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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】レーザ加工システム及び計測装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20230622BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B23K26/00 P
G01B11/00 G
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019147294
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028072
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-04-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム「異種材料のレーザ接合を実現するマイクロライダーによるレーザ加工システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】310001230
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックスプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博
(72)【発明者】
【氏名】石井 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】芦田 洋三
(72)【発明者】
【氏名】野村 涼
(72)【発明者】
【氏名】出口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳子
(72)【発明者】
【氏名】金森 雅和
(72)【発明者】
【氏名】藤田 拓馬
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-236196(JP,A)
【文献】特開2008-002815(JP,A)
【文献】特開2017-131904(JP,A)
【文献】特開2016-120506(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0086932(US,A1)
【文献】特開2008-008842(JP,A)
【文献】特開2016-135492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を加工対象に照射するレーザ加工装置と、
予め設定された基準位置とレーザ加工中の前記加工対象との間の距離を測定する計測装置と、
前記計測装置の測定結果に基づいて前記レーザ加工装置を制御する制御装置と、を具備するレーザ加工システムであって、
前記計測装置は、
前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、
前記パルス光をチャープさせる第1分散性媒質と、
チャープさせられた前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、
前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、
前記合波光を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、
前記加工対象に向かう前記第2分岐光を前記加工対象上の所望の位置に走査させる走査機構と、
を含むことを特徴とするレーザ加工システム。
【請求項2】
前記計測装置は、前記合波光をチャープさせる第2分散性媒質を更に含み、
前記検出器は、チャープさせられた前記合波光を検出すること、
を特徴とする請求項1に記載のレーザ加工システム。
【請求項3】
レーザ光を加工対象に照射するレーザ加工装置と、
予め設定された基準位置とレーザ加工中の前記加工対象との間の距離を測定する計測装置と、
前記計測装置の測定結果に基づいて前記レーザ加工装置を制御する制御装置と、を具備するレーザ加工システムであって、
前記計測装置は、
前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、
前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、
前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、
前記合波光をチャープさせる分散性媒質と、
チャープさせられた前記合波光を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、
を含むことを特徴とするレーザ加工システム。
【請求項4】
