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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】固体物の積載及び排出方法
(51)【国際特許分類】
   B60P 3/00 20060101AFI20230622BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20230622BHJP
   B60P 1/00 20060101ALN20230622BHJP
【FI】
B60P3/00 Q ZAB
C02F11/00 A
B60P1/00 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019061906
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158039
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊吉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 彩香
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】金田 みどり
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093977(JP,A)
【文献】特開2005-299373(JP,A)
【文献】登録実用新案第3212040(JP,U)
【文献】特開平11-079871(JP,A)
【文献】特開2004-306674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60P 3/00
C02F 11/00
B60P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分の存在下で時間の経過と共に固結していく性質を有する固体物を積載するための積載面を有する積載手段に、上記固体物を積載し、その後、排出させるための、固体物の積載及び排出方法であって、
上記積載面に粉粒状物を敷き詰めて、上記積載面への上記固体物の強固な付着を防止するための、上記粉粒状物からなる付着防止層を形成させる付着防止層形成工程と、
上記付着防止層の上面に、上記固体物を積載する固体物積載工程と、
上記積載手段から上記固体物を排出させる固体物排出工程、
を含み、
上記固体物が、焼却主灰、焼却飛灰、石炭灰、及び、排煙脱硫スラッジからなる群より選ばれる1種以上からなり、
上記粉粒状物が、多孔質ケイ酸カルシウム水和物、パーライト、活性炭、珪質頁岩、及びバーミキュライトからなる群より選ばれる1種以上からなり、
上記付着防止層の厚さが、0.1~2cmであることを特徴とする固体物の積載及び排出方法。
【請求項2】
上記粉粒状物が、0.1~4mmの範囲内の粒度を有するものを70質量%以上の割合で含むものである請求項に記載の固体物の積載及び排出方法。
【請求項3】
上記積載手段が車両であり、かつ、上記積載面が荷台の面である請求項1又は2に記載の固体物の積載及び排出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体物(例えば、焼却主灰)の積載及び排出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックの荷台から、泥土、雪等の積載物を排出させる際に、積載物と荷台の面との摩擦によって、積載物の全量を排出させることが困難な場合がある。
この問題を軽減するために、従来、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1に、箱形状の荷台を、プラスチック製の成形体(例えば、シート状形状を有するもの)で覆うことによって、荷物(例えば、客土、残土または雪)のスムーズな移動機能を具備したことを特徴とする車両が、記載されている。
特許文献2に、含水粒/泥状物(例えば、汚泥、固化処理土、泥土、土壌または雪)と接触する器壁(例えば、トラックの荷台)に、粉末水溶性高分子を含む摩擦低下被膜形成剤を供給し、水の存在下に膨潤した粉末水溶性高分子を器壁に付着させて水溶性高分子の被膜を形成することを特徴とする摩擦低下被膜形成方法が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-306674号公報
