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特許7300254融資条件を判定するための装置、方法及びそのためのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】融資条件を判定するための装置、方法及びそのためのプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/03 20230101AFI20230622BHJP
【FI】
G06Q40/03
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018198165
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020067682
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】513056101
【氏名又は名称】フリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174078
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】薄井 研二
(72)【発明者】
【氏名】花井 一寛
【審査官】上田 威
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-079493(JP,A)
【文献】特開2002-279174(JP,A)
【文献】特開2002-024540(JP,A)
【文献】特開2001-312587(JP,A)
【文献】特開2018-049400(JP,A)
【文献】ITビジネス研究会,60分でわかる!ITビジネス最前線 ,第1版,日本,株式会社技術評論社 片岡 巌,2017年06月30日,p.132-133
【文献】斉藤 壮司,ニュース&リポート,日経コンピュータ ,日本,日経BP社 Nikkei Business Publications,Inc.,2018年02月01日,no.957,p.16
【文献】杉本 昭彦,ケーススタディ,日経ビッグデータ,日本,日経BP社 Nikkei Business Publications,Inc.,2017年06月10日,第40号,p.20-21
【文献】冨田 和成,金融×ITが生む未来 FinTech超最前線,日経マネー ,日本,日経BP社 ,2016年02月21日,No.406,p.140-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
企業に対して可能な融資の融資条件を判定するための方法であって、
サーバが、前記企業の財務データを用いて1又は複数の財務指標を取得するステップと、
前記サーバが、前記企業の財務データに関する1又は複数の信頼度を算出するステップと、
前記サーバが、前記1又は複数の財務指標及び前記1又は複数の信頼度に基づいて、回帰分析又は機械学習による予測モデルを用いて前記企業のデフォルト率を算出するステップと、
前記サーバが、前記デフォルト率に応じた前記企業に対する融資条件を判定するステップと
を含み、
前記財務データは、前記サーバ上で提供される会計サービスの中で前記企業に紐づけられており、
前記1又は複数の信頼度は、
(a)前記財務データに含まれる取引データの一部又は全部の前記会計サービスへの入力経路に基づいて算出される信頼度、
(b)前記会計サービスにおいて財務データの手入力を行ったアカウントとは異なるアカウントによる承認の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度、
(c)前記会計サービスにおいて証憑を伴い入力された取引の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度、及び
(d)前記会計サービスにおいて財務データに対して加えられた修正の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度
のうちの少なくともいずれかを含む。
【請求項2】
サーバに、企業に対して可能な融資の融資条件を判定するための方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は、
前記サーバが、前記企業の財務データを用いて1又は複数の財務指標を取得するステップと、
前記サーバが、前記企業の財務データに関する1又は複数の信頼度を算出するステップと、
前記サーバが、前記1又は複数の財務指標及び前記1又は複数の信頼度に基づいて、回帰分析又は機械学習による予測モデルを用いて前記企業のデフォルト率を算出するステップと、
前記サーバが、前記デフォルト率に応じた前記企業に対する融資条件を判定するステップと
を含み、
前記財務データは、前記サーバ上で提供される会計サービスの中で前記企業に紐づけられており、
前記1又は複数の信頼度は、
(a)前記財務データに含まれる取引データの一部又は全部の前記会計サービスへの入力経路に基づいて算出される信頼度、
(b)前記会計サービスにおいて財務データの手入力を行ったアカウントとは異なるアカウントによる承認の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度、
(c)前記会計サービスにおいて証憑を伴い入力された取引の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度、及び
(d)前記会計サービスにおいて財務データに対して加えられた修正の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度
