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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ポリウレタン弾性糸およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/94 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
D01F6/94 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019098246
(22)【出願日】2019-05-27
(65)【公開番号】P2020193399
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502179282
【氏名又は名称】東レ・オペロンテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 利宏
(72)【発明者】
【氏名】苗代 和樹
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-506513(JP,A)
【文献】中国特許第103898631(CN,B)
【文献】特表2016-536177(JP,A)
【文献】特表2016-524656(JP,A)
【文献】特開2009-007681(JP,A)
【文献】国際公開第2010/064612(WO,A1)
【文献】特表2003-504520(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0898578(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
D01F 6/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(A)0.1質量%以上10質量%以下と、ポリウレタンとを含有するポリウレタン弾性糸。
【請求項2】
前記炭化水素樹脂(A)が芳香族オレフィンをモノマーとする構造単位を含むポリマーを部分水添または完全水添された構造を有し、前記芳香族オレフィンが、インデンおよび/またはメチルスチレンである請求項1に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項3】
前記炭化水素樹脂(A)が脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を含むポリマーを部分水添または完全水添された構造を有し、前記の脂肪族ジオレフィンが、イソプレンおよび/またはその異性体である請求項1または2に記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項4】
前記炭化水素樹脂(A)の熱軟化点が70℃以上140℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項5】
前記炭化水素樹脂(A)が炭化水素油(b)に対して20℃で10質量%以上溶解し、かつDMAcおよび/またはDMFに不溶である請求項1~のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
【請求項6】
芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(a)を炭化水素油(b)に溶解したのち、前記炭化水素樹脂(a)がポリウレタン紡糸溶液中のポリウレタン固形分に対して0.1質量%以上10質量%以下となる範囲で添加し、溶液紡糸する、ポリウレタン弾性糸の製造方法。
【請求項7】
炭化水素樹脂(a)を炭化水素油(b)に5質量%以上の濃度で溶解したのち、ポリウレタン紡糸溶液に添加し、溶液紡糸する、請求項に記載のポリウレタン弾性糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解舒性およびホットメルト接着性に優れたポリウレタン弾性糸およびその製造方法、さらには、高ドラフトで加工しても、良好なホットメルト接着性を発現する、伸縮性シートを得るのに好適なポリウレタン弾性糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途、紙おむつや生理用ナプキンなどのサニタリー用途(衛材用途)、産業資材用途に幅広く使用されている。
【0003】
特に紙おむつや生理用ナプキンなどの使い捨てサニタリー用途には、着用者への密着性を向上させるため伸縮可能に形成されることが要求される。特に、使い捨て紙おむつでは、ウェスト周囲、脚周り、胴部周囲等を伸縮可能にする様々な工夫がなされている。素材そのものに伸縮力を有する織布(ストレッチ布)を利用することも考えられるが、使い捨て着用物品に用いるにはコストが高い。このため、通常は、不織布やプラスチックフィルム等の非伸縮性部材に糸状や帯状の伸縮部材を伸長状態で貼り付けて、これらの非伸縮性部材を伸縮可能にして、伸縮性シートやギャザーと云われる部材を形成する。(例えば、特許文献1)これらの非伸縮性部材に接着して伸縮性を付与する部材としては、具体的には、帯状のゴムひもや糸状のポリウレタン弾性糸が用いられ、貼り付けにはホットメルト接着剤が用いられる。
【0004】
一方、特許文献2には、ポリウレタン弾性繊維中にホットメルト接着性を向上させる目的で各種添加剤を使用することが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、ポリウレタン弾性糸の解舒性とホットメルト接着性を両立するために油剤を付与することが開示されている。
【文献】特開2002-35029号公報
【文献】特開2010-168717号公報
【文献】WO16/143499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような従来から使われている伸縮性を付与するためのポリウレタン弾性糸では、ドラフトアップして取り付けた場合、伸長させた時のポリウレタン弾性糸の抵抗力が高くなるため、糸抜けが発生することがあった。これを回避するため、ホットメルト接着剤を多くした場合は、糸抜けが減少する替わりに、部材が硬く仕上がり、製品としての伸縮性が不満足になることもあった。
