(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20230621BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230621BHJP
C23C 28/04 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
C23C28/04
(21)【出願番号】P 2022520776
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036415
【審査請求日】2022-04-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸口 浩也
(72)【発明者】
【氏名】堤内 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】松川 倫子
(72)【発明者】
【氏名】植田 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/024737(WO,A1)
【文献】特開2014-198637(JP,A)
【文献】特表2016-528132(JP,A)
【文献】特開平10-182234(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5831
B23B 27/14
C23C 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、30体積%以上80体積%以下であり、
前記結合材は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる第1群より選ばれる1種の元素の単体、並びに
、前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる第3群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合
物、の一方又は両方を含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率は、0.001体積%以上0.20体積%以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記空隙の円相当径の平均は、3nm以上60nm以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化硼素焼結体は、複数の前記空隙を含み、
前記空隙間の距離の平均は、1.5μm以上15μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、40体積%以上75体積%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記結合材は、TiN、AlN、TiB
2、Al
2O
3、ZrN、W
2N、VN、Ni、Si
3N
4、TiCN、TaN、NbN、Mo
2N、HfN、および、Cr
2Nからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具等に用いられる高硬度材料として、立方晶窒化硼素焼結体(以下、「cBN焼結体」ともいう。)がある(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-107396号公報
【文献】国際公開第2007/010670号
【発明の概要】
【0004】
本開示は、立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、30体積%以上80体積%以下であり、
前記結合材は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる第1群より選ばれる1種の元素の単体、並びに、前記第1群より選ばれる2種以上の元素からなる合金及び金属間化合物、からなる第2群より選ばれる少なくとも1種を含み、又は
前記第1群より選ばれる1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる第3群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物、及び、前記化合物の固溶体、からなる第4群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率は、0.001体積%以上0.20体積%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る立方晶窒化硼素焼結体の反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、高能率加工への要求が高まっている。立方晶窒化硼素を用いた工具で高能率加工を行った場合、欠損により工具寿命が短くなる場合がある。よって、工具材料として用いた場合、該工具が高能率加工においても長い工具寿命を有することができる立方晶窒化硼素焼結体が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、工具材料として用いた場合、該工具が高能率加工においても長い工具寿命を有することができる立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体を工具材料として用いた場合、該工具は高能率加工においても長い工具寿命を有することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示は、立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、30体積%以上80体積%以下であり、
前記結合材は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる第1群より選ばれる1種の元素の単体、並びに、前記第1群より選ばれる2種以上の元素からなる合金及び金属間化合物、からなる第2群より選ばれる少なくとも1種を含み、又は
前記第1群より選ばれる1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる第3群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物、及び、前記化合物の固溶体、からなる第4群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率は、0.001体積%以上0.20体積%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0010】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体を工具材料として用いた場合、該工具は高能率加工においても長い工具寿命を有することができる。
【0011】
(2)前記空隙の円相当径の平均は、3nm以上60nm以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0012】
(3)前記立方晶窒化硼素焼結体は、複数の前記空隙を含み、