前記光源は、前記パルス光を10MHz以上の繰り返し周波数で出力すること、
を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項5】
前記演算部は、前記検出結果に対して位相解析を実行し、当該位相解析の結果に基づいて前記距離を算出すること、
を特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記計測装置の測定結果を予め設定された目標値と比較し、比較結果に基づいて、前記レーザ光の出力、入射角、デフォーカス量及び照射位置、加工速度、並びにシールドガスの供給のうち少なくとも1つを調整すること、
を特徴とする請求項1~のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項7】
前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象を溶接するレーザ溶接装置であり、
前記計測装置は、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における溶融池の形状を算出すること、
を特徴とする請求項1~のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項8】
前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象を切断するレーザ切断装置であり、
前記計測装置は、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における切断形状を算出すること、
を特徴とする請求項1~のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項9】
前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象にレーザアブレーション加工を施すレーザアブレーション装置であり、
前記計測装置は、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における加工形状を算出すこと、
を特徴とする請求項1~のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項10】
前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象に肉盛加工を施すレーザクラッディング装置であり、
前記計測装置は、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における加工形状を算出すること、
を特徴とする請求項1~のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項11】
前記レーザ加工装置は、減圧雰囲気下で前記レーザ光を前記加工対象に照射すること、
を特徴とする請求項1~1のいずれかに記載のレーザ加工システム。
【請求項12】
予め設定された基準位置と、レーザ光の照射によるレーザ加工中の加工対象との間の距離を測定する計測装置であって、
前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、
前記パルス光をチャープさせる第1分散性媒質と、
チャープさせられた前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、
前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、
前記合波光を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、
前記加工対象に向かう前記第2分岐光を前記加工対象上の所望の位置に走査させる走査機構と、
を含むことを特徴とする計測装置。
【請求項13】
前記計測装置は、前記合波光をチャープさせる第2分散性媒質を更に含み、
前記検出器は、チャープさせられた前記合波光を検出すること、
を特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項14】
予め設定された基準位置と、レーザ光の照射によるレーザ加工中の加工対象との間の距離を測定する計測装置であって、
前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、
前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、
前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、
前記合波光をチャープさせる分散性媒質と、
チャープさせられた前記合波光を検出する検出器と、
前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、
