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特許7300017シリコンナノワイヤチップの製造方法及びシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】シリコンナノワイヤチップの製造方法及びシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20230621BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20230621BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230621BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20230621BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20230621BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
G01N1/04 V
G01N1/04 H
G01N1/10 V
G01N27/62 G ZAB
G01N27/62 F
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/00 950
H01J49/16 100
H01J49/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021578254
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 CN2020092566
(87)【国際公開番号】W WO2020259186
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】201910579528.1
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521220781
【氏名又は名称】杭州匯健科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】▲ウー▼ 建敏
(72)【発明者】
【氏名】陳 暁明
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】X. Chen et al.,Tip-Enhanced Photoinduced Electron Transfer and Ionization on Vertical Silicon Nanowires,ACS Applied Materials and Interfaces,2018年,Vol. 10,pp. 14389-14398
【文献】D.A. Hashim et al,Influence of Ag NPs on Silicon Nanocolumns NH3 Gas Sensors, Journal of The Electrochemical Society,2018年,Vol. 165, No. 14,pp. B773-B778
【文献】F. Moulai et al,Enhancement of Electrochemical Capacitance of Silicon Nanowires Arrays (SiNWs) by Modification with Manganese Dioxide MnO2,Silicon,2019年03月09日,Vol. 11,pp. 2799-2810
【文献】M.J. Lo Faro et al.,Silicon nanowire and carbon nanotube hybrid for room temperature multiwavelength light source,Scientific Reports,2015年,Vol. 5, No. 16753,pp. 1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/04
G01N 1/10
G01N 27/62
H01J 49/00
H01J 49/16
H01J 49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥環境で末端基にアミノ基を含むシロキサンのトルエン溶液と10~120分間反応させて、表面にアルキル鎖を持ち、末端がアミノ基であるシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、
カーボンナノ材料の溶液を、表面にアミノ基を持つシリコンナノワイヤの表面に静電的に吸着させて、表面がカーボンナノ材料で修飾されたシリコンナノワイヤチップを得るステップ3と、を含む、ことを特徴とするシリコンナノワイヤチップの製造方法。
【請求項2】
金属支援エッチングで作製したシリコンナノワイヤチップは、ワイヤ長さが0.5~3μm、ワイヤ径が50~200nmであり、アルカリポストエッチングされたシリコンナノワイヤチップは、ワイヤ長さが0.5~3μm、ワイヤ径が先端で25~50nm、底部で50~100nmである、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップの製造方法。
【請求項3】
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得ることと、
シリコンナノワイヤチップに対し、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、及びアルキル鎖修飾を含む表面化学修飾、或いは、金属ナノ粒子修飾、金属酸化物ナノ粒子修飾、およびカーボンナノ材料修飾を含むナノ材料修飾を行うことと、を含むシリコンナノワイヤチップを製造するステップ1と、
製造されたシリコンナノワイヤチップの表面に、インディゴ、ベンジルピリジン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルコリンを含む標準溶液を滴下し、室温で自然乾燥させ、シリコンナノワイヤチップをカーボン導電性接着剤でターゲットプレートに貼り付け、質量スペクトル検出まで乾燥の真空環境で保管することと、
質量分析計により、同じエネルギー強度条件下で、シリコンナノワイヤチップの表面における標準溶液による質量スペクトル信号を検出することと、
各処理及び修飾が行われた複数のシリコンナノワイヤチップのイオン化効率を比較することと、
同じエネルギー条件下で、インディゴとホスファチジルエタノールアミンによる質量スペクトル信号の強度の最高値に対応する材料を、負イオンモードでの検出に最適なシリコンナノワイヤチップとすることと、
ホスファチジルコリンによる質量スペクトル信号の強度の最高値に対応する材料を、正イオンモードでの検出に最適なシリコンナノワイヤチップとすることと、
ベンジルピリジンによって材料の脱離能力の判断を支援することと、を含むシリコンナノワイヤチップの質量分析性能を評価するステップ2と、
サンプリングする試料を洗浄しまたは拭き取り、シリコンナノワイヤチップを距離なしでサンプリングする固体表面に接触させるか、或いは、液体に浸し、サンプリングが完成するとチップを洗浄し、チップが自然乾燥した後に接触サンプリング工程を完了させることと、サンプリングされたシリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて対応する反射モードで検出することと、を含む先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析を実行するステップ3と、を含む、ことを特徴とするシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【請求項4】
ステップ3は、体表の汗の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
シリコンナノワイヤチップを一晩アルコールに浸し、滅菌し、切断後に粘着テープに固定し、後で使用するために乾燥かつ密閉の環境に保管するステップaと、
被験者の首の後ろを医療用アルコールと純水で連続して拭き取った後、シリコンナノワイヤチップを含む粘着テープを貼り付け、シリコンナノワイヤチップが皮膚表面に触れると、体表から分泌された汗分子を自動的に抽出・吸着するステップbと、
サンプリングが完成すると、シリコンナノワイヤチップを粘着テープから剥がし、脱イオン水で洗浄して塩を除去するか、或いは、有機溶媒で洗浄して油分子を除去し、次に窒素で乾燥させ、乾燥かつ密閉の環境に保管するステップcと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオンモードと正イオンモードの反射モードで検出し、代謝分子情報を取得するステップdと、を含む、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【請求項5】
ステップ3は、指紋イメージングと、外因性の爆発物および薬物の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
指を水で洗った後、10~30分間自然に油を分泌させるステップaと、
爆発物または薬物溶液をきれいなスライドガラスに滴下し、その溶媒が蒸発した後、爆発物または薬物が滴下されたスライドガラスの表面を指で5~10秒間しっかりと押すステップbと、
指をシリコンナノワイヤチップの表面に10秒間接触させ、指紋の痕跡を残し、スキャナーでシリコンナノワイヤチップをスキャンして、dpi>600の画像を取得するステップcと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出するステップdと、を含み、
得られた質量スペクトルには、指紋による脂肪酸の分子情報と外因性の爆発物又は薬物の分子情報が含まれ、
内因性脂肪酸の均一な分布は、指のテクスチャ情報を反映可能であり、
爆発物及び薬物の識別は、質量スペクトルの複数の特徴的なピークによって実行可能である、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【請求項6】
ステップ3は、果物の表面の残留農薬の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
濃度が0.01ng/cm~5000ng/cmの農薬標準溶液を果物の外皮に均一に噴霧し、溶媒が蒸発した後果物試料を得るステップaと、
シリコンナノワイヤチップを果物の外皮に手で5~60秒間しっかりと押し付けて、原位置収集を完了させるステップbと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出するステップcと、を含み、