【文献】特開2015-93977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼却主灰を、トラック(例えば、ダンプカー)等の積載手段(例えば、車両)の荷台またはコンテナ等に積み込んで運搬する際に、焼却主灰に含まれている水硬性成分(例えば、カルシウムアルミネート、カルシウムシリケート等)と、水分とが反応して、固結を生じ、この固結物(例えば、カルシウムアルミネート水和物、カルシウムシリケート水和物等)を介して、焼却主灰が、荷台等に対して強固に付着する場合がある。この場合、焼却主灰を積載手段から排出させる作業が困難になるという問題がある。
本発明の目的は、水分の存在下で時間の経過と共に固結していく性質を有する固体物(例えば、焼却主灰)が、固結することによって、該固体物の積載手段(例えば、トラック)の積載面(例えば、荷台の面)に強固に付着するのを防止することができ、積載手段の積載面から上記固体物を容易に排出させることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、焼却主灰等の固体物を積載するための積載面(例えば、荷台の面)を有する積載手段(例えば、トラック)に、上記固体物を積載する際に、予め、上記積載面に、上記積載面への上記固体物の強固な付着を防止するための、粉粒状物(例えば、多孔質ケイ酸カルシウム水和物からなるもの)からなる付着防止層を形成させれば、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1] 水分の存在下で時間の経過と共に固結していく性質を有する固体物(本明細書中、「固結性固体物」ともいう。)を積載するための積載面を有する積載手段に、上記固体物を積載し、その後、排出させるための、固体物の積載及び排出方法であって、上記積載面に、上記積載面への上記固体物の強固な付着を防止するための、粉粒状物(本明細書中、「付着防止用粉粒状物」ともいう。)からなる付着防止層を形成させる付着防止層形成工程と、上記付着防止層の上面に、上記固体物を積載する固体物積載工程と、上記積載手段から上記固体物を排出させる固体物排出工程、を含むことを特徴とする固体物の積載及び排出方法。
[2] 上記固体物が、焼却主灰、焼却飛灰、石炭灰、及び、排煙脱硫スラッジからなる群より選ばれる1種以上からなる、上記[1]に記載の固体物の積載及び排出方法。
[3] 上記粉粒状物が、0.1~4mmの範囲内の粒度を有するものを70質量%以上の割合で含むものである、上記[1]又は[2]に記載の固体物の積載及び排出方法。
[4] 上記粉粒状物が、多孔質ケイ酸カルシウム水和物、パーライト、活性炭、珪質頁岩、及びバーミキュライトからなる群より選ばれる1種以上からなる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の固体物の積載及び排出方法。
[5] 上記付着防止層の厚さが、0.1~10cmである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の固体物の積載及び排出方法。
[6] 上記積載手段が車両であり、かつ、上記積載面が荷台の面である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の固体物の積載及び排出方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、焼却主灰等の固結性固体物が、水分(特に、固結性固体物に含まれていた水分)との反応によって徐々に固結していき、該固体物の積載手段(例えば、トラック)の積載面(例えば、荷台の面)に強固に付着するのを、効果的に防止することができる。そして、積載手段の積載面から上記固体物を容易に排出させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の固体物の積載及び排出方法は、水分の存在下で時間の経過と共に固結していく性質を有する固体物を積載するための積載面を有する積載手段に、上記固体物を積載し、その後、排出させるための、固体物の積載及び排出方法であって、上記積載面に、上記積載面への上記固体物の強固な付着を防止するための、粉粒状物からなる付着防止層を形成させる付着防止層形成工程と、上記付着防止層の上面に、上記固体物を積載する固体物積載工程と、上記積載手段から上記固体物を排出させる固体物排出工程、を含むものである。
本明細書中、「水分の存在下で時間の経過と共に固結していく性質を有する固体物」とは、微量の水硬性成分を含むことに起因して、該固体物に含まれている水分、または、それ以外の水分(例えば、該固体物の積載時における降雨による雨水)によって、徐々に反応が進行して、1週間以内で固結に至る物質(特に、粉状物)をいう。
【0009】
