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特許7300277電子機器用筐体、展開図状金属樹脂接合板、電子機器用筐体の製造方法および電子装置
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  • 特許-電子機器用筐体、展開図状金属樹脂接合板、電子機器用筐体の製造方法および電子装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】電子機器用筐体、展開図状金属樹脂接合板、電子機器用筐体の製造方法および電子装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/02 20060101AFI20230622BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230622BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
H05K5/02 M
H05K9/00 C
H05K5/02 J
B29C45/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019028687
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020136515
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真哉
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103521(JP,A)
【文献】特開2002-134977(JP,A)
【文献】実開昭63-201391(JP,U)
【文献】国際公開第2018/038159(WO,A1)
【文献】実開昭61-000295(JP,U)
【文献】特開2018-142692(JP,A)
【文献】特開2014-067609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/02
H05K 9/00
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック底板と、前記プラスチック底板に一体的に折り曲げられて連結されたプラスチック側板とを備えた、内部に電子機器を収容するための筐体であって、
前記プラスチック底板および前記プラスチック側板から選ばれる少なくとも一枚の板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である電子機器用筐体であり、
前記プラスチック底板および前記プラスチック側板から選ばれる少なくとも一枚の板が、前記網状金属板(M)の表面の50面積%以上に前記プラスチックが接合一体化した積層構造板であり、かつ、その他の板が前記網状金属板(M)の表面の30面積%以下に前記プラスチックが骨組み状に接合一体化したリブ補強板である電子機器用筐体。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器用筐体において、
プラスチック蓋板をさらに備え、
前記プラスチック蓋板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である電子機器用筐体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子機器用筐体において、
前記プラスチック底板と前記プラスチック側板との境界線部にはプラスチックが接合されていない電子機器用筐体。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電子機器用筐体において、
前記プラスチックが射出成形体である電子機器用筐体。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電子機器用筐体において、
前記網状金属板(M)を構成する金属材料が鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、ニッケルおよびニッケル合金から選ばれる電子機器用筐体。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電子機器用筐体において、
前記網状金属板(M)がエキスパンドメタルまたはパンチングメタルである電子機器用筐体。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電子機器用筐体において、
前記網状金属板(M)は、少なくとも前記プラスチックとの接合部表面に微細凹凸構造を有しており、
前記微細凹凸構造に前記プラスチックの一部分が浸入することにより、前記網状金属板(M)と前記プラスチックが接合されている電子機器用筐体。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電子機器用筐体を作製するための展開図状金属樹脂接合板であって、