のうちの少なくともいずれかを含む。
【請求項3】
企業に対して可能な融資の融資条件を判定するためのサーバであって、
前記企業の財務データを用いて1又は複数の財務指標を取得し、
前記企業の財務データに関する1又は複数の信頼度を算出し、
前記1又は複数の財務指標及び前記1又は複数の信頼度に基づいて、回帰分析又は機械学習による予測モデルを用いて前記企業のデフォルト率を算出し、
前記デフォルト率に応じた前記企業に対する融資条件を判定し、
前記財務データは、前記サーバ上で提供される会計サービスの中で前記企業に紐づけられており、
前記1又は複数の信頼度は、
(a)前記財務データに含まれる取引データの一部又は全部の前記会計サービスへの入力経路に基づいて算出される信頼度、
(b)前記会計サービスにおいて財務データの手入力を行ったアカウントとは異なるアカウントによる承認の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度、
(c)前記会計サービスにおいて証憑を伴い入力された取引の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度、及び
(d)前記会計サービスにおいて財務データに対して加えられた修正の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度
のうちの少なくともいずれかを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融資条件を判定するための装置、方法及びそのためのプログラムに関し、より詳細には、融資を受けたい企業に対して可能な融資の融資条件を判定するための装置、方法及びそのためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ビジネス向けの融資は、融資を受けたい企業が申し込みを行い、金融機関がそれを受けて与信審査を行い、融資可能金額が分かる仕組みとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、借入に対する抵抗感、不安感等の心理的な敷居は一般的に高く、明示的に金融機関に対する申し込みを行う負担は大きい。また、提出書類の準備等の手続が煩雑であることも、申し込みを行う負担を大きなものとしている。
【0004】
このため、規模の小さな企業においては、実際に資金に逼迫する状況となって初めて申し込みを行うことが多く、本当に資金に困るタイミングまで融資による資金調達というオプションを検討することができていない。
【0005】
一定以上の規模の企業で財務の専任担当者が存在する状況であれば、自社の調達可能な資金を常時把握しておくということは行われるが、多くの中小企業にとっては、自社の調達可能な資金を経営のオプションとして把握しておくことは容易ではない。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、融資を受けたい企業が煩雑な手続を行わなくとも当該企業に対して可能な融資の融資条件を提示可能として、融資機会の増大を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、企業に対して可能な融資の融資条件を判定するための方法であって、前記企業の財務データを用いて1又は複数の財務指標を取得するステップと、前記企業の財務データに関する1又は複数の信頼度を評価するステップと、前記1又は複数の財務指標及び前記1又は複数の信頼度に基づいて、前記企業に対する融資条件を判定するステップとを含み、前記財務データは、クラウドコンピューティングのためのサーバ上で提供される会計サービスの中で前記企業に紐づけられていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記取得、前記評価、及び前記判定は前記サーバ上で行われることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記1又は複数の信頼度のうちの少なくともいずれかは、前記財務データに含まれる取引データの一部又は全部の前記会計サービスへの入力経路毎の入力数に基づいて算出される信頼度であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記入力経路は、前記会計サービスのウェブページへの手入力、前記会計サービスを提供するサーバにアップロードされた画像の画像解析、前記会計サービスを提供するサーバとコンピュータネットワーク上で通信可能な連携先のサーバからの受信及び前記会計サービスを提供するサーバ上での前記会計サービスにおける請求書の作成の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記連携先は、金融機関を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第6の態様は、第1から第5のいずれかの態様において、前記1又は複数の信頼度のうちの少なくともいずれかは、前記会計サービスにおいて財務データの手入力を行ったアカウントとは異なるアカウントによる承認の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第7の態様は、第1から第6のいずれかの態様において、前記1又は複数の信頼度のうちの少なくともいずれかは、前記会計サービスにおいて証憑を伴い入力された取引の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第8の態様は、第7