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特許7300198低侵襲心臓弁修復のための縫合糸取付装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】低侵襲心臓弁修復のための縫合糸取付装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/04 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
A61B17/04
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021512847
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 US2019050210
(87)【国際公開番号】W WO2020051583
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】62/728,349
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520367728
【氏名又は名称】ネオコード インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NEOCHORD,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】カフェズ、レヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルガーソン、ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】シフレ、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】エドミストン、ダリル
(72)【発明者】
【氏名】ガービン、グラハム
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0161035(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0148825(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0118151(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0944411(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04 - 17/062
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫合糸を担持して患者の拍動している心臓の弁尖に前記縫合糸を挿入することによって心臓弁を修復するように構成されている縫合糸取付カテーテルであって、
近位端、遠位端および100cmを超える長さを有する全体的に可撓性のカテーテルボディと、
前記縫合糸を前記弁尖に案内するための、前記カテーテルボディの前記遠位端の近くの縫合糸取付アセンブリであって、前記縫合糸取付アセンブリが、前記カテーテルボディの前記遠位端に設けられている近位クランプ顎部と、近位部および遠位部を有し、前記近位部が前記近位クランプ顎部に対して選択的に長手方向に摺動可能であるように構成されるレールと、前記レールの前記遠位部に蝶着されている遠位クランプ顎部とを含む、縫合糸取付アセンブリと、
前記縫合糸を前記弁尖に挿入するように構成される針と、
前記カテーテルボディの前記近位端に操作可能に取り付けられている制御ハンドルであって、前記制御ハンドルが、前記近位クランプ顎部に対して前記レールを選択的に長手方向に摺動させるように構成されるレールアクチュエータと、前記縫合糸取付アセンブリを心臓に送達するための第1の位置と、前記近位クランプ顎部と前記遠位クランプ顎部との間に弁尖を捕捉するための第2の位置との間で、前記遠位クランプ顎部を選択的に枢動させるように構成される顎部アクチュエータとを含む、制御ハンドルと、
前記顎部アクチュエータから前記カテーテルボディを通って、前記遠位クランプ顎部まで延びている可撓性部材であって、前記顎部アクチュエータが前記可撓性部材を選択的に動かして、前記遠位クランプ顎部を枢動させる、可撓性部材と
を備える、縫合糸取付カテーテル。
【請求項2】
前記制御ハンドルに制御ノブをさらに備え、
前記制御ノブは、前記レールアクチュエータおよび前記顎部アクチュエータの両方を制御するように構成される、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項3】
前記制御ノブは、前記レールアクチュエータを制御するために長手方向に動かされ、かつ前記顎部アクチュエータを制御するために回転させられるように構成される、請求項2に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項4】
前記可撓性部材は、前記遠位クランプ顎部のハウジングの中まで延びている、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項5】
前記可撓性部材はワイヤを備える、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項6】
前記近位クランプ顎部から延びているワイヤループをさらに備え、
前記ワイヤループは、前記近位クランプ顎部の表面積に対して前記弁尖を補足するための表面積を増やすために、前記近位クランプ顎部と連結するように構成される、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項7】
前記ワイヤループは、折りたたまれた位置から、前記近位クランプ顎部が心臓内で送達カテーテルから出て延ばされる拡張位置まで自動的に移行するように構成される、請求項6に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項8】
前記遠位クランプ顎部は、張力下で縫合糸を保持するように構成される縫合糸配糸ポストを含む、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項9】
前記遠位クランプ顎部の周縁は、前記遠位クランプ顎部と前記近位クランプ顎部との間の弁尖の保持を高めるように構成される複数の段付き歯を画定する、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項10】
前記近位クランプ顎部は、前記遠位クランプ顎部と前記近位クランプ顎部との間の弁尖の保持を高めるように構成される複数の段付き歯を画定する、請求項9に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項11】
前記制御ハンドルから前記近位クランプ顎部まで延びている1本または複数本の光ファイバーケーブルをさらに備え、
前記近位クランプ顎部は、前記近位クランプ顎部のクランプ面に開口部を含むことによって、前記1本または複数本の光ファイバーケーブルにより前記近位クランプ顎部と前記遠位クランプ顎部との間の弁尖の捕捉を確認可能である、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項12】
前記針は、前記カテーテルボディ内で選択的に摺動可能であり
