(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】心臓マッサージ練習器具および心臓マッサージ練習方法
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20230622BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2019017066
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-09-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 篤
【審査官】西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-3015(JP,A)
【文献】特開2016-123844(JP,A)
【文献】特開2015-191235(JP,A)
【文献】特表2017-531838(JP,A)
【文献】特開平11-249546(JP,A)
【文献】米国特許第03568333(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
17/00-19/26
23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧迫により収縮し、圧迫解除により伸長するポンプ本体と、
前記ポンプ本体が伸長するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の負圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に液体を吸入可能にする第1の吸入弁と、
前記ポンプ本体が伸長するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の負圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に空気を吸入可能にする第2の吸入弁と、
前記ポンプ本体が収縮するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の正圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ室内の液体及び空気の少なくとも一方を外部に排出可能にする排出弁と、
を有し、
前記第2の吸入弁には、模擬気管が接続されており、
前記模擬気管には、前記第2の吸入弁を通じて前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に吸入される空気の吸入量を制限するための第2の心肺蘇生補助器具を接続可能にする接続部が設けられていることを
特徴とする心臓マッサージ練習器具。
【請求項2】
圧迫により収縮し、圧迫解除により伸長するポンプ本体と、
前記ポンプ本体が伸長するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の負圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に液体を吸入可能にする第1の吸入弁と、
前記ポンプ本体が伸長するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の負圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に空気を吸入可能にする第2の吸入弁と、
前記ポンプ本体が収縮するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の正圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ室内の液体及び空気の少なくとも一方を外部に排出可能にする排出弁と、
床面に載置されるベースプレートと、
該ベースプレートの上に配置されて前記ベースプレートとの間に前記ポンプ本体を収容するカバーと、
前記ポンプ本体の伸縮方向一方側の端部と前記ベースプレートとを着脱自在に固定する第1の面ファスナーと、
前記ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部と前記カバーとを着脱自在に固定する第2の面ファスナーとを有
し、
前記ポンプ本体は、該ポンプ本体の伸縮方向一方側の端部が前記ベースプレートに固定され、前記ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部が前記カバーに固定されており、
前記カバーは、圧迫により弾性変形して前記ポンプ本体を収縮させ、圧迫解除により弾性復帰して前記ポンプ本体を伸長させる弾性部材により形成されていることを
特徴とする心臓マッサージ練習器具。
【請求項3】
前記カバーは、透明又は半透明の弾性部材により形成されていることを特徴とする請求項2に記載の心臓マッサージ練習器具。
【請求項4】
前記カバーは、前記ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部と対向する位置に、前記カバーの圧迫と引き上げを行うための第1の心肺蘇生補助器具を装着可能にする装着部を有していることを特徴とする請求項2または3に記載の心臓マッサージ練習器具。
【請求項5】
前記第1の吸入弁には、透明または半透明の模擬静脈管が接続され、前記排出弁には、透明または半透明の模擬動脈管が接続されたことを特徴とする請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載の心臓マッサージ練習器具。
【請求項6】
請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の心臓マッサージ練習器具を用いた心臓マッサージ練習方法であって、
圧迫によりポンプ本体のポンプ室内の空気と液体の少なくとも一方をポンプ本体の外部に排出させる排出工程と、
圧迫解除によりポンプ本体の外部からポンプ本体のポンプ室内に空気と液体の両方を吸入させる吸入工程と、