接触サンプリングプロセスでは、農薬の分子情報だけでなく、果物の表面の脂肪酸情報も収集可能となり、
農薬勾配濃度の設定及び果皮質量の計量によって、果皮の表面の農薬の検出限界を計算し、それを国際の食品中の農薬含有量の許容濃度と比較して、果物の表面の残留農薬が基準を超えているかどうかを判断する、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【請求項7】
ステップ3は、水域の残留農薬の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
水域の天然水を取り、遠心分離後に粒子のない上澄みを取り、標準に濃度が1ng/mL~1mg/mLの農薬標準物を追加して、水試料を得るステップaと、
シリコンナノワイヤチップを水試料に浸し、500~1000rpm/minで10~180秒間振動させた後、シリコンナノワイヤチップを水試料から取り出し、自然乾燥させてサンプリングを完了させるステップbと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出し、サンプリング時間を調整することにより、抽出キネティックカーブを取得し、サンプリング時間を制御し、農薬の検出限界を計算するステップcと、を含む、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【請求項8】
ステップ3は、組織試料の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
臨床手術または動物を解剖した臓器から組織試料を取得し、切断するステップaと、
シリコンナノワイヤチップを切断した後、チップが組織の表面に接触し、組織が0.5mm変形するように、5秒から180秒間の接触サンプリングを実行して、先端接触サンプリングを完了させるステップbと、
サンプリングが完成すると、チップの表面を純水で十分にすすぎ、自然乾燥させた後、質量分析計と一致するターゲットプレート基板に移し、質量スペクトル検出まで真空乾燥環境に置いて保管するステップcと、
ターゲットプレートを質量分析計に入れ、負イオンまたは正イオン反射モードで質量分析を実行し、組織表面における200~1500Daの分子量範囲の代謝分子のスペクトルを取得するステップdと、を含む、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【請求項9】
接触サンプリングにより組織表面の各部位の分子情報を取得する手法は、複数のシリコンナノワイヤチップを別々にサンプリングして検出することで取得すること、或いは、1枚のシリコンナノワイヤチップを組織表面の各部位に同時に接触させて各部位の代謝分子のスペクトルを検出することで取得することを含む、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【請求項10】
サンプリングされた組織が腎臓組織、脳組織、または肺組織である場合、接触サンプリング時間は30秒であり、サンプリングされた組織が肝臓組織である場合、接触サンプリング時間は60秒である、ことを特徴とする請求項に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新材料および質量スペクトル検出方法の技術分野に属し、具体的には、シリコンナノワイヤチップおよびシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料の収集、前処理及び検出は、分析技術の分野における3つの重要な工程である。質量分析は、従来の分析法と比較して、高精度、高感度、高含有量という特徴を備えるため、複雑な試料中の微量分析物の定性・定量分析や複数の分析物の並行分析に特に適用されており、環境分析や、食品安全、臨床診断のいずれにおいても重要な役割を果たしている。その中に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)に基づく分析法は、高速、高スループット、および強力な汚染防止特性により、複雑な試料を迅速に検出するための優れたプラットフォームを提供する。ただし、従来のMALDI質量分析にはまだ2つの欠点がある。1つは、すべての分析物のMALDI検出では、レーザーのエネルギーを吸収して脱離・イオン化を支援するために適切な有機マトリックスを追加する必要があるため、分子量が700Da未満の小分子の検出に深刻なバックグラウンド干渉が発生しやすくなることである。もう1つは、測定する試料は、「スポッティング」というステップを介してMALDIターゲットプレートに滴下する必要があるため、ターゲット検出物質の抽出および移動プロセスは依然として不可欠であることである。
【0003】
特殊な構造や物理的特性を備えたナノ材料、特にシリコン材料、金属酸化物、金属硫化物などの半導体ナノ材料は、電荷とエネルギーの優れたメディエーターであり、表面支援レーザー脱離イオン化質量分析(SALDI-MS)による小分子の検出に直接使用可能であるため、MALDIにおけるCHCAなどの有機マトリックスを置き換えてホットスポット効果を低減するだけでなく、低分子量領域(<800Da)における有機マトリックスの信号干渉を回避することもできる。特許文献WO2018126230A1では、マトリックスフリー分析用の材料として、ナノポーラスや、ナノチューブ、ナノロッドなどの多種のナノ構造によって複合したシリコン材料のマトリックスを使用することが開示されている。特許文献WO2015140243A1では、ガラスシートに酸化インジウムスズ(ITO)の層が搭載されることにより、マトリックスフリーの場合でも複雑な生体試料における分子量が最大30~40kDaである薬物、脂質、代謝物、タンパク質などの分子の分析が可能となることが開示されている。多種のナノ材料によってバックグラウンド干渉の問題を解決可能であるが、その役割は有機マトリックスを置き換えることに限定されており、従来のMALDIで必要とされる試料の収集及び前処理プロセスは依然として不可欠である。
【0004】
無機ナノ抽出剤でコーティングされたまたはそのものがナノ構造の固相マイクロ抽出(SPME)ヘッドは、試料の収集と予備濃縮に広く使用されており、GC-MSまたはLC-MSなどの分析検出デバイスと組み合わせて、ターゲット分子の識別と特性評価を行う。特許文献CN103055830Aでは、DNA修飾酸化グラフェンをSPMEヘッドとして試料におけるGC-MS検出用の抗生物質を抽出することが記載されている。特許文献CN103071473Aでは、SiOゲルとカーボンナノチューブをステンレス鋼のコアロッドの外側にコーティングすることでSPMEヘッドを製造し、得られたSPMEヘッドは環境、食品、医薬、生物学などの分野に適用できることが記載されている。サンプリング、抽出、濃縮、およびSALDI質量分析へのナノ材料の同時適用は、複雑な試料の分析プロセスを必然的に簡素化し、食品安全、健康管理、および臨床検出における質量分析の適用可能性を高めることができる。
【0005】
市場では、吸着、抽出、および電荷移動機能を同時に強化可能になるだけでなく、空間不均質性をもつ試料の原位置情報を保持することもできる多機能サンプリング・質量分析用チップが必要とされている。本発明は、そのような問題を解決するためのものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の欠点を解決するために、本発明は、シリコンナノワイヤチップおよびシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法を提供することを目的としている。本発明では、シリコンナノワイヤチップのナノ構造特性および半導体特性を十分に活用し、接触型抽出・転写およびマトリックスフリー質量スペクトル検出を統合することにより、複雑な試料の収集、前処理および検出のプロセスが大幅に簡素化される。本発明によって製造されたシリコンナノワイヤチップは、吸着・抽出機能、および質量スペクトル検出機能を同時に持つことが可能になるだけでなく、空間不均質性をもつ試料の原位置情報を保持することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するために、以下の技術的解決策を採用する。
【0008】
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
シリコンナノワイヤチップに対し、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、及びアルキル鎖修飾を含む表面化学修飾、或いは、金属ナノ粒子修飾、金属酸化物ナノ粒子修飾、およびカーボンナノ材料修飾を含むナノ材料修飾を行うステップ2と、によって製造されたシリコンナノワイヤチップ。
【0009】
表面に金属ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
先端を持つシリコンナノワイヤチップに表面酸化物層を酸で除去した後、表面に金属塩溶液の層を塗布し、室温で10~30分間反応させ、洗浄後、表面に金属ナノ粒子が含まれるシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、を含むプロセスで製造される、上記のシリコンナノワイヤチップ。
【0010】
表面に金属酸化物ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップに対し、表面酸化物層を酸で除去した後、金属酸化物の前駆体溶液の層をスピンコートし、室温で自然乾燥させた後、450Cで2時間の高温処理をして、表面に金属酸化物ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、を含むプロセスで製造される、上記のシリコンナノワイヤチップ。
【0011】
表面がカーボンナノ材料で修飾されたシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥環境で末端基にアミノ基を含むシロキサンのトルエン溶液と10~120分間反応させて、表面にアルキル鎖を持ち、末端がアミノ基であるシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、
カーボンナノ材料の溶液を、表面にアミノ基を持つシリコンナノワイヤの表面に静電的に吸着させて、表面がカーボンナノ材料で修飾されたシリコンナノワイヤチップを得るステップ3と、を含むプロセスで製造される、上記のシリコンナノワイヤチップ。
【0012】
皮膚表面の代謝物のサンプリングに適用されるシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥環境で末端基にアミノ基を含むシロキサンまたは末端に活性基のないシロキサンのトルエン溶液と10~120分間反応させて、表面にアミノ基またはアルキル鎖を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、を含むプロセスで製造される、上記のシリコンナノワイヤチップ。
