dt)に関する同期情報(Y)を溶接機器(B)に送信することと、
測定量を検出する溶接機器(B)が、この溶接電流の変化(dI/dt)中に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用することと、を特徴とする溶接方法。
【請求項5】
請求項4に記載の溶接方法において、
少なくとも2つの溶接機器(A,B)を用いて、それぞれ溶接プロセスが、時間的に変化する溶接電流(IA,IB)により実施され、これらの少なくとも2つの溶接機器(A,B)の各々が、それぞれその溶接電流回路において測定量を検出し、これらの溶接機器(A,B)が、それぞれ別の溶接機器(A,B)の測定量に影響する、それぞれ実施される溶接プロセスの溶接電流の変化(dI/dt,dI/dt)に関する同期情報(YA,YB)を相互に交換して、これらの溶接機器(A,B)が、溶接電流の変化(dI/dt,dI/dt)中に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した、それぞれ別の溶接機器(A,B)の同期情報(YA,YB)を使用することを特徴とする溶接方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の溶接方法において、
時間的に変化する溶接電流(I)による溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、ショートアーク溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス又は溶接ワイヤー送りが逆転する溶接プロセスが用いられることを特徴とする溶接方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の溶接方法において、
送信される同期情報(Y)が、機器電流の変化(dIEG/dt)及び/又は溶接電流の変化(dI/dt)の開始と終了に関する時間的な情報を含むことと、
同期情報(Y)を受信した溶接機器(B)によって、機器電流の変化(dIEG/dt)及び/又は溶接電流の変化(dI/dt)の開始と終了の間に検出された測定量の測定値が無視されることと
を特徴とする溶接方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の溶接方法において、
測定量として、溶接電圧(U)、溶接電気(I)及び溶接電気抵抗の中の1つ以上が検出されることを特徴とする溶接方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の溶接方法において、
少なくとも1つの溶接機器(B)が、検出された測定量を更なる使用のために外部の機器に伝送することと、
この外部の機器が、外部の機器のプロセスを制御するか、或いは溶接機器(B)の溶接プロセスを解析するために、この検出された測定量を使用することと、を特徴とする溶接方法。
【請求項10】
請求項に記載の溶接方法において、
外部の機器として、溶接継ぎ目を作り出すために、溶接機器(B)の溶接トーチ(4b)を案内する溶接ロボットが配備されることと、
この溶接ロボットが、溶接トーチ(4b)の動きを制御するために、受信した測定量を使用することと、を特徴とする溶接方法。
【請求項11】
溶接プロセスを実施する少なくとも1つの溶接機器(B)を備えた溶接装置(1)であって、この少なくとも1つの溶接機器(B)が、その溶接電流回路において溶接プロセスを制御するための電気測定量を検出するように設けられていて、時間的に変化する機器電流(IEG)が少なくとも1つの時点に機器電流回路に流れる少なくとも1つの別の電気機器(EG)が配備され、この少なくとも1つの電気機器(EG)が、通信接続部(11)を用いて、この少なくとも1つの溶接機器(B)と接続され、この少なくとも1つの電気機器(EG)が、この少なくとも1つの溶接機器(B)に同期情報(Y)を送信するように設けられてい
この少なくとも1つの溶接機器(B)が、前記の時点に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用する、溶接装置において、
この少なくとも1つの電気機器(EG)は、前記の同期情報(Y)が所定の先行時間(tv)だけ機器電流の変化(dI EG /dt)及び/又は溶接電流の変化(dI /dt)の前に送信されるように設けられていることを特徴とする溶接装置。
【請求項12】
請求項11に記載の溶接装置(1)において、
電気機器として、溶接システムの電気構成部品、特に、点溶接装置又は溶接ロボットが配備されることを特徴とする溶接装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の溶接装置(1)において、
少なくとも2つの溶接機器(A,B)が、それぞれ溶接プロセスを時間的に変化する溶接電流(IA,IB)により実施するとともに、それぞれ測定量を検出するように配備され、これらの溶接機器(A,B)が、それぞれ別の溶接機器(A,B)の測定量に影響する、溶接機器(A,B)の溶接プロセスにおける溶接電流の時間的な変化(dI/dt,dI/dt)に関する同期情報(YA,YB)を相互に交換して、この溶接電流の変化(dI/dt,dI/dt)中に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した、それぞれ別の溶接機器(A,B)の同期情報(YA,YB)を使用するように設けられていることを特徴とする溶接装置。
【請求項14】
請求項1113のいずれか1項に記載の溶接装置において、
少なくとも1つの溶接機器(A,B)が、時間的に変化する溶接電流(I)による溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、ショートアーク溶接プロセス又は溶接ワイヤー送りが逆転する溶接プロセスを実施するように設けられていることを特徴とする溶接装置。
【請求項15】
請求項1114のいずれか1項に記載の溶接装置において、
測定量として、溶接電圧(U)、溶接電流(I)及び溶接電気抵抗の中の1つ以上が設けられていることを特徴とする溶接装置。
【請求項16】
請求項1115のいずれか1項に記載の溶接装置において、
少なくとも1つの溶接機器(B)が、検出した測定量を更なる使用のために外部の機器に伝送するように設けられていることと、
この外部の機器が、外部の機器のプロセスの制御及び/又は溶接機器(B)の溶接プロセスの解析のために、この検出した測定量を使用するように設けられていて、外部の機器として、有利には、溶接継ぎ目を作り出すために溶接機器(B)の溶接トーチ(4b)を案内する溶接ロボットが配備されることと、
この溶接ロボットが、溶接トーチ(4b)の動きを制御するために、受信した測定量を使用するように設けられていることと、を特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの溶接機器により溶接プロセスが実施され、この少なくとも1つの溶接機器が、溶接電流回路において、溶接機器の溶接プロセスを制御するための電気測定量を検出し、この溶接機器により実施される溶接プロセス中に、時間的に変化する機器電流が1つの時点に機器電流回路に流れる少なくとも1つの別の電気機器から、この少なくとも1つの溶接機器に同期情報が送信される溶接方法に関する。本発明は、更に、溶接プロセスを実施する少なくとも1つの溶接機器を備えた溶接装置に関し、この少なくとも1つの溶接機器が、その溶接電流回路において、溶接プロセスを制御するための電気測定量を検出するように設けられていて、時間的に変化する機器電流が少なくとも1つの時点に機器電流回路に流れる少なくとも1つの別の電気機器が配備され、この少なくとも1つの電気機器が、通信接続部を介して、この少なくとも1つの溶接機器と接続されており、この少なくとも1つの電気機器が、この少なくとも1つの溶接機器に同期情報を送信するように設けられている。
【背景技術】
【0002】
