(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】立体網状構造体
(51)【国際特許分類】
D04H 3/14 20120101AFI20230622BHJP
D01F 6/46 20060101ALI20230622BHJP
A47C 27/12 20060101ALI20230622BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20230622BHJP
A47C 27/00 20060101ALI20230622BHJP
A61G 7/05 20060101ALI20230622BHJP
A47G 9/10 20060101ALI20230622BHJP
D04H 3/007 20120101ALI20230622BHJP
【FI】
D04H3/14
D01F6/46 D
A47C27/12 E
B60N2/90
A47C27/00 K
A61G7/05
A47G9/10 Z
D04H3/007
(21)【出願番号】P 2020532827
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019041879
(87)【国際公開番号】W WO2020090648
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018203751
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300054206
【氏名又は名称】株式会社シーエンジ
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】高岡 佳久
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-061059(JP,A)
【文献】特開2017-036386(JP,A)
【文献】特表2003-535944(JP,A)
【文献】特開昭63-219617(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002941(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0130544(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C27/00-27/22
31/00-31/12
A47G9/00-11/00
A61G7/00-7/16
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる連続線条が部分的にランダムに溶着することによりループを形成したスプリング構造を有し、
前記熱可塑性樹脂は、曲げ弾性率が100~1600MPaであるポリプロピレン系共重合体(a)と曲げ弾性率が5~100MPaであるポリプロピレン系共重合体(b)の混合物を含み、
前記ポリプロピレン系共重合体(a)の曲げ弾性率は、前記ポリプロピレン系共重合体(b)の曲げ弾性率とは異なり、
前記熱可塑性樹脂はプロピレン系共重合体(a)を10~40重量%、ポリプロピレン系共重合体(b)を60~90重量%含む、
立体網状構造体。
【請求項2】
ポリプロピレン系共重合体(a)は、プロピレン・αオレフィン共重合体であり、α-オレフィン含有率が3~30重量%である、請求項1に記載の立体網状構造体。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系共重合体(b)は、プロピレン・αオレフィン共重合体であり、α-オレフィン含有率が10~49重量%である、請求項1または2に記載の立体網状構造体。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系共重合体(a)のMFRが5~35g/10分であり、前記ポリプロピレン系共重合体(b)のMFRが4~30g/10分である、請求項1~3のいずれかに記載の立体網状構造体。
【請求項5】
前記立体網状構造体は、押出方向に対応する縦方向、押出方向と直交する横方向、および厚み方向を有し、110℃で30分間の乾燥熱風試験前後の縦方向および横方向の熱伸長率は、0~8%である、請求項1~4のいずれかに記載の立体網状構造体。
【請求項6】
ヒステリシスロスが5~60%である、請求項1~5のいずれかに記載の立体網状構造体。
【請求項7】
クッション、自動車シート、船舶用シート、電車シート、座布団、枕、介護用品、ベッド用クッションまたはマットレス用であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の立体網状構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マットレス、クッション等に使用する硬さのばらつきの少ない立体網状構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、押出形成により線条が部分的に絡合しループを備えた立体網状構造体は種々のものが提案されている。立体網状構造体は、特に医療分野等で用いられる場合、高温消毒に耐えるために耐熱性および耐薬品性等が必要とされる。特許文献1および特許文献2は、耐熱性および耐薬品性を向上することを目的として、プロピレン系重合体(a)および、プロピレン単独重合体(b)から構成され、プロピレン系重合体(a)は全モノマー100モル%に対して、51~95モル%のプロピレンおよび5~49%のαオレフィンを構造単位として有する、立体網状繊維集合体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/002940