前記針は、弁尖が前記近位クランプ顎部と前記遠位クランプ顎部との間に捕捉されるときに、前記近位クランプ顎部から延びて弁尖に侵入し、弁尖を通して縫合糸を挿入するように構成される、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項13】
前記制御ハンドルに設けられている針リリース部をさらに備え、
前記針は、前記針リリース部が作動するまでは、前記近位クランプ顎部から延びることが防止される、請求項12に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項14】
前記針によって手繰り寄せるために前記遠位クランプ顎部に保持されるように構成される縫合糸と、
前記制御ハンドルに設けられている縫合糸張力付与アセンブリとをさらに備え、
前記縫合糸張力付与アセンブリは、前記縫合糸に張力を加えて、前記縫合糸を張力下で前記遠位クランプ顎部に保持可能に構成される、請求項12に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項15】
前記ハンドルに設けられている縫合糸リリースピンをさらに備え、
前記縫合糸リリースピンは、前記縫合糸の張力をリリースして、前記縫合糸を前記遠位クランプ顎部から手繰り寄せることが可能なように構成される、請求項14に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項16】
前記縫合糸取付アセンブリは、前記カテーテルボディよりも可撓性が小さい、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項17】
前記縫合糸取付カテーテルは、心臓の右心房への血管アクセスおよび右心房と左心房との間の経中隔アクセスを介した、患者の心臓の左心房への挿入用に構成される、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項18】
前記レールは、前記近位クランプ顎部のチャネルで摺動するように構成される、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項19】
前記レールが前記近位クランプ顎部を超えて遠位方向に摺動することを防止するように構成される遠位レールロックをさらに備える、請求項18に記載の縫合糸取付カテーテル。
【請求項20】
前記遠位クランプ顎部が前記近位クランプ顎部から所定の最低距離より近くになるほど前記レールが近位方向に摺動することを防止するように構成される近位レールロックをさらに備える、請求項1に記載の縫合糸取付カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される発明は、縫合糸の低侵襲送達に関わる。より具体的には、開示される発明は、拍動している心臓内における動揺弁尖または逸脱弁尖に、人工腱索として縫合糸を取り付けることに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの心臓内の僧帽弁および三尖弁は、弁口(弁輪)、2つ(僧帽弁)または3つ(三尖弁)の弁尖と、弁下組織とを含む。弁下組織は、可動弁尖を心室内部の筋肉構造(乳頭筋)に連結する複数の腱索を含む。腱索の断裂または延長は、部分的または全般的な弁尖逸脱を引き起こし、これが、僧帽(または三尖)弁の逆流を生じさせる。僧帽弁の逆流を外科的に正常にするために一般に用いられる技術は、弁の逸脱セグメントと乳頭筋との間への人工腱索(通常、4-0または5-0のゴアテックス縫合糸)の移植である。
【0003】
この処置は、従来、一般に胸骨正中切開術により行われ、大動脈クロスクランプを用いた心肺バイパスおよび心筋保護液による(cardioplegic)心停止を必要とする開心手術であった。このような開心術を用いると、胸骨正中切開術または右開胸術により提供される大きな開口部により、外科医は、左心房切開から僧帽弁を直接視認することができ、外科用器具の操作、切除した組織の除去、および/または心臓内に取り付けるための心房切開からの人工腱索の導入のため、自分の手を、心臓の外側に近接した胸腔内に位置付けることができる。しかし、これらの侵襲的な開心処置は、高度の外傷、合併症の重大なリスク、長期の入院、および、患者にとって痛みを伴う回復期間をもたらす。さらに、心臓弁外科手術は、多くの患者に対して有益な結果をもたらすが、そのような外科手術の恩恵を受けられるかもしれない他の多くの人は、こうした開心術の外傷およびリスクに耐えることができないか、または耐えたがらない。
【0004】
心臓がまだ拍動している間に利用できる心臓弁の低侵襲性胸腔鏡下修復技術も開発されている。参照により本明細書に援用されるスペッツィアーリ(Speziali)に付与された特許文献1は、胸腔鏡下心臓弁修復方法および器具を開示している。停止させた心臓での開心手術を必要とする代わりに、スペッツィアーリが教示する胸腔鏡下心臓弁修復方法および器具は、拍動している心臓に利用できる低侵襲性外科処置中の視覚化技術として、経食道超音波心臓図検査法(TEE:transesophageal echocardiography)と組み合わせた光ファイバー技術を利用する。これらの技術のより最近のバージョンが、ゼントグラフ(Zentgraf)に付与された特許文献2および特許文献3に開示されており、心腔に進入し、弁尖に誘導し、弁尖を捕捉し、適切な捕捉を確認し、僧帽弁逆流(MR:mitral valve regurgitation)修復の一部として縫合糸を送達することができる統合装置を開示している。これらの低侵襲性修復は、一般に、小さな肋間アクセスポイントから、その後、心臓の心尖を経て心室への穿刺により行われる。患者にとって、開心処置よりもはるかに侵襲性および危険は少ないものの、これらの胸腔鏡下処置もなお、かなりの回復時間と痛みとを伴う。
【0005】
低侵襲性縫合糸送達システムが、失血を最小限に抑えて、回復時間を短縮し、痛みを軽減するために、開胸外科アプローチまたは低侵襲性胸腔鏡下アプローチの外側心室壁への切開を必要とせずに、拍動している心臓の処置において弁尖を縫合することができることは有利であろう。例えば、特許文献4および特許文献5、ならびに特許文献6、特許文献7および特許文献8を含め、血管内アクセスを用いた心臓弁修復のためのさまざまなアプローチが提案されている。しかしながら、これらのアプローチは、拍動心血管内処置中に拍動している弁尖を効果的に把持および保持するという公知の課題を含め、開心術または胸腔鏡下術の結果に匹敵することのできる好結果の血管内技術に関するさまざまな問題を解決できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8465500号明細書
【文献】米国特許第8758393号明細書
【文献】米国特許第9192374号明細書
【文献】米国特許出願公開第2007/0118151号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0035757号明細書
【文献】米国特許第7635386号明細書
【文献】米国特許第8043368号明細書