プラスチック底板と、前記プラスチック底板に一体的に連結されたプラスチック側板とを備え、
前記プラスチック底板および前記プラスチック側板から選ばれる少なくとも一枚の板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である展開図状金属樹脂接合板。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電子機器用筐体を製造するための製造方法であって、
網状金属板(M)を有する展開図状金属板を準備する工程(A)と、
前記展開図状金属板を金型内に設置し、プラスチック原料を前記金型内に注入して前記展開図状金属板の表面にプラスチックを接合して展開図状金属樹脂接合板を製造する工程(B)と、
前記展開図状金属樹脂接合板のプラスチック底板とプラスチック側板との境界線部を折り曲げて、前記展開図状金属樹脂接合板を箱型状にする工程(C)と、
を備える電子機器用筐体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の電子機器用筐体と、前記電子機器用筐体に収容された電子機器とを備える電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用筐体、展開図状金属樹脂接合板、電子機器用筐体の製造方法および電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を搭載した電子機器は電磁波を発生し、周辺機器に影響を与える場合がある。また、このような電子機器は、外部から放射される電磁波の影響を受け、誤動作するおそれがある。そのため、電子部品を搭載した電子機器の筐体は、一般的に電磁波を遮断可能なシールド材で形成されている。
【0003】
従来、電磁波シールドを行う主要な技術として、導電性プラスチックを用いる方法、プラスチック成形品表面に金属皮膜を設ける方法、金属板によるシールド法などが採用されてきた(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-176282号公報
【文献】特開2005-108328号公報
【文献】実開平5-72180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、導電性プラスチックを用いる方法は、成形品の外観や機械的強度の低下を招く場合があった。また、プラスチック表面に金属皮膜を設ける方法は、金属皮膜の剥離やクラック発生の懸念が払拭しきれなかった。さらに、金属板によるシールド法は、製品重量が重くなるという問題があり軽量化が求められる機器装置への適用が制約されてきた。
【0006】
一方、近年の電子部品の益々の高密度化によって電子筐体内に発生する熱量が増大する傾向にある。このために電磁波シールド性とともに放熱対策も重要になっている。しかし、上記シールド法は放熱性が必ずしも十分であるとはいえなかった。さらに、近年の車両の軽量化指向によって、車両に搭載される電子機器用筐体にも軽量化が求められている。そのため、電磁波シールド機能を備え、放熱特性と機械強度に優れ、且つ軽量な電子機器筐体が求められるようになってきた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、軽量性、電磁波シールド性、放熱特性および機械的強度のバランスに優れた電子機器用筐体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、電磁波シールド機能および放熱機能を有する網状の金属板を電子機器用筐体の構成板の少なくとも一部に採用し、この金属板の両面の一部乃至全部をプラスチックで強度補強することにより、電磁波シールド性、放熱特性および機械的強度を維持したまま、電子機器用筐体の一部について重い金属板から軽量なプラスチックに置き換えることが可能となり、その結果、筐体全体が金属板により構成されている従来の筐体に比べて、軽量性、電磁波シールド性、放熱特性および機械的強度のバランスに優れた電子機器用筐体が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す電子機器用筐体、展開図状金属樹脂接合板、電子機器用筐体の製造方法および電子装置が提供される。
[1]
プラスチック底板と、上記プラスチック底板に一体的に折り曲げられて連結されたプラスチック側板とを備えた、内部に電子機器を収容するための筐体であって、
上記プラスチック底板および上記プラスチック側板から選ばれる少なくとも一枚の板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である電子機器用筐体。
[2]
上記[1]に記載の電子機器用筐体において、
プラスチック蓋板をさらに備え、
上記プラスチック蓋板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である電子機器用筐体。
[3]
上記[1]または[2]に記載の電子機器用筐体において、
上記プラスチック底板と上記プラスチック側板との境界線部にはプラスチックが接合されていない電子機器用筐体。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体において、
