(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】トルク変動抑制装置、及びトルクコンバータ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/14 20060101AFI20230622BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20230622BHJP
F16H 45/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
F16F15/14 Z
F16F15/134 A
F16F15/134 D
F16H45/02 Y
(21)【出願番号】P 2019046453
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】岡町 悠介
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047938(WO,A1)
【文献】特開2018-132161(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005379(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0333961(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/134
F16F 15/14
F16H 45/02
F16H 41/24
F16H 19/00- 37/16
F16H 49/00
F16F 7/00- 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクが入力され、回転可能に配置される入力部材と、
軸方向において前記入力部材の両側に配置され、前記入力部材に対して相対回転可能に配置され、互いに一体的に回転する一対のイナーシャリングと、
前記一対のイナーシャリング間に配置され、前記一対のイナーシャリングに対して固定されるイナーシャブロックと、
を備える、トルク変動抑制装置。
【請求項2】
前記入力部材は、周方向に延びる収容部を有し、
前記イナーシャブロックは、前記収容部内に配置される、
請求項1に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項3】
前記入力部材と前記一対のイナーシャリングとのねじれ角が閾値になると、前記イナーシャブロックは、収容部の内壁面に当接する、
請求項2に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項4】
前記収容部は、径方向外側に向かって開口する、
請求項2又は3に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項5】
前記イナーシャブロックは、周方向に延び、径方向よりも周方向の寸法が大きい、
請求項1から4のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項6】
前記入力部材と前記一対のイナーシャリングとの間のねじり剛性を、前記入力部材又は前記一対のイナーシャリングの回転数に応じて変化させる可変剛性機構をさらに備える、
請求項1から5のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項7】
前記可変剛性機構は、
前記入力部材又は前記一対のイナーシャリングの回転による遠心力を受けて径方向に移動可能な遠心子と、
前記遠心子に作用する遠心力を受けて、前記遠心力を前記入力部材と前記一対のイナーシャリングとのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するカム機構と、
を有する、
請求項6に記載のトルク変動抑制装置。
【請求項8】
前記イナーシャブロックは、その重心が径方向に移動不能である、
請求項1から7のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項9】
前記イナーシャブロックは、軸方向視において、その重心が前記一対のイナーシャリングと重複する、
請求項1から8のいずれかに記載のトルク変動抑制装置。
【請求項10】
インペラ、タービン、及びステータを有するトルクコンバータ本体と、
請求項1から
9のいずれかに記載のトルク変動抑制装置と、
を備える、トルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク変動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルク変動抑制装置は、入力部材及びイナーシャ部材を備えている。例えば、特許文献1に記載のトルク変動抑制装置では、一対のイナーシャリングがハブフランジを挟むように配置されている。このトルク変動抑制装置は、イナーシャリングの慣性力を利用して、ハブフランジに入力されるトルク変動を抑制するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような構成のトルク変動抑制装置において、イナーシャリングの慣性力を増加させるために、イナーシャリングを厚くすることが考えられる。