の態様において、前記証憑は、請求書であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第9の態様は、第1から第8のいずれかの態様において、前記1又は複数の信頼度のうちの少なくともいずれかは、前記会計サービスにおいて財務データに対して加えられた修正の一部又は全部の数又はこれに対応する数に基づいて算出される信頼度であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第10の態様は、第1から第9のいずれかの態様において、前記判定は、前記1又は複数の財務指標及び前記1又は複数の信頼度に基づいて、前記企業のデフォルト率を算出するステップと、前記デフォルト率に応じた融資条件を判定するステップとを含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第11の態様は、第10の態様において、前記デフォルト率の算出は、回帰分析又は機械学習による予測モデルを用いて行うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第12の態様は、第1から第9のいずれかの態様において、前記判定は、前記1又は複数の財務指標に基づいて、前記企業のデフォルト率を算出するステップと、前記1又は複数の信頼度に基づいて、前記企業のデフォルト率の予測誤差を算出するステップと、前記デフォルト率及び前記予測誤差に応じた融資条件を判定するステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第13の態様は、第12の態様において、前記判定は、前記デフォルト率に応じて借入可能額を判定し、前記予測誤差に応じて利率を判定することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第14の態様は、コンピュータに、企業に対して可能な融資の融資条件を判定するための方法を実行させるためのプログラムであって、前記方法は、前記企業の財務データを用いて1又は複数の財務指標を取得するステップと、前記企業の財務データに関する1又は複数の信頼度を評価するステップと、前記1又は複数の財務指標及び前記1又は複数の信頼度に基づいて、前記企業に対する融資条件を判定するステップとを含み、前記財務データは、クラウドコンピューティングのためのサーバ上で提供される会計サービスの中で前記企業に紐づけられていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第15の態様は、第1の態様において、企業に対して可能な融資の融資条件を判定するための装置であって、前記企業の財務データを用いて1又は複数の財務指標を取得し、前記企業の財務データに関する1又は複数の信頼度を評価し、前記1又は複数の財務指標及び前記1又は複数の信頼度に基づいて、前記企業に対する融資条件を判定し、前記財務データは、クラウドコンピューティングのためのサーバ上で提供される会計サービスの中で前記企業に紐づけられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、対象企業の財務データに基づく1又は複数の財務指標を当該財務データに関する1又は複数の信頼度とともに用いることで、当該企業に煩雑な手続をさせることなく、当該企業に対して可能な融資の融資条件を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態にかかる融資条件を判定するための装置を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態にかかる融資条件の判定方法の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態にかかる融資条件を判定するための装置を示す。装置100は、インターネットなどのコンピュータネットワークを介してユーザー企業のユーザー端末110と通信可能であり、ユーザー端末110に対して会計サービスを提供する。装置100は、企業が行う1又は複数の取引を表す取引データを記憶し、また当該取引データにより表される1又は複数の取引を仕訳した仕訳データを記憶する。
【0026】
本明細書において、「財務データ」とは取引データ及び仕訳データを包含する概念として用い、さらに当該仕訳データを集計して作成可能な試算表データ及び財務諸表データを概念として包含する。ここで、財務諸表データは、貸借対照表データ及び損益計算書データの少なくとも一方を含む。
【0027】
装置100は、通信インターフェースなどの通信部101と、プロセッサ、CPU等の処理部102と、メモリ、ハードディスク等の記憶装置又は記憶媒体を含む記憶部103とを備え、各処理を行うためのプログラムを実行することによって構成することができ、1又は複数の装置ないしサーバを含むことがある。サーバは、クラウドコンピューティングのためのサーバとすることができ、パブリッククラウド又はプライベートクラウド上の1又は複数のインスタンスとすることができる。上記プログラムは、1又は複数のプログラムを含むことがあり、また、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録して非一過性のプログラムプロダクトとすることができる。装置100へのデータの記憶は、記憶部103への記憶のほか、装置100からアクセス可能なデータベース104などの記憶媒体又は記憶装置としてもよい。
【0028】