上記プラスチック底板および上記プラスチック側板から選ばれる少なくとも一枚の板が、上記網状金属板(M)の表面の50面積%以上に上記プラスチックが接合一体化した積層構造板であり、かつ、その他の板が上記網状金属板(M)の表面の30面積%以下に上記プラスチックが骨組み状に接合一体化したリブ補強板である電子機器用筐体。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体において、
上記プラスチックが射出成形体である電子機器用筐体。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体において、
上記網状金属板(M)を構成する金属材料が鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、ニッケルおよびニッケル合金から選ばれる電子機器用筐体。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体において、
上記網状金属板(M)がエキスパンドメタルまたはパンチングメタルである電子機器用筐体。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体において、
上記網状金属板(M)は、少なくとも上記プラスチックとの接合部表面に微細凹凸構造を有しており、
上記微細凹凸構造に上記プラスチックの一部分が浸入することにより、上記網状金属板(M)と上記プラスチックが接合されている電子機器用筐体。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体を作製するための展開図状金属樹脂接合板であって、
プラスチック底板と、上記プラスチック底板に一体的に連結されたプラスチック側板とを備え、
上記プラスチック底板および上記プラスチック側板から選ばれる少なくとも一枚の板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である展開図状金属樹脂接合板。
[10]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体を製造するための製造方法であって、
網状金属板(M)を有する展開図状金属板を準備する工程(A)と、
上記展開図状金属板を金型内に設置し、プラスチック原料を上記金型内に注入して上記展開図状金属板の表面にプラスチックを接合して展開図状金属樹脂接合板を製造する工程(B)と、
上記展開図状金属樹脂接合板のプラスチック底板とプラスチック側板との境界線部を折り曲げて、上記展開図状金属樹脂接合板を箱型状にする工程(C)と、
を備える電子機器用筐体の製造方法。
[11]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の電子機器用筐体と、上記電子機器用筐体に収容された電子機器とを備える電子装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軽量性、電磁波シールド性、放熱特性および機械的強度のバランスに優れた電子機器用筐体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る実施形態の展開図状金属樹脂接合板の構造の一例を模式的に示した斜視図である。
図2】本発明に係る実施形態の展開図状金属板の一例を模式的に示した斜視図である。
図3】本発明に係る実施形態の電子機器用筐体の構造の一例を模式的に示した斜視図である。
図4】(a)図1のA-A断面を模式的に示した図面である。(b)図1のB-B断面を模式的に示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。文中の数字の間にある「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0013】
[電子機器用筐体]
まず、本実施形態に係る電子機器用筐体300について図3を例に取って説明する。
図1は、本発明に係る実施形態の展開図状金属樹脂接合板100の構造の一例を模式的に示した斜視図である。図3は、本発明に係る実施形態の電子機器用筐体300の構造の一例を模式的に示した斜視図である。
【0014】
本実施形態に係る電子機器用筐体300は、プラスチック底板(底板1とも呼ぶ。)(不図示)と、底板1に一体的に折り曲げられて連結されたプラスチック側板(側板2とも呼ぶ。)(2-1および2-4のみ図示。側板2-1に対向する側板2-3および側板2-4に対向する側板2-2は不図示)と、を備え、内部に電子機器を収容するための筐体であって、底板1および側板2から選ばれる少なくとも一枚の板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である。
