(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
A61M25/09 516
(21)【出願番号】P 2022519875
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2020018652
(87)【国際公開番号】W WO2021224984
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛田 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】柏井 正博
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-005704(JP,A)
【文献】特開平09-182800(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0049392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤであって、
擬弾性特性を有する先端部分を備えるコアシャフトと、
前記コアシャフトの前記先端部分の先端に接合されたチップと、
前記コアシャフトの前記先端部分に並行して配置され、先端が前記チップに接合され、後端が前記コアシャフトに接合された補助ワイヤと、
を備え、
前記補助ワイヤは、前記コアシャフトの前記先端部分に比べて、柔軟性が高く、
前記補助ワイヤの破断強度は、前記コアシャフトの前記先端部分の破断強度より高く、
前記補助ワイヤの破断伸びは、前記コアシャフトの前記先端部分の破断伸びより短い、ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記補助ワイヤの破断伸びは、前記コアシャフトの先端部分の降伏点における伸びより短い、ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガイドワイヤであって、
前記補助ワイヤは、複数本の素線を互いに撚り合わせた構成を有する、ガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、血管等に挿入されるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
血管等における狭窄部や閉塞部(以下、「病変部」という。)を治療または検査する方法として、カテ-テルを用いた方法が広く行われている。一般に、カテ-テルを血管等における病変部に案内するために、ガイドワイヤが用いられる。ガイドワイヤは血管の湾曲に沿って血管内に進入できることが必要とされ、ガイドワイヤの先端部には柔軟性が求められる。また、石灰化等により病変部が硬化し、ガイドワイヤの先端部が病変部においてスタックした場合、ガイドワイヤの先端部を病変部から抜去するための荷重がガイドワイヤの先端部にかかるため、ガイドワイヤの先端部の破断を防止することが必要とされる。
【0003】
ガイドワイヤは、コアシャフトと、コアシャフトの先端に接合されたチップと、を備える。また、ガイドワイヤの中には、コアシャフトが超弾性特性を有するとともに、さらに安全ワイヤが設けられたものがある(例えば、特許文献1参照)。非超弾性材料で形成される安全ワイヤは、NiTi等の超弾性材料で形成されるコアシャフトの先端部分に並行して配置されており、安全ワイヤの先端がチップに接合され、後端がコアシャフトに接合されている。コアシャフトが破断した場合でも、破断した部分が安全ワイヤを介してコアシャフトの本体に連結されるため、破断した部分が体内に残留することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2002/0049392号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安全ワイヤを備える従来の構成では、ガイドワイヤの先端部分と安全ワイヤとの柔軟性について十分に検討されていない。上述した従来の構成では、コアシャフトの先端部が破断をした後、ガイドワイヤの先端部を安全に回収するために、安全ワイヤを備えている。本従来の構成では、コアシャフトが安全ワイヤより先に破断をし、その後ガイドワイヤを病変部から抜去する際の引張荷重を安全ワイヤが負担する構成であり、かかる引張荷重により安全ワイヤが破断しないようにするため、安全ワイヤの外径は太くされる必要がある。