(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】硫化水素吸収フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230622BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230622BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230622BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B32B27/00 K
B32B27/18 Z
B32B27/32 E
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2018205565
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】安田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】関谷 直美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 周
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001187(JP,A)
【文献】特開2015-188874(JP,A)
【文献】特開平11-235780(JP,A)
【文献】特開2006-095833(JP,A)
【文献】特開2009-096539(JP,A)
【文献】特開2000-355079(JP,A)
【文献】特開2008-081529(JP,A)
【文献】特開2019-010775(JP,A)
【文献】特開2014-076854(JP,A)
【文献】特開2014-097086(JP,A)
【文献】特開2006-334784(JP,A)
【文献】特開2016-112510(JP,A)
【文献】特開昭62-064737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
B01J 20/00-20/281、20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吸収層及び第一の耐熱層を具備しており、
前記ガス吸収層が、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂、及び前記熱可塑性樹脂に分散している金属系化学吸収剤を含有しており、
前記金属系化学吸収剤が、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選択される少なくとも1つの金属を含む金属ケイ酸塩であり、かつ
前記第一の耐熱層が、ポリプロピレン系樹脂で構成されている、
硫化水素吸収フィルム。
【請求項2】
前記ガス吸収層の前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂である、請求項1に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項3】
前記ガス吸収層の前記ポリエチレン系樹脂が、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体である、請求項2に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項4】
前記ガス吸収層の前記共重合体が、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアセテート共重合体である、請求項3に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項5】
前記ガス吸収層と前記第一の耐熱層との間に、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている第一の緩衝層を更に具備している、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項6】
前記第一の緩衝層の前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂である、請求項
5に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項7】
前記第一の緩衝層の前記ポリエチレン系樹脂が、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体である、請求項
6に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項8】
前記第一の緩衝層の前記共重合体が、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアセテート共重合体である、請求項
7に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項9】
前記ガス吸収層の前記第一の耐熱層と反対側に、
ポリプロピレン系樹脂で構成されている第二の耐熱層を更に具備している、請求項1~
8のいずれか一項に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項10】