【文献】特許第5894716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の立体網状構造体では、耐熱性等の課題はある程度解消できたものの、プロピレン系重合体(a)にプロピレン単独重合体(b)が混合しにくいために均一に混合するのが難しく、混合状態にばらつきが出やすい。それによって、製品の特性、特に構造体の硬さにばらつきが発生しやすいという問題があった。
【0005】
製造工程において、二軸押出機を用いれば、プロピレン系重合体にプロピレン単独重合体の混合は促進され、ばらつきを小さくできるが、二軸押出機を用いる場合には、機械が高価であり、メンテナンスが難しいという問題がある。また、二軸押出機は単軸押出機に比べ押出圧が低くなり、幅が広い場合には幅方向の混合状態にばらつきが発生し、厚みの厚い場合には厚み方向にばらつきが発生しやすい。
【0006】
本発明は、柔らかなクッション特性を有し、硬さの安定性が高く、製造しやすく、安価な立体網状構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物を含む熱可塑性樹脂からなり、連続線条が部分的にランダムに溶着することによりループを形成したスプリング構造を有し、前記ポリプロピレン系共重合体(a)の曲げ弾性率は、前記ポリプロピレン系共重合体(b)の曲げ弾性率とは異なる、立体網状構造体である。
【0008】
前記ポリプロピレン系共重合体(a)の曲げ弾性率が100~1600MPaであり、前記ポリプロピレン系共重合体(b)の曲げ弾性率が5~100MPaであることが好ましい。
【0009】
前記熱可塑性樹脂はポリプロピレン系共重合体(a)を10~40重量%、ポリプロピレン系共重合体(b)を60~90重量%含むことが好ましい。
【0010】
前記ポリプロピレン系共重合体(a)は、プロピレン・αオレフィン共重合体であり、α-オレフィン含有率が3~30重量%であることが好ましい。
【0011】
前記ポリプロピレン系共重合体(b)は、プロピレン・αオレフィン共重合体であり、α-オレフィン含有率が10~49重量%であることが好ましい。
【0012】
前記ポリプロピレン系共重合体(a)のMFRが5~35g/10分であり、前記ポリプロピレン系共重合体(b)のMFRが4~30g/10分であることが好ましい。
【0013】
前記立体網状構造体は、押出方向に対応する縦方向、押出方向と直交する横方向、および厚み方向を有し、110℃で30分間の乾燥熱風試験前後の縦方向および横方向の熱伸長率は、0~8%であることが好ましい。
【0014】
前記立体網状構造体は、ヒステリシスロスが5~60%であることが好ましい。
【0015】
前記立体網状構造体は、クッション、自動車シート、船舶用シート、電車シート、座布団、枕、介護用品、ベッド用クッションまたはマットレス用であることが好ましい。不燃、難燃、抗菌、消臭効果を素材に混合したり、後加工で表面に付加することも可能である。
【0016】
前記立体網状構造体の見掛け密度が、0.025g/cm3~0.2g/cm3であり、厚みが単層及び複層において5mm~500mmで、線径が直径0.1mm~1.5mmであることが好ましい。
【0017】
前記ポリプロピレン系共重合体(a)と前記ポリプロピレン系共重合体(b)の混合物中のエチレンの含有量は重量比率で3~45%であることが好ましい。
【0018】
立体網状構造体は複数の面を備え、そのうちの2面、3面、または、4面が成形されることが好ましく、必要に応じて異形形状に成形されることが好ましい。褥瘡防止用や柔らかい感触が必要な場合には、嵩密度、線径の調整、異種材料の複層、配合比率、使用樹脂の調整などでヒステリスロス、体圧分散の調整も可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い耐熱性を維持しながら、硬さのばらつきが少なく、柔らかなクッション性を有する立体網状構造体を提供できる。また、材料がポリプロピレン系共重合体同士なので互いに混ざりやすく、容易に混合できるため、製造しやすく、低価格の立体網状構造体を提供できる。また、ポリプロピレン系共重合体(b)の配合率を変化することで、立体網状構造体の硬さ、反発弾性、ヒステリシスロスを変化させることができる。立体網状構造体の硬さと弾性特性を適切に調整できるため、例えば、本発明の立体網状構造体を医療・介護用マットレスに適用した場合、睡眠中の人体の自然調整機能等に対応できるので、褥瘡等に適切に対応でき、患者は起き上がりがしやすい。また、介護者も患者の体位変換をする場合、マットレスの反発力を借りて少ない力で目的を遂げることが出来る。
【0020】
さらに、縦方向、横方向の乾燥熱風試験前後の寸法変化が少ない特性を有するので、例えばマットレスに用いられた場合、高温で消毒した場合等でも、マットレスが収縮してカバーがしわになることがなく、しわが原因となる褥瘡も起こりにくく好適である。そのため熱消毒が容易にでき乾燥も簡単なので院内感染にも対応し、医療用、又は、介護で要求されるクッション材に好適な立体網状構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】立体網状構造体の硬さのばらつき測定のためのサンプルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態の立体網状構造体について説明する。この立体網状構造体は、複数本の線条がループ状にランダムに絡まり合い、熱溶着されたことにより構成される。所定の線径減少率の材料を使用することにより、立体網状構造体は製造中における押出方向において、嵩密度が粗部分と密部分とが押出方向に交互に表われる立体構造を備えた立体網状構造体である。
【0023】
立体網状構造体は、端部の硬いもの、表と裏で表面層の厚みが違うもの、表と裏で嵩密度、線径の調整により柔らかさの違うもの、内部に穴の開いているものなどが様々な形態が可能である。また、使用目的に応じて、部位によって硬さを変えることもできる。