を含むことを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工システム及び計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工中の加工対象を観測する技術として、光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)が知られている。中でも、現在製品化されている観測装置では、フーリエドメイン方式(FD-OCT)に属するスペクトルドメイン干渉計(SD-OCT)又は波長掃引型干渉計(SS-OCT)が利用されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-538134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーザ加工の一種であるレーザ溶接では、経験則による溶接条件の設定が行われているのが現状であり、溶接品質のモニタリングやトレーサビリティの観点からは十分とは言えない。特に、アルミ合金と鋼板、銅とアルミのような異種材料間の溶接では、品質の安定化のために金属間化合物層の厚みをミクロン単位で把握及び制御する必要がある。また、レーザ溶接以外のレーザ加工においても、加工品質の更なる向上のためには、更に精緻な計測及び制御技術が求められる。
【0005】
しかしながら、従来方式では、サンプリング周波数の上限はせいぜい250kHz程度であり、レーザ加工中の加工対象の高精度の観測及び制御に十分に対応しているとは言えない。
【0006】
そこで、本発明は、レーザ加工中の加工対象の状態を高精度に観測及び制御することができるレーザ加工システム及び計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決すべく、本発明の第1の態様は、レーザ光を加工対象に照射するレーザ加工装置と、予め設定された基準位置とレーザ加工中の前記加工対象との間の距離を測定する計測装置と、前記計測装置の測定結果に基づいて前記レーザ加工装置を制御する制御装置と、を具備するレーザ加工システムであって、前記計測装置は、前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、前記パルス光をチャープさせる第1分散性媒質と、チャープさせられた前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、前記合波光を検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、を含むことを特徴とするレーザ加工システムを提供する。
例えば、前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象を溶接するレーザ溶接装置であり、前記計測装置が、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における溶融池の形状を算出してもよい。あるいは、前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象を切断するレーザ切断装置であり、前記計測装置は、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における切断形状を算出してもよい。あるいは、前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象にレーザアブレーション加工を施すレーザアブレーション装置であり、前記計測装置は、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における加工形状を算出してもよい。あるいは、前記レーザ加工装置は、前記レーザ光で前記加工対象に肉盛加工を施すレーザクラッディング装置であり、前記計測装置は、測定した前記距離に基づいて前記加工対象における加工形状を算出してもよい。
【0008】
上記のような構成を有する本発明のレーザ加工システムでは、前記計測装置は、前記合波光をチャープさせる第2分散性媒質を更に含み、
前記検出器は、チャープさせられた前記合波光を検出することが好ましい。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、レーザ光を加工対象に照射するレーザ加工装置と、予め設定された基準位置とレーザ加工中の前記加工対象との間の距離を測定する計測装置と、前記計測装置の測定結果に基づいて前記レーザ加工装置を制御する制御装置と、を具備するレーザ加工システムであって、前記計測装置は、前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、前記合波光をチャープさせる分散性媒質と、チャープさせられた前記合波光を検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、を含むことを特徴とするレーザ加工システムを提供する。