前記ガス吸収層と前記第二の耐熱層との間に、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている第二の緩衝層を更に具備している、請求項
9に記載の
硫化水素吸収フィルム。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の
硫化水素吸収フィルム、及び基材層を有し、かつ
前記基材層が、前記ガス吸収層の、前記第一の耐熱層と反対側に積層されている、
包装用積層体。
【請求項12】
前記基材層が、バリア層及び基材樹脂層を有し、かつ
前記バリア層の、前記ガス吸収層と反対側に、基材樹脂層を更に具備している、請求項
11に記載の包装用積層体。
【請求項13】
請求項
11又は
12に記載の包装用積層体を1枚又は複数枚具備しており、かつ
1枚又は複数枚の前記包装用積層体の前記第一の耐熱層側の一部がこの包装用積層体の他の部分又は他のフィルムとヒートシールされていることによって袋状にされている、
包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸収フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品、電子部品、精密機械、記録材料等の分野において、品質劣化を防ぐ目的で、ガス吸収剤を同梱する方法がとられている。また、包装内に別体のガス吸収剤を入れずに、包装材自体にガス吸収機能を持たせるため、吸収剤を包装材自体に含有させることが行われている。
【0003】
具体的には、酸素を吸収する包装材として、特許文献1では、ポリオレフィン内面材、ポリオレフィンと鉄系酸素吸収剤との組成物から成る酸素吸収層、ポリオレフィン緩衝層、アルミニウム箔、及び延伸フィルム又は無機蒸着プラスチックフィルムが順次積層されていることを特徴とする酸素吸収性包装材が開示されている。
【0004】
また、硫化物系のガス、例えば硫化水素、メルカプタン等を吸収する包装材として、特許文献2では、オレフィン系エラストマーを含む第1のスキン層、並びに硫化物を吸着する無機吸着剤及びバインダーを含む吸着層を有する、硫化物系ガス吸着用積層体が開示されている。
【0005】
この特許文献2で言及されているように、硫化物を吸着するための無機吸着剤としては、金属系化学吸収剤、例えば銅、鉄、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケル、ジルコニウ
ム、及びランタノイド元素から選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物又は塩を用いることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-343661号公報
【文献】特開2016-112510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガス吸収フィルムを用いた包装材の用途によっては、ガス吸収性に加え、高温環境で長期間形状を維持できる耐熱性が求められることがある。この場合には、フィルム化しやすく、かつ耐熱性に優れたポリプロピレン系樹脂を用いることが好ましい。しかしながら、ポリプロピレン系樹脂及び金属系化学吸収剤を用いてガス吸収フィルムを作製し、これを高温環境下に置くと、ガス吸収フィルムが短期間で脆化し、ポリプロピレンの耐熱性を十分に活かせない場合があることを、本発明者らは見出した。
【0008】
そこで、金属系化学吸収剤を有し、かつ高温環境下での脆化が抑制されているガス吸収フィルムを提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉ガス吸収層及び第一の耐熱層を具備しており、
前記ガス吸収層が、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂、及び前記熱可塑性樹脂に分散している金属系化学吸収剤を含有しており、かつ
前記第一の耐熱層が、ポリプロピレン系樹脂で構成されている、
ガス吸収フィルム。
〈態様2〉前記ガス吸収層の前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂である、態様1に記載のガス吸収フィルム。
〈態様3〉前記ガス吸収層の前記ポリエチレン系樹脂が、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体である、態様2に記載のガス吸収フィルム。
〈態様4〉前記ガス吸収層の前記共重合体が、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアセテート共重合体である、態様3に記載のガス吸収フィルム。
〈態様5〉前記金属系化学吸収剤が、銅、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル、亜鉛、銀、カルシウム、及びチタンからなる群より選択される少なくとも1つを含有している、態様1~4のいずれか一項に記載のガス吸収フィルム。
〈態様6〉前記ガス吸収層と前記第一の耐熱層との間に、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている第一の緩衝層を更に具備している、態様1~5のいずれか一項に記載のガス吸収フィルム。