安全ワイヤは外径の増加に応じて柔軟性が低下するため、安全ワイヤの存在に起因してガイドワイヤの先端部分の柔軟性が低下するおそれがある。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示されるガイドワイヤは、ガイドワイヤであって、擬弾性特性を有する先端部分を備えるコアシャフトと、前記コアシャフトの前記先端部分の先端に接合されたチップと、前記コアシャフトの前記先端部分に並行して配置され、先端が前記チップに接合され、後端が前記コアシャフトに接合された補助ワイヤと、を備え、前記補助ワイヤは、前記コアシャフトの前記先端部分に比べて、柔軟性が高く、破断強度が高く、また破断伸びが短い。
【0009】
本ガイドワイヤでは、コアシャフトの先端部分が擬弾性特性を有している。このため、例えば先端部分がステンレス等の擬弾性特性を有しない材料により形成された構成に比べて、先端部分に引っ張り応力が付与されて伸びた場合にコアシャフトが破断することを抑制できる。また、補助ワイヤがコアシャフトの先端部分に並行して配置されており、その補助ワイヤが、コアシャフトの先端部分に比べて、柔軟性が高くなっている。これにより、本ガイドワイヤによれば、補助ワイヤによりコアシャフトの破断を抑制しつつ、補助ワイヤの存在に起因してコアシャフトの先端部分の柔軟性が低下することを抑制することができる。また、補助ワイヤの破断強度がコアシャフトの先端部分の破断強度以下である構成に比べて、コアシャフトの破断をより効果的に抑制することができる。また、補助ワイヤの破断伸びがコアシャフトの先端部分の破断伸び以上である構成に比べて、コアシャフトだけに引っ張り応力が付与されることが抑制されるため、コアシャフトの先端部分の破断をより効果的に抑制することができる。
【0010】
(2)上記ガイドワイヤにおいて、前記補助ワイヤの破断伸びは、前記コアシャフトの先端部分の降伏点における伸びより短い構成としてもよい。本ガイドワイヤでは、補助ワイヤの破断伸びは、コアシャフトの先端部分の降伏点における伸びより短くなっている。これにより、コアシャフトの先端部分が降伏点に達することが抑制され、弾性変形状態が維持され、その結果、コアシャフトの塑性変形を抑制することができる。
【0011】
(3)上記ガイドワイヤにおいて、前記補助ワイヤは、複数本の素線を互いに撚り合わせた構成を有する構成としてもよい。本ガイドワイヤでは、補助ワイヤは、複数本の素線を互いに撚り合わせた構成を有する。これにより、補助ワイヤの柔軟性を確保しつつ、補助ワイヤの破断強度の向上を図ることができる。よって、上記ガイドワイヤの先端部分の柔軟性を担保することができる。また、引張荷重に対して、素線自体の伸びだけでなく、撚り合わせた複数の素線間の距離が小さくなることによる伸びが生じるため、補助ワイヤと同じ材質の単線ワイヤと比較して、破断に到るまでの伸び量を長くすることができる。さらに複数の素線の撚り合わせる密度を調整することにより、補助ワイヤの破断に到るまでの伸び量を調整することができる。
【0012】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガイドワイヤやその製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図
【
図2】コアシャフト10の先端部分と補助ワイヤ200との関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A-1.ガイドワイヤ100の基本構成:
図1は、本実施形態におけるガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図である。
図1には、ガイドワイヤ100の縦断面(YZ断面)の構成が示されている。なお、
図1では、ガイドワイヤ100のうち、後述のコイル体20以外の部分については、側面構成が示されている。また、
図1では、ガイドワイヤ100の一部分の図示が省略されている。
図1において、Z軸正方向側が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。
図1では、ガイドワイヤ100が全体としてZ軸方向に略平行な直線状となった状態を示しているが、ガイドワイヤ100は湾曲させることができる程度の可撓性を有している。
【0015】