【0013】
金属支援エッチングで作製したシリコンナノワイヤチップは、ワイヤ長さが0.5~3μm、ワイヤ径が50~200nmであり、アルカリポストエッチングされたシリコンナノワイヤチップは、ワイヤ長さが0.5~3μm、ワイヤ径が先端で25~50nm、底部で50~100nmである、上記のシリコンナノワイヤチップ。
【0014】
シリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法であって、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得ることと、
シリコンナノワイヤチップに対し、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、及びアルキル鎖修飾を含む表面化学修飾、或いは、金属ナノ粒子修飾、金属酸化物ナノ粒子修飾、およびカーボンナノ材料修飾を含むナノ材料修飾を行うことと、を含む、シリコンナノワイヤチップを製造するステップ1と、
シリコンナノワイヤチップの表面に、インディゴ、ベンジルピリジン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルコリンを含む標準溶液を滴下し、室温で自然乾燥させ、シリコンナノワイヤチップをカーボン導電性接着剤でターゲットプレートに貼り付け、質量スペクトル検出まで乾燥の真空環境で保管することと、
質量分析計により、同じエネルギー強度条件下で、シリコンナノワイヤの表面における標準溶液による質量スペクトル信号を検出することと、
各処理及び修飾が行われた複数のシリコンナノワイヤチップのイオン化効率を比較することと、
同じエネルギー条件下で、インディゴとホスファチジルエタノールアミンによる質量スペクトル信号の強度の最高値に対応する材料を、負イオンモードでの検出に最適なシリコンナノワイヤチップとすることと、
ホスファチジルコリンによる質量スペクトル信号の強度の最高値に対応する材料を、正イオンモードでの検出に最適なシリコンナノワイヤチップとすることと、
ベンジルピリジンによって材料の脱離能力の判断を支援することと、を含むシリコンナノワイヤチップの質量分析性能を評価するステップ2と、
サンプリングする試料を洗浄しまたは拭き取り、シリコンナノワイヤチップを距離なしでサンプリングする固体表面に接触させるか、或いは、液体に浸し、サンプリングが完成するとチップを洗浄し、チップが自然乾燥した後に接触サンプリング工程を完了させることと、
サンプリングされたシリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて対応する反射モードで検出することと、を含む先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析(Tip-Contact Sampling and in situ Ionization Mass Spectrometry)を実行するステップ3と、を含む、シリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0015】
ステップ3は、体表の汗の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
シリコンナノワイヤチップを一晩アルコールに浸し、滅菌し、切断後に粘着テープに固定し、後で使用するために乾燥かつ密閉の環境に保管するステップaと、
被験者の首の後ろを医療用アルコールと純水で連続して拭き取った後、シリコンナノワイヤチップを含む粘着テープを貼り付け、シリコンナノワイヤチップが皮膚表面に触れると、体表から分泌された汗分子を自動的に抽出・吸着するステップbと、
サンプリングが完成すると、シリコンナノワイヤチップを粘着テープから剥がし、脱イオン水で洗浄して塩を除去するか、或いは、有機溶媒で洗浄して油分子を除去し、次に窒素で乾燥させ、乾燥かつ密閉の環境に保管するステップcと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオンモードと正イオンモードの反射モードで検出し、負イオンモードで得られる分子情報は、ほとんどが脂肪酸などの分子の情報であり、正イオンモードで得られる情報は、ほとんどがジグリセリドとトリグリセリドの情報であるステップdと、を含む、上記のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0016】
ステップ3は、指紋イメージングと、外因性の爆発物および薬物の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
指を水で洗った後、10~30分間自然に油を分泌させるステップaと、
爆発物または薬物溶液をきれいなスライドガラスに滴下し、その溶媒が蒸発した後、爆発物または薬物が滴下されたスライドガラスの表面を指で5~10秒間しっかりと押すステップbと、
指をシリコンナノワイヤチップの表面に10秒間接触させ、指紋の痕跡を残し、スキャナーでシリコンナノワイヤチップをスキャンして、dpi>600の画像を取得するステップcと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出するステップdと、を含み、
得られた質量スペクトルには、指紋による脂肪酸の分子情報と外因性の爆発物又は薬物の分子情報が含まれ、
内因性脂肪酸の均一な分布は、指のテクスチャ情報を反映可能であり、
爆発物及び薬物の識別は、質量スペクトルの複数の特徴的なピークによって実行可能である、上記のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0017】
ステップ3は、果物の表面の残留農薬の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
濃度が0.01ng/cm~5000ng/cmの農薬標準溶液を果物の外皮に均一に噴霧し、溶媒が蒸発した後果物試料を得るステップaと、
シリコンナノワイヤチップを果物の外皮に手で5~60秒間しっかりと押し付けて、原位置収集を完了させるステップbと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出するステップcと、を含み、
接触サンプリングプロセスでは、農薬の分子情報だけでなく、果物の表面の脂肪酸情報も収集可能となり、
農薬勾配濃度の設定及び果皮質量の計量によって、果皮の表面の農薬の検出限界を計算し、それを国際の食品中の農薬含有量の許容濃度と比較して、果物の表面の残留農薬が基準を超えているかどうかを判断する、上記のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0018】
ステップ3は、水域の残留農薬の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
水域の天然水を取り、遠心分離後に粒子のない上澄みを取り、標準に濃度が1ng/mL~1mg/mLの農薬標準物を追加して、水試料を得るステップaと、
シリコンナノワイヤチップを水試料に浸し、500~1000rpm/minで10~180秒間振動させた後、シリコンナノワイヤチップを水試料から取り出し、自然乾燥させてサンプリングを完了させるステップbと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出し、サンプリング時間を調整することにより、抽出キネティックカーブを取得し、サンプリング時間を制御し、農薬の検出限界を計算するステップcと、を含む、上記のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0019】
ステップ3は、組織試料の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
臨床手術または動物を解剖した臓器から組織試料を取得し、切断するステップaと、
シリコンナノワイヤチップを切断した後、チップが組織の表面に接触し、組織が0.5mm変形するように、5秒から180秒間の接触サンプリングを実行して、先端接触サンプリングを完了させるステップbと、
サンプリングが完成すると、チップの表面を純水で十分にすすぎ、自然乾燥させた後、質量分析計と一致するターゲットプレート基板に移し、質量スペクトル検出まで真空乾燥環境に置いて保管するステップcと、
ターゲットプレートを質量分析計に入れ、負イオンまたは正イオン反射モードで質量分析を実行し、組織表面における200~1500Daの分子量範囲の代謝分子のスペクトルを取得するステップdと、を含む、上記のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0020】
接触サンプリングにより組織表面の各部位の分子情報を取得する手法は、複数のシリコンナノワイヤチップを別々にサンプリングして検出することで取得すること、或いは、1枚のシリコンナノワイヤチップを組織表面の各部位に同時に接触させて各部位の代謝分子のスペクトルを検出することで取得することを含む、上記のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0021】
サンプリングされた組織が腎臓組織、脳組織、または肺組織である場合、接触サンプリング時間は30秒であり、サンプリングされた組織が肝臓組織である場合、接触サンプリング時間は60秒である、上記のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
【0022】
本発明の利点は次のとおりである。
【0023】
本発明のナノ材料接触サンプリング法は、複雑な環境における生体試料から分析物を迅速に収集することができ、特に、大量の分子情報を含む体液、組織などのヒト試料に対する多次元質量分析によってサンプリングおよび前処理が簡素化され、有毒で有害な有機溶媒の関与が回避される。
【0024】
本発明のシリコンナノワイヤチップは、優れた吸着・抽出能力を備え、その表面の化学修飾および金属、金属酸化物、およびカーボンナノ材料との複合により、生体試料における特定のタイプの分子の抽出を増強する機能を持つため、ターゲット分析物の特性に応じてシリコンナノワイヤチップの選択および最適化をすることができる。
【0025】
本発明のシリコンナノワイヤチップは、抽出機能を備えたサンプリングチップとして使用可能だけでなく、良好なエネルギー吸収および電荷移動機能を備えた質量分析基板としても使用可能である。市場の単純なマトリックスフリーの基板では、通常、試料を材料の底板に滴下するため、操作の制御が困難である。これに対し、本発明では、シリコンナノワイヤチップを最初にサンプリングチップとして、次に質量スペクトル検出チップとして使用することにより、その適用範囲が広くなり、分散収集および集中検出が実現できる。