を含むことを特徴とする心臓マッサージ練習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸骨圧迫による心臓マッサージの練習を行うための心臓マッサージ練習器具および心臓マッサージ練習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の心臓マッサージ練習器具として、変形可能な中空弾性体と、模擬静脈と、模擬動脈と、模擬僧帽弁と、模擬動脈弁とを有し、中空弾性体の収縮および拡張により、模擬静脈から仮想血液を中空弾性体に移送し、移送した仮想血液を模擬動脈に移送するものが開示されている(特許文献1参照)。従来の心臓マッサージ練習器具では、模擬僧帽弁は、中空弾性体が収縮から拡張する際に開き、中空弾性体が拡張から収縮する際に閉じるように構成されている。また、模擬動脈弁は、模擬僧帽弁とは反対に、拡張から収縮する際に開き、中空弾性体が収縮から拡張する際に閉じるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の心臓マッサージ練習器具においては、中空弾性体が収縮から拡張する際に中空弾性体内に生じた負圧、いわゆる陰圧により模擬僧帽弁が開き、模擬静脈内の模擬血液が中空弾性体内に流入し、中空弾性体が拡張から収縮する際に生ずる正圧、いわゆる陽圧により中空弾性体内の模擬血液が模擬動脈に送り出されるように構成されている。したがって、中空弾性体の変形に応じた模擬血液の流れを見ることができ、心臓の動きと役割を容易に理解することができる。従来の心臓マッサージ練習器具は、例えば小学校の児童や中学、高校の生徒をはじめとする一般人にとっては、心臓マッサージを学ぶための教材として高い価値を有する。
【0005】
しかしながら、人体に対する実際の心臓マッサージでは、胸腔内に存在する他の内臓器官の影響を受けるので、従来の心臓マッサージ練習器具を使用して体感した心臓マッサージとは、感覚が異なっている。したがって、従来の心臓マッサージ練習器具は、例えば医師や看護師、救命救急士など、日常的に医療に携わる医療従事者が練習するのには不充分であり、高度な練習を行うことは困難であった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、実際の心臓マッサージに近い感覚を体感でき、より高度な練習を行うことができる心臓マッサージ練習器具および心臓マッサージ練習方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る心臓マッサージ練習器具は、圧迫により収縮し、圧迫解除により伸長するポンプ本体と、前記ポンプ本体が伸長するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の負圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に液体を吸入可能にする第1の吸入弁と、前記ポンプ本体が伸長するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の負圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に空気を吸入可能にする第2の吸入弁と、前記ポンプ本体が収縮するときに発生する前記ポンプ本体のポンプ室の正圧により開放されて前記ポンプ本体のポンプ室と前記ポンプ本体の外部との間を連通して前記ポンプ室内の液体及び空気の少なくとも一方を外部に排出可能にする排出弁と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、圧迫によりポンプ本体が収縮して、ポンプ本体のポンプ室が加圧されて正圧となり、排出弁が開放されてポンプ本体のポンプ室からポンプ本体の外部に液体と空気の少なくとも一方が排出される。そして、圧迫解除によりポンプ本体が伸長することにより、ポンプ本体のポンプ室が負圧となり、第1の吸入弁と第2の吸入弁が開放されてポンプ本体の外部からポンプ本体のポンプ室に液体と空気が吸入される。つまり、圧迫により第1の吸入弁を通してポンプ本体の外部からポンプ室に液体が吸入されるとともに、第2の吸入弁を通してポンプ本体の外部からポンプ室に空気が吸入される。
【0009】
本発明の心臓マッサージ練習器具は、外部からポンプ室に液体を吸入する第1の吸入弁に加えて、外部からポンプ室に空気を吸入する第2の吸入弁が設けられており、吸入工程の際に、第1の吸入弁および第2の吸入弁から液体と空気の両方がポンプ室内に吸入されるので、肺などの心臓以外の胸郭内蔵物を考慮した実際の人体の状態と同様の状態を擬似的に作り出すことができる。したがって、心臓マッサージ練習器具を使用する者は、実際の心臓マッサージに近い感覚の心臓マッサージを体感することができ、高度な練習を行うことができる。
【0010】
(2)上記(1)に記載の心臓マッサージ練習器具であって、床面に載置されるベースプレートと、該ベースプレートの上に配置されて前記ベースプレートとの間に前記ポンプ本体を収容するカバーと、を有し、前記ポンプ本体は、該ポンプ本体の伸縮方向一方側の端部が前記ベースプレートに固定され、前記ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部が前記カバーに固定されており、前記カバーは、圧迫により弾性変形して前記ポンプ本体を収縮させ、圧迫解除により弾性復帰して前記ポンプ本体を伸長させる弾性部材により形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、圧迫によりカバーを弾性変形させてポンプ本体を収縮させることができ、圧迫解除によりカバーを弾性復帰させてポンプ本体を伸長させることができる。したがって、心臓マッサージ練習器具を使用する者は、圧迫の際にカバーの弾性力とポンプ本体の弾性力との共働による反発力を得ることができ、実際の心臓マッサージと同様の押す感覚を体感することができる。また、ポンプ本体の伸縮方向一方側の端部がベースプレートに固定され、ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部がカバーに固定されているので、例えば圧迫解除によりカバーが弾性復帰する際に、ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部をカバーによって引き上げて、ポンプ本体を伸長する方向に付勢し、前記ポンプ本体の弾性復帰を加勢することができる。
【0012】