溶解する溶接電極による溶接(例えば、MIG/MAG溶接、潜弧溶接)又は溶解しない電極による溶接(例えば、WIG溶接)では、しばしば1つ又は複数の別の電気機器の直ぐ近くで溶接が行われる。例えば、電気機器として、別の溶接機器を配備することができ、その結果、例えば、溶接性能を向上させるために、複数の互いに独立した溶接機器によって、並列的に溶接が行われる。そのために、それらの複数の溶接機器及び/又は別の電気機器は、例えば、溶接セルなどの、例えば、1つの共通の空間内に、互いに直に並んで、或いは互いに直ぐ近くに配置することができる。しかし、電気機器として、しばしば、溶接トーチを案内する溶接ロボット、点溶接装置なども、溶接機器の周囲に配置される。
【0003】
各溶接機器は、一般的に自身の溶接電源と、アース配線と、溶接電極を備えた溶接トーチとを有し、それらは、動作中に(導電性の)加工物を介して1つの溶接電流回路を形成する。溶接機器毎の別個のアース配線の代わりに、しばしば共通の電位としての役割を果たす1つの共通のアース配線、例えば、所謂電流母線も使用される。例えば、溶接ロボットなどの別の電気機器は、又もやそれぞれ自身の機器電流回路を有する。例えば、溶接ロボットの使用可能な軸の複数の駆動モーターに対して、それぞれ機器電流回路を設けるか、或いは、例えば、点溶接機器の点溶接ガンなどの別の電気機器に対して、それぞれ機器電流回路を設けることができる。
【0004】
溶接のために、各溶接機器では、溶接トーチの電極と加工物の間に周知の手法でアークが点火される。アークによって、一方において、加工物が部分的に溶解され、それによって、所謂溶湯が発生する。他方において、アークによって、溶湯に送り出される添加部材が溶解され、それは、電極自体(MIG/MAG)又は別個に供給される添加部材(WIG)であるとすることができる。
【0005】
大抵は、溶湯を周囲の空気から保護するために、所謂保護ガスも使用される。しばしば、共通のチューブパックが配備され、その中で、例えば、溶接ワイヤーの形の溶解する電極材料が保護ガス配管と一緒に溶接トーチに対して送り出される。チューブパック内に、例えば、溶接トーチ用の冷媒の送り配管及び戻り配管などの更に別の配管又は制御配線を配備することもできる。
【0006】
その場合、複数の溶接機器を用いて、同じ加工物に対して、或いは別個の加工物に対しても同時に溶接を行うことができる。1つの加工物に対して複数の溶接プロセスを同時に実施する所謂複式溶接プロセスも周知である。その場合、2つ(又はそれを上回る数)の溶接ワイヤーを1つの共通の溶湯に送り出すこともできる。
【0007】
定義された溶接プロセスを実施するために、一般的には、例えば、溶接機器の好適な制御ユニット及び/又はユーザーによって、所定の溶接パラメータが各溶接機器に設定される。そのような溶接パラメータは、例えば、溶解する電極(MIG/MAG)又は添加部材(WIG)の溶接電圧、溶接電流及び溶接ワイヤー送り速度であり、異なる溶接プロセスに対して、異なる溶接パラメータを設定することができる。溶接機器は、一般的に溶接プロセスの実施中に電気測定量も、例えば、溶接電流回路の溶接電圧、溶接電流又は電気抵抗も検出する。
【0008】
検出された測定量は、溶接プロセスを監視、制御又は調節するために、溶接機器によって処理される。溶接機器により実施される既知の溶接プロセスは、例えば、パルス溶接プロセス、ショートアーク溶接プロセス又はワイヤー電極を逆転させるショートアーク溶接プロセス(例えば、所謂冷間金属移行溶接プロセス)であり、当然のことながら、例えば、スプレーアーク溶接プロセス、混合プロセス、アークを回転させる溶接プロセスなどの更に別の溶接プロセスも存在する。前記の溶接プロセスでは、各溶接電流回路において、溶解する電極又は添加部材のビードの剥がれ落ちを引き起こす定義された巡回的な溶接電流変化を実現することができる。
【0009】
多くの場合、溶接機器は、それらの溶接電流回路が部分的に交差するか、部分的に並行して延びるか、或いはその両方であるように(ここで、これは、当然のことながら、溶接電流回路の電気配線に関する)、空間内において互いに相対的に位置決めされることが起こり得る。一方の溶接機器の溶接電流回路が他方の電気機器の機器電流回路、例えば、溶接ロボットの機器電流回路と交差する、或いはそれと並行して延びることも起こり得る。例えば、互いに並んで配置された個々の溶接機器のアース配線が、実際の基本位置から、溶接機器と溶接作業場所の間をほぼ平行に敷設される可能性がある。溶接トーチに対して案内されるチューブパックが、時には加工物の複数の側を溶接する際に交差するか、或いは平行に案内される可能性もある。それは、電流を案内する配線が電気的に絶縁されているにも関わらず、溶接機器の溶接電流回路が電磁気的に相互に影響し合うことを引き起こす可能性がある。
【0010】
特に、溶接サイクル中に溶接電流を変化させる上述した溶接プロセスでは、それが問題を引き起こす可能性がある。パルス溶接プロセスでは、溶接電流が、例えば、周期的に繰り返される溶接サイクルにおいて、基本電流とパルス電流の間で変化し、急峻な電流上昇エッジ及び電流低下エッジが規定される可能性がある。第一の溶接電流回路において時間的に変化する溶接電流が、溶接トーチに対する溶接電流供給配線の周りに、さもなければ戻りのアース配線を介して、時間的に変化する磁界を発生させる。その磁界は、特に、第二の溶接電流回路が第一の溶接電流回路の近くに配置されている場合に、又もや第二(又は複数)の溶接電流回路に電圧を誘導する。
【0011】
その誘導された電圧は、誘導結合によって測定に影響する電圧スパイクを発生させる可能性があるので、第二の溶接電流回路で検出された測定量、特に、溶接電圧の誤った検出を引き起こす可能性がある。例えば、溶接電圧の検出時に、誘導電圧のために、誤った値を測定する可能性がある。そして、その誤った測定値が、各溶接プロセスの調節又は制御に不利に作用する可能性がある、特に、それが不安定な溶接プロセスを引き起こす可能性がある。2つ(又はそれを上回る数)の溶接プロセスがそれぞれパルス形状の溶接電流により同時に実施される場合、2つ(又はそれを上回る数)の溶接プロセスが互いに妨害し合って、測定に影響を及ぼす可能性もある。
【0012】
複数の溶接機器及び/又は電気機器が1つの共通のアース配線、例えば、電流母線を利用する場合、それは、場合によっては、電流母線の電位に変動を引き起こす可能性がある。一般的に変化する、溶接電流回路における溶接電流及び/又は機器電流回路における機器電流は、その電流母線が単にオーム抵抗であるので、共通の電流母線に電圧降下を生じさせる可能性がある。それによって、他方の溶接機器が、場合によっては、その溶接電流回路において、不正確な、或いは誤った測定値、例えば、電圧又は抵抗を検出し、それが、溶接プロセスに対して不利な作用を及ぼす可能性がある。
【0013】
特許文献1は、パルス溶接プロセスを制御する方法及び制御装置を開示している。その制御装置では、溶接電圧に基づきビードの剥がれ落ちを検知する「溶滴分離検出器」が配置されており、その検出器は、「出力補償器」に信号を送る。短絡時に、溶接電圧が上昇し、それが、ビードの剥がれ落ちの誤った検出を引き起こす可能性がある。それを防止するために、短絡が起こった場合に、「出力補償器」が「溶滴検出器」の信号を無視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】欧州特許公開第078555号明細書
【文献】欧州特許登録第1268110号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のことから、本発明の課題は、少なくとも1つの溶接機器により溶接を行う溶接方法に関して、安定した溶接プロセスを保証することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本課題は、本発明において、少なくとも1つの溶接機器が、当該時点で検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報を使用することによって解決される。この場合、有利には、同期情報は、溶接機器の測定量に影響する、機器電流回路における機器電流の時間的な変化に関する情報を含み、溶接機器が、この測定量に影響する機器電流の変化中に検出された測定量の測定値を無視するために、この同期情報を使用する。それによって、溶接プロセスの制御に使用される測定量が別の電気機器によって不利な影響を受けないことが保証され、それにより、安定した溶接プロセスが実現され、ここで、「測定値を無視する」とは、当然のことながら、測定値の検出を中断することでもあると理解する。