【0026】
本発明のシリコンナノワイヤチップは、優れたエネルギーおよび電荷の蓄積・移動能力を備え、間接バンドギャップ半導体として、レーザーによる光電効果の下で、先端の分子に対する強力な場増強と脱離イオン化効率を促進でき、レーザーエネルギーを制御することを前提として、基板材料のバックグラウンドがピークにならないが、分析物がピークになるように制御することが可能となる。これにより、マトリックスフリー条件下でバックグラウンド干渉ない小分子のハイスループット質量スペクトル検出が実現できる。
【0027】
本発明のシリコンナノワイヤチップの接触サンプリング法によれば、チップが皮膚および組織などの柔軟な試料と接触しているときに原位置情報を保持することが実現できる。その結果、二次元空間における外因性および内因性物質の分布は、質量分析イメージングによって表示することができる。
【0028】
本発明のチップおよび質量スペクトル検出方法は、操作が簡単で適用範囲が広く、食品安全、環境検出、犯罪捜査監視、健康管理、臨床診断などの重要な分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のシリコンナノワイヤチップの走査型電子顕微鏡写真であり、図1(A)は、金属支援エッチングのみを受けたシリコンナノワイヤチップAを示し、図1(B)は、アルカリポストエッチングを受けたシリコンナノワイヤチップBを示し、図1(C)は、グラファイトエネ修飾されたシリコンナノワイヤーチップCを示す。
図2図2は、本発明のシリコンナノワイヤチップの脱離イオン化効率を評価する分子の構造図および代表的な質量スペクトルであり、図2A図2Bは、電子移動能力を評価するインディゴを示し、図2C図2Dは、蓄熱能力を評価するベンジルピリジンを示し、図2E図2Fは、負イオンモードでのリン脂質分子の脱離イオン化効率を評価するパルミチン酸ホスファチジルエタノールアミンを示し、図2G図2Hは、正イオンモードでのリン脂質分子の脱離イオン化効率を評価するステアリン酸ホスファチジルコリンを示す(横軸は、質量電荷比(m/z)、縦軸は、0~1の範囲にある正規化されたイオン強度である。)。
図3図3は、本発明の実験例1において、人体の首の後ろの皮膚から分泌された汗の質量スペクトルであり、図3A図3Bは、人体には動きのない静かな状態でシリコンナノワイヤチップを一晩貼り付けた後、シリコンナノワイヤチップの表面に収集された負イオンモードと正イオンモードでの質量スペクトル情報を示し、図3C図3Dは、人体が30分間運動した状態でシリコンナノワイヤによって収集された負イオンと正イオンモードでの質量スペクトル情報を示す(横軸は、質量電荷比(m/z)、縦軸は、質量分析計に表示されるイオン強度である。)。
図4図4は、本発明の実験例2における潜在指紋中の爆発物トリニトロトルエンの質量スペクトルであり(横軸は、質量電荷比(m/z)、縦軸は、0~1の範囲にある正規化されたイオン強度である。)、図4の3つの質量スペクトルは、図5の破線の円で囲まれた3つのポイントに対応している。
図5図5は、本発明の実験例2における潜在指紋中の爆発物トリニトロトルエンのイメージング図である。
図6図6は、本発明の実験例2における抗生物質クロラムフェニコールの質量スペクトルであり、上の質量スペクトルはクロラムフェニコールと接触した指紋の質量スペクトルであり、下の質量スペクトルは純粋なクロラムフェニコールの質量スペクトルである(横軸は、質量電荷比(m/z)、縦軸は、0~1の範囲にある正規化されたイオン強度である。)。
図7図7は、本発明の実験例2における抗生物質クロラムフェニコールのイメージング図である。
図8図8は、本発明の実験例3においてシリコンナノワイヤチップを用いたオレンジの表面上の農薬チアベンダゾールに対する接触サンプリングの概略図である。
図9図9は、本発明の実験例3におけるシリコンナノワイヤチップを用いたオレンジの表面上の農薬チアベンダゾールの接触サンプリング後の原位置イオン化質量スペクトルであり、図9Aは、チアベンダゾールを噴霧した後にオレンジの表面を洗浄しなかった場合を示し、図9Bは、チアベンダゾールを噴霧した後にオレンジの表面を水で洗った場合を示し、図9Cは、チアベンダゾールを噴霧した後にオレンジの表面を水と洗浄液で順番に洗った場合を示す(横軸は、質量電荷比(m/z)、縦軸は、質量分析計に表示されるイオン強度である。)。
図10図10は、本発明の実験例4においてシリコンナノワイヤチップを用いた水試料からチアベンダゾールの抽出の検出キネティックカーブの概略図である(横軸は抽出時間(s)、縦軸は信号対雑音比(S/N)である。)。
図11図11は、本発明の実験例4においてシリコンナノワイヤチップによって水試料から抽出された異なる濃度のチアベンダゾールの質量スペクトルである(横軸は、質量電荷比(m/z)、縦軸は、質量分析計に表示されるイオン強度である。)。
図12図12は、本発明の実験例5における腎臓組織の表面の髄質領域および皮質領域の負イオンモードでの質量スペクトルである(横軸は、質量電荷比(m/z)、縦軸は、0~1の範囲にある正規化されたイオン強度である。)。
図13図13は、本発明の実験例5において長方形のシリコンナノワイヤチップを用いた腎臓組織に対する接触サンプリングおよび多点検出の概略図である。
図14図14は、本発明の実験例5においてヌードマウスの腎臓組織の質量分析によって検出された特徴的なピークの図13の異なるポイントにおける相対強度の変化傾向を示すグラフである(横軸は、腎臓組織点、縦軸は、0~1の範囲にある正規化されたイオン強度である。)。
図15図15は、本発明の実験例7における紫外線放射下でのシリコンナノワイヤチップおよびシリコンウェーハの反射率の結果を示すグラフである(横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。)。
図16図16は、本発明の実験例7におけるシリコンナノワイヤチップ、シリコンウェーハ、および高温酸化シリコンナノワイヤチップの紫外線の支援下での電界電子放出の結果を示すグラフである(横軸は電界強度(V/m)、縦軸は電界放出電流(mA)である。)。
図17図17は、本発明の実験例7におけるシリコンナノワイヤチップ、シリコンウェーハ、および高温酸化シリコンナノワイヤチップの異なる相対レーザーエネルギー強度下でのインディゴ分子の総イオン強度の比較結果を示すグラフである(横軸は相対レーザーエネルギー(%)、縦軸は質量分析計に表示されるインディゴ分子のイオン強度である。)。
図18図18は、本発明の実験例7におけるシリコンナノワイヤチップ、およびグラフェンと複合したシリコンナノワイヤーチップの異なる相対レーザーエネルギー強度下でのインディゴ分子の総イオン強度の比較結果を示すグラフである(横軸は相対レーザーエネルギー(%)、縦軸は質量分析計に表示されるインディゴ分子のイオン強度である。)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付した図面及び具体的な実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0031】
シリコンナノワイヤチップの製造工程は以下のとおりである。
【0032】
ステップ1において、単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得た。
【0033】
単結晶シリコンウェーハの表面洗浄及び前処理の工程は具体的に次のとおりである。クリーンルームでは、レーザーまたはダイアモンドナイフを使用して、p型またはn型<100>の結晶面を持つ単結晶シリコンウェーハを切断し、通常20mm×20mmのサイズの規則的な長方形を得た。超音波洗浄には、濃硫酸・過酸化水素混合液、アセトン、エタノール、イソプロパノール、脱イオン水などを使用して、材料表面の有機物やほこりを除去した。
【0034】
単結晶シリコンウェーハの金属支援エッチングステップの工程は具体的に次のとおりである。表面が洗浄された単結晶シリコンウエハーを、濃度が0.04~0.4mol/Lの硝酸銀と濃度が4.8mol/Lのフッ化水素酸の混合溶液に浸し、室温で5~30分間エッチングした。エッチングが完了したら、シリコンウェーハの表面を脱イオン水で完全に洗浄し、希硝酸に0.5~12時間浸してシリコンウェーハの表面の銀を除去し、最後に親水性の未修飾シリコンナノワイヤチップを得た。このナノワイヤは、長さが0.5~3μm、ワイヤ径が50~200nmである。
【0035】
アルカリポストエッチングの工程は具体的に次のとおりである。金属支援エッチングを受けたシリコンナノワイヤチップを低濃度のフッ化水素酸エタノール溶液(5%~15%)で5~30分間浸して、シリコンナノワイヤの表面の薄い酸化物層を除去した。酸化物層が除去されたシリコンナノワイヤの表面はSi-H基であり、低濃度の水酸化カリウム(質量濃度0.1~1%、溶媒は水:エタノール=9:1)ポストエッチング液と30~180秒間反応させて、先端が細いシリコンナノワイヤーチップを得た。このシリコンナノワイヤは、長さが0.5~3μm、ワイヤ径が先端で25~50nm、底部で50~100nmである。
【0036】
ステップ2において、シリコンナノワイヤチップに表面化学修飾またはナノ材料修飾を行った。
【0037】
表面化学修飾は、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、アルキル鎖修飾を含む。
【0038】
シリコンナノワイヤチップの表面アミノ基修飾の工程は、具体的には、次のとおりである。金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥した無水環境で体積濃度1%~5%の3-アミノプロピルトリエトキシシランのトルエン溶液と10~120分間反応させた。反応後、トルエンとエタノールの順で洗浄し、110℃で1時間硬化させて、表面にアルキル鎖を持ち、末端がアミノ基であるシリコンナノワイヤチップを得た。
【0039】
シリコンナノワイヤチップの表面カルボキシル基修飾の工程は、具体的には、次のとおりである。ステップ1で調製したシリコンナノワイヤの表面酸化物層を低濃度のフッ化水素酸で除去した後、無酸素および無水条件下で、体積濃度2%-10%のウンデシレン酸またはアクリル酸のトルエン溶液と1~3時間還流して反応させた。反応後、トルエンとエタノールの順で洗浄し、表面にアルキル鎖を持ち、末端がカルボキシル基であるシリコンナノワイヤチップを得た。
【0040】
シリコンナノワイヤチップの表面アルキル鎖修飾の工程は、具体的には、次のとおりである。ステップ1において金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥した無水環境で使用濃度0.1%~5%の異なる長さの炭素鎖を含み、かつ、末端に活性基のないシロキサンのトルエン溶液と10~120分間反応させた。反応後、トルエンとエタノールの順で洗浄し、表面に炭素鎖の長さが異なるアルキル鎖を持つシリコンナノワイヤチップを得た。表面にSi-OHを含む未修飾のシリコンナノワイヤは超親水性であり、炭素鎖長の異なるシロキサンによる表面化学修飾後、表面の親水性が低下し、疎水性が上昇した。例えば、18個の炭素を含むアルキル基による修飾後、超疎水性となった(接触角>135°)。