〈態様7〉前記第一の緩衝層の前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂である、態様6に記載のガス吸収フィルム。
〈態様8〉前記第一の緩衝層の前記ポリエチレン系樹脂が、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体である、態様7に記載のガス吸収フィルム。
〈態様9〉前記第一の緩衝層の前記共重合体が、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアセテート共重合体である、態様8に記載のガス吸収フィルム。
〈態様10〉前記ガス吸収層の前記第一の耐熱層と反対側に、第二の耐熱層を更に具備している、態様1~9のいずれか一項に記載のガス吸収フィルム。
〈態様11〉前記ガス吸収層と前記第二の耐熱層との間に、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている第二の緩衝層を更に具備している、態様10に記載のガス吸収フィルム。
〈態様12〉態様1~11のいずれか一項に記載のガス吸収フィルム、及び基材層を有し、かつ
前記基材層が、前記ガス吸収層の、前記第一の耐熱層と反対側に積層されている、
包装用積層体。
〈態様13〉前記基材層が、バリア層及び基材樹脂層を有し、かつ
前記バリア層の、前記ガス吸収層と反対側に、基材樹脂層を更に具備している、態様12に記載の包装用積層体。
〈態様14〉態様12又は13に記載の包装用積層体を1枚又は複数枚具備しており、かつ
1枚又は複数枚の前記包装用積層体の前記第一の耐熱層側の一部がこの包装用積層体の他の部分又は他のフィルムとヒートシールされていることによって袋状にされている、
包装袋。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属系化学吸収剤を有し、かつ高温環境下での脆化が抑制されているガス吸収フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明のガス吸収フィルムの側面断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の包装用積層体の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《ガス吸収フィルム》
図1(a)に示すように、本発明のガス吸収フィルム10aは、
ガス吸収層12及び第一の耐熱層14を具備しており、
ガス吸収層12が、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂、及び熱可塑性樹脂に分散している金属系化学吸収剤を含有しており、かつ
第一の耐熱層14が、ポリプロピレン系樹脂で構成されている。
【0013】
本発明者らは、酸素の存在下で、ポリプロピレン系樹脂と金属系化学吸収剤とが接触した状態で、高温環境下に置かれることにより、フィルムの脆化が促進されることを見出した。理論に拘束されることを望まないが、これは、酸化されやすいポリプロピレン系樹脂と酸素との反応が、金属系化学吸収剤が触媒として作用すること、及び高温環境により促進されることによると考えられる。この問題に対し、本発明者らは、上記の構成により、ポリプロピレン系樹脂と金属系化学吸収剤とが接触しないようにすることにより、上記のフィルムの脆化が抑制できることを見出した。
【0014】
したがって、本発明のガス吸収フィルムは、高温、例えば50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、又は90℃以上、また150℃以下、140℃以下、130℃以下、120℃以下、又は110℃以下の温度に達し得る環境において用いることができる。したがって、本発明のガス吸収フィルムは、例えば全固体リチウムイオン電池の包装のために用いることができる。
【0015】
本発明のガス吸収フィルムは、種々のガスを吸収することができ、特に硫化水素を良好に吸収する硫化水素吸収フィルムであることができる。
【0016】
本発明の一実施態様においては、
図1(b)に示すように、本発明のガス吸収フィルム10bは、ガス吸収層12と第一の耐熱層14との間に、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている第一の緩衝層16を更に具備している。この構成は、ガス吸収フィルムの脆化を更に抑制する観点から好ましい。
【0017】
本発明の一実施態様においては、
図1(c)に示すように、本発明のガス吸収フィルム10cは、ガス吸収層12の、第一の耐熱層14と反対側に、第二の耐熱層14’を更に具備している。この場合においては、
図1(d)に示すように、本発明のガス吸収フィルム10dは、ガス吸収層12と第二の耐熱層14’との間に、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている第二の緩衝層16’を更に具備していてよい。
【0018】
上記のいずれの態様においても、ガス吸収フィルムを構成する各層は、互いに直接積層されていてよく、特に融着されていてよい。
【0019】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0020】
〈ガス吸収層〉
ガス吸収層は、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂、及び熱可塑性樹脂に分散している金属系化学吸収剤を含有している。