しかし、このようにイナーシャリングを厚くすると、軸方向の寸法が大きくなってしまい、トルク変動抑制装置の設置スペースが拡大化してしまうという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、設置スペースを拡大することなくイナーシャリングの慣性力を増加させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面に係るトルク変動抑制装置は、入力部材、一対のイナーシャリング、及びイナーシャブロックを備えている。入力部材は、トルクが入力され、回転可能に配置される。一対のイナーシャリングは、軸方向において入力部材の両側に配置される。一対のイナーシャリングは、入力部材に対して相対回転可能に配置される。一対のイナーシャリングは、互いに一体的に回転する。イナーシャブロックは、一対のイナーシャリング間に配置される。イナーシャブロックは、一対のイナーシャリングに取り付けられる。
【0007】
この構成によれば、イナーシャリングに対してイナーシャブロックが取り付けられているため、イナーシャリングの慣性力を増加させることができる。そして、このイナーシャブロックは、一対のイナーシャリングの間に配置されており、軸方向の寸法が大きくなることはない。このため、上記構成によれば、設置スペースを拡大することなく、イナーシャリングの慣性力を増加させることができる。
【0008】
好ましくは、入力部材は、周方向に延びる収容部を有する。イナーシャブロックは、収容部内に配置される。
【0009】
好ましくは、入力部材と一対のイナーシャリングとのねじれ角が閾値になると、イナーシャブロックは、収容部の内壁面に当接する。
【0010】
好ましくは、収容部は、径方向外側に開口する。
【0011】
好ましくは、イナーシャブロックは、周方向に延びる。
【0012】
好ましくは、トルク変動抑制装置は、可変剛性機構をさらに備える。可変剛性機構は、入力部材と一対のイナーシャリングとの間のねじり剛性を、入力部材又は前記一対のイナーシャリングの回転数に応じて変化させる。
【0013】
好ましくは、可変剛性機構は、遠心子と、カム機構とを有する。遠心子は、入力部材又は一対のイナーシャリングの回転による遠心力を受けて径方向に移動可能である。カム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、遠心力を入力部材と一対のイナーシャリングとのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換する。
【0014】
本発明の第2側面に係るトルクコンバータは、トルクコンバータ本体と、上記いずれかのトルク変動抑制装置と、を備える。トルクコンバータ本体は、インペラ、タービン、及びステータを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、設置スペースを拡大することなくイナーシャリングの慣性力を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図7】ねじれた状態(ねじれ角θ)のトルク変動抑制装置の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る回転装置の実施形態であるトルク変動抑制装置について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るトルク変動抑制装置をトルクコンバータのロックアップ装置に装着した場合の模式図である。なお、以下の説明において、軸方向とはトルク変動抑制装置の回転軸Oが延びる方向である。また、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。
【0018】
[全体構成]
図1に示すように、トルクコンバータ100は、フロントカバー11、トルクコンバータ本体12と、ロックアップ装置13と、出力ハブ14と、を有している。フロントカバー11にはエンジンからトルクが入力される。トルクコンバータ本体12は、フロントカバー11に連結されたインペラ121と、タービン122と、ステータ123と、を有している。タービン122は出力ハブ14に連結されている。トランスミッションの入力軸(図示せず)が出力ハブ14にスプライン嵌合している。
【0019】
[ロックアップ装置13]
ロックアップ装置13は、クラッチ部や、油圧によって作動するピストン等を有し、ロックアップオン状態と、ロックアップオフ状態と、を取り得る。ロックアップオン状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介さずに、ロックアップ装置13を介して出力ハブ14に伝達される。一方、ロックアップオフ状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介して出力ハブ14に伝達される。
【0020】
ロックアップ装置13は、入力側回転体131と、トルク変動抑制装置10と、を有している。
【0021】
入力側回転体131は、出力ハブ14と相対回転可能である。入力側回転体131は、軸方向に移動自在なピストンを含み、フロントカバー11側の側面に摩擦部材132が固定されている。この摩擦部材132がフロントカバー11に押し付けられることによって、フロントカバー11から入力側回転体131にトルクが伝達される。