【文献】米国特許第8545551号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書で開示されるのは、心臓に血管内アクセスをし、人工腱索として縫合糸を心臓弁弁尖に挿入することによって心臓弁の経カテーテル的修復を行うための低侵襲性のシステムおよび方法である。さまざまな実施形態において、前記システムおよび方法は、二弁口化修復のような他の心臓弁修復術でも、例えば、接合される位置にされて弁尖を保持する1本もしくは複数本の縫合糸を挿入することにより、または弁尖の裂孔を修復するために縫合糸を挿入することにより、弁尖を接合するために採用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態において、患者の拍動している心臓の弁尖に縫合糸を挿入することによって心臓を修復するように構成されている縫合糸取付カテーテルは、全体的に可撓性のカテーテルボディと、縫合糸取付アセンブリと、制御ハンドルとを含むことができる。縫合糸取付アセンブリは、近位クランプ顎部と、近位クランプ顎部に対して選択的に摺動可能なレールと、レールの遠位端に蝶着されている遠位クランプ顎部とを含むことができる。制御ハンドルは、近位クランプ顎部に対してレールを選択的に長手方向に摺動させるように構成されるレールアクチュエータと、縫合糸取付アセンブリを心臓に送達するための第1位置と、近位クランプ顎部と遠位クランプ顎部との間に弁尖を捕捉するための第2位置との間で遠位クランプ顎部を選択的に枢動させるように構成される顎部アクチュエータとを含むことができる。実施形態において、可撓性部材は、顎部アクチュエータからカテーテルボディを通って、遠位クランプ顎部の遠位表面まで延びて、遠位クランプ顎部を枢動させるように選択的に動かされる。
【0009】
システム、装置および方法のさまざまな実施形態を本明細書で説明してきた。これらの実施形態は、単なる例として挙げており、本発明の範囲を制限することは意図されていない。また、多数の追加実施形態をもたらすために、説明してきた実施形態のさまざまな特徴をさまざまな方法で組み合わせてもよいことは認識されるべきである。さらに、開示される実施形態とともに使用するために、さまざまな材料、寸法、形状、移植場所等を説明してきたが、開示されるもの以外の他のものを、本発明の範囲を超えることなく利用してもよい。
【0010】
本発明は、添付の図面に関連して以下の本発明のさまざまな実施形態の詳細な説明を考慮することで、より完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図1B】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図1C】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図2A図1A図1Cの縫合糸取付装置の遠位顎部を示す図。
図2B図1A図1Cの縫合糸取付装置の遠位顎部を示す図。
図3図1A図1Cの縫合糸取付装置の近位クランプ顎部を示す図。
図4A】一実施形態による縫合糸取付装置を通る1本または複数本の縫合糸の経路の模式図を示す図。
図4B】一実施形態による縫合糸取付装置を通る1本または複数本の縫合糸の経路の模式図を示す図。
図5A】一実施形態による1本または複数本の縫合糸を弁尖に挿入するステップのシーケンスを示す図。
図5B】一実施形態による1本または複数本の縫合糸を弁尖に挿入するステップのシーケンスを示す図。
図5C】一実施形態による1本または複数本の縫合糸を弁尖に挿入するステップのフローチャートを示す図。
図5D】一実施形態による1本または複数本の縫合糸を弁尖に挿入するステップのシーケンスを示す図。
図6】一実施形態による1本または複数本の縫合糸を弁尖に挿入する方法ステップのフローチャートを示す図。
図7】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図8A】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図8B】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図8C】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図8D】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図9A】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図9B】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図10A】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図10B】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図10C】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図10D】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図11A】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図11B】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図11C】一実施形態による縫合糸取付装置の遠位端を示す図。
図12A】一実施形態による縫合糸取付装置のハンドル端部を示す図。
図12B】一実施形態による縫合糸取付装置のハンドル端部を示す図。
図12C】一実施形態による縫合糸取付装置のハンドル端部を示す図。
図12D】一実施形態による縫合糸取付装置のハンドル端部を示す図。
図12E】一実施形態による縫合糸取付装置のハンドル端部を示す図。
図12F】一実施形態による縫合糸取付装置のハンドル端部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、さまざまな修正および代替態様を受け入れられるが、その具体的なものを例として図面に示しており、以下、詳細に説明する。ただし、その意図は、説明される特定の実施形態に本発明を制限することではないことは理解されるべきである。そうではなく、その意図は、本発明の精神および範囲内にあるすべての修正、均等物および代替物を包含することである。
【0013】
本願は、上述した僧帽弁逆流を治療するために、患者の拍動している心臓に低侵襲的に採用することのできるさまざまな装置および方法を説明する。本明細書に説明される実施形態は、逸脱している弁尖を拘束して、弁尖逸脱を防止し、弁尖接合を促進するために使用することができる。他の実施形態では、前記システムおよび方法は、二弁口化修復のような他の心臓弁修復術でも、例えば、接合される位置にされて弁尖を保持する1本もしくは複数本の縫合糸を挿入することにより、または弁尖の裂孔を修復するために縫合糸を挿入することにより、弁尖を接合するために採用することができる。
【0014】
図1A図1Cは、一実施形態による縫合糸取付装置100の遠位端102を図示する。縫合糸取付装置100は、遠位端102を弁尖取付カテーテルの遠位捕捉部とした弁尖取付カテーテルとして構成することができる。実施形態において、カテーテルは、鼠径部に挿入される送達シースから患者に進入するように構成され、下大静脈を通って右心房まで延び、そして、経中隔穿刺により左心房に入る。カテーテルは、遠位端102が患者内の送達シースの遠位端まで遠位方向に延びることができつつ、カテーテルの近位端の送達シースの近位端にも近位方向に延びて、医師がカテーテルの近位端に取り付けられている制御ハンドルにアクセスすることができるように、送達シースを貫通する長さのシャフトまたはボディ104を有する。このような実施形態において、カテーテルボディ104は、可撓性にすることができる。