前記空隙間の距離の平均は、1.5μm以上15μm以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0013】
(4)前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、40体積%以上75体積%以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。
【0015】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0016】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiAlN」と記載されている場合、TiAlNを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
【0017】
[実施形態1:立方晶窒化硼素焼結体]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
該立方晶窒化硼素焼結体の該立方晶窒化硼素粒子の含有率は、30体積%以上80体積%以下であり、
該結合材は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる第1群より選ばれる1種の元素の単体、並びに、前記第1群より選ばれる2種以上の元素からなる合金及び金属間化合物、からなる第2群より選ばれる少なくとも1種を含み、又は
前記第1群より選ばれる1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる第3群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物、及び、前記化合物の固溶体、からなる第4群より選ばれる少なくとも1種を含み、
該立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率は、0.001体積%以上0.20体積%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0018】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体を工具材料として用いた場合、該工具は高能率加工においても長い工具寿命を有することができる。この理由は、以下(i)~(iii)の通りと推察される。
【0019】
(i)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、優れた強度及び靱性を有する立方晶窒化硼素粒子を30体積%以上80体積%以下含む。このため、立方晶窒化硼素焼結体も優れた強度及び靱性を有することができる。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有し、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0020】
(ii)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる結合材は、立方晶窒化硼素粒子に対する結合力が特に高い。従って、該立方晶窒化硼素焼結体は、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有し、該立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0021】
(iii)立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具を高能率加工に用いた場合、刃先温度が高くなる。立方晶窒化硼素粒子と結合材とは熱膨張係数が異なるため、熱サイクルにより亀裂が発生しやすく、欠損が生じやすい。立方晶窒化硼素焼結体中に空隙が存在すると、該空隙が立方晶窒化硼素粒子と結合材との熱膨張係数の差を吸収するため、亀裂の発生が抑制される。一方、立方晶窒化硼素焼結体中の空隙の含有率が大きすぎると、該空隙自体が亀裂の起点となる傾向がある。
【0022】
立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率が0.001体積%以上0.20体積%以下であると、空隙による上記の熱膨張係数の差の吸収効果を得られるとともに、空隙自体が亀裂の起点となることを抑制できる。すなわち、立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率が0.001体積%以上0.20体積%以下であると、亀裂の発生が効果的に抑制される。よって、空隙の含有率が0.001体積%以上0.20体積%以下である本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具は、耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することができる。これは、本発明者らが鋭意検討の結果、新たに見出した知見である。
【0023】
<立方晶窒化硼素粒子、空隙及び結合材の含有率>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、30体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、結合材とからなることができる。なお立方晶窒化硼素焼結体は、使用する原材料、製造条件等に起因する不可避不純物を含み得る。立方晶窒化硼素焼結体の不可避不純物の含有率(質量%)は、1質量%以下とすることができる。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、不可避不純物とからなることができる。
【0024】
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率の下限は、強度及び靭性向上の観点から、30体積%以上であり、40体積%以上が好ましく、50体積%以上がより好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率の上限は、耐摩耗性及び耐欠損性向上の観点から、80体積%以下であり、78体積%以下が好ましく、75体積%以下が好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率は、30体積%以上80体積%以下であり、40体積%以上78体積%以下が好ましく、50体積%以上75体積%以下が更に好ましい。
【0025】
立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率は、0.001体積%以上0.20体積%以下である。立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率の下限は、立方晶窒化硼素粒子と結合材との熱膨張係数の差の吸収効果を得るという観点から、0.001体積%以上であり、0.01体積%以上が好ましく、0.03体積%以上が好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率の上限は、空隙が亀裂の起点となることを抑制するという観点から、0.20体積%以下であり、0.11体積%以下が好ましく、0.09体積%以下が好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率は、0.001体積%以上0.20体積%以下であり、0.01体積%以上0.11体積%以下が好ましく、0.03体積%以上0.09体積%以下が好ましい。