なお、本明細書では、説明の便宜上、ガイドワイヤ100が
図1に示された状態であるものとし、Z軸方向を「ガイドワイヤ100の軸方向」または単に「軸方向」という。
【0016】
ガイドワイヤ100は、血管等における病変部(狭窄部や閉塞部)にカテ-テルを案内するために、血管等に挿入される長尺状の医療用デバイスである。ガイドワイヤ100の全長は、例えば1500mm以上、2000mm以下程度であり、ガイドワイヤ100の外径は、例えば0.5mm以上、1.2mm以下程度である。
【0017】
ガイドワイヤ100は、コアシャフト10と、コイル体20と、チップ30と、補助ワイヤ200とを備えている。
【0018】
コアシャフト10は、先端側が細径であり基端側が太径である長尺状の部材である。より具体的には、コアシャフト10は、棒状の細径部11と、細径部11に対して基端側に位置し、細径部11より径の大きい棒状の太径部13と、細径部11と太径部13との間に位置し、細径部11との境界位置から太径部13との境界位置に向けて径が徐々に大きくなるテ-パ部12とから構成されている。なお、本実施形態では、細径部11の外径は、テ-パ部12の先端の外径よりさらに小さくなっている。このようにコアシャフト10の細径部11が細いことにより、細径部11における高い柔軟性が確保されている。コアシャフト10の各位置における横断面(XY断面)の形状は、任意の形状を取り得るが、例えば、円形や平板形である。太径部13の外径は、例えば0.2mm以上、0.6mm以下程度である。細径部11の外径は、例えば150μm以下程度である。
【0019】
コアシャフト10は、擬弾性特性を有する。ここでいう擬弾性特性とは、原子間隔の変化に起因する弾性以外の、例えば双晶変形等の機構で生じる見かけ弾性特性のことをいい、形状記憶効果、及び超弾性(変態擬弾性又は双晶擬弾性)を含む。コアシャフト10の形成材料としては、擬弾性特性を有するNi-Ti合金やNi-Ti系合金等が挙げられる。より具体的には、超弾性金属(Ni-Ti合金)、加工硬化型Ni-Ti系合金、広ひずみ範囲弾性Ni-Ti系合金、線形弾性Ni-Ti系合金等である。擬弾性特性を有するNi-Ti合金やNi-Ti系合金としては、Niの含有率が48at%以上、52.0at%以下で、残部がTiのNi-Ti合金、Niの含有率が48.0at%以上52.0at%以下で、さらに、Cr,Fe,Co,Mo,V,Alの中から1種または2種以上の含有率が0.05at%以上、3.0at%以下で、残部がTiからなるNi-Ti系合金、Niの含有率が36.0at%以上、48.0at%以下で、さらにCuの含有率が5.0at%以上、12.0at%以下で、残部がTiからなるNi-Ti系合金等である。なお、コアシャフト10は、全体が同じ材料により構成されていてもよいし、部分毎に互いに異なる材料により構成されていてもよい。例えばコアシャフト10の先端部分が擬弾性特性を有する材料により形成され、他の部分が擬弾性特性を有しない材料により形成されていてもよい。
【0020】
コイル体20は、素線を螺旋状に巻回することにより中空円筒状に形成したコイル状の部材である。コイル体20は、コアシャフト10における先端側の一部分に巻回されている。ガイドワイヤ100におけるコイル体20が巻回された部分は、主として体内に挿入される部分である。本実施形態では、コイル体20は、1本の素線が密巻きされた構成である。
【0021】
コイル体20を構成する材料としては、公知の材料が使用され、例えば金属材料、より具体的には、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン等が使用される。
【0022】
チップ30は、コアシャフト10の先端とコイル体20の先端とを接合する部材である。すなわち、コアシャフト10の先端とコイル体20の先端とが、チップ30の内部に埋め込まれるようにして固着されている。チップ30の先端側の外周面は、滑らかな面(例えば、略半球面)となっている。また、コイル接合部40は、軸方向に沿ってコアシャフト10の基端と先端との間の所定の位置において、コアシャフト10とコイル体20の基端とを接合する部材である。
【0023】