また、本実施形態に係る電子機器用筐体300は、蓋板3をさらに備えることが好ましい。この場合、図1および3に示すように、蓋板3は側板2に一体的に折り曲げられて連結された金属製の板であることが好ましく、側板2に一体的に折り曲げられて連結され、かつ、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板であることがより好ましい。蓋板3の表面の一部または全部にプラスチックが接合され、蓋板3がプラスチックにより補強されていることで、電子機器用筐体300の機械的強度をより良好にすることができ、電子機器用筐体300を構成する網状金属板(M)の厚みをより薄くすることができる。
また、本実施形態に係る展開図状金属樹脂接合板100は、電子機器用筐体を作製するための展開図状金属樹脂接合板であって、図1に示すように、プラスチック底板(底板1)と、底板1に一体的に連結されたプラスチック側板(側板2)と、を備え、内部に電子機器を収容するための筐体であって、底板1および側板2(2-1、2-2、2-3および2-4)から選ばれる少なくとも一枚の板が、網状金属板(M)の両面にプラスチックが接合一体化している板である。
【0015】
本実施形態に係る電子機器用筐体300において、底板1と側板2との境界線部、および蓋板3と側板2との境界線部にはプラスチックが接合されていないことが好ましい。こうすることで、展開図状金属樹脂接合板100の底板1と側板2との境界線部、あるいは蓋板3と側板2を折り曲げることがより容易となり、電子機器用筐体300をより容易に作製することができる。
【0016】
本実施形態に係る電子機器用筐体300の好ましい態様においては、底板1、側板(2-1~2-4)および蓋板3から選ばれる少なくとも1枚、好ましくは2枚~5枚、より好ましくは4枚~5枚、特に好ましくは5枚が網状金属板(M)の全表面積の50面積%~100面積%、好ましくは60面積%~100面積%、より好ましくは70面積%~100面積%の部分の両面にプラスチックが対向配置されるように接合一体化して形成される、プラスチック/網状金属板(M)/プラスチックの三層構成の積層体である。なお、以下の説明では、網状金属板の両面にプラスチックが積層した板を「積層構造板」と呼ぶ場合がある。また、積層構造板の断面構造のイメージ図を図4(a)に示した。積層構造板のプラスチック7(断面9)は、筐体の強度向上のために更にプラスチックリブ部5(断面8)で補強されていてもよい。なお、上記積層構造板表面の残余部分(50面積%未満)は、板を通して任意に設定される送風機など電気部品取り付け用の貫通孔である。
【0017】
本実施形態に係る電子機器用筐体の好ましい形態においては、積層構造板以外の板は網状金属板(M)の表面の一部、好ましくは全表面積の30面積%以下、好ましくは5面積%以上30面積%以下、より好ましくは5面積%以上25面積%以下がプラスチックによって接合され、且つ上記網状金属板(M)の一方の面に接合されたプラスチックと他方の面に接合されたプラスチックの少なくとも一部、好ましくは全部が、上記網状金属板(M)の板面の垂直方向において互いに対向するように骨組み状に配置されている。なお、以下の説明では網状金属板の一部の表面にプラスチックがリブ状に対向配置した板を「リブ補強板」と呼ぶ場合がある。また、リブ補強板の断面構造のイメージ図を図4(b)に示した。
【0018】
図1および図3は、各々、底板1、側板(2-1、2-2、2-3)および蓋板3の合計五枚が積層構造板であり、側板2-4の一枚がリブ補強板である場合の展開図状金属樹脂接合板およびこれから得られる電子機器用筐体のイメージを示したものである。
【0019】
本実施形態においては、網状金属板(M)6の両面にプラスチック7を接合する方法としては、例えば、射出成形法、トランスファー成形法、圧縮成形法、反応射出成形法、ブロー成形法、熱成形法、プレス成形法等が挙げられるが、これらの中でも射出成形法が好ましい。すなわち、プラスチック7は射出成形体であることが好ましい。
【0020】
本実施形態に係る電子機器用筐体においては、側板2同士は、例えば、機械的手段で係合されていることが好ましい。機械的係合手段(物理的係合手段とも呼ぶ。)は特に限定されないが、例えば、ネジ止め等が挙げられる。側板2と必要に応じて設けられる蓋板3とは、上記の機械的手段で係合されていてもよいし、任意の側板1枚に一体的に折り曲げられて連結されていてもよい。ただし、この場合は蓋板が上記3枚の側板のいずれかに一体的に折り曲げられて連結していることが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る電子機器用筐体300は、その一部が重い金属板から軽量なプラスチックに置き換わるため、筐体全体が金属板により構成されている従来の筐体に比べて、軽量にすることができる。
また、本実施形態に係る電子機器用筐体300は、底板1と側板2と必要に応じて蓋板3とが網状金属板(M)または積層構造板の内側に内設された網状金属板(M)を備えることにより、筐体全体が金属板により構成されている従来の筐体と同等の電磁波シールド機能を得ることができる。
さらに、本実施形態に係る電子機器用筐体300は、底板1と側板2に内挿された網状金属板(M)とが一体的に連結されているため、底板と側板とを連結する部品が不要となり、部品点数を削減することができ、その結果、工程管理を簡素化できる。また、アース設置個所の削減も可能である。そして、本実施形態に係る電子機器用筐体300は、部品点数やアース設置個所を削減できるため、より軽量な電子機器用筐体300を実現することができる。