【0026】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体全体の体積は、立方晶窒化硼素粒子、結合材及び空隙の体積の合計とすることができる。従って、立方晶窒化硼素焼結体の結合材の含有率(体積%)は、立方晶窒化硼素焼結体全体(100体積%)から、上記の立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)及び上記の空隙の含有率(体積%)を減じた値とすることができる。例えば、立方晶窒化硼素粒子の含有率が70体積%であり、空隙の含有率が0.01体積%の場合、結合材の含有率は、29.99体積%である。
【0027】
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)、空隙の含有率(体積%)及び結合材の含有率(体積%)は、以下の方法で測定される。
【0028】
(A1)立方晶窒化硼素焼結体の任意の位置を切断し、立方晶窒化硼素焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置又はクロスセクションポリッシャ装置等を用いる。
【0029】
(B1)次に、上記断面をSEMにて10000倍で観察して、反射電子像及び二次電子像を得る。観察倍率を10000倍とすることにより、立方晶窒化硼素焼結体中の空隙を明確に特定することができる。反射電子像においては、空隙の存在する領域が黒色領域となり、立方晶窒化硼素粒子の存在する領域が濃い灰色領域となり、結合材の存在する領域が薄い灰色領域または白色領域となる。二次電子像では、空隙が存在する領域は凹部領域となる。反射電子像における黒色領域(空隙の存在する領域)と、二次電子像における凹部領域(空隙の存在する領域)とを照合することにより、反射電子像において空隙の存在する領域を特定する。
【0030】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の反射電子像を
図1に示す。
図1において、符号1で示される黒色領域が空隙に該当する。
図1において、符号2で示される濃い灰色領域が立方晶窒化硼素粒子に該当し、符号3で示される薄い灰色領域または白色領域が結合材に該当する。
【0031】
(C1)次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて第1の二値化処理を行う。第1の二値化処理では、上記反射電子像の撮影の際に、画像輝度値を256に分割し(低輝度:0,高輝度:255)、上記で特定した空隙の存在する領域の輝度値が0以上30以下の範囲内となり、立方晶窒化硼素粒子の存在する領域の輝度値が30超になるように設定する。これにより、空隙の存在する領域を抽出することができる。第1の二値化処理後の画像中に12μm×9μmの測定領域を任意に設定する。該測定領域において、空隙の存在する領域の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率(体積%)を求めることができる。上記の第1の二値化処理での閾値設定を行うと、同一視野を測定する限りでは、空隙の含有率にばらつきは生じない。
【0032】
(D1)次に、上記反射電子像に対して上記の画像解析ソフトを用いて、該画像解析ソフトに予め設定された条件で、第2の二値化処理を行う。第2の二値化処理後の画像において、明視野に由来する画素は、結合材の存在する領域を示す。すなわち、第2の二値化処理によって、結合材の存在する領域を抽出することができる。第2の二値化処理後の画像中に12μm×9μmの測定領域を設定する。該測定領域において、結合材の存在する領域の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、立方晶窒化硼素焼結体の結合材の含有率(体積%)を求めることができる。上記の第2の二値化処理を行うと、同一視野を測定する限りでは、結合材の含有率にばらつきは生じない。
【0033】
(E1)立方晶窒化硼素焼結体全体(100体積%)から、空隙の含有率及び結合材の含有率を減じることにより、立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)を求めることができる。
【0034】
上記(A1)~(E1)を異なる10の測定領域で行い、各測定領域において、立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)、空隙の含有率(体積%)及び結合材の含有率(体積%)を測定する。10の測定領域の立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)の平均を、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)とする。10の測定領域の空隙の含有率(体積%)の平均を、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率(体積%)とする。10の測定領域の結合材の含有率(体積%)の平均を、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の結合材の含有率(体積%)とする。
【0035】
同一の試料で上記の測定を行う限り、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認されている。
【0036】
<空隙の円相当径>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、空隙の円相当径の平均は、3nm以上60nm以下であることが好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。この理由は、立方晶窒化硼素焼結体中に存在する空隙の数が多くなり、亀裂の発生が更に効果的に抑制されるためと推察される。
【0037】
空隙の円相当径の下限は、立方晶窒化硼素粒子と結合材との熱膨張係数の差の吸収効果の向上の観点から、3nm以上が好ましく、3.5nm以上が好ましく、4nm以上が好ましく、5nm以上が好ましく、10nm以上が好ましい。空隙の円相当径の上限は、空隙数の増加の観点から、60nm以下が好ましく、55nm以下が好ましく、50nm以下が好ましい。空隙の円相当径は、3nm以上60nm以下が好ましく、3nm以上55nm以下が好ましく、3nm以上50nm以下が好ましく、3.5nm以上60nm以下が好ましく、3.5nm以上55nm以下が好ましく、3.5nm以上50nm以下が好ましく、4nm以上60nm以下が好ましく、4nm以上55nm以下が好ましく、4nm以上50nm以下が好ましく、5nm以上60nm以下が好ましく、5nm以上55nm以下が好ましく、5nm以上50nm以下が好ましく、10nm以上60nm以下が好ましく、10nm以上55nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下が好ましい。
【0038】