【0022】
[トルク変動抑制装置10]
図2はトルク変動抑制装置10の正面図、
図3はトルク変動抑制装置10の斜視図である。なお、
図2では、一方(手前側)のイナーシャリングが取り外されている。
【0023】
図2及び
図3に示すように、トルク変動抑制装置10は、入力部材2、一対のイナーシャリング3、複数のイナーシャブロック4、複数の可変剛性機構5、及び複数の弾性部材6を有している。
【0024】
<入力部材2>
入力部材2は、トルクが入力される。詳細には、入力部材2は、弾性部材6を介して入力側回転体131からトルクが入力される。入力部材2は、回転可能に配置される。入力部材2は、入力側回転体131と軸方向に対向して配置されている。入力部材2は、入力側回転体131と相対回転可能である。入力部材2は、出力ハブ14に連結されている。すなわち、入力部材2は、出力ハブ14と一体的に回転する。
【0025】
入力部材2は、環状に形成されている。入力部材2の内周部が出力ハブ14に連結されている。入力部材2は、複数の収容部21を有する。収容部21は、入力部材2の外周部に形成されており、径方向外側に開口している。収容部21は、周方向に延びている。
【0026】
図4はトルク変動抑制装置10の斜視図、
図5はトルク変動抑制装置の断面図である。なお、
図4では、一対のイナーシャリング3及びこれと一体的に回転する部材などが取り外されている。
【0027】
図4及び
図5に示すように、入力部材2は、一対の入力プレート22を有する。一対の入力プレート22は、軸方向に配列されている。一対の入力プレート22は、外周部において、軸方向に互いに間隔をあけて配置されている。一対の入力プレート22は、内周部において弾性部材6を保持している。また、一対の入力プレート22は、内周部において互いに当接している。
【0028】
図6に示すように、入力部材2は、複数のガイド部材23を有している。ガイド部材23は、一対の入力プレート22間に配置されている。ガイド部材23は、遠心子51の径方向の移動をガイドしている。詳細には、複数のガイド部材23は、周方向に間隔をあけて配置されている。そして、遠心子51は、周方向において、複数のガイド部材23の間に配置されている。この配置によって、複数のガイド部材23は、遠心子51を周方向において保持している。ガイド部材23は、例えば、ガイドローラである。ガイド部材23は、一対の入力プレート22に自転可能に取り付けられている。遠心子51が径方向に移動することによって、ガイド部材23は自転する。これにより、遠心子51は径方向にスムーズに移動することができる。
【0029】
<イナーシャリング3>
図3に示すように、イナーシャリング3は、環状のプレートである。詳細には、イナーシャリング3は、連続した円環状に形成されている。イナーシャリング3の外周面は、入力プレート22の外周面と径方向の位置が実質的に同じである。イナーシャリング3は、トルク変動抑制装置10の質量体として機能する。
【0030】
図5に示すように、一対のイナーシャリング3は、入力部材2を挟むように配置されている。一対のイナーシャリング3は、軸方向において入力部材2の両側に配置されている。すなわち、入力部材2と一対のイナーシャリング3とは、軸方向に並べて配置されている。イナーシャリング3は、入力部材2の回転軸と同じ回転軸を有する。
【0031】
一対のイナーシャリング3は、リベット31によって互いに固定されている。したがって、一対のイナーシャリング3は、互いに、軸方向、径方向、及び円周方向に移動不能である。
【0032】
イナーシャリング3は、入力部材2とともに回転可能で、かつ入力部材2に対して相対回転可能に配置されている。すなわち、イナーシャリング3は、入力部材2に弾性的に連結されている。詳細には、イナーシャリング3は、可変剛性機構5を介して入力部材2に弾性的に連結されている。
【0033】
<イナーシャブロック4>
図2及び
図3に示すように、イナーシャブロック4は、一対のイナーシャリング3間に配置されている。イナーシャブロック4は、周方向に延びている。イナーシャブロック4は、径方向よりも周方向の寸法の方が大きい。イナーシャブロック4は、例えば、金属製である。なお、イナーシャブロック4の密度は、イナーシャリング3の密度よりも小さくすることができる。また、イナーシャブロック4は、焼結金属であってもよい。
【0034】
イナーシャブロック4はイナーシャリング3と別部材である。イナーシャブロック4は、一対のイナーシャリング3に取り付けられている。すなわち、イナーシャブロック4は、一対のイナーシャリング3と一体的に回転する。このようにイナーシャブロック4が取り付けられることによって、イナーシャリング3の慣性力が増加する。なお、イナーシャブロック4は、複数のリベット140によってイナーシャリング3に取り付けられている。
【0035】
複数のイナーシャブロック4は、周方向において互いに間隔をあけて配置されている。イナーシャブロック4は、入力部材2の収容部21内に収容されている。イナーシャブロック4が取り付けられた一対のイナーシャリング3は、入力部材2と相対的に回転する。このため、入力部材2と一対のイナーシャリング3とのねじれ角が閾値θ1になると、イナーシャブロック4は、収容部21の内壁面211と当接する。すなわち、入力部材2とイナーシャリング3とは、閾値θ1を超えて相対回転しない。なお、収容部21の内壁面211は、円周方向を向いている。