さらに、底板、側板および蓋板の少なくとも1枚が網状金属板(M)であるので通気性に優れるので、電子機器用筐体300の放熱特性を良好に維持することができる。
【0022】
以上から、本実施形態に係る電子機器用筐体300は、軽量性、電磁波シールド性、放熱特性および機械的強度のバランスに優れている。
【0023】
本実施形態に係る網状金属板(M)は、少なくともプラスチックとの接合部表面に微細凹凸構造を有することが好ましい。本実施形態においては、網状金属板の両面に対向配置されるプラスチックは、網状金属板に形成された小孔部を通した融着によって網状金属板を挟み込むように接合するが、上記微細凹凸構造を設けることによって網状金属板(M)とプラスチックとの接合力が向上するので、網状金属板(M)とプラスチックとの接合強度をより高めることができる。
【0024】
本実施形態に係る電子機器用筐体300を構成する各板においては、プラスチックは、網状金属板(M)の表面の少なくとも周縁部に接合されていることが好ましい。こうすることで、より少量のプラスチックで網状金属板(M)をより効果的に補強することができる。さらに、プラスチックの使用量を減らすことができるため、プラスチックの成形時の収縮により網状金属板(M)が過度に変形する現象を抑制することができる。
また、本実施形態に係る電子機器用筐体300において、プラスチックの少なくとも一部は、例えば、図1および3に示すように、網状金属板(M)の表面、乃至積層構造板上に骨組み状に形成されていることが好ましい。骨組み状としては、例えば、筋交い状、格子状、トラス状およびラーメン状から選択される少なくとも一種の形状が挙げられる。網状金属板(M)乃至積層構造板の表面にプラスチックを骨組状に形成することにより、より少量のプラスチックで筐体強度をより効果的に補強出来るとともに、筐体の放熱特性の低下を抑制することができる。
【0025】
本実施形態に係る積層構造板の厚みは、全ての場所で同一厚みであってもよいし、場所によって厚みが異なっていてもよく、また積層構造板の上に更に設けられた骨組み状の形成部材の厚みは、全ての場所で同一厚みであってもよいし、場所によって厚みが異なっていてもよい。さらに本実施形態に係るリブ補強板に設けられた骨組み状の形成部材の厚みは、全ての場所で同一厚みであってもよいし、場所によって厚みが異なっていてもよい。
本実施形態に係る積層構造板において、網状金属板(M)の表面に接合されるプラスチックの平均厚みは、網状金属板(M)の平均厚みや筐体全体の大きさにもよるが、例えば1.0mm~10mm、好ましくは1.5mm~8mm、より好ましくは1.5~5.0mmである。さらにプラスチックの上に配置される骨組み状形成部材の平均厚み(プラスチックを含んだ平均厚み)は、例えば3.0mm~20mm、好ましくは3.0mm~15mmである。
本実施形態に係るリブ補強板において、網状金属板(M)の表面に接合・配置される骨組み状形成部材の平均厚みは、例えば1.0mm~20mm、好ましくは1.5mm~15mm、より好ましくは2.0mm~10mmである。
【0026】
本発明は、電子機器用筐体300を作製するための展開図状金属樹脂接合板100をも包含するものである。
【0027】
本実施形態に係る電子装置は、電子機器用筐体300と、電子機器用筐体300に収容された電子機器とを備える。本実施形態に係る電子機器用筐体300に電子機器が収容された電子装置としては、例えば、オーディオ装置、車両搭載移動電話装置、カーナビゲーション装置、車載カメラ、ドライブレコーダー等に代表される車載装置が挙げられる。
【0028】
以下、本実施形態に係る電子機器用筐体300を構成する各部材について図面を例にとって説明する。
【0029】
本実施形態に係る網状金属板(M)を構成する金属材料としては、鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、ニッケルおよびニッケル合金や、これに金、銀、ニッケルなどを単独で、或いは組み合わせてメッキを施したものを用いることができる。
網状金属板(M)の厚みは、0.05mm~3mmであることが好ましい。
また、網状金属板(M)としては、エキスパンドメタルまたはパンチングメタルを用いることが好ましい。エキスパンドメタルは、例えば、金属板に不連続の多数のスリットを設け、スリットの長手方向と直交する方向に金属板を伸長させて、スリット形状を正方形、長方形、菱形、平行四辺形、不等辺四角形等の形状に広げて網状の目を形成するようにして作製されたものである。また、パンチングメタルは、例えば、金属板にパンチング加工をして丸孔や角孔など多数の孔を目として設けることによって作製されるものである。これらのエキスパンドメタルやパンチングメタルは、一枚の金属板から作製されるものであり、従って熱の伝導が途切れることがない、あるいはアースとして利用する場合は電気の伝導が途切れることがないという特徴をもつ。また、エキスパンドメタルやパンチングメタルは、金属繊維を編んで形成される網よりも平面度が高いので、プラスチックとの接合性がよく、堅固に密着するので界面で剥離が発生しにくい。また、プラスチックとして透明性プラスチックを利用する場合は、光の乱反射を起こし難いので意匠性に優れた透明性が確保される。