補助ワイヤ200は、コアシャフト10の先端部分に並行して配置されている。具体的には、補助ワイヤ200は、コアシャフト10の先端部分の外周側に位置し、かつ、軸方向に沿って伸びる線状の部材である。本実施形態では、補助ワイヤ200は、軸方向から見たとき、コアシャフト10の先端部分とコイル体20との間に位置している。また、補助ワイヤ200の先端は、チップ30に接合されており、補助ワイヤ200の後端は、ワイヤ接合部210を介して、コアシャフト10におけるテ-パ部12に接合されている。なお、ワイヤ接合部210は、コアシャフト10(テ-パ部12)の全周にわたって形成されている。また、コアシャフト10の先端からワイヤ接合部210の位置までの部分が、特許請求の範囲におけるコアシャフトの先端部分の一例である。コアシャフト10の先端部分と補助ワイヤ200との関係については後述する。
【0024】
補助ワイヤ200を構成する材料としては、例えば金属材料、より具体的には、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン等が使用される。また、補助ワイヤ200は、コアシャフト10の先端部分と同一材料により形成されていてもよい。
【0025】
チップ30、コイル接合部40およびワイヤ接合部210を構成する材料としては、公知の材料が使用され、例えば、ロウ材(アルミニウム合金ロウ、銀ロウ、金ロウ等)、金属ハンダ(Ag-Sn合金、Au-Sn合金等)、接着剤(エポキシ系接着剤等)等が使用される。
【0026】
なお、ガイドワイヤ100の一部または全部が、公知のコ-ティング剤により覆われていてもよい。
【0027】
A-2.コアシャフト10の先端部分と補助ワイヤ200との関係:
次に、本実施形態のガイドワイヤ100におけるコアシャフト10の先端部分と補助ワイヤ200との関係について説明する。まず、補助ワイヤ200は、次の第1の要件を満たす。
<第1の要件>
補助ワイヤ200は、コアシャフト10の先端部分に比べて、柔軟性が高い。
【0028】
補助ワイヤ200は、さらに、次の第2の要件を満たすことが好ましい。
<第2の要件>
補助ワイヤ200の破断強度は、コアシャフトの先端部分の破断強度より高い。
【0029】
補助ワイヤ200は、さらに、次の第3の要件を満たすことが好ましい。
<第3の要件>
補助ワイヤ200の破断伸びは、コアシャフト10の先端部分の破断伸びより短い。
【0030】
補助ワイヤ200は、さらに、次の第4の要件を満たすことが好ましい。
<第4の要件>
補助ワイヤ200の破断伸びは、コアシャフト10の先端部分の降伏点P1における伸びより短くなっている。
【0031】
補助ワイヤ200は、さらに、次の第5の要件を満たすことが好ましい。
<第5の要件>
補助ワイヤ200は、複数本の素線を互いに撚り合わせた構成を有する。
【0032】
ここで、コアシャフト10の先端部分と補助ワイヤ200との関係の一例について説明する。コアシャフト10の先端部分は、例えば超弾性特性を有する材料(Ni-Ti合金等)により形成されている。補助ワイヤ200は、コアシャフト10の先端部分より外径が小さい複数の素線を互いに撚り合わせた構成を有するワイヤである。素線は、例えばステンレス鋼により形成されている。なお、補助ワイヤ200自体の外径も、コアシャフト10の先端部分(細径部11)の外径より小さい。
【0033】
図2は、コアシャフト10の先端部分と補助ワイヤ200との関係を示す説明図である。
図2には、コアシャフト10の先端部分と補助ワイヤ200とのそれぞれについて、荷重(引っ張り荷重)-伸び量の関係のグラフが示されている。第1のグラフG1は、コアシャフト10の先端部分における荷重-伸び量の関係のグラフである。第2のグラフG2は、補助ワイヤ200における荷重-伸び量の関係のグラフである。
【0034】
上述したように、コアシャフト10の先端部分は、超弾性特性を有する材料により形成されている。このため、コアシャフト10の先端部分では、第1のグラフG1において、弾性領域(伸び量がLX以下である領域)と塑性領域(伸び量がLXを超える領域)とが存在する。第1のグラフG1中のP1は、弾性領域と塑性領域との境界である降伏点(弾性限界点ともいう)である。弾性領域には、線形弾性領域とプラト-領域とが存在する。線形弾性領域は、コアシャフト10の先端部分に付与される引っ張り荷重とコアシャフト10の先端部分の伸び量とが略比例する領域である。プラト-領域は、コアシャフト10の先端部分に付与される引っ張り荷重が略一定の状態でコアシャフト10の先端部分の伸び量が増大する領域である。
【0035】
