IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • -膝関節補助装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】膝関節補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20230622BHJP
   A61F 5/01 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61F5/01 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019152891
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021029596
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ロボティクス・メカトロニクス講演会2019 講演概要集,第121頁 発行所:一般社団法人 日本機械学会 発行日:令和1年6月5日 [刊行物等] ロボティクス・メカトロニクス講演会2019 講演論文集(DVD),2A1-A09(1)~2A1-A09(4) 発行所:一般社団法人 日本機械学会 発行日:令和1年6月5日 [刊行物等] ロボティクス・メカトロニクス講演会2019 開催日:令和1年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 武士
(72)【発明者】
【氏名】井上 智晶
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-059763(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0119569(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A61F 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
水平な直線に沿って延びる直線歯車部分および前記直線に接する円弧に沿って延び、かつ前記直線歯車部分から下方に配置されるセクタ歯車部分とを有し、前記本体内に配設された固定歯車と、
前記本体内に配設され、前記固定歯車に係合する移動歯車と、
前記移動歯車の回転軸を、前記固定歯車の直線歯車部分に平行な水平方向に案内する直線部分、および、前記セクタ歯車部分の中心を中心とした円弧に沿って案内する円弧部分を有し、前記本体に形成された案内溝と、
前記移動歯車の回転軸を前記案内溝の直線部分へ向けて付勢する付勢手段と、
前記移動歯車に取り付けられ、前記固定歯車に沿って前記移動歯車と共に移動する第1の腕部材と、
前記本体に固定された第2の腕部材とを具備し、
前記第1の腕部材を装着者の大腿部に固定し、前記第2の腕部材を前記装着者の下腿部に固定するようにした膝関節補助装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記移動歯車の回転軸に係合する脚部を有したトーションばねである請求項に記載の膝関節補助装置。
【請求項3】
前記第1の腕部材に取り付けられた上腿部装着具と、前記第2の腕部材に取り付けられた下腿部装着具とを更に具備し、前記上腿部装着具は、装着者の大腿部の外側の側面に固定され、前記下腿部装着具は、装着者の下腿部の外側の側面に固定される請求項に記載の膝関節補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの歩行や膝屈伸運動を補助する膝関節補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膝関節補助装置は、装着者の日常の或いはリハビリ時の歩行や屈伸運動を補助するために、様々なものが開発されている。例えば、特許文献1には、支持軸を中心として相対的に回転自在に支持された上部アームと下部アームを装着者の大腿部と下腿部に取り付け、上部アームの所定角度位置を超える旋回動を阻止するためのストッパーを下部アームに設けた膝装着具が記載されている。特許文献1の膝装着具は、膝関節のすべり転がり運動またはロールバック運動(例えば、非特許文献2参照)に追従することができず、歩行運動または屈伸運動を妨げてしまう。
【0003】
この点、特許文献2には、下腿装着部の膝関節側端部が前後方向にスライド可能として、膝関節のすべり転がり運動に適合した膝関節運動補助装置が記載されている。然しながら、特許文献2の膝関節運動補助装置では、動力源としてのモーター、平歯車およびすぐばかさ歯車を含む動力伝達装置およびバッテリを備えており、装置が重量とならざるを得ず、リハビリテーション支援、介助作業支援、看護作業支援、農作業支援等の様々な用途に応用すること、特に重度の障害者へ適用することが困難である問題がある。
【0004】
非特許文献1には、電磁モータ、非円形歯車および溝カムを用いた歩行リハビリ用の膝関節アシスト装具が開示されている。非特許文献1の膝関節アシスト装具も膝関節のすべり転がり運動またはロールバック運動に適合しているが、電磁モータやバッテリ等の重量物を搭載しており、装具自体が重く、特許文献2の場合と同様に、様々な用途に応用すること、特に重度の障害者へ適用することが困難である問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-272312号公報
【文献】特開2010-063581号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Terada H. et al.: Development of a knee motion assist mechanism for wearable robot with a non-circular gear and grooved cams, Mechanisms, Transmissions and Applications: Mechanism and Machine Science, 3, Springer, pp. 68, 2012.