【0041】
ナノ材料修飾は、金属ナノ粒子修飾、金属酸化物ナノ粒子修飾、およびカーボンナノ材料修飾を含む。
【0042】
カーボンナノ材料修飾は、グラフェン、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、グラフェン量子ドットなどの多種の構造のカーボンナノ材料修飾を含む。
【0043】
一実施例として、シリコンナノワイヤチップの表面金属ナノ粒子修飾の工程は、具体的には、次のとおりである。ステップ1で調製したシリコンナノワイヤの表面酸化物層を低濃度のフッ化水素酸で除去した後、クロロ金酸、硝酸銀、塩化パラジウムなどの水溶液又はエタノール溶液を含む低濃度の金属塩溶液の層を表面にコーティングし、室温で10~30分間反応させた。反応後、水またはエタノールで十分に洗浄した後、表面に金属ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップを得た。
【0044】
一実施例として、シリコンナノワイヤチップの表面金属酸化物ナノ粒子修飾の工程は、具体的には、次のとおりである。ステップ1で調製したシリコンナノワイヤの表面酸化物層を低濃度のフッ化水素酸で除去した後、金属酸化物の前駆体溶液の層を表面にスピンコートし、室温で自然乾燥させた後、450Cで2時間の高温処理をして、表面に金属酸化物ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップを得た。
【0045】
一実施例として、シリコンナノワイヤチップの表面カーボンナノ材料修飾の工程は、具体的には、次のとおりである。ステップ2で調製したアミノ基修飾されたシリコンナノワイヤチップを、例えば5mm×5mmの小さな正方形のチップにカットした。カーボンナノ材料溶液の層を表面に滴下または均一にスピンコートし、乾燥させた後、水でしっかりと吸着されていないカーボン材料を洗い流し、或いは、表面に負電荷を帯びたカーボンナノ材料は、表面にアミノ基を持つシリコンナノワイヤの表面に静電吸着されるように、シリコンナノワイヤチップをカーボンナノ材料溶液に浸し、高速で5~30分間振動させた。グラフェンを例として、5mm×5mmのシリコンナノワイヤチップの表面に、質量分率濃度0.1~1%の酸化グラフェン溶液(溶媒:水/エタノール=1:1)を2μL滴下し、乾燥させた後、70~90℃のヒドラジン水和物の雰囲気中で0.5~3時間反応させた。反応後、常温まで冷却し、シリコンナノワイヤチップを脱イオン水で洗浄してしっかりと吸着されていないグラフェンを除去して、表面に還元度の異なる還元グラフェン酸化物(すなわち、グラフェン)が修飾されたシリコンナノワイヤチップを得た。シリコンナノワイヤチップの表面のグラフェン膜はネットワーク構造を持っているので、シリコンナノワイヤのナノ構造に影響を与えない。
【0046】
皮膚または組織表面の代謝物のサンプリングに適用されるシリコンナノワイヤーチップの製造工程は以下のとおりである。
【0047】
ステップ1において、単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得た。
【0048】
ステップ2において、金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥環境で3-アミノプロピルトリエトキシシラン又はオクタデシルトリクロロシランのトルエン溶液と10~120分間反応させ、洗浄後、110℃で1時間硬化させて、表面にアミノ基を含むまたはアミノ基を含まないアルキル鎖を持つシリコンナノワイヤチップを得た。
【0049】
シリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法は、以下のステップを含む。
【0050】
ステップ1において、シリコンナノワイヤチップを製造した。
【0051】
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得た。
【0052】
シリコンナノワイヤチップに表面化学修飾またはナノ材料修飾を行った。表面化学修飾は、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、アルキル鎖修飾を含み、ナノ材料修飾は、金属ナノ粒子修飾、金属酸化物ナノ粒子修飾、及びグラフェン、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、グラフェン量子ドットなどのカーボンナノ材料修飾を含む。
【0053】
ステップ2において、シリコンナノワイヤチップの質量分析性能を評価した。
【0054】
標準溶液を一定のサイズのシリコンナノワイヤチップの表面に滴下し、室温で自然乾燥させ、シリコンナノワイヤチップをカーボン導電性接着剤でターゲットプレートに貼り付け、質量スペクトル検出まで乾燥した真空環境で保管した。
【0055】
標準溶液は、インディゴ、ベンジルピリジン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルコリンを含む。
【0056】
質量分析計により、同じエネルギー強度条件下で、シリコンナノワイヤの表面における標準溶液による質量スペクトル信号を検出した。
【0057】
評価結果:金属支援エッチングのみで調製されたシリコンナノワイヤを対照として、アルカリポストエッチング及びナノ材料修飾を受けた他のシリコンナノワイヤのうち、標準溶液による質量スペクトル信号を2倍以上に増やすことができるシリコンナノワイヤは最適化するには成功したシリコンナノワイヤチップとされた。
【0058】
原位置イオン化質量スペクトル検出法の性能評価方法の工程は、具体的には、次のとおりである。
【0059】
(1)インディゴ、ベンジルピリジン、および純粋なターゲット分析物を分析対象として、それらによるシリコンナノワイヤの表面の質量スペクトル信号を同じエネルギー強度条件下で検出した。異なる構造及び異なる表面修飾を持つシリコンナノワイヤについては、電子移動能力(インディゴ)、熱脱離能力(ベンジルピリジン)、およびターゲット分析物に対する感度を分析および比較した。インディゴは、負イオンモードで検出され、分子イオンピークがM-2、M-1、M、およびM+1の4つのピークを含み、ベンジルピリジンは、正イオンモードで検出され、主にMおよび[M-79]の2つのピークで存在している。ターゲット分子には、分子の極性に応じて正および負のイオンモードを選択する。
【0060】
(2)実際の汗試料及びモデル動物組織試料を分析対象として、それらによるシリコンナノワイヤの表面の質量スペクトル信号強度と情報量を同じエネルギー強度条件下で検出した。先端接触サンプリング及びチップ上の原位置イオン化が行われた異なる構造及び異なる表面修飾を持つシリコンナノワイヤの全体的な効率を分析・比較する。シリコンナノワイヤに高温酸化処理を施すことにより、実際の複雑な試料の分析における電子移動の役割を評価することができる。
【0061】
なお、ステップ(1)および(2)における質量スペクトル検出は、有機小分子マトリックスなしで実施される。
【0062】
ステップ3において、先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析を実行した。
【0063】
サンプリングする試料を洗浄しまたは拭き取り、シリコンナノワイヤチップを距離なしでサンプリングする固体表面に接触させるか、或いは、液体に浸し、サンプリングが完成するとチップを洗浄し、チップが自然乾燥した後に接触サンプリング工程を完了させた。サンプリングされたシリコンナノワイヤーチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて対応する反射モードで検出した。
【0064】
一実施例として、体表の汗に対する接触サンプリングの工程は、具体的には、次のとおりである。分泌した汗の小分子に対する接触サンプリングに使用されるシリコンナノワイヤチップを小さなバンドエイドに固定して、汗を分泌しやすい首の後ろや腕などの部位に貼り付けた。汗を集める必要のある部位を医療用アルコールと脱イオン水できれいに拭き取った後、シリコンナノワイヤチップが貼り付けられたバンドエイドを平らにして皮膚表面に一定期間貼り付けた。サンプリングが完成すると、シリコンナノワイヤチップを、必要に応じて脱イオン水で洗浄しまたは洗浄しないまま、乾燥させて質量スペクトル検出に用いた。
【0065】
一実施例として、皮膚表面に残っている爆発物と薬物に対する接触サンプリングの工程は、具体的には、次のとおりである。指を水で洗ってきれいにした後、10~30分間自然に油を分泌させ、爆発物または薬物を溶液または粉末の形できれいなスライドガラスに置いた。次に、爆発物または薬物の溶液又は粉末の表面を5~10秒間しっかりと指で押し、次に、シリコンナノワイヤチップの表面に指紋を残すように指で短時間(約10秒間)軽く押して、サンプリングを完了させた。
【0066】
一実施例として、果物や野菜の表面及び水試料における農薬に対する接触サンプリングの工程は、具体的には、次のとおりである。果物や野菜の外皮に一定濃度の農薬標準溶液を噴霧し、溶媒が蒸発した後、未処理または洗浄した果物の外皮にシリコンナノワイヤチップを手動または機械式アームで5~60秒間押して、原位置収集プロセスを完了させた。池や湖から採取した天然水に一定濃度の農薬標準物を加え、2mm×2mmのシリコンナノワイヤチップをこの水試料に浸し、一定速度で10~180秒間振動させた。シリコンナノワイヤチップを水試料から取り出し、自然乾燥させてサンプリングプロセスを完了させた。
【0067】
一実施例として、組織表面の脂質代謝物に対する接触サンプリングの工程は、具体的には、次のとおりである。血液汚染のない解凍した組織試料をサンプリングテーブルに水平に置き、一定のサイズ(例えば、2.5mm×2.5mm)にカットしたシリコンナノワイヤチップをプログラム制御可能なロボットアームの下で固定し、一定の高さ、移動速度、及び押し時間を設定した後、シリコンナノワイヤーチップの先端が組織表面と密接に接触してサンプリングするように制御した。サンプリングが完成すると、シリコンナノワイヤチップを取り外し、脱イオン水で10秒以上洗浄し、乾燥させた後、正イオンおよび負イオンモードでの質量スペクトル検出に使用できる。
【0068】
以下、製造された表面にカーボンナノ材料が修飾されたシリコンナノワイヤチップについて、性能及び効果検証の実験を実行した。
【0069】