【0015】
実施形態において、カテーテルボディの総有効長は、約130cmから140cmの間にすることができる。典型的な患者では、この長さは、送達システムのカテーテルおよび制御ハンドルの追加の長さと合わせて、カテーテルが鼠径部から心臓まで進むことを可能にする。カテーテルは、可撓性にすることができ、かつ、中隔穿刺場所および患者の固有の解剖学的構造に応じて、例えば、2.29センチ(0.9インチ)径の湾曲など、1.91センチ(0.75インチ)から3.81センチ(1.5インチ)の径を有する湾曲に対して曲げることができるように構成される。他の実施形態では、総有効長は、身長が非常に低いまたは非常に高い患者に対応するために、約100cmから170cmにすることができる。
【0016】
実施形態において、送達システムから送り出される装置の遠位端102の有効長は、約3cmから6cmにすることができる。遠位端102は、概ね剛性にすることができるが、本明細書で説明するように、蝶着される遠位顎部によって送達システムを通して装置を進めるため、ある程度の可撓性を備えることができる。この可撓性により、遠位端は、ある実施形態では、約5~6mmとしてもよい送達システムの内径以内で、1.91センチ(0.75インチ)から3.81センチ(1.5インチ)までの範囲の湾曲を通過することが可能となる。
【0017】
実施形態において、カテーテルシャフトまたはカテーテルボディは、可撓性とともに軸方向およびねじり剛性を提供するために、ステンレススチール製ブレードとコイル強化ナイロンまたはポリウレタンとの組み合わせから構成される。本明細書で説明するクランプ顎部などの遠位端の構成要素は、例えば、医療グレードのポリマーまたは加工ステンレススチールから構成することができる。
【0018】
カテーテル100の遠位端102は、本明細書で説明するように、遠位顎部106および近位顎部108と、行われる処置の部位に応じてそれぞれの位置の間で顎部を作動させる機構とを含む。遠位顎部106は、レール110に蝶着されている。近位顎部108は、レール110に沿って選択的に摺動可能であり、そこから上向きに延びるワイヤとして構成されるループ109を含むことができる。実施形態において、ワイヤループ109は、例えば、ニチノールなどの形状記憶素材から作ることができる。動作時、遠位顎部106は、図1Aに示す第1の位置と図1B図1Cに示す第2の位置との間で選択的に作動させることができる。近位顎部108は、レール110に沿って、図1A図1Bに図示する第1の近位位置と、図1Cに図示する第2の遠位位置との間で選択的に摺動することができる。別の実施形態において、近位顎部108は、その軸方向の動きに固定することができ、遠位顎部106が取り付けられているレール110は、固定された近位顎部108に対する第1の位置から、近位顎部108と遠位顎部106との間の距離を効果的に増やす第2の位置まで、遠位方向に摺動することができる。
【0019】
ここで図2A図2Bも参照して、一実施形態による遠位顎部106に関するさらなる詳細を説明する。遠位顎部106は、弁尖をクランプして保持する顎部の能力を高めるように構成される複数の段付き隆起部112を有する弁尖クランプ表面を含む。遠位顎部106は、レール開口部114と、遠位顎部106を貫通している一対の整列した穴116とをさらに含む。レール開口部114は、レール110の遠位端を受け入れるように構成される(図1Aを参照)とともに、穴116は、レール110の対応する穴を貫通するピン、ロッド等を受け入れるように構成されて、遠位顎部106とレール110との間の蝶着を形成する。遠位顎部106は、一対のクランプ面開口部118をさらに含む。クランプ面開口部118の一部は、遠位顎部106を完全に貫通しているのに対し、別の部分は、棚部120の存在のために途中までしか貫通していない。各棚部120から遠位ポスト122が上向きに延びており、遠位穴124が各棚部120を貫通している。クランプ面開口部118は、一対の中間タブ126をそれぞれさらに画定している。凹み開口部130も、開口部118間に延びている棚部128を貫通している。
【0020】
ここで図3を参照すると、近位クランプ顎部108の一実施形態に関するさらなる詳細が図示されている。近位顎部108は、レール110の形状(図1Aを参照)に適合して、近位顎部108がレール110に沿って選択的に摺動することを可能にするレール開口部132を含む。近位顎部108は、それを貫く一対の細長いスロット136を有する遠位クランプ面134をさらに含む。細長いスロット136は、それぞれ縫合糸スロット138および針穴140の両方を画定する。アクチュエータ穴142が、近位顎部108を貫いてさらに画定されている。
【0021】
前述したように、また図1A図1Cを再び参照して、遠位顎部106は、少なくとも2つの位置間で作動させることができる。第1の送達位置は、図1Aに図示され、レール110に対して鈍角(すなわち、90度から180度の間の角度)に位置付けられている遠位顎部106を含む。図示する実施形態において、遠位顎部106は、レール110に対して約120度に位置付けられている。送達位置とは、遠位端102が送達システムを通して使用箇所(すなわち、弁尖に隣接する)まで送達される形状構成である。第2のクランプ位置は、図1B図1Cに図示され、レール110に対して直角または鋭角(90度未満)に位置付けられる遠位顎部106を含む。図示する実施形態において、遠位顎部106は、顎部106がレール110に対して約60度に位置付けられるように、第1の位置に対して約90度作動させられている。クランプ位置とは、顎部106が弁尖の下部に位置付けられて、弁尖を捕捉するために顎部表面が弁尖に接触して安定することが可能になるときまで顎部106が動かされる位置である。
【0022】
遠位顎部106の送達位置とクランプ位置との間の作動は、可撓性部材144を用いて実現される。実施形態において、可撓性部材144は、ニチノールワイヤにすることができる。可撓性部材144は、カテーテルシャフトまたはボディ104およびレール110を通る管腔146を通り抜けることができ、レール110の遠位面で管腔146から出る。可撓性部材144の遠位端は、遠位顎部106に取り付けている。図1B図1Cではそのように図示されていないが、実施形態において、可撓性部材144は、遠位穴124のうちの1つまたは複数を介して遠位顎部106に取り付けることができる。この可撓性部材144が管腔146からさらに延びると、遠位顎部106とのその連結は、それが送達される第1の送達位置から、弁尖の下面に接触することのできる第2のクランプ位置まで顎部を移動させる。遠位顎部106は、可撓性部材144を引くことによって、送達位置に戻すことができる。可撓性部材144は、装置の近位端に設けられているアクチュエータの摺動移動で制御することができる。
【0023】
近位顎部108は、近位顎部108のアクチュエータ穴142に連結している、図1Cに示すような、可撓性の近位顎部アクチュエータロッド148で作動させる。装置の近位端にあるアクチュエータ制御部によってアクチュエータロッド148を押し動かして、近位顎部108をレール110に沿って進め、近位顎部108と遠位顎部106との間の距離を接近させてその間に弁尖をクランプすることができる。近位顎部108のワイヤループ109は、両顎部がクランプ位置まで作動させられたときに、遠位顎部106と(弁尖の両側で)ほぼ合わさるように構成される。間に弁尖が存在した状態で、作動させた遠位顎部106まで近位顎部108を進めると、弁尖への潜在的な損傷を最小限に抑えながら、弁尖を安定させる圧力を顎部間に生じる。ある実施形態において、近位顎部108の遠位クランプ面は、クランプ位置で遠位顎部106の角度に合致するような角度にすることができる(すなわち、図示する実施形態では約60度)。