水分の存在下で時間の経過と共に固結していく性質を有する固体物(固結性固体物)の例としては、焼却主灰、焼却飛灰、石炭灰、排煙脱硫スラッジ等が挙げられる。これらの例示物は、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて、本発明における積載及び排出の対象とすることができる。
【0010】
積載手段の例としては、トラック(例えば、ダンプカー)、貨車等の車両や、定置式のコンテナ等が挙げられる。なお、車両は、焼却主灰等の固結性固体物を特定の場所に移動させるときに用いられる。定置式のコンテナは、焼却主灰等の固結性固体物を特定の期間、保管するときに用いられる。
また、焼却主灰等の固結性固体物を積載するための積載面の例としては、車両の荷台の面や、定置式のコンテナの底面等が挙げられる。
以下、本発明の方法について、工程ごとに詳しく説明する。
【0011】
[付着防止層形成工程]
付着防止層形成工程は、積載手段の積載面(例えば、トラックの荷台の面)に、該積載面への焼却主灰等の固結性固体物の強固な付着を防止するための、粉粒状物からなる付着防止層を形成させる工程である。
ここで、粉粒状物とは、粉状の物、粒状の物、または、これら両方を含む物をいう。本明細書中、粉状の物とは、粒度が0.5mm以下のものをいう。粒状の物とは、粒度が0.5mmを超えるものをいう。
付着防止用粉粒状物の例としては、多孔質ケイ酸カルシウム水和物、パーライト、活性炭、珪質頁岩、バーミキュライト等が挙げられる。これらは、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、入手の容易性や、排出後の固結性固体物の処理(例えば、焼却主灰のセメント原料化)における処理の容易性等の観点から、多孔質ケイ酸カルシウム水和物が好ましく用いられる。
【0012】
多孔質ケイ酸カルシウム水和物の例としては、トバモライト、ゾノトライト、CSHゲル、フォシャジャイト、ジャイロライト、ヒレブランダイト等が挙げられる。
中でも、入手の容易性および経済性の観点から、トバモライトが好適である。トバモライトとしては、天然の鉱物を用いてもよいが、入手の容易性の観点から、トバモライトを主成分とする軽量気泡コンクリートを用いることが好ましい。
ここで、軽量気泡コンクリートとは、トバモライト、および、未反応の珪石からなるものであり、かつ、80体積%程度の空隙率を有するものである。ここで、空隙率とは、コンクリートの全体積中の、空隙の体積の合計の割合をいう。
軽量気泡コンクリート中のトバモライトの割合は、軽量気泡コンクリートの内部の空隙部分を除く固相の全体を100体積%として、通常、65~80体積%程度である。
軽量気泡コンクリートは、例えば、珪石粉末、セメント、生石灰粉末、発泡剤(例えば、アルミニウム粉末)、水等を含む原料(例えば、これらの混合物からなる硬化体)をオートクレーブ養生することによって得ることができる。
【0013】
パーライトは、真珠岩、珪藻土等の鉱物原料を高温で加熱することによって得られる発泡体である。
活性炭は、吸着性能を高めるために化学的処理等が施されてなる、炭素を主成分として含む多孔質の物質である。
珪質頁岩は、非晶質の珪酸を主成分として含む頁岩である。珪質頁岩の好ましい一例としては、多数の細孔を有する稚内層珪質頁岩(北海道の稚内地方で産出する、珪藻土が岩石化してなるもの)が挙げられる。
バーミキュライトは、蛭石を高温で加熱することによって得られる発泡体である。
【0014】
本工程で用いられる付着防止用粉粒状物は、好ましくは、0.1~4mmの範囲内の粒度を有するものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)の割合で含むものであり、より好ましくは0.1~3mmの範囲内の粒度を有するものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)の割合で含むものであり、特に好ましくは0.1~2.5mmの範囲内の粒度を有するものを70質量%以上(好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上)の割合で含むものである。
該粒度が0.1mm以上であれば、強風のときに、積載手段の積載面(例えば、トラックの荷台の面)に供給した付着防止用粉粒状物が、該積載面の周囲に飛散するのを抑制することができる。該粒度が4mm以下であれば、積載面への固結性固体物の強固な付着を、より効果的に防止することができる。
なお、本明細書中、粒度の値は、篩の目開き寸法に対応する値である。
【0015】
本工程で用いられる付着防止用粉粒状物の「吸水率」は、土壌の最大容水量を測定するための「ヒルガード法」に準拠して測定した値として、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