【0017】
電気機器として、有利には、溶接システムの電気構成部品、特に、点溶接装置又は溶接ロボットが使用される。それによって、溶接プロセスに不利な影響を与える可能性がある、溶接機器の周辺で一般的に使われる機器を考慮することができる。
【0018】
有利には、時間的に変化する溶接電流により溶接プロセスを実施する溶接機器が電気機器として使用され、この時間的に変化する溶接電流により溶接プロセスを実施する溶接機器が、それぞれ実施される溶接プロセスの別の溶接機器の測定量に影響する溶接電流の変化に関する同期情報を、測定量を検出する溶接機器に送信し、その測定値を検出する溶接機器は、測定量に影響する溶接電流の変化中に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報を使用する。それによって、周辺で別の溶接機器による作業が行わている場合でも、測定量が別の溶接機器によって不利な影響を受けず、それにより、安定した溶接プロセスが実現されることが保証される。
【0019】
有利には、少なくとも2つの溶接機器を用いて、それぞれ時間的に変化する溶接電流により溶接プロセスが実施され、これらの少なくとも2つの溶接機器の各々が、それぞれその溶接電流回路において測定量を検出し、溶接機器が、それぞれ実施される溶接プロセスのそれぞれ別の溶接機器の測定量に影響する溶接電流の変化に関する同期情報を相互に交換して、溶接機器が、溶接電流の変化中に検出された測定量の測定値を無視するために、それぞれ受信した別の溶接機器の同期情報を使用する。それによって、2つ又はそれを上回る数の溶接機器が互いに不利な影響を受けず、それにより、例えば、2つ又はそれを上回る数の溶接機器によって、安定した溶接プロセスが実施できることが保証される。
【0020】
有利には、時間的に変化する溶接電流による溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、ショートアーク溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス又は溶接ワイヤー送りを逆転させる溶接プロセスが使用される。それによって、最も一般的に使われている溶接プロセスで本方法を使用することができる。
【0021】
送信される同期情報は、有利には、機器電流の変化及び/又は溶接電流の変化の開始と終了に関する時間的な情報を含み、同期情報を受信した溶接機器によって、機器電流の変化及び/又は溶接電流の変化の開始と終了の間に検出された測定量の測定値が無視される。それによって、同期情報の簡単な利用手法が実現される。
【0022】
同期情報が所定の先行時間だけ機器電流の変化及び/又は溶接電流の変化の前に送信されるのが有利である。それによって、電流の推移が既知の場合に、同期情報を予め早期に送信することができ、それにより、例えば、データ伝送における或る程度の遅延を補正することができる。
【0023】
有利には、測定量として、溶接電圧、溶接電流及び溶接電気抵抗の中の1つ以上が検出され、その理由は、これらの電気量が溶接プロセスを制御するために一般的に使われている測定値であるからである。
【0024】
更に、少なくとも1つの溶接機器が、検出された測定量を更なる使用のために外部の機器に伝送することと、外部の機器が、外部の機器のプロセスを制御するか、或いは溶接機器の溶接プロセスを解析するために、検出された測定量を使用することとが有利であり、外部の機器として、有利には、溶接継ぎ目を作り出すために溶接機器の溶接トーチを案内する溶接ロボットが配備されて、溶接ロボットが、溶接トーチの動きを制御するために、受信した測定量を使用する。それによって、受信された正しい測定量を実際に別の目的のために利用することができる。
【0025】
以下において、本発明の有利な実施形態の例を模式的に本発明を制限しない形で図示した図1~2を参照して、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】2つの溶接機器と1つの加工物を有する溶接装置の模式図
図2】2つの溶接電流回路の溶接電流の時間的な推移、同期情報の時間的な推移及び検出された測定量の時間的な推移のグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1には、例えば、2つの互いに独立した溶接機器A,Bを備えた溶接装置1が簡略化されて図示されている。ここで、溶接機器A,Bは、溶解する電極を備えたMIG/MAG溶接機器として構成されているが、当然のことながら、溶解しない電極を備えた1つ又はそれを上回る数のWIG溶接機器を使用することも、或いはレーザー式ハイブリッド溶接機器を使用することもできる。図示された例では、両方の溶接機器A,Bによって、それぞれ溶接プロセスが1つの共通の加工物6に対して同時に実施される。当然のことながら、図示された2つの溶接機器A,Bよりも多い数の溶接機器を配備することもできる。しかし、一般的には、1つの溶接機器Bだけを配備して、第二の溶接機器Aの代わりに、例えば、溶接システムの電気構成部品、例えば、溶接ロボットなどの別の電気機器EGを配備することもできる。しかし、本発明の理解のためには、2つの溶接機器A,Bから成る装置で十分である。溶接機器A,Bは、必ずしも別個のユニットとして実現する必要はなく、例えば、1つの共通の筐体内に、2つ(又はそれを上回る数)の溶接機器A,Bを配置することも考えられる。しかし、それは、各溶接機器A,Bが単独で溶接プロセスを実施するための自身の溶接電流回路を形成することを何ら変更しない。
【0028】
溶接機器A,Bは、周知の通り、それぞれ溶接電源2a,2b、(図示されていない)溶接ワイヤー送りユニット及び溶接トーチ4a,4bを有する(MIG/MAG溶接機器)。例えば、ロッド電極を手で溶接個所に送り出す電極溶接などの別の溶接方法では、当然のことながら、溶接ワイヤー送りユニットを省くことができる。溶接電源2a,2bは、それぞれ所要の溶接電圧UA,UBを提供し、これらの電圧は、それぞれ溶解する電極としての溶接ワイヤー3a,3b(例えば、WIG溶接などの溶解しない電極による溶接方法の場合には、溶解しない電極)に印加される。溶接ワイヤー3a,3bは、溶接ワイヤー送りユニットを用いて所定の溶接ワイヤー送り速度で各溶接トーチ4a,4bに送り出される。
【0029】
送り出しは、例えば、チューブパック5a,5bの中で、或いはその外でも行うことができる。溶接ワイヤー送りユニットは、それぞれ溶接機器A,Bに統合することができるが、別個のユニットであるとすることもできる。溶接プロセスを実施するために、溶接ワイヤー3a,3bと加工物6の間でアークが点火される。アークによって、一方において、加工物6の材料が局所的に溶解されて、所謂溶湯が生成される。他方において、溶接ワイヤー3a,3bは、所定の溶接ワイヤー送り速度で溶湯に送り出されて、溶接添加部材の材料を加工物6上に塗布するために、アークによって溶解される。溶接トーチ4a,4bを加工物6に対して相対的に動かすと、それによって、溶接継ぎ目を形成することができる。
【0030】
各チューブパック5a,5bには、場合によっては、別の配線(例えば、制御配線又は冷却媒体配管)を溶接機器A,Bと各溶接トーチ4a,4bの間に配備することもできる。多くの場合、周囲の空気、特に、そこに含まれる酸素に対して溶湯を保護して、酸化を防止するために、保護ガスも使用される。この場合、一般的には、不活性ガス(例えば、アルゴン)又は活性ガス(例えば、二酸化炭素)が用いられ、それらは、同じくチューブパック5a,5bを介して溶接トーチ4a,4bに供給することができる。保護ガスは、通常別個の(圧力)容器7a,7bに貯蔵されており、好適な配管を介して溶接機器A,B(或いは直に溶接トーチ4a,4b)に供給することができる。同じ保護ガスを使用する場合、両方(全て)の溶接機器A,Bに対して共通の容器を配備することもできる。当然のことながら、場合によっては、保護ガス無しでも溶接することができる。チューブパック5a,5bは、好適な連結器を介して溶接トーチ4a,4b及び溶接機器A,Bに連結することができる。
【0031】