補助ワイヤ200では、第2のグラフG2に示すように、補助ワイヤ200に付与される引っ張り荷重の増大に伴って、補助ワイヤ200の伸び量が増大している。ただし、上述したように、補助ワイヤ200は、ステンレスで形成された複数の素線を互いに撚り合わせた構成を有する。このため、補助ワイヤ200は、例えば補助ワイヤ200と同じ外径を有するステンレス製の単線やコアシャフト10の先端部分に比べて、柔軟性が高い。
【0036】
また、補助ワイヤ200は、ステンレスで形成された複数の素線を互いに撚り合わせた構成を有するため、補助ワイヤ200の破断伸びは、ステンレス製の単線の破断伸びより長い。このため、第2のグラフG2の傾きは、ステンレス製の単線における荷重-伸び量(図示しない)の傾きに比べて緩やかになっている。より具体的には、
図2に示すように、第2のグラフG2は、第1のグラフG1におけるプラト-領域で交差している(
図2のLY参照)。このことは、次のことを意味する。
a)ガイドワイヤ100(コアシャフト10の先端部分、補助ワイヤ200)の伸び量が所定値(
図2では、LY)以下である場合、引っ張り応力が補助ワイヤ200よりも主としてコアシャフト10の先端部分に付与される。このため、コアシャフト10の基端側の回転操作等により生じるトルクがコアシャフト10の先端部分に伝達され、コアシャフト10の先端部分の操作性が確保される。また、補助ワイヤ200への引っ張り応力の付与に起因してコアシャフト10の先端部分が想定しない方向に変形等することを抑制できる。
b)ガイドワイヤ100の伸び量が所定値(
図2では、LY)を超える場合、コアシャフト10の先端部分が降伏点P1に達する前に、引っ張り応力がコアシャフト10の先端部分よりも主として補助ワイヤ200に付与されることになる。これにより、コアシャフト10の先端部分の破断が抑制される。従って、ガイドワイヤ100の伸び量が上記所定値を超える場合でも、コアシャフト10の基端側からのトルクがコアシャフト10の先端部分に伝達され、コアシャフト10の先端部分の操作性が確保される。
【0037】
また、
図2に示すように、補助ワイヤ200の破断強度(F2)は、コアシャフト10の先端部分の破断強度(F1)より高くなっており(第2の要件)、かつ、補助ワイヤ200の破断伸び(L2)は、コアシャフト10の先端部分の破断伸び(L1)より短くなっている(第3の要件)。このため、補助ワイヤ200の破断強度を超える引っ張り荷重が付与されない限り、コアシャフト10の先端部分の破断を抑制することができる。しかも、補助ワイヤ200の破断伸び(L2)は、コアシャフト10の先端部分の降伏点P1における伸び(LX)より短くなっている(第4の要件)。これにより、コアシャフト10の先端部分が降伏点に達することが抑制され、弾性変形状態が維持される。これにより、コアシャフト10の塑性変形に起因する部品交換の発生を抑制することができる。
【0038】
例えば、補助ワイヤ200の破断強度がコアシャフト10の先端部分の破断強度より大きい構成において、補助ワイヤ200の破断伸び(L2)はコアシャフト10の先端部分の破断伸び(L1)の70%以下、望ましくは60%以下となるよう補助ワイヤ200を構成する。これにより、コアシャフト10が補助ワイヤ200より先に破断をすることが抑制され、コアシャフト10の先端部分が先に破断をしてガイドワイヤ100の操作性を喪失することを抑制することができる。
【0039】
A-3.実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のガイドワイヤ100では、コアシャフト10の先端部分が擬弾性特性を有している。このため、例えばコアシャフト10の先端部分がステンレス等の擬弾性特性を有しない材料により形成された構成に比べて、先端部分に引っ張り応力が付与されて伸びた場合にコアシャフト10が破断することを抑制できる。また、補助ワイヤ200がコアシャフト10の先端部分に並行して配置されており、その補助ワイヤ200が、コアシャフト10の先端部分に比べて、柔軟性が高くなっている(第1の要件)。これにより、本実施形態によれば、補助ワイヤ200によりコアシャフト10の破断を抑制しつつ、補助ワイヤ200の存在に起因してコアシャフト10の先端部分の柔軟性が低下することを抑制することができる。
【0040】
本実施形態では、補助ワイヤ200の破断強度は、コアシャフトの先端部分の破断強度より高くなっている(第2の要件)。これにより、補助ワイヤ200の破断強度がコアシャフト10の先端部分の破断強度以下である構成に比べて、コアシャフト10の破断をより効果的に抑制することができる。