【0010】
また、上記のような構成を有する本発明のレーザ加工システムでは、前記光源が、前記パルス光を10MHz以上の繰り返し周波数で出力することが好ましい。
【0011】
また、上記のような構成を有する本発明のレーザ加工システムでは、前記演算部が、前記検出結果に対して位相解析を実行し、当該位相解析の結果に基づいて前記距離を算出することが好ましい。
【0012】
また、上記のような構成を有する本発明のレーザ加工システムでは、前記計測装置が、前記加工対象に向かう前記第2分岐光を前記加工対象上の所望の位置に走査させる走査機構を更に含むことが好ましい。
【0013】
また、上記のような構成を有する本発明のレーザ加工システムでは、前記制御装置が、前記計測装置の測定結果を予め設定された目標値と比較し、比較結果に基づいて、前記レーザ光の出力、入射角、デフォーカス量及び照射位置、加工速度、並びにシールドガスの供給のうち少なくとも1つを調整することが好ましい。
【0014】
また、上記のような構成を有する本発明のレーザ加工システムでは、前記レーザ加工装置が、減圧雰囲気下で前記レーザ光を前記加工対象に照射することが好ましい。
【0015】
また、本発明の第3の態様は、予め設定された基準位置とレーザ加工中の加工対象との間の距離を測定する計測装置であって、前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、前記パルス光をチャープさせる第1分散性媒質と、チャープさせられた前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、前記合波光を検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、を含むことを特徴とする計測装置を提供する。
【0016】
また、上記のような構成を有する本発明の計測装置は、前記合波光をチャープさせる第2分散性媒質を更に含み、前記検出器が、チャープさせられた前記合波光を検出することが好ましい。
【0017】
また、本発明の第4の態様は、予め設定された基準位置とレーザ加工中の加工対象との間の距離を測定する計測装置であって、前記レーザ光とは異なる波長域のパルス光を出射する光源と、前記パルス光を、参照ミラーに向かう第1分岐光及び前記加工対象に向かう第2分岐光に分割する分割部と、前記参照ミラーで反射された前記第1分岐光及び前記加工対象で反射された前記第2分岐光を重ね合わせて合波光を生成する合波部と、前記合波光をチャープさせる分散性媒質と、チャープさせられた前記合波光を検出する検出器と、前記検出器の検出結果に基づいて前記距離を算出する演算部と、を含むことを特徴とする計測装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザ加工中の加工対象の状態を高精度に観測及び制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るレーザ加工システム1の概略図である。
図2】レーザ加工の一例としてのレーザ溶接におけるヘッド13及び加工対象70の模式図である。
図3】溶接中の加工対象70の概略を示す上面図及び断面図である。
図4】レーザ加工システム1の機能ブロック図である。
図5】第1実施形態に係る計測装置30の概略図である。
図6】第2実施形態に係る計測装置130の概略図である。
図7】第3実施形態に係る計測装置230の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の代表的な実施形態に係るレーザ加工システムを、図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、本発明はこれら図面に限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。図面において、同一又は対応する部材には共通の符号を付し、重複する説明を省略することとする。
【0021】
1.第1実施形態
1-1.レーザ加工システムの全体構成
図1に示すように、レーザ加工システム1は、加工対象70(ワーク)にレーザ加工を施すためのシステムであり、レーザ加工装置10、計測装置(測定装置)30及び制御装置50を含む。
【0022】
本実施形態では、レーザ加工システム1としてレーザ溶接システムを想定しているが、これに限られない。また、本実施形態では、異種金属の重ね溶接を想定しているが、本発明はこれに限られず、突合せ溶接にも適用することができる。図2及び図3に示すように、加工対象70は板材71,72を含み、加工対象70には加工ヘッド13からレーザ光Lが照射されて溶融池73が形成されている。溶融池73は、キーホール81を含むとともに、溶接方向(X軸正方向)の後方では固化して溶接部74となる。
【0023】