(3)上記(2)に記載の心臓マッサージ練習器具であって、前記カバーは、透明又は半透明の弾性部材により形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、カバーが透明または半透明の弾性部材により形成されているので、心臓マッサージ練習器具を使用する者は、カバーを圧迫したときとカバーの圧迫を解除したときのポンプ本体の動作を目視することができ、実際の心臓マッサージをする際の心臓の動きを容易に理解することができる。
【0014】
(4)上記(2)または(3)に記載の心臓マッサージ練習器具であって、前記カバーは、前記ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部と対向する位置に、前記カバーの圧迫と引き上げを行うための第1の心肺蘇生補助器具を装着可能にする装着部を有していることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、装着部に、例えばカーディオポンプなどのカバーの圧迫と引き上げを行うための第1の心肺蘇生補助器具を取り付けて圧迫し、圧迫解除する際に引き上げることにより、ポンプ本体を強制的に伸長させることができる。したがって、より多くの液体をより速くポンプ室に吸入させることができ、第1の心肺蘇生補助器具の効果を実感でき、第1の心肺蘇生補助器具の使用方法を効率よく習得することができる。
【0016】
(5)上記(2)から(4)のいずれかに記載の心臓マッサージ練習器具であって、前記ポンプ本体の伸縮方向一方側の端部と前記ベースプレートとを着脱自在に固定する第1の面ファスナーと、前記ポンプ本体の伸縮方向他方側の端部と前記カバーとを着脱自在に固定する第2の面ファスナーとを有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、第1の面ファスナーと第2の面ファスナーにより各構成要素が着脱自在に固定されているので、各構成要素を容易に分解することができ、メンテナンスなどの利便性が向上する。
【0018】
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の心臓マッサージ練習器具であって、前記第1の吸入弁には、透明または半透明の模擬静脈管が接続され、前記排出弁には、透明または半透明の模擬動脈管が接続されたことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、心臓マッサージ練習器具を使用する者は、吸入や排出における液体の動きを透明または半透明の模擬静脈管および模擬動脈管の外側から目視することができ、使用者の動作と液体の動きとの関係を容易に把握することができ、心臓マッサージの練習の効果を向上させることができる。
【0020】
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の心臓マッサージ練習器具であって、前記第2の吸入弁には、模擬気管が接続されており、前記模擬気管には、前記第2の吸入弁を通じて前記ポンプ本体の外部から前記ポンプ本体のポンプ室に吸入される空気の吸入量を制限するための第2の心肺蘇生補助器具を接続可能にする接続部が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、空気の吸入量を制限する吸気時空気抵抗弁装置(ITD)等の第2の心肺蘇生補助器具を接続部に接続して心臓マッサージの動作を行った場合に、第2の心肺蘇生補助器具を接続していないときと比較して、第2の吸入弁を通過してポンプ室に流入する空気の量が減り、第1の吸入弁を通過してポンプ室に流入する液体の量が増加し、より多くの液体をポンプ室に吸入して排出することができる。したがって、第2の心肺蘇生補助器具を用いて実際の人体への心臓マッサージにおいて肺に入り込む空気の量を制限した状態を擬似的に作り出すことができ、心肺蘇生補助器具である吸気時空気抵抗弁装置(ITD)の効果を実感でき、使用方法を効率よく習得することができる。
【0022】
(8)(1)から(7)の何れかに記載の心臓マッサージ練習器具を用いた心臓マッサージ練習方法であって、圧迫によりポンプ本体のポンプ室内の空気と液体の少なくとも一方をポンプ本体の外部に排出させる排出工程と、圧迫解除によりポンプ本体の外部からポンプ本体のポンプ室内に空気と液体の両方を吸入させる吸入工程とを、含むことを特徴とする心臓マッサージ練習方法。
【0023】
本発明によれば、心臓マッサージ練習器具の使用者は、排出工程と吸入工程とを交互に行うことによって、ポンプ本体の動きや液体の動きを目視することができる。そして、吸入工程の際に、第1の吸入弁および第2の吸入弁から空気と液体の両方がポンプ本体のポンプ室内に吸入されるので、肺などの心臓以外の胸郭内蔵物を考慮した実際の人体の状態と同様の状態を擬似的に作り出すことができ、心臓マッサージ練習器具の使用者は、実際の心臓マッサージに近い感覚の心臓マッサージを体感することができ、高度な練習を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、実際の心臓マッサージに近い感覚を体感でき、より高度な練習を行うことができる心臓マッサージ練習器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具の概要を示す斜視図。
【
図2】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具の一部の分解斜視図。
【
図3】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具の他の一部の斜視図。
【
図4】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具の平面図、側面図および正面図。
【
図5】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具のカバーを取り外した斜視図。
【
図6】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具の一部の平面図、A-A断面を示す断面図およびB-B断面を示す断面図。
【
図7】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具の第1の吸入弁と第2の吸入弁と排出弁の動きを説明する断面図であり、
図7(a)は、第1の吸入弁を示し、