本明細書において、空隙の円相当径とは、立方晶窒化硼素焼結体の断面に観察される空隙の円相当径を意味する。該空隙の円相当径は、以下の方法で測定される。まず、上記の立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率の測定方法の(A1)~(C1)と同様の手順で、立方晶窒化硼素焼結体の断面の反射電子像と二次電子像とを照合することにより、反射電子像において空隙の存在する領域(以下、「空隙領域」とも記す。)を特定し、更に、反射電子像に対して上記第1の二値化処理を行うことにより、空隙領域を抽出する。二値化処理後の画像中に測定領域(12μm×9μm)を設定する。該測定領域において、上記画像処理ソフトを用いて各空隙領域の円相当径(等面積円の直径)を算出する。空隙領域の形状から、2つ以上の空隙領域がつながっていると考えられる場合は、該空隙領域は1つと見做して、円相当径を算出する。測定領域内の全空隙領域の円相当径の平均を、該測定領域における空隙の円相当径とする。ここで、円相当径の平均とは、円相当径の個数基準の算術平均径を意味する。該測定領域中に存在する空隙が1つの場合は、該1つの空隙の円相当径を円相当径の平均と見做す。該円相当径の平均の測定を異なる10の測定領域で行う。10の測定領域の測定値の平均を、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体における空隙の円相当径の平均とする。
【0039】
同一の試料で上記の測定を行う限り、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認されている。
【0040】
<空隙間の距離>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、複数の空隙を含み、空隙間の距離の平均は、1.5μm以上15μm以下が好ましい。これによると、工具寿命が更に向上する。この理由は、立方晶窒化硼素焼結体において空隙が分散して存在し、立方晶窒化硼素焼結体の全領域で略均一に亀裂の発生が抑制されるためと推察される。
【0041】
空隙間の距離の下限は、空隙の分散性向上の観点から、1.5μm以上が好ましく、3μm以上が好ましく、5μm以上が好ましい。空隙間の距離の上限は、亀裂発生抑制効果を得るという観点から、15μm以下が好ましく、14μm以下が好ましく、13μm以下が好ましい。空隙間の距離は、1.5μm以上15μm以下が好ましく、3μm以上14μm以下がより好ましく、5μm以上13μm以下が更に好ましい。
【0042】
本明細書において、空隙間の距離は、以下の方法で測定される。上記の立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率の測定方法の(A1)~(C1)と同様の手順で、立方晶窒化硼素焼結体の断面の反射電子像と二次電子像とを照合することにより、反射電子像において空隙の存在する領域(以下、「空隙領域」とも記す。)を特定し、更に、反射電子像に対して上記第1の二値化処理を行うことにより、空隙領域を抽出する。二値化処理後の画像中に測定領域(12μm×9μm)を設定する。該測定領域において、上記画像処理ソフトを用いて各空隙領域の重心位置を導出する。求めた重心座標を母点とみなし、ボロノイ分割処理を行って各ボロノイ領域を計算する。1つのボロノイ領域(以下、第1のボロノイ領域)と、該第1のボロノイ領域に隣接するボロノイ領域(以下、第2のボロノイ領域)とについて、母点の重心座標同士を結ぶ線分の長さを計算する。該線分の長さを、第1ボロノイ領域と第2ボロノイ領域との距離とする。第1のボロノイ領域に複数のボロノイ領域が隣接する場合は、第1のボロノイ領域と、それに隣接する複数のボロノイ領域のそれぞれとについて、上記線分の長さを計算する。測定視野中の全てのボロノイ領域について、同様の方法で、隣接するボロノイ領域間の上記線分の長さを計算する。測定視野中の全てのボロノイ領域間の線分の長さの平均を、上記測定領域における空隙間の距離の平均とする。該空隙間の距離の平均の測定を異なる10の測定領域で行う。10の測定領域の測定値の平均を、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体における空隙間の距離の平均とする。
【0043】
同一の試料で上記の測定を行う限り、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認されている。
【0044】
<立方晶窒化硼素粒子>
立方晶窒化硼素粒子は、硬度、強度、靱性が高く、立方晶窒化硼素焼結体中の骨格としての役割を果たす。立方晶窒化硼素粒子の平均粒径(円相当径のD50)は、工具寿命向上の観点から、0.4μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上6μm以下が更に好ましい。
【0045】
立方晶窒化硼素粒子の平均粒径は、以下の方法で測定される。上記の立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率の測定方法の(A1)~(D1)と同様の手順で、反射電子像において空隙領域及び結合材の存在する領域(以下、「結合材領域」とも記す。)を抽出し、全領域から空隙領域及び結合材領域を除いた領域を立方晶窒化硼素粒子の存在する領域(以下、「立方晶窒化硼素粒子領域」とも記す)として特定する。二値化処理後の画像中に測定領域(12μm×9μm)を設定する。該測定領域において、各立方晶窒化硼素粒子領域の円相当径を算出する。測定領域内の全ての立方晶窒化硼素粒子領域の円相当径の平均を、該測定領域における立方晶窒化硼素粒子の平均粒径とする。ここで、円相当径の平均とは、円相当径のメジアン径D50(個数基準の頻度の累積が50%となる円相当径)を意味する。該平均粒径の測定を異なる10の測定領域で行う。10の測定領域の測定値の平均を、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素粒子の平均粒径とする。
【0046】
同一の試料で上記の測定を行う限り、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認されている。
【0047】
<結合材>
結合材は、難焼結性材料である立方晶窒化硼素粒子を工業レベルの圧力温度で焼結可能とする役割を果たす。また、鉄との反応性がcBNより低いため、高硬度焼入鋼の切削において、化学的摩耗及び熱的摩耗を抑制する働きを付加する。また、cBN焼結体が結合材を含有すると、高硬度焼入鋼の高能率加工における耐摩耗性が向上する。
【0048】
本開示のcBN焼結体において、結合材は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる第1群より選ばれる1種の元素の単体、並びに、該第1群より選ばれる2種以上の元素からなる合金及び金属間化合物、からなる第2群より選ばれる少なくとも1種を含み、又は
該第1群より選ばれる1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる第3群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物、及び、該化合物の固溶体、からなる第4群より選ばれる少なくとも1種を含む。すなわち、結合材は、下記の(a)~(f)のいずれかの形態とすることができる。