融資を受けたい企業が煩雑な手続を行わなくとも当該企業に対して可能な融資の融資条件を提示可能とするために、本実施形態では、融資条件の判定を行う装置100自体において会計サービスを提供し、それにより装置100に当該企業と紐づけて記憶される財務データを用いる。これにより、ユーザー企業に特別な手続を要求することなく、融資条件の提示が可能となる。必要に応じてリアルタイムに財務データの分析を行うことができるから、融資条件の提示もリアルタイムに行うことができる。
【0029】
装置100は、まず財務データを用いて1又は複数の財務指標を取得する(S201)。財務指標の例としては、たとえば自己資本比率、流動比率、売上高成長率、売上債権回転期間等を挙げることができる。財務指標は、対象企業の財務データの1又は複数の構成要素(以下「財務データ構成要素」ともいう。)を用いて算出することができ、あるいは対象企業の財務データの構成要素自体を財務指標とすることができる。後者の例として、たとえば、現金残高、借入残高、売掛金、売上高、資本金等を挙げることができる。
【0030】
次に、装置100は、当該企業の財務データに関する1又は複数の信頼度を評価する(S202)。財務指標は、財務データに基づくものであることから、財務指標に基づいて判定する融資条件の精度は財務データの信頼度に大きく影響される。信頼度は、当該企業の財務データの一部又は全部の信頼性を表す指標とすることができ、一部の信頼性を表すものとする場合には、たとえば、融資条件の判定に用いる各財務指標の基礎となる1又は複数の財務データ構成要素の一部又は全部の信頼度とすることができる。
【0031】
たとえば、現金又は現預金を財務指標とする場合、銀行口座への入金又は銀行口座からの出金という取引を表す取引データの信頼性が問題となる。したがって、後述のように、取引データの入力経路に基づいて信頼度を評価することが考えられる。また、売上、売上高、売上高成長率又は売上債権回転期間を財務指標とする場合、各売上の請求書が相手方に送付されていなければ信頼性が低い。その前提として、請求書が作成されていなければ信頼性が低い。したがって、各売上について、当該売上に対応する請求書が作成済又は送付済の少なくとも一方であることが装置100において記憶されているか否かに基づいて信頼度を評価することが考えられる。
【0032】
そして、1又は複数の財務指標及び1又は複数の信頼度に基づいて融資条件を判定する(S203)。たとえば、一例として、デフォルト率をp、デフォルト率pのロジットをlogit(p)、財務指標をx(iは1からmの整数)、信頼度をx’(jは1からnの整数)とし、1又は複数の財務指標xに加えて1又は複数の信頼度x’を説明変数、デフォルト率pを目的変数として次式で表される予測モデルを構築する。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで、α、β、β’はモデルの構築によって定まるパラメータであって、装置100に記憶される。そして、予測されたデフォルト率pに応じた借入可能額を含む融資条件を判定する。具体例として、デフォルト率pの値又は値の範囲に応じて借入可能額を対応付けて、当該対応付けを装置100に記憶しておくことができる。なお、本明細書において「デフォルト率」とは、融資を受けた企業が一定基準の財務状態に陥った場合又は当該企業が借入金の返済を延滞した場合を「デフォルト」と定義して、この発生確率を計算するものである。例えば、デフォルトには、預金残高、自己資本比率などが一定以下になること、返済が予定した計画から1ヶ月以上又は3ヶ月以上延滞することなどがある。
【0035】
別の例として、予測デフォルト率をppred、実績デフォルト率をpact、予測デフォルト率ppredと実績デフォルト率pactとの差をΔp、差Δpのロジットをlogit(Δp)、信頼度をx’(jは1からnの整数)とし、1又は複数の信頼度x’を説明変数、差Δpを目的変数として次式で表される予測モデルを構築する。
【0036】
【数2】
【0037】
ここで、α、β’はモデルの構築によって定まるパラメータであって、装置100に記憶される。上述の予測モデル,上述の予測モデルから信頼度を説明変数から除いたモデル又はその他の予測モデルによって予測した予測デフォルト率ppredの実績デフォルト率pactからの差を予測可能とすることによって、予測デフォルト率ppred及び予測誤差Δpに応じた融資条件を判定することができる。より具体的には、一例として、予測デフォルト率ppredに応じて借入可能額を判定し、予測誤差Δpに応じて利率を判定するようにすることができる。
【0038】
ここでは、回帰分析による予測モデルを構築し、当該予測モデルを装置100の記憶部103又は装置100からアクセス可能な記憶媒体又は記憶装置に記憶して予測時に当該予測モデルを用いているが、予測モデルは回帰分析によるものに限定されるものではなく、例示として機械学習によって生成された学習済みモデルを予測モデルとして用い、1又は複数の財務指標及び1又は複数の信頼度に基づく融資条件判定を行うことが可能である。
【0039】
このように、対象企業の財務データに基づく1又は複数の財務指標を当該財務データに関する1又は複数の信頼度とともに用いることで、当該企業に煩雑な手続をさせることなく、当該企業に対して可能な融資の融資条件を判定することができる。必要に応じて、判定された融資条件を表示するための融資条件表示データをユーザー端末110に送信し、ユーザー端末110の表示画面に表示してもよい。
【0040】
上述の説明では、上記各処理は、会計サービスを提供するクラウドコンピューティングのためのサーバにおいて行うことを想定して説明した。会計サービスを運営する企業が管理するサーバ以外のサーバに財務データを送信して送信先において融資条件の判定を行うことも考えられるところ、会計サービスを提供するクラウドコンピューティングのためのサーバ又は当該会計サービスを運営する企業が管理するサーバに閉じて各処理を行う場合には、融資を受けたい対象会社の財務データが外部に晒されるおそれを増大させることがなく、好ましい。