図7(b)は、排出弁を示し、
図7(c)は、第2の吸入弁を示す。
【
図8】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具の動作を説明する説明図であり、
図8(a)は、心臓ポンプの初期状態を示し、
図8(b)は、ポンプ本体が圧迫されて収縮した状態を示し、
図8(c)は、ポンプ本体が圧迫解除により伸長した状態を示し、
図8(d)は、再度ポンプ本体が圧迫されて収縮した状態を示す。
【
図9】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具に装着される第1の心肺蘇生補助器具の斜視図。
【
図10】本発明の実施形態に係る心臓マッサージ練習器具に第1の心肺蘇生補助器具を装着して使用している状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る心臓マッサージ練習器具を適用した実施形態に係る心臓マッサージ練習器具10について図面を参照して説明する。
【0027】
本実施形態に係る心臓マッサージ練習器具10は、人体の心臓マッサージを練習するために使用されるものであり、例えば医療従事者を対象とした高度な練習にも用いることができるものである。心臓マッサージ練習器具10は、人体の胸部を模した形状を有しており、地面や床面などの平坦な面に載置して、心臓マッサージ練習器具10の使用者が胸骨に相当する部分の圧迫と圧迫解除を交互に繰り返して心臓マッサージを練習することができるようになっている。
【0028】
心臓マッサージ練習器具10を使用して心臓マッサージの練習を行う場合、
図1に示すように、心臓マッサージ練習器具10とは別に、心臓マッサージ練習器具10に吸入させる水などの液体を貯留するための第1の容器51と、心臓マッサージ練習器具10から排出される液体を貯留するための第2の容器52を用意する。これらの第1の容器51と第2の容器52は、液体を貯留できるものであればよく、例えばバケツを用いることができるが、これらの容器内の液体の量の変化を容易に見ることができるように、透明または半透明の容器を用いることが好ましい。また、液体は、入手や取り扱いの容易さから水を用いることが好ましく、例えば絵の具等により水を着色して液体の流れや量の変化をより容易に見ることができるようにしてもよい。
【0029】
次に、心臓マッサージ練習器具10の構成について詳細に説明する。
【0030】
心臓マッサージ練習器具10は、
図1及び
図2に示すように、心臓ポンプ11と、心臓ポンプ11が載置されるベースプレート17と、ベースプレート17の上に配置されてベースプレート17との間に心臓ポンプ11を収容するカバー12とを備えている。
【0031】
心臓ポンプ11は、使用者による圧迫および圧迫解除により液体Wと空気の吸入および排出を行う構成を有しており、
図2および
図6に示すように、ポンプ本体21と、ポンプ本体21にそれぞれ取り付けられた第1の吸入弁22と、排出弁23と、第2の吸入弁24と、第1の吸入弁22に接続される模擬静脈管25と、排出弁23に接続される模擬動脈管26と、第2の吸入弁24に接続される模擬気管27とを有している。
【0032】
ポンプ本体21は、圧迫により弾性変形して収縮し、圧迫解除により弾性復帰して伸長する構成を有している。ポンプ本体21は、例えば
図4に示すように、ポンプ本体21の伸縮方向一方側の端部である下端部がベースプレート17に固定され、ポンプ本体21の伸縮方向他方側の端部である上端部がカバー12に固定されている。
【0033】
ポンプ本体21は、
図2に示すように、軸方向に伸縮可能な円筒状の蛇腹部31と、蛇腹部31の下端部を閉塞する下端面部33と、蛇腹部31の上端部を閉塞する上端面部32とを有している。ポンプ本体21の内部には、蛇腹部31と、下端面部33および上端面部32により囲まれた密閉の空間からなるポンプ室21aが形成されている。ポンプ本体21は、収縮するときにポンプ室21aを正圧とし、伸長するときにポンプ室21aを負圧とする。
【0034】
蛇腹部31は、大径部と小径部を交互に連続して形成した合成樹脂製の薄肉円筒部材からなり、所定の大きさ(mm3)および厚み(mm)で作製され、軸方向に伸縮することができる弾力性、柔軟性および気密性を有している。蛇腹部31は、下端部に下端面部33を取り付けるための取付部31bと、上端部に上端面部32を取り付けるための取付部31aとを有している。
【0035】
ポンプ本体21は、カバー12の内壁面に上端面部32が固定され、固定プレート14とスペーサ34を間に介してベースプレート17に下端面部33が固定されている。そして、ポンプ本体21は、カバー12の胸骨部分を心臓マッサージ練習器具10の使用者が下方に押し込んで圧迫することにより、ポンプ本体21の蛇腹部31がカバー12とともに弾性変形して、軸方向に収縮する。そして、圧迫を解除することにより蛇腹部31がカバー12とともに弾性復帰して、軸方向に伸長する。
【0036】
カバー12および蛇腹部31は、例えば、カバー12の胸骨部分に約30Kgf(約294N)で押す力が加えられて圧迫された場合に、弾性変形して5cm程度、カバー12の胸骨部分の高さが低くなるように弾性強度が設定されている。したがって、カバー12および蛇腹部31のばね定数は、60N/cm程度のものである。なお、負荷および収縮量は、約30Kgfおよび5cmに限られず、適宜、最適値が選択される。
【0037】
そして、カバー12および蛇腹部31は、圧迫が解除されると、自己の復帰力(N)により、元の形状に速やかに弾性復帰する。カバー12および蛇腹部31は、カバー12の胸骨部分を心臓マッサージ練習器具10の使用者により押す練習が行われたときに、1分間に100回~120回程度の圧迫回数が得られるように弾性力が設定されている。
【0038】
上端面部32は、
図2、
図5および
図6に示すように、蛇腹部31の取付部31aが挿入される挿入部32aと、ベルトファスナー16を通す一対のベルトガイド部32bと、第1の面ファスナー13を固定させるファスナー固定部32cとを有している。上端面部32は、一対の第1の面ファスナー13によりカバー12の内壁面に着脱可能に固定されており、カバー12が圧迫されて弾性変形すると、カバー12と一体に下方に移動して蛇腹部31を収縮させ、カバー12が圧迫解除されて弾性復帰すると、カバー12と一体に上方に移動して蛇腹部31を伸長させる。
【0039】