【0049】
(a)第2群より選ばれる少なくとも1種からなる。
(b)第2群より選ばれる少なくとも1種を含む。
(c)第4群より選ばれる少なくとも1種からなる。
(d)第4群より選ばれる少なくとも1種を含む。
(e)第2群より選ばれる少なくとも1種、並びに、第4群より選ばれる少なくとも1種からなる。
(f)第2群より選ばれる少なくとも1種、並びに、第4群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0050】
ここで、周期表の第4族元素は、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)を含む。第5族元素は、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)を含む。第6族元素は、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を含む。以下、第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる第1群に含まれる元素を「第1元素」とも記す。
【0051】
第1元素の合金は、例えばTi-Zr、Ti-Hf、Ti-V、Ti-Nb、Ti-Ta、Ti-Cr、Ti-Moが挙げられる。第1元素の金属間化合物は、例えば、TiCr2、Ti3Al、Co-Alが挙げられる。
【0052】
上記の第1元素と窒素とを含む化合物(窒化物)としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(Cr2N)、窒化モリブデン(MoN)、窒化タングステン(WN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化コバルト(CoN)、窒化ニッケル(NiN)、窒化チタンジルコニウム(TiZrN)、窒化チタンハフニウム(TiHfN)、窒化チタンバナジウム(TiVN)、窒化チタンニオブ(TiNbN)、窒化チタンタンタル(TiTaN)、窒化チタンクロム(TiCrN)、窒化チタンモリブデン(TiMoN)、窒化チタンタングステン(TiWN)、窒化チタンアルミニウム(TiAlN、Ti2AlN、Ti3AlN)、窒化ジルコニウムハフニウム(ZrHfN)、窒化ジルコニウムバナジウム(ZrVN)、窒化ジルコニウムニオブ(ZrNbN)、窒化ジルコニウムタンタル(ZrTaN)、窒化ジルコニウムクロム(ZrCrN)、窒化ジルコニウムモリブデン(ZrMoN)、窒化ジルコニウムタングステン(ZrWN)、窒化ハフニウムバナジウム(HfVN)、窒化ハフニウムニオブ(HfNbN)、窒化ハフニウムタンタル(HfTaN)、窒化ハフニウムクロム(HfCrN)、窒化ハフニウムモリブデン(HfMoN)、窒化ハフニウムタングステン(HfWN)、窒化バナジウムニオブ(VNbN)、窒化バナジウムタンタル(VTaN)、窒化バナジウムクロム(VCrN)、窒化バナジウムモリブデン(VMoN)、窒化バナジウムタングステン(VWN)、窒化ニオブタンタル(NbTaN)、窒化ニオブクロム(NbCrN)、窒化ニオブモリブデン(NbMoN)、窒化ニオブタングステン(NbWN)、窒化タンタルクロム(TaCrN)、窒化タンタルモリブデン(TaMoN)、窒化タンタルタングステン(TaWN)、窒化クロムモリブデン(CrMoN)、窒化クロムタングステン(CrWN)、窒化モリブデンクロム(MoCrN)を挙げることができる。
【0053】
上記の第1元素と炭素とを含む化合物(炭化物)としては、例えば、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(Cr3C2)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)、炭化タングステン-コバルト(W2Co3C)を挙げることができる。
【0054】
上記の第1元素と硼素とを含む化合物(硼化物)としては、例えば、硼化チタン(TiB2)、硼化ジルコニウム(ZrB2)、硼化ハフニウム(HfB2)、硼化バナジウム(VB2)、硼化ニオブ(NbB2)、硼化タンタル(TaB2)、硼化クロム(CrB)、硼化モリブデン(MoB)、硼化タングステン(WB)、硼化アルミニウム(AlB2)、硼化コバルト(Co2B)、硼化ニッケル(Ni2B)を挙げることができる。
【0055】
上記の第1元素と酸素とを含む化合物(酸化物)としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)を挙げることができる。
【0056】
上記の第1元素と炭素と窒素とを含む化合物(炭窒化物)としては、例えば、炭窒化チタン(TiCN)、炭窒化ジルコニウム(ZrCN)、炭窒化ハフニウム(HfCN)、炭窒化チタンニオブ(TiNbCN)、炭窒化チタンジルコニウム(TiZrCN)、炭窒化チタンハフニウム(TiHfCN)、炭窒化チタンタンタル(TiTaCN)、炭窒化チタンクロム(TiCrCN)を挙げることができる。
【0057】
上記の第1元素と酸素と窒素とからなる化合物(酸窒化物)としては、例えば、酸窒化チタン(TiON)、酸窒化ジルコニウム(ZrON)、酸窒化ハフニウム(HfON)、酸窒化バナジウム(VON)、酸窒化ニオブ(NbON)、酸窒化タンタル(TaON)、酸窒化クロム(CrON)、酸窒化モリブデン(MoON)、酸窒化タングステン(WON)、酸窒化アルミニウム(AlON)、酸窒化ケイ素(SiAlON)を挙げることができる。
【0058】
上記化合物の固溶体とは、2種類以上のこれらの化合物が互いの結晶構造内に溶け込んでいる状態を意味し、侵入型固溶体や置換型固溶体を意味する。
【0059】
上記化合物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
結合材の上記第2群より選ばれる少なくとも1種及び上記第4群より選ばれる少なくとも1種の合計含有量(以下、「第2群及び第4群の合計含有量」)の下限は、50体積%以上が好ましく、60体積%以上がより好ましく、70体積%以上が更に好ましい。結合材の第2群及び第4群の合計含有量の上限は、80体積%以下が好ましく、90体積%以下がより好ましく、100体積%が最も好ましい。結合材の第2群及び第4群の合計含有量は50体積%以上80体積%以下が好ましく、60体積%以上90体積%以下がより好ましく、70体積%以上100体積%以下が更に好ましい。
【0061】
結合材の第2群及び第4群の合計含有量は、XRDによるRIR法(Reference Intensity Ratio)により測定される。
【0062】
結合材は、上記の第2群及び第4群の他に、他の成分を含んでいてもよい。他の成分を構成する元素としては、例えば、マンガン(Mn)、レニウム(Re)を挙げることができる。
【0063】
cBN焼結体に含まれる結合材の組成は、XRD(X線回折測定、X-ray Diffraction)により特定することができる。
【0064】
<用途>
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具、耐摩工具、研削工具などに用いることが好適である。