ここで、キーホール81における溶接方向の前面をキーホール前壁82と言い、キーホールにおけるもっとも深い(Z軸負方向)箇所をキーホール底面83と言う。また、キーホール深さDは、板材72の表面とキーホール底面83との間の距離を指す。発明者らは、キーホール81の入口の形状、キーホール前壁82及びキーホール底面83(又はキーホール深さD)の挙動の大きさは、溶接の品質と密接に関連し得ることを見い出し、これら要素の変動を許容範囲に抑える(つまり安定化させる)ことが溶接の品質の向上に資すると考えた。具体的な手法については追って述べることとする。
【0024】
各構成要素の説明に移ると、レーザ加工装置10は、レーザ光Lを加工対象70に照射することで、加工対象70に所望の加工を施す(図1及び図2参照)。ここでは、レーザ加工装置10の一例としてレーザ溶接装置を挙げるが、本発明はこれに限られない。
【0025】
レーザ溶接装置としてのレーザ加工装置10は、レーザ発振器11、加工ヘッド13、及び、加工対象70を仮固定する治具(図示せず)を含む。具体的には、レーザ発振器11は、所定の波長及び出力を有するレーザ光Lを発生させ、加工ヘッド13に出力する。一例として、レーザ光Lの波長域は1,070nmであり、出力は0.1kW~8kWである。加工ヘッド13は、レーザ光Lを加工対象70に向けて照射するものであり、図示しない走査機構及び焦点調節機構を含む。
【0026】
レーザ加工装置10は、減圧雰囲気下でレーザ光Lを加工対象70に照射することとしてもよい。この場合、レーザ加工装置10は、図示しないチャンバ、減圧機構、シールドガス供給機構などを有することになる。
【0027】
次いで、計測装置30は、計測用レーザ光PLを加工対象70に照射することで、予め設定された基準位置とレーザ加工中の加工対象70との間の距離を測定する(図2参照)。例えばレーザ加工装置10がレーザ溶接装置であるとき、計測装置30は、上述した距離の測定結果に基づいて、加工対象70における溶融池73(キーホール81を含む)の形状を算出することができる。計測装置30の詳細は追って述べる。
【0028】
制御装置50は、計測装置30の測定結果に基づいてレーザ加工装置10を制御する。例えば、制御装置50は、計測装置30の測定結果を予め設定された目標値と比較し、比較結果に基づいて、レーザ光Lの出力、入射角、デフォーカス量及び照射位置、加工速度、シールドガスの供給などを調整することができる。ここで、目標値としては、例えば、キーホール81の入口の形状、キーホール前壁82、キーホール底面83、キーホール深さDなどが挙げられ、ユーザは、図示しない入力装置を介して、これら要素のうち少なくとも1つを指定することができ、あるいは、目標値は自動的に設定されてもよい。
【0029】
制御装置50は、CPU51、RAM53及びROM55を含むコンピュータとして構成することができ、CPU51が、ROM55に記憶された所定の実行プログラムをRAM53に読み出して実行することで、制御装置50としての各種機能が実現される。
【0030】
なお、レーザ加工装置10、計測装置30及び制御装置50は、それぞれ独立していてもよいし、いずれかの装置(又はその一部分)と組み合わされてもよい。また、レーザ加工装置10、計測装置30及び制御装置50は、それぞれ、複数のサブユニットに分割されてもよい。
【0031】
1-2.計測装置の詳細
図4及び図5に示すように、計測装置30は、光源31、分割部33、走査機構35、合波部37、分散性媒質39、検出器41及び演算部43を含む。ここで、分散性媒質39は、分散性媒質39A(第1分散性媒体)及び分散性媒質39B(第2分散性媒体)の総称である。
【0032】
光源31は、レーザ光Lとは異なる波長域のパルス光(パルスレーザ光)Pを出射する。深さ方向にミクロンオーダーの分解能を得る観点から、また、必要な測長距離(例えば5mm~50mm)を確保する観点から、光源31は、パルス光Pを10MHz以上、中でも10MHz以上、100MHz以下の繰り返し周波数で出射することが好ましい。このとき、パルス光Pのパルス幅は100fs以上、1ps以下であることが好ましい。一例として、中心波長1,550nm、波長帯域幅10nm、パルス幅500fs、繰返し周波数28MHz、出力3mWのパルス光を用いることができる。
【0033】
図5に示すように、分散性媒質39Aは、光源31と分割部33との間に配置されて、光源31からのパルス光Pをチャープさせ、パルス幅の広いパルス光Pcを生成する。つまり、分散性媒質39Aは、後段の検出器41においてビート信号を検出できる程度にパルス光Pのパルス幅を伸長させるのである。このとき、パルス幅の広いパルス光Pcのスペクトル分布は、パルス光Pのスペクトル分布と実質的に同じである。なお、パルス幅の広いパルス光Pcは、計測に必要な出力を得るために、図示しない光増幅器によって増幅されてもよい。例えばレーザ溶接中のキーホール前壁82と溶融池73からの反射信号は弱いことから、計測に必要な信号強度を確保するべく測定光の増幅を行うとよい。