下端面部33は、
図2、
図5、
図6および
図7に示すように、蛇腹部31の取付部31bが挿入される挿入部33aと、第1の吸入弁22および排出弁23を取り付ける取付部33bとを有している。取付部33bには、貫通孔33d、33eが形成されており、貫通孔33eには、第1の吸入弁22の取付部41aが挿入され、貫通孔33dには、排出弁23の取付部43aが挿入されて、それぞれシールされた状態で固定されている。下端面部33には、中心部を貫通する貫通孔33cが形成されている。下端面部33の貫通孔33cには、第2の吸入弁24の接続部46bが挿入されてシールされた状態で固定されている。
【0040】
下端面部33の下には、スペーサ34が設けられている。スペーサ34は、
図2、
図5および
図6に示すように、下端面部33と固定プレート14との間に介在されており、下端面部33に当接する当接面34aと、固定プレート14に当接する当接面34bとを有している。そして、スペーサ34の側面側には貫通孔34cが形成され、中央部には貫通孔34dが形成されている。貫通孔34cには、模擬気管27が通され、貫通孔34dには第2の吸入弁24の接続部46bが挿入されて固定されている。
【0041】
第1の吸入弁22は、ポンプ本体21が伸長するときに発生するポンプ室21aの負圧により開放されてポンプ室21aとポンプ本体21の外部との間を連通してポンプ本体21の外部からポンプ室21aに液体を吸入可能にする構成を有する。第1の吸入弁22は、
図7(a)に示すように、内部に貫通した流路22aを有するバルブケース41と、流路22aを開閉する弁体42とを有している。
【0042】
バルブケース41は、ポンプ本体21の下端面部33に取り付ける取付部41aと、模擬静脈管25を接続する接続部41bとを有している。弁体42は、
図7(a)の上側の図に示すように、取付部41a側から接続部41b側に向かって(
図7(a)の左側から右側に向かって)空気または液体Wが流れてきた場合に流路22aを閉塞し、
図7(a)の下側の図に示すように、接続部41b側から取付部41a側に向かって(
図7(a)の右側から左側に向かって)液体Wが流れてきた場合に流路22aを開放する。
【0043】
排出弁23は、ポンプ本体21が収縮するときに発生するポンプ室21aの正圧により開放されてポンプ室21aとポンプ本体21の外部との間を連通してポンプ室21a内の液体W及び空気の少なくとも一方を外部に排出可能にする構成を有する。排出弁23は、
図7(b)に示すように、内部に貫通した流路23aを有するバルブケース43と、流路23aを開閉する弁体44とを有している。
【0044】
バルブケース43は、ポンプ本体21の下端面部33に取り付ける取付部43aと、模擬動脈管26を接続する接続部43bとを有している。弁体44は、
図7(b)の上側の図に示すように、取付部43a側から接続部43b側に向かって(
図7(b)の左側から右側に向かって)空気または液体Wが流れてきた場合に流路23aを開放し、
図7(b)の下側の図に示すように、接続部43b側から取付部43a側に向かって(
図7(b)の右側から左側に向かって)空気または液体Wが流れてきた場合に流路23aを閉塞する。
【0045】
第2の吸入弁24は、ポンプ本体21が伸長するときに発生するポンプ室21aの負圧により開放されてポンプ室21aとポンプ本体21の外部との間を連通してポンプ本体21の外部からポンプ室21aに空気を吸入可能にする構成を有する。第2の吸入弁24は、
図7(c)に示すように、内部に貫通した流路24aを有するバルブケース46と、流路24aを開閉する弁体47とを有している。
【0046】
バルブケース46は、下端面部33の貫通孔33cとスペーサ34の貫通孔34dに挿通されてスペーサ34内に突出し、スペーサ34内で模擬気管27に接続される接続部46bと、接続部46bの端部で拡径されて下端面部33に取り付けられるフランジ部46aとを有している。弁体47は、
図7(c)の左側の図に示すように、接続部46b側からフランジ部46a側に向かって(
図7(c)の下側から上側に向かって)空気が流れてきた場合に流路24aを開放し、
図7(c)の右側の図に示すように、フランジ部46a側から接続部46b側に向かって(
図7(c)の上側から下側に向かって)空気または液体Wが流れてきた場合に流路23aを閉塞する。
【0047】
模擬静脈管25は、透明または半透明の合成樹脂からなる所定の長さの柔軟性のあるチューブで形成されており、内部に空気または液体Wを流通させる流路25aを有している。模擬静脈管25は、両端部で開口しており一端が吸入弁22の接続部41bに接続され、他端が開口端となっている。模擬静脈管25の他端は、
図1に示すように、第1の容器51内に貯留されている液体Wに浸漬される。
【0048】
模擬動脈管26は、模擬静脈管25と同様に、透明または半透明の合成樹脂からなる所定の長さの柔軟性のあるチューブで形成されており、内部に空気または液体Wを流通させる流路26aを有している。模擬動脈管26は、両端部で開口しており一端が排出弁23の接続部43bに接続され、他端が開口端となっている。模擬動脈管26の他端は、
図1に示すように、第2の容器52内に配置される。
【0049】
模擬気管27は、合成樹脂からなる所定の長さの柔軟性のあるチューブで形成されており、内部に空気を流通させる流路27aを有している。模擬気管27は、両端部で開口しており一端が第2の吸入弁24の接続部46に接続され、他端が開口端となっている。模擬気管27の開口端27bは、第2の心肺蘇生補助器具である抵抗弁28(
図10を参照)を接続可能にする接続部としても機能する。
【0050】
カバー12は、圧迫により弾性変形してポンプ本体21を収縮させ、圧迫解除により弾性復帰してポンプ本体21を伸長させる弾性部材により形成されている。カバー12は、
図1、
図2および
図4に示すように、例えば透明または半透明の合成樹脂からなる板状部材を立体的に成形することにより構成されており、人体の胸部を模した滑らかな形状を有している。
【0051】
カバー12は、カバー12の上面で且つ胸骨部分の中央下部3分の1の位置に相当する部分に平坦に形成された平坦部12aを有している。カバー12は、心臓マッサージ練習器具10の使用者が両手で平坦部12aを押し下げて圧迫した場合に弾性変形して押す力に応じた所定の距離だけ沈み込み、圧迫解除により弾性復帰する剛性および弾性力を有している。平坦部12aは、ポンプ本体21の上端面部32と対向する位置に配置されており、例えばカーディオポンプなどのカバー12の圧迫と引き上げを行うための第1の心肺蘇生補助器具を装着可能にする装着部として機能する。平坦部12aは、例えばカーディオポンプの吸盤を吸着可能な円滑な面を有している。