【0007】
特許文献2に記載の技術を適用し、添加剤にてホットメルト接着性を改善しようとすると、ポリウレタン弾性糸の解舒性が悪化し、伸縮部材の製造工程において糸切れが発生しやすくなる。
【0008】
特許文献3でも、ホットメルト接着性においては更なる改善が必要である。
【0009】
上記した従来技術の問題点を解決し、ポリウレタン弾性糸の解舒性およびホットメルト接着材による接着性に優れ、さらには、高ドラフトで加工しても、良好な接着性を発現する伸縮性シートが得られると共に、感触の柔らかなサニタリー用品を得るのに好適なポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するため、以下のいずれかの手段を採用する。
(1)芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(A)を含有するポリウレタン弾性糸。
(2)前記炭化水素樹脂(A)が芳香族オレフィンをモノマーとする構造単位を含むポリマーを部分水添または完全水添された構造を有し、前記芳香族オレフィンが、インデンおよび/またはメチルスチレンである前記(1)に記載のポリウレタン弾性糸。
(3)前記炭化水素樹脂(A)が脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を含むポリマーを部分水添または完全水添された構造を有し、前記の脂肪族ジオレフィンが、イソプレンおよび/またはその異性体である前記(1)または(2)に記載のポリウレタン弾性糸。
(4)前記炭化水素樹脂(A)の熱軟化点が70℃以上140℃以下である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
(5)前記炭化水素樹脂(A)0.1質量%以上10質量%以下含有する前記(1)~(4)のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
(6)前記炭化水素樹脂(A)が炭化水素油(b)に対して20℃で10質量%以上溶解し、かつDMAcおよび/またはDMFに不溶である前記(1)~(5)のいずれかに記載のポリウレタン弾性糸。
(7)芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(a)を炭化水素油(b)に溶解したのち、前記炭化水素樹脂(a)がポリウレタン紡糸溶液中のポリウレタン固形分に対して0.1質量%以上10質量%以下となる範囲で添加し、溶液紡糸する、ポリウレタン弾性糸の製造方法。
(8)炭化水素樹脂(a)を炭化水素油(b)に5質量%以上の濃度で溶解したのち、ポリウレタン紡糸溶液に添加し、溶液紡糸する、前記(7)に記載のポリウレタン弾性糸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた伸縮性を有しつつも、解舒性に優れ、ホットメルトを使用した際の接着性が良好なポリウレタン弾性糸となる。加えて、ポリウレタン弾性糸の表面に仕上げ材として油剤を付与していたとしても、優れたホットメルト接着性を保つことが出来る。そのため、かかるポリウレタン弾性糸では、高ドラフトで加工しても、良好な接着性を発現し、低応力で伸長できる伸縮性シートが得られる。また、紙おむつ、衛生ナプキン等のサニタリー製品の製造の際に、製造速度を上げても糸切れなく製造可能となり、また、ホットメルト接着剤を減らすことによるコスト削減も可能となる。かかる、接着性の指標としては、ホットメルト接着性保持率で評価できる。さらに、ホットメルト接着剤を減らしたサニタリー製品においては、ホットメルト接着剤による部材の硬化が減り、よりソフトな風合いに仕上がるため、着用感やフィット性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明について、さらに詳細に述べる。
【0013】
まず本発明で使用するポリウレタンについて述べる。
【0014】
本発明に使用されるポリウレタンは、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質として得られる構造を含むものであれば特に限定されるものではない。なお、ここで、ポリウレタンの構造を出発原料で特定するのは、ポリマージオールおよびジイソシアネートそれぞれについて複数種のものを適用する場合があり、そのような場合の構造を、化学名で的確に表現することは、困難であるという事情によるためである。すなわち、出発物質はそれに由来する構造単位を特定するために用いられる。従って、異なる原料を用いて得られたポリウレタンであっても、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質として得られる構造を有するものであれば、これを排除するものではなく、合成法も特に限定されるものではない。このようなポリウレタンとして、例えば、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジアミンからとを出発物質とするポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを出発物質とするポリウレタンであってもよい。これらに加えて、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基とを分子内に有する化合物を出発物質に使用したポリウレタンウレアであってもよい。本発明の効果を妨げない範囲で出発物質に3官能性以上の多官能性のグリコールやイソシアネート等が含まれてもよい。
【0015】
ここで、本発明のポリウレタン弾性糸を構成する代表的な構造単位について出発物質をベースに説明する。
【0016】
本発明に使用されるポリマージオールはポリエーテル系、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネートジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系ジオールが使用されることが好ましい。