溶接機器A,Bの溶接電流回路をそれぞれ形成するために、図示された例では、溶接電源2a,2bが、それぞれアース配線8a,8bにより加工物6と接続されている。溶接電源2a,2bの一方の極、通常はプラス極が、アース配線8a,8bと接続され、溶接電源2a,2bの他方の極、通常はマイナス極が、溶接電極と接続される(或いはその逆)。それにより、溶接プロセス毎に、アークと加工物6を介して、溶接電流回路が形成される。当然のことながら、溶接機器A,Bにより、それぞれ専用の加工物6に対して溶接を行うこともできる。その場合、当然のことながら、相応のアース配線8a,8bを各加工物6と接続しなければならない。図1に図示された例では、両方のアース配線8a,8bが、その長手部分の大きな範囲Dに渡って、ほぼ直に平行に並んで延びている。これらのアース配線8a,8bが互いに電気的に近いことは、非導電性の絶縁にも関わらず、冒頭で述べた通り、アース配線8a,8bが電磁気的に相互に影響し合うことを引き起こす可能性がある。図1には、電磁気結合が、磁気回路Kによって模式的に表示されている。しかし、同様に、溶接トーチ4a,4bへの溶接電流配線も部分的に交差するか、或いは平行して延びる可能性があり、それは、同じく電磁気結合を引き起こす可能性がある。
【0032】
溶接機器Aの代わりに、例えば、別の電気機器EG、例えば、(図示されていない)溶接ロボットなどが配備される場合、例えば、アース配線8bと電気機器EGの電気接続配線が交差するか、或いは互いに直ぐ近くに有る時に、溶接機器Bのアース配線8bと電気機器EGの電気接続配線の間に電磁気結合が発生する可能性がある。
【0033】
代替の実施形態では、図1に一点鎖線で表示されている通り、2つの別個のアース配線8a,8bの代わりに、1つの共通のアース配線8cを使用することもできる。例えば、有利には、複数の電気機器用の共通の電位として、所謂電流母線を利用することができる。即ち、図示された溶接機器A,Bの外に、更に別の電気機器EGX、例えば、溶接ロボット、特に、その電気駆動部を電流母線8cに繋ぐこともできる。それにより、1つの共通に利用されるアース配線8cが単純にオーム抵抗を生じさせる。
【0034】
特に、1つ(又は両方)の溶接機器A,Bを用いて、時間的に変化する溶接電流IA,IBにより溶接プロセスを実施する場合、以下で更に詳しく説明する通り、特に、溶接電圧UA,UBの測定時に、それぞれ別のアース配線8a,8bに誘導される電圧によって、誤った測定量に起因する不安定な溶接プロセスを引き起こす可能性がある。第二の溶接機器Aの代わりに(或いは追加して)、別の電気機器EGが配備される場合、その機器電流回路に、溶接機器Bの検出される測定量に影響する時間的に変化する機器電流IEGが流れると、同じことが言える。そのような「時間的に変化する機器電流IEG」とは、特に、例えば、電気測定量としての溶接電圧UBが0.5~20V、特に、3~8Vの範囲内で変化する電流変化であると理解する。
【0035】
本発明の範囲内において、「時間的に変化する溶接電流による溶接プロセス」とは、特に、異なる大きさの溶接電流Iによる溶接サイクルが周期的に交番し、溶接電流の変化が、隣りの溶接電流回路に電圧を誘導して、測定値の検出に影響を与えるのに十分に大きくかつ十分に速く起こる溶接プロセスであると理解する。一般的に、溶接電流Iは、3A~1,500A、特に、20A~750Aの範囲内で変化する。典型的な時間的な電流変化は、例えば、10~5,000A/ms、有利には、100~2,000A/ms、特に、300~1,500A/msの範囲内にある。変化する溶接電流による溶接プロセスとして、多くの場合、例えば、パルス溶接プロセス、ショートアーク溶接プロセス、溶接ワイヤーの動きが逆転する溶接プロセスなどが使用される。それに関する詳細は、当業者に周知である。以下において、図2を参照して、パルス溶接プロセスに基づき、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、それに限定されず、時間的に変化する溶接電流による如何なる別の溶接プロセスをも包含する。
【0036】
溶接機器A,Bには、それぞれ各溶接プロセスを制御して監視する制御ユニット9a,9bも配備されている。そのために、制御ユニット9a,9bにおいて、例えば、溶接ワイヤー送り速度、溶接電流IA,IB、溶接電圧UA,UB、パルス周波数、パルス電流継続時間などの溶接プロセスに必要な溶接パラメータが予め与えられるか、或いは設定可能である。溶接プロセスの制御のために、制御ユニット9a,9bは、溶接電源2a,2bと接続されている。或る溶接パラメータ又は溶接ステータスの入力又は表示のために、制御ユニット9a,9bと接続されたユーザーインタフェース10a,10bを配備することもできる。ここで述べる溶接機器A,Bは、当然のことながら、十分に周知であり、そのため、ここでは、更にそのことには立ち入らない。
【0037】
両方の溶接トーチ4a,4bは、それらの溶接ワイヤー3a,3bが、2つの別個の溶湯の代わりに、図1に図示されている通り、加工物6における1つの共通の溶湯に対して動作するように、場所的に互いに相対的に配置することもできる。この互いの配置構成は、固定的であるとすることができ、例えば、その場合には、両方の溶接トーチ4a,4bが、両方の溶接トーチ4a,4bを案内する(図示されていない)1つの溶接ロボットに配置される。しかし、この配置構成は、可変であるとすることもでき、例えば、その場合には、それぞれ1つの溶接トーチ4a,4bが1つの溶接ロボットによって案内される。しかし、両方の溶接ワイヤー3a,3bに対して、1つの共通の溶接トーチを配備することもできる。この場合、溶接トーチ4a,4bを用いて、継手溶接、肉盛り溶接又はそれ以外の溶接方法を実現するのかは重要でない。
【0038】
溶接プロセスを実施する少なくとも1つの溶接機器(ここでは、溶接機器B)が溶接装置1に配備されていることが本発明にとって重要である。この場合、この少なくとも1つの溶接機器、ここでは、溶接機器Bが、その溶接電流回路において、その溶接プロセスを制御するための電気測定量を検出する。測定量として、例えば、溶接電流回路における(通常はアース電位に対する)溶接電圧UB、溶接電流IB及び溶接電気抵抗の中の1つ以上を使用することができる。多くの場合、溶接ワイヤー送り速度も使用されるが、それは、誘導電圧又は電圧降下によって影響されない。
【0039】
この測定量は、例えば、相応の溶接機器Bの溶接電源2b又は制御ユニット9bによって、或いは(図示されていない)別個の測定機器によっても検出することができる。電気機器EGの機器電流回路には、少なくとも1つの時点に、時間的に変化する機器電流IEGが流れ、この具体的な例では、第二の溶接機器Aが電気機器EGとして配備されている。しかし、当然のことながら、(図示されていない)溶接ロボットを電気機器EGとして配備することもでき、その機器電流回路には、少なくとも1つの時点に、時間的に変化する機器電流IEGが流れる。例えば、溶接ロボットの駆動モーターの機器電流が、溶接機器Bの検出される測定量に影響を与えるように、溶接ロボットの所定の動きの推移又は動作状態に応じて変化する可能性がある。
【0040】
以下において図2に基づき更に詳しく説明する通り、この具体的な例では、(電気機器EGとしての)溶接機器Aが、溶接プロセス、例えば、パルス溶接プロセスを時間的に変化する溶接電流IAにより実施するように設けられている。しかし、当然のことながら、両方の溶接機器A,Bが、それぞれ時間的に変化する溶接電流IA,IBにより溶接プロセスを実施して、両方の溶接機器A,Bがそれぞれ各溶接プロセスを制御するための測定量、例えば、それぞれ溶接電圧UA,UBを検出することもできる。
【0041】
溶接機器A,Bは、通信接続部11を用いて接続されており、それを介して、溶接機器A,Bの間で、有利には、相互に同期情報Yを交換することができる。この通信接続部11は、例えば、制御ユニット9a,9bの間又はユーザーインタフェース10a,10bの間の有線接続部又は無線接続部であるとすることができる。溶接機器Aの代わりに(或いは追加して)、別の電気機器EGが配備される場合、この別の電気機器EGが、通信接続部11を用いて溶接機器Bと接続される。例えば、溶接機器Bの制御ユニット9bと溶接ロボットの制御ユニットの間に、通信接続部11を配備することができる。
【0042】