【0024】
前述の顎部の形状構成は、多数の利点を提供する。一つの利点は、より大きな遠位顎部をより簡単に送達することのできる第1の形状構成と、弁尖を捕捉して保持するためにより大きな顎部を採用する第2の異なる形状構成とを提供することにより、顎部のクランプ部分に比較的大きな表面積を含められることである。別の利点は、蝶着により装置の剛性長さを減じながら、なお大きな顎部開口部の距離を確保することである。システムを血管構造および中隔穿刺を通して僧帽弁まで送達するために必要な小半径に進めながら、蝶着される遠位顎部が必要に応じて曲げられるようにすることにより、これを行う。
【0025】
図4A図4Bは、1本または複数本の縫合糸を装置100に配糸することのできる方法の一実施形態の模式図を図示する。図4Bは、明確にするために、近位顎部108および遠位顎部106を省いた装置と1本の縫合糸10とを図示する。図4Aは、装置100で横並びに担持される一対の縫合糸10を図示する。各縫合糸は、同一であるが横並びの形で装置に配糸されるため、1本の縫合糸10の経路のみを詳細に説明する。実施形態において、1本または複数本の縫合糸は、エンドユーザ(すなわち、外科医)に届けられる前にカテーテルに予め設置することができる。
【0026】
縫合糸10は、装置100を通る連続ループで構成することができる。遠位顎部を通る縫合糸10の配糸は、第1遠位端縫合糸ループ12の部分を遠位顎部106の弁尖クランプ表面側の遠位ポスト122に留め付けることにより行われる。次に、縫合糸10は、ポスト122の両側から、遠位クランプ顎部106の中間タブ126の反対側を回って、近位顎部108の縫合糸スロット138を通り、さらにカテーテルボディ104を貫通している縫合糸チャネルまで延びている。カテーテルボディ104の各縫合糸チャネル内で、縫合糸10の両脚を二重にし、生じる縫合糸10の近位二重ループ14は、近位制御ハンドル150内で連結されている個別のループ状縫合糸20とともに、カテーテルボディ104内の適所に留め置くために縫合糸10の張力を維持するバネ22によって支えられる。第2の近位端縫合糸ループ16は、二重箇所14から遠位に、針を進めて弁尖に侵入し、弁尖の周りに縫合糸を挿入する針支持管152の周りに巡らせるまで延びている。
【0027】
図4Bに模式的に図示する装置100の近位制御機構150は、装置の制御部への快適なアクセスを可能にするメインボディからなる。個別のループ状の縫合糸20は、ループ20の一端ではバネ22により、他方では離脱可能な連結24によりハンドル150に留め付ける。図5Aに示すように、針154は、制御機構150を貫通しており、針154の近位端は、針154の快適なアクセスおよび制御を可能にするハンドル156を含む。制御ハンドル156は、2つの摺動制御部(図示せず)も収容する。第1の摺動制御部は、カテーテルボディ104の管腔を通り抜けている可撓性部材144などの遠位顎部アクチュエータに連結されている。制御ハンドル150に対する第1スライダの遠位方向の相対移動が、遠位顎部108を作動させる。第2の摺動制御部は、カテーテルボディ104を通って近位顎部108まで延びている可撓性ロッド148により連結されている。制御ハンドル150に対する第2スライダの遠位方向の相対移動が、近位顎部108を作動させる。弁尖捕捉カテーテルの遠位端の制御要素用の近位制御部に関するさらなる詳細は、参照により本明細書に援用される、2018年3月23日に出願された米国仮特許出願第62/647162号に見つけることができる。
【0028】
ある実施形態において、装置を通る1つまたは複数のチャネルは、光ファイバー捕捉確認要素を代わりに収容することができ、またはこれを組み込むために付加的に追加することができるであろう。このような実施形態では、一対または複数対の送りおよび戻りファイバーが装置内を通って、弁尖がクランプ顎部間に把持されたかどうかについて、弁尖の表面が光ファイバー対に直面する時に第1の色を、弁尖が内面で光ファイバー対に直面しない時には(例えば、血の)第2の色を表示することにより、捕捉確認システムがバイナリ表示を提供できるようにする。患者の拍動している心臓における弁尖の光ファイバー捕捉確認に関する詳細は、前に参照により本明細書に援用されている特許文献1および特許文献2ならびに米国特許出願第16/363701号に見つけることができる。
【0029】
図5A図5Dは、1本または複数本の縫合糸を弁尖に挿入するために装置100を使用する一実施形態のステップのシーケンスを図示し、図6は、そのシーケンスに対応する方法ステップ200のフローチャートを示す。図5A図5Dは、明確にするために遠位顎部106および近位顎部108を省いた状態の装置100を図示している。ステップ202で、遠位顎部を作動させていない第1の送達形状構成にした状態で、装置を送達システムに挿入する。実施形態において、心臓の僧帽弁付近へのアクセスは、本明細書で説明するように経血管的に得ることができる。このようなアクセスに関するさらなる詳細は、上記参照により援用された米国仮特許出願第62/647162号に見つけることができる。実施形態において、図5A図5Dでは、明確にするために1本の縫合糸10しか図示していないが、装置は、2本の縫合糸10を装置に装填した状態で挿入される。
【0030】
送達システムを出た後、ステップ204で装置の遠位顎部を僧帽弁のレベルの下に進め、ステップ206で遠位顎部を作動させて、顎部が弁尖に接触する角度に動かす。装置を所望の弁尖取付箇所に位置付けた後、ステップ208でシステムを弁に対して上方に、下側(遠位)顎部が弁尖の下側に接触するまで動かす。次に、ステップ210で近位顎部を、弁尖が顎部間にクランプされて安定するまでレールに沿って摺動させて作動させる。
【0031】
弁尖30が顎部間で安定したら、ステップ212で針154を進ませて、弁尖を穿刺し、遠位顎部の開口部を通って、遠位顎部のポストおよび中間タブの周りに位置付けられている縫合糸セグメント間に延ばす。次に、ステップ214で、針154を後退させると、図5Aに示す針形のフックに縫合糸が係合する。これで、遠位縫合糸ループ12が遠位顎部の遠位ポストから外れ、すると、図5Bに図示するように、ステップ216で、針は、弁尖30の穿刺に縫合糸ループを引き抜くことができる。中間タブ126の角形状によって、縫合糸の遠位部は、それに巻き付いたままで、この縫合糸の遠位部を弁尖の遠位側に接触させないようにする。これにより、潜在的に弁尖を損傷するおそれのある力を弁尖にかけることなく、縫合糸を締めることが可能になる。針154が弁尖30の近位側にあり、遠位縫合糸ループ12が針フックに掛かった状態で、ステップ218で、二重ループ14の周りに巡らされている個別の縫合糸20を介した近位縫合糸ループ16との離脱可能な連結24が、制御ハンドルでリリースされる。次に、ステップ220で針154をさらに後退させると、近位ループ16が遠位方向にシステム内に引き込まれる。図5Cに図示するように、針154に掛かっている遠位縫合糸ループ12が露出した状態で、針154がシステムから完全に引っ張られるところで、システムの遠位端でできるガースヒッチ結び目26がほぼ締められている。結び目26を締める最後のステップ222は、留め付けられている遠位ループ12が針管から遠位方向に引かれて、図5Dに図示するように、結び目26が弁尖で留め付けられる時である。
