(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】ボディプライスキム層
(51)【国際特許分類】
B60C 9/04 20060101AFI20230621BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230621BHJP
C08L 71/03 20060101ALI20230621BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230621BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20230621BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20230621BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
B60C9/04 D
B60C1/00 C
C08L71/03
C08K3/013
C08K3/011
C08L15/00
C08L7/00
(21)【出願番号】P 2021577365
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 IB2020055978
(87)【国際公開番号】W WO2020261146
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】102019000010449
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】パオロ フィオレンツァ
(72)【発明者】
【氏名】ジャコモ アンドレイニ
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-181305(JP,A)
【文献】特開2011-183960(JP,A)
【文献】特開平11-059129(JP,A)
【文献】特表2019-513852(JP,A)
【文献】特開平11-157305(JP,A)
【文献】特開平06-055665(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0000982(KR,A)
【文献】米国特許第05709760(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/04
B60C 1/00
C08L 71/03
C08K 3/013
C08K 3/011
C08L 15/00
C08L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強プライ(5)が埋め込まれた単一のゴム配合物(4)で作られたボディプライスキム層(2)を含む空気入りタイヤ(P)であって、
前記補強プライ(5)は、100×(T-B/T+B)である非対称指数AIを定義するように、前記ボディプライスキム層
(2)の外側表面(E)から距離Tに配置されており、かつ、前記ボディプライスキム層
(2)の内側表面(I)から距離Bに配置されており;
前記外側表面(E)は、前記空気入りタイヤ(P)のトレッド(1)を向いており、前記内側表面(I)は、前記空気入りタイヤ(P)の内部空洞(3)を向いており;
前記非対称指数AIが、-100より大きく、0より小さ
く、
前記ゴム配合物(4)が、70~90phrのポリエピハロヒドリンゴムと;
5~25phrのエポキシ化天然ゴム(E-NR)と;
5~25phrの天然ゴム(NR)とを含み;
E-NRとNRとの間のphrの比(E-NR/NR)が、0.2~5.0である、空気入りタイヤ(P)。
【請求項2】
前記非対称指数AIが、-85より大きく、-30より小さい、請求項1に記載の空気入りタイヤ
(P)。
【請求項3】
前記ボディプライスキム層
(2)の厚さが、0.9~2.0mmである、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ
(P)。
【請求項4】
前記
ゴム配合物(4)が、
フィラーと加硫系とを含む
、請求項
1~3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ
(P)。
【請求項5】
前記フィラーが、層状構造を有する材料である、請求項4に記載の空気入りタイヤ
(P)。
【請求項6】
前記ポリエピハロヒドリンゴムが、エピクロロヒドリンホモポリマーに、またはエピクロロヒドリン/アリル-グリシジルエーテルコポリマーに、もしくはエピクロロヒドリン/エチレンオキシドコポリマーに、もしくはエピクロロヒドリン/エチレンオキシド/アリル-グリシジルエーテルターポリマーに、由来するゴムである、請求項
1~5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ
(P)。
【請求項7】
前記ボディプライスキム層(2)が、前記内部空洞(3)に直接面しており;前記空気入りタイヤ(P)が、インナーライナー層を含まない
、請求項
1~6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ
(P)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完全な除去ではないにしても、インナーライナー層の厚さの劇的な減少を可能にするような特徴を有するボディプライスキム層に関する。