図2を参照して、時間的に変化する溶接電流IAにより溶接プロセスを実施する)溶接機器A又は一般的に電気機器EGが、通信接続部11を介して同期情報Yを溶接機器B(測定量を検出する溶接機器)に送信する。通常、溶接機器A又は制御ユニット9aは、当然のことながら、実施される溶接プロセスと溶接電流IA又は溶接電圧UAの時間的な推移を知っており、それにより、溶接電流IA又は溶接電圧UAが何時変化するのかが分かる。
【0043】
溶接機器B、特に、制御ユニット9bは、変化する機器電流IEG(ここでは、溶接電流IA)の当該時点で検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報Yを処理する。この場合、有利には、同期情報Yは、溶接機器Bの測定量に影響する、電気機器EG(ここでは、溶接機器A)の機器電流回路における機器電流の時間的な変化に関する情報を含み、(測定量を検出する)溶接機器Bは、以下において、更に詳しく説明する通り、測定量に影響する機器電流の変化中に検出された測定量の測定値を無視するために、この同期情報Yを使用する。
【0044】
この場合、「無視する」とは、確かに連続した測定が溶接機器Bによって実施されるが、機器電流の時間的な変化中に検出された測定値が溶接プロセスの制御のために使用されないことを意味する。しかし、「無視する」が、溶接機器Bによる測定値の検出が機器電流回路における機器電流の時間的な変化中に中断される、即ち、その時間期間に全く測定値が生成されないことを意味することもできる。それにより、測定時に、電圧スパイク又は電流スパイクが起こり得る時間期間を考慮に入れないこと、従って、誤った測定を防止することができる。溶接機器Aの代わりに、別の電気機器EG、例えば、溶接ロボットが使用される場合、場合によっては、機器電流IEGの将来的な推移が既知でないとすることができる。この場合、例えば、機器電流IEG及び/又は機器電流の変化に関する閾値を電気機器EGの制御ユニットに保存しておき、電流上昇時に閾値に到達するか、閾値を上回った場合、或いは電流低下時に閾値を下回った場合に、同期情報Yを溶接機器Bに送信することができる。
【0045】
最も簡単な場合、同期情報Yは、送信側の溶接機器A(又は一般的に電気機器EG)から通信接続部11を介して受信側の溶接機器Bに送信される同期パルスPである。この場合、同期パルスPは、例えば、電流パルス又は電圧パルスとして、両方の溶接機器A,Bの間の有線接続式通信接続部11上を送信される。しかし、通信接続部11は、例えば、バス情報を使用するデータバスとして実現することもできる。この場合、同期パルスPは、バス情報として送信され、これは、有線接続方式(ケーブル、グラスファイバー等)でも、無線接続方式(Wifi、Bluetooth等)でも行うことができる。
【0046】
図2の上方の領域には、溶接機器A,Bにより同時に実施される両方の溶接プロセスの時間tに関する溶接電流IA,IBの推移のグラフが図示されている。しかし、一般的には、溶接機器Aの代わりに、電気機器EGを配備することもでき、その機器電流回路には、少なくとも1つの時点に、時間的に変化する機器電流IEG、特に、溶接機器Bの検出される測定量に影響する機器電流IEGが流れる。実線が、溶接機器Aの溶接プロセスの溶接電流IAの推移を表し、破線が、溶接機器Bの溶接プロセスの溶接電流IBの推移を表す。中央のフラフには、通信接続部11を介して溶接機器Aから溶接機器Bに伝送される同期情報Yの時間tに関する推移が図示されている。この同期情報Yは、機器電流が時間的に変化する少なくとも1つの時点に、ここでは、溶接機器Aの溶接プロセスでの溶接電流の変化中に、検出された測定量の測定値を無視するために、溶接機器Bによって処理される。下方のグラフには、溶接機器Bの測定量としての溶接電圧UBの検出状況が時間tに関してプロットされている。
【0047】
このことから、図示された例では、両方の溶接機器A,Bを用いて、それぞれ溶接プロセスが、特に、ここでは、それぞれパルス溶接プロセスが、時間的に変化する溶接電流IA,IBにより実施されることが分かる。しかし、一方の溶接機器、例えば、溶接機器Aだけが、他方の溶接機器、ここでは、溶接機器Bの測定量に影響する時間的に変化する溶接電流IAにより溶接プロセスを実施すること、或いは、溶接機器Bの測定量に影響する時間的に変化する電流IEGが他方の電気機器EGの機器電流回路に流れることも可能である。また、前述した通り、2つの同じ溶接方法(例えば、2つのMIG/MAG溶接方法)を使用する必要はなく、2つ(それを上回る数)の異なる溶接方法を実施することもできる。
【0048】
図2で明らかな通り、MIG/MAG溶接でのパルス溶接中に、基本電流IGとそれに対して上昇するパルス電流IPが所与のパルス周波数fで周期的に交番する。このパルス周波数fは、パルス電流IPによるパルス電流フェーズPPと基本電流IGによる基本電流フェーズPGから成る溶接サイクルSの周期継続時間tSの逆数として得られる。有利には、パルス電流フェーズPP中に、それぞれ1つの溶接ビードが溶湯に剥がれ落ちる。溶接中に、パルス周波数f及び/又は基本電流IG又はパルス電流IPの値を変えることもできる。図2には、当然のことながら、溶接電流IG,IPの時間的な推移が、理想化され、簡略化されて図示されている。多くの場合、基本電流フェーズPGには、プロセスの安定性を高めるために、(図示されていない)短い中間電流パルスが設けられる。しかし、それは、溶接サイクルSの周期継続時間tSとそれから得られるパルス周波数fを何ら変更しない。
【0049】
有利には、ワイヤーの直径と電極部材に応じて、電流パルス毎に1つのビードが生成されて、剥がれ落ちるように、溶接ワイヤー送り速度、溶接電流、基本電流継続時間、パルス電流継続時間及びパルス周波数fが互いに調整される。この場合、溶接ワイヤー送り速度とパルス周波数fは、一般的に互いに依存し合う。簡単にするために、図2には、溶接電流IA,IBの推移がほぼ同じ形で図示されており、基本電流とパルス電流の大きさが同じ(IGA=IGB、IPA=IPB)であり、所定の位相シフトtPだけ時間的に互いに離れている。しかし、この推移は、当然のことながら、異なることもできる、特に、異なるパルス周波数fA,fB、溶接電流又はパルス継続時間を規定することができる。同様に、当然のことながら、別の位相シフトを規定することも、当然のことながら、位相シフトを規定しないこともできる。
【0050】
分離した溶湯による2つの独立した溶接プロセス(図1を参照)の代わりに、例えば、両方の溶接ワイヤー3a,3bが1つの共通の溶湯に対して動作する複式パルス溶接プロセスを使用する場合、有利には、両方のパルス溶接プロセスを互いに同期させる。この場合、有利には、両方のパルス溶接プロセスのパルス周波数fA=1/tSA,fB=1/tSBは、所定の予め与えられた相互の関係を有し、それらの得られる溶接サイクルSA,SBは、所定の予め与えられた相互の位相関係を有する。有利には、これらのパルス周波数fA,fBの互いの比率が整数であると言える。
【0051】
図2の中央のグラフには、同期情報Yの例の時間tに関する推移が図示されており、時間tは、上方のグラフの時間tと同期している。溶接機器A又は制御ユニット9aは、溶接電流の時間的な変化dI/dtを決めるために、溶接電流IAの推移を監視する。制御ユニット9aが(例えば、溶接パラメータにより)予め与えられる、或いは設定可能な所定の溶接電流の変化dI/dtを決めた場合、同期情報Yが通信接続部11を介して溶接機器Bに伝送される(図1を参照)。この場合、例えば、溶接プログラムの溶接パラメータが予め与えられているために、溶接電流IAの将来の時間的な推移は、制御ユニット9aにとって既知であるとすることができる。それによって、制御ユニット9aは、将来発生する溶接電流の変化dI/dtを知って、それに対応する同期情報Yを溶接機器Bの制御ユニット9bに送信することができる。しかし、「決める」とは、溶接電流IA(又は一般的に電気機器EGの機器電流IEG)の将来の時間的な推移が既知でなく、例えば、閾値が予め与えられているか、或いは設定可能であるために、制御ユニット9aが、溶接電流IAの時間的な推移から溶接電流の変化dI/dtを自律的に検出することを意味することもできる。別の電気機器EGの場合には、その電気機器EGの制御ユニットが、同期情報Yを通信接続部11を介して溶接機器Bに伝送する。例えば、パルス電流フェーズPPの境界を画定する各電流エッジを検知することができる。図示された例では、下方のグラフで測定量としての溶接電圧UBに基づき表示されている通り、溶接機器Bの制御ユニット9bが、その受信した同期情報Yを処理して、溶接機器Aの溶接プロセスにおける溶接電流の変化dI/dt中に検出された測定量の測定値を無視する。それによって、測定量の誤って検出された測定値が溶接機器Bにより実施される溶接プロセスの制御又は調節のために使用されないことを保証できる。それにより、確かに測定量の連続的な測定が実施されるが、電磁気結合又はオーム結合のために誤った測定値を排除又は無視することができる。当然のことながら、誤った測定値を無視する代わりに、溶接電流の変化dI/dt中に測定量の検出を中断し、その結果、溶接電流の変化dI/dt中に測定値を生成しないようにすることも可能である。