【0052】
カバー12の外縁には、全周に亘ってベースプレート17に当接するように、所定幅(mm)で平坦に形成された縁部12bが設けられている。また、カバー12の側面には、模擬静脈管25を通す貫通孔12cと、模擬動脈管26を通す貫通孔12dと、模擬気管27を通す貫通孔12eが設けられている。
【0053】
カバー12の内壁面でかつ平坦部12aと対向する部位には、ポンプ本体21の上端面部32が一対の第1の面ファスナー13によって着脱自在に固定されている。一対の第1の面ファスナー13は、
図1、
図5および
図6に示すように、四隅が面取りされた方形で、所定の厚みを有する面圧着部材からなる。一対の第1の面ファスナー13は、フック上に起毛された側と、ループ状に密集して起毛された側とを押し付けることにより貼り付くように構成されており、着脱自在に締結される。
【0054】
一対の第1の面ファスナー13のうち一方の第1の面ファスナー13が心臓ポンプ11の上端面部32に固着され、他方の第1の面ファスナー13がカバー12の内壁面に固着されており、カバー12と上端面部32とを着脱自在に固定している。第1の面ファスナー13としては、例えば、マジックテープ(株式会社クラレの登録商標)や、ベルクロ(ビーブイビーエー社の登録商標)が挙げられる。
【0055】
固定プレート14は、
図2、
図5および
図6に示すように、方形で所定の厚みを有するガラス、木材、合成樹脂または金属からなる板によって構成されている。固定プレート14の上面には、ポンプ本体21のスペーサ34が当接される。固定プレート14は、一対の第2の面ファスナー15によってベースプレート17に着脱可能に固定される。
【0056】
一対の第2の面ファスナー15は、
図2、
図3および
図5に示すように、方形で、所定の厚みを有する面圧着部材からなる。一対の第2の面ファスナー15は、第1の面ファスナー13と同様に、フック上に起毛された側と、ループ状に密集して起毛された側とを押し付けることにより貼り付くように構成されており、互いに着脱自在に固定される。
【0057】
一対の第2の面ファスナー15のうち一方の第2の面ファスナー15は、
図2に示すように、固定プレート14の下面に固着され、他方の第2の面ファスナー15は、
図3に示すように、ベースプレート17の上面に固着されている。第2の面ファスナー15としては、第1の面ファスナー13と同様に、マジックテープ(株式会社クラレの登録商標)や、ベルクロ(ビーブイビーエー社の登録商標)が挙げられる。
【0058】
ポンプ本体21は、
図2、
図5および
図6に示すように、ベルトファスナー16によって固定プレート14に一体的に固定される。ベルトファスナー16は、所定の幅で、所定の厚みを有する帯状の面圧着部材からなる。ベルトファスナー16は、第1の面ファスナー13と同様に、フック上に起毛された側と、ループ状に密集して起毛された側とを押し付けることにより貼り付くように構成されており、互いに着脱自在に固定される。
【0059】
ベルトファスナー16は、
図2および
図5に示すように、上端面部32の一対のベルトガイド部32bに通し、固定プレート14とベースプレート17との間を通し、両端部がオーバーラップした部分で、貼り付けられることにより、ポンプ本体21を固定プレート14に着脱自在に固定し、一体化させる。
【0060】
ベルトファスナー16は、カバー12とポンプ本体21の圧迫により弛んで蛇腹部31の収縮を許容する一方、圧迫解除により蛇腹部31が伸長した際に所定長さ以上伸長しないように制限する機能を有する。ベルトファスナー16は、本実施形態では、カバー12が押されていない状態でカバー12の内壁面に上端面部32が当接する長さに調整されている。ベルトファスナー16として、第1の面ファスナー13と同様に、マジックテープ(株式会社クラレの登録商標)や、ベルクロ(ビーブイビーエー社の登録商標)が挙げられる。
【0061】
ベースプレート17は、
図1、
図3、
図4および
図5に示すように、方形で所定の厚みを有する木材、合成樹脂または金属からなる板で構成されている。ベースプレート17の上面には、一対の第2の面ファスナー15のうちの他方の第2の面ファスナー15が固着されており、他方の第2の面ファスナー15を介して心臓ポンプ11がベースプレート17の上面に着脱自在に装着される。ベースプレート17は、心臓マッサージ練習器具10を使用する者が簡単に運搬できる程度の大きさおよび重さを有している。
【0062】
次いで、本実施形態に係る心臓マッサージ練習器具10の動作について図面を参照して説明する。なお、心臓マッサージ練習器具10の心臓ポンプ11の動作を説明する便宜上、
図8(a)~
図8(d)では、第1の吸入弁22が、排出弁23の上部に位置するように図示している。第1の吸入弁22が、排出弁23の上部に位置しても、両者は、第1の吸入弁22が、排出弁23の横に位置した場合と同様に機能する。
【0063】
本実施形態に係る心臓マッサージ練習器具10による練習においては、
図8(a)に示す初期状態、即ち、練習のために、心臓マッサージ練習器具10を最初にセットした状態から練習が開始される。心臓マッサージ練習器具10の近傍には、人体の血液を模した液体W、例えば水が満たされた第1の容器51が配置され、模擬静脈管25の開口端が液体Wの中に浸漬される。
【0064】
また、第1の容器51の近傍には、第2の容器52が空の状態で載置され、模擬静脈管25の開口端が第2の容器52の中に挿入される。この初期状態では、第1の吸入弁22、第2の吸入弁24および排出弁23は閉じた状態となっている。
【0065】
次いで、使用者によりカバー12が圧迫されて、
図8(b)に示すように、ポンプ本体21が収縮し、ポンプ本体21のポンプ室21a内が正圧となると、ポンプ室21a内の空気が、排出弁23から排出され、模擬動脈管26を通って開口端から第2の容器52内に排出される。このとき、第1の吸入弁22および第2の吸入弁24は閉じた状態となり、排出弁23は開いた状態となっている。
【0066】
次いで、使用者によるカバー12の圧迫が解除されて、