以下はグラフェンと複合したシリコンナノワイヤチップの効果のみを検証したが、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ、グラフェン量子ドットなどもすべて紫外線エネルギー吸収能力及び電荷移動を改善する機能があるため、他のカーボンナノ材料と複合したシリコンナノワイヤチップも同じ性能と効果を持っている。
【0070】
1.実験材料の準備
【0071】
シリコンナノワイヤチップの準備とグラフェン修飾のプロセスは次のとおりである。
【0072】
(1)洗浄した単結晶シリコンウェーハを、AgNO(0.04~0.4mol/L)とHF(4.8mol/L)の混合溶液に浸し、室温で5~30分間エッチングした。エッチングが完了したら、脱イオン水で完全に洗浄し、希硝酸(HNOとHOの体積比は1:1)に0.5~12時間浸してシリコンウェーハの表面の銀を除去して、親水性の未修飾シリコンナノワイヤチップAを得た。
【0073】
(2)(1)で得たシリコンナノワイヤチップAを低濃度のフッ化水素酸エタノール溶液(5%~15%)で5~30分間浸して、その表面の薄い酸化物層を除去した。低濃度の水酸化カリウム(質量濃度0.1~1%、溶媒は水:エタノール=9:1)ポストエッチング液と30~180秒間反応させて、先端が細いシリコンナノワイヤーチップBを得た。
【0074】
(3)(2)で得たシリコンナノワイヤチップBを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥した無水環境で1%~5%の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)のトルエン溶液と10~120分間反応させた。反応が完了した後、トルエンとエタノールで順次洗浄し、110℃で1時間硬化させて、表面がアルキル鎖、末端がアミノ基であるシリコンナノワイヤチップBを得た。
【0075】
(4)質量分率濃度が0.1~1%の酸化グラフェン溶液(溶媒:水/エタノール=1:1)を、5mm×5mmの末端がアミノ基であるシリコンナノワイヤチップBの表面に2μL滴下し、乾燥させた後、70~90℃のヒドラジン水和物雰囲気中で0.5~3時間反応させた。反応後、常温まで冷却し、シリコンナノワイヤチップを脱イオン水で洗浄してしっかりと吸着されていないグラフェンを除去して、表面に還元度の異なる還元グラフェン酸化物(すなわち、グラフェン)が修飾されたシリコンナノワイヤチップCを得た。シリコンナノワイヤチップの表面のグラフェン膜はネットワーク構造を持っていた。図1は、シリコンナノワイヤチップA、B、およびCの走査型電子顕微鏡写真である。
【0076】
2.シリコンナノワイヤチップの質量分析性能評価
【0077】
(1)実際の試料に対し先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量スペクトル検出を実行する前に、シリコンナノワイヤチップの質量分析性能を評価する必要がある。その評価内容には、電荷移動能力、脱離効率、及びターゲット分子に対する総合的な検出能力が含まれる。インディゴ分子は、優れた多段階電子受容体であり、電荷移動能力を評価するためのモデル分子であり、ベンジルピリジンイオンは、質量分析計に通常に使用される化学温度計であり、その信号強度は材料の脱離能力を表す。汗や組織の表面にある脂肪酸や脂質分子を検出するには、分析用標準品としてホスファチジルエタノールアミンとホスファチジルコリンを使用した。図2は、上記の4つの分析用標準品の分子構造及びシリコンナノワイヤチップにおける代表的な質量スペクトルを示した。
【0078】
(2)分析用標準品は、必要に応じて50%エタノール溶液で0.001~1mg/mL溶液に調製した。シリコンナノワイヤーチップの表面に2~5μLを滴下し、室温で自然乾燥させ、シリコンナノワイヤチップをカーボン導電性接着剤でターゲットプレートに貼り付け、質量スペクトル検出まで乾燥の真空環境で保管した。
【0079】
(3)質量分析計により、同じエネルギー強度条件下で、シリコンナノワイヤの表面におけるモデル分子または分析用標準品による質量スペクトル信号を検出した。異なる構造及び異なる表面修飾を持つシリコンナノワイヤについては、電子移動能力、熱蓄積能力、およびターゲット分析物に対する感度を分析・比較した。インディゴ分子は、負イオンモードで検出され、分子イオンピークがM-2、M-1、M、およびM+1の4つのピークを含み、ベンジルピリジンイオンは、正イオンモードで検出され、主にMおよび[M-79]の2つのピークで存在している。ターゲット分子には、分子の極性に応じて正と負のイオンモードを選択した。ホスファチジルエタノールアミンは、電子を取得又はプロトンを失う傾向があるので、負イオンモードで検出された。一方、ホスファチジルコリンは、プロトンを取得又はアルカリ金属イオンに付加する傾向があるので、正イオンモードで検出された。
【0080】
3.収集と検出
【0081】
実験例1.先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量スペクトル検出の、体表の汗の原位置収集と検出への適用
【0082】
(1)シリコンナノワイヤチップを75%アルコールに一晩浸し、UVライト下で12時間以上滅菌し、小さな正方形のシート(2mm×2mm)にカットした。このシートを小さなバンドエイドに固定し、後で使用するために乾燥した密閉された環境に保管した。
【0083】
(2)ボランティアの首の後ろを75%医療用アルコールと純水で連続して拭き取った後、シリコンナノワイヤーチップを含む粘着テープを貼り付けた。ボランティアは、中程度の強度の運動を30~60分間行い、運動しなく6~9時間の睡眠をとった。これらの期間中、シリコンナノワイヤチップは皮膚表面に触れて体表から分泌された汗分子を自動的に抽出・吸着した。
【0084】
(3)サンプリングが完成すると、バンドエイドのドレッシングの内側からシリコンナノワイヤチップをはがし、脱イオン水ですすいで塩化ナトリウムなどの塩を除去した。グルコースなどの水溶性小分子を測定し、多数の油分子の干渉を排除する必要があると、有機溶媒で適切に洗浄してもよい。その後、窒素を吹き付けて乾かし、このチップを乾燥させて密封して保管した。
【0085】
(4)シリコンナノワイヤーチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオンモードと正イオンモードの反射モードで検出した。負イオンモードで得られた分子情報は、ほとんどが脂肪酸などの分子の情報であり、正イオンモードで得られた情報は、ほとんどがジグリセリドとトリグリセリドの情報であった。図3に示すように、安静状態と運動状態を比較すると、後者は明らかにより多くの代謝分子を生成した。
【0086】
実験例2.先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量スペクトル検出の、指紋イメージングと外因性爆発物および薬物の検出への適用
【0087】
(1)指を水で洗った後、10~30分間自然に油を分泌させた。
【0088】
(2)きれいなスライドガラスに1mg/mLトリニトロトルエン(TNT)の50%メタノール溶液または0.5mg/mLクロラムフェニコール(CAP)の50%メタノール溶液を10~20μL滴下し、その溶媒が蒸発した後、爆発物または薬物が滴下されたスライドガラスの表面を指で5~10秒間しっかりと押した。
【0089】
(3)指をシリコンナノワイヤーチップの表面に10秒間押して接触させ、指紋の痕跡を残した。シリコンナノワイヤーチップの前面をスキャナーでスキャンして、dpi>600の画像を取得した。
【0090】
(4)シリコンナノワイヤーチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出し、イメージングソフトウェアを使用して、一定の分子量範囲内でチップ表面の2次元イメージングを実行した。図4-7に示すように、得られた質量スペクトルには、指紋における脂肪酸(パルミチン酸、C16:0、m/z=253.2)分子の情報と、外因性TNT(m/z=227.0)またはCAP(m/z=322.4)分子の情報が含まれた。内因性脂肪酸の分布は比較的均一であり、指のテクスチャ情報を反映できるが、TNTとCAPは、スライドガラスが押された際に不均一に分布していたため、最終的に指の表面に付着すると一定の不均一になった。光電子移動による断片化により、TNTには複数の特徴的なピークm/z=197、210、226などがあるため、指の表面での存在を識別・検証することができる。
【0091】
実験例3.先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量スペクトル検出の、果物の表面の残留農薬の検出への適用
【0092】
(1)濃度0.01ng/cm~5000ng/cmのチアベンダゾールやイマザリルなどの農薬標準溶液を果物の外皮に噴霧した。溶媒が蒸発した後、果物試料に対し(a)操作なし、(b)水で洗浄すること、(c)水と洗剤で順番に洗浄することなどの操作を行った後、自然乾燥させて、その後のサンプリングに使用した。
【0093】
(2)図8に示すように、2mm×5mmのサイズのシリコンナノワイヤチップを果物の外皮に手で5~60秒間しっかりと押し付けて、原位置収集を完了させた。
【0094】
(3)シリコンナノワイヤーチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出した。結果を図9に示した。接触サンプリングプロセスでは、農薬の分子情報だけでなく、果物の表面の脂肪酸情報(m/z=227、255、283など)も収集できた。後者は農薬分子の検出に干渉することがなかった。未洗浄の皮の表面で検出されたチアベンダゾールの質量スペクトルの強度が最も高く、水で洗浄した皮の表面、及び水/洗剤で順番に洗浄した皮の表面で検出されたチアベンダゾールの信号は順番に弱まったが、まだ存在していた。農薬勾配濃度の設定及び果皮質量の計量により、果皮の表面での農薬チアベンダゾールの検出限界は0.1~0.2μg/kgであり、国際の食品中の農薬含有量の許容濃度(1~10mg/kg)よりも低いと計算された。
【0095】
実験例4.先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量スペクトル検出の、水域中の残留農薬の検出への適用
【0096】
(1)池や湖の天然水を取り、遠心分離後に粒子のない上澄みを取り、濃度が1ng/mL~1mg/mLのチアベンダゾール、イマザリルなどの標準品を添加した。
【0097】
(2)シリコンナノワイヤチップを2mm×2mmのサイズにカットし、上記の水試料に浸し、500~1000rpm/minで10~180秒間振動させた。その後、シリコンナノワイヤチップを水試料から取り出し、自然乾燥させてサンプリングを完了させた。
【0098】