網状金属板(M)のストランド幅は通常、0.1mm~0.5mmの範囲にある。また目付は通常、20g/m~150g/mである。
【0030】
このような網状金属板(M)を、必要に応じ賦形しておき、プラスチック成形金型内にセットし、該金型内に溶融したプラスチックを供給して成形することによって、プラスチック内に網状金属板(M)が内設された積層構造板、またはリブ補強板を製造することができる。網状金属板(M)を積層構造板またはリブ補強板の内部に配設できる成形方法は特に限定されないが、例えば射出成形、プレス成形、射出圧縮成形、真空成型、押出成形、ブロー成形などを挙げることができ、生産性の視点からは射出成形が好ましい。
【0031】
網状金属板(M)は、少なくともプラスチックとの接合部表面に微細凹凸構造を有することが好ましく、例えば、間隔周期が5nm以上200μm以下である凸部が林立した微細凹凸構造を有することがより好ましい。
ここで、微細凹凸構造の間隔周期は凸部から隣接する凸部までの距離の平均値であり、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真、あるいは表面粗さ測定装置を用いて求めることができる。
電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡により測定される間隔周期は通常500nm未満の間隔周期である。具体的には網状金属板(M)の接合部表面を撮影し、その写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定し、凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とする。一方、500nmを超える間隔周期は通常、表面粗さ測定装置を用いて求める。
なお、通常、網状金属板(M)の接合部表面だけでなく、網状金属板(M)の表面全体に対し、表面粗化処理が施されているため、網状金属板(M)の接合部表面と同一面で、接合部表面以外の箇所から間隔周期を測定することもできる。
【0032】
上記間隔周期は、好ましくは10nm以上150μm以下、より好ましくは100nm以上150μm以下である。
上記間隔周期が上記下限値以上であると、微細凹凸構造の凹部にプラスチックが十分に進入することができ、網状金属板(M)とプラスチックとの接合強度をより向上させることができる。また、上記間隔周期が上記上限値以下であると、網状金属板(M)とプラスチックとの接合部分に隙間が生じるのを抑制できる。その結果、金属―樹脂界面の隙間から水分等の不純物が浸入することを抑制できるため、電子機器用筐体300を高温、高湿下で用いた際、強度が低下することを抑制できる。
【0033】
上記間隔周期を有する微細凹凸構造を形成する方法としては、NaOH等を含有する無機塩基水溶液および/または塩化水素、硝酸等を含有する無機酸水溶液に金属板を浸漬する方法;陽極酸化法により金属板を処理する方法;機械的切削、例えばダイヤモンド砥粒研削またはブラスト加工によって作製した凹凸を有する金型パンチをプレスすることにより金属板表面に凹凸を形成する方法や、サンドブラスト、ローレット加工、レーザー加工により金属板表面に凹凸形状を作製する方法;国際公開第2009/31632号パンフレットに開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属板を浸漬する方法等が挙げられる。これらの方法は、網状金属板(M)を構成する金属材料の種類や、上記間隔周期の範囲内において形成する凹凸形状によって使い分けることが可能である。本実施形態においては、苛性ソーダ等を含有する無機塩基水溶液および/または塩化水素、硝酸等を含有する無機酸水溶液に金属板を浸漬する方法が、金属板を広範囲にわたってまとめて処理することができることや、また網状金属板(M)とプラスチックとの接合力に優れることから好ましい。
【0034】
<プラスチック>
プラスチックとしては特に限定されないが通常熱可塑性樹脂を主体とした組成物が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、極性基含有ポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等のポリメタクリル系樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂等のポリアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール-ポリ塩化ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、無水マレイン酸-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、アミノポリアクリルアミド樹脂、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