【0065】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体を用いた切削工具、耐摩工具および研削工具はそれぞれ、その全体が立方晶窒化硼素焼結体で構成されていても良いし、その一部(たとえば切削工具の場合、刃先部分)のみが立方晶窒化硼素焼結体で構成されていても良い。さらに、各工具の表面にコーティング膜が形成されていても良い。
【0066】
切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイトなどを挙げることができる。
【0067】
耐摩工具としては、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサーなどを挙げることができる。研削工具としては、研削砥石などを挙げることができる。
【0068】
[実施形態2:立方晶窒化硼素焼結体の製造方法]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、例えば、下記の方法で作製することができる。
【0069】
<原料準備工程>
まず、立方晶窒化硼素粉末(以下、「cBN粉末」ともいう。)と、結合材原料粉末とを準備する。
【0070】
cBN粉末とは、cBN焼結体に含まれる立方晶窒化硼素粒子(以下、「cBN粒子」ともいう。)の原料粉末である。cBN粉末は、特に限定されず、公知のcBN粉末を用いることができる。中でも、cBN粉末は、六方晶窒化硼素粉末を、触媒であるLiCaBN2の存在下で立方晶窒化硼素の熱力学的安定領域内で保持して、立方晶窒化硼素粉末に変換させて得られたものであることが好ましい。
【0071】
cBN粉末のD50(平均粒径)は特に限定されず、例えば、0.1~12.0μmとすることができる。
【0072】
上記cBN粉末を結合材の成分で被覆することが好ましい。例えば、cBN粉末の表面に、スパッタリング又はイオンプレーティングにより、TiN、TiAlN、Al又はAl2O3等の結合材の成分からなる被膜を形成することが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の空隙含有率が低減する。これは、焼結時に立方晶窒化硼素粒子間の空隙が埋まりやすいためと推察される。
【0073】
上記被膜は、cBN粉末の表面の全面に設けられていても良い。また、上記被膜は、cBN粉末の表面の少なくとも一部に設けられていても良い。
【0074】
上記被膜の膜厚は、例えば、0.15μm以上0.25m以下が好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の空隙含有率が更に低減する。該被膜の膜厚は、粉末断面のSEM-EDXにより測定される。
【0075】
結合材原料粉末とは、cBN焼結体に含まれる結合材の原料粉末である。結合材原料粉末は、結合材を構成する成分の少なくとも一部と同一の組成とすることができる。結合材原料粉末としては、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の単体、又は、該元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる化合物を用いることができる。例えば、結合材原料粉末として、実施形態1に結合材として記載される各種化合物からなる粉末を用いることができる。より具体的には、TiN粉末、ZrN粉末、W2N粉末、VN粉末、Ni粉末、Si3N4粉末、TiCN粉末、TaN粉末、NbN粉末、Mo2N粉末、HfN粉末、Cr2N粉末等を用いることができる。結合材原料粉末は、特に限定されず、従来公知の方法で準備することができる。
【0076】
<混合工程>
次に、上記で準備した結合材原料粉末を混合して粉砕する(以下、「1次混合」とも記す。)。1次混合の方法は特に制限されないが、例えば、ボールミル又はジェットミルを用いることができる。各混合、粉砕方法は、湿式でもよく乾式でもよい。1次混合の混合時間は、ボールミルの場合は、例えば、10時間以上15時間以下とすることができる。ジェットミルの場合は、例えば、1時間以上2時間以下とすることができる。
【0077】
次に、1次混合により粉砕した結合材原料粉末をエタノールやアセトン等の溶媒に分散させて分散液を得る。該分散液に上記で準備したcBN粉末を添加して混合して混合粉末を得る(以下、「2次混合」とも記す。)。2次混合の方法は特に制限されないが、例えば、ボールミル又はジェットミルを用いることができる。2次混合の混合時間は、ボールミルの場合は、例えば、10時間以上15時間以下とすることができる。ジェットミルの場合は、例えば、1時間以上2時間以下とすることができる。溶媒は、混合後に自然乾燥により除去される。その後、熱処理を行うことにより、混合粉末の表面に吸着した水分などの不純物を揮発させ、混合粉末の表面を清浄化する。
【0078】
従来の混合方法では、はじめから、結合材原料粉末及びcBN粉末を溶媒中に分散させて混合していた。このため、cBN粉末の混合時間が長く(例えば、ボールミルでは20時間以上30時間以下、ジェットミルでは2時間超4時間以下)、cBN粉末に歪みが導入されやすかった。cBN粉末中の歪みは、立方晶窒化硼素焼結体中の空隙の一因である。
【0079】
一方、本実施形態の混合工程は、結合材原料粉末のみを混合して粉砕する1次混合と、1次混合後の結合材原料粉末の分散液にcBN粉末を添加して混合する2次混合とを含む。これにより、cBN粉末に対するボールミルやジェットミルによる混合時間が低減し、cBN粉末の歪みが低減される。よって、立方晶窒化硼素焼結体の空隙含有率が低減する。なお、従来は、製造時間の増加という不都合があるため、混合工程を1次工程と2次工程とに分けて行うことは採用されなかった。本実施形態のように、混合工程を1次混合と2次混合とに分ける方法は、本発明者等が新たに見出したものである。
【0080】
<焼結工程>
上記の混合粉末をWC-6%Coの超硬合金製円盤とCo(コバルト)箔とに接した状態で、Ta(タンタル)製の容器に充填して真空シールする。Ta製容器に充填された混合粉末を、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、圧力5GPa以上7GPa以下に加圧した後、温度1300℃以上1500℃以下に加熱し、加圧加熱後の圧力及び温度条件下で15分以上30分以下保持して焼結させる。これにより、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体が作製される。
【0081】
本発明者等は、加圧後の圧力が低い程、立方晶窒化硼素焼結体の空隙含有率が低減することを新たに見出した。これは、加圧後の圧力が低いと、cBN粉末の破砕が生じ難いためと推察される。また、加熱後の温度が高いと、空隙含有率が低減することを新たに見出した。これは、加熱後の温度が高いと、粒成長するためと推察される。よって、加熱加圧後の圧力及び温度条件を適宜調整することにより、立方晶窒化硼素焼結体の空隙含有率を所望の範囲に低減させることができる。
【0082】