【0034】
分散性媒質39Aは、パルス光Pの波長域に対して所望の分散量を有する光ファイバにより構成することができる。例えば中心波長1,550nm、波長帯域幅10nmのパルス光を光源として用いる場合、分散性媒質39Aの分散は、500ps/nm~5,000ps/nmであることが好ましい。分散性媒質39Aとしては、長さ数kmから数十kmの光ファイバ、又は分散補償ファイバを用いることができる。
【0035】
分割部33は、チャープさせられたパルス光Pcを、参照ミラー45に向かう分岐光Pc2(第1分岐光;参照光)及び加工対象70に向かう分岐光Pc1(第2分岐光;測定光)に分割する。分割部33は、例えば光カプラとして構成することができる。ここで、参照ミラー45は、距離計測の基準位置として用いることができる。
【0036】
走査機構35は、分岐光Pc1を加工対象70上の所望の位置に走査させる。より具体的には、走査機構35は、分岐光Pc1を、加工対象70上を加工の進行方向(X軸方向)及びX軸に直交するY軸方向に走査するガルバノスキャナとして構成することができる。
【0037】
加工領域の状態を全体的に把握する観点から、走査機構35は、加工対象70におけるレーザ光Lの照射箇所を中心として例えば2mm×2mm四方~20mm×20mm四方に、分岐光Pc1を照射できることが好ましい。一例として、走査機構35は、レーザ光Lの照射点を中心として5mm×5mm四方に、分岐光Pc1を繰り返し走査することができる。
【0038】
走査機構35の走査速度は、水平方向(加工対象70に平行な平面)に十分な分解能を得る観点から、0.1m/s~20m/sであることが好ましく、更には15m/s~20m/sであることが好ましい。一例として、走査機構35の走査速度を18m/sに、サンプリング周波数を10MHzに設定すると、走査機構35は1.8μm/sの水平分解能を得ることができる。したがって、例えば加工速度が50mm/sほどであっても、加工領域の状態をリアルタイムにかつ全体的に把握することができる。
【0039】
合波部37は、参照ミラー45で反射された分岐光Pc2及び加工対象70で反射された分岐光Pc1を重ね合わせて、つまり分岐光Pc1、Pc2を干渉させて、合波光Pcb(ビート信号)を生成する。合波部37は、例えば光サーキュレータと光カプラで構成することができる。
【0040】
検出器41は、合波光Pcbを検出する。検出器41としてはフォトダイオードを用いることができる。上述のとおり合波光Pcbのパルス幅は広がっているため、例えば1GHz~50GHzの帯域のフォトダイオードで対応することができる。一例として、帯域5GHzのフォトダイオードを用いることができる。
【0041】
演算部43は、検出器41の検出結果に基づいて、加工対象70と基準位置(例えば参照ミラー45)との間の距離を算出する。かかる距離の算出のために、合波光Pcb(ビート信号)の周波数が光路長差に比例することを利用することができる。例えば、演算部43は、検出器41の検出結果に対して位相解析を実行し、当該位相解析の結果に基づいて加工対象70と基準位置との間の距離を算出することができ、深さ方向の分解能が例えばミクロンオーダーまで向上する。
【0042】
例えばレーザ溶接の場合には、演算部43は、算出した距離を、例えば溶融池73の3次元形状に変換する。そして、演算部43は、特徴量としてキーホール81の入口の形状、キーホール前壁82、キーホール底面83を検出し、これら特徴量から溶接状態を判定する。演算部43は、このような判定結果を制御装置50に送信し、制御装置50は、受信した判定結果に基づいて、例えば溶融池73の安定度及びキーホール深さ83が目標値になるように、レーザ出力やシールドガスなどの溶接条件をリアルタイムにフィードバック制御することができる。
【0043】
したがって、第1実施形態では、光源31から出射されたパルス光Pは、分散性媒質39Aを経て、パルス幅の伸長したパルス光Pcとなる。パルス光Pcは、分割部33において、参照ミラー45に向かう分岐光Pc2及び加工対象70に向かう分岐光Pc1に分割される。そして、参照ミラー45で反射された分岐光Pc2及び加工対象70で反射された分岐光Pc1は、合波部37において重ね合わされて合波光Pcbとなる。合波光Pcbは、検出器41において検出され、検出器41の検出結果は、演算部43における距離の算出に用いられる。そして、加工対象70におけるレーザ光Lの照射箇所を中心とした所定領域の立体的形状が算出されるとともに、加工の状態及び品質が判定される。
【0044】
このように、第1実施形態では、計測装置30の光源31として、10MHz以上の繰返し周波数を有する短パルスレーザ光源を使用することとしている。そして、短パルスレーザ光(P)を、長距離ファイバや分散補償ファイバなどの分散性媒質39Aに通すことにより、例えば100nm以下のパルス幅を持つチャープパルス光(Pc)を生成することとしている。チャープパルス光(Pc)は容易に増幅可能であり、必要に応じて増幅されたチャープパルス光(Pc)を計測装置30の参照光(分岐光Pc2)及び測定光(分岐光Pc1)として使用することで、パルス毎に距離計測が容易に可能となり、10MHz以上の高速サンプリングを実現している。併せて、適度なパルス幅を持つチャープパルス光により、適度な測長距離を確保することができる。