【背景技術】
【0002】
インナーライナーは、空気を実質的に不浸透性である限り、空気入りタイヤの内部空洞内の空気を圧力下で維持するためにチューブレス空気入りタイヤに使用される内側ゴム層である。さらに、インナーライナーは、酸素をその内部空洞内に可能な限り閉じ込められたままとし、空気入りタイヤの他の部分を構成する配合物内に拡散して劣化現象を引き起こさないことを確実にしなければならない。
【0003】
空気入りタイヤの製造では、必要な強度と耐久性の基準を確保するために、熱可塑性材料(例えば、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アラミド、PET)で作られた補強プライが使用される。そのプライを囲むように配置したゴム層は、英語の「ボディプライスキム」という言葉で表され、一般に、そのインナーライナー層と直接接触している。
【0004】
知られているように、空気入りタイヤ産業では、車両の全体的なエネルギー消費およびその転がり抵抗に関してプラスの影響を与える空気入りタイヤの重量を減らす必要がある。
【0005】
当業者にはすぐに明らかであるように、インナーライナー層の厚さの減少、または実際にその除去は、必然的に使用される材料の量の減少につながり、これには、生産性と空気入りタイヤ自体の軽量化の両方の観点から明らかな利点があり、車両の全体的なエネルギー消費と転がり抵抗にプラスの効果がある。
【0006】
実際に除去されない場合でも、インナーライナー層が薄くなると起こり得る問題の1つは、補強プライを構成するコードが露出する可能性に関するものである。実際、知られているように、加硫ステップでは、グリーン空気入りタイヤは、膨潤時に空気入りタイヤを金型の壁に対して内側から押すブラダーの作用によって、金型の壁の間で圧縮される。この加硫ステップでは、インナーライナー(存在する場合)などのゴム層と補強プライが組み込まれているボディプライスキムとが、ブラダーの作用によって圧縮され、補強プライのコードは、空気入りタイヤの内部空洞を画定する空気入りタイヤの内側表面に必然的に接近する。
【0007】
上記の説明から、インナーライナーが非常に薄いまたは存在しない場合、コードが空気入りタイヤの内側表面に隆起を生じさせたり、または実際にゴム層から出ることさえあり、そのため露出したりする場合があることが明らかである。当業者には明らかであるかもしれないが、そのような可能性は、その動作を危うくする重大な空気入りタイヤの問題に必然的につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、非常に薄いインナーライナー層が使用される場合またはインナーライナー層が使用されない場合に、コードの突出または出現を防止することができる解決策を実施することである。
【0009】
本発明の発明者らは、上記の現象を発生させることなく、インナーライナー層を大幅に薄くする、または完全に除去することができるような技術的特性を備えたボディプライスキム層を作製した。
【0010】
本発明の主題は、補強プライが埋め込まれている単一のゴム配合物で作られたボディプライスキム層を含む空気入りタイヤであり;前記補強ボディプライは、100×(T-B/T+B)である非対称指数AIを定義するように、ボディプライスキム層の外側表面から距離Tに配置されており、かつ、ボディプライスキム層の内側表面から距離Bに配置されており;前記外側表面は、空気入りタイヤのトレッドを向いており、前記内側表面は、空気入りタイヤの内部空洞を向いており;前記空気入りタイヤは、前記非対称指数AIが-100より大きく、0より小さいという特徴がある。
【0011】
ボディプライスキムの外側表面とは、空気入りタイヤのトレッドに面するボディプライスキムの表面を意味し;ボディプライスキムの内側表面とは、空気入りタイヤの内部空洞を向いたボディプライスキムの表面を意味する。
【0012】
好ましくは、前記非対称指数AIは、-85より大きく、-30より小さい。
【0013】
好ましくは、ボディプライスキム層は、0.9~2.0mmの厚さを有する。
【0014】
好ましくは、前記ボディプライスキム層は、ポリエピハロヒドリンゴムと、架橋性不飽和鎖ポリマーベースとしてのエポキシ化天然ゴムと、フィラーと、加硫系とを含む配合物で作られている。
【0015】
本明細書では、加硫系とは、少なくとも硫黄および促進化合物を含む成分の複合体を意味し、これは、配合物の調製において、最終混合ステップで添加され、一旦配合物が加硫温度に供されるとポリマーベースの加硫を促進することを目的とする。
【0016】
本明細書では、「架橋性不飽和鎖ポリマーベース」という用語は、硫黄ベースの系で架橋(加硫)時にエラストマーによって通常想定される化学的物理的および機械的特性のすべてを想定することができる任意の天然または合成の非架橋ポリマーを指す。
【0017】
好ましくは、前記フィラーは、層状構造を有する材料である。
【0018】
好ましくは、配合物は、70~90phrの前記ポリエピハロヒドリンゴムと;5~25phrの前記エポキシ化天然ゴム(E-NR)と;5~25phrの天然ゴム(NR)とを含み、E-NRとNRとの間のphrの比が、0.2~5.0である。
【0019】
量は、phr、つまりゴム100部あたりの部数で表され、ここで、ゴムとは、ポリエピハロヒドリン、E-NRおよびNRからなる複合体を指す。
【0020】