【0017】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(THF)および3-メチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG(以下、3M-PTMGと略する)、THFおよび2,3-ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG、特許第2615131号公報などに開示される側鎖を両側に有するポリオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましく使用される。これらポリエーテル系ジオールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0018】
また、ポリウレタン弾性糸として耐摩耗性や耐光性を得る観点からは、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、特開昭61-26612号公報などに開示されている側鎖を有するポリエステルポリオールなどのポリエステル系ジオールや、特公平2-289516号公報などに開示されているポリカーボネートジオール等が好ましく使用される。
【0019】
また、こうしたポリマージオールは単独で使用してもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0020】
本発明に使用されるポリマージオールの分子量は、糸にした際の伸度、強度、耐熱性などを得る観点から、数平均分子量が1000以上8000以下のものが好ましく、1800以上6000以下がより好ましい。この範囲の分子量のポリオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れた弾性糸を容易に得ることができる。
【0021】
次に本発明に使用されるジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4-ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5-ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン弾性糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
次に本発明における鎖伸長剤は、低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうちの少なくとも1種を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
【0023】
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p,p’-メチレンジアニリン、1,3-シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を容易に得ることができる。これらの鎖伸長剤に、架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果が失わない程度に加えてもよい。
【0024】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1-メチル-1,2-エタンジオールなどが代表的なものである。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性がより高くなり、また、より強度の高い糸を得ることができるのである。
【0025】
また、本発明のポリウレタン弾性糸の分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として30000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算する。
【0026】
本発明においては、以上のような基本構成を有するポリウレタン弾性糸が、芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(A)を含有させることで、ポリウレタン弾性糸の解舒性を改善しつつ、ホットメルトを使用した際の接着性を大幅に向上させることが可能となる。
【0027】
本発明における炭化水素樹脂(A)は、芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーを部分的に水素添加(以下、部分水添と記す場合もある)および/または完全に水素添加(以下、完全水添と記す場合もある)された構造を有するものであれば特に限定されるものではない。なお、本発明における部分水添とは、通常ポリマー中に含まれる2重結合のうち50%以上100%未満の2重結合が水素添加されたものをいう。また、単に「水素添加」と記す場合は、部分水添および完全水添を併せた範囲を示すものとする。本明細書において、「芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマー」を「炭化水素樹脂前駆ポリマー」と記す。一般的には、「炭化水素樹脂前駆ポリマー」も、「炭化水素樹脂(A)」も、単に「石油樹脂」と呼ばれ、区別されない場合が多いが、本発明においては、その構造により上記の通り区別するものとする。なお、「炭化水素樹脂(A)」のうち完全水添されたものについては、飽和炭化水素樹脂と呼ばれる場合もある。炭化水素樹脂(A)は複数の種類の構造単位および部分水添された構造を有することがあり、そのような場合の構造を、化学名で的確に表現することは、困難であるという事情があるため、以下の説明では、便宜的に、水素添加される前の構造を与えるモノマーで特定する。すなわち、モノマーでの説明はそれに由来する構造を特定するために用いられ、原料を限定しているわけではない。
【0028】
炭化水素樹脂前駆ポリマーおよび炭化水素樹脂(A)である、石油樹脂には、主として芳香族オレフィンをモノマーとする「C9系石油樹脂」、主として脂肪族ジオレフィンをモノマーとする「C5系石油樹脂」、およびこれらが混在した「C5/C9系石油樹脂」がある。なお、ここでいう「主として芳香族オレフィンをモノマーとする」とは、芳香族オレフィン由来の構造単位が他のモノマーに由来する構造単位を含めた全体に対し50モル%を超えて含まれていることをいう。また、主として脂肪族ジオレフィンをモノマーとするも同様に脂肪族ジオレフィンをモノマー由来の構造単位が他のモノマーに由来する構造単位を含めた全体に対し50モル%を超えて含まれていることをいう。