上記の焼結工程は、加熱加圧工程をそれぞれ2段階に分けて行うこともできる。具体的には、上記のTa製容器に充填された混合粉末を、1次圧力2GPa以上4GPa以下に加圧(1次加圧)した後、1次温度500℃以上1000℃以下に加熱(1次加熱)して、加熱加圧後の圧力及び温度条件下で3分以上30分以下保持する(1次保持)。続いて、該圧力から2次圧力5GPa以上7GPa以下に加圧(2次加圧)した後、2次温度1300℃以上1500℃以下に加熱(2次加熱)し、加圧加熱後の圧力及び温度条件下で15分以上30分以下保持(2次保持)して焼結させる。これにより、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体が作製される。
【0083】
本発明者等は、上記の通り、加圧加熱工程をそれぞれ2段階に分けて行うことにより、立方晶窒化硼素焼結体の空隙含有率が低減することを新たに見出した。これは、加圧工程を2段階に分けることにより、1次加圧及び2次加圧のそれぞれにおいてcBN粉末に加えられる圧力の増加量が小さくなり、cBN粉末の破砕が生じ難いためと推察される。なお、従来は、製造時間の増加という不都合があるため、加熱加圧工程を2段階に分けて行うことは採用されなかった。
【0084】
[付記1]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、30体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子、0.01体積%以上0.20体積%以下の空隙及び残部の結合材からなることが好ましい。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、30体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子、0.01体積%以上0.20体積%以下の空隙及び19.8体積%以上69.99体積%以下の結合材からなることが好ましい。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上78体積%以下の立方晶窒化硼素粒子、0.01体積%以上0.11体積%以下の空隙及び残部の結合材からなることが好ましい。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上78体積%以下の立方晶窒化硼素粒子、0.01体積%以上0.11体積%以下の空隙及び21.89体積%以上59.99体積%以下の結合材からなることが好ましい。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、50体積%以上75体積%以下の立方晶窒化硼素粒子、0.03体積%以上0.09体積%以下の空隙及び残部の結合材からなることが好ましい。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、50体積%以上75体積%以下の立方晶窒化硼素粒子、0.03体積%以上0.09体積%以下の空隙及び24.91体積%以上49.94体積%以下であることが好ましい。
【実施例】
【0085】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
<立方晶窒化硼素焼結体の作製>
試料1~試料36、試料1-1~試料1-3の立方晶窒化硼素焼結体を以下の手順で作製した。
【0087】
(原料準備工程)
まず、平均粒径3μmの立方晶窒化硼素粉末を準備した。該立方晶窒化硼素粉末に対して、表1の「被膜形成方法」欄に記載の方法を用いて、表1の「被膜組成」欄に記載の組成及び表1の「膜厚[μm]」欄に記載の膜厚を有する被膜を形成して、No.A~Iの立方晶窒化硼素粉末を作製した。例えばNo.Bの立方晶窒化硼素粉末では、スパッタリングにより、膜厚0.1μmのTiN膜が形成されている。
【0088】
【0089】
各試料の原料として、表2の「cBN粉末No.」欄に記載の立方晶窒化硼素粉末(cBN粉末No.は表1のcBN粉末No.に対応する。)、及び、結合材原料粉末を準備した。結合材原料粉末としては、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、からなる化合物を準備した。該化合物は、1種類又は2種類以上を組み合わせた。各結合材原料粉末の平均粒径は1μmである。
【0090】
cBN粉末及び結合材原料粉末の量を、作製される立方晶窒化硼素焼結体のcBN粒子の含有率が表3の「cBN粒子[体積%]」欄に記載の百分率となるように準備した。
【0091】
【0092】
(混合工程)
次に、準備した結合材原料粉末を表2の「混合方法」欄に記載の方法で、「1次混合[hr]」欄に記載の時間混合して粉砕した(1次混合)。
【0093】
次に、1次混合により粉砕した結合材原料粉末をエタノールに分散させて分散液を得た。該分散液に上記で準備したcBN粉末を添加して表2の「混合方法」欄に記載の方法で、「2次混合[hr]」欄に記載の時間混合して混合して混合粉末を得た(「2次混合」)。その後自然乾燥で溶媒を除去した。
【0094】
例えば、試料1では、結合材原料粉末をボールミルで12時間混合して粉砕した(1次混合)。次に、結合材原料粉末をエタノールに分散させて分散液を得て、該分散液にcBN粉末を添加して、ボールミルで12時間混合して混合粉末を得た(2次混合)。その後自然乾燥で溶媒を除去した。
【0095】
(焼結工程)
上記の混合粉末をWC-6%Coの超硬合金製円盤とCo(コバルト)箔とに接した状態で、Ta(タンタル)製の容器に充填して真空シールする。Ta製容器に充填された混合粉末を、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、表2の「焼結圧力[GPa]」欄に記載の圧力まで加圧した後、「焼結温度[℃]」欄に記載の温度まで加熱し、加圧加熱後の圧力及び温度条件下で「焼結時間[min]」欄に記載の時間保持して焼結し、立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0096】
例えば、試料1では、混合粉末を、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、7GPaまで加圧した後、1500℃まで加熱し、該圧力温度で15分間保持して焼結して立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0097】
<評価>
得られた立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)、結合材の含有率(体積%)及び空隙の含有率(体積%)、結合材組成、空隙の円相当径の平均並びに空隙間距離の平均を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に示されているため、その説明は繰り返さない。結果を表3の「cBN粒子[体積%]」、「結合材[体積%]」、「結合材組成」、「空隙[体積%]」、「空隙円相当径平均[nm]」、「空隙間距離平均[μm]」欄に示す。「結合材[体積%]」欄の「残り」とは、立方晶窒化硼素焼結体全体(100体積%)からcBN粒子の含有率(体積%)及び空隙の含有率(体積%)を減じた残りが、結合材の含有率であることを意味する。
【0098】
【0099】
<切削試験>
作製された各試料のcBN焼結体を用いて切削工具(基材形状:CNGA120408)を作製した。これを用いて、以下の切削条件下で切削試験を実施した。下記の切削条件は、焼結合金の切削に該当する。
被削材:浸炭材SCM415(HRC60)径100mmの丸棒
切削速度:150m/min.