図8(c)に示すように、ポンプ本体21が伸長し、ポンプ本体21のポンプ室21a内が負圧となると、模擬静脈管25の開口端から第1の容器51内の液体Wが吸入され、模擬静脈管25を通過して第1の吸入弁22からポンプ室21a内に流入する。そして、同時に、外部の空気が模擬気管27を通って、第2の吸入弁24からポンプ室21a内に流入する。このとき、第1の吸入弁22および第2の吸入弁24は開いた状態となり、排出弁23は閉じた状態となっている。
【0067】
使用者によるカバー12への圧迫が解除されて、第1の吸入弁22からポンプ室21a内に液体Wが吸入される動作と、第2の吸入弁24からポンプ室21a内に空気が吸入される動作は、心臓マッサージ練習方法における吸入工程に対応する。
【0068】
次いで、再び使用者によりカバー12が圧迫されて、
図8(d)に示すように、ポンプ本体21が収縮し、ポンプ本体21のポンプ室21a内が正圧となると、ポンプ室21a内の空気と液体Wの少なくとも一方が排出弁23から排出され、模擬動脈管26を通って開口端から第2の容器52内に排出される。このとき、第1の吸入弁22および第2の吸入弁24は閉じた状態となり、排出弁23は開いた状態となっている。
【0069】
使用者によりカバー12が圧迫されて、排出弁23からポンプ室21a内の空気および液体Wの少なくとも一方が排出され、模擬動脈管26を通って開口端から第2の容器52内に排出される動作は、心臓マッサージ練習方法における排出工程に対応する。
【0070】
次に、本実施形態に係る心臓マッサージ練習器具10の作用効果について説明する。
【0071】
心臓マッサージ練習器具10は、伸縮自在のポンプ本体21に形成されたポンプ室21aと、ポンプ室21aに液体Wを吸入する第1の吸入弁22と、ポンプ室21aに空気を吸入する第2の吸入弁24と、ポンプ室21a内の空気および液体Wの少なくとも一方を排出する排出弁23とを有している。
【0072】
したがって、心臓マッサージ練習器具10の使用者が、カバー12を圧迫することでポンプ本体21が収縮し、ポンプ本体21のポンプ室21aが正圧となり、ポンプ本体21のポンプ室21aの空気または液体の少なくとも一方が排出弁23から排出される(排出工程)。そして、カバー12の圧迫解除により、ポンプ本体21が伸長し、ポンプ本体21のポンプ室21aが負圧となり、第1の吸入弁22および第2の吸入弁24から液体Wと空気がポンプ本体21内に吸入される(吸入工程)。つまり、圧迫と解除により第1の吸入弁22を通してポンプ本体21の外部からポンプ室21aに液体Wが吸入されるとともに、第2の吸入弁24を通してポンプ本体21の外部からポンプ室21aに空気が吸入される。
【0073】
心臓マッサージ練習器具10は、外部からポンプ室21aに液体を吸入する第1の吸入弁22に加えて、外部からポンプ室21aに空気を吸入する第2の吸入弁が設けられており、吸入工程の際に、第1の吸入弁22および第2の吸入弁24から液体Wと空気の両方をポンプ室21a内に吸入することができる。
【0074】
例えば実際の人体に対する心臓マッサージでは、外部から胸骨を圧迫することによって心臓を圧迫するが、同時に呼吸器官である肺などの心臓の周囲に存在する他の胸郭内臓物も圧迫される。特に肺の中の空気は、胸骨を圧迫する際の緩衝材となり、圧迫による心臓の収縮を妨げるように作用する。したがって、実際の心臓マッサージでは、肺の中に残っている空気の量や、心臓マッサージによって同時に肺に取り込まれる空気の量に応じて、心臓から送り出すことができる血液量が変化する。
【0075】
心臓マッサージ練習器具10によれば、吸入工程の際に、第1の吸入弁22および第2の吸入弁24から液体Wと空気の両方がポンプ本体21内に吸入されるので、肺などの心臓以外の胸郭内蔵物を考慮した実際の人体の状態と同様の状態を擬似的に作り出すことができ、心臓マッサージ練習器具10の使用者は、人体に対する実際の心臓マッサージに近い感覚の心臓マッサージを体感することができ、高度な練習を行うことができる。
【0076】
心臓マッサージ練習器具10は、床面に載置されるベースプレート17と、ベースプレート17の上に配置されてベースプレート17との間にポンプ本体21を収容するカバー12と、を有し、ポンプ本体21は、ポンプ本体21の伸縮方向一方側の端部がベースプレート17に固定され、ポンプ本体21の伸縮方向他方側の端部がカバー12に固定されており、カバー12は、圧迫により弾性変形してポンプ本体21を収縮させ、圧迫解除により弾性復帰してポンプ本体21を伸長させる弾性部材により形成されている。
【0077】
したがって、圧迫によりカバー12を弾性変形させてポンプ本体21を収縮させることができ、圧迫解除によりカバー12を弾性復帰させてポンプ本体21を伸長させることができる。したがって、心臓マッサージ練習器具10の使用者は、圧迫の際にカバー12の弾性力とポンプ本体21の弾性力との共働による反発力を得ることができ、実際の心臓マッサージと同様の押す感覚を体感することができる。また、ポンプ本体21の伸縮方向一方側の端部である下端面部33がベースプレート17に固定され、ポンプ本体21の伸縮方向他方側の端部である上端面部32がカバー12に固定されているので、例えば圧迫解除によりカバー12が弾性復帰する際に、ポンプ本体21の上端面部32をカバー12によって引き上げて、ポンプ本体21を伸長する方向に付勢し、ポンプ本体21の弾性復帰を加勢することができる。
【0078】
そして、心臓マッサージ練習器具10は、カバー12が透明または半透明の弾性部材により形成されているので、心臓マッサージ練習器具10の使用者は、カバー12を圧迫したときとカバー12の圧迫を解除したときのポンプ本体21の動作を目視することができ、実際の心臓マッサージをする際の心臓の動きを容易に理解することができる。
【0079】
また、本実施形態に係る心臓マッサージ練習器具10によれば、ポンプ本体21が速やかに弾性復帰するので、1分当たりの圧迫回数が100~120程度になり液体Wの良好な送り出しができるという効果が得られる。
【0080】
心臓マッサージ練習器具10は、ポンプ本体21の伸縮方向一方側の端部である下端面部33とベースプレート17とを着脱自在に固定する第1の面ファスナー13と、ポンプ本体21の伸縮方向他方側の端部である上端面部32とカバー12とを着脱自在に固定する第2の面ファスナー15とを有しており、第1の面ファスナー13と第2の面ファスナー15により各構成要素が着脱自在に固定されているので、各構成要素を容易に分解することができ、メンテナンスなどの利便性が向上するという効果が得られる。