【0045】
この点、従来の光干渉計の深さ方向の最小分解能は、光源のスペクトル幅に反比例するため、光源の仕様により制限され、SD-OCT、SS-OCT共に限界がある。これに対して、第1実施形態では、合波光Pcb(ビート信号)の位相を解析することにより、上述した高速サンプリングと相まって、例えば1μm以下の高い分解能を得ることが可能となる。
【0046】
また、ガルバノスキャナなどの走査機構35により測定光Pc2を加工対象70上で走査することで、水平方向にも高速サンプリングが可能となる。例えばレーザ溶接では、キーホール81の形状を測定光の干渉限界以下の水平分解能(例えば1.8μm)で計測することが可能となる。
【0047】
このような深さ方向及び水平方向の分解能の向上により、レーザ光Lの照射点及びその周辺領域の状態をリアルタイムにかつ正確に把握することができ、その結果、レーザ加工の品質が向上する。換言すれば、急速に変化する加工領域の形状を、リアルタイムにかつ精密に3次元計測することが可能になり、信頼性の高いインプロセスモニタリングとリアルタイムフィードバックシステムを構築することができる。
【0048】
また、本実施形態では、光通信において使用される波長(1550nm)が距離計測のために採用されているため、比較的安価に構成部材を作製できるとともに、上記波長は、加工点からの発光波長と異なるため、加工点からの発光の影響を受けにくい。例えばレーザ溶接の場合、溶融池73の溶込み深さD等を正確に把握及び制御できるようになり、レーザ溶接の品質が向上するとともに、種々の板厚を有する被接合材及び異種材料等について、高品質な溶接が可能になる。また、測長距離を長くすることができるから、スキャナを利用したリモート溶接に対応可能になる。
【0049】
2.第2実施形態
次いで、第2実施形態に係るレーザ加工システムについて説明する。この実施形態に係るレーザ加工システムと第1実施形態に係るレーザ加工システム1との相違は、計測装置130にある。したがって、レーザ加工装置及び制御装置についての説明を省略し、計測装置130について説明することとする。
【0050】
図6に示すように、計測装置130は、光源31、分割部33、合波部37、分散性媒質39B、検出器41、演算部43を含む。計測装置130が第1実施形態に係る計測装置30と相違する点は、主に、分散性媒質39の配置である。すなわち、第2実施形態において、分散性媒質39Bは、合波部37と検出器41との間に配置されている。分散性媒質39Bの分散量は、第1実施形態に係る分散性媒質39Aの分散量と同じでもよいし、異なっていてもよいが、検出器41の検出性能及び演算部43の信号処理性能に応じて必要とされるパルス幅の伸長に対応する分散性能を備えているものとする。
【0051】
したがって、第2実施形態では、光源31から出射されたパルス光Pは、分割部33において、参照ミラー45に向かう分岐光P2(第1分岐光)及び加工対象70に向かう分岐光P1(第2分岐光)に分割される。そして、参照ミラー45で反射された分岐光P2及び加工対象70で反射された分岐光P1は、合波部37において重ね合わされて合波光Pbとなる。合波光Pbは、分散性媒質39Bによってチャープされ、パルス幅の広がったパルス光Pbcとなる。チャープさせられた合波光Pbcは、検出器41において検出され、検出器41の検出結果は、演算部43における距離の算出に用いられる。算出された距離は、加工領域の立体的形状の算出、更には加工品質の把握及び制御に利用される。
【0052】
第2実施形態によれば、測定に用いられる分岐光P1,P2のパルス幅が短く、1ns以下の変化を測定することができるので、超高速プロセスの瞬時計測が可能になる。また、パルス幅の広がったパルス光Pbcは、演算部43による信号処理を容易にする。その他、第1実施形態と同様に、深さ方向及び水平方向の分解能が向上する。
【0053】
3.第3実施形態
次いで、第3実施形態に係るレーザ加工システムについて説明する。この実施形態に係るレーザ加工システムと第1実施形態に係るレーザ加工システム1との相違は、計測装置230にある。したがって、レーザ加工装置及び制御装置についての説明を省略し、計測装置230について説明することとする。
【0054】
図7に示すように、計測装置230は、光源31、分割部33、合波部37、分散性媒質39A,39B、検出器41、演算部43を含む。計測装置230が第1実施形態に係る計測装置30と相違する点は、主に、分散性媒質39の配置である。第3実施形態において、分散性媒質39は2か所に配置されている。
【0055】