【0021】
ガス吸収層中の金属系化学吸収剤の含有率は、良好な吸収能力を確保する観点から、ガス吸収層全体の質量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、又は10質量%以上であることが好ましく、また良好な製膜性を確保する観点から、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、又は50質量%以下であることが好ましい。
【0022】
ガス吸収層の厚さは、1μm以上、2μm以上、3μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、又は30μm以上であることが、良好な吸収能力を確保する観点から好ましく、また100μm以下、90μm以下、又は80μm以下であることが、フィルムのしなやかさを確保する観点から好ましい。
【0023】
(オレフィン系熱可塑性樹脂)
オレフィン系熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂である。オレフィン系熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン系樹脂が挙げられる。ポリエチレン系樹脂は、耐熱性には劣るものの、加工性に優れていることから好ましい。
【0024】
本明細書において、ポリエチレン系樹脂とは、ポリマーの主鎖にエチレン基の繰返し単位を、50mol%超、60mol%以上、70mol%以上、又は80mol%以上含む樹脂である。かかるポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレンを用いてもよく、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体を用いてもよい。
【0025】
上記の共重合体としては、例えばエチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-ビニルアセテート共重合体(EVA)を用いることができる。
【0026】
上記のオレフィン系熱可塑性樹脂の熱特性は、例えば、そのメルトマスフローレートが、ポリエチレンの条件を用いてJIS K6922-1に準拠して測定した場合に、好ましくは0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g/10min以上、3.0g/10min以上、又は5.0g/10min以上であり、200g/10min以下、100g/10min以下、50g/10min以下、又は30g/10min以下であってよい。また、例えばメルトマスフローレートは、ポリプロピレンの条件を用いてJIS K7210に準拠して測定した場合に、好ましくは0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、1.0g以上、3.0g/10min以上、5.0g/10min以上、又は10g/10min以上であり、200g/10min以下、100g/10min以下、50g/10min以下、又は30g/10min以下であってよい。
【0027】
(金属系化学吸収剤)
金属系化学吸収剤は、銅、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル、亜鉛、銀、カルシウム、及びチタンからなる群より選択される少なくとも1つを含有していてよく、特にこれらの単体又は化合物、特にこれらの塩、より特にこれらのケイ酸塩であってよい。
【0028】
特に好ましい金属系化学吸収剤は、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選択される少なくとも1つの金属を含む金属ケイ酸塩であり、さらに好ましくは金属とケイ素の元素組成(モル)比が、金属/ケイ素=0.60~0.80の範囲となるものである。このような無機吸着剤は、金属塩とケイ酸アルカリ塩とを反応させて製造することができる。上記金属塩としては、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属の、硫酸、塩酸、硝酸等の無機塩、及び/又はギ酸、酢酸、シュウ酸などの有機塩を用いることができる。これらの内で、金属として好ましいのは銅(I)、銅(II)、亜鉛(I)である。上記ケイ酸塩としては、M2O・nSiO2・xH2O(ここで、式中Mは1価アルカリ金属を表し、nは1以上、かつxは0以上である。)の式のケイ酸アルカリ塩をあげることができる。最も好ましい金属ケイ酸塩は、硫酸銅(II)とケイ酸ナトリウムとの反応生成物である銅(II)ケイ酸塩であり、例えば特開2011-104274号公報に記載のものである。例えばケスモンNS-20Cの呼称で東亞合成株式会社から入手可能な銅(II)ケイ酸塩系吸着剤を用いることができる。特に、この金属系化学吸収剤を用いた場合には、特許文献2で言及されているように、硫化水素を良好に吸収することができる。
【0029】
〈第一の耐熱層〉
第一の耐熱層は、ポリプロピレン系樹脂で構成されている層である。第一の耐熱層を、ガス吸収層と別体として設けることにより、ポリプロピレン系樹脂と金属系化学吸収剤との直接的な接触を抑制し、その結果、ガス吸収フィルムの脆化を抑制することができる。
【0030】
(ポリプロピレン系樹脂)