【0081】
心臓マッサージ練習器具10は、第1の吸入弁22には、透明または半透明の模擬静脈管25が接続され、排出弁23には、透明または半透明の模擬動脈管26が接続されている。したがって、心臓マッサージ練習器具10の使用者は、吸入や排出における液体Wの動きを透明または半透明の模擬静脈管25および模擬動脈管26の外側から目視することができ、使用者の動作と液体の動きとの関係を容易に把握することができ、心臓マッサージの練習の効果を向上させることができる。
【0082】
本実施形態に係る心臓マッサージ練習方法は、心臓マッサージ練習器具10を用いて心臓マッサージを練習する方法であって、圧迫によりポンプ本体21内の空気および液体の少なくとも一方を排出させる排出工程と、圧迫解除によりポンプ本体21のポンプ室21a内に液体Wと空気の両方を吸入させる吸入工程と交互に行う。
【0083】
本実施形態に係る心臓マッサージ練習方法によれば、心臓マッサージ練習器具10の使用者は、排出工程と吸入工程とを交互に行うことによって、ポンプ本体21の動きや液体の動きを目視することができる。そして、吸入工程の際に、第1の吸入弁22および第2の吸入弁24から液体Wと空気の両方がポンプ本体21内に吸入されるので、肺などの心臓以外の胸郭内蔵物を考慮した実際の人体の状態と同様の状態を擬似的に作り出すことができ、心臓マッサージ練習器具10の使用者は、人体に対する実際の心臓マッサージに近い感覚の心臓マッサージを体感することができ、高度な練習を行うことができる。
【0084】
本実施形態に係る他の実施例として、心臓マッサージ練習器具10に種々の心肺蘇生補助器具を使用することもできる。例えば、
図9に示すように、カバー12の平坦部12aに、実際に人体の心臓マッサージで使用されるカーディオポンプP(第1の心肺蘇生補助器具)を装着して使用することができる。
【0085】
カーディオポンプPは、胸部に吸着させて圧迫と引き上げを行う器具であり、
図9に示すように、吸盤部Kと、円盤部Eと、吸盤部Kと円盤部Eとを連結する連結部Rとを有している。カーディオポンプPは、心臓マッサージを行う場合に、吸盤部Kを人体の胸部に吸着し、円盤部Eを押し下げることで胸骨を圧迫し、さらに円盤部Eを引き上げて胸腔内を陰圧にして心臓内に静脈から還流する血液の量を増大させるようにして使用される。このような圧迫と引き上げとを繰り返し、心拍出量を増大する機能を有している。
【0086】
カーディオポンプPは、
図10に示すように、吸盤部Kをカバー12の平坦部12aに吸着し、カバー12に対して圧迫と、引き上げを繰り返して行う。吸盤部Kでカバー12を引き上げても、
図5に示すように、ポンプ本体21が、ベルトファスナー16で一体化されるとともに、第2の面ファスナー15でベースプレート17と一体化され、さらに、ポンプ本体21とカバー12が第1の面ファスナー13で一体化されているので、ポンプ本体21がベースプレート17から離脱することはない。
【0087】
したがって、吸盤部Kでカバー12を引き上げることにより、カバー12およびポンプ本体21の蛇腹部31を圧迫された状態から、圧迫されていない状態に強制的に復帰させることができ、心臓マッサージ練習器具10を使用した練習と、カーディオポンプPを使用した練習とを同時に行うことができる。
【0088】
心臓マッサージ練習器具10のカバー12の上面で且つポンプ本体21の上端面部32と対向する位置に平坦部12aが設けられており、カーディオポンプPを装着可能にするための装着部として機能するようになっている。この平坦部12aに、カーディオポンプPを取り付けて圧迫し、圧迫解除する際に引き上げることにより、ポンプ本体21を強制的に伸長させることができる。心臓マッサージ練習器具10にカーディオポンプPを使用した場合、より多くの液体Wをより速くポンプ室21aに吸入させることができ、カーディオポンプPの効果を実感でき、カーディオポンプPの使用方法を効率よく習得することができる。
【0089】
また、心肺蘇生補助器具として、例えば、人体の心臓マッサージを実施しているときに気道から肺への空気の吸入量を制限する抵抗弁28(第2の心肺蘇生補助器具)を、心臓マッサージ練習器具10に使用することもできる。抵抗弁28は、
図10に示すように、模擬気管27の開口端27bに接続される。
【0090】
抵抗弁28は、模擬気管27の流路27aと第2の吸入弁24を通過してポンプ本体21の外部からポンプ室21aに吸入される空気の吸入量を調整する機能を有しており、例えば人体の口腔に装着して心肺蘇生時、いわゆるCPR時の静脈還流量と心拍出量、および胸腔内圧の陰圧を増加させることができる吸気時空気抵抗弁装置(ITD)であってもよい。
【0091】
抵抗弁28を模擬気管27の開口端27bに接続した状態で心臓マッサージ練習器具10に対して心臓マッサージの動作を行った場合、抵抗弁28を接続していないときと比較して、第2の吸入弁24を通過してポンプ室21aに流入する空気の量が減り、第1の吸入弁22を通過してポンプ室21aに流入する液体Wの量が増加し、より多くの液体Wをポンプ室21aに吸入させて排出させることができる。したがって、抵抗弁28を用いて実際の人体への心臓マッサージにおいて肺に入り込む空気の量を制限した状態を擬似的に作り出すことができ、抵抗弁28の効果を実感でき、抵抗弁28の使用方法を効率よく習得することができる。
【0092】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0093】
10・・・心臓マッサージ練習器具
11・・・心臓ポンプ
12・・・カバー
12a・・・平坦部
12b・・・縁部
13・・・第1の面ファスナー
14・・・固定プレート
15・・・第2の面ファスナー
16・・・ファスナー
17・・・ベースプレート
21・・・ポンプ本体
21a・・・ポンプ室
22・・・第1の吸入弁
23・・・排出弁
24・・・第2の吸入弁
25・・・模擬静脈管
26・・・模擬動脈管
27・・・模擬気管
28・・・第2の心肺蘇生補助器具
31・・・蛇腹部(中空弾性体)
32・・・上端面部
32a、33a・・・挿入部
33・・・下端面部
34・・・スペーサ
41、43、46・・・バルブケース
42、44、47・・・弁体
W・・・液体
P・・・カーディオポンプ(第1の心肺蘇生補助器具)