【0041】
本実施形態では、補助ワイヤ200の破断伸びは、コアシャフト10の先端部分の破断伸びより短くなっている(第3の要件)。これにより、補助ワイヤ200の破断伸びがコアシャフト10の先端部分の破断伸び以上である構成に比べて、コアシャフト10だけに引っ張り応力が付与されることが抑制されるため、コアシャフト10の先端部分の破断をより効果的に抑制することができる。
【0042】
本実施形態では、補助ワイヤ200の破断伸びは、コアシャフト10の先端部分の降伏点P1における伸びより短くなっている(第4の要件)。これにより、コアシャフト10の先端部分が降伏点P1に達することが抑制され、コアシャフト10の先端部分の弾性変形状態が維持され、その結果、コアシャフト10の先端部分の塑性変形を抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、補助ワイヤ200は、複数本の素線を互いに撚り合わせた構成を有する(第5の要件)。これにより、補助ワイヤ200の柔軟性を確保しつつ、補助ワイヤ200の破断強度の向上を図ることができる。
【0044】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0045】
上記実施形態におけるガイドワイヤ100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、コアシャフト10が、細径部11とテ-パ部12と太径部13とから構成されているが、コアシャフト10は、これら3つの部分の内の少なくとも1つを有さないとしてもよいし、該3つの部分の他に他の部分を有するとしてもよい。具体的には、コアシャフト10は、テ-パ部12を備えず、全長にわたって外径が略同一である構成であってもよいし、細径部11を備えず、テ-パ部12がコアシャフト10の先端まで伸びた形状である構成であってもよい。
【0046】
上記実施形態では、コイル体20は素線が密巻きされた構成であるが、コイル体20は素線が粗巻きされた構成であってもよい。また、コイル体20は、1本の素線を螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成された構成であるが、コイル体20は、複数の素線を螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成した構成であってもよいし、複数の素線を撚って形成した1本の撚線を螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成した構成であってもよいし、複数の素線を撚って形成した撚線を複数本、螺旋状に巻回することにより中空円筒形状に形成した構成であってもよい。また、ガイドワイヤ100は、コイル体20を備えない構成であってもよい。
【0047】
上記実施形態において、補助ワイヤ200の基端がコアシャフト10の太径部13に接合された構成であってもよい。また、補助ワイヤ200は、コアワイヤより高張力である材料により細く形成された1本の単線から形成された構成であってもよいし、3本以上の素線を撚って形成した構成であってもよい。また、補助ワイヤ200は、上記第2の要件から第5の要件のうちの少なくとも1つを満たさない構成であってもよい。
【0048】
上記実施形態における各部材の材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、補助ワイヤ200とコアシャフト10の先端部分とが同一材料により形成されており、かつ、補助ワイヤ200の外径がガイドワイヤ100の先端部分の外径より小さいことにより、補助ワイヤ200がコアシャフト10の先端部分に比べて、柔軟性が高い構成としてもよい。
【0049】
上記実施形態では、補助ワイヤ200として複数本の素線を互いに撚り合わせた撚線とした構成を説明したが、撚線ではなく、直線状の複数の素線を束ねて1本の線状に形成した構成としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10:コアシャフト 11:細径部 12:テ-パ部 13:太径部 20:コイル体 30:チップ 40:コイル接合部 100:ガイドワイヤ 200:補助ワイヤ 210:ワイヤ接合部 G1:第1のグラフ G2:第2のグラフ P1:降伏点