【文献】CT画像に基づくX線動画像シミュレーションを用いたスクワット動作における生体膝関節の機能評価、日本機械学会論文集(C編)77巻782号、pp.219-227、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、膝関節のロールバック運動により良く適合しながら、軽量で種々の用途に適用可能な膝関節補助装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本体と、直線に沿って延びる直線歯車部分および前記直線に接する円弧に沿って延びるセクタ歯車部分とを有し、前記本体内に配設された固定歯車と、前記本体内に配設され、前記固定歯車に係合する移動歯車と、記移動歯車に取り付けられ、前記固定歯車に沿って前記移動歯車と共に移動する第1の腕部材と、前記本体に固定された第2の腕部材とを具備し、前記第1の腕部材を装着者の大腿部に固定し、前記第2の腕部材を前記装着者の下腿部に固定するようにした膝関節補助装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ヒトの膝関節のロールバック動作に非常に近い運動を再現することが可能でありながら、構造が簡単で軽量であるために、非常に多種多様な用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の好ましい実施形態による膝関節補助装置の概略略図である。
図2】使用者の膝関節に取り付けた図1の膝関節補助装置を使用者と共に示す略図である。
図3図1の膝関節補助装置の案内溝を示す略図である。
図4図1の膝関節補助装置の本体に対する第1の腕部材の動作位置を説明するための側面図である。
図5図1の膝関節補助装置の本体に対する第1の腕部材の動作位置を説明するための側面図である。
図6図1の膝関節補助装置の本体に対する第1の腕部材の動作位置を説明するための側面図である。
図7】本発明により作製した関節補助装置の回転軸の変位の測定結果を、X線動画像により装着者(被験者)がスクワットを行ったときの膝関節の動作の分析結果に基づき、膝中心の移動を直線近似して作成した膝関節運動モデルと共に示すグラフである。
図8図1の膝関節補助装置の運動モデルを示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1において、本実施形態による膝関節補助装置10は、平行に配置された2枚の板状部材より成る本体部12、14と、該本体部12、14の間に固定された固定歯車24と、該固定歯車24に係合する移動歯車20と、本体部12、14の間に配置された付勢手段としてのねじりコイルばねまたはトーションばね32と、移動歯車20の回転軸22に取り付けられた第1の腕部材16と、本体部12、14に固定された第2の腕部材18を主要な構成要素として備えている。本体部12、14には案内溝12a、14aが形成されている。
【0012】
膝関節補助装置10は、図2に示すように、第1の腕部材16に取り付けられた上腿部装着具40と、第2の腕部材18に取り付けられた下腿部装着具42とを有している。上腿部装着具40は、ヒトの大腿部の表面に馴染むエラストマー、プラスチック、革、布帛等により形成することができ、該上腿部装着具40をヒトの大腿部の外側の側面に固定するバンド40aを有している。下腿部装着具42は、ヒトの下腿部の表面に馴染むエラストマー、プラスチック、革、布帛等により形成することができ、該下腿部装着具42をヒトの下腿部の外側の側面に固定するバンド42aを有している。
【0013】
膝関節補助装置10は、移動歯車20の回転軸22が、起立姿勢の装着者の膝関節の回転軸線に概ね一致するように、装着者の膝関節の外側の側面に装着される。このとき、第1の腕部材16が上方に突出し、第2の腕部材18が下方に突出し、好ましくは、第1と第2の腕部材16、18は一直線上に配置される。膝関節補助装置10の本体部12、14それ自体は、装着者の膝関節に固定されることはない。
【0014】
固定歯車24は矩形の板状の部材より成る本体部分24aを有している。本体部分24aは、該本体部分24aの一方の測縁部から膨出した扇状部分24bを有している。固定歯車24は、本体部分24aの上縁部に沿って歯切りされた直線歯車部分26と、直線歯車部分26の一端から接線方向に接続するように、扇状部分24bの外周面に沿って歯切りされたセクタ歯車部分28とを有している。より詳細には、直線歯車部分26とセクタ歯車部分28は、直線歯車部分26のピッチ線がセクタ歯車部分28のピッチ円に接するように配置されている。なお、膝関節補助装置10を起立姿勢の使用者の膝関節の外側側面に装着したとき、直線歯車部分26のピッチ線は概ね水平方向に延びる。また、セクタ歯車部分28は、膝関節補助装置10を使用者の膝関節に取り付けたときに、使用者の後方を向くように配置されている。
【0015】