【0041】
また、予測モデルで用いる信頼度の値が所定の閾値以上であることを融資可否の条件とすることが考えられる。一定以上の信頼度のない企業は与信審査不可能であるとして融資条件の判定を行わないとすることや、融資条件として融資不可と判定することで、信頼度をクレジットポリシーにかかるスクリーニングにおける定量的な指標として用いることができる。
【0042】
なお、「××のみに基づいて」、「××のみに応じて」、「××のみの場合」というように「のみ」との記載がなければ、本明細書においては、付加的な情報も考慮し得ることが想定されていることに留意されたい。また、一例として、「aの場合にbする」という記載は、明示した場合を除き、「aの場合に常にbする」ことを必ずしも意味しないことに留意されたい。
【0043】
また、念のため、なんらかの方法、プログラム、端末、装置、サーバ又はシステム(以下「方法等」)において、本明細書で記述された動作と異なる動作を行う側面があるとしても、本発明の各態様は、本明細書で記述された動作のいずれかと同一の動作を対象とするものであり、本明細書で記述された動作と異なる動作が存在することは、当該方法等を本発明の各態様の範囲外とするものではないことを付言する。
【0044】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、財務データに関する1又は複数の信頼度の詳細を説明する。
【0045】
入力経路
信頼度の根拠の一つとして、装置100が提供する会計サービスへの財務データの入力経路が挙げられる。コンピュータネットワーク上で通信可能な会計サービスの連携先のサーバから装置100が受信したデータは、ユーザー企業が当該会計サービスのウェブページにおいて手入力したデータよりも客観的な信頼性が高い。連携先から入手されるデータには、金融機関からの明細データ、EC運営企業からの購入データ、POSレジサービス提供企業からの販売データなどが含まれる。
【0046】
信頼度の具体例としては、所定の期間に会計サービスに入力された取引の一部又は全部の取引数に対する連携先のサーバから受信した取引データにより入力された取引の一部又は全部の取引数の割合又は当該割合に対応する値とすることができる。または、所定の期間に会計サービスに入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数に対する連携先のサーバから受信した取引データに対して入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数の割合又は当該割合に対応する値を信頼度とすることができる。また、連携先に応じてそれぞれ信頼度を算出し、各信頼度を重みづけしてデフォルト率の予測や融資条件の判定において考慮することができる。たとえば、金融機関のサーバからの受信により入力された取引データに最も大きな重みを与え、これを最も高く評価することが考えられる。より一般には、信頼度を、連携先のサーバから受信した取引データを用いて入力された取引の一部若しくは全部の取引数若しくは当該取引データに対して入力された仕訳の一部若しくは全部の仕訳数又はこれらに対応する数に基づいて算出することができる。仕訳数に対応する数には仕訳金額が含まれ、これは以下同様である。さらに一般には、信頼度を、会計サービスへの取引データの一部又は全部の入力経路毎の入力数又はこれに対応する数に基づいて算出することができる。
【0047】
また、入力経路として、会計サービスを提供する装置100にアップロードされた画像の画像解析を挙げることができる。証憑の画像の解析から取引データを生成する場合は、手入力による場合に比較して信頼性を高く評価することができる。
【0048】
また、入力経路として、会計サービスを提供する装置100上での当該会計サービスにおける請求書の作成を挙げることができる。請求書の請求書データは、取引データとして装置100に記憶される。
【0049】
承認・修正
信頼度の根拠の一つとして、財務データに対する承認数が挙げられる。取引データが手入力されている場合、当該手入力を行ったアカウントとは異なるアカウントにより承認されているとき、承認されていないときよりも信頼性が高い。したがって、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された取引の一部又は全部の取引数に対する承認済みの取引の一部又は全部の取引数の割合又は当該割合に対応する値とすることができる。または、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数に対する承認済みの取引データの一部又は全部に対して入力された仕訳数の割合又は当該割合に対応する値を信頼度とすることができる。または、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数に対する承認済みの仕訳の一部又は全部の仕訳数の割合又は当該割合に対応する値を信頼度とすることができる。より一般には、信頼度を承認済みの取引の一部若しくは全部の取引数、承認済みの取引の一部若しくは全部に対して入力された仕訳数若しくは承認済みの仕訳の一部若しくは全部の仕訳数又はこれらに対応する数に基づいて算出することができる。
【0050】
手入力された取引データの承認は、予め定められた自動承認ルールに従って行われることもある。自動承認ルールが改竄されていない限り、自動承認された取引データについても承認されていないものと比較して信頼性を高く評価することが考えられる。