、ABS、ACS、AES、AS、ASA、MBS、エチレン-塩化ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニルグラフトポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素化エチレンポリプロピレン樹脂、PFA、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリパラメチルスチレン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグルタミン酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0035】
これらの中でも、接合強度向上効果をより効果的に得ることができるという観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアリーレンエーテル系樹脂およびポリアリーレンスルフィド系樹脂から選択される一種または二種以上のプラスチックが好適に用いられる。
【0036】
本実施形態に係るプラスチックは、線膨張係数差調整等の視点から任意成分として充填剤を含んでもよい。充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。また、アルミナ、フォルステライト、マイカ、窒化アルミナ、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等に代表される放熱性フィラーを用いることもできる。これらの充填剤の形状は特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等どのような形状であってもよい。
【0037】
なお、プラスチックが充填剤を含む場合、その含有量は、プラスチック全体を100質量部としたとき、好ましくは1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上90質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以上80質量部以下である。
【0038】
本実施形態に係るプラスチックとして、熱硬化性樹脂組成物を用いることも可能である。熱硬化性樹脂組成物とは、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物である。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が用いられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、耐熱性、加工性、機械的特性、接着性および防錆性等の視点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種以上を含む熱硬化性樹脂組成物が好適に用いられる。プラスチックに占める熱硬化性樹脂の含有量は、プラスチック全体を100質量部としたとき、好ましくは15質量部以上60質量部以下であり、より好ましくは25質量部以上50質量部以下である。なお残余成分は例えば充填剤であり、充填剤としては、例えば、前述した充填剤を用いることができる。
【0039】
<電子機器用筐体の製造方法>
次に、本実施形態に係る電子機器用筐体300およびその前駆体となる展開図状金属樹脂接合板100の製造方法について説明する。
図1は、本発明に係る実施形態の展開図状金属樹脂接合板100の構造の一例を模式的に示した斜視図である。また図2は、本発明に係る実施形態のプラスチックが接合される前の展開図状金属板200の構造の一例を模式的に示した斜視図である。
本実施形態に係る電子機器用筐体300の製造方法は、例えば、以下の工程(A)~(C)を含む。
(A)網状金属板(M)を有する展開図状金属板200を準備する工程
(B)展開図状金属板200を金型内に設置し、プラスチック原料を上記金型内に注入して展開図状金属板200の表面にプラスチックを接合して展開図状金属樹脂接合板100を製造する工程
(C)展開図状金属樹脂接合板100の底板1と側板2との境界線部を折り曲げて、展開図状金属樹脂接合板100を箱型状にする工程
【0040】
本実施形態に係る電子機器用筐体300の製造方法は、折り曲げ加工前の中間製品である展開図状金属板200や展開図状金属樹脂接合板100の形状が平板状であるので、大量中間製品の保管効率や運搬効率が向上するというメリットがある。
【符号の説明】
【0041】
1 底板
2 側板
2-1 側板
2-2 側板
2-3 側板
2-4 側板
3 蓋板
4 開口部
5 プラスチックリブ部
6 網状金属板
7 プラスチック
8 プラスチックリブ部の断面
9 積層体構造体部の断面
11 網状金属板(底板部)
12-1 網状金属板(側板部)
12-2 網状金属板(側板部)
12-3 網状金属板(側板部)
12-4 網状金属板(側板部)
13 網状金属板(蓋板部)
100 展開図状金属樹脂接合板
200 展開図状金属板
300 電子機器用筐体
図1
図2
図3
図4