本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、ポリマーの主鎖にプロピレン基の繰返し単位を、50mol%超、60mol%以上、70mol%以上、又は80mol%以上含む樹脂である。かかるポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン(PP)ホモポリマー、ランダムポリプロピレン(ランダムPP)、ブロックポリプロピレン(ブロックPP)、塩素化ポリプロピレン、カルボン酸変性ポリプロピレン、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
〈第一の緩衝層〉
第一の緩衝層は、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている層である。耐熱層と吸収層との間に、かかる第一の緩衝層を設けることにより、金属系化学吸収剤とポリプロピレン系樹脂との直接的な接触を防止し、その結果、ガス吸収フィルムの脆化を更に抑制することができる。
【0032】
上記の熱可塑性樹脂としては、例えばガス吸収層に関して挙げたオレフィン系熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0033】
〈第二の耐熱層〉
第二の耐熱層は、ポリプロピレン系樹脂で構成されている層である。第二の耐熱層を構成するポリプロピレン系樹脂、及び第二の耐熱層の厚さは、第一の耐熱層と同一であってもよく、又は異なっていてもよい。
【0034】
〈第二の緩衝層〉
第二の緩衝層は、ポリプロピレン系樹脂以外のオレフィン系熱可塑性樹脂で構成されている層である。第二の緩衝層を構成する熱可塑性樹脂、及び第二の緩衝層の厚さは、第一の緩衝層と同一であってもよく、又は異なっていてもよい。
【0035】
《ガス吸収フィルムの製造方法》
本発明のガス吸収フィルムは、ガス吸収フィルムの各層を構成する材料を、必要に応じて溶融混錬し、製膜し、そして各層を積層することにより製造することができる。
【0036】
溶融混錬は、例えばニーダー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロールなどのバッチ式混練機、二軸混練機などの連続混練機などを用いて行うことができる。
【0037】
製膜は、例えばインフレーション法、Tダイ法、カレンダー法、キャスティング法、熱プレス成形、押出成形又は射出成形等により行うことができる。
【0038】
積層は、サンドラミネート法等の押出ラミネート法、ヒートシール法、熱プレス成形等により行うことができる。
【0039】
また、共押出インフレーション法及び共押出Tダイ法等の共押出法により、製膜及び積層を同時に行ってもよい。
【0040】
《包装用積層体》
図2に示すように、本発明の包装用積層体100a、100bは、
上記のガス吸収フィルム10a、10d、及び基材層20を有し、かつ
基材層20が、ガス吸収層12の、第一の耐熱層14と反対側に積層されている。
【0041】
ここで、「基材層が、ガス吸収層の、第一の耐熱層と反対側に積層されている」とは、包装用積層体の層構成において、基材層、ガス吸収層、及び第一の耐熱層の順に存在していることを意味するものであり、これらの層の間に他の層が存在していてもよく、又は存在していなくてもよい。例えば、
図2(a)に示すように、基材層20、ガス吸収層12、及び第一の耐熱層14が直接的にこの順で積層されていてもよい。
【0042】
また、
図2(b)に示すように、基材層20、ガス吸収層12、及び第一の耐熱層14が間接的にこの順で積層されていてもよい。具体的には、基材層が第二の耐熱層及び/若しくは第二の緩衝層を介してガス吸収層に積層され、かつ/又は第一の耐熱層が第一の緩衝層を介してガス吸収層に積層されていてもよい。
【0043】
上記のいずれの態様においても、
図2に示すように、基材層20は、バリア層22及び基材樹脂層24を有していてよい。
【0044】
基材層とガス吸収フィルムとの積層、及び基材層を構成することができる下記の層の積層は、例えば接着層を介して行うことができる。接着層としては、例えばドライラミネート接着剤、アンカーコート接着剤、ホットメルト接着剤、水溶性接着剤、エマルション接着剤、ノンソルベントラミネート接着剤、及び押出ラミネート用の熱可塑性樹脂等を用いることができる。
【0045】
本発明の包装用積層体は、種々の包装用途のために用いることができ、例えば全固体電池のためのラミネートフィルムとして用いることができる。
【0046】
〈基材層〉
基材層は、バリア性を有していてよい。また、基材層は、バリア層及び基材樹脂層を有していてよい。
【0047】
(バリア層)
バリア層としては、外部からの水分、有機ガス、及び酸素等の無機ガスがガス吸収層へと透過することを抑制することができる材料を用いることができる。バリア層としては、例えば、これに限られないが、アルミニウム箔、若しくはアルミニウム合金等の金属箔、アルミニウム蒸着膜、シリカ蒸着膜、アルミナ蒸着膜、若しくはシリカ・アルミナ二元蒸着膜等の無機物蒸着膜、又はポリ塩化ビニリデンコーティング膜、若しくはポリフッ化ビニリデンコーティング膜等の有機物コーティング膜を用いることができる。特に、バリア性及び取り扱い性を両立させやすくする観点から、バリア層としては、アルミニウム箔を用いることが好ましい。
【0048】