【0024】
本発明の立体網状構造体の見掛け密度(嵩密度)は、柔らかな反発特性を決める重要な要素であり、必要に応じて設計されるものであるが、好ましくは0.025g/cm3~0.2g/cm3、さらに好ましくは0.04g/cm3~0.09g/cm3である。見掛け密度が0.025g/cm3より小さいと形状が保てなくなり、0.2g/cm3を越えるとマットレスとしては適さなくなる。
【0025】
本発明の立体網状構造体は、線条の線径(直径)が0.3mm~1.5mmのポリプロピレン系共重合体の混合物からなる連続線条なランダムなループを互いに溶融状態で溶着させた立体スプリング構造体である。線径は異形、中空形状でもよいがソフトな触感を得るためには重要な要素であり、線径が小さいとクッション性に必要な硬度が保てなくなり、逆に線径が大きすぎると硬くなり過ぎてしまうため、適正な範囲に設定する必要がある。
【0026】
ループのループ長は3~50mm、特に5~15mmであることが好ましい。目的に合わせ、表面のループを寝かせ、密度の高い表面層を形成してもよいし、中間部の密度を高くすることもできるし、密度の高い表面層を形成しなくてもよい。
【0027】
本発明の立体網状構造体の厚みは柔らかさや反発特性に大きく関わってくるため、5mm~500mm、より好ましくは、10~150mm、さらには30~110mmが一層好ましい。例えば、ヒステリシスロスが35%未満の高反発の構造体の場合、厚みが5mm未満では高反発性が低くなるため好ましくなく、500mmを超えると反発性が高くなりすぎるため好ましくない。
【0028】
この立体網状構造体の縦横寸法は、例えば、マットレス、クッション等として用いられる場合、幅300~2000mm、長さ300~2500mm、高さ30~120mm、枕として用いられる場合、幅250~500mm、長さ300~800mm、高さ40~120mmが例示できる。また、それらの表皮材などに単体、複合、複層して利用することができる。寸法は、代表的な寸法を例示したが、その寸法に限られるわけでない。
【0029】
この立体網状構造体は、ポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物を含む樹脂から製造される。
【0030】
ポリプロピレン系共重合体(a)は、プロピレンを主とする重合体であり、プロピレンと炭素数2~12(炭素数3を除く)のαオレフィンの共重合体である。α-オレフィンとしては、エチレン、1ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンおよび1-デセン等が挙げられる。ポリプロピレン系共重合体(a)は、特にプロピレン-エチレン共重合体が好ましい。
【0031】
ポリプロピレン系共重合体(a)は、その全モノマー100モル%に対して、典型的には51~95モル%、好ましくは60~90モル%、より好ましくは70~80モル%のプロピレンを構造単位として含んでなる。プロピレン系樹脂(a)におけるプロピレン単位が上記範囲内であると、耐薬品性に優れた立体網状構造体が得られる。重合体のモル比率は、重合体を製造する際にモノマーの仕込み比、または赤外分光分析法(IR)もしくは核磁気共鳴分光法(NMR)に基づいて決定することができ、重合体を構成する全モノマー数を100モルとした場合における、対象とするモノマーのモル比率を示す。
【0032】
ポリプロピレン系共重合体(a)は、その全モノマー100%に対して、典型的には5~49モル%、好ましくは10~40モル%、より好ましくは20~30モル%のα-オレフィンを構造単位として含んでなることが好ましい。
【0033】
ポリプロピレン系共重合体(a)は、α-オレフィンの含有率が3~30重量%であることが好ましく、3~10重量%であることがさらに好ましい。
【0034】
ポリプロピレン系共重合体(a)は、α-オレフィンがランダム状、ブロック状、グラフト状またはテーパード状の形態で導入されていてよい。ポリプロピレン系重合体(a)が良好な弾性を有する観点から、α-オレフィンがランダム状またはブロック状の形態でポリプロピレン系共重合体(a)に導入されることが好ましい。また、ポリプロピレン系共重合体(a)はインパクトコポリマーであることも好ましい。
【0035】
上記ポリプロピレン系共重合体(a)は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.8以下、例えば2.6以下の分子量分布Mw/Mnを有し、典型的には1.01以上の分子量分布Mw/Mnを有する。上記ポリプロピレン系共重合体(a)は、好ましくは1.01~4.0、より好ましくは1.1~3.0、さらに好ましくは1.5~2.8、例えば2.0~2.6の分子量分布Mw/Mnを有する。分子量分布Mw/Mnが上記の範囲内にある場合、低分子量成分が少なく、揮発成分が少ないため、立体網状構造体は臭気性が低く、また耐薬品性により優れる。このようなプロピレン系共重合体(a)は、メタロセン触媒を用いて重合することが望ましい。なお、分子量分布Mw/Mnは、メタロセン触媒の種類、製造時の重合条件(重合温度、重合圧力)等を変更することによって調整することができる。
【0036】
本発明における数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定し、ポリスチレン換算により算出することができる。
【0037】
上記ポリプロピレン系共重合体(a)の重量平均分子量Mwは、10000~1000000が好ましく、20000~800000がより好ましく、30000~500000がさらに好ましく、100000~400000がさらにより好ましい。プロピレン系重合体(a)の重量平均分子量Mwが上記範囲内であると、立体網状構造体が引張り性能および圧縮永久歪みが良好であり、また立体網状構造体が耐薬品性により優れ、さらに臭気性が低い。
【0038】
上記ポリプロピレン系共重合体(a)のメルトフローレート(以下、MFRと略す。)は、典型的には0.5~60g/10分、好ましくは1~45g/10分、より好ましくは5~35g/10分である。MFRが上記範囲内であると、混合、成型性が良好である。
【0039】
なお、MFRは、JIS K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定できる。なお、測定は材料を規定した寸法に直接成形したものを使用する。
【0040】
また、上記ポリプロピレン系共重合体(a)の融解ピーク温度(DSCによる)は、110℃以上140℃未満であることが好ましい。融解ピーク温度が上記範囲内であると、高温処理での耐熱性の観点から望ましい。また、上記ポリプロピレン系共重合体(a)のビカット軟化温度(JIS K7206に準拠して測定)は、80~120℃、さらには90~110℃であることが好ましい。
【0041】
上記ポリプロピレン系共重合体(a)の曲げ弾性率は、典型的には1600MPa以下、好ましくは500MPa以下、より好ましくは400MPa以下、さらに好ましくは300MPa以下、例えば200MPa以下であるのが好ましい。また、上記ポリプロピレン系重合体(a)の曲げ弾性率は、典型的には20MPa以上、好ましくは100MPa以上である。
【0042】
なお、曲げ弾性率は、JIS K7171:1982に準拠して測定することができる。
【0043】
ポリプロピレン系重合体(a)は、密度が0.94g/cm3以下であることが好ましい。密度0.94g/cm3を越える原料を用いるとクッション材が硬くなりやすく好ましくない。より好ましくは0.935g/cm3以下であり、さらには0.91g/cm3以下が一層好ましい。下限としては強度保持の観点から0.8g/cm3以上、より好ましくは0.85g/cm3以上が好ましい。
【0044】
本発明の立体網状構造体に用いられるポリプロピレン系共重合体(b)は、立体網状構造体の柔らかさを向上する目的で配合される。ポリプロピレン系共重合体(b)は、主成分としてプロピレンモノマーを含む共重合体であり、プロピレン・α-オレフィン共重合体樹脂が好ましい。
【0045】
ポリプロピレン系共重合体(b)であるプロピレン・α-オレフィン共重合体としては、プロピレンと好ましくは炭素数2~20(炭素数3を除く)のα-オレフィンを共重合して得られる共重合体であって、α-オレフィンとしては、例えばエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン等が例示できる。その中でも、ポリプロピレン系共重合体(b)は、プロピレン-エチレン共重合体が好ましい。
【0046】
ポリプロピレン系共重合体(b)であるプロピレン・α-オレフィン共重合体の密度は0.82~0.93g/cm3であることが好ましく、0.83~0.91g/cm3であることがより好ましい。
【0047】
ポリプロピレン系共重合体(b)のビカット軟化温度(JIS K7206に準拠して測定)は、必ずしも高い必要はなく、40~70℃程度でも耐熱性に問題がない。ポリプロピレン系共重合体(b)よりもビカット軟化温度の高いポリプロピレン系共重合体(a)と混合するためである。
【0048】
ポリプロピレン系共重合体(b)のエチレン含有量は、好ましくは約10~49重量%、特に約11~16重量%の範囲が好ましい。さらに、15~16重量%のエチレン含有量を有するポリプロピレン系共重合体は、立体網状構造体に柔らかさを付与するため、特に好ましい。比較的高いエチレン含量である15%又は16%のポリプロピレン系共重合体(b)は、特に曲げ弾性率が低く、立体網状構造体に柔らかさを付与するため、特に好ましい。
【0049】
ポリプロピレン系共重合体(b)の曲げ弾性率は、柔らかさを確保するために、5~100MPaであることが好ましい。特に、5~60MPaが好ましく、5~20MPaがさらに好ましい。
【0050】
ポリプロピレン系共重合体(b)は、その全モノマー100%に対して、典型的には15~45モル%、より好ましくは20~40モル%のα-オレフィンを構造単位として含んでなることが好ましい。
【0051】
本発明の立体網状構造体に用いられるポリプロピレン系共重合体(b)のMFRは3~60g/10min、さらに好ましくは4~30g/10minである。
【0052】
ポリプロピレン系共重合体(b)は非晶質分が豊富な半結晶性の共重合体であることが好ましい。半結晶性に基づく性能は結晶化度の量に依存することが知られている。結晶化度は、立体規則性の減少とともに減少し、材料はより弾性挙動を示す。結晶化度を制御するための多くの方法が知られている。例えば立体不規則性を導入することによるもの又はコモノマーを導入することによるものである。ポリプロピレン系共重合体(b)はこの原理に基づいて合成され、高い弾性特性を示す傾向がある。
【0053】
本発明の立体網状構造体の線条を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物から成る樹脂から構成されてもよいし、更に他の樹脂を含むもの、例えば、プロピレン成分を主としない原料をブレンドしたもの、共重合したもの等も使用できる。例えば、ポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)に加えて、ポリエチレン系樹脂(c)をさらに混合させてもよい。
【0054】
本発明の立体網状構造体がポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物から成る樹脂から構成された場合、ポリプロピレン系共重合体(a)を10~40重量%、ポリプロピレン系共重合体(b)を60~90重量%含むことが好ましい。
【0055】
本発明においては、ポリプロピレン系共重合体(b)の配合率を変化することで、立体網状構造体の硬さ、反発弾性、ヒステリシスロスを変化させることができる。
【0056】
例えば、ポリプロピレン系共重合体(a)を10~20重量%、ポリプロピレン系共重合体(b)を80~90重量%含んだ場合、立体網状構造体がより柔らかくなり、反発弾性は15%になり、ヒステリシスロスは43%になる。
【0057】
例えば、ポリプロピレン系共重合体(a)を30~40重量%、ポリプロピレン系共重合体(b)を60~70重量%含んだ場合、立体網状構造体は比較的硬くなり、反発弾性は28%になり、ヒステリシスロスは31%になる。ただし、ポリプロピレン系共重合体(b)の配合率が低くても、ポリエチレン系樹脂からなる立体構造体と比較すると、本発明による立体網状構造体の硬さは柔らかい。
【0058】
本発明によれば、ポリプロピレン系共重合体(a)およびポリプロピレン系共重合体(b)の両方が共重合体であり、特にプロピレン・αオレフィン共重合体であるため、比較的容易に混ざりあう。そのため、製造工程において、混合を促進するために二軸押出機などを使用する必要がなく、単軸押出機を用いても、容易に混ざりあい、安定した製品が得られる。その結果、特に、硬さのばらつきが少ないという利点がある。
【0059】
本発明の立体網状構造体に用いられるポリプロピレン系共重合体(a)およびポリプロピレン系共重合体(b)の混合物中のエチレンの含有量は重量比率で45%以下であることが好ましい。混合物中のエチレンの含有量が重量比率で45%を超えると、温度により収縮、柔らかさの変化が大きくなる。
【0060】
本発明の立体網状構造体は、ポリプロピレン系共重合体(a)およびポリプロピレン系共重合体(b)で構成される場合、110℃で30分間の乾燥熱風試験前後の縦方向、横方向の熱伸長率は、0~8%が好ましく、0~3%がさらに好ましい。110℃乾燥熱風試験前後の熱伸縮率が8%を超えるとカバーに入りにくくなったり、カバーがしわになったりするので好ましくない。
【0061】
本発明の立体網状構造体は、ポリプロピレン系樹脂(a)およびポリプロピレン系共重合体(b)に加えて更にポリエチレン系熱可塑性樹脂(c)を混ぜた場合、90℃で30分間の乾燥熱風試験前後の縦方向、横方向の熱伸長率は、0~8%が好ましく、0~3%がさらに好ましい。90℃乾燥熱風試験前後の熱伸長率が8%を超えるとカバーに入りにくくなったり、カバーがしわになったりするので好ましくない。
【0062】
本発明の立体網状構造体をクッション材に用いる場合、その使用目的、使用部位により使用する樹脂、線径、ループ径、表面層、嵩密度、形状を適宜選択する必要がある。例えば、使用する国における硬さの好みに合わせて適時、素材の原料を選ぶ。レイヤーとして使用する場合、表面層か中間層かにより適切な嵩密度を選択する。また、立体構造を損なわない程度に成形型等を用いて使用目的にあった形状に成形し車両用座席、航空機用座席、船舶用座席、椅子、家具等に用いることが出来る。もちろん、要求性能にあわせるため、同構造の素材での複層、同構造異素材での複層、硬綿クッション材、ウレタン、ラテックス、不織布と組み合わせて用いることも可能である。素材を難燃化、不燃化、抗菌化、着色の機能をもたせるように処理加工することもできる。通気性、防水性能などそれぞれに適した素材で一層、二層の取り外し可能なカバーを適時設計してもよい。
【0063】
ところで、上述した熱可塑性樹脂の線径減少率の測定方法、測定装置について説明する。熱可塑性樹脂がポリプロピレン系共重合体(a)およびポリプロピレン系共重合体(b)の混合物である場合、線径減少率の測定装置は、キャピログラフ1D(東洋精機製)を使用した。温度230℃、管内径D1がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーの上から圧力をかけ、原料樹脂を押し出す。押し出された原料樹脂の線条をアルコールで冷却し、横断面で切断した線条の直径をD2とする。線径減少率=D2/D1で計算する。原料樹脂のせん断速度別に線径減少率を測定した。
【0064】
前記熱可塑性樹脂中、エチレン濃度が高い場合の線径減少率の測定方法、測定装置については、温度が温度190℃となる点が相違するだけで、他は上記の同様である。
【0065】
本発明の立体網状構造体を形成する熱可塑性樹脂よりなる連続線条は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂と組み合わせた複合形態としてもよい。複合形態としては、線条自身を複合化してもよい。
【0066】
本発明の立体網状構造体は、要求性能との関係で、ループの大きさの異なるもの、線径の異なるもの、組成の異なるもの、密度の異なるもの等の夫々の立体網状構造体を適宜選択し、複層化する。クッションを接着するか、非接着とするかは用途やカバーとの関係で設計する。複層化する場合は、耐熱性能の高い立体網状構造体を表面層に配置すれば、表面層の耐熱性能が高くなり、また内層の立体網状構造体には熱が伝わりにくくなり、その結果複層体全体として耐熱性能が高くなるので好適である。複合、複層立体網状構造体は、数台の押し出し機を使用して製造することもできる。
【0067】
本発明の立体網状構造体は、複層化すると共に、熱や超音波によって、側地、綿、ウレタン、不織布からなるワディング層と接着一体化してもよい。接着一体化したものは、例えば座席用クッションとして用いられる。ここで用いられる綿や不織布は、耐久性が高いものが好ましく、不織布は繊維と繊維がバインダー繊維で融着されたものや支柱構造のストレート形状のものが好ましい。
【0068】
本実施形態の立体網状構造体の製法の一例を述べるが、この製法に限定されるわけではない。立体網状構造体の詳細な製造方法は特開2001-328153号公報等、特許出願人の公報を参照されたい。本発明では、ポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物を含む原料をそれらの融点より10℃~20℃高い溶融温度で溶融し、溶融された原料は、ダイス内部へと送られ、圧力を加えられて、下部の口金の押出口から吐出されたそれぞれの線条は、押出孔の複数個の配列により、複数本の線条からなる線条集合体となり、自然降下する。
【0069】
ダイス内部の温度範囲は100~400℃、押出量は20~200Kg/HR等に設定可能である。ダイス内部における圧力は、例えば75mmスクリューの吐出圧によるものが挙げられ、その圧力範囲は0.2~25MPa程度である。
【0070】
ダイス内部の口金の径は、立体網状構造体の線条の線径に対応し、0.2~4.0mmが好ましく0.4~1.8mmがより好ましい。
【0071】
つぎに、水または湯を供給した、少なくとも左右一対のシューター(国際公開番号WO2012/157289の公開公報参照)で受け止めて、線条を溶融状態で互いに接触させて融着させ、立体網状構造を形成しつつ、水面に着水させる。このとき、シューターの角度、供給される水の量、押出口の口径、口金面とシューターと引取コンベアとの距離、樹脂の溶融粘度、押出口の孔径と吐出量などにより、ループ径と線条の線径が決まる。線径(直径)は0.1~1.8mm、ランダムループの平均直径(長さ)は5mm~50mmである。
【0072】
つぎに、線条集合体のうち、外周の長手側面に位置する線条は、一対の長手シューターの水が流れている傾斜面の上に接触し、これにより垂直降下軌道が乱され、隣り合う線条とループ状に絡まり合いつつ、供給パイプから供給される水または加温水で流されながら、傾斜面を滑り降りる。この際、線条は重力の影響を直接的に受け、傾斜面に沿って絡合し、ループが形成される。一対の短手シューターを設けてもよい。また、一体物のシューターを設けてもよい。
【0073】
水供給口は、長手シューターのそれぞれの上方において、長手方向に供給パイプが設けられ、傾斜面のそれぞれに、水、又は、10~90℃、好ましくは、40~60℃の範囲内で加温された水を供給している。供給パイプには上流において水供給源に接続される。短手シューターへの加温水の供給は、供給パイプからの水流を調節して流用してもよいし、別途、短手シューターの上方に同様な供給パイプを設けてもよい。
【0074】
線条集合体のうち、シューターの傾斜面のいずれにも接触せずに降下した線条は、成形開口部を通過する。このとき、成形開口部を通過する線条のうち、傾斜面の下辺近くを通過するものは、傾斜面を滑り降りてくる線条と接触し、ループ状に絡まり合い、その接触絡合による降下軌道の撹乱が隣り合う中心方向の線条に若干の範囲で伝播しつつ降下する。成形開口部を通過する線条のうち、成形開口部の中央付近を通過するものは、水面に着水し、引取機による引取速度は線条集合体の降下速度よりも遅いため、着水したそれぞれの線条は撓み、水面付近で略ループ状に絡まり合う。引取機の速度は5~40m/時間が好ましい。なお、引取機はキャタピラー構造の無端ベルトを用いて線条集合体を引き取るが、これに限らず、ローラー等を用いることも可能であり、また、シューターを用いなくても引取機により線条のループを形成してもよい。
【0075】
つぎに、立体網状構造は、水槽にて冷却されつつ、一対の引取機により、集合体の降下より遅い速度で引き取られて降下し、成形開口部の短手方向の間隔よりも小さな間隔で挟持され補助的な圧縮作用を受ける。無端ベルトの位置まで降下した時点では、水没による線条集合体の冷却固化がまだ完全に終わっていないので、引取機での挟持により圧縮成形効果を得る。引取機により線条集合体を引き取り、送り出せば、溶融状態にある線条集合体が水により、冷却固化され、最終的に形状が固定され、ローラーで挟み込むことで、冷却槽から引き出される。
【0076】
水槽の水位は、シューターの傾斜面の下端部の高さ以上とすることが望ましい。シューターの配置高さによらず、傾斜面の下端部を基準に設定され、引取機の一部が水上に露出することは支障とならない。水位は、傾斜面の下端部からの高さが、0~45mmに設定することが好ましく、1~30mmの高さに設定することがより好ましく、3mm~22mmの高さに設定することがさらに好ましい。水位は傾斜面の下端部の高さと同一の高さを含み、これ以上の水位であれば本発明を実施できる。製造時の水位のばらつきや機械の水平度などを考慮して水位高さを設定することが好ましい。製造条件にも影響されるが、水位を3mm以上の高さに設定すれば、水圧などの影響により水位が傾斜面の下端部より低くなることを防止できる。一方、水位が傾斜面の下端部から30mmを越すと、条件によっては樹脂の固化が始まり繊維同士の融着が悪くなり、また表面の粗さが増して不適当となる。
【0077】
つぎに、成形開口部と同様の形状を断面に有する立体網状構造体は、水切り後、ローラーによって乾燥熱処理槽に送られ、熱風による乾燥熱処理によってアニーリング行う。この時、乾燥熱処理槽の前後のローラーの引取速度を異なるように設定することが好ましい。例えば、乾燥熱処理槽の入口付近のローラーの引取速度よりも、乾燥熱処理槽の出口付近のローラーの引取速度を低く設定する。乾燥熱処理後、所望の長さに切断して、立体網状構造体を得る。乾燥熱処理前に所望の長さに切断してもよい。
【0078】
この乾燥熱処理によるアニーリングは、水槽から取り出し、水切りを行った立体網状構造体を乾燥温度で所定時間処理する。乾燥温度は、ポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物の場合、混合物の融点以下であることが好ましく、融点より5℃~50℃低いことが好ましい。
【0079】
アニーリングは、水槽から取り出し水切りを行った後、枠に立体網状構造体を圧縮状態で収容し、熱風で熱処理し、型を外したものでもよい。この場合の乾燥温度は原料となる熱可塑性樹脂の融点以下であることが好ましく、融点より10~30℃低いことが好ましい。アニーリング温度によっては、表面がべたつく場合もあるので複数回繰り返してもよい
【0080】
上記のように水槽で立体網状構造体を成形した後、後工程でアニーリング(以下、追加アニーリングという。)しても良いし、水槽に加温した水を供給することによって、生産時に追加的にアニーリング(以下、生産時アニーリングという。)しても良い。
【0081】
生産時アニーリングは、ポリプロピレン系共重合体(a)、ポリプロピレン系共重合体(b)の混合物の場合は、融点より少なくとも10℃~70℃以上低い温度で処理することが好ましい。また、ポリプロピレン系共重合体(a)、ポリプロピレン系共重合体(b)、およびポリエチレン系樹脂(c)の混合物の場合は、融点より10~70℃以上低いことが好ましい。
【0082】
生産時アニーリングの場合、少なくとも一対のシューターに常温の水を供給する代わりに、シューターに供給する加温水を20~90℃の範囲(20~80℃以上が好ましく、25~50℃がさらに好ましい。)で供給し、線条をランダムに熱溶着させランダムループを形成しながらアニーリングを行う。加温水の場合、ポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物の場合には、25~70℃、ポリエチレン系樹脂(c)とポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)の混合物の場合は、25~60℃が好ましい。加温水としては、(A)シューターに流す水を加温する、(B)水槽自体を温める、(C)シューターをタンクのような形状として内部温度を上げる、などがある。またそれら複合としても良い。シューターへ供給する加温水の温度を上げすぎると、樹脂がシューターにくっつくおそれがあるので、温度は適宜の温度、例えば、10~60℃が望ましい。追加アニーリングは立体網状構造体を水槽から引き揚げた後、湯、または熱風に浸漬、通過して行う。
【0083】
アニーリングは、乾燥熱処理等による追加アニーリングと、水槽等の温水による生産アニーリングどちらかを1回だけ行ってもよいし、生産アニーリングの後に追加アニーリングを行い、二段階でアニーリングを行ってもよい。また、追加アニーリングを二段階で行ってもよい。この場合、一回目の追加アニーリング温度よりも二回目の追加アニーリング温度を高く設定する。
【0084】
本発明の立体網状構造体は、上記製法により、柔らかな反発特性、縦方向および横方向の寸法安定性特性を実現する。また、縦方向と横方向で異なる熱伸縮特性を実現する。本発明者の分析によれば、弾性特性や熱伸縮特性、さらに非等方性の熱伸縮率になるメカニズムは複雑であり、すべてが明らかになっているわけではないが、原料の適切な範囲の線径減少率と溶融粘度とMFR、口金の穴径からの押出成形処理、線条のループ形成処理、線条の冷却処理、及び、乾燥熱処理による追加アニーリングや生産時アニーリングを適切に行うことにより、線条が自然降下し、絡合し、冷却されるときに、基本的には、線条の太さの特徴的な変動現象・揺動現象により、縦方向と横方向で絡合の形態が相違するものと考えている。
【0085】
横方向、縦方向に熱伸縮するのは、原料の線径減少率、口金の径、コンベアの引取速度、アニーリング等が要素となるからである。状況によりアニーリングの温度の変更、後加工の高温熱プレスなどの温度設定によりヒステリスロス、反発力、硬さ変化などの調整も可能である
【0086】
なお、本発明の立体網状構造体は、性能を低下させない範囲で樹脂製造過程から成形体に加工し、製品化する任意の段階で防臭抗菌、消臭、防黴、着色、芳香、難燃、不燃、吸放湿等の機能付与を薬剤添加等の処理加工により付与することができる。
【0087】
なお、上に記載した特性値の測定および後述する実施例に記載する特性値の測定は下記のように行った。
【0088】
(1) 線径 (mm)
試料の中心部分から樹脂糸を切り出し、ノギスで樹脂糸の厚みを5回測定した。5回の測定値の平均値を線径とした。S1とS2に対して測定した。アニーリング有りの温度は60℃、アニーリングなしは23℃とした。
【0089】
(2) 試料厚み及び嵩密度 (g/cm3)
試料を30cm×30cmの大きさに切断し、無荷重で24時間放置した後、4か所の高さを測定して平均値を試料厚みとした。試料厚みから体積を求め、試料の重さを体積で除した値を試料の嵩密度とした。
【0090】
(3) ランダムループの平均直径 (mm)
試料を20cm×20cmの大きさに切断し、押し出し方向表面に形成された不規則な形状のランダムループのループ円の直径が大きいほうを10か所測定を行い、平均値をミリ以下、切り捨て、ランダムループの平均直径とした。
【0091】
(4) 硬さ (N)
試料を30cm(縦)×30cm(横)の大きさに切断し、この試験片をJIS K 6400-2:2012 A法を準用して計測した。試験温度23℃、湿度50%である。
【0092】
(5) 反発弾性(cm)
試料を30cm(縦)×30cm(横)の大きさに切断し、この試験片をJIS K 6400-3:2011を準用して測定を行った。鋼球は直径が41.5mm、重さ290gのものを使用した。落下高さ500mmとした。試験温度23℃、湿度50%である。
【0093】
(6) ヒステリシスロス (%)
試料を30cm(縦)×30cm(横)の大きさに切断し、この試験片をJIS K 6400-2:2012 E法を準用して測定した。
【0094】
(7) 乾燥熱風試験前後の熱伸長率 (%)
試料を30cm(縦)×30cm(横)の大きさに切断し、試験片の縦方向と横方向の各2箇所に25cmとなるようにマーキングを行った。乾燥熱風試験後でも容易に識別できるペンでマーキングした。マーキングを行った試験片を熱風乾燥炉に30分間入れた。その後、熱風循環乾燥炉から試料を取り出し、22℃の室温で30分間冷却した。冷却後に縦方向と横方向のマーキング距離を各2箇所計測し、各2箇所の平均値を、試験後の縦長さ、試験後の横長さとした。全ての長さの測定は、0.01cmまで読み取れる計測器を用いた。乾燥熱風試験前後の熱伸長率は、(得られた長さ-25)/25×100で計算した。ポリプロピレン系共重合体(a)およびポリプロピレン系共重合体(b)の混合物からなる立体網状構造体の乾燥熱風試験温度は110℃、試験前後の熱伸長率は、(得られた長さ-25)/25×100で計算した。ポリプロピレン系共重合体(a)およびポリプロピレン系共重合体(b)とポリエチレン系樹脂(c)の混合物からなる立体網状構造体の乾燥熱風試験温度は90℃とした。
【0095】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0096】
材料として、以下のポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)を使用した。
ポリプロピレン系共重合体(a):プロピレン・エチレン共重合体(ブロック共重合体)
エチレン含有率(重量%):4%
融解ピーク温度:117℃
ビカット軟化点温度(JIS K7206に準拠して測定):95℃
MFR:30g/10min
曲げ弾性率(JIS K7171:1982に準拠して測定):1380MPa
ポリプロピレン系共重合体(b):プロピレン・エチレン共重合体(ランダム共重合体)
エチレン含有率(重量%):15%
ビカット軟化点温度(JIS K7206に準拠して測定):47℃
MFR:20g/10min
曲げ弾性率(JIS K7171:1982に準拠して測定):12MPa
【0097】
[実施例1]
単軸押出機を使用して、上述したポリプロピレン系共重合体(a)とポリプロピレン系共重合体(b)を25:75の重量比率で、210℃で溶融混練し、溶融された原料を225℃に加熱したダイス内部へ送り、押出量が70Kg/hにて、孔間ピッチ10mm、ノズル孔径1.6mmの口金の複数の押出口から線条を吐出した。ノズル面190mm下にシューター下端を配し下端を水没させ、幅105cmのステンレス製コンベアを平行に開口幅71mm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配して、溶融状態の吐出線条をシューターの上で20℃の水をシューター上に供給することにより固化処理を行うとともに、線条を接触絡合させてループを形成して接触部分を融着させつつ立体網状構造を形成し、溶融状態の立体網状構造体の両面を引取コンベアで挟み込みつつ引取速度が5mm/secで20℃の水へ引込み固化させ両面をフラット化した後、所定の大きさに切断して、60℃の温水内で押出方向および幅方向に圧縮力を加えながらアニーリングを行い、立体網状構造体を得た。得られた立体網状構造体は、断面形状が四角形、線経が1、0mmの線条で形成されており、表面は平坦化されており、嵩比重が60kg/m3、厚みが80mm、幅890mmで、110℃で30分間の乾燥熱風試験前後の熱伸長率が縦方向で0~8%、横方向で0~8%、ヒステリスロスが32%、反発弾性26cm、硬さ446Nであった。
【0098】
実施例1で得られた立体網状構造体の硬さのばらつきを以下のように測定した。立体網状構造体1を
図1のように、幅方向3個(A、B、C)×押出方向3個(1、2、3)の計9個のサンプルを切断し、それぞれの硬さを測定した。各サンプルの大きさは幅380mm、押出方向380mmとした。硬さは、JIS―K6400-2:2012 A法に従い、各サンプルを60mm押し込んだ時の最大値を硬さの値として採用した。測定は、三河繊維技術センターのテンシロンを用い、ゼロ点は0.3N測定点とし、加圧板は直径10cm、移動速度は100mm/minであった。なお、予備圧縮は60mm押し込みを3回行い、予備圧縮後に改めてゼロ点を取り直した。得られた9個のデータの平均値、標準偏差から変動係数を求めて、ばらつきを表す値とした。結果を表1に示す。
【0099】
[比較例]
比較例では、材料として、実施例1で用いたポリプロピレン系共重合体(b)と、ポリプロピレン単独重合体(c)、ポリプロピレン系共重合体(d)を使用した。
ポリプロピレン単独重合体(c)
MFR:36g/10min
ポリプロピレン系共重合体(d)
エチレン含有率:9%
ビカット軟化点温度(JIS K7206に準拠して測定):77℃
MFR:8g/10min
曲げ弾性率(JIS K7171:1982に準拠して測定):110
【0100】
[比較例1]
単軸押出機を使用して、ポリプロピレン系共重合体(b):ポリプロピレン単独重合体(c):ポリプロピレン系共重合体(d)を重合比率30:10:60の重量比率で、210℃で溶融混練した以外は、実施例1と同じ条件により立体網状構造体を得た。得られた立体網状構造体は、断面形状が四角形、線経が1.0mmの線条で形成されており、表面は平坦化されており、嵩比重が60kg/m3、厚みが80mm、幅890mmで、硬さ900Nであった。
【0101】
比較例1で得られた立体網状構造体も、実施例1と同様の方法により、硬さのばらつきを測定した。結果を表1に示す。
【0102】
【0103】
表1に示されるように、実施例1の変動係数CVは3.8%であるの対して、比較例1の変動係数CVは19.0%となり、実施例1の立体網状構造体においては硬さのばらつきが少ないことがわかる。
【0104】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、様々な改変、置換、欠失等を行うことが出来、改変、均等、置換、欠失等も本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の立体網状構造体は硬さのばらつきが少なく、健康志向にフィットした弾性特性を備えた乗物座席、クッション、マットレス、カバー等を提供できる。特に、褥瘡、介護など、ソフトで、縦方向に伸びやすいクッションを提供できる。また、乗物の座席、ベッド、マット等に利用されるクッションやカバーに利用されるシート等に利用できる。