【0051】
あるいは、取引データ又は仕訳データが修正されている場合、修正がされていない場合よりも信頼性が低い。したがって、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された取引の一部又は全部の取引数に対する修正が加えられた取引の一部又は全部の取引数の割合又はこれに対応する値を信頼度とすることができる。または、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数に対する、修正が加えられた、取引データの一部又は全部に対して入力された仕訳数の割合又は当該割合に対応する値を信頼度とすることができる。また、所定の期間に会計サービスに入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数に対する修正が加えられた仕訳の一部又は全部の仕訳数の割合又はこれに対応する値を信頼度とすることができる。より一般には、信頼度を、修正が加えられた取引の一部若しくは全部の取引数、修正が加えられた取引の一部若しくは全部に対して入力された仕訳数若しくは修正が加えられた仕訳の一部若しくは全部の仕訳数又はこれらに対応する数に基づいて算出することができる。この例では、数が多ければ信頼度が低下する。
【0052】
証憑
信頼度の根拠の一つとして、財務データに対する証憑の有無が挙げられる。取引データが手入力されている場合、レシート、領収書、請求書等の証憑も添付又は入力されている場合には、証憑を伴わない場合よりも信頼性が高い。例えば請求書が証憑の場合を考えると上述しているように請求先に当該請求書が送付されている場合にさらに信頼性が高いと言える。したがって、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された取引の一部又は全部の取引数に対する証憑を伴い入力又は手入力された取引の一部又は全部の取引数の割合又は当該割合に対応する値を信頼度とすることができる。または、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数に対する証憑を伴う取引の一部又は全部に対して入力された仕訳数の割合又は当該割合に対応する値を信頼度とすることができる。より一般には、信頼度を、証憑を伴い入力又は手入力された取引の一部若しくは全部の取引数若しくは証憑を伴う取引の一部若しくは全部に対して入力された仕訳数又はこれらに対応する数に基づいて算出することができる。
【0053】
売上という財務データの信頼度を請求書が証憑として伴うことを根拠として評価する例において、取引の両者がともに装置100により提供される会計サービスの利用者である場合には、請求先で当該請求書により表される取引が登録されていることによって請求書が送付されていること、さらにはその請求書が開封又は閲覧されていることを確実に確認することができる。当該請求書の請求書データを装置100を介して送付することも可能である。また、請求書を装置100が提供する会計サービス内で作成し、当該請求書の請求書データを装置100からダウンロードして受信可能とすることができる。相手方がダウンロードしたことを装置100において記憶するすることにより、請求書の相手方が当該会計サービスの非利用者であっても、請求書が相手方に送付されていること、そして開封又は閲覧されていることを確認することができる。会計サービス内で請求書が作成され、ダウンロードのためのリンクが生成されていることに基づいて、当該請求書が送付されたと評価することも考えられる。特に、過去に入金された記録のある相手方に対する請求書が開封又は閲覧されている場合や当該請求書により表される取引が登録されている場合には過去の入金記録のない相手方と比較して当該請求書に基づく売上又はこれを含む財務データの信頼度を高く評価することができる。
【0054】
取引詳細データ
入力される仕訳データが取引先、決済予定日、部署、補助科目等の取引の詳細に関する取引詳細データを伴うものである場合、正確性の高い入力と評価することができ、信頼性が高い。したがって、所定の期間に会計サービスに入力又は手入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数に対する取引詳細データを伴う仕訳の一部又は全部の仕訳数の割合又は当該割合に対応する値を信頼度とすることができる。より一般には、信頼度を、取引詳細データを伴い入力又は手入力された仕訳の一部又は全部の仕訳数又はこれらに対応する数に基づいて算出することができる。
【0055】
(第3の実施形態)
第1及び第2の実施形態においては、1又は複数の財務指標と1又は複数の信頼度を用いて融資条件の判定を行うものとして記述してきたが、第3の実施形態では、財務指標以外の指標を予測モデルに組み込む。
【0056】
たとえば、業種が同一、売上規模が同一の範囲、又は業種が同一かつ売上規模が同一の範囲である企業を類似企業と定義し、対象企業が属する類似企業のカテゴリーごとに融資条件判定のモデルを選択することができる。また、創業からの年数、すなわち業歴が同一の範囲である企業を類似企業と定義して、対象会社が属する類似企業のカテゴリーごとに融資条件判定のモデルを選択することができる。
【0057】
あるいは、業歴又はこれに対応する値を説明変数とすることが考えられる。さらに創業者の年齢、本社所在地域等の対象企業の属性を表す属性データを説明変数とすることが考えられる。
【符号の説明】
【0058】
100 装置
101 通信部
102 処理部
103 記憶部
104 データベース
110 ユーザー端末
図1
図2