バリア層の厚さは、7μm以上、10μm以上、又は15μm以上であることが、強度及びバリア性を確保する観点から好ましく、また45μm以下、40μm以下、又は35μm以下であることが、取り扱い性を向上させる観点から好ましい。
【0049】
(基材樹脂層)
基材樹脂層としては、耐衝撃性、耐摩耗性等に優れた熱可塑性樹脂、例えば、ポリオレフィン、ビニル系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド等を単独で、又は2種類以上組み合わせて複層で使用することができる。この基材樹脂層は、延伸フィルムであっても、無延伸フィルムであってもよい。また、この基材樹脂層は、バリア層の片面又は両面に存在していても良い。この基材樹脂層により、バリア層を保護することができる。
【0050】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂としては、ガス吸収層に関して挙げたポリエチレン系樹脂を用いることができ、ポリプロピレン系樹脂としては、第一の耐熱層に関して挙げたポリプロピレン系樹脂を用いることができる。
【0051】
ビニル系ポリマーとしては、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル(PAN)等が挙げられる。
【0052】
ポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0053】
ポリアミドとしては、例えばナイロン(登録商標)6、ナイロンMXD6等のナイロン等が挙げられる。
【0054】
基材樹脂層の厚さは、7μm以上、10μm以上、又は15μm以上であることが、バリア層を良好に保護する観点から好ましく、また55μm以下、50μm以下、又は45μm以下であることが、取り扱い性を向上させる観点から好ましい。
【0055】
《包装袋》
本発明の包装袋は、上記の包装用積層体を1枚又は複数枚具備しており、かつ
1枚又は複数枚の包装用積層体の第一の耐熱層側の一部がこの包装用積層体の他の部分又は他のフィルムとヒートシールされていることによって袋状にされている。ここで、他のフィルムは、他の包装用積層体であってもよく、又は包装用積層体以外の他のフィルムであってもよい。
【0056】
本発明の包装袋は、内容物を収納している内容物入り包装袋であることができる。
【0057】
〈内容物〉
内容物としては、外気との接触によって劣化しうる物であれば限定されるものではなく、薬剤の他、食品、化粧品、医療器具、医療機器、電子部材、精密機械、記録材料等を挙げることができる。また、薬剤としては、医薬品製剤の他、洗浄剤、農薬等を含む。
【0058】
中でも、内容物が電子部材、特に硫化物系固体電解質を用いる全固体リチウムイオン電池である場合には、使用時の発熱に耐えることができる耐熱性、及び硫化物系固体電解質により発生する硫化水素の処理能力が要求されることとなるため、本発明の包装袋がより有益となる。
【実施例】
【0059】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0060】
《ガス吸収フィルムの作製》
〈比較例1-1〉
(ガス吸収層用シートの作製)
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(ノバテックFL02A、日本ポリプロ株式会社)90質量部と、ガス吸収剤としての銅(II)ケイ酸塩系吸着剤(ケスモンNS-20C、東亞合成株式会社)10質量部とをバンバリーミキサーにより混錬し、これを所定の質量に切り分け、そして熱プレス成型(プレス温度190℃、圧力60MPa、プレス時間2分)することにより、厚さ60μmのガス吸収層用シートを作製した。
【0061】
(耐熱層用シートの作製)
ポリプロピレン(ノバテックFL02A、日本ポリプロ株式会社)を所定の質量で秤量し、そして熱プレス成型(プレス温度190℃、圧力60MPa、プレス時間5分)することにより、厚さ30μmの耐熱層用シートを作製した。
【0062】
(ガス吸収フィルムの作製)
作製したガス吸収層用シートの両側に、それぞれ耐熱層用シートを重ね合わせ、そしてこれを熱プレス成型(プレス温度150℃、圧力10MPa、プレス時間10秒)することにより、比較例1-1のガス吸収フィルムを作製した。
【0063】
〈比較例1-2~1-3及び実施例1-1~1-9〉
ガス吸収層の熱可塑性樹脂の種類及び含有率を、表1に示すように変更し、用いた熱可塑性樹脂の融点に応じて熱プレス温度を150~190℃の範囲内で調節したことを除き、比較例1-1と同様にして、比較例1-2~1-3及び実施例1-1~1-9のガス吸収フィルムを作製した。
【0064】
ガス吸収層の熱可塑性樹脂としては、以下の樹脂を用いた:
低密度ポリエチレン(LDPE):ペトロセン202R(東ソー株式会社、MFR5.0g/10min)
エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA):レクスパール(登録商標)A6200(日本ポリエチレン株式会社、MF:20.0g/10min)
エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA):レクスパールEB440H(日本ポリエチレン株式会社、MFR18.0g/10min)
エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA):アクリフト(登録商標)WH401-F(住友化学株式会社、MFR20.0g/10min)