送り速度:0.15mm/rev.
切込み:0.5mm
クーラント:WET
切削方法:外径連続切削
評価方法:欠損に至るまでの切削距離(km)を導出する。切削距離が長いほど、耐欠損性に優れ、工具寿命が長いことを示す。
結果を表3の「切削試験」欄に示す。
【0100】
<考察>
試料1~試料36の立方晶窒化硼素焼結体は実施例に該当し、試料1-1~試料1-3の立方晶窒化硼素焼結体は比較例に該当する。試料1~試料36(実施例)は、試料1-1~試料1-3(比較例)に比べて、工具寿命が長いことが確認された。
【0101】
[実施例2]
<立方晶窒化硼素焼結体の作製>
試料50~試料60の立方晶窒化硼素焼結体を以下の手順で作製した。
【0102】
(原料準備工程)
実施例1と同様の方法で、No.A~Iの立方晶窒化硼素粉末及び結合材原料粉末を準備した。cBN粉末及び結合材原料粉末の量を、作製される立方晶窒化硼素焼結体のcBN粒子の含有率が表5の「cBN粒子[体積%]」欄に記載の百分率となるように準備した。
【0103】
【0104】
(混合工程)
次に、準備した結合材原料粉末を表4の「混合方法」欄に記載の方法で、「1次混合[hr]」欄に記載の時間混合して粉砕した(1次混合)。
【0105】
次に、1次混合により粉砕した結合材原料粉末をエタノールに分散させて分散液を得た。該分散液に上記で準備したcBN粉末を添加して表4の「混合方法」欄に記載の方法で、「2次混合[hr]」欄に記載の時間混合して混合して混合粉末を得た(「2次混合」)。その後自然乾燥で溶媒を除去した。
【0106】
例えば、試料50では、結合材原料粉末をボールミルで12時間混合して粉砕した(1次混合)。次に、結合材原料粉末をエタノールに分散させて分散液を得て、該分散液にcBN粉末を添加して、ボールミルで24時間混合して混合粉末を得た(2次混合)。その後自然乾燥で溶媒を除去した。
【0107】
(焼結工程)
上記の混合粉末をWC-6%Coの超硬合金製円盤とCo(コバルト)箔とに接した状態で、Ta(タンタル)製の容器に充填して真空シールする。Ta製容器に充填された混合粉末を、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、表4の「1次圧力[GPa]」欄に記載の圧力まで加圧した(1次加圧)後、「1次温度[℃]」欄に記載の温度まで加熱し(1次加熱)、加圧加熱後の圧力及び温度条件下で「1次保持時間[min]」欄に記載の時間保持した(1次保持)。続いて、表4の「2次圧力[GPa]」欄に記載の圧力まで加圧した(2次加圧)後、「2次温度[℃]」欄に記載の温度まで加熱(2次加熱)し、加圧加熱後の圧力及び温度条件下で「2次保持時間[min]」欄に記載の時間保持して(2次保持)、立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0108】
例えば、試料50では、混合粉末を、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、3GPaまで加圧した(1次加圧)後、1000℃まで加熱(1次加熱)し、該圧力温度で15分間保持した(1次保持)。続いて、5GPaまで加圧した(2次加圧)後、1300℃まで加熱(2次加熱)し、該圧力温度で15分間保持して(2次保持)、立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0109】
<評価>
得られた立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)、結合材の含有率(体積%)及び空隙の含有率(体積%)、結合材組成、空隙の円相当径の平均並びに空隙間距離の平均を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に示されているため、その説明は繰り返さない。結果を表5の「cBN粒子[体積%]」、「結合材[体積%]」、「結合材組成」、「空隙[体積%]」、「空隙円相当径平均[nm]」、「空隙間距離平均[μm]」欄に示す。「結合材[体積%]」欄の「残り」とは、立方晶窒化硼素焼結体全体(100体積%)からcBN粒子の含有率(体積%)及び空隙の含有率(体積%)を減じた残りが、結合材の含有率であることを意味する。
【0110】
【0111】
<切削試験>
作製された各試料のcBN焼結体を用いて実施例1と同一条件で切削試験を行った。結果を表5の「切削試験」欄に示す。
【0112】
<考察>
試料50~試料60の立方晶窒化硼素焼結体は実施例に該当する。試料50~試料60(実施例)は、実施例1で作製された試料1-1~試料1-3(比較例)に比べて、工具寿命が長いことが確認された。
【0113】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0114】
1 空隙、2 立方晶窒化硼素粒子、3 結合材、4 立方晶窒化硼素焼結体
【要約】
立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、30体積%以上80体積%以下であり、前記結合材は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる第1群より選ばれる1種の元素の単体、並びに、前記第1群より選ばれる2種以上の元素からなる合金及び金属間化合物、からなる第2群より選ばれる少なくとも1種を含み、又は前記第1群より選ばれる1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる第3群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物、及び、前記化合物の固溶体、からなる第4群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記立方晶窒化硼素焼結体の空隙の含有率は、0.001体積%以上0.20体積%以下である。