本体部12、14を形成する板部材の各々に形成された案内溝12a、14aは、少なくとも固定歯車24のセクタ歯車部分28のピッチ円の中心Osに関する円周に沿って形成された円弧部分12b、14bと、円弧部分12b、14bの上側の端部から固定歯車24の直線歯車部分26のピッチ線に平行に伸びる直線部分12c、14cとを有している。
【0016】
移動歯車20は、固定歯車24の直線歯車部分26およびセクタ歯車部分28の歯に係合する歯を有している。移動歯車20は通常の平歯車のような円形の歯車とすることができるが、固定歯車24の直線歯車部分26に係合する部分と、セクタ歯車部分28に係合する部分とで異なる半径としてもよい。移動歯車20は、本体部12、14を形成する板部材に対して垂直に延びる回転軸22を中心として回転する。移動歯車20は、回転軸22と共に、或いは、回転軸22に対して相対的に回転可能となっている。回転軸22の両端には、案内溝12a、14aに係合するローラまたはフォロア22aを取り付けることができる。こうして、移動歯車20は、回転軸22を中心として回転しつつ、案内溝12a、14aに沿って移動可能となる。
【0017】
トーションばね32は、本体部12、14の内面に固定されたトーションばね取付部としてのボス部30に取り付けられる。トーションばね32は、第1と第2の脚部32a、32bを有している。トーションばね32をボス部30に取り付けたとき、第1の脚部32aは、移動歯車20の回転軸22または回転軸22に取り付けられているローラまたはフォロア22aに係合する。第2の脚部32bは、第2の腕部材18の近傍に配置されたトーションばね係留部34に固定される。
【0018】
第1の腕部材16は、図3に示すように、第1の腕部材16の中心軸線Omが第2の腕部材18の中心軸線Oに概ね一直線上に配置される位置(0°の位置)から、中心軸線Omが中心軸線Oに対して90°の角度をなす位置(図4)を経て、中心軸線Omが中心軸線Oに対して150°の角度をなす位置(図5)まで、本体部12、14に対して移動することができる。
【0019】
この間、トーションばね32は、0°の位置へ復帰する方向に移動歯車20の回転軸22を付勢する。トーションばね32から回転軸22への付勢力は、角度が大きくなにつれ次第に大きくなる。つまり、トーションばね32から回転軸22への付勢力は、膝関節補助装置10を装着した装着者が最も深く屈曲させたときに最も大きくなり、そうした姿勢から膝を伸ばす際に、装着者の膝伸展動作を良好に補助することが可能となる。
【0020】
図6は、白石善孝等が行った、膝関節のX線動画像により装着者(被験者)がスクワットを行ったときの膝関節の動作の分析結果に基づき、膝中心の移動を直線近似して作成した膝関節運動モデルを示している。膝の屈伸運動は、ロールバック運動(Rollback Motion)とも称される、脛骨上の大腿骨の転がり運動と滑り運動による複合運動であり、完全伸展位から屈曲初期には、大腿骨が脛骨に対して回転する転がり運動のみであるが、徐々に滑り運動が加わり、最終的には滑り運動のみとなる。
【0021】
本実施形態では、移動歯車20の回転軸22が、なるべく図6のモデルに沿って移動できるように膝関節補助装置10の寸法を決定した。図7を参照すると、膝関節補助装置10の運動モデルが示されている。図7において、回転軸22の移動は一点鎖線で示されている。また、図7では、X軸は前後方向(左方が装着者の前方)であり、Z軸は上下方向である。
【0022】
r1は移動歯車20において固定歯車24の直線歯車部分26(図7では2)に係合する部分1の半径であり、r2はセクタ歯車部分28(図7では4)に係合する部分3の半径であり、r3はセクタ歯車部分4の半径である。θ1は、移動歯車20の回転軸22の中心Omgに関する部分1の中心角度であり、θ2は、移動歯車20の回転軸22の中心Omgに関する部分2の中心角度である。
【0023】
r1=r2=12mm、r3=8mm、θ1=30°、θ2=120として、実際に膝関節補助装置10を作製し、回転軸22の動作を測定した。測定結果を図6において一点鎖線で示す。図6から理解されるように、本実施形態による膝関節補助装置10は、実線で示すヒトの膝関節のロールバック動作に非常に近い運動を再現することが可能である。
【符号の説明】
【0024】
10 膝関節補助装置
12 本体部
12a 案内溝
12b 円弧部分
12c 直線部分
14 本体部
14a 案内溝
14b 円弧部分
14c 直線部分
16 第1の腕部材
18 第2の腕部材
20 移動歯車
22 回転軸
22a フォロア
24 固定歯車
24a 本体部分
24b 扇状部分
26 直線歯車部分
28 セクタ歯車部分
30 ボス部
32a 第1の脚部
32b 第2の脚部
34 係留部
40 上腿部装着具
40a バンド
42 下腿部装着具
42a バンド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8