【0032】
弁尖30に結び目26が締まったら、ステップ224で送達システムを後退させることができる。そうするために、近位顎部をリリースして近位方向に動かしながら、弁尖30をアンクランプしてもよい。次に、遠位顎部が不作動にされる。遠位顎部の角度の変更により、縫合糸が遠位顎部の中間タブ126からリリースされ、さらにそれがシステムを弁尖から完全に取り外す。すると、カテーテルを送達システムに格納することができ、またはシステムを弁尖に沿って別の位置まで動かして上述したプロセスシーケンスを繰り返すことによって任意の第2縫合糸を送達してもよい。
【0033】
1本または複数本の縫合糸が弁尖に取り付けられたら、縫合糸は、正常な弁の機能にとって適切な長さおよび張力または適切な長さもしくは張力を提供するように調整して、繋留することができる。縫合糸の張力付与および繋留に関するさらなる詳細は、米国特許出願第16/406736号、第16/406764号および第16/406799号に見つけることができ、そのそれぞれが、本明細書により、参照により本明細書に援用される。
【0034】
図7は、一実施形態による弁尖捕捉カテーテル302の別の遠位端を図示する。この実施形態では、近位顎部308は、固定式で、長手方向の適所に固定されている。図8A図8Dに関してより詳細に以下で述べるように、レール310は、近位顎部308と遠位顎部306との間の距離を調整して弁尖の捕捉を助けるために摺動可能にすることができる。弁尖捕捉カテーテル102と同様に、遠位顎部306は、やはり弁尖捕捉を助けるために枢動可能にすることができる。各針322は、針管腔325の遠位に針を適所に保持するキー止めワイヤ323を含むことができる。一実施形態において、キー止めワイヤ323に前方向偏倚力を与え、針322に後方向偏倚力を与えて、針を適所に留め置くことができ、針322が前方に押されると、ワイヤ323が針322の進路から脱落する。別の実施形態では、キー止めワイヤ323は、ワイヤに取り付けられている装置の近位ハンドル上の制御要素を用いてなど、後退させることができるので、バネの偏倚力を利用しない。この実施形態は、正しい弁尖捕捉の確認を助けるために、近位顎部108の遠位クランプ面334の光ファイバーチャネルに設けられている2組の光ファイバーケーブル359(それぞれが1本の送りファイバーおよび1本の戻りファイバーを含む)を図示している。図示される実施形態は、より詳細に以下で説明するように、安定化ループ314をさらに含む。弁尖捕捉カテーテル302は、本明細書で開示される他の実施形態に関して説明される任意の特徴をさらに含むことができる。
【0035】
図8A図8Dは、一実施形態による弁尖捕捉カテーテル402の別の遠位端を図示する。この実施形態は、1本の縫合糸および1本の針454のみを担持するように構成することができ、光ファイバーチャネル457に一対の光ファイバー459を有することができる。遠位顎部406は、レール410に蝶着することができる。レール410は、顎部408,410間の分離距離を調整するために、近位顎部408に対して摺動可能にすることができる。図8C図8Dを参照すると、レール410は、限られた長さを有し、近位クランプ顎部408に画定されているレールチャネル409内でレール410を摺動させるために、近位ハンドルから制御可能なハイポチューブ(図示せず)に連結することができる。近位顎部408は、レール410がレールチャネル409から遠位方向に完全に移動するのを防ぐために、レール410上のロック特徴部と機械的に相互作用することができるロックタブ411を含むことを促進することができる。実施形態において、レール410は、顎部を開く際に克服されるバネ力で、閉位置に向かって近位方向に偏倚することができ、それにより、弁尖が捕捉されたら、顎部を弁尖の周りにクランプしておくことが可能になる。図8Aを参照すると、針454が弁尖を係合するためにその上を進む、近位顎部408に沿った針チャネル415は、弁尖の縁の十分上に弁尖に確実に突き刺すため、上向きの角度に傾斜を付けることができる。弁尖捕捉カテーテル402は、本明細書で開示される他の実施形態に関して説明する任意の特徴をさらに含むことができる。
【0036】
図9Aおよび図9Bは、例示のために、弁尖捕捉カテーテル402を含め、本明細書で開示される弁尖捕捉カテーテルのうちのいずれかの遠位捕捉顎部まで、いかに縫合糸を配糸することができるかに関する代替例を図示している。図9Aを参照すると、この実施形態において、縫合糸10は、近位クランプ顎部408の管腔438から延びており、縫合糸の各ストランド11がチャネル473の周りに近位クランプ顎部408の1つのいずれかの側を延ばしている。ストランドは、さらに上に延びて、針454によって手繰るために遠位クランプ顎部でループを形成する。縫合糸10は、針によって手繰るために適切な張力下で維持することができる近位ハンドル制御部まで戻る。この実施形態では、縫合糸管腔438は、縫合糸10が針454の上から近位クランプ顎部408から出てくるように、針454の上に位置付けられている。ここで図9Bを参照すると、この実施形態では、縫合糸10は、近位クランプ顎部408の下部にある管腔438から針454の下に延びて、針454を内蔵する針管452に巻き付いている。縫合糸端11は両方とも、さらに近位クランプ顎部408の片側にある同じチャネル473に沿って、遠位クランプ顎部406まで延びている。縫合糸10は、また、さらに近位ハンドル制御部に戻ることができる。針454によって縫合糸を捕捉するために、縫合糸10は、管に取り付けて管を引き込む制御機構または管に縫合糸を留置するワイヤなどの作動手段によって、針管452からリリースされ、さらに、例えば、後退させられる。これらの実施形態のそれぞれにおいて、縫合糸10は、例えば、上述した遠位ポスト122および中間タブ126などの特徴を用いることを含め、多様な手段によって近位顎部に留置することができる。
【0037】
図9A図9Bの実施形態はともに、例えば、図4Bに関する装置の縫合糸の配糸および張力付与の態様を大幅に簡略化している。これらの実施形態の縫合糸10は、もはや半分に折りたたまれずに、ハンドルまで戻ることができるので、個別のループ状縫合糸20および離脱可能な連結24、ならびに図9Aの実施形態では、針管152の周りの近位端縫合糸ループ16の必要性がなくなる。
【0038】
図10A図10Dは、一実施形態による弁尖捕捉カテーテル502の別の遠位端を図示する。弁尖捕捉カテーテル502は、図8A図8Dに関して説明した弁尖捕捉カテーテル402と実質的に類似しており、いずれかの弁尖捕捉カテーテルの任意の特徴を他方で利用することができるであろう。弁尖捕捉カテーテル502は、本明細書で開示される他の実施形態に関して説明される任意の特徴をさらに含むことができる。前の実施形態と同様に、カテーテル502は、レール510を介して調整可能な分離距離を有する近位クランプ顎部508および遠位クランプ顎部506を含む。
【0039】