(3)シリコンナノワイヤーチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出した。結果を図10図11に示した。サンプリング時間を調整することにより、抽出キネティックカーブを得た。一定のサンプリング時間を制御することにより、この方法によるチアベンダゾールの検出限界は1ng/mL未満であると計算された。
【0099】
実験例5.先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量スペクトル検出の組織表面の代謝物の検出とイメージングへの適用、及びシリコンナノワイヤチップが組織との接触サンプリング中に原位置空間情報を保持できるという効果の検証
【0100】
(1)血液汚染のない解凍したヌードマウスの組織試料をサンプリングテーブルに水平に置き、2mm×2mmのサイズ又はそれより大きいサイズ(例えば、2mm×6mm)にカットしたシリコンナノワイヤチップをプログラム制御可能なロボットアームの下で固定し、一定の高さ、移動速度、及び押し時間を設定した後、シリコンナノワイヤチップの先端が組織表面と密接に接触してサンプリングするように制御した。小さいシリコンナノワイヤチップによって腎臓組織の髄質領域または皮質領域を別々にサンプリングし、細長いシリコンナノワイヤチップによって腎臓組織の皮質領域と髄質領域を同時にサンプリングした。
【0101】
(2)サンプリングが完成すると、シリコンナノワイヤチップを取り出し、脱イオン水で十分に洗浄して表面の塩分や共吸着タンパク質を除去し、乾燥後、真空乾燥環境に置いて保管した。
【0102】
(3)シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出した。
【0103】
腎臓組織の表面の皮質領域と髄質領域の代謝分子の質量スペクトルを図12図14に示した。
【0104】
シリコンナノワイヤチップで腎臓組織を積極的に押して多点検出を実現した際に(図13)、髄質から皮質へのいくつかのピークの相対強度の変化プロセスが見られた(図14)。m/z=776.5、778.5、885.5、888.5、892.5などのピークは、皮質領域での信号が比較的に高い一方、髄質領域での信号が比較的に低い。これは、図12に示した単一点検出の結果と一致していた。この結果から、シリコンナノワイヤチップは組織との接触サンプリング中に原位置空間情報を保持できることが分かった。
【0105】
実験例6.先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量スペクトル検出の組織表面の代謝物の検出への適用に対する接触サンプリング時間の最適化実験
【0106】
(1)ヌードマウスから採取した脳、腎臓、肝臓、肺などの組織試料を-80℃の超低温冷蔵庫から取り出し、室温で解凍し、適切に切断して内面を露出させた。シリコンナノワイヤーチップを切断した後、チップが組織の表面に接触して組織が一定の変形を生じるように、5秒から180秒間の接触サンプリングを実行して、先端接触サンプリングを完了させた。好ましくは、チップが組織の表面に接触して組織を0.5mm変形させた。
【0107】
(2)サンプリングが完成すると、シリコンナノワイヤチップを取り出し、脱イオン水で十分に洗浄して表面の塩分や共吸着タンパク質を除去し、乾燥後、真空乾燥環境に置いて保管した。
【0108】
(3)シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出した。各組織の代謝分子の質量スペクトルにおける信号が最強のピークの異なる接触サンプリング時間でのイオン強度を統計し、最強のイオン強度に対応する接触サンプリング時間を最適な接触サンプリング時間とした。実験結果を表1に示した。
【0109】
【表1】
【0110】
結果分析:表1に示すように、異なる接触サンプリング時間も、得られた質量スペクトルの信号強度に影響を与えた。マウスから採取した脳、腎臓、肝臓、肺の4つの組織を例として、サンプリングされた組織が腎臓組織、脳組織、または肺組織である場合、接触サンプリング時間は30秒であり、サンプリングされた組織が肝臓組織である場合、接触サンプリング時間は60秒であった。
【0111】
実験例7.シリコンナノワイヤチップが優れたエネルギー吸収・蓄積能力と電子移動能力を持っていることの検証
【0112】
シリコンナノワイヤチップのエネルギー吸収・蓄積能力は、主に紫外線に対するチップの反射率によって評価され、電子移動能力は、主に電界放出実験および質量分析によるインディゴモデル分子の総イオン強度によって評価された。
【0113】
(1)シリコンナノワイヤチップとシリコンウェーハをそれぞれ固体表面の反射率を測定するための積分球デバイスに固定し、紫外線光源の光を入力光ファイバを介して入射角8°で試料表面に照射した。サンプルからの反射光は積分球によって均一に散乱され、信号は分光計によって収集された。エッチングされていないシリコンウェーハが受信する消光信号は100%の反射率と設定され、エッチングされたシリコンナノワイヤチップの反射率は、シリコンウェーハの信号に対する消光信号の比率に基づいて計算された。図15は、エッチングされていないシリコンウェーハの100%の反射率と比較して、金属支援化学エッチングによって得られたシリコンナノワイヤ(SiNWs-1)と金属支援化学エッチングおよびアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤ(SiNWs-2)の紫外線領域における反射率の結果を示している。結果により、両方とも強い紫外線エネルギー吸収・蓄積効果があり、反射率は30%未満であることが示された。
【0114】
(2)負電極にはシリコンナノワイヤチップを、正電極にはITOガラスを使用し、ポリテトラフルオロエチレンのチャンバーに固定した。ナノワイヤアレイがエッチングされたチップはITOの前面に対向し、中央のエッジ位置は厚さ100μmの黒いテープで区切られていた。紫外線光源はITOガラスの上部に固定されており、シリコンナノワイヤーチップの表面に直接照射することができる。真空ポンプをチャンバーに接続して、真空環境を維持した。2つの電極間に0~500Vのバイアス電圧を印加してスキャンし、電流値をピコアンメータでリアルタイムに測定してリアルタイムで記録した。材料の半導体特性がシリコンナノワイヤの電子放出能力に及ぼす影響を証明するために、800°Cで20分間熱処理されたシリコンナノワイヤ及びエッチングされていないシリコンウェーハも電界放出に使用した。図16は電界放出の結果を示す図であり、同じ電界環境下で、シリコンナノワイヤは紫外線と外部電界の下で強い電子放出能力を持ち、その電子放出能力はシリコンウェーハよりも5倍以上も大幅に高いことを示していた。しかし、高温酸化処理を施したシリコンナノワイヤは、半導体の性質を失うため、電子を放出することができなくなった。
【0115】
(3)シリコンナノワイヤチップ、シリコンウェーハ、及び高温酸化処理後のシリコンナノワイヤチップ上の負イオンモードでのインディゴ分子による質量スペクトル信号をそれぞれ測定し、それらの総イオン強度を計算した。インディゴ分子の総イオン強度により、材料基板の電子移動能力を評価することができる。図17に示すように、同じ導電率のシリコン材料の場合、ナノ構造のシリコンナノワイヤで検出されたイオン強度は、エッチングされていないシリコンウェーハの総イオン強度よりもはるかに高くなっていた。同時に、アルカリポストエッチングされたシリコンナノワイヤチップは、アルカリポストエッチングされていないシリコンナノワイヤチップよりもモデル分子信号が高く、エネルギー閾値が低くなっていた。任意の相対レーザーエネルギー強度条件下で、両方のインディゴ分子の総イオン強度の比率は2倍以上であり、先端のあるナノワイヤが電子移動を促進できることが示された。一方、熱酸化処理された材料基板上のインディゴのイオン信号の強度は、電子移動の障害を反映して大幅に低下した。
【0116】
(4)シリコンナノワイヤチップ及び表面にグラフェンを複合したシリコンナノワイヤチップ上の負イオンモードでのインディゴ分子による質量スペクトル信号をそれぞれ測定し、それらの総イオン強度を計算した。図18に示すように、複合チップは、シリコンナノワイヤチップと比較して、任意の相対レーザーエネルギー強度条件下で2倍を超えるインディゴ分子の総イオン強度を得ることができる。これは、シリコンナノワイヤ-ナノカーボン複合チップがより優れた電子移動能力を待っていることを示している。
【0117】
上記の実験例により、本発明のシリコンナノワイヤチップは、抽出機能を備えたサンプリングチップとして使用可能だけでなく、良好なエネルギー吸収および電荷移動機能を備えた質量分析基板としても使用可能であることが分かった。市場の単純なマトリックスフリーの基板では、通常、試料を材料の底板に滴下するため、操作の制御が困難である。これに対し、本発明では、シリコンナノワイヤチップを最初にサンプリングチップとして、次に質量スペクトル検出チップとして使用することにより、その適用範囲が広くなり、分散収集および集中検出が実現できる。
【0118】
上記の実施形態では、本発明の基本原理、主な特徴および利点が説明されたが、当業者は、上記の実施形態がいかなる形態においても本発明を限定するものではなく、同等の置換または同等の変換によって得られるすべての技術的解決策が本発明の保護範囲に含まれることを理解すべきである。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
シリコンナノワイヤチップに対し、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、及びアルキル鎖修飾を含む表面化学修飾、或いは、金属ナノ粒子修飾、金属酸化物ナノ粒子修飾、およびカーボンナノ材料修飾を含むナノ材料修飾を行うステップ2と、を含むプロセスで製造される、ことを特徴とするシリコンナノワイヤチップ。
(態様2)
表面に金属ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
先端を持つシリコンナノワイヤチップに表面酸化物層を酸で除去した後、表面に金属塩溶液の層を塗布し、室温で10~30分間反応させ、洗浄後、表面に金属ナノ粒子が含まれるシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、を含むプロセスで製造される、ことを特徴とする態様1に記載のシリコンナノワイヤチップ。
(態様3)
表面に金属酸化物ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップに対し、表面酸化物層を酸で除去した後、金属酸化物の前駆体溶液の層をスピンコートし、室温で自然乾燥させた後、450℃で2時間の高温処理をして、表面に金属酸化物ナノ粒子を備えたシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、を含むプロセスで製造される、ことを特徴とする態様1に記載のシリコンナノワイヤチップ。
(態様4)