【0052】
有利には、送信される同期情報Yは、各溶接電流の変化dI/dtの開始と終了に関する時間的な情報を含み、同期情報Yを受信した溶接機器Bは、溶接電流の変化dI/dtの開始と終了の間の時間期間に検出された測定量の測定値を無視する(或いは測定が中断される)。
【0053】
図2の例では、制御ユニット9aが、溶接電流の変化dI/dtに基づき、時点tA1での基本電流IGによる基本電流フェーズPGからパルス電流IPによるパルス電流フェーズPPへの第一の電流上昇の開始と、時点tE1でのそれに対応する第一の電流上昇の終了とを検知する。同様に、時点tA2とtE2に、それぞれ第一の電流低下の開始と終了が検出される云々。検出された時点tA1,tE1,tA2,tE2,...tAx,tExは、同期情報Yとして溶接機器Bに伝送され、制御ユニット9bがそれを処理して、下方のグラフにおいて斜線を付けた領域によって表される通り、時点tA1とtE1の間の時間期間Δt1中及び時点tA2とtE2の間の時間期間Δt2中に検出された測定量の測定値を無視するか、或いは測定量の検出を中断する。
【0054】
この場合、溶接機器Bの溶接電圧UBは、時間tに関する測定量としてプロットされており、時間tは、その上のグラフと同期している。制御ユニット9b(又はそれに対応する測定機器)が、溶接機器Aの溶接プロセスの溶接電流の変化dI/dt中における測定量の測定値を無視するか、或いは測定量、ここでは、溶接電圧UBの測定を中断することが分かる。図示された例では、溶接電流IAの電流エッジの開始と終了(時点tA1,tE1;tA2,tE2)が同期情報Yとして溶接機器Aから溶接機器Bに伝送され、溶接機器B又は制御ユニット9bが、時点tA1とtE1の間の時間期間Δt1中と時点tA2とtE2の間の時間期間Δt2中(及びそれ以外の全ての溶接電流の変化dI/dt中)に検出された測定値を無視する。それによって、溶接機器Aの溶接プロセスの溶接電流の変化dI/dtが、溶接機器Bの溶接プロセスに不利な影響を与えず、溶接機器Bの溶接電流回路の測定を妨害する電圧が誘導される可能性の有る時間中(斜線を付けた領域)の測定値が溶接機器Bの溶接プロセスの制御又は調節のために使用されないことが保証される。それに代わって、当然のことながら、前述した通り、測定量、特に、溶接電圧UBの検出を中止することができる。図示されたグラフでは、溶接機器Aの溶接プロセスの溶接電流の変化dI/dt中の不規則な溶接電圧UBによる測定量の擾乱が例として示されている(斜線を付けた領域)。実際には、当然のことながら、それ以外の推移、例えば、パルス電流フェーズPPの開始時の測定値のオーバーシュートも起こり得る。
【0055】
(例えば、溶接電流の変化の時間長及び/又は大きさが無視できる電圧しか誘導しないために、或いは1つの共通のアース配線8cの場合に、無視できる電圧降下しか発生させないために)溶接機器Aの溶接プロセスのパルス電流フェーズPPの両方の電流エッジ(電流上昇、電流低下)が、溶接機器Bの溶接電流回路又は一般的にはそれぞれ別の溶接電流回路への電圧誘導に関して重大でない場合、当然のことながら、溶接電流の変化dI/dtの発生毎ではなく、それぞれ溶接機器Aの溶接プロセスの関連する溶接電流の変化dI/dt中にだけ溶接機器Bにより検出された測定値を無視するか、或いは測定値の検出を中断すれば、それでも十分である。溶接電流の変化dI/dtが関連するのか否かは、例えば、各溶接電流の変化dI/dtの時間長及び/又は大きさに依存するとともに、例えば、閾値として、制御ユニット9aに保存しておくことができる。
【0056】
しかし、必ずしも実際の時間情報を同期情報Yとして伝送する必要はなく、単に同期パルス(電流又は電圧)Pを機器電流IEGの少なくとも1つの時間的な変化、特に、溶接電流の変化dI/dtの開始/終了に関する同期情報Yとして伝送すれば、それでも十分である。そして、制御ユニット9bは、同期パルスPを受信した時に、検出された測定量の測定値を無視するか、或いは、測定値(ここでは、溶接電圧UB)の使用を再び開始する。例えば、測定値を無視すべきか、或いは測定値の検出を中止すべき時間期間に、同期パルスPを溶接機器Aから溶接機器Bに持続的に送信して、同期パルスPが最早受信されなくなった時に、漸く溶接機器Bが測定値の使用又は測定量の検出を再び続けることも考えられる。データ通信接続部11としてデータバスが配備されている場合、同期パルスPの代わりに、それに対応するバス情報を送受信することができる。
【0057】
両方の溶接機器A,Bを用いて、それぞれ溶接プロセスが、例えば、図2に表示されている通り、それぞれパルス溶接プロセスが、時間的に変化する溶接電流IA,IBにより同時に実施される場合、当然のことながら、両方の溶接機器A,Bがそれぞれ同期情報YA,YBを求めて、通信接続部11を介して相互に交換するのが有利である。それによって、溶接機器Aが、溶接機器Bの溶接プロセスにおける溶接電流の変化dIB/dt中に測定量の測定値を無視するか、或いは測定を中断する(その逆にする)ことができる。三つ以上の溶接機器A,B,...nが同時に使用され、それらの溶接電流回路が電磁気結合又はオーム結合を有する場合、有利には、全ての関係する溶接機器A,B,...nが同期情報YA,YB,Ynを相互に交換する。
【0058】
有利には、例えば、ユーザーインタフェース10a,10bを介して、ユーザーによって、本発明による方法を作動及び停止するか、所定のパラメータを設定するか、或いはその両方が可能である。例えば、溶接電流の変化dI/dtに関する所定の閾値が予め与えられて、その閾値に到達するか、或いは上回った場合に、漸く同期情報Yを算出又は送信することと、時間期間Δtに関する閾値が設定可能であり、その閾値に到達するか、或いは上回った場合に、漸く同期情報Yを求めるか、或いは送信することとの中の1つ以上が考えられる。それによって、場合によっては、閾値に到達しない時に、測定値の無視又は測定量の検出の中断を控えることができる。閾値としては、時間長及び/又は大きさ(例えば、パルス電流IPと基本電流IPの間の差)を予め与えることができる。
【0059】
更に、例えば、データ伝送の遅延を補正するために、同期情報Yが、所定の先行時間tvだけ相応の溶接電流の変化dI/dtの前に、それぞれ1つ又は複数の別の溶接機器に送信されるのが有利であるとすることができる。溶接プロセスの溶接パラメータ(例えば、パルス周波数f、周期継続時間tS、パルス電流フェーズPPの時間長、基本電流フェーズPGの時間長など)が、そのため溶接電流Iの推移が一般的に既知であることによって、将来の溶接電流の変化dI/dtの時点及び時間期間も既知となる。それにより、同期情報Yを先行時間tvだけ本来の溶接電流の変化dI/dtの前にそれぞれ別の溶接機器に事前に送信することが可能である。この場合、例えば、第一の溶接電流の変化dI/dt(ここでは、例えば、時点tA1)だけを同期情報Yとして(例えば、時点tA1に同期パルスPとして)溶接機器Bに伝送し、更に、溶接機器Aにより実施される溶接プロセスの関連する溶接パラメータを溶接機器Bに伝送すれば、それでも十分であるとすることができる。そして、溶接機器Bの制御ユニット9bが、測定量の検出を中断するために、それから溶接機器Aの溶接プロセスにおける全ての将来の溶接電流の変化dI/dtの時点と時間期間を求めて、相応に考慮することができる。
【0060】