該値が50%以上であると、積載面への固結性固体物の強固な付着を、より効果的に防止することができる。
【0016】
付着防止層の厚さは、積載面への固結性固体物の強固な付着を、より効果的に防止する観点からは、好ましくは0.1cm以上、より好ましくは0.2cm以上、さらに好ましくは0.3cm以上、さらに好ましくは0.4cm以上、特に好ましくは0.5cm以上である。
該厚さは、付着防止用粉粒状物の量が過大であることによる不都合(例えば、多量の付着防止用粉粒状物を用意する場合におけるコストの増大や運搬時の負担の増大)を避ける観点からは、好ましくは10cm以下、より好ましくは8cm以下、さらに好ましくは6cm以下、さらに好ましくは4cm以下、さらに好ましくは2cm以下、特に好ましくは1cm以下である。
【0017】
[固体物積載工程]
固体物積載工程は、付着防止層形成工程で形成された付着防止層の上面に、固結性固体物を積載する工程である。
固結性固体物を積載する方法や、固結性固体物の積載量は、特に限定されず、積載手段の種類(例えば、ダンプカーの大きさ)等に応じて、適宜定めればよい。
積載手段の積載面に積載された固結性固体物の厚さは、特に限定されないが、通常、50~150cmである。
【0018】
[固体物排出工程]
固体物排出工程は、積載手段から固結性固体物を排出させる工程である。
固結性固体物を排出させる方法は、特に限定されず、例えば、積載手段がダンプカーである場合、ダンプカーの傾動可能な荷台を傾動させて、荷台の面に傾斜をつけ、付着防止用粉粒状物と共に固結性固体物を滑り落とす方法が挙げられる。
【実施例
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)固結性固体物;清掃工場で生じた焼却主灰(水分含有率:30質量%)
(2)付着防止用粉粒状物(ケイ酸カルシウム含有材料);トバモライトを含む軽量気泡コンクリートを破砕してなるもの(多孔質ケイ酸カルシウム水和物;吸水率:70%以上)
なお、固結性固体物(水分を含むもの)の「水分含有率」は、[(水分を含む、乾燥前の固結性固体物の質量)-(乾燥後の固結性固体物の質量)]×100/(水分を含む、乾燥前の固結性固体物の質量)、の式で算出される値をいう。
また、付着防止用粉粒状物の「吸水率」は、上述のとおり、「ヒルガード法」に準拠して測定した値である。
【0020】
[実施例1]
モルタル強さ試験用のステンレス製の型枠(上面のみが開口したもの;内寸:長さ160mm×幅136mm×高さ40mm;底面は、積載手段の積載面を模したものである。)内に、厚さが0.3cmになるように、付着防止用粉粒状物(ケイ酸カルシウム含有材料;0.1~2.5mmの範囲内の粒度を有するものを90質量%以上の割合で含むもの)を敷き詰め、付着防止層を形成させた。
次いで、付着防止層の上面に、1,080gの固結性固体物(焼却主灰)を積載し、振動を加えて、厚さが均一になるように均し、厚さが3cm程度の固体物層を形成させた。
この固体物層の上面を食品用ラップフィルム(合成樹脂製)で覆い、この食品用ラップフィルムの上に、さらに20kgの重りを、固体物層の上面に均一な荷重が加わるように載置した。これによって、型枠の底面にかかる圧力は、8トントラックの荷台の面(寸法:3,450mm×2,000mm)に7トンの焼却主灰を積載した場合に該荷台の面にかかる圧力と同程度となった。
【0021】
次いで、固結性固体物(焼却主灰)を収容した型枠に対して、温度30℃、相対湿度70%の室内で7日間の養生を行った。その後、型枠から、その側面形成部分のみを取り外し、型枠の底板の上に、付着防止層を介して、焼却主灰からなる固体物層が積載されている構造体を得た。
この構造体における固体物層の側面(幅136mm×高さ40mm)に、デジタルフォースゲージ(イマダ社製、型番:DS2-500N)を当接させ、このゲージを用いて、固体物層に対する水平方向の荷重を徐々に増大させ、固体物層が滑り始めた時の荷重(滑り開始時の荷重)を測定した。滑り開始時の荷重は、19.5Nであった。
【0022】
[実施例2]
付着防止層の厚さを0.3cmから0.5cmに変更した以外は実施例1と同様にして、滑り開始時の荷重を測定した。滑り開始時の荷重は、14.2Nであった。
[比較例1]
ケイ酸カルシウム含有材料からなる付着防止層を形成させない以外は実施例1と同様にして、滑り開始時の荷重を測定した。滑り開始時の荷重は、29.5Nであった。
以上の結果を表1に示す。
表1から、比較例1に比べて、実施例1~2では、滑り開始時の荷重の値が小さく、積載手段の積載面を模した面に対する、焼却主灰からなる固体物層の強固な付着(比較例1では、29.5N)が、大幅に緩和されていることがわかる。
【0023】
【表1】