好ましくは、E-NRとNRとの間のphrの比は、1.0~3.0である。
【0021】
好ましくは、ポリエピハロヒドリンゴムは、エピクロロヒドリンホモポリマーに、またはエピクロロヒドリン/アリル-グリシジルエーテルコポリマーに、もしくはエピクロロヒドリン/エチレンオキシドコポリマーに、もしくはエピクロロヒドリン/エチレンオキシド/アリル-グリシジルエーテルターポリマーに、由来するゴムである。
【0022】
本発明をよりよく理解するために、以下の例は、添付の図の助けを借りて、例示的かつ非限定的な目的に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明による空気入りタイヤの一部の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明によるボディプライスキム層の一部の断面図である。
【0024】
図1には、本発明による空気入りタイヤが全体としてPで示されている。
【0025】
空気入りタイヤPは、トレッド層1と、空気入りタイヤPの内部空洞3に直接面するボディプライスキム層2とを含む。
【0026】
特に、空気入りタイヤPでは、インナーライナー層の存在が想定されない限り、ボディプライスキム層2は、内部空洞3に直接面している。
【0027】
図2では、本発明によるボディプライスキム層が全体として2で示されている。ボディプライスキム層は、単一の配合物4と、単一の配合物4内に収容されている補強プライ5とからなる。
【0028】
ボディプライスキム層2は、空気入りタイヤのトレッド1を向いた外側表面Eと、内部空洞3に面した内側表面Iとを備える。
【0029】
図2では、コード5と外側表面Eとの間の距離がTで示され、コード5と内側表面Iとの間の距離がBで示されている。
【実施例】
【0030】
3つの空気入りタイヤを製造した:空気入りタイヤAは、比較例を表し、PETの補強プライが埋め込まれた厚さ1.2mmのボディプライスキム層を含み、AIは0であり、インナーライナー層は、厚さ1.0mmである;空気入りタイヤBは、比較例を表し、PETの補強プライが埋め込まれた厚さ1.2mmのボディプライスキム層を含み、AIは0であり、インナーライナー層を含まない;空気入りタイヤCは、本発明による実施例を表し、PETの補強プライが埋め込まれた厚さ1.2mmのボディプライスキム層を含み、AIは-49であり、インナーライナー層を含まない。
【0031】
空気入りタイヤA~Cは、インナーライナー層の存在とPET補強プライの位置以外は、すべての点で同じである。
【0032】
ボディプライスキム層は、表Iにphrでの組成を示した配合物を使用して製造した。
【0033】
【0034】
NRは、天然由来のシス-1,4-ポリイソプレンで構成されるポリマーベースでできている天然ゴムの略である。
【0035】
E-NRは、25%のエポキシ化度を示すエポキシ化天然ゴムの略である。
【0036】
使用するポリエピハロヒドリンゴムは、ZEON社からT3000として販売されているエピクロロヒドリン/エチレンオキシド/アリルグリシジルエーテルターポリマーに由来するゴムである。
【0037】
CBは、クラスN6に属するカーボンブラックの略である。
【0038】
MBTSは、加硫促進剤として使用されるメルカプトベンゾチアゾールジスルフィドの頭字語である。
【0039】
TBBSは、加硫促進剤として使用されるN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの頭字語である。
【0040】
配合物の調製
配合物は、本発明の目的に関係がない標準的な手順に従って作製した。
【0041】
(第1混合ステップ)
混合を開始する前に、接線ローター(一般にバンバリーと呼ばれる)と230~270リットルの内容積を備えるミキサーに、ポリマーベースと補強性フィラーを充填し、66~72%の充填率とした。
【0042】
そのミキサーを40~60回転/分の速度で動作させ、140~160℃の温度に達したところで、形成した混合物を排出した。
【0043】
(第2混合ステップ)
前のステップから得られた混合物に加硫系を加え、63~67%の充填率とした。
【0044】
ミキサーを20~40回転/分の速度で動作させ、100~110℃の温度に達したところで、形成した混合物を排出した。
【0045】
空気入りタイヤA~Cを、同じ加硫プロセスで製造した。
【0046】
製造後、インナーライナー+ボディプライスキム(I+BPS)アセンブリの重量、転がり抵抗および外観の観点から、空気入りタイヤを評価した。
【0047】
表IIは、上記のパラメーターの評価を示す。
【0048】
外観評価は、業界の作業者による触覚検査および目視検査から導き出される。
【0049】
重量に関するデータは、空気入りタイヤAのI+BPSアセンブリの重量に対する変量として表す。
【0050】
転がり抵抗値は、ISO28580手順に従って検出し、空気入りタイヤAの相対値を基準にして指数化した。
【0051】
【0052】
表IIの評価から明らかなように、本発明の主題である解決策は、インナーライナー層を除去することができるという大きな利点をもたらし、それによって補強プライのコードの露出または出現を引き起こすことなく、重量と転がり抵抗の点で相対的な利点を有する。さらに、使用される配合物は、インナーライナーがないにもかかわらず、空気に対する必要な不浸透性も確保することを強調することが重要である。