しかし、溶接プロセスの溶接パラメータが、そのため、例えば、溶接電流IAの将来の推移が事前に既知でない場合、同期情報Yは、制御ユニット9aによって検知された、溶接電流の変化dI/dtの発生時に漸く直ちに制御ユニット9aから伝送することもできる。これは、例えば、アーク長の動的な制御において、所定の目標アーク長に調整するために、溶接パラメータを変えることができる場合であるとすることができる。同じことが、当然のことながら、一般的に機器電流IEGの将来の推移が既知又は未知である別の電気機器EGにも言える。
【0061】
本発明による溶接方法は、特に、溶接電圧U(ここでは、UB)が(ここでは、溶接機器Bの)測定量として使用される場合に有利である。溶接機器Aの溶接プロセスにおける溶接電流の変化dI/dtが、溶接電流回路の電磁気結合のために溶接機器Bの溶接電流回路に電圧を誘導するので、その誘導された電圧が、測定される溶接電圧UBに直に作用する。同じことが、両方の溶接電流回路のオーム結合の場合に言え、その場合、以下において、更に詳しく説明する通り、溶接機器Aの溶接プロセスにおける溶接電流の変化dI/dtに起因する電圧降下が両方の溶接電流回路の共通の電位に、そのため、溶接機器Bの共通の溶接電圧UBに直に作用する。それによって、一般的に連続して測定される溶接電圧UBが、場合によっては、誤る可能性があり、それは、溶接機器Bでの溶接プロセスを不安定にする可能性がある。本発明による溶接方法によって、電圧誘導中又は電圧降下中に検出された溶接電圧UBの測定値が無視されるか、或いは溶接電圧UBの検出が控えられて、その後漸く、測定値が再び使用されるか、或いは測定が再び続けられる。しかし、当然のことながら、測定量として、溶接電流I及び/又は溶接電気抵抗を検出して、各溶接プロセスの制御に使用することもできる。
【0062】
冒頭で述べた通り、別個のアース配線8a,8bの代わりに、例えば、溶接機器Bと溶接機器A(及び/又は別の電気機器EG)用の電流母線などの1つの共通のアース配線8cを使用することもできる。この場合、溶接機器A,Bの溶接電流回路(又は溶接機器Bの溶接電流回路と別の電気機器EGの機器電流回路)は、相互に電磁気的に影響し合わない。それによって、電気機器EGの機器電流回路における機器電流の変化dIEG/dt時(図示された例では、溶接機器Aの溶接電流回路における溶接電流の変化dI/dt時)に、(測定値を検出する)溶接機器Bの溶接電流回路への電圧誘導が起こらない。そのため、電圧誘導に起因する測定値検出の不利な影響が生じない。しかし、この場合、共通のアース配線8cを介した、例えば、電流母線を介した溶接機器A,Bの溶接電流回路(及び/又は電気機器EGの機器電流回路)の所謂オーム結合が生じる。この場合、共通のアース配線8cは、単純に溶接電流回路又は機器電流回路に対するオーム抵抗を形成する。
【0063】
ここで、例えば、溶接機器Aの溶接電流回路(又は一般的に電気機器EGの機器電流回路)に、溶接電流IA(又は機器電流IEG)が流れると、それは、周知の通りオーム抵抗において電圧降下を引き起こす。そのため、この電圧降下は、共通に利用される電位を変える。ここで、溶接機器Bが、例えば、測定量として、その溶接電流回路において溶接電圧UBを検出する場合、それは、別の(溶接)電流回路で発生する電位の変化のために、場合によっては、電磁気結合の場合と同様に誤った測定結果を引き起こす可能性がある。そのため、オーム結合の場合には、溶接機器Bが電磁気結合の場合と同様に、溶接機器Aの溶接電流回路における溶接電流の変化dI/dt中(一般的には電気機器EGの機器電流回路における機器電流の変化dIEG/dt中)に検出された測定量の測定値を無視するか、或いは測定量の検出を中断するのが有利である。
【0064】
図示された例では、アース配線8a,8bの電磁結合の場合に、溶接機器Bの溶接電流回路への電圧誘導が、ほぼ溶接機器Aの溶接電流回路における溶接電流が実際に時間的に変化した(dI/dt)時(電流傾斜)にだけ起こる。そのため、図2の下方のグラフにおいて斜線で表示されている通り、溶接電流の実際の変化dI/dt中(tA1~tE1の間の時間期間Δt1、tA2~tE2の間の時間期間Δt2等々)の測定値だけを無視するか、或いは測定量の検出を中断すれば、それで十分である。
【0065】
それに対して、オーム結合の場合には、溶接電流の変化dI/dt中だけでなく、図2の下方のグラフにおいて斜線で表示されている通り、パルス電流フェーズPPの全体期間中に、即ち、例えば、電流上昇の開始tA3とその後の電流低下の終了tE3の間の時間期間Δt3において、測定値を無視するか、或いは測定値の検出を中断するのが有利であるとすることができる。
【0066】
そのため、オーム結合の場合には、電圧降下が溶接電流の時間的な変化dI/dtに依存するのではなく、ほぼ溶接電流IA又は一般的に機器電流IEGの絶対値に依存するので、これは有利である。そのため、基本電流IGAとパルス電流IPAの間の差が電圧降下に関して重要である。そのため、有利には、測定量、例えば、溶接機器Bの溶接電流回路における溶接電圧UBの測定値の使用又はその測定量の検出は、基本電流フェーズIGでのみ行われる。
【0067】
本方法の別の実施形態では、溶接機器Bにより検出された測定量、特に、溶接電圧UBを更なる処理のために外部の機器に伝送するのが有利である。例えば、外部の機器として、溶接継ぎ目を形成するために、溶接機器Bの溶接トーチ4bを所定の予め与えられた移動経路に沿って案内する溶接ロボットを配備することができる。溶接ロボットは、例えば、溶接機器Bの溶接トーチ4bの動きを制御するために、溶接機器Bの検出された測定量を使用することができる。この場合、MIG/MAG溶接では、例えば、特許文献2により周知の通り、溶接継ぎ目追従プロセスを溶接ロボットの制御ユニットに実装することができる。
【0068】
溶接ロボットの制御ユニットが、例えば、(本発明による測定値の検出の中断又は測定値の無視を行わない)従来技術により測定された溶接機器Bの溶接電圧UBを溶接継ぎ目追従制御用の入力量として使用する場合、(電磁結合又はオーム結合によって)起こる可能性の有る誤った溶接電圧UBのために、場合によっては、溶接継ぎ目追従において望ましくない偏差を引き起こす可能性がある。そのため、擾乱が排除された測定量(例えば、溶接電圧UB)を溶接ロボットの制御ユニットに伝送して、溶接ロボットの制御ユニットが、その擾乱が排除された測定量を溶接継ぎ目追従の制御/調節のために使用するのが有利であり、その理由は、その測定量が、例えば、溶接機器Aの溶接電流回路での溶接電流の変化dI/dt中における、場合によっては、誤った測定値を最早含まないからである。この場合、「擾乱が排除された測定量」とは、関連する溶接電流の変化dI/dt中の測定値を含まない検出された測定量であると理解する。WIG溶接の場合、例えば、WIG溶接トーチの(溶解しない)電極と加工物の間の電極間隔を制御するために、検出された(並びに擾乱が排除された)測定量を更に使用することができる。更に、例えば、品質保証のために、例えば、溶接機器Bにより実施される溶接プロセスの解析又は電極の消耗の監視などのために、検出された測定量を使用することも考えられる。
【0069】
最後に、図1の溶接装置と図2の推移が、当然のことながら、本発明の実施例だけを図示しており、それに限定されないと理解すべきであることを指摘しておきたい。例えば、必ずしも、図1に図示されている通り、2つのMIG/MAG溶接プロセスを使用する必要はなく、異なる溶接プロセス(例えば、MIG/MAG溶接、WIG溶接、スタブ電極溶接)による2つ又はそれを上回る数の任意の溶接機器を組み合わせることができる。一方において、少なくとも1つの溶接電流回路と電気機器EGの少なくとも1つの機器電流回路(特に、第二の溶接機器の第二の溶接電流回路)が、少なくとも部分的に互いに電磁気的に影響し合うとともに、共通のアース配線を介したオーム結合が出現するように、互いに相対的に配置されることが重要である。更に、少なくとも1つの溶接機器の少なくとも1つの溶接電流回路において、溶接プロセスが実施されて、各溶接プロセスを制御又は調節するために、測定量、特に、溶接電圧が検出されることが重要である。少なくとも1つの機器電流回路、特に、溶接電流回路には、少なくとも1つの時点に、時間的に変化する機器電流IEG又は時間的に変化する溶接電流Iが流れる。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の観点として以下も含む。
1.