遠位顎部506は、ヒンジピン516を用いてレール510に蝶着することができ、図11A図11Cに図示し、カテーテル102に関して上述したものなどの可撓性部材544を用いて、開いた送達位置(図10Aに図示)から閉じたクランプ位置(図10Bに図示)まで作動させることができる。閉位置について、遠位顎部506は、図10Bに図示する近位顎部508の角度に概ね合致する、レールに対する角度に枢動することができる。遠位顎部506は、可撓性部材544を挿入して、そこに可撓性部材544を保持するように構成されるスロットを有するワイヤハウジング545を含むことができる。より詳細に以下で示すように、可撓性部材544は、接着剤または溶接を必要とせずに、それを適所に保持するように、遠位顎部506を通って、ワイヤリテーナ545内に通される。遠位顎部506は、顎部の底部がレールに接しているため、図示される捕捉角度で枢動を停止するように構成することができ、それにより顎部が枢動されすぎることを防止する。遠位顎部506は、縫合糸配糸ポスト522、遠位縫合糸配糸フィン526、および縫合糸配糸管腔518を含め、縫合糸保持特徴部をさらに含むことができ、これらもより詳細に以下で述べる。クランプされた弁尖の保持を助けるために、遠位顎部506の周縁に弁尖把持歯512を設けることができる。
【0040】
近位顎部508は、同様に、顎部506,508間での弁尖の保持を助けるために、弁尖把持歯として機能する隆起したまたは段付き表面513を含むことができる。弁尖捕捉を確認するために、光ファイバーを内蔵する光学ハウジング557を近位顎部508に設けることができる。より詳細に以下で説明するように、縫合糸の案内および保持を助けるために、近位縫合糸配糸フィン573を近位顎部508の両側に設けることができる。前の実施形態と同様、弁尖捕捉カテーテル502が送達カテーテルを出た後に上向きに枢動して、弁尖捕捉のために近位顎部508の表面積を増やすことによって、縫合糸捕捉および保持を助けるためのワイヤループ509を提供することができる。図10A図10Bには、拡張形状構成を図示しており、近位顎部の上にワイヤループが上向きに枢支されたところである。近位顎部508には、顎部の両側に沿ってループ切抜き507を備えることができるので、圧縮形状構成のときに装置のフレンチサイズを増やすことなく、ワイヤループ509をカテーテル502の両側に沿って保持することができる。
【0041】
レール510は、近位顎部508から遠位顎部506までの距離を調整するため、近位顎部508のスロット532から摺動可能に拡張可能である。装置ハンドルまで戻るレールスライドハイポチューブ548をレールのスライド管腔547に挿入し、例えば、はんだ付けによってレールに固定することができるので、ハンドルからレール510および遠位顎部506の動きの制御を可能にする。より詳細に以下で述べるように、可撓性部材144は、ハンドルと遠位顎部506のワイヤハウジング545との間のスライドハイポチューブ548を通り抜けることができるので、ハンドルから可撓性部材144を介して遠位顎部506の枢動制御を可能にする。レール510は、レール510のボディから外側に延びているレールスライドフィン511をさらに含むことができる。レールスライドフィン511は、レール510を長手方向または軸方向の動きに制限するために、スロット532の全長に亘り延びている。フィン511には、フィンの近位端に、レール510が近位顎部508のスロット532の遠位端から完全に出て延びることを防止するストップ特徴部または突起560が備えられている。
【0042】
弁尖捕捉カテーテル502は、装置のカテーテルボディと近位顎部構成要素508との間に設けられている顎部取付ハイポチューブ550をさらに含むことができる。顎部取付ハイポチューブ550は、例えば、レーザーカットされて、さらにカテーテルボディ上にリフローされ、近位顎部にレーザー溶接されて、装置の弁尖捕捉端部をカテーテルボディに連結する個別のハイポチューブとすることができる。顎部取付ハイポチューブ550は、遠位顎部506を近位顎部508に近づけすぎる位置までレール510が近位方向に移動することを防止する、近位レールストップ551をさらに含むことができる。
【0043】
ここで、図11A図11Cを参照すると、可撓性部材544および縫合糸10が配糸されている状態で、弁尖捕捉カテーテル502が模式的に図示されている。可撓性部材544は、レール510のレールスライドハイポチューブ548を通り抜けて、そこから出て、さらに遠位顎部506を周り、ワイヤハウジング545の中まで延びている。縫合糸10は、近位顎部508の正面の共通の開口部から出て、近位縫合糸配糸フィン573に沿って、近位顎部508の遠位部の下にいき、さらにレール510の各側に沿って遠位顎部506に向かって延びている、一対の縫合糸端部を有する閉ループとして構成することができる。各縫合糸端部11は、さらに遠位顎部506の縫合糸配糸管腔518の1つを通って、縫合糸配糸フィン526の1つの下に延び、縫合糸ループ12の一端は、針によって手繰るために張力下で縫合糸配糸ポスト522に巻き付けられている。縫合糸配糸管腔518は、針が縫合糸を手繰っている間、縫合糸を遠位顎部に載せておく。針は、縫合糸を把持すると、縫合糸配糸ポスト522から縫合糸を外して、弁尖に通って戻る。縫合糸配糸フィン526は、縫合糸が針によって完全に手繰られるまで、縫合糸を顎部に固定しておく。縫合糸が手繰られたら、遠位顎部が開かれて、弁尖および縫合糸の両方を遠位顎部からリリースする。縫合糸ループは、縫合糸の両端部で結び目を作ることによって形成することができる。実施形態において、ブラッド結び目を作り、接着剤で強化してから、外形を小さくするために両端を押し合わせることができる。縫合糸の配糸および張力付与(一般に、経心尖処置の状況において)に関するさらなる詳細は、特許文献2およびhttps://neochord.com/wp-content/uploads/2019/02/700010-002_Rev_5_IFU_pc_eng.pdfに見つけることができる。
【0044】
図12A図12Fは、一実施形態による、例えば、弁尖捕捉カテーテル502などの弁尖捕捉カテーテルを制御するためのハンドル600を図示する。ハンドル600は、例示のために、図10A図10Dおよび図11A図11Cに図示される弁尖捕捉カテーテル502の制御に関して特に説明するが、ハンドル600は、本明細書に説明および図示される他の弁尖捕捉カテーテルを含め、他の弁尖捕捉カテーテルとともに利用できるであろうこと、および、かかる他の弁尖捕捉カテーテルとともに使用に適応することができるであろうこと、の両方または一方は理解されるべきである。
【0045】
ハンドル600は、弁尖捕捉カテーテルを制御して僧帽弁修復術を行うための多数の構成要素を収容するとともにこれらに連結するかまたは弁尖捕捉カテーテルを制御して僧帽弁修復術を行うための多数の構成要素を収容するかもしくはこれらに連結する、ハンドルボディ602を含む。ハウジング内に止血ハブ604を設けることができる。止血ハブは、血液がカテーテルからハンドルに逆漏出することを防止し、チュービング608を介してハウジング602を通して止血ハブ604に連結しているフラッシュポート606を通じて、システムから空気をフラッシュすることも可能にすることができる弁付き構造とすることができる。フラッシュポート606はさらに、カテーテル内をきれいにするために、装置に生理食塩水をフラッシュできるようにすることができる。可撓性材料から構成される応力逃しノブ610をハンドル600の遠位端に設けることができ、そこにカテーテルボディを貫通させて、処置中にカテーテルボディがキンクすることを防止する助けをする。上述したように、装置の遠位端に位置付けられている縫合糸を針によって捕捉されるまで保つ張力下で縫合糸を維持するために、縫合糸張力付与アセンブリ612もハウジング602内に設けることができる。一実施形態において、縫合糸張力付与アセンブリ612は、張力下で縫合糸をリリース可能に保持するために、Oリング615が取り付けられており張力をかけられているバネ613を含むことができる。