【0029】
C9系石油樹脂の構造単位を与えるモノマー(以降、C9系石油樹脂モノマーと記す場合もある)としては、アルキルベンゼンと芳香族オレフィンを主成分とし、アルキルベンゼンとしてはイソプロピルベンゼン、n-プロピルベンゼン、1-メチル-2-エチルベンゼン、1-メチル-3-エチルベンゼン、1-メチル-4-エチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1-メチル-2-n-プロピルベンゼン、1-メチル-3-n-プロピルベンゼン、1-メチル-4-イソプロピルベンゼン、1,3-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン等が挙げられる。
【0030】
また、芳香族オレフィンとしてはα―メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、インデン、m-メチルプロペニルベンゼン、m-メチルイソプロペニルベンゼン、p-メチルイソプロペニルベンゼン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、m,m-ジメチルスチレン、ジメチルスチレン、メチルインデン等が挙げられる。本発明において炭化水素樹脂前駆ポリマーまたは炭化水素樹脂(A)にC9系石油樹脂を含有する場合には、モノマーとしてインデンとメチルスチレンが含まれているものであることが好ましい。
【0031】
C5系石油樹脂の構造単位を与えるモノマー(以降、C5系石油樹脂モノマーと記す場合もある)としては、1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1ブテン、2-メチル-2-ブテン、シクロペンテン、1,3-ペンタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。本発明において炭化水素樹脂前駆ポリマーまたは炭化水素樹脂(A)にC5系石油樹脂を含有する場合には、モノマーとしてイソプレンが含まれているものであることが好ましい。
【0032】
この様な炭化水素樹脂(A)を含有することにより、特にポリウレタン弾性糸のホットメルト接着性を向上させることができる。水素添加された石油樹脂(C5系石油樹脂および/またはC9系石油樹脂)は、本発明の成分(a)との相溶性に優れ、安定してポリウレタン弾性糸に含有させる事ができる。
【0033】
本発明の炭化水素樹脂(A)の軟化点は、ホットメルト接着剤との接着性が良好となること、および、後述する製造の際に炭化水素油(b)との相溶性が良好となることから70~140℃の範囲が好ましい。軟化点が70℃以上の炭化水素樹脂(A)を使用することにより、ホットメルト接着剤が硬化後に、高温環境下でホットメルト接着剤との接着力の維持性がより良好になるとともに、耐クリープ性もまた良好なものとなる。一方、軟化点が140℃以下の炭化水素樹脂(A)を使用することにより、後述する製造の際に炭化水素油(b)との相溶性に優れることから、炭化水素樹脂(A)を炭化水素油(b)に高濃度で溶解でき、ポリウレタン弾性糸の伸縮性の低下幅をより小さいものとすることができる。
【0034】
なお、炭化水素樹脂(A)の軟化点とは、JIS K2207:2006に従って測定された値とする。
【0035】
炭化水素樹脂(A)としては石油樹脂として市販されている製品のうち、水素添加されているものや飽和炭化水素樹脂として市販されている製品を用いる事ができる。例えば、以下の製品などが挙げられる。
【0036】
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の部分水添石油炭化水素樹脂
出光興産製 “アイマーブ(登録商標)”S-100(軟化点=100℃)
“アイマーブ(登録商標)”S-110(軟化点=110℃)
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂
出光興産製 “アイマーブ(登録商標)”P-100(軟化点=100℃)
“アイマーブ(登録商標)”P-125」(軟化点=125℃)
東燃ゼネラル石油製 “T-REZ(登録商標)” HB103(軟化点=100℃)
“T-REZ(登録商標)” HB125(軟化点=125℃)
・脂肪族系石油炭化水素樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂
イーストマンケミカル社製 “イーストタック(登録商標)”H-130W (軟化点=130℃)
・芳香族石油炭化水素樹脂の部分水添石油炭化水素樹脂
荒川化学製 “アルコン(登録商標)”M-100(軟化点=100℃)
“アルコン(登録商標)”M-135(軟化点=135℃)
・芳香族石油炭化水素樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂
荒川化学製 “アルコン(登録商標)”P-90(軟化点=90℃)
“アルコン(登録商標)”P-125(軟化点=125℃)
これら炭化水素樹脂(A)は、ポリウレタン弾性糸中に均質に存在していても良いし、特定の領域により高濃度に存在していても良いが、ホットメルト接着性向上の観点からはポリウレタン弾性糸の表層近くにより高濃度に存在していることが好ましい。
【0037】
また、ポリウレタン弾性糸中の含有量の合計は、0.1質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、応力緩和、永久歪率、伸度が特に良好なものにするという観点から、1質量%以上5質量%以下の範囲がより好ましい。含有量の合計が0.1質量%未満だと、ホットメルト接着性が低下する場合があるので好ましくない。また逆に含有量の合計が10質量%を越えると、応力緩和、永久歪率、伸度が低下する場合があるので好ましくない。なお、含有量は事前にテストし、適宜調整するのがより好ましい。
【0038】