【0036】
イナーシャブロック4は、遠心子51と同一円周上に配置されている。イナーシャブロック4の外周面は、イナーシャリング3の外周面と径方向の位置が実質的に同じである。
【0037】
<可変剛性機構5>
図2に示すように、可変剛性機構5は、入力部材2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を、入力部材2又はイナーシャリング3の回転数に応じて変化させるように構成されている。なお、本実施形態では、可変剛性機構5は、上記ねじり剛性を、入力部材2の回転数に応じて変化させるように構成されている。詳細には、可変剛性機構5は、入力部材2の回転数が高くなるにつれて、入力部材2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を大きくする。
【0038】
可変剛性機構5は、遠心子51、及びカム機構52を有している。遠心子51は、入力部材2に取り付けられている。詳細には、遠心子51は、一対の入力プレート22間に配置されている。遠心子51は、一対の入力プレート22によって、軸方向に保持されている。また、遠心子51は、複数のガイド部材23によって、円周方向に保持されている。
【0039】
遠心子51は、入力部材2の回転による遠心力を受けて径方向に移動可能である。遠心子51は、一対の入力プレート22間において、径方向に移動可能に配置されている。また、遠心子51が径方向に移動することによって、ガイド部材23が自転する。これによって、遠心子51は径方向にスムーズに移動できる。なお、遠心子51は、軸方向に突出する突部を有していてもよい。この突部が入力プレート22の貫通孔などと係合することによって、遠心子51の軸方向内側への移動を規制することができる。
【0040】
遠心子51はカム面511を有している。カム面511は、正面視(
図2のように、軸方向に沿って見た状態)において、径方向内側に窪む円弧状に形成されている。なお、カム面511は、遠心子51の外周面である。この遠心子51のカム面511は、後述するように、カム機構52のカムとして機能する。
【0041】
カム機構52は、遠心子51に作用する遠心力を受けて、入力部材2とイナーシャリング3との間にねじれ(円周方向における相対変位)が生じたときには、遠心力をねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換する。
【0042】
カム機構52は、カムフォロア521と、遠心子51のカム面511とから構成されている。なお、遠心子51のカム面511がカム機構52のカムとして機能する。カムフォロア521は、リベット31に取り付けられている。すなわち、カムフォロア521はリベット31に支持されている。なお、カムフォロア521は、リベット31に対して回転可能に装着されているのが好ましいが、回転不能に装着されていてもよい。カム面511は、カムフォロア521が当接する面であり、軸方向視において円弧状である。入力部材2とイナーシャリング3とが所定の角度範囲で相対回転した際には、カムフォロア521はこのカム面511に沿って移動する。
【0043】
カムフォロア521とカム面511との接触によって、入力部材2とイナーシャリング3との間にねじれ角(回転位相差)が生じたときに、遠心子51に生じた遠心力は、ねじれ角が小さくなるような円周方向の力に変換される。
【0044】
<弾性部材>
図5に示すように、弾性部材6は、一対の入力プレート22によって保持されている。詳細には、弾性部材6は、一対の入力プレート22に形成された切り起こし部221によって保持されている。弾性部材6は、一対の入力プレート22に形成された窓部222から露出している。
【0045】
弾性部材6は、円周方向において伸縮する。弾性部材6は、コイルスプリングである。径方向において、この弾性部材6の外側に、遠心子51が配置されている。具体的には、遠心子51を含む可変剛性機構5が、径方向において弾性部材6の外側に配置されている。
【0046】
弾性部材6は、入力側回転体131からトルクが入力される。入力側回転体131からのトルクは、弾性部材6を介して、一対の入力プレート22に入力される。
【0047】
[トルク変動抑制装置の作動]
次に、トルク変動抑制装置10の作動について説明する。
【0048】
ロックアップオン時には、フロントカバー11に伝達されたトルクは、入力側回転体131及び弾性部材6を介して入力部材2に伝達される。
【0049】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、
図2に示すような状態で、入力部材2及びイナーシャリング3は回転する。この状態では、カム機構52のカムフォロア521はカム面511のもっとも径方向内側の位置(円周方向の中央位置)に当接する。また、この状態では、入力部材2とイナーシャリング3とのねじれ角は実質的に0である。
【0050】
なお、入力部材2とイナーシャリング3との間のねじれ角とは、
図2及び
図7では、遠心子51及びカム面511の円周方向の中央位置と、カムフォロア521の中心位置と、円周方向のずれを示すものである。