【0065】
次に、緩衝層を有するガス吸収フィルムについて以下で言及する。
【0066】
〈実施例2-1〉
熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(ノバテックFL02A、日本ポリプロ株式会社)を所定の質量で秤量し、そして熱プレス成型(プレス温度190℃、圧力60MPa、プレス時間2分)することにより、厚さ30μmの緩衝層用シートを作製した。
【0067】
ガス吸収層用シートと各耐熱層用シートとの間に、それぞれ緩衝層用シートを配置し、これを熱プレス成型(プレス温度170℃、圧力20MPa、プレス時間1分)したこと、及び耐熱層用シートの厚さを60μmとしたことを除き、実施例1-1と同様にして、実施例2-1のガス吸収フィルムを作製した。
【0068】
〈実施例2-2~2-8〉
緩衝層用シートに用いた熱可塑性樹脂の種類を、表2に示すように変更したことを除き、実施例2-1と同様にして、実施例2-2~2-8のガス吸収フィルムを作製した。
【0069】
緩衝層の熱可塑性樹脂としては、以下の樹脂を用いている:
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE):エボリュー(登録商標)SP2520(株式会社プライムポリマー、MFR1.9g/10min)
低密度ポリエチレン(LDPE):ペトロセン342(東ソー株式会社、MFR8.0g/10min)
エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA):レクスパールA4250(日本ポリエチレン株式会社、MFR5.0g/10min)
エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA):レクスパールEB140F(日本ポリエチレン株式会社、MFR2.6g/10min)
エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA):ニュクレルAN4221C(三井デュポンポリケミカル株式会社、MFR10.0g/10min)
エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA):アクリフト(登録商標)WH206-F(住友化学株式会社、MFR2.0g/10min)
エチレン-ビニルアセテート共重合体(EVA):ウルトラセン625(東ソー株式会社、MFR14.0g/10min)
【0070】
《脆化試験》
作製したガス吸収フィルムを100℃のオーブンに入れ、所定の期間ごとにフィルムを取り出して180度曲げ、ひび及び割れの有無を確認した。表1及び2では、ひび及び割れが発生するまでの期間に応じて、以下の評価基準で示している:
A:30日以上
B:17日以上30日未満
C:12日以上17日未満
D:7日以上12日未満
E:7日未満
【0071】
比較例1-1~1-3及び実施例1-1~1-9のガス吸収フィルムについては、120℃のオーブンを用いて、同様の試験を行った。表1及び2では、ひび及び割れが発生するまでの期間に応じて、以下の評価基準で示している:
A:3日以上
B:1日以上3日未満
C:0.5日以上1日未満
D:0.5日未満
【0072】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表1及び2に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
表1から、ガス吸収層の熱可塑性樹脂として、ポリエチレン系樹脂を用いた実施例1-1~1-9のガス吸収フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を用いた比較例1-1~1-3のガス吸収フィルムと比較して、フィルムのひび及び割れを良好に抑制できることが理解できよう。特に、ガス吸収層の熱可塑性樹脂として、100℃でフィルムを加熱した場合には、ガス吸収層の熱可塑性樹脂として、ポリエチレンを用いた実施例1-1~1-3のガス吸収フィルムは、フィルムのひび及び割れを特に良好に抑制できることが理解できよう。また、120℃でフィルムを加熱した場合には、ガス吸収層の熱可塑性樹脂として、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体を用いた実施例1-4~1-9のガス吸収フィルムは、フィルムのひび及び割れを特に良好に抑制できることが理解できよう。
【0076】
また、表2から、緩衝層の熱可塑性樹脂として、ポリエチレン系樹脂を用いた実施例2-2~2-8のガス吸収フィルムは、緩衝層を用いていない実施例1-1のガス吸収フィルム、及び緩衝層としてポリプロピレン系樹脂を用いた実施例2-1のガス吸収フィルムと比較して、フィルムのひび及び割れを良好に抑制できることが理解できよう。中でも、緩衝層の熱可塑性樹脂として、エチレンと、カルボキシル基又はエステル基を有するエチレン系モノマーとの共重合体を用いた実施例2-4~2-8のガス吸収フィルムは、フィルムのひび及び割れを特に良好に抑制できることが理解できよう。
【符号の説明】
【0077】
10a、10b、10c、10d ガス吸収フィルム
12 ガス吸収層
14 第一の耐熱層
14’ 第二の耐熱層
16 第一の緩衝層
16’ 第二の緩衝層
20 基材層
22 バリア層
24 基材樹脂層
100a、100b 包装用積層体