また、本発明においては、前記炭化水素樹脂(A)が炭化水素油(b)に対して20℃下で10質量%以上溶解し、かつDMAcおよび/またはDMFに不溶であることが好ましい。前記炭化水素樹脂(A)が、かかる溶解性を有することにより、ホットメルト接着性と解舒性に優れたポリウレタン弾性糸を得ることができる。
【0039】
前記炭化水素樹脂(A)が炭化水素油(b)に対して20℃下で10質量%以上の溶解度であると、ホットメルト接着剤との親和性がより良好となるため好ましい。
【0040】
一方、前記炭化水素樹脂(A)が炭化水素油(b)に対して20℃下でより高い溶解性を有するとより優れたホットメルト接着性を発現できるものの、80質量%を越える溶解性を有する場合には紡糸中にポリウレタン弾性糸から蒸散等で脱落する量が増える場合があるため好ましくない。
【0041】
さらに、炭化水素樹脂(A)がポリウレタン弾性溶液の溶媒であるDMAcおよび/またはDMFに不溶であることで、ポリウレタン弾性糸の表層付近に高濃度に存在させることが出来る。このときの不溶とは20℃で1時間撹拌した際の溶解度が5質量%以下の範囲であること示す。
炭化水素樹脂(A)をポリウレタン弾性糸の表層付近に偏在させることにより、より優れたホットメルト接着性を発現でき、かつ、ポリウレタン弾性糸同士の摩擦係数を下げる作用が働き、ポリウレタン弾性糸の解舒性をも向上させる事が出来る。
【0042】
本発明における炭化水素油(b)は、炭素数が6~60の炭化水素の成分比率が90%以上であり30℃において流動性を有していれば、特に限定されるものではなく、化学構造として直鎖であっても分岐していてもよい。また、その疎水性が損なわれない範囲で一部に水酸基を持つものでも良い。中でも入手の容易さやコストの観点から、炭化水素油(b)としては鉱油や高級アルコールが好ましい。
【0043】
鉱油としては、特に限定はないが、マシン油、スピンドル油、流動パラフィン等を挙げることができ、1種または2種以上を使用してもよい。鉱油の30℃におけるレッドウッド粘度計での粘度は、30秒~350秒が好ましく、35秒~200秒がより好ましく、40秒~150秒がさらに好ましい。鉱油としては、臭気の発生が低いという理由から、流動パラフィンが好ましい。
【0044】
上記高級アルコールとしては、特に限定されないが、直鎖および/または分岐鎖のモノアルコールが挙げられ、具体例として、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナオール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘネイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、およびトリアコサノール等の直鎖アルコール;2-エチルヘキサノール、2-プロピルヘプタノール、2-ブチルオクタノール、1-メチルヘプタデカノール、2-ヘキシルオクタノール、1-ヘキシルヘプタノール、イソデカノール、イソトリデカノール、3,5,5-トリメチルヘキサノール等の分岐アルカノール;ヘキセノール、ヘプテノール、オクテノール、ノネノール、デセノール、ウンデセノール、ドデセノール、トリデセノール、テトラデセノール、ペンタデセノール、ヘキサデセノール、ペンタデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール、エイセノール、ドコセノール、テトラコセノール、ペンタコセノール、ヘキサコセノール、ヘプタコセノール、オクタコセノール、ノナコセノールおよびトリアコンセノール等の直鎖アルケノール;イソヘキセノール、2-エチルヘキセノール、イソトリデセノール、1-メチルヘプタデセノール、1-ヘキシルヘプテノール、イソトリデセノール、およびイソオクタデセノール等の分岐アルケノール等が挙げられる。
【0045】
また、本発明のポリウレタン弾性糸は炭化水素油(b)を、ポリウレタン弾性糸中の含有量の合計が、0.01質量%以上20質量%以下の範囲で含むことが好ましく、応力緩和、永久歪率、伸度が特に良好なものにするという観点から、0.01質量%以上10質量%以下の範囲がより好ましい。
【0046】
さらに、本発明のポリウレタン弾性糸には、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤としては、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0047】
また、本発明のポリウレタン弾性糸には、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などにBHTや住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA-80”などのヒンダードフェノール系薬剤、各種のチバガイギー社製“チヌビン”などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザーP-16”などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれらがポリマーと反応させられることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN-150などの酸化窒素補足剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミライザーGA-80”などの熱酸化安定剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミソーブ300♯622”などの光安定剤が使用されることも好ましい。
【0048】
次に本発明のポリウレタン弾性糸の製造方法について詳細に説明する。
【0049】
本発明においては、ポリウレタンを含む紡糸溶液(以降、ポリウレタン紡糸溶液と記す場合もある)に、芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(a)を炭化水素油(b)に溶解したのち、前記炭化水素樹脂(a)がポリウレタン紡糸溶液中のポリウレタン固形分に対して0.1質量%以上10質量%以下となる範囲で添加し、溶液紡糸する。炭化水素油(b)と、炭化水素樹脂(a)は、ポリウレタンの重合段階で合わせて添加してもよいが、予めポリウレタン溶液を作製しておき、その後で添加するのが好ましい。ここで、炭化水素樹脂(a)の定義は、前記炭化水素樹脂(A)の定義と同じである。製造原料としての炭化水素樹脂(a)は複数成分の混合物である場合があり、例えば湿式紡糸の紡糸浴において凝固液と紡糸溶媒との間での成分分配等により、得られるポリウレタン弾性糸中の炭化水素樹脂(A)と組成が厳密には、同一とならない場合があるため、表記を区別したものである。