【0051】
トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、
図7に示すように、入力部材2とイナーシャリング3との間には、ねじれ角θが生じる。
図7は+R側にねじれ角+θが生じた場合を示している。
【0052】
図7に示すように、入力部材2とイナーシャリング3との間にねじれ角+θが生じた場合は、カム機構52のカムフォロア521は、カム面511に沿って相対的に
図7における右側に移動する。このとき、遠心子51には遠心力が作用しているので、遠心子51に形成されたカム面511がカムフォロア521から受ける反力は、
図7のP0の方向及び大きさとなる。この反力P0によって、円周方向の第1分力P1と、遠心子51を径方向内側に向かって移動させる方向の第2分力P2と、が発生する。
【0053】
そして、第1分力P1は、カム機構52及び遠心子51を介して入力部材2を
図7における右方向に移動させる力となる。すなわち、入力部材2とイナーシャリング3とのねじれ角θを小さくする方向の力が、入力部材2に作用することになる。また、第2分力P2によって、遠心子51は、遠心力に抗して内周側に移動させられる。
【0054】
なお、逆方向にねじれ角が生じた場合は、カムフォロア521がカム面511に沿って相対的に
図7の左側に移動するが、作動原理は同じである。
【0055】
以上のように、トルク変動によって入力部材2とイナーシャリング3との間にねじれ角が生じると、遠心子51に作用する遠心力及びカム機構52の作用によって、入力部材2は、両者のねじれ角を小さくする方向の力(第1分力P1)を受ける。この力によって、トルク変動が抑制される。
【0056】
以上のトルク変動を抑制する力は、遠心力、すなわち入力部材2の回転数によって変化するし、回転位相差及びカム面511の形状によっても変化する。したがって、カム面511の形状を適宜設定することによって、トルク変動抑制装置10の特性を、エンジン仕様等に応じた最適な特性にすることができる。
【0057】
例えば、カム面511の形状は、同じ遠心力が作用している状態で、ねじれ角に応じて第1分力P1が線形に変化するような形状にすることができる。また、カム面511の形状は、回転位相差に応じて第1分力P1が非線形に変化する形状にすることができる。
【0058】
上述したように、トルク変動抑制装置10によってトルク変動を抑制する力は、入力部材2の回転数によって変化する。具体的には、エンジンなどの駆動源が高回転のとき、入力部材2も高回転であるため、遠心子51に作用する遠心力は大きい。このため、可変剛性機構5によるねじり剛性も大きくなり、入力部材2とイナーシャリング3とのねじれ角は小さくなる。一方、エンジンなどの駆動源が低回転のとき、入力部材2も低回転であるため、遠心子51に作用する遠心力は小さい。このため、可変剛性機構5によるねじり剛性も小さくなり、入力部材2とイナーシャリング3とのねじれ角は大きくなる。
【0059】
[特性の例]
図8は、トルク変動抑制装置10の特性の一例を示す図である。横軸は回転数、縦軸はトルク変動(回転速度変動)である。特性Q1はトルク変動を抑制するための装置が設けられていない場合、特性Q2はカム機構を有さない従来のダイナミックダンパ装置が設けられた場合、特性Q3は本実施形態のトルク変動抑制装置10が設けられた場合を示している。
【0060】
この
図8から明らかなように、可変剛性機構を有さないダイナミックダンパ装置が設けられた装置(特性Q2)では、特定の回転数域のみについてトルク変動を抑制することができる。一方、可変剛性機構5を有する本実施形態(特性Q3)では、すべての回転数域においてトルク変動を抑制することができる。
【0061】
[変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0062】
<変形例1>
上記実施形態では、イナーシャブロック4はイナーシャリング3と別部材によって構成されているが、これに限定されない。例えば、イナーシャブロック4は、イナーシャリング3と1つの部材で形成されていてもよい。
【0063】
<変形例2>
上記実施形態では、イナーシャブロック4は、入力部材2の収容部21内に配置されているが、この構成に限定されない。例えば、イナーシャブロック4は、入力部材2の外周縁よりも径方向外側に配置されていてもよい。この場合、入力部材2は収容部21を有していなくてもよい。
【0064】
<変形例3>
本実施形態では、遠心子51が入力部材2に取り付けられており、カムフォロア521がイナーシャリング3に取り付けられているが、トルク変動抑制装置はこの構成に限定されない。例えば、遠心子がイナーシャリング3に取り付けられており、カムフォロア521が入力部材2に取り付けられていてもよい。
【0065】
<変形例4>
上記実施形態では、トルク変動抑制装置10を、トルクコンバータ100に取り付けているが、クラッチ装置などの他の動力伝達装置にトルク変動抑制装置10を取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0066】
2 入力部材
21 収容部
3 イナーシャリング
4 イナーシャブロック
5 可変剛性機構
51 遠心子
52 カム機構
10 トルク変動抑制装置
100 トルクコンバータ
12 トルクコンバータ本体