【0046】
ハンドル600は、ボディの外側で装置の近位部から弁尖捕捉カテーテル502の遠位端にある要素を手術者が制御できるようにする多数の制御要素をさらに含む。レール作動部材614をハウジングに設けて、レールスライド作動部材614の前方移動がレールスライド510および遠位顎部506を前方に移動させ、遠位顎部506と近位顎部508との間の距離を増やすように、レールスライドハイポチューブ548に連結することができる。実施形態において、ハウジング内に収納されているバネまたは他の弾性要素(図示せず)は、レールスライド作動部材614および遠位顎部506を近位の閉位置に偏倚させることができる。可撓性部材作動ナット616は、ハウジング602に設けて、作動ナット616の回転(例えば、右回り)が可撓性部材544を前方に動かして遠位顎部506を閉位置に枢動させるように、可撓性部材544に固着させることができる。そのため、作動ナット616の逆回転運動(例えば、左回り)は、可撓性部材544を引き戻して、遠位顎部506を開位置に逆枢動させることができる。制御ノブ618は、レールスライド作動部材614および可撓性部材作動ナット616の両方を制御するために、ハウジング602の遠位に延びることができる。制御ノブ618は、制御ノブ618を押すことまたは引くことがレール作動部材614(および遠位顎部506)を遠位方向および近位方向に移動させ、制御ノブ618の回転が可撓性部材544を移動させる(それにより遠位顎部506が開閉する)ようにレールスライド作動部材614および可撓性部材作動ナット616に機能的にリンクすることができるので、両方の機能を1つの制御要素で制御することができる。制御ノブ618は、制御ノブ618を回転させると作動ナット616が進むことができるねじ切り部617を含むことができる。遠位顎部が開いているか閉じているかについて、作動ナット616の位置に基づいた視覚的な確認を手術者に提供するために、ハウジング上にスロット619を設けることができる。
【0047】
ハンドル600は、さらに、弁尖を穿刺し、弁尖を通して縫合糸を手繰り戻すために、針を制御するために使用することができる。針リリースアセンブリ620は、バネ626などの弾性要素によって離れるように偏倚されている針グリップ622とリリースハンドル624とを含むことができる。針リリースアセンブリ620は、ユーザが針グリップ622およびリリースハンドル624を圧縮して、バネ626の偏倚力に打ち勝つまで、針が近位顎部608から出て前方に移動することを防止するように、針に機能的に連結することができる。on手術者が針の配備を目視確認できるようにするために、針窓623を、ハウジング602を貫いて備えることができる。縫合糸リリースピン628をハウジング602内に設けて、ハウジング上のリリースレバー630で制御することができる。リリースレバー630を作動させると縫合糸リリースピン628が外れて、手繰り寄せるために縫合糸を解放し、縫合糸とともに針を手繰り寄せるために針ハンドルアセンブリ620の取り外しが可能になる。実施形態において、リリースレバー630は、偶発的なリリースを防止するために、下げるためにはレバーを水平に摺動させなければならないように、レバー630が下がって縫合糸リリースピン628をリリースすることを防ぐ棚部に載置している。縫合糸のリリース前にon手術者が針の配備を目視確認できるようにする針窓623を、ハウジング602を貫いて備えることができる。
【0048】
図12Bは、一実施形態によるハンドル600を通る縫合糸10の経路を図示する。縫合糸ループ12は、止血ハブ604から出て、縫合糸張力付与アセンブリ612の張力付与バネ613に取り付けられているOリング615に巻き付く。縫合糸ループ12の端部は、縫合糸リリースピン628の上に配置されて、リリースボタン620の作動時に縫合糸が遠位顎部506から手繰り寄せられることを可能にする。
【0049】
僧帽弁に関して特に説明しているが、本明細書で説明する装置は、三尖弁および大動脈弁など、他の任意の機能不全な弁の治療に使用できることは理解されるべきである。また、本願で説明する装置は、経心尖アプローチ(例えば、左心室の心尖から)および経大腿的(大腿静脈から)などの経血管アプローチを含め、当業界で公知のさまざまなアクセスアプローチにより患者の拍動している心臓に移植できることは理解されるべきである。採用することができるであろう経心尖アクセスアプローチの一実施例が、前に参照により本明細書に援用されている米国特許第9044221号に記載されている。採用できるであろう経血管アクセスアプローチの一実施例が特許文献5に記載されており、これは、本明細書により、参照により本明細書に援用される。アクセスアプローチにおけるこの汎用性は、処置のためのアクセス部位を患者のニーズに合わせることを可能にする。
【0050】
システム、装置および方法のさまざまな実施形態を本明細書で説明してきた。これらの実施形態は、単なる例として挙げており、本発明の範囲を制限することは意図されていない。また、多数の追加実施形態をもたらすために、説明してきた実施形態のさまざまな特徴をさまざまな方法で組み合わせてもよいことは認識されるべきである。さらに、開示される実施形態とともに使用するために、さまざまな材料、寸法、形状、移植場所等を説明してきたが、開示されるもの以外の他のものを、本発明の範囲を超えることなく利用してもよい。
【0051】
関連技術の当業者は、本明細書の主題が、上述した個々の実施形態で例示された特徴よりも少ない特徴を備えてもよいことを認めるであろう。本明細書で説明する実施形態は、本明細書の主題のさまざまな特徴を組み合わせられる方法の網羅的な提示となるものではない。したがって、実施形態は、特徴の相互に排他的な組み合わせではなく、むしろ、当業者には理解されるように、さまざまな実施形態は、異なる個々の実施形態から選択される異なる個々の特徴の組み合わせを備えることができる。また、1つの実施形態に関して説明される要素は、特記していない限り、当該実施形態で説明されていなくても、他の実施形態に実装することができる。
【0052】
従属請求項は、特許請求の範囲において1つまたは複数の他の請求項との特定の組み合わせを述べているかもしれないが、他の実施形態は、従属請求項と各他の従属請求項の主題との組み合わせ、または1つもしくは複数の特徴と他の従属請求項もしくは独立請求項との組み合わせも含むことができる。特定の組み合わせが意図されていないと述べられていない限り、このような組み合わせが本明細書で提案される。
【0053】
請求項の解釈において、「のための手段」または「のためのステップ」という特定の用語が請求項に引用されていない限り、35U.S.C.第112条(f)の規定が適用されないことが明示的に意図される。
【0054】
上記文書の参照による援用は、本明細書における明示的な開示に反した主題が援用されないように制限される。上記文書の参照による援用は、それらの文書に含まれる請求項が参照により本明細書に援用されないように、さらに制限される。上記文書の参照による援用は、それらの文書で規定される定義が、本明細書に明示的に含まれない限り、参照により本明細書に援用されないように、さらに一層制限される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F