少なくとも1つの溶接機器(B)により溶接プロセスを実施する溶接方法であって、この少なくとも1つの溶接機器(B)が、その溶接電流回路において溶接機器(B)の溶接プロセスを制御するための電気測定量を検出し、この溶接機器(B)により実施される溶接プロセス中に、少なくとも1つの時点に機器電流回路において時間的に変化する機器電流(IEG)が流れる少なくとも1つの別の電気機器(EG)から、この少なくとも1つの溶接機器(B)に同期情報(Y)が送信される溶接方法において、
この少なくとも1つの溶接機器(B)が、前記の時点に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用することを特徴とする溶接方法。
2.
上記1に記載の溶接方法において、
前記の同期情報(Y)が、溶接機器(B)の測定量に影響する機器電流の時間的な変化(dI EG /dt)に関する情報を含み、溶接機器(B)が、この測定量に影響する機器電流の時間的な変化(dI EG /dt)中に検出された測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用することを特徴とする溶接方法。
3.
上記1又は2に記載の溶接方法において、
電気機器(EG)として、溶接システムの電気構成部品、特に、点溶接装置又は溶接ロボットが使用されることを特徴とする溶接方法。
4.
上記1~3のいずれか1つに記載の溶接方法において、
電気機器(EG)として、時間的に変化する溶接電流(IA)により溶接プロセスを実施する溶接機器(A)が使用され、この時間的に変化する溶接電流(IA)により溶接プロセスを実施する溶接機器(A)が、溶接機器(B)の測定量に影響する、実施される溶接プロセスの溶接電流の変化(dI /dt)に関する同期情報(Y)を溶接機器(B)に送信することと、
測定量を検出する溶接機器(B)が、この溶接電流の変化(dI /dt)中に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用することと、を特徴とする溶接方法。
5.
上記4に記載の溶接方法において、
少なくとも2つの溶接機器(A,B)を用いて、それぞれ溶接プロセスが、時間的に変化する溶接電流(IA,IB)により実施され、これらの少なくとも2つの溶接機器(A,B)の各々が、それぞれその溶接電流回路において測定量を検出し、これらの溶接機器(A,B)が、それぞれ別の溶接機器(A,B)の測定量に影響する、それぞれ実施される溶接プロセスの溶接電流の変化(dI /dt,dI /dt)に関する同期情報(YA,YB)を相互に交換して、これらの溶接機器(A,B)が、溶接電流の変化(dI /dt,dI /dt)中に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した、それぞれ別の溶接機器(A,B)の同期情報(YA,YB)を使用することを特徴とする溶接方法。
6.
上記1~5のいずれか1つに記載の溶接方法において、
時間的に変化する溶接電流(I)による溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、ショートアーク溶接プロセス、スプレーアーク溶接プロセス又は溶接ワイヤー送りが逆転する溶接プロセスが用いられることを特徴とする溶接方法。
7.
上記1~6のいずれか1つに記載の溶接方法において、
送信される同期情報(Y)が、機器電流の変化(dI EG /dt)及び/又は溶接電流の変化(dI /dt)の開始と終了に関する時間的な情報を含むことと、
同期情報(Y)を受信した溶接機器(B)によって、機器電流の変化(dI EG /dt)及び/又は溶接電流の変化(dI /dt)の開始と終了の間に検出された測定量の測定値が無視されることと
を特徴とする溶接方法。
8.
上記1~7のいずれか1つに記載の溶接方法において、
前記の同期情報(Y)が、所定の先行時間(tv)だけ前記の機器電流の変化(dI EG /dt)及び/又は溶接電流の変化(dI /dt)の前に送信されることを特徴とする溶接方法。
9.
上記1~8のいずれか1つに記載の溶接方法において、
測定量として、溶接電圧(U)、溶接電気(I)及び溶接電気抵抗の中の1つ以上が検出されることを特徴とする溶接方法。
10.
上記1~9のいずれか1つに記載の溶接方法において、
少なくとも1つの溶接機器(B)が、検出された測定量を更なる使用のために外部の機器に伝送することと、
この外部の機器が、外部の機器のプロセスを制御するか、或いは溶接機器(B)の溶接プロセスを解析するために、この検出された測定量を使用することと、を特徴とする溶接方法。
11.
上記10に記載の溶接方法において、
外部の機器として、溶接継ぎ目を作り出すために、溶接機器(B)の溶接トーチ(4b)を案内する溶接ロボットが配備されることと、
この溶接ロボットが、溶接トーチ(4b)の動きを制御するために、受信した測定量を使用することと、を特徴とする溶接方法。
12.
溶接プロセスを実施する少なくとも1つの溶接機器(B)を備えた溶接装置(1)であって、この少なくとも1つの溶接機器(B)が、その溶接電流回路において溶接プロセスを制御するための電気測定量を検出するように設けられていて、時間的に変化する機器電流(IEG)が少なくとも1つの時点に機器電流回路に流れる少なくとも1つの別の電気機器(EG)が配備され、この少なくとも1つの電気機器(EG)が、通信接続部(11)を用いて、この少なくとも1つの溶接機器(B)と接続され、この少なくとも1つの電気機器(EG)が、この少なくとも1つの溶接機器(B)に同期情報(Y)を送信するように設けられている溶接装置において、
この少なくとも1つの溶接機器(B)が、前記の時点に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した同期情報(Y)を使用することを特徴とする溶接装置。
13.
上記12に記載の溶接装置(1)において、
電気機器として、溶接システムの電気構成部品、特に、点溶接装置又は溶接ロボットが配備されることを特徴とする溶接装置。
14.
上記12又は13に記載の溶接装置(1)において、
少なくとも2つの溶接機器(A,B)が、それぞれ溶接プロセスを時間的に変化する溶接電流(IA,IB)により実施するとともに、それぞれ測定量を検出するように配備され、これらの溶接機器(A,B)が、それぞれ別の溶接機器(A,B)の測定量に影響する、溶接機器(A,B)の溶接プロセスにおける溶接電流の時間的な変化(dI /dt,dI /dt)に関する同期情報(YA,YB)を相互に交換して、この溶接電流の変化(dI /dt,dI /dt)中に検出された測定量の測定値を無視するために、受信した、それぞれ別の溶接機器(A,B)の同期情報(YA,YB)を使用するように設けられていることを特徴とする溶接装置。
15.
上記12~14のいずれか1つに記載の溶接装置において、
少なくとも1つの溶接機器(A,B)が、時間的に変化する溶接電流(I)による溶接プロセスとして、パルス溶接プロセス、ショートアーク溶接プロセス又は溶接ワイヤー送りが逆転する溶接プロセスを実施するように設けられていることを特徴とする溶接装置。
16.
上記12~15のいずれか1つに記載の溶接装置において、
測定量として、溶接電圧(U)、溶接電流(I)及び溶接電気抵抗の中の1つ以上が設けられていることを特徴とする溶接装置。
17.
上記12~16のいずれか1つに記載の溶接装置において、
少なくとも1つの溶接機器(B)が、検出した測定量を更なる使用のために外部の機器に伝送するように設けられていることと、
この外部の機器が、外部の機器のプロセスの制御及び/又は溶接機器(B)の溶接プロセスの解析のために、この検出した測定量を使用するように設けられていて、外部の機器として、有利には、溶接継ぎ目を作り出すために溶接機器(B)の溶接トーチ(4b)を案内する溶接ロボットが配備されることと、
この溶接ロボットが、溶接トーチ(4b)の動きを制御するために、受信した測定量を使用するように設けられていることと、を特徴とする溶接装置。
図1
図2