表面がカーボンナノ材料で修飾されたシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥環境で末端基にアミノ基を含むシロキサンのトルエン溶液と10~120分間反応させて、表面にアルキル鎖を持ち、末端がアミノ基であるシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、
カーボンナノ材料の溶液を、表面にアミノ基を持つシリコンナノワイヤの表面に静電的に吸着させて、表面がカーボンナノ材料で修飾されたシリコンナノワイヤチップを得るステップ3と、を含むプロセスで製造される、ことを特徴とする態様1に記載のシリコンナノワイヤチップ。
(態様5)
皮膚表面の代謝物のサンプリングに適用されるシリコンナノワイヤチップは、
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ1と、
金属支援エッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップ、または金属支援エッチングとアルカリポストエッチングによって得られたシリコンナノワイヤチップを酸素プラズマで処理して表面のSi-OHを露出させた後、乾燥環境で末端基にアミノ基を含むシロキサンまたは末端に活性基のないシロキサンのトルエン溶液と10~120分間反応させて、表面にアミノ基またはアルキル鎖を持つシリコンナノワイヤチップを得るステップ2と、を含むプロセスで製造される、ことを特徴とする態様1に記載のシリコンナノワイヤチップ。
(態様6)
金属支援エッチングで作製したシリコンナノワイヤチップは、ワイヤ長さが0.5~3μm、ワイヤ径が50~200nmであり、アルカリポストエッチングされたシリコンナノワイヤチップは、ワイヤ長さが0.5~3μm、ワイヤ径が先端で25~50nm、底部で50~100nmである、ことを特徴とする態様2~5のいずれか一項に記載のシリコンナノワイヤチップ。
(態様7)
単結晶シリコンウェーハに対し表面洗浄前処理した後、金属支援エッチングとアルカリポストエッチングを行って、先端を持つシリコンナノワイヤチップを得ることと、
シリコンナノワイヤチップに対し、アミノ基修飾、カルボキシル基修飾、及びアルキル鎖修飾を含む表面化学修飾、或いは、金属ナノ粒子修飾、金属酸化物ナノ粒子修飾、およびカーボンナノ材料修飾を含むナノ材料修飾を行うことと、を含むシリコンナノワイヤチップを製造するステップ1と、
製造されたシリコンナノワイヤチップの表面に、インディゴ、ベンジルピリジン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルコリンを含む標準溶液を滴下し、室温で自然乾燥させ、シリコンナノワイヤチップをカーボン導電性接着剤でターゲットプレートに貼り付け、質量スペクトル検出まで乾燥の真空環境で保管することと、
質量分析計により、同じエネルギー強度条件下で、シリコンナノワイヤチップの表面における標準溶液による質量スペクトル信号を検出することと、
各処理及び修飾が行われた複数のシリコンナノワイヤチップのイオン化効率を比較することと、
同じエネルギー条件下で、インディゴとホスファチジルエタノールアミンによる質量スペクトル信号の強度の最高値に対応する材料を、負イオンモードでの検出に最適なシリコンナノワイヤチップとすることと、
ホスファチジルコリンによる質量スペクトル信号の強度の最高値に対応する材料を、正イオンモードでの検出に最適なシリコンナノワイヤチップとすることと、
ベンジルピリジンによって材料の脱離能力の判断を支援することと、を含むシリコンナノワイヤチップの質量分析性能を評価するステップ2と、
サンプリングする試料を洗浄しまたは拭き取り、シリコンナノワイヤチップを距離なしでサンプリングする固体表面に接触させるか、或いは、液体に浸し、サンプリングが完成するとチップを洗浄し、チップが自然乾燥した後に接触サンプリング工程を完了させることと、サンプリングされたシリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて対応する反射モードで検出することと、を含む先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析を実行するステップ3と、を含む、ことを特徴とするシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
(態様8)
ステップ3は、体表の汗の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
シリコンナノワイヤチップを一晩アルコールに浸し、滅菌し、切断後に粘着テープに固定し、後で使用するために乾燥かつ密閉の環境に保管するステップaと、
被験者の首の後ろを医療用アルコールと純水で連続して拭き取った後、シリコンナノワイヤチップを含む粘着テープを貼り付け、シリコンナノワイヤチップが皮膚表面に触れると、体表から分泌された汗分子を自動的に抽出・吸着するステップbと、
サンプリングが完成すると、シリコンナノワイヤチップを粘着テープから剥がし、脱イオン水で洗浄して塩を除去するか、或いは、有機溶媒で洗浄して油分子を除去し、次に窒素で乾燥させ、乾燥かつ密閉の環境に保管するステップcと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオンモードと正イオンモードの反射モードで検出し、代謝分子情報を取得するステップdと、を含む、ことを特徴とする態様7に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
(態様9)
ステップ3は、指紋イメージングと、外因性の爆発物および薬物の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
指を水で洗った後、10~30分間自然に油を分泌させるステップaと、
爆発物または薬物溶液をきれいなスライドガラスに滴下し、その溶媒が蒸発した後、爆発物または薬物が滴下されたスライドガラスの表面を指で5~10秒間しっかりと押すステップbと、
指をシリコンナノワイヤチップの表面に10秒間接触させ、指紋の痕跡を残し、スキャナーでシリコンナノワイヤチップをスキャンして、dpi>600の画像を取得するステップcと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出するステップdと、を含み、
得られた質量スペクトルには、指紋による脂肪酸の分子情報と外因性の爆発物又は薬物の分子情報が含まれ、
内因性脂肪酸の均一な分布は、指のテクスチャ情報を反映可能であり、
爆発物及び薬物の識別は、質量スペクトルの複数の特徴的なピークによって実行可能である、ことを特徴とする態様7に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
(態様10)
ステップ3は、果物の表面の残留農薬の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
濃度が0.01ng/cm ~5000ng/cm の農薬標準溶液を果物の外皮に均一に噴霧し、溶媒が蒸発した後果物試料を得るステップaと、
シリコンナノワイヤチップを果物の外皮に手で5~60秒間しっかりと押し付けて、原位置収集を完了させるステップbと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出するステップcと、を含み、
接触サンプリングプロセスでは、農薬の分子情報だけでなく、果物の表面の脂肪酸情報も収集可能となり、
農薬勾配濃度の設定及び果皮質量の計量によって、果皮の表面の農薬の検出限界を計算し、それを国際の食品中の農薬含有量の許容濃度と比較して、果物の表面の残留農薬が基準を超えているかどうかを判断する、ことを特徴とする態様7に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
(態様11)
ステップ3は、水域の残留農薬の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
水域の天然水を取り、遠心分離後に粒子のない上澄みを取り、標準に濃度が1ng/mL~1mg/mLの農薬標準物を追加して、水試料を得るステップaと、
シリコンナノワイヤチップを水試料に浸し、500~1000rpm/minで10~180秒間振動させた後、シリコンナノワイヤチップを水試料から取り出し、自然乾燥させてサンプリングを完了させるステップbと、
シリコンナノワイヤチップをターゲットプレートの溝に固定し、質量分析計に置いて負イオン反射モードで検出し、サンプリング時間を調整することにより、抽出キネティックカーブを取得し、サンプリング時間を制御し、農薬の検出限界を計算するステップcと、を含む、ことを特徴とする態様7に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
(態様12)
ステップ3は、組織試料の検出のための先端接触サンプリング及び原位置イオン化質量分析に用いられ、
臨床手術または動物を解剖した臓器から組織試料を取得し、切断するステップaと、
シリコンナノワイヤチップを切断した後、チップが組織の表面に接触し、組織が0.5mm変形するように、5秒から180秒間の接触サンプリングを実行して、先端接触サンプリングを完了させるステップbと、
サンプリングが完成すると、チップの表面を純水で十分にすすぎ、自然乾燥させた後、質量分析計と一致するターゲットプレート基板に移し、質量スペクトル検出まで真空乾燥環境に置いて保管するステップcと、
ターゲットプレートを質量分析計に入れ、負イオンまたは正イオン反射モードで質量分析を実行し、組織表面における200~1500Daの分子量範囲の代謝分子のスペクトルを取得するステップdと、を含む、ことを特徴とする態様7に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
(態様13)
接触サンプリングにより組織表面の各部位の分子情報を取得する手法は、複数のシリコンナノワイヤチップを別々にサンプリングして検出することで取得すること、或いは、1枚のシリコンナノワイヤチップを組織表面の各部位に同時に接触させて各部位の代謝分子のスペクトルを検出することで取得することを含む、ことを特徴とする態様12に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
(態様14)
サンプリングされた組織が腎臓組織、脳組織、または肺組織である場合、接触サンプリング時間は30秒であり、サンプリングされた組織が肝臓組織である場合、接触サンプリング時間は60秒である、ことを特徴とする態様12に記載のシリコンナノワイヤチップに基づく質量スペクトル検出方法。
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