具体的には、分散性媒質39Aは光源31と分割部33との間に配置され、分散性媒質39Bは合波部37と検出器41との間に配置されている。分散性媒質39A,39Bの分散量は、第1実施形態に係る分散性媒質39の分散量と同じでもよいし、異なっていてもよいが、分散性媒質39A,39Bを合わせた全体で、検出器41の性能に応じて必要とされるパルス幅の伸長に対応する分散性能が満たされればよい。
【0056】
ここで、分散性媒質39Aによるチャープ量を分散性媒質39Bによるチャープ量よりも小さく設定することで、高速プロセスに対応できるとともに信号処理の帯域を下げることが可能となる。つまり、第1及び第2実施形態における分散性媒質39の特性を兼ね備えている。
【0057】
したがって、第3実施形態では、光源31から出射されたパルス光Pは、分散性媒質39Aを経て、パルス幅の伸長したパルス光Pcとなる。パルス光Pcは、分割部33において、参照ミラー45に向かう分岐光Pc2(第1分岐光)及び加工対象70に向かう分岐光Pc1(第2分岐光)に分割される。そして、参照ミラー45で反射された分岐光Pc2及び加工対象70で反射された分岐光Pc1は、合波部37において重ね合わされて合波光Pcbとなる。合波光Pcbは、分散性媒質39Bを経て、更にパルス幅の広いパルス光Pbcとなる。このように2度にわたりチャープさせられた合波光Pbcは、検出器41において検出され、検出器41の検出結果は、演算部43における距離の算出に用いられる。
【0058】
第3実施形態によれば、分散性媒質39が、光源31と分割部33との間、及び、合波部37と検出器41との間、の2か所に配置されている。これにより、高速プロセスに対応できるとともに信号処理の帯域を下げることが可能となる。つまり、第3実施形態は、第1及び第2実施形態における分散性媒質39の特性を兼ね備えている。
【0059】
4.計測例
計測性能を確認するため、擬似キーホールを計測装置30で計測した。
計測装置30の主な仕様は次のとおりである。
パルス光P: 中心波長1559nm、波長帯域幅6.3nm、
パルス幅1ps以下、繰返し周波数28.3MHz
走査機構35: 走査速度18m/sのガルバノスキャナ
分散性媒質39A:分散量935ps/nmの分散補償シングルモード光ファイバ
検出器41: 帯域43GHzのフォトダイオードを含むバランスディテクタ
【0060】
擬似キーホールは、ドイツGFH社製のフェムト秒レーザ加工機により、公称厚さ1mm(マイクロメータによる測定では0.94mm)のステンレス鋼(SUS304)に形成された穴であり、直径300μm(ミツトヨ製の測定顕微鏡による測定ではX軸方向0.317mm、Y軸方向0.316mm)の垂直な壁面を有する。擬似キーホールの底面にはステンレス板がはめ込まれ、レーザ溶接において形成されるキーホールを模している。
【0061】
ガルバノスキャナで測定光を擬似キーホール上のX軸方向に走査する操作を、Y軸方向に30μm間隔で繰り返し行い、検出器41の検出信号を信号処理して水平方向(X,Y軸方向)及び深さ方向(Z軸方向)の計測結果を得た。計測結果は、X軸方向0.336mm、Y軸方向0.315mm、最大深さ0.964mmである。このように、計測装置30の計測結果は、実測値とミクロンオーダーの精度で概ね一致している。
【0062】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それらも本発明に含まれる。
【0063】
本発明は、レーザ溶接のほか、レーザ切断、レーザアブレーションなどの高速プロセスモニタリングへ適用できる。いずれの適用例においても、レーザ加工システム1は、加工対象70の状態をリアルタイムにかつ高精度に観測し、加工条件を適切に制御できるから、高品質なレーザ加工を実現することができる。
【0064】
例えば、レーザ加工装置10は、レーザ光Lで加工対象70を切断するレーザ切断装置とすることができる。この場合、計測装置30は、測定した距離に基づいて加工対象70における切断形状を算出することになる。
【0065】
また、レーザ加工装置10は、レーザ光Lで加工対象70にレーザアブレーション加工を施すレーザアブレーション装置とすることができる。この場合、計測装置30は、測定した距離に基づいて加工対象70における加工形状を算出することになる。
【0066】
また、レーザ加工装置10は、レーザ光Lで加工対象70に肉盛加工を施すレーザクラッディング装置とすることができる。この場合、計測装置30は、測定した距離に基づいて加工対象70における加工形状を算出することになる。
【符号の説明】
【0067】
1・・・、レーザ加工システム、
10・・・レーザ加工装置、
30,130,230・・・測定装置、
31・・・光源、
33・・・分割部、
37・・・合波部、
39,39A,39B・・・分散性媒質、
41・・・検出器、
43・・・演算部、
50・・・制御装置、
70・・・加工対象。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7