【0050】
ポリウレタン紡糸溶液の製法、また、溶液の溶質であるポリウレタンの製法は、溶融重合法でも溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少なく、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン弾性糸を得やすい。また、当然のことであるが、溶液重合の場合、溶液にする操作が省けるという利点がある。
【0051】
そして本発明に特に好適なポリウレタンとしては、ポリマージオールとして分子量が1500以上6000以下のPTMG、ジイソシアネートとしてMDI、ジオールとしてエチレングリコール、1,3プロパンジオールおよび1,4ブタンジオールのうちの少なくとも1種を使用して合成され、かつ、高温側の融点が200℃以上260℃以下の範囲のものが挙げられる。
【0052】
ポリウレタンは、例えば、DMAc、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする溶剤の中で、上記の原料を用い合成することにより得られる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法、また、ポリマージオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に、反応物を溶剤に溶解し、前述のジオールと反応させてポリウレタンとする方法などが、特に好適な方法として採用され得る。
【0053】
鎖伸長剤にジオールを用いる場合、ポリウレタンの高温側の融点を200℃以上260℃以下の範囲に調節する代表的な方法は、ポリマージオール、MDI、ジオールの種類と比率をコントロールすることにより達成され得る。ポリマージオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができ、同様にジオールの分子量が低いときはポリマージオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができる。
【0054】
ポリマージオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を200℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリマージオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0055】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
【0056】
アミン系触媒としては、例えば、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン、ビス-2-ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’-ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチル-N’-ジメチルアミノエチル-ピペラジン、N-(2-ジメチルアミノエチル)モルホリン、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N-メチル-N’-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0057】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0058】
こうして得られるポリウレタン紡糸溶液の濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0059】
本発明においては、かかる紡糸前のポリウレタン溶液に、上述の芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(a)を添加するのが好ましい。芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(a)ををポリウレタン溶液へ添加し、斑なく分散もしくは溶解するよう攪拌、混合処理するにあたっては、任意の方法が採用できる。その代表的な方法としては、スタティックミキサーによる方法、攪拌による方法、ホモミキサーによる方法、2軸押し出し機を用いる方法など各種の手段が採用できる。ここで、添加される芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(a)を、ポリウレタン溶液へ均一に添加を行う観点から、予め炭化水素油(b)に溶解して添加するものである。
【0060】
また、芳香族オレフィンおよび/または脂肪族ジオレフィンをモノマーとする構造単位を主たる構造単位として含むポリマーが、部分水添または完全水添された構造を有する炭化水素樹脂(a)を添加する際には、前記した、耐光剤、耐酸化防止剤などの薬剤や顔料などを同時に添加してもよい。
【0061】
以上のように構成した紡糸溶液を、たとえば乾式紡糸、湿式紡糸、もしくは溶融紡糸し、巻き取ることで、本発明のポリウレタン弾性糸を得ることができる。中でも、細物から太物まであらゆる繊度において安定に紡糸できるという観点から、乾式紡糸が好ましい。
【0062】
本発明のポリウレタン弾性糸の繊度、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、糸の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
【0063】
そして、乾式紡糸方式についても特に限定されるものではなく、所望する特性や紡糸設備に見合った紡糸条件等を適宜選択して紡糸すればよい。
【0064】
たとえば、本発明のポリウレタン弾性糸の永久歪率と応力緩和は、特にゴデローラーと巻取機の速度比の影響を受けやすいので、糸の使用目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。
【0065】
すなわち、所望の永久歪率と応力緩和を有するポリウレタン弾性糸を得る観点から、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.10以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましい。そして、特に低い永久歪率と、低い応力緩和を有するポリウレタン弾性糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.15以上1.4以下の範囲がより好ましく、1.15以上1.35以下の範囲がさらに好ましい。一方、高い永久歪率と、高い応力緩和を有するポリウレタン弾性糸を得る際には、ゴデローラーと巻取機の速度比は1.25以上1.65以下の範囲として巻き取ることが好ましく、1.35以上1.65以下の範囲がより好ましい。
【0066】
また、紡糸速度は、得られるポリウレタン弾性糸の強度を向上させる観点から、300m/分以上であることが好ましい。
【0067】
また、ポリウレタン弾性糸の巻き上げ時に解舒性を向上させる目的で処理剤を付与することも好ましい。処理剤をポリウレタン弾性糸に付着させるには、処理剤を溶剤等で希釈することなくそのまま給油するいわゆるニート給油をするものである。その付着工程としては、紡糸後でパッケージに巻き取るまでの間の工程、巻き取ったパッケージを巻き返す工程、整経機で整経する工程等が挙げられるが、いずれの工程でもよく、また付着方法は、ローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。処理剤の付着量は、ポリウレタン弾性糸に対し0.1~7質量%とするが、ホットメルト接着性を阻害しないという観点から0.1~3質量%とするのが好ましい。
【0068】
処理剤の組成としては一般的にポリウレタン弾性糸に用いられるシリコーン系油剤、鉱油系油剤、シリコーン-鉱油の混合系油剤のいずれでも良いが、解舒性とホットメルト接着性を両立させる観点から鉱油系油剤かシリコーン-鉱油の混合系油剤が好ましい。
【0069】
シリコーンとしては、1)ジメチルシロキサン単位から成るポリジメチルシロキサン、2)ジメチルシロキサン単位と炭素数2~4のアルキル基を含むジアルキルシロキサン単位とから成るポリジアルキルシロキサン類、3)ジメチルシロキサン単位とメチルフェニルシロキサン単位とから成るポリシロキサン類等のシリコーンオイル等が好ましく使用される。
【0070】
また、取り扱い性やガイド類との走行摩擦を低減する観点から、25℃における粘度が0.1~1000mm/Sであるのが好ましい。かかる粘度は、JIS-K2283(原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法)に記載された方法で測定され得る。
【0071】
シリコーン油剤として使用する場合は、鉱油等のパラフィン系炭化水素、帯電防止剤、分散剤、金属石けん等を混合して使用することも好ましい。
【0072】
鉱油等のパラフィン系炭化水素としては、取り扱い性やガイド類との走行摩擦を低減する観点から、25℃における粘度が10~500mm/Sであるのが好ましい。
【0073】
帯電防止剤としては、アルキルサルフェート、脂肪酸石けん、アルキルスルフォネート、アルキル燐酸エステル等のアニオン界面活性剤等が好ましく使用される。
【0074】
分散剤としては、シリコーンレジン、ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、カルボキシアミド変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、有機カルボン酸等が単独または混合物として好ましく使用される。
【0075】
金属石けんとしては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムが好ましく、平均粒子径は、取り扱い性や分散性を向上させる観点から、0.1~1.0μmであるのが好ましい。
【0076】
また、本発明で使用されるシリコーン油剤には必要に応じて、つなぎ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、濡れ性向上剤等の通常合成繊維処理剤に使用される成分を含有させることも好ましく行われる。これらの鉱油等のパラフィン系炭化水素、金属石けん、帯電防止剤、分散剤等の含有量は、目的に応じて適宜決定されるのが好ましい。
【実施例
【0077】
本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。まず、以下に本発明における各種特性の評価方法を説明する。
【0078】
[ポリウレタン弾性糸の強伸度]
ポリウレタン弾性糸の試料サンプルを、インストロン4502型引張試験機を用いて引張テストすることにより破断時点の強度、伸度を測定した。
【0079】
即ち、試料長5cm(L1)の試料糸を50cm/分の引張速度で300%伸長を5回繰返した。次にこの長さを30秒間保持した。さらに6回目に試料サンプル糸が切断するまで伸長した。この破断時の応力を(G3)、破断時の試料長さを(L3)とした。以下、上記の特性は下記式により与えられる。
【0080】
破断強度=(G3)
破断伸度=100×{(L3)-(L1)}/(L1)
なお、引張テストは5回行い、平均値で評価した。
【0081】
[ポリウレタン弾性糸の解舒性]
ポリウレタン弾性糸の4.5kg巻き糸体を35℃、65%RHの雰囲気にて14日間放置後、巻き糸体を巻き上げ紙管より1cmの位置まではぎ取りし、はぎ取りした後の巻き糸体の表面を梨地ローラー(a)に接地するよう置き、ローラーを回転させながら、ローラー表面速度30m/分で、ポリウレタン弾性糸を送り出した。送り出されたポリウレタン弾性糸を100cm離れた所に設置された同じ径の梨地ローラー(b)に1周させて走行させ、徐々にローラー(b)の表面速度を変化させ、ローラー(a)からポリウレタン弾性糸が引き離される際に、ポリウレタン弾性糸の巻き糸体に持ち上げられることなく、スムーズに送り出されるローラー(b)の速度を求め、ローラーの速度比(b)/(a)をポリウレタン弾性糸の解舒性とした。解舒性は値が小さいほどポリウレタン弾性糸の糸離れが良いことを示す。
【0082】
なお、解舒性テストは2本の巻き糸体を用いて行い、平均値で評価した。
【0083】
[ホットメルト接着性]
ポリウレタン弾性糸を130m/分の速度で走行している幅15cmのポリプロピレン製不織布の上を規定のドラフト(ドラフト3.0)で伸張させながら同一方向に等間隔に8本走行させながら、150℃のポット中で溶解させた水添スチレンブタジエンスチレン共重合体を主成分とするホットメルト接着剤をコームガンにてポリウレタン弾性糸1本あたり規定量(0.03g/m,0.07g/m)の割合で塗布した後、上方から別のポリプロピレン製不織布をかぶせて圧着、巻き取り、伸縮性シートを得た。
【0084】
こうして得られた伸縮性シートを不織布が完全に伸張する状態で、木製平板に固定し、伸縮性シートの上から、剃刀端を用いて、不織布中のポリウレタン弾性糸8本について30cm長さの両端、計16箇所を切断した。この伸張板を、40℃、80%RHで保管し、ホットメルト接着剤で固定されたポリウレタン弾性糸がポリプロピレン製不織布中に収縮、すなわちスリップインした後の糸長(L4)および原長として両切断部間の長さ(L5)を2時間後および8時間後の各保管時間にて測定する。なお、測定は合計24本の弾性繊維について行い、それら24本のホットメルト接着性保持率の平均値で評価した。
【0085】
ホットメルト接着性保持率(%)=100×(L4)/(L5)。
【0086】
(溶液(A1)の調整)
レッドウッド粘度計にて35℃下、100秒、炭素数30以上の成分比率が2%の鉱油に、荒川化学社製炭化水素樹脂(“アルコン(登録商標)”P-90、熱軟化点90℃)を20質量%溶解し、溶液(A1)を調製した。
【0087】
(溶液(A2)の調整)
レッドウッド粘度計にて35℃下、80秒、炭素数30以上の成分比率が1%の鉱油に、JXTGエネルギー株式会社製炭化水素樹脂( “T-REZ(登録商標)” RA100、熱軟化点99℃)を40質量%溶解し溶液(A2)を調製した。
【0088】
(溶液(A3)の調整)
レッドウッド粘度計にて35℃下、80秒、炭素数30以上の成分比率が1%の鉱油に、JXTGエネルギー株式会社製炭化水素樹脂(“T-REZ(登録商標)” RC115、熱軟化点114℃)を40質量%溶解し溶液(A3)を調製した。
【0089】
(溶液(A4)の調整)
レッドウッド粘度計にて35℃下、100秒、炭素数30以上の成分比率が2%の鉱油に、荒川化学社製炭化水素樹脂(“アルコン(登録商標)”M-135、熱軟化点135℃)を20質量%溶解し溶液(A4)を調製した。
【0090】
【表1】
【0091】
[実施例1]
数平均分子量1800のPTMGとMDIとをモル比にてMDI/PTMG=1.58/1となるように容器に仕込み、90℃で反応せしめ、得られた反応生成物をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた。次に、エチレンジアミンおよびジエチルアミンを含むDMAc溶液を前記反応物が溶解した溶液に添加して、ポリマー中の固体分が35質量%であるポリウレタンウレア溶液を調製した。
【0092】
さらに、酸化防止剤として、p-クレゾ-ルおよびジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製“メタクロール(登録商標)”2390)と紫外線吸収剤として、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノ-ル(サイテック社製“サイアソーブ(登録商標)”1164)を3対2(質量比)で混合し、DMAc溶液(濃度35質量%)を調整し、これを添加剤溶液(35質量%)とした。
【0093】
ポリウレタンウレア溶液と添加剤溶液とを98質量%、2質量%の割合で混合してポリウレタン紡糸溶液(X1)とした。
【0094】
ポリウレタン紡糸溶液(X1)の固形分に対し、溶液(A1)が10質量%となるように混合し紡糸溶液(Y1)を調製した。この紡糸溶液(Y1)を500m/分の巻き取り速度で、乾式紡糸することにより、ポリウレタン弾性糸(580デシテックス、56フィラメント)(Z1)を製造し、4.5kgの巻き糸体を得た。
【0095】
[実施例2]
ポリウレタン弾性糸の巻き取り時の処理剤としてポリジメチルシロキサン25%、鉱油73%、St-Mg2%の処理剤(B1)を調整した。
【0096】
巻き取り時にポリウレタン弾性糸に対して処理剤(B1)を乾燥質量1%付与しながら巻き上げた事以外は実施例1と同様に、4.5kg巻き糸体を得た。
【0097】
[実施例3~6、比較例1~4]
表1に示すように、成分の種類および/または含有量の変更をした以外は、実施例1または実施例2と同様にポリウレタン弾性糸4.5kg巻き糸体を得た。
【0098】
[実施例7~8、比較例5~6]
表1に示すように、繊度を310デシテックス(32フィラメント)に変えた以外は他の実施例、比較例と同様にポリウレタン弾性糸4.5kg巻き糸体を得た。
【0099】
得られた糸の各種評価結果を表1に示す。実施例1~8のポリウレタン弾性糸はいずれの評価においても十分な性能を有するものであった。一方、比較例1~6では解舒性とホットメルト接着性の両立においては満足のいく結果ではなかった。
【0100】
[比較例7]
(溶液(A5)の調整)
レッドウッド粘度計にて35℃下、250秒、炭素数30以上の成分比率が38%の鉱油に、荒川化学社製炭化水素樹脂(“アルコン(登録商標)”P-90、熱軟化点135℃)を20質量%溶解しようと試みたが、完全に溶解することは出来ず、ポリウレタン溶液への添加が出来なかった。
【0101】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のポリウレタン弾性糸は、ホットメルト接着剤に対して優れた接着性を有するものであるので、着用感やフィット性に優れた紙おむつや衛生ナプキン等のサニタリー製品に、好適に用いることができる。また、解舒性に優れるため、紙おむつや衛生ナプキン等のサニタリー製品を高速で製造しても糸切れすることなく生産性に優れる。