(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】イオン源と、それを備えた多種イオン生成装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/20 20060101AFI20230622BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20230622BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20230622BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
H01J27/20
H01J37/08
G21K5/04 A
G21K5/04 W
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2021511364
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011145
(87)【国際公開番号】W WO2020203186
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019071409
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】片桐 健
(72)【発明者】
【氏名】涌井 崇志
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-168541(JP,A)
【文献】特開平7-169428(JP,A)
【文献】特開昭60-240039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/20
H01J 37/08
G21K 5/04
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源と、
前記電子源からホロー電子ビームを引き出すアノード電極およびカソード電極と、
引き出された前記ホロー電子ビームの通過領域を囲むドリフトチューブと、
前記通過領域を通過した前記ホロー電子ビームの進行方向を、前記電子源側に反転させるリペラーと、
前記通過領域に、原料ガスを供給するガス供給手段と、を備え、
前記電子源、前記アノード電極、前記リペラー、前記ガス供給手段が、いずれも前記ドリフトチューブの外に配置されていることを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記アノード電極が、発生する前記ホロー電子ビームの量を調整する第一アノード電極と、前記ドリフトチューブの中心軸方向にイオントラップを形成する第二アノード電極と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記ドリフトチューブの外壁面の周囲に配置された、磁場発生手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のイオン源。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン源を、複数備えた多種イオン生成装置であって、
それぞれの前記イオン源から、生成されたイオンを取り出すイオン取り出し手段をさらに備え、
前記イオン取り出し手段が、複数の前記イオン源のうち少なくとも一つを、所定のイオン取り出し部と連結させるイオン流路と、前記イオン流路が連結される前記イオン源を変更する被連結イオン源変更手段と、で構成されていることを特徴とする多種イオン生成装置。
【請求項5】
前記被連結イオン源変更手段が、前記イオン取り出し部と接続される前記イオン流路の一端側に固定され、前記イオン流路を回転させる回転軸を有し、
複数の前記イオン源が、前記回転軸からの距離が互いに等しくなるように、かつ回転した前記イオン流路の他端が、複数の前記イオン源のうち、いずれかの前記通過領域と連結できるように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の多種イオン生成装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のイオン源と、
第一ガス流路を介して前記イオン源と連結された排気手段と、
前記第一ガス流路から分岐した、複数の第二ガス流路のそれぞれに連結されたガス供給手段と、を備え、
前記第一ガス流路のコンダクタンスCが、前記イオン源の体積Vと前記イオン源の排気時間Δtとの比V/(Δt)以上であることを特徴とする多種イオン生成装置。
【請求項7】
前記排気時間Δtが1秒以下であることを特徴とする請求項6に記載の多種イオン生成装置。
【請求項8】
複数の前記第二ガス流路のそれぞれに、ガス流量を調整するマスフローコントローラーが設けられていることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の多種イオン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源と、それを備えた多種イオン生成装置に関する。
本願は、2019年4月3日に、日本に出願された特願2019-071409号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
重粒子線がん治療のさらなる治療効果の向上のため、数種類のイオンを用いて治療を行うマルチイオン照射法が提案されている。全国に普及しつつある小型治療装置を備えた重粒子線がん治療施設にて、この方法を展開するためには、4種類のイオン(He、C、O、Ne)の生成と、その切り替えを素早く行える、小型のマルチイオン生成システムが必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K. Takahashi et al., Proc. of the 15th Annual Meeting of ParticleAccelerator Society of Japan, Nagaoka, Japan, 2018, p.408
【文献】E. D. Donets, E. E. Donets, and D. E. Donets, Review of Scientific Instruments, Volume73, Number2, 2002, p.696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでに、1台のECRイオン源のガス供給系の制御により、イオン種の切り替えを行う方法が試されているが、イオン種の切り替えには数分間の時間を要することが実験により確認されている(非特許文献1)。また、ECRイオン源と構造が全く異なるEBISイオン源が知られているが、従来のEBISイオン源は重元素多価イオンの生成を目的として設計されているため、重粒子線治療用小型ECRイオン源より大きい(非特許文献2)。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、供給するイオン種の切り替えを、短い時間で行えるように小型化したイオン源と、それを備えた多種イオン生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0007】
(1)本発明の一態様に係るイオン源は、電子源と、前記電子源からホロー電子ビームを引き出すアノード電極およびカソード電極と、引き出された前記ホロー電子ビームの通過領域を囲むドリフトチューブと、前記通過領域を通過した前記ホロー電子ビームの進行方向を、前記電子源側に反転させるリペラーと、前記通過領域に、原料ガスを供給するガス供給手段と、を備え、前記電子源、前記アノード電極、前記リペラー、前記ガス供給手段が、いずれも前記ドリフトチューブの外に配置されている。
【0008】
(2)前記(1)に記載のイオン源において、前記アノード電極が、発生する前記ホロー電子ビームの量を調整する第一アノード電極と、前記ドリフトチューブの中心軸方向にイオントラップを形成する第二アノード電極と、を含んでいてもよい。
【0009】
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載のイオン源において、前記ドリフトチューブの外壁面の周囲に配置された、磁場発生手段をさらに備えていてもよい。
【0010】
(4)本発明の一態様に係る多種イオン生成装置は、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のイオン源を、複数備えた多種イオン生成装置であって、それぞれの前記イオン源から、生成されたイオンを取り出すイオン取り出し手段をさらに備え、前記イオン取り出し手段が、複数の前記イオン源のうち少なくとも一つを、所定のイオン取り出し部と連結させるイオン流路と、前記イオン流路が連結される前記イオン源を変更する被連結イオン源変更手段と、で構成されている。
【0011】
(5)前記(4)に記載の多種イオン生成装置において、前記被連結イオン源変更手段が、前記イオン取り出し部と接続される前記イオン流路の一端側に固定され、前記イオン流路を回転させる回転軸を有し、複数の前記イオン源が、前記回転軸からの距離が互いに等しくなるように、かつ回転した前記イオン流路の他端が、複数の前記イオン源のうち、いずれかの前記通過領域と連結できるように配置されていてもよい。
【0012】
(6)本発明の他の一態様に係る多種イオン生成装置は、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のイオン源と、第一ガス流路を介して前記イオン源と連結された排気手段と、前記第一ガス流路から分岐した、複数の第二ガス流路のそれぞれに連結されたガス供給手段と、を備え、前記第一ガス流路のコンダクタンスCが、前記イオン源の体積Vと前記イオン源の排気時間Δtとの比V/(Δt)以上である。
【0013】
(7)前記(6)に記載の多種イオン生成装置において、前記排気時間Δtが1秒以下であることが好ましい。
【0014】
(8)前記(6)または(7)のいずれかに記載の多種イオン生成装置において、複数の前記第二ガス流路のそれぞれに、ガス流量を調整するマスフローコントローラーが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、供給するイオン種の切り替えを、短い時間で行えるように小型化したイオン源と、それを備えた多種イオン生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の多種イオン生成装置を含む、普及型小型治療装置の構成図である。
【
図2】本発明の第一、第二実施形態に係るイオン源の断面図である。
【
図3】(a)、(b)本発明の第一実施形態に係る多種イオン生成装置の側面図、断面図である。
【
図4】
図2のイオン源と、重粒子線治療用小型ECRイオン源とを比較した図である。
【
図5】シンクロトロン、入射器、本発明の多種イオン生成装置の動作タイミングの関係を示す図である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る多種イオン生成装置の構成図である。
【
図7】(a)、(b)本発明の実施例として、イオン源内における電子軌道、電子分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例として、イオン源内の蓄積電子数の時間変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図9】(a)本発明の実施例として、生成させた各種イオンの電離断面積データテーブルを示すグラフである。(b)、(c)本発明の実施例として、生成させた各種イオンの価数分布比のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態に係るイオン源と、それを備えた多種イオン生成装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係る多種イオン生成装置150を含む、普及型小型治療装置の構成図である。普及型小型治療装置は、主に、多種イオン生成装置150と、普及型小型入射器160と、普及型シンクロトン170と、で構成されている。
【0019】
多種イオン生成装置150は、主に、複数のイオン源100と、それぞれのイオン源100から、生成されたイオンを取り出すイオン取り出し手段(装置)120と、を備えている。イオン源100としては、軽イオン生成用の小型電子ビーム型イオン源(EBIS)が用いられる。
【0020】
図2は、イオン源100の断面図である。イオン源100は、主に、電子源101と、電子源101からホロー電子ビームEBを引き出すアノード電極102およびカソード電極103と、引き出されたホロー電子ビームEBの通過領域104を囲むドリフトチューブ105と、通過領域104を通過したホロー電子ビームEBの進行方向を、電子源101側に反転させるリペラー106と、真空チャンバー110と、を備えている。電子源101、アノード電極102、カソード電極103、リペラー106は、いずれも、真空チャンバー110内において、ドリフトチューブ105に囲まれた空間の外に配置されている。ドリフトチューブ105に囲まれた空間は、空洞となっている。
【0021】
ドリフトチューブ105の外には、さらに、電磁石または永久磁石等の磁場発生手段(磁場発生装置)107が、ドリフトチューブ105の周りを囲むように配置されている。
アノード電極102は、発生するホロー電子ビームEBの量を調整する第一アノード電極と、ドリフトチューブ105の中心軸方向にイオントラップを形成する第二アノード電極と、を含んでいてもよい。
【0022】
カソード電極(陰極)103上の電子源101から、アノード電極(陽極)102によって引き出された電子ビームEBは、磁場発生手段107から発生した磁場の方向に沿って、ドリフトチューブ105内を運動する。円環状の電子源101、カソード電極103、アノード電極102を備えた電子銃の設計を適切に行うことにより、ホロー(円環)形状の電子ビームEBを形成することができる。このホロー形状の電子ビームEBにより、空間電荷効果により生じるドリフトチューブ105内の電位低下を抑制し、線状ビームの場合に比べてより多くの電子を蓄えることが可能となる。発生させる電子ビームEBの運動エネルギーは、カソード電極103とドリフトチューブ105との間の電位差を変えることで調整することができる。
【0023】
ホロー電子ビームEBは、リベラーアノード108を過ぎ、電子源101と同じ、もしくはそれよりも低い電圧に設定されたリペラー106まで辿り着くと、反転されて逆方向への運動を始め、再び電子源101の周辺まで辿り着く。この繰り返しにより、ドリフトチューブ105内には、イオンを生成する上で、好ましいエネルギーを有する電子が蓄積される。
【0024】
蓄積された電子の空間電荷効果により、ドリフトチューブ105内の中空部分において、径方向(r方向)に電位分布が形成され、中空部分を貫く中心軸105C上の電位は、ドリフトチューブ105の電位に比べて低下する。このr方向の電位分布に加えて、アノード電極102及びリペラーアノード108の電位を、ドリフトチューブ105よりも高い電位に設定することで、軸方向(s方向)にも電位分布を与え、イオンの閉じ込めに必要なポテンシャル井戸が形成される。
【0025】
イオン化させるガスは、イオン源100の外部からドリフトチューブ105内に供給される。供給されたガスは、そこに蓄積された電子と衝突し、一価イオンが生成される。生成された一価イオンは、ドリフトチューブ105内に形成されたポテンシャル井戸に閉じ込められる。閉じ込め時間τが長ければ長いほど、多くの一価イオンが、逐次電離によって多価イオンへと変化する。
【0026】
目的の多価イオンを生成する上で、必要な閉じ込め時間τ(20~200ms)を達成するためには、イオン源100内のドリフトチューブ105周辺を、高い真空度に保つ必要がある。そのために、NEG(Non・evaporated getter)ポンプを、ドリフトチューブ周囲に配置する。生成された多価イオンは、引き出し電極109により、イオン源100外に取り出される。
【0027】
図3(a)は、本実施形態の多種イオン生成装置150を、イオン源100における、イオンの取り出し口側から平面視した側面図である。
図3(b)は、
図3(a)の多種イオン生成装置150を、α-α線を含む面で切断した際の断面図である。多種イオン生成装置150は、主に、複数(ここでは4つ)のイオン源100と、それぞれのイオン源100から、生成されたイオンを取り出すイオン取り出し手段120と、を備えている。生成が必要なイオン種の数と同数のイオン源100が、設置されるものとする。生成するイオン種としては、例えば、He、C、O、Ne等が挙げられる。
【0028】
イオン取り出し手段120は、複数のイオン源100のうち少なくとも一つを、所定のイオン取り出し部121と連結させるイオン流路(偏向器)122と、イオン流路122が連結されるイオン源100を変更する被連結イオン源変更手段123と、で構成されている。
【0029】
被連結イオン源変更手段123としては、特に限定されることはないが、例えば
図3に示すように、イオン取り出し部121と接続されるイオン流路の一端122a側に固定され、イオン流路122を回転させる回転軸124を有するものが挙げられる。この場合には、複数のイオン源100が、回転軸124からの距離が互いに等しくなるように、かつ回転したイオン流路の他端122bが、複数のイオン源100のうち、いずれかの通過領域104と連結できるように配置されているものとする。
【0030】
回転軸124を真空中で回転駆動させる場合には、マニピュレータとして磁気結合式回転導入器を用い、その回転駆動にはステッピングモーターを用いることができる。イオンの切り替えに必要となる時間は、イオン流路122を回転させるのに必要な約1秒以内となる。イオン流路122は、選択したイオン源によって、下流の分散関数に変化が生じないように設計されているものとする。
【0031】
図4(a)、(b)は、それぞれ、
図2のイオン源100、重粒子線治療用小型ECRイオン源の断面図である。電子ビームEBの通過方向におけるイオン源100の寸法L1は、ECRイオン源500の最大寸法L2の1/4程度であるため、イオン源100を用いる場合には、設置スペースを大幅に削減することができる。
【0032】
図5は、シンクロトロン、入射器、本発明の多種イオン生成装置150の動作タイミングの関係を示す図である。シンクロトロンでは、10秒オーダーの周期で運転が行われており、その周期の始まりの時間幅100μsの間に、入射器よりイオンが供給される。この時間幅100μsで、小型マルチイオン生成システムは、下流の入射器に対してイオンを供給する。あるイオンの供給が終わり、次の供給のタイミングが来るまでの間(シンクロトロンの1周期に相当する10秒間)に、供給イオンの切り替えを行うことができる。
そして、次の供給のタイミングでは、前の周期とは異なるイオンを供給することが可能となる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係るイオン源は、電子源101、アノード電極102、リペラー106等をドリフトチューブの外に配置し、ドリフトチューブ内を中空にすることによって、小型化されたものである。したがって、従来のECRイオン源一つ分の設置スペースに、本実施形態に係るイオン源100を複数設置することが可能となり、複数のイオン源100を備えた多種イオン生成装置150を容易に実現することができる。複数のイオン源100をそれぞれ駆動させることにより、異なる複数のイオンの生成を同時に行うことができる。そのため、本実施形態の多種イオン生成装置によれば、供給するイオン種の切り替えを、一つのイオン源で複数のイオンを順番に生成させる場合に比べて、短い時間で行うことが可能となる。
【0034】
<第二実施形態>
図6は、本発明の第二実施形態に係る多種イオン生成装置210の構成図である。多種イオン生成装置210は、イオン源200と、第一ガス流路211を介してイオン源200と連結された排気手段212と、第一ガス流路211から分岐した、複数の第二ガス流路213のそれぞれに連結されたガス供給手段214と、を備えている。複数のガス供給手段214は、それぞれ、互いに異なるイオンの原料ガスを供給する機能を有する。イオン源200は、第一実施形態のイオン源100と同様に構成されているものとする。
【0035】
多種イオン生成装置210は、ガスラインおよびイオン源200内の真空排気を素早く行うことにより、生成イオンの切り替えを行えるように構成されている。具体的には、まず、生成イオンの変更の際に、シリンダー前のバルブV2、V3、V4、V5を閉めて、V1を開け、ガスラインおよびイオン源200内の真空チャンバー110の真空排気を行う。真空排気を素早く行うために、第一ガス流路211、第二ガス流路213となる導管として、内径の大きいものが用いられ、かつ真空チャンバー110は超高真空に保たれるようにする。真空排気が終了した後に、使用するガスシリンダーのバルブを開け、V1を閉じ、供給ガスの切り替えを行う。
【0036】
複数の前記第二ガス流路のそれぞれには、ガス流量を調整するマスフローコントローラーが設けられている。バルブV2、V3、V4、V5が、このマスフローコントローラーの機能を有していてもよい。このバルブ操作で行うイオン切り替えの時間は、バルブ間導管(第一ガス流路211、第二ガス流路213)の体積と、イオン源200の体積とによって定まる排気の時定数τevacと同程度となる.この時定数τevacは、例えば、イオン源200の体積を0.4Lとし、バルブ間導管の内径を9mmとし、その長さを200mmとしてより見積もると、1秒である。この排気の時定数であれば、イオン源200の排気を開始して4.7秒後には、残留ガスの量を、排気開始する前の1/100に減らすことができるので、イオンの切り替えも可能となる。真空チャンバー110の吸排気の性能は、主に、第一ガス流路211のコンダクタンスCによって左右される。時定数τevac以下の時間で真空排気を行う場合、第一ガス流路211のコンダクタンスCは、イオン源200の体積V(真空チャンバー110の容積)、イオン源200(真空チャンバー110)の排気時間Δtとの間に、下記(1)式の関係を有する。
C≧V/(Δt)・・・(1)
すなわち、第一ガス流路211のコンダクタンスCは、イオン源200の体積Vとイオン源200の排気時間Δtとの比V/(Δt)以上である。本実施形態での排気時間Δtは、約1秒以下であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0038】
本発明の実施例として、イオン源内における電子軌道、電子分布について、3次元PICコードを用いたシミュレーションを行った。
図7(a)は、イオン源を駆動した状態での電子軌道を示す図である。ソレノイドを数値解析して得た磁場分布を用いている。10
7個の粒子を用いて計算し、そのうちの10
2個の粒子の軌道をプロットしている。
図7(b)は、イオン源の断面における、電子ビーム電流密度jのr((x
2+z
2)
1/2)方向依存性を示すグラフである。これらの結果から、本発明のイオン源において、ホロー形状の電子ビームの形成が可能であることが分かる。
【0039】
本発明の実施例として、イオン源内の蓄積電子数の時間変化のシミュレーションを行った。
図8は、その結果を示すグラフである。イオン源内の蓄積電子数の時間変化より、ドリフトチューブ内の電子数は1.5×10
11に達することが分かる。この結果は、イオンの価数が最大のNe
7+イオン(q=7)の場合でも、ドリフトチューブ内に最大でN~10
10個蓄えられることを示している。また、マルチイオン生成システムから、マルチターン入射を行うシンクロトロンまでの輸送効率を10%とすれば、シンクロトロンにはN~10
9個のイオンを供給できることが分かる。
【0040】
図9(a)は、本発明の実施例として、生成させた各種イオンの電離断面積を示すグラフである。
図9(b)、(c)は、本発明の実施例として、生成させた各種イオンの価数分布比のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0041】
各電極の電位については、陰極:0V、第一アノード電極:1.5kV、第二アノード電極:1.7kV、ドリフトチューブ:1.3kV,リベラーアノード:1.7kV,リベラー:-100V、引き出し電極:-4kVとした。この条件で得られたドリフトチューブ内の平均の電子ビームエネルギーは、660eVであった。このエネルギーは、
図9(a)に示す通り、He
2+、C
4+、C
5+,Q
6+、Ne
7+の逐次電離による生成に十分である。
【0042】
図9(b)は、炭素イオンに関する全生成イオン数n
oに対する、各イオンの生成数n
qの割合であるn
q/n
0を、電子ビーム電流密度jと閉じ込め時間τの積であるjτの関数として示したものである。jτの値を図中のターゲット領域で調整すると、C
4+はn
q/n
0=0.83、C
5+はn
q/n
o=0.62の値を最大で得ることができる。
【0043】
同様に、
図9(c)に示す通り、He
2+はn
q/n
0=1.0、O
6+はn
q/n
0=1.0(660eVではK核は電離できず、q=6に溜まる)、Ne
7+はn
q/n
0=0.49の値を最大で得ることができる。このターゲット領域のjτの値(=0.2-2C/cm
2)を達成するためには、
図7(b)から、j=10A/cm
2であるので、閉じ込め時間はτ=20-200msに設定する必要があるが、これはEBISでは一般的な値であり、本発明のイオン源でも問題なく実現することができる。
【符号の説明】
【0044】
100、200・・・イオン源、101・・・電子源、102・・・アノード電極
103・・・カソード電極、104・・・通過領域、105・・・ドリフトチューブ
105C・・・中心軸、106・・・リペラー、107・・・磁場発生手段
108・・・リベラーアノード、109・・・引き出し電極、
110・・・真空チャンバー、120・・・イオン取り出し手段
121・・・イオン取り出し部、122・・・イオン流路
122a・・・イオン流路の一端、122b・・・イオン流路の他端、
123・・・被連結イオン源変更手段
124・・・回転軸、150、210・・・多種イオン生成装置、160・・・入射器
170・・・普及型シンクロトン、180・・・治療室、211・・・第一ガス流路
212・・・排気手段、213・・・第二ガス流路、214・・・ガス供給手段
500・・・ECRイオン